JP2004254630A - 生物学的変換方法による1−ペンタノールの製造方法 - Google Patents
生物学的変換方法による1−ペンタノールの製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004254630A JP2004254630A JP2003050682A JP2003050682A JP2004254630A JP 2004254630 A JP2004254630 A JP 2004254630A JP 2003050682 A JP2003050682 A JP 2003050682A JP 2003050682 A JP2003050682 A JP 2003050682A JP 2004254630 A JP2004254630 A JP 2004254630A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- pentane
- pentanol
- strain
- gordonia
- microbacterium
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Landscapes
- Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
- Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
Abstract
【課題】n−ペンタンを原料とし、生物学的変換方法を利用して1−ペンタノールを製造する新規な方法を提供すること、及びこの方法に利用可能なn−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する新規な微生物を提供すること。
【解決手段】n−ペンタンから1−ペンタノールを製造する方法であって、下記工程(A)及び(B)を含む製造方法。(A)n−ペンタンの存在下で、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属し、かつn−ペンタンを1−ペンタノールに変換しうる菌株をインキュベーションする工程。(B)工程(A)で得られるインキュベーション液から1−ペンタノールを採取する工程。
n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物、例えば、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株 (FERM P−19197)。n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物、例えば、ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株 (FERM P−19196)。
【選択図】なし
【解決手段】n−ペンタンから1−ペンタノールを製造する方法であって、下記工程(A)及び(B)を含む製造方法。(A)n−ペンタンの存在下で、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属し、かつn−ペンタンを1−ペンタノールに変換しうる菌株をインキュベーションする工程。(B)工程(A)で得られるインキュベーション液から1−ペンタノールを採取する工程。
n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物、例えば、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株 (FERM P−19197)。n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物、例えば、ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株 (FERM P−19196)。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、1−ペンタノールの生物学的な製造方法、及びn−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する新規な微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルコール類は種々の用途を有する重要な一群の工業用化学物質であり、その1つである1−ペンタノールも溶媒、エステル製造の中間体、食品添加物、芳香性物質として用いられている。
【0003】
微生物を用いてアルコール類を製造する方法に関しては、例えば、アルカン資化微生物またはアルカン分解微生物を用いる方法(特許文献1参照)があり、さらにそれら微生物の酵素を用いる方法も知られている(特許文献2および特許文献3参照)。しかし、これらの文献には1−ペンタノールの製造について具体的な記載はない。またn−ペンタンを資化する微生物として、シュードモナス属微生物(非特許文献1および2参照)あるいはノカルディオイデス属微生物(非特許文献3参照)が知られているが、n−ペンタンを1−ペンタノールに変換することは確かめられていない。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−142764号公報
【特許文献2】
特開2001−275653号公報
【特許文献3】
米国特許5190870号公報
【非特許文献1】
テオ(Theo) H. M. スミツ(Smits), マルチナ ロスリスベルガー(Martina Rothlisberger), ベルナルド ウィトルト(Bernard Witholt) 及び ジャン(Jan) B. ファン バイレン(van Beilen)、「グラム陰性及びグラム陽性菌でのアルカンハイドロキシレース遺伝子の分子スクリーニング(Molecular screening for alkane hydroxylase genes in Gram−negative and Gram−positive strains.) 」、エンバイロンメンタル マイクロバイオロジー(Environmental Microbiology) 、1999年、1巻、p.307−317
【非特許文献2】
タカハシ(Takahashi), J、「シュードモナス・ブタノボラ・エスピー・ノブ)によるn−ブタンからの細胞内及び細胞外タンパク質の製造(Production of intracellular and extracellular protein from n−butane by Pseudomonas butanovora sp. nov.)」、アドバンシーズ・イン・アプライド・マイクロバイオロジー(Advances in Applied Microbiology)、1980年、26巻、p.117−127
【非特許文献3】
ナツコ・ハマムラ(Natsuko Hamamura), クリス(Chris) M. イーガー(Yeager) 及びダニエル(Daniel) J. アルプ(Arp)、「ノカルディオイデス・エスピー株CF8におけるアルカン酸化のための2つの異なるモノオキシゲナーゼ(Two distinct monooxygenases for alkane oxidation in Nocardioides sp. strain CF8.)」、アプライド・アンド・エンバイロンメンタル・マイロクバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)、2001年、67巻、p.4992−4998
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、n−ペンタンを原料とし、生物学的変換方法を利用して1−ペンタノールを製造する新規な方法を提供すること、及びこの方法に利用可能なn−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する新規な微生物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために広範な微生物群からn−ペンタンの1位水素原子を水酸基に変換しうる微生物を探索した。その結果、細菌に分類されるミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物およびゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物が前記変換能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従って、本発明は、以下の(1)〜(7)に関する。
(1)n−ペンタンから1−ペンタノールを製造する方法であって、下記工程(A)及び(B)を含むことを特徴とする製造方法。
(A)n−ペンタンの存在下で、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属し、かつn−ペンタンを1−ペンタノールに変換しうる菌株をインキュベーションする工程。
(B)工程(A)で得られるインキュベーション液から1−ペンタノールを採取する工程。
【0008】
(2)前記ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する菌株がミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株 (FERM P−19197)である前記(1)記載の製造方法。
(3)前記ゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株がゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株 (FERM P−19196)である前記(1)記載の製造方法。
(4) n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物。
(5)ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株 (FERM P−19197)である(4)に記載の微生物。
(6)n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物。
(7)ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株 (FERM P−19196) である(6)に記載の微生物。
【0009】
本発明者らは、前述のように、細菌に分類されるミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する菌株およびゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株がn−ペンタンの1位水素原子を水酸基に変換しうることを見出した。本発明者らが知る限り、これまで、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する菌株およびゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株に、n−ペンタンの1位水素原子を水酸基に変換して、1−ペンタノールを生産するものは知られていない。本発明者らが新たに見出した微生物は、いずれも土壌から分離されたミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株及びゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株である。
【0010】
ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年1月31日付けでMicrobacterium sp. PN4として寄託されている(受託番号 FERM P−19197)。またゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株は、同じく独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年1月31日付けでGordonia sp. PN8として寄託されている(受託番号 FERM P−19196))。
【0011】
なお、上記2つの菌株の菌学的性状は表1〜3に示すとおりである。尚、各菌株の同定については後述の実施例において詳述する。
【0012】
【表1】
【0013】
【表2】
【0014】
【表3】
【0015】
本発明の製造方法では、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物であって、n−ペンタンを1−ペンタノールへ変換する能力を有する微生物であれば、種および株の種類を問うことなく使用できる。但し、好ましい微生物としては、いずれも土壌から分離されたミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株またはゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株を挙げることができる。
【0016】
本発明の製造方法においては、まず工程(A)において、出発原料(基質)であるn−ペンタンの存在下で、前記菌株がインキュベーションされる。このインキュベーションは、酸素含有雰囲気下で行うことができる。具体的には、菌株の好気的条件下でのインキュベーションは、培養液中に基質であるn−ペンタンを添加し、酸素を含む気体、例えば空気を通気しながら行うこともできる。
【0017】
培養液への基質の添加は、培養開始前に行なう。
上記菌体は、例えば、上記いずれかの菌株を栄養源含有培地に接種し、好気的に培養することにより製造できる。基質が添加された状態で行われる菌株の培養は、原則的には一般微生物の培養方法に準じて行うことができる。但し、通常は液体培養による振とう培養、通気攪拌培養などの好気的条件下で実施するのが好ましい。
【0018】
工程(A)のインキュベーション及びそれに供する菌株の培養に用いられる培地としては、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、半合成培地、天然培地などいずれも利用可能である。培地組成としては炭素源としての、n−アルカン、グルコース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、フルクトース、グリセリン、デキストリン、澱粉、糖蜜、大豆油等を単独または組み合わせて用いることができる。但し、n−ペンタンを水酸化し1−ペンタノールを生産する能力が高い菌体を得るためにはn−アルカン、中でも特にn−ペンタンを単独で用いることが好ましい。
【0019】
窒素源としては、ペプトン、肉エキス、グルテンミール、カゼイン、アミノ酸、酵母エキス、尿素等の有機窒素源、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を単独または組み合わせて用い得る。その他、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、硫酸銅、硫酸鉄、塩化マンガン、塩化コバルト等の塩類、重金属類塩、ビタミンBおよびビオチン等のビタミン類も必要に応じ添加使用することができる。
【0020】
工程(A)のインキュベーション及びそれに供する菌株の培養条件は、該菌株が良好に生育して、n−ペンタンを水酸化し1−ペンタノールを生産し得る範囲内で適宜選択し得る。例えば培地のpHは5〜9程度、通常中性付近とするのが望ましい。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは26〜30℃に保つのが良い。培養日数は1〜8日程度で、通常2〜5日程度である。上述した各種の培養条件は、使用微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、最適条件を選択できるのはいうまでもない。
【0021】
工程(A)において、基質となるn−ペンタンは、通常液体のまま培養液に添加する。 その添加量は、例えば、培養液の場合、培養液1L当り10g程度が好ましい。基質添加後は、28℃で約1〜7日間、振とうあるいは通気攪拌などの操作を行い、好気的条件下で反応を進行させることにより基質であるn−ペンタンを目的の1−ペンタノールに変換することができる。
【0022】
次に、工程(B)において、前記工程(A)で得られたインキュベーション液から目的の1−ペンタノールを採取する。1−ペンタノールを工程(A)の反応混合物から単離するには、一般にアルカノール類を発酵産物から単離するために用いられる種々の既知精製手段(例えば、有機溶媒による抽出や蒸留)を選択、組合せて行うことができる。
例えば、インキュベーション液にジエチルエーテル、酢酸エチル等の有機溶媒を加えて撹拌し、1−ペンタノールを抽出する。このときインキュベーション液に塩類(例えば、塩化ナトリウム等)、酸類(例えば、硫酸等)を加えてインキュベーション液のイオン強度を高めると1−ペンタノールの有機溶媒への抽出率が向上する。その後、用いた有機溶媒と1−ペンタノールの沸点の差を利用して蒸留し、目的の1−ペンタノールを精製することができる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明について具体例を挙げてより詳細に説明するが、本発明をこれらの例に限定することを意図するものではない。
【0024】
実施例1
微生物の取得及び同定
[1]n−ペンタン資化微生物の分離
n−ペンタンを唯一の炭素源とした培地を用いて集積培養を行ない、n−ペンタン資化微生物を弊社の工場プラント周辺の土壌から2株分離した。この2株の微生物をPN4株及びPN8株と命名した。その詳細を以下に示した。
(1)培地組成
炭素源のn−ペンタンを下記の組成の無機塩類溶液に加えたものを培地とした。n−ペンタンについては予め別にろ過滅菌して、液体培地(スクリューキャップ付試験管を用いて調製)の際はそのまま液体として添加した。平板培地(1.5%寒天及びシャーレを用いて調製)の際は、小型バイアルに詰めた脱脂綿にn−ペンタンを染み込ませ蒸気として培地系へ供給した。n−ペンタンの培地系への添加は、微生物の植菌後に行なった。
【0025】
(NH4)2SO4 1.0 g
MgSO4・7H2O 0.1 g
KH2PO4 0.5 g
K2HPO4 1.0 g
NaCl 5.0 g
微量ミネラル溶液 1.0 mL
脱イオン水 1000mL
但し、微量ミネラル溶液の組成は次の通りである(脱イオン水1000mL当りの各成分量を表記)。
ZnSO4・7H2O 100mg
H3BO3 300mg
CaCl2・6H2O 200mg
FeSO4・7H2O 2000mg
CuCl2・2H2O 10mg
Na2MoO4・2H2O 30mg
NiCl2・6H2O 20mg
MnCl2・4H2O 30mg
【0026】
(2)培養条件
液体培養は28℃にて回転数220rpmで振とうして行ない、平板培養は28℃にて静置して行なった。
【0027】
(3)分離手順
▲1▼滅菌水2mLにミクロスパーテル1杯分の土壌を懸濁して、その懸濁液の1白金耳分を前記平板培地に塗布し最長11日間まで微生物を培養した。
▲2▼生育してきた微生物をn−ペンタンを供給する系と供給しない系でそれぞれ平板培養し、前者の系における生育が後者の系におけるそれと比べて良好な微生物を分離した。
▲3▼分離微生物について、1%n−ペンタンの有無による液体培地での生育を同様に比較した。まず分離微生物をブイヨン(肉汁)液体培地2mLで前培養(28℃、220rpm)し、この培養物10μLをn−ペンタンが存在する系と存在しない系の各液体培地2mLに植菌して最長11日間培養した。
▲4▼上記▲3▼において、n−ペンタン存在下で良好に生育した微生物をn−ペンタン資化微生物とした。
【0028】
[2]取得したn−ペンタン資化微生物の同定
分離されたn−ペンタン資化微生物のゲノムDNAをFastPrep FP120 Instrument及びFast DNA Kit(フナコシ社)を用いて抽出した。この抽出DNAを鋳型として、9F:5’−GTGTTTGATCCTGGCTCAG、536R:5’−GTATTACCGCGGCTGCTGプライマー及びTaKaRa LA Taq、TaKaRa PCR Thermal Cycler PERSONAL(TaKaRa)を用いたPCR反応により、16S rDNA遺伝子の一部(500bp)を増幅した。増幅産物の塩基配列をABI PRISM 310(アプライドバイオシステムズ社)を用いて解析し、系統解析を行なった。その結果、PN4株はミクロバクテリウム(Microbacterium)属細菌に、PN8株はゴルドニア(Gordonia)属細菌に近縁であることが示唆された。
これら2株は新規なn−ペンタン資化微生物と考えられた。さらに、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp. )PN4株はn−アルカン資化微生物としても新規であると考えられた。
【0029】
[3]取得したn−ペンタン資化微生物の各種n−アルカンの資化性
ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.) PN4株及びゴルドニア・エスピー(Gordonia sp. )PN8株について、それぞれの菌株の1白金耳量の菌体を保存用スラントからブイヨン液体培地2mLに植菌し、28℃及び220rpmで3日間の前培養を行なった。この前培養物10μLを1%の各種n−アルカン(炭素数5〜16)を含む液体培地2mLに添加して最長8日間培養した。その結果、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株は炭素数5のn−ペンタンの他に炭素数10〜16のn−アルカンで、ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp. )PN8株は供試した全てのn−アルカンで良好な生育を示した。
【0030】
実施例2
ミクロバクテリウム・エスピー( Microbacterium sp. ) PN4 株による n− ペンタンからの 1− ペンタノールの生成
ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp. )PN4株を保存用スラントからブイヨン液体培地2mLに1白金耳分の菌量を植菌し、28℃及び220rpmで3日間の前培養を行なった。この前培養物10μLを1%n−ペンタンを含む液体培地2mLに添加して培養した。
培養液を経時的に採取して、培養液の濁度の測定、n−ペンタン代謝産物の同定及び定量を行なった。培養液の濁度は生育した微生物の菌体濃度の指標であり、600nm光を用いて測定しOD600で表した。代謝産物は培養液から抽出してガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)により検出及び定量した。培養液0.7mLに飽和塩化ナトリウム水溶液0.7mLと酢酸エチル(内部標準物質として30ppmの1,12−ドデカンジオールを含有)1.4mLを添加し10分間激しく振盪した。この混合液を遠心分離(3,000rpmで5分間)して、上層の酢酸エチル1.0mLを回収した。この酢酸エチル相をPerkinElmer社製のTurboMass Gold型GC−MS装置により分析した。その操作条件は以下の通りである。
【0031】
カラム:SPB−5(Supelco社製キャピラリーカラム、内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(20mL/分で、19:1のスプリット)
カラム温度:50℃で10分、15℃/分で80℃、25℃/分で300℃、300℃で2分
インジェクター温度:250℃
試料注入量:1μL
培養液の濁度測定の結果、本菌株は培養3日目では生育しているとは言えないが培養6日目ではOD600値は比較的低いものの生育が確認できた。GC−MS分析においては、保持時間(2.8分)及び質量フラグメント開裂パターンが市販標準品(和光純薬)と一致したため、1−ペンタノールと同定した。1−ペンタノールの生成量は3、6、7日目の培養液においてそれぞれ31、204、516ppmであった。以上の結果を表4にまとめた。反応収率は培養7日目で5.2%であった。
【0032】
【表4】
【0033】
次に、n−ペンタン濃度を1、2、5%として、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp. )PN4株を培養し、その生育と1−ペンタノールの生成量を調べた。その結果、n−ペンタン濃度が2及び5%では微生物のさらなる生育は認められなかったが、1−ペンタノールの生成量はn−ペンタン濃度が2及び5%でそれぞれ276、16ppmであった。
【0034】
実施例3
ゴルドニア・エスピー( Gordonia sp. ) PN8 株による n− ペンタンからの 1− ペンタノールの生成
前記実施例2に示した方法に準じて、ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.) PN8株について1%n−ペンタン存在下の生育とそれからの1−ペンタノールの生成を検討した。
培養液の濁度測定の結果、本菌株は培養16時間目で生育しており、48時間目までOD600値で0.2程度の生育を示した。他方、1−ペンタノールの生成量は、培養16、20、26時間目においてそれぞれ11、26、28ppmであったが、48時間目では12ppmに減少した。以上の結果を表5にまとめた。反応収率は培養26時間目で0.28%であった。
【0035】
【表5】
【0036】
次に、n−ペンタン濃度を1、2、5%としてゴルドニア・エスピー(Gordonia sp. )PN8株を培養し、その生育と1−ペンタノールの生成量を調べた。その結果、n−ペンタン濃度が2及び5%では微生物のさらなる生育は認められなかったが、1−ペンタノールの生成量はn−ペンタン濃度が2及び5%でそれぞれ25、29ppmであった。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する新規な微生物が提供されるとともに、n−ペンタンを原料とし、生物学的変換方法を利用して1−ペンタノールを製造する新規な方法を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、1−ペンタノールの生物学的な製造方法、及びn−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する新規な微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルコール類は種々の用途を有する重要な一群の工業用化学物質であり、その1つである1−ペンタノールも溶媒、エステル製造の中間体、食品添加物、芳香性物質として用いられている。
【0003】
微生物を用いてアルコール類を製造する方法に関しては、例えば、アルカン資化微生物またはアルカン分解微生物を用いる方法(特許文献1参照)があり、さらにそれら微生物の酵素を用いる方法も知られている(特許文献2および特許文献3参照)。しかし、これらの文献には1−ペンタノールの製造について具体的な記載はない。またn−ペンタンを資化する微生物として、シュードモナス属微生物(非特許文献1および2参照)あるいはノカルディオイデス属微生物(非特許文献3参照)が知られているが、n−ペンタンを1−ペンタノールに変換することは確かめられていない。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−142764号公報
【特許文献2】
特開2001−275653号公報
【特許文献3】
米国特許5190870号公報
【非特許文献1】
テオ(Theo) H. M. スミツ(Smits), マルチナ ロスリスベルガー(Martina Rothlisberger), ベルナルド ウィトルト(Bernard Witholt) 及び ジャン(Jan) B. ファン バイレン(van Beilen)、「グラム陰性及びグラム陽性菌でのアルカンハイドロキシレース遺伝子の分子スクリーニング(Molecular screening for alkane hydroxylase genes in Gram−negative and Gram−positive strains.) 」、エンバイロンメンタル マイクロバイオロジー(Environmental Microbiology) 、1999年、1巻、p.307−317
【非特許文献2】
タカハシ(Takahashi), J、「シュードモナス・ブタノボラ・エスピー・ノブ)によるn−ブタンからの細胞内及び細胞外タンパク質の製造(Production of intracellular and extracellular protein from n−butane by Pseudomonas butanovora sp. nov.)」、アドバンシーズ・イン・アプライド・マイクロバイオロジー(Advances in Applied Microbiology)、1980年、26巻、p.117−127
【非特許文献3】
ナツコ・ハマムラ(Natsuko Hamamura), クリス(Chris) M. イーガー(Yeager) 及びダニエル(Daniel) J. アルプ(Arp)、「ノカルディオイデス・エスピー株CF8におけるアルカン酸化のための2つの異なるモノオキシゲナーゼ(Two distinct monooxygenases for alkane oxidation in Nocardioides sp. strain CF8.)」、アプライド・アンド・エンバイロンメンタル・マイロクバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)、2001年、67巻、p.4992−4998
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、n−ペンタンを原料とし、生物学的変換方法を利用して1−ペンタノールを製造する新規な方法を提供すること、及びこの方法に利用可能なn−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する新規な微生物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために広範な微生物群からn−ペンタンの1位水素原子を水酸基に変換しうる微生物を探索した。その結果、細菌に分類されるミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物およびゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物が前記変換能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従って、本発明は、以下の(1)〜(7)に関する。
(1)n−ペンタンから1−ペンタノールを製造する方法であって、下記工程(A)及び(B)を含むことを特徴とする製造方法。
(A)n−ペンタンの存在下で、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属し、かつn−ペンタンを1−ペンタノールに変換しうる菌株をインキュベーションする工程。
(B)工程(A)で得られるインキュベーション液から1−ペンタノールを採取する工程。
【0008】
(2)前記ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する菌株がミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株 (FERM P−19197)である前記(1)記載の製造方法。
(3)前記ゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株がゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株 (FERM P−19196)である前記(1)記載の製造方法。
(4) n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物。
(5)ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株 (FERM P−19197)である(4)に記載の微生物。
(6)n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物。
(7)ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株 (FERM P−19196) である(6)に記載の微生物。
【0009】
本発明者らは、前述のように、細菌に分類されるミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する菌株およびゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株がn−ペンタンの1位水素原子を水酸基に変換しうることを見出した。本発明者らが知る限り、これまで、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する菌株およびゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株に、n−ペンタンの1位水素原子を水酸基に変換して、1−ペンタノールを生産するものは知られていない。本発明者らが新たに見出した微生物は、いずれも土壌から分離されたミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株及びゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株である。
【0010】
ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年1月31日付けでMicrobacterium sp. PN4として寄託されている(受託番号 FERM P−19197)。またゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株は、同じく独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年1月31日付けでGordonia sp. PN8として寄託されている(受託番号 FERM P−19196))。
【0011】
なお、上記2つの菌株の菌学的性状は表1〜3に示すとおりである。尚、各菌株の同定については後述の実施例において詳述する。
【0012】
【表1】
【0013】
【表2】
【0014】
【表3】
【0015】
本発明の製造方法では、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物であって、n−ペンタンを1−ペンタノールへ変換する能力を有する微生物であれば、種および株の種類を問うことなく使用できる。但し、好ましい微生物としては、いずれも土壌から分離されたミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株またはゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株を挙げることができる。
【0016】
本発明の製造方法においては、まず工程(A)において、出発原料(基質)であるn−ペンタンの存在下で、前記菌株がインキュベーションされる。このインキュベーションは、酸素含有雰囲気下で行うことができる。具体的には、菌株の好気的条件下でのインキュベーションは、培養液中に基質であるn−ペンタンを添加し、酸素を含む気体、例えば空気を通気しながら行うこともできる。
【0017】
培養液への基質の添加は、培養開始前に行なう。
上記菌体は、例えば、上記いずれかの菌株を栄養源含有培地に接種し、好気的に培養することにより製造できる。基質が添加された状態で行われる菌株の培養は、原則的には一般微生物の培養方法に準じて行うことができる。但し、通常は液体培養による振とう培養、通気攪拌培養などの好気的条件下で実施するのが好ましい。
【0018】
工程(A)のインキュベーション及びそれに供する菌株の培養に用いられる培地としては、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、半合成培地、天然培地などいずれも利用可能である。培地組成としては炭素源としての、n−アルカン、グルコース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、フルクトース、グリセリン、デキストリン、澱粉、糖蜜、大豆油等を単独または組み合わせて用いることができる。但し、n−ペンタンを水酸化し1−ペンタノールを生産する能力が高い菌体を得るためにはn−アルカン、中でも特にn−ペンタンを単独で用いることが好ましい。
【0019】
窒素源としては、ペプトン、肉エキス、グルテンミール、カゼイン、アミノ酸、酵母エキス、尿素等の有機窒素源、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を単独または組み合わせて用い得る。その他、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、硫酸銅、硫酸鉄、塩化マンガン、塩化コバルト等の塩類、重金属類塩、ビタミンBおよびビオチン等のビタミン類も必要に応じ添加使用することができる。
【0020】
工程(A)のインキュベーション及びそれに供する菌株の培養条件は、該菌株が良好に生育して、n−ペンタンを水酸化し1−ペンタノールを生産し得る範囲内で適宜選択し得る。例えば培地のpHは5〜9程度、通常中性付近とするのが望ましい。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは26〜30℃に保つのが良い。培養日数は1〜8日程度で、通常2〜5日程度である。上述した各種の培養条件は、使用微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、最適条件を選択できるのはいうまでもない。
【0021】
工程(A)において、基質となるn−ペンタンは、通常液体のまま培養液に添加する。 その添加量は、例えば、培養液の場合、培養液1L当り10g程度が好ましい。基質添加後は、28℃で約1〜7日間、振とうあるいは通気攪拌などの操作を行い、好気的条件下で反応を進行させることにより基質であるn−ペンタンを目的の1−ペンタノールに変換することができる。
【0022】
次に、工程(B)において、前記工程(A)で得られたインキュベーション液から目的の1−ペンタノールを採取する。1−ペンタノールを工程(A)の反応混合物から単離するには、一般にアルカノール類を発酵産物から単離するために用いられる種々の既知精製手段(例えば、有機溶媒による抽出や蒸留)を選択、組合せて行うことができる。
例えば、インキュベーション液にジエチルエーテル、酢酸エチル等の有機溶媒を加えて撹拌し、1−ペンタノールを抽出する。このときインキュベーション液に塩類(例えば、塩化ナトリウム等)、酸類(例えば、硫酸等)を加えてインキュベーション液のイオン強度を高めると1−ペンタノールの有機溶媒への抽出率が向上する。その後、用いた有機溶媒と1−ペンタノールの沸点の差を利用して蒸留し、目的の1−ペンタノールを精製することができる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明について具体例を挙げてより詳細に説明するが、本発明をこれらの例に限定することを意図するものではない。
【0024】
実施例1
微生物の取得及び同定
[1]n−ペンタン資化微生物の分離
n−ペンタンを唯一の炭素源とした培地を用いて集積培養を行ない、n−ペンタン資化微生物を弊社の工場プラント周辺の土壌から2株分離した。この2株の微生物をPN4株及びPN8株と命名した。その詳細を以下に示した。
(1)培地組成
炭素源のn−ペンタンを下記の組成の無機塩類溶液に加えたものを培地とした。n−ペンタンについては予め別にろ過滅菌して、液体培地(スクリューキャップ付試験管を用いて調製)の際はそのまま液体として添加した。平板培地(1.5%寒天及びシャーレを用いて調製)の際は、小型バイアルに詰めた脱脂綿にn−ペンタンを染み込ませ蒸気として培地系へ供給した。n−ペンタンの培地系への添加は、微生物の植菌後に行なった。
【0025】
(NH4)2SO4 1.0 g
MgSO4・7H2O 0.1 g
KH2PO4 0.5 g
K2HPO4 1.0 g
NaCl 5.0 g
微量ミネラル溶液 1.0 mL
脱イオン水 1000mL
但し、微量ミネラル溶液の組成は次の通りである(脱イオン水1000mL当りの各成分量を表記)。
ZnSO4・7H2O 100mg
H3BO3 300mg
CaCl2・6H2O 200mg
FeSO4・7H2O 2000mg
CuCl2・2H2O 10mg
Na2MoO4・2H2O 30mg
NiCl2・6H2O 20mg
MnCl2・4H2O 30mg
【0026】
(2)培養条件
液体培養は28℃にて回転数220rpmで振とうして行ない、平板培養は28℃にて静置して行なった。
【0027】
(3)分離手順
▲1▼滅菌水2mLにミクロスパーテル1杯分の土壌を懸濁して、その懸濁液の1白金耳分を前記平板培地に塗布し最長11日間まで微生物を培養した。
▲2▼生育してきた微生物をn−ペンタンを供給する系と供給しない系でそれぞれ平板培養し、前者の系における生育が後者の系におけるそれと比べて良好な微生物を分離した。
▲3▼分離微生物について、1%n−ペンタンの有無による液体培地での生育を同様に比較した。まず分離微生物をブイヨン(肉汁)液体培地2mLで前培養(28℃、220rpm)し、この培養物10μLをn−ペンタンが存在する系と存在しない系の各液体培地2mLに植菌して最長11日間培養した。
▲4▼上記▲3▼において、n−ペンタン存在下で良好に生育した微生物をn−ペンタン資化微生物とした。
【0028】
[2]取得したn−ペンタン資化微生物の同定
分離されたn−ペンタン資化微生物のゲノムDNAをFastPrep FP120 Instrument及びFast DNA Kit(フナコシ社)を用いて抽出した。この抽出DNAを鋳型として、9F:5’−GTGTTTGATCCTGGCTCAG、536R:5’−GTATTACCGCGGCTGCTGプライマー及びTaKaRa LA Taq、TaKaRa PCR Thermal Cycler PERSONAL(TaKaRa)を用いたPCR反応により、16S rDNA遺伝子の一部(500bp)を増幅した。増幅産物の塩基配列をABI PRISM 310(アプライドバイオシステムズ社)を用いて解析し、系統解析を行なった。その結果、PN4株はミクロバクテリウム(Microbacterium)属細菌に、PN8株はゴルドニア(Gordonia)属細菌に近縁であることが示唆された。
これら2株は新規なn−ペンタン資化微生物と考えられた。さらに、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp. )PN4株はn−アルカン資化微生物としても新規であると考えられた。
【0029】
[3]取得したn−ペンタン資化微生物の各種n−アルカンの資化性
ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.) PN4株及びゴルドニア・エスピー(Gordonia sp. )PN8株について、それぞれの菌株の1白金耳量の菌体を保存用スラントからブイヨン液体培地2mLに植菌し、28℃及び220rpmで3日間の前培養を行なった。この前培養物10μLを1%の各種n−アルカン(炭素数5〜16)を含む液体培地2mLに添加して最長8日間培養した。その結果、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株は炭素数5のn−ペンタンの他に炭素数10〜16のn−アルカンで、ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp. )PN8株は供試した全てのn−アルカンで良好な生育を示した。
【0030】
実施例2
ミクロバクテリウム・エスピー( Microbacterium sp. ) PN4 株による n− ペンタンからの 1− ペンタノールの生成
ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp. )PN4株を保存用スラントからブイヨン液体培地2mLに1白金耳分の菌量を植菌し、28℃及び220rpmで3日間の前培養を行なった。この前培養物10μLを1%n−ペンタンを含む液体培地2mLに添加して培養した。
培養液を経時的に採取して、培養液の濁度の測定、n−ペンタン代謝産物の同定及び定量を行なった。培養液の濁度は生育した微生物の菌体濃度の指標であり、600nm光を用いて測定しOD600で表した。代謝産物は培養液から抽出してガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)により検出及び定量した。培養液0.7mLに飽和塩化ナトリウム水溶液0.7mLと酢酸エチル(内部標準物質として30ppmの1,12−ドデカンジオールを含有)1.4mLを添加し10分間激しく振盪した。この混合液を遠心分離(3,000rpmで5分間)して、上層の酢酸エチル1.0mLを回収した。この酢酸エチル相をPerkinElmer社製のTurboMass Gold型GC−MS装置により分析した。その操作条件は以下の通りである。
【0031】
カラム:SPB−5(Supelco社製キャピラリーカラム、内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(20mL/分で、19:1のスプリット)
カラム温度:50℃で10分、15℃/分で80℃、25℃/分で300℃、300℃で2分
インジェクター温度:250℃
試料注入量:1μL
培養液の濁度測定の結果、本菌株は培養3日目では生育しているとは言えないが培養6日目ではOD600値は比較的低いものの生育が確認できた。GC−MS分析においては、保持時間(2.8分)及び質量フラグメント開裂パターンが市販標準品(和光純薬)と一致したため、1−ペンタノールと同定した。1−ペンタノールの生成量は3、6、7日目の培養液においてそれぞれ31、204、516ppmであった。以上の結果を表4にまとめた。反応収率は培養7日目で5.2%であった。
【0032】
【表4】
【0033】
次に、n−ペンタン濃度を1、2、5%として、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp. )PN4株を培養し、その生育と1−ペンタノールの生成量を調べた。その結果、n−ペンタン濃度が2及び5%では微生物のさらなる生育は認められなかったが、1−ペンタノールの生成量はn−ペンタン濃度が2及び5%でそれぞれ276、16ppmであった。
【0034】
実施例3
ゴルドニア・エスピー( Gordonia sp. ) PN8 株による n− ペンタンからの 1− ペンタノールの生成
前記実施例2に示した方法に準じて、ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.) PN8株について1%n−ペンタン存在下の生育とそれからの1−ペンタノールの生成を検討した。
培養液の濁度測定の結果、本菌株は培養16時間目で生育しており、48時間目までOD600値で0.2程度の生育を示した。他方、1−ペンタノールの生成量は、培養16、20、26時間目においてそれぞれ11、26、28ppmであったが、48時間目では12ppmに減少した。以上の結果を表5にまとめた。反応収率は培養26時間目で0.28%であった。
【0035】
【表5】
【0036】
次に、n−ペンタン濃度を1、2、5%としてゴルドニア・エスピー(Gordonia sp. )PN8株を培養し、その生育と1−ペンタノールの生成量を調べた。その結果、n−ペンタン濃度が2及び5%では微生物のさらなる生育は認められなかったが、1−ペンタノールの生成量はn−ペンタン濃度が2及び5%でそれぞれ25、29ppmであった。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する新規な微生物が提供されるとともに、n−ペンタンを原料とし、生物学的変換方法を利用して1−ペンタノールを製造する新規な方法を提供することができる。
Claims (7)
- n−ペンタンから1−ペンタノールを製造する方法であって、下記工程(A)及び(B)を含むことを特徴とする製造方法。
(A)n−ペンタンの存在下で、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属またはゴルドニア(Gordonia)属に属し、かつn−ペンタンを1−ペンタノールに変換しうる菌株をインキュベーションする工程。
(B)工程(A)で得られるインキュベーション液から1−ペンタノールを採取する工程。 - 前記ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する菌株がミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株 (FERM P−19197)である請求項1記載の製造方法。
- 前記ゴルドニア(Gordonia)属に属する菌株がゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株 (FERM P−19196)である請求項1記載の製造方法。
- n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物。
- ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)PN4株 (FERM P−19197)である請求項4に記載の微生物。
- n−ペンタンの1−ペンタノールへの変換能を有する、ゴルドニア(Gordonia)属に属する微生物。
- ゴルドニア・エスピー(Gordonia sp.)PN8株 (FERM P−19196) である請求項6に記載の微生物。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003050682A JP2004254630A (ja) | 2003-02-27 | 2003-02-27 | 生物学的変換方法による1−ペンタノールの製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003050682A JP2004254630A (ja) | 2003-02-27 | 2003-02-27 | 生物学的変換方法による1−ペンタノールの製造方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004254630A true JP2004254630A (ja) | 2004-09-16 |
Family
ID=33116032
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003050682A Pending JP2004254630A (ja) | 2003-02-27 | 2003-02-27 | 生物学的変換方法による1−ペンタノールの製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004254630A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN115109717A (zh) * | 2022-05-19 | 2022-09-27 | 自然资源部第三海洋研究所 | 高效降解聚苯乙烯塑料的戈登氏菌属菌株 |
-
2003
- 2003-02-27 JP JP2003050682A patent/JP2004254630A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN115109717A (zh) * | 2022-05-19 | 2022-09-27 | 自然资源部第三海洋研究所 | 高效降解聚苯乙烯塑料的戈登氏菌属菌株 |
CN115109717B (zh) * | 2022-05-19 | 2023-05-30 | 自然资源部第三海洋研究所 | 高效降解聚苯乙烯塑料的戈登氏菌属菌株 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JPH0412110B2 (ja) | ||
JP2012143238A (ja) | 新規微生物、当該新規微生物を用いたドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチルナフト[2,1−b]フラン中間体の製造方法 | |
KR101714967B1 (ko) | 신규한 메틸로모나스 속(Methylomonas sp.) 균주 및 이의 용도 | |
WO2004050890A1 (ja) | マクロライド系化合物の製造方法 | |
JPH0365192A (ja) | 1,3―プロパンジオールの発酵的製法 | |
JP6521243B2 (ja) | 3−ヒドロキシ酪酸又はその塩の好気的生産方法 | |
JP2009148211A (ja) | D−アラビトールの発酵製造方法及びその実施に用いる微生物 | |
JP5113379B2 (ja) | 新規微生物、当該新規微生物を用いたドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチルナフト[2,1−b]フラン中間体の製造方法 | |
KR0136574B1 (ko) | 발효에 의한 2-(4-히드록시페녹시)프로피온산의 제조 방법 | |
JP6524114B2 (ja) | アウレオバシジウム プルランス(aureobasidium pullulans)の株からラクトンを生成する方法 | |
JP2004254630A (ja) | 生物学的変換方法による1−ペンタノールの製造方法 | |
CN107794282B (zh) | 一种克唑替尼手性中间体的制备方法及菌株 | |
JP5721162B2 (ja) | 高純度乳酸の製造方法 | |
JP3245254B2 (ja) | 新規微生物及びこれを用いるヌートカトンの製造法 | |
JP3123428B2 (ja) | 微生物によるクロロヒドリンの光学分割方法 | |
JPS61254194A (ja) | 4−(2−メトキシエチル)−フエニルグリシジルエ−テル及び/又はメトプロロ−ルの製造法 | |
JP3957053B2 (ja) | 新規な微生物及びプラバスタチンの製造方法 | |
JP2009148212A (ja) | マンニトールの発酵製造方法及びその実施に用いる微生物 | |
JP4439079B2 (ja) | プラバスタチンの製造方法 | |
JP4449015B2 (ja) | シクロスポリン誘導体の製造方法 | |
WO2000023608A1 (en) | Preparation of amino alcohols | |
JPH0378106B2 (ja) | ||
JP3010850B2 (ja) | (s)−(+)−3−ハロ−1,2−プロパンジオールおよび/または(s)−(−)−2,3−ジハロ−1ープロパノールの製造法 | |
JPH0378107B2 (ja) | ||
JPH0378104B2 (ja) |