JP2004270053A - 袋織エアバッグ基布、エアバッグおよびエアバッグ装置 - Google Patents

袋織エアバッグ基布、エアバッグおよびエアバッグ装置 Download PDF

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Abstract

【課題】内圧保持性能を従来以上に向上させ、側面保護用エアバッグ装置に適用可能な袋織エアバッグ基布、および該袋織エアバッグ基布を用いたエアバッグ、並びに該エアバッグを用いたエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】エアバッグ作動時に膨張し、上布部と下布部の2つの布部から構成される袋部と、該エアバッグ作動時に膨張しない非膨張部を有し、袋部と非膨張部との境界のうち非膨張部側の境界部に、経糸または緯糸に対して平行でない方向に連続する部分を有する袋織エアバッグ基布であって、前記境界部は、上布部を構成する経糸が下布部を構成する緯糸と、下布部を構成する経糸が上布部を構成する緯糸と、夫々交錯した平織組織であることを特徴とする袋織エアバッグ基布である。

Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、自動車用安全装置の一つであるエアバッグ装置に用いられるエアバッグと、該エアバッグのための基布に関するものであり、輸送車両における搭乗者を正面保護または側面保護するために特に有用なエアバッグに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車安全部品の一つであるエアバッグ装置は、乗員の安全意識の向上に伴い、急速に装着率が増大している。このエアバッグ装置とは、自動車の衝突事故の際に、衝撃をセンサーが感知し、インフレーターから高温、高圧のガスを発生させ、このガスによってエアバッグを急激に展開させ、衝突の際の衝撃から乗員を保護するものである。
【0003】
従来、エアバッグ装置としては、正面からの衝突時に乗員を保護する運転席用や助手席用のものが装着されてきたが、最近では、側部からの衝突にも対応可能なものが開発されている。
【0004】
運転席用や助手席用のエアバッグは、従来から、2枚のエアバッグ基布を縫製することによって作製されてきたが、最近では、エアバッグの性能向上および製造コスト削減を図るべく、製織段階でバッグを形成可能な袋織技術によるものが注目されている。
【0005】
側面保護用のエアバッグでは、自動車の横転を想定している場合が多く、運転席用や助手席用のものとは異なり、展開後の内圧保持時間を数秒から10秒程度確保するといった内圧保持性能が必要であるとされており、これによって車両の横転時にも乗員の頭部が保護可能なように設計されている。よって、側面保護用のエアバッグでは、これを構成する布帛本体からのエア漏れを高度に防止することが要求されるが、上述の如き2枚の基布の縫製品の場合には、縫い目からのエア漏れがあり得るため、実用的ではない。現状では、袋織のエアバッグ基布に表面コーティングを施すか、上述の縫製品の場合には、縫い目部分に目留め用シール剤を付すことが通常である。
【0006】
しかしながら、上述の表面コーティングを施した袋織エアバッグ基布から構成されるエアバッグであっても、側面保護用エアバッグ装置に適用した場合において、自動車の横転に十分に耐え得るように、さらなる内圧保持性能の向上が要求されている。
【0007】
例えば、袋織エアバッグ基布から構成されるエアバッグでは、特にエアバッグ作動時に膨張しない非膨張部と袋部との接する部分(境界部)において、エアバッグ展開の際にエア漏れが懸念される。よって、上記境界部に適切な織組織を採用して、かかる箇所からのエア漏れを抑制しようとする技術が提案されている。こうした技術は、エアバッグ作動時に、エアバッグ(袋部)が展開することによって生じるエアバッグ構成糸の目ズレ・目開きを抑えることで、エア漏れの原因となる穴の発生を防止して、エア漏れを抑制しようというものである。
【0008】
例えば、特許文献1には、袋織エアバッグの非膨張部のうち、袋部に接する部分近傍を内側、他の部分を外側とし、夫々の部分に経糸・緯糸の拘束度の異なる特定の織組織を当てはめて、エアバッグ作動時のエア漏れを抑制する技術が開示されている。しかしながら、かかる技術によってもエアバッグ展開による構成糸の目ズレ・目開き抑制は十分ではなく、特に側面保護用エアバッグとしては、内圧保持性能が満足のいくものではなかった。
【0009】
【特許文献1】
特開平4−193646号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情の下でなされたものであり、その目的は、内圧保持性能を従来以上に向上させ、側面保護用エアバッグ装置に適用可能な袋織エアバッグ基布、および該袋織エアバッグ基布を用いたエアバッグ、並びに該エアバッグを用いたエアバッグ装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の袋織エアバッグ基布は、エアバッグ作動時に膨張し、上布部と下布部の2つの布部から構成される袋部と、該エアバッグ作動時に膨張しない非膨張部を有し、袋部と非膨張部との境界のうち非膨張部側の境界部に、経糸または緯糸に対して平行でない方向に連続する部分を有する袋織エアバッグ基布であって、下記(1)および(2)の組織を有するものであるところに要旨が存在する。
(1)上布部および下布部は平織組織であり、袋部を構成する経糸および緯糸は、非膨張部を構成する経糸または緯糸と連続しており、非膨張部を構成する任意の経糸が、袋部のいずれか一方の布部も構成している場合であって、非膨張部において該経糸に隣り合う経糸も袋部を構成するときには、該隣り合う経糸は袋部の他方の布部を構成しており、非膨張部を構成する任意の緯糸が、袋部のいずれか一方の布部も構成している場合であって、非膨張部において該緯糸に隣り合う緯糸も袋部を構成するときには、該隣り合う緯糸は袋部の他方の布部を構成する。
(2)前記境界部は、上布部を構成する経糸が下布部を構成する緯糸と、下布部を構成する経糸が上布部を構成する緯糸と、夫々交錯した平織組織である。
【0012】
以下、上布部を構成する経糸を「上布部構成経糸」、上布部を構成する緯糸を「上布部構成緯糸」、上布部構成経糸と上布部構成緯糸を合わせて「上布部構成糸」、下布部を構成する経糸を「下布部構成経糸」、および下布部を構成する緯糸を「下布部構成緯糸」、下布部構成経糸と下布部構成緯糸を合わせて「下布部構成糸」という。
【0013】
上記袋織エアバッグ基布では、袋部の上布部および下布部において、経糸の密度(本/2.54cm)と緯糸の密度(本/2.54cm)から、下式(1)で求められる織密度差が±10%以内であることが好ましい。
織密度差(%)=100×(経糸の密度−緯糸の密度)/緯糸の密度 (1)。
【0014】
また、上記袋織エアバッグ基布では、少なくとも片面がコート用樹脂でコーティングされていることが好ましく、該コート用樹脂としてはシリコーン樹脂が好適である。
【0015】
また、上記の袋織エアバッグ基布を用いたエアバッグ、および該エアバッグを構成要素とするエアバッグ装置も本発明に包含される。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、特に側面保護用エアバッグ装置にも適用可能なエアバッグにおいて、作動時(エアバッグ展開時)の内圧保持性能を高める観点から、このエアバッグを構成するための袋織エアバッグ基布について種々検討を重ねた結果、上記(1)および(2)の組織を有する袋織エアバッグ基布であれば、従来の袋織エアバッグ基布よりも、高度な内圧保持性能を有するエアバッグを提供できることを見出し、本発明を完成させた。以下、本発明について、詳細に説明する。
【0017】
本発明の袋織エアバッグ基布では、袋部、中でも非膨張部との境界近傍において、基布を構成する糸の拘束度が高くなるように、該部分に緻密な構造となる織組織を採用して、エアバッグ展開時における袋部(特に非膨張部との境界近傍)を構成する糸の動きを抑制する。
【0018】
エアバッグ展開時に袋部を構成する糸の動きを抑制し得るような織組織として、本発明では上記(1)の組織、すなわち、上記上布部および下布部は平織組織であり、袋部を構成する経糸および緯糸は、非膨張部を構成する経糸または緯糸と連続しており、非膨張部を構成する任意の経糸が、袋部のいずれか一方の布部も構成している場合であって、非膨張部において該経糸に隣り合う経糸も袋部を構成するときには、該隣り合う経糸は袋部の他方の布部を構成しており、非膨張部を構成する任意の緯糸が、袋部のいずれか一方の布部も構成している場合であって、非膨張部において該緯糸に隣り合う緯糸も袋部を構成するときには、該隣り合う緯糸は袋部の他方の布部を構成する、といった織組織を採用する。具体例を挙げると、このような組織を有する袋織エアバッグ基布では、例えば、非膨張部を構成する任意の経糸が、袋部の上布部も構成している場合であって、非膨張部において、この経糸の隣に位置する経糸も袋部を構成しているときには、該隣に位置する経糸は、袋部の下布部を構成している。
【0019】
上記(1)の組織を有する袋織エアバッグ基布の具体例を、図を示して説明する。図1は、袋織エアバッグ基布から構成されるエアバッグの構成例である。図1のエアバッグでは、外周端部および中央部に非膨張部が存在しており、外周端部の非膨張部と中央部の非膨張部に挟まれた形で袋部が形成されている。また、図1の袋部と非膨張部とを仕切る線は、境界部(袋部と非膨張部との境界部であって、該境界部自体は非膨張部に含まれる。以下同じ。)を示している。なお、図1では、形状などの図示を省くため、インフレーター取付口やエアバッグの複雑な形状は取り入れず、簡略化した図面としている。よって、本発明の袋織エアバッグ基布およびエアバッグは、図1に示したものに限定される訳ではない。
【0020】
本発明の袋織エアバッグ基布において、袋部に採用可能な織組織の一例が図2に示す2重織組織図であり、袋部が図2に示すような織組織をとる場合に、袋織エアバッグ基布は上記(1)の組織を有するものとなる。上記(1)の組織では、袋部の上布部および下布部は平織であるため、その織組織は4マス×4マスを最小単位とする組織図で表現される。図2のb,c,dは、図2のaの織組織を45°ずつ回転させたものであり、図2のeは、図2のaの織組織を偶数本ずらした織組織である。このような織組織を採用することで、袋部の特に境界部に隣接する部分において、エアバッグ膨張の際の目ズレを抑えて、内圧保持性能を向上させたエアバッグを構成し得る袋織エアバッグ基布とすることができる。
【0021】
さらに、本発明の袋織エアバッグ基布では、上記境界部が上記(2)の組織、すなわち、上布部構成経糸が下布部構成緯糸と、下布部構成経糸が上布部構成緯糸と、夫々交錯した平織組織である。これは、境界部の織組織が「袋部の上布部を構成している糸は下側へ、袋部の下布部を構成している糸は上側へ配される」構造を有していることを意味しており、このような組織を採用することで、エアバッグ展開時において、袋部の展開による境界部近傍の糸の動きをより拘束することが可能となり、目ズレ(目開き)量を極めて小さくすることができる。
【0022】
なお、境界部が経糸または緯糸に対して平行な方向にのみ連続する場合には、例えば袋部に単一の織組織を採用して、上記(2)の組織を確保することも可能であるが、本発明の袋織エアバッグ基布は、境界部に、経糸または緯糸に対して平行でない方向に連続する部分を有するものであるため、該境界部が、その向きに応じて上記(2)の組織を取り得るように、袋部の織組織を選択する必要がある(後述する)。
【0023】
ちなみに、本発明の袋織エアバッグ基布では、2マス×2マス(経糸2本×緯糸2本)の組織を、織組織の最小単位として考えることが好ましい。この2マス×2マスの組織とは、織組織を構成する上での最小単位であり、特に袋部と非膨張部との境界(境界部)の組織を決定する上で、2マス×2マスの組織を最小単位として考えると、一つの織組織を完結させてから異なる織組織を始めることが可能となるため、織物全体での糸の動きをコントロールし易くなる。なお、上述したように、袋織組織の場合は、4マス×4マスが最小単位であるが、2マス×2マスを最小単位として織組織を考える方が、例えば、境界部の向きに合わせて袋部の組織を変更する上で自由度が高くなると共に、3マス×3マスの如き奇数値の最小単位とするよりも、袋織組織を壊すことなく完結させ得るように織組織を当てはめることが可能となる。勿論、上記(1)および(2)の組織を有するのであれば、本発明の袋織エアバッグ基布は、2マス×2マスの組織を最小単位とすることに限定されるわけではなく、他の組織を最小単位としてもよい。
【0024】
上記(1)および(2)の組織を有する袋織エアバッグ基布の組織図(一部)の一例を図3に示す。図3では、2マス×2マスの組織を最小単位としている。また、図中「○」で示す糸が上布部構成糸を、「×」で示す糸が下布部構成糸を意味している。また、図3では、理解を容易にするために、袋部と境界部との境界線を図示している。
【0025】
図3のエアバッグ基布の境界部のうち、経糸および緯糸に平行でない方向に連続した部分において、通常、エアバッグ展開時に目開きが最も生じ易い箇所はa〜dであるが、このa〜dのいずれにおいても、経糸は上布部構成糸であり、緯糸は下布部構成糸である。すなわち、このa〜dでは、「上布部構成経糸が下布部構成緯糸と交錯した」構造であり、上記(2)の組織を満足している。
【0026】
上記(2)の組織を採用することにより、エアバッグ展開時における境界部での目開き量が小さくなり、延いては内圧保持性能が向上する理由は、次の通りである。図4(a)は、図3の袋織エアバッグ基布の境界部中の境界点「d」を含む上布部構成経糸「い」と下布部構成緯糸「A」との関係を示したものである。なお、図4中、縦線は、図3における袋部と境界部との境界線を意味している。上布部構成経糸「い」は、境界部(境界点「d」)において、下布部構成緯糸「A」と交錯している。このような構造を有する袋織エアバッグの袋部を展開させると、上布部構成経糸「い」は上方へ移動しようとするが、境界点「d」において、下方へ移動しようとする下布部構成緯糸「A」により、下方に抑えられることとなる。よって、上布部構成経糸「い」はエアバッグ展開の際に自由に移動することができなくなるため、目開き量も小さくなる。
【0027】
加えて、2マス×2マスの組織を最小単位として組織を決定すれば、以下のようなメリットもある。図4(b)には、非膨張部(境界部)において下布部構成緯糸「A」に隣接する上布部構成緯糸「B」と、上布部構成経糸「い」との、境界部における境界点(図3中「e」)を含む関係を示したものである。エアバッグ展開時に、境界点「e」において、上布部構成緯糸「B」は上布部構成経糸「い」を上方へ移動させようとするが、該上布部構成緯糸「B」に隣接する下布部構成緯糸「A」は境界点「d」において上布部構成経糸「い」を下方へ移動させようとする。このように、境界部において隣り合う緯糸(経糸)同士が、両者が交錯する一本の経糸(緯糸)を、互いに異なる方向に引き合うため、該経糸(緯糸)の移動量が少なくなり、結果として境界部での目開き量を小さくすることができる。
【0028】
なお、上記の通り、本発明の袋織エアバッグ基布は、境界部に経糸または緯糸に対して平行でない方向に連続する部分を有するものであるため、かかる部分においては、上記(2)の組織をとり得るように、袋部の織組織を適切に選択する必要がある。例えば、図6に、本発明の袋織エアバッグ基布の袋部と境界部の織組織の一例を示す。図6でも、理解を容易にするために、袋部と境界部との境界線を図示している。図6に示す袋織エアバッグ基布では、六角形の非膨張部を有しており、該六角形の6本の辺のうち、4本の辺に当たる境界部が、経糸または緯糸に対して平行でない方向に連続している。
【0029】
図6の境界部の境界点「イ」および「ロ」に着目すると、いずれも経糸が上布部構成糸、緯糸が下布部構成糸であり、上記(2)の組織を満足しているが、この境界点「イ」に接する袋部と、境界点「ロ」に接する袋部では、織組織が45°回転した組織となっており、境界部の向きに応じて異なる織組織が適用されている。
【0030】
これに対し、図7は、上記(2)の組織を満足し得ない袋織エアバッグ基布の袋部および境界部の織組織の一例である。図7でも、理解を容易にするために、袋部と境界部との境界線を図示している。この図7では、境界部の境界点「ハ」では、経糸が上布部構成糸、緯糸が下布部構成糸であるが、境界点「ニ」では、縦糸、緯糸共に上布部構成糸であり、上記(2)の組織を満足していない。この図7の袋織エアバッグ基布では、袋部が唯一の織組織で構成されているため、該袋部と接する境界部の向きによっては、上記(2)の組織となり得ない場合がある。よって、図6に示す織組織のように、袋部の織組織は、該袋部と接する境界部の向きに応じて、適切な組織を選択するのである。なお、袋部の織組織は、例えば、袋部形成に用いられるジャカード装置(後述する)などにより、境界部の向きに応じて変更することができる。
【0031】
また、非膨張部(境界部を除く)の織組織は特に限定されず、図5(a)に示す袋とじ組織、図5(b)に示す3×3バスケット織組織など、種々の織組織が採用可能であるが、この非膨張部は自動車への取り付けに用いられる場所となるため、織糸が非常にずれ易い組織、例えば、20×20斜子織組織のような糸の拘束度が低い組織は採用しないことが望ましい。
【0032】
本発明の袋織エアバッグ基布では、袋部の上布部および下布部において、上記(1)式で示される織密度差が±10%以内であることが好ましい。より好ましくは±6%以内、さらに好ましくは±4%以内である。このような織密度差を有する袋織エアバッグ基布であれば、より良好な内圧保持性能を確保できる。
【0033】
エアバッグの内圧保持性能低下の主たる要因は、上述の通り、境界部からのエア漏れである。エアバッグにおける境界部からのエア漏れの原因としては、エアバッグが展開することによって境界部に形成される空隙(穴)が挙げられるが、こうした空隙の形成の程度は、袋部のおける構成糸の交錯点の数(拘束の程度)に影響を受け、該交錯点が多いほど、空隙は形成し難くなる。
【0034】
なお、織密度の指標としては、基布を構成する糸の密度と繊度から算出されるカバーファクター[CF、下記(2)式]が知られているが、同じカバーファクターでも経糸・緯糸の密度の差が大きくなると、密度の小さな方向においては形成される空隙が大きくなるため、エアバッグの内圧保持性能が低下する場合がある。よって、上記(1)式で示される織密度差を上記範囲内とすることが推奨されるのである。
【0035】
【数1】
Figure 2004270053
【0036】
ちなみに、本発明の袋織エアバッグ基布では、袋部の上布部および下布部において、上記(2)式で示されるカバーファクターは2000以上であることが好ましく、2200以上であることがより好ましい。
【0037】
本発明の袋織エアバッグ基布に用いられる糸は、特に素材を限定するものではない。例えば、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド;アラミドなどの芳香族ポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;などから得られる合成繊維から構成されるものが一般的である。また、全芳香族ポリエステル繊維、所謂超高分子量ポリエチレン繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルケトン繊維(好ましくは、生分解性ポリエーテルケトン繊維)などから構成される糸も使用可能である。経済的な観点からは、上記例示の各ポリアミド繊維(特に好ましくは、ナイロン66繊維、ナイロン6繊維、ナイロン46繊維)や、上記例示の各ポリエステル繊維の糸が推奨される。これらの合成繊維には、原糸製造工程や後加工工程での工程通過性の向上、および特性改善を目的として、公知の各種添加剤を含有させてもよい。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、平滑剤、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤などが挙げられる。
【0038】
上記袋織エアバッグ基布を構成する繊維(単繊維)の強度は、特に限定されないが、例えば、5.5cN/dtex以上であることが好ましく、6cN/dtex以上であることがより好ましい。このような強度を有する繊維を使用することで、エアバッグ膨張の際の基布の破壊を、高いレベルで抑制し得る。
【0039】
上記袋織エアバッグ基布を構成する単繊維の繊度、およびトータル繊度(糸の繊度)は、エアバッグに必要な機械的特性を満足するものであれば特に限定されないが、単繊維繊度は1〜8dtexであることが好ましく、トータル繊度は200〜1000dtexであることが推奨される。
【0040】
また、上記糸には、生産性や特性改善のための各種添加剤が含有されていてもよい。これらの添加剤は、原糸製造段階や後加工段階で添加することができる。
【0041】
上記袋織エアバッグ基布の製織の際に使用される織機は特に限定されず、例えば、ウォータージェットルーム、エアジェットルーム、レピアルーム、プロジェクタイルルームなどが使用できる。中でも、織生産性、経糸へのダメージや糸汚れの低減などを考慮すると、ウォータージェットルームやエアジェットルームが好ましい。袋部の形成にはジャカード装置やドビー装置が用いられる。特に複雑な組織とするには、ジャカード装置(電子式または機械式)が好ましく、生産性や組織変更の容易さの点で電子式ジャカード装置がより好ましい。
【0042】
本発明の袋織エアバッグ基布は、通気度の低減や目ズレ防止を目的として、コート用樹脂がコーティングされていることが好ましい。かかる目的を達成するためには、基布(特に袋織部)の両面にコーティングがなされることが一般的であるが、エアバッグとした場合に必要とされる内部保持性能が確保できるのであれば、基布の片面のみがコーティングされた態様であっても構わない。このようなコート用樹脂としては、エアバッグ基布に通常使用されている種類の樹脂が採用できる。中でも、耐熱性、耐寒性、難燃性を有する樹脂が好ましい。例えば、クロロプレン、クロロスルフォン化ポリオレフィン、シリコーン、ポリウレタンなどの樹脂が好適である。これらの樹脂を基布表面にコーティングするに当たっては、該樹脂を直接基布表面に塗布し、硬化させる方法;該樹脂を溶剤に溶解または分散させて得られるコーティング液を基布表面に塗布し、該溶剤を乾燥させ、必要に応じて樹脂を硬化させる方法;シート状にした上記樹脂をラミネートする方法;などが採用可能である。なお、上記ラミネート法を採用する場合には、シート状樹脂と基布を、公知の接着剤を介してラミネートしても構わない。
【0043】
上記の樹脂は単独で、または2種以上を混合して用いてもよいし、必要に応じて架橋剤などを併用してもよい。上記例示の樹脂の中でも、環境に与える影響を考慮すると、無溶剤系の樹脂が好ましく、無溶剤系のシリコーンが特に好適である。
【0044】
基布のコーティングに用いるコート用樹脂量(乾燥後の質量、以下同じ)は、片面当たり150g/m以下とすることが好ましい。また、エアバッグの収納性の点からは100g/m以下とすることがより好ましく、80g/m以下とすることがさらに好ましい。コート用樹脂量が上記範囲を超える袋織エアバッグ基布では、得られるエアバッグを車内の所定位置に収納するために必要となるスペースが大きくなる他、該エアバッグが車体重量の増大の一因ともなるため、好ましくない。他方、コート用樹脂適用の効果を十分に発揮させる観点からは、コート用樹脂量は、片面当たり5g/m以上とすることが好ましく、10g/m以上とすることがより好ましく、20g/m以上とすることがさらに好ましい。
【0045】
また、本発明の袋織エアバッグ基布では、必要とされる内圧保持性能が確保できるのであれば、上述の樹脂コーティングを施さないノンコート基布であってもよく、例えば上記コート用樹脂として例示した各種樹脂などを用いて、ノンコート基布にディッピング加工などの処理を施したものであってもよい。
【0046】
なお、上述の製織により得られた基布には、上記コート用樹脂をコーティングする前に、沸水収縮処理および乾燥を施すことが好ましい。沸水収縮処理によって製織直後よりも基布の織密度を高めることが可能であり、さらに油やその他の汚れなど、コート用樹脂のコーティングの際に弊害となる汚染物質を洗浄することもできる。乾燥工程では、構成糸の有する収縮性能を十分に発揮させるため、基布に必要以上の張力をかけないことが好ましい。これにより、さらに高密度の基布とすることができる。また、基布の寸法安定性を考慮するのであれば、セッターなどの乾熱工程(熱セット工程)を通すことも好ましい。
【0047】
本発明のエアバッグは、上記本発明の袋織エアバッグ基布を、袋部を含めた形で所定形状に裁断して製造することができる。なお、本発明のエアバッグは例えば、後述の実施例における内圧性能保持評価において、25kPa以上の内圧を保持し得る時間が3秒以上、より好ましくは4秒以上、さらに好ましくは6秒以上といった優れた内圧保持性能を有するものであり、側面保護用エアバッグ装置に適用可能である。
【0048】
また、本発明のエアバッグ装置においては、本発明のエアバッグを使用する以外は特に限定されず、従来公知の各構成部材(衝撃センサー、インフレーター、インフレーターガス導入用ホースなど)を用いることができる。
【0049】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例において採用した評価方法は、以下の通りである。
【0050】
[内圧保持性能評価]
袋織エアバッグ基布から、図1に示す構成のエアバッグ(容量:15リットル)を作製する。袋部の一箇所から圧縮空気を送り込み、内圧が100kPa(ゲージ圧、以下同じ)に到達してから3秒後に空気の挿入を停止し、時間の経過による内圧の変化を測定して、25kPa以上の内圧を保持し得る時間を求める。
【0051】
[織密度差]
上記(1)式を用いて、袋織エアバッグ基布の袋部(上布部および下布部)の織密度差(%)を算出する。
【0052】
[カバーファクター]
上記(2)式を用いて、袋織エアバッグ基布の袋部(上布部および下布部)のカバーファクターを算出する。
【0053】
実施例1
図1に示す構成の袋部(内容量:15リットル)を複数備えた長尺の袋織エアバッグ基布を作製した。経糸および緯糸に350dtex/108フィラメントのナイロン66マルチフィラメント糸を用い、エアジェットルームと電子ジャカード装置を用いて製織を行い、袋部および境界部の織組織が図6に示す組織で、袋部の密度が経糸:60本/2.54cm、緯糸:60本/2.54cmの袋織布帛とした。その後、沸水収縮処理を施し、引き続き乾燥、熱セットを行った。最終的な袋織布帛の構造は、袋部の密度が経糸:63本/2.54cm、緯糸:63本/2.54cmである。
【0054】
得られた布帛の両面に熱硬化型無溶剤系シリコーン(旭化成ワッカーシリコーン社製「LR6200A/B」)を、片面当たり60g/mとなるようにナイフコーターで塗布し、180℃×2分の条件で該樹脂を硬化させて袋織エアバッグ基布とした。
【0055】
上記の袋織エアバッグ基布を、袋部を含む所定形状に裁断して、図1に示す構成のエアバッグを得た。エアバッグの容量は15リットルである。得られた袋織エアバッグ基布およびエアバッグの特性を表1に示す。
【0056】
実施例2
以下の点を除き、実施例1と同様にして、袋織エアバッグ基布を作製した。製織後の袋織布帛の袋部の密度を、経糸:60本/2.54cm、緯糸:58本/2.54cmとし、沸水収縮処理、乾燥、熱セットを経た後の袋部の密度を経糸:63本/2.54cm、緯糸:60本/2.54cmとした。また、得られた布帛の両面に実施例1で用いたものと同じシリコーンを、片面当たり60g/mとなるようにナイフコーターで塗布し、実施例1と同じ条件で該樹脂を硬化させて袋織エアバッグ基布とした。
【0057】
上記の袋織エアバッグ基布を、袋部を含む所定形状に裁断して、図1に示す構成のエアバッグを得た。エアバッグの容量は15リットルである。なお、袋織エアバッグ基布の袋部および境界部の織組織は、図6の組織である。得られた袋織エアバッグ基布およびエアバッグの特性を表1に示す。
【0058】
実施例3
以下の点を除き、実施例1と同様にして、袋織エアバッグ基布を作製した。製織後の袋織布帛の袋部の密度を、経糸:62本/2.54cm、緯糸:58本/2.54cmとし、沸水収縮処理、乾燥、熱セットを経た後の袋部の密度を経糸:65本/2.54cm、緯糸:60本/2.54cmとした。また、得られた布帛の両面に実施例1で用いたものと同じシリコーンを、片面当たり45g/mとなるようにコンマコーターで塗布し、実施例1と同じ条件で該樹脂を硬化させて袋織エアバッグ基布とした。
【0059】
上記の袋織エアバッグ基布を、袋部を含む所定形状に裁断して、図1に示す構成のエアバッグを得た。エアバッグの容量は15リットルである。なお、袋織エアバッグ基布の袋部および境界部の織組織は、図6の組織である。得られた袋織エアバッグ基布およびエアバッグの特性を表1に示す。
【0060】
実施例4
以下の点を除き、実施例1と同様にして、袋織エアバッグ基布を作製した。経糸および緯糸に470dtex/108フィラメントのナイロン66マルチフィラメント糸を用い、製織後の袋織布帛の袋部の密度を、経糸:50本/2.54cm、緯糸:50本/2.54cmとし、沸水収縮処理、乾燥、熱セットを経た後の袋部の密度を経糸:54本/2.54cm、緯糸:54本/2.54cmとした。また、得られた布帛の両面に実施例1で用いたものと同じシリコーンを、片面当たり45g/mとなるようにナイフコーターで塗布し、実施例1と同じ条件で該樹脂を硬化させて袋織エアバッグ基布とした。
【0061】
上記の袋織エアバッグ基布を、袋部を含む所定形状に裁断して、図1に示す構成のエアバッグを得た。エアバッグの容量は15リットルである。なお、袋織エアバッグ基布の袋部および境界部の織組織は、図6の組織である。得られた袋織エアバッグ基布およびエアバッグの特性を表1に示す。
【0062】
参考例
以下の点を除き、実施例1と同様にして、袋織エアバッグ基布を作製した。製織後の袋織布帛の袋部の密度を、経糸:65本/2.54cm、緯糸:57本/2.54cmとし、沸水収縮処理、乾燥、熱セットを経た後の袋部の密度を経糸:67本/2.54cm、緯糸:59本/2.54cmとした。また、得られた布帛の両面に実施例1で用いたものと同じシリコーンを、片面当たり60g/mとなるようにナイフコーターで塗布し、実施例1と同じ条件で該樹脂を硬化させて袋織エアバッグ基布とした。
【0063】
上記の袋織エアバッグ基布を、袋部を含む所定形状に裁断して、図1に示す構成のエアバッグを得た。エアバッグの容量は15リットルである。なお、袋織エアバッグ基布の袋部および境界部の織組織は、図6の組織である。得られた袋織エアバッグ基布およびエアバッグの特性を表1に示す。
【0064】
比較例
図1に示す構成の袋部(内容量:15リットル)を複数備えた長尺の袋織エアバッグ基布を作製した。経糸および緯糸に350dtex/108フィラメントのナイロン66マルチフィラメント糸を用い、エアジェットルームと電子ジャカード装置を用いて製織を行い、袋部および境界部の織組織が図7に示す組織で、袋部の密度が経糸:60本/2.54cm、緯糸:60本/2.54cmの袋織布帛とした。その後、沸水収縮処理を施し、引き続き乾燥、熱セットを行った。最終的な袋織布帛の構造は、袋部の経糸密度が63本/2.54cm、緯糸密度が63本/2.54cmである。
【0065】
得られた布帛の両面に実施例1で用いたものと同じシリコーンを、片面当たり60g/mとなるようにナイフコーターで塗布し、実施例1と同じ条件で該樹脂を硬化させて袋織エアバッグ基布とした。
【0066】
上記の袋織エアバッグ基布を、袋部を含む所定形状に裁断して、図1に示す構成のエアバッグを得た。エアバッグの容量は15リットルである。得られた袋織エアバッグ基布およびエアバッグの特性を表1に示す。
【0067】
【表1】
Figure 2004270053
【0068】
実施例1〜4および参考例のエアバッグは、袋部および境界部の組織が上記(1)および(2)の構造を有しており、表1から明らかなように、内圧が25kPaを下回る時間が長く、良好な内圧保持性能を有している。また、袋部(上布部および下布部)の織密度差が好適範囲にある実施例1〜4のエアバッグでは、内圧が25kPaを下回る時間が、織密度差が好適範囲にない参考例のエアバッグよりも長く、より良好な内圧保持性能を有している。
【0069】
これに対し、境界部の組織が上記(2)の構造を有していない比較例のエアバッグでは、内圧が25kPaを下回る時間が短く、内圧保持性能が不良である。このエアバッグでは、例えば図7の「ニ」の境界点において、経糸、緯糸とも上布部構成糸であり、かかる点においては糸の動きを拘束する力が不十分となり、エア漏れが生じ易くなっている。
【0070】
上記実施例1〜4で作製したエアバッグをエアバッグ装置に組み込んだところ、良好な内圧保持性能および人体保護性能を有していた。
【0071】
【発明の効果】
本発明の袋織エアバッグ基布は、袋部および境界部に上記(1)および(2)の組織を採用しており、エアバッグ展開時における境界部での目ズレ・目開きを抑えて該境界部からのエア漏れを抑制し得る。さらに、上記織密度差を特定値以下とすることで、エアバッグ展開時のエア漏れをより高度に抑制し得る。
【0072】
このように、本発明の袋織エアバッグ基布は、袋部−非膨張部の境界部が、経糸または緯糸に対して平行でない方向に連続する場合であっても、エアバッグとした際に高度にエア漏れを抑制できるものであり、側面保護用のエアバッグおよびエアバッグ装置にも好適である。
【0073】
また、本発明の袋織エアバッグ基布によって、安全性に優れたエアバッグおよびエアバッグ装置の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で作製したエアバッグ基布の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の袋織エアバッグ基布の袋部に好適な織組織の一例を示す組織図である。
【図3】本発明の袋織エアバッグ基布の織組織の説明図である。
【図4】本発明の袋織エアバッグ基布の境界部における経糸および緯糸の関係を示す説明図である。
【図5】本発明の袋織エアバッグ基布の非膨張部の織組織の一例を示す組織図である。
【図6】実施例1〜4および参考例の袋織エアバッグ基布の袋部と境界部の織組織を示す組織図である。
【図7】比較例の袋織エアバッグ基布の袋部と境界部の織組織を示す組織図である。

Claims (6)

  1. エアバッグ作動時に膨張し、上布部と下布部の2つの布部から構成される袋部と、該エアバッグ作動時に膨張しない非膨張部を有し、袋部と非膨張部との境界のうち非膨張部側の境界部に、経糸または緯糸に対して平行でない方向に連続する部分を有する袋織エアバッグ基布であって、
    (1)上布部および下布部は平織組織であり、
    袋部を構成する経糸および緯糸は、非膨張部を構成する経糸または緯糸と連続しており、
    非膨張部を構成する任意の経糸が、袋部のいずれか一方の布部も構成している場合であって、非膨張部において該経糸に隣り合う経糸も袋部を構成するときには、該隣り合う経糸は袋部の他方の布部を構成しており、
    非膨張部を構成する任意の緯糸が、袋部のいずれか一方の布部も構成している場合であって、非膨張部において該緯糸に隣り合う緯糸も袋部を構成するときには、該隣り合う緯糸は袋部の他方の布部を構成するものであり、
    (2)前記境界部は、上布部を構成する経糸が下布部を構成する緯糸と、下布部を構成する経糸が上布部を構成する緯糸と、夫々交錯した平織組織である
    ことを特徴とする袋織エアバッグ基布。
  2. 袋部の上布部および下布部において、経糸の密度(本/2.54cm)と緯糸の密度(本/2.54cm)から、下式で求められる織密度差が±10%以内である請求項1に記載の袋織エアバッグ基布。
    織密度差(%)=100×(経糸の密度−緯糸の密度)/緯糸の密度
  3. 上記基布の少なくとも片面が、コート用樹脂でコーティングされているものである請求項1または2に記載の袋織エアバッグ基布。
  4. 上記コート用樹脂は、シリコーン樹脂である請求項3に記載の袋織エアバッグ基布。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の袋織エアバッグ基布を用いたものであることを特徴とするエアバッグ。
  6. 請求項5に記載のエアバッグを構成要素とするものであることを特徴とするエアバッグ装置。
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