JP2004262093A - 塗工代替用シート材及びそれを使用した成形体並びにそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】皮革の質感を付与するとともに、成形時の破断を防止することができる塗工代替用シート材及びそれを使用した成形体並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】塗工代替用シート材10は、発泡体よりなる弾性層11と、弾性層11の表面に設けられた破断保護層11aと、破断保護層11aの表面に設けられた塗料より形成される装飾層12とから構成されている。この塗工代替用シート材10は、弾性層11で皮革の弾性感を再現し、装飾層12の色調で皮革の美観を再現する。破断保護層11aは、合成樹脂製の薄膜より形成され、弾性層11及び装飾層12の過剰な変形を抑制している。
【選択図】 図1
【解決手段】塗工代替用シート材10は、発泡体よりなる弾性層11と、弾性層11の表面に設けられた破断保護層11aと、破断保護層11aの表面に設けられた塗料より形成される装飾層12とから構成されている。この塗工代替用シート材10は、弾性層11で皮革の弾性感を再現し、装飾層12の色調で皮革の美観を再現する。破断保護層11aは、合成樹脂製の薄膜より形成され、弾性層11及び装飾層12の過剰な変形を抑制している。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、合成樹脂製の成形体の表面になめし皮、スウェード調等のような皮革調の質感及び弾性感を付与するように工夫した塗工代替用シート材及びそれを使用した成形体並びにそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム等といった成形体は、質感を高めるため、射出成形法等によって所定形状に成形された合成樹脂製の成形基材の表面に皮革調の被膜を設けて構成されている。この被膜は、例えば合成皮革、艶消し剤が添加される等して半艶消し等に調製された塗料等で形成されていた。しかし、合成皮革で形成された被膜は製造作業が煩雑となり合理化を図りづらく、塗料で形成された被膜は皮革特有の弾性感に乏しいものとなった。
【0003】
そこで、皮革の質感を有する成形体を塗工によらずともその外観品質を維持しながら簡易に製造することが可能な塗工代替用シート材が本発明者等により提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この塗工代替用シート材は、コーティング剤によって形成された被膜と、被膜の表面に積層された保護フィルムと、被膜の裏面に設けられた発泡体よりなる弾性層とを備えており、インモールド成形法で成形体を成形する際に使用されるものである。同塗工代替用シート材は、前記弾性層のJIS K 6251に規定される破断伸び率を50〜250%とし、成形体の成形時における弾性層の破断を抑制することにより、成形基材の表面への積層を可能としたものである。そして、同弾性層を設けることにより、成形体の表面で皮革調の弾性感をも再現するよう構成されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−321248号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記の塗工代替用シート材を使用し、複数の曲面が多彩に組み合わさったような複雑な外観形状の成形体を成形する場合、成形体の表面で任意の各箇所毎に弾性層の伸び率は異なるものとなる。つまり、成形体の表面で、ある箇所では弾性層が大きく伸ばされた状態となっているにも係わらず、他のある箇所では弾性層がほとんど伸ばされていない状態となっている等する場合がある。弾性層の伸び率が異なると、成形時に成形体の表面に歪みが発生したり、表面の一部に成形時に加わる応力が集中しやすくなったり等してしまう。そして、このような場合、伸びがあり柔らかな発泡体よりなる弾性層は、成形時に高い確率で破断してしまう。また、伸び率が異なれば弾性層の厚みも異なることから、成形後の成形体の表面強度が低下してしまう可能性もある。この場合、成形時には弾性層が破断せずとも、弾性層の表面に積層された被膜が成形体の使用時に傷ついたり、この被膜とともに弾性層が破断したり等するおそれがあった。
【0006】
この発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、成形体の表面に皮革の質感を付与するとともに、成形時の破断を防止することができる塗工代替用シート材及びその製造方法を提供することにある。その他の目的としては、その表面で皮革の質感を発揮することができるとともに、使用時における同表面の傷つきを抑制することができる成形体及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の塗工代替用シート材の発明は、成形体への塗工の代替手段として用いられるものであり、合成樹脂製の成形基材を所定形状に成形しつつ、同成形基材の表面に装飾を施して成形体を得るインモールド成形法、真空成形法、ブロー成形法又は圧空成形法で使用される塗工代替用シート材であって、前記成形基材の表面に設けられることにより前記成形体の表面に弾性感を付与するための発泡体よりなる弾性層と、当該弾性層の表面に設けられ、同弾性層の破断を抑制するための合成樹脂製の破断保護層と、当該破断保護層の表面に設けられ、前記成形体の表面を装飾するための合成樹脂製の装飾層とを備えるとともに、前記成形体の成形条件下においてJIS K 6251に規定される破断伸び率が50〜250%であり、かつJIS K 6301に規定される破断強度が1.5〜4.0MPaであることを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1に記載の発明において、前記装飾層の表面には熱可塑性樹脂よりなる保護フィルムを設けるとともに、この保護フィルムは、成形体の成形時における破断伸び率が50〜250%であることを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記装飾層は、イソシアネート基に反応する官能基を有するエステル系、ウレタン系又はアクリル系樹脂に架橋剤としてポリイソシアネートを配合して得られる一液型又は二液型の塗料より形成されたものであることを要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記破断保護層は、その厚みが5〜100μmであることを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記装飾層は、その厚みが5〜80μmであることを要旨とする。
【0012】
請求項6に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記弾性層は、その厚みが0.1〜10mmであることを要旨とする。
【0013】
請求項7に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記破断保護層は、その表面の硬度が、JISK 5400に規定される鉛筆硬度でB〜HBであることを要旨とする。
【0014】
請求項8に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の発明において、前記装飾層は、顔料によって着色された塗料から形成される着色層と、当該着色層の表面に設けられた透明な塗料から形成されるコーティング層とよりなるものであることを要旨とする。
【0015】
請求項9に記載の塗工代替用シート材の製造方法の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材の製造方法であって、弾性層をシート状に成形した後、この弾性層の表面に合成樹脂製の薄膜を熱ラミネート又は合成樹脂製の薄膜を加熱溶融された合成樹脂を弾性層の表面に押し出し成膜することによって破断保護層を設け、その後、この破断保護層の表面に合成樹脂よりなる装飾層を形成することを要旨とする。
【0016】
請求項10に記載の塗工代替用シート材の製造方法の発明は、請求項9に記載の発明において、前記装飾層を形成した後、さらに当該装飾層の表面に熱可塑性樹脂よりなる保護フィルムを積層することを要旨とする。
【0017】
請求項11に記載の成形体の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材を使用し、インモールド成形法、真空成形法、ブロー成形法又は圧空成形法で成形基材を所定形状に成形しつつ、同成形基材の表面に塗工代替用シート材の弾性層を接合することにより、塗工代替用シート材と成形基材とが一体化されて構成され、その表面に弾性感を有するとともに、同表面の硬度が、JIS K 5400に規定される鉛筆硬度で3H以上であることを要旨とする。
【0018】
請求項12に記載の成形体の製造方法の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材を一対の金型のキャビティ内に配置し、キャビティ内の温度を100〜300℃とした状態で塗工代替用シート材の弾性層側から成形基材を形成する加熱溶融された合成樹脂材料を射出した後、両金型を冷却することにより、成形基材の表面に弾性層を熱融着させて塗工代替用シート材及び成形基材を一体化させることを要旨とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図2(b)に示すように、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム等に用いられる所定形状をなす成形体は、成形基材21と、成形基材21の上面に貼着された被膜22とを備えている。この成形基材21は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の合成樹脂より形成されている。前記被膜22は、弾性層11と、この弾性層11の表面に設けられた合成樹脂製の破断保護層11aと、当該破断保護層11aの表面に設けられた装飾層12とから構成されている。当該被膜22は、成形体の表面に皮革調の質感を付与するためのものであり、前記弾性層11がその裏面で成形基材21の表面に熱融着されることにより、成形基材21と一体化されている。ここで、皮革調の質感とは、主に使用者等の視覚によって認識可能な皮革製品と同等の美感と、使用者等の触覚によって認識可能な皮革製品と同等の弾性感とをいう。
【0020】
前記弾性層11は、合成樹脂製の発泡体より形成されており、成形体の表面に弾性感を付与するために設けられている。すなわち、当該弾性層11は、使用者等が成形体の表面に触れた際に弾性変形し、当該使用者等の触覚へ柔らかな感触を返すことにより、皮革調の質感のうち皮革製品と同等の弾性感を発揮するものである。
【0021】
当該弾性層11は、その材料として成形基材21に対して熱融着されやすい合成樹脂を用いることが好ましい。このような合成樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、オレフィン系又はスチレン系の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これら合成樹脂よりなる材料に発泡剤を添加し、加熱したり等することにより発泡体が得られる。また、発泡体には、その内部に形成される複数の気泡がそれぞれ独立した独立気泡を有するものと、複数の気泡が繋がった連続気泡を有するものとが存在し、当該弾性層11には独立気泡を有する発泡体を使用することが好ましい。これは、連続気泡を有する発泡体は、伸ばした際に連続気泡を形作るその周囲の部分が一つの連続気泡を起点として連鎖状に破断しやすいためである。この発泡体には、発泡倍率が5〜50倍のものを使用することが好ましい。発泡倍率が5倍未満の場合、弾性層11が硬くなって皮革調の弾性感を発揮しづらくなり、50倍より高い場合、弾性層11が過剰に柔らかくなって成形体の成形時に破断してしまうおそれがある。
【0022】
前記破断保護層11aは、合成樹脂製の薄膜より形成されており、弾性層11の破断を抑制するために設けられている。すなわち、当該破断保護層11aは、弾性層11が伸ばされたり、弾性変形されたりする際、過剰に伸びたり、弾性変形したりすることを抑制することにより、弾性層11のみならず、装飾層12をもその破断から保護するものである。また、この破断保護層11aは、発泡体よりなる弾性層11の表面を被覆し、弾性層11の表面に存在する穴を塞ぐものとなる。このため、破断保護層11aは、装飾層12を形成する合成樹脂の同穴への浸入を防止するとともに、成形体の表面を平坦状とする機能をも発揮するものである。
【0023】
当該破断保護層11aは、弾性層11の表面に前記薄膜を熱ラミネートする、又は弾性層11の表面に加熱溶融された合成樹脂を押し出し成膜して前記薄膜を形成することにより、弾性層11に熱融着されている。このため、当該破断保護層11aの材料には、弾性層11に対して熱融着されやすい熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。特に、熱可塑性樹脂のなかでも、弾性層11に使用した合成樹脂と同系又は同種の合成樹脂を使用することがより好ましい。そして、このような熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、オレフィン系又はスチレン系の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0024】
前記装飾層12は、合成樹脂を含む塗料より形成されており、成形体の表面を装飾するために設けられている。すなわち、当該装飾層12は、塗料の調製で皮革製品の色調を再現することにより、その色調で皮革調の質感のうち皮革製品と同等の美感を発揮させるものである。この装飾層12を形成する塗料は、顔料と、顔料を結着する合成樹脂と、これらを溶解する溶剤とから形成されたものである。顔料には、下層となる弾性層11の色調に影響されず、これを隠蔽することができるように、不透明な色調のものを使用することが好ましい。加えて、この塗料には、艶消し剤が所定量混ぜられており、装飾層12の色調を若干の光沢を有する半艶消し又は全く光沢のない艶消しとすることにより、その外観を皮革調により近似させることができるように構成されている。
【0025】
当該装飾層12を形成する塗料としては、ヒドロキシル基等の官能基を有するポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアクリル系等の樹脂組成を有する塗料が挙げられる。加えて、ヒドロキシル基と反応するイソシアネート基を官能基として有するポリイソシアネート等を硬化剤として配合してもよい。また、着色層12aに対するコーティング層12bの接着性を高めるため、これらを形成する塗料には同系の合成樹脂よりなるものを使用することが好ましい。この実施形態の塗料には硬化剤としてブロックイソシアネートを用いる一液型のアクリル系樹脂塗料又は硬化剤としてポリイソシアネートを用いる二液型のアクリル系樹脂塗料が必要に応じて選択して使用されている。
【0026】
当該装飾層12は、硬化した状態(キュアリング状態)で通常条件下(1気圧、25℃)における破断伸び率が、好ましくは10〜100%である。ここで、硬化した状態(キュアリング状態)とは、塗料中の樹脂と硬化剤との反応率が80〜100%の状態をいう。キュアリング状態で破断伸び率が10未満の場合、弾性層11の弾性変形に追従して破断保護層11aとともに変形することができず、破断してしまうおそれがある。破断伸び率が100%を超える場合、却って剛性が低下し、成形体の表面のスクラッチ耐性が低下してしまう。
【0027】
ここで、従来の塗料を使用して皮革調の質感を付与した従来の成形体について説明する。従来の成形体は、塗料の色調を調製することにより、皮革調の質感のうち美観のみを付与したものであった。これは、従来の塗料は、キュアリング状態での伸びがほとんどないためである。つまり、色調の調製によって皮革調の美観を付与したとしても、キュアリング状態で伸びのない従来の塗料で形成された装飾層は、実際に触れると硬い感触しか与えず、皮革製品の弾性感には遠く及ばないものとなるためである。たとえ本発明のような発泡体よりなる弾性層11を設けたとしても、装飾層を従来の塗料で形抜成する限り、成形体の表面は硬くなり、加えて弾性層11の弾性変形に追従して装飾層が変形することができずに破断してしまうおそれもある。また、従来の成形体においては、その表面を構成する装飾層が硬いことから、他の物が当たったり等したとき、合成樹脂製の成形体に特有の軽く乾いた打音が発生し、加えて打痕も生じてしまう。
【0028】
そこで、本発明者等は、当該成形体の表面に皮革調の質感として、皮革製品と同等の美観のみならず、皮革製品と同等の弾性感を付与することを第1の目的とした。この第1の目的を達成するため、皮革調と同等の美観を付与するために塗料の色調を調製し、皮革製品と同等の弾性感を付与するために被膜22に発泡体よりなる弾性層11が設けられている。さらに、装飾層12を形成する塗料には、キュアリング状態で破断伸び率が10〜100%という、柔軟性を有するものが使用されている。そして、発泡体よりなる弾性層11と、キュアリング状態でも柔軟性を有する塗料から形成された装飾層12の2つにより成形体の表面へ皮革調の弾性感の付与を達成し得た。
【0029】
当該成形体は、上記のように皮革調の弾性感を付与するが故、弾性層11と装飾層12とに柔らかなものが使用されており、当然、成形体の表面強度は、従来の塗料を塗工したもの等に比べて低くなる。実際に、弾性層11及び装飾層12のみを備える成形体の表面の鉛筆硬度を測定するとB〜HBであることに対し、従来の塗料を塗工して形成された従来成形体の表面の鉛筆硬度は3H以上である。使用者等が普段は触れない成形体であれば弾性層11と装飾層12とで十分な表面強度を達成することが可能ではある。ところが、本発明の成形体は、使用者等が触れることによっても皮革調の弾性感を付与するという目的からも明らかなように、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム等のような使用者等が触れることを前提としたものである。
【0030】
そこで、本発明者等は、弾性層11及び装飾層12による柔らかさを維持しつつも、被膜22の強度向上を図り、従来成形体の表面強度と同等(鉛筆硬度で3H以上)の成形体を得ることを第2の目的とした。この第2の目的を達成するため、弾性層11と装飾層12との間には破断保護層11aが設けられている。
【0031】
すなわち、被膜22及び成形基材21が一体化されて構成された当該成形体は、スクラッチ耐性を示すその表面の硬度が、JIS K 5400に規定される鉛筆硬度で3H以上である。この硬度は、前記破断保護層11aを設けることによって初めて達成可能となる。つまり、破断保護層11aは、成形体の表面に使用者等が触れ、弾性層11及び装飾層12が変形される際、この変形に追従して同様に変形するとともに、過剰な伸び、歪み、変形等を抑制することにより、弾性層11及び装飾層12の破断を防止している。この硬度が鉛筆硬度で3H未満の場合、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム等のような成形体において、普段の使用状態で使用者等が触れた際、被膜22が傷ついたり、破断したり等の不具合が高い確率で発生してしまう。
【0032】
また、成形体の表面の鉛筆硬度を3H以上とするためには、破断保護層11aの表面の硬度を、鉛筆硬度でB〜HBとすることが好ましい。破断保護層11aが鉛筆硬度でB以下の場合、装飾層12の過剰な変形を抑えるのに十分な強度を有しないおそれがあり、装飾層12を形成する塗料をキュアリング状態としても、成形体の表面の鉛筆硬度が3H未満となってしまう可能性がある。鉛筆硬度をHBより高くしても、これ以上成形体の表面の鉛筆硬度は飛躍的に向上せず、却って皮革調の弾性感を損なうおそれがある。
【0033】
さらに、本発明者等は、被膜22の強度向上に基づき、他の物が当たったり等したときに発生する打音及び打痕を抑えることを第3の目的とした。この第3の目的も、破断保護層11aを設けることによって初めて達成可能となる。つまり、打音のみならば弾性層11及び装飾層12でも吸収することは可能である。しかし、この場合には弾性層11及び装飾層12が大きく変形し、特に装飾層12が破断する等して高い確率で打痕が生じてしまう。これに対し、破断保護層11aが設けられた場合、弱い衝撃ならば破断保護層11a、弾性層11及び装飾層12の3つが変形し、これを吸収することにより、打音及び打痕を抑えることが可能である。また、強い衝撃においても、破断保護層11aが弾性層11及び装飾層12の変形を抑え、強い衝撃に抗して打ち消すことにより、打音及び打痕を抑えることが可能である。
【0034】
前記破断保護層11aは、弾性層11の表面を被覆し、その穴をある程度塞ぐ機能も有する。すなわち、装飾層12は、塗料から形成されたものであり、この塗料は液体であることから、弾性層11の表面に直接的に塗布した場合、その表面の穴に塗料が染みこみ、成形体の表面に目視可能な大きさの凹凸が形成されてしまうおそれがある。そして、破断保護層11aは、弾性層11の穴を塞ぎ、塗料の染みこみを防止することにより、成形体の表面を皮革特有の適度なざらつき感を有する平坦状のものとしている。
【0035】
この適度なざらつき感は、成形体の表面粗さと、静摩擦係数とで具体的に示すことが可能である。成形体の表面粗さは、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)で好ましくは3.0〜4.0μmである。静摩擦係数は、好ましくは0.01〜0.6である。Rzが3.0μm未満又は静摩擦係数が0.01未満の場合、表面が過度に平滑となり、適度なざらつき感を得られないおそれがある。Rzが4.0μmを超える又は静摩擦係数が0.6を超える場合、成形体の表面で凹凸が目立つようになり、皮革調の美観を得られなくなるおそれがある。
【0036】
上記の成形体において、被膜22は、成形基材21を成形する際、その表面に対する塗工の代替手段として、塗工代替用シート材を使用し、成形基材21の上面に弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12を転写することにより形成されている。そこで、この塗工代替用シート材について説明する。なお、これ以降は、塗工代替用シート材を単にシート材と記載する。
【0037】
図1に示すように、シート材10は、前記弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12と、装飾層12の表面に積層され、これを保護する保護フィルム13とから構成されている。この保護フィルム13は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等の熱可塑性合成樹脂より形成されている。また、保護フィルム13を形成する熱可塑性合成樹脂には、装飾層12に対し、完全には貼着されず、剥離可能な程度の所定の貼着力を発揮するものを使用することが好ましい。加えて、保護フィルム13の装飾層12に対する貼着力は、破断保護層11aに対する装飾層12の貼着力と比較して弱いものであることが好ましい。
【0038】
当該シート材10は、成形体の成形時において、その多種多様な表面形状に対応して伸ばすことができるように、所定の柔軟性を有するものを使用する必要がある。このため、シート材10を構成する弾性層11、破断保護層11a、装飾層12及び保護フィルム13は、その柔軟性をJIS K 6251に規定される破断伸び率で表現すると、破断伸び率が以下のように規定されている。
【0039】
前記弾性層11及び破断保護層11aの破断伸び率は50〜250%である。この破断伸び率が50%未満の場合、成形体の成形時にその表面形状に対応することができず、弾性層11及び破断保護層11aが破断してしまう。破断伸び率が250%より高い場合、弾性層11及び破断保護層11aの剛性が低下し、成形体の表面形状に対応した形状を維持できなくなったり、同成形体の表面強度(スクラッチ耐性)が低下し、他部材による引っ掻き、擦れ等により成形体の表面が傷ついてしまう。
【0040】
前記装飾層12は、成形体の被膜22を構成する状態ではキュアリング状態とされていたが、シート材10を構成する状態では未硬化の状態(セミキュアリング状態)とされている。セミキュアリング状態の装飾層12は、キュアリング状態のものと比較して大きく伸びることが可能であり、これに伴い破断伸び率も大きなものとなる。ここで、未硬化の状態(セミキュアリング状態)とは、塗料中の樹脂と硬化剤との反応率が0%以上、80%未満の状態をいう。そして、セミキュアリング状態の装飾層12の破断伸び率は、50〜250%である。破断伸び率が50%未満の場合、成形体の成形時に装飾層12が破断してしまう。破断伸び率を250%より高くしても、これ以上の伸びを付与する必要はなく、却って装飾層12の強度の低下を招くこととなる。
【0041】
前記保護フィルム13の破断伸び率は、好ましくは50〜250%である。破断伸び率が50%未満の場合、保護フィルム13を成形体の表面形状に追従して伸ばしにくく、成形体の表面が歪んで成形されてしまうおそれがある。他に、保護フィルム13が伸びず、弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12のみが成形基材21の形状に対応して伸びようとすることにより、被膜22にしわが形成されたり、弾性層11が成形基材21の表面から浮き上がったり、剥がれたりする等の不具合を生じるおそれもある。破断伸び率が250%より高い場合、弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12がその伸びに追従しにくく、破断されたり、剛性が低下して成形体に対応した形状を維持することができずに成形基材21を正確に成形できなくなったり等するおそれがある。
【0042】
上記のように、シート材10を構成する弾性層11、破断保護層11a、装飾層12及び保護フィルム13は、それら全ての破断伸び率が50〜250%とされている。つまり、シート材10は、成形体の成形条件下において、その全体の破断伸び率が50〜250%とされている。従って、成形体の成形時におけるシート材10の破断、剛性の低下等のような不具合の発生が防止されている。
【0043】
成形体の成形時におけるシート材10の剛性は、具体的にJIS K 6301に規定される破断強度で示される。これは、成形体の成形条件下において、シート材10は、成形基材21の表面形状に追従して伸ばすことが可能なものであることも重要であるが、これに加え、伸ばされた際に容易に破断されないものであることも重要となるためである。そして、成形体の成形条件下でシート材10の破断強度は、1.5〜4.0MPaである。破断強度が1.5MPa未満の場合、伸ばすことは可能であっても容易に破断してしまうシート材10となり、成形体を成形することができなくなる。破断強度が4.0MPaを超える場合、シート材10の全体的な硬さが増すこととなり、全体的な伸びが小さくなったり、被膜22を形成した際に皮革調の弾性感を得られなくなったり等の不具合を生じることとなる。
【0044】
弾性層11、破断保護層11a、装飾層12及び保護フィルム13は、破断伸び率を50〜250%及び破断強度を1.5〜4.0MPaに維持し、かつそれぞれの機能を保持するため、それぞれの厚みを以下のように規定することが好ましい。
【0045】
前記弾性層11の厚みは、好ましくは0.1〜10mmである。弾性層11の厚みが0.1mm未満の場合、皮革調の弾性感を発揮しづらくなるとともに、剛性が低下することにより破断伸び率を維持しにくくなる。厚みが10mmを超える場合、弾性層11が弾性変形しやすくなることから、成形体の成形時及び使用時に弾性層11の表面に積層された破断保護層11a及び装飾層12も変形しやすくなり、スクラッチ耐性の低下を招くおそれがある。
【0046】
前記破断保護層11aの厚みは、好ましくは5〜100μmである。破断保護層11aの厚みが5μm未満の場合、当該破断保護層11aの剛性が低下し、弾性層11及び装飾層12を破断から保護することができなくなるおそれがある。厚みが100μmを超える場合、当該破断保護層11aの柔軟性が低下し、成形体の表面に皮革調の弾性感を付与することができなくなるおそれがある。
【0047】
前記装飾層12の厚みは、好ましくは5〜80μmである。装飾層12の厚みが5μm未満の場合、その強度が低下し、成形体の成形時又は使用時に装飾層12がひび割れたり、破断したり、傷付いたり等の不具合を生じやすくなる。厚みが80μmを超えると、装飾層12が硬くなり、成形体の成形時に伸びにくくなったり、皮革調の弾性感を損ねたり等するおそれがある。
【0048】
前記保護フィルム13の厚みは、好ましくは50〜1000μmである。厚みが50μm未満の場合、保護フィルム13の剛性が低下し、装飾層12等を十分に保護することができず、これらにひび割れ、破断等の不具合が発生しやすくなる。厚みが1000μmを超える場合、シート材10が硬く、伸びにくくなり、成形体を所定形状に成形しづらくなる。
【0049】
次に、上記シート材10の製造方法について説明する。
シート材10を製造するときには、まずシート状に成形された発泡体から弾性層11を形成した後、この弾性層11の表面に破断保護層11aが熱ラミネート又は押し出し成膜によって形成される。その後、破断保護層11aの表面にスプレーコート、ロータリースプレーコート、ロールコート等の方法で塗料が塗布され、乾燥されることにより、装飾層12が形成される。
【0050】
ここで、図3(a),(b)に示すようなロールコート法を行うための塗装装置で装飾層12を形成する方法について説明する。この塗装装置を構成する塗装ローラ31は円柱状をなし、図中の矢印方向へ回転可能に支持されている。塗装ローラ31の側方には若干の間隔を空けて円柱状をなす計量ローラ32が塗装ローラ31と同方向へ回転可能に支持されている。塗装ローラ31の下方位置にはスプレーノズル33が設置されている。このスプレーノズル33からは塗装ローラ31の周面に向かって塗料が吹き付けられるとともに、吹き付けられた塗料は計量ローラ32により均一な厚さになるようにその量が調整されている。塗装ローラ31の上方位置には円柱状をなす送出ローラ34が塗装ローラ31と逆方向に回転可能に支持されている。
【0051】
塗装装置において、上方の一側部からは、その表面に破断保護層11aが形成された弾性層11が供給される。このとき、弾性層11は破断保護層11aが外周側に配置されるように供給される。この弾性層11は、送出ローラ34により下方へ移送されるとともに、その途中で塗装ローラ31の周面に圧接されることにより、その表面に設けられた破断保護層11a上に塗料が塗布される。この後、図示しないヒータ等によって塗料が乾燥され、塗料中の溶剤が飛散されることにより、弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12よりなるシート材10が形成される。
【0052】
装飾層12を形成するとき、塗料の乾燥は、乾燥温度80〜100℃、乾燥時間30〜60分で行うことが好ましい。乾燥温度が80℃、乾燥時間が30分未満の場合、塗料中の溶剤が十分に飛散せず、破断保護層11aの表面で塗料が流れたり等して外観品質が低下するおそれがある。また、乾燥温度が100℃より高く、乾燥時間が60分より長いと、塗料中におけるエステル系、アクリル系、ウレタン系樹脂の架橋反応が進行し、塗料がキュアリング状態となってしまうおそれがある。そして、乾燥温度80〜100℃、乾燥時間30〜60分で乾燥することにより、樹脂の架橋反応が反応率0〜10%程度で止められる。
【0053】
弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12よりなるシート材10が形成された後、装飾層12の表面には貼付装置を用いて保護フィルムが貼着される。図3(b)に示すように、貼付装置を構成する第1供給ドラム41は円筒状をなし、装置の最も上流側(図中で左側)に回転可能に支持されている。このときシート材10は、装飾層12を内周側に位置させるようにして第1供給ドラム41の周面上に円環状に巻回される。第1供給ドラム41の下方には円筒状をなす第2供給ドラム42が回転可能に支持されており、その周面上には別箇所にてシート状に成形された保護フィルム13が円環状に巻回された状態で保持されている。第1供給ドラム41及び第2供給ドラム42よりも装置の下流側(図中で右側)には従動ローラ43及びヒータローラ44が上下に配設されている。このヒータローラ44の内部には図示しないヒータが設置され、ヒータローラ44が加熱される。
【0054】
第1供給ドラム41及び第2供給ドラム42から従動ローラ43及びヒータローラ44間にそれぞれ引き出されたシート材10及び保護フィルム13は、加熱されるとともに、従動ローラ43及びヒータローラ44の間で互いに圧接される。そして、保護フィルム13がシート材10の装飾層12に貼着される。また、保護フィルム13が設けられたシート材10は、従動ローラ43及びヒータローラ44よりも装置の下流側に配設された引き込みローラ45及び巻取りローラ46の回転により、巻取りローラ46の外周面上に円環状に巻回された状態で回収される。なお、引き込みローラ45は、シート材10に所定の力でテンションを加えることにより、シート材10を巻取りローラ46に弛みなく巻回させる機能を有するものである。
【0055】
シート材10の装飾層12は、前記ヒータローラ44からの加熱により、セミキュアリング状態とされる。装飾層12をセミキュアリング状態とするための加熱処理は、加熱温度100〜140℃、加熱時間10〜30秒で行うことが好ましい。加熱温度が100℃未満、加熱時間が10秒未満の場合、塗料中における架橋反応が十分に進行せず、装飾層12がセミキュアリング状態よりもさらに前の状態、つまり架橋反応の反応率が0〜10%程度の状態で止められてしまうおそれがある。この場合、成形体の成形時に塗料中の樹脂が硬化せず、溶融されて破断保護層11a上に保持されず流れ出してしまうおそれがある。加熱温度が140℃より高く、加熱時間が30秒より長い場合、塗料がキュアリング状態となり、成形体の成形時に装飾層12が破断してしまうおそれがある。
【0056】
次いで、成形体の製造方法について説明する。
上記のシート材10を用いて得られる成形体は、成形基材21を所定形状に成形しつつ、同成形基材21の表面に装飾を施すことが可能なインモールド成形法、真空成形法、ブロー成形法又は圧空成形法によって製造されている。これら成形法の中でも、インモールド成形法は、成形基材21を所定形状に成形しつつ、の表面にシート材10を一体化させることが可能であるため、この実施形態の成形体の成形法として好ましい。また、インモールド成形法のなかでも、シートスタンピングモールド成形法(射出プレス成形法)は、成形基材21を形成する合成樹脂を射出しつつ、シート材10をプレスすることが可能であるためより好ましい。
【0057】
さて、射出プレス成形法で使用する一対の金型は、一方が固定型(雄型)、他方が可動型(雌型)となっており、型締めされた両型の内部には成形体の形状を有するキャビティが形成されている。前記シート材10は、可動型のキャビティ内にクランプ等で固定される。このとき、シート材10は、固定型側に弾性層11が、可動型側に保護フィルム13及び装飾層12が配置されるように固定される。この後、キャビティ内を所定温度としながら固定型に対し可動型が接近することにより、シート材10が成形体の表面形状に近似した形状となるようにプレス成形される。なお、この際、固定型と可動型は型締めされていない。
【0058】
このプレス成形によりシート材10が所定形状に成形された後、シート材10の弾性層11側、つまり固定型のキャビティとシート材10との間に加熱溶融された合成樹脂材料が所定圧力で射出される。そして、固定型に対し可動型がさらに接近し、固定型と可動型とが型締めされる。すると、合成樹脂材料は両型で押し潰されるようにしてキャビティ内に広がるとともに、シート材10は加熱溶融された合成樹脂材料からこのとき加わる圧力及び温度により、キャビティの形状に合わせて伸ばされつつ、変形される。このとき、弾性層11と成形基材21との境界部分において、互いを形成する合成樹脂同士が溶融しあうことにより、弾性層11が成形基材21の表面に溶着される。また、装飾層12は保護フィルム13によってその表面を保護された状態にあり、キャビティへの直接的な接触を防止されていることから、キャビティへの溶着、傷付き、剥離、溶融によるただれ等の不具合が防止される。
【0059】
この後、両型を冷却後、型開きし、図2(a)に示すように、保護フィルム13が貼り付けられたままの成形体が取り出され、装飾層12を形成する塗料がキュアリング状態となるまで乾燥される。そして、装飾層12を形成するコーティング剤の乾燥が終了した後、図2(b)に2点差線で示すように保護フィルム13が取り外され、成形体が製造される。この成形時の成形条件において、成形温度は、使用する合成樹脂の種類によってそれぞれ溶融温度が異なることから一概に決められるものではない。しかし、成形基材21の材料に前に挙げたポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂等の合成樹脂を使用する場合であれば、100〜300℃である。また、成形時の成形条件において、キャビティ内の圧力は溶融された合成樹脂の流度、成形体の形状等によって異なることから一概に決められるものではなく、概算で0.1〜2.0MPaである。
【0060】
装飾層12をキュアリング状態とするための乾燥は、乾燥温度80〜100℃、乾燥時間30〜60分で行うことが好ましい。乾燥温度が80℃、乾燥時間が30分未満の場合、装飾層12中のポリエステル系、ポリアクリル系樹脂のポリイソシアネートによる架橋反応が完全に終了せず、コーティング剤がセミキュアリング状態から変化しにくく、装飾層12の傷付き等の不具合を生じることになる。乾燥温度が100℃より高く、乾燥時間が60分より長い場合、成形基材21及び弾性層11が乾燥時の加熱によって変形する等の不具合を生じるおそれがある。
【0061】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 実施形態の成形体及びシート材10によれば、設けられた弾性層11が弾性変形することにより皮革の弾性感が、設けられた装飾層12の色調を調製することにより皮革の美観が付与されている。当該弾性層11の表面は破断保護層11aによって被覆されている。この破断保護層11aは、成形体の成形時において、弾性層11の過剰な伸び、変形を抑制し、これを破断から保護するのみならず、成形体の使用時には弾性層11の過剰な弾性変形を抑制し、装飾層12を破断から保護している。このため、シート材10においては、成形体の表面に皮革の質感を付与するとともに、成形体の成形条件下で破断伸び率が50〜250%という大きな伸びを達成しつつ、破断強度が1.5〜4.0MPaという破断に強いものとすることができ、成形時の破断を防止することができる。成形体においては、皮革の質感を発揮することができるとともに、表面の鉛筆硬度が3H以上という硬度を達成することができ、使用時における同表面の傷つきを抑制することができる。
【0062】
・ また、シート材10において、装飾層12の表面には保護フィルム13が設けられている。この保護フィルム13によって装飾層12の表面を被覆することにより、シート材10の運搬時、成形体の成形時等における装飾層12の溶融、傷つき、破断等といった不具合の発生を防止することができる。
【0063】
・ また、装飾層12を形成する塗料は、イソシアネート基に反応する官能基を有するエステル系、ウレタン系又はアクリル系樹脂に架橋剤としてポリイソシアネートを配合して得られる一液型又は二液型のものである。このため、装飾層12をシート材10を構成するセミキュアリング状態では大きな伸びを有し、成形体を構成するキュアリング状態では柔軟性を維持しつつ強度の高いものとすることができる。
【0064】
・ また、破断保護層11aの厚みは5〜100μm、装飾層12の厚みは5〜80μm、弾性層11の厚みは0.1〜10mmとされている。これにより、大きな破断伸び率を維持しつつ、破断強度を高くすることができる。また、成形体としたときに表面強度の向上を図ることができる。
【0065】
・ また、破断保護層11aの表面の鉛筆硬度は、B〜HBである。これにより、破断保護層11aの破断伸び率を大きく維持しつつ、成形体としたときの表面強度の向上を図ることができる。
【0066】
・ また、シート材10の製造方法において、破断保護層11aは、熱ラミネート又は押し出し成膜によって形成されている。これにより、弾性層11の表面に破断保護層11aを簡易に設けることができる。
【0067】
・ また、成形体は、射出プレス成形法によって製造されている。この射出プレス成形法では、シート材10をプレスによって成形体に近似した形状に成形した後、合成樹脂が射出される。このように、合成樹脂が射出される前にシート材10が成形体に近似した形状とされることから、合成樹脂が射出されるときの圧力でシート材10が大きく変形されることを抑制することができ、成形時におけるシート材10の破断を防止することができる。
【0068】
【実施例】
以下、前記実施形態をさらに具体化した実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
発砲倍率が10倍のポリプロピレン(PP)製発泡体を使用し、厚さ10mmの弾性層11を形成した。この弾性層11の表面に対し、無色透明の未延伸PP製フィルムを150℃、5秒で熱ラミネートして、厚さ40μmの破断保護層11aを形成した。その後、破断保護層11aの表面に塗料をスプレーコートし、着色層とコーティング層とを有する装飾層12を厚さ20μmで形成した。この塗料には、硬化剤としてイソシアネートを用いる一液型の変性ポリエステル樹脂塗料を着色層の塗料に、硬化剤としてイソシアネートを用いる一液型のアクリル樹脂塗料をコーティング層の塗料に使用した。このようにして実施例1のシート材10を得た。
【0069】
(実施例2)
破断保護層11aの厚みを90μmとし、かつコーティング層の塗料として二液型のアクリル樹脂塗料を使用した以外は実施例1と同様にして実施例2のシート材10を得た。
【0070】
(比較例1)
破断保護層11aを省略した以外は実施例1と同様にして比較例1のシート材10を得た。
【0071】
(外観の測定)
実施例1及び2と、比較例1のシート材10について、その弾性感、十点平均粗さ(Rz)及び静摩擦係数を測定した。この結果を表1に示す。なお、弾性感は測定者の触覚により5段階で評価し、弾性感が最も柔らかいものを5とした。
【0072】
【表1】
表1の結果より、実施例1及び2と、比較例1について、全て弾性感の評価が4〜5と柔らかく、Rzが3.0〜4.0μmであり、静摩擦係数が0.01〜0.6であることから適度なざらつき感を有するものとなった。このことから、弾性層11を設けることにより、実施例1及び2と、比較例1とが皮革の質感を効果的に有していることが示された。
【0073】
(真空成形法による外観の変化の測定)
実施例1及び2と、比較例1のシート材10を真空成形法にて、奥行き120mm、幅180mm、高さ100mmの箱状に成形し、各シート材10の外観の変化を測定した。真空成形は、各シート材10の上面を赤外線ヒータで10秒間加熱し、130℃とした後、温度25℃の真空成形用の金型を使用し、成形時間40秒(冷却時間30秒を含む)で行った。そして、真空成形後の被膜22の亀裂、破断等といった外観の変化を測定した。この結果を表2に示す。なお、測定は測定者が保護フィルム13越しに被膜22を目視することにより行った。また、表2において○は外観に変化がない、×は外観に変化ありを示す。
【0074】
【表2】
表2の結果より、実施例1及び2は、シート材10の破断伸び率が150、200、250%のすべてにおいて、外観に変化が無く、良好な結果が得られた。これに対し、比較例1は、破断伸び率が150%では外観に変化が無く、良好な結果が得られた。しかし、破断伸び率が200%で被膜22の弾性層11に亀裂が生じ、破断伸び率が250%では弾性層11及び装飾層12の両方が破断し、被膜22の外観に変化が見られた。以上の結果より、実施例1及び2は比較例1と比較し、大きく伸ばしたときにもシート材10が破断しないことが示された。
【0075】
(鉛筆硬度及び破断強度の測定)
実施例1及び2と、比較例1のシート材10について、装飾層12をセミキュアリング状態として、JIS K 6301に規定された方法で破断強度を測定した。このとき、破断強度は、シート材10の周縁部(MD)と、中心部(CD)の2箇所で測定した。その後、装飾層12をキュアリング状態として、JISK 5400に準拠する方法で鉛筆硬度を測定した。このとき、鉛筆硬度は、シート材10に加える加重を500g及び700gとして二通り測定した。この結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
表3の結果より、実施例1及び2は、破断強度がMD及びCDの2箇所で1.5〜4.0MPaであり、鉛筆硬度は500g及び700gの加重で3H以上であった。これに対し、比較例1は、破断強度がMDは1.72MPaであり所望値を満たすが、CDが1.4MPaと所望値より低くなった。このため、比較例1は、前に挙げたように破断伸び率が150%では破断しないものの、破断伸び率が200%、250%と大きくなれば破断してしまうと推定される。また、鉛筆硬度も低く、成形体の使用時においては傷付きやすいものと推定される。以上の結果より、実施例1及び2は比較例1と比較し、破断強度が向上していることから、さらに大きく伸ばしたときにもシート材10が破断せず、またその表面強度も向上していることが示された。
【0077】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 装飾層12を、顔料によって着色された塗料から形成される着色層と、当該着色層の表面に設けられた透明な塗料から形成されるコーティング層とから形成してもよい。この着色層は、破断保護層11aの表面に設けられるものであり、皮革製品の色調を再現するものである。コーティング層は、着色層の表面に設けられるものであり、着色層を被覆し、傷付きから保護することによって成形体の表面のスクラッチ耐性を向上させるものである。着色層を形成する着色された塗料は、実施形態で挙げた塗料と同じものである。コーティング層を形成する透明な塗料は、実施形態で挙げた塗料から顔料を除いて形成されたものである。このように構成した場合、コーティング層で着色層が傷つき等から保護されることにより、長期間の使用において、皮革調の美観を維持することができる。
【0078】
・ 前に挙げたように、装飾層12を着色層とコーティング層とから形成する場合、着色層の厚みは、好ましくは5〜30μmであり、コーティング層の厚みは、好ましくは5〜50μmである。着色層が30μmを超える場合、同着色層が硬く、伸びにくくなる。コーティング層を50μmより厚くしても、成形体の表面のスクラッチ耐性はこれ以上は向上せず、却って製造コストが嵩むおそれがある。
【0079】
・ また、前に挙げたコーティング層に使用する透明な塗料は、艶有り、半艶消し及び艶消しのいずれとしてもよい。
・ 装飾層12を形成する塗料に、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の耐候剤を混ぜてもよい。このように構成した場合、当該装飾層12に耐候性が付与されることにより、長期間の使用において、色調の変化を抑制することができる。
【0080】
・ さらなる皮革調の質感を付与するため、成形体の表面にシボ付けをしてもよい。成形体の表面にシボ付けをする方法としては、弾性層11を形成する発泡体に対し、その成形時にシボ加工を施す、成形体を成形するための金型のキャビティ内面にシボ加工を施す等の方法が挙げられる。
【0081】
・ 保護フィルム13を省略し、弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12でシート材10を構成してもよい。
・ 実施形態では成形体の成形をインモールド成形法による射出プレス成形法で具体化したが、これに限定されずインモールド成形法による射出成形法の他、真空成形法、ブロー成形法、圧空成形法等で成形してもよい。
【0082】
・ 実施形態では装飾層12をロータリースプレー法で形成したが、スプレーコート法で形成してもよい。
・ 弾性層11の裏面に、成形基材21に対して弾性層11をより強固に接合するための接着層を設けてもよい。
【0083】
・ 実施形態では、成形基材21を射出成形し、型開きした後、装飾層12をキュアリング状態とするための乾燥を行ったが、これを省略してもよい。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0084】
・ 前記表面の表面粗さ(Rz)が3.0〜4.0μmであり、静摩擦係数が0.01〜0.6であることを特徴とする請求項11に記載の成形体。
・ 前記保護フィルムは、その厚みが40〜2000μmであることを特徴とする請求項2から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材。
【0085】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明によれば、次のような効果を奏する。
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の発明の塗工代替用シート材によれば、成形体の表面に皮革の質感を付与するとともに、成形時の破断を防止することができる。
【0086】
請求項9又は請求項10に記載の発明の塗工代替用シート材の製造方法によれば、成形体の表面に皮革の質感を付与するとともに、成形時の破断を防止することができる塗工代替用シート材を得ることができる。
【0087】
請求項11に記載の発明の成形体によれば、その表面で皮革の質感を発揮することができるとともに、使用時における同表面の傷つきを抑制することができる。
【0088】
請求項12に記載の発明の成形体の製造方法によれば、その表面で皮革の質感を発揮することができるとともに、使用時における同表面の傷つきを抑制することができる成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態の塗工代替用シート材を示す断面図。
【図2】(a)は保護フィルムを引き剥がす前の成形体を示す断面図、(b)は成形体を示す断面図。
【図3】(a)は塗装装置を示す概念図、(b)はシート材に保護フィルムを貼着する装置を示す概念図。
【符号の説明】
11…弾性層、11a…破断保護層、12…装飾層、12a…着色層、12b…コーティング層、13…保護フィルム、21…成形基材。
【発明の属する技術分野】
この発明は、合成樹脂製の成形体の表面になめし皮、スウェード調等のような皮革調の質感及び弾性感を付与するように工夫した塗工代替用シート材及びそれを使用した成形体並びにそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム等といった成形体は、質感を高めるため、射出成形法等によって所定形状に成形された合成樹脂製の成形基材の表面に皮革調の被膜を設けて構成されている。この被膜は、例えば合成皮革、艶消し剤が添加される等して半艶消し等に調製された塗料等で形成されていた。しかし、合成皮革で形成された被膜は製造作業が煩雑となり合理化を図りづらく、塗料で形成された被膜は皮革特有の弾性感に乏しいものとなった。
【0003】
そこで、皮革の質感を有する成形体を塗工によらずともその外観品質を維持しながら簡易に製造することが可能な塗工代替用シート材が本発明者等により提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この塗工代替用シート材は、コーティング剤によって形成された被膜と、被膜の表面に積層された保護フィルムと、被膜の裏面に設けられた発泡体よりなる弾性層とを備えており、インモールド成形法で成形体を成形する際に使用されるものである。同塗工代替用シート材は、前記弾性層のJIS K 6251に規定される破断伸び率を50〜250%とし、成形体の成形時における弾性層の破断を抑制することにより、成形基材の表面への積層を可能としたものである。そして、同弾性層を設けることにより、成形体の表面で皮革調の弾性感をも再現するよう構成されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−321248号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記の塗工代替用シート材を使用し、複数の曲面が多彩に組み合わさったような複雑な外観形状の成形体を成形する場合、成形体の表面で任意の各箇所毎に弾性層の伸び率は異なるものとなる。つまり、成形体の表面で、ある箇所では弾性層が大きく伸ばされた状態となっているにも係わらず、他のある箇所では弾性層がほとんど伸ばされていない状態となっている等する場合がある。弾性層の伸び率が異なると、成形時に成形体の表面に歪みが発生したり、表面の一部に成形時に加わる応力が集中しやすくなったり等してしまう。そして、このような場合、伸びがあり柔らかな発泡体よりなる弾性層は、成形時に高い確率で破断してしまう。また、伸び率が異なれば弾性層の厚みも異なることから、成形後の成形体の表面強度が低下してしまう可能性もある。この場合、成形時には弾性層が破断せずとも、弾性層の表面に積層された被膜が成形体の使用時に傷ついたり、この被膜とともに弾性層が破断したり等するおそれがあった。
【0006】
この発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、成形体の表面に皮革の質感を付与するとともに、成形時の破断を防止することができる塗工代替用シート材及びその製造方法を提供することにある。その他の目的としては、その表面で皮革の質感を発揮することができるとともに、使用時における同表面の傷つきを抑制することができる成形体及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の塗工代替用シート材の発明は、成形体への塗工の代替手段として用いられるものであり、合成樹脂製の成形基材を所定形状に成形しつつ、同成形基材の表面に装飾を施して成形体を得るインモールド成形法、真空成形法、ブロー成形法又は圧空成形法で使用される塗工代替用シート材であって、前記成形基材の表面に設けられることにより前記成形体の表面に弾性感を付与するための発泡体よりなる弾性層と、当該弾性層の表面に設けられ、同弾性層の破断を抑制するための合成樹脂製の破断保護層と、当該破断保護層の表面に設けられ、前記成形体の表面を装飾するための合成樹脂製の装飾層とを備えるとともに、前記成形体の成形条件下においてJIS K 6251に規定される破断伸び率が50〜250%であり、かつJIS K 6301に規定される破断強度が1.5〜4.0MPaであることを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1に記載の発明において、前記装飾層の表面には熱可塑性樹脂よりなる保護フィルムを設けるとともに、この保護フィルムは、成形体の成形時における破断伸び率が50〜250%であることを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記装飾層は、イソシアネート基に反応する官能基を有するエステル系、ウレタン系又はアクリル系樹脂に架橋剤としてポリイソシアネートを配合して得られる一液型又は二液型の塗料より形成されたものであることを要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記破断保護層は、その厚みが5〜100μmであることを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記装飾層は、その厚みが5〜80μmであることを要旨とする。
【0012】
請求項6に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記弾性層は、その厚みが0.1〜10mmであることを要旨とする。
【0013】
請求項7に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記破断保護層は、その表面の硬度が、JISK 5400に規定される鉛筆硬度でB〜HBであることを要旨とする。
【0014】
請求項8に記載の塗工代替用シート材の発明は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の発明において、前記装飾層は、顔料によって着色された塗料から形成される着色層と、当該着色層の表面に設けられた透明な塗料から形成されるコーティング層とよりなるものであることを要旨とする。
【0015】
請求項9に記載の塗工代替用シート材の製造方法の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材の製造方法であって、弾性層をシート状に成形した後、この弾性層の表面に合成樹脂製の薄膜を熱ラミネート又は合成樹脂製の薄膜を加熱溶融された合成樹脂を弾性層の表面に押し出し成膜することによって破断保護層を設け、その後、この破断保護層の表面に合成樹脂よりなる装飾層を形成することを要旨とする。
【0016】
請求項10に記載の塗工代替用シート材の製造方法の発明は、請求項9に記載の発明において、前記装飾層を形成した後、さらに当該装飾層の表面に熱可塑性樹脂よりなる保護フィルムを積層することを要旨とする。
【0017】
請求項11に記載の成形体の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材を使用し、インモールド成形法、真空成形法、ブロー成形法又は圧空成形法で成形基材を所定形状に成形しつつ、同成形基材の表面に塗工代替用シート材の弾性層を接合することにより、塗工代替用シート材と成形基材とが一体化されて構成され、その表面に弾性感を有するとともに、同表面の硬度が、JIS K 5400に規定される鉛筆硬度で3H以上であることを要旨とする。
【0018】
請求項12に記載の成形体の製造方法の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材を一対の金型のキャビティ内に配置し、キャビティ内の温度を100〜300℃とした状態で塗工代替用シート材の弾性層側から成形基材を形成する加熱溶融された合成樹脂材料を射出した後、両金型を冷却することにより、成形基材の表面に弾性層を熱融着させて塗工代替用シート材及び成形基材を一体化させることを要旨とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図2(b)に示すように、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム等に用いられる所定形状をなす成形体は、成形基材21と、成形基材21の上面に貼着された被膜22とを備えている。この成形基材21は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の合成樹脂より形成されている。前記被膜22は、弾性層11と、この弾性層11の表面に設けられた合成樹脂製の破断保護層11aと、当該破断保護層11aの表面に設けられた装飾層12とから構成されている。当該被膜22は、成形体の表面に皮革調の質感を付与するためのものであり、前記弾性層11がその裏面で成形基材21の表面に熱融着されることにより、成形基材21と一体化されている。ここで、皮革調の質感とは、主に使用者等の視覚によって認識可能な皮革製品と同等の美感と、使用者等の触覚によって認識可能な皮革製品と同等の弾性感とをいう。
【0020】
前記弾性層11は、合成樹脂製の発泡体より形成されており、成形体の表面に弾性感を付与するために設けられている。すなわち、当該弾性層11は、使用者等が成形体の表面に触れた際に弾性変形し、当該使用者等の触覚へ柔らかな感触を返すことにより、皮革調の質感のうち皮革製品と同等の弾性感を発揮するものである。
【0021】
当該弾性層11は、その材料として成形基材21に対して熱融着されやすい合成樹脂を用いることが好ましい。このような合成樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、オレフィン系又はスチレン系の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これら合成樹脂よりなる材料に発泡剤を添加し、加熱したり等することにより発泡体が得られる。また、発泡体には、その内部に形成される複数の気泡がそれぞれ独立した独立気泡を有するものと、複数の気泡が繋がった連続気泡を有するものとが存在し、当該弾性層11には独立気泡を有する発泡体を使用することが好ましい。これは、連続気泡を有する発泡体は、伸ばした際に連続気泡を形作るその周囲の部分が一つの連続気泡を起点として連鎖状に破断しやすいためである。この発泡体には、発泡倍率が5〜50倍のものを使用することが好ましい。発泡倍率が5倍未満の場合、弾性層11が硬くなって皮革調の弾性感を発揮しづらくなり、50倍より高い場合、弾性層11が過剰に柔らかくなって成形体の成形時に破断してしまうおそれがある。
【0022】
前記破断保護層11aは、合成樹脂製の薄膜より形成されており、弾性層11の破断を抑制するために設けられている。すなわち、当該破断保護層11aは、弾性層11が伸ばされたり、弾性変形されたりする際、過剰に伸びたり、弾性変形したりすることを抑制することにより、弾性層11のみならず、装飾層12をもその破断から保護するものである。また、この破断保護層11aは、発泡体よりなる弾性層11の表面を被覆し、弾性層11の表面に存在する穴を塞ぐものとなる。このため、破断保護層11aは、装飾層12を形成する合成樹脂の同穴への浸入を防止するとともに、成形体の表面を平坦状とする機能をも発揮するものである。
【0023】
当該破断保護層11aは、弾性層11の表面に前記薄膜を熱ラミネートする、又は弾性層11の表面に加熱溶融された合成樹脂を押し出し成膜して前記薄膜を形成することにより、弾性層11に熱融着されている。このため、当該破断保護層11aの材料には、弾性層11に対して熱融着されやすい熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。特に、熱可塑性樹脂のなかでも、弾性層11に使用した合成樹脂と同系又は同種の合成樹脂を使用することがより好ましい。そして、このような熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、オレフィン系又はスチレン系の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0024】
前記装飾層12は、合成樹脂を含む塗料より形成されており、成形体の表面を装飾するために設けられている。すなわち、当該装飾層12は、塗料の調製で皮革製品の色調を再現することにより、その色調で皮革調の質感のうち皮革製品と同等の美感を発揮させるものである。この装飾層12を形成する塗料は、顔料と、顔料を結着する合成樹脂と、これらを溶解する溶剤とから形成されたものである。顔料には、下層となる弾性層11の色調に影響されず、これを隠蔽することができるように、不透明な色調のものを使用することが好ましい。加えて、この塗料には、艶消し剤が所定量混ぜられており、装飾層12の色調を若干の光沢を有する半艶消し又は全く光沢のない艶消しとすることにより、その外観を皮革調により近似させることができるように構成されている。
【0025】
当該装飾層12を形成する塗料としては、ヒドロキシル基等の官能基を有するポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアクリル系等の樹脂組成を有する塗料が挙げられる。加えて、ヒドロキシル基と反応するイソシアネート基を官能基として有するポリイソシアネート等を硬化剤として配合してもよい。また、着色層12aに対するコーティング層12bの接着性を高めるため、これらを形成する塗料には同系の合成樹脂よりなるものを使用することが好ましい。この実施形態の塗料には硬化剤としてブロックイソシアネートを用いる一液型のアクリル系樹脂塗料又は硬化剤としてポリイソシアネートを用いる二液型のアクリル系樹脂塗料が必要に応じて選択して使用されている。
【0026】
当該装飾層12は、硬化した状態(キュアリング状態)で通常条件下(1気圧、25℃)における破断伸び率が、好ましくは10〜100%である。ここで、硬化した状態(キュアリング状態)とは、塗料中の樹脂と硬化剤との反応率が80〜100%の状態をいう。キュアリング状態で破断伸び率が10未満の場合、弾性層11の弾性変形に追従して破断保護層11aとともに変形することができず、破断してしまうおそれがある。破断伸び率が100%を超える場合、却って剛性が低下し、成形体の表面のスクラッチ耐性が低下してしまう。
【0027】
ここで、従来の塗料を使用して皮革調の質感を付与した従来の成形体について説明する。従来の成形体は、塗料の色調を調製することにより、皮革調の質感のうち美観のみを付与したものであった。これは、従来の塗料は、キュアリング状態での伸びがほとんどないためである。つまり、色調の調製によって皮革調の美観を付与したとしても、キュアリング状態で伸びのない従来の塗料で形成された装飾層は、実際に触れると硬い感触しか与えず、皮革製品の弾性感には遠く及ばないものとなるためである。たとえ本発明のような発泡体よりなる弾性層11を設けたとしても、装飾層を従来の塗料で形抜成する限り、成形体の表面は硬くなり、加えて弾性層11の弾性変形に追従して装飾層が変形することができずに破断してしまうおそれもある。また、従来の成形体においては、その表面を構成する装飾層が硬いことから、他の物が当たったり等したとき、合成樹脂製の成形体に特有の軽く乾いた打音が発生し、加えて打痕も生じてしまう。
【0028】
そこで、本発明者等は、当該成形体の表面に皮革調の質感として、皮革製品と同等の美観のみならず、皮革製品と同等の弾性感を付与することを第1の目的とした。この第1の目的を達成するため、皮革調と同等の美観を付与するために塗料の色調を調製し、皮革製品と同等の弾性感を付与するために被膜22に発泡体よりなる弾性層11が設けられている。さらに、装飾層12を形成する塗料には、キュアリング状態で破断伸び率が10〜100%という、柔軟性を有するものが使用されている。そして、発泡体よりなる弾性層11と、キュアリング状態でも柔軟性を有する塗料から形成された装飾層12の2つにより成形体の表面へ皮革調の弾性感の付与を達成し得た。
【0029】
当該成形体は、上記のように皮革調の弾性感を付与するが故、弾性層11と装飾層12とに柔らかなものが使用されており、当然、成形体の表面強度は、従来の塗料を塗工したもの等に比べて低くなる。実際に、弾性層11及び装飾層12のみを備える成形体の表面の鉛筆硬度を測定するとB〜HBであることに対し、従来の塗料を塗工して形成された従来成形体の表面の鉛筆硬度は3H以上である。使用者等が普段は触れない成形体であれば弾性層11と装飾層12とで十分な表面強度を達成することが可能ではある。ところが、本発明の成形体は、使用者等が触れることによっても皮革調の弾性感を付与するという目的からも明らかなように、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム等のような使用者等が触れることを前提としたものである。
【0030】
そこで、本発明者等は、弾性層11及び装飾層12による柔らかさを維持しつつも、被膜22の強度向上を図り、従来成形体の表面強度と同等(鉛筆硬度で3H以上)の成形体を得ることを第2の目的とした。この第2の目的を達成するため、弾性層11と装飾層12との間には破断保護層11aが設けられている。
【0031】
すなわち、被膜22及び成形基材21が一体化されて構成された当該成形体は、スクラッチ耐性を示すその表面の硬度が、JIS K 5400に規定される鉛筆硬度で3H以上である。この硬度は、前記破断保護層11aを設けることによって初めて達成可能となる。つまり、破断保護層11aは、成形体の表面に使用者等が触れ、弾性層11及び装飾層12が変形される際、この変形に追従して同様に変形するとともに、過剰な伸び、歪み、変形等を抑制することにより、弾性層11及び装飾層12の破断を防止している。この硬度が鉛筆硬度で3H未満の場合、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム等のような成形体において、普段の使用状態で使用者等が触れた際、被膜22が傷ついたり、破断したり等の不具合が高い確率で発生してしまう。
【0032】
また、成形体の表面の鉛筆硬度を3H以上とするためには、破断保護層11aの表面の硬度を、鉛筆硬度でB〜HBとすることが好ましい。破断保護層11aが鉛筆硬度でB以下の場合、装飾層12の過剰な変形を抑えるのに十分な強度を有しないおそれがあり、装飾層12を形成する塗料をキュアリング状態としても、成形体の表面の鉛筆硬度が3H未満となってしまう可能性がある。鉛筆硬度をHBより高くしても、これ以上成形体の表面の鉛筆硬度は飛躍的に向上せず、却って皮革調の弾性感を損なうおそれがある。
【0033】
さらに、本発明者等は、被膜22の強度向上に基づき、他の物が当たったり等したときに発生する打音及び打痕を抑えることを第3の目的とした。この第3の目的も、破断保護層11aを設けることによって初めて達成可能となる。つまり、打音のみならば弾性層11及び装飾層12でも吸収することは可能である。しかし、この場合には弾性層11及び装飾層12が大きく変形し、特に装飾層12が破断する等して高い確率で打痕が生じてしまう。これに対し、破断保護層11aが設けられた場合、弱い衝撃ならば破断保護層11a、弾性層11及び装飾層12の3つが変形し、これを吸収することにより、打音及び打痕を抑えることが可能である。また、強い衝撃においても、破断保護層11aが弾性層11及び装飾層12の変形を抑え、強い衝撃に抗して打ち消すことにより、打音及び打痕を抑えることが可能である。
【0034】
前記破断保護層11aは、弾性層11の表面を被覆し、その穴をある程度塞ぐ機能も有する。すなわち、装飾層12は、塗料から形成されたものであり、この塗料は液体であることから、弾性層11の表面に直接的に塗布した場合、その表面の穴に塗料が染みこみ、成形体の表面に目視可能な大きさの凹凸が形成されてしまうおそれがある。そして、破断保護層11aは、弾性層11の穴を塞ぎ、塗料の染みこみを防止することにより、成形体の表面を皮革特有の適度なざらつき感を有する平坦状のものとしている。
【0035】
この適度なざらつき感は、成形体の表面粗さと、静摩擦係数とで具体的に示すことが可能である。成形体の表面粗さは、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)で好ましくは3.0〜4.0μmである。静摩擦係数は、好ましくは0.01〜0.6である。Rzが3.0μm未満又は静摩擦係数が0.01未満の場合、表面が過度に平滑となり、適度なざらつき感を得られないおそれがある。Rzが4.0μmを超える又は静摩擦係数が0.6を超える場合、成形体の表面で凹凸が目立つようになり、皮革調の美観を得られなくなるおそれがある。
【0036】
上記の成形体において、被膜22は、成形基材21を成形する際、その表面に対する塗工の代替手段として、塗工代替用シート材を使用し、成形基材21の上面に弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12を転写することにより形成されている。そこで、この塗工代替用シート材について説明する。なお、これ以降は、塗工代替用シート材を単にシート材と記載する。
【0037】
図1に示すように、シート材10は、前記弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12と、装飾層12の表面に積層され、これを保護する保護フィルム13とから構成されている。この保護フィルム13は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等の熱可塑性合成樹脂より形成されている。また、保護フィルム13を形成する熱可塑性合成樹脂には、装飾層12に対し、完全には貼着されず、剥離可能な程度の所定の貼着力を発揮するものを使用することが好ましい。加えて、保護フィルム13の装飾層12に対する貼着力は、破断保護層11aに対する装飾層12の貼着力と比較して弱いものであることが好ましい。
【0038】
当該シート材10は、成形体の成形時において、その多種多様な表面形状に対応して伸ばすことができるように、所定の柔軟性を有するものを使用する必要がある。このため、シート材10を構成する弾性層11、破断保護層11a、装飾層12及び保護フィルム13は、その柔軟性をJIS K 6251に規定される破断伸び率で表現すると、破断伸び率が以下のように規定されている。
【0039】
前記弾性層11及び破断保護層11aの破断伸び率は50〜250%である。この破断伸び率が50%未満の場合、成形体の成形時にその表面形状に対応することができず、弾性層11及び破断保護層11aが破断してしまう。破断伸び率が250%より高い場合、弾性層11及び破断保護層11aの剛性が低下し、成形体の表面形状に対応した形状を維持できなくなったり、同成形体の表面強度(スクラッチ耐性)が低下し、他部材による引っ掻き、擦れ等により成形体の表面が傷ついてしまう。
【0040】
前記装飾層12は、成形体の被膜22を構成する状態ではキュアリング状態とされていたが、シート材10を構成する状態では未硬化の状態(セミキュアリング状態)とされている。セミキュアリング状態の装飾層12は、キュアリング状態のものと比較して大きく伸びることが可能であり、これに伴い破断伸び率も大きなものとなる。ここで、未硬化の状態(セミキュアリング状態)とは、塗料中の樹脂と硬化剤との反応率が0%以上、80%未満の状態をいう。そして、セミキュアリング状態の装飾層12の破断伸び率は、50〜250%である。破断伸び率が50%未満の場合、成形体の成形時に装飾層12が破断してしまう。破断伸び率を250%より高くしても、これ以上の伸びを付与する必要はなく、却って装飾層12の強度の低下を招くこととなる。
【0041】
前記保護フィルム13の破断伸び率は、好ましくは50〜250%である。破断伸び率が50%未満の場合、保護フィルム13を成形体の表面形状に追従して伸ばしにくく、成形体の表面が歪んで成形されてしまうおそれがある。他に、保護フィルム13が伸びず、弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12のみが成形基材21の形状に対応して伸びようとすることにより、被膜22にしわが形成されたり、弾性層11が成形基材21の表面から浮き上がったり、剥がれたりする等の不具合を生じるおそれもある。破断伸び率が250%より高い場合、弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12がその伸びに追従しにくく、破断されたり、剛性が低下して成形体に対応した形状を維持することができずに成形基材21を正確に成形できなくなったり等するおそれがある。
【0042】
上記のように、シート材10を構成する弾性層11、破断保護層11a、装飾層12及び保護フィルム13は、それら全ての破断伸び率が50〜250%とされている。つまり、シート材10は、成形体の成形条件下において、その全体の破断伸び率が50〜250%とされている。従って、成形体の成形時におけるシート材10の破断、剛性の低下等のような不具合の発生が防止されている。
【0043】
成形体の成形時におけるシート材10の剛性は、具体的にJIS K 6301に規定される破断強度で示される。これは、成形体の成形条件下において、シート材10は、成形基材21の表面形状に追従して伸ばすことが可能なものであることも重要であるが、これに加え、伸ばされた際に容易に破断されないものであることも重要となるためである。そして、成形体の成形条件下でシート材10の破断強度は、1.5〜4.0MPaである。破断強度が1.5MPa未満の場合、伸ばすことは可能であっても容易に破断してしまうシート材10となり、成形体を成形することができなくなる。破断強度が4.0MPaを超える場合、シート材10の全体的な硬さが増すこととなり、全体的な伸びが小さくなったり、被膜22を形成した際に皮革調の弾性感を得られなくなったり等の不具合を生じることとなる。
【0044】
弾性層11、破断保護層11a、装飾層12及び保護フィルム13は、破断伸び率を50〜250%及び破断強度を1.5〜4.0MPaに維持し、かつそれぞれの機能を保持するため、それぞれの厚みを以下のように規定することが好ましい。
【0045】
前記弾性層11の厚みは、好ましくは0.1〜10mmである。弾性層11の厚みが0.1mm未満の場合、皮革調の弾性感を発揮しづらくなるとともに、剛性が低下することにより破断伸び率を維持しにくくなる。厚みが10mmを超える場合、弾性層11が弾性変形しやすくなることから、成形体の成形時及び使用時に弾性層11の表面に積層された破断保護層11a及び装飾層12も変形しやすくなり、スクラッチ耐性の低下を招くおそれがある。
【0046】
前記破断保護層11aの厚みは、好ましくは5〜100μmである。破断保護層11aの厚みが5μm未満の場合、当該破断保護層11aの剛性が低下し、弾性層11及び装飾層12を破断から保護することができなくなるおそれがある。厚みが100μmを超える場合、当該破断保護層11aの柔軟性が低下し、成形体の表面に皮革調の弾性感を付与することができなくなるおそれがある。
【0047】
前記装飾層12の厚みは、好ましくは5〜80μmである。装飾層12の厚みが5μm未満の場合、その強度が低下し、成形体の成形時又は使用時に装飾層12がひび割れたり、破断したり、傷付いたり等の不具合を生じやすくなる。厚みが80μmを超えると、装飾層12が硬くなり、成形体の成形時に伸びにくくなったり、皮革調の弾性感を損ねたり等するおそれがある。
【0048】
前記保護フィルム13の厚みは、好ましくは50〜1000μmである。厚みが50μm未満の場合、保護フィルム13の剛性が低下し、装飾層12等を十分に保護することができず、これらにひび割れ、破断等の不具合が発生しやすくなる。厚みが1000μmを超える場合、シート材10が硬く、伸びにくくなり、成形体を所定形状に成形しづらくなる。
【0049】
次に、上記シート材10の製造方法について説明する。
シート材10を製造するときには、まずシート状に成形された発泡体から弾性層11を形成した後、この弾性層11の表面に破断保護層11aが熱ラミネート又は押し出し成膜によって形成される。その後、破断保護層11aの表面にスプレーコート、ロータリースプレーコート、ロールコート等の方法で塗料が塗布され、乾燥されることにより、装飾層12が形成される。
【0050】
ここで、図3(a),(b)に示すようなロールコート法を行うための塗装装置で装飾層12を形成する方法について説明する。この塗装装置を構成する塗装ローラ31は円柱状をなし、図中の矢印方向へ回転可能に支持されている。塗装ローラ31の側方には若干の間隔を空けて円柱状をなす計量ローラ32が塗装ローラ31と同方向へ回転可能に支持されている。塗装ローラ31の下方位置にはスプレーノズル33が設置されている。このスプレーノズル33からは塗装ローラ31の周面に向かって塗料が吹き付けられるとともに、吹き付けられた塗料は計量ローラ32により均一な厚さになるようにその量が調整されている。塗装ローラ31の上方位置には円柱状をなす送出ローラ34が塗装ローラ31と逆方向に回転可能に支持されている。
【0051】
塗装装置において、上方の一側部からは、その表面に破断保護層11aが形成された弾性層11が供給される。このとき、弾性層11は破断保護層11aが外周側に配置されるように供給される。この弾性層11は、送出ローラ34により下方へ移送されるとともに、その途中で塗装ローラ31の周面に圧接されることにより、その表面に設けられた破断保護層11a上に塗料が塗布される。この後、図示しないヒータ等によって塗料が乾燥され、塗料中の溶剤が飛散されることにより、弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12よりなるシート材10が形成される。
【0052】
装飾層12を形成するとき、塗料の乾燥は、乾燥温度80〜100℃、乾燥時間30〜60分で行うことが好ましい。乾燥温度が80℃、乾燥時間が30分未満の場合、塗料中の溶剤が十分に飛散せず、破断保護層11aの表面で塗料が流れたり等して外観品質が低下するおそれがある。また、乾燥温度が100℃より高く、乾燥時間が60分より長いと、塗料中におけるエステル系、アクリル系、ウレタン系樹脂の架橋反応が進行し、塗料がキュアリング状態となってしまうおそれがある。そして、乾燥温度80〜100℃、乾燥時間30〜60分で乾燥することにより、樹脂の架橋反応が反応率0〜10%程度で止められる。
【0053】
弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12よりなるシート材10が形成された後、装飾層12の表面には貼付装置を用いて保護フィルムが貼着される。図3(b)に示すように、貼付装置を構成する第1供給ドラム41は円筒状をなし、装置の最も上流側(図中で左側)に回転可能に支持されている。このときシート材10は、装飾層12を内周側に位置させるようにして第1供給ドラム41の周面上に円環状に巻回される。第1供給ドラム41の下方には円筒状をなす第2供給ドラム42が回転可能に支持されており、その周面上には別箇所にてシート状に成形された保護フィルム13が円環状に巻回された状態で保持されている。第1供給ドラム41及び第2供給ドラム42よりも装置の下流側(図中で右側)には従動ローラ43及びヒータローラ44が上下に配設されている。このヒータローラ44の内部には図示しないヒータが設置され、ヒータローラ44が加熱される。
【0054】
第1供給ドラム41及び第2供給ドラム42から従動ローラ43及びヒータローラ44間にそれぞれ引き出されたシート材10及び保護フィルム13は、加熱されるとともに、従動ローラ43及びヒータローラ44の間で互いに圧接される。そして、保護フィルム13がシート材10の装飾層12に貼着される。また、保護フィルム13が設けられたシート材10は、従動ローラ43及びヒータローラ44よりも装置の下流側に配設された引き込みローラ45及び巻取りローラ46の回転により、巻取りローラ46の外周面上に円環状に巻回された状態で回収される。なお、引き込みローラ45は、シート材10に所定の力でテンションを加えることにより、シート材10を巻取りローラ46に弛みなく巻回させる機能を有するものである。
【0055】
シート材10の装飾層12は、前記ヒータローラ44からの加熱により、セミキュアリング状態とされる。装飾層12をセミキュアリング状態とするための加熱処理は、加熱温度100〜140℃、加熱時間10〜30秒で行うことが好ましい。加熱温度が100℃未満、加熱時間が10秒未満の場合、塗料中における架橋反応が十分に進行せず、装飾層12がセミキュアリング状態よりもさらに前の状態、つまり架橋反応の反応率が0〜10%程度の状態で止められてしまうおそれがある。この場合、成形体の成形時に塗料中の樹脂が硬化せず、溶融されて破断保護層11a上に保持されず流れ出してしまうおそれがある。加熱温度が140℃より高く、加熱時間が30秒より長い場合、塗料がキュアリング状態となり、成形体の成形時に装飾層12が破断してしまうおそれがある。
【0056】
次いで、成形体の製造方法について説明する。
上記のシート材10を用いて得られる成形体は、成形基材21を所定形状に成形しつつ、同成形基材21の表面に装飾を施すことが可能なインモールド成形法、真空成形法、ブロー成形法又は圧空成形法によって製造されている。これら成形法の中でも、インモールド成形法は、成形基材21を所定形状に成形しつつ、の表面にシート材10を一体化させることが可能であるため、この実施形態の成形体の成形法として好ましい。また、インモールド成形法のなかでも、シートスタンピングモールド成形法(射出プレス成形法)は、成形基材21を形成する合成樹脂を射出しつつ、シート材10をプレスすることが可能であるためより好ましい。
【0057】
さて、射出プレス成形法で使用する一対の金型は、一方が固定型(雄型)、他方が可動型(雌型)となっており、型締めされた両型の内部には成形体の形状を有するキャビティが形成されている。前記シート材10は、可動型のキャビティ内にクランプ等で固定される。このとき、シート材10は、固定型側に弾性層11が、可動型側に保護フィルム13及び装飾層12が配置されるように固定される。この後、キャビティ内を所定温度としながら固定型に対し可動型が接近することにより、シート材10が成形体の表面形状に近似した形状となるようにプレス成形される。なお、この際、固定型と可動型は型締めされていない。
【0058】
このプレス成形によりシート材10が所定形状に成形された後、シート材10の弾性層11側、つまり固定型のキャビティとシート材10との間に加熱溶融された合成樹脂材料が所定圧力で射出される。そして、固定型に対し可動型がさらに接近し、固定型と可動型とが型締めされる。すると、合成樹脂材料は両型で押し潰されるようにしてキャビティ内に広がるとともに、シート材10は加熱溶融された合成樹脂材料からこのとき加わる圧力及び温度により、キャビティの形状に合わせて伸ばされつつ、変形される。このとき、弾性層11と成形基材21との境界部分において、互いを形成する合成樹脂同士が溶融しあうことにより、弾性層11が成形基材21の表面に溶着される。また、装飾層12は保護フィルム13によってその表面を保護された状態にあり、キャビティへの直接的な接触を防止されていることから、キャビティへの溶着、傷付き、剥離、溶融によるただれ等の不具合が防止される。
【0059】
この後、両型を冷却後、型開きし、図2(a)に示すように、保護フィルム13が貼り付けられたままの成形体が取り出され、装飾層12を形成する塗料がキュアリング状態となるまで乾燥される。そして、装飾層12を形成するコーティング剤の乾燥が終了した後、図2(b)に2点差線で示すように保護フィルム13が取り外され、成形体が製造される。この成形時の成形条件において、成形温度は、使用する合成樹脂の種類によってそれぞれ溶融温度が異なることから一概に決められるものではない。しかし、成形基材21の材料に前に挙げたポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂等の合成樹脂を使用する場合であれば、100〜300℃である。また、成形時の成形条件において、キャビティ内の圧力は溶融された合成樹脂の流度、成形体の形状等によって異なることから一概に決められるものではなく、概算で0.1〜2.0MPaである。
【0060】
装飾層12をキュアリング状態とするための乾燥は、乾燥温度80〜100℃、乾燥時間30〜60分で行うことが好ましい。乾燥温度が80℃、乾燥時間が30分未満の場合、装飾層12中のポリエステル系、ポリアクリル系樹脂のポリイソシアネートによる架橋反応が完全に終了せず、コーティング剤がセミキュアリング状態から変化しにくく、装飾層12の傷付き等の不具合を生じることになる。乾燥温度が100℃より高く、乾燥時間が60分より長い場合、成形基材21及び弾性層11が乾燥時の加熱によって変形する等の不具合を生じるおそれがある。
【0061】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 実施形態の成形体及びシート材10によれば、設けられた弾性層11が弾性変形することにより皮革の弾性感が、設けられた装飾層12の色調を調製することにより皮革の美観が付与されている。当該弾性層11の表面は破断保護層11aによって被覆されている。この破断保護層11aは、成形体の成形時において、弾性層11の過剰な伸び、変形を抑制し、これを破断から保護するのみならず、成形体の使用時には弾性層11の過剰な弾性変形を抑制し、装飾層12を破断から保護している。このため、シート材10においては、成形体の表面に皮革の質感を付与するとともに、成形体の成形条件下で破断伸び率が50〜250%という大きな伸びを達成しつつ、破断強度が1.5〜4.0MPaという破断に強いものとすることができ、成形時の破断を防止することができる。成形体においては、皮革の質感を発揮することができるとともに、表面の鉛筆硬度が3H以上という硬度を達成することができ、使用時における同表面の傷つきを抑制することができる。
【0062】
・ また、シート材10において、装飾層12の表面には保護フィルム13が設けられている。この保護フィルム13によって装飾層12の表面を被覆することにより、シート材10の運搬時、成形体の成形時等における装飾層12の溶融、傷つき、破断等といった不具合の発生を防止することができる。
【0063】
・ また、装飾層12を形成する塗料は、イソシアネート基に反応する官能基を有するエステル系、ウレタン系又はアクリル系樹脂に架橋剤としてポリイソシアネートを配合して得られる一液型又は二液型のものである。このため、装飾層12をシート材10を構成するセミキュアリング状態では大きな伸びを有し、成形体を構成するキュアリング状態では柔軟性を維持しつつ強度の高いものとすることができる。
【0064】
・ また、破断保護層11aの厚みは5〜100μm、装飾層12の厚みは5〜80μm、弾性層11の厚みは0.1〜10mmとされている。これにより、大きな破断伸び率を維持しつつ、破断強度を高くすることができる。また、成形体としたときに表面強度の向上を図ることができる。
【0065】
・ また、破断保護層11aの表面の鉛筆硬度は、B〜HBである。これにより、破断保護層11aの破断伸び率を大きく維持しつつ、成形体としたときの表面強度の向上を図ることができる。
【0066】
・ また、シート材10の製造方法において、破断保護層11aは、熱ラミネート又は押し出し成膜によって形成されている。これにより、弾性層11の表面に破断保護層11aを簡易に設けることができる。
【0067】
・ また、成形体は、射出プレス成形法によって製造されている。この射出プレス成形法では、シート材10をプレスによって成形体に近似した形状に成形した後、合成樹脂が射出される。このように、合成樹脂が射出される前にシート材10が成形体に近似した形状とされることから、合成樹脂が射出されるときの圧力でシート材10が大きく変形されることを抑制することができ、成形時におけるシート材10の破断を防止することができる。
【0068】
【実施例】
以下、前記実施形態をさらに具体化した実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
発砲倍率が10倍のポリプロピレン(PP)製発泡体を使用し、厚さ10mmの弾性層11を形成した。この弾性層11の表面に対し、無色透明の未延伸PP製フィルムを150℃、5秒で熱ラミネートして、厚さ40μmの破断保護層11aを形成した。その後、破断保護層11aの表面に塗料をスプレーコートし、着色層とコーティング層とを有する装飾層12を厚さ20μmで形成した。この塗料には、硬化剤としてイソシアネートを用いる一液型の変性ポリエステル樹脂塗料を着色層の塗料に、硬化剤としてイソシアネートを用いる一液型のアクリル樹脂塗料をコーティング層の塗料に使用した。このようにして実施例1のシート材10を得た。
【0069】
(実施例2)
破断保護層11aの厚みを90μmとし、かつコーティング層の塗料として二液型のアクリル樹脂塗料を使用した以外は実施例1と同様にして実施例2のシート材10を得た。
【0070】
(比較例1)
破断保護層11aを省略した以外は実施例1と同様にして比較例1のシート材10を得た。
【0071】
(外観の測定)
実施例1及び2と、比較例1のシート材10について、その弾性感、十点平均粗さ(Rz)及び静摩擦係数を測定した。この結果を表1に示す。なお、弾性感は測定者の触覚により5段階で評価し、弾性感が最も柔らかいものを5とした。
【0072】
【表1】
表1の結果より、実施例1及び2と、比較例1について、全て弾性感の評価が4〜5と柔らかく、Rzが3.0〜4.0μmであり、静摩擦係数が0.01〜0.6であることから適度なざらつき感を有するものとなった。このことから、弾性層11を設けることにより、実施例1及び2と、比較例1とが皮革の質感を効果的に有していることが示された。
【0073】
(真空成形法による外観の変化の測定)
実施例1及び2と、比較例1のシート材10を真空成形法にて、奥行き120mm、幅180mm、高さ100mmの箱状に成形し、各シート材10の外観の変化を測定した。真空成形は、各シート材10の上面を赤外線ヒータで10秒間加熱し、130℃とした後、温度25℃の真空成形用の金型を使用し、成形時間40秒(冷却時間30秒を含む)で行った。そして、真空成形後の被膜22の亀裂、破断等といった外観の変化を測定した。この結果を表2に示す。なお、測定は測定者が保護フィルム13越しに被膜22を目視することにより行った。また、表2において○は外観に変化がない、×は外観に変化ありを示す。
【0074】
【表2】
表2の結果より、実施例1及び2は、シート材10の破断伸び率が150、200、250%のすべてにおいて、外観に変化が無く、良好な結果が得られた。これに対し、比較例1は、破断伸び率が150%では外観に変化が無く、良好な結果が得られた。しかし、破断伸び率が200%で被膜22の弾性層11に亀裂が生じ、破断伸び率が250%では弾性層11及び装飾層12の両方が破断し、被膜22の外観に変化が見られた。以上の結果より、実施例1及び2は比較例1と比較し、大きく伸ばしたときにもシート材10が破断しないことが示された。
【0075】
(鉛筆硬度及び破断強度の測定)
実施例1及び2と、比較例1のシート材10について、装飾層12をセミキュアリング状態として、JIS K 6301に規定された方法で破断強度を測定した。このとき、破断強度は、シート材10の周縁部(MD)と、中心部(CD)の2箇所で測定した。その後、装飾層12をキュアリング状態として、JISK 5400に準拠する方法で鉛筆硬度を測定した。このとき、鉛筆硬度は、シート材10に加える加重を500g及び700gとして二通り測定した。この結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
表3の結果より、実施例1及び2は、破断強度がMD及びCDの2箇所で1.5〜4.0MPaであり、鉛筆硬度は500g及び700gの加重で3H以上であった。これに対し、比較例1は、破断強度がMDは1.72MPaであり所望値を満たすが、CDが1.4MPaと所望値より低くなった。このため、比較例1は、前に挙げたように破断伸び率が150%では破断しないものの、破断伸び率が200%、250%と大きくなれば破断してしまうと推定される。また、鉛筆硬度も低く、成形体の使用時においては傷付きやすいものと推定される。以上の結果より、実施例1及び2は比較例1と比較し、破断強度が向上していることから、さらに大きく伸ばしたときにもシート材10が破断せず、またその表面強度も向上していることが示された。
【0077】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 装飾層12を、顔料によって着色された塗料から形成される着色層と、当該着色層の表面に設けられた透明な塗料から形成されるコーティング層とから形成してもよい。この着色層は、破断保護層11aの表面に設けられるものであり、皮革製品の色調を再現するものである。コーティング層は、着色層の表面に設けられるものであり、着色層を被覆し、傷付きから保護することによって成形体の表面のスクラッチ耐性を向上させるものである。着色層を形成する着色された塗料は、実施形態で挙げた塗料と同じものである。コーティング層を形成する透明な塗料は、実施形態で挙げた塗料から顔料を除いて形成されたものである。このように構成した場合、コーティング層で着色層が傷つき等から保護されることにより、長期間の使用において、皮革調の美観を維持することができる。
【0078】
・ 前に挙げたように、装飾層12を着色層とコーティング層とから形成する場合、着色層の厚みは、好ましくは5〜30μmであり、コーティング層の厚みは、好ましくは5〜50μmである。着色層が30μmを超える場合、同着色層が硬く、伸びにくくなる。コーティング層を50μmより厚くしても、成形体の表面のスクラッチ耐性はこれ以上は向上せず、却って製造コストが嵩むおそれがある。
【0079】
・ また、前に挙げたコーティング層に使用する透明な塗料は、艶有り、半艶消し及び艶消しのいずれとしてもよい。
・ 装飾層12を形成する塗料に、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の耐候剤を混ぜてもよい。このように構成した場合、当該装飾層12に耐候性が付与されることにより、長期間の使用において、色調の変化を抑制することができる。
【0080】
・ さらなる皮革調の質感を付与するため、成形体の表面にシボ付けをしてもよい。成形体の表面にシボ付けをする方法としては、弾性層11を形成する発泡体に対し、その成形時にシボ加工を施す、成形体を成形するための金型のキャビティ内面にシボ加工を施す等の方法が挙げられる。
【0081】
・ 保護フィルム13を省略し、弾性層11、破断保護層11a及び装飾層12でシート材10を構成してもよい。
・ 実施形態では成形体の成形をインモールド成形法による射出プレス成形法で具体化したが、これに限定されずインモールド成形法による射出成形法の他、真空成形法、ブロー成形法、圧空成形法等で成形してもよい。
【0082】
・ 実施形態では装飾層12をロータリースプレー法で形成したが、スプレーコート法で形成してもよい。
・ 弾性層11の裏面に、成形基材21に対して弾性層11をより強固に接合するための接着層を設けてもよい。
【0083】
・ 実施形態では、成形基材21を射出成形し、型開きした後、装飾層12をキュアリング状態とするための乾燥を行ったが、これを省略してもよい。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0084】
・ 前記表面の表面粗さ(Rz)が3.0〜4.0μmであり、静摩擦係数が0.01〜0.6であることを特徴とする請求項11に記載の成形体。
・ 前記保護フィルムは、その厚みが40〜2000μmであることを特徴とする請求項2から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材。
【0085】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明によれば、次のような効果を奏する。
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の発明の塗工代替用シート材によれば、成形体の表面に皮革の質感を付与するとともに、成形時の破断を防止することができる。
【0086】
請求項9又は請求項10に記載の発明の塗工代替用シート材の製造方法によれば、成形体の表面に皮革の質感を付与するとともに、成形時の破断を防止することができる塗工代替用シート材を得ることができる。
【0087】
請求項11に記載の発明の成形体によれば、その表面で皮革の質感を発揮することができるとともに、使用時における同表面の傷つきを抑制することができる。
【0088】
請求項12に記載の発明の成形体の製造方法によれば、その表面で皮革の質感を発揮することができるとともに、使用時における同表面の傷つきを抑制することができる成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態の塗工代替用シート材を示す断面図。
【図2】(a)は保護フィルムを引き剥がす前の成形体を示す断面図、(b)は成形体を示す断面図。
【図3】(a)は塗装装置を示す概念図、(b)はシート材に保護フィルムを貼着する装置を示す概念図。
【符号の説明】
11…弾性層、11a…破断保護層、12…装飾層、12a…着色層、12b…コーティング層、13…保護フィルム、21…成形基材。
Claims (12)
- 成形体への塗工の代替手段として用いられるものであり、合成樹脂製の成形基材を所定形状に成形しつつ、同成形基材の表面に装飾を施して成形体を得るインモールド成形法、真空成形法、ブロー成形法又は圧空成形法で使用される塗工代替用シート材であって、
前記成形基材の表面に設けられることにより前記成形体の表面に弾性感を付与するための発泡体よりなる弾性層と、当該弾性層の表面に設けられ、同弾性層の破断を抑制するための合成樹脂製の破断保護層と、当該破断保護層の表面に設けられ、前記成形体の表面を装飾するための合成樹脂製の装飾層とを備えるとともに、前記成形体の成形条件下においてJIS K 6251に規定される破断伸び率が50〜250%であり、かつJIS K 6301に規定される破断強度が1.5〜4.0MPaであることを特徴とする塗工代替用シート材。 - 前記装飾層の表面には熱可塑性樹脂よりなる保護フィルムを設けるとともに、この保護フィルムは、成形体の成形時における破断伸び率が50〜250%であることを特徴とする請求項1に記載の塗工代替用シート材。
- 前記装飾層は、イソシアネート基に反応する官能基を有するエステル系、ウレタン系又はアクリル系樹脂に架橋剤としてポリイソシアネートを配合して得られる一液型又は二液型の塗料より形成されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗工代替用シート材。
- 前記破断保護層は、その厚みが5〜100μmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材。
- 前記装飾層は、その厚みが5〜80μmであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材。
- 前記弾性層は、その厚みが0.1〜10mmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材。
- 前記破断保護層は、その表面の硬度が、JIS K 5400に規定される鉛筆硬度でB〜HBであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材。
- 前記装飾層は、顔料によって着色された塗料から形成される着色層と、当該着色層の表面に設けられた透明な塗料から形成されるコーティング層とよりなるものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材。
- 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材の製造方法であって、
弾性層をシート状に成形した後、この弾性層の表面に合成樹脂製の薄膜を熱ラミネート又は合成樹脂製の薄膜を加熱溶融された合成樹脂を弾性層の表面に押し出し成膜することによって破断保護層を設け、その後、この破断保護層の表面に合成樹脂よりなる装飾層を形成することを特徴とする塗工代替用シート材の製造方法。 - 前記装飾層を形成した後、さらに当該装飾層の表面に熱可塑性樹脂よりなる保護フィルムを積層することを特徴とする請求項9に記載の塗工代替用シート材の製造方法。
- 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材を使用し、インモールド成形法、真空成形法、ブロー成形法又は圧空成形法で成形基材を所定形状に成形しつつ、同成形基材の表面に塗工代替用シート材の弾性層を接合することにより、塗工代替用シート材と成形基材とが一体化されて構成され、その表面に弾性感を有するとともに、同表面の硬度が、JIS K 5400に規定される鉛筆硬度で3H以上であることを特徴とする成形体。
- 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の塗工代替用シート材を一対の金型のキャビティ内に配置し、キャビティ内の温度を100〜300℃とした状態で塗工代替用シート材の弾性層側から成形基材を形成する加熱溶融された合成樹脂材料を射出した後、両金型を冷却することにより、成形基材の表面に弾性層を熱融着させて塗工代替用シート材及び成形基材を一体化させることを特徴とする成形体の製造方法。
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