JP2004351506A - シリンダブロックの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】美観に優れるとともに強度および剛性が大きなシリンダブロックを得ることが可能で、かつコストを低廉化することが可能なシリンダブロックの製造方法を提供する。
【解決手段】ブロック本体12の穴部16にシリンダスリーブ14を挿入した後、シリンダスリーブ14における内周壁部と同様に湾曲した湾曲面を有する摩擦撹拌接合用工具離脱部材30を、シリンダスリーブ14におけるガスケット面24側の端面とガスケット面24とに重なるように配置する。シリンダスリーブ14の外周壁部と穴部16の内周壁部とを摩擦撹拌接合用工具40のプローブ44によって摩擦撹拌接合した後、前記摩擦撹拌接合用工具離脱部材30からプローブ44を離脱させる。
【選択図】図3
【解決手段】ブロック本体12の穴部16にシリンダスリーブ14を挿入した後、シリンダスリーブ14における内周壁部と同様に湾曲した湾曲面を有する摩擦撹拌接合用工具離脱部材30を、シリンダスリーブ14におけるガスケット面24側の端面とガスケット面24とに重なるように配置する。シリンダスリーブ14の外周壁部と穴部16の内周壁部とを摩擦撹拌接合用工具40のプローブ44によって摩擦撹拌接合した後、前記摩擦撹拌接合用工具離脱部材30からプローブ44を離脱させる。
【選択図】図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリンダブロックの製造方法に関し、一層詳細には、美観に優れかつ強度および剛性が高いシリンダブロックを得ることが可能なシリンダブロックの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の内燃機関を構成するシリンダブロックの1種として、図7に示すように、ウォータジャケット部1のガスケット面2側が閉塞されているクローズドデッキ型シリンダブロック3が挙げられる。クローズドデッキ型シリンダブロック3には、ブロック本体4の肉厚が同一であれば、ウォータジャケット部のガスケット面側が開放されているオープンデッキ型シリンダブロックに比して剛性が高いという利点がある。
【0003】
クローズドデッキ型シリンダブロック3の場合、ウォータジャケット部1は、容易に崩壊させることが可能な中子、いわゆる崩壊性中子を用いて重力鋳造(GDC)や低圧鋳造(LPDC)にて形成される。
【0004】
その一方で、内燃機関においては、ボア穴5の内部でピストン(図示せず)が往復動作する。このため、ボア穴5には、耐摩耗性に優れる素材からなるシリンダスリーブ6、例えば、いわゆるFCスリーブやMMCスリーブ等を挿入し、該シリンダスリーブ6の側周壁部にピストンの側周壁部を摺接させるようにしている。耐摩耗性に優れる他の素材としては、いわゆるハイシリコン系アルミニウムが例示される。
【0005】
このようなクローズドデッキ型シリンダブロック3を製造する場合、まず、鋳造用金型によって形成されるキャビティに崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を配置しておき、この状態で溶湯をキャビティに注湯して、該溶湯で崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を囲繞する。
【0006】
次に、溶湯を冷却固化することによってブロック本体4を設ける。この冷却固化に伴って、シリンダスリーブ6が鋳込まれる。
【0007】
その後、前記崩壊性中子を崩壊させる。この崩壊によって得られた中空部が、ウォータジャケット部1となる。すなわち、この場合、ウォータジャケット部1は、ブロック本体4に設けられる。
【0008】
ところで、近年では、地球温暖化を防止するために、省エネルギの観点から自動車等の燃費を向上させることが希求されている。その方策として、内燃機関等を軽量化することにより、最終製品である自動車を軽量化することが提案されている。
【0009】
このような観点から、摩擦撹拌接合(例えば、特許文献1および2参照)が着目されている。摩擦撹拌接合によれば、例えば、アルミニウムからなるブロック本体4と、ハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ6とを接合する場合等、接合対象が異種金属同士であっても容易に接合させることができるからである。
【0010】
すなわち、例えば、高圧鋳造(HPDC)によって肉厚の薄いブロック本体4を作製し、該ブロック本体4にシリンダスリーブ6を接合することによって、小型かつ軽量なクローズドデッキ型シリンダブロック3を得ることができると考えられる。しかも、HPDCでは崩壊性中子を使用する必要がないので、コストを低減することができるという利点もある。
【0011】
摩擦撹拌接合は、一般的には以下のようにして遂行される。まず、回転動作する摩擦撹拌接合用工具を、ワークに埋没させた後に接合対象である突き合わせ部に移動させ、さらに、該突き合わせ部に沿って変位させる。この変位に伴って、突き合わせ部の肉が摩擦熱にて軟化するとともに、摩擦撹拌接合用工具によって撹拌される。その結果、突き合わせ部が固相接合される。その後、摩擦撹拌接合用工具がワークから離脱される。
【0012】
ところで、摩擦撹拌接合を遂行する場合、ワークから摩擦撹拌接合用工具を離脱させる際、該ワークに離脱穴が形成されてしまう。このため、美観が不良で、強度や剛性が低い製品が作製されてしまうという不具合が顕在化している。
【0013】
そこで、特許文献1では、離脱穴にはんだやろう材を充填することが提案されている。また、特許文献2では、離脱穴が形成された部位を切削除去することが記載されている。
【0014】
【特許文献1】
特開2000−176658号公報(図1)
【特許文献2】
特開2000−42759号公報(図1)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1にて提案された方法においては、充填材を使用する必要がある分だけコストが上昇する。一方、特許文献2に提案された方法には、切削除去する部位、換言すれば、無駄な部位をワークに予め設けておく必要があるため、該ワークとして形状が大なるものを使用しなければならない。
【0016】
すなわち、上記したいずれの場合においても、製造コストに優れているとは言い難い側面がある。
【0017】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、コストを上昇させることなく、外観が良好でかつ強度および剛性に優れた製品を得ることが可能なシリンダブロックの製造方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、直径方向に窪んだ段部を有する穴部、およびガスケット面に設けられた摩擦撹拌接合用工具離脱部を具備するブロック本体と、前記穴部に挿入されたシリンダスリーブとを摩擦撹拌接合することによってシリンダブロックを得るシリンダブロックの製造方法であって、
回転動作する摩擦撹拌接合用工具を前記シリンダスリーブの内周壁部側から埋没させて前記穴部の内周壁まで到達させる工程と、
前記摩擦撹拌接合用工具を移動させることにより、前記シリンダスリーブの肉と前記ブロック本体の肉とを摩擦熱にて軟化させるとともに前記摩擦撹拌接合用工具によって撹拌することで前記シリンダスリーブと前記ブロック本体とを接合する工程と、
前記接合の後に前記摩擦撹拌接合用工具を離脱させる工程と、を有し、
前記摩擦撹拌接合用工具は、前記シリンダスリーブの内周壁部から前記摩擦撹拌接合用工具離脱部に移動された後に該摩擦撹拌接合用工具離脱部から離脱されることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明によれば、摩擦撹拌接合用工具離脱部から摩擦撹拌接合用工具を離脱させるので、最終製品であるシリンダブロックに離脱穴が残留することがない。このため、美観に優れるシリンダブロックを作製することができる。また、シリンダブロックに離脱穴が残留しないので、該シリンダブロックは、強度および剛性に優れたものとなる。
【0020】
しかも、この場合、離脱穴に充填材を充填する必要がないので、コストを低廉化することもできる。
【0021】
なお、シリンダスリーブの一端部を、穴部に挿入された際に該穴部から突出させるようにしてもよい。この場合、突出した一端部の外周壁部を摩擦撹拌接合用工具離脱部の内壁部に当接させるようにすればよい。
【0022】
そして、シリンダスリーブとブロック本体とを接合した後、摩擦撹拌接合用工具を、突出した前記一端部まで移動させて該一端部を介して前記摩擦撹拌接合用工具離脱部から離脱させる。さらに、摩擦撹拌接合用工具離脱部が離脱した前記一端部を除去して、前記シリンダスリーブの上端面の位置を前記ガスケット面と揃える。これにより、上記と同様に、離脱穴が存在せず、したがって、美観に優れるとともに、強度および剛性に優れたシリンダブロックを作製することができる。
【0023】
さらに、ブロック本体のガスケット面と、シリンダスリーブのガスケット面側端面とを摩擦撹拌接合する工程を行うことが好ましい。これによりブロック本体とシリンダスリーブとの接合強度が増加するので、シリンダブロックの剛性を一層向上させることができるからである。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るシリンダブロックの製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1に、シリンダブロック10の要部概略分解断面図を示す。このシリンダブロック10は、ブロック本体12と、シリンダスリーブ14とで構成される。
【0026】
図1から諒解されるように、ブロック本体12には、シリンダスリーブ14を挿入するための穴部16が設けられており、該穴部16の下方には、環状段部18が設けられている。また、この穴部16には、直径方向に窪んだ環状の段部20が設けられている。すなわち、穴部16と段部20は、同心円状に設けられている。なお、図1中、参照符号22、24は、それぞれ、ジャーナル部、ガスケット面を示す。
【0027】
このブロック本体12は、例えば、アルミニウムの溶湯を使用してのHPDCによって作製することができる。この際、鋳造用金型のキャビティに崩壊性中子を配置する必要はない。
【0028】
一方、シリンダスリーブ14は、例えば、ハイシリコン系アルミニウムからなるワークに対して押し出し成形や鋳造成形等の公知の成形法を施すことによって作製された円筒体である。
【0029】
このように構成されたブロック本体12とシリンダスリーブ14との摩擦撹拌接合は、以下のようにして遂行される。
【0030】
まず、図2に示すように、ブロック本体12の穴部16にシリンダスリーブ14を挿入する。この際、挿入されたシリンダスリーブ14の下端部が環状段部18に載置される。これにより、シリンダスリーブ14が下方から堅牢に支持される。なお、挿入されたシリンダスリーブ14における両端部の外周壁部は、穴部16の内周壁部に当接する。また、シリンダスリーブ14における中腹部の外周壁部と段部20とが離間することにより、両者の間に間隙が形成される。この間隙がウォータジャケット部26となる。
【0031】
このように、本実施の形態においては、穴部16にシリンダスリーブ14を挿入することに伴ってウォータジャケット部26が形成される。
【0032】
そして、図2に示すように、シリンダスリーブ14における内周壁部と同様に湾曲した湾曲面を有する摩擦撹拌接合用工具離脱部材30を、シリンダスリーブ14におけるガスケット面24側の端面とガスケット面24とに重なるように配置する。なお、この場合、摩擦撹拌接合用工具離脱部材30はアルミニウムからなる。また、摩擦撹拌接合用工具離脱部材30は、図示しない治具によって堅牢に位置決め固定されている。
【0033】
次に、穴部16の内周壁部と、シリンダスリーブ14の外周壁部とを摩擦撹拌接合によって接合一体化する。
【0034】
図2に示すように、摩擦撹拌接合用工具40は、円柱状の回転体42と、該回転体42に比して小径でかつ先端が円錐状のプローブ44を備える。本実施の形態においては、摩擦撹拌接合用工具40を略水平とした状態で穴部16内に挿入し、プローブ44をシリンダスリーブ14の下端部近傍に当接させる。
【0035】
この状態で回転体42を回転付勢すると、プローブ44がシリンダスリーブ14に摺接することに伴って摩擦熱が発生し、シリンダスリーブ14におけるプローブ44の当接箇所が軟化して該プローブ44の先端部が埋没する。
【0036】
埋没したプローブ44は、最終的に、シリンダスリーブ14を通過して穴部16の内周壁部に到達し、これに伴ってシリンダスリーブ14の外周壁部と穴部16の内周壁部とが摩擦熱によって軟化する。
【0037】
次に、摩擦撹拌接合用工具40をシリンダスリーブ14の円周方向に沿って旋回動作させると、軟化した肉は、プローブ44にて撹拌されることに伴って塑性流動した後、該プローブ44が離間することに伴って固相接合する。摩擦撹拌接合用工具40が旋回動作されることに追従してこの現象が逐次的に繰り返されることにより、シリンダスリーブ14の外周壁部と、穴部16の内周壁部とが接合一体化される。
【0038】
なお、この際、図2に示すように、シリンダスリーブ14は、環状段部18に載置されていることによって堅牢に支持されている。このため、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0039】
このようにして摩擦撹拌接合用工具40を旋回動作させた後、プローブ44をシリンダスリーブ14から一旦離脱させる。この際、シリンダスリーブ14の内周壁部には離脱穴が形成されるが、この離脱穴は、該シリンダスリーブ14に挿入されるピストン(図示せず)の側周壁部に嵌着されるピストンリングや、該ピストンのスカート部の下死点よりも下方となる位置に設けられる。したがって、該離脱穴にガソリンと空気との混合気が入り込むことがなく、内燃機関の出力に影響が及ぼされることもない。
【0040】
その後、回転動作するプローブ44を、穴部16における上方の内周壁部とシリンダスリーブ14の外周壁部との当接箇所に埋没させ、さらに、摩擦撹拌接合用工具40をシリンダスリーブ14の円周方向に沿って再度旋回動作させる。この旋回動作に伴い、上記と同様に、シリンダスリーブ14の外周壁部と穴部16の内周壁部とが軟化した後、プローブ44にて撹拌されて塑性流動し、最終的に接合一体化される。これにより、ブロック本体12とシリンダスリーブ14とが一体化されたシリンダブロック10が得られるに至る。
【0041】
このシリンダブロック10は、図2から諒解されるように、ウォータジャケット部26におけるガスケット面24側が閉塞された、いわゆるクローズドデッキ型シリンダブロックである。なお、互いに接合された後のブロック本体12とシリンダスリーブ14との間には、視認可能な程度に明確な境界線は存在しない。
【0042】
以上の摩擦撹拌接合が終了した後、摩擦撹拌接合用工具40をさらに上方に移動させる。これにより、プローブ44は、図3に拡大して示すように、シリンダスリーブ14およびブロック本体12から離脱して前記摩擦撹拌接合用工具離脱部材30に埋没する。
【0043】
その後、プローブ44を摩擦撹拌接合用工具離脱部材30から離脱させれば、プローブ44の離脱穴は摩擦撹拌接合用工具離脱部材30に形成され、シリンダスリーブ14またはブロック本体12には形成されない。
【0044】
このように、穴部16の開口に摩擦撹拌接合用工具離脱部材30を配置し、該摩擦撹拌接合用工具離脱部材30からプローブ44を離脱させることにより、離脱穴が存在しないシリンダブロック10を得ることができる。したがって、該シリンダブロック10は、美観に優れる。
【0045】
また、シリンダブロック10に離脱穴が残留していないので、該シリンダブロック10は強度および剛性に優れる。
【0046】
そして、本実施の形態によれば、充填材を使用する必要もなく、ブロック本体12を切削除去する必要もない。このため、コストを低廉化することもできる。
【0047】
このシリンダブロック10を構成するブロック本体12は、HPDCにて鋳造成形されているので、肉厚が薄い。しかも、図2から諒解されるように、ブロック本体12の段部20とシリンダスリーブ14との間の間隙がウォータジャケット部26となるので、一般的なシリンダブロック3(図7参照)のように、ウォータジャケット部1をブロック本体4の中空部として設ける必要はない。
【0048】
以上の理由から、ブロック本体12の肉厚を薄くすることができるので、シリンダブロック10の体積を小さくすることができる。換言すれば、シリンダブロック10を小型化することができるとともに、軽量化することができる。
【0049】
しかも、摩擦撹拌接合を採用しているので、シリンダブロック10では、互いに異種の金属であるブロック本体12(アルミニウム)と、シリンダスリーブ14(ハイシリコン系アルミニウム)とが堅牢に接合されている。このため、該シリンダブロック10は、高い強度および剛性を示す。
【0050】
さらに、このシリンダブロック10においては、耐摩耗性に優れるハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ14を使用しているので、充分な耐久性が確保される。その上、この場合、ブロック本体12を安価なアルミニウムから構成するようにしているので、シリンダブロック10の製造コストが上昇することがないという利点もある。
【0051】
シリンダブロック10のガスケット面24を平坦とするには、摩擦撹拌接合用工具離脱部材30を前記治具から解放して除去すればよい。また、その後、図4に示すように、シリンダスリーブ14におけるガスケット面24側の端面とガスケット面24とを摩擦撹拌接合によって接合一体化するようにしてもよい。これにより、シリンダブロック10の剛性を一層向上させることができる。
【0052】
なお、図5に示すように、シリンダスリーブ14の一端部14aを穴部16から突出させるようにしてもよい。この場合、突出した一端部14aを外周壁側から支持する摩擦撹拌接合用工具離脱部材50を使用するようにすればよい。
【0053】
この場合においても、上記と同様にして、摩擦撹拌接合を施した後、摩擦撹拌接合用工具40を一端部14a側に移動させる。これにより、プローブ44は、図4に示すように、ブロック本体12から離脱して一端部14aおよび摩擦撹拌接合用工具離脱部材50に埋没する。
【0054】
その後、一端部14aを介してプローブ44を摩擦撹拌接合用工具離脱部材50から離脱させれば、プローブ44の離脱穴は摩擦撹拌接合用工具離脱部材50および一端部14aに形成され、ブロック本体12には形成されない。
【0055】
次に、穴部16から突出した一端部14aに対して切削加工を施し、図6に示すように、摩擦撹拌接合用工具離脱部材50とともに除去することにより、シリンダスリーブ14の上端面とガスケット面24との高さを揃える。この除去の際には、一端部14aにおいてプローブ44の離脱穴が形成された箇所も同時に除去される。このため、最終的に得られるシリンダブロック10にプローブ44の離脱穴が残留することはない。
【0056】
このように、シリンダスリーブ14の一端部14aを穴部16から突出させ、該一端部14aの外周壁部を囲繞する摩擦撹拌接合用工具離脱部材50からプローブ44を離脱させるようにしても、離脱穴が存在しないシリンダブロック10を得ることができる。
【0057】
なお、いずれの場合においても、摩擦撹拌接合用工具離脱部は、ブロック本体12と別個の部材30、50に特に限定されるものではなく、ブロック本体12のガスケット面24から予め一体的に突出形成された部位であってもよい。この場合、摩擦撹拌接合を施した後に該摩擦撹拌接合用工具離脱部を切削除去するようにすればよい。
【0058】
また、摩擦撹拌接合用工具離脱部は、シリンダスリーブ14の円周に沿って湾曲した湾曲部を有する板形状のものに特に限定されるものではなく、シリンダスリーブ14におけるガスケット面24側の端面を覆う環状のものであってもよいし、穴部16から突出したシリンダスリーブ14の一端部14aを囲繞する環状のものであってもよい。
【0059】
さらに、摩擦撹拌接合用工具離脱部材30、50は、アルミニウム製のものに限定されるものではなく、プローブ44を移動させることが容易な素材からなるものであればよい。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るシリンダブロックの製造方法によれば、摩擦撹拌接合用工具離脱部を設け、該摩擦撹拌接合用工具離脱部から摩擦撹拌接合用工具を離脱させるようにしている。このため、美観に優れ、かつ強度および剛性が大きなシリンダブロックを得ることができるという効果が達成される。しかも、この場合、充填材を使用する必要がないので、コストを低廉化することもできる。
【0061】
また、この場合、HPDCで作製することによってブロック本体の肉厚を薄くすることもできるので、シリンダブロックの小型化および軽量化を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る製造方法によって製造されるシリンダブロックの要部概略断面分解図である。
【図2】ブロック本体の穴部にシリンダスリーブを挿入して、摩擦撹拌接合用工具のプローブを埋没させた状態を示す要部概略縦断面図である。
【図3】摩擦撹拌接合を遂行した後に摩擦撹拌接合用工具を摩擦撹拌接合用工具離脱部材まで移動させた状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図4】ブロック本体のガスケット面と、シリンダスリーブにおけるガスケット面側端部とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部概略縦断面図である。
【図5】摩擦撹拌接合を遂行した後に摩擦撹拌接合用工具を穴部から突出して摩擦撹拌接合用工具離脱部材に囲繞された一端部まで移動させた状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図6】前記一端部を介して摩擦撹拌接合用工具離脱部材から摩擦撹拌接合用工具を離脱させた後、該一端部を切削除去した状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図7】一般的なクローズドデッキ型シリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【符号の説明】
1、26…ウォータジャケット部 2、24…ガスケット面
3、10…シリンダブロック 4、12…ブロック本体
5…ボア穴 6、14…シリンダスリーブ
16…穴部 18…環状段部
20…段部
30、50…摩擦撹拌接合用工具離脱部材
40…摩擦撹拌接合用工具 42…回転体
44…プローブ
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリンダブロックの製造方法に関し、一層詳細には、美観に優れかつ強度および剛性が高いシリンダブロックを得ることが可能なシリンダブロックの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の内燃機関を構成するシリンダブロックの1種として、図7に示すように、ウォータジャケット部1のガスケット面2側が閉塞されているクローズドデッキ型シリンダブロック3が挙げられる。クローズドデッキ型シリンダブロック3には、ブロック本体4の肉厚が同一であれば、ウォータジャケット部のガスケット面側が開放されているオープンデッキ型シリンダブロックに比して剛性が高いという利点がある。
【0003】
クローズドデッキ型シリンダブロック3の場合、ウォータジャケット部1は、容易に崩壊させることが可能な中子、いわゆる崩壊性中子を用いて重力鋳造(GDC)や低圧鋳造(LPDC)にて形成される。
【0004】
その一方で、内燃機関においては、ボア穴5の内部でピストン(図示せず)が往復動作する。このため、ボア穴5には、耐摩耗性に優れる素材からなるシリンダスリーブ6、例えば、いわゆるFCスリーブやMMCスリーブ等を挿入し、該シリンダスリーブ6の側周壁部にピストンの側周壁部を摺接させるようにしている。耐摩耗性に優れる他の素材としては、いわゆるハイシリコン系アルミニウムが例示される。
【0005】
このようなクローズドデッキ型シリンダブロック3を製造する場合、まず、鋳造用金型によって形成されるキャビティに崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を配置しておき、この状態で溶湯をキャビティに注湯して、該溶湯で崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を囲繞する。
【0006】
次に、溶湯を冷却固化することによってブロック本体4を設ける。この冷却固化に伴って、シリンダスリーブ6が鋳込まれる。
【0007】
その後、前記崩壊性中子を崩壊させる。この崩壊によって得られた中空部が、ウォータジャケット部1となる。すなわち、この場合、ウォータジャケット部1は、ブロック本体4に設けられる。
【0008】
ところで、近年では、地球温暖化を防止するために、省エネルギの観点から自動車等の燃費を向上させることが希求されている。その方策として、内燃機関等を軽量化することにより、最終製品である自動車を軽量化することが提案されている。
【0009】
このような観点から、摩擦撹拌接合(例えば、特許文献1および2参照)が着目されている。摩擦撹拌接合によれば、例えば、アルミニウムからなるブロック本体4と、ハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ6とを接合する場合等、接合対象が異種金属同士であっても容易に接合させることができるからである。
【0010】
すなわち、例えば、高圧鋳造(HPDC)によって肉厚の薄いブロック本体4を作製し、該ブロック本体4にシリンダスリーブ6を接合することによって、小型かつ軽量なクローズドデッキ型シリンダブロック3を得ることができると考えられる。しかも、HPDCでは崩壊性中子を使用する必要がないので、コストを低減することができるという利点もある。
【0011】
摩擦撹拌接合は、一般的には以下のようにして遂行される。まず、回転動作する摩擦撹拌接合用工具を、ワークに埋没させた後に接合対象である突き合わせ部に移動させ、さらに、該突き合わせ部に沿って変位させる。この変位に伴って、突き合わせ部の肉が摩擦熱にて軟化するとともに、摩擦撹拌接合用工具によって撹拌される。その結果、突き合わせ部が固相接合される。その後、摩擦撹拌接合用工具がワークから離脱される。
【0012】
ところで、摩擦撹拌接合を遂行する場合、ワークから摩擦撹拌接合用工具を離脱させる際、該ワークに離脱穴が形成されてしまう。このため、美観が不良で、強度や剛性が低い製品が作製されてしまうという不具合が顕在化している。
【0013】
そこで、特許文献1では、離脱穴にはんだやろう材を充填することが提案されている。また、特許文献2では、離脱穴が形成された部位を切削除去することが記載されている。
【0014】
【特許文献1】
特開2000−176658号公報(図1)
【特許文献2】
特開2000−42759号公報(図1)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1にて提案された方法においては、充填材を使用する必要がある分だけコストが上昇する。一方、特許文献2に提案された方法には、切削除去する部位、換言すれば、無駄な部位をワークに予め設けておく必要があるため、該ワークとして形状が大なるものを使用しなければならない。
【0016】
すなわち、上記したいずれの場合においても、製造コストに優れているとは言い難い側面がある。
【0017】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、コストを上昇させることなく、外観が良好でかつ強度および剛性に優れた製品を得ることが可能なシリンダブロックの製造方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、直径方向に窪んだ段部を有する穴部、およびガスケット面に設けられた摩擦撹拌接合用工具離脱部を具備するブロック本体と、前記穴部に挿入されたシリンダスリーブとを摩擦撹拌接合することによってシリンダブロックを得るシリンダブロックの製造方法であって、
回転動作する摩擦撹拌接合用工具を前記シリンダスリーブの内周壁部側から埋没させて前記穴部の内周壁まで到達させる工程と、
前記摩擦撹拌接合用工具を移動させることにより、前記シリンダスリーブの肉と前記ブロック本体の肉とを摩擦熱にて軟化させるとともに前記摩擦撹拌接合用工具によって撹拌することで前記シリンダスリーブと前記ブロック本体とを接合する工程と、
前記接合の後に前記摩擦撹拌接合用工具を離脱させる工程と、を有し、
前記摩擦撹拌接合用工具は、前記シリンダスリーブの内周壁部から前記摩擦撹拌接合用工具離脱部に移動された後に該摩擦撹拌接合用工具離脱部から離脱されることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明によれば、摩擦撹拌接合用工具離脱部から摩擦撹拌接合用工具を離脱させるので、最終製品であるシリンダブロックに離脱穴が残留することがない。このため、美観に優れるシリンダブロックを作製することができる。また、シリンダブロックに離脱穴が残留しないので、該シリンダブロックは、強度および剛性に優れたものとなる。
【0020】
しかも、この場合、離脱穴に充填材を充填する必要がないので、コストを低廉化することもできる。
【0021】
なお、シリンダスリーブの一端部を、穴部に挿入された際に該穴部から突出させるようにしてもよい。この場合、突出した一端部の外周壁部を摩擦撹拌接合用工具離脱部の内壁部に当接させるようにすればよい。
【0022】
そして、シリンダスリーブとブロック本体とを接合した後、摩擦撹拌接合用工具を、突出した前記一端部まで移動させて該一端部を介して前記摩擦撹拌接合用工具離脱部から離脱させる。さらに、摩擦撹拌接合用工具離脱部が離脱した前記一端部を除去して、前記シリンダスリーブの上端面の位置を前記ガスケット面と揃える。これにより、上記と同様に、離脱穴が存在せず、したがって、美観に優れるとともに、強度および剛性に優れたシリンダブロックを作製することができる。
【0023】
さらに、ブロック本体のガスケット面と、シリンダスリーブのガスケット面側端面とを摩擦撹拌接合する工程を行うことが好ましい。これによりブロック本体とシリンダスリーブとの接合強度が増加するので、シリンダブロックの剛性を一層向上させることができるからである。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るシリンダブロックの製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1に、シリンダブロック10の要部概略分解断面図を示す。このシリンダブロック10は、ブロック本体12と、シリンダスリーブ14とで構成される。
【0026】
図1から諒解されるように、ブロック本体12には、シリンダスリーブ14を挿入するための穴部16が設けられており、該穴部16の下方には、環状段部18が設けられている。また、この穴部16には、直径方向に窪んだ環状の段部20が設けられている。すなわち、穴部16と段部20は、同心円状に設けられている。なお、図1中、参照符号22、24は、それぞれ、ジャーナル部、ガスケット面を示す。
【0027】
このブロック本体12は、例えば、アルミニウムの溶湯を使用してのHPDCによって作製することができる。この際、鋳造用金型のキャビティに崩壊性中子を配置する必要はない。
【0028】
一方、シリンダスリーブ14は、例えば、ハイシリコン系アルミニウムからなるワークに対して押し出し成形や鋳造成形等の公知の成形法を施すことによって作製された円筒体である。
【0029】
このように構成されたブロック本体12とシリンダスリーブ14との摩擦撹拌接合は、以下のようにして遂行される。
【0030】
まず、図2に示すように、ブロック本体12の穴部16にシリンダスリーブ14を挿入する。この際、挿入されたシリンダスリーブ14の下端部が環状段部18に載置される。これにより、シリンダスリーブ14が下方から堅牢に支持される。なお、挿入されたシリンダスリーブ14における両端部の外周壁部は、穴部16の内周壁部に当接する。また、シリンダスリーブ14における中腹部の外周壁部と段部20とが離間することにより、両者の間に間隙が形成される。この間隙がウォータジャケット部26となる。
【0031】
このように、本実施の形態においては、穴部16にシリンダスリーブ14を挿入することに伴ってウォータジャケット部26が形成される。
【0032】
そして、図2に示すように、シリンダスリーブ14における内周壁部と同様に湾曲した湾曲面を有する摩擦撹拌接合用工具離脱部材30を、シリンダスリーブ14におけるガスケット面24側の端面とガスケット面24とに重なるように配置する。なお、この場合、摩擦撹拌接合用工具離脱部材30はアルミニウムからなる。また、摩擦撹拌接合用工具離脱部材30は、図示しない治具によって堅牢に位置決め固定されている。
【0033】
次に、穴部16の内周壁部と、シリンダスリーブ14の外周壁部とを摩擦撹拌接合によって接合一体化する。
【0034】
図2に示すように、摩擦撹拌接合用工具40は、円柱状の回転体42と、該回転体42に比して小径でかつ先端が円錐状のプローブ44を備える。本実施の形態においては、摩擦撹拌接合用工具40を略水平とした状態で穴部16内に挿入し、プローブ44をシリンダスリーブ14の下端部近傍に当接させる。
【0035】
この状態で回転体42を回転付勢すると、プローブ44がシリンダスリーブ14に摺接することに伴って摩擦熱が発生し、シリンダスリーブ14におけるプローブ44の当接箇所が軟化して該プローブ44の先端部が埋没する。
【0036】
埋没したプローブ44は、最終的に、シリンダスリーブ14を通過して穴部16の内周壁部に到達し、これに伴ってシリンダスリーブ14の外周壁部と穴部16の内周壁部とが摩擦熱によって軟化する。
【0037】
次に、摩擦撹拌接合用工具40をシリンダスリーブ14の円周方向に沿って旋回動作させると、軟化した肉は、プローブ44にて撹拌されることに伴って塑性流動した後、該プローブ44が離間することに伴って固相接合する。摩擦撹拌接合用工具40が旋回動作されることに追従してこの現象が逐次的に繰り返されることにより、シリンダスリーブ14の外周壁部と、穴部16の内周壁部とが接合一体化される。
【0038】
なお、この際、図2に示すように、シリンダスリーブ14は、環状段部18に載置されていることによって堅牢に支持されている。このため、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0039】
このようにして摩擦撹拌接合用工具40を旋回動作させた後、プローブ44をシリンダスリーブ14から一旦離脱させる。この際、シリンダスリーブ14の内周壁部には離脱穴が形成されるが、この離脱穴は、該シリンダスリーブ14に挿入されるピストン(図示せず)の側周壁部に嵌着されるピストンリングや、該ピストンのスカート部の下死点よりも下方となる位置に設けられる。したがって、該離脱穴にガソリンと空気との混合気が入り込むことがなく、内燃機関の出力に影響が及ぼされることもない。
【0040】
その後、回転動作するプローブ44を、穴部16における上方の内周壁部とシリンダスリーブ14の外周壁部との当接箇所に埋没させ、さらに、摩擦撹拌接合用工具40をシリンダスリーブ14の円周方向に沿って再度旋回動作させる。この旋回動作に伴い、上記と同様に、シリンダスリーブ14の外周壁部と穴部16の内周壁部とが軟化した後、プローブ44にて撹拌されて塑性流動し、最終的に接合一体化される。これにより、ブロック本体12とシリンダスリーブ14とが一体化されたシリンダブロック10が得られるに至る。
【0041】
このシリンダブロック10は、図2から諒解されるように、ウォータジャケット部26におけるガスケット面24側が閉塞された、いわゆるクローズドデッキ型シリンダブロックである。なお、互いに接合された後のブロック本体12とシリンダスリーブ14との間には、視認可能な程度に明確な境界線は存在しない。
【0042】
以上の摩擦撹拌接合が終了した後、摩擦撹拌接合用工具40をさらに上方に移動させる。これにより、プローブ44は、図3に拡大して示すように、シリンダスリーブ14およびブロック本体12から離脱して前記摩擦撹拌接合用工具離脱部材30に埋没する。
【0043】
その後、プローブ44を摩擦撹拌接合用工具離脱部材30から離脱させれば、プローブ44の離脱穴は摩擦撹拌接合用工具離脱部材30に形成され、シリンダスリーブ14またはブロック本体12には形成されない。
【0044】
このように、穴部16の開口に摩擦撹拌接合用工具離脱部材30を配置し、該摩擦撹拌接合用工具離脱部材30からプローブ44を離脱させることにより、離脱穴が存在しないシリンダブロック10を得ることができる。したがって、該シリンダブロック10は、美観に優れる。
【0045】
また、シリンダブロック10に離脱穴が残留していないので、該シリンダブロック10は強度および剛性に優れる。
【0046】
そして、本実施の形態によれば、充填材を使用する必要もなく、ブロック本体12を切削除去する必要もない。このため、コストを低廉化することもできる。
【0047】
このシリンダブロック10を構成するブロック本体12は、HPDCにて鋳造成形されているので、肉厚が薄い。しかも、図2から諒解されるように、ブロック本体12の段部20とシリンダスリーブ14との間の間隙がウォータジャケット部26となるので、一般的なシリンダブロック3(図7参照)のように、ウォータジャケット部1をブロック本体4の中空部として設ける必要はない。
【0048】
以上の理由から、ブロック本体12の肉厚を薄くすることができるので、シリンダブロック10の体積を小さくすることができる。換言すれば、シリンダブロック10を小型化することができるとともに、軽量化することができる。
【0049】
しかも、摩擦撹拌接合を採用しているので、シリンダブロック10では、互いに異種の金属であるブロック本体12(アルミニウム)と、シリンダスリーブ14(ハイシリコン系アルミニウム)とが堅牢に接合されている。このため、該シリンダブロック10は、高い強度および剛性を示す。
【0050】
さらに、このシリンダブロック10においては、耐摩耗性に優れるハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ14を使用しているので、充分な耐久性が確保される。その上、この場合、ブロック本体12を安価なアルミニウムから構成するようにしているので、シリンダブロック10の製造コストが上昇することがないという利点もある。
【0051】
シリンダブロック10のガスケット面24を平坦とするには、摩擦撹拌接合用工具離脱部材30を前記治具から解放して除去すればよい。また、その後、図4に示すように、シリンダスリーブ14におけるガスケット面24側の端面とガスケット面24とを摩擦撹拌接合によって接合一体化するようにしてもよい。これにより、シリンダブロック10の剛性を一層向上させることができる。
【0052】
なお、図5に示すように、シリンダスリーブ14の一端部14aを穴部16から突出させるようにしてもよい。この場合、突出した一端部14aを外周壁側から支持する摩擦撹拌接合用工具離脱部材50を使用するようにすればよい。
【0053】
この場合においても、上記と同様にして、摩擦撹拌接合を施した後、摩擦撹拌接合用工具40を一端部14a側に移動させる。これにより、プローブ44は、図4に示すように、ブロック本体12から離脱して一端部14aおよび摩擦撹拌接合用工具離脱部材50に埋没する。
【0054】
その後、一端部14aを介してプローブ44を摩擦撹拌接合用工具離脱部材50から離脱させれば、プローブ44の離脱穴は摩擦撹拌接合用工具離脱部材50および一端部14aに形成され、ブロック本体12には形成されない。
【0055】
次に、穴部16から突出した一端部14aに対して切削加工を施し、図6に示すように、摩擦撹拌接合用工具離脱部材50とともに除去することにより、シリンダスリーブ14の上端面とガスケット面24との高さを揃える。この除去の際には、一端部14aにおいてプローブ44の離脱穴が形成された箇所も同時に除去される。このため、最終的に得られるシリンダブロック10にプローブ44の離脱穴が残留することはない。
【0056】
このように、シリンダスリーブ14の一端部14aを穴部16から突出させ、該一端部14aの外周壁部を囲繞する摩擦撹拌接合用工具離脱部材50からプローブ44を離脱させるようにしても、離脱穴が存在しないシリンダブロック10を得ることができる。
【0057】
なお、いずれの場合においても、摩擦撹拌接合用工具離脱部は、ブロック本体12と別個の部材30、50に特に限定されるものではなく、ブロック本体12のガスケット面24から予め一体的に突出形成された部位であってもよい。この場合、摩擦撹拌接合を施した後に該摩擦撹拌接合用工具離脱部を切削除去するようにすればよい。
【0058】
また、摩擦撹拌接合用工具離脱部は、シリンダスリーブ14の円周に沿って湾曲した湾曲部を有する板形状のものに特に限定されるものではなく、シリンダスリーブ14におけるガスケット面24側の端面を覆う環状のものであってもよいし、穴部16から突出したシリンダスリーブ14の一端部14aを囲繞する環状のものであってもよい。
【0059】
さらに、摩擦撹拌接合用工具離脱部材30、50は、アルミニウム製のものに限定されるものではなく、プローブ44を移動させることが容易な素材からなるものであればよい。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るシリンダブロックの製造方法によれば、摩擦撹拌接合用工具離脱部を設け、該摩擦撹拌接合用工具離脱部から摩擦撹拌接合用工具を離脱させるようにしている。このため、美観に優れ、かつ強度および剛性が大きなシリンダブロックを得ることができるという効果が達成される。しかも、この場合、充填材を使用する必要がないので、コストを低廉化することもできる。
【0061】
また、この場合、HPDCで作製することによってブロック本体の肉厚を薄くすることもできるので、シリンダブロックの小型化および軽量化を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る製造方法によって製造されるシリンダブロックの要部概略断面分解図である。
【図2】ブロック本体の穴部にシリンダスリーブを挿入して、摩擦撹拌接合用工具のプローブを埋没させた状態を示す要部概略縦断面図である。
【図3】摩擦撹拌接合を遂行した後に摩擦撹拌接合用工具を摩擦撹拌接合用工具離脱部材まで移動させた状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図4】ブロック本体のガスケット面と、シリンダスリーブにおけるガスケット面側端部とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部概略縦断面図である。
【図5】摩擦撹拌接合を遂行した後に摩擦撹拌接合用工具を穴部から突出して摩擦撹拌接合用工具離脱部材に囲繞された一端部まで移動させた状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図6】前記一端部を介して摩擦撹拌接合用工具離脱部材から摩擦撹拌接合用工具を離脱させた後、該一端部を切削除去した状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図7】一般的なクローズドデッキ型シリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【符号の説明】
1、26…ウォータジャケット部 2、24…ガスケット面
3、10…シリンダブロック 4、12…ブロック本体
5…ボア穴 6、14…シリンダスリーブ
16…穴部 18…環状段部
20…段部
30、50…摩擦撹拌接合用工具離脱部材
40…摩擦撹拌接合用工具 42…回転体
44…プローブ
Claims (3)
- 直径方向に窪んだ段部を有する穴部、およびガスケット面に設けられた摩擦撹拌接合用工具離脱部を具備するブロック本体と、前記穴部に挿入されたシリンダスリーブとを摩擦撹拌接合することによってシリンダブロックを得るシリンダブロックの製造方法であって、
回転動作する摩擦撹拌接合用工具を前記シリンダスリーブの内周壁部側から埋没させて前記穴部の内周壁まで到達させる工程と、
前記摩擦撹拌接合用工具を移動させることにより、前記シリンダスリーブの肉と前記ブロック本体の肉とを摩擦熱にて軟化させるとともに前記摩擦撹拌接合用工具によって撹拌することで前記シリンダスリーブと前記ブロック本体とを接合する工程と、
前記接合の後に前記摩擦撹拌接合用工具を離脱させる工程と、を有し、
前記摩擦撹拌接合用工具は、前記シリンダスリーブの内周壁部から前記摩擦撹拌接合用工具離脱部に移動された後に該摩擦撹拌接合用工具離脱部から離脱されることを特徴とするシリンダブロックの製造方法。 - 請求項1記載の製造方法において、前記シリンダスリーブの一端部を、前記穴部に挿入された際に該穴部から突出させるとともに前記摩擦撹拌接合用工具離脱部の内壁部に当接させ、
前記シリンダスリーブと前記ブロック本体とを接合した後、前記摩擦撹拌接合用工具を、突出した前記一端部まで移動させて該一端部を介して前記摩擦撹拌接合用工具離脱部から離脱させ、
さらに、前記摩擦撹拌接合用工具離脱部が離脱した前記一端部を除去して前記シリンダスリーブの上端面の位置を前記ガスケット面と揃える工程を有することを特徴とするシリンダブロックの製造方法。 - 請求項1または2記載の製造方法において、さらに、前記ブロック本体のガスケット面と、前記シリンダスリーブのガスケット面側端面とを摩擦撹拌接合する工程を有することを特徴とするシリンダブロックの製造方法。
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