JP2004253183A - 電解質膜の製造方法および燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】直接アルコール形燃料電池用電解質膜におけるメタノールの透過・膨潤という問題点を解消し、生産性が高く安価で、かつ燃料電池として運転した場合の耐久性に優れる電解質膜の提供。
【解決手段】多孔性基材の細孔にイオン交換基を有するポリマーを充填してなり、当該ポリマーが、イオン交換基含有モノマーから得られるか、または当該モノマーと架橋剤との混合物から得られたもので、その製造過程において予め放射線、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射、またはプラズマ、オゾン、コロナ放電等の処理を行なって活性化した多孔性基材にポリマー前駆体を充填し、さらにポリマー前駆体を重合する際に電子線を照射することを特徴とする電解質膜の製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】多孔性基材の細孔にイオン交換基を有するポリマーを充填してなり、当該ポリマーが、イオン交換基含有モノマーから得られるか、または当該モノマーと架橋剤との混合物から得られたもので、その製造過程において予め放射線、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射、またはプラズマ、オゾン、コロナ放電等の処理を行なって活性化した多孔性基材にポリマー前駆体を充填し、さらにポリマー前駆体を重合する際に電子線を照射することを特徴とする電解質膜の製造方法。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電解質膜に関するもので、当該電解質膜は電気化学装置用、特に燃料電池用として好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
高分子電解質膜を用いた電気化学装置の一種である燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しくなり、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。この内、高分子電解質膜を用いた燃料電池(固体高分子形燃料電池)は、膜の表面に酸化、還元触媒を有する反応層を形成した構造を有している。固体高分子形燃料電池においては燃料極において、水素分子がプロトンと電子に分解される反応が起き、発生した電子は電線を通って電気部品を作動させて酸素極側に運ばれ、酸素極においては酸素とプロトンと燃料極から電線を通って運ばれてきた電子から水が生成する。また直接メタノール形燃料電池(DMFC)においては燃料極にはメタノールと水が供給され、膜近傍の触媒によってメタノールと水を反応させてプロトンを取り出す。これらの燃料電池には通常ポリパーフルオロアルキルスルホン酸からなる電解質膜が使用される。
【0003】
しかしながら、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸膜は、直接メタノール形燃料電池等の溶液状燃料を直接電池セルに供給する燃料電池に用いると、メタノール等の燃料が膜を通過してしまいエネルギーロスが生じるという問題があり、またメタノール等の燃料により膨潤して膜面積が大きく変化するため、電極と膜の接合部が剥がれる等の不具合を生じ易く、燃料濃度が上げられないという問題もある。また、フッ素原子を有することで材料自体の価格が高く、製造工程が複雑で生産性が低いため非常に高価であるという経済的問題もある。
【0004】
このため、直接メタノール形燃料電池としたときのメタノール透過を抑制し、しかも安価な炭化水素骨格からなる高分子電解質膜が求められていた。本発明者等による特許文献1において開示された燃料電池用電解質膜は、多孔性基材に安価なプロトン伝導性ポリマーを充填してなるもので、多孔性基材がポリイミド、架橋ポリエチレン等、外力に対して変形し難い材料から形成されるため、孔内に充填されたプロトン伝導性ポリマーのメタノール水溶液による過度な膨潤を防ぐことができ、その結果、メタノールの透過を抑制することができるものである。しかしながら直接メタノール形燃料電池として連続運転した場合の耐久性は充分でなかった。これに対し本発明者らは特願2002−311929において孔内に充填するポリマーの架橋剤配合割合を増やすことで耐久性が向上することを提案しているが、さらに耐久性を高めることが求められていた。
【0005】
多孔性基材の表面処理方法としては、親水化多孔質膜の製造方法や2次電池用セパレータの電解液保持性を向上する等の目的で、プラズマを照射する方法(例えば、特許文献2)、電子線を照射する方法(例えば、特許文献3、4、5)、紫外線を照射する方法(例えば、特許文献6、7)、コロナ放電等で処理をする方法(例えば、特許文献8)が知られていた。
また、ビニル系モノマーの重合手段として電子線を用いることも知られている(例えば、特許文献9)。
しかし、これらは、いずれも燃料電池の耐久性に言及するものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−83612号公報
【特許文献2】特開平3−98632号公報
【特許文献3】特開平7−138391号公報
【特許文献4】特開平7−279052号公報
【特許文献5】特開平9−31226号公報
【特許文献6】特開2000−273229号公報
【特許文献7】特開2002−167463号公報
【特許文献8】特開昭53−62138号公報
【特許文献9】特開平6−271687号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような燃料電池用電解質膜におけるメタノールの透過・膨潤という問題点を解消し、生産性が高く安価で、かつ燃料電池として運転した場合の耐久性に優れる電解質膜を提供すべく検討を行なったものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、多孔性基材の細孔にイオン交換基を有するポリマーを充填してなり、当該ポリマーが、イオン交換基を有しているか、イオン交換基に変換し得る官能基を有しているか、または重合後にイオン交換基を導入可能な部位を有するモノマー(以下、「イオン交換基含有モノマー」と総称する。)から得られるか、または当該モノマーと架橋剤との混合物(以下、「ポリマー前駆体」と総称する。)から得られたもので、その製造過程において予め放射線、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射、またはプラズマ、オゾン、コロナ放電等の処理を行なって活性化した多孔性基材にポリマー前駆体を充填し、さらにポリマー前駆体を重合する際に電子線を照射して作成した電解質膜が、基材の処理またはポリマー前駆体重合時のいずれか一方のみに電子線照射を採用した場合からは予測し得ない顕著な耐久性向上効果が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子電解質膜は、多孔性基材の細孔にイオン交換基を有するポリマーを充填しており、このような高分子電解質を充填してなる電解質膜の耐久性を向上させ、かつ従来のフッ素系電解質膜に比べてメタノール透過性が抑制できるものである。
【0010】
本発明で用いる多孔性基材は、メタノールおよび水に対して実質的に膨潤しない材料であることが好ましく、特に乾燥時に比べて水による湿潤時の面積変化が少ないか、ほとんどないことが望ましい。多孔性基材をメタノールまたは水に浸したときの面積増加率は、浸漬時間や温度によって変化するが、本発明では25℃における純水に1時間浸漬したときの面積増加率が、乾燥時に比較して最大でも20%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の多孔性基材は、引張り弾性率が500〜5000MPaであるものが好ましく、更に好ましくは1000〜5000MPaであり、また破断強度が50〜500MPaを有するのが好ましく、更に好ましくは100〜500MPaである。
これらの範囲を低い方に外れると充填したポリマーのメタノールや水により膨潤しようとする力によって膜が変形し易くなり、高い方に外れると基材が脆くなり過ぎて電極接合時のプレス成形や電池に組み込む際の締付け等によって膜がひび割れたりし易い。また、多孔性基材は燃料電池を運転する際の温度に対して耐熱性を有するものがよく、外力が加えられても容易に延びないものがよい。
そのような性質を持つ材料として、芳香族ポリイミド、アラミド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチック、ポリオレフィンを放射線の照射や架橋剤を加えて架橋したり延伸する等の方法で、外力に対して延び等の変形をし難くしたポリマーが挙げられる。これらの材料は単独で用いても2種以上を積層する等の方法で複合化して用いてもよい。
【0012】
これらの多孔性基材の中では、延伸ポリオレフィン、架橋ポリオレフィン、延伸後架橋されたポリオレフィンからなるものは入手が容易で充填工程の作業性が良く好ましい。
【0013】
上記のようにして得られる本発明の多孔性基材の空孔率は、5〜95%が好ましく、更に好ましくは5〜90%、特に好ましくは20〜80%である。また平均孔径は0.001〜100μmの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.01〜1μmの範囲である。空孔率が小さすぎると面積当たりのイオン交換基が少なすぎて燃料電池としては出力が低くなり、大きすぎると膜強度が低下し好ましくない。更に基材の厚さは200μm以下が好ましい。より好ましくは1〜150μm、更に好ましくは5〜100μm、特に好ましくは5〜50μmである。膜厚が薄すぎると膜強度が低下しメタノールの透過量も増え、厚すぎると膜抵抗が大きくなりすぎ燃料電池の出力が低いため何れも好ましくない。
【0014】
本発明の電解質膜は、多孔性基材の細孔内にイオン交換基を有するポリマーを充填してなる。当該ポリマーの充填方法は、ポリマー前駆体またはその溶液若しくは分散液を多孔性基材に含浸させ、その後に重合させることによって得ることができる。その際、充填するポリマー前駆体またはその溶液等には必要に応じて重合開始剤、触媒、硬化剤、界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0015】
また多孔性基材の処理は放射線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線の照射、またはプラズマ、オゾン、コロナ放電での処理のいずれかまたはその組み合わせにより行なう。
紫外線を照射する場合は、多孔性基材に予め紫外線によりラジカルを発生するラジカル系光重合開始剤を付着させておくことが好ましい。ラジカル発生剤の溶剤溶液を、多孔性基材を接触させてから溶剤を除去することによって付着させると孔内にも均一に付着させることができ好ましい。
【0016】
ラジカル系光重合開始剤としては、一般に紫外線重合に利用されているベンゾフェノン、チオキサントン、チオアクリドン等の炭素水素結合から水素を引き抜くことによってラジカルを発生する芳香族ケトン系ラジカル重合開始剤が好ましい。
当該化合物としては具体的に、ベンゾフェノン系として、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4‘−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキシ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等;チオキサントン系としてチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン等;チオアクリドン系としてチオアクリドン等;ベンゾイン系として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等;アセトフェノン系として、アセトフェノン、プロピオフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モンフォリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−ヒドロキシジ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等;ベンジル等のベンジル系化合物が挙げられる。
これら光重合開始剤を使用する際は、溶剤に溶解して用いるのが好ましく、その場合の好ましい濃度は0.01%〜10%、さらに好ましくは0.1%〜5%である。上限を超えた場合は多孔質基材に付着するラジカル発生剤が多すぎて結晶が析出し部分的に孔をふさいでしまう結果、ポリマーの充填が不十分となり易く、下限を下回った場合は付着量が少なすぎて十分な効果が得られないことがある。
【0017】
また本工程においてより好ましい処理方法は電子線の照射である。電子線は基材に対する透過性が強く、照射条件によっては炭化水素系ポリマーからなる基材に架橋構造を付与することができる。またラジカル系光重合開始剤等を用いることなく使用することができるという長所も有する。
架橋構造が付与されると多孔質基材が硬くなり、充填されたポリマーが膨潤しても寸法安定性を保つことができる。
【0018】
本発明において工程(1)および/または工程(3)で電子線を用いる場合、照射する電子線の加速電圧は150〜500KeVの範囲が好ましく、照射量はそれぞれ0.1Mrad〜500Mradの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは1Mrad〜200Mradが好ましい。また工程(1)および工程(3)で照射する電子線の照射量の合計は1Mrad〜600Mradの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは2Mrad〜200Mradがよい。加速電圧が低すぎると電子線の発生が行なわれ難く、加速電圧が高すぎると基材の劣化による強度低下等の問題が発生する。また照射量は0.1Mrad未満では十分な重合ができず、各工程の照射量が500Mradを超えたり、合計照射量が600Mradを超えたりした場合は基材の劣化により膜強度が低下し易く何れも好ましくない。
【0019】
工程(1)および工程(3)は、必要に応じて窒素等の不活性ガス雰囲気下で行なうか、減圧下で行うか、多孔性基材の片面または両面にフィルム状の保護剤を重ね合わせて行なうことが好ましく、これらを組み合わせることもできる。これらはラジカル重合を阻害する空気中の酸素を遮断する効果がある。また工程(3)においてはフィルム状のものを両面に重ね合わせると、細孔内のポリマー前駆体またはその溶液等が表面や周辺部で先に重合した部分に吸収されて欠陥が生じる等の問題をなくし、均一な電解質膜を得ることができ特に好ましい。このようなフィルム状保護剤の材質は特に限定しないが、ガラス板、金属箔、プラスチックフィルム等が使用できる。この内ガラス、金属等の無機物は電子線を透過させる際の減衰量が多いので多くの照射量を必要となるため、好ましくはPET、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックフィルムである。これらのフィルムはシリコーン等の剥離剤で表面を処理したものがさらに好ましい。
【0020】
本発明で使用されるポリマー前駆体の成分であるイオン交換基含有モノマーとしては、プロトン酸性基含有モノマーが燃料電池用電解質膜とした際の性能が良く好ましく、このモノマーは、一分子中に重合可能な官能基とプロトン酸を有する化合物である。その具体例としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、ビニルホスホン酸、酸性リン酸基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、イオン交換基に変換し得る官能基を有するモノマーは、上記化合物の塩、無水物、エステル等である。使用するモノマーの酸残基が塩、無水物、エステル等の誘導体となっている場合は重合後にプロトン酸型にすることでプロトン伝導性を付与することができる。
また、重合後にイオン交換基を導入可能な部位を有するモノマーとしては、スチレン、α―メチルスチレン、クロロメチルスチレン、t−ブチルスチレン等のベンゼン環含有モノマーが好ましく使用できる。これらにイオン交換基を導入する方法はクロロスルホン酸、濃硫酸、三酸化硫黄等のスルホン化剤でスルホン化する方法等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」を、「(メタ)アリル」は「アリルおよび/またはメタリル」を、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を示している。
これらの化合物のうち、スルホン酸基含有ビニル化合物またはリン酸基含有ビニル化合物がプロトン伝導性に優れるため好ましく、2−メチルプロパン−2−(メタ)アクリルアミドスルホン酸が、高い重合性を有しており更に好ましい。
【0021】
本発明で使用されるポリマー前駆体としては、イオン交換基含有モノマーに架橋剤を配合した混合物が好ましい。架橋剤として使用可能な化合物は、一分子中に重合可能な官能基を2個以上有するものであり、上記のプロトン酸性基含有モノマー若しくはその塩等と配合して重合することによってポリマー中に架橋点を形成し、ポリマーを不溶不融の3次元網目構造とすることができる。
その具体例としては、N,N‘−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルアミン、ジアリルオキシ酢酸塩等が挙げられる。
また架橋性官能基は、炭素炭素二重結合を有するものに限るものではなく、重合反応速度が遅いという点で劣るものの、2官能以上のエポキシ化合物等も使用することができる。エポキシ化合物を使用する場合はポリマー中のカルボキシル基等の酸と反応して架橋させたり、ポリマー前駆体に第三成分として水酸基等を有する共重合可能な化合物を添加しておいてもよい。これらの架橋剤は単独で使用することも、必要に応じて2種類以上を併用することも可能である。
【0022】
本発明で使用されるポリマー前駆体には、重合体の膨潤性を調整するため等、必要に応じてプロトン酸性基を有しない第三の共重合成分を配合することができる。第三成分としては本発明で用いる、イオン交換基含有モノマーおよび架橋剤と共重合が可能であれば特に限定しないが、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、スチレン類、有機酸ビニル類、アリル化合物、メタリル化合物等が挙げられる。
【0023】
本発明において、多孔性基材の細孔内部にてポリマー前駆体の中のイオン交換基含有モノマーを重合させる方法は電子線による重合であるが、電子線を照射した後に必要に応じて加熱または紫外線の照射等により後硬化工程を加えても良い、そのために予めポリマー前駆体に重合開始剤を添加しておいてもよい。
その際に使用可能な、熱開始重合、レドックス開始重合のラジカル重合開始剤としては、次のようなものが挙げられる。
2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物;上記過酸化物と、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアミジンスルフィン酸、アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤;2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ系ラジカル重合開始剤。これらラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0024】
上記後硬化手段の中では、重合反応の制御がし易く、比較的簡便なプロセスで生産性良く所望の電解質膜が得られる点で、紫外線による光開始重合が望ましい。更に光開始重合させる場合には、ラジカル系光重合開始剤を、モノマー、その溶液または分散液中に予め溶解若しくは分散させておくことがより好ましい。
ラジカル系光重合開始剤としては、一般に紫外線重合に利用されているベンゾイン、ベンジル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、チオキサントン、チオアクリドンおよびこれらの誘導体等が挙げられ、具体的には、ベンゾフェノン系として、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4‘−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキシ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等;チオキサントン系としてチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン等;チオアクリドン系としてチオアクリドン等;ベンゾイン系としてベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等;アセトフェノン系としてアセトフェノン、プロピオフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モンフォリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−ヒドロキシジ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等;ベンジル等のベンジル系化合物が挙げられる。
【0025】
これら光重合開始剤の使用量は、イオン交換基含有モノマーおよび第三成分の不飽和モノマーの総質量に対して0.001〜1質量%が好ましく、更に好ましくは0.001〜0.5質量%、特に好ましくは0.01〜0.5質量%である。またこれらの内、ベンゾフェノン、チオキサントン、チオアクリドン等の芳香族ケトン系ラジカル重合開始剤は炭素水素結合から水素を引き抜くことによってラジカルを発生することができるため多孔性基材としてポリオレフィン等の有機材料と併用すると基材表面と充填させたポリマーとの間に化学結合を形成することができ好ましい。
【0026】
本発明において多孔性基材にポリマー前駆体またはその溶液等を含浸する際は、モノマー、架橋剤、必要に応じて重合開始剤等を混合し液状にしてポリマー前駆体溶液または分散液とする方が、充填が容易となり好ましい。ポリマー前駆体が低粘度の液体である場合はそのまま含浸に用いることもできるが、濃度を10〜90%の溶液とするのが好ましく、20〜70%の溶液とするのが更に好ましい。
また使用する成分に水に難溶のものが含まれる場合は水の一部または全部を有機溶剤に置き換えてもよいが、有機溶剤を使用する場合は電極を接合する前に有機溶剤を全て取り除く必要があるため水溶液の方が好ましい。このように溶液状にして含浸する理由は、水あるいは溶剤に溶解して含浸に用いることにより微細な孔を有する多孔性基材への含浸が行い易くなることと、予め膨潤したゲルを細孔内に作ることによって、製造した電解質膜を燃料電池にした場合に水あるいはメタノールが細孔内の重合体を膨潤させすぎて重合体が抜け落ちるのを防止する効果があるためである。
【0027】
また含浸作業をより行い易くする目的で、多孔性基材の親水化処理、ポリマー前駆体溶液への界面活性剤の添加、あるいは含浸中における超音波の照射も行うことができる。
【0028】
本発明で製造した電解質膜は、固体高分子形燃料電池、特に直接メタノール形燃料電池に好ましく用いることができる。このような燃料電池に電解質膜を用いる際は白金に代表される触媒を付与した2枚の電極間に電解質膜を挟んで加熱プレス等によって一体化した電解質膜電極接合体(MEA)とし、燃料電池セルに組み込んで使用することは広く知られており、本発明による電解質膜も同様の方法によってMEAを作成し、燃料電池セルに組み込んで使用することができる。
【0029】
【作用】
本発明による電解質膜は、基材の活性化処理と充填したポリマー前駆体を電子線で重合することを組み合わせることによって、これらの処理を単独で行なった場合の効果を総和した場合と比較して、耐久性が著しく向上するものである。その理由は定かでないが、基材を活性化処理することによって細孔表面に過酸化物等の官能基が形成し、充填して形成させたポリマーとの化学的結合が多くできることで細孔からのポリマーの脱落が防止できること、さらに重合時に用いる電子線によって通常のラジカル重合による化学結合以外による架橋点が多く発生する等の相乗効果がその一因と推察される。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
多孔性基材として架橋ポリエチレン膜(厚さ16μm、空孔率40%、平均孔径約0.1μm)を用い、この基材に予め加速電圧165KeVで電子線を裏表からそれぞれ10Mrad照射した。次に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド5g、ノニオン性界面活性剤0.005g、水50gからなるポリマー前駆体水溶液に、前記多孔性膜を浸漬し当該水溶液を充填させた。次いで、多孔性基材を溶液から引き上げた後、PETフィルムで挟んで加速電圧165KeVで電子線を裏表からそれぞれ10Mrad(全電子線照射量40Mrad)照射した。
得られた膜の耐久性を短期的に評価する方法として、過酸化水素と2価の鉄イオン溶液へ20時間浸漬し、その前後の乾燥重量変化から充填したポリマーの重量減少を測定した。後述の比較例1の基材のみ電子線を照射した場合、および比較例2の重合時のみ電子線を用いた場合と比べ、大幅に耐久性が向上していた。また得られた膜を触媒付き電極で挟んで熱プレスしてMEAとし、直接メタノール形燃料電池として評価したところ良好な発電性能を示し、この電池に一定の負荷をかけて連続運転による耐久性評価をした。これらの評価結果を表1にまとめた。
【0031】
(実施例2)
多孔性基材の処理方法がプラズマ処理であること以外は実施例1と同様にして電解質膜を作成し評価を行った。プラズマ照射はアルゴンガス雰囲気中、高周波出力30Wで60秒間照射を行なった。
【0032】
(実施例3)
多孔性基材の処理方法が紫外線処理であり、重合時の電子線の裏表からそれぞれ30Mrad(合計60Mrad)照射したこと以外は実施例1と同様にして電解質膜を作成し評価を行った。紫外線処理方法はまずトルエン100gにo−ベンゾイル安息香酸メチルを0.1gの割合で溶解した溶液中に多孔性基材を浸し、液中から取出して溶剤を揮発させた。これに窒素雰囲気下で高圧水銀ランプにより紫外線を2000mJ照射し、基材として用いた。
【0033】
(比較例1)
(基材を処理せずに使用する例)
多孔性基材として架橋ポリエチレン膜をそのまま用いたこと以外は実施例1と同様に電解質膜を作成して評価を行い、これらの評価結果を表1にまとめた。
【0034】
(比較例2)
(重合時に電子線を使用しない例)
実施例1と同様に多孔性基材に電子線を照射した。次に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド5g、過硫酸アンモニウム(加熱ラジカル重合開始剤)0.005g、ノニオン性界面活性剤0.005g、水50gからなるポリマー前駆体水溶液に、該多孔性膜を浸漬し当該水溶液を充填させた。次いで、多孔性基材膜を溶液から引き上げた後、PETフィルムで挟んで80℃で2時間かけて重合させた。
得られた膜は実施例1と同様の評価を行い、これらの評価結果を表1にまとめた。
【0035】
(比較例3)
(基材に電子線を照射し、重合は紫外線で行う例)
実施例1と同様に多孔性基材に電子線を照射した。次に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド5g、Darocure1173(チバガイギー社製、光重合開始剤)0.005g、ノニオン性界面活性剤0.005g、水50gからなるポリマー前駆体水溶液に、該多孔性膜を浸漬し当該水溶液を充填させた。次いで、多孔性基材膜を溶液から引き上げた後、PETフィルムで挟んで高圧水銀ランプにより紫外線を1000mJ照射し重合させた。得られた膜は実施例1と同様の評価を行い、これらの評価結果を表1にまとめた。
【0036】
(比較例4)
(基材の処理を行なわず、重合は紫外線で行なう例)
多孔性基材をそのまま用い。樹脂の重合は比較例3と同様紫外線でに行い電解質膜を得た。得られた膜は実施例1と同様の評価を行い、これらの評価結果を表1にまとめた。
【0037】
(燃料電池の性能評価方法)
▲1▼MEAの作成
酸素極用に白金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製:TEC10E50E)、および燃料極用に白金ルテニウム合金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製:TEC61E54)をそれぞれ用い、これらの触媒粉末に高分子電解質溶液(デュポン社製:ナフィオン5%溶液)とポリテトラフルオロエチレンディスパージョンを配合し、水を適宜加えて攪拌して反応層用塗料を得た。これをスクリーン印刷法でカーボンペーパー(東レ(株)製:TGP−H−060)の片面に印刷し乾燥して電極とした。その際酸素極側は白金量が1mg/cm2、燃料極側は白金とルテニウムの総量が3mg/cm2とした。これらを電解質膜の中央部に塗料面を内側にして重ね合せ、130℃で加熱プレスし燃料電池用膜電極接合体(MEA)を作成した。これを燃料電池単セルに組み込んで運転し、性能を確認した。
▲2▼燃料電池評価
実施例および比較例で作成したMEAを直接メタノール形燃料電池単セルに組み込んだ際の運転条件は次のとおり。燃料を1mol%メタノール水溶液、酸化剤を純酸素とした。セル温度は60℃とした。電子負荷器により0.1A/cm2の電量密度で1日10時間の運転を繰り返し電圧の変化を測定した。
また電流を流さない状態で燃料と酸素を電池に供給し、燃料側に漏れてくるガスの有無およびその程度を燃料液排出側の配管(透明)の目視により確認した。
【0038】
【表1】
【0039】
【発明の効果】
本発明の電解質膜は、従来用いられてきた炭化水素系電解質重合体を多孔性基材に充填させてなる電解質膜を使用していた際に問題となっていた耐久性の問題を向上させたものである。
このため本発明の電解質膜は、燃料電池としての出力特性と耐久性を併せ持ち燃料電池等用途として極めて有用である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、電解質膜に関するもので、当該電解質膜は電気化学装置用、特に燃料電池用として好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
高分子電解質膜を用いた電気化学装置の一種である燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しくなり、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。この内、高分子電解質膜を用いた燃料電池(固体高分子形燃料電池)は、膜の表面に酸化、還元触媒を有する反応層を形成した構造を有している。固体高分子形燃料電池においては燃料極において、水素分子がプロトンと電子に分解される反応が起き、発生した電子は電線を通って電気部品を作動させて酸素極側に運ばれ、酸素極においては酸素とプロトンと燃料極から電線を通って運ばれてきた電子から水が生成する。また直接メタノール形燃料電池(DMFC)においては燃料極にはメタノールと水が供給され、膜近傍の触媒によってメタノールと水を反応させてプロトンを取り出す。これらの燃料電池には通常ポリパーフルオロアルキルスルホン酸からなる電解質膜が使用される。
【0003】
しかしながら、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸膜は、直接メタノール形燃料電池等の溶液状燃料を直接電池セルに供給する燃料電池に用いると、メタノール等の燃料が膜を通過してしまいエネルギーロスが生じるという問題があり、またメタノール等の燃料により膨潤して膜面積が大きく変化するため、電極と膜の接合部が剥がれる等の不具合を生じ易く、燃料濃度が上げられないという問題もある。また、フッ素原子を有することで材料自体の価格が高く、製造工程が複雑で生産性が低いため非常に高価であるという経済的問題もある。
【0004】
このため、直接メタノール形燃料電池としたときのメタノール透過を抑制し、しかも安価な炭化水素骨格からなる高分子電解質膜が求められていた。本発明者等による特許文献1において開示された燃料電池用電解質膜は、多孔性基材に安価なプロトン伝導性ポリマーを充填してなるもので、多孔性基材がポリイミド、架橋ポリエチレン等、外力に対して変形し難い材料から形成されるため、孔内に充填されたプロトン伝導性ポリマーのメタノール水溶液による過度な膨潤を防ぐことができ、その結果、メタノールの透過を抑制することができるものである。しかしながら直接メタノール形燃料電池として連続運転した場合の耐久性は充分でなかった。これに対し本発明者らは特願2002−311929において孔内に充填するポリマーの架橋剤配合割合を増やすことで耐久性が向上することを提案しているが、さらに耐久性を高めることが求められていた。
【0005】
多孔性基材の表面処理方法としては、親水化多孔質膜の製造方法や2次電池用セパレータの電解液保持性を向上する等の目的で、プラズマを照射する方法(例えば、特許文献2)、電子線を照射する方法(例えば、特許文献3、4、5)、紫外線を照射する方法(例えば、特許文献6、7)、コロナ放電等で処理をする方法(例えば、特許文献8)が知られていた。
また、ビニル系モノマーの重合手段として電子線を用いることも知られている(例えば、特許文献9)。
しかし、これらは、いずれも燃料電池の耐久性に言及するものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−83612号公報
【特許文献2】特開平3−98632号公報
【特許文献3】特開平7−138391号公報
【特許文献4】特開平7−279052号公報
【特許文献5】特開平9−31226号公報
【特許文献6】特開2000−273229号公報
【特許文献7】特開2002−167463号公報
【特許文献8】特開昭53−62138号公報
【特許文献9】特開平6−271687号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような燃料電池用電解質膜におけるメタノールの透過・膨潤という問題点を解消し、生産性が高く安価で、かつ燃料電池として運転した場合の耐久性に優れる電解質膜を提供すべく検討を行なったものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、多孔性基材の細孔にイオン交換基を有するポリマーを充填してなり、当該ポリマーが、イオン交換基を有しているか、イオン交換基に変換し得る官能基を有しているか、または重合後にイオン交換基を導入可能な部位を有するモノマー(以下、「イオン交換基含有モノマー」と総称する。)から得られるか、または当該モノマーと架橋剤との混合物(以下、「ポリマー前駆体」と総称する。)から得られたもので、その製造過程において予め放射線、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射、またはプラズマ、オゾン、コロナ放電等の処理を行なって活性化した多孔性基材にポリマー前駆体を充填し、さらにポリマー前駆体を重合する際に電子線を照射して作成した電解質膜が、基材の処理またはポリマー前駆体重合時のいずれか一方のみに電子線照射を採用した場合からは予測し得ない顕著な耐久性向上効果が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子電解質膜は、多孔性基材の細孔にイオン交換基を有するポリマーを充填しており、このような高分子電解質を充填してなる電解質膜の耐久性を向上させ、かつ従来のフッ素系電解質膜に比べてメタノール透過性が抑制できるものである。
【0010】
本発明で用いる多孔性基材は、メタノールおよび水に対して実質的に膨潤しない材料であることが好ましく、特に乾燥時に比べて水による湿潤時の面積変化が少ないか、ほとんどないことが望ましい。多孔性基材をメタノールまたは水に浸したときの面積増加率は、浸漬時間や温度によって変化するが、本発明では25℃における純水に1時間浸漬したときの面積増加率が、乾燥時に比較して最大でも20%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の多孔性基材は、引張り弾性率が500〜5000MPaであるものが好ましく、更に好ましくは1000〜5000MPaであり、また破断強度が50〜500MPaを有するのが好ましく、更に好ましくは100〜500MPaである。
これらの範囲を低い方に外れると充填したポリマーのメタノールや水により膨潤しようとする力によって膜が変形し易くなり、高い方に外れると基材が脆くなり過ぎて電極接合時のプレス成形や電池に組み込む際の締付け等によって膜がひび割れたりし易い。また、多孔性基材は燃料電池を運転する際の温度に対して耐熱性を有するものがよく、外力が加えられても容易に延びないものがよい。
そのような性質を持つ材料として、芳香族ポリイミド、アラミド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチック、ポリオレフィンを放射線の照射や架橋剤を加えて架橋したり延伸する等の方法で、外力に対して延び等の変形をし難くしたポリマーが挙げられる。これらの材料は単独で用いても2種以上を積層する等の方法で複合化して用いてもよい。
【0012】
これらの多孔性基材の中では、延伸ポリオレフィン、架橋ポリオレフィン、延伸後架橋されたポリオレフィンからなるものは入手が容易で充填工程の作業性が良く好ましい。
【0013】
上記のようにして得られる本発明の多孔性基材の空孔率は、5〜95%が好ましく、更に好ましくは5〜90%、特に好ましくは20〜80%である。また平均孔径は0.001〜100μmの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.01〜1μmの範囲である。空孔率が小さすぎると面積当たりのイオン交換基が少なすぎて燃料電池としては出力が低くなり、大きすぎると膜強度が低下し好ましくない。更に基材の厚さは200μm以下が好ましい。より好ましくは1〜150μm、更に好ましくは5〜100μm、特に好ましくは5〜50μmである。膜厚が薄すぎると膜強度が低下しメタノールの透過量も増え、厚すぎると膜抵抗が大きくなりすぎ燃料電池の出力が低いため何れも好ましくない。
【0014】
本発明の電解質膜は、多孔性基材の細孔内にイオン交換基を有するポリマーを充填してなる。当該ポリマーの充填方法は、ポリマー前駆体またはその溶液若しくは分散液を多孔性基材に含浸させ、その後に重合させることによって得ることができる。その際、充填するポリマー前駆体またはその溶液等には必要に応じて重合開始剤、触媒、硬化剤、界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0015】
また多孔性基材の処理は放射線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線の照射、またはプラズマ、オゾン、コロナ放電での処理のいずれかまたはその組み合わせにより行なう。
紫外線を照射する場合は、多孔性基材に予め紫外線によりラジカルを発生するラジカル系光重合開始剤を付着させておくことが好ましい。ラジカル発生剤の溶剤溶液を、多孔性基材を接触させてから溶剤を除去することによって付着させると孔内にも均一に付着させることができ好ましい。
【0016】
ラジカル系光重合開始剤としては、一般に紫外線重合に利用されているベンゾフェノン、チオキサントン、チオアクリドン等の炭素水素結合から水素を引き抜くことによってラジカルを発生する芳香族ケトン系ラジカル重合開始剤が好ましい。
当該化合物としては具体的に、ベンゾフェノン系として、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4‘−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキシ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等;チオキサントン系としてチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン等;チオアクリドン系としてチオアクリドン等;ベンゾイン系として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等;アセトフェノン系として、アセトフェノン、プロピオフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モンフォリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−ヒドロキシジ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等;ベンジル等のベンジル系化合物が挙げられる。
これら光重合開始剤を使用する際は、溶剤に溶解して用いるのが好ましく、その場合の好ましい濃度は0.01%〜10%、さらに好ましくは0.1%〜5%である。上限を超えた場合は多孔質基材に付着するラジカル発生剤が多すぎて結晶が析出し部分的に孔をふさいでしまう結果、ポリマーの充填が不十分となり易く、下限を下回った場合は付着量が少なすぎて十分な効果が得られないことがある。
【0017】
また本工程においてより好ましい処理方法は電子線の照射である。電子線は基材に対する透過性が強く、照射条件によっては炭化水素系ポリマーからなる基材に架橋構造を付与することができる。またラジカル系光重合開始剤等を用いることなく使用することができるという長所も有する。
架橋構造が付与されると多孔質基材が硬くなり、充填されたポリマーが膨潤しても寸法安定性を保つことができる。
【0018】
本発明において工程(1)および/または工程(3)で電子線を用いる場合、照射する電子線の加速電圧は150〜500KeVの範囲が好ましく、照射量はそれぞれ0.1Mrad〜500Mradの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは1Mrad〜200Mradが好ましい。また工程(1)および工程(3)で照射する電子線の照射量の合計は1Mrad〜600Mradの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは2Mrad〜200Mradがよい。加速電圧が低すぎると電子線の発生が行なわれ難く、加速電圧が高すぎると基材の劣化による強度低下等の問題が発生する。また照射量は0.1Mrad未満では十分な重合ができず、各工程の照射量が500Mradを超えたり、合計照射量が600Mradを超えたりした場合は基材の劣化により膜強度が低下し易く何れも好ましくない。
【0019】
工程(1)および工程(3)は、必要に応じて窒素等の不活性ガス雰囲気下で行なうか、減圧下で行うか、多孔性基材の片面または両面にフィルム状の保護剤を重ね合わせて行なうことが好ましく、これらを組み合わせることもできる。これらはラジカル重合を阻害する空気中の酸素を遮断する効果がある。また工程(3)においてはフィルム状のものを両面に重ね合わせると、細孔内のポリマー前駆体またはその溶液等が表面や周辺部で先に重合した部分に吸収されて欠陥が生じる等の問題をなくし、均一な電解質膜を得ることができ特に好ましい。このようなフィルム状保護剤の材質は特に限定しないが、ガラス板、金属箔、プラスチックフィルム等が使用できる。この内ガラス、金属等の無機物は電子線を透過させる際の減衰量が多いので多くの照射量を必要となるため、好ましくはPET、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックフィルムである。これらのフィルムはシリコーン等の剥離剤で表面を処理したものがさらに好ましい。
【0020】
本発明で使用されるポリマー前駆体の成分であるイオン交換基含有モノマーとしては、プロトン酸性基含有モノマーが燃料電池用電解質膜とした際の性能が良く好ましく、このモノマーは、一分子中に重合可能な官能基とプロトン酸を有する化合物である。その具体例としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、ビニルホスホン酸、酸性リン酸基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、イオン交換基に変換し得る官能基を有するモノマーは、上記化合物の塩、無水物、エステル等である。使用するモノマーの酸残基が塩、無水物、エステル等の誘導体となっている場合は重合後にプロトン酸型にすることでプロトン伝導性を付与することができる。
また、重合後にイオン交換基を導入可能な部位を有するモノマーとしては、スチレン、α―メチルスチレン、クロロメチルスチレン、t−ブチルスチレン等のベンゼン環含有モノマーが好ましく使用できる。これらにイオン交換基を導入する方法はクロロスルホン酸、濃硫酸、三酸化硫黄等のスルホン化剤でスルホン化する方法等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」を、「(メタ)アリル」は「アリルおよび/またはメタリル」を、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を示している。
これらの化合物のうち、スルホン酸基含有ビニル化合物またはリン酸基含有ビニル化合物がプロトン伝導性に優れるため好ましく、2−メチルプロパン−2−(メタ)アクリルアミドスルホン酸が、高い重合性を有しており更に好ましい。
【0021】
本発明で使用されるポリマー前駆体としては、イオン交換基含有モノマーに架橋剤を配合した混合物が好ましい。架橋剤として使用可能な化合物は、一分子中に重合可能な官能基を2個以上有するものであり、上記のプロトン酸性基含有モノマー若しくはその塩等と配合して重合することによってポリマー中に架橋点を形成し、ポリマーを不溶不融の3次元網目構造とすることができる。
その具体例としては、N,N‘−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルアミン、ジアリルオキシ酢酸塩等が挙げられる。
また架橋性官能基は、炭素炭素二重結合を有するものに限るものではなく、重合反応速度が遅いという点で劣るものの、2官能以上のエポキシ化合物等も使用することができる。エポキシ化合物を使用する場合はポリマー中のカルボキシル基等の酸と反応して架橋させたり、ポリマー前駆体に第三成分として水酸基等を有する共重合可能な化合物を添加しておいてもよい。これらの架橋剤は単独で使用することも、必要に応じて2種類以上を併用することも可能である。
【0022】
本発明で使用されるポリマー前駆体には、重合体の膨潤性を調整するため等、必要に応じてプロトン酸性基を有しない第三の共重合成分を配合することができる。第三成分としては本発明で用いる、イオン交換基含有モノマーおよび架橋剤と共重合が可能であれば特に限定しないが、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、スチレン類、有機酸ビニル類、アリル化合物、メタリル化合物等が挙げられる。
【0023】
本発明において、多孔性基材の細孔内部にてポリマー前駆体の中のイオン交換基含有モノマーを重合させる方法は電子線による重合であるが、電子線を照射した後に必要に応じて加熱または紫外線の照射等により後硬化工程を加えても良い、そのために予めポリマー前駆体に重合開始剤を添加しておいてもよい。
その際に使用可能な、熱開始重合、レドックス開始重合のラジカル重合開始剤としては、次のようなものが挙げられる。
2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物;上記過酸化物と、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアミジンスルフィン酸、アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤;2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ系ラジカル重合開始剤。これらラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0024】
上記後硬化手段の中では、重合反応の制御がし易く、比較的簡便なプロセスで生産性良く所望の電解質膜が得られる点で、紫外線による光開始重合が望ましい。更に光開始重合させる場合には、ラジカル系光重合開始剤を、モノマー、その溶液または分散液中に予め溶解若しくは分散させておくことがより好ましい。
ラジカル系光重合開始剤としては、一般に紫外線重合に利用されているベンゾイン、ベンジル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、チオキサントン、チオアクリドンおよびこれらの誘導体等が挙げられ、具体的には、ベンゾフェノン系として、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4‘−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキシ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等;チオキサントン系としてチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン等;チオアクリドン系としてチオアクリドン等;ベンゾイン系としてベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等;アセトフェノン系としてアセトフェノン、プロピオフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モンフォリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−ヒドロキシジ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等;ベンジル等のベンジル系化合物が挙げられる。
【0025】
これら光重合開始剤の使用量は、イオン交換基含有モノマーおよび第三成分の不飽和モノマーの総質量に対して0.001〜1質量%が好ましく、更に好ましくは0.001〜0.5質量%、特に好ましくは0.01〜0.5質量%である。またこれらの内、ベンゾフェノン、チオキサントン、チオアクリドン等の芳香族ケトン系ラジカル重合開始剤は炭素水素結合から水素を引き抜くことによってラジカルを発生することができるため多孔性基材としてポリオレフィン等の有機材料と併用すると基材表面と充填させたポリマーとの間に化学結合を形成することができ好ましい。
【0026】
本発明において多孔性基材にポリマー前駆体またはその溶液等を含浸する際は、モノマー、架橋剤、必要に応じて重合開始剤等を混合し液状にしてポリマー前駆体溶液または分散液とする方が、充填が容易となり好ましい。ポリマー前駆体が低粘度の液体である場合はそのまま含浸に用いることもできるが、濃度を10〜90%の溶液とするのが好ましく、20〜70%の溶液とするのが更に好ましい。
また使用する成分に水に難溶のものが含まれる場合は水の一部または全部を有機溶剤に置き換えてもよいが、有機溶剤を使用する場合は電極を接合する前に有機溶剤を全て取り除く必要があるため水溶液の方が好ましい。このように溶液状にして含浸する理由は、水あるいは溶剤に溶解して含浸に用いることにより微細な孔を有する多孔性基材への含浸が行い易くなることと、予め膨潤したゲルを細孔内に作ることによって、製造した電解質膜を燃料電池にした場合に水あるいはメタノールが細孔内の重合体を膨潤させすぎて重合体が抜け落ちるのを防止する効果があるためである。
【0027】
また含浸作業をより行い易くする目的で、多孔性基材の親水化処理、ポリマー前駆体溶液への界面活性剤の添加、あるいは含浸中における超音波の照射も行うことができる。
【0028】
本発明で製造した電解質膜は、固体高分子形燃料電池、特に直接メタノール形燃料電池に好ましく用いることができる。このような燃料電池に電解質膜を用いる際は白金に代表される触媒を付与した2枚の電極間に電解質膜を挟んで加熱プレス等によって一体化した電解質膜電極接合体(MEA)とし、燃料電池セルに組み込んで使用することは広く知られており、本発明による電解質膜も同様の方法によってMEAを作成し、燃料電池セルに組み込んで使用することができる。
【0029】
【作用】
本発明による電解質膜は、基材の活性化処理と充填したポリマー前駆体を電子線で重合することを組み合わせることによって、これらの処理を単独で行なった場合の効果を総和した場合と比較して、耐久性が著しく向上するものである。その理由は定かでないが、基材を活性化処理することによって細孔表面に過酸化物等の官能基が形成し、充填して形成させたポリマーとの化学的結合が多くできることで細孔からのポリマーの脱落が防止できること、さらに重合時に用いる電子線によって通常のラジカル重合による化学結合以外による架橋点が多く発生する等の相乗効果がその一因と推察される。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
多孔性基材として架橋ポリエチレン膜(厚さ16μm、空孔率40%、平均孔径約0.1μm)を用い、この基材に予め加速電圧165KeVで電子線を裏表からそれぞれ10Mrad照射した。次に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド5g、ノニオン性界面活性剤0.005g、水50gからなるポリマー前駆体水溶液に、前記多孔性膜を浸漬し当該水溶液を充填させた。次いで、多孔性基材を溶液から引き上げた後、PETフィルムで挟んで加速電圧165KeVで電子線を裏表からそれぞれ10Mrad(全電子線照射量40Mrad)照射した。
得られた膜の耐久性を短期的に評価する方法として、過酸化水素と2価の鉄イオン溶液へ20時間浸漬し、その前後の乾燥重量変化から充填したポリマーの重量減少を測定した。後述の比較例1の基材のみ電子線を照射した場合、および比較例2の重合時のみ電子線を用いた場合と比べ、大幅に耐久性が向上していた。また得られた膜を触媒付き電極で挟んで熱プレスしてMEAとし、直接メタノール形燃料電池として評価したところ良好な発電性能を示し、この電池に一定の負荷をかけて連続運転による耐久性評価をした。これらの評価結果を表1にまとめた。
【0031】
(実施例2)
多孔性基材の処理方法がプラズマ処理であること以外は実施例1と同様にして電解質膜を作成し評価を行った。プラズマ照射はアルゴンガス雰囲気中、高周波出力30Wで60秒間照射を行なった。
【0032】
(実施例3)
多孔性基材の処理方法が紫外線処理であり、重合時の電子線の裏表からそれぞれ30Mrad(合計60Mrad)照射したこと以外は実施例1と同様にして電解質膜を作成し評価を行った。紫外線処理方法はまずトルエン100gにo−ベンゾイル安息香酸メチルを0.1gの割合で溶解した溶液中に多孔性基材を浸し、液中から取出して溶剤を揮発させた。これに窒素雰囲気下で高圧水銀ランプにより紫外線を2000mJ照射し、基材として用いた。
【0033】
(比較例1)
(基材を処理せずに使用する例)
多孔性基材として架橋ポリエチレン膜をそのまま用いたこと以外は実施例1と同様に電解質膜を作成して評価を行い、これらの評価結果を表1にまとめた。
【0034】
(比較例2)
(重合時に電子線を使用しない例)
実施例1と同様に多孔性基材に電子線を照射した。次に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド5g、過硫酸アンモニウム(加熱ラジカル重合開始剤)0.005g、ノニオン性界面活性剤0.005g、水50gからなるポリマー前駆体水溶液に、該多孔性膜を浸漬し当該水溶液を充填させた。次いで、多孔性基材膜を溶液から引き上げた後、PETフィルムで挟んで80℃で2時間かけて重合させた。
得られた膜は実施例1と同様の評価を行い、これらの評価結果を表1にまとめた。
【0035】
(比較例3)
(基材に電子線を照射し、重合は紫外線で行う例)
実施例1と同様に多孔性基材に電子線を照射した。次に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド5g、Darocure1173(チバガイギー社製、光重合開始剤)0.005g、ノニオン性界面活性剤0.005g、水50gからなるポリマー前駆体水溶液に、該多孔性膜を浸漬し当該水溶液を充填させた。次いで、多孔性基材膜を溶液から引き上げた後、PETフィルムで挟んで高圧水銀ランプにより紫外線を1000mJ照射し重合させた。得られた膜は実施例1と同様の評価を行い、これらの評価結果を表1にまとめた。
【0036】
(比較例4)
(基材の処理を行なわず、重合は紫外線で行なう例)
多孔性基材をそのまま用い。樹脂の重合は比較例3と同様紫外線でに行い電解質膜を得た。得られた膜は実施例1と同様の評価を行い、これらの評価結果を表1にまとめた。
【0037】
(燃料電池の性能評価方法)
▲1▼MEAの作成
酸素極用に白金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製:TEC10E50E)、および燃料極用に白金ルテニウム合金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製:TEC61E54)をそれぞれ用い、これらの触媒粉末に高分子電解質溶液(デュポン社製:ナフィオン5%溶液)とポリテトラフルオロエチレンディスパージョンを配合し、水を適宜加えて攪拌して反応層用塗料を得た。これをスクリーン印刷法でカーボンペーパー(東レ(株)製:TGP−H−060)の片面に印刷し乾燥して電極とした。その際酸素極側は白金量が1mg/cm2、燃料極側は白金とルテニウムの総量が3mg/cm2とした。これらを電解質膜の中央部に塗料面を内側にして重ね合せ、130℃で加熱プレスし燃料電池用膜電極接合体(MEA)を作成した。これを燃料電池単セルに組み込んで運転し、性能を確認した。
▲2▼燃料電池評価
実施例および比較例で作成したMEAを直接メタノール形燃料電池単セルに組み込んだ際の運転条件は次のとおり。燃料を1mol%メタノール水溶液、酸化剤を純酸素とした。セル温度は60℃とした。電子負荷器により0.1A/cm2の電量密度で1日10時間の運転を繰り返し電圧の変化を測定した。
また電流を流さない状態で燃料と酸素を電池に供給し、燃料側に漏れてくるガスの有無およびその程度を燃料液排出側の配管(透明)の目視により確認した。
【0038】
【表1】
【0039】
【発明の効果】
本発明の電解質膜は、従来用いられてきた炭化水素系電解質重合体を多孔性基材に充填させてなる電解質膜を使用していた際に問題となっていた耐久性の問題を向上させたものである。
このため本発明の電解質膜は、燃料電池としての出力特性と耐久性を併せ持ち燃料電池等用途として極めて有用である。
Claims (5)
- 下記工程(1)〜(3)を必須とし、必要に応じて工程(4)を付加することを特徴とする電解質膜の製造方法。
(1)多孔性基材を、活性エネルギー線照射またはプラズマ、オゾン若しくはコロナ放電で処理をする工程。
(2)工程(1)で処理された多孔性基材に、イオン交換基を有しているか、イオン交換基に変換し得る官能基を有しているか、または重合後にイオン交換基を導入可能な部位を有するモノマーを含浸させて、前記多孔性基材の細孔内に充填させる工程。
(3)工程(2)で得られたモノマーを充填した多孔性基材に電子線を照射し、当該モノマーを重合する工程。
(4)工程(3)で得られたポリマーに、イオン交換基として機能し得る官能基を導入する工程。 - 工程(1)における処理が、電子線照射によるものであることを特徴とする請求項1に記載の電解質膜の製造方法。
- 工程(1)および/または工程(3)で照射する電子線が、加速電圧150〜500KeVで、照射量が0.1Mrad〜500Mradの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解質膜の製造方法。
- 多孔性基材に充填するモノマーが、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を成分とするものであることを特徴とする請求項1〜3に記載の電解質膜の製造方法。
- 請求項1〜4に記載の製造方法により得られた電解質膜を組み込んでなる燃料電池。
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