JP2004256319A - 耐熱性素材の絵付又は彩色方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を、耐熱性素材の表面に予め被覆し、発色金属元素を含む化合物の水溶液を用いて耐熱性素材表面の被覆層の上に絵付又は彩色した後、上絵付焼成することにより、耐熱性素材表面上に絵付又は彩色を施す方法として、発色金属元素を含む化合物の水溶液をプリンターの印刷用インクとし、プリンターを用いて下地材を被覆した耐熱性素材の表面に印刷する。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば陶磁器、ガラス、ほうろうなどの耐熱性素材の表面に耐熱性の絵付や彩色を施す方法に係り、特に、発色金属元素を含む化合物の水溶液を絵具として用いて耐熱性素材の表面に直接又は間接に絵付け又は彩色ができ、また、この発色金属元素を含む化合物の水溶液を印刷用インクとしてプリンターを用いて、耐熱性素材の表面に直接又は間接に印刷できるようにした耐熱性素材の絵付又は彩色方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば陶磁器、ガラス、ほうろうなどの耐熱性素材の表面に耐熱性の絵付や彩色を行うには、以下のような工程を経て行われるのが普通であった。
まず陶磁器の場合について説明すると、陶磁器への絵付はほとんどの場合、素焼段階での下絵付、施釉焼成後のイングレーズ絵付、施釉焼成後の上絵付のいずれかで行われる。下絵付では耐熱性の無機粉体絵具で描画、彩色、印字等を行った後に、施釉し、1200℃以上で本焼成を行って下絵付を完成する。また、イングレーズ絵付では、同じく耐熱性の無機粉体絵具により、施釉、本焼成を終えた陶磁器の表面に、転写又は筆などで描画、彩色し、その後に、通常は1200℃以上の温度で加熱し、絵具粒子を釉中に拡散させ絵付けを定着させる。このように下絵付及びイングレーズ絵付では、いずれも1200℃以上の高温の熱処理を必要とする。一方、上絵付は比較的低融点の上絵具を用いて、施釉、本焼成を終えた陶磁器の表面に絵付、彩色し、通常は750〜850℃程度の温度で熱処理し、上絵を釉表面に溶着させる。
また、金属の表面に彩色する方法としてはほうろうによる方法があるが、金属素材に直接に無機粉体絵具で彩色することはなく、通常は金属との熱膨張歪みを少なくするために、その表面に2層以上のガラス質な無機素材を被覆し、その上に陶磁器と同様に耐熱性の無機粉体絵具を用いて絵付又は彩色を施していた。
さらに、以上は耐熱性素材への直接的な絵付方法に関するが、間接的な絵付方法として主にスクリーン印刷法や銅板印刷法などの印刷技術を用いた方法がある。これらの間接的な方法では、絵付や彩色の絵柄を無機粉体絵具を用いて転写紙などの紙面へ印刷し、その後に陶磁器素焼きや焼成後の釉表面へ転写し、それぞれの焼成を経て絵付が完成する。
以上のように、耐熱性素材の表面に絵付や彩色を施すには、耐熱性の無機粉体絵具を用いる必要がある。無機粉体絵具は、通常、耐熱性の無機顔料にそれぞれが用いられるときの熱処理温度で耐熱性素材の表面に溶着するように媒溶剤を加えて用いられる。耐熱性の無機顔料は、普通は発色金属元素を含む無機材料であり、ジルコンやチタニアなどの耐熱性の結晶に発色金属元素を固溶させたり、発色金属元素を含む無機結晶を耐熱性の物質、例えばジルコンやシリカなどの結晶で被覆して作られる。無機顔料は熱処理によって合成した後、粉砕や分級などの複雑な製造工程を経て作られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一方、前述した工程を経ない絵付方法として、発色金属元素を含む化合物水溶液を主に素焼き段階で下絵具として用いる方法があるが、この方法は化合物が定着する温度と焼成温度との適合が難しいために、利用できる化合物が限定されたり、また、その後の焼成によって発色金属元素が拡散し、図形や線画などの境界が判然としなくなるといった問題があった。
さらに、このような水溶液絵具をイングレーズ絵付や上絵付に用いようとすると、釉薬には吸水性がないので、化合物水溶液は釉表面ではじかれ、絵付、彩色すること自体が難しいといった問題点があった。
また、既述の印刷技術を用いた間接的な絵付方法では、原版から数段階の製版工程を経て印刷用の版を作製しており、版作製の手間と時間を要することから、大量生産向けの絵付技術となっていて、ごく少量生産向けの絵付技術には適さないといった問題があった。
ところで、ごく少量生産向けの絵付として、前述の耐熱性の無機粉体絵具を印刷用インクとし、インクジェットプリンターを用いて、耐熱性素材の表面に直接又は間接に印刷する方法が考えられるが、無機粉体絵具の無機顔料を遊星ボールミルなどの、かなり強力な微粉砕器によって粉砕し作製した、粒径が0.5μm以下の微粒子タイプの印刷用インクであっても、顔料粒子がやがてプリンターのノズルを閉塞させるので、印刷が途中で停止してしまい、現状ではプリンターを用いて耐熱性素材の表面に直接又は間接に印刷することは困難であった。
【0004】
本発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を用いることにより、発色金属元素を含む化合物の水溶液絵具が有する上記欠点、つまり焼成後に発色金属元素が拡散し、図形や線画などの境界が判然としなくなる問題や、釉表面ではじかれ、絵付、彩色すること自体が難しいという問題を解消して、発色金属元素を含む化合物の水溶液を絵具として用いて耐熱性素材の表面に直接又は間接に絵付け又は彩色することができると共に、この発色金属元素を含む化合物の水溶液を印刷用インクとしてプリンターを用いて、耐熱性素材の表面に直接又は間接に印刷することのできる耐熱性素材の絵付又は彩色方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するために、請求項1は、耐熱性素材の表面に耐熱性の絵付又は彩色を施す目的で、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を、耐熱性素材の表面に予め被覆し、その被覆層の上から発色金属元素を含む化合物の水溶液を用いて絵付け又は彩色を施した後、全体を乾燥・熱処理することによって、耐熱性素材の表面に金属元素を定着させる手段よりなるものである。
【0006】
また、請求項2は、耐熱性素材の表面に耐熱性の絵付又は彩色を施す目的で、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材、媒溶材、結合材及び媒液等からなる下地材を、耐熱性素材の表面に予め被覆し、その被覆層の上から発色金属元素を含む化合物の水溶液を用いて絵付け又は彩色を施した後、全体を乾燥・熱処理することによって、耐熱性素材の表面に金属元素を定着させる手段よりなるものである。
【0007】
また、請求項3は、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材として消石灰、媒溶材として無色の上絵具、結合材としてメチルセルロース、媒液として水を用いて調製したものからなる下地材を、耐熱性素材としての陶磁器の表面に予め被覆し、発色剤として金属化合物水溶液を用いて陶磁器表面の被覆層の上に絵付又は彩色した後、上絵付焼成することにより、陶磁器表面上に絵付又は彩色を施す手段よりなるものである。
【0008】
また、請求項4は、デキストリンを被覆した耐熱性素材用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、耐熱性素材表面上に絵付又は彩色を施す手段よりなるものである。
【0009】
また、請求項5は、デキストリンを被覆した耐熱性素材用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材、媒溶材、結合材及び媒液等からなる下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、耐熱性素材表面上に絵付又は彩色を施す手段よりなるものである。
【0010】
また、請求項6は、デキストリンを被覆した陶磁器用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材、媒溶材、結合材及び媒液等からなる下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材としての施釉陶磁器の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、陶磁器表面上に絵付又は彩色を施す手段よりなるものである。
【0011】
また、請求項7は、デキストリンを被覆した陶磁器用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材として消石灰、媒溶材として無色の上絵具、結合材としてメチルセルロース、媒液として水を用いて調製したものからなる下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材としての施釉陶磁器の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、陶磁器表面上に絵付又は彩色を施す手段よりなるものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明の耐熱性素材の絵付又は彩色方法は、耐熱性素材の表面に耐熱性の絵付又は彩色を施す目的で、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を、耐熱性素材の表面に予め被覆し、その被覆層の上から発色金属元素を含む化合物の水溶液を用いて絵付又は彩色を施した後、全体を乾燥・熱処理することによって、耐熱性素材の表面に金属元素を定着させることにある。通常、下地材は発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材、媒溶材、結合材及び媒液等からなる。
【0013】
耐熱性の素材として陶磁器を用いた場合は、消石灰などの定着材、無色の上絵具などの媒溶材、メチルセルロースなどの結合材、さらに水を媒液として調製した下地材を、施釉陶磁器の表面に被覆して乾燥後に、発色金属元素を含む化合物水溶液を用いて被覆層の上に描画又は彩色した後、上絵付焼成することにより、陶磁器表面上に絵付又は彩色を施す。
【0014】
上記下地材に用いる定着材としては、上記消石灰の他に炭酸カルシウム、キノリシールなど、金属元素と反応もしくは錯体を形成して難水溶性の化合物となる物質を用いることができる。また、結合材としては上記の他に、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン系の有機結合材を用いることができる。媒溶材には低融点の市販上絵具を、有鉛、無鉛の如何に依らず用いることができる。媒液は基本的に水を用いるが、乾燥を早めたり、プリンターの印刷方式との適合のためにエチルアルコールなどの有機溶媒を用いることもある。
【0015】
さらに、下地材の表面に対して用いる水溶性絵具としては、水中での溶解度の大きな金属化合物の水溶液を用いることが基本的に可能で、塩化コバルト、クロム酸アンモニウム、塩化金、硝酸鉄などを必要に応じて中性又は弱酸性で安定化して用いる。
【0016】
本発明の大きな特長は、絵付又は彩色の方法として、発色金属元素を含む化合物の水溶液をプリンターの印刷用インクとし、インクジェットプリンターを用いて、耐熱性素材の表面に直接又は間接に印刷できることである。
【0017】
つまり、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を、耐熱性素材の表面に予め被覆し、発色金属元素を含む化合物の水溶液を用いて耐熱性素材表面の被覆層の上に絵付又は彩色した後、上絵付焼成することにより、耐熱性素材表面上に絵付又は彩色を施す方法として、発色金属元素を含む化合物の水溶液をプリンターの印刷用インクとし、スクリーンプロセスやスプレーガン等により下地材を予め被覆した耐熱性素材の表面に直接印刷することにある。また、デキストリンを被覆した耐熱性素材用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、耐熱性素材表面上に絵付又は彩色を施す方法として、発色金属元素を含む化合物の水溶液をプリンターの印刷用インクとし、下地材を塗布した転写紙上に印刷して、転写を通じて耐熱性素材の表面に間接印刷することにある。通常、下地材は発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材、媒溶材、結合材及び媒液等からなる。なお、定着材、媒溶材、結合材及び媒液、並びに発色金属元素を含む化合物の水溶液は、前記の〔0013〕〜〔0015〕の説明の通りである。
【0018】
この点において、本発明の水溶液と異なる無機粉体絵具をプリンターの印刷用インクとして使用する場合には、陶磁器用顔料を遊星ボールミルなどの、かなり強力な微粉砕器によって粉砕し作製した、粒径が0.5μm以下の微粒子タイプの印刷用インクであっても、顔料粒子がやがてプリンターのノズルを閉塞させるので、印刷が途中で停止してしまう。
【0019】
これに対して、本発明のように水溶液をプリンターの印刷用インクとして使用する場合には無機粉体絵具と異なり、プリンターのノズルを閉塞させることがなく、プリンターによる印刷が可能になる。そして、上記プリンターによる印刷が可能になることによる最大の利点は、時間と手間を要した従来の製版工程が不要となることで、ごく少量の生産にも適応でき、印刷工程のコスト低減に効果があるほか、写真デジタルデータなどの画像データをコンピュータから直接印刷することができる等の利点がある。
【0020】
プリンターによる間接的な絵付は、スライド転写によって行われる。すなわち、デキストリンを被覆した陶磁器用の転写紙の上にまず油性のラッカーを塗布し、その上に前記の下地材を塗布した後に、発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に施釉陶磁器上に転写し、上絵付焼成することにより行われる。
【0021】
このように下地材を油性のラッカーで挟むのは、下地材とその上から描かれた水溶性の絵具部分が、スライド転写の際に水によって一部溶解し、印刷された描画や彩色が損なわれることを防ぐためである。
【0022】
次に、上記発明の作用について以下説明する。
本発明による下地材は陶磁器、ほうろう及び油性ラッカーを施した転写紙の表面等に被覆され、その後に発色金属元素の化合物水溶液による絵付が行われると、下地材成分の中の前記定着材がこれと反応して難水溶性の水酸化物等を生成し、絵具成分の拡散、移動を抑制するために、絵付の輪郭や境界の滲みを防止する。
陶磁器やほうろう表面へ直接的に被覆される場合にあっては、そのまま上絵付焼成を行うと、金属水酸化物が金属酸化物になるとともに、下地材中の媒溶剤が溶融して、下地材の層は陶磁器表面やほうろう表面上に絵付・彩色となって定着される。
【0023】
一方、下地材処理を転写紙上の油性ラッカーの表面に対して行う間接法では、下地材の上にさらに油性ラッカーを被覆した後に、陶磁器やほうろうの表面にスライド転写される。上絵付け焼成による変化は前記の直接的な処理と同様である。
【0024】
印刷インクとしての発色金属元素の化合物水溶液は、インクを加熱してその圧力で吹き出す方法やピエゾ素子を用いた方法のインクジェット方式のプリンターによる印刷が基本的に可能であり、上記の下地処理材の層の上に印刷することができる。
【0025】
【実施例1】
市販の無色上絵具粉体92重量部、消石灰8重量部に、水100重量部、メチルセルロース1重量部(予め2重量%の水溶液にしたもの)を加え、遊星ボールミルにて5分間粉砕・混合して作製した下地材懸濁液を、ノズル先端径が100μmの噴霧ガンにとり、施釉陶磁器板の表面に下地材懸濁液を一様に吹き付けた。これを105℃で2h乾燥し下地材被覆陶磁器板とした。次にその表面に20重量%の塩化コバルト水溶液を毛筆に含ませて、太さや濃さを変えながら線引きを行った後、105℃で1h乾燥し、電気炉中800℃で30分間の熱処理を施した。昇温速度は毎時100℃とした。冷後取り出した試料を観察すると、線はいずれも濃青色となっており陶磁器下絵付けの呉須の発色に類似していた。また、強い筆圧で描かれた部分は、弱い筆圧で描かれた部分よりも濃い濃青色となっており、塩化コバルト液量の違いによって濃淡を描き分けることができた。表面光沢は通常の施釉陶磁器のそれと比べて遜色なく、総合的に見て呉須による下絵染め付けとの外見上の違いは認め難かった。
【0026】
【実施例2】
実施例1と同様に作製した下地材被覆陶磁器板に、いずれも20重量%の、硝酸コバルト、酢酸コバルト、クエン酸コバルト、グルコン酸コバルト及び硫酸コバルト水溶液を用いて、実施例1と同様に毛筆による線引きを行った後、電気炉中800℃で30分間の熱処理を施した。冷後、試料の表面状態を観察すると、発色は酢酸コバルト、硫酸コバルト、クエン酸コバルト、硝酸コバルト、グルコン酸コバルトの順に濃い青色を呈しており、硝酸コバルトの発色が実施例1の塩化コバルトによるものに近く、グルコン酸コバルトによるもの以外は塩化コバルトよりも濃い発色となった。このように、コバルト化合物の種類を変えることでも、濃青色の呈色の濃さを変えることができた。
【0027】
【実施例3】
実施例1と同様に作製した下地材被覆陶磁器板に、20重量%の塩化コバルト水溶液、1.25重量%のクロム酸アンモニウム水溶液、12.5重量%の塩化金水溶液を用い、実施例1と同様に線引きを行い、電気炉中800℃で30分間の熱処理を施した。冷後、試料の表面を観察すると塩化コバルトによる線は実施例1と同様に濃青色であったが、クロム酸アンモニウムによる線は黄色を、また、塩化金水溶液による線はピンク色を呈していた。さらに、以上の3種の線が交差した箇所は黒色に近い暗褐色を呈していた。このように本発明では、発色の異なる金属元素の化合物水溶液を絵具として用いることで、それぞれの色を同時に発色させることができ、さらに重ねて用いることでその混色も可能なことが分かる。
【0028】
【実施例4】
市販の無色上絵具粉体92重量部、キノリノール8重量部、もしくは市販の無色上絵具粉体92重量部、キノリノール4重量部、消石灰4重量部に、水100重量部、メチルセルロース1重量部を加え、遊星ボールミルにて5分間粉砕・混合して下地材懸濁液を作製した(以下簡単のため前者をA下地材、後者をB下地材と記す)。これらの下地材懸濁液を、実施例1と同様に操作して下地材被覆陶磁器板を作製し、その表面に20重量%の塩化コバルト水溶液、1.25重量%のクロム酸アンモニウム水溶液、12.5重量%の塩化金水溶液を用い、実施例1と同様に線引きし、105℃で1h乾燥した後、電気炉中800℃で30分間の熱処理を施した。冷後取り出した試料を観察すると、下地材Aの試料では、塩化コバルトによる線は暗い濃青色、クロム酸アンモニウム水溶液による線は薄い黄色、塩化金による線は赤紫をそれぞれ呈していた。また下地材Bの試料では、塩化コバルトによる線はやや暗い濃青色、クロム酸アンモニウム水溶液による線はやや薄い黄色、塩化金による線は紫がかったピンクをそれぞれ呈していた。キノリノールを用いると全般的に暗色がかった呈色を示したが、線の境界は、実施例1〜4の結果と比べてはっきりしていた。
【0029】
【実施例5】
ステンレススティールSUS433の板(50×50mm)に市販のほうろう下ぐすり(黒色)を塗布し、電気炉中840℃で3分間加熱して定着させて冷却した後、市販ほうろう上ぐすり(白色)を塗布し、上記と同様に820℃で3分間加熱して試験板を作製した。次にこの試験板の表面に実施例1と同じ下地材を同様に操作して被覆した。さらに実施例3と同様に、20重量%の塩化コバルト水溶液、1.25重量%のクロム酸アンモニウム水溶液、12.5重量%の塩化金水溶液を用いて線引きを行い、電気炉中800℃で30分間の熱処理を施した。冷後取り出した試料を観察すると、塩化コバルトによる線は濃青色、クロム酸アンモニウムによる線は明るい黄色、また塩化金による線はピンク色をそれぞれ呈しており、ほうろう釉の表面においても本発明による絵付、彩色方法は有効であることが分かった。
【0030】
【実施例6】
陶磁器の上絵付転写用のデキストリン塗布紙(以下転写紙)の表面に油性のラッカー(オーバープリントラッカー、以下OPLと記す)を塗布し送風乾燥後、そのOPL層の上に、実施例1と同様の方法で下地材層を形成させ、下地材被覆転写紙を作製した。次にこの下地材被覆転写紙を市販のインク加熱方式のインクジェットプリンターに通常の印刷用紙と同様に装填した。また、印刷用インク容器内のインクを取り出し、その代わりに実施例3に記載した3種の水溶液と、塩化コバルト30重量部、塩化マンガン25重量部、塩化鉄30重量部及びクロム酸アンモニウム15重量部を混合し20重量%の水溶液(黒色絵具)とを印刷インク容器内に注入した。この印刷インクと前記の下地材被覆転写紙の組み合わせにより、コンピューターの画像処理ソフトを介して、色見本とカラー写真画像の印刷を行った。印刷を行った下地材被覆転写紙の被覆層の上に、さらにOPLを塗布し乾燥した。このOPL層の塗布の目的は、下地材層が水に濡れて水溶性の絵付・彩色が損なわれるのを防ぐことにある。以上のように作製した転写用紙を水中に投入し、デキストリン層を溶解させてOPL層−下地材層−OPL層から台紙を剥離させ、これを施釉陶磁器の表面にスライド転写した。105℃で1h乾燥した後、800℃で30分間熱処理を施し、下地材層を陶磁器釉面に定着させた。冷後取り出した試料を観察すると、色見本では実施例3と同様な呈色が示され、また、写真画像もオリジナルに近い発色と階調により再現された。このように、本発明による絵付、彩色方法は、市販のインク加熱方式のインクジェットプリンターによっても応用可能なことが分かる。
【0031】
【発明の効果】
以上の記載より明らかなように、本発明に係る耐熱性素材の絵付又は彩色方法によれば、以下のような極めて新規的有益なる効果を奏するものである。
(1)本発明による絵付、彩色方法は、発色金属元素を含む化合物の水溶液絵具が有する上記欠点、つまり焼成後に発色金属元素が拡散し、図形や線画などの境界が判然としなくなる問題や、釉表面ではじかれ、絵付、彩色すること自体が難しいという問題を解消して、発色金属元素を含む化合物の水溶液を絵具として用いて耐熱性素材の表面に直接又は間接に絵付け又は彩色することができ、これにより、施釉陶磁器やほうろうなどの耐熱性素材の表面に対して適用でき、陶磁器製品の呉須による染め付けと同様な発色と表面状態を提供することができる。
(2)本発明による絵付、彩色方法では、用いる金属化合物水溶液の種類を選ぶことにより、多色の絵付、彩色が可能である。
(3)本発明による発色金属元素の化合物水溶液をプリンターの印刷用インクとして使用する場合には無機粉体絵具と異なり、プリンターのノズルを閉塞させることがなく、プリンターによる印刷が可能になる。つまり、本発明による絵付、彩色用の下地材を陶磁器用転写紙に塗布し、発色金属元素の化合物水溶液を印刷用インクとして、この下地材層の上に市販のプリンターを用いてデジタル画像を印刷すると、デジタル画像データの陶磁器製品表面へのスライド転写が可能になる。この転写方法は製版工程を要しない新たな絵付、彩色法である。これにより、時間と手間を要した従来の製版工程が不要となることで、ごく少量の生産にも適応でき、印刷工程のコスト低減に効果があるほか、写真デジタルデータなどの画像データをコンピュータから直接印刷することができる等の利点がある。
Claims (7)
- 耐熱性素材の表面に耐熱性の絵付又は彩色を施す目的で、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を、耐熱性素材の表面に予め被覆し、その被覆層の上から発色金属元素を含む化合物の水溶液を用いて絵付け又は彩色を施した後、全体を乾燥・熱処理することによって、耐熱性素材の表面に金属元素を定着させることを特徴とする耐熱性素材の絵付又は彩色方法。
- 耐熱性素材の表面に耐熱性の絵付又は彩色を施す目的で、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材、媒溶材、結合材及び媒液等からなる下地材を、耐熱性素材の表面に予め被覆し、その被覆層の上から発色金属元素を含む化合物の水溶液を用いて絵付け又は彩色を施した後、全体を乾燥・熱処理することによって、耐熱性素材の表面に金属元素を定着させることを特徴とする耐熱性素材の絵付又は彩色方法。
- 発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材として消石灰、媒溶材として無色の上絵具、結合材としてメチルセルロース、媒液として水を用いて調製したものからなる下地材を、耐熱性素材としての陶磁器の表面に予め被覆し、発色剤として金属化合物水溶液を用いて陶磁器表面の被覆層の上に絵付又は彩色した後、上絵付焼成することにより、陶磁器表面上に絵付又は彩色を施すことを特徴とする耐熱性素材の絵付又は彩色方法。
- デキストリンを被覆した耐熱性素材用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材を含む下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、耐熱性素材表面上に絵付又は彩色を施すことを特徴とする耐熱性素材の絵付又は彩色方法。
- デキストリンを被覆した耐熱性素材用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材、媒溶材、結合材及び媒液等からなる下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、耐熱性素材表面上に絵付又は彩色を施すことを特徴とする耐熱性素材の絵付又は彩色方法。
- デキストリンを被覆した陶磁器用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材、媒溶材、結合材及び媒液等からなる下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材としての施釉陶磁器の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、陶磁器表面上に絵付又は彩色を施すことを特徴とする耐熱性素材の絵付又は彩色方法。
- デキストリンを被覆した陶磁器用の転写紙上に油性のラッカーを塗布しその上に、発色金属元素の化合物と反応して不溶化する定着材として消石灰、媒溶材として無色の上絵具、結合材としてメチルセルロース、媒液として水を用いて調製したものからなる下地材を塗布した後に、下地材を塗布した転写紙上に発色金属元素の化合物水溶液で絵付又は彩色を施し、さらにその上から油性ラッカーを塗布して乾燥後、通常の上絵転写と同様に耐熱性素材としての施釉陶磁器の表面上に転写し、上絵付焼成することにより、陶磁器表面上に絵付又は彩色を施すことを特徴とする耐熱性素材の絵付又は彩色方法。
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