JP2004239140A - 火花点火式内燃機関および燃焼制御方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】制御ユニットは、内燃機関10の運転状態に基づいて、水素噴射量、ガソリン噴射量を決定し、通常のタイミングにて燃料噴射弁を駆動してガソリンを噴射する。制御ユニットは、圧縮行程中に水素噴射弁HIJを駆動して水素H2をシリンダ11内に直接供給し、供給された水素H2は、シリンダ11の内壁面に沿って水素噴射弁HIJの対角位置まで流動する。続いて水素H2の一部が互いに衝突・合流して点火プラグ31の近傍に流動し、結果として点火プラグ31の近傍およびシリンダ11の内周壁面に沿う領域に水素濃度の濃い領域が形成される。
【選択図】 図4
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、火花点火式の内燃機関においてノッキングの発生を抑制する内燃機関および燃焼制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガソリンを燃料とするガソリン内燃機関を始めとする火花点火式内燃機関では、ノッキングの発生は、全負荷時における最大出力を低下させる最も大きな要因であり、従来より数多くのノッキング防止技術が提案されている。
【0003】
ノッキングは、一般的に、ガソリン燃料(混合気)が、ピストンヘッドと気筒(シリンダ)内壁と伝播火炎とによって囲まれて温度並びに作用する圧力が上昇することによって自着火温度に到達し、火花点火により生成された火炎の伝播による着火よりも先に、自着火により着火してしまうことにより発生する。
【0004】
したがって、圧縮比を下げること、自着火温度(オクタン価)の高いガソリン燃料(いわゆる、ハイオクガソリン)を使用することによりノッキングを抑制・回避することが考えられる。また、ノッキングは、シリンダ内(燃焼室)の圧力が上昇する燃焼の後半において発生するため、燃焼速度を上げることによりノッキングを抑制・回避することも考えられる。ここで、水素は燃焼速度が高い物性を有することが知られており、従来、例えば、混合気のリーンリミットを向上させるための添加剤として用いられている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−63128号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、圧縮比を下げれば最大出力が低下してしまうという問題があり、ハイオクガソリンはレギュラーガソリンよりも高くランニングコストがかさむという問題がある。また、単に水素を導入して燃焼速度を向上させた場合には、シリンダ内における燃焼が急激に起こるため、シリンダ内の温度が上昇し、却ってノッキングが発生しやすくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、火花点火式内燃機関において、より広い内燃機関の運転範囲にてノッキングを抑制・解消することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および作用・効果】
上記課題を解決するために本発明の第1の態様は、火花点火により燃料が点火される内燃機関を提供する。本発明の第1の態様に係る内燃機関は、火花点火を実行する火花点火装置と、主燃料を供給する主燃料供給装置と、高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤を、前記火花点火装置近傍および前記火花点火装置によって生成される火炎の伝播方向の端部領域における濃度が他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給するノッキング抑制剤供給装置とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の第1の態様に係る内燃機関によれば、高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤を、火花点火装置近傍および前記火花点火装置によって生成される火炎の伝播方向の端部領域における濃度が他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給するので、より広い内燃機関の運転範囲にてノッキングを抑制・解消することができる。
【0010】
本発明の第1の態様に係る内燃機関はさらに、シリンダを有するシリンダブロックを備え、前記火炎の伝播方向の端部領域は、前記火花点火装置近傍および前記シリンダの内壁面に沿った領域であり、前記ノッキング抑制剤供給装置は、前記火花点火装置近傍および前記シリンダの内壁面に向けて前記ノッキング抑制剤を供給しても良い。一般的に、ノッキングは火炎伝播の端部、例えば、シリンダの内壁面に沿った領域において発生しやすいので、これら領域に向けてノッキング抑制剤を供給することによって内燃機関におけるノッキングの発生を抑制・防止することができる。また、火花点火装置近傍に向けて供給されたノッキング抑制剤は、主燃料の着火性を向上させ、迅速な火炎伝播を実現することができる。
【0011】
本発明の第1の態様に係る内燃機関はさらに、シリンダを有するシリンダブロックを備え、前記火花点火装置は、前記シリンダの径方向の略中央に配置され、前記火炎の伝播方向の端部領域は、前記火花点火装置近傍および前記シリンダの内壁面に沿った領域であり、前記ノッキング抑制剤供給装置は、前記シリンダの内壁面に沿う第1の方向と第1の方向とは異なる第2の方向に向けて前記ノッキング抑制剤を供給しても良い。かかる場合には、シリンダの内壁面に沿う第1の方向と第2の方向とに向けてノッキング抑制剤が供給されるので、ノッキングの発生しやすいシリンダの内壁面に沿った領域にノッキング抑制剤を供給することができる。また、シリンダの内壁面に沿う第1の方向と第2の方向とに向けて供給されたノッキング抑制剤は、ノッキング抑制剤供給装置に対する対角位置において衝突し、火花点火装置近傍に到達する。したがって、内燃機関におけるノッキングの発生を抑制・防止することができる。
【0012】
本発明の第1の態様に係る内燃機関はさらに、シリンダを有するシリンダブロックと、前記シリンダ内を往復動すると共に前記火花点火装置と対向する頂面を有し、その頂面に供給された流体を前記火花点火装置へと導くための誘導部を有するピストンとを備え、前記ノッキング抑制剤供給装置は、前記ピストン内部に前記ノッキング抑制剤を直接供給できると共に、圧縮行程において、前記ピストンの誘導部および前記シリンダの内壁面に対して前記ノッキング抑制剤を供給しても良い。かかる場合には、ピストンの頂面に供給されたノッキング抑制剤は、よってピストン頂面の誘導部によって確実に火花点火装置近傍に誘導され、主燃料の着火性を向上させると共に迅速な火炎伝播を実現することができる。したがって、シリンダの内壁面に供給されたノッキング抑制剤と相まって、内燃機関におけるノッキングの発生を抑制・防止することができる。
【0013】
本発明の第1の態様に係る内燃機関はさらに、シリンダを有するシリンダブロックと、前記シリンダ内を往復動すると共に前記火花点火装置と対向する頂面を有し、前記シリンダの内壁面に供給された流体の一部を前記火花点火装置へと導くための誘導部を前記頂面に有するピストンとを備え、前記ノッキング抑制剤供給装置は、圧縮行程において、前記シリンダの内壁面に沿って第1の方向と第1の方向とは異なる第2の方向に対して前記ノッキング抑制剤を供給しても良い。かかる場合には、ピストンの頂面に供給されたノッキング抑制剤は、よってピストン頂面の誘導部によって確実に火花点火装置近傍に誘導され、主燃料の着火性を向上させると共に迅速な火炎伝播を実現することができる。また、シリンダの内壁面に沿って第1の方向と第2の方向に向けてにノッキング抑制剤が供給される。したがって、火炎伝播の迅速性並びにシリンダの内壁面におけるノッキング抑制剤の存在により、シリンダの内壁面の周辺領域における主燃料の自着火を防止・抑制し、内燃機関におけるノッキングの発生を抑制・防止することができる。
【0014】
本発明の第1の態様は、火花点火装置により燃料が点火される内燃機関における燃焼制御方法としても実現され得る。本発明の第1の態様に係る燃焼制御方法は、主燃料を供給し、高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤を、前記火花点火装置近傍および前記火花点火装置によって生成される火炎の伝播方向の端部領域における濃度が他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給し、前記供給した主燃料およびノッキング抑制剤に対する火花点火を実行することを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の態様は、高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤と主燃料とが燃料として供給され、火花点火により燃料が点火される内燃機関を提供する。本発明の第2の態様に係る内燃機関は、シリンダを有するシリンダブロックと、火花点火を実行する火花点火装置と、前記主燃料を供給する主燃料供給装置と、前記火花点火装置による点火時における、前記火花点火装置近傍および前記火花点火装置から前記シリンダの径方向に最も離間した領域における前記ノッキング抑制剤の濃度が、他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給するノッキング抑制剤供給装置とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の態様に係る内燃機関によれば、火花点火装置による点火時における、火花点火装置近傍および火花点火装置からシリンダの径方向に最も離間した領域におけるノッキング抑制剤の濃度が、他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給するので、より広い内燃機関の運転範囲にてノッキングを抑制・解消することができる。すなわち、一般的に、自着火が発生し易い火炎伝播の端部、例えば、シリンダの内壁面に沿った領域に向けてノッキング抑制剤を供給するので、内燃機関におけるノッキングの発生を抑制・防止することができる。また、火花点火装置近傍にノッキング抑制剤を供給することによって、主燃料の着火性を向上させ、迅速な火炎伝播を実現することができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤と主燃料とが燃料として供給され、火花点火装置により燃料が点火される内燃機関における燃焼制御方法としても実現され得る。本発明の第2の態様に係る燃焼制御方法は、前記主燃料を供給し、前記火花点火装置近傍および前記火花点火装置から前記シリンダの径方向に最も離間した領域における前記ノッキング抑制剤の濃度を他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給し、前記供給した主燃料およびノッキング抑制剤に対する火花点火を実行することを特徴とする。
【0018】
本発明の第1または第2の態様に係る内燃機関において、前記主燃料はガソリン燃料、天然ガス燃料または液化石油ガス燃料であり、前記ノッキング抑制剤は水素であっても良い。ガソリン燃料、天然ガス燃料または液化石油ガス燃料は一般的に広く用いられている内燃機関用の主燃料であり、これら燃料に対して高い自着火温度および高い燃焼速度を有する水素をノッキング抑制剤として用いることにより、多くの内燃機関においてノッキングの発生を抑制・防止することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつついくつかの実施例に基づいて、本発明に係る火花点火式の内燃機関について説明する。
【0020】
・第1の実施例:
図1〜図4を参照して第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関の概略構成について説明する。図1は第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関の概略構成を示す説明図である。図2は第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内へ水素H2を供給する際の状態を模式的に示す説明図である。図3は第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素H2の存在範囲を模式的に示す説明図である。図4は第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素H2の存在範囲を模式的に示す説明図である。
【0021】
第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関10は、内部に複数のシリンダ11を有するシリンダブロック12、シリンダ11内を往復動するピストン13、シリンダブロック12の底部に配置されたクランクケース14、シリンダブロック12(シリンダ11)の上部に配置されたシリンダヘッド15を備えている。第1の実施例におけるピストン13は、その頂面に窪み(キャビティ)を有しない、いわゆる、フラットヘッドピストンである。
【0022】
内燃機関10の燃焼制御(運転制御)は、制御ユニット40によって実行されている。制御ユニット40は、演算処理機能(CPU)、マップ、プログラム等を格納する記憶機能(ROM、RAM)を備えている。制御ユニット40には、機関回転数、ノッキングの発生の有無といった各種運転条件が入力される。また、制御ユニット40には、以下に説明する燃料噴射弁IJ、水素噴射弁HJ、点火プラグ31が接続されており、ガソリンおよび水素供給量、ガソリンおよび水素の噴射時期、点火時期、吸入空気量等が適宜制御される。
【0023】
シリンダヘッド15は、各シリンダ11毎に吸気ポート16および排気ポート17を有している。各吸気ポート16には、吸気側カムICによって駆動されて吸気ポート16を開閉する吸気バルブ161が配置されており、各排気ポート17には、排気側カムECによって駆動されて排気ポート17を開閉する排気バルブ171が配置されている。
【0024】
各吸気ポート16には、吸気管18の分岐端が連結され、各排気ポート17には、排気管(排気マニホールド)19の分岐端が連結されている。各吸気ポート16には主燃料であるガソリン燃料を噴射するための燃料噴射弁PIJが配置されている。すなわち、第1の実施例に用いられる内燃機関10はポート噴射タイプの内燃機関である。各燃料噴射弁IJには、燃料デリバリパイプFDを介して燃料が供給される。
【0025】
シリンダヘッド15には、吸気ポート16の近傍に水素ガスをシリンダ11内に直接噴射するための水素噴射弁HIJ、各シリンダ11の略中心位置に火花点火のための点火プラグ31が配置されている。すなわち、第1の実施例では、主燃料であるガソリンに加えて、内燃機関10の運転状態に応じてノッキング抑制剤として水素H2が供給される。ノッキング抑制剤としては、少なくとも高い自着火温度並びに高い燃焼速度を有していることが必要であり、この他にアセチレン等が用いられ得る。
【0026】
水素噴射弁HIJには、高圧水素タンクHTに貯蔵されている水素が減圧弁等によって所定の圧力(噴射圧力:例えば4〜5Mpa)まで減圧された後に、水素デリバリパイプHFDを介して供給される。
【0027】
図2に示すように、第1の実施例における水素噴射弁HIJには、所定の開き角θを有する2つの噴射孔が備えられており、水素H2はシリンダ11の内壁面に沿うようにして第1の方向D1、第1の方向とは異なる第2の方向D2にそれぞれ噴射される。所定の開き角θは、噴射された水素H2をシリンダ11の内壁面に沿う領域に存在させる角度とされている。
【0028】
水素噴射弁HIJから水素H2が噴射されるタイミング、すなわち水素噴射時期は、点火プラグ31による点火時期に、図4に示すような水素濃度分布がシリンダ11(燃焼室)内に形成されるタイミングであり、例えば、40°BTDCまでに噴射が完了するタイミングにて噴射される。水素噴射弁HIJから二方向に噴射された水素H2は、先ず、それぞれ図3に示すようにシリンダ11の内壁面に沿って水素噴射弁HIJの対角位置まで流動する。続いて、図4に示すように水素H2の一部が互いに衝突・合流して点火プラグ31の近傍に流動し、結果として点火プラグ31の近傍およびシリンダ11の内周壁面に沿う領域に水素濃度の濃い領域が形成される。なお、図2〜図4において水素H2が分布していない領域には、水素噴射に先立って燃料噴射弁IJから噴射されたガソリン混合気が存在している。
【0029】
ここで、第1の内燃機関10における噴射制御について簡単に説明すると、制御ユニット40は、内燃機関10の運転状態に基づいて内燃機関10が生成すべき全熱量を算出する。制御ユニット40は、内燃機関10の運転負荷に応じて添加すべき水素の熱量割合RH2を決定する。水素の熱量割合RH2は、少ない場合にはノッキングの発生を抑制・防止することができず、多い場合にはシリンダ11内温度の上昇を招き却ってノッキングの発生を助長するので、例えば、全熱量に対して約10%〜約30%の範囲であることが好ましく、更に15〜25%の範囲であることがより好ましい。
【0030】
制御ユニット40は、決定した水素の熱量割合RH2に応じて、水素噴射量、ガソリン噴射量を決定し、通常のタイミングにて燃料噴射弁IJを駆動してガソリンを噴射し、圧縮行程中に水素噴射弁HIJを駆動して水素H2をシリンダ11内に直接供給する。制御ユニット40は、内燃機関10の運転状態に基づいた点火時期に点火プラグ31を介して水素、ガソリンを含む混合気に火花点火する。点火時には、シリンダ11(燃焼室)では図4に示す水素濃度分布が形成されていることは言うまでもない。また、点火時期は、水素H2を添加することによって遅角させることが可能となり、例えば、最も出力が得られる時期(MBT)に点火することが好ましい。かかる場合には、従来と比較して高い出力が得られると共にノッキングの発生を抑制・防止することができる。
【0031】
以上説明したように第1の実施例に係る火花点火式内燃機関10によれば、点火プラグ31の近傍およびシリンダ11の内周壁面に沿う領域に水素濃度の濃い領域を形成することができるので、内燃機関10におけるノッキングの発生を抑制・防止することができる。
【0032】
これは、自着火温度が高く耐ノッキング性に優れているという特性を有する水素の物性に依存するところが大きい。一般的にノッキングは、シリンダ11の内壁面に沿う領域において発生しやすいが、自着火温度の高い水素H2をシリンダ11の内壁面に沿う領域に偏在させることにより、シリンダ11の内壁面におけるガソリン混合気の自着火を抑制することができる。ここで、シリンダ11の内壁面におけるガソリン混合気の自着火の抑制は、水素H2が有する高い耐ノッキング性能の他に、水素H2をガソリン、天然ガス、液化石油ガス等のHC系燃料に添加することによって、自着火の発生の原因と言われているフリーラジカル(−OH等の不対電子を有する原子・分子)にH+が反応し、ラジカルそのものの数を減少させていることにも起因すると考えられる。
【0033】
また、水素H2は、燃焼速度が高く、着火性に優れるという特性を有している。したがって、点火プラグ31の近傍に供給することでガソリン混合気の着火性を向上させることができる。さらに、燃焼速度が高いので、着火後の火炎伝播時間は短くなり、シリンダ11の内壁面に沿って存在するガソリン混合気が自着火する前に、点火プラグ31によって点火生成された火炎の伝播によってシリンダ11の内壁面に沿って存在するガソリン混合気を燃焼させることができる。
【0034】
・第2の実施例:
図5〜図7を参照して第2の実施例に係る内燃機関10aについて説明する。図5は第2の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内へ水素H2を供給する際の状態を模式的に示す説明図である。図6は図5に示す内燃機関のシリンダブロックを6−6線によって切断した断面の一部を模式的に示す説明図である。図7は第2の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素H2の存在範囲を模式的に示す説明図である。
【0035】
第2の実施例に係る内燃機関10aは、ピストン13aの頂面に窪み131を有する点、水素噴射弁HIJ’の噴射孔が3つ備えられている点を除いて第1の実施例に係る内燃機関10と同一の構成を備えるので、同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0036】
第2の実施例に従うピストン13aは、図5および図6に示すように、その頂面に窪み131(キャビティ)を有している。また、第2の実施例に従う水素噴射弁HIJ’は、図5に示すように、キャビティ131に向けた中央の噴孔50、シリンダ11の内壁面に向けた2つの側方の噴孔51、52から三方向に対して水素H2を噴射する。
【0037】
キャビティ131は、点火プラグ31より排気側寄りに形成されている壁面132を有し、水素噴射弁HIJ’の中央の噴孔50から噴射された水素H2を全て受け止められる程度の幅を有している。なお、幅とは水素H2の噴射方向に直交する方向の寸法である。キャビティ131は、壁面132によって、水素噴射弁HIJ’の中央の噴孔50から噴射された水素H2を点火プラグ31の近傍に導く。
【0038】
水素噴射弁HIJ’の中央の噴孔50から噴射される水素H2は、キャビティ131に向けて下向き(ピストン13a方向)の角度を伴って噴射される。側方の噴孔51、52から噴射される水素H2は、キャビティ131に入らないよう水素噴射弁HIJ’の左右方向に位置するシリンダ11の内壁面に向けて噴射されると共に、下向きの噴射角度は中央の噴孔50から噴射される水素H2と比較して小さい。
【0039】
水素噴射弁HIJ’から水素H2が噴射されるタイミング、すなわち水素噴射時期は、点火プラグ31による点火時期、例えば、ピストン31が圧縮上死点近傍にあるとき、に図7に示すような水素濃度分布がシリンダ11(燃焼室)内に形成されるタイミングであり、例えば、40°BTDCまでに噴射が完了するタイミングにて噴射される。水素噴射弁HIJ’の中央の噴孔50から噴射された水素H2は、図7に示すように、キャビティ131の壁面132によって点火プラグ31の近傍に導かれる。一方、水素噴射弁HIJ’の側方の噴孔51、52から噴射されたH2は、図7に示すようにシリンダ11の内壁面に沿って水素噴射弁HIJ’の対角位置まで流動する。この結果、点火プラグ31の近傍およびシリンダ11の内周壁面に沿う領域に水素濃度の濃い領域が形成される。なお、図5および図7において水素H2が分布していない領域には、水素噴射に先立って燃料噴射弁IJから噴射されたガソリン混合気が存在している。
【0040】
以上説明した第2の実施例によれば、点火プラグ31の近傍およびシリンダ11の内壁面に沿う領域に水素濃度の濃い領域が形成されるので、点火プラグ31によるガソリン混合気の着火性を向上させることができると共に、シリンダ11の内壁面におけるガソリン混合気の自着火を抑制・防止することができる。特に、第2の実施例では、点火プラグ31の近傍に対しては、水素噴射弁HIJ’の中央の噴孔50からキャビティ131を介して水素H2が噴射・供給されるので、水素H2の噴射圧力をシリンダ内圧力に抗する圧力まで低減することができると共に、着火性を大幅に向上させて全体の燃焼期間を短縮させることができる。また、点火プラグ31へ水素H2を供給するための噴孔50とシリンダ11の内壁面に沿う領域に水素H2を供給する噴孔51、52をそれぞれ備えることにより、点火プラグ31近傍とシリンダ11の内壁面に沿う領域に確実に水素濃度の濃い領域を形成することができるため、ノッキングの発生をより確実に抑制・防止することができる。
【0041】
・第3の実施例:
図8〜図10を参照して第3の実施例に係る内燃機関について説明する。図8は第3の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内へ水素H2を供給する際の状態を模式的に示す説明図である。図9は第3の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素H2の存在範囲を模式的に示す説明図である。図10は第3の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素H2の存在範囲を模式的に示す説明図である。
【0042】
第3の実施例に係る内燃機関は、ピストン13bの頂面に窪み133を有する点を除いて第1の実施例に係る内燃機関10と同一の構成を備えるので、同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0043】
第3の実施例に従うピストン13bは、図8〜図10に示すように、その頂面に窪み133(キャビティ)を有している。第3の実施例における水素噴射弁HIJは、第1の実施例における水素噴射弁HIJと同様に所定の開き角θを有する2つの噴射孔を有しており、水素H2はシリンダ11の内壁面に沿うようにして第1の方向D1、第1の方向とは異なる第2の方向D2にそれぞれ噴射される。所定の開き角θは、噴射された水素H2をシリンダ11の内壁面に沿う領域に存在させる角度とされている。
【0044】
キャビティ131は、水素H2の噴射方向に直交する方向に長い略楕円形状を有しており、また、水素噴射弁HIJから噴射された水素H2の一部を捕捉して点火プラグ31の近傍に導く壁面134を有している。すなわち、キャビティ133の壁面134は、その両端部が、水素噴射弁HIJから噴射され、シリンダ11の内壁面沿って流動する水素H2の流路と交差するように形成されている。
【0045】
水素噴射弁HIJから水素H2が噴射されるタイミング、すなわち水素噴射時期は、点火プラグ31による点火時期、例えば、ピストン31が圧縮上死点近傍にあるとき、に図10に示すような水素濃度分布がシリンダ11(燃焼室)内に形成されるタイミングであり、例えば、40°BTDCまでに噴射が完了するタイミングにて噴射される。水素噴射弁HIJから噴射された水素H2は、図9に示すように、その一部がキャビティ133の壁面134によって捕捉され、捕捉された水素H2は点火プラグ31の近傍に導かれる。一方、キャビティ133によって捕捉されなかった水素H2は図9に示すようにシリンダ11の内壁面に沿って水素噴射弁HIJの対角位置に向かって流動する。点火プラグ31による点火時期には、図10に示すように、点火プラグ31の近傍およびシリンダ11の内周壁面に沿う領域に水素濃度の濃い領域が形成される。なお、図8および図10において水素H2が分布していない領域には、水素噴射に先立って燃料噴射弁IJから噴射されたガソリン混合気が存在している。
【0046】
以上説明した第3の実施例によれば、点火プラグ31の近傍およびシリンダ11の内壁面に沿う領域に水素濃度の濃い領域が形成されるので、点火プラグ31によるガソリン混合気の着火性を向上させることができると共に、シリンダ11の内壁面におけるガソリン混合気の自着火を抑制・防止することができる。特に、第3の実施例では、キャビティ133によって水素噴射弁HIJから噴射された水素H2の一部が点火プラグ31の近傍に対して供給されるので、点火プラグ31近傍とシリンダ11の内壁面に沿う領域に確実に水素濃度の濃い領域を形成することができるため、ノッキングの発生をより確実に抑制・防止することができる。
【0047】
・その他の実施例:
上記実施例では、高圧水素タンクHTに高圧貯蔵された水素ガスを用いたが、液体水素を用いても良い。また、上記実施例では、純水素を用いたが、内燃機関10に改質器を搭載し、改質器によって生成された水素リッチガスを用いても良い。
【0048】
上記実施例では、ノッキング抑制剤として高い自着火温度および高い燃焼速度を有する水素、アセチレンを例として挙げたが、高い自着火温度を有する物質(気体、液体、固体)を、内燃機関10に要求される全熱量に対して約10%〜30の熱量割合にて、圧縮行程後半(例えば、約40°BTDC)にシリンダ11の内壁面に噴射しても良い。既述のように、ノッキングはシリンダ11の内壁面に沿う領域において主に発生するので、この領域に適量の高自着火温度を有する物質を存在させることにより、主燃料のノッキングの発生を抑制・防止することができる。
【0049】
上記実施例では、主燃料としてガソリン燃料を用いているが天然ガス燃料、液化石油ガス燃料等を用いても良い。燃焼時における生成熱量がガソリンと同様であれば、水素熱量割合RH2は10〜30%が好ましく、15〜25%がより好ましい。また、燃焼時における生成熱量がガソリンと異なる燃料である場合には、燃焼時における生成熱量に応じて、水素熱量割合RH2は適宜決定される。
【0050】
上記実施例では、ポート噴射タイプの燃料噴射弁IJが用いられているが、シリンダ11内に直接燃料が噴射される直噴タイプの燃料噴射弁が用いられても良い。
【0051】
以上、いくつかの実施例に基づき本発明に係る火花点火式内燃機関および内燃機関の燃焼制御方法について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関の概略構成を示す説明図である。
【図2】第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内へ水素を供給する際の状態を模式的に示す説明図である。
【図3】第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素の存在範囲を模式的に示す説明図である。
【図4】第1の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素の存在範囲を模式的に示す説明図である。
【図5】第2の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内へ水素を供給する際の状態を模式的に示す説明図である。
【図6】図5に示す内燃機関のシリンダブロックを6−6線によって切断した断面の一部を模式的に示す説明図である。
【図7】第2の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素の存在範囲を模式的に示す説明図である。
【図8】第3の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内へ水素を供給する際の状態を模式的に示す説明図である。
【図9】第3の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素の存在範囲を模式的に示す説明図である。
【図10】第3の実施例に係る火花点火式の内燃機関のシリンダブロックをシリンダヘッド側から見た、シリンダ内に供給された水素の存在範囲を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
10、10a…内燃機関
11…シリンダ
12…シリンダブロック
13、13a、13b…ピストン
131、133…窪み(キャビティ)
132、134…壁面
14…クランクケース
15…シリンダヘッド
16…吸気ポート
161…吸気バルブ
17…排気ポート
171…排気バルブ
18…吸気管
19…排気管
31…点火プラグ
40…制御ユニット
50…中央の噴孔
51、52…側方の噴孔
IC…吸気側カム
EC…排気側カム
IJ…燃料噴射弁(インジェクタ)
FD…燃料デリバリパイプ
HIJ、HIJ’…水素噴射弁
HFD…水素デリバリパイプ
HT…高圧水素タンク
Claims (9)
- 火花点火により燃料が点火される内燃機関であって、
火花点火を実行する火花点火装置と、
主燃料を供給する主燃料供給装置と、
高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤を、前記火花点火装置近傍および前記火花点火装置によって生成される火炎の伝播方向の端部領域における濃度が他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給するノッキング抑制剤供給装置とを備える内燃機関。 - 請求項1に記載の内燃機関はさらに、
シリンダを有するシリンダブロックを備え、
前記火炎の伝播方向の端部領域は、前記火花点火装置近傍および前記シリンダの内壁面に沿った領域であり、
前記ノッキング抑制剤供給装置は、前記火花点火装置近傍および前記シリンダの内壁面に向けて前記ノッキング抑制剤を供給する内燃機関。 - 請求項1に記載の内燃機関はさらに、
シリンダを有するシリンダブロックを備え、
前記火花点火装置は、前記シリンダの径方向の略中央に配置され、
前記火炎の伝播方向の端部領域は、前記火花点火装置近傍および前記シリンダの内壁面に沿った領域であり、
前記ノッキング抑制剤供給装置は、前記シリンダの内壁面に沿う第1の方向と第1の方向とは異なる第2の方向に向けて前記ノッキング抑制剤を供給する内燃機関。 - 請求項1に記載の内燃機関はさらに、
シリンダを有するシリンダブロックと、
前記シリンダ内を往復動すると共に前記火花点火装置と対向する頂面を有し、その頂面に供給された流体を前記火花点火装置へと導くための誘導部を有するピストンとを備え、
前記ノッキング抑制剤供給装置は、前記ピストン内部に前記ノッキング抑制剤を直接供給できると共に、圧縮行程において、前記ピストンの誘導部および前記シリンダの内壁面に対して前記ノッキング抑制剤を供給する内燃機関。 - 請求項1に記載の内燃機関はさらに、
シリンダを有するシリンダブロックと、
前記シリンダ内を往復動すると共に前記火花点火装置と対向する頂面を有し、前記シリンダの内壁面に供給された流体の一部を前記火花点火装置へと導くための誘導部を前記頂面に有するピストンとを備え、
前記ノッキング抑制剤供給装置は、圧縮行程において、前記シリンダの内壁面に沿って第1の方向と第1の方向とは異なる第2の方向に対して前記ノッキング抑制剤を供給する内燃機関。 - 高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤と主燃料とが燃料として供給され、火花点火により燃料が点火される内燃機関であって、
シリンダを有するシリンダブロックと、
火花点火を実行する火花点火装置と、
前記主燃料を供給する主燃料供給装置と、
前記火花点火装置による点火時における、前記火花点火装置近傍および前記火花点火装置から前記シリンダの径方向に最も離間した領域における前記ノッキング抑制剤の濃度が、他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給するノッキング抑制剤供給装置とを備える内燃機関。 - 請求項1ないし請求項6にいずれかに記載の内燃機関において、
前記主燃料はガソリン燃料、天然ガス燃料または液化石油ガス燃料であり、
前記ノッキング抑制剤は水素である内燃機関。 - 火花点火装置により燃料が点火される内燃機関における燃焼制御方法であって、
主燃料を供給し、
高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤を、前記火花点火装置近傍および前記火花点火装置によって生成される火炎の伝播方向の端部領域における濃度が他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給し、
前記供給した主燃料およびノッキング抑制剤に対する火花点火を実行する方法。 - 高い自着火温度と高い燃焼速度とを有するノッキング抑制剤と主燃料とが燃料として供給され、火花点火装置により燃料が点火される内燃機関における燃焼制御方法であって、
前記主燃料を供給し、
前記火花点火装置近傍および前記火花点火装置から前記シリンダの径方向に最も離間した領域における前記ノッキング抑制剤の濃度を他の領域における濃度よりも濃くなるよう供給し、
前記供給した主燃料およびノッキング抑制剤に対する火花点火を実行する方法。
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