JP2004269657A - フッ素化ポリイミド樹脂及びその製造方法、フッ素化ポリイミド電解質膜及びその溶液、並びに燃料電池 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なフッ素化ポリイミド樹脂及びその製造法に関する。また、本発明は、そのフッ素化ポリイミド樹脂からなる、耐加水分解性(耐水性)に優れるとともに、酸化安定性とプロトン伝導性に優れたフッ素化ポリイミド高分子電解質膜とその製造方法に関する。さらに、本発明は、フッ素化ポリイミド高分子電解質膜を固体高分子電解質膜として含有する固体高分子型燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、水の電気分解の逆動作に基づく動作原理により電気エネルギーを得る装置である。燃料電池では、一般に、天然ガス、メタノール、石炭などの燃料を改質して得られる水素と、空気中の酸素とを送り込むことによって、水が生成するとともに、直流電力が得られる。このように、発電効率が高く、クリーンなエネルギーを供給できることから、燃料電池発電が注目されている。
【0003】
燃料電池は、使用される電解質の種類によって、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子型などに分類される。これらの中でも、イオン交換膜(固体高分子電解質膜)を電解質として使用する固体高分子型燃料電池は、本質的に固体だけからなるセルであるため、電解質の散逸や保持の問題がないこと、100℃以下の低温で作動すること、起動時間が極めて短いこと、高エネルギー密度化や小型軽量化が可能であること、などの長所を有している。
【0004】
そのため、固体高分子型燃料電池は、自動車用電源、家庭用やビル用の分散型電源、宇宙船用電源、可搬型電源などとして開発が進められている。特に、地球温暖化などの環境問題や自動車排ガス対策の観点から、固体高分子型燃料電池は、自動車搭載用の燃料電池として期待を集めている。
【0005】
固体高分子電解質は、高分子鎖中にスルホン酸基等の電解質基を有する固体高分子材料であり、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過する性質を有していることから、粒子、繊維、あるいは膜状に成形し、電気透析、拡散透析、電池隔膜等、各種の用途に利用されているものである。
【0006】
例えば、改質ガス燃料電池は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の両面に一対の電極を設け、メタン、メタノール等、低分子の炭化水素を改質することにより得られる水素ガスを燃料ガスとして一方の電極(燃料極)へ供給し、酸素ガスあるいは空気を酸化剤として異なる電極(空気極)へ供給し、起電力を得るものである。また、水電解は、固体高分子電解質膜を用いて水を電気分解することにより水素と酸素を製造する方法である。
【0007】
燃料電池や水電解の場合、固体高分子電解質膜と電極の界面に形成された触媒層において過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルとなって劣化反応を起こすので、耐酸化性に乏しい炭化水素系電解質膜を使用することが困難である。そのため、燃料電池や水電解においては、一般に、高いプロトン伝導性を有し、高い耐酸化性を有するパーフルオロスルホン酸膜が用いられている。
【0008】
また、食塩電解は、固体高分子電解質膜を用いて塩化ナトリウム水溶液を電気分解することにより、水酸化ナトリウムと、塩素と、水素を製造する方法である。この場合、固体高分子電解質膜は、塩素と高温、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液にさらされるので、これらに対する耐性の乏しい炭化水素系電解質膜を使用することができない。そのため、食塩電解用の固体高分子電解質膜には、一般に、塩素及び高温、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に対して耐性があり、さらに、発生するイオンの逆拡散を防ぐために表面に部分的にカルボン酸基を導入したパーフルオロスルホン酸膜が用いられている。
【0009】
ところで、パーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質は、C−F結合を有しているために化学的安定性が非常に高く、上述した燃料電池用、水電解用、あるいは食塩電解用の固体高分子電解質膜の他、ハロゲン化水素酸電解用の固体高分子電解質膜としても用いられ、さらにはプロトン伝導性を利用して、湿度センサ、ガスセンサ、酸素濃縮器等にも広く応用されているものである。
【0010】
特に、Nafion(登録商標、デュポン社製)の商品名で知られるパーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質膜は、化学的安定性が非常に高いことから、過酷な条件下で使用される電解質膜として賞用されている。
【0011】
しかしながら、フッ素系電解質は製造が困難で、非常に高価であるという欠点がある。これに対し、炭化水素系電解質膜は、Nafionに代表されるフッ素系電解質膜と比較すると、製造が容易で低コストである上に、分子設計上の自由度が高く、イオン交換容量の調節が容易であるという利点がある。
【0012】
しかし、その一方で、炭化水素系電解質膜は、耐熱性及び耐酸化性が低いという問題が残されていた。耐酸化性が低い理由は、炭化水素化合物は一般にラジカルに対する耐久性が低く、炭化水素骨格を有する電解質はラジカルによる劣化反応(過酸化物ラジカルによる酸化反応)を起こしやすいためである。
【0013】
そこで、フッ素系電解質と同等以上、もしくは実用上十分な耐酸化性を有し、しかも低コストで製造可能な高耐久性固体高分子電解質を提供することを目的として、ポリイミド樹脂にイオン交換基を導入する試みが種々なされている(下記特許文献1)。
【0014】
【特許文献1】
特表2000−510511号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ポリイミド樹脂の主鎖は耐加水分解性に劣るという欠点があった。特に、ポリイミド樹脂の電解質膜を固体高分子型燃料電池に用いた場合加湿状態で運転されることから、その耐水性を向上させることが求められていた。
【0016】
上記問題に鑑み、本発明は、燃料電池等に用いられる固体高分子電解質の耐水性を飛躍的に向上させることを目的として、新規なポリイミド樹脂を提供する。耐水性を向上させることによって、機械的強度と水の保持力に優れたスルホン化ポリイミドとし、同時に、成膜性に優れ、イオン交換基容量が大きいスルホン化ポリイミドとすることで、固体高分子型燃料電池のイオン交換膜として好適な高分子電解質膜とその製造方法を提供する。また、本発明は、このような優れた特性を有するスルホン化ポリイミド高分子電解質膜を固体高分子電解質膜として含有する固体高分子型燃料電池を提供する。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定の繰返し単位を有するポリイミドによって前記課題が解決されることを見出し本発明に至った。
【0018】
即ち、第1に本発明は、基本骨格が下記式(1)で表されることを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂である。
【0019】
【化8】
【0020】
ここで、式(1)中、Ar1とAr2とAr3とは、炭素数が6〜27であり、隣接するイミド基と5又は6員のイミド環を形成する4価の置換基(ここで、Ar1またはAr2またはAr3の炭素原子は該イミド環の一部を形成し、該置換基を形成する一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)からそれぞれ独立して選択される。式(1)中、Ar4は炭素数6〜25であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がスルホン酸基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。式(1)中、Ar5は炭素数6〜20であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がトリフルオロメチル基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。式(1)中、Ar6は炭素数6〜25であり、芳香族環を有している2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。式(1)中、n、mはそれぞれ独立して2以上であり、pは0以上である。
【0021】
基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂は、繰り返し単位として基本的に下記式(8)〜(10)で表される3種類のイミド単位を有する。ただし、下記式(10)で表されるイミド単位は任意成分である。本発明のフッ素化ポリイミド樹脂は、これら下記式(10)〜(12)で表される3種類のイミド単位からなる、ランダム共重合体、ブロック共重合体、または一部ブロック共重合体である。イミド構造自体が本発明のフッ素化ポリイミド樹脂に耐熱性と機械的強度を与えている。
【0022】
下記式(10)は、イミド単位中にイオン交換基容量が大きいスルホン基を有しており、電解質として機能する。これにより、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂は、プロトン伝導性に優れたものとなっている。
【0023】
【化9】
【0024】
下記式(11)は、イミド単位中に撥水構造であるトリフルオロメチル基を1個以上有しており、このトリフルオロメチル基が奏する撥水性が本発明のポリイミド樹脂に耐水性を付与する。これにより、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂は、耐加水分解性が向上し、機械的強度に優れたものとなっている。
【0025】
【化10】
【0026】
下記式(12)は、イミド単位中にフェニル基を有しており、このフェニル基がフッ素化ポリイミド樹脂に適当な屈曲性を付与する。これにより、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂は、製膜性等の加工性に優れたものとなると同時に、高いプロトン伝導性にも寄与している。
【0027】
【化11】
【0028】
上記一般式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂は、具体的には、下記一般式(2)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂が好ましい。
【0029】
【化12】
【0030】
ここで、式(2)中、Ar1とAr2とAr3とは、炭素数が6〜27であり、隣接するイミド基と5又は6員のイミド環を形成する4価の置換基(ここで、Ar1またはAr2またはAr3の炭素原子は該イミド環の一部を形成し、該置換基を形成する一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)からそれぞれ独立して選択される。式(2)中、n、mはそれぞれ独立して2以上であり、pは0以上であり、q、rはそれぞれ独立して0〜4であるが同時に0となることはない。
【0031】
また、上記一般式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂は、より具体的には、下記一般式(3)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂が好ましい。
【0032】
【化13】
【0033】
ここで、式(3)中、n、mはそれぞれ独立して2以上であり、pは0以上であり、q、rはそれぞれ独立して0〜4であるが同時に0となることはない。
【0034】
上記一般式(1)〜(3)で表される本発明のフッ素化ポリイミド樹脂においては、上記イミド単位(8)〜(10)の割合には制限はないが、前記一般式(1)〜(3)のいずれかにおいて、p/(n+m+p)=0.01〜0.1(1〜10mo1%)であって、n/mが25/70より大きく90/5より小さいことが、耐加水分解性とプロトン伝導性を両立させる点で好ましい。
【0035】
第2に本発明は、基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0036】
即ち、一般式(4)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar5−NH2 …(4)
(式(4)中、Ar5は炭素数6〜20であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がトリフルオロメチル基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、一般式(5)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar4−NH2 …(5)
(式(5)中、Ar4は炭素数6〜25であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がスルホン酸基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、一般式(6)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar6−NH2 …(6)
(式(6)中、Ar6は炭素数6〜25であり、芳香族環を有している2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、第三級アミンと、m−クレゾールとの混合物を加熱溶解する工程と、該加熱溶解物に一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物化合物
【0037】
【化14】
(式(7)中、Ar1は、炭素数が6〜27であり、隣接する酸無水物基と5又は6員の酸無水物環を形成する4価の置換基(ここで、Ar1の炭素原子は該酸無水物環の一部を形成し、該酸無水物環を形成する一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)からそれぞれ独立して選択される。)
を加えて、有機酸の存在下少なくとも130℃以上に加熱する重合工程と、更に少なくとも150℃以上に加熱して樹脂の物理的特性を向上する改質工程と、を有することを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0038】
基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法は、具体的には、基本骨格が上記式(2)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。即ち、一般式(8)で表されるジアミノ化合物
【化15】
m−フェニレンジアミンと、一般式(9)で表されるジアミノ化合物
【化16】
(式(9)中、q、rはそれぞれ独立して0〜4であるが同時に0となることはない。)
と、第三級アミンと、m−クレゾールとの混合物を加熱溶解する工程と、該化合物に一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物化合物
【化17】
(式(7)中、Ar1は、炭素数が6〜25であり、隣接する酸無水物基と5又は6員の酸無水物環を形成する4価の置換基(ここで、Ar1の炭素原子は該酸無水物環の一部を形成し、該酸無水物環を形成する一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)からそれぞれ独立して選択される。)
を加えて、有機酸の存在下少なくとも130℃以上に加熱する重合工程と、更に少なくとも150℃以上に加熱して樹脂の物理的特性を向上する改質工程と、を有することを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0039】
基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法は、より具体的には、基本骨格が上記式(3)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。即ち、前記一般式(4)で表されるジアミノ化合物が、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンであり、前記一般式(5)で表されるジアミノ化合物が、4,4’−ジアミノ−2,2’ビフェニルジスルホン酸であり、前記一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物がナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物であるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0040】
このように、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法においては、溶解工程で原料分子を均一に溶媒中に分散し、その後の重合工程で高分子量体のポリイミド樹脂を製造した後に、改質工程を行っている。重合工程ではポリイミド樹脂のイミド結合が一部開環したまま残存しているが、改質工程を経ることでその部分を完全に閉環することができる。イミド結合の部分を完全に閉環できることで、耐加水分解性をより向上させたポリイミド樹脂とすることができる。
【0041】
第3に本発明は、上記第1の本発明のフッ素化ポリイミド樹脂、又は上記第2の本発明の製造方法で製造されたフッ素化ポリイミド樹脂を製膜したことを特徴とする高分子電解質膜である。
【0042】
本発明の本電解質膜は、上記のフッ素化ポリイミド樹脂を適正な方法で製膜したものである。フッ素化ポリイミド樹脂の製膜方法は特に限定されず、溶液を平板上にキャストするキャスト法、ダイコータ、コンマコ一夕等により平板上に溶液を塗布する方法、溶融した高分子材料を延伸等する方法等の般的な方法が採用できる。
【0043】
第4に本発明は、上記第1の本発明のフッ素化ポリイミド樹脂又は上記第2の本発明の製造方法で製造されたフッ素化ポリイミド樹脂と、該フッ素化ポリイミド樹脂を溶解する溶媒とを有することを特徴とする高分子電解質溶液である。
【0044】
本発明の電解質溶液は、上記のフッ素化ポリイミド樹脂を適正な溶媒(例えばm−クレゾール、DMSO、DMF、NMP、及びそれらの混合溶媒等)に溶解させたものである。上記のフッ素化ポリイミド樹脂を単独で用いるほか、その他の高分子電解質等と混合して用いてもよい。
【0045】
第5に本発明は、上記第3の本発明の電解質膜と、該電解質膜の両面を挟持する反応極と、該反応極を挟持するセパレータからなる燃料電池セルを複数積層したことを特徴とする固体高分子型燃料電池である。
【0046】
上記のように耐加水分解性に優れた電解質膜及び電解質溶液を採用することで燃料電池全体としても耐久性を向上できる。また、低コストな電解質膜及び電解質溶液を採用することで燃料電池として低コスト化が達成できる。
【0047】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施する上での事項を詳細に説明する。
【0048】
本発明では、基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂は、繰り返し単位として基本的に上記式(8)〜(10)で表される3種類のイミド単位を有する(ただし、上記式(10)で表されるイミド単位は任意成分である)。以下、これら上記式(8)〜(10)で表される3種類のイミド単位を説明する。
【0049】
各化学式中の、Ar1、Ar2及びAr3として好ましい4価の置換基を具体的に示す。なお、Ar1、Ar2及びAr3はすべて同じである必要はなく複数の置換基が混在してもよい。また、全てのAr1は、同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。Ar2及びAr3についても同様で、すべて同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。
【0050】
【化18】
【0051】
【化19】
【0052】
【化20】
【0053】
Ar1、Ar2及びAr3として好ましい4価の置換基としては、上記に例示したものの他、一般に公知のポリイミド樹脂のイミド環骨格を構成する置換基も用いられる。
【0054】
各化学式中の、Ar4として好ましい2価の置換基を具体的に示す。なお、全てのAr4は、同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。
【0055】
【化21】
【0056】
各化学式中の、Ar6として好ましい2価の置換基を具体的に示す。なお、全てのAr6は、同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。
【0057】
【化22】
【0058】
【化23】
【0059】
【化24】
【0060】
各化学式中の、Ar5として好ましい2価の置換基は、上記Ar6として好ましい2価の置換基の芳香族環の水素原子の少なくとも1個以上がトリフルオロメチル基で置換されたものである。なお、全てのAr5は、同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。
【0061】
上記各化学式に好適に合致する原料成分の具体的化合物名を以下に示す。
ポリイミドを構成するテトラカルボン酸成分として、ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物(1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物とも表記される)が挙げられる。
【0062】
少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物としては、2,2′−ジスルホン酸ベンジジン〔即ち、4,4′−ジアミノ−(1,1′−ビフェニル)−2,2′−ジスルホン酸〕、1,4−ジアミノベンゼン−3−スルホン酸、1,3−ジアミノベンゼン−4−スルホン酸、4,4′−ジアミノ−5,5′−ジメチル−(1,1′−ビフェニル)−2,2′−ジスルホン酸などが挙げられる。これらの中でも、2,2′−ジスルホン酸ベンジジンが好ましい。
【0063】
その他のジアミン化合物としては、2,2′−ジ(p−アミノフェニル)−6,6′−ビベンゾオキサゾール、2,2′−ジ(p−アミノフェニル)−5,5′−ビベンゾオキサゾール、m−フェニレンジアミン、1−イソプロピル−2,4−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、3,3′−ジアミノジフェニルプロパン、4,4′−ジアミノジフェニルエタン、3,3′−ジアミノジフェニルエタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、4,4″−ジアミノ−p−テルフェニル、3,3″−ジアミノ−p−テルフェニル、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メテン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、2,4−ジアミノトルエン、m−キシレン−2,5−ジアミン、p−キシレン−2,5−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4′−〔2,2,2−トリフルオロ−(1−トリフルオロメチル)−エチリデン〕−ベンゼンアミンなどの芳香族ジアミン類;2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾールなどの複素環ジアミン類を挙げることができる。これらの中でも、4,4′−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0064】
テトラカルボン酸成分であるナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物と各ジアミン成分とは、一般に、ほぼ等モルの割合で用いられる。ポリマーの両末端をアミンとする場合には、ジアミン成分が若干過剰となるモル比で用いてもよい。一方、ポリマーの両末端をカルボン酸無水物基とする場合には、ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物が若干過剰となるモル比で用いてもよい。また、連鎖制限剤として、無水フタル酸、ナフタレン−1,8−ジカルボン酸無水物などを少量使用することにより、ポリマー末端を形成させてもよい。
【0065】
ジアミン成分中の各ジアミンの割合で、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂中の各イミド単位割合を調節することができる。上記式(5)で表される少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物のモル比が小さすぎると、充分に高いイオン交換基容量を有する高分子電解質膜を得ることが困難になる。少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物のモル比が大きすぎると、高分子電解質膜の機械的強度が低下し、特に湿潤状態での引張破断応力が低下する。多くの場合、(上記式(5)で表される少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物):(上記式(4)で表される少なくとも1つのトリフルオロメチル基を持つジアミン化合物)を30:70〜70:30の範囲内とすることにより、良好な結果を得ることができる。
【0066】
溶解工程は、各ジアミン化合物と、第三級アミンと、m−クレゾールとの混合物を加熱して溶解する工程である。ここで第三級アミン及びm−クレゾールはモノマーを溶解する溶媒乃至は反応触媒である。混合物を加熱する温度としては特に限定しないが100〜150℃程度とすることでモノマーを容易に均一に溶媒中に溶解することができる。第三級アミンとしては特に限定されず、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、トリエチレンジアミン等が例示できる。特にトリエチルアミンが好ましい。
【0067】
その他の溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒などを用いることが出来る。これらの中で、溶解性が高いことからスルホキシド系溶媒、アミド系溶媒が好ましい。ここで、スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が好ましく用いられる。
【0068】
重合工程は、溶媒中にモノマーが均一に溶解した溶液からなる混合物にカルボン酸二無水物化合物を加えて、有機酸の存在下加熱して重合させる工程である。ここで、有機酸は重合触媒であり、高沸点かつ溶媒への溶解性が高い化合物が望ましい。有機酸は重合工程で存在するならば前述の溶解工程で添加してもよい。有機酸としては安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸が例示でき、好ましい有機酸としては安息香酸が挙げられる。有機酸を添加する量としては特に限定しないが安息香酸の場合には、カルボン酸無水物化合物に対して、4〜6倍モル程度加えることが望ましい。また、混合物を加熱する温度としては少なくとも130℃以上であり、好ましくは170〜180℃程度とすることで効率よく重合反応が進行し、高分子量ポリイミド樹脂を得ることができる。
【0069】
改質工程は、混合物(重合したポリイミド樹脂)中の構造欠陥を是正してポリイミド樹脂の物理的特性を向上する工程である。ここで構造欠陥とはポリイミド樹脂中のイミド結合が閉環していない部分である。イミド結合が閉環していない部分が存在すると、ポリイミド樹脂の主鎖上に−NHCO−結合が存在する。本工程では混合物を加熱することで脱水反応が生起して閉環したイミド結合が形成できる。ここで、混合物を加熱する温度としては少なくとも150℃以上であり、好ましくは190〜200℃程度とすることで閉環反応が効率よく進行し、構造欠陥の少ないポリイミド樹脂を得ることができる。
【0070】
本発明では、溶解工程において、反応系に溶解補助剤として第三級アミンを存在させる。具体的には、混合溶媒中にトリエチルアミンを添加する。トリエチルアミンは、少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物(一般式(4))の溶解補助剤として作用する。トリエチルアミンは、少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜3モル、より好ましくは1〜2.5モルの割合で用いられる。トリエチルアミンを使用することにより、スルホン酸基がアンモニウム塩となるため溶解性が向上し、重縮合反応を円滑に実施することができる。
【0071】
本発明では、重合工程において、反応系に重合触媒として有機酸を存在させる。具体的には、混合溶媒中に安息香酸を添加する。安息香酸は、少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物(一般式(4))1モルに対して、好ましくは0.1〜2モル、より好ましくは0.3〜1.5モルの割合で使用する。重合触媒として安息香酸を使用することにより、高分子量で成膜性に優れたポリアミド酸を得ることができる。
【0072】
反応終了後、生成ポリアミド酸の非溶媒(例えば、メタノール、エタノールなど)中に反応混合物を流し込んで生成ポリアミド酸を沈殿させる。必要に応じて、メタノール洗浄を行なう。沈殿物を濾過し、乾燥してポリアミド酸を回収する。
【0073】
ポリアミド酸は、溶媒(例えば、m−クレゾール)中に溶解させ、得られた溶液をガラス板などの支持体上に流延し、乾燥することにより製膜することができる。得られたフィルムは、通常、加熱してポリアミド酸を脱水閉環することにより、ポリイミド化する。所望により、化学閉環法を採用してもよい。このようにして得られたスルホン化ポリイミド膜は、必要に応じて、塩酸溶液や硝酸溶液で処理し、イオン交換水で充分に洗浄する。
【0074】
また、フッ素化ポリイミド樹脂を溶媒に溶解して、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂電解質溶液を得ることができる。溶媒としては、フッ素化ポリイミド樹脂を溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はない。中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒がフッ素化ポリイミド樹脂に対する溶解性が高く好ましい。これらは単独で用いることもできるし、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。混合物のモルフォルジー制御などを目的としてさらに他の溶媒を含有することもできる。
【0075】
本発明のフッ素化ポリイミド樹脂電解質用溶液は、製膜した場合の各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等も含有することができる。また、複合アロイ化等を目的として、他のポリマーも含有することもできる。さらに、イオン伝導性の向上などを目的として、低分子電解質や酸化合物、あるいは他の高分子電解質を含有することもできる。さらに、燃料電池用途における水管理の容易化のために、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として含有することもできる。
【0076】
本発明のフッ素化ポリイミド電解質膜は、例えば上記のような溶媒を含有する高分子電解質溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜して得ることができる。また、電解質膜の機械的強度の向上などを目的として、電子線・放射線などを照射して架橋したものであっても、さらには、多孔性のフィルムやシートに含浸複合化したり、ファイバーやパルプを混合してフィルムを補強したものであっても良い。電解質膜の厚みは、特に制限はないが10〜200μmが好ましい。10μmより薄い電解質膜では強度が低下する傾向にあり、200μmより厚い電解質膜では膜抵抗が大きくなり電気化学デバイスの特性が不足する傾向にある。膜厚は溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。
【0077】
本発明のフッ素化ポリイミド高分子電解質膜は、耐加水分解性に優れているとともに、高いイオン伝導性を保持し、優れた熱安定性、酸化及び還元に対する耐性、機械的強度などを有している。
【0078】
したがって、本発明のフッ素化ポリイミド高分子電解質膜は、固体高分子型燃料電池のイオン交換膜として好適である。
【0079】
次に、本発明の燃料電池について説明する。本発明の燃料電池は、上記のような燃料電池用高分子電解質膜の両面に、触媒および集電体としての導電性物質を接合することにより製造することができる。該触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、白金の微粒子を用いることが好ましい。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられ、好ましく用いられる。集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーに白金微粒子または白金微粒子を担持したカーボンを接合させる方法、およびそれを高分子電解質膜と接合させる方法については公知の方法を用いることができる。
【0080】
具体的には、本発明の燃料電池はPEFCである。燃料電池としては燃料電池セルを複数積層したスタックを形成しているものが用いられる。そして、電解質膜としては前述した本発明の電解質膜を用いる。電解質膜を挟んだ両側の反応電極にそれぞれ燃料ガスと酸化剤ガスとを供給するガス供給装置がそれぞれ対応する側のセパレ一夕から接続される。そして燃料ガスとしては水素ガスを、酸化剤ガスとしては空気または酸素ガスが好ましく用いられる。
【0081】
本発明の燃料電池の燃料電池セルは、電解質膜の両側を反応電極で狭持した後にさらに拡散層で狭持したMEAの両側をセパレ一夕で狭持した構造をもつ。反応電極については特に限定されず、通常のものを使用可能である。例えば、カーボン粉末上に白金や白金のアロイを分散させた触媒を用いることが可能である。例えば、この触媒をそのまま若しくは本発明の電解質溶液等の結着剤等と混合して電解質膜表面で製膜することで反応電極を形成できる。拡散層はたとえば一般的なカーボン粉末と擾水性高分子粉末との混合物を用いることができる。本発明の電解質溶液を含有させて形成することもできる。セパレ一夕も一般的に使用されている材質、形態のものが使用できる。セパレ一夕には流路が形成され、その流路には反応ガスを供給するためのガス供給装置が接続されると同時に、反応しなかった反応ガス及び発生した水を除去する手段とが接続される。
【0082】
本発明のフッ素化ポリイミド高分子電解質膜は、耐熱性、耐加水分解性が高いので、本発明の燃料電池(PEFC)は、高い耐久性を有することができる。
【0083】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。
(試験例1〜4)
〔ポリイミド樹脂の製造〕
シール付の水銀温度計、窒素導入口、還流管を付した100mLの四ロフラスコに、0.448g(1.3mmo1)の4,4’,−ジアミノ−2,2’ビフェニル−ジスルホン酸(以下「DAPS」と称す)と、0.192g(0.6mmo1)の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、「FMB」と称す。)と、0.011g(0.1mmo1)のm−フェニレンジアミン(以下、「MDA」と称す。)と、0.55mL(4mmo1)のトリエチルアミンと、9mLのm−クレゾールとを加えて、窒素気流下140℃で10分間加熱した。この混合物を激しく撹拌して、透明で均一な溶液を得た(溶解工程)。
【0084】
混合液に0.536(2.0mmo1)のナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物(以下「TCND」と称す)と、1.1g(8mmo1)の安息香酸と、15mLのm−クレゾールとを加えた。反応溶液は赤くなった。その後、窒素気流下175℃で撹拌しながら15時間加熱した。反応溶液は粘稠となった(重合工程)。
【0085】
次いで、窒素気流下195℃で3時間加熱した(改質工程)。加熱を止めて60℃にまで冷却した。赤黄色、粘稠的なコポリマーの溶液が得られた。得られたコポリマーは下記式(3)
【化25】
におけるn/m/pが65/30/5の組成をもつ化合物である(試験例1:共重合体(30))。
【0086】
以下、溶解工程におけるDAPSとFMBとMDAとの添加量をモル比で、55:40:5、45:50:5、35:60:5になるように調整し、DAPSとFMBとMDAとの添加量の和を2.0mmo1とした以外、上述の方法でコポリマーの溶液を調製した。得られたコポリマー溶液はそれぞれ式(3)におけるn/m/pが55/40/5(試験例2:共重合体(40))、45/50/5(試験例3:共重合体(50))、35/60/5(試験例4:共重合体(60))である化合物であった。
【0087】
表1に、試験例1〜4:共重合体(30)〜共重合体(60)の組成とイオン当量(EW:スルホン酸基当たりの分子量)を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
〔電解質膜の製造〕
得られたそれぞれのコポリマー溶液をキャスト法にて製膜した。キャスト法はガラス板上に製造したコポリマー溶液をそのまま流した後に、室温で一日自然乾燥を行い製膜した。その後、80℃で12時間常圧乾燥を行った後に、更に80℃で12時間真空減圧乾燥を行った。
【0090】
そして、得られた膜をそれぞれ1N硝酸エタノール溶液400mL中に浸漬し12時間撹拌した(酸処理工程)。酸処理工程を更に2回繰り返した。その後、エタノールで洗浄した。その後、40℃で12時間真空減圧乾燥を行い各試験例の試験試料とした。
【0091】
(比較例)
溶解工程において、0.482g(1.4mmo1)の4,4,−ジアミノ−ビフェニル−2,2’−ジスルホン酸(以下「DAPS」と称す)と、0.209g(0.6mmo1)の4,4,−(9−フルオレニリデン)ジアニリン(以下「FDA」と称す、=9,9−ビス(4−アミノフェニル)−9H−フルオレン)と、0.55mL(4mmo1)のトリエチルアミンと、9mLのm−クレゾールとを加えて、窒素気流下140℃で10分間加熱した他は、上記試験例と同様のポリイミド電解質膜(BF(30))を得た。
【0092】
(耐加水分解性)
それぞれの試験試料を2ppmの鉄イオンを含有する3%過酸化水素水溶液中、80℃で加熱した。試験試料の外観を経時的に観察した。試料の膜が溶解を始めた時間と完全に溶解した時間とを記録した。結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
表2の結果より、試験例1〜4の各共重合体膜のフェントン試薬中における安定性は、FMB(即ち、トリフルオロメチル基含有基)の添加量が増加するに従って、著しく向上する。特に、FMBが40mol%以上では2時間以上安定であった。
【0095】
(プロトン伝導度の測定)
各試験試料及び比較例の膜を5×40mmの大きさに切り取り、4端子法により交流インピーダンスを測定した。測定は80℃及び120℃で相対湿度100%、電流値として0.005mAの定電流、掃引周波数として10〜20000Hzの条件で行った。得られたインピーダンスと膜端子間距離から伝導度を測定した。結果を図1に示す。
【0096】
図1より、本発明のポリイミド電解質膜はフッ素基が導入されているにもかかわらず、フッ素基が導入されていないポリイミド電解質膜(BF(30))と同様に優れたプロトン伝導性を示し、室温〜100℃の範囲における伝導度は0.06〜1.00Scm−1であった。特に共重合体(40)が最も高い伝導率(80℃で1.00Scm−1)を示した。
【0097】
以上のように、本発明のポリイミド樹脂は、耐加水分解性とプロトン伝導性が共に優れていることが明らかとなった。
【0098】
〔燃料電池〕
(ガス拡散層の作製)
1gのカーボンブラックに12gの35質量%トライトン溶液を加え、遊星ボールミルを用いて1136rpmで20分間、568rpmで10分間混合し、カーボンペーストを作製した。このカーボンペーストとポリテトラフルオロエチレン分散溶液とをカーボン元素比で6:4になるように添加し、遊星ボールミルを用いて1136rpmで20分間、568rpmで10分間混合したものを電極拡散層ぺーストとした。この電極拡散層ペーストを撥水化カーボンペーパー上に塗布し、60℃の乾燥機で約1時間乾燥した。乾燥後、冷間プレスを行った。電極中のトライトンを除去するために電極を2−プロパノール中に浸し(30分毎に2−プロパノールを交換し、4回繰り返した後に一晩放置した。)、その後にホットプレス(360℃、2.5MPaで3秒)を行い、水中で急冷した。
【0099】
(触媒層膜複合体の作製)
白金を30質量%高分散担持したカーボンブラック1gと上記ポリイミド樹脂(試験試料共重合体(30)、n/m/p=65/30/5)1・05gとをm−クレゾール10mLで混練した。このペースト0.15mLを上記方法で作成した電解質膜(試験試料共重合体(30)、n/m/p=65/30/5、厚さ50μm、面積10cm2)の片面に均一に塗布し、80℃で1時間乾燥した。その後、電解質膜の反対側にも前述のペースト0.15mLを均一に塗布し、80℃で1時間乾燥した。得られた膜を130℃で2分間ホットプレスした後に、1N硝酸エタノール溶液400mL中に浸漬し12時間撹拌した(酸処理工程)。この酸処理工程を更に2回繰り返した。その後、エタノールで洗浄した。その後、80℃で2時間乾燥を行った。この膜を前述のガス拡散層2枚で挟み触媒層膜複合体を得た。
【0100】
(触媒層複合体の作製)
白金を30質量%高分散担持したカーボンブラック1gと上記ポリイミド樹脂(試験試料共重合体(30)、n/m/p=65/30/5)1.05gとを、m−クレゾール10mLで混練した。このペースト0.15mLを前述のガス拡散層(面積10cm2)の片面に均一に塗布し、80℃で2時間乾燥した。これを冷間プレス(1MPa(10kg/cm2))、10秒間)を行った。その後、1N硝酸エタノール溶液400mL中に浸漬し12時間撹拝した(酸処理工程)。この酸処理工程を更に2回繰り返した。その後、エタノールで洗浄した。得られたガス拡散層2枚で、上記電解質膜(試験試料重合体(30)、n/m/p=65/30/5、厚さ50μm、面積10cm2)を挟み触媒層膜複合体を得た。
【0101】
(電池の作製及び試験)
上記の触媒層膜複合体を集電部を兼ねるセパレータで狭持して燃料電池を作製した。触媒層膜複合体はポリイミド樹脂からなる電解質膜と、該電解質膜の一方の面に接するアノード側触媒層及びアノード側触媒層の他面に接するアノード側撥水性集電体とからなるアノード側ガス拡散電極と、電解質膜の他方の面に接するカソード側触媒層及びカソード側触媒層の他面に接するカソード側撥水性集電体とからなるカソード側ガス拡散電極とからなる。
【0102】
セパレ一夕の間を負荷を有する導線で接続し、アノード側のセパレータの反応ガス供給路から水素(200mL/分、90℃温水に通過させ加湿)を供給し、カソード側のセパレ一夕の反応ガス供給路から酸素(100mL/分、60℃温水に通過させ加湿)を供給して電池内部の温度を80℃とし。本発明による燃料電池は充分高い発電性能を有していた。
【0103】
【発明の効果】
本発明によれば、耐加水分解性に優れ、イオン交換基容量が大きく、機械的強度と水の保持力に優れ、製膜性に優れたフッ素化ポリイミドとその製造方法が提供される。また、該フッ素化ポリイミドからなり、固体高分子型燃料電池のイオン交換膜として好適な高分子電解質膜と燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフッ素化ポリイミド電解膜のプロトン伝導率の温度依存性を示す図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なフッ素化ポリイミド樹脂及びその製造法に関する。また、本発明は、そのフッ素化ポリイミド樹脂からなる、耐加水分解性(耐水性)に優れるとともに、酸化安定性とプロトン伝導性に優れたフッ素化ポリイミド高分子電解質膜とその製造方法に関する。さらに、本発明は、フッ素化ポリイミド高分子電解質膜を固体高分子電解質膜として含有する固体高分子型燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、水の電気分解の逆動作に基づく動作原理により電気エネルギーを得る装置である。燃料電池では、一般に、天然ガス、メタノール、石炭などの燃料を改質して得られる水素と、空気中の酸素とを送り込むことによって、水が生成するとともに、直流電力が得られる。このように、発電効率が高く、クリーンなエネルギーを供給できることから、燃料電池発電が注目されている。
【0003】
燃料電池は、使用される電解質の種類によって、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子型などに分類される。これらの中でも、イオン交換膜(固体高分子電解質膜)を電解質として使用する固体高分子型燃料電池は、本質的に固体だけからなるセルであるため、電解質の散逸や保持の問題がないこと、100℃以下の低温で作動すること、起動時間が極めて短いこと、高エネルギー密度化や小型軽量化が可能であること、などの長所を有している。
【0004】
そのため、固体高分子型燃料電池は、自動車用電源、家庭用やビル用の分散型電源、宇宙船用電源、可搬型電源などとして開発が進められている。特に、地球温暖化などの環境問題や自動車排ガス対策の観点から、固体高分子型燃料電池は、自動車搭載用の燃料電池として期待を集めている。
【0005】
固体高分子電解質は、高分子鎖中にスルホン酸基等の電解質基を有する固体高分子材料であり、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過する性質を有していることから、粒子、繊維、あるいは膜状に成形し、電気透析、拡散透析、電池隔膜等、各種の用途に利用されているものである。
【0006】
例えば、改質ガス燃料電池は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の両面に一対の電極を設け、メタン、メタノール等、低分子の炭化水素を改質することにより得られる水素ガスを燃料ガスとして一方の電極(燃料極)へ供給し、酸素ガスあるいは空気を酸化剤として異なる電極(空気極)へ供給し、起電力を得るものである。また、水電解は、固体高分子電解質膜を用いて水を電気分解することにより水素と酸素を製造する方法である。
【0007】
燃料電池や水電解の場合、固体高分子電解質膜と電極の界面に形成された触媒層において過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルとなって劣化反応を起こすので、耐酸化性に乏しい炭化水素系電解質膜を使用することが困難である。そのため、燃料電池や水電解においては、一般に、高いプロトン伝導性を有し、高い耐酸化性を有するパーフルオロスルホン酸膜が用いられている。
【0008】
また、食塩電解は、固体高分子電解質膜を用いて塩化ナトリウム水溶液を電気分解することにより、水酸化ナトリウムと、塩素と、水素を製造する方法である。この場合、固体高分子電解質膜は、塩素と高温、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液にさらされるので、これらに対する耐性の乏しい炭化水素系電解質膜を使用することができない。そのため、食塩電解用の固体高分子電解質膜には、一般に、塩素及び高温、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に対して耐性があり、さらに、発生するイオンの逆拡散を防ぐために表面に部分的にカルボン酸基を導入したパーフルオロスルホン酸膜が用いられている。
【0009】
ところで、パーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質は、C−F結合を有しているために化学的安定性が非常に高く、上述した燃料電池用、水電解用、あるいは食塩電解用の固体高分子電解質膜の他、ハロゲン化水素酸電解用の固体高分子電解質膜としても用いられ、さらにはプロトン伝導性を利用して、湿度センサ、ガスセンサ、酸素濃縮器等にも広く応用されているものである。
【0010】
特に、Nafion(登録商標、デュポン社製)の商品名で知られるパーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質膜は、化学的安定性が非常に高いことから、過酷な条件下で使用される電解質膜として賞用されている。
【0011】
しかしながら、フッ素系電解質は製造が困難で、非常に高価であるという欠点がある。これに対し、炭化水素系電解質膜は、Nafionに代表されるフッ素系電解質膜と比較すると、製造が容易で低コストである上に、分子設計上の自由度が高く、イオン交換容量の調節が容易であるという利点がある。
【0012】
しかし、その一方で、炭化水素系電解質膜は、耐熱性及び耐酸化性が低いという問題が残されていた。耐酸化性が低い理由は、炭化水素化合物は一般にラジカルに対する耐久性が低く、炭化水素骨格を有する電解質はラジカルによる劣化反応(過酸化物ラジカルによる酸化反応)を起こしやすいためである。
【0013】
そこで、フッ素系電解質と同等以上、もしくは実用上十分な耐酸化性を有し、しかも低コストで製造可能な高耐久性固体高分子電解質を提供することを目的として、ポリイミド樹脂にイオン交換基を導入する試みが種々なされている(下記特許文献1)。
【0014】
【特許文献1】
特表2000−510511号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ポリイミド樹脂の主鎖は耐加水分解性に劣るという欠点があった。特に、ポリイミド樹脂の電解質膜を固体高分子型燃料電池に用いた場合加湿状態で運転されることから、その耐水性を向上させることが求められていた。
【0016】
上記問題に鑑み、本発明は、燃料電池等に用いられる固体高分子電解質の耐水性を飛躍的に向上させることを目的として、新規なポリイミド樹脂を提供する。耐水性を向上させることによって、機械的強度と水の保持力に優れたスルホン化ポリイミドとし、同時に、成膜性に優れ、イオン交換基容量が大きいスルホン化ポリイミドとすることで、固体高分子型燃料電池のイオン交換膜として好適な高分子電解質膜とその製造方法を提供する。また、本発明は、このような優れた特性を有するスルホン化ポリイミド高分子電解質膜を固体高分子電解質膜として含有する固体高分子型燃料電池を提供する。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定の繰返し単位を有するポリイミドによって前記課題が解決されることを見出し本発明に至った。
【0018】
即ち、第1に本発明は、基本骨格が下記式(1)で表されることを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂である。
【0019】
【化8】
【0020】
ここで、式(1)中、Ar1とAr2とAr3とは、炭素数が6〜27であり、隣接するイミド基と5又は6員のイミド環を形成する4価の置換基(ここで、Ar1またはAr2またはAr3の炭素原子は該イミド環の一部を形成し、該置換基を形成する一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)からそれぞれ独立して選択される。式(1)中、Ar4は炭素数6〜25であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がスルホン酸基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。式(1)中、Ar5は炭素数6〜20であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がトリフルオロメチル基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。式(1)中、Ar6は炭素数6〜25であり、芳香族環を有している2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。式(1)中、n、mはそれぞれ独立して2以上であり、pは0以上である。
【0021】
基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂は、繰り返し単位として基本的に下記式(8)〜(10)で表される3種類のイミド単位を有する。ただし、下記式(10)で表されるイミド単位は任意成分である。本発明のフッ素化ポリイミド樹脂は、これら下記式(10)〜(12)で表される3種類のイミド単位からなる、ランダム共重合体、ブロック共重合体、または一部ブロック共重合体である。イミド構造自体が本発明のフッ素化ポリイミド樹脂に耐熱性と機械的強度を与えている。
【0022】
下記式(10)は、イミド単位中にイオン交換基容量が大きいスルホン基を有しており、電解質として機能する。これにより、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂は、プロトン伝導性に優れたものとなっている。
【0023】
【化9】
【0024】
下記式(11)は、イミド単位中に撥水構造であるトリフルオロメチル基を1個以上有しており、このトリフルオロメチル基が奏する撥水性が本発明のポリイミド樹脂に耐水性を付与する。これにより、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂は、耐加水分解性が向上し、機械的強度に優れたものとなっている。
【0025】
【化10】
【0026】
下記式(12)は、イミド単位中にフェニル基を有しており、このフェニル基がフッ素化ポリイミド樹脂に適当な屈曲性を付与する。これにより、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂は、製膜性等の加工性に優れたものとなると同時に、高いプロトン伝導性にも寄与している。
【0027】
【化11】
【0028】
上記一般式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂は、具体的には、下記一般式(2)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂が好ましい。
【0029】
【化12】
【0030】
ここで、式(2)中、Ar1とAr2とAr3とは、炭素数が6〜27であり、隣接するイミド基と5又は6員のイミド環を形成する4価の置換基(ここで、Ar1またはAr2またはAr3の炭素原子は該イミド環の一部を形成し、該置換基を形成する一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)からそれぞれ独立して選択される。式(2)中、n、mはそれぞれ独立して2以上であり、pは0以上であり、q、rはそれぞれ独立して0〜4であるが同時に0となることはない。
【0031】
また、上記一般式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂は、より具体的には、下記一般式(3)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂が好ましい。
【0032】
【化13】
【0033】
ここで、式(3)中、n、mはそれぞれ独立して2以上であり、pは0以上であり、q、rはそれぞれ独立して0〜4であるが同時に0となることはない。
【0034】
上記一般式(1)〜(3)で表される本発明のフッ素化ポリイミド樹脂においては、上記イミド単位(8)〜(10)の割合には制限はないが、前記一般式(1)〜(3)のいずれかにおいて、p/(n+m+p)=0.01〜0.1(1〜10mo1%)であって、n/mが25/70より大きく90/5より小さいことが、耐加水分解性とプロトン伝導性を両立させる点で好ましい。
【0035】
第2に本発明は、基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0036】
即ち、一般式(4)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar5−NH2 …(4)
(式(4)中、Ar5は炭素数6〜20であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がトリフルオロメチル基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、一般式(5)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar4−NH2 …(5)
(式(5)中、Ar4は炭素数6〜25であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がスルホン酸基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、一般式(6)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar6−NH2 …(6)
(式(6)中、Ar6は炭素数6〜25であり、芳香族環を有している2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、第三級アミンと、m−クレゾールとの混合物を加熱溶解する工程と、該加熱溶解物に一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物化合物
【0037】
【化14】
(式(7)中、Ar1は、炭素数が6〜27であり、隣接する酸無水物基と5又は6員の酸無水物環を形成する4価の置換基(ここで、Ar1の炭素原子は該酸無水物環の一部を形成し、該酸無水物環を形成する一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)からそれぞれ独立して選択される。)
を加えて、有機酸の存在下少なくとも130℃以上に加熱する重合工程と、更に少なくとも150℃以上に加熱して樹脂の物理的特性を向上する改質工程と、を有することを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0038】
基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法は、具体的には、基本骨格が上記式(2)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。即ち、一般式(8)で表されるジアミノ化合物
【化15】
m−フェニレンジアミンと、一般式(9)で表されるジアミノ化合物
【化16】
(式(9)中、q、rはそれぞれ独立して0〜4であるが同時に0となることはない。)
と、第三級アミンと、m−クレゾールとの混合物を加熱溶解する工程と、該化合物に一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物化合物
【化17】
(式(7)中、Ar1は、炭素数が6〜25であり、隣接する酸無水物基と5又は6員の酸無水物環を形成する4価の置換基(ここで、Ar1の炭素原子は該酸無水物環の一部を形成し、該酸無水物環を形成する一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)からそれぞれ独立して選択される。)
を加えて、有機酸の存在下少なくとも130℃以上に加熱する重合工程と、更に少なくとも150℃以上に加熱して樹脂の物理的特性を向上する改質工程と、を有することを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0039】
基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法は、より具体的には、基本骨格が上記式(3)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。即ち、前記一般式(4)で表されるジアミノ化合物が、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンであり、前記一般式(5)で表されるジアミノ化合物が、4,4’−ジアミノ−2,2’ビフェニルジスルホン酸であり、前記一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物がナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物であるフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0040】
このように、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法においては、溶解工程で原料分子を均一に溶媒中に分散し、その後の重合工程で高分子量体のポリイミド樹脂を製造した後に、改質工程を行っている。重合工程ではポリイミド樹脂のイミド結合が一部開環したまま残存しているが、改質工程を経ることでその部分を完全に閉環することができる。イミド結合の部分を完全に閉環できることで、耐加水分解性をより向上させたポリイミド樹脂とすることができる。
【0041】
第3に本発明は、上記第1の本発明のフッ素化ポリイミド樹脂、又は上記第2の本発明の製造方法で製造されたフッ素化ポリイミド樹脂を製膜したことを特徴とする高分子電解質膜である。
【0042】
本発明の本電解質膜は、上記のフッ素化ポリイミド樹脂を適正な方法で製膜したものである。フッ素化ポリイミド樹脂の製膜方法は特に限定されず、溶液を平板上にキャストするキャスト法、ダイコータ、コンマコ一夕等により平板上に溶液を塗布する方法、溶融した高分子材料を延伸等する方法等の般的な方法が採用できる。
【0043】
第4に本発明は、上記第1の本発明のフッ素化ポリイミド樹脂又は上記第2の本発明の製造方法で製造されたフッ素化ポリイミド樹脂と、該フッ素化ポリイミド樹脂を溶解する溶媒とを有することを特徴とする高分子電解質溶液である。
【0044】
本発明の電解質溶液は、上記のフッ素化ポリイミド樹脂を適正な溶媒(例えばm−クレゾール、DMSO、DMF、NMP、及びそれらの混合溶媒等)に溶解させたものである。上記のフッ素化ポリイミド樹脂を単独で用いるほか、その他の高分子電解質等と混合して用いてもよい。
【0045】
第5に本発明は、上記第3の本発明の電解質膜と、該電解質膜の両面を挟持する反応極と、該反応極を挟持するセパレータからなる燃料電池セルを複数積層したことを特徴とする固体高分子型燃料電池である。
【0046】
上記のように耐加水分解性に優れた電解質膜及び電解質溶液を採用することで燃料電池全体としても耐久性を向上できる。また、低コストな電解質膜及び電解質溶液を採用することで燃料電池として低コスト化が達成できる。
【0047】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施する上での事項を詳細に説明する。
【0048】
本発明では、基本骨格が上記式(1)で表されるフッ素化ポリイミド樹脂は、繰り返し単位として基本的に上記式(8)〜(10)で表される3種類のイミド単位を有する(ただし、上記式(10)で表されるイミド単位は任意成分である)。以下、これら上記式(8)〜(10)で表される3種類のイミド単位を説明する。
【0049】
各化学式中の、Ar1、Ar2及びAr3として好ましい4価の置換基を具体的に示す。なお、Ar1、Ar2及びAr3はすべて同じである必要はなく複数の置換基が混在してもよい。また、全てのAr1は、同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。Ar2及びAr3についても同様で、すべて同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。
【0050】
【化18】
【0051】
【化19】
【0052】
【化20】
【0053】
Ar1、Ar2及びAr3として好ましい4価の置換基としては、上記に例示したものの他、一般に公知のポリイミド樹脂のイミド環骨格を構成する置換基も用いられる。
【0054】
各化学式中の、Ar4として好ましい2価の置換基を具体的に示す。なお、全てのAr4は、同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。
【0055】
【化21】
【0056】
各化学式中の、Ar6として好ましい2価の置換基を具体的に示す。なお、全てのAr6は、同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。
【0057】
【化22】
【0058】
【化23】
【0059】
【化24】
【0060】
各化学式中の、Ar5として好ましい2価の置換基は、上記Ar6として好ましい2価の置換基の芳香族環の水素原子の少なくとも1個以上がトリフルオロメチル基で置換されたものである。なお、全てのAr5は、同一の置換基である必要はなく、複数の置換基が混在してもよい。
【0061】
上記各化学式に好適に合致する原料成分の具体的化合物名を以下に示す。
ポリイミドを構成するテトラカルボン酸成分として、ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物(1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物とも表記される)が挙げられる。
【0062】
少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物としては、2,2′−ジスルホン酸ベンジジン〔即ち、4,4′−ジアミノ−(1,1′−ビフェニル)−2,2′−ジスルホン酸〕、1,4−ジアミノベンゼン−3−スルホン酸、1,3−ジアミノベンゼン−4−スルホン酸、4,4′−ジアミノ−5,5′−ジメチル−(1,1′−ビフェニル)−2,2′−ジスルホン酸などが挙げられる。これらの中でも、2,2′−ジスルホン酸ベンジジンが好ましい。
【0063】
その他のジアミン化合物としては、2,2′−ジ(p−アミノフェニル)−6,6′−ビベンゾオキサゾール、2,2′−ジ(p−アミノフェニル)−5,5′−ビベンゾオキサゾール、m−フェニレンジアミン、1−イソプロピル−2,4−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、3,3′−ジアミノジフェニルプロパン、4,4′−ジアミノジフェニルエタン、3,3′−ジアミノジフェニルエタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、4,4″−ジアミノ−p−テルフェニル、3,3″−ジアミノ−p−テルフェニル、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メテン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、2,4−ジアミノトルエン、m−キシレン−2,5−ジアミン、p−キシレン−2,5−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4′−〔2,2,2−トリフルオロ−(1−トリフルオロメチル)−エチリデン〕−ベンゼンアミンなどの芳香族ジアミン類;2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾールなどの複素環ジアミン類を挙げることができる。これらの中でも、4,4′−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0064】
テトラカルボン酸成分であるナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物と各ジアミン成分とは、一般に、ほぼ等モルの割合で用いられる。ポリマーの両末端をアミンとする場合には、ジアミン成分が若干過剰となるモル比で用いてもよい。一方、ポリマーの両末端をカルボン酸無水物基とする場合には、ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物が若干過剰となるモル比で用いてもよい。また、連鎖制限剤として、無水フタル酸、ナフタレン−1,8−ジカルボン酸無水物などを少量使用することにより、ポリマー末端を形成させてもよい。
【0065】
ジアミン成分中の各ジアミンの割合で、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂中の各イミド単位割合を調節することができる。上記式(5)で表される少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物のモル比が小さすぎると、充分に高いイオン交換基容量を有する高分子電解質膜を得ることが困難になる。少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物のモル比が大きすぎると、高分子電解質膜の機械的強度が低下し、特に湿潤状態での引張破断応力が低下する。多くの場合、(上記式(5)で表される少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物):(上記式(4)で表される少なくとも1つのトリフルオロメチル基を持つジアミン化合物)を30:70〜70:30の範囲内とすることにより、良好な結果を得ることができる。
【0066】
溶解工程は、各ジアミン化合物と、第三級アミンと、m−クレゾールとの混合物を加熱して溶解する工程である。ここで第三級アミン及びm−クレゾールはモノマーを溶解する溶媒乃至は反応触媒である。混合物を加熱する温度としては特に限定しないが100〜150℃程度とすることでモノマーを容易に均一に溶媒中に溶解することができる。第三級アミンとしては特に限定されず、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、トリエチレンジアミン等が例示できる。特にトリエチルアミンが好ましい。
【0067】
その他の溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒などを用いることが出来る。これらの中で、溶解性が高いことからスルホキシド系溶媒、アミド系溶媒が好ましい。ここで、スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が好ましく用いられる。
【0068】
重合工程は、溶媒中にモノマーが均一に溶解した溶液からなる混合物にカルボン酸二無水物化合物を加えて、有機酸の存在下加熱して重合させる工程である。ここで、有機酸は重合触媒であり、高沸点かつ溶媒への溶解性が高い化合物が望ましい。有機酸は重合工程で存在するならば前述の溶解工程で添加してもよい。有機酸としては安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸が例示でき、好ましい有機酸としては安息香酸が挙げられる。有機酸を添加する量としては特に限定しないが安息香酸の場合には、カルボン酸無水物化合物に対して、4〜6倍モル程度加えることが望ましい。また、混合物を加熱する温度としては少なくとも130℃以上であり、好ましくは170〜180℃程度とすることで効率よく重合反応が進行し、高分子量ポリイミド樹脂を得ることができる。
【0069】
改質工程は、混合物(重合したポリイミド樹脂)中の構造欠陥を是正してポリイミド樹脂の物理的特性を向上する工程である。ここで構造欠陥とはポリイミド樹脂中のイミド結合が閉環していない部分である。イミド結合が閉環していない部分が存在すると、ポリイミド樹脂の主鎖上に−NHCO−結合が存在する。本工程では混合物を加熱することで脱水反応が生起して閉環したイミド結合が形成できる。ここで、混合物を加熱する温度としては少なくとも150℃以上であり、好ましくは190〜200℃程度とすることで閉環反応が効率よく進行し、構造欠陥の少ないポリイミド樹脂を得ることができる。
【0070】
本発明では、溶解工程において、反応系に溶解補助剤として第三級アミンを存在させる。具体的には、混合溶媒中にトリエチルアミンを添加する。トリエチルアミンは、少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物(一般式(4))の溶解補助剤として作用する。トリエチルアミンは、少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜3モル、より好ましくは1〜2.5モルの割合で用いられる。トリエチルアミンを使用することにより、スルホン酸基がアンモニウム塩となるため溶解性が向上し、重縮合反応を円滑に実施することができる。
【0071】
本発明では、重合工程において、反応系に重合触媒として有機酸を存在させる。具体的には、混合溶媒中に安息香酸を添加する。安息香酸は、少なくとも1つのスルホン酸基を持つジアミン化合物(一般式(4))1モルに対して、好ましくは0.1〜2モル、より好ましくは0.3〜1.5モルの割合で使用する。重合触媒として安息香酸を使用することにより、高分子量で成膜性に優れたポリアミド酸を得ることができる。
【0072】
反応終了後、生成ポリアミド酸の非溶媒(例えば、メタノール、エタノールなど)中に反応混合物を流し込んで生成ポリアミド酸を沈殿させる。必要に応じて、メタノール洗浄を行なう。沈殿物を濾過し、乾燥してポリアミド酸を回収する。
【0073】
ポリアミド酸は、溶媒(例えば、m−クレゾール)中に溶解させ、得られた溶液をガラス板などの支持体上に流延し、乾燥することにより製膜することができる。得られたフィルムは、通常、加熱してポリアミド酸を脱水閉環することにより、ポリイミド化する。所望により、化学閉環法を採用してもよい。このようにして得られたスルホン化ポリイミド膜は、必要に応じて、塩酸溶液や硝酸溶液で処理し、イオン交換水で充分に洗浄する。
【0074】
また、フッ素化ポリイミド樹脂を溶媒に溶解して、本発明のフッ素化ポリイミド樹脂電解質溶液を得ることができる。溶媒としては、フッ素化ポリイミド樹脂を溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はない。中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒がフッ素化ポリイミド樹脂に対する溶解性が高く好ましい。これらは単独で用いることもできるし、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。混合物のモルフォルジー制御などを目的としてさらに他の溶媒を含有することもできる。
【0075】
本発明のフッ素化ポリイミド樹脂電解質用溶液は、製膜した場合の各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等も含有することができる。また、複合アロイ化等を目的として、他のポリマーも含有することもできる。さらに、イオン伝導性の向上などを目的として、低分子電解質や酸化合物、あるいは他の高分子電解質を含有することもできる。さらに、燃料電池用途における水管理の容易化のために、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として含有することもできる。
【0076】
本発明のフッ素化ポリイミド電解質膜は、例えば上記のような溶媒を含有する高分子電解質溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜して得ることができる。また、電解質膜の機械的強度の向上などを目的として、電子線・放射線などを照射して架橋したものであっても、さらには、多孔性のフィルムやシートに含浸複合化したり、ファイバーやパルプを混合してフィルムを補強したものであっても良い。電解質膜の厚みは、特に制限はないが10〜200μmが好ましい。10μmより薄い電解質膜では強度が低下する傾向にあり、200μmより厚い電解質膜では膜抵抗が大きくなり電気化学デバイスの特性が不足する傾向にある。膜厚は溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。
【0077】
本発明のフッ素化ポリイミド高分子電解質膜は、耐加水分解性に優れているとともに、高いイオン伝導性を保持し、優れた熱安定性、酸化及び還元に対する耐性、機械的強度などを有している。
【0078】
したがって、本発明のフッ素化ポリイミド高分子電解質膜は、固体高分子型燃料電池のイオン交換膜として好適である。
【0079】
次に、本発明の燃料電池について説明する。本発明の燃料電池は、上記のような燃料電池用高分子電解質膜の両面に、触媒および集電体としての導電性物質を接合することにより製造することができる。該触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、白金の微粒子を用いることが好ましい。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられ、好ましく用いられる。集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーに白金微粒子または白金微粒子を担持したカーボンを接合させる方法、およびそれを高分子電解質膜と接合させる方法については公知の方法を用いることができる。
【0080】
具体的には、本発明の燃料電池はPEFCである。燃料電池としては燃料電池セルを複数積層したスタックを形成しているものが用いられる。そして、電解質膜としては前述した本発明の電解質膜を用いる。電解質膜を挟んだ両側の反応電極にそれぞれ燃料ガスと酸化剤ガスとを供給するガス供給装置がそれぞれ対応する側のセパレ一夕から接続される。そして燃料ガスとしては水素ガスを、酸化剤ガスとしては空気または酸素ガスが好ましく用いられる。
【0081】
本発明の燃料電池の燃料電池セルは、電解質膜の両側を反応電極で狭持した後にさらに拡散層で狭持したMEAの両側をセパレ一夕で狭持した構造をもつ。反応電極については特に限定されず、通常のものを使用可能である。例えば、カーボン粉末上に白金や白金のアロイを分散させた触媒を用いることが可能である。例えば、この触媒をそのまま若しくは本発明の電解質溶液等の結着剤等と混合して電解質膜表面で製膜することで反応電極を形成できる。拡散層はたとえば一般的なカーボン粉末と擾水性高分子粉末との混合物を用いることができる。本発明の電解質溶液を含有させて形成することもできる。セパレ一夕も一般的に使用されている材質、形態のものが使用できる。セパレ一夕には流路が形成され、その流路には反応ガスを供給するためのガス供給装置が接続されると同時に、反応しなかった反応ガス及び発生した水を除去する手段とが接続される。
【0082】
本発明のフッ素化ポリイミド高分子電解質膜は、耐熱性、耐加水分解性が高いので、本発明の燃料電池(PEFC)は、高い耐久性を有することができる。
【0083】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。
(試験例1〜4)
〔ポリイミド樹脂の製造〕
シール付の水銀温度計、窒素導入口、還流管を付した100mLの四ロフラスコに、0.448g(1.3mmo1)の4,4’,−ジアミノ−2,2’ビフェニル−ジスルホン酸(以下「DAPS」と称す)と、0.192g(0.6mmo1)の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、「FMB」と称す。)と、0.011g(0.1mmo1)のm−フェニレンジアミン(以下、「MDA」と称す。)と、0.55mL(4mmo1)のトリエチルアミンと、9mLのm−クレゾールとを加えて、窒素気流下140℃で10分間加熱した。この混合物を激しく撹拌して、透明で均一な溶液を得た(溶解工程)。
【0084】
混合液に0.536(2.0mmo1)のナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物(以下「TCND」と称す)と、1.1g(8mmo1)の安息香酸と、15mLのm−クレゾールとを加えた。反応溶液は赤くなった。その後、窒素気流下175℃で撹拌しながら15時間加熱した。反応溶液は粘稠となった(重合工程)。
【0085】
次いで、窒素気流下195℃で3時間加熱した(改質工程)。加熱を止めて60℃にまで冷却した。赤黄色、粘稠的なコポリマーの溶液が得られた。得られたコポリマーは下記式(3)
【化25】
におけるn/m/pが65/30/5の組成をもつ化合物である(試験例1:共重合体(30))。
【0086】
以下、溶解工程におけるDAPSとFMBとMDAとの添加量をモル比で、55:40:5、45:50:5、35:60:5になるように調整し、DAPSとFMBとMDAとの添加量の和を2.0mmo1とした以外、上述の方法でコポリマーの溶液を調製した。得られたコポリマー溶液はそれぞれ式(3)におけるn/m/pが55/40/5(試験例2:共重合体(40))、45/50/5(試験例3:共重合体(50))、35/60/5(試験例4:共重合体(60))である化合物であった。
【0087】
表1に、試験例1〜4:共重合体(30)〜共重合体(60)の組成とイオン当量(EW:スルホン酸基当たりの分子量)を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
〔電解質膜の製造〕
得られたそれぞれのコポリマー溶液をキャスト法にて製膜した。キャスト法はガラス板上に製造したコポリマー溶液をそのまま流した後に、室温で一日自然乾燥を行い製膜した。その後、80℃で12時間常圧乾燥を行った後に、更に80℃で12時間真空減圧乾燥を行った。
【0090】
そして、得られた膜をそれぞれ1N硝酸エタノール溶液400mL中に浸漬し12時間撹拌した(酸処理工程)。酸処理工程を更に2回繰り返した。その後、エタノールで洗浄した。その後、40℃で12時間真空減圧乾燥を行い各試験例の試験試料とした。
【0091】
(比較例)
溶解工程において、0.482g(1.4mmo1)の4,4,−ジアミノ−ビフェニル−2,2’−ジスルホン酸(以下「DAPS」と称す)と、0.209g(0.6mmo1)の4,4,−(9−フルオレニリデン)ジアニリン(以下「FDA」と称す、=9,9−ビス(4−アミノフェニル)−9H−フルオレン)と、0.55mL(4mmo1)のトリエチルアミンと、9mLのm−クレゾールとを加えて、窒素気流下140℃で10分間加熱した他は、上記試験例と同様のポリイミド電解質膜(BF(30))を得た。
【0092】
(耐加水分解性)
それぞれの試験試料を2ppmの鉄イオンを含有する3%過酸化水素水溶液中、80℃で加熱した。試験試料の外観を経時的に観察した。試料の膜が溶解を始めた時間と完全に溶解した時間とを記録した。結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
表2の結果より、試験例1〜4の各共重合体膜のフェントン試薬中における安定性は、FMB(即ち、トリフルオロメチル基含有基)の添加量が増加するに従って、著しく向上する。特に、FMBが40mol%以上では2時間以上安定であった。
【0095】
(プロトン伝導度の測定)
各試験試料及び比較例の膜を5×40mmの大きさに切り取り、4端子法により交流インピーダンスを測定した。測定は80℃及び120℃で相対湿度100%、電流値として0.005mAの定電流、掃引周波数として10〜20000Hzの条件で行った。得られたインピーダンスと膜端子間距離から伝導度を測定した。結果を図1に示す。
【0096】
図1より、本発明のポリイミド電解質膜はフッ素基が導入されているにもかかわらず、フッ素基が導入されていないポリイミド電解質膜(BF(30))と同様に優れたプロトン伝導性を示し、室温〜100℃の範囲における伝導度は0.06〜1.00Scm−1であった。特に共重合体(40)が最も高い伝導率(80℃で1.00Scm−1)を示した。
【0097】
以上のように、本発明のポリイミド樹脂は、耐加水分解性とプロトン伝導性が共に優れていることが明らかとなった。
【0098】
〔燃料電池〕
(ガス拡散層の作製)
1gのカーボンブラックに12gの35質量%トライトン溶液を加え、遊星ボールミルを用いて1136rpmで20分間、568rpmで10分間混合し、カーボンペーストを作製した。このカーボンペーストとポリテトラフルオロエチレン分散溶液とをカーボン元素比で6:4になるように添加し、遊星ボールミルを用いて1136rpmで20分間、568rpmで10分間混合したものを電極拡散層ぺーストとした。この電極拡散層ペーストを撥水化カーボンペーパー上に塗布し、60℃の乾燥機で約1時間乾燥した。乾燥後、冷間プレスを行った。電極中のトライトンを除去するために電極を2−プロパノール中に浸し(30分毎に2−プロパノールを交換し、4回繰り返した後に一晩放置した。)、その後にホットプレス(360℃、2.5MPaで3秒)を行い、水中で急冷した。
【0099】
(触媒層膜複合体の作製)
白金を30質量%高分散担持したカーボンブラック1gと上記ポリイミド樹脂(試験試料共重合体(30)、n/m/p=65/30/5)1・05gとをm−クレゾール10mLで混練した。このペースト0.15mLを上記方法で作成した電解質膜(試験試料共重合体(30)、n/m/p=65/30/5、厚さ50μm、面積10cm2)の片面に均一に塗布し、80℃で1時間乾燥した。その後、電解質膜の反対側にも前述のペースト0.15mLを均一に塗布し、80℃で1時間乾燥した。得られた膜を130℃で2分間ホットプレスした後に、1N硝酸エタノール溶液400mL中に浸漬し12時間撹拌した(酸処理工程)。この酸処理工程を更に2回繰り返した。その後、エタノールで洗浄した。その後、80℃で2時間乾燥を行った。この膜を前述のガス拡散層2枚で挟み触媒層膜複合体を得た。
【0100】
(触媒層複合体の作製)
白金を30質量%高分散担持したカーボンブラック1gと上記ポリイミド樹脂(試験試料共重合体(30)、n/m/p=65/30/5)1.05gとを、m−クレゾール10mLで混練した。このペースト0.15mLを前述のガス拡散層(面積10cm2)の片面に均一に塗布し、80℃で2時間乾燥した。これを冷間プレス(1MPa(10kg/cm2))、10秒間)を行った。その後、1N硝酸エタノール溶液400mL中に浸漬し12時間撹拝した(酸処理工程)。この酸処理工程を更に2回繰り返した。その後、エタノールで洗浄した。得られたガス拡散層2枚で、上記電解質膜(試験試料重合体(30)、n/m/p=65/30/5、厚さ50μm、面積10cm2)を挟み触媒層膜複合体を得た。
【0101】
(電池の作製及び試験)
上記の触媒層膜複合体を集電部を兼ねるセパレータで狭持して燃料電池を作製した。触媒層膜複合体はポリイミド樹脂からなる電解質膜と、該電解質膜の一方の面に接するアノード側触媒層及びアノード側触媒層の他面に接するアノード側撥水性集電体とからなるアノード側ガス拡散電極と、電解質膜の他方の面に接するカソード側触媒層及びカソード側触媒層の他面に接するカソード側撥水性集電体とからなるカソード側ガス拡散電極とからなる。
【0102】
セパレ一夕の間を負荷を有する導線で接続し、アノード側のセパレータの反応ガス供給路から水素(200mL/分、90℃温水に通過させ加湿)を供給し、カソード側のセパレ一夕の反応ガス供給路から酸素(100mL/分、60℃温水に通過させ加湿)を供給して電池内部の温度を80℃とし。本発明による燃料電池は充分高い発電性能を有していた。
【0103】
【発明の効果】
本発明によれば、耐加水分解性に優れ、イオン交換基容量が大きく、機械的強度と水の保持力に優れ、製膜性に優れたフッ素化ポリイミドとその製造方法が提供される。また、該フッ素化ポリイミドからなり、固体高分子型燃料電池のイオン交換膜として好適な高分子電解質膜と燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフッ素化ポリイミド電解膜のプロトン伝導率の温度依存性を示す図。
Claims (10)
- 基本骨格が下記式(1)で表されることを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂。
式(1)中、Ar4は炭素数6〜25であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がスルホン酸基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。
式(1)中、Ar5は炭素数6〜20であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がトリフルオロメチル基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。
式(1)中、Ar6は炭素数6〜25であり、芳香族環を有している2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。
式(1)中、n、mはそれぞれ独立して2以上であり、pは0以上である。) - 前記基本骨格が一般式(2)で表される請求項1に記載のフッ素化ポリイミド樹脂。
式(2)中、n、mはそれぞれ独立して2以上であり、pは0以上であり、q、rはそれぞれ独立して0〜4であるが同時に0となることはない。) - 前記一般式(1)〜(3)のいずれかにおいて、
p/(n+m+p)=0.01〜0.1(1〜10mo1%)であって、n/mが25/70より大きく90/5より小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素化ポリイミド樹脂。 - 一般式(4)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar5−NH2 …(4)
(式(4)中、Ar5は炭素数6〜20であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がトリフルオロメチル基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、一般式(5)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar4−NH2 …(5)
(式(5)中、Ar4は炭素数6〜13であり、芳香族環を有し、水素原子の少なくとも一部がスルホン酸基で置換されている2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、一般式(6)で表されるジアミノ化合物
H2N−Ar6−NH2 …(6)
(式(6)中、Ar6は炭素数6〜25であり、芳香族環を有している2価の置換基(この置換基は一部の炭素原子がS、N、O、SO2またはCOで置換されていてもよく、又、一部の水素原子が脂肪族基、ハロゲン原子又はパーフルオロ脂肪族基で置換されていてもよい。)から選択される。)
と、第三級アミンと、m−クレゾールとの混合物を加熱溶解する工程と、該加熱溶解物に一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物化合物
を加えて、有機酸の存在下少なくとも130℃以上に加熱する重合工程と、更に少なくとも150℃以上に加熱して樹脂の物理的特性を向上する改質工程と、を有することを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法。 - 一般式(8)で表されるジアミノ化合物
と、第三級アミンと、m−クレゾールとの混合物を加熱溶解する工程と、該化合物に一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物化合物
を加えて、有機酸の存在下少なくとも130℃以上に加熱する重合工程と、更に少なくとも150℃以上に加熱して樹脂の物理的特性を向上する改質工程と、を有することを特徴とするフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法。 - 前記一般式(4)で表されるジアミノ化合物が、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンであり、前記一般式(5)で表されるジアミノ化合物が、4,4’−ジアミノ−2,2’ビフェニルジスルホン酸であり、前記一般式(7)で表される四カルボン酸二無水物がナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物である請求項5又は6に記載のフッ素化ポリイミド樹脂の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素化ポリイミド樹脂又は請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法で製造されたフッ素化ポリイミド樹脂を製膜したことを特徴とする高分子電解質膜。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素化ポリイミド樹脂又は請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法で製造されたフッ素化ポリイミド樹脂と、該フッ素化ポリイミド樹脂を溶解した溶媒とを有することを特徴とする高分子電解質溶液。
- 請求項8に記載の電解質膜と、該電解質膜の両面を挟持する反応極と、該反応極を挟持するセパレータからなる燃料電池セルを複数積層したことを特徴とする固体高分子型燃料電池。
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-
2003
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