JP2004241046A - 相変化型光情報記録媒体およびその製造方法 - Google Patents

相変化型光情報記録媒体およびその製造方法 Download PDF

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勝 真貝
Masato Harigai
眞人 針谷
Kazunori Ito
和典 伊藤
Hiroko Tashiro
浩子 田代
Katsunari Hanaoka
克成 花岡
Kiyoto Shibata
清人 柴田
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Abstract

【課題】保存安定性に優れ、DVD−ROMと同容量以上の高密度記録が可能であるとともに10m/s以上の高線速記録が可能であり、反射率が高くかつ均一であり、通常行われる大口径半導体レーザーによる初期化処理を軽微あるいは不要にする相変化型光情報記録媒体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】透明基板1上に第一誘電体層2、記録層3、第二誘電体層4および反射層5をこの順で積層し、記録層3が、ガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)を主成分とする相変化記録材料層31と、前記相変化記録材料層31に接しかつ少なくともビスマス(Bi)を含有する初期結晶化誘起層32とから構成されている相変化型光情報記録媒体。その製造方法は、初期結晶化誘起層32を成膜した後に相変化記録材料層31を成膜することを特徴としている。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、記録層に所定のエネルギーを加えることにより非晶質状態と結晶質状態との間の相変化を可逆的に行なわせることができる書き換え可能な相変化型光情報記録媒体およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、保存安定性に優れ、DVD−ROMと同容量以上の高密度記録が可能であるとともに10m/s以上の高線速記録が可能であり、反射率が高くかつ均一であり、通常行われる大口径半導体レーザーによる初期化処理を軽微にするか、あるいは不要にすることが可能な相変化型光情報記録媒体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、書き換え可能な光情報記録媒体として、非晶質相と結晶相の可逆的相変化を利用した相変化型光記録媒体が急速に普及してきた。CD(Compact Disc)系ではCD−RWがパーソナルコンピュータに標準搭載されるまでになった。さらに、CD−RWより高速・高密度記録が実現できるDVD(Digital Versatile Disc)系ではDVD+RW、DVD−RW、DVD−RAMのそれぞれの規格が、主に映像用光記録媒体として、また、パーソナル・コンピュタ−のストレージとして普及するに至っている。これらの光情報記録媒体の構成は、透明基板上に誘電体層/記録層/誘電体層/反射層/耐環境保護層という基本構成になっている。CD系とDVD系の違いは、用いる半導体レーザーの波長やそのレーザー・スポット径の違いおよび使用する透明基板の厚みであるが、原理的には相変化記録材料にレーザー光により熱を加え、結晶相−非結晶相と相変化する記録材料の光学的な特性の変化をピットの反射率の差として検出し、二値化したデジタル信号に変換するという同一の原理により実現されている。現在要求されている高速化・高密度化について、高密度化はレーザー波長の短波長化によるレーザー・スポット径の微細化により実現し、高速化は相変化記録材料の改善や各層を構成する材料および膜厚構成の改善により実現される方向にある。
【0003】
相変化記録材料として、従来から使われている化合物組成のGe2Sb2Te5(式中、数値は構成原子組成比である。以下同様)や共晶組成または共晶組成近傍のSbTeを含むAgInSbTe系がよく知られているが、たとえば、10m/sを超える高速化のためは共晶組成または共晶組成近傍のSbTeを含むAgInSbTe系の方が有利であると言われている。しかし、さらなる高線速を行うには材料のブレークスルーが要求されている。たとえば、高速の記録に有利だと言われているSbTeに添加元素を導入する技術や(特許文献1および2)、さらに別の材料種を検討する試みも行われている(特許文献3および4)。
これらのさらなる高線速を目指した材料は、次のような特性が要求される。▲1▼短時間で相転移し易いこと(結晶化速度が速くかつ非結晶化もし易いこと)、▲2▼結晶化温度および融点が保存安定性が確保できる程度に高いこと、▲3▼レーザー光の繰り返し照射に対する熱劣化が小さこと、などである。
また構造的には、レーザー光で過熱された記録材料を急速に冷却し非結晶化できる急冷構造が好ましい。この急冷構造は、TLの薄層化と熱伝導の良好な放熱反射層の組み合わせにより実現できる。また、結晶化速度を向上する手段として、記録層材料が核形成し易い界面層の採用するなどの手段も検討されている(特許文献5)。
【0004】
一方で、相変化型光情報記録媒体が高品質を保ちながら安定して生産できるようになった背景の一つは、相変化記録材料薄膜を成膜した直後に行われる非晶質状態から結晶状態に相変化させるためのレーザー初期化が光情報記録媒体面全体に対して、均一かつ高速に行えるようになったことによる。通常、光情報記録媒体を大口径・高出力の半導体レーザーを用い、光情報記録媒体を回転させながら全面にわたり高反射率にする操作を行う。一般的に、レーザー初期化に絡み、均一性の確保、高速処理性、機械特性の確保などが課題となる。さらなる高速光情報記録媒体の場合も、媒体が安定して生産できるようにするためには、このレーザー初期化プロセスを安定して行えることが必要である。しかし、高速で記録を行うためには、記録材料をレーザー光により加熱した直後に急冷して非結晶マークを形成する必要があることから熱伝導の高いAgやAg合金を反射放熱層材料として用いることが必須となる。そのため、初期化するために用いるレーザ光は必然的に光パワーなものが必要となる。ところが、記録層に高パワーを投じると、加熱温度が高くなり過ぎたり急激に高温にすることにより、媒体に熱衝撃が加えられ、媒体の反りや変形を生じて記録特性が劣化してしまうという問題が起こる。また、低いパワーで初期化を複数回行う場合も(特許文献6)、この問題の影響が一層顕著になる。
レーザー初期化を生産コストの面から見直そうという考えのもとに、レーザー初期化不要な光情報記録媒体を製造しようとする試みもあり、Ge2Sb2Te5相変化記録材料(特許文献7)と共晶または共晶近傍組成のSbTe(特許文献8および9)について開示されている。ところが、高線速記録に有利だと言われている共晶または共晶近傍組成のSbTeにおいて高速記録のためにSb量を増加させていくと保存安定性が劣化し始めるので、同様に保存安定性を劣化させる傾向のある材料Biおよびその化合物を利用する初期化不要プロセスと高線速記録材料との組み合わせは困難となってくる。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−322740号公報
【特許文献2】
特開2002−117577号公報
【特許文献3】
特開2001−39031号公報
【特許文献4】
米国特許第5,072,423号明細書
【特許文献5】
特開平5−144083号公報
【特許文献6】
特開2000−67476号公報
【特許文献7】
国際公開第97/47142号パンフレット
【特許文献8】
特開2002−225436号公報
【特許文献9】
特開2002−230826号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しがたって本発明の目的は、保存安定性に優れ、DVD−ROMと同容量以上の高密度記録が可能であるとともに10m/s以上の高線速記録が可能であり、反射率が高くかつ均一であり、通常行われる大口径半導体レーザーによる初期化処理を軽微にするか、あるいは不要にすることが可能な相変化型光情報記録媒体およびその製造方法の提供にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、透明基板上に少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層および反射層をこの順で積層するとともに、前記記録層に所定のエネルギーを加えることにより非晶質状態と結晶質状態との間の相変化を可逆的に行なわせることができる書き換え可能な相変化型光情報記録媒体であって、
前記記録層が、ガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)を主成分とする相変化記録材料層と、前記相変化記録材料層に接しかつ少なくともビスマス(Bi)を含有する初期結晶化誘起層とから構成されていることを特徴とする相変化型光情報記録媒体である。
請求項2の発明は、前記相変化記録材料層におけるGaおよびSbの比率をその構成原子組成比にてGaαSbβとしたときに、0.8≦{β/(α+β)}≦0.95であることを特徴とする請求項1に記載の相変化型光情報記録媒体である。
請求項3の発明は、前記相変化記録材料層がさらに金属Mを含むとともに、前記相変化記録材料層におけるGa、SbおよびMの比率をその構成原子組成比にてGaαSbβMγとしたときに、0.05≦α≦0.2、0.75≦β≦0.9、および0<γ≦0.1(ただし、α+β+γ=1)であることを特徴とする請求項2に記載の相変化型光情報記録媒体である。
請求項4の発明は、前記金属Mが、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素であることを特徴とする請求項3に記載の相変化型光情報記録媒体である。
請求項5の発明は、前記初期結晶化誘起層に含まれるBiの比率が、前記初期結晶化誘起層および相変化記録材料層の全体に対して、構成原子組成比にて5%以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の相変化型光情報記録媒体である。
請求項6の発明は、前記初期結晶化誘起層に含まれるBi以外の成分が、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の相変化型光情報記録媒体である。
請求項7の発明は、前記記録層に加えるエネルギー源がレーザー光であり、前記レーザー光の波長λが630≦λ≦700nmであり、かつ前記相変化記録材料層の膜厚と前記初期結晶化誘起層の膜厚の合計膜厚tが10≦t≦25nmであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の相変化型光情報記録媒体である。
請求項8の発明は、透明基板上に少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層および反射層をこの順で成膜する工程を有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の相変化型光情報記録媒体の製造方法であって、前記記録層の成膜工程において、前記初期結晶化誘起層を成膜した後に前記相変化記録材料層を成膜することを特徴とする相変化型光情報記録媒体の製造方法である。
請求項9の発明は、初期結晶化誘起層を成膜した後かつ前記相変化記録材料層を成膜する前、あるいは前記相変化記録材料層の成膜中に、前記透明基板をその過重たわみ温度未満の温度で加熱する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の相変化型光情報記録媒体の製造方法である。
請求項10の発明は、前記記録層が、前記相変化記録材料層を成膜した後に前記初期結晶化誘起層を成膜することによって形成され、前記第一誘電体層、記録層、第二誘電体層および反射層を成膜後、前記透明基板をその荷重たわみ温度未満の温度で加熱する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の相変化型光情報記録媒体の製造方法である。
請求項11の発明は、前記初期結晶化誘起層が、Bi以外の成分を含むとともに、前記成分が、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素であり、かつ前記初期結晶化誘起層が、パルス状の波形を持つ直流スパッタ法により形成されることを特徴とする請求項8に記載の相変化型光情報記録媒体の製造方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の相変化型光情報記録媒体の各層構成について説明する。
図1は、本発明の相変化型光情報記録媒体の一実施形態を説明するための断面図である。図1において、本発明の相変化型光情報記録媒体10は、透明基板1上に第一誘電体層2、記録層3、第二誘電体層4および反射層5がこの順に形成され、さらに反射層5上に紫外線(UV)硬化樹脂からなる環境保護層6が形成されている。記録層3は、GaおよびSbを主成分とする相変化記録材料層31と、相変化記録材料31層に接して少なくともBiを含む初期結晶化誘起層32とから構成され、初期結晶化誘起層32は、第一誘電体層2と接している。
【0009】
相変化記録材料層31において、GaおよびSbの比率をその構成原子組成比にてGaαSbβとしたときに、0.8≦{β/(α+β)}≦0.95であることが好ましい。この範囲内であると高線速における記録感度が高まる。前記数値が0.8未満であると結晶化速度が200℃以上になるため、記録のための半導体レーザーを高パワーにする必要があり、また初期化もされ難くなり好ましくない。0.95を超えると結晶化温度が低くなる傾向となり、記録速度が速くなり過ぎるため記録システムとのマッチングがとり難くなる。また、保存安定性も悪化する傾向にある。
【0010】
また相変化記録材料層31は、さらに金属Mを含むのが好ましい。これにより、記録特性の改善を図ることができる。なお、相変化記録材料層31におけるGa、SbおよびMの比率をその構成原子組成比にてGaαSbβMγとした場合、0.05≦α≦0.2、0.75≦β≦0.9、および0<γ≦0.1(ただし、α+β+γ=1)であるのが好ましい。γが0.1を超えると逆に記録材料の特性が変化してしまうため、前記範囲が好適である。また、前記金属Mとしては、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素が好適である。
【0011】
一方、初期結晶化誘起層32に含まれるBiの量は、初期結晶化誘起層32および相変化記録材料層31の全体に対して、構成原子組成比にて5%以下であるのがよい。5%を超えるとBiの初期結晶化励起効果を超えて相変化記録材料に作用し、記録マークの再生をした際にその再生光によっても記録マークの一部が結晶化し記録マーク信号の劣化が起こってしまうことがある。
また、初期結晶化誘起層32には、Bi以外の成分として、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素を適量(例えば初期結晶化誘起層32に対して、30〜70at%)でもって添加してもよい。
【0012】
本発明の相変化型光情報記録媒体10の記録再生に用いるエネルギー源は、DVD関連規格で用いられているレーザー光が好ましく、その波長λは630≦λ≦700nmである。また、20%前後の反射率、50%以上のモジュレーション、1000回程度の繰り返し記録消去を実現する上で、相変化記録材料層31の膜厚と初期結晶化誘起層32の膜厚の合計膜厚tは、10≦t≦25nmであるのが好ましい。
【0013】
また本発明の相変化型光情報記録媒体10において、透明基板1としては、例えば表面にトラッキング用の案内溝を有し、加工性、光学特性に優れたポリカーボネート基板が好適である。第一誘電体層2および第二誘電体層4としては、高線速での繰り返し記録に適した光学特性を有することが望ましく、例えば(ZnS)80(SiO20が挙げられる。反射層5は、熱伝導率が高いAgあるいはAg−Cu、Ag−Pd、Ag−Ti等が適している。環境保護層6は、公知の紫外線(UV)硬化樹脂から適宜選択して積層すればよい。
【0014】
本発明の相変化型光情報記録媒体10は、透明基板1上に例えばスパッタ法により第一誘電体層2、記録層3、第二誘電体層4および反射層5をこの順に成膜し、反射層5上にスピンコートにより紫外線(UV)硬化樹脂からなる環境保護層6を成膜することにより製造することができる。
ここで、記録層3の成膜工程において、例えば第一誘電体層2上に、初期結晶化誘起層32を成膜した後、相変化記録材料層31を成膜するのが好ましい。このようにすれば、成膜工程中に初期化プロセス全てを完結することができる。すなわち、相変化記録材料層31を成膜するよりも前に初期結晶化誘起層32を成膜した場合は、積極的な加熱をしなくても、例えば第一誘電体層2の200nm程度の厚付けによるインプロセス昇温によってレーザー初期化不要レベルの記録層反射率が得られる。また第一誘電体層2を厚付けせずとも、例えばハロゲンランプやぺルチェ素子を用いた基板加熱によりインプロセス昇温と同レベルの温度にすることでも、レーザー初期化不要レベルの記録層反射率が得られる。ただし、この場合は、基板全体が加熱されるわけではなく成膜する面のみが加熱されるため、真空装置内の基板搬送により基板の接触部分が冷却されていってしまうので、初期結晶化誘起層32を成膜した後かつ相変化記録材料層31を成膜する前、あるいは相変化記録材料層31の成膜中に、透明基板1をその過重たわみ温度(例えばポリカーボネートでは125℃)未満の温度で加熱するのが一層好ましい態様である。
【0015】
なお本発明によれば、相変化記録材料層31を成膜した後に初期結晶化誘起層32を成膜してもよい。この場合は、各層を成膜した後、透明基板1をその荷重たわみ温度未満の温度で加熱する工程をさらに含むのがよい。
【0016】
また、初期結晶化誘起層32が、Bi以外の成分を含むとともに、前記成分が、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素である場合は、融点が低いビスマス(融点270.95±0.05℃)と添加元素との融点差により初期結晶化誘起層32に組成差が生じることがある。これを防止するために、パルス状の波形を持つ直流スパッタ法により初期結晶化誘起層32を成膜するのが好ましい。これにより、カソードに加わるマイナス電圧のパルス間でターゲットが冷却されビスマスが過剰にスパッタされるのを防ぐことができる。
【0017】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの例に制限されるものではない。
(実施例1)
図2に示すような本発明の相変化型光情報記録媒体を作製した。なお、図2の相変化型光情報記録媒体10は、図1と同様の構成を有するが、第二誘電体層4と反射層5との間に両者の反応を防止するための耐硫化バリヤ層41が設けられている。なお、この耐硫化バリヤ層41は、第二誘電体層4が硫黄を含まない場合は設ける必要はない。
透明基板1としては、深さ27nm、幅0.25μm、ピッチ0.74μmの溝を有する厚さ0.6mmのポリカーボネート製透明基板を用いた。この透明基板上に、下記の層を順次積層した。各層の成膜は、目標の膜組成となるようなターゲットを用いて枚様式多層積層用スパッタ装置により行った。
まず、第一誘電体層2として、ZnS−SiO(20mol%)を膜厚81nmで形成した。次に、第一誘電体層2上に、初期結晶化誘起層32としてBi(純度4N)を2nm成膜した。その後、ポリカーボネート製透明基板1に吸収される波長を持つハロゲンランプにより85℃まで加熱した後、相変化記録材料層31として、共晶組成のGaSb(Ga12Sb88、数字は原子組成比率)を膜厚16nmで直流スパッタ法にて形成した。さらにその上に、第二誘電体層4として、第一誘電体層2と同じ組成のZnS−SiOを14nmの厚みで形成後、耐硫化バリヤ層41としてSiCを膜厚4nmで形成し、反射層5としてAg(純度99.99%)膜を140nmの膜厚で積層しスパッタ成膜を終了した。
スパッタ成膜終了後に、紫外線硬化型樹脂(大日本インキ社製SD301)を反射層5上にスピンコートし、紫外線で硬化して環境保護層6とした。次いで、環境保護層6上に、ポリカーボネート製の第二透明基板を、紫外線硬化型接着剤(日本化薬社製DVD003)を用いて貼り合せた(図示せず)。貼り合わせ前の第二透明基板は、吸湿による変形がないように記録媒体と同時に成形するか、予め成形しておき吸湿による変形がないような条件で管理した。なお、透明基板1は、反射層5までの積層に伴う反りの方向および環境保護層6を設けた後の反りの方向を予め計算し、成形時点で反りの方向をある程度調整することにより、反りや変形を抑えておいた。
第二透明基板を貼り合わせた後、反射率を測定した。反射率は18%で、後にDCイレースした場合の約90%の値であった。このときの記録媒体の反りは、ラジアル・チルト(radial tilt)が外周(半径58mm)において最大で0.4deg.(度)、タンジェンシャル・チルト(tangential tilt)が最大で0.2deg.(度)であった。また、面内の基板の振れ量は最大50μm以下であった。この記録媒体を、波長657nm、NA0.65のPUHによりCAV(回転数一定)方式を用いて外周半径位置58mm(記録線速度20m/s)における最適記録条件で記録した。記録ストラテジーは、記録パワー、消去パワー、消去パワーより低いボトムパワーの3つのパワーを制御し、パルス数はマーク長nT(n:マークの長さ、Tは基準クロック)に対し(n−1)個で、個々のパルス長は、On、Offパルス長の和が1Tを基本とした。記録変調方式は、(8−17)変調とした。最短マーク長は0.4μm、線密度は0.267μm/ビットとした。記録パワー、消去パワー、ボトムパワーは、それぞれ、30mW、5mW、0.1mWとした。このようにして記録した光記録媒体を、再生線速度3.5m/s、再生パワー0.5mWで再生したところ、一回目記録のジッターが12%、変調度=〔(14Tスペースの反射率)−(14Tマークの反射率)〕/(14Tスペースの反射率)が58%、繰り返し記録1000回後のジッターが15%であった。最適な特性が得られたPUHと光記録媒体のチルト角は、ラジアル方向で0.05deg.であり、非常に良好であった。
次に、この記録媒体を保存試験槽に投入した。条件として、80℃×85%RHの高温高湿槽に100時間保管し、再度ジッターとモジュレーションを測定したところ、それぞれ0.3%の上昇と2%の減少があったが、その変化が問題となるレベルではなかった。
【0018】
(実施例2)
相変化記録材料層を共晶組成のGaSb(Ga20Sb80、数字は原子組成比率)に、Alを加えGaSbAl(Ga19Sb76Al5、数字は原子組成比率)とした他は、実施例1を繰り返した。実施例1と同様に、同じPUHにて評価したところ、反射率が若干上がり、記録前で19.5%、DCイレース後で21.5%となった。また、Sb量が少なくなったにもかかわらず、転移線速は変わらず、20m/sのままであった。記録後のジッター、モジュレーションは同等であった。
【0019】
(実施例3)
相変化記録材料層を共晶組成のGaSb(Ga10Sb90、数字は原子組成比率)に、Snを加えGaSbSn(Ga9.5Sb85.5Sn5、数字は原子組成比率)とし、初期結晶化誘起層をBiGe(Bi50Ge50、数字は原子組成比率)とし、Bi単体量が1.5nm相当となるように成膜時間を調整した他は、実施例1を繰り返した。BiGeの成膜はカソード有効時間が80%となるようなパルスDCスパッタにより行った。評価結果としては、転移線速が5m/s向上し25m/sでも記録が可能であり、より高線速に対応できた。さらに、記録パワーを27mWととしてもジッターおよびモジュレーションが変化せず、それぞれ13%および58%のままであった。すなわち、高速化が実現できたとともに記録感度が向上したことになる。
【0020】
(実施例4)
インプロセス加熱を実施しないことを除いて、実施例1を繰り返し、環境保護層6を形成後、90℃で20分かけて窒素雰囲気中でベーキングした。ベーキング前後の反射率変化は、ベーキング前が8%に対して、ベーキング後は19%となった。これは、初期結晶化誘起層32であるビスマスがGaSbからなる相変化記録材料層31の結晶化を誘起したことにより、相変化記録材料層31結晶化し反射率が上がったことによる。得られた記録媒体に対し、実施例1と同様に第二透明基板を貼り合せた。この記録媒体を記録したところ、記録しないDCイレース部分の反射率は1%上昇し20%となった。また、機械特性、記録特性を実施例1と同様に評価した結果、実施例1と同様な結果を得た。すなわち、インプロセスで加熱しても、記録媒体構成後にベーキングしても同じ結果が得られたことが分かった。
【0021】
(比較例1)
GaSb(Ga12Sb88、数字は原子数比率を表す)の代わりに、共晶系近傍のSbTe(Sb85Te15、結晶化温度105℃、数字は原子数比率を表す)を用いた他は実施例1を繰り返した。
次に、80℃×85%の温・湿度で100時間の条件にて保存試験を実施したところ、記録マークは全て消失し、記録マークの保存信頼性が著しく低いことが分かった。
【0022】
(比較例2)
初期結晶化誘起層32を設けなかったこと以外は、実施例1と同様に記録媒体を作製した。
次に、日立コンピューター製相変化型光ディスク用初期化装置(POP120−3Ra)を用いて、以下の条件により約100秒の処理時間でレーザー初期化を行った。CLVにより記録媒体を回転させ、その線速は8.0m/s、送り量15μm/回転、初期化範囲は半径位置23〜58mm、またレーザーパワーは1200mWとした。この装置のLDの中心発光波長は 810±10nm、スポットサイズは約1μm×96±5μmである。このようにレーザー初期化した記録媒体の反射率を評価したところ、記録媒体回転一周分のRF信号のばらつきは最大で12%あった、また、半径位置の違うところで数箇所反射率を測定したところ、12〜25%の反射率の分布があることがわかった。これは、相変化記録材料のGaSbの半導体レーザーの照射による均一な結晶化が達成できなかったことに基づくと思われる。そこで、パワーを上げ1400Wとして初期化したところ、記録面が部分的に変色し、変色部を観察した結果、記録層が剥離してしまっているのがわかった。次に、1200mWにもどして2回および3回に分けて初期化したところ、半径位置での反射率は2〜5%改善されたが、機械特性が徐々にラジアルおよびタンジェンシャルチルトの値が共劣化の方向に変化した。RF信号のばらつきは変わらなかった。
また、最初の1200mWの初期化パワーにて初期化した後、繰り返しジッター特性を1000回の書き換えまで評価した。ジッターの変化は、DOW10未満でジッターが約19%程度(DOW100を基準とすると30%のジッターバンプ)まで上昇し、DOW10〜100の範囲で15%程度で安定したジッター特性が得られたが、1000回では18%であった。
【0023】
(参考例1)
実施例2で、パルスDCスパッタをする変わりに、RFスパッタとした場合はBiGeの形成された膜の状態の組成はビスマスリッチとなり、しかもそのBi/Ge組成比が経時的に変化した。その結果、安定して同一特性の光情報記録媒体を製作することができなかった。
【0024】
(参考例2)
実施例1または4において、温度範囲を基板材料として用いたポリカーボネートの過重たわみ温度である125℃以上の130℃とした場合は、反射率的にはレーザ初期化と同レベルの反射率が得られたものの、機械特性が著しく劣化した。すなわち、ラジアル・チルトおよびタンジェンシャル・チルトが外周(半径58mm)において、それぞれ最大で1.2deg.(度)、および、最大で0.5deg.(度)であった。中には貼り合せもできないものもあった。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、保存安定性に優れ、DVD−ROMと同容量以上の高密度記録が可能であるとともに10m/s以上の高線速記録が可能であり、反射率が高くかつ均一であり、通常行われる大口径半導体レーザーによる初期化処理を軽微にするか、あるいは不要にすることが可能な相変化型光情報記録媒体およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の相変化型光情報記録媒体の一実施形態を説明するための断面図である。
【図2】実施例で作製した相変化型光情報記録媒体の断面図である。
【符号の説明】
1 透明基板
2 第一誘電体層
3 記録層
4 第二誘電体層
5 反射層
6 環境保護層
10 相変化型光情報記録媒体
31 相変化記録材料層
32 初期結晶化誘起層
41 耐硫化バリヤ層

Claims (11)

  1. 透明基板上に少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層および反射層をこの順で積層するとともに、前記記録層に所定のエネルギーを加えることにより非晶質状態と結晶質状態との間の相変化を可逆的に行なわせることができる書き換え可能な相変化型光情報記録媒体であって、
    前記記録層が、ガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)を主成分とする相変化記録材料層と、前記相変化記録材料層に接しかつ少なくともビスマス(Bi)を含有する初期結晶化誘起層とから構成されていることを特徴とする相変化型光情報記録媒体。
  2. 前記相変化記録材料層におけるGaおよびSbの比率をその構成原子組成比にてGaαSbβとしたときに、0.8≦{β/(α+β)}≦0.95であることを特徴とする請求項1に記載の相変化型光情報記録媒体。
  3. 前記相変化記録材料層がさらに金属Mを含むとともに、前記相変化記録材料層におけるGa、SbおよびMの比率をその構成原子組成比にてGaαSbβMγとしたときに、0.05≦α≦0.2、0.75≦β≦0.9、および0<γ≦0.1(ただし、α+β+γ=1)であることを特徴とする請求項2に記載の相変化型光情報記録媒体。
  4. 前記金属Mが、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素であることを特徴とする請求項3に記載の相変化型光情報記録媒体。
  5. 前記初期結晶化誘起層に含まれるBiの比率が、前記初期結晶化誘起層および相変化記録材料層の全体に対して、構成原子組成比にて5%以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の相変化型光情報記録媒体。
  6. 前記初期結晶化誘起層に含まれるBi以外の成分が、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の相変化型光情報記録媒体。
  7. 前記記録層に加えるエネルギー源がレーザー光であり、前記レーザー光の波長λが630≦λ≦700nmであり、かつ前記相変化記録材料層の膜厚と前記初期結晶化誘起層の膜厚の合計膜厚tが10≦t≦25nmであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の相変化型光情報記録媒体。
  8. 透明基板上に少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層および反射層をこの順で成膜する工程を有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の相変化型光情報記録媒体の製造方法であって、前記記録層の成膜工程において、前記初期結晶化誘起層を成膜した後に前記相変化記録材料層を成膜することを特徴とする相変化型光情報記録媒体の製造方法。
  9. 前記初期結晶化誘起層を成膜した後かつ前記相変化記録材料層を成膜する前、あるいは前記相変化記録材料層の成膜中に、前記透明基板をその過重たわみ温度未満の温度で加熱する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の相変化型光情報記録媒体の製造方法。
  10. 前記記録層が、前記相変化記録材料層を成膜した後に前記初期結晶化誘起層を成膜することによって形成され、前記第一誘電体層、記録層、第二誘電体層および反射層を成膜後、前記透明基板をその荷重たわみ温度未満の温度で加熱する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の相変化型光情報記録媒体の製造方法。
  11. 前記初期結晶化誘起層が、Bi以外の成分を含むとともに、前記成分が、IIIb族のAl、In、IVb族のGe、Sn、IVa族のTi、Zr、Va族のNb、Taの中から選択された少なくとも1種類の元素であり、かつ前記初期結晶化誘起層が、パルス状の波形を持つ直流スパッタ法により形成されることを特徴とする請求項8に記載の相変化型光情報記録媒体の製造方法。
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