JP2004236582A - 容器入り果汁含有アルコール飲料及びその製造方法 - Google Patents

容器入り果汁含有アルコール飲料及びその製造方法 Download PDF

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Norihisa Fujiwara
徳久 藤原
Noriyuki Miyazaki
敬之 宮崎
Katsuhiko Taguma
克彦 田熊
Rika Ninomiya
里佳 二宮
Yuichi Nagase
裕一 長瀬
Shoji Tarumi
彰二 垂水
Kojiro Takahashi
康次郎 高橋
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Abstract

【課題】保存安定性の高められた容器入り果汁含有アルコール飲料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】加熱処理を全く行っていない果汁を含有するアルコール飲料であって、加熱殺菌処理が行われてなく、かつpHが3.0〜3.5である容器入り果汁含有アルコール飲料。加熱処理を全く行っていない果汁を混合した後の調合液のpHを3.0〜3.5に調整する工程及び膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程を包含し、かつ加熱殺菌処理を行わない容器入り果汁含有アルコール飲料の製造方法。アルコール飲料で常用の色素、乳化剤等の添加剤、カーボネーション等の処理を付加してもよい。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、原料果実由来の香味が良好で、加熱処理を全く行っていない果汁本来の新鮮な香味を有し、かつその香味の保存安定性が良好な容器入り果汁含有アルコール飲料及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】特開平4−341173号公報
【特許文献2】特開2000−312580号公報
従来より、酒類や醸造用アルコールなどのアルコール原料に果実、果汁、糖類、酸味料、水等を加えたアルコール飲料があり、チューハイ類に代表される低アルコールリキュール類が開発されてきた。近年、市場に出回っているさまざまな果汁含有アルコール飲料は、各種原料を混合した後、缶、瓶、PETボトルなどの各種容器に充填後、加熱殺菌処理を行って製造している。例えば、缶入りチューハイの一般的な製造方法は、所定量の原料用アルコール、水、果汁、糖類、食品添加物等を調合した後、カーボネーションを行い、容器に充填、密封後に加熱殺菌処理することからなる。このときに行われる加熱殺菌処理は、通常、製品の中心部品温において65℃、10分間以上の条件で行われるが、これは製品中に残存する酵母をはじめとする微生物の増殖を抑制することを目的として行われている。
一方、日本酒の生酒や生ビールでは、充填の前後で内容液に対して加熱殺菌処理を行うことなく、メンブレンフィルターを用いた膜ろ過を行うことにより、新鮮な風味を有する製品が販売されている。生酒では、そのアルコール濃度が13〜14v/v%以上であるために、乳酸菌の一種である火落菌の管理を徹底することにより微生物汚染の防止は比較的容易である。生ビールでは、まずケイ藻土ろ過により濁りやほとんどの酵母類などを既に除去し、次に膜ろ過フィルター用いてろ過することにより、ビール中に含まれている除去されなかった酵母あるいはビールに有害とされる特別な乳酸菌などの細菌を除去して製造される。グラム陽性菌に抗菌活性をもつホップ由来の苦味成分があるために、微生物汚染の防止は生酒と同様に比較的容易である。
しかしながら、果汁含有アルコール飲料においては、果汁に由来する香気成分の損失をできるだけ少なくする一方で、酵母、乳酸菌等の微生物汚染の問題の検討を行う必要があった。
【0003】
果汁含有アルコール飲料を製造する場合、その使用する果汁には、濃縮果汁とストレート果汁(未濃縮果汁)がある。濃縮果汁の中では、カットバックとフレーバー還元とを併用した濃縮果汁が、原料果汁としては最も風味の優れたものである。果汁を濃縮する方法としては、真空と加熱を利用する方法が一般的であり、強制循環型、液膜落下型、プレート式、コイル式、かくはん膜式、回転円錐式などがある。濃縮果汁には、包装、流通、貯蔵などが容易になるという利点があるが、加熱工程があるため、低沸点成分の揮散と香味の変化が起こるという欠点を有している。ストレート果汁には、無殺菌果汁、殺菌果汁、殺菌冷凍果汁等がある。未濃縮のストレート果汁、特に加熱処理を行っていない果汁を使用することにより、原料果実本来の新鮮な香味を有する果汁含有アルコール飲料を製造することができるが、酵母、乳酸菌等の微生物汚染を防止するために、容器に充填、密封後に加熱殺菌処理を行う必要があり、加熱処理を行っていない果汁を使用したにも関わらず、原料果実本来の新鮮な香味が加熱殺菌処理により損なわれてしまうことになる。
【0004】
果汁含有アルコール飲料を製造する方法において、特開平4−341173号公報には、原料本来の新鮮な香味を保持した、生感覚の新規なアルコール配合飲料の製造方法が開示されているが、内容液のpHを調整することによる原料果実由来の香味がどのように変化するかについての記載はなく、製造当初の香味の流通段階での保存安定性についての評価は行われていない。また、酵母、乳酸菌等の微生物汚染を避けるために、非常に小さい孔径の膜ろ過フィルターを用いてろ過した場合の香味の損失や、最終製品の微生物汚染の可能性等についての検討は行われていない。
また、特開2000−312580公報には、例えば、脱酸処理した改質果汁を用いる風味の優れた果汁含有アルコール飲料が開示されているが、上述と同様に、加熱殺菌処理を行わずにろ過除菌を行った場合の香味の保存安定性や、最終製品の微生物汚染の可能性等についての検討は行われていない。
【0005】
更に、工業的規模で容器入り果汁含有アルコール飲料、特に色素を含む容器入り果汁含有アルコール飲料を製造する場合には、香味の保存安定性、微生物汚染の問題以外に、膜ろ過フィルターに吸着、捕捉される物質があると、使用済み膜ろ過フィルターの完全性試験ができない、あるいは、膜ろ過フィルターへの負荷がかかりその膜ろ過フィルターの寿命が短くなるなどの問題点があった。
【0006】
以上のことより、加熱処理を全く行わない果汁を用いて、原料果実由来の香味が良好で、加熱処理することによる果汁本来の新鮮な香味が損なわれることなく、かつその香味の保存安定性が良好であり、また、酵母、乳酸菌等の微生物汚染のない容器入り果汁含有アルコール飲料の開発が求められていた。更に、色素を含む場合にはその色素安定性にも優れた容器入り果汁含有アルコール飲料の開発が求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術にかんがみ、加熱処理することによる果汁本来の新鮮な香味が損なわれることのない、また、酵母、乳酸菌等の微生物汚染のない保存安定性の高められた容器入り果汁含有アルコール飲料、更に、色素を含む場合にはその色素安定性にも優れた容器入り果実含有アルコール飲料及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、加熱処理を全く行っていない果汁を含有するアルコール飲料であって、加熱殺菌処理が行われてなく、かつpHが3.0〜3.5であることを特徴とする容器入り果汁含有アルコール飲料に関する。第2の発明は、加熱処理を全く行っていない果汁を混合した後の調合液のpHを3.0〜3.5に調整する工程及び膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程を包含し、かつ加熱殺菌処理を行わないことを特徴とする容器入り果汁含有アルコール飲料の製造方法に関する。
【0009】
本発明者らは、加熱処理することによる果汁本来の新鮮な香味が損なわれることのない、また、酵母、乳酸菌等の微生物汚染のない保存安定性の高められた容器入り果汁含有アルコール飲料を提供すべく、鋭意検討を重ねた結果、加熱処理を全く行っていない果汁を含有するアルコール飲料において、果汁を混合した後の調合液のpHを調整する工程等を包含させることにより、また、膜ろ過フィルターの孔径等を工夫することにより、果汁本来の新鮮な香味を有し、かつ保存安定性が良好な、加熱殺菌処理が行われてなく、かつpHが3.0〜3.5である容器入り果汁含有アルコール飲料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を具体的に説明する。
まず、本発明でいう果汁含有アルコール飲料とは、アルコール原料に果汁を含有させる飲料であって、更には必要に応じて水、糖類、酸味料、香料等の食品添加物、その他の原料を混合して製造されるものであり、いわゆるチューハイ、カクテル、フィズ、ワインクーラー等のリキュール類等が挙げられる。
本発明に用いるアルコール原料に特に限定はなく、例えば、醸造用アルコール、スピリッツ類(ラム、ウオッカ、ジン等)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー又は焼酎(甲類、乙類等)等、更には清酒、ワイン、ビール等の醸造酒でもよい。これらをそれぞれ単独又は併用して用いることができるが、その香味を生かすようなアルコール原料が好ましい。
【0011】
本発明における果汁は、原料果実から圧搾した搾汁液を用いるが、本発明では加熱処理を全く行っていない果汁を用いることが特徴である。搾汁したままの濃縮していない原料用果汁であるストレート果汁等が挙げられる。透明果汁が好適に使用できる。
本発明でいう加熱処理を全く行っていない果汁は、その果実の種類に限定されず、また1種又は2種以上でもよい。本発明で使用する果汁の原料果実としては、例えば、柑橘類果実(オレンジ、ブラッドオレンジ、温州ミカン、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ユズ、タンジェリン、テンプルオレンジ、タンジェロ、カラマンシー等)、リンゴ、ブドウ、モモ、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、ライチ、メロン、西洋ナシ、スモモ類等が使用できるが、本発明においては香味が劣化しやすい柑橘類果実由来の果汁が特に好ましく、更にはオレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライム、ユズ等の加熱処理を行っていない果汁が好適に使用できる。
【0012】
本発明の果汁含有アルコール飲料のアルコール濃度は、1v/v%以上であればよいが、好ましくは4〜12v/v%、より好ましくは、6〜10v/v%である。アルコール濃度が4v/v%未満であると、アルコールによる酵母、乳酸菌等に対する生育抑制効果が期待できず、また、12v/v%超であると、アルコール臭が強すぎることとなり果汁本来の新鮮な香味が打ち消されることになる。
【0013】
本発明の果汁含有アルコール飲料は、加熱殺菌処理が行われていないことを特徴とする。紫外線照射やオゾン処理等の加熱を伴わない殺菌処理も本発明に含まれる。また、本発明の果汁含有アルコール飲料のpHは、3.0〜3.5である。pHが3.0未満であると、果汁本来の新鮮な香味の保存安定性が悪くなり、3.5超であると、逆に官能的に製品の香味の香り立ちが悪く、ぼけた印象になる。更に、酵母、乳酸菌等の微生物に対する生育抑制効果が弱くなり、微生物汚染の危険性が増大する。
pHを3.0〜3.5に調整する原材料に特に限定はないが、例えば、有機酸及び/又は有機酸塩が挙げられる。有機酸としては、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、アスコルビン酸、酢酸等が挙げられる。有機酸塩としては、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、アスコルビン酸、酢酸等のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。使用する果汁本来の新鮮な香味が損なわれることのない、極力味への影響が少ないものを適宜選択すればよい。有機酸塩を使用し、pHを調整することにより、香味が良好で、保存期間中の香気成分の劣化を防止することが可能である。
【0014】
本発明の果汁含有アルコール飲料におけるカーボネーションの有無は任意である。炭酸ガスを含有していてもよく、炭酸ガスを含有していなくてもよい。炭酸ガスを含有させる場合、香味の観点からそのガスボリュームは、1.5〜3.5の範囲で用いるのが好ましい。ガスボリュームが1.5未満であると、炭酸飲料らしい爽快感に乏しく、また、3.5超であると、炭酸ガスの影響が強すぎて果汁本来の新鮮な香味が打ち消されることになる。なお、本発明でいうガスボリュームとは、新版ソフトドリンクス〔発行所(株)光琳、発行昭和56年10月25日、第676頁〕に記載の単位である。
【0015】
本発明の果汁含有アルコール飲料に用いられる色素に特に限定はないが、例えば、アナトー色素、β−カロチン、ニンジンカロチン、パプリカ色素、クチナシ黄色素、ウコン色素、ブドウ果皮色素、ブドウ果汁色素、紫コーン色素、赤キャベツ色素、シソ色素、ベリー色素、ベニバナ黄色素、ビートレッド、コチニール色素、ラック色素、クロロフィル、コウリャン色素、カカオ色素、リボフラビン、紅麹色素、スピルリナ色素、クチナシ青色素等が挙げられる。
【0016】
本発明でいう容器に特に限定はないが、例えば、形状は缶、瓶、ペットボトル等、材質はアルミニウム等の金属、ガラス、PET等の樹脂等が挙げられる。紙あるいは紙に類似する材質でもよい。
充填前の容器自体の殺菌処理は行ってもよいし、行わなくてもよい。殺菌処理を行うのであれば、殺菌方法に特に限定はないが、温水や蒸気による殺菌、UV処理や薬剤処理による殺菌等を行えばよい。
【0017】
本発明の容器入り果汁含有アルコール飲料の製造方法を例示する。まず、アルコール、水、加熱処理を全く行っていない果汁に、糖類等を混合し、有機酸及び/又は有機酸塩により混合した後の調合液のpHを3.0〜3.5に調整する。更に加水して、異物除去のろ過を行う。これに必要に応じて香料等の添加物を加える。得られた液を脱気水と均一に混合し、冷却、カーボネーション後、膜ろ過フィルターを用いてろ過し、容器に充填・密封することにより目的とする容器入り果汁含有アルコール飲料を製造することができる。前記の製造方法において、pHを調整する工程及び膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程以外は任意の工程であり、カーボネーション等の工程は、必要に応じて行えばよい。色素を含む容器入り果汁含有アルコール飲料を製造する場合には、膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程に次いで無菌的に色素を添加することにより製造することができる。
【0018】
本発明の製造方法の主要部は、加熱処理を全く行っていない果汁を混合した後の調合液のpHを3.0〜3.5に調整する工程にある。更に、(カーボネーションした後に)膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程にある。色素を含む場合には膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程に次いで無菌的に色素を添加することが重要である。液体香料(エッセンス、フレーバー)、乳化香料といったどの形態の香料を含む場合にも適用することができるが、膜ろ過フィルターに吸着、捕捉される物質の場合には、色素と同様に膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程に次いで無菌的に添加すればよい。ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤を含む場合にも、膜ろ過フィルターに吸着、捕捉される物質の場合には、同様に膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程に次いで無菌的に添加すればよい。
本発明でいう加熱処理を全く行っていない果汁を混合した後の調合液のpHを3.0〜3.5に調整するためには、上述したように、例えば、有機酸及び/又は有機酸塩を用いて行うことができる。有機酸としては、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、アスコルビン酸、酢酸等が挙げられ、有機酸塩としては、それらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。果汁本来の新鮮な香味が損なわれることのない、極力味への影響が少ないものを適宜選択すればよい。
【0019】
本発明に用いる膜ろ過フィルターに特に限定はないが、香気成分の損失が少ない低吸着タイプを適宜選択することにより達成される。膜ろ過フィルターの孔径は、0.22超から0.65μmまでの範囲が適用できるが、より孔径の大きいものほど香気成分の通過量が多くなるので、できるだけ大きい孔径のものを選択するのが肝要であり、0.45μmが特に好適である。膜ろ過フィルターの材質は、PVDF、セルロースエステル、酢酸セルロース、PES(ポリエーテルスルホン)等が使用できるが、上述したように果汁本来の新鮮な香味を吸着しないものであればよい。
【0020】
本発明の製造方法は、膜ろ過フィルターに吸着、捕捉される物質、例えば色素、香料、乳化剤等を使用する場合にも好適に使用できるが、特に色素を含む果汁含有アルコール飲料の製造に好適に使用できる。膜ろ過フィルターを用いてろ過を行った後に、膜ろ過フィルターに吸着、捕捉される物質があると、完全性試験が行えない場合があるが、本発明では容易に完全性試験を行うことができる。また、色素等の目詰まりがないので、膜ろ過フィルターへの負荷が減少し、膜ろ過フィルターの寿命が長くなるという利点がある。膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程に次いで無菌的に色素等を添加することにより得られる果汁含有アルコール飲料は、あらかじめ色素等を含む液を膜ろ過フィルターにてろ過して得られる果汁含有アルコール飲料よりも色落ちが全くなく色素安定性にも優れたものとなる。
【0021】
本発明の製造方法により、加熱処理を全く行っていない果汁を含有するアルコール飲料において、容器に充填後のみならず、充填前の添加物処理等においても一切加熱殺菌処理を行うことがないので、原料果実由来の香味が良好で、加熱処理することによる果汁本来の新鮮な香味が損なわれることのない、また、酵母、乳酸菌等の微生物汚染のない保存安定性の高められた容器入り果汁含有アルコール飲料の工業的規模での製造を行うことができる。
また、膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程に次いで無菌的に色素を添加することにより、膜ろ過フィルターでの色素の吸着や捕捉を回避することができるので、膜ろ過フィルターの完全性試験を実施することができ、膜ろ過フィルターへの負荷が減少し、膜ろ過フィルターの寿命が長くなる。したがって、香味の保存安定性、微生物汚染の問題のみならず、色素安定性にも優れた容器入り果汁含有アルコール飲料の工業的規模での製造を行うことができる。
【0022】
以下、検討例によって更に具体的に説明する。
検討例1(膜ろ過フィルターの孔径とろ過前後の調合液の官能評価試験)
加熱処理を全く行っていない果汁含有アルコール飲料において、ろ過に使用する膜ろ過フィルターの孔径と柑橘類果実の香気成分の透過率に関する試験を行った。加熱処理を全く行っていないレモン果汁の含有量を3.0w/v%とし、アルコール濃度7.0v/v%、その他糖類、香料等を含む果汁含有アルコール飲料を調製した。調合液のpHを、クエン酸及びクエン酸ナトリウムにより、3.1となるように調整し、孔径0.22、0.45、0.65μmの膜ろ過フィルターを用いて、それぞれろ過を行い、ろ過前後の濁度の測定及び官能評価試験を行った。レモン等の柑橘類果実の新鮮な香味を与える成分の主要なものの多くは、その果実の果皮に含まれるピールオイルと呼ばれる精油成分に含まれている。その精油成分のエマルジョンが多く含まれる調合液はわずかに白濁した状態を呈することになるので、ろ過前後の濁度を測定することにより、レモン等の柑橘類果実の香気成分の透過率を評価することができる。濁度の測定には、2100N型濁度計〔HACH社製〕を用いて行った。官能評価試験は、専門のパネラー5名により3段階評価で行った。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
Figure 2004236582
【0024】
表1の結果より、ろ過前の調合液に比べて、0.45μm及び0.65μmの膜ろ過フィルターでろ過を行った後の液の濁度はやや低下し、官能評価試験においてもやや香味の低下が認められたが、香味の良好さについての差は許容範囲内であると評価された。0.22μmの膜ろ過フィルターでろ過を行った後の液の濁度の低下は大きく、官能評価試験においても明らかに不適であるという評価であった。
【0025】
検討例2(香気成分の保存安定性に対するpHの影響)
加熱処理を全く行っていない果汁含有アルコール飲料の香気成分の保存安定性に対するpHの影響を検討した。加熱処理を全く行っていないレモン果汁の含有量を3.0w/v%とし、アルコール濃度6.0v/v%、その他糖類、レモン香料等を含む果汁含有アルコール飲料の調合液を調製した。この調合液にグルコン酸ナトリウムを添加して、pHを2.8、3.2、3.6にそれぞれ調整したものを作成した。これらの調合液を、孔径0.45μmの膜ろ過フィルターを用いて、それぞれ除菌ろ過を行い、40℃で保存試験を行った。保存開始後、1週間目、2週間目、3週間目、4週間目にそれらの官能評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
Figure 2004236582
【0027】
表2より、pHを2.8に調整したものは、1週間目でややフレッシュ感の低下が認められ、3週間目にはレモン特有の薬品様の劣化臭が強く感じられた。これに対し、pHを3.2に調整したものは、保存開始4週間目においても、ややフレッシュ感の低下は認められるものの、強い劣化臭は感じられなかった。pHを3.6に調整したものは、1週間目から4週間目の全保存区で劣化臭は認められなかったが、レモンらしい新鮮な香り立ちが弱く、塩味が感じられて爽快感が劣っていた。
【0028】
検討例3(乳酸菌に対するpHの影響)
加熱処理を全く行わない果汁含有アルコール飲料において、微生物汚染に対するpHの影響を検討するために、加熱殺菌処理を行わないモデル液を用いて乳酸菌の増殖に関する試験を行った。モデル液のアルコール濃度は6.0v/v%、レモン果汁含有量は3.0w/v%、果糖ぶどう糖液糖含有量は4.1w/v%となるように調製した。このモデル液のpHを、クエン酸及びクエン酸ナトリウムにより、それぞれ3.0、3.5、3.8となるように調整した。調製したモデル液を0.45μmの膜ろ過フィルターでろ過を行った後、1ml当たり10〜10個となるように乳酸菌を植菌し、25℃で1ヵ月間培養を行い増殖性を調べた。乳酸菌はIFOより入手したタイプストレインと食品より分離して自社で保存している菌株を用いた。結果を表3及び表4に示す。
【0029】
【表3】
Figure 2004236582
【0030】
【表4】
Figure 2004236582
【0031】
表3及び表4の結果より、果汁含有アルコール飲料のモデル液中での乳酸菌の増殖性については、液中のpHにより影響を受けることが認められた。pHが3.0のモデル液においては、実験に使用したすべての乳酸菌で1ヵ月後には不検出であったが、pHが3.5のモデル液においては、一部の菌株で増殖性は認められなかったものの液中に乳酸菌が残存していることが確認された。更に、pHが3.8のモデル液においては、乳酸菌が増殖していることが認められた。したがって、液中のpHを3.0〜3.5としても乳酸菌の増殖を抑制することができることが明らかとなった。
【0032】
検討例4(膜ろ過フィルターの完全性試験)
加熱処理を全く行っていないオレンジ果汁の含有量を2.5w/v%とし、アルコール濃度7.0v/v%、その他糖類、オレンジ香料、色素等を含む果汁含有アルコール飲料の調合液を調製した。3種類の色素で検討を行った。調合液のpHを、クエン酸及びクエン酸ナトリウムにより、3.3となるように調整し、孔径0.45μmの膜ろ過フィルターを用いて、それぞれ除菌ろ過を行った後、使用済み膜ろ過フィルターの完全性試験を実施した。目詰まりした膜ろ過フィルターでは完全性試験が行えず、正確な膜性能の評価ができないので、加熱殺菌処理が行われていない果汁含有アルコール飲料の製造に用いることはできない。
完全性試験の方法を更に詳細に説明すると以下のようになる。
色素を含む果汁含有アルコール飲料の製造を行った後、粒子を含まない温水又は熱水で洗浄した膜ろ過フィルターを供試した。フィルタータイプは、プリーツタイプ親水性メンブレンフィルターであり、孔径0.45μm、サイズ30インチであった。完全性試験は、水(ろ過水)を湿潤液とするプレッシャーホールド試験により行い、条件は、フィルター本数1本、ディフィージョン値50ml/分、試験時間5分、大気圧1,013ミリバール、一次側容積3,500ml、試験圧力1.2kg/cm、圧力降下基準値0.072kg/cmで行った。
▲1▼通水、▲2▼昇圧、▲3▼安定化、▲4▼測定、▲5▼判定という手順により行った。
▲1▼まず、フィルターに水膜を形成させる目的で、フィルター一次側より通水後、フィルターハウジング内の水抜きを行う。▲2▼フィルター一次側を窒素ガスでゆっくりと試験圧力(1.2kg/cm)より0.05〜0.06kg/cm程度高い圧力まで昇圧する。▲3▼一定時間(5分)放置し、安定化を図る。このとき、試験圧力(1.2kg/cm)を下回らないようにする。▲4▼安定化終了後から一定時間(5分)内の圧力降下値を測定する。▲5▼測定時間内の圧力降下値が基準値内であれば、膜面に問題がないと判断し、合格とする。
完全性試験の結果を表5に示す。
【0033】
【表5】
Figure 2004236582
【0034】
表5の結果より、色素A、色素B及び色素Cを含有する調合液を通液後のフィルターでは、いずれも圧力降下基準値0.072kg/cmを上回るか、安定化において試験圧力を保持できないこととなった。色素を含まずに通液したフィルターでは、圧力降下値は0.064kg/cmとなり、圧力降下基準値内であった。
【0035】
以上述べたごとく、本発明により、加熱処理を全く行わない果汁を用いて、原料果実由来の香味が良好で、加熱処理することによる果汁本来の新鮮な香味が損なわれることのない、また、酵母、乳酸菌等の微生物汚染のない保存安定性の高められた容器入り果汁含有アルコール飲料を提供することができる。更に、色素を含む場合にはその色素安定性にも優れた容器入り果汁含有アルコール飲料を提供することができる。
【0036】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0037】
実施例1
加熱処理を全く行っていないレモン果汁を用いて果汁含有アルコール飲料を調製した。レモン果汁含有アルコール飲料の配合を表6に示す。表6に示す配合により、アルコール、水、果汁に果糖ぶどう糖液糖、クエン酸を混合し、グルコン酸ナトリウムにより混合した調合液のpHを3.2に調整した後にレモンフレーバーを加え、得られた調合液を冷却、カーボネーション後、孔径0.45μmの膜ろ過フィルター〔日本ミリポア社製〕を用いてろ過した。その後、得られた液をアルミニウム缶に充填、密封し、レモン果汁含有アルコール飲料(本発明1)を調製した。
【0038】
【表6】
Figure 2004236582
【0039】
対照として、調合液のpH調整を行わないもの(対照1)、調合液のpH調整を行い、アルミニウム缶に充填、密封後、中心部品温において65℃、10分間の加熱殺菌処理を行ったもの(対照2)、調合液のpH調整を行わず、アルミニウム缶に充填、密封後、中心部品温において、65℃、10分間の加熱殺菌処理を行ったもの(対照3)を調製した。得られたそれぞれのレモン果汁含有アルコール飲料について、30℃、1ヵ月保存した後に官能評価試験を行った。官能評価試験は、専門のパネラー5名により行った。分析値並びに官能評価試験結果を表7に示す。
【0040】
【表7】
Figure 2004236582
【0041】
表7より、本発明1の方が、対照1、対照2、対照3に比べて、香味の鮮度維持に優れており、また、微生物汚染の問題も認められなかった。通液後の膜ろ過フィルターの完全性試験を、検討例4に準じて行ったところ、圧力降下基準値内であった。
【0042】
実施例2
実施例1に準じて、加熱処理を全く行っていないグレープフルーツ果汁を用いて果汁含有アルコール飲料を調製した。グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料の配合を表8に示す。果汁を混合した後の調合液のpHの調整は、クエン酸三ナトリウムにより行い、pHを3.3に調整して、以下実施例1と同様にして、グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料(本発明2)を調製した。
【0043】
【表8】
Figure 2004236582
【0044】
対照として、調合液のpH調整を行わないもの(対照4)、調合液のpH調整を行い、アルミニウム缶に充填、密封後、中心部品温において65℃、10分間の加熱殺菌処理を行ったもの(対照5)、調合液のpH調整を行わず、アルミニウム缶に充填、密封後、中心部品温において65℃、10分間の加熱殺菌処理を行ったもの(対照6)を調製した。得られたそれぞれのグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料について、30℃、1ヵ月保存した後に官能評価試験を行った。官能評価試験は、専門のパネラー5名により行った。分析値並びに官能評価試験結果を表9に示す。
【0045】
【表9】
Figure 2004236582
【0046】
表9より、本発明2の方が、対照4、対照5、対照6に比べて、香味の鮮度維持に優れており、また、微生物汚染の問題も認められなかった。通液後の膜ろ過フィルターの完全性試験を、検討例4に準じて行ったところ、圧力降下基準値内であった。
【0047】
実施例3
実施例1に準じて、加熱処理を全く行っていないライム果汁を用いて果汁含有アルコール飲料を調製した。ライム果汁含有アルコール飲料の配合を表10に示す。果汁を混合した後の調合液のpHの調整は、グルコン酸カリウムにより行い、pHを3.1に調整して、以下実施例1と同様にして、ライム果汁含有アルコール飲料(本発明3)を調製した。
【0048】
【表10】
Figure 2004236582
【0049】
対照として、調合液のpH調整を行わないもの(対照7)、調合液のpH調整を行い、アルミニウム缶に充填、密封後、中心部品温において65℃、10分間の加熱殺菌処理を行ったもの(対照8)、調合液のpH調整を行わず、アルミニウム缶に充填、密封後、中心部品温において、65℃、10分間の加熱殺菌処理を行ったもの(対照9)を調製した。得られたそれぞれのライム果汁含有アルコール飲料について、30℃、1ヵ月保存した後に官能評価試験を行った。官能評価試験は、専門のパネラー5名により行った。分析値並びに官能評価試験結果を表11に示す。
【0050】
【表11】
Figure 2004236582
【0051】
表11より、本発明3の方が、対照7、対照8、対照9に比べて、香味の鮮度維持に優れており、また、微生物汚染の問題も認められなかった。通液後の膜ろ過フィルターの完全性試験を、検討例4に準じて行ったところ、圧力降下基準値内であった。
【0052】
実施例4
実施例1に準じて、加熱処理を全く行っていないオレンジ果汁を用いて果汁含有アルコール飲料を調製した。オレンジ果汁含有アルコール飲料の配合を表12に示す。果汁を混合した後の調合液のpHの調整は、クエン酸三ナトリウムにより行い、pHを3.3に調整して、以下実施例1と同様にして、オレンジ果汁含有アルコール飲料(本発明4)を調製した。色素については、膜ろ過フィルターを用いてろ過した後に無菌的にコチニール色素、赤キャベツ色素を添加した。
【0053】
【表12】
Figure 2004236582
【0054】
対照として、調合液のpH調整を行わないもの(対照10)、調合液のpH調整を行い、アルミニウム缶に充填、密封後、中心部品温において65℃、10分間の加熱殺菌処理を行ったもの(対照11)、調合液のpH調整を行わず、アルミニウム缶に充填、密封後、中心部品温において、65℃、10分間の加熱殺菌処理を行ったもの(対照12)を調製した。得られたそれぞれのオレンジ果汁含有アルコール飲料について、30℃、1ヵ月保存した後に官能評価試験を行った。官能評価試験は、専門のパネラー5名により行った。分析値並びに官能評価試験結果を表13に示す。
【0055】
【表13】
Figure 2004236582
【0056】
表13より、本発明4の方が、対照10、対照11、対照12に比べて、香味の鮮度維持に優れており、また、微生物汚染の問題も認められなかった。通液後の膜ろ過フィルターの完全性試験を、検討例4に準じて行ったところ、圧力降下基準値内であった。
【0057】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、加熱処理を全く行っていない果汁を用いて果汁含有アルコール飲料を製造するに当たり、果汁を混合した後の調合液のpHを3.0〜3.5に調整することにより、また、膜ろ過フィルターの孔径等を工夫することにより、加熱処理することによる果汁本来の新鮮な香味が損なわれることのない、また、酵母、乳酸菌等の微生物汚染のない保存性の高められた容器入り果汁含有アルコール飲料を提供することができる。更に、色素等を含む果汁含有アルコール飲料を製造する場合においても、色落ちが全くなくその色素等の安定性にも優れた容器入り果汁含有アルコール飲料を提供することができる。本発明は工業的規模での製造が可能となる有用な容器入り果汁含有アルコール飲料及びその製造方法である。

Claims (9)

  1. 加熱処理を全く行っていない果汁を含有するアルコール飲料であって、加熱殺菌処理が行われてなく、かつpHが3.0〜3.5であることを特徴とする容器入り果汁含有アルコール飲料。
  2. 果汁が柑橘類果汁である請求項1記載の容器入り果汁含有アルコール飲料。
  3. 炭酸ガスを含有する請求項1又は2に記載の容器入り果汁含有アルコール飲料。
  4. 色素を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器入り果汁含有アルコール飲料。
  5. アルコール濃度が4〜12v/v%、ガスボリュームが1.5〜3.5である請求項1〜4のいずれか1項に記載の容器入り果汁含有アルコール飲料。
  6. 加熱処理を全く行っていない果汁を混合した後の調合液のpHを3.0〜3.5に調整する工程及び膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程を包含し、かつ加熱殺菌処理を行わないことを特徴とする容器入り果汁含有アルコール飲料の製造方法。
  7. 膜ろ過フィルターの孔径が0.22超〜0.65μmである請求項6記載の容器入り果汁含有アルコール飲料の製造方法。
  8. 膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程が、カーボネーションする工程に次いで行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の容器入り果汁含有アルコール飲料の製造方法。
  9. 膜ろ過フィルターを用いてろ過する工程に次いで無菌的に色素を添加することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の容器入り果汁含有アルコール飲料の製造方法。
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