JP2004270111A - 異形断面ポリエステル繊維の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】吸水・速乾特性を高めるために高度に異型化された繊維断面を有し、毛羽が少なく色調にも優れたポリエステル繊維を、長期にわたり安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】ポリエステルポリマーを溶融紡糸して、単繊維横断面に繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在し、突起係数が0.3〜0.7である異形断面ポリエステル繊維を製造するに際し、該ポリエステルポリマーを、特定のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーとする。
【選択図】 なし
【解決手段】ポリエステルポリマーを溶融紡糸して、単繊維横断面に繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在し、突起係数が0.3〜0.7である異形断面ポリエステル繊維を製造するに際し、該ポリエステルポリマーを、特定のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーとする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、異型断面ポリエステル繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、吸水・速乾特性を高めるために高度に異型化された繊維断面を有するポリエステル繊維を、長期にわたり安定して溶融紡糸することができる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルはその優れた特性を生かし衣料用布帛素材として広く使用されている。衣生活の多様化、高級化、個性化と共に、天然繊維が持つ好ましい性能、例えば吸水性能をポリエステル繊維に付与する試みが続けられている。さらに、ランニングシャツあるいはゴルフシャツなどのスポーツ衣料用途においては、汗をかいても快適な状態が維持されるように、吸水性能に加え、速乾性も備えた布帛が使用されるようになり、ポリエステル繊維でも吸水・速乾性能の実現が望まれている。
【0003】
従来、ポリエステル繊維に吸水・速乾性能を付与する方法として、特許文献1に開示されているように、スルホン酸金属塩を含んだポリエステルを用いスロットおよび/またはアーム状の突起を有する繊維断面のポリエステル延伸糸(以下フラットヤーンと称する)を製造し、吸水布帛用に使用する例が提案されている。しかし、このような中空あるいはスロットおよび/またはアーム状の突起を有する繊維断面のフラットヤーンに仮撚加工を施すと、中空部分、スロットおよびアーム状の突起が潰れて、仮撚加工後の繊維断面形状は通常の仮撚加工糸の繊維断面と何ら変わりないものとなる。このようなフラットヤーンから得られたポリエステル仮撚加工糸を使用した布帛では十分な吸水・速乾性能が得られない。特許文献2には、吸水特性を高めるために高度に異形化された繊維断面、すなわち扁平度が2〜4、W字状繊維断面の各凹部の開口角度が100〜150度の繊維断面形状をなす、部分配向ポリエステル繊維が開示されている。しかし、このような開口角度の大きなW字型繊維断面を有する部分配向ポリエステル繊維を延伸仮撚加工すると、得られる延伸仮撚加工糸のW字開口角度はより拡大し、吸水・速乾性能は充分発現しない。また、このようなW字繊維断面形状は、扁平繊維断面形状に見られるように、繊維同士が密着充填した繊維集合体となりやすく、ますます吸水・速乾性が減退する。
【0004】
さらに我々の研究によれば、繊維の断面形状を高度に異形化させることによって、延伸仮撚加工時に受ける衝撃に耐え、延伸仮撚加工後も布帛に充分な吸水・速乾性を発現させることができることがわかった。
【0005】
しかし、ポリエステルの溶融紡糸においては、紡糸時間の経過と共に、紡糸口金吐出孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称する場合もある)が発現し、付着・堆積し、溶融ポリマーの正常な流れを阻害し、吐出糸条の屈曲、ピクツキ、旋回等(以下、単に異常吐出現象と称する場合もある)が進行し、ついには吐出ポリマー糸条が紡糸口金面に付着して断糸するという現象が起こることが知られている。特に、上記のように高度に異型化された繊維断面を得ようとした場合、その口金吐出孔形状も複雑なものとなり、該口金異物が溶融ポリマー吐出状態に及ぼす影響が大きく、短時間の間に、異常吐出現象が発生することが多くなる。このような異常吐出現象が起こると、紡糸運転に支障をきたすのみならず、冷却・固化の過程で繊維構造斑が発生し、得られたポリエステル未延伸糸(部分配向糸)は品質斑(延伸仮撚加工時毛羽、断糸発生など)を内在したものとなる。このような製造工程上の理由からも高度に異型化された繊維断面を有するポリエステル繊維は実用化されていないのが現状である。
【0006】
このような口金異物の付着・堆積原因は、ポリエステル中に存在するアンチモンに起因することが知られているが、そのアンチモンは、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの触媒として、優れた重縮合触媒性能を有する、また色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から、実際に最も広く使用されている。したがって、通常のポリエステルの溶融紡糸においては、紡糸口金吐出孔周辺に付着・堆積した口金異物を拭き取る為に、紡糸引き取り操作を一定間隔で中断せねばならず、この頻度が高くなるほど生産性を低下させてしまうという問題がある。
【0007】
一方、該アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物の付着・堆積は減少するが、ポリエステル自身の黄色味が強くなり、ポリエステル繊維として衣料用途に使用できない色調となるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】
特開昭54−151617号公報
【特許文献2】
特開平11−269718号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、吸水・速乾特性を高めるために高度に異型化された繊維断面を有し、毛羽が少なく色調にも優れたポリエステル繊維を、長期にわたり安定して製造する方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究したところ、ポリエステルの重縮合触媒を適正化することにより、上記のように高度に異形化されたポリエステル繊維を安定して製造できることを見出した。また、かかる製造方法によれば、製糸性が良好であるため毛羽が少なく、しかも色相にも優れた、極めて品質の高いポリエステル繊維が得られることがわかった。
【0011】
かくして、本発明によれば、ポリエステルポリマーを溶融紡糸して、単繊維横断面に繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在し、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7である異形断面ポリエステル繊維を製造するに際し、該ポリエステルポリマーがチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであり、該チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、該リン化合物が下記一般式(III)で表される化合物であり、チタンとリンの含有濃度が下記数式(1)及び(2)を同時に満足することを特徴とする異形断面ポリエステル繊維の製造方法が提供される。
突起係数=(a1―b1)/a1
[但し、上記式中、a1は繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ、b1は繊維断面内面壁の内接円の半径を示す。]
【0012】
【化6】
【0013】
【化7】
【0014】
【化8】
【0015】
【数2】
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、ポリエステルポリマーを溶融紡糸して、後述する異形断面ポリエステル繊維を製造するに際し、該ポリエステルポリマーがチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであり、該チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、該リン化合物が後述する一般式(III)で表される化合物であることが肝要である。これにより、吸水・速乾特性を高めるため高度に異形化された本発明のポリエステル繊維を安定して製造することができる。また、製糸性が良好であるため毛羽が少なく、しかも色相にも優れた、極めて品質の高いポリエステル繊維を得ることができる。
【0017】
この本発明で用いられる、重縮合反応に触媒として用いられるチタン化合物成分は、最終製品の触媒に起因する異物を低減する観点から、ポリマー中に可溶なチタン化合物であることが必要であり、該チタン化合物成分としては、下記一般式(I)で表される化合物、若しくは一般式(II)で表される化合物と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物である必要がある。
【0018】
【化9】
【0019】
【化10】
【0020】
ここで、一般式(I)で表されるチタンアルコキシドとしては、具体的にはテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタン、オクタアルキルトリチタネート、及びヘキサアルキルジチタネートなどが好ましく用いられる。
【0021】
また、本発明の該チタンアルコキシドと反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物が好ましく用いられる。
【0022】
上記チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部または全部を溶解し、この混合液にチタンアルコキシドを滴下し、0〜200℃の温度で少なくとも30分間、好ましくは30〜150℃の温度で40〜90分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力については特に制限はなく、常圧で十分である。なお、芳香族多価カルボン酸またはその無水物を溶解させる溶媒としては、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン及びキシレン等から所望に応じていずれを用いることもできる。
【0023】
ここで、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応モル比には特に限定はないが、チタンアルコキシドの割合が高すぎると、得られるポリエステルの色調が悪化したり、軟化点が低下したりすることがあり、逆にチタンアルコキシドの割合が低すぎると重縮合反応が進みにくくなることがある。このため、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応モル比は、2/1〜2/5の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられる重縮合用の触媒系は、上記のチタン化合物成分と、下記一般式(III)により表されるリン化合物とを含むものであり、両者の未反応混合物から実質的になるものである。
【0025】
【化11】
【0026】
上記一般式(III)のリン化合物(ホスホネート化合物)としては、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボエトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボプロトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボブトキシフェニルメタンホスホン酸等のホスホン酸誘導体のジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類、ジブチルエステル類等から選ばれることが好ましい。
【0027】
上記のホスホネート化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較して、チタン化合物との反応が比較的緩やかに進行するので、反応中における、チタン化合物の触媒活性持続時間が長く、結果として該チタン化合物のポリエステルへの添加量を少なくすることができる。また、一般式(III)のリン化合物を含む触媒系に多量に安定剤を添加しても、得られるポリエステルの熱安定性を低下させることがなく、その色調を不良化することが無い。
【0028】
本発明では、上記のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒が、下記数式(1)及び(2)を同時に満足するものである必要がある。
【0029】
【数3】
【0030】
ここで、(P/Ti)は1以上15以下であるが、2以上15以下であることが好ましく、さらには10以下であることが好ましい。この(P/Ti)が1未満の場合、ポリエステルの色相が黄味を帯びたものであり、好ましくない。また、(P/Ti)が15を越えるとポリエステルの重縮合反応性が大幅に低下し、目的とするポリエステルを得ることが困難となる。この(P/Ti)の適正範囲は通常の金属触媒系よりも狭いことが特徴的であるが、適正範囲にある場合、本発明のような従来にない効果を得ることができる。
【0031】
一方、(Ti+P)は10以上100以下であるが、20以上70以下であることがより好ましい。(Ti+P)が10に満たない場合は、製糸プロセスにおける生産性が大きく低下し、満足な性能が得られなくなる。また、(Ti+P)が100を越える場合には、触媒に起因する異物が少量ではあるが発生し好ましくない。
【0032】
上記式中、Tiの量としては2〜15ミリモル%程度が適当である。 本発明で用いられているポリエステルポリマーは、上記のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであるが、本発明においては、芳香族ジカルボキシレートエステルが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなるジエステルであることが好ましい。
【0033】
ここで芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸を主とすることが好ましい。より具体的には、テレフタル酸が全芳香族ジカルボン酸を基準として70モル%以上を占めていることが好ましく、さらには該テレフタル酸は、全芳香族ジカルボン酸を基準として80モル%以上を占めていることが好ましい。ここでテレフタル酸以外の好ましい芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等を挙げることができる。
【0034】
もう一方の脂肪族グリコールとしては、アルキレングリコールであることが好ましく、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコールを用いることができるが、特にエチレングリコールであることが好ましい。
【0035】
本発明ではポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであることが特に好ましい。ここでポリエステルが、テレフタル酸とエチレングリコールからなるエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルであることも好ましい。ここで「主たる」とは該エチレンテレフタレート繰り返し単位がポリエステル中の全繰り返し単位を基準として70モル%以上を占めていることをいう。
【0036】
また本発明で用いるポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなる主たる繰り返し単位以外に、酸成分またはジオール成分としてポリエステルを構成する成分を共重合した、共重合ポリエステルとしてもよい。
【0037】
共重合する成分としては、酸成分として、上記の芳香族ジカルボン酸はもちろん、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などの二官能性カルボン酸成分又はそのエステル形成性誘導体を原料として使用することができる。また、共重合するジオール成分としては上記の脂肪族ジオールはもちろん、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。
【0038】
さらに、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を原料として共重合させ使用することができる。
これらは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明においては、上記のような芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなる芳香族ジカルボキシレートエステルが用いられるが、この芳香族ジカルボキシレートエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとのジエステル化反応により得ることもできるし、あるいは芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルと脂肪族グリコールとのエステル交換反応により得ることもできる。ただし、芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルを原料とし、エステル交換反応を経由する方法とした方が、芳香族ジカルボン酸を原料としジエステル化反応させる方法に比較し、重縮合反応中に安定剤として添加したリン化合物の飛散が少ないという利点がある。
【0040】
さらに、チタン化合物の一部及び/又は全量をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒との二つの触媒として兼用させることが好ましい。このようにすることにより、最終的にポリエステル中のチタン化合物の含有量を低減することができる。ポリエチレンテレフタレートの例で、さらに具体的に述べると、テレフタル酸を主とする芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を、下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド、及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むチタン化合物成分の存在下に行い、このエステル交換反応により得られた、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとのジエステルを含有する反応混合物に、更に下記一般式(III)により表されるリン化合物を添加し、これらの存在下に重縮合することが好ましい。
【0041】
【化12】
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
なお、該エステル交換反応を行う場合には通常は常圧下で実施されるが、0.05〜0.20MPaの加圧下に実施すると、チタン化合物成分の触媒作用による反応が更に促進され、かつ副生物のジエチレングリコールが大量に発生することもないので、熱安定性などの特性が更に良好なものとなる。温度としては160〜260℃が好ましい。
【0045】
また、本発明において、芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である場合には、ポリエステルの出発原料としてテレフタル酸及びテレフタル酸ジメチルが用いられるが、その場合にはポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られた回収テレフタル酸ジメチル又はこれを加水分解して得られる回収テレフタル酸を、ポリエステルを構成する全酸成分を基準として70重量%以上使用することもできる。この場合、前記ポリアルキレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、特に回収されたPETボトル、回収された繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、さらには、これら製品の製造工程において発生するポリマー屑などをポリエステル製造用原料源とする再生ポリエステルを用いることは、資源の有効活用の観点から好ましいことである。
【0046】
ここで、回収ポリアルキレンテレフタレートを解重合してテレフタル酸ジメチルを得る方法には特に制限はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。また、上記、回収された、テレフタル酸ジメチルからテレフタル酸を回収する方法にも特に制限はなく、従来方法のいずれを用いてもよい。テレフタル酸に含まれる不純物については、4−カルボキシベンズアルデヒド、パラトルイル酸、安息香酸及びヒドロキシテレフタル酸ジメチルの含有量が、合計で1ppm以下であることが好ましい。また、テレフタル酸モノメチルの含有量が、1〜5000ppmの範囲にあることが好ましい。回収されたテレフタル酸と、アルキレングリコールとを直接エステル化反応させ、得られたエステルを重縮合することによりポリエステルを製造することができる。
本発明では、ポリエステルが上記のような再生ポリエステルであることがより好ましい。
【0047】
本発明で用いられるポリエステルの固有粘度は、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、さらに0.45〜0.75、特に0.50〜0.70の範囲が好ましい。固有粘度が0.40未満であると、繊維の強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が0.80を越えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0048】
本発明で用いるポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよく、特に艶消剤として酸化チタン、安定剤としての酸化防止剤は好ましく添加され、酸化チタンとしては、平均粒径が0.01〜2μmの酸化チタンを、最終的に得られるポリエステル組成物中に0.01〜10重量%含有させるように添加することが好ましい。
【0049】
また、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤が好ましいが、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は1重量%以下であることが好ましい。1重量%を越えると製糸時のスカムの原因となり得る他、1重量%を越えて添加しても溶融安定性向上の効果が飽和してしまう為好ましくない。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は0.005〜0.5重量%の範囲が更に好ましい。またこれらヒンダードフェノール系酸化防止とチオエーテル系二次酸化防止剤を併用して用いることも好ましく実施される。
【0050】
該酸化防止剤のポリエステルへの添加方法は特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、またはエステル化反応終了後、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加する方法が挙げられる。
【0051】
本発明においては、ポリエステル繊維の単繊維横断面に、繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在し、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7である必要がある。
突起係数=(a1―b1)/a1
[但し、上記式中、a1は繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ、b1は繊維断面内面壁の内接円の半径を示す。]
このような断面形状を有するポリエステル繊維は、延伸仮撚加工時に受ける衝撃に耐え、延伸仮撚加工後も布帛に充分な吸水・速乾性を発現させる性能をもっている。
【0052】
さらに、上記ポリエステル繊維は、通常の条件下で延伸仮撚を行っても、延伸仮撚加工時の糸切れ(加工断糸)および毛羽の発生が少ない。また得られる延伸仮撚加工糸も、その繊維横断面扁平度合いが繊維軸方向に適度に分散し、繊維軸方向に一様で無い繊維断面をなしており、繊維間空隙が大きな繊維集合体を形成するものとなる。このような大きな繊維間空隙は、さらなる吸水・速乾性能および該性能の洗濯耐久性向上の効果をもたらす。さらに、繊維断面扁平度合いが繊維軸方向に適度に分散する繊維集合体は、布帛での自然なドライ感をもたらすという性能も合わせ持っている。
【0053】
上記突起係数が0.3未満のフィン部は、延伸仮撚加工後の繊維断面に充分な毛細管空隙を形成する機能がなく、吸水・速乾性能を発現することができない。さらにこのような短小フィン部は、布帛に吸水処理剤を施す場合のアンカー効果が小さくなるため、該処理剤の洗濯耐久性を低下させる傾向にある。また、布帛の風合もフラットなペーパーライクなものとなる。一方、突起係数が0.7を越えるフィン部は、延伸仮撚加工時、該フィン部に加工張力が集中しやすいため、繊維断面の部分的破壊が発生して十分な毛細管形成がなされなくなり、吸水性能が不十分となる。また、延伸仮撚工程での糸切れ(加工断糸)や毛羽も頻発する。
【0054】
なお、突起係数が0.3〜0.7のフィン部であっても、単繊維断面に該フィンブの数が1〜2個では、内側に閉じた繊維断面部分が最大1個しか形成されなくなるので、十分な毛細管現象が発現せず、吸水性能が不十分となる。また、布帛の風合もフラットなペーパーライクなものとなる。一方、8個を越える場合には、延伸仮撚加工時、フィン部への加工張力集中が発生し、繊維断面の部分的破壊が起こり、十分な毛細管形成がなされなくなり、吸水性能が不十分となる。また、延伸仮撚工程での糸切れ(加工断糸)や毛羽が頻発する。
【0055】
本発明においては、ポリエステル繊維の結晶化度が30%以下、沸水収縮率が15%以上であることが好ましい。これにより、該繊維の結晶領域が増大せず、剛直な繊維構造とならないため、通常の延伸仮撚条件下で延伸仮撚加工糸の繊維断面扁平度が繊維軸方向に適度に分散しやすくなる。その結果、吸水・速乾性能および該性能の洗濯耐久性がより向上し、また布帛での自然なドライ感も発現する。一方、沸水収縮率を70%以下とすることにより、安定した繊維構造とすることができる。
【0056】
本発明の製造方法においては、公知の溶融紡糸方法を採用することできる。例えば、ポリエステルを通常の条件で乾燥し、スクリュウエクストルーダー等の溶融押出機で溶融し、例えば、特許第3076372号に開示されているような、コアー部形成用円形吐出孔(図2の3)の周囲に間隔を置いて配置された3〜8個、より好ましくは4〜6個、の小円状開口部(図2の5)とスリット状開口部(図2の4)とが連結したフィン部形成用吐出孔を配置した紡糸口金(図2)から吐出し、従来公知の方法で冷却、固化後、捲き取る方法が採用できる。前述した結晶化度及び沸水収縮率を有する繊維とするには、巻取り速度を2000〜4000m/minとするのが好ましく、より好ましくは2500〜3500m/minである。
【0057】
この時、コアー部形成用円形吐出孔の半径(図2のb2)、該円形吐出孔の中心点からフィン部形成用吐出孔の先端部の長さ(図2のa2)等を変えることにより、繊維断面の突起係数が0.3〜0.7となるように任意に設定することができる。また、スピンブロックの温度および/または冷却風量を変えることによっても、繊維断面の突起係数をある程度コントロールすることができる。なお、冷却風は、紡糸口金から5〜15cm下方が上端となるように設置された長さ50〜100cmのクロスフロータイプの紡糸筒から送風するのが望ましい。
【0058】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0059】
(1)固有粘度
ポリエステルポリマーの固有粘度は、35℃オルソクロロフェノール溶液にて、常法に従って35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0060】
(2)ジエチレングリコール(DEG)量
抱水ヒドラジンを用いてポリマーを分解し、ガスクロマトグラフィ−(株式会社日立製作所製「263−70」)を用い、常法に従って測定した。
【0061】
(3)結晶化度
広角X線回折法による。理学電気社製X線発生装置(ローターフレックスRU−200)を用い、ニッケルフィルターで単色化したCu−Kα線で散乱強度を測定し、次式で結晶化度を計算する。
結晶化度(%)=結晶部の散乱強度/全散乱強度×100
(4)沸水収縮率
枠周1.125mの検尺機で捲数20回のカセを作り、0.022cN/dtexの過重を掛けて、スケール板に吊るして初期のカセ長L0を測定する。その後、このカセを65℃の温水浴中で30分間処理後、放冷し再びスケール板に吊るし収縮後の長さLを測定し次式で沸水収縮率を計算する。
沸水収縮率(%)=(L0−L)/L0×100
(5)突起係数
ポリエステルマルチ繊維の断面顕微鏡写真を撮影し、単繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ(a1)および繊維断面内面壁の内接円の半径(b1)を測定し、下記式で突起係数を計算した。
突起係数=(a1―b1)/a1
(6)チタン元素含有量、リン元素含有量
粒状のポリエステル試料をアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成型体を作成し、理学電気工業株式会社社製蛍光X線測定装置3270Eを用いてチタン元素含有量およびリン元素含有量を測定した。
【0062】
(7)口金異物高さ
各実施例に示す方法、条件で溶融紡糸を行った後、紡糸口金表面に離型剤を吹き付けて、吐出ポリマーが付着しないようにして、紡糸口金を取り外し、顕微鏡にて吐出孔周辺に付着・堆積した口金異物の高さを測定した。全ての吐出孔について口金異物の高さを測定し、それらの平均値で表した。
【0063】
(8)紡糸断糸率
人為的あるいは機械的要因に起因する断糸を除き、紡糸機運転中に発生した紡糸断糸回数を記録し下記式で紡糸断糸率(%)を計算した。
紡糸断糸率(%)=[断糸回数/(稼動ワインダー数×ドッフ数)]×100
ここで、ドッフ数とは未延伸糸パッケージを既定量(10kg)まで捲き取った回数をいう。
【0064】
(9)加工断糸率
スグラッグ社製SDS−8型延伸仮撚加工機で、10kg巻ポリエステルマルチ繊維パッケージを延伸仮撚加工し、5kg巻ポリエステル仮撚加工糸パッケージを2個作成する方法で運転した時、断糸回数を記録し、下記式で加工断糸率を計算した。
加工断糸率(%)=断糸回数/(稼動錘数×2)×100
(10)加工毛羽
東レ(株)製DT−104型毛羽カウンター装置を用いて、仮撚加工糸を500m/分の速度で20分間連続測定して発生毛羽数をカウントした。
【0065】
(11)織物風合
延伸仮撚加工糸に600回/mの撚りを施し、たて糸・よこ糸使い綾織の布帛とした。次いで、100℃で精錬・リラックス処理、180℃・45秒でプレセット乾熱処理、15%のアルカリ減量処理、130℃・30分で染色を行い、自然乾燥した後、170℃・45秒でファイナルセットを行い、織物を作成した。この織物を検査員が触感判定し下記基準で格付けした。
レベル1:自然でドライな感触がある。
レベル2:ドライ感がやや少なく感じられる。
レベル3:フラットでペーパーライクな感触がある。
【0066】
(12)吸水速乾性(ウイッキング値)
吸水・速乾性能の指標として、JIS L1907繊維製品の吸水試験法、5.1.1項吸水速度(滴下法)に準じて、落下水滴が、ポリエステル仮撚加工糸からなる試験布表面から表面反射をしなくなるまでの秒数(ウイッキング値)を採用した。なお、L10は、JIS L0844−A−2法により10回洗濯を行った後のウイッキング値(秒)を表す。
【0067】
(13)(L*−b*)値
ポリエステル繊維を12ゲージ丸編機で30cm長の筒編みとし、ミノルタ株式会社社製ハンター型色差計CR−200を用い、L*値、b*値を測定し、その差を(L*−b*)値とした。
【0068】
[実施例1〜3、比較例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部との混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート(TBT)0.009部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート(TEPA)0.035部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0069】
その後、反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、26.67Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.630、ジエチレングリコール量が1.5%であるポリエチレンテレフタレートを得た。さらに得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従いペレット化した。
【0070】
また予め、図2に示す吐出孔形状と同じタイプの吐出孔をベースとして、スリット幅が0.10mmおよび該円形吐出孔中心点から先端部までの長さ(図2のa2)が0.88mmのフィン部形成用吐出孔をおのおの表1に示す個数有し、コアー部形成用円形吐出孔の半径(図2のb2)が0.15mmの吐出孔群を24群穿設した紡糸口金を準備し、スピンパックに組み込み、スピンブロックに装填した。ここで前述のポリエチレンテレフタレートのペレットを、150℃で5時間乾燥した後、スクリュウー式押出機を装備した溶融紡糸設備にて溶融し、295℃のスピンブロックに導入し、該紡糸口金より吐出量40g/minで吐出した。引き続き、紡糸口金吐出面から下方10cmの位置が上端となるように設置された長さ60cmのクロスフロータイプの紡糸筒から25℃の冷却風を、5Nm3/minの割合で、ポリマー流に吹き付つけて、冷却・固化し、紡糸油剤を付与し、3000m/minの速度で捲き取り、各々表1に示す結晶化度、沸水収縮率、フィン部個数および突起係数を有するポリエチレンテレフタレート繊維を得た。上記溶融紡糸操作は7日間連続して行った。
【0071】
この得られたポリエチレンテレフタレート繊維をスクラッグ社製のSDS−8型延伸仮撚機(3軸フリクションディスク仮撚ユニット、216錘)に掛けて、延伸倍率1.65、ヒーター温度175℃、撚数3300回/m、延伸仮撚速度600m/minで延伸仮撚加工を実施し、繊度84dtexのポリエチレンテレフタレート延伸仮撚加工糸を得た。実施例1〜3、比較例1におけるウイッキング値(L0およびL10)、織物風合い、加工断糸率および加工毛羽の結果をまとめて表1に示す。
【0072】
[比較例2]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部との混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.064重量部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、56重量%濃度のリン酸水溶液0.044重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0073】
その後、反応生成物を重合容器に移し、三酸化二アンチモンを表に示す量を添加して290℃まで昇温し、26.67Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度が0.630のポリエチレンテレフタレートを得た。さらに得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従いペレット化した。
【0074】
実施例2において、上記のポリエチレンテレフタレートのペレットを用いたこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、吸水・速乾特性を高めるために高度に異型化された繊維断面を有しるポリエステル繊維を、長期間安定して製造することができる。また、本発明の製造方法により得られた異形断面ポリエステル繊維は、毛羽が少なく、色調にも優れており、極めて高い品質を有しており高級衣料用途などにも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明により得られる異形断面ポリエステル繊維の単繊維横断面を例示した図。
【図2】本発明に用いる紡糸口金の吐出孔の形状を例示した図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、異型断面ポリエステル繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、吸水・速乾特性を高めるために高度に異型化された繊維断面を有するポリエステル繊維を、長期にわたり安定して溶融紡糸することができる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルはその優れた特性を生かし衣料用布帛素材として広く使用されている。衣生活の多様化、高級化、個性化と共に、天然繊維が持つ好ましい性能、例えば吸水性能をポリエステル繊維に付与する試みが続けられている。さらに、ランニングシャツあるいはゴルフシャツなどのスポーツ衣料用途においては、汗をかいても快適な状態が維持されるように、吸水性能に加え、速乾性も備えた布帛が使用されるようになり、ポリエステル繊維でも吸水・速乾性能の実現が望まれている。
【0003】
従来、ポリエステル繊維に吸水・速乾性能を付与する方法として、特許文献1に開示されているように、スルホン酸金属塩を含んだポリエステルを用いスロットおよび/またはアーム状の突起を有する繊維断面のポリエステル延伸糸(以下フラットヤーンと称する)を製造し、吸水布帛用に使用する例が提案されている。しかし、このような中空あるいはスロットおよび/またはアーム状の突起を有する繊維断面のフラットヤーンに仮撚加工を施すと、中空部分、スロットおよびアーム状の突起が潰れて、仮撚加工後の繊維断面形状は通常の仮撚加工糸の繊維断面と何ら変わりないものとなる。このようなフラットヤーンから得られたポリエステル仮撚加工糸を使用した布帛では十分な吸水・速乾性能が得られない。特許文献2には、吸水特性を高めるために高度に異形化された繊維断面、すなわち扁平度が2〜4、W字状繊維断面の各凹部の開口角度が100〜150度の繊維断面形状をなす、部分配向ポリエステル繊維が開示されている。しかし、このような開口角度の大きなW字型繊維断面を有する部分配向ポリエステル繊維を延伸仮撚加工すると、得られる延伸仮撚加工糸のW字開口角度はより拡大し、吸水・速乾性能は充分発現しない。また、このようなW字繊維断面形状は、扁平繊維断面形状に見られるように、繊維同士が密着充填した繊維集合体となりやすく、ますます吸水・速乾性が減退する。
【0004】
さらに我々の研究によれば、繊維の断面形状を高度に異形化させることによって、延伸仮撚加工時に受ける衝撃に耐え、延伸仮撚加工後も布帛に充分な吸水・速乾性を発現させることができることがわかった。
【0005】
しかし、ポリエステルの溶融紡糸においては、紡糸時間の経過と共に、紡糸口金吐出孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称する場合もある)が発現し、付着・堆積し、溶融ポリマーの正常な流れを阻害し、吐出糸条の屈曲、ピクツキ、旋回等(以下、単に異常吐出現象と称する場合もある)が進行し、ついには吐出ポリマー糸条が紡糸口金面に付着して断糸するという現象が起こることが知られている。特に、上記のように高度に異型化された繊維断面を得ようとした場合、その口金吐出孔形状も複雑なものとなり、該口金異物が溶融ポリマー吐出状態に及ぼす影響が大きく、短時間の間に、異常吐出現象が発生することが多くなる。このような異常吐出現象が起こると、紡糸運転に支障をきたすのみならず、冷却・固化の過程で繊維構造斑が発生し、得られたポリエステル未延伸糸(部分配向糸)は品質斑(延伸仮撚加工時毛羽、断糸発生など)を内在したものとなる。このような製造工程上の理由からも高度に異型化された繊維断面を有するポリエステル繊維は実用化されていないのが現状である。
【0006】
このような口金異物の付着・堆積原因は、ポリエステル中に存在するアンチモンに起因することが知られているが、そのアンチモンは、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの触媒として、優れた重縮合触媒性能を有する、また色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から、実際に最も広く使用されている。したがって、通常のポリエステルの溶融紡糸においては、紡糸口金吐出孔周辺に付着・堆積した口金異物を拭き取る為に、紡糸引き取り操作を一定間隔で中断せねばならず、この頻度が高くなるほど生産性を低下させてしまうという問題がある。
【0007】
一方、該アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物の付着・堆積は減少するが、ポリエステル自身の黄色味が強くなり、ポリエステル繊維として衣料用途に使用できない色調となるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】
特開昭54−151617号公報
【特許文献2】
特開平11−269718号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、吸水・速乾特性を高めるために高度に異型化された繊維断面を有し、毛羽が少なく色調にも優れたポリエステル繊維を、長期にわたり安定して製造する方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究したところ、ポリエステルの重縮合触媒を適正化することにより、上記のように高度に異形化されたポリエステル繊維を安定して製造できることを見出した。また、かかる製造方法によれば、製糸性が良好であるため毛羽が少なく、しかも色相にも優れた、極めて品質の高いポリエステル繊維が得られることがわかった。
【0011】
かくして、本発明によれば、ポリエステルポリマーを溶融紡糸して、単繊維横断面に繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在し、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7である異形断面ポリエステル繊維を製造するに際し、該ポリエステルポリマーがチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであり、該チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、該リン化合物が下記一般式(III)で表される化合物であり、チタンとリンの含有濃度が下記数式(1)及び(2)を同時に満足することを特徴とする異形断面ポリエステル繊維の製造方法が提供される。
突起係数=(a1―b1)/a1
[但し、上記式中、a1は繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ、b1は繊維断面内面壁の内接円の半径を示す。]
【0012】
【化6】
【0013】
【化7】
【0014】
【化8】
【0015】
【数2】
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、ポリエステルポリマーを溶融紡糸して、後述する異形断面ポリエステル繊維を製造するに際し、該ポリエステルポリマーがチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであり、該チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、該リン化合物が後述する一般式(III)で表される化合物であることが肝要である。これにより、吸水・速乾特性を高めるため高度に異形化された本発明のポリエステル繊維を安定して製造することができる。また、製糸性が良好であるため毛羽が少なく、しかも色相にも優れた、極めて品質の高いポリエステル繊維を得ることができる。
【0017】
この本発明で用いられる、重縮合反応に触媒として用いられるチタン化合物成分は、最終製品の触媒に起因する異物を低減する観点から、ポリマー中に可溶なチタン化合物であることが必要であり、該チタン化合物成分としては、下記一般式(I)で表される化合物、若しくは一般式(II)で表される化合物と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物である必要がある。
【0018】
【化9】
【0019】
【化10】
【0020】
ここで、一般式(I)で表されるチタンアルコキシドとしては、具体的にはテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタン、オクタアルキルトリチタネート、及びヘキサアルキルジチタネートなどが好ましく用いられる。
【0021】
また、本発明の該チタンアルコキシドと反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物が好ましく用いられる。
【0022】
上記チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部または全部を溶解し、この混合液にチタンアルコキシドを滴下し、0〜200℃の温度で少なくとも30分間、好ましくは30〜150℃の温度で40〜90分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力については特に制限はなく、常圧で十分である。なお、芳香族多価カルボン酸またはその無水物を溶解させる溶媒としては、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン及びキシレン等から所望に応じていずれを用いることもできる。
【0023】
ここで、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応モル比には特に限定はないが、チタンアルコキシドの割合が高すぎると、得られるポリエステルの色調が悪化したり、軟化点が低下したりすることがあり、逆にチタンアルコキシドの割合が低すぎると重縮合反応が進みにくくなることがある。このため、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応モル比は、2/1〜2/5の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられる重縮合用の触媒系は、上記のチタン化合物成分と、下記一般式(III)により表されるリン化合物とを含むものであり、両者の未反応混合物から実質的になるものである。
【0025】
【化11】
【0026】
上記一般式(III)のリン化合物(ホスホネート化合物)としては、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボエトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボプロトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボブトキシフェニルメタンホスホン酸等のホスホン酸誘導体のジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類、ジブチルエステル類等から選ばれることが好ましい。
【0027】
上記のホスホネート化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較して、チタン化合物との反応が比較的緩やかに進行するので、反応中における、チタン化合物の触媒活性持続時間が長く、結果として該チタン化合物のポリエステルへの添加量を少なくすることができる。また、一般式(III)のリン化合物を含む触媒系に多量に安定剤を添加しても、得られるポリエステルの熱安定性を低下させることがなく、その色調を不良化することが無い。
【0028】
本発明では、上記のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒が、下記数式(1)及び(2)を同時に満足するものである必要がある。
【0029】
【数3】
【0030】
ここで、(P/Ti)は1以上15以下であるが、2以上15以下であることが好ましく、さらには10以下であることが好ましい。この(P/Ti)が1未満の場合、ポリエステルの色相が黄味を帯びたものであり、好ましくない。また、(P/Ti)が15を越えるとポリエステルの重縮合反応性が大幅に低下し、目的とするポリエステルを得ることが困難となる。この(P/Ti)の適正範囲は通常の金属触媒系よりも狭いことが特徴的であるが、適正範囲にある場合、本発明のような従来にない効果を得ることができる。
【0031】
一方、(Ti+P)は10以上100以下であるが、20以上70以下であることがより好ましい。(Ti+P)が10に満たない場合は、製糸プロセスにおける生産性が大きく低下し、満足な性能が得られなくなる。また、(Ti+P)が100を越える場合には、触媒に起因する異物が少量ではあるが発生し好ましくない。
【0032】
上記式中、Tiの量としては2〜15ミリモル%程度が適当である。 本発明で用いられているポリエステルポリマーは、上記のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであるが、本発明においては、芳香族ジカルボキシレートエステルが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなるジエステルであることが好ましい。
【0033】
ここで芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸を主とすることが好ましい。より具体的には、テレフタル酸が全芳香族ジカルボン酸を基準として70モル%以上を占めていることが好ましく、さらには該テレフタル酸は、全芳香族ジカルボン酸を基準として80モル%以上を占めていることが好ましい。ここでテレフタル酸以外の好ましい芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等を挙げることができる。
【0034】
もう一方の脂肪族グリコールとしては、アルキレングリコールであることが好ましく、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコールを用いることができるが、特にエチレングリコールであることが好ましい。
【0035】
本発明ではポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであることが特に好ましい。ここでポリエステルが、テレフタル酸とエチレングリコールからなるエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルであることも好ましい。ここで「主たる」とは該エチレンテレフタレート繰り返し単位がポリエステル中の全繰り返し単位を基準として70モル%以上を占めていることをいう。
【0036】
また本発明で用いるポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなる主たる繰り返し単位以外に、酸成分またはジオール成分としてポリエステルを構成する成分を共重合した、共重合ポリエステルとしてもよい。
【0037】
共重合する成分としては、酸成分として、上記の芳香族ジカルボン酸はもちろん、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などの二官能性カルボン酸成分又はそのエステル形成性誘導体を原料として使用することができる。また、共重合するジオール成分としては上記の脂肪族ジオールはもちろん、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。
【0038】
さらに、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を原料として共重合させ使用することができる。
これらは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明においては、上記のような芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなる芳香族ジカルボキシレートエステルが用いられるが、この芳香族ジカルボキシレートエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとのジエステル化反応により得ることもできるし、あるいは芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルと脂肪族グリコールとのエステル交換反応により得ることもできる。ただし、芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルを原料とし、エステル交換反応を経由する方法とした方が、芳香族ジカルボン酸を原料としジエステル化反応させる方法に比較し、重縮合反応中に安定剤として添加したリン化合物の飛散が少ないという利点がある。
【0040】
さらに、チタン化合物の一部及び/又は全量をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒との二つの触媒として兼用させることが好ましい。このようにすることにより、最終的にポリエステル中のチタン化合物の含有量を低減することができる。ポリエチレンテレフタレートの例で、さらに具体的に述べると、テレフタル酸を主とする芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を、下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド、及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むチタン化合物成分の存在下に行い、このエステル交換反応により得られた、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとのジエステルを含有する反応混合物に、更に下記一般式(III)により表されるリン化合物を添加し、これらの存在下に重縮合することが好ましい。
【0041】
【化12】
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
なお、該エステル交換反応を行う場合には通常は常圧下で実施されるが、0.05〜0.20MPaの加圧下に実施すると、チタン化合物成分の触媒作用による反応が更に促進され、かつ副生物のジエチレングリコールが大量に発生することもないので、熱安定性などの特性が更に良好なものとなる。温度としては160〜260℃が好ましい。
【0045】
また、本発明において、芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である場合には、ポリエステルの出発原料としてテレフタル酸及びテレフタル酸ジメチルが用いられるが、その場合にはポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られた回収テレフタル酸ジメチル又はこれを加水分解して得られる回収テレフタル酸を、ポリエステルを構成する全酸成分を基準として70重量%以上使用することもできる。この場合、前記ポリアルキレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、特に回収されたPETボトル、回収された繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、さらには、これら製品の製造工程において発生するポリマー屑などをポリエステル製造用原料源とする再生ポリエステルを用いることは、資源の有効活用の観点から好ましいことである。
【0046】
ここで、回収ポリアルキレンテレフタレートを解重合してテレフタル酸ジメチルを得る方法には特に制限はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。また、上記、回収された、テレフタル酸ジメチルからテレフタル酸を回収する方法にも特に制限はなく、従来方法のいずれを用いてもよい。テレフタル酸に含まれる不純物については、4−カルボキシベンズアルデヒド、パラトルイル酸、安息香酸及びヒドロキシテレフタル酸ジメチルの含有量が、合計で1ppm以下であることが好ましい。また、テレフタル酸モノメチルの含有量が、1〜5000ppmの範囲にあることが好ましい。回収されたテレフタル酸と、アルキレングリコールとを直接エステル化反応させ、得られたエステルを重縮合することによりポリエステルを製造することができる。
本発明では、ポリエステルが上記のような再生ポリエステルであることがより好ましい。
【0047】
本発明で用いられるポリエステルの固有粘度は、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、さらに0.45〜0.75、特に0.50〜0.70の範囲が好ましい。固有粘度が0.40未満であると、繊維の強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が0.80を越えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0048】
本発明で用いるポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよく、特に艶消剤として酸化チタン、安定剤としての酸化防止剤は好ましく添加され、酸化チタンとしては、平均粒径が0.01〜2μmの酸化チタンを、最終的に得られるポリエステル組成物中に0.01〜10重量%含有させるように添加することが好ましい。
【0049】
また、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤が好ましいが、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は1重量%以下であることが好ましい。1重量%を越えると製糸時のスカムの原因となり得る他、1重量%を越えて添加しても溶融安定性向上の効果が飽和してしまう為好ましくない。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は0.005〜0.5重量%の範囲が更に好ましい。またこれらヒンダードフェノール系酸化防止とチオエーテル系二次酸化防止剤を併用して用いることも好ましく実施される。
【0050】
該酸化防止剤のポリエステルへの添加方法は特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、またはエステル化反応終了後、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加する方法が挙げられる。
【0051】
本発明においては、ポリエステル繊維の単繊維横断面に、繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在し、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7である必要がある。
突起係数=(a1―b1)/a1
[但し、上記式中、a1は繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ、b1は繊維断面内面壁の内接円の半径を示す。]
このような断面形状を有するポリエステル繊維は、延伸仮撚加工時に受ける衝撃に耐え、延伸仮撚加工後も布帛に充分な吸水・速乾性を発現させる性能をもっている。
【0052】
さらに、上記ポリエステル繊維は、通常の条件下で延伸仮撚を行っても、延伸仮撚加工時の糸切れ(加工断糸)および毛羽の発生が少ない。また得られる延伸仮撚加工糸も、その繊維横断面扁平度合いが繊維軸方向に適度に分散し、繊維軸方向に一様で無い繊維断面をなしており、繊維間空隙が大きな繊維集合体を形成するものとなる。このような大きな繊維間空隙は、さらなる吸水・速乾性能および該性能の洗濯耐久性向上の効果をもたらす。さらに、繊維断面扁平度合いが繊維軸方向に適度に分散する繊維集合体は、布帛での自然なドライ感をもたらすという性能も合わせ持っている。
【0053】
上記突起係数が0.3未満のフィン部は、延伸仮撚加工後の繊維断面に充分な毛細管空隙を形成する機能がなく、吸水・速乾性能を発現することができない。さらにこのような短小フィン部は、布帛に吸水処理剤を施す場合のアンカー効果が小さくなるため、該処理剤の洗濯耐久性を低下させる傾向にある。また、布帛の風合もフラットなペーパーライクなものとなる。一方、突起係数が0.7を越えるフィン部は、延伸仮撚加工時、該フィン部に加工張力が集中しやすいため、繊維断面の部分的破壊が発生して十分な毛細管形成がなされなくなり、吸水性能が不十分となる。また、延伸仮撚工程での糸切れ(加工断糸)や毛羽も頻発する。
【0054】
なお、突起係数が0.3〜0.7のフィン部であっても、単繊維断面に該フィンブの数が1〜2個では、内側に閉じた繊維断面部分が最大1個しか形成されなくなるので、十分な毛細管現象が発現せず、吸水性能が不十分となる。また、布帛の風合もフラットなペーパーライクなものとなる。一方、8個を越える場合には、延伸仮撚加工時、フィン部への加工張力集中が発生し、繊維断面の部分的破壊が起こり、十分な毛細管形成がなされなくなり、吸水性能が不十分となる。また、延伸仮撚工程での糸切れ(加工断糸)や毛羽が頻発する。
【0055】
本発明においては、ポリエステル繊維の結晶化度が30%以下、沸水収縮率が15%以上であることが好ましい。これにより、該繊維の結晶領域が増大せず、剛直な繊維構造とならないため、通常の延伸仮撚条件下で延伸仮撚加工糸の繊維断面扁平度が繊維軸方向に適度に分散しやすくなる。その結果、吸水・速乾性能および該性能の洗濯耐久性がより向上し、また布帛での自然なドライ感も発現する。一方、沸水収縮率を70%以下とすることにより、安定した繊維構造とすることができる。
【0056】
本発明の製造方法においては、公知の溶融紡糸方法を採用することできる。例えば、ポリエステルを通常の条件で乾燥し、スクリュウエクストルーダー等の溶融押出機で溶融し、例えば、特許第3076372号に開示されているような、コアー部形成用円形吐出孔(図2の3)の周囲に間隔を置いて配置された3〜8個、より好ましくは4〜6個、の小円状開口部(図2の5)とスリット状開口部(図2の4)とが連結したフィン部形成用吐出孔を配置した紡糸口金(図2)から吐出し、従来公知の方法で冷却、固化後、捲き取る方法が採用できる。前述した結晶化度及び沸水収縮率を有する繊維とするには、巻取り速度を2000〜4000m/minとするのが好ましく、より好ましくは2500〜3500m/minである。
【0057】
この時、コアー部形成用円形吐出孔の半径(図2のb2)、該円形吐出孔の中心点からフィン部形成用吐出孔の先端部の長さ(図2のa2)等を変えることにより、繊維断面の突起係数が0.3〜0.7となるように任意に設定することができる。また、スピンブロックの温度および/または冷却風量を変えることによっても、繊維断面の突起係数をある程度コントロールすることができる。なお、冷却風は、紡糸口金から5〜15cm下方が上端となるように設置された長さ50〜100cmのクロスフロータイプの紡糸筒から送風するのが望ましい。
【0058】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0059】
(1)固有粘度
ポリエステルポリマーの固有粘度は、35℃オルソクロロフェノール溶液にて、常法に従って35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0060】
(2)ジエチレングリコール(DEG)量
抱水ヒドラジンを用いてポリマーを分解し、ガスクロマトグラフィ−(株式会社日立製作所製「263−70」)を用い、常法に従って測定した。
【0061】
(3)結晶化度
広角X線回折法による。理学電気社製X線発生装置(ローターフレックスRU−200)を用い、ニッケルフィルターで単色化したCu−Kα線で散乱強度を測定し、次式で結晶化度を計算する。
結晶化度(%)=結晶部の散乱強度/全散乱強度×100
(4)沸水収縮率
枠周1.125mの検尺機で捲数20回のカセを作り、0.022cN/dtexの過重を掛けて、スケール板に吊るして初期のカセ長L0を測定する。その後、このカセを65℃の温水浴中で30分間処理後、放冷し再びスケール板に吊るし収縮後の長さLを測定し次式で沸水収縮率を計算する。
沸水収縮率(%)=(L0−L)/L0×100
(5)突起係数
ポリエステルマルチ繊維の断面顕微鏡写真を撮影し、単繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ(a1)および繊維断面内面壁の内接円の半径(b1)を測定し、下記式で突起係数を計算した。
突起係数=(a1―b1)/a1
(6)チタン元素含有量、リン元素含有量
粒状のポリエステル試料をアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成型体を作成し、理学電気工業株式会社社製蛍光X線測定装置3270Eを用いてチタン元素含有量およびリン元素含有量を測定した。
【0062】
(7)口金異物高さ
各実施例に示す方法、条件で溶融紡糸を行った後、紡糸口金表面に離型剤を吹き付けて、吐出ポリマーが付着しないようにして、紡糸口金を取り外し、顕微鏡にて吐出孔周辺に付着・堆積した口金異物の高さを測定した。全ての吐出孔について口金異物の高さを測定し、それらの平均値で表した。
【0063】
(8)紡糸断糸率
人為的あるいは機械的要因に起因する断糸を除き、紡糸機運転中に発生した紡糸断糸回数を記録し下記式で紡糸断糸率(%)を計算した。
紡糸断糸率(%)=[断糸回数/(稼動ワインダー数×ドッフ数)]×100
ここで、ドッフ数とは未延伸糸パッケージを既定量(10kg)まで捲き取った回数をいう。
【0064】
(9)加工断糸率
スグラッグ社製SDS−8型延伸仮撚加工機で、10kg巻ポリエステルマルチ繊維パッケージを延伸仮撚加工し、5kg巻ポリエステル仮撚加工糸パッケージを2個作成する方法で運転した時、断糸回数を記録し、下記式で加工断糸率を計算した。
加工断糸率(%)=断糸回数/(稼動錘数×2)×100
(10)加工毛羽
東レ(株)製DT−104型毛羽カウンター装置を用いて、仮撚加工糸を500m/分の速度で20分間連続測定して発生毛羽数をカウントした。
【0065】
(11)織物風合
延伸仮撚加工糸に600回/mの撚りを施し、たて糸・よこ糸使い綾織の布帛とした。次いで、100℃で精錬・リラックス処理、180℃・45秒でプレセット乾熱処理、15%のアルカリ減量処理、130℃・30分で染色を行い、自然乾燥した後、170℃・45秒でファイナルセットを行い、織物を作成した。この織物を検査員が触感判定し下記基準で格付けした。
レベル1:自然でドライな感触がある。
レベル2:ドライ感がやや少なく感じられる。
レベル3:フラットでペーパーライクな感触がある。
【0066】
(12)吸水速乾性(ウイッキング値)
吸水・速乾性能の指標として、JIS L1907繊維製品の吸水試験法、5.1.1項吸水速度(滴下法)に準じて、落下水滴が、ポリエステル仮撚加工糸からなる試験布表面から表面反射をしなくなるまでの秒数(ウイッキング値)を採用した。なお、L10は、JIS L0844−A−2法により10回洗濯を行った後のウイッキング値(秒)を表す。
【0067】
(13)(L*−b*)値
ポリエステル繊維を12ゲージ丸編機で30cm長の筒編みとし、ミノルタ株式会社社製ハンター型色差計CR−200を用い、L*値、b*値を測定し、その差を(L*−b*)値とした。
【0068】
[実施例1〜3、比較例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部との混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート(TBT)0.009部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート(TEPA)0.035部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0069】
その後、反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、26.67Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.630、ジエチレングリコール量が1.5%であるポリエチレンテレフタレートを得た。さらに得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従いペレット化した。
【0070】
また予め、図2に示す吐出孔形状と同じタイプの吐出孔をベースとして、スリット幅が0.10mmおよび該円形吐出孔中心点から先端部までの長さ(図2のa2)が0.88mmのフィン部形成用吐出孔をおのおの表1に示す個数有し、コアー部形成用円形吐出孔の半径(図2のb2)が0.15mmの吐出孔群を24群穿設した紡糸口金を準備し、スピンパックに組み込み、スピンブロックに装填した。ここで前述のポリエチレンテレフタレートのペレットを、150℃で5時間乾燥した後、スクリュウー式押出機を装備した溶融紡糸設備にて溶融し、295℃のスピンブロックに導入し、該紡糸口金より吐出量40g/minで吐出した。引き続き、紡糸口金吐出面から下方10cmの位置が上端となるように設置された長さ60cmのクロスフロータイプの紡糸筒から25℃の冷却風を、5Nm3/minの割合で、ポリマー流に吹き付つけて、冷却・固化し、紡糸油剤を付与し、3000m/minの速度で捲き取り、各々表1に示す結晶化度、沸水収縮率、フィン部個数および突起係数を有するポリエチレンテレフタレート繊維を得た。上記溶融紡糸操作は7日間連続して行った。
【0071】
この得られたポリエチレンテレフタレート繊維をスクラッグ社製のSDS−8型延伸仮撚機(3軸フリクションディスク仮撚ユニット、216錘)に掛けて、延伸倍率1.65、ヒーター温度175℃、撚数3300回/m、延伸仮撚速度600m/minで延伸仮撚加工を実施し、繊度84dtexのポリエチレンテレフタレート延伸仮撚加工糸を得た。実施例1〜3、比較例1におけるウイッキング値(L0およびL10)、織物風合い、加工断糸率および加工毛羽の結果をまとめて表1に示す。
【0072】
[比較例2]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部との混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.064重量部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、56重量%濃度のリン酸水溶液0.044重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0073】
その後、反応生成物を重合容器に移し、三酸化二アンチモンを表に示す量を添加して290℃まで昇温し、26.67Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度が0.630のポリエチレンテレフタレートを得た。さらに得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従いペレット化した。
【0074】
実施例2において、上記のポリエチレンテレフタレートのペレットを用いたこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、吸水・速乾特性を高めるために高度に異型化された繊維断面を有しるポリエステル繊維を、長期間安定して製造することができる。また、本発明の製造方法により得られた異形断面ポリエステル繊維は、毛羽が少なく、色調にも優れており、極めて高い品質を有しており高級衣料用途などにも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明により得られる異形断面ポリエステル繊維の単繊維横断面を例示した図。
【図2】本発明に用いる紡糸口金の吐出孔の形状を例示した図。
Claims (5)
- ポリエステルポリマーを溶融紡糸して、単繊維横断面に繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在し、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7である異形断面ポリエステル繊維を製造するに際し、該ポリエステルポリマーがチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーを用い、該チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、該リン化合物が下記一般式(III)で表される化合物であり、チタンとリンの含有濃度が下記数式(1)及び(2)を同時に満足することを特徴とする異形断面ポリエステル繊維の製造方法。
突起係数=(a1―b1)/a1
[但し、上記式中、a1は繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ、b1は繊維断面内面壁の内接円の半径を示す。]
- ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項1または2記載の異形断面ポリエステル繊維の製造方法。
- 異形断面ポリエステル繊維の結晶化度が30%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の異形断面ポリエステル繊維の製造方法。
- 異形断面ポリエステル繊維の沸水収縮率が15〜70%である、請求項1〜4のいずれかに記載の異形断面ポリエステル繊維の製造方法。
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