JP2004116483A - 多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】小型かつ軽量で冷却効率に優れ、崩壊性中子を使用することなく製造することが可能である多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】シリンダスリーブ18a〜18cをブロック本体16のボア穴22に挿入し、該シリンダスリーブ18a〜18cの下端部を環状段部26a〜26c上に載置する一方、大径部36a〜36cを凹部30に載置するととともに、シリンダスリーブ18a、18cの大径部36a、36cをシリンダスリーブ18bの環状段部38b上に載置する。この際、ボア穴22の内周壁部には、環状段部38a〜38cの側周壁部が当接する。その後、大径部36a〜36cの周縁部とブロック本体16とを摩擦撹拌接合にて接合し、かつ大径部36a、36b同士および大径部36b、36c同士を摩擦撹拌接合にて接合する。
【選択図】図1
【解決手段】シリンダスリーブ18a〜18cをブロック本体16のボア穴22に挿入し、該シリンダスリーブ18a〜18cの下端部を環状段部26a〜26c上に載置する一方、大径部36a〜36cを凹部30に載置するととともに、シリンダスリーブ18a、18cの大径部36a、36cをシリンダスリーブ18bの環状段部38b上に載置する。この際、ボア穴22の内周壁部には、環状段部38a〜38cの側周壁部が当接する。その後、大径部36a〜36cの周縁部とブロック本体16とを摩擦撹拌接合にて接合し、かつ大径部36a、36b同士および大径部36b、36c同士を摩擦撹拌接合にて接合する。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブロック本体とシリンダスリーブとを互いに接合することによって構成される多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の内燃機関を構成するシリンダブロックの1種として、図16に示すように、ウォータジャケット部1のガスケット面2側が閉塞されているクローズドデッキ型シリンダブロック3が挙げられる。クローズドデッキ型シリンダブロック3には、ブロック本体4の肉厚が同一であれば、ウォータジャケット部のガスケット面側が開放されているオープンデッキ型シリンダブロックに比して剛性が高いという利点がある。
【0003】
クローズドデッキ型シリンダブロック3の場合、ウォータジャケット部1は、容易に崩壊させることが可能な中子、いわゆる崩壊性中子を用いて、重力鋳造(GDC)や低圧鋳造(LPDC)にて形成される。
【0004】
その一方で、内燃機関においては、シリンダボア5の内部でピストン(図示せず)が往復動作する。このため、シリンダボア5には、耐摩耗性に優れる素材からなるシリンダスリーブ6、例えば、いわゆるFCスリーブやメッキスリーブ、MMCスリーブ等を挿入し、該シリンダスリーブ6の側周壁部にピストンの側周壁部を摺接させるようにしている。耐摩耗性に優れる他の素材としては、いわゆるハイシリコン系アルミニウムが例示される。
【0005】
このように、シリンダスリーブ6をブロック本体4と別素材とする理由は、ブロック本体4をハイシリコン系アルミニウムで鋳造成形した場合、シリンダボア5に巣穴が形成されるために品質不良の製品が多くなるからである。さらに、ハイシリコン系アルミニウムは切削加工し難いので、機械加工コストが高騰するという不具合を招く。
【0006】
そこで、クローズドデッキ型シリンダブロック3を製造する場合、まず、鋳造用金型によって形成されるキャビティに崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を配置しておき、この状態で溶湯をキャビティに注湯して、該溶湯で崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を囲繞する。
【0007】
次に、溶湯を冷却固化することによってブロック本体4を設ける。この冷却固化に伴って、シリンダスリーブ6が鋳ぐるまれる。
【0008】
その後、前記崩壊性中子を崩壊させる。この崩壊によって得られた中空部が、ウォータジャケット部1となる。すなわち、この場合、ウォータジャケット部1は、ブロック本体4に設けられる。
【0009】
ところで、近年では、地球温暖化を防止するために、省エネルギの観点から自動車等の燃費を向上させることが希求されている。その方策として、内燃機関等を軽量化することにより、最終製品である自動車を軽量化することが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開昭59−3142号公報
【特許文献2】
特開昭58−74850号公報
【特許文献3】
特開昭59−79056号公報
【特許文献4】
特開昭60−94230号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
クローズドデッキ型シリンダブロック3を軽量化するためには、該クローズドデッキ型シリンダブロック3の体積を小さくすればよい。しかしながら、上記のようにシリンダボア5同士の間にウォータジャケット部1を設けた場合、シリンダボア5同士の間の肉厚を大きくする必要があるので、クローズドデッキ型シリンダブロック3の体積を小さくすることは困難である。この不都合は、シリンダが複数個設けられた多気筒型のものにおいて特に顕著となる。
【0012】
肉厚の小さいブロック本体4を得ることが可能な方法としては、高圧鋳造(HPDC)や精密鋳造等が挙げられる。しかしながら、HPDCでは中子を使用するのが著しく困難であるため、クローズドデッキ型シリンダブロック3を鋳造成形することが困難である。このため、HPDCは、専らオープンデッキ型シリンダブロックを製造するのに採用されている。
【0013】
一方、精密鋳造においては、ウォータジャケット部1の間隔を狭小化しようとすると、高強度かつ排出性が良好な崩壊性中子を使用しなければならないが、このような崩壊性中子は作製することが困難であるという不具合がある。
【0014】
そこで、ブロック本体4を鋳造成形した後、該ブロック本体4のシリンダボア5にシリンダスリーブ6を挿入し、両者を溶接することが想起される。しかしながら、この場合、溶接時の熱によってブロック本体4ないしシリンダスリーブ6に歪が生じることがある。また、ブロック本体4がHPDCによって作製されたものであると、シリンダスリーブ6を溶接すること自体が困難である。
【0015】
このように、体積が小さいクローズドデッキ型シリンダブロックを製造することには様々な不具合を伴うため、結局、そのようなクローズドデッキ型シリンダブロックはこれまでのところ知られていない。
【0016】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、小型かつ軽量でありながら実用上充分な剛性を有し、しかも、冷却媒体にてシリンダスリーブを直接的に冷却することができるので冷却効率にも優れ、その上、製造時に崩壊性中子を使用する必要がないので製造コストを低廉化することも可能な多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、ブロック本体と、前記ブロック本体に設けられた複数個のシリンダボア内にそれぞれ挿入されて前記ブロック本体に接合されたシリンダスリーブと、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間に形成されたウォータジャケット部とを備え、前記ウォータジャケット部の前記ブロック本体におけるガスケット面側が閉塞されている多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックであって、
前記シリンダスリーブは、該シリンダスリーブの胴体部に比して直径が大きい大径部を一端部に有し、
前記大径部は、前記シリンダボアのガスケット面側開口部に設けられた大径部載置部に載置され、
前記シリンダスリーブの大径部が前記ブロック本体のガスケット面に接合されており、かつ前記シリンダスリーブの大径部同士が接合されていることを特徴とする。
【0018】
このような構成とすることにより、ブロック本体とシリンダスリーブとの間のクリアランス、必要であればシリンダスリーブ同士の間のクリアランスをウォータジャケット部として機能させることができる。したがって、ウォータジャケット部をブロック本体の中空部として設ける必要がない。このため、シリンダボア同士の間の肉厚や、ブロック本体における端部の肉厚を小さくすることができ、体積が小さくかつ軽量の多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを構成することができる。
【0019】
しかも、この場合、シリンダスリーブを直接的に冷却媒体に接触させることができる。このため、シリンダスリーブを効率よく冷却することもできる。
【0020】
さらに、シリンダスリーブの外周壁部とシリンダボアの内周壁部とが互いに接合されていることが好ましい。これにより、シリンダスリーブがブロック本体に一層堅牢に連結されるので、剛性の高い多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを構成することができる。
【0021】
そして、シリンダスリーブにおける前記大径部に環状段部を設け、該環状段部の側周壁部をシリンダボアの内周壁部に当接させることが好ましい。この場合、摩擦撹拌接合を遂行する際にシリンダスリーブとブロック本体とが離間し難くなる。また、軟化した肉がウォータジャケット部に流入することを阻止することもできる。
【0022】
一方、シリンダボア内に載置部を設け、該載置部にシリンダスリーブを載置することが好ましい。この載置によってシリンダスリーブが下端部から支持されるので、シリンダスリーブを確実に位置決め固定することができる。なお、この載置部は、ジャーナル部であってもよい。
【0023】
さらにまた、シリンダスリーブの大径部を、隣接するシリンダスリーブの大径部が切り欠かれて露呈した前記環状段部に載置することにより、該シリンダスリーブを一層確実に位置決め固定することができる。
【0024】
なお、ブロック本体と各シリンダスリーブの大径部、および大径部同士が継目なく接合されていることが好ましい。この場合、接合強度が高いので、剛性に優れる多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを構成することができるからである。部材同士を継目なく接合する手法の好適な例としては、摩擦撹拌接合が挙げられる。
【0025】
また、本発明は、ブロック本体に設けられたシリンダボアに、一端部に大径部が設けられたシリンダスリーブを挿入することによって、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間にウォータジャケット部を形成するとともに、前記ブロック本体のガスケット面側開口部に設けられた大径部載置部に前記大径部を載置する工程と、
前記シリンダスリーブの大径部と前記ブロック本体のガスケット面、および前記シリンダスリーブの大径部同士を摩擦撹拌接合にてそれぞれ接合し、前記ウォータジャケット部の前記ガスケット面側を封止する工程と、
を有することを特徴とする。
【0026】
すなわち、本発明によれば、鋳造成形されたブロック本体にシリンダスリーブを挿入し、その後、該シリンダスリーブの大径部とブロック本体、および隣接するシリンダスリーブの大径部同士を摩擦撹拌接合にて接合するようにしている。このため、ウォータジャケット部を設けるための崩壊性中子を使用する必要がないので、崩壊性中子を作製するという煩雑な作業が不要となる。しかも、崩壊性中子の材料費等が不要となるので、多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造コストを低廉化することもできる。
【0027】
その上、摩擦撹拌接合においては、接合する部材同士を軟化させるとともに撹拌させながら固相接合するので、部材同士を継目なく一体的に接合することができる。このため、剛性に優れた多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを得ることができる。
【0028】
さらに、シリンダスリーブの外周壁部とシリンダボアの内周壁部とを摩擦撹拌接合にて互いに接合することにより、多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの剛性を一層向上させることができる。
【0029】
そして、シリンダボア内に載置部を設け、該シリンダボア内にシリンダスリーブを挿入した際、該シリンダスリーブを載置部に載置することが好ましい。これにより、摩擦撹拌接合用工具を摺接させる際においてもシリンダスリーブが堅牢に支持されるので、摩擦撹拌接合が容易となる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックおよびその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
本実施の形態に係る多気筒クローズドデッキ型シリンダブロック(以下、単にシリンダブロックともいう)10の要部概略縦断面図を図1に示すとともに、上端面であるガスケット面12側からの平面図を図2に示す。このシリンダブロック10は、3個のシリンダボア14a〜14cが設けられたアルミニウムからなるブロック本体16と、各シリンダボア14a〜14c内に挿入されてブロック本体16に接合されたシリンダスリーブ18a〜18cと、各シリンダスリーブ18a〜18cを冷却する冷却水が導入されるウォータジャケット部20とを有する。なお、図2における参照符号21a〜21hは、シリンダブロック10を他の部材と組み合わせて内燃機関を構成する際に使用されるボルトを通すためのボルト穴を示す。
【0032】
ここで、シリンダブロック10として構成される前のブロック本体16の要部概略縦断面図を図3に示す。この図3から諒解されるように、ブロック本体16にシリンダスリーブ18a〜18cを挿入しない場合、各シリンダボア14a〜14c同士、およびシリンダボア14a〜14cとウォータジャケット部20とが連通してボア穴22が形成される。換言すれば、シリンダスリーブ18a〜18cを挿入することに伴ってシリンダボア14a〜14c同士の間に隔壁が形成され、これによりシリンダボア14a〜14c同士が離隔される。
【0033】
ボア穴22内には、2本の壁部24a、24bが突出形成されている。これら壁部24a、24bは、ボア穴22の内周壁部に連設されている。
【0034】
図3、および該図3のガスケット面12側からの平面図である図4に示すように、ボア穴22の内周壁部および壁部24a、24bには環状段部26a〜26cが設けられている。シリンダスリーブ18a〜18cは、これら環状段部26a〜26cにそれぞれ載置されており、これによりシリンダスリーブ18a〜18cが支持されている。
【0035】
ボア穴22の内周壁部において、環状段部26a〜26cよりもガスケット面12に近接する部位には、該内周壁部の一部が環状に切り欠かれることによって環状切欠部28が設けられている。さらに、ボア穴22のガスケット面12側開口部には、3個の環状段部がその外周部で逐次的に連結した形状の凹部30が設けられている。
【0036】
なお、図4から諒解されるように、シリンダスリーブ18a〜18cが挿入されないこの時点では、ボルト穴21a〜21hはブロック本体16に設けられていない。
【0037】
シリンダスリーブ18a〜18cは、一端部に大径部36a〜36cを有する略円柱体であり、ハイシリコン系アルミニウムからなる。シリンダスリーブ18a〜18cがシリンダボア14a〜14cに挿入された際、上記したように該シリンダスリーブ18a〜18cの下端部が環状段部26a〜26cにそれぞれ載置されるとともに、各大径部36a〜36cが前記凹部30上に載置される(図1参照)。
【0038】
シリンダスリーブ18a〜18cにおける大径部36a〜36cの側周壁部下方には、該側周壁部の一部が切り欠かれることにより、環状段部38a〜38cがそれぞれ設けられている。これら環状段部38a〜38cの側周壁部は、環状切欠部28、すなわち、ボア穴22の内周壁部に当接している。
【0039】
ここで、シリンダスリーブ18bの大径部36bは、その一部が直線状に切り欠かれており、これにより環状段部38bが露呈している。シリンダスリーブ18a、18cの各大径部36a、36cは、この露呈した環状段部38b上に載置されている。なお、環状段部38a、38cの一部は直線状に切り欠かれており、これにより環状段部38a、38cと環状段部38bとが干渉することが回避されている。
【0040】
シリンダスリーブ18a〜18cがシリンダボア14a〜14cに挿入された際には、前記環状切欠部28とシリンダスリーブ18a〜18cとの間のクリアランスがウォータジャケット部20となる。同時に、隣接するシリンダスリーブ18a、18bの胴体部同士の間、およびシリンダスリーブ18b、18cの胴体部同士の間に形成されたクリアランスもウォータジャケット部20として機能する。このため、本実施の形態においては、ウォータジャケット部20に流通される冷却水がシリンダスリーブ18a〜18cに直接的に接触する。
【0041】
なお、ウォータジャケット部20のガスケット面12側は、シリンダスリーブ18a〜18cの大径部36a〜36cによって閉塞される。
【0042】
シリンダスリーブ18a〜18cにおける胴体部の各外周壁部は、ボア穴22の内周壁部および壁部24a、24bに接合されている。その一方で、凹部30上に載置されたシリンダスリーブ18a〜18cにおける各大径部36a〜36cの外縁部がブロック本体16のガスケット面12と接合されており、また、シリンダスリーブ18bの大径部36bと、該大径部36bの環状段部38bに載置されたシリンダスリーブ18a、18cの大径部36a、36cとが接合されている。以上の接合は、後述するように、摩擦撹拌接合にて行われている。
【0043】
なお、図1および図2においては、便宜上、ブロック本体16と各シリンダスリーブ18a〜18cの大径部36a〜36cとを境界線にて明示しているが、実際には、各部材16、36a〜36cは摩擦撹拌接合によって継目なく接合されている。すなわち、各部材16、36a〜36cは一体的に接合されており、視認可能な程度に明確な境界線は存在しない。
【0044】
本実施の形態に係るシリンダブロック10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0045】
上記したように、本実施の形態においては、ウォータジャケット部20が、ブロック本体16とシリンダスリーブ18a、18cとの間、およびシリンダスリーブ18a〜18cの隣接するもの同士の間に設けられる。すなわち、一般的なシリンダブロック3のように、ウォータジャケット部1をブロック本体4の中空部として設ける必要はない。このため、ブロック本体16の肉厚を小さくすることができるので、シリンダブロック10の体積を小さくすることができる。換言すれば、シリンダブロック10を小型化することができるとともに、軽量化することができる。
【0046】
そして、このシリンダブロック10を組み込んで構成された内燃機関を運転する際には、シリンダスリーブ18a〜18c内で図示しないピストンが往復動作し、この際に該ピストンの側周壁部がシリンダスリーブ18a〜18cの内周壁部に摺接する。この摺接に起因する摩擦熱、および内燃機関に導入された燃料と空気との混合ガスが爆発することに伴って発生する熱によって、シリンダスリーブ18a〜18cの温度が上昇する。
【0047】
ここで、上記したように、シリンダスリーブ18a〜18cには、ウォータジャケット部20に流通された冷却水が直接的に接触する。このため、シリンダスリーブ18a〜18cを効率的に冷却することができるので、シリンダスリーブ18a〜18cの温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0048】
また、シリンダスリーブ18a〜18cとブロック本体16、およびシリンダスリーブ18a、18bの大径部36a、36b同士とシリンダスリーブ18b、18cの大径部36b、36c同士が摩擦撹拌接合によって一体的に接合されている。換言すれば、シリンダスリーブ18a〜18cとブロック本体16、およびシリンダスリーブ18a〜18c同士が強固に接合されているため、剛性に優れたシリンダブロック10を構成することができる。
【0049】
さらに、耐摩耗性に優れるハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ18a〜18cを使用しているので、シリンダブロック10の耐久性を確保することもできる。しかも、この場合、ブロック本体16を安価なアルミニウムから構成するようにしているので、シリンダブロック10の製造コストが上昇することもない。
【0050】
シリンダブロック10は、以下のようにして製造することができる。
【0051】
まず、鋳造作業によって、図3および図4に示すブロック本体16を鋳造成形する。この際、ブロック本体16にウォータジャケット部20を設ける必要がないため、鋳造用金型のキャビティに崩壊性中子を配置する必要はない。すなわち、本実施形態によれば、崩壊性中子を作製する煩雑な作業が不要となるとともに、崩壊性中子の作製コストを削減することができるのでシリンダブロック10の製造コストを低廉化することができるという利点がある。
【0052】
その一方で、図5に示すように、テーパ状に膨出した膨出部44が内周壁部に設けられ、かつ外周壁部の一端部に大径部36a〜36cが設けられたシリンダスリーブ18a〜18cを作製する。なお、膨出部44のテーパ面46は、シリンダスリーブ18a〜18cの内周が大径部36a〜36cから離間するにつれて縮径するように設ける。
【0053】
これら大径部36a〜36cにおける側周壁部の下方を円周方向に沿って機械加工にて切り欠き、該大径部36a〜36cの下方に環状段部38a〜38cを設ける。その後、大径部36bの一部を直線的に切り欠いて、環状段部38bを露呈する。その一方で、環状段部38a、38cの一部を直線的に切り欠く。
【0054】
次いで、ブロック本体16のボア穴22にシリンダスリーブ18a〜18cを挿入する。挿入されたシリンダスリーブ18a〜18cの各下端部が環状段部26a〜26cに載置され、その一方で、大径部36a〜36cが凹部30に載置されるとともに、大径部36a、36cが環状段部38b上に載置される。この際、環状段部38a、38cが切り欠かれているので、環状段部38a、38cが環状段部38bに干渉することはない。さらに、環状段部38a〜38cの側周壁部がボア穴22の内周壁部に当接する。
【0055】
この挿入に伴いシリンダボア14a〜14cが互いに離隔されるとともに、環状切欠部28とシリンダスリーブ18a、18cとの間と、シリンダスリーブ18a、18bとの間と、シリンダスリーブ18b、18cとの間に連通するウォータジャケット部20が形成される。
【0056】
次いで、ボア穴22の内周壁部および壁部24a、24bと、シリンダスリーブ18a〜18cの外周壁部とを摩擦撹拌接合にて互いに接合する。
【0057】
図6に示すように、摩擦撹拌接合用工具50は、円柱状の回転体52と、該回転体52に比して小径でかつ先端が円錐状のプローブ54を備える。本実施の形態においては、シリンダボア14aの長手軸方向に対して傾斜した状態で摩擦撹拌接合用工具50をシリンダボア14a内に挿入し、プローブ54をテーパ面46に当接させる。
【0058】
この状態で回転体52を回転付勢すると、プローブ54がテーパ面46に摺接することに伴って摩擦熱が発生し、テーパ面46におけるプローブ54の当接箇所が軟化する。その結果、プローブ54の先端部がシリンダスリーブ18aとボア穴22の内周壁部との当接箇所に到達し、該当接箇所においても、シリンダスリーブ18aの外周壁部とボア穴22の内周壁部とが摩擦熱によって軟化する。
【0059】
そして、摩擦撹拌接合用工具50をテーパ面46に沿って旋回動作させると、軟化した肉は、プローブ54にて撹拌されることに伴って塑性流動した後、該プローブ54が離間することに伴って固相接合する。これにより、シリンダスリーブ18aの外周壁部とボア穴22の内周壁部とが一体的に固相接合される。
【0060】
摩擦撹拌接合用工具50が旋回動作されることに追従してこの現象が逐次的に繰り返されることにより、シリンダスリーブ18aの外周壁部と、ボア穴22の内周壁部または壁部24aとが一体的に接合されるに至る。勿論、残余のシリンダスリーブ18b、18cにおいても同様の作業が営まれる。
【0061】
次に、シリンダスリーブ18a〜18cの大径部36a〜36cとブロック本体16とを接合する。この接合も、摩擦撹拌接合にて行われる。すなわち、摩擦撹拌接合用工具50の回転体52を回転付勢し、プローブ54を摺接させながら大径部36a〜36cおよびブロック本体16の肉を摩擦撹拌接合する。この場合、図7の矢印Aに沿って摩擦撹拌接合用工具50を変位させることによって大径部36a〜36cとブロック本体16とを接合すればよい。
【0062】
この際、図8に拡大して示すように、大径部36a〜36cは、凹部30に載置されていることによって堅牢に支持されている。また、環状段部38a〜38cの側周壁部がボア穴22の内周壁部に当接しているので、該環状段部38a〜38cの楔作用によって、大径部36a〜36cがブロック本体14から離間し難くなる。このため、ブロック本体14と大径部36a〜36cとが離間することを防止するためのクランプ用治具を特に使用することなく、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0063】
しかも、この場合、ウォータジャケット部20を閉塞する環状段部38a〜38cが軟化しないので、軟化した肉がウォータジャケット部20に流動することを回避することもできる。
【0064】
次に、大径部36a、36b同士、大径部36b、36c同士を摩擦撹拌接合する。この際には、図9の矢印B、Cに沿って摩擦撹拌接合用工具50を変位させるようにすればよい。この場合においては、シリンダスリーブ18bの環状段部38bにシリンダスリーブ18a、18cの大径部36a、36cが載置されることによって支持されているので、上記と同様、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0065】
以上の作業によって、シリンダスリーブ18a〜18cとブロック本体16、およびシリンダスリーブ18a〜18c同士を一体的に接合することができる。
【0066】
次いで、シリンダスリーブ18a〜18c内の膨出部44を除去する。すなわち、ドリルによって研削加工を行う等して、シリンダスリーブ18a〜18cの内周を等径とする。これにより、該シリンダスリーブ18a〜18c内でピストンが往復動作することが可能となる。
【0067】
このように、本実施の形態においては、シリンダスリーブ18a〜18cとブロック本体16、およびシリンダスリーブ18a〜18c同士を接合する手段として、摩擦撹拌接合を採用している。このため、各部材16、18a〜18cを一体的に接合することができるので、剛性に優れたシリンダブロック10を構成することができる。
【0068】
しかも、摩擦撹拌接合によれば、溶接し難い素材からなる部材同士であっても比較的容易に接合することができる。したがって、例えば、ブロック本体16がHPDCによって作製されたものであっても、シリンダスリーブ18a〜18cを容易に接合することができる。このため、肉厚の一層小さいシリンダブロック10を構成することができる。
【0069】
プローブ54を挿入または離脱させることに伴って形成された挿入穴または離脱穴は、ボルト穴21a〜21fのいずれかとして加工するようにすればよい。例えば、大径部36a〜36cとブロック本体16とを摩擦撹拌接合する際(図7参照)の挿入穴をボルト穴21a、離脱穴をボルト穴21eとなるようにすればよい。また、大径部36a、36b同士を摩擦撹拌接合する際(図9参照)の挿入穴をボルト穴21b、離脱穴をボルト穴21fとなるようにし、大径部36b、36c同士を摩擦撹拌接合する際の挿入穴をボルト穴21c、離脱穴をボルト穴21gとなるようにすればよい。これにより、プローブ54の挿入穴または離脱穴が残留することを回避することができる。
【0070】
なお、上記した実施の形態においては、シリンダスリーブ18a〜18cに環状段部38a〜38cを設けるとともに、シリンダスリーブ18bの環状段部38bの一部を露呈するようにしているが、図10に示すように、シリンダスリーブ18a〜18cに大径部36a〜36cのみを設け、該大径部36a〜36cの側周壁部同士を当接させるようにしてもよい。この場合においても、図11に拡大して示すように、大径部36a〜36cがブロック本体16の凹部30に載置・支持されているので、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0071】
また、シリンダスリーブ18a〜18cの内周壁部に膨出部44を設けることなく、シリンダスリーブ18a〜18cの外周壁部とボア穴22の内周壁部とを接合するようにしてもよい。この場合、図12に示すように、第1回転体60と、該第1回転体60の側周壁部に設けられて第1回転体60とは独立して回転可能な第2回転体62と、該第2回転体62の先端部に設けられたプローブ64とを有する摩擦撹拌接合用工具66を使用すればよい。第1回転体60および第2回転体62を同時に回転付勢することによって、シリンダスリーブ18a〜18cの外周壁部とボア穴22の内周壁部とを接合することができる。
【0072】
さらに、図13に示すように、ウォータジャケット部20に、シリンダスリーブ18a、18bの間、およびシリンダスリーブ18b、18cの間の連通路を設ける必要は特になく、シリンダスリーブ18a〜18cの外周壁部のみを冷却するようにしてもよい。
【0073】
さらにまた、図14および図15に示すように、シリンダスリーブ18a〜18cを載置する載置部として、ブロック本体16に設けられたジャーナル部70を使用してもよい。
【0074】
そして、シリンダスリーブ18a〜18cは、ハイシリコン系アルミニウムからなるものに特に限定されるものではない。例えば、その他のアルミニウム合金からなるものであってもよいし、アルミニウムからなるものであってもよい。別の好適な例としては、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなるシリンダスリーブや、MMCスリーブ等を挙げることができる。
【0075】
一方、ブロック本体16は、アルミニウムからなるものに限定されるものではなく、マグネシウムまたはマグネシウム合金等、他の素材からなるものであってもよい。
【0076】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックによれば、シリンダスリーブに大径部を設け、該大径部とブロック本体、および該大径部同士を接合するようにしている。このため、ウォータジャケット部をブロック本体とシリンダスリーブとの間、必要であればシリンダスリーブ同士の間に設けることができる。したがって、ウォータジャケット部をブロック本体の中空部として設ける必要がないので、シリンダボア同士の間や、ブロック本体における端部の各肉厚を小さくすることができる。換言すれば、体積が小さくかつ軽量の多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを構成することができる。
【0077】
しかも、この場合、シリンダスリーブを直接的に冷却媒体に接触させることができるので、シリンダスリーブを効率よく冷却することができる。
【0078】
また、本発明に係る多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造方法によれば、鋳造成形されたブロック本体にシリンダスリーブを挿入した後、該シリンダスリーブの大径部とブロック本体、および隣接するシリンダスリーブの大径部同士を摩擦撹拌接合にて接合するようにしている。したがって、ウォータジャケット部を設けるための崩壊性中子を使用する必要がないので、ブロック本体を容易に鋳造形成することができるとともに、多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造コストを低廉化することができる。
【0079】
その上、この製造方法では、各部材を継目なく接合することができる。換言すれば、各部材を一体的に接合することができるので、剛性に優れた多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係るシリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【図2】図1のシリンダブロックにおけるガスケット面側からの平面図である。
【図3】図1のシリンダブロックを構成するブロック本体の要部概略縦断面図である。
【図4】図3のブロック本体におけるガスケット面側からの平面図である。
【図5】外周壁部に大径部を有し、内周壁部に膨出部を有するシリンダスリーブの概略縦断面図である。
【図6】図5のシリンダスリーブの外周壁部をボア穴の内周壁部に摩擦撹拌接合にて接合する状態を示す要部概略縦断面図である。
【図7】大径部をブロック本体に接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向を説明するガスケット面側からの平面説明図である。
【図8】大径部とブロック本体とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図9】大径部同士を接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向を説明するガスケット面側からの平面説明図である。
【図10】別の実施の形態に係るシリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【図11】図10のシリンダブロックにおいて、大径部とブロック本体とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図12】膨出部が設けられていないシリンダスリーブの外周壁部をボア穴の内周壁部に摩擦撹拌接合にて接合する状態を示す要部概略縦断面図である。
【図13】さらに別の実施の形態に係るシリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【図14】ジャーナル部にシリンダスリーブが載置されたシリンダブロックのガスケット面側側からの平面図である。
【図15】図14のXV−XV線矢視断面図である。
【図16】一般的な多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【符号の説明】
1、20…ウォータジャケット部 2、12…ガスケット面
3、10…クローズドデッキ型シリンダブロック(シリンダブロック)
4、16…ブロック本体
5、14a〜14c…シリンダボア
6、18a〜18c…シリンダスリーブ
21a〜21h…ボルト穴
22…ボア穴 24a、24b…壁部
26a〜26c…環状段部 28…環状切欠部
30…凹部 36a〜36c…大径部
38a〜38c…環状段部 44…膨出部
46…テーパ面 50、66…摩擦撹拌接合用工具
52、60、62…回転体 54、64…プローブ
70…ジャーナル部
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブロック本体とシリンダスリーブとを互いに接合することによって構成される多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の内燃機関を構成するシリンダブロックの1種として、図16に示すように、ウォータジャケット部1のガスケット面2側が閉塞されているクローズドデッキ型シリンダブロック3が挙げられる。クローズドデッキ型シリンダブロック3には、ブロック本体4の肉厚が同一であれば、ウォータジャケット部のガスケット面側が開放されているオープンデッキ型シリンダブロックに比して剛性が高いという利点がある。
【0003】
クローズドデッキ型シリンダブロック3の場合、ウォータジャケット部1は、容易に崩壊させることが可能な中子、いわゆる崩壊性中子を用いて、重力鋳造(GDC)や低圧鋳造(LPDC)にて形成される。
【0004】
その一方で、内燃機関においては、シリンダボア5の内部でピストン(図示せず)が往復動作する。このため、シリンダボア5には、耐摩耗性に優れる素材からなるシリンダスリーブ6、例えば、いわゆるFCスリーブやメッキスリーブ、MMCスリーブ等を挿入し、該シリンダスリーブ6の側周壁部にピストンの側周壁部を摺接させるようにしている。耐摩耗性に優れる他の素材としては、いわゆるハイシリコン系アルミニウムが例示される。
【0005】
このように、シリンダスリーブ6をブロック本体4と別素材とする理由は、ブロック本体4をハイシリコン系アルミニウムで鋳造成形した場合、シリンダボア5に巣穴が形成されるために品質不良の製品が多くなるからである。さらに、ハイシリコン系アルミニウムは切削加工し難いので、機械加工コストが高騰するという不具合を招く。
【0006】
そこで、クローズドデッキ型シリンダブロック3を製造する場合、まず、鋳造用金型によって形成されるキャビティに崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を配置しておき、この状態で溶湯をキャビティに注湯して、該溶湯で崩壊性中子やシリンダスリーブ6等を囲繞する。
【0007】
次に、溶湯を冷却固化することによってブロック本体4を設ける。この冷却固化に伴って、シリンダスリーブ6が鋳ぐるまれる。
【0008】
その後、前記崩壊性中子を崩壊させる。この崩壊によって得られた中空部が、ウォータジャケット部1となる。すなわち、この場合、ウォータジャケット部1は、ブロック本体4に設けられる。
【0009】
ところで、近年では、地球温暖化を防止するために、省エネルギの観点から自動車等の燃費を向上させることが希求されている。その方策として、内燃機関等を軽量化することにより、最終製品である自動車を軽量化することが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開昭59−3142号公報
【特許文献2】
特開昭58−74850号公報
【特許文献3】
特開昭59−79056号公報
【特許文献4】
特開昭60−94230号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
クローズドデッキ型シリンダブロック3を軽量化するためには、該クローズドデッキ型シリンダブロック3の体積を小さくすればよい。しかしながら、上記のようにシリンダボア5同士の間にウォータジャケット部1を設けた場合、シリンダボア5同士の間の肉厚を大きくする必要があるので、クローズドデッキ型シリンダブロック3の体積を小さくすることは困難である。この不都合は、シリンダが複数個設けられた多気筒型のものにおいて特に顕著となる。
【0012】
肉厚の小さいブロック本体4を得ることが可能な方法としては、高圧鋳造(HPDC)や精密鋳造等が挙げられる。しかしながら、HPDCでは中子を使用するのが著しく困難であるため、クローズドデッキ型シリンダブロック3を鋳造成形することが困難である。このため、HPDCは、専らオープンデッキ型シリンダブロックを製造するのに採用されている。
【0013】
一方、精密鋳造においては、ウォータジャケット部1の間隔を狭小化しようとすると、高強度かつ排出性が良好な崩壊性中子を使用しなければならないが、このような崩壊性中子は作製することが困難であるという不具合がある。
【0014】
そこで、ブロック本体4を鋳造成形した後、該ブロック本体4のシリンダボア5にシリンダスリーブ6を挿入し、両者を溶接することが想起される。しかしながら、この場合、溶接時の熱によってブロック本体4ないしシリンダスリーブ6に歪が生じることがある。また、ブロック本体4がHPDCによって作製されたものであると、シリンダスリーブ6を溶接すること自体が困難である。
【0015】
このように、体積が小さいクローズドデッキ型シリンダブロックを製造することには様々な不具合を伴うため、結局、そのようなクローズドデッキ型シリンダブロックはこれまでのところ知られていない。
【0016】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、小型かつ軽量でありながら実用上充分な剛性を有し、しかも、冷却媒体にてシリンダスリーブを直接的に冷却することができるので冷却効率にも優れ、その上、製造時に崩壊性中子を使用する必要がないので製造コストを低廉化することも可能な多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、ブロック本体と、前記ブロック本体に設けられた複数個のシリンダボア内にそれぞれ挿入されて前記ブロック本体に接合されたシリンダスリーブと、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間に形成されたウォータジャケット部とを備え、前記ウォータジャケット部の前記ブロック本体におけるガスケット面側が閉塞されている多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックであって、
前記シリンダスリーブは、該シリンダスリーブの胴体部に比して直径が大きい大径部を一端部に有し、
前記大径部は、前記シリンダボアのガスケット面側開口部に設けられた大径部載置部に載置され、
前記シリンダスリーブの大径部が前記ブロック本体のガスケット面に接合されており、かつ前記シリンダスリーブの大径部同士が接合されていることを特徴とする。
【0018】
このような構成とすることにより、ブロック本体とシリンダスリーブとの間のクリアランス、必要であればシリンダスリーブ同士の間のクリアランスをウォータジャケット部として機能させることができる。したがって、ウォータジャケット部をブロック本体の中空部として設ける必要がない。このため、シリンダボア同士の間の肉厚や、ブロック本体における端部の肉厚を小さくすることができ、体積が小さくかつ軽量の多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを構成することができる。
【0019】
しかも、この場合、シリンダスリーブを直接的に冷却媒体に接触させることができる。このため、シリンダスリーブを効率よく冷却することもできる。
【0020】
さらに、シリンダスリーブの外周壁部とシリンダボアの内周壁部とが互いに接合されていることが好ましい。これにより、シリンダスリーブがブロック本体に一層堅牢に連結されるので、剛性の高い多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを構成することができる。
【0021】
そして、シリンダスリーブにおける前記大径部に環状段部を設け、該環状段部の側周壁部をシリンダボアの内周壁部に当接させることが好ましい。この場合、摩擦撹拌接合を遂行する際にシリンダスリーブとブロック本体とが離間し難くなる。また、軟化した肉がウォータジャケット部に流入することを阻止することもできる。
【0022】
一方、シリンダボア内に載置部を設け、該載置部にシリンダスリーブを載置することが好ましい。この載置によってシリンダスリーブが下端部から支持されるので、シリンダスリーブを確実に位置決め固定することができる。なお、この載置部は、ジャーナル部であってもよい。
【0023】
さらにまた、シリンダスリーブの大径部を、隣接するシリンダスリーブの大径部が切り欠かれて露呈した前記環状段部に載置することにより、該シリンダスリーブを一層確実に位置決め固定することができる。
【0024】
なお、ブロック本体と各シリンダスリーブの大径部、および大径部同士が継目なく接合されていることが好ましい。この場合、接合強度が高いので、剛性に優れる多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを構成することができるからである。部材同士を継目なく接合する手法の好適な例としては、摩擦撹拌接合が挙げられる。
【0025】
また、本発明は、ブロック本体に設けられたシリンダボアに、一端部に大径部が設けられたシリンダスリーブを挿入することによって、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間にウォータジャケット部を形成するとともに、前記ブロック本体のガスケット面側開口部に設けられた大径部載置部に前記大径部を載置する工程と、
前記シリンダスリーブの大径部と前記ブロック本体のガスケット面、および前記シリンダスリーブの大径部同士を摩擦撹拌接合にてそれぞれ接合し、前記ウォータジャケット部の前記ガスケット面側を封止する工程と、
を有することを特徴とする。
【0026】
すなわち、本発明によれば、鋳造成形されたブロック本体にシリンダスリーブを挿入し、その後、該シリンダスリーブの大径部とブロック本体、および隣接するシリンダスリーブの大径部同士を摩擦撹拌接合にて接合するようにしている。このため、ウォータジャケット部を設けるための崩壊性中子を使用する必要がないので、崩壊性中子を作製するという煩雑な作業が不要となる。しかも、崩壊性中子の材料費等が不要となるので、多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造コストを低廉化することもできる。
【0027】
その上、摩擦撹拌接合においては、接合する部材同士を軟化させるとともに撹拌させながら固相接合するので、部材同士を継目なく一体的に接合することができる。このため、剛性に優れた多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを得ることができる。
【0028】
さらに、シリンダスリーブの外周壁部とシリンダボアの内周壁部とを摩擦撹拌接合にて互いに接合することにより、多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの剛性を一層向上させることができる。
【0029】
そして、シリンダボア内に載置部を設け、該シリンダボア内にシリンダスリーブを挿入した際、該シリンダスリーブを載置部に載置することが好ましい。これにより、摩擦撹拌接合用工具を摺接させる際においてもシリンダスリーブが堅牢に支持されるので、摩擦撹拌接合が容易となる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックおよびその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
本実施の形態に係る多気筒クローズドデッキ型シリンダブロック(以下、単にシリンダブロックともいう)10の要部概略縦断面図を図1に示すとともに、上端面であるガスケット面12側からの平面図を図2に示す。このシリンダブロック10は、3個のシリンダボア14a〜14cが設けられたアルミニウムからなるブロック本体16と、各シリンダボア14a〜14c内に挿入されてブロック本体16に接合されたシリンダスリーブ18a〜18cと、各シリンダスリーブ18a〜18cを冷却する冷却水が導入されるウォータジャケット部20とを有する。なお、図2における参照符号21a〜21hは、シリンダブロック10を他の部材と組み合わせて内燃機関を構成する際に使用されるボルトを通すためのボルト穴を示す。
【0032】
ここで、シリンダブロック10として構成される前のブロック本体16の要部概略縦断面図を図3に示す。この図3から諒解されるように、ブロック本体16にシリンダスリーブ18a〜18cを挿入しない場合、各シリンダボア14a〜14c同士、およびシリンダボア14a〜14cとウォータジャケット部20とが連通してボア穴22が形成される。換言すれば、シリンダスリーブ18a〜18cを挿入することに伴ってシリンダボア14a〜14c同士の間に隔壁が形成され、これによりシリンダボア14a〜14c同士が離隔される。
【0033】
ボア穴22内には、2本の壁部24a、24bが突出形成されている。これら壁部24a、24bは、ボア穴22の内周壁部に連設されている。
【0034】
図3、および該図3のガスケット面12側からの平面図である図4に示すように、ボア穴22の内周壁部および壁部24a、24bには環状段部26a〜26cが設けられている。シリンダスリーブ18a〜18cは、これら環状段部26a〜26cにそれぞれ載置されており、これによりシリンダスリーブ18a〜18cが支持されている。
【0035】
ボア穴22の内周壁部において、環状段部26a〜26cよりもガスケット面12に近接する部位には、該内周壁部の一部が環状に切り欠かれることによって環状切欠部28が設けられている。さらに、ボア穴22のガスケット面12側開口部には、3個の環状段部がその外周部で逐次的に連結した形状の凹部30が設けられている。
【0036】
なお、図4から諒解されるように、シリンダスリーブ18a〜18cが挿入されないこの時点では、ボルト穴21a〜21hはブロック本体16に設けられていない。
【0037】
シリンダスリーブ18a〜18cは、一端部に大径部36a〜36cを有する略円柱体であり、ハイシリコン系アルミニウムからなる。シリンダスリーブ18a〜18cがシリンダボア14a〜14cに挿入された際、上記したように該シリンダスリーブ18a〜18cの下端部が環状段部26a〜26cにそれぞれ載置されるとともに、各大径部36a〜36cが前記凹部30上に載置される(図1参照)。
【0038】
シリンダスリーブ18a〜18cにおける大径部36a〜36cの側周壁部下方には、該側周壁部の一部が切り欠かれることにより、環状段部38a〜38cがそれぞれ設けられている。これら環状段部38a〜38cの側周壁部は、環状切欠部28、すなわち、ボア穴22の内周壁部に当接している。
【0039】
ここで、シリンダスリーブ18bの大径部36bは、その一部が直線状に切り欠かれており、これにより環状段部38bが露呈している。シリンダスリーブ18a、18cの各大径部36a、36cは、この露呈した環状段部38b上に載置されている。なお、環状段部38a、38cの一部は直線状に切り欠かれており、これにより環状段部38a、38cと環状段部38bとが干渉することが回避されている。
【0040】
シリンダスリーブ18a〜18cがシリンダボア14a〜14cに挿入された際には、前記環状切欠部28とシリンダスリーブ18a〜18cとの間のクリアランスがウォータジャケット部20となる。同時に、隣接するシリンダスリーブ18a、18bの胴体部同士の間、およびシリンダスリーブ18b、18cの胴体部同士の間に形成されたクリアランスもウォータジャケット部20として機能する。このため、本実施の形態においては、ウォータジャケット部20に流通される冷却水がシリンダスリーブ18a〜18cに直接的に接触する。
【0041】
なお、ウォータジャケット部20のガスケット面12側は、シリンダスリーブ18a〜18cの大径部36a〜36cによって閉塞される。
【0042】
シリンダスリーブ18a〜18cにおける胴体部の各外周壁部は、ボア穴22の内周壁部および壁部24a、24bに接合されている。その一方で、凹部30上に載置されたシリンダスリーブ18a〜18cにおける各大径部36a〜36cの外縁部がブロック本体16のガスケット面12と接合されており、また、シリンダスリーブ18bの大径部36bと、該大径部36bの環状段部38bに載置されたシリンダスリーブ18a、18cの大径部36a、36cとが接合されている。以上の接合は、後述するように、摩擦撹拌接合にて行われている。
【0043】
なお、図1および図2においては、便宜上、ブロック本体16と各シリンダスリーブ18a〜18cの大径部36a〜36cとを境界線にて明示しているが、実際には、各部材16、36a〜36cは摩擦撹拌接合によって継目なく接合されている。すなわち、各部材16、36a〜36cは一体的に接合されており、視認可能な程度に明確な境界線は存在しない。
【0044】
本実施の形態に係るシリンダブロック10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0045】
上記したように、本実施の形態においては、ウォータジャケット部20が、ブロック本体16とシリンダスリーブ18a、18cとの間、およびシリンダスリーブ18a〜18cの隣接するもの同士の間に設けられる。すなわち、一般的なシリンダブロック3のように、ウォータジャケット部1をブロック本体4の中空部として設ける必要はない。このため、ブロック本体16の肉厚を小さくすることができるので、シリンダブロック10の体積を小さくすることができる。換言すれば、シリンダブロック10を小型化することができるとともに、軽量化することができる。
【0046】
そして、このシリンダブロック10を組み込んで構成された内燃機関を運転する際には、シリンダスリーブ18a〜18c内で図示しないピストンが往復動作し、この際に該ピストンの側周壁部がシリンダスリーブ18a〜18cの内周壁部に摺接する。この摺接に起因する摩擦熱、および内燃機関に導入された燃料と空気との混合ガスが爆発することに伴って発生する熱によって、シリンダスリーブ18a〜18cの温度が上昇する。
【0047】
ここで、上記したように、シリンダスリーブ18a〜18cには、ウォータジャケット部20に流通された冷却水が直接的に接触する。このため、シリンダスリーブ18a〜18cを効率的に冷却することができるので、シリンダスリーブ18a〜18cの温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0048】
また、シリンダスリーブ18a〜18cとブロック本体16、およびシリンダスリーブ18a、18bの大径部36a、36b同士とシリンダスリーブ18b、18cの大径部36b、36c同士が摩擦撹拌接合によって一体的に接合されている。換言すれば、シリンダスリーブ18a〜18cとブロック本体16、およびシリンダスリーブ18a〜18c同士が強固に接合されているため、剛性に優れたシリンダブロック10を構成することができる。
【0049】
さらに、耐摩耗性に優れるハイシリコン系アルミニウムからなるシリンダスリーブ18a〜18cを使用しているので、シリンダブロック10の耐久性を確保することもできる。しかも、この場合、ブロック本体16を安価なアルミニウムから構成するようにしているので、シリンダブロック10の製造コストが上昇することもない。
【0050】
シリンダブロック10は、以下のようにして製造することができる。
【0051】
まず、鋳造作業によって、図3および図4に示すブロック本体16を鋳造成形する。この際、ブロック本体16にウォータジャケット部20を設ける必要がないため、鋳造用金型のキャビティに崩壊性中子を配置する必要はない。すなわち、本実施形態によれば、崩壊性中子を作製する煩雑な作業が不要となるとともに、崩壊性中子の作製コストを削減することができるのでシリンダブロック10の製造コストを低廉化することができるという利点がある。
【0052】
その一方で、図5に示すように、テーパ状に膨出した膨出部44が内周壁部に設けられ、かつ外周壁部の一端部に大径部36a〜36cが設けられたシリンダスリーブ18a〜18cを作製する。なお、膨出部44のテーパ面46は、シリンダスリーブ18a〜18cの内周が大径部36a〜36cから離間するにつれて縮径するように設ける。
【0053】
これら大径部36a〜36cにおける側周壁部の下方を円周方向に沿って機械加工にて切り欠き、該大径部36a〜36cの下方に環状段部38a〜38cを設ける。その後、大径部36bの一部を直線的に切り欠いて、環状段部38bを露呈する。その一方で、環状段部38a、38cの一部を直線的に切り欠く。
【0054】
次いで、ブロック本体16のボア穴22にシリンダスリーブ18a〜18cを挿入する。挿入されたシリンダスリーブ18a〜18cの各下端部が環状段部26a〜26cに載置され、その一方で、大径部36a〜36cが凹部30に載置されるとともに、大径部36a、36cが環状段部38b上に載置される。この際、環状段部38a、38cが切り欠かれているので、環状段部38a、38cが環状段部38bに干渉することはない。さらに、環状段部38a〜38cの側周壁部がボア穴22の内周壁部に当接する。
【0055】
この挿入に伴いシリンダボア14a〜14cが互いに離隔されるとともに、環状切欠部28とシリンダスリーブ18a、18cとの間と、シリンダスリーブ18a、18bとの間と、シリンダスリーブ18b、18cとの間に連通するウォータジャケット部20が形成される。
【0056】
次いで、ボア穴22の内周壁部および壁部24a、24bと、シリンダスリーブ18a〜18cの外周壁部とを摩擦撹拌接合にて互いに接合する。
【0057】
図6に示すように、摩擦撹拌接合用工具50は、円柱状の回転体52と、該回転体52に比して小径でかつ先端が円錐状のプローブ54を備える。本実施の形態においては、シリンダボア14aの長手軸方向に対して傾斜した状態で摩擦撹拌接合用工具50をシリンダボア14a内に挿入し、プローブ54をテーパ面46に当接させる。
【0058】
この状態で回転体52を回転付勢すると、プローブ54がテーパ面46に摺接することに伴って摩擦熱が発生し、テーパ面46におけるプローブ54の当接箇所が軟化する。その結果、プローブ54の先端部がシリンダスリーブ18aとボア穴22の内周壁部との当接箇所に到達し、該当接箇所においても、シリンダスリーブ18aの外周壁部とボア穴22の内周壁部とが摩擦熱によって軟化する。
【0059】
そして、摩擦撹拌接合用工具50をテーパ面46に沿って旋回動作させると、軟化した肉は、プローブ54にて撹拌されることに伴って塑性流動した後、該プローブ54が離間することに伴って固相接合する。これにより、シリンダスリーブ18aの外周壁部とボア穴22の内周壁部とが一体的に固相接合される。
【0060】
摩擦撹拌接合用工具50が旋回動作されることに追従してこの現象が逐次的に繰り返されることにより、シリンダスリーブ18aの外周壁部と、ボア穴22の内周壁部または壁部24aとが一体的に接合されるに至る。勿論、残余のシリンダスリーブ18b、18cにおいても同様の作業が営まれる。
【0061】
次に、シリンダスリーブ18a〜18cの大径部36a〜36cとブロック本体16とを接合する。この接合も、摩擦撹拌接合にて行われる。すなわち、摩擦撹拌接合用工具50の回転体52を回転付勢し、プローブ54を摺接させながら大径部36a〜36cおよびブロック本体16の肉を摩擦撹拌接合する。この場合、図7の矢印Aに沿って摩擦撹拌接合用工具50を変位させることによって大径部36a〜36cとブロック本体16とを接合すればよい。
【0062】
この際、図8に拡大して示すように、大径部36a〜36cは、凹部30に載置されていることによって堅牢に支持されている。また、環状段部38a〜38cの側周壁部がボア穴22の内周壁部に当接しているので、該環状段部38a〜38cの楔作用によって、大径部36a〜36cがブロック本体14から離間し難くなる。このため、ブロック本体14と大径部36a〜36cとが離間することを防止するためのクランプ用治具を特に使用することなく、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0063】
しかも、この場合、ウォータジャケット部20を閉塞する環状段部38a〜38cが軟化しないので、軟化した肉がウォータジャケット部20に流動することを回避することもできる。
【0064】
次に、大径部36a、36b同士、大径部36b、36c同士を摩擦撹拌接合する。この際には、図9の矢印B、Cに沿って摩擦撹拌接合用工具50を変位させるようにすればよい。この場合においては、シリンダスリーブ18bの環状段部38bにシリンダスリーブ18a、18cの大径部36a、36cが載置されることによって支持されているので、上記と同様、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0065】
以上の作業によって、シリンダスリーブ18a〜18cとブロック本体16、およびシリンダスリーブ18a〜18c同士を一体的に接合することができる。
【0066】
次いで、シリンダスリーブ18a〜18c内の膨出部44を除去する。すなわち、ドリルによって研削加工を行う等して、シリンダスリーブ18a〜18cの内周を等径とする。これにより、該シリンダスリーブ18a〜18c内でピストンが往復動作することが可能となる。
【0067】
このように、本実施の形態においては、シリンダスリーブ18a〜18cとブロック本体16、およびシリンダスリーブ18a〜18c同士を接合する手段として、摩擦撹拌接合を採用している。このため、各部材16、18a〜18cを一体的に接合することができるので、剛性に優れたシリンダブロック10を構成することができる。
【0068】
しかも、摩擦撹拌接合によれば、溶接し難い素材からなる部材同士であっても比較的容易に接合することができる。したがって、例えば、ブロック本体16がHPDCによって作製されたものであっても、シリンダスリーブ18a〜18cを容易に接合することができる。このため、肉厚の一層小さいシリンダブロック10を構成することができる。
【0069】
プローブ54を挿入または離脱させることに伴って形成された挿入穴または離脱穴は、ボルト穴21a〜21fのいずれかとして加工するようにすればよい。例えば、大径部36a〜36cとブロック本体16とを摩擦撹拌接合する際(図7参照)の挿入穴をボルト穴21a、離脱穴をボルト穴21eとなるようにすればよい。また、大径部36a、36b同士を摩擦撹拌接合する際(図9参照)の挿入穴をボルト穴21b、離脱穴をボルト穴21fとなるようにし、大径部36b、36c同士を摩擦撹拌接合する際の挿入穴をボルト穴21c、離脱穴をボルト穴21gとなるようにすればよい。これにより、プローブ54の挿入穴または離脱穴が残留することを回避することができる。
【0070】
なお、上記した実施の形態においては、シリンダスリーブ18a〜18cに環状段部38a〜38cを設けるとともに、シリンダスリーブ18bの環状段部38bの一部を露呈するようにしているが、図10に示すように、シリンダスリーブ18a〜18cに大径部36a〜36cのみを設け、該大径部36a〜36cの側周壁部同士を当接させるようにしてもよい。この場合においても、図11に拡大して示すように、大径部36a〜36cがブロック本体16の凹部30に載置・支持されているので、摩擦撹拌接合を容易に遂行することができる。
【0071】
また、シリンダスリーブ18a〜18cの内周壁部に膨出部44を設けることなく、シリンダスリーブ18a〜18cの外周壁部とボア穴22の内周壁部とを接合するようにしてもよい。この場合、図12に示すように、第1回転体60と、該第1回転体60の側周壁部に設けられて第1回転体60とは独立して回転可能な第2回転体62と、該第2回転体62の先端部に設けられたプローブ64とを有する摩擦撹拌接合用工具66を使用すればよい。第1回転体60および第2回転体62を同時に回転付勢することによって、シリンダスリーブ18a〜18cの外周壁部とボア穴22の内周壁部とを接合することができる。
【0072】
さらに、図13に示すように、ウォータジャケット部20に、シリンダスリーブ18a、18bの間、およびシリンダスリーブ18b、18cの間の連通路を設ける必要は特になく、シリンダスリーブ18a〜18cの外周壁部のみを冷却するようにしてもよい。
【0073】
さらにまた、図14および図15に示すように、シリンダスリーブ18a〜18cを載置する載置部として、ブロック本体16に設けられたジャーナル部70を使用してもよい。
【0074】
そして、シリンダスリーブ18a〜18cは、ハイシリコン系アルミニウムからなるものに特に限定されるものではない。例えば、その他のアルミニウム合金からなるものであってもよいし、アルミニウムからなるものであってもよい。別の好適な例としては、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなるシリンダスリーブや、MMCスリーブ等を挙げることができる。
【0075】
一方、ブロック本体16は、アルミニウムからなるものに限定されるものではなく、マグネシウムまたはマグネシウム合金等、他の素材からなるものであってもよい。
【0076】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックによれば、シリンダスリーブに大径部を設け、該大径部とブロック本体、および該大径部同士を接合するようにしている。このため、ウォータジャケット部をブロック本体とシリンダスリーブとの間、必要であればシリンダスリーブ同士の間に設けることができる。したがって、ウォータジャケット部をブロック本体の中空部として設ける必要がないので、シリンダボア同士の間や、ブロック本体における端部の各肉厚を小さくすることができる。換言すれば、体積が小さくかつ軽量の多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを構成することができる。
【0077】
しかも、この場合、シリンダスリーブを直接的に冷却媒体に接触させることができるので、シリンダスリーブを効率よく冷却することができる。
【0078】
また、本発明に係る多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造方法によれば、鋳造成形されたブロック本体にシリンダスリーブを挿入した後、該シリンダスリーブの大径部とブロック本体、および隣接するシリンダスリーブの大径部同士を摩擦撹拌接合にて接合するようにしている。したがって、ウォータジャケット部を設けるための崩壊性中子を使用する必要がないので、ブロック本体を容易に鋳造形成することができるとともに、多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造コストを低廉化することができる。
【0079】
その上、この製造方法では、各部材を継目なく接合することができる。換言すれば、各部材を一体的に接合することができるので、剛性に優れた多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係るシリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【図2】図1のシリンダブロックにおけるガスケット面側からの平面図である。
【図3】図1のシリンダブロックを構成するブロック本体の要部概略縦断面図である。
【図4】図3のブロック本体におけるガスケット面側からの平面図である。
【図5】外周壁部に大径部を有し、内周壁部に膨出部を有するシリンダスリーブの概略縦断面図である。
【図6】図5のシリンダスリーブの外周壁部をボア穴の内周壁部に摩擦撹拌接合にて接合する状態を示す要部概略縦断面図である。
【図7】大径部をブロック本体に接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向を説明するガスケット面側からの平面説明図である。
【図8】大径部とブロック本体とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図9】大径部同士を接合する際の摩擦撹拌接合用工具の変位方向を説明するガスケット面側からの平面説明図である。
【図10】別の実施の形態に係るシリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【図11】図10のシリンダブロックにおいて、大径部とブロック本体とを摩擦撹拌接合している状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図12】膨出部が設けられていないシリンダスリーブの外周壁部をボア穴の内周壁部に摩擦撹拌接合にて接合する状態を示す要部概略縦断面図である。
【図13】さらに別の実施の形態に係るシリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【図14】ジャーナル部にシリンダスリーブが載置されたシリンダブロックのガスケット面側側からの平面図である。
【図15】図14のXV−XV線矢視断面図である。
【図16】一般的な多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの要部概略縦断面図である。
【符号の説明】
1、20…ウォータジャケット部 2、12…ガスケット面
3、10…クローズドデッキ型シリンダブロック(シリンダブロック)
4、16…ブロック本体
5、14a〜14c…シリンダボア
6、18a〜18c…シリンダスリーブ
21a〜21h…ボルト穴
22…ボア穴 24a、24b…壁部
26a〜26c…環状段部 28…環状切欠部
30…凹部 36a〜36c…大径部
38a〜38c…環状段部 44…膨出部
46…テーパ面 50、66…摩擦撹拌接合用工具
52、60、62…回転体 54、64…プローブ
70…ジャーナル部
Claims (9)
- ブロック本体と、前記ブロック本体に設けられた複数個のシリンダボア内にそれぞれ挿入されて前記ブロック本体に接合されたシリンダスリーブと、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間に形成されたウォータジャケット部とを備え、前記ウォータジャケット部の前記ブロック本体におけるガスケット面側が閉塞されている多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックであって、
前記シリンダスリーブは、該シリンダスリーブの胴体部に比して直径が大きい大径部を一端部に有し、
前記大径部は、前記シリンダボアのガスケット面側開口部に設けられた大径部載置部に載置され、
前記シリンダスリーブの大径部が前記ブロック本体のガスケット面に接合されており、かつ前記シリンダスリーブの大径部同士が接合されていることを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロック。 - 請求項1記載の多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックにおいて、前記シリンダスリーブの外周壁部と前記シリンダボアの内周壁部とが互いに接合されていることを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロック。
- 請求項1または2記載の多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックにおいて、前記シリンダスリーブにおける前記大径部の下方に環状段部が設けられており、前記環状段部の側周壁部は、シリンダボアの内周壁部に当接していることを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロック。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックにおいて、前記シリンダスリーブは、前記シリンダボア内に設けられた載置部に載置されていることを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロック。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックにおいて、前記シリンダスリーブの大径部は、隣接するシリンダスリーブの大径部が切り欠かれて露呈した前記環状段部に載置されていることを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロック。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリンダブロックにおいて、ブロック本体と前記各シリンダスリーブの前記大径部、および前記大径部同士が継目なく接合されていることを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロック。
- ブロック本体に設けられたシリンダボアに、一端部に大径部が設けられたシリンダスリーブを挿入することによって、前記ブロック本体と前記シリンダスリーブとの間にウォータジャケット部を形成するとともに、前記ブロック本体のガスケット面側開口部に設けられた大径部載置部に前記大径部を載置する工程と、
前記シリンダスリーブの大径部と前記ブロック本体のガスケット面、および前記シリンダスリーブの大径部同士を摩擦撹拌接合にてそれぞれ接合し、前記ウォータジャケット部の前記ガスケット面側を封止する工程と、
を有することを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造方法。 - 請求項7記載の製造方法において、前記シリンダスリーブの外周壁部と前記シリンダボアの内周壁部とを摩擦撹拌接合にて互いに接合する工程をさらに有することを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造方法。
- 請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造方法において、前記シリンダボア内に載置部を設け、該シリンダボア内に前記シリンダスリーブを挿入した際に前記載置部に載置することを特徴とする多気筒クローズドデッキ型シリンダブロックの製造方法。
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