JP2004261815A - 摩擦撹拌接合方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】コストを低廉化することが可能で、かつ美観に優れるとともに強度および剛性の大きなシリンダブロックを得ることが可能な摩擦撹拌接合方法を提供する。
【解決手段】ブロック本体10のガスケット面12と、シリンダスリーブ30a〜30cの大径部36a〜36cとを摩擦撹拌接合した後、摩擦撹拌接合用工具50のプローブ54を離脱させる際に形成された離脱穴Y1を拡開・仕上げ加工して、水路64aとする。
【選択図】図10
【解決手段】ブロック本体10のガスケット面12と、シリンダスリーブ30a〜30cの大径部36a〜36cとを摩擦撹拌接合した後、摩擦撹拌接合用工具50のプローブ54を離脱させる際に形成された離脱穴Y1を拡開・仕上げ加工して、水路64aとする。
【選択図】図10
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦撹拌接合方法に関し、一層詳細には、美観に優れかつ強度および剛性が高いシリンダブロックを得ることが可能な摩擦撹拌接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の内燃機関を構成するシリンダブロックの1種として、図16に示すように、ウォータジャケット部1のガスケット面2側が閉塞されているクローズドデッキ型シリンダブロック3が挙げられる。クローズドデッキ型シリンダブロック3には、ブロック本体4の肉厚が同一であれば、ウォータジャケット部のガスケット面側が開放されているオープンデッキ型シリンダブロックに比して剛性が高いという利点がある。
【0003】
クローズドデッキ型シリンダブロック3の場合、ウォータジャケット部1は、容易に崩壊させることが可能な中子、いわゆる崩壊性中子を用いて、重力鋳造(GDC)や低圧鋳造(LPDC)にて形成される。
【0004】
その一方で、内燃機関においては、ボア穴5の内部でピストン(図示せず)が往復動作する。このため、ボア穴5には、耐摩耗性に優れる素材からなるシリンダスリーブ6、例えば、いわゆるFCスリーブやメッキスリーブ、MMCスリーブ等を挿入し、該シリンダスリーブ6の側周壁部にピストンの側周壁部を摺接させるようにしている。耐摩耗性に優れる他の素材としては、いわゆるハイシリコン系アルミニウムが例示される。
【0005】
このようなクローズドデッキ型シリンダブロック3を製造する場合、まず、鋳造用金型によって形成されるキャビティに崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を配置しておき、この状態で溶湯をキャビティに注湯して、該溶湯で崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を囲繞する。
【0006】
次に、溶湯を冷却固化することによってブロック本体4を設ける。この冷却固化に伴って、シリンダスリーブ6が鋳込まれる。
【0007】
その後、前記崩壊性中子を崩壊させる。この崩壊によって得られた中空部が、ウォータジャケット部1となる。すなわち、この場合、ウォータジャケット部1は、ブロック本体4に設けられる。
【0008】
ところで、近年では、地球温暖化を防止するために、省エネルギの観点から自動車等の燃費を向上させることが希求されている。その方策として、内燃機関等を軽量化することにより、最終製品である自動車を軽量化することが提案されている。
【0009】
このような観点から、摩擦撹拌接合(例えば、特許文献1および2参照)が着目されている。摩擦撹拌接合によれば、例えば、アルミニウムからなるブロック本体4と、ハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ6とを接合する場合等、接合対象が異種金属同士であっても容易に接合させることができるからである。
【0010】
すなわち、例えば、高圧鋳造(HPDC)によって肉厚の小さいブロック本体4を作製し、該ブロック本体4にシリンダスリーブ6を接合することによって、小型かつ軽量なクローズドデッキ型シリンダブロック3を得ることができると考えられる。しかも、HPDCでは崩壊性中子を使用する必要がないので、コストを低減することができるという利点もある。
【0011】
摩擦撹拌接合は、一般的には以下のようにして遂行される。まず、回転動作する摩擦撹拌接合用工具を、ワークに埋没させた後に接合対象である当接部に移動させ、さらに、該当接部に沿って変位させる。この変位に伴って、当接部の肉が摩擦熱にて軟化するとともに、摩擦撹拌接合用工具によって撹拌され、その結果、該当接部が固相接合される。その後、摩擦撹拌接合用工具がワークから離脱される。
【0012】
ところで、摩擦撹拌接合を遂行する場合、ワークから摩擦撹拌接合用工具を離脱させる際、該ワークに離脱穴が形成されてしまう。このため、美観が不良で、強度や剛性が低い製品が作製されてしまうという不具合が顕在化している。
【0013】
そこで、特許文献1では、離脱穴にはんだやろう材を充填することが提案されている。また、特許文献2では、離脱穴が形成された部位を切断除去することが記載されている。
【0014】
【特許文献1】
特開2000−176658号公報(段落[0013]、図2)
【特許文献2】
特開2000−42759号公報(段落[0022]、図2)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1にて提案された方法においては、充填材を使用する必要がある分だけコストが上昇する。一方、特許文献2に提案された方法には、切断除去する部位、換言すれば、無駄な部位をワークに予め設けておく必要があるため、該ワークとして形状が大なるものを使用しなければならない。
【0016】
すなわち、上記したいずれの場合においても、製造コストに優れているとは言い難い側面がある。
【0017】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、コストを上昇させることなく、外観が良好でかつ強度および剛性に優れた製品を得ることが可能な摩擦撹拌接合方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、ブロック本体と、前記ブロック本体のボア穴に挿入されたシリンダスリーブとの当接部を、回転動作する摩擦撹拌接合用工具によって摩擦撹拌接合してシリンダブロックとする摩擦撹拌接合方法であって、
前記ブロック本体または前記シリンダスリーブの少なくともいずれか一方に前記摩擦撹拌接合用工具を埋没させ、
前記摩擦撹拌接合用工具を前記当接部に沿って変位させることに伴って、前記当接部の肉を摩擦熱にて軟化させるとともに前記摩擦撹拌接合用工具によって撹拌することで前記当接部を接合する工程と、
前記接合の後に前記摩擦撹拌接合用工具を前記当接部または前記シリンダスリーブから離脱させる工程と、
を有し、
前記摩擦撹拌接合用工具を、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間のウォータジャケット部と連通する水路を設ける箇所で離脱させることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明によれば、離脱穴を水路とするので、製品に離脱穴が残留することがない。このため、美観に優れるシリンダブロックを得ることができる。また、シリンダブロックに離脱穴が残留しないので、該シリンダブロックが強度および剛性に優れたものとなる。
【0020】
しかも、この場合、離脱穴に充填材を充填する必要がない。また、ブロック本体の一部を切断除去する必要がないので、該ブロック本体の形状を大きくする必要もない。このため、コストを低廉化することができる。
【0021】
なお、シリンダスリーブとして円筒部と大径部とを有するものを用い、大径部を前記ブロック本体に設けられた載置部に載置することによって円筒部と前記ボア穴との間に形成された間隙をウォータジャケット部とするとともに、前記ブロック本体のガスケット面と大径部とを摩擦撹拌接合して、少なくともこの大径部に水路を設けることが好ましい。このようなシリンダスリーブを使用して大径部に水路を設けることにより、ウォータジャケット部と水路とを連通させることが著しく容易となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る摩擦撹拌接合方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
本実施の形態に係る摩擦撹拌接合方法は、シリンダスリーブとブロック本体とを接合して、自動車の内燃機関となるシリンダブロックを構成する際に遂行される。
【0024】
図1は、ブロック本体10の要部概略縦断面図であり、図2は、該ブロック本体10のガスケット面12側からの平面図である。このブロック本体10には、第1環状切欠部14および第2環状切欠部16を有するボア穴18が設けられており、かつ該ボア穴18内には、壁部20a、20bが突出形成されている。そして、ボア穴18の内周壁部と壁部20a、20bには環状段部22a〜22cがそれぞれ設けられ、かつボア穴18のガスケット面12側開口部には、載置部としての凹部24が設けられている。
【0025】
このブロック本体10は、例えば、アルミニウムの溶湯を使用してのHPDCによって作製することができる。この際、鋳造用金型のキャビティに崩壊性中子を配置する必要はない。
【0026】
ブロック本体10のボア穴18には、図3および図4に示すシリンダスリーブ30aが挿入される。このシリンダスリーブ30aは、下端部近傍の内周壁部がテーパ状に縮径されることによって設けられた縮径部32(図4参照)を具備する円筒部34aと、該円筒部34aの一端部に設けられた大径部36aとを有する。なお、縮径部32の一部であるテーパ部38は、シリンダスリーブ30aの内周が大径部36aから離間するにつれて縮径するように設けられている。そして、大径部36aの下方には、環状段部40aが設けられている。
【0027】
シリンダスリーブ30aは、例えば、ハイシリコン系アルミニウムからなるワークに対して押し出し成形や鋳造成形等の公知の成形法を施し、縮径部32が設けられた円筒部34aと、大径部36aとを有するシリンダスリーブ30aを作製した後、大径部36aにおける側周壁部の下方を円周方向に沿って機械加工にて切り欠き、該大径部36aの下方に環状段部40aを設けることによって作製することができる。
【0028】
ボア穴18には、シリンダスリーブ30aの他、該シリンダスリーブ30aと同一構成のシリンダスリーブ30b、30cが挿入される。これらシリンダスリーブ30b、30cは、シリンダスリーブ30aと同様にして作製される。
【0029】
上記したブロック本体10とシリンダスリーブ30a〜30cとは、以下のようにして接合される。
【0030】
まず、大径部36bの一部を直線的に切り欠いて、環状段部40bを露呈するとともに、環状段部40a、40cの一部を直線的に切り欠く。
【0031】
次に、ブロック本体10のボア穴18にシリンダスリーブ30a〜30cを挿入する。図5に一部を示すように、挿入されたシリンダスリーブ30a〜30cの各下端部が環状段部22a〜22cに載置され、その一方で、大径部36a〜36cが凹部24に載置されるとともに、大径部36a、36cが環状段部40b上に載置される。なお、環状段部40a、40cが切り欠かれているので、該環状段部40a、40cが環状段部40bに干渉することはない。さらに、環状段部40a〜40cの側周壁部が第2環状切欠部16の内周壁部に当接する。
【0032】
この挿入に伴って、第2環状切欠部16の内周壁部と各シリンダスリーブ30a〜30cとの間にクリアランスが形成される。このクリアランスは、シリンダスリーブ30a、30b同士の間、およびシリンダスリーブ30b、30c同士の間に形成されたクリアランスに連通し、これによりウォータジャケット部42が形成される。
【0033】
このように、本実施の形態においては、ボア穴18にシリンダスリーブ30a〜30cを挿入することによってウォータジャケット部42が形成される。
【0034】
次に、ボア穴18の内周壁部および壁部20a、20bと、シリンダスリーブ30a〜30cの外周壁部とを摩擦撹拌接合方法によって互いに接合する。
【0035】
図5に示すように、摩擦撹拌接合用工具50は、円柱状の回転体52と、該回転体52に比して小径でかつ先端が円錐状のプローブ54を備える。本実施の形態においては、ボア穴18の長手軸方向に対して傾斜した状態で摩擦撹拌接合用工具50をボア穴18内に挿入し、プローブ54をテーパ部38の下端部終点近傍に当接させる。
【0036】
この状態で回転体52を回転付勢すると、プローブ54がテーパ部38に摺接することに伴って摩擦熱が発生し、テーパ部38におけるプローブ54の当接箇所が軟化してプローブ54の先端部が埋没する。この埋没したプローブ54を、第1環状切欠部14の内周壁部に接近するようにテーパ部38に沿って変位させる。これにより、図6に示すように、プローブ54がシリンダスリーブ30aと第1環状切欠部14の内周壁部との当接箇所に到達し、該当接箇所においても、シリンダスリーブ30aの外周壁部と第1環状切欠部14の内周壁部とが摩擦熱によって軟化する。
【0037】
そして、摩擦撹拌接合用工具50をテーパ部38に沿って旋回動作させると、軟化した肉は、プローブ54にて撹拌されることに伴って塑性流動した後、該プローブ54が離間することに伴って固相接合する。摩擦撹拌接合用工具50が旋回動作されることに追従してこの現象が逐次的に繰り返されることにより、シリンダスリーブ30aの外周壁部と、第1環状切欠部14の内周壁部または壁部20aとが一体的に接合されるに至る。
【0038】
摩擦撹拌接合用工具50をテーパ部38に沿って1回旋回動作させた後、プローブ54を、第1環状切欠部14の内周壁部から離間するように、埋没させた箇所に指向して変位させた上で、摩擦撹拌接合用工具50を縮径部32から離脱させる。勿論、残余のシリンダスリーブ30b、30cにおいても同様の作業が営まれる。この際、縮径部32には離脱穴が形成される。
【0039】
次に、シリンダスリーブ30a〜30cの大径部36a〜36cとブロック本体10におけるガスケット面12とを接合する。この接合も、摩擦撹拌接合にて行われる。
【0040】
すなわち、摩擦撹拌接合用工具50の回転体52を回転付勢した後、回転動作するプローブ54を、例えば、ブロック本体10においてボルト穴(ねじ穴)を設ける部位に埋没させる。
【0041】
そして、図7に矢印Aとして示すように、プローブ54を、大径部36aとガスケット面12との当接部、大径部36a、36bの当接部、大径部36bとガスケット面12との当接部、大径部36b、36cの当接部、大径部36cとガスケット面12との当接部、大径部36c、36bの当接部、大径部36bとガスケット面12との当接部、大径部36b、36aの当接部、および大径部36aとガスケット面12との当接部に沿って変位させる。この変位に伴い、大径部36a〜36cの肉と、ブロック本体10におけるガスケット面12の肉とが摩擦熱によって軟化するとともに、プローブ54によって撹拌される。その結果、これらの肉同士が固相接合され、シリンダスリーブ30a〜30cとブロック本体10同士、およびシリンダスリーブ30a〜30c同士とが一体的に接合される。
【0042】
なお、この際、図8に拡大して示すように、大径部36a〜36cは、凹部24に載置されていることによって堅牢に支持されている。また、環状段部40a〜40cの側周壁部がボア穴18の内周壁部に当接しているので、該環状段部40a〜40cの楔作用によって、大径部36a〜36cがブロック本体10から離間し難くなる。このため、ブロック本体10と大径部36a〜36cとが離間することを防止するためのクランプ用治具を特に使用することなく、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0043】
しかも、この場合、ウォータジャケット部42を閉塞する環状段部40a〜40cが軟化しないので、軟化した肉がウォータジャケット部42に流動することを回避することもできる。
【0044】
その後、図7および図9に示すように、大径部36aにおいて水路を設ける部位からプローブ54を離脱させる。この際、ブロック本体10には、離脱穴Y1が形成される。
【0045】
以上の作業の後、プローブ54を埋没させた箇所を機械加工にて拡開した後に仕上げ加工を施し、図10に示すように、ボルト穴62aを形成する。さらに、ガスケット面12の所定の箇所にボルト穴62b〜62hを設ける。
【0046】
その一方で、離脱穴Y1を機械加工にて拡開した後に仕上げ加工を施して、離脱穴Y1を水路64aとする。これにより、プローブ54の離脱穴Y1が残留していないシリンダブロック60が得られるに至る。さらに、大径部36a〜36cに水路64b〜64jを設ける。図11から諒解されるように、これら水路64a〜64jは、ウォータジャケット部42に連通する。
【0047】
このように、本実施の形態においては、大径部36aに形成された離脱穴Y1を加工して、水路64aとするようにしている。したがって、美観が良好なシリンダブロック60を得ることができる。
【0048】
また、シリンダブロック60は、離脱穴Y1が残留していないので、強度および剛性にも優れる。
【0049】
そして、本実施の形態によれば、充填材を使用する必要もなく、ブロック本体10または大径部36a〜36cの一部を切断除去する必要、ひいてはブロック本体10または大径部36a〜36cを予め大型化しておく必要もない。このため、コストを低廉化することもできる。
【0050】
なお、このシリンダブロック60は、各大径部36a〜36cが前記凹部24上に載置されることに伴ってウォータジャケット部42のガスケット面12側が大径部36a〜36cで閉塞された、いわゆるクローズドデッキ型シリンダブロックである。また、図9〜図11においては、便宜上、ブロック本体10と各シリンダスリーブ30a〜30cの大径部36a〜36cとを境界線にて明示しているが、実際には、各部材10、36a〜36c同士は摩擦撹拌接合によって継目なく接合されている。すなわち、各部材10、36a〜36cは一体的に接合されており、視認可能な程度に明確な境界線は存在しない。以降の図面においても同様である。
【0051】
このシリンダブロック60を構成するブロック本体10は、HPDCにて鋳造成形されているので、肉厚が小さい。しかも、図6および図9等から諒解されるように、環状切欠部28とシリンダスリーブ30a〜30cとの間のクリアランス、シリンダスリーブ30a〜30cにおける隣接するもの同士の間のクリアランスがウォータジャケット部42となるので、一般的なシリンダブロック3(図16参照)のように、ウォータジャケット部1をブロック本体4の中空部として設ける必要はない。
【0052】
以上の理由から、ブロック本体10の肉厚を小さくすることができるので、シリンダブロック60の体積を小さくすることができる。換言すれば、シリンダブロック60を小型化することができるとともに、軽量化することができる。
【0053】
しかも、摩擦撹拌接合を採用しているので、シリンダブロック60では、互いに異種の金属であるブロック本体10(アルミニウム)と、シリンダスリーブ30a〜30c(ハイシリコン系アルミニウム)とが堅牢に接合されている。このため、該シリンダブロック60は、高い強度および剛性を示す。
【0054】
さらに、このシリンダブロック60においては、耐摩耗性に優れるハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ30a〜30cを使用しているので、充分な耐久性が確保される。この場合、ブロック本体10を安価なアルミニウムから構成するようにしているので、シリンダブロック60の製造コストが上昇することがないという利点もある。
【0055】
ボルト穴62a〜62hおよび水路64a〜64jを設けた後、シリンダスリーブ30a〜30cの各縮径部32を除去する。すなわち、例えば、ドリルによって研削加工を行う等して、図12に示すように、シリンダスリーブ30a〜30cの内周を等径とする。これにより、該シリンダスリーブ30a〜30c内でピストンが往復動作することが可能となる。
【0056】
この除去の際には、縮径部32において形成されたプローブ54の離脱穴が形成された箇所も除去される。このため、円筒部34a〜34cの内周壁部にプローブ54の離脱穴が残留することはない。
【0057】
シリンダブロック60や図示しないシリンダヘッド等が組み合わされて内燃機関が構成された際、水路64a〜64jは、前記シリンダヘッドの冷却水路と連通する。すなわち、該冷却水路に流通された冷却水は、水路64a〜64jを介してウォータジャケット部42に導入される。
【0058】
なお、上記した実施の形態においては、ボルト穴62aを設ける箇所に摩擦撹拌接合用工具50のプローブ54を埋没させたが、図13に示すように、大径部36aに埋没させるようにしてもよい。この場合、埋没箇所を上記に準拠して機械加工することにより水路64dとするようにしてもよい。
【0059】
また、プローブ54は、ガスケット面12におけるボルト穴62b〜62hのいずれかを設ける箇所から埋没させるようにしてもよいし、または、大径部36b、36cに埋没させるようにしてもよい。
【0060】
さらに、プローブ54は、図14に示すように、大径部36a〜36cのいずれかとガスケット面12との接合箇所から離脱させるようにしてもよい。この場合、図15に示すように、離脱穴Y2を起点として設ける水路64を屈曲形成すればよい。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る摩擦撹拌接合方法によれば、少なくとも離脱穴を水路として加工するようにしている。このため、充填材を使用する必要もなく、かつワークの一部を切断除去する必要もない。したがって、コストを低廉化することができるとともに、美観に優れるシリンダブロックを得ることができるという効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る摩擦撹拌接合方法が遂行される第1の部材であるブロック本体の要部概略縦断面図である。
【図2】図1のブロック本体におけるガスケット面側からの平面図である。
【図3】本実施の形態に係る摩擦撹拌接合方法が遂行される第2の部材であるシリンダスリーブの概略全体斜視図である。
【図4】図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】摩擦撹拌接合用工具のプローブを埋没させた後、該プローブをボア穴の内周壁部とシリンダスリーブの外周壁との当接箇所に変位させた状態を示す要部概略縦断面図である。
【図6】図3のシリンダスリーブの外周壁部をボア穴の内周壁部に摩擦撹拌接合にて接合する状態を示す要部概略縦断面図である。
【図7】大径部をブロック本体に接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向の一例を示すガスケット面側からの平面説明図である。
【図8】大径部とブロック本体とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図9】図7のIX−IX線矢視断面図である。
【図10】図1のブロック本体と図3のシリンダスリーブとが摩擦撹拌接合されることによって作製されたシリンダブロックのガスケット面側からの平面図である。
【図11】図10のシリンダブロックの要部拡大縦断面図である。
【図12】図10のシリンダブロックの要部縦断面図である。
【図13】大径部をブロック本体に接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向の別例を示すガスケット面側からの平面説明図である。
【図14】摩擦撹拌接合用工具を大径部とガスケット面との接合箇所から離脱させた状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図15】図14の離脱穴を起点として屈曲形成された水路を示す要部拡大縦断面図である。
【図16】一般的な多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【符号の説明】
1、42…ウォータジャケット部 2、12…ガスケット面
3、60…シリンダブロック 4、10…ブロック本体
5…ボア穴 6、30a〜30c…シリンダスリーブ
14、16…環状切欠部 18…ボア穴(挿入用孔部)
20a、20b…壁部 22a〜22c…環状段部
24…凹部 32…縮径部
34a〜34c…円筒部 36a〜36c…大径部
38…テーパ部 40a〜40c…環状段部
50…摩擦撹拌接合用工具 52…回転体
54…プローブ 62a〜62h…ボルト穴
64、64a〜64j…水路 Y1、Y2…離脱穴
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦撹拌接合方法に関し、一層詳細には、美観に優れかつ強度および剛性が高いシリンダブロックを得ることが可能な摩擦撹拌接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の内燃機関を構成するシリンダブロックの1種として、図16に示すように、ウォータジャケット部1のガスケット面2側が閉塞されているクローズドデッキ型シリンダブロック3が挙げられる。クローズドデッキ型シリンダブロック3には、ブロック本体4の肉厚が同一であれば、ウォータジャケット部のガスケット面側が開放されているオープンデッキ型シリンダブロックに比して剛性が高いという利点がある。
【0003】
クローズドデッキ型シリンダブロック3の場合、ウォータジャケット部1は、容易に崩壊させることが可能な中子、いわゆる崩壊性中子を用いて、重力鋳造(GDC)や低圧鋳造(LPDC)にて形成される。
【0004】
その一方で、内燃機関においては、ボア穴5の内部でピストン(図示せず)が往復動作する。このため、ボア穴5には、耐摩耗性に優れる素材からなるシリンダスリーブ6、例えば、いわゆるFCスリーブやメッキスリーブ、MMCスリーブ等を挿入し、該シリンダスリーブ6の側周壁部にピストンの側周壁部を摺接させるようにしている。耐摩耗性に優れる他の素材としては、いわゆるハイシリコン系アルミニウムが例示される。
【0005】
このようなクローズドデッキ型シリンダブロック3を製造する場合、まず、鋳造用金型によって形成されるキャビティに崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を配置しておき、この状態で溶湯をキャビティに注湯して、該溶湯で崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を囲繞する。
【0006】
次に、溶湯を冷却固化することによってブロック本体4を設ける。この冷却固化に伴って、シリンダスリーブ6が鋳込まれる。
【0007】
その後、前記崩壊性中子を崩壊させる。この崩壊によって得られた中空部が、ウォータジャケット部1となる。すなわち、この場合、ウォータジャケット部1は、ブロック本体4に設けられる。
【0008】
ところで、近年では、地球温暖化を防止するために、省エネルギの観点から自動車等の燃費を向上させることが希求されている。その方策として、内燃機関等を軽量化することにより、最終製品である自動車を軽量化することが提案されている。
【0009】
このような観点から、摩擦撹拌接合(例えば、特許文献1および2参照)が着目されている。摩擦撹拌接合によれば、例えば、アルミニウムからなるブロック本体4と、ハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ6とを接合する場合等、接合対象が異種金属同士であっても容易に接合させることができるからである。
【0010】
すなわち、例えば、高圧鋳造(HPDC)によって肉厚の小さいブロック本体4を作製し、該ブロック本体4にシリンダスリーブ6を接合することによって、小型かつ軽量なクローズドデッキ型シリンダブロック3を得ることができると考えられる。しかも、HPDCでは崩壊性中子を使用する必要がないので、コストを低減することができるという利点もある。
【0011】
摩擦撹拌接合は、一般的には以下のようにして遂行される。まず、回転動作する摩擦撹拌接合用工具を、ワークに埋没させた後に接合対象である当接部に移動させ、さらに、該当接部に沿って変位させる。この変位に伴って、当接部の肉が摩擦熱にて軟化するとともに、摩擦撹拌接合用工具によって撹拌され、その結果、該当接部が固相接合される。その後、摩擦撹拌接合用工具がワークから離脱される。
【0012】
ところで、摩擦撹拌接合を遂行する場合、ワークから摩擦撹拌接合用工具を離脱させる際、該ワークに離脱穴が形成されてしまう。このため、美観が不良で、強度や剛性が低い製品が作製されてしまうという不具合が顕在化している。
【0013】
そこで、特許文献1では、離脱穴にはんだやろう材を充填することが提案されている。また、特許文献2では、離脱穴が形成された部位を切断除去することが記載されている。
【0014】
【特許文献1】
特開2000−176658号公報(段落[0013]、図2)
【特許文献2】
特開2000−42759号公報(段落[0022]、図2)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1にて提案された方法においては、充填材を使用する必要がある分だけコストが上昇する。一方、特許文献2に提案された方法には、切断除去する部位、換言すれば、無駄な部位をワークに予め設けておく必要があるため、該ワークとして形状が大なるものを使用しなければならない。
【0016】
すなわち、上記したいずれの場合においても、製造コストに優れているとは言い難い側面がある。
【0017】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、コストを上昇させることなく、外観が良好でかつ強度および剛性に優れた製品を得ることが可能な摩擦撹拌接合方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、ブロック本体と、前記ブロック本体のボア穴に挿入されたシリンダスリーブとの当接部を、回転動作する摩擦撹拌接合用工具によって摩擦撹拌接合してシリンダブロックとする摩擦撹拌接合方法であって、
前記ブロック本体または前記シリンダスリーブの少なくともいずれか一方に前記摩擦撹拌接合用工具を埋没させ、
前記摩擦撹拌接合用工具を前記当接部に沿って変位させることに伴って、前記当接部の肉を摩擦熱にて軟化させるとともに前記摩擦撹拌接合用工具によって撹拌することで前記当接部を接合する工程と、
前記接合の後に前記摩擦撹拌接合用工具を前記当接部または前記シリンダスリーブから離脱させる工程と、
を有し、
前記摩擦撹拌接合用工具を、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間のウォータジャケット部と連通する水路を設ける箇所で離脱させることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明によれば、離脱穴を水路とするので、製品に離脱穴が残留することがない。このため、美観に優れるシリンダブロックを得ることができる。また、シリンダブロックに離脱穴が残留しないので、該シリンダブロックが強度および剛性に優れたものとなる。
【0020】
しかも、この場合、離脱穴に充填材を充填する必要がない。また、ブロック本体の一部を切断除去する必要がないので、該ブロック本体の形状を大きくする必要もない。このため、コストを低廉化することができる。
【0021】
なお、シリンダスリーブとして円筒部と大径部とを有するものを用い、大径部を前記ブロック本体に設けられた載置部に載置することによって円筒部と前記ボア穴との間に形成された間隙をウォータジャケット部とするとともに、前記ブロック本体のガスケット面と大径部とを摩擦撹拌接合して、少なくともこの大径部に水路を設けることが好ましい。このようなシリンダスリーブを使用して大径部に水路を設けることにより、ウォータジャケット部と水路とを連通させることが著しく容易となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る摩擦撹拌接合方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
本実施の形態に係る摩擦撹拌接合方法は、シリンダスリーブとブロック本体とを接合して、自動車の内燃機関となるシリンダブロックを構成する際に遂行される。
【0024】
図1は、ブロック本体10の要部概略縦断面図であり、図2は、該ブロック本体10のガスケット面12側からの平面図である。このブロック本体10には、第1環状切欠部14および第2環状切欠部16を有するボア穴18が設けられており、かつ該ボア穴18内には、壁部20a、20bが突出形成されている。そして、ボア穴18の内周壁部と壁部20a、20bには環状段部22a〜22cがそれぞれ設けられ、かつボア穴18のガスケット面12側開口部には、載置部としての凹部24が設けられている。
【0025】
このブロック本体10は、例えば、アルミニウムの溶湯を使用してのHPDCによって作製することができる。この際、鋳造用金型のキャビティに崩壊性中子を配置する必要はない。
【0026】
ブロック本体10のボア穴18には、図3および図4に示すシリンダスリーブ30aが挿入される。このシリンダスリーブ30aは、下端部近傍の内周壁部がテーパ状に縮径されることによって設けられた縮径部32(図4参照)を具備する円筒部34aと、該円筒部34aの一端部に設けられた大径部36aとを有する。なお、縮径部32の一部であるテーパ部38は、シリンダスリーブ30aの内周が大径部36aから離間するにつれて縮径するように設けられている。そして、大径部36aの下方には、環状段部40aが設けられている。
【0027】
シリンダスリーブ30aは、例えば、ハイシリコン系アルミニウムからなるワークに対して押し出し成形や鋳造成形等の公知の成形法を施し、縮径部32が設けられた円筒部34aと、大径部36aとを有するシリンダスリーブ30aを作製した後、大径部36aにおける側周壁部の下方を円周方向に沿って機械加工にて切り欠き、該大径部36aの下方に環状段部40aを設けることによって作製することができる。
【0028】
ボア穴18には、シリンダスリーブ30aの他、該シリンダスリーブ30aと同一構成のシリンダスリーブ30b、30cが挿入される。これらシリンダスリーブ30b、30cは、シリンダスリーブ30aと同様にして作製される。
【0029】
上記したブロック本体10とシリンダスリーブ30a〜30cとは、以下のようにして接合される。
【0030】
まず、大径部36bの一部を直線的に切り欠いて、環状段部40bを露呈するとともに、環状段部40a、40cの一部を直線的に切り欠く。
【0031】
次に、ブロック本体10のボア穴18にシリンダスリーブ30a〜30cを挿入する。図5に一部を示すように、挿入されたシリンダスリーブ30a〜30cの各下端部が環状段部22a〜22cに載置され、その一方で、大径部36a〜36cが凹部24に載置されるとともに、大径部36a、36cが環状段部40b上に載置される。なお、環状段部40a、40cが切り欠かれているので、該環状段部40a、40cが環状段部40bに干渉することはない。さらに、環状段部40a〜40cの側周壁部が第2環状切欠部16の内周壁部に当接する。
【0032】
この挿入に伴って、第2環状切欠部16の内周壁部と各シリンダスリーブ30a〜30cとの間にクリアランスが形成される。このクリアランスは、シリンダスリーブ30a、30b同士の間、およびシリンダスリーブ30b、30c同士の間に形成されたクリアランスに連通し、これによりウォータジャケット部42が形成される。
【0033】
このように、本実施の形態においては、ボア穴18にシリンダスリーブ30a〜30cを挿入することによってウォータジャケット部42が形成される。
【0034】
次に、ボア穴18の内周壁部および壁部20a、20bと、シリンダスリーブ30a〜30cの外周壁部とを摩擦撹拌接合方法によって互いに接合する。
【0035】
図5に示すように、摩擦撹拌接合用工具50は、円柱状の回転体52と、該回転体52に比して小径でかつ先端が円錐状のプローブ54を備える。本実施の形態においては、ボア穴18の長手軸方向に対して傾斜した状態で摩擦撹拌接合用工具50をボア穴18内に挿入し、プローブ54をテーパ部38の下端部終点近傍に当接させる。
【0036】
この状態で回転体52を回転付勢すると、プローブ54がテーパ部38に摺接することに伴って摩擦熱が発生し、テーパ部38におけるプローブ54の当接箇所が軟化してプローブ54の先端部が埋没する。この埋没したプローブ54を、第1環状切欠部14の内周壁部に接近するようにテーパ部38に沿って変位させる。これにより、図6に示すように、プローブ54がシリンダスリーブ30aと第1環状切欠部14の内周壁部との当接箇所に到達し、該当接箇所においても、シリンダスリーブ30aの外周壁部と第1環状切欠部14の内周壁部とが摩擦熱によって軟化する。
【0037】
そして、摩擦撹拌接合用工具50をテーパ部38に沿って旋回動作させると、軟化した肉は、プローブ54にて撹拌されることに伴って塑性流動した後、該プローブ54が離間することに伴って固相接合する。摩擦撹拌接合用工具50が旋回動作されることに追従してこの現象が逐次的に繰り返されることにより、シリンダスリーブ30aの外周壁部と、第1環状切欠部14の内周壁部または壁部20aとが一体的に接合されるに至る。
【0038】
摩擦撹拌接合用工具50をテーパ部38に沿って1回旋回動作させた後、プローブ54を、第1環状切欠部14の内周壁部から離間するように、埋没させた箇所に指向して変位させた上で、摩擦撹拌接合用工具50を縮径部32から離脱させる。勿論、残余のシリンダスリーブ30b、30cにおいても同様の作業が営まれる。この際、縮径部32には離脱穴が形成される。
【0039】
次に、シリンダスリーブ30a〜30cの大径部36a〜36cとブロック本体10におけるガスケット面12とを接合する。この接合も、摩擦撹拌接合にて行われる。
【0040】
すなわち、摩擦撹拌接合用工具50の回転体52を回転付勢した後、回転動作するプローブ54を、例えば、ブロック本体10においてボルト穴(ねじ穴)を設ける部位に埋没させる。
【0041】
そして、図7に矢印Aとして示すように、プローブ54を、大径部36aとガスケット面12との当接部、大径部36a、36bの当接部、大径部36bとガスケット面12との当接部、大径部36b、36cの当接部、大径部36cとガスケット面12との当接部、大径部36c、36bの当接部、大径部36bとガスケット面12との当接部、大径部36b、36aの当接部、および大径部36aとガスケット面12との当接部に沿って変位させる。この変位に伴い、大径部36a〜36cの肉と、ブロック本体10におけるガスケット面12の肉とが摩擦熱によって軟化するとともに、プローブ54によって撹拌される。その結果、これらの肉同士が固相接合され、シリンダスリーブ30a〜30cとブロック本体10同士、およびシリンダスリーブ30a〜30c同士とが一体的に接合される。
【0042】
なお、この際、図8に拡大して示すように、大径部36a〜36cは、凹部24に載置されていることによって堅牢に支持されている。また、環状段部40a〜40cの側周壁部がボア穴18の内周壁部に当接しているので、該環状段部40a〜40cの楔作用によって、大径部36a〜36cがブロック本体10から離間し難くなる。このため、ブロック本体10と大径部36a〜36cとが離間することを防止するためのクランプ用治具を特に使用することなく、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0043】
しかも、この場合、ウォータジャケット部42を閉塞する環状段部40a〜40cが軟化しないので、軟化した肉がウォータジャケット部42に流動することを回避することもできる。
【0044】
その後、図7および図9に示すように、大径部36aにおいて水路を設ける部位からプローブ54を離脱させる。この際、ブロック本体10には、離脱穴Y1が形成される。
【0045】
以上の作業の後、プローブ54を埋没させた箇所を機械加工にて拡開した後に仕上げ加工を施し、図10に示すように、ボルト穴62aを形成する。さらに、ガスケット面12の所定の箇所にボルト穴62b〜62hを設ける。
【0046】
その一方で、離脱穴Y1を機械加工にて拡開した後に仕上げ加工を施して、離脱穴Y1を水路64aとする。これにより、プローブ54の離脱穴Y1が残留していないシリンダブロック60が得られるに至る。さらに、大径部36a〜36cに水路64b〜64jを設ける。図11から諒解されるように、これら水路64a〜64jは、ウォータジャケット部42に連通する。
【0047】
このように、本実施の形態においては、大径部36aに形成された離脱穴Y1を加工して、水路64aとするようにしている。したがって、美観が良好なシリンダブロック60を得ることができる。
【0048】
また、シリンダブロック60は、離脱穴Y1が残留していないので、強度および剛性にも優れる。
【0049】
そして、本実施の形態によれば、充填材を使用する必要もなく、ブロック本体10または大径部36a〜36cの一部を切断除去する必要、ひいてはブロック本体10または大径部36a〜36cを予め大型化しておく必要もない。このため、コストを低廉化することもできる。
【0050】
なお、このシリンダブロック60は、各大径部36a〜36cが前記凹部24上に載置されることに伴ってウォータジャケット部42のガスケット面12側が大径部36a〜36cで閉塞された、いわゆるクローズドデッキ型シリンダブロックである。また、図9〜図11においては、便宜上、ブロック本体10と各シリンダスリーブ30a〜30cの大径部36a〜36cとを境界線にて明示しているが、実際には、各部材10、36a〜36c同士は摩擦撹拌接合によって継目なく接合されている。すなわち、各部材10、36a〜36cは一体的に接合されており、視認可能な程度に明確な境界線は存在しない。以降の図面においても同様である。
【0051】
このシリンダブロック60を構成するブロック本体10は、HPDCにて鋳造成形されているので、肉厚が小さい。しかも、図6および図9等から諒解されるように、環状切欠部28とシリンダスリーブ30a〜30cとの間のクリアランス、シリンダスリーブ30a〜30cにおける隣接するもの同士の間のクリアランスがウォータジャケット部42となるので、一般的なシリンダブロック3(図16参照)のように、ウォータジャケット部1をブロック本体4の中空部として設ける必要はない。
【0052】
以上の理由から、ブロック本体10の肉厚を小さくすることができるので、シリンダブロック60の体積を小さくすることができる。換言すれば、シリンダブロック60を小型化することができるとともに、軽量化することができる。
【0053】
しかも、摩擦撹拌接合を採用しているので、シリンダブロック60では、互いに異種の金属であるブロック本体10(アルミニウム)と、シリンダスリーブ30a〜30c(ハイシリコン系アルミニウム)とが堅牢に接合されている。このため、該シリンダブロック60は、高い強度および剛性を示す。
【0054】
さらに、このシリンダブロック60においては、耐摩耗性に優れるハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ30a〜30cを使用しているので、充分な耐久性が確保される。この場合、ブロック本体10を安価なアルミニウムから構成するようにしているので、シリンダブロック60の製造コストが上昇することがないという利点もある。
【0055】
ボルト穴62a〜62hおよび水路64a〜64jを設けた後、シリンダスリーブ30a〜30cの各縮径部32を除去する。すなわち、例えば、ドリルによって研削加工を行う等して、図12に示すように、シリンダスリーブ30a〜30cの内周を等径とする。これにより、該シリンダスリーブ30a〜30c内でピストンが往復動作することが可能となる。
【0056】
この除去の際には、縮径部32において形成されたプローブ54の離脱穴が形成された箇所も除去される。このため、円筒部34a〜34cの内周壁部にプローブ54の離脱穴が残留することはない。
【0057】
シリンダブロック60や図示しないシリンダヘッド等が組み合わされて内燃機関が構成された際、水路64a〜64jは、前記シリンダヘッドの冷却水路と連通する。すなわち、該冷却水路に流通された冷却水は、水路64a〜64jを介してウォータジャケット部42に導入される。
【0058】
なお、上記した実施の形態においては、ボルト穴62aを設ける箇所に摩擦撹拌接合用工具50のプローブ54を埋没させたが、図13に示すように、大径部36aに埋没させるようにしてもよい。この場合、埋没箇所を上記に準拠して機械加工することにより水路64dとするようにしてもよい。
【0059】
また、プローブ54は、ガスケット面12におけるボルト穴62b〜62hのいずれかを設ける箇所から埋没させるようにしてもよいし、または、大径部36b、36cに埋没させるようにしてもよい。
【0060】
さらに、プローブ54は、図14に示すように、大径部36a〜36cのいずれかとガスケット面12との接合箇所から離脱させるようにしてもよい。この場合、図15に示すように、離脱穴Y2を起点として設ける水路64を屈曲形成すればよい。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る摩擦撹拌接合方法によれば、少なくとも離脱穴を水路として加工するようにしている。このため、充填材を使用する必要もなく、かつワークの一部を切断除去する必要もない。したがって、コストを低廉化することができるとともに、美観に優れるシリンダブロックを得ることができるという効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る摩擦撹拌接合方法が遂行される第1の部材であるブロック本体の要部概略縦断面図である。
【図2】図1のブロック本体におけるガスケット面側からの平面図である。
【図3】本実施の形態に係る摩擦撹拌接合方法が遂行される第2の部材であるシリンダスリーブの概略全体斜視図である。
【図4】図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】摩擦撹拌接合用工具のプローブを埋没させた後、該プローブをボア穴の内周壁部とシリンダスリーブの外周壁との当接箇所に変位させた状態を示す要部概略縦断面図である。
【図6】図3のシリンダスリーブの外周壁部をボア穴の内周壁部に摩擦撹拌接合にて接合する状態を示す要部概略縦断面図である。
【図7】大径部をブロック本体に接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向の一例を示すガスケット面側からの平面説明図である。
【図8】大径部とブロック本体とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図9】図7のIX−IX線矢視断面図である。
【図10】図1のブロック本体と図3のシリンダスリーブとが摩擦撹拌接合されることによって作製されたシリンダブロックのガスケット面側からの平面図である。
【図11】図10のシリンダブロックの要部拡大縦断面図である。
【図12】図10のシリンダブロックの要部縦断面図である。
【図13】大径部をブロック本体に接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向の別例を示すガスケット面側からの平面説明図である。
【図14】摩擦撹拌接合用工具を大径部とガスケット面との接合箇所から離脱させた状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図15】図14の離脱穴を起点として屈曲形成された水路を示す要部拡大縦断面図である。
【図16】一般的な多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【符号の説明】
1、42…ウォータジャケット部 2、12…ガスケット面
3、60…シリンダブロック 4、10…ブロック本体
5…ボア穴 6、30a〜30c…シリンダスリーブ
14、16…環状切欠部 18…ボア穴(挿入用孔部)
20a、20b…壁部 22a〜22c…環状段部
24…凹部 32…縮径部
34a〜34c…円筒部 36a〜36c…大径部
38…テーパ部 40a〜40c…環状段部
50…摩擦撹拌接合用工具 52…回転体
54…プローブ 62a〜62h…ボルト穴
64、64a〜64j…水路 Y1、Y2…離脱穴
Claims (2)
- ブロック本体と、前記ブロック本体のボア穴に挿入されたシリンダスリーブとの当接部を、回転動作する摩擦撹拌接合用工具によって摩擦撹拌接合してシリンダブロックとする摩擦撹拌接合方法であって、
前記ブロック本体または前記シリンダスリーブの少なくともいずれか一方に前記摩擦撹拌接合用工具を埋没させ、
前記摩擦撹拌接合用工具を前記当接部に沿って変位させることに伴って、前記当接部の肉を摩擦熱にて軟化させるとともに前記摩擦撹拌接合用工具によって撹拌することで前記当接部を接合する工程と、
前記接合の後に前記摩擦撹拌接合用工具を前記当接部または前記シリンダスリーブから離脱させる工程と、
を有し、
前記摩擦撹拌接合用工具を、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間のウォータジャケット部と連通する水路を設ける箇所で離脱させることを特徴とする摩擦撹拌接合方法。 - 請求項1記載の摩擦撹拌接合方法において、前記シリンダスリーブとして円筒部と大径部とを有するものを用い、前記大径部を前記ブロック本体に設けられた載置部に載置することによって前記円筒部と前記ボア穴との間に形成された間隙をウォータジャケット部とするとともに、前記ブロック本体のガスケット面と前記大径部とを摩擦撹拌接合して、少なくとも該大径部に前記水路を設けることを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
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Legal Events
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Effective date: 20051205 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 |
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Effective date: 20090127 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 |
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Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20090602 |