JP4113437B2 - シリンダスリーブ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブロック本体と接合されて内燃機関のシリンダブロックを構成するシリンダスリーブに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の内燃機関を構成するシリンダブロックの1種として、図17に示すように、ウォータジャケット部1のガスケット面2側が閉塞されているクローズドデッキ型シリンダブロック3が挙げられる。クローズドデッキ型シリンダブロック3には、ブロック本体4の肉厚が同一であれば、ウォータジャケット部のガスケット面側が開放されているオープンデッキ型シリンダブロックに比して剛性が高いという利点がある。
【0003】
クローズドデッキ型シリンダブロック3の場合、ウォータジャケット部1は、容易に崩壊させることが可能な中子、いわゆる崩壊性中子を用いて、重力鋳造(GDC)や低圧鋳造(LPDC)にて形成される。
【0004】
その一方で、内燃機関においては、ボア穴5の内部でピストン(図示せず)が往復動作する。このため、ボア穴5には、耐摩耗性に優れる素材からなるシリンダスリーブ6、例えば、いわゆるFCスリーブやメッキスリーブ、MMCスリーブ等を挿入し、該シリンダスリーブ6の側周壁部にピストンの側周壁部を摺接させるようにしている。耐摩耗性に優れる他の素材としては、いわゆるハイシリコン系アルミニウムが例示される。
【0005】
このように、シリンダスリーブ6をブロック本体4と別素材とする理由は、ブロック本体4をハイシリコン系アルミニウムで鋳造成形した場合、ボア穴5に巣穴が形成されるために品質不良の製品が多くなるからである。さらに、ハイシリコン系アルミニウムは切削加工し難いので、機械加工コストが高騰するという不具合を招く。
【0006】
そこで、クローズドデッキ型シリンダブロック3を製造する場合、まず、鋳造用金型によって形成されるキャビティに崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を配置しておき、この状態で溶湯をキャビティに注湯して、該溶湯で崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を囲繞する。
【0007】
次に、溶湯を冷却固化することによってブロック本体4を設ける。この冷却固化に伴って、シリンダスリーブ6が鋳ぐるまれる。
【0008】
その後、前記崩壊性中子を崩壊させる。この崩壊によって得られた中空部が、ウォータジャケット部1となる。すなわち、この場合、ウォータジャケット部1は、ブロック本体4に設けられる。
【0009】
ところで、近年では、地球温暖化を防止するために、省エネルギの観点から自動車等の燃費を向上させることが希求されている。その方策として、内燃機関等を軽量化することにより、最終製品である自動車を軽量化することが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開昭59−3142号公報
【特許文献2】
特開昭58−74850号公報
【特許文献3】
特開昭59−79056号公報
【特許文献4】
特開昭60−94230号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
クローズドデッキ型シリンダブロック3を軽量化するためには、該クローズドデッキ型シリンダブロック3の体積を小さくすればよい。しかしながら、上記のようにボア穴5同士の間にウォータジャケット部1を設けた場合、ボア穴5同士の間の肉厚を大きくする必要があるので、クローズドデッキ型シリンダブロック3の体積を小さくすることは困難である。この不都合は、シリンダが複数個設けられた多気筒型のものにおいて特に顕著となる。
【0012】
肉厚の小さいブロック本体4を得ることが可能な方法としては、高圧鋳造(HPDC)や精密鋳造等が挙げられる。しかしながら、HPDCでは中子を使用するのが著しく困難であるため、クローズドデッキ型シリンダブロック3を鋳造成形することが困難である。このため、HPDCは、専らオープンデッキ型シリンダブロックを製造するのに採用されている。
【0013】
一方、精密鋳造においては、ウォータジャケット部1の間隔を狭小化しようとすると、高強度かつ排出性が良好な崩壊性中子を使用しなければならないが、このような崩壊性中子は作製することが困難であるという不具合がある。
【0014】
そこで、ブロック本体4を鋳造成形した後、該ブロック本体4のボア穴5にシリンダスリーブ6を挿入し、両者を溶接することが想起される。しかしながら、この場合、溶接時の熱によってブロック本体4ないしシリンダスリーブ6に歪が生じることがある。また、ブロック本体4がHPDCによって作製されたものであると、シリンダスリーブ6を溶接すること自体が困難である。
【0015】
このように、体積が小さいクローズドデッキ型シリンダブロックを製造することには様々な不具合を伴うため、結局、そのようなクローズドデッキ型シリンダブロックはこれまでのところ知られていない。
【0016】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、小型かつ軽量でありながら実用上充分な剛性を有し、しかも、冷却媒体にてシリンダスリーブを直接的に冷却することができるので冷却効率にも優れ、その上、製造時に崩壊性中子を使用する必要がないので製造コストを低廉化することも可能なクローズドデッキ型シリンダブロックを構成するのに好適なシリンダスリーブを提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、内燃機関のシリンダブロックを構成するブロック本体に設けられ、且つその内部に第1環状切欠部及び第2環状切欠部を有するとともに壁部が突出形成され、さらにウォータジャケット部に連通するシリンダボアに挿入されるシリンダスリーブにおいて、
中空状の円筒体部と、
前記円筒体部の外周壁部から直径方向に沿って外部に延在する方向に突出形成され、前記ウォータジャケット部のガスケット面側を閉塞する大径部と、
前記大径部の外周壁部に設けられた段部と、
を有し、
隣接するシリンダスリーブの前記大径部同士が前記段部を介して積層されていることを特徴とする。
【0018】
この中の大径部は、シリンダブロックを構成するブロック本体のガスケット面に設けられた大径部載置部に載置される。
【0019】
このような構成とすることにより、ブロック本体とシリンダスリーブとの間のクリアランス、必要であればシリンダスリーブ同士の間のクリアランスをウォータジャケット部として機能させることができる。したがって、ウォータジャケット部をブロック本体の中空部として設ける必要がない。このため、シリンダボア同士の間の肉厚や、ブロック本体における端部の肉厚を小さくすることができ、体積が小さくかつ軽量のクローズドデッキ型のシリンダブロックを構成することができる。
【0020】
また、本発明においては、前記段部がシリンダボアの内周壁部に当接する。このため、摩擦撹拌接合を遂行する際にシリンダスリーブとブロック本体とが離間し難くなる。その上、軟化した肉がウォータジャケット部に流入することを阻止することもできる。
【0021】
また、本発明は、内燃機関のシリンダブロックを構成するブロック本体に設けられ、且つその内部に第1環状切欠部及び第2環状切欠部を有するとともに壁部が突出形成され、さらにウォータジャケット部に連通するシリンダボアに挿入されるシリンダスリーブにおいて、
中空状の円筒体部と、
前記円筒体部の内周壁部が縮径されることによって設けられた縮径部と、
前記円筒体部の外周壁部から直径方向に沿って外部に延在する方向に突出形成された大径部と、
を有することを特徴とする。
【0022】
シリンダスリーブの内周壁部に縮径部を設けることにより、該縮径部に摩擦撹拌接合用工具のプローブを当接させることができる。このため、摩擦撹拌接合を実施することが容易となり、シリンダスリーブの外周壁部とブロック本体の内周壁部とを確実に接合することができる。このようにして構成されたシリンダブロックは、剛性に優れる。
【0025】
すなわち、この場合、縮径部と大径部とを有するので、縮径部を有することに由来する利点と、大径部を有することに由来する利点とを奏するシリンダスリーブを構成することができる。
【0026】
そして、この場合においても、大径部の外周壁部に段部を設けることが好ましい。これにより、上記したように段部がボア穴の内周壁部に当接するので、摩擦撹拌接合を遂行する際にシリンダスリーブとブロック本体とが離間し難くなるとともに、軟化した肉がウォータジャケット部に流入することを阻止することができるからである。
【0027】
いずれの場合においても、縮径部は、テーパ状に縮径したテーパ部を有することが好ましい。この場合、摩擦撹拌接合用工具を傾斜すれば、該摩擦撹拌接合用工具をブロック本体等に干渉させることなくシリンダスリーブの内部に容易に挿入することができる。すなわち、この場合、汎用されている摩擦撹拌接合用工具によってシリンダスリーブとブロック本体とを容易に接合することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るシリンダスリーブにつきそれを具備するシリンダブロックとの関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
本実施の形態に係るシリンダブロック10の要部概略縦断面図を図1に示すとともに、上端面であるガスケット面12側からの平面図を図2に示す。このシリンダブロック10は、第1環状切欠部13および第2環状切欠部14が設けられたボア穴16を具備し、かつアルミニウムからなるブロック本体18と、ボア穴(シリンダボア)16内に挿入されてブロック本体18に接合されたシリンダスリーブ20a〜20cと、各シリンダスリーブ20a〜20cを冷却する冷却水が導入されるウォータジャケット部22とを有する。なお、図2における参照符号24a〜24hは、シリンダブロック10を他の部材と組み合わせて内燃機関を構成する際に使用されるボルトを通すためのボルト穴を示す。
【0030】
図1に示すように、ボア穴16の内周壁部には、ガスケット面12側に指向して突出形成した壁部26a、26bが連設されている。これらボア穴16の内周壁部および壁部26a、26bには環状段部28a〜28cが設けられており、シリンダスリーブ20a〜20cの各下端部は、各環状段部28a〜28cにそれぞれ載置されている。この載置により、シリンダスリーブ20a〜20cが支持されている。
【0031】
また、ブロック本体18において、ボア穴16のガスケット面12側開口部には、3個の環状段部がその外周部で逐次的に連結した形状の凹部30が設けられている。
【0032】
一方、シリンダスリーブ20a〜20cは、ハイシリコン系アルミニウムからなり、円筒体部34a〜34cと、該円筒体部34a〜34cの上端部に設けられた大径部36a〜36cとを有する。これらシリンダスリーブ20a〜20cの下端部は、環状段部28a〜28cにそれぞれ載置されている。また、後述するように、円筒体部34a〜34cは、第1環状切欠部13の内周壁部に接合されている。
【0033】
その一方で、図1に示すように、各大径部36a〜36cが前記凹部30上に載置されている。この載置に伴い、ウォータジャケット部22のガスケット面12側が大径部36a〜36cで閉塞されている。すなわち、シリンダブロック10は、クローズドデッキ型のシリンダブロックである。
【0034】
ここで、シリンダスリーブ20a〜20cにおける大径部36a〜36cの側周壁部下方には、該側周壁部の一部が切り欠かれることにより、環状段部38a〜38cがそれぞれ設けられている。これら環状段部38a〜38cの側周壁部は、ボア穴16における第2環状切欠部14の内周壁部に当接している。
【0035】
なお、シリンダスリーブ20bの大径部36bは、その一部が直線状に切り欠かれており、これにより環状段部38bが露呈している。シリンダスリーブ20a、20cの各大径部36a、36cは、この露呈した環状段部38b上に載置されている。その一方で、環状段部38a、38cの一部が直線状に切り欠かれることによって、環状段部38a、38cと環状段部38bとが干渉することが回避されている。
【0036】
シリンダスリーブ20a〜20cにおける円筒体部34a〜34cの各外周壁部は、第1環状切欠部13の内周壁部および壁部26a、26bに接合されている。また、凹部30上に載置されたシリンダスリーブ20a〜20cにおける各大径部36a〜36cの外縁部は、ブロック本体18のガスケット面12と接合されている。さらに、シリンダスリーブ20bの大径部36bは、該大径部36bの環状段部38bに載置されたシリンダスリーブ20a、20cの大径部36a、36cに接合されている。以上の接合は、後述するように、摩擦撹拌接合にて行われている。
【0037】
なお、図1および図2においては、便宜上、ブロック本体18と各シリンダスリーブ20a〜20cの大径部36a〜36cとを境界線にて明示しているが、実際には、各部材18、36a〜36c同士は摩擦撹拌接合によって継目なく接合されている。すなわち、各部材16、36a〜36cは一体的に接合されており、視認可能な程度に明確な境界線は存在しない。
【0038】
シリンダブロック10は、以下のようにして製造することができる。
【0039】
まず、鋳造作業によって、図3および図4に示すブロック本体18を鋳造成形する。この際、該ブロック本体18には、ボア穴16とウォータジャケット部22とが連通し、かつ第1環状切欠部13および第2環状切欠部14を有する連通穴部40が設けられるとともに、該連通穴部40内に壁部26a、26bが突出形成される。勿論、連通穴部40の内周壁部と壁部26a、26bには環状段部28a〜28cが設けられ、かつ連通穴部40のガスケット面12側開口部には、凹部30が設けられる。
【0040】
なお、図4から諒解されるように、鋳造成形された直後のブロック本体18には、ボルト穴24a〜24hは設けられていない。
【0041】
その一方で、図5および図6に示すように、下端部近傍の内周壁部がテーパ状に縮径されることによって設けられた縮径部44を有する円筒体部34a〜34bと、該円筒体部34a〜34cの一端部に設けられた大径部36a〜36cとを有するシリンダスリーブ20a〜20cを作製する。なお、縮径部44の一部であるテーパ部46は、シリンダスリーブ20a〜20cの内周が大径部36a〜36cから離間するにつれて縮径するように設ける。
【0042】
このような形状のシリンダスリーブ20a〜20cは、押し出し成形や鋳造成形等の公知の成形法によって作製することができる。
【0043】
これら大径部36a〜36cにおける側周壁部の下方を円周方向に沿って機械加工にて切り欠き、該大径部36a〜36cの下方に環状段部38a〜38cを設ける。その後、大径部36bの一部を直線的に切り欠いて、環状段部38bを露呈する。その一方で、環状段部38a、38cの一部を直線的に切り欠く。
【0044】
次いで、ブロック本体18の連通穴部40にシリンダスリーブ20a〜20cを挿入する。挿入されたシリンダスリーブ20a〜20cの各下端部が環状段部28a〜28cに載置され、その一方で、大径部36a〜36cが凹部30に載置されるとともに、大径部36a、36cが環状段部38b上に載置される。この際、環状段部38a、38cが切り欠かれているので、環状段部38a、38cが環状段部38bに干渉することはない。さらに、環状段部38a〜38cの側周壁部が第2環状切欠部14の内周壁部に当接する。
【0045】
この挿入に伴って、第2環状切欠部14の内周壁部と各シリンダスリーブ20a〜20cとの間にクリアランスが形成される。このクリアランスは、シリンダスリーブ20a、20b同士の間、およびシリンダスリーブ20b、20c同士の間に形成されたクリアランスに連通し、これによりウォータジャケット部22が形成される。
【0046】
このように、本実施の形態においては、連通穴部40にシリンダスリーブ20a〜20cを挿入することによってウォータジャケット部22が形成される。すなわち、ブロック本体18にボア穴16から離間したウォータジャケット部を設ける必要がない。
【0047】
このため、鋳造用金型のキャビティに崩壊性中子を配置する必要はない。すなわち、本実施の形態によれば、崩壊性中子を作製する煩雑な作業が不要となるとともに、崩壊性中子の作製コストを削減することができるのでシリンダブロック10の製造コストを低廉化することができる。
【0048】
次いで、ボア穴16の内周壁部および壁部26a、26bと、シリンダスリーブ20a〜20cの外周壁部とを摩擦撹拌接合によって互いに接合する。
【0049】
図7に示すように、摩擦撹拌接合用工具50は、円柱状の回転体52と、該回転体52に比して小径でかつ先端が円錐状のプローブ54とを備える。本実施の形態においては、シリンダスリーブ20aの長手軸方向に対して傾斜した状態で摩擦撹拌接合用工具50をシリンダスリーブ20a内に挿入し、プローブ54をテーパ部46に当接させる。
【0050】
この状態で回転体52を回転付勢すると、プローブ54がテーパ部46に摺接することに伴って摩擦熱が発生し、テーパ部46におけるプローブ54の当接箇所が軟化する。その結果、プローブ54の先端部がシリンダスリーブ20aとボア穴16の内周壁部との当接箇所に到達し、該当接箇所においても、シリンダスリーブ20aの外周壁部とボア穴16の内周壁部とが摩擦熱によって軟化する。
【0051】
そして、摩擦撹拌接合用工具50をテーパ部46に沿って旋回動作させると、軟化した肉は、プローブ54にて撹拌されることに伴って塑性流動した後、該プローブ54が離間することに伴って固相接合する。摩擦撹拌接合用工具50が旋回動作されることに追従してこの現象が逐次的に繰り返されることにより、シリンダスリーブ20aの外周壁部と、第1環状切欠部13の内周壁部または壁部26aとが一体的に接合されるに至る。勿論、残余のシリンダスリーブ20b、20cにおいても同様の作業が営まれる。
【0052】
このように、本実施の形態においては、シリンダスリーブ20a〜20cの各内周壁部に縮径部44を設けているので、該縮径部44のテーパ部46に摩擦撹拌接合用工具50のプローブ54を当接させることができる。このため、摩擦撹拌接合を容易に実施することができる。
【0053】
次に、シリンダスリーブ20a〜20cの大径部36a〜36cとブロック本体18におけるガスケット面12とを接合する。この接合も、摩擦撹拌接合にて行われる。すなわち、摩擦撹拌接合用工具50の回転体52を回転付勢し、プローブ54を摺接させながら大径部36a〜36cおよびブロック本体18の肉を摩擦撹拌接合する。この場合、図8の矢印Aに沿って摩擦撹拌接合用工具50を変位させることによって大径部36a〜36cとガスケット面12(ブロック本体18)とを接合すればよい。
【0054】
この際、図9に拡大して示すように、大径部36a〜36cは、凹部30に載置されていることによって堅牢に支持されている。また、環状段部38a〜38cの側周壁部がボア穴16の内周壁部に当接しているので、該環状段部38a〜38cの楔作用によって、大径部36a〜36cがブロック本体18から離間し難くなる。このため、ブロック本体18と大径部36a〜36cとが離間することを防止するためのクランプ用治具を特に使用することなく、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0055】
しかも、この場合、ウォータジャケット部22を閉塞する環状段部38a〜38cが軟化しないので、軟化した肉がウォータジャケット部22に流動することを回避することもできる。
【0056】
次に、大径部36a、36b同士、大径部36b、36c同士を摩擦撹拌接合する。この際には、図10の矢印B、Cに沿って摩擦撹拌接合用工具50を変位させるようにすればよい。この場合においては、シリンダスリーブ20bの環状段部38bにシリンダスリーブ20a、20cの大径部36a、36cが載置されることによって支持されているので、上記と同様、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0057】
以上の作業によって、シリンダスリーブ20a〜20cとブロック本体18、およびシリンダスリーブ20a〜20c同士を一体的に接合することができる。
【0058】
次いで、シリンダスリーブ20a〜20c内の縮径部44を除去する。すなわち、例えば、ドリルによって研削加工を行う等して、シリンダスリーブ20a〜20cの内周を等径とする。これにより、該シリンダスリーブ20a〜20c内でピストンが往復動作することが可能となる。
【0059】
このように、シリンダスリーブ20a〜20cとブロック本体18、およびシリンダスリーブ20a〜20c同士を摩擦撹拌接合することに伴って、各部材18、20a〜20cが一体的に接合される。これにより、剛性に優れたシリンダブロック10を構成することができる。
【0060】
しかも、摩擦撹拌接合によれば、溶接し難い素材からなる部材同士であっても比較的容易に接合することができる。したがって、例えば、ブロック本体18がHPDCによって作製されたものであっても、シリンダスリーブ20a〜20cを容易に接合することができる。このため、肉厚の一層小さいシリンダブロック10を構成することができる。
【0061】
プローブ54を離脱させることに伴って形成された離脱穴は、ボルト穴24a〜24hのいずれかとして加工するようにすればよい。例えば、大径部36a〜36cとブロック本体18とを摩擦撹拌接合した後(図8参照)の離脱穴をボルト穴24eとなるようにすればよい。また、大径部36a、36b同士を摩擦撹拌接合した後(図10参照)の離脱穴をボルト穴24fとなるようにし、大径部36b、36c同士を摩擦撹拌接合した後の離脱穴をボルト穴24gとなるようにすればよい。これにより、プローブ54の離脱穴が残留することを回避することができる。
【0062】
このシリンダブロック10においては、図1から諒解されるように、環状切欠部28とシリンダスリーブ20a〜20cとの間のクリアランス、シリンダスリーブ20a〜20cにおける隣接するもの同士の間のクリアランスがウォータジャケット部22となる。すなわち、本実施の形態においては、ウォータジャケット部22に流通される冷却水がシリンダスリーブ20a〜20cに直接的に接触する。
【0063】
換言すれば、一般的なシリンダブロック3(図17参照)のように、ウォータジャケット部1をブロック本体4の中空部として設ける必要はない。このため、ブロック本体18の肉厚を小さくすることができるので、シリンダブロック10の体積を小さくすることができる。換言すれば、シリンダブロック10を小型化することができるとともに、軽量化することができる。
【0064】
その上、ウォータジャケット部22に流通された冷却水がシリンダスリーブ20a〜20cに直接的に接触するので、シリンダスリーブ20a〜20cを効率的に冷却することができる。このため、シリンダブロック10を組み込んで構成された内燃機関を運転する際、運転に伴って発生する熱によってシリンダスリーブ20a〜20cの温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0065】
さらに、耐摩耗性に優れるハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ20a〜20cを使用しているので、シリンダブロック10の耐久性を確保することもできる。しかも、この場合、ブロック本体18を安価なアルミニウムから構成するようにしているので、シリンダブロック10の製造コストが上昇することもない。
【0066】
なお、上記した実施の形態においては、シリンダスリーブ20a〜20cに環状段部38a〜38cを設けるとともに、シリンダスリーブ20bの環状段部38bの一部を露呈するようにしているが、図11に示すように、シリンダスリーブ20a〜20cに大径部36a〜36cおよび縮径部44のみを設けるようにしてもよい。この場合、図12に示すように、該大径部36a〜36cの側周壁部同士を当接させるようにすればよい。なお、図12においては、シリンダスリーブ20a〜20cの各縮径部44が除去された状態を示す。この場合においても、図13に拡大して示すように、大径部36a〜36cがブロック本体18の凹部30に載置・支持されているので、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0067】
また、図14に示すように、シリンダスリーブは、大径部36a〜36cおよび環状段部38a〜38cのみを有するものであってもよい。この場合、第1回転体60と、該第1回転体60の側周壁部に設けられて第1回転体60とは独立して回転可能な第2回転体62と、該第2回転体62の先端部に設けられたプローブ64とを有する摩擦撹拌接合用工具66を使用すればよい。第1回転体60および第2回転体62を同時に回転付勢することによって、シリンダスリーブの外周壁部とボア穴16の内周壁部とを接合することができる。この場合においても、環状段部38a〜38cを設けることなくシリンダスリーブを構成するようにしてもよい。
【0068】
さらに、大径部36a〜36cは必ずしも先端部に設ける必要はない。例えば、図15に示すように、先端部からやや縮径部44側に偏在して設けるようにしてもよい。この場合においても、縮径部44を設ける必要は特にない。
【0069】
さらにまた、図16に示すように、シリンダスリーブは、縮径部44のみを有するものであってもよい。この場合、ウォータジャケット部22のガスケット面12側が閉塞されていないオープンデッキ型シリンダブロックを構成することもできる。勿論、この場合においても、該シリンダスリーブがボア穴16に挿入された際、縮径部44は切削除去される。
【0070】
いずれの場合においても、シリンダスリーブ20a〜20cは、ハイシリコン系アルミニウムからなるものに特に限定されるものではない。例えば、その他のアルミニウム合金からなるものであってもよいし、アルミニウムからなるものであってもよい。別の好適な例としては、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなるシリンダスリーブや、MMCスリーブ等を挙げることができる。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るシリンダスリーブによれば、ブロック本体に接合するための大径部を設け、必要に応じて縮径部をさらに設けるようにしている。これら大径部または縮径部を介して接合することにより、シリンダスリーブとブロック本体とを摩擦撹拌接合にて確実に接合することができ、剛性に優れたシリンダブロックを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係るシリンダスリーブを具備するシリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【図2】図1のシリンダブロックにおけるガスケット面側からの平面図である。
【図3】図1のシリンダブロックを構成するブロック本体の要部概略縦断面図である。
【図4】図3のブロック本体におけるガスケット面側からの平面図である。
【図5】本実施の形態に係るシリンダスリーブの概略全体斜視図である。
【図6】図5のVI−VI線矢視断面図である。
【図7】図5のシリンダスリーブの外周壁部をボア穴の内周壁部に摩擦撹拌接合にて接合する状態を示す要部概略縦断面図である。
【図8】大径部をブロック本体に接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向を説明するガスケット面側からの平面説明図である。
【図9】大径部とブロック本体とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図10】大径部同士を接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向を説明するガスケット面側からの平面説明図である。
【図11】別の実施の形態に係るシリンダスリーブの要部概略縦断面図である。
【図12】図11のシリンダスリーブを具備するシリンダブロックの要部拡大縦断面図である。
【図13】図11のシリンダブロックにおいて、大径部とブロック本体とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図14】縮径部が設けられていないシリンダスリーブの外周壁部をボア穴の内周壁部に摩擦撹拌接合にて接合する状態を示す要部概略縦断面図である。
【図15】また別の実施の形態に係るシリンダスリーブの要部概略縦断面図である。
【図16】さらに別の実施の形態に係るシリンダスリーブの要部概略縦断面図である。
【図17】一般的な多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【符号の説明】
1、22…ウォータジャケット部 2、12…ガスケット面
3、10…シリンダブロック 4、18…ブロック本体
5、16…ボア穴 6、20a〜20c…シリンダスリーブ
13、14…環状切欠部 24a〜24h…ボルト穴
26a、26b…壁部
28a〜28c、38a〜38c…環状段部
30…凹部 34a〜34c…円筒体部
36a〜36c…大径部 44…縮径部
46…テーパ部 50、66…摩擦撹拌接合用工具
52、60、62…回転体 54、64…プローブ
Claims (4)
- 内燃機関のシリンダブロックを構成するブロック本体に設けられ、且つその内部に第1環状切欠部及び第2環状切欠部を有するとともに壁部が突出形成され、さらにウォータジャケット部に連通するシリンダボアに挿入されるシリンダスリーブにおいて、
中空状の円筒体部と、
前記円筒体部の外周壁部から直径方向に沿って外部に延在する方向に突出形成され、前記ウォータジャケット部のガスケット面側を閉塞する大径部と、
前記大径部の外周壁部に設けられた段部と、
を有し、
隣接するシリンダスリーブの前記大径部同士が前記段部を介して積層されていることを特徴とするシリンダスリーブ。 - 内燃機関のシリンダブロックを構成するブロック本体に設けられ、且つその内部に第1環状切欠部及び第2環状切欠部を有するとともに壁部が突出形成され、さらにウォータジャケット部に連通するシリンダボアに挿入されるシリンダスリーブにおいて、
中空状の円筒体部と、
前記円筒体部の内周壁部が縮径されることによって設けられた縮径部と、
前記円筒体部の外周壁部から直径方向に沿って外部に延在する方向に突出形成された大径部と、
を有することを特徴とするシリンダスリーブ。 - 請求項2記載のシリンダスリーブにおいて、前記大径部の外周壁部に設けられた段部を有することを特徴とするシリンダスリーブ。
- 請求項2又は3記載のシリンダスリーブにおいて、前記縮径部がテーパ状に縮径したテーパ部を有することを特徴とするシリンダスリーブ。
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