JP2004258278A - プラスチックレンズおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を塗布したプラスッチクレンズであって、基材の劣化がなく、密着性、耐擦傷性に優れた、さらには反射防止性を付与したプラスチックレンズおよびその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を被覆し、真空管型の電子線照射装置により照射線量を60kGy以下で電子線を照射して、硬化または架橋させてなるプラスチックレンズおよびその製造方法である。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明は、プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を被覆し、真空管型の電子線照射装置により照射線量を60kGy以下で電子線を照射して、硬化または架橋させてなるプラスチックレンズおよびその製造方法である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチックレンズに電子線硬化性樹脂組成物(ハードコート剤)を塗布し電子線照射することにより、耐擦傷性を付与してなるプラスチックレンズおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、プラスチックレンズは多方面に利用されるようになってきている。特に、眼鏡レンズにおいては、従来のガラスレンズに比べ、軽量、安全、カラーバリエーションが豊富であることから、今や、プラスチックレンズがその主流になっている。またプラスチックレンズ基材は、薄型化を図った高屈折率化が急速に進んでいる。屈折率が1.60以上の高屈折率樹脂材料、特にアリルカーボネート系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、チオウレタン系樹脂を材料とするプラスチックレンズは、加工性、耐熱性、耐衝撃性に優れ、レンズの厚さが薄く、外観上見栄えが良いので、特に広く用いられるようになってきた。しかし、その一方で、プラスチックレンズは、表面に傷が付き易いという欠点がある為に、シリコーン系の熱硬化型のハードコート剤を、プラスチックレンズ表面に設ける方法がとられている。このシリコーン系の熱硬化型のハードコート剤としては、金属酸化物のコロイド状分散体(ゾル)と有機珪素化合物であるシランカップリング剤を主成分としたもの等が挙げられる。金属酸化物のゾルは、主に耐摩耗性とハードコート剤の硬化物表面に形成する無機蒸着反射防止膜との密着性を付与し、また、シランカップリング剤は、主に耐摩耗性、金属酸化物粒子との結合機能およびレンズ基材との密着性を付与している(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。
【0003】
前述の熱硬化型のハードコート剤は、有機珪素化合物を含むコーティング液を比較的低温で硬化させるために必要な加水分解のためや、粘度をコントロールするために溶媒が必要であるが、これらの溶媒となる有機溶剤による環境や人体への影響が懸念される。また、硬化を促進させるために触媒が必要となるが、これらの存在によりコーティング液自体の反応による劣化も進めてしまい、液の管理が大変となる。
【0004】
熱による硬化の場合、硬化のスピードが遅く、硬化が完了するまでの間に異物の付着による不良が発生しやすい。硬化にかかる熱もしくは熱風により、塗膜の均一性が損なわれたり、レンズ自身が変形してしまうといった問題もある。また、長時間温度をコントロールするために費やられるエネルギーも膨大になる。
【0005】
さらに、電子線硬化型ハードコート剤をプラスチックレンズ基材に設け、電子線照射する方法も検討されている。電子線硬化型ハードコート剤ではレンズ基材との密着性、耐擦傷性が優れたレンズが得られる。しかし、電子線照射により、基材の黄変がみられることがあった。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−288412号公報
【0007】
【非特許文献1】
木村 博著 コンバーテック1996年3月号「UV硬化型シリコーンハー ドコート剤」
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、プラスチックレンズ基材の劣化、例えば黄変のないまたは少ないプラスチックレンズを提供することであり、さらにはプラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を形成する方法を提供することである。また、簡便かつ安価にして耐擦傷性に優れたプラスチックレンズを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、電子線の照射線量に着目し、60kGy以下で照射することにより、レンズ基材の劣化(黄変等)がなく、かつハードコート剤の密着性および耐擦傷性に優れたプラスチックレンズが得られることに基づくものである。
【0010】
第1の発明は、プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を被覆し、真空管型の電子線照射装置により照射線量を60kGy以下で電子線を照射して、硬化または架橋させてなることを特徴とするプラスチックレンズである。
【0011】
第2の発明は、真空管型の電子線照射装置により加速電圧130kV以下で、かつ照射線量を60kGy以下で電子線を照射してなることを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0012】
第3の発明は、該ハードコート剤の膜厚が0.1〜30μmであることを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0013】
第4の発明は、該ハードコート剤の電子線硬化物上に反射防止膜を設けてなることを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0014】
第5の発明は、該ハードコート剤が、シラノール基と反応可能な官能基およびエチレン性不飽和結合を有する化合物をシリカ粒子と反応せしめてなる電子線重合性化合物を用いてなることを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0015】
第6の発明は、該ハードコート剤が、さらに少なくとも1種のシランカップリング剤を含むことを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0016】
第7の発明は、該ハードコート剤が、屈折率1.60以上の酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化インジウム、酸化ハフニウム、酸化錫、酸化ニオブ のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0017】
第8の発明は、プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を被覆し、真空管型の電子線照射装置により照射線量を60kGy以下で電子線を照射して、硬化または架橋させることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法である。
【0018】
第9の発明は、真空管型の電子線照射装置で加速電圧130kV以下でかつ照射線量を60kGy以下で電子線を照射することを特徴とする上記のプラスチックレンズの製造方法である。
【0019】
第10の発明は、電子線の加速電圧が10〜80kVであることを特徴とする上記のプラスチックレンズの製造方法である。
【0020】
第11の発明は、照射線量が10〜50kGyであることを特徴とする上記のプラスチックレンズの製造方法である。
【0021】
なお、本発明では、「硬化または架橋」には改質をも意味する。
【0022】
本発明に係わるプラスチックレンズのハードコート剤は、通常透明プラスチックレンズ基材の表裏に、シリカ(微)粒子表面のシラノール基と反応可能な官能基および少なくとも1以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物を反応せしめてなる電子線重合性化合物(以下、(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物と称す)を主体とするハードコート材料が代表的に用いられる。これ以外のハードコート剤であってもよい。
【0023】
(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物は、硬化皮膜の耐擦傷性および反射防止膜の密着性を付与するものである。製造方法としては、例えば(メタ)アクリロイル基を有し、かつアルコキシシリル基(官能基)を有する化合物のアルコキシシリル基を加水分解した後、シリカ粒子表面に存在するシラノール基と反応せしめる方法が挙げられ、それら2成分は初めから混合して反応する方法(1段階反応)、アルコキシシリル基の加水分解後に、シリカ粒子を加えて反応する方法(2段階反応)のいずれを用いても構わない。なお、反応は一部でもよく、反応物だけの場合は勿論、反応物を含む混合物であってもよい。
【0024】
なお、シラノール基と反応可能な官能基としては、アルコキシシリル基、水酸基、イソシアネート基、アミノ基等が挙げられる。
【0025】
(メタ)アクリロイル基を有しかつアルコキシシリル基を有する化合物としては、具体的には、3ーメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM503,信越化学製)や3ーメタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(KBE503,信越化学製)等が挙げられるが、いずれも化合物中に(メタ)アクリロイル基とアルコキシシリル基を有するものであれば、化合物の中間の構造はどのようなものでも構わない。よって、反応物はシリカ粒子にエチレン性不飽和結合が付加した電子線硬化性を有するものであり、具体的には、GE東芝シリコーン社製のUVHC8553,8556,8558,1101,1103等が挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物は、プラスチックレンズのハードコート剤の組成物中に、組成物の全量を基準 として、20〜100重量%含有されることが必須である。好ましくは30〜95重量%、より好ましくは40〜80重量%である。20重量%よりも少ないと耐擦傷性が低下すると共に、反射防止膜の密着性が低下する。なお、(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物だけでは、硬化皮膜の基材レンズへの密着性が低下したり、または硬化時にクラックが発生する等の問題が生じる場合があるが、そのような場合には、エチレン性不飽和結合を有する他の電子線重合性化合物であるモノマー、オリゴマー、プレポリマー等を併用する。
【0027】
本発明に係わるハードコート剤には、その組成物の粘度の調整や硬化皮膜の柔軟性、硬化性を付与等の目的で、以下のような少なくとも1以上のエチレン性不飽和結合を有する他の電子線重合性化合物を適宜添加しても良い。具体的には脂肪族,脂環式 ,芳香族(メタ)アクリレートモノマー、アリル型モノマー、ビニル型モノマー、ポリウレタン,エポキシ ,ポリエステル等のオリゴマーの(メタ)アクリレート等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0028】
脂肪族単官能(メタ)アクリレートとしては、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート 等のアルキル(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ ジエレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート、( メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−置換アクリルアミド等が挙 げられる。
【0029】
脂肪族多官能(メタ)アクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド,プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクレート等のトリ(メタ)アクリレート 等が挙げられる。
【0030】
脂環式(メタ)アクリレートのうち、単官能のタイプとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、多官能のタイプとしては、ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
芳香族(メタ)アクリレートのうち、単官能のタイプとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベン ジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ )アクリレート等が挙げられ、多官能のタイプとしては、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
ビニル型モノマーとしては、スチレン、α―メチルスチレン、ジビニルベンゼン、N―ビニルピロリドン、 酢酸ビニル、N―ビニルホルムアミド、N―ビニル カプロラクタム、アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0033】
アリル型モノマーとしては、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0034】
ポリウレタン(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコール等のエーテルグリコールをジイソシアネートで鎖延長して、その両末端を(メタ)アクリレート化したポリエーテルウレタン(メタ)アクリレート、エーテルグリコールの代わりにポリエステルグリコールを用いたポリエステルウレタン(メタ)アクリレート、その他、カプロラクトンジオール,ポリカーボネートジオール等を用いたものが挙げられる。
【0035】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ノボラック型エポキシ樹脂 ,エポキシ化油型等のエポキシ基に(メタ)アクリル酸を反応せしめたものが挙げられる。
【0036】
ポリエステル(メタ)アクリレートは、多塩基酸と多価アルコールを重縮合せしめて、水酸基ないし、カルボキシル基を有するポリエステルを得、ついで該ポリエステル中の水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステル化し、あるいは該ポリエステル中のカルボキシル基と水酸基含有(メタ)アクリレートをエステル化する事により得られるものが挙げられる。
【0037】
上記オリゴマーにおいて構造の基本となる部分,例としてポリウレタン(メタ)アクリレートの場合にはジオール成分の種類は特に1種類に限定されるわけではなく、異種のものを混合しても良い。
【0038】
その他の(メタ)アクリレートの例としては、Si原子を含むものとして、ポリシロキサン変性(メタ)アクリレート、F原子を含むものとして、フッ素変性(メタ)アクリレート、ハロゲン原子を含むものとして、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラクロロビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ヒンダードアミン骨格を有する、ペンタメチルピペリジルメタアクリレート,テトラメチルピペリジルメタアクリレート、トリアジン骨格を含むものとして、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0039】
上記の(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物を基本組成とし、場合に応じて少なくとも1以上のエチレン性不飽和結合を有する他の活性エネルギー線重合性化合物を特定の比率にて混合したものであるが、その他の成分として、シランカップリング剤、シリカ(微)粒子、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、摩耗性付与剤、顔料、染料を、硬化皮膜の最終物性に影響しない範囲で加えることが出来る。
【0040】
シランカップリング剤は、反射防止層の密着性を更に向上させるために適宜加えることができ、例えば、以下のようなものを使用できる。
(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン類:3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジ メトキシシランなど。
アミノ基含有シラン類:3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、 N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、 N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3− ウレイドプロピ ルトリエトキシシラン、N−(N−ビニルベンジル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなど。
メルカプト基含有シラン類:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、 3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメ チルジエトキシシランなど。
エポキシ基含有シラン類:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなど。
イソシアネート基含有シラン類:3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネ ートプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチル ジエトキシシランなど。
上記のようなシランカプッリング剤が挙げられ、特にエポキシ基含有シランカップリング剤が好ましい。
シランカップリング剤は組成物中に、組成物の全量を基準として、0〜5重量%含有されることが好ましい。5重量%よりも多いと、硬化皮膜の耐擦傷性が劣る。
【0041】
シリカ粒子は、エチレン性不飽和結合を有しない非硬化性のシリカ粒子であり、硬化皮膜の硬化収縮を低減し、プラスチックレンズ基材への密着性を付与するために適宜加えることができる。シリカ粒子の粒径は、通常0.001〜5μmであるが、硬化皮膜の透明性や平滑性の点から、0.005〜0.1μm、特に0.01〜0.05μmであることが好ましい。シリカ粒子は、ハードコート剤に、0〜15重量%、好ましくは1〜10重量%含有される。
【0042】
屈折率が1.60以上の高屈折率金属酸化物は、例えばTiO2(屈折率2.3〜2.7)、ZnO(屈折 率1.90)ZrO2(屈折率2.05)、CeO2(屈折率1.95)、Sb2O5(屈折率1.71)、SnO2、ITO (屈折率1.95)、Y2O3(屈折率1.87)、La2O3 (屈折率1.95)、Al2O3(屈折率1.63)いずれか1種または2種以上の選ばれたものを添加した樹脂組成物を塗布することにより、耐擦傷性および反射防止性を付与したハードコート層を形成することができる。超微粒子の粒子径(BET法)は、0.01〜0.30μmの範囲が好ましい。なお、通常、反射防止層は、高屈折率層と低屈折率層とを積層して形成される。ハードーコート層に反射防止能を有するものを添加することにより、反射防止層の1層を兼用することができる。
【0043】
本発明における硬化皮膜は、活性エネルギー重合性化合物が高度に架橋した塗膜であるため、その内部歪みの大きさから、経時で塗膜にワレ、ヒビが入ってしまう場合があり、硬化皮膜の安定性向上の目的から、紫外線吸収剤、光安定剤の添加は有効である。
【0044】
紫外線吸収剤としては、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等の有機系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0045】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、1−(メチル)−8−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−[[3,5−ビス1,1−ジメチルエチル ]−4−ヒドロキシフェニル]メチル−ブチルマロネート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物等が挙げられる。
【0046】
これらの紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤(HALS)は、組成物中に任意の量で添加されても良いが、コスト面から組成物の全量を基準として0.5〜5重量%の範囲で添加されることが好ましい。また、HALSはその塩基性が高い場合、レンズ基材との密着性を阻害するため、組成物の全量を基準として0.1〜1重量%の範囲で添加されることが好ましい。
【0047】
更にアミンの構造としては3級アミンであることが好ましい。
【0048】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が挙げられる。
【0049】
レベリング剤、消泡剤としてはシリコーン系、アクリルポリマー系など公知のものが使用でき、特に限定はされないが、アクリルポリマー系の方が、密着性の点から好ましい。
【0050】
摩耗性付与剤としては、シリカ、アルミナ、微粒子酸化チタン、沈降性硫酸バリウム等の無機化合物が使用できる。
【0051】
次に、本発明の硬化皮膜の形成方法について説明する。
【0052】
本発明における硬化皮膜の厚みは0.01〜30μm 、好ましくは0.1〜30μm、更に好ましくは0.1〜5μmである。0.01μmより薄い場合、基材の耐擦傷性が低下し、30μmよりも厚いと基材の変形等が起こりやすい。
【0053】
硬化皮膜の形成は上記組成物を公知の方法で、基材上に塗布した後、電子線を照射、硬化せしめることにより行うことができる。組成物の塗布方式としては、ディッピング方式、ダイコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、ロールコート方式、スピンコート方式、ナイフコート方式、スロットオリフィス方式、スプレーコート方式等が挙げられる。この場合、数回に分けて塗布しても良く、また異なる方式を複数組み合わせても良い。
【0054】
本発明における硬化皮膜上に設けられる反射防止層について説明する。
反射防止層の形成は、既存公知の技術を用いて行うことが出来る。例えば無機酸化物よりなる蒸着膜を多層形成する方法が挙げられる。蒸着膜を形成する方法としては、真空蒸着法、真空スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法等、従来公知の方法が使用できる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0055】
無機酸化物としては金属、非金属、亜金属の酸化物であり、具体例としては、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化カドミウム、酸化銀、酸化金、酸化クロム、酸化珪素、酸化コバルト、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化白金、酸化パラジウム、酸化ビスマス、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化バリウム等が挙げられる。
反射防止層としては、酸化珪素と酸化ジルコニウムを交互に積層し、多層化したものが特に好ましい。なお、無機酸化物には、微量の金属、非金属、亜金属単体やそれらの水酸化物、また可撓性を向上させるために適宜炭素またはフッ素が含まれていてもよい。
【0056】
本発明は、プラスチックレンズのハードコート剤を電子線により硬化することを特徴とする。なお、従来から塗料 、印刷インキ、接着剤等の被覆剤の硬化方法として電子線硬化が提案されている。電子線硬化は、真空中で電子を電圧(電場)にて加速し、この加速された電子を空気中または窒素ガス等の不活性ガス中の常圧雰囲気中に取り出し、被照射体に対して電子線(EB)を照射する方法であり、加速電圧は通常150kV〜1MVである。電子線照射による硬化の利点としては、次の点が挙げられる。▲1▼希釈剤として有機溶剤を含有させる必要がないので環境に優しい。▲2▼硬化速度が速い(生産性大)。▲3▼熱乾燥よりも硬化作業面積が少なくてすむ。▲4▼基材に熱がかからない(熱に弱いものにも適用可能)。▲5▼後加工がすぐできる(冷却、エージング等が不要である)。▲6▼電気的作業条件を管理すればよいから、熱乾燥の際の温度管理よりも管理しやすい。▲7▼開始剤、増感剤がなくてもよいので、これらの悪影響がないものができる(品質の向上)。
【0057】
しかし、従来の電子線硬化では、照射線量が80〜500kGy(キログレイ)のため、基材の劣化(黄変)をきたすなどの悪影響が見られた。本発明では60kGy以下のため、基材の劣化は、ないかほとんど見られない。
【0058】
また、加速電圧が150kV〜1MVであると、X線が発生し、装置に大掛かりなシールドを設ける必要がある。このような高エネルギーの電子線を用いる場合には、オゾン発生によ る作業環境への悪影響が懸念されている。さらに、酸素ラジカルの発生に起因して、被覆剤表面において反応が阻害されるため、窒素等の不活性ガスによるイナーティングを行なうことが望ましい。
【0059】
さらに、高加速電圧による電子線は到達深度が深いため、プラスチックレンズの基材を劣化せることがある。例えば、分子間結合の切断に起因する崩壊が比較的低線量で生じ、特に耐折強度の低下は照射線量が10kGy(キログレイ)以下でも現れることが知られており、問題となりがちである。特に、基材に塗装された厚さ0.1〜30μmの被覆剤においては、その厚さが薄かった場合に基材の劣化が問題となりやすい。
【0060】
このため、加速電圧が低く、装置の小形化を図ることができる低エネルギー電子線照射装置および方法が期待されている。このような要望に応えるべく、低加速電圧で電子線照射する装置および方法が検討されており、例えば、特開平5−77862号公報には、低加速電圧で電子線照射する例として、200kV、300kGyで照射を行う方法が記載されている。しかしながら、この公報に示された照射方法でも、加速電圧の低下が十分とはいえず、基材の劣化が生じるおそれがあり、その劣化により光学的な性能値に影響を与える。
【0061】
従って、本発明では、作業環境への悪影響が少なく、基材劣化の問題の少ない、基材に施された厚さ0.01〜30μmのプラスチックレンズのハードコート剤を硬化させる手段を提供する。
【0062】
本発明では、プラスチックレンズの表面に施された厚さ0.1〜30μmのハードコート剤を電子線照射により硬化させるにあたり、加速電圧を130kV以下、好ましくは100kV以下、より好ましくは10〜80kV、さらには20〜60kVで電子線を照射する。
【0063】
また、電子線照射による基材への劣化に関しては、照射線量の影響も大きく、特にプラスチック等の有機物基材の黄変を防ぐためには、ハードコート剤等のコーティング剤硬化させるのにあたり、照射線量を60kGy以下にすることが望ましく、好ましくは、50kGy以下、より好ましくは10〜50kGy、さらには、20〜40kGyで電子線を照射することが好ましい。
【0064】
さらに、加速電圧も基材劣化(特に、プラスチック等の黄変)に影響をするため、加速電圧および照射線量を同時に上記数値にすることが好ましい。すなわち、加速電圧130kV以下かつ照射線量60kGy以下がより好ましく、さらに、加速電圧100kV以下かつ照射線量60kGy以下が好ましく、さらに、加速電圧10〜80kVかつ照射線量60kGy以下が好ましく、さらには、加速電圧20〜60kVかつ照射線量60kGy以下が好ましい。
【0065】
また、照射線量が50kGy以下の場合には、加速電圧が130kV以下が好ましく、さらに、加速電圧10〜80kVが好ましく、さらには、加速電圧20〜80kVが好ましい。
【0066】
また、照射線量が10〜50kGyの場合には、加速電圧が130kV以下が好ましく、さらに、加速電圧10〜80kVが好ましく、さらには、加速電圧20〜80kVが好ましい。
【0067】
さらに、照射線量が20〜40kGyの場合には、加速電圧が130kV以下が好ましく、さらに、加速電圧10〜80kVが好ましく、さらには、加速電圧20〜80kVが好ましい。
【0068】
電子線照射装置としては、真空管型電子線照射装置が望ましく、円筒状をなすガラスまたはセラミック製の真空容器と、その容器内に設けられ、陰極から放出された電子を電子線として取り出して加速する電子線発生部と、真空容器の端部に設けられ、電子線を射出する電子線射出部と、給電部より給電するためのピン部とを少なくとも有する。電子線射出部には薄膜状の照射窓が設けられている。この照射窓は、ガスは透過せず、電子線を透過する機能を有している。この真空管型電子線照射装置は、従来のドラム型の電子線照射装置のごとく、電子線発生部であるドラム内を常に真空引きしながら電子線を照射するタイプの装置と異なり、電子線発生部を真空引きする必要がないため、小型で、設置面積をとらず、さらにX線遮蔽の設備も比較的簡易なものとすることができる。またイナーテイングを通常行うが、酸素濃度が従来の装置に比べ、高めであっても照射処理が可能なことが多い。
【0069】
なお、真空管型電子線照射装置としては、通常、円柱状の形状を有する照射管を用いるものであり、たとえば、1本ないし複数本の照射管を用いた装置である。以上のような照射管を有する装置は、米国特許第5,414,267号に開示されている装置が知られている。
【0070】
本発明者らは、このような低加速電圧での電子線照射が可能な装置を用いて、プラスチックレンズの表面に施されたハードコート剤を硬化させるための条件を検討した結果、被覆剤の厚さが0.1〜30μmの通常用いられる範囲においては、130kV、好ましくは120kV以下、より好ましくは100kV以下の低加速電圧でハードコート剤を十分に硬化または架橋させることが可能であり、かつこのような加速電圧では基材の劣化が生じない。また、加速電圧だけでなく、同時にまたは、照射線量も60kGy以下にすることが望ましく、好ましくは、50kGy以下、より好ましくは10〜50kGy、さらには、20〜40kGyの照射線量で、ハードコート剤を十分に硬化または架橋させることが可能であり、かつこのような照射線量では、基材の劣化(特に黄変)が生じない。
【0071】
この場合、より好ましくは、被覆剤の厚さを0.1〜10μmに設定し、加速電圧を10 〜60kVの範囲に設定しておよび/または、照射線量を60kGy以下に設定して、ハードコート剤を硬化または架橋させる。プラスチックレンズのハードコート剤の厚さおよび加速電圧さらに照射線量をこのような範囲に設定することにより、特に良好な硬化状態を得ることが可能となった。
【0072】
【実施例】以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。ただし、本発明の範囲する。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例により何等限定されるものではない。例中、%とは、重量%を表す。
実施例1〜5
厚さ2mm、屈折率1.67のプラスチックレンズ(5枚)を用意した。下記配合からなる電子線硬化性ハードコート剤を前記プラスチックレンズの凸面にスピンコート法にてそれぞれ5μm/dryとなるように塗布し、真空管型の電子線照射装置であるMin−EB装置(東洋インキ製造)を用いて、窒素ガス雰囲気下で、電子線を50kVで、照射線量を変えて、それぞれに30、40、50、60kGy照射して硬化させた。その後凹面についても同様の操作を行い、硬化皮膜を形成させた。
【0073】
ついで硬化皮膜上に酸化ケイ素、および酸化ジルコニウムをEB(電子銃)加熱を蒸発エネルギー源とする真空蒸着装置を用いて真空蒸着し、反射防止層を形成した。
【0074】
比較例1
実施例1と同様に作成したプラスチックレンズのハードコート剤を、窒素ガス雰囲気下で、電子線を150kVで200kGy照射し、塗膜を硬化し、さらに実施例1と同様に反射防止層を形成した。
比較例2
実施例1と同様に作成したプラスチックレンズのハードコート剤を、窒素ガス雰囲気下で、電子線を200kVで300kGy照射し、塗膜を硬化し、さらに実施例1と同様に反射防止層を形成した。
比較例3
実施例1と同様に作成したプラスチックレンズのハードコート剤を、実施例1と同じ電子線照射装置で窒素ガス雰囲気下で、電子線を50kVで70kGy照射し、塗膜を硬化し、さらに実施例1と同様に反射防止層を形成した。
比較例4
実施例1と同様に作成したプラスチックレンズのハードコート剤を、実施例1と同じ電子線照射装置で窒素ガス雰囲気下で、電子線を50kVで80kGy照射し、塗膜を硬化し、さらに実施例1と同様に反射防止層を形成した。
【0075】
「ハードコート剤処理されたプラスチックレンズの評価」作成したプラスチックレンズについて、以下の項目の性能評価を行った。また、得られたプラスチックレンズの密着性、耐擦傷性、黄変性の評価結果を表1に示す。
「密着性」:60℃―100%RH下、1000時間保管後、碁盤目剥離試験をJIS K5400に従って行った。
(評価基準)テープ剥離時の硬化皮膜または反射防止層の残存率を記載した。
「耐擦傷性」:所定のバーの先端にスチールウール#0000を取り付け、1kg/cm2の荷重をかけて、20回数往復摩擦したときの塗布面を、目視で評価した。
【0076】
(評価基準) ○: 全く傷が入らない。
【0077】
△: 僅かに傷が入る。
【0078】
×: 顕著に傷が目立つ。
【0079】
「黄変性」:未塗布の基材と塗布硬化後の基材の色差を測定し、その両者のb値の差を△bとした。
【0080】
【表1】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチックレンズに電子線硬化性樹脂組成物(ハードコート剤)を塗布し電子線照射することにより、耐擦傷性を付与してなるプラスチックレンズおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、プラスチックレンズは多方面に利用されるようになってきている。特に、眼鏡レンズにおいては、従来のガラスレンズに比べ、軽量、安全、カラーバリエーションが豊富であることから、今や、プラスチックレンズがその主流になっている。またプラスチックレンズ基材は、薄型化を図った高屈折率化が急速に進んでいる。屈折率が1.60以上の高屈折率樹脂材料、特にアリルカーボネート系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、チオウレタン系樹脂を材料とするプラスチックレンズは、加工性、耐熱性、耐衝撃性に優れ、レンズの厚さが薄く、外観上見栄えが良いので、特に広く用いられるようになってきた。しかし、その一方で、プラスチックレンズは、表面に傷が付き易いという欠点がある為に、シリコーン系の熱硬化型のハードコート剤を、プラスチックレンズ表面に設ける方法がとられている。このシリコーン系の熱硬化型のハードコート剤としては、金属酸化物のコロイド状分散体(ゾル)と有機珪素化合物であるシランカップリング剤を主成分としたもの等が挙げられる。金属酸化物のゾルは、主に耐摩耗性とハードコート剤の硬化物表面に形成する無機蒸着反射防止膜との密着性を付与し、また、シランカップリング剤は、主に耐摩耗性、金属酸化物粒子との結合機能およびレンズ基材との密着性を付与している(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。
【0003】
前述の熱硬化型のハードコート剤は、有機珪素化合物を含むコーティング液を比較的低温で硬化させるために必要な加水分解のためや、粘度をコントロールするために溶媒が必要であるが、これらの溶媒となる有機溶剤による環境や人体への影響が懸念される。また、硬化を促進させるために触媒が必要となるが、これらの存在によりコーティング液自体の反応による劣化も進めてしまい、液の管理が大変となる。
【0004】
熱による硬化の場合、硬化のスピードが遅く、硬化が完了するまでの間に異物の付着による不良が発生しやすい。硬化にかかる熱もしくは熱風により、塗膜の均一性が損なわれたり、レンズ自身が変形してしまうといった問題もある。また、長時間温度をコントロールするために費やられるエネルギーも膨大になる。
【0005】
さらに、電子線硬化型ハードコート剤をプラスチックレンズ基材に設け、電子線照射する方法も検討されている。電子線硬化型ハードコート剤ではレンズ基材との密着性、耐擦傷性が優れたレンズが得られる。しかし、電子線照射により、基材の黄変がみられることがあった。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−288412号公報
【0007】
【非特許文献1】
木村 博著 コンバーテック1996年3月号「UV硬化型シリコーンハー ドコート剤」
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、プラスチックレンズ基材の劣化、例えば黄変のないまたは少ないプラスチックレンズを提供することであり、さらにはプラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を形成する方法を提供することである。また、簡便かつ安価にして耐擦傷性に優れたプラスチックレンズを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、電子線の照射線量に着目し、60kGy以下で照射することにより、レンズ基材の劣化(黄変等)がなく、かつハードコート剤の密着性および耐擦傷性に優れたプラスチックレンズが得られることに基づくものである。
【0010】
第1の発明は、プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を被覆し、真空管型の電子線照射装置により照射線量を60kGy以下で電子線を照射して、硬化または架橋させてなることを特徴とするプラスチックレンズである。
【0011】
第2の発明は、真空管型の電子線照射装置により加速電圧130kV以下で、かつ照射線量を60kGy以下で電子線を照射してなることを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0012】
第3の発明は、該ハードコート剤の膜厚が0.1〜30μmであることを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0013】
第4の発明は、該ハードコート剤の電子線硬化物上に反射防止膜を設けてなることを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0014】
第5の発明は、該ハードコート剤が、シラノール基と反応可能な官能基およびエチレン性不飽和結合を有する化合物をシリカ粒子と反応せしめてなる電子線重合性化合物を用いてなることを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0015】
第6の発明は、該ハードコート剤が、さらに少なくとも1種のシランカップリング剤を含むことを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0016】
第7の発明は、該ハードコート剤が、屈折率1.60以上の酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化インジウム、酸化ハフニウム、酸化錫、酸化ニオブ のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする上記のプラスチックレンズである。
【0017】
第8の発明は、プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を被覆し、真空管型の電子線照射装置により照射線量を60kGy以下で電子線を照射して、硬化または架橋させることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法である。
【0018】
第9の発明は、真空管型の電子線照射装置で加速電圧130kV以下でかつ照射線量を60kGy以下で電子線を照射することを特徴とする上記のプラスチックレンズの製造方法である。
【0019】
第10の発明は、電子線の加速電圧が10〜80kVであることを特徴とする上記のプラスチックレンズの製造方法である。
【0020】
第11の発明は、照射線量が10〜50kGyであることを特徴とする上記のプラスチックレンズの製造方法である。
【0021】
なお、本発明では、「硬化または架橋」には改質をも意味する。
【0022】
本発明に係わるプラスチックレンズのハードコート剤は、通常透明プラスチックレンズ基材の表裏に、シリカ(微)粒子表面のシラノール基と反応可能な官能基および少なくとも1以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物を反応せしめてなる電子線重合性化合物(以下、(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物と称す)を主体とするハードコート材料が代表的に用いられる。これ以外のハードコート剤であってもよい。
【0023】
(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物は、硬化皮膜の耐擦傷性および反射防止膜の密着性を付与するものである。製造方法としては、例えば(メタ)アクリロイル基を有し、かつアルコキシシリル基(官能基)を有する化合物のアルコキシシリル基を加水分解した後、シリカ粒子表面に存在するシラノール基と反応せしめる方法が挙げられ、それら2成分は初めから混合して反応する方法(1段階反応)、アルコキシシリル基の加水分解後に、シリカ粒子を加えて反応する方法(2段階反応)のいずれを用いても構わない。なお、反応は一部でもよく、反応物だけの場合は勿論、反応物を含む混合物であってもよい。
【0024】
なお、シラノール基と反応可能な官能基としては、アルコキシシリル基、水酸基、イソシアネート基、アミノ基等が挙げられる。
【0025】
(メタ)アクリロイル基を有しかつアルコキシシリル基を有する化合物としては、具体的には、3ーメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM503,信越化学製)や3ーメタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(KBE503,信越化学製)等が挙げられるが、いずれも化合物中に(メタ)アクリロイル基とアルコキシシリル基を有するものであれば、化合物の中間の構造はどのようなものでも構わない。よって、反応物はシリカ粒子にエチレン性不飽和結合が付加した電子線硬化性を有するものであり、具体的には、GE東芝シリコーン社製のUVHC8553,8556,8558,1101,1103等が挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物は、プラスチックレンズのハードコート剤の組成物中に、組成物の全量を基準 として、20〜100重量%含有されることが必須である。好ましくは30〜95重量%、より好ましくは40〜80重量%である。20重量%よりも少ないと耐擦傷性が低下すると共に、反射防止膜の密着性が低下する。なお、(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物だけでは、硬化皮膜の基材レンズへの密着性が低下したり、または硬化時にクラックが発生する等の問題が生じる場合があるが、そのような場合には、エチレン性不飽和結合を有する他の電子線重合性化合物であるモノマー、オリゴマー、プレポリマー等を併用する。
【0027】
本発明に係わるハードコート剤には、その組成物の粘度の調整や硬化皮膜の柔軟性、硬化性を付与等の目的で、以下のような少なくとも1以上のエチレン性不飽和結合を有する他の電子線重合性化合物を適宜添加しても良い。具体的には脂肪族,脂環式 ,芳香族(メタ)アクリレートモノマー、アリル型モノマー、ビニル型モノマー、ポリウレタン,エポキシ ,ポリエステル等のオリゴマーの(メタ)アクリレート等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0028】
脂肪族単官能(メタ)アクリレートとしては、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート 等のアルキル(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ ジエレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート、( メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−置換アクリルアミド等が挙 げられる。
【0029】
脂肪族多官能(メタ)アクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド,プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクレート等のトリ(メタ)アクリレート 等が挙げられる。
【0030】
脂環式(メタ)アクリレートのうち、単官能のタイプとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、多官能のタイプとしては、ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
芳香族(メタ)アクリレートのうち、単官能のタイプとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベン ジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ )アクリレート等が挙げられ、多官能のタイプとしては、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
ビニル型モノマーとしては、スチレン、α―メチルスチレン、ジビニルベンゼン、N―ビニルピロリドン、 酢酸ビニル、N―ビニルホルムアミド、N―ビニル カプロラクタム、アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0033】
アリル型モノマーとしては、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0034】
ポリウレタン(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコール等のエーテルグリコールをジイソシアネートで鎖延長して、その両末端を(メタ)アクリレート化したポリエーテルウレタン(メタ)アクリレート、エーテルグリコールの代わりにポリエステルグリコールを用いたポリエステルウレタン(メタ)アクリレート、その他、カプロラクトンジオール,ポリカーボネートジオール等を用いたものが挙げられる。
【0035】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ノボラック型エポキシ樹脂 ,エポキシ化油型等のエポキシ基に(メタ)アクリル酸を反応せしめたものが挙げられる。
【0036】
ポリエステル(メタ)アクリレートは、多塩基酸と多価アルコールを重縮合せしめて、水酸基ないし、カルボキシル基を有するポリエステルを得、ついで該ポリエステル中の水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステル化し、あるいは該ポリエステル中のカルボキシル基と水酸基含有(メタ)アクリレートをエステル化する事により得られるものが挙げられる。
【0037】
上記オリゴマーにおいて構造の基本となる部分,例としてポリウレタン(メタ)アクリレートの場合にはジオール成分の種類は特に1種類に限定されるわけではなく、異種のものを混合しても良い。
【0038】
その他の(メタ)アクリレートの例としては、Si原子を含むものとして、ポリシロキサン変性(メタ)アクリレート、F原子を含むものとして、フッ素変性(メタ)アクリレート、ハロゲン原子を含むものとして、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラクロロビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ヒンダードアミン骨格を有する、ペンタメチルピペリジルメタアクリレート,テトラメチルピペリジルメタアクリレート、トリアジン骨格を含むものとして、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0039】
上記の(メタ)アクリルシラン変性シリカ化合物を基本組成とし、場合に応じて少なくとも1以上のエチレン性不飽和結合を有する他の活性エネルギー線重合性化合物を特定の比率にて混合したものであるが、その他の成分として、シランカップリング剤、シリカ(微)粒子、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、摩耗性付与剤、顔料、染料を、硬化皮膜の最終物性に影響しない範囲で加えることが出来る。
【0040】
シランカップリング剤は、反射防止層の密着性を更に向上させるために適宜加えることができ、例えば、以下のようなものを使用できる。
(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン類:3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジ メトキシシランなど。
アミノ基含有シラン類:3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、 N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、 N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3− ウレイドプロピ ルトリエトキシシラン、N−(N−ビニルベンジル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなど。
メルカプト基含有シラン類:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、 3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメ チルジエトキシシランなど。
エポキシ基含有シラン類:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなど。
イソシアネート基含有シラン類:3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネ ートプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチル ジエトキシシランなど。
上記のようなシランカプッリング剤が挙げられ、特にエポキシ基含有シランカップリング剤が好ましい。
シランカップリング剤は組成物中に、組成物の全量を基準として、0〜5重量%含有されることが好ましい。5重量%よりも多いと、硬化皮膜の耐擦傷性が劣る。
【0041】
シリカ粒子は、エチレン性不飽和結合を有しない非硬化性のシリカ粒子であり、硬化皮膜の硬化収縮を低減し、プラスチックレンズ基材への密着性を付与するために適宜加えることができる。シリカ粒子の粒径は、通常0.001〜5μmであるが、硬化皮膜の透明性や平滑性の点から、0.005〜0.1μm、特に0.01〜0.05μmであることが好ましい。シリカ粒子は、ハードコート剤に、0〜15重量%、好ましくは1〜10重量%含有される。
【0042】
屈折率が1.60以上の高屈折率金属酸化物は、例えばTiO2(屈折率2.3〜2.7)、ZnO(屈折 率1.90)ZrO2(屈折率2.05)、CeO2(屈折率1.95)、Sb2O5(屈折率1.71)、SnO2、ITO (屈折率1.95)、Y2O3(屈折率1.87)、La2O3 (屈折率1.95)、Al2O3(屈折率1.63)いずれか1種または2種以上の選ばれたものを添加した樹脂組成物を塗布することにより、耐擦傷性および反射防止性を付与したハードコート層を形成することができる。超微粒子の粒子径(BET法)は、0.01〜0.30μmの範囲が好ましい。なお、通常、反射防止層は、高屈折率層と低屈折率層とを積層して形成される。ハードーコート層に反射防止能を有するものを添加することにより、反射防止層の1層を兼用することができる。
【0043】
本発明における硬化皮膜は、活性エネルギー重合性化合物が高度に架橋した塗膜であるため、その内部歪みの大きさから、経時で塗膜にワレ、ヒビが入ってしまう場合があり、硬化皮膜の安定性向上の目的から、紫外線吸収剤、光安定剤の添加は有効である。
【0044】
紫外線吸収剤としては、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等の有機系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0045】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、1−(メチル)−8−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−[[3,5−ビス1,1−ジメチルエチル ]−4−ヒドロキシフェニル]メチル−ブチルマロネート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物等が挙げられる。
【0046】
これらの紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤(HALS)は、組成物中に任意の量で添加されても良いが、コスト面から組成物の全量を基準として0.5〜5重量%の範囲で添加されることが好ましい。また、HALSはその塩基性が高い場合、レンズ基材との密着性を阻害するため、組成物の全量を基準として0.1〜1重量%の範囲で添加されることが好ましい。
【0047】
更にアミンの構造としては3級アミンであることが好ましい。
【0048】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が挙げられる。
【0049】
レベリング剤、消泡剤としてはシリコーン系、アクリルポリマー系など公知のものが使用でき、特に限定はされないが、アクリルポリマー系の方が、密着性の点から好ましい。
【0050】
摩耗性付与剤としては、シリカ、アルミナ、微粒子酸化チタン、沈降性硫酸バリウム等の無機化合物が使用できる。
【0051】
次に、本発明の硬化皮膜の形成方法について説明する。
【0052】
本発明における硬化皮膜の厚みは0.01〜30μm 、好ましくは0.1〜30μm、更に好ましくは0.1〜5μmである。0.01μmより薄い場合、基材の耐擦傷性が低下し、30μmよりも厚いと基材の変形等が起こりやすい。
【0053】
硬化皮膜の形成は上記組成物を公知の方法で、基材上に塗布した後、電子線を照射、硬化せしめることにより行うことができる。組成物の塗布方式としては、ディッピング方式、ダイコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、ロールコート方式、スピンコート方式、ナイフコート方式、スロットオリフィス方式、スプレーコート方式等が挙げられる。この場合、数回に分けて塗布しても良く、また異なる方式を複数組み合わせても良い。
【0054】
本発明における硬化皮膜上に設けられる反射防止層について説明する。
反射防止層の形成は、既存公知の技術を用いて行うことが出来る。例えば無機酸化物よりなる蒸着膜を多層形成する方法が挙げられる。蒸着膜を形成する方法としては、真空蒸着法、真空スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法等、従来公知の方法が使用できる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0055】
無機酸化物としては金属、非金属、亜金属の酸化物であり、具体例としては、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化カドミウム、酸化銀、酸化金、酸化クロム、酸化珪素、酸化コバルト、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化白金、酸化パラジウム、酸化ビスマス、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化バリウム等が挙げられる。
反射防止層としては、酸化珪素と酸化ジルコニウムを交互に積層し、多層化したものが特に好ましい。なお、無機酸化物には、微量の金属、非金属、亜金属単体やそれらの水酸化物、また可撓性を向上させるために適宜炭素またはフッ素が含まれていてもよい。
【0056】
本発明は、プラスチックレンズのハードコート剤を電子線により硬化することを特徴とする。なお、従来から塗料 、印刷インキ、接着剤等の被覆剤の硬化方法として電子線硬化が提案されている。電子線硬化は、真空中で電子を電圧(電場)にて加速し、この加速された電子を空気中または窒素ガス等の不活性ガス中の常圧雰囲気中に取り出し、被照射体に対して電子線(EB)を照射する方法であり、加速電圧は通常150kV〜1MVである。電子線照射による硬化の利点としては、次の点が挙げられる。▲1▼希釈剤として有機溶剤を含有させる必要がないので環境に優しい。▲2▼硬化速度が速い(生産性大)。▲3▼熱乾燥よりも硬化作業面積が少なくてすむ。▲4▼基材に熱がかからない(熱に弱いものにも適用可能)。▲5▼後加工がすぐできる(冷却、エージング等が不要である)。▲6▼電気的作業条件を管理すればよいから、熱乾燥の際の温度管理よりも管理しやすい。▲7▼開始剤、増感剤がなくてもよいので、これらの悪影響がないものができる(品質の向上)。
【0057】
しかし、従来の電子線硬化では、照射線量が80〜500kGy(キログレイ)のため、基材の劣化(黄変)をきたすなどの悪影響が見られた。本発明では60kGy以下のため、基材の劣化は、ないかほとんど見られない。
【0058】
また、加速電圧が150kV〜1MVであると、X線が発生し、装置に大掛かりなシールドを設ける必要がある。このような高エネルギーの電子線を用いる場合には、オゾン発生によ る作業環境への悪影響が懸念されている。さらに、酸素ラジカルの発生に起因して、被覆剤表面において反応が阻害されるため、窒素等の不活性ガスによるイナーティングを行なうことが望ましい。
【0059】
さらに、高加速電圧による電子線は到達深度が深いため、プラスチックレンズの基材を劣化せることがある。例えば、分子間結合の切断に起因する崩壊が比較的低線量で生じ、特に耐折強度の低下は照射線量が10kGy(キログレイ)以下でも現れることが知られており、問題となりがちである。特に、基材に塗装された厚さ0.1〜30μmの被覆剤においては、その厚さが薄かった場合に基材の劣化が問題となりやすい。
【0060】
このため、加速電圧が低く、装置の小形化を図ることができる低エネルギー電子線照射装置および方法が期待されている。このような要望に応えるべく、低加速電圧で電子線照射する装置および方法が検討されており、例えば、特開平5−77862号公報には、低加速電圧で電子線照射する例として、200kV、300kGyで照射を行う方法が記載されている。しかしながら、この公報に示された照射方法でも、加速電圧の低下が十分とはいえず、基材の劣化が生じるおそれがあり、その劣化により光学的な性能値に影響を与える。
【0061】
従って、本発明では、作業環境への悪影響が少なく、基材劣化の問題の少ない、基材に施された厚さ0.01〜30μmのプラスチックレンズのハードコート剤を硬化させる手段を提供する。
【0062】
本発明では、プラスチックレンズの表面に施された厚さ0.1〜30μmのハードコート剤を電子線照射により硬化させるにあたり、加速電圧を130kV以下、好ましくは100kV以下、より好ましくは10〜80kV、さらには20〜60kVで電子線を照射する。
【0063】
また、電子線照射による基材への劣化に関しては、照射線量の影響も大きく、特にプラスチック等の有機物基材の黄変を防ぐためには、ハードコート剤等のコーティング剤硬化させるのにあたり、照射線量を60kGy以下にすることが望ましく、好ましくは、50kGy以下、より好ましくは10〜50kGy、さらには、20〜40kGyで電子線を照射することが好ましい。
【0064】
さらに、加速電圧も基材劣化(特に、プラスチック等の黄変)に影響をするため、加速電圧および照射線量を同時に上記数値にすることが好ましい。すなわち、加速電圧130kV以下かつ照射線量60kGy以下がより好ましく、さらに、加速電圧100kV以下かつ照射線量60kGy以下が好ましく、さらに、加速電圧10〜80kVかつ照射線量60kGy以下が好ましく、さらには、加速電圧20〜60kVかつ照射線量60kGy以下が好ましい。
【0065】
また、照射線量が50kGy以下の場合には、加速電圧が130kV以下が好ましく、さらに、加速電圧10〜80kVが好ましく、さらには、加速電圧20〜80kVが好ましい。
【0066】
また、照射線量が10〜50kGyの場合には、加速電圧が130kV以下が好ましく、さらに、加速電圧10〜80kVが好ましく、さらには、加速電圧20〜80kVが好ましい。
【0067】
さらに、照射線量が20〜40kGyの場合には、加速電圧が130kV以下が好ましく、さらに、加速電圧10〜80kVが好ましく、さらには、加速電圧20〜80kVが好ましい。
【0068】
電子線照射装置としては、真空管型電子線照射装置が望ましく、円筒状をなすガラスまたはセラミック製の真空容器と、その容器内に設けられ、陰極から放出された電子を電子線として取り出して加速する電子線発生部と、真空容器の端部に設けられ、電子線を射出する電子線射出部と、給電部より給電するためのピン部とを少なくとも有する。電子線射出部には薄膜状の照射窓が設けられている。この照射窓は、ガスは透過せず、電子線を透過する機能を有している。この真空管型電子線照射装置は、従来のドラム型の電子線照射装置のごとく、電子線発生部であるドラム内を常に真空引きしながら電子線を照射するタイプの装置と異なり、電子線発生部を真空引きする必要がないため、小型で、設置面積をとらず、さらにX線遮蔽の設備も比較的簡易なものとすることができる。またイナーテイングを通常行うが、酸素濃度が従来の装置に比べ、高めであっても照射処理が可能なことが多い。
【0069】
なお、真空管型電子線照射装置としては、通常、円柱状の形状を有する照射管を用いるものであり、たとえば、1本ないし複数本の照射管を用いた装置である。以上のような照射管を有する装置は、米国特許第5,414,267号に開示されている装置が知られている。
【0070】
本発明者らは、このような低加速電圧での電子線照射が可能な装置を用いて、プラスチックレンズの表面に施されたハードコート剤を硬化させるための条件を検討した結果、被覆剤の厚さが0.1〜30μmの通常用いられる範囲においては、130kV、好ましくは120kV以下、より好ましくは100kV以下の低加速電圧でハードコート剤を十分に硬化または架橋させることが可能であり、かつこのような加速電圧では基材の劣化が生じない。また、加速電圧だけでなく、同時にまたは、照射線量も60kGy以下にすることが望ましく、好ましくは、50kGy以下、より好ましくは10〜50kGy、さらには、20〜40kGyの照射線量で、ハードコート剤を十分に硬化または架橋させることが可能であり、かつこのような照射線量では、基材の劣化(特に黄変)が生じない。
【0071】
この場合、より好ましくは、被覆剤の厚さを0.1〜10μmに設定し、加速電圧を10 〜60kVの範囲に設定しておよび/または、照射線量を60kGy以下に設定して、ハードコート剤を硬化または架橋させる。プラスチックレンズのハードコート剤の厚さおよび加速電圧さらに照射線量をこのような範囲に設定することにより、特に良好な硬化状態を得ることが可能となった。
【0072】
【実施例】以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。ただし、本発明の範囲する。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例により何等限定されるものではない。例中、%とは、重量%を表す。
実施例1〜5
厚さ2mm、屈折率1.67のプラスチックレンズ(5枚)を用意した。下記配合からなる電子線硬化性ハードコート剤を前記プラスチックレンズの凸面にスピンコート法にてそれぞれ5μm/dryとなるように塗布し、真空管型の電子線照射装置であるMin−EB装置(東洋インキ製造)を用いて、窒素ガス雰囲気下で、電子線を50kVで、照射線量を変えて、それぞれに30、40、50、60kGy照射して硬化させた。その後凹面についても同様の操作を行い、硬化皮膜を形成させた。
【0073】
ついで硬化皮膜上に酸化ケイ素、および酸化ジルコニウムをEB(電子銃)加熱を蒸発エネルギー源とする真空蒸着装置を用いて真空蒸着し、反射防止層を形成した。
【0074】
比較例1
実施例1と同様に作成したプラスチックレンズのハードコート剤を、窒素ガス雰囲気下で、電子線を150kVで200kGy照射し、塗膜を硬化し、さらに実施例1と同様に反射防止層を形成した。
比較例2
実施例1と同様に作成したプラスチックレンズのハードコート剤を、窒素ガス雰囲気下で、電子線を200kVで300kGy照射し、塗膜を硬化し、さらに実施例1と同様に反射防止層を形成した。
比較例3
実施例1と同様に作成したプラスチックレンズのハードコート剤を、実施例1と同じ電子線照射装置で窒素ガス雰囲気下で、電子線を50kVで70kGy照射し、塗膜を硬化し、さらに実施例1と同様に反射防止層を形成した。
比較例4
実施例1と同様に作成したプラスチックレンズのハードコート剤を、実施例1と同じ電子線照射装置で窒素ガス雰囲気下で、電子線を50kVで80kGy照射し、塗膜を硬化し、さらに実施例1と同様に反射防止層を形成した。
【0075】
「ハードコート剤処理されたプラスチックレンズの評価」作成したプラスチックレンズについて、以下の項目の性能評価を行った。また、得られたプラスチックレンズの密着性、耐擦傷性、黄変性の評価結果を表1に示す。
「密着性」:60℃―100%RH下、1000時間保管後、碁盤目剥離試験をJIS K5400に従って行った。
(評価基準)テープ剥離時の硬化皮膜または反射防止層の残存率を記載した。
「耐擦傷性」:所定のバーの先端にスチールウール#0000を取り付け、1kg/cm2の荷重をかけて、20回数往復摩擦したときの塗布面を、目視で評価した。
【0076】
(評価基準) ○: 全く傷が入らない。
【0077】
△: 僅かに傷が入る。
【0078】
×: 顕著に傷が目立つ。
【0079】
「黄変性」:未塗布の基材と塗布硬化後の基材の色差を測定し、その両者のb値の差を△bとした。
【0080】
【表1】
Claims (11)
- プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を被覆し、真空管型の電子線照射装置により照射線量を60kGy以下で電子線を照射して、硬化または架橋させてなることを特徴とするプラスチックレンズ。
- 真空管型の電子線照射装置により加速電圧130kV以下で、かつ照射線量を60kGy以下で電子線を照射してなることを特徴とする請求項1記載のプラスチックレンズ。
- 該ハードコート剤の膜厚が0.1〜30μmであることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチックレンズ。
- 該ハードコート剤の電子線硬化物上に反射防止膜を設けてなることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のプラスチックレンズ。
- 該ハードコート剤が、シラノール基と反応可能な官能基およびエチレン性不飽和結合を有する化合物をシリカ粒子と反応せしめてなる電子線重合性化合物を用いてなることを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のプラスチックレンズ。
- 該ハードコート剤が、さらに少なくとも1種のシランカップリング剤を含むことを特徴とする請求項1ないし5いずれか記載のプラスチックレンズ。
- 該ハードコート剤が、屈折率1.60以上の酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化インジウム、酸化ハフニウム、酸化錫、酸化ニオブ のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし6いずれか記載のプラスチックレンズ。
- プラスチックレンズ基材に電子線硬化型ハードコート剤を被覆し、真空管型の電子線照射装置により照射線量を60kGy以下で電子線を照射して、硬化または架橋させることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
- 真空管型の電子線照射装置で加速電圧130kV以下でかつ照射線量を60kGy以下で電子線を照射することを特徴とする請求項8記載のプラスチックレンズの製造方法。
- 電子線の加速電圧が10〜80kVであることを特徴とする請求項8または9記載のプラスチックレンズの製造方法。
- 照射線量が10〜50kGyであることを特徴とする請求項8ないし10いずれか記載のプラスチックレンズの製造方法。
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