JP2004226278A - バイオセンサ - Google Patents
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Abstract
【課題】少ない量の試料液がセンサの試料液供給路から漏れるのを防止し、反応層の均一で正確な溶解性を確保し、短時間で高精度な測定ができる性能を得ることを目的とする。
【解決手段】電極系を形成した基板とカバー部材との間に形成される試料液供給路中に、反応層を設ける。電極表面に設ける反応層は、カバー部材と基板の間に挟み込まれる領域がないように、試料液供給路内に限定する。このような構造をもたらすために、電極表面に形成した複数の小孔で反応層の形状を制限する。また、小孔による形状制限の代わりに、反応層を形成する試薬液の滴下量、滴下位置を最適化する。
【選択図】 図1
【解決手段】電極系を形成した基板とカバー部材との間に形成される試料液供給路中に、反応層を設ける。電極表面に設ける反応層は、カバー部材と基板の間に挟み込まれる領域がないように、試料液供給路内に限定する。このような構造をもたらすために、電極表面に形成した複数の小孔で反応層の形状を制限する。また、小孔による形状制限の代わりに、反応層を形成する試薬液の滴下量、滴下位置を最適化する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中の測定対象物について、迅速かつ高精度な定量を簡便に実施することができるバイオセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、試料中の特定成分について、試料液の希釈や撹拌などを行うことなく簡易に定量する方式として、次のようなバイオセンサが提案されている(特許文献1参照)。
このバイオセンサは、絶縁性の基板上にスクリーン印刷等の方法で作用極、対極および参照極からなる電極系を形成し、この電極系上に、親水性高分子と酸化還元酵素および電子メディエータを含む反応層を形成したものである。この反応層には必要に応じて緩衝剤が加えられる。
試料液を電極系近傍に導き、反応層を溶解して酵素反応を行わせるために、前記基板に組み合わされて基板との間に電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成するカバー部材を備え、カバー部材には、試料液の導入を促進するために空気孔が設けられている。このような構成であるため、試料液は毛細管現象で試料液供給路内に滲入し、電極系近傍に到達する。
【0003】
このようにして作製されたバイオセンサの反応層上に、基質を含む試料液を供給すると、反応層が溶解して酵素と基質が反応し、さらに電子メディエータが還元される。酵素反応終了後、この還元された電子メディエータを電気化学的に酸化し、このとき得られる酸化電流値から試料液中の基質濃度を求めることができる。
このようなバイオセンサは、測定対象物質を基質とする酵素を用いることで、様々な物質に対する測定が原理的には可能である。
例えば、酸化還元酵素にグルコースオキシダーゼを用いれば、血液中のグルコース濃度を測定するバイオセンサを構成することができる。上記のような原理を用いたグルコースセンサは、現在までに広く実用に供されている。
また、コレステロールオキシダーゼを用いれば、血清中のコレステロールを測定するバイオセンサを構成することができる。診断指針として用いられる血清コレステロール値は、コレステロールと、コレステロールエステルの濃度を合計したものである。コレステロールエステルは、コレステロールオキシダーゼによる酸化反応の基質になることができないので、診断指針としての血清コレステロール値を測定するためには、コレステロールエステルをコレステロールに変化させる過程が必要である。この過程を触媒する酵素として、コレステロールエステラーゼが知られている。よって、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼを含む反応試薬系を有するバイオセンサによって、血清中の総コレステロール濃度を測定することが可能となる。
【0004】
反応層の一部または全部を、反応層を構成する試薬の水溶液を電極表面またはカバー部材のキャビティ部分に滴下し、凍結乾燥して担持することにより、反応層の溶解性を向上させることができ、測定時間の短縮が可能である(特許文献2など参照)。このようなバイオセンサに用いる電極は、電極材料の粉末を含むペースト状のインクを絶縁性基板にスクリーン印刷などで塗工して形成するか、スパッタや蒸着によって絶縁性の基板上に金属薄膜を被着し、これをレーザーでトリミングするなどの方法によって作製される。
【0005】
この種のバイオセンサでは、反応層は、親水性高分子、酸化還元酵素、および電子メディエータを含む混合水溶液を電極系上に滴下し、乾燥して形成するのが一般的である。このような反応層は、試薬の担持量が多量である場合、ここに試料液が接触しても迅速には溶解せず、そのために測定に長時間を要するという問題があった。
特に、コレステロールを定量するセンサの場合、コレステロールオキシダーゼとコレステロールエステラーゼの計2種類の酵素を用いなければならないことから、測定時の反応層の溶解に非常に長時間を要した。反応層の一部または全部を、試薬の水溶液をカバー部材のキャビティ部分に滴下し、凍結乾燥することで担持させれば、反応層の溶解性を向上させることができ、測定時間の短縮が可能である。
【0006】
しかし、現行の反応試薬の構成および測定方法では、測定試料が反応試薬を溶解し、反応が開始されてから、電流値の測定が可能な状態になるまで、少なくとも1〜3分程度の時間を要する。電極系を形成した基板にカバー部材を組み合わせて両者間に電極系に試料液を供給する試料液供給路を形成したセンサの場合、通常は電極系表面に反応層の一部または全部が形成される。そのようなセンサでは、基板上の円形の電極系表面に試薬溶液を滴下し、乾燥して反応層を形成する。したがって、反応層は、円形に形成される。しかし、試料液供給路の電極表面への投影図は、試料液の流入性向上のために、長方形である。従って、電極表面に形成された反応層の一部は、試料液供給路からはみ出して、カバー部材と基板の接着部分に挟み込まれる。両者の接着が完全であれば、試料液供給路内に浸入した試料液が、カバー部材と基板の接着部分に浸透することはない。しかし、電極表面に形成された反応層が厚いと、カバー部材と基板の接着部分に隙間が生じ、ここに試料液が漏れ出すことがある。
【0007】
この現象により、試料液供給路に空気が浸入したり、カバー部材と基板の接着部分に浸入した試料液が、電極反応に干渉したりすることがある。特に、金属薄膜をレーザによるトリミングなどにより作用極側と対極側に2分割して電極系を形成した場合、作用極側の一部のみが試料液供給路内に露出し、その露出部のみが作用極として働く。そのようなセンサでは、前記のような試料液の漏れだしによる電極反応への干渉の影響は無視できないものとなる。なお、反応層を基板とカバー部材で挟まない構造も知られている(特許文献3参照)。しかし、試料液供給路は、反応層部分を完全に包含するように、すなわち反応層部分では外側に膨らむように形成されるので、反応層の試薬量を多くしなければならない。また、測定に必要な試料量を多くせねばならないという問題がある。さらに、試料液供給路が直線状でなくなるので、試料液の流入が不均一になり、流路中での気泡の発生や反応層の溶解の不均一などにより、応答性が乱れる原因となることがある。
【0008】
【特許文献1】
特開平2−062952号公報
【特許文献2】
特開2001−18130号公報
【特許文献3】
特開平8−50113号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、そのような液の漏れだしによる電極反応への干渉の影響の軽減されたバイオセンサを提供することを目的とする。特に、本発明は、電極系が金属薄膜を分割して形成されたバイオセンサにおける前記の課題を解決するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のバイオセンサは、絶縁性の基板、前記基板上に設けられた金属薄膜を分割して形成された作用極と対極を含む電極系、前記基板に組み合わされて基板との間に前記電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成するカバー部材、少なくとも酸化還元酵素を含む反応層、および前記試料液供給路の終端部に対応して前記カバー部材に設けられた空気孔を備え、前記試料液供給路がほぼ直線状であって、前記反応層を構成する試薬のすべてが前記試料液供給路内に露出する前記基板またはカバー部材に担持されていることを特徴とする。
【0011】
前記試料液供給路内における電極系は、作用極およびこれを前後から挟む対極からなり、前記反応層が作用極およびその前後を挟む対極を被覆していることが好ましい。
前記電極系を構成する金属薄膜は、前記反応層を形成する位置を区画するように小孔の配列を有することが好ましい。
【0012】
前記反応層は、親水性高分子を含むことが好ましい。
前記反応層は、少なくともコレステロールオキシダーゼ、コレステロールエステル加水分解能を有する酵素、および電子メディエータとして機能するレドックス化合物を含むことが好ましい。
前記反応層は、界面活性剤を含むことが好ましい。
前記試料液供給路の入り口に、血球を濾過する機能を有するフィルタを備えることが好ましい。
【0013】
本発明は、絶縁性基板上に金属薄膜を形成する工程、前記金属薄膜をトリミングして作用極と対極に分割して電極系を形成する工程、前記電極系上に反応層を形成する工程、および前記基板にカバー部材を接合して前記基板とカバー部材との間に前記反応層で被覆された電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成する工程を有するバイオセンサの製造方法であって、前記反応層を形成する工程が、前記電極系の試料液供給路に露出する部分内に、反応層を形成する試薬の溶液を少量ずつ複数箇所に、1回ずつまたは複数回ずつ、各々の液滴が接触するように滴下し、乾燥することにより、前記電極系の試料液供給路に露出する部分内に収まるような略長円形の反応層とすることからなるバイオセンサの製造方法を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明によるバイオセンサは、絶縁性の基板、前記基板上に設けられた金属薄膜を分割して形成された作用極と対極からなる電極系、前記基板に組み合わされて基板との間に前記電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成するカバー部材、少なくとも酸化還元酵素を含む反応層、および前記試料液供給路の終端部に対応して前記カバー部材に設けられた空気孔を備えたバイオセンサにおいて、前記試料液供給路がほぼ直線状であって、前記反応層を構成する試薬のすべてが前記試料液供給路内に露出する前記基板またはカバー部材に担持されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態において、前記カバー部材は、前記基板上に設けられた電極系と向かい合う位置に配置されるカバーと、このカバーと前記基板との間に挿入され、前記基板とカバーとの間に前記試料液供給路を形成するスリットを有するスペーサからなる。そして、前記基板上に形成された反応層は、カバーおよびスペーサが基板に張り合わされた状態において、前記スペーサのスリットが位置する部分に、基板とスペーサの張り合わせ部分には及ばないように形成されている。
【0016】
このような構成を実現するために、2通りの形態がある。
第一の形態では、比較的疎水性の高い絶縁性の材質をもつ基板を、電極系を形成する基板として用いる。この基板表面には、スパッタリングや蒸着などの方法で、金属薄膜が形成される。金属薄膜は、作用極、および対極として機能することができるように、レーザーでトリミングするなどによりパターン形成される。この基板にカバー部材が組み合わされる。
このカバー部材の試料液供給路を形成する凹部、前記のカバーとスペーサを組み合わせたカバー部材ならスペーサのスリット部分と、基板に接着される部分との境界部分になる位置に、この境界部分を囲むように、金属薄膜に小孔の配列を設ける。このようにして金属薄膜が剥離された小孔部分を複数個設け、これらの小孔の配列の内側に反応層を構成する試薬の溶液を滴下する。前記小孔に露出する絶縁性基板部分の疎水性により、試薬の溶液は、前記小孔で囲まれた領域より外側、すなわちスペーサと基板の接着部分には及ばない位置で乾燥される。これにより最終的には、電極系上に形成される反応層が、試料液供給路内のみに位置する構成となる。
【0017】
第二の形態では、金属薄膜の剥離により、反応層の領域をきめる代わりに、試薬の溶液の滴下量と滴下位置の調節により、同様の目的を達成させる。
前記金属薄膜の試料液供給路内へ露出する部分、前記スペーサを有する場合はそのスリット部分と、基板に接着される部分との境界部分になる位置の内側に、試薬の溶液を少量ずつ複数箇所に、各々の液滴が接触するように滴下する。これを乾燥して形成される反応層は、前記スペーサのスリット部分と電極基板に接着される部分の境界部分になる位置の内側に収まるような長円形になる。
【0018】
以下、更に詳しく説明する。
第一の形態による好ましいバイオセンサでは、金属薄膜を有する基板の電極系に接して、反応層の一部として、親水性高分子層と、これを被覆する電子メディエータ層を有している。そして、前記基板に組み合わせるカバー部材の試料液供給路に露出する部分には、反応層を構成する試薬のうち、酵素類が担持された酵素層が形成される。試料液供給路は、試料供給口と空気孔を有するトンネル状になっている。血漿中の総コレステロール濃度測定のためのバイオセンサの場合には、酵素層にはコレステロールオキシダーゼ、コレステロールエステラーゼ、およびコレステロールエステラーゼの活性化のための界面活性剤が含まれる。更に、試料供給口に接する様に、血液測定時の血球を濾過するためのフィルタが設置される。試料液供給路を形成するカバー部材には、試料供給口と反対側の端部、すなわち試料液供給路の終端部に空気孔が形成される。
【0019】
基板の電極系に接して形成される親水性高分子層は、前記電極系に設けた小孔で囲まれた領域の内側に形成されている。この小孔は、直径が0.05mmから0.2mm程度のものが好ましい。あまりに直径が小さいと、試薬溶液の電極表面への拡がりを制御できず、また、大きすぎると、電極系の配置上好ましくない。各々の小孔の間隔は、0.1mmから1mm程度が好ましい。狭すぎると、電極、特に作用極の導電性が低下し、また広すぎると試薬溶液の電極表面への拡がりを制御できず、いずれも好ましくない。この小孔は、レーザートリミング装置などで形成することができるが、針などで擦過して形成しても良い。
試料供給口と空気孔を有するトンネル状になっている試料液供給路は、幅0.5〜2.0mm、長さ2〜5mmが好ましい。特に、幅0.8mm、長さ3.5mmのものが好ましい。
【0020】
第二の形態のバイオセンサでは、反応層の構成は第一の形態のバイオセンサと同様であるが、基板に前記の小孔は形成されていない。小孔で囲うことで電極側の反応層の領域を制限する代わりに、試薬溶液の滴下量、滴下位置の数、および滴下回数の制御で領域を制限して電極側の反応層を形成する。試料液供給路の好ましい寸法は、第一の形態のバイオセンサと同じである。試薬の溶液が電極表面に滴下され、乾燥した状態で形成された層の面積は、試薬溶液の組成と電極表面の濡れ性に依存するので、一般的に一意に定まるものではない。従って、どの程度の量の試薬溶液を何回、滴下乾燥するかについては、実際の検討で最適値を求める必要がある。この場合、必要な応答が得られるような試薬溶液の濃度と滴下量で、反応層を形成した場合の反応層面積と、試料液供給路の寸法の比率から、試料液供給路内のみに反応層を形成する場合に必要な試薬量を算出し、その量に見合うだけの試薬溶液の濃度と滴下総量を算出する。更に滴下総量を、滴下位置の数と、滴下回数で割って最終的な滴下量を決める。この方法は、第一の形態による方法と組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明の好ましい形態において、電極系を覆う位置に形成される反応層は、少なくとも電子メディエータとして機能するレドックス化合物を含んでいる。
本発明の他の好ましい形態において、電極系を覆う位置に形成される反応層は、少なくとも酸化還元酵素を含んでいる。
本発明のさらに他の好ましい形態において、電極系を覆う位置に形成される反応層は、少なくとも界面活性剤を含んでいる。
【0022】
電極系に接して設けられる親水性高分子層を形成する親水性高分子としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、ポリアクリル酸およびその塩、デンプンおよびその誘導体、無水マレイン酸またはその塩のポリマ、ポリアクリルアミド、メタクリレート樹脂、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどを用いることができる。
電子メディエータとしては、フェリシアン化イオン、p−ベンゾキノン、フェナジンメトサルフェート、フェロセンなどが使用できるが、ここに掲げた物質以外でも水溶性で、酵素−電極間の電子移動を媒介しうる化合物を任意に用いることができる。
【0023】
界面活性剤としては、n−オクチル−β−D−チオグルコシド、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル、コール酸ナトリウム、ドデシル−β−マルトシド、シュークロースモノラウレート、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)コールアミド、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)デオキシコールアミド、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテルなど、反応系に使用される酵素活性を向上させる効果を有するものを任意に用いることができる。
【0024】
さらに、担体と前記カバー部材との接着に用いる界面活性剤として、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル等、常温で高粘性の液体であり、かつ酵素反応を阻害しないもの、あるいは、反応系に使用される酵素の活性を向上させる効果を持つものを選択して用いることができる。
酸化電流の測定方式には、作用極と対極のみの二電極系と、参照極を加えた三電極方式があり、三電極方式の方がより正確な測定が可能である。
基板に形成する電極として、以下の実施例では、基板に蒸着したパラジウムを、レーザートリミング装置でパターン形成したものを使用しているが、基板に形成される金属薄膜は、パラジウム以外でも薄膜形成が可能で、電極として機能するものであれば、白金、金など、他の材料でもよい。
【0025】
【実施例】
以下に具体的な実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の第一の形態のバイオセンサの分解斜視図を示している。図1では反応層を省略している。1はポリエチレンテレフタレートからなる絶縁性の基板を表す。この基板に蒸着法によりパラジウム薄膜2を形成し、レーザートリミングによって2つに分割し、電極パターンを形成している。3は薄膜が除かれた部分を示す。分割された薄膜の領域の一方は作用極4およびそのリード部、他方は対極5およびそのリード部として働く。電極面積の規定は、このパターン形状と、後述する試料液供給路を形成するためのスリットを基板1に張り合わせることによって行い、作用極4と対極5を含む電極系を形成してある。基板1上には、試料液として血液を用いた場合のために、血球を濾過する血球フィルタ12を、図1に示した位置に設けている。フィルタの側面を血液が回り込むのを防ぐために、基板1には孔6を設けてある。
【0026】
このようにして電極系を形成した基板1と、空気孔11を備えたカバー10およびスぺーサ7を、図1中に一点鎖線で示すような位置関係をもって接着してバイオセンサが組み立てられる。
このようなバイオセンサでは、基板1とカバー10との間において、スぺーサ7のスリット8の部分に、試料液供給路を構成する空間部9が形成される。電極側に形成される反応層の形状を規定するために、この試料液供給路9の部分と、電極とカバーの接着部分の境界に、レーザートリミングによって、薄膜を除いて形成した複数の小孔16が設けられている。
試料液供給路9の開口部となる試料供給口8aに、血球フィルタ12が接触しており、血球フィルタ12に滴下された試料液がフィルタで濾過され、試料液供給路9を通じて反応層部分へ導入される。
【0027】
図2は、このバイオセンサの縦断面図である。カバー10とスリット8からなるカバー部材の裏面には、試料液供給路9を形成する凹部9bが形成され、この凹部に酵素層13が形成されている。一方、試料液供給路に露出する基板1の電極系(作用極4および対極5)を被覆する位置に、親水性高分子であるカルボキシメチルセルロース(以下CMCと略す)層14、および電子メディエータであるフェリシアン化カリウム層15が形成されている。
【0028】
図3および図4は、本発明の第二の形態のバイオセンサの分解斜視図を示している。図3では、電極表面に反応層を形成する際、CMC溶液およびフェリシアン化カリウム溶液を滴下する位置と、滴下された直後の状態を示しており、その位置を領域17で示している。領域17は、試料液供給路9の電極面への投影部分内に均一に配置される。そして、CMC溶液、フェリシアン化カリウム溶液を各々滴下し、乾燥する段階で、領域17に滴下された溶液同士が接触し、長円形の反応層が形成される。この反応層は、電極に接触するCMC層14と、その上に形成されたフェリシアン化カリウム層15からなる。図4では、乾燥によりこれらの層が形成された後の状態を示す。従って、構成はほぼ第一の形態のバイオセンサと同じであるが、第一の形態のバイオセンサで設けられていた、電極側に形成される反応層の形状を規定するための、小孔16は設けられていない。
【0029】
図5は、比較例のバイオセンサの分解斜視図を示している。CMC層14、およびフェリシアン化カリウム層15は、それらの層を形成するための試薬の溶液を1度ずつで必要量を1ヶ所に滴下しているため、円形に拡がり、一点鎖線で示した試料液供給路に露出する部分から大きくはみ出している。
【0030】
《比較例1》
このバイオセンサは、図4、および図2に示すような構造を有する。
まず、パラジウムを薄膜状に被覆した基板1にレーザートリミングで作用極4および対極5を形成した。作用極の面積規定はレーザートリミングにより、試料液が進行する方向に対する位置と長さを決め、試料液が進行する方向に対する幅を、試料液供給路の幅で規定する。下記で詳述するが、試料液供給路の幅は0.8mmであり、試料液が進行する方向の長さは3.5mm、試料供給口8aの入り口から作用極までの距離を1.4mmに設定した。
【0031】
次に、基板1上の電極系上に、CMCの0.5wt%水溶液を5μl滴下し、50℃の温風乾燥器中で20分間乾燥させ、CMC層14を形成した。CMC層14の面積は、約9平方ミリメートルであった。次いで、CMC層14を覆うように、70ミリモル/lのフェリシアン化カリウム、20ミリモル/lのコハク酸、および0.1wt%のCMCを含む混合水溶液を4μl滴下し、50℃の温風乾燥器中で10分間乾燥させ、フェリシアン化カリウム層15を形成した。更に、カバー部材の試料液供給路に露出する凹部9bに、コレステロールオキシダーゼ(以下ChODと略す)、コレステロールエステラーゼ(以下ChEと略す)、およびコレステロールエステラーゼの反応を活性化させる作用を有する界面活性剤であるポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル(TritonX−100)を水に溶解させた混合溶液を0.4μlを滴下し、凍結乾燥させることにより酵素層13を形成した。試料液供給路の試料供給口8aに接する位置に、血球フィルタ12を設けた。血球フィルタは、ワットマンF147−11(厚み370μm)で、底面3mm、高さ5mmの二等辺三角形に裁断し、頂点から1mm程度を試料供給口に挟み込んでいる。血液が血球フィルタの周囲を直接回り込んで試料供給口8aに達するのを防ぐために、基板1の血球フィルタ設置部分の一部に孔6を設けている。因みに試料液供給路は長さ3.5mm、幅0.8mm、高さ0.1mmのトンネル状の構造である。高さ0.1mmは、スペーサ7の厚みである。
そして、カバー10およびスペーサ7を図5中、一点鎖線で示すような位置関係をもって接着し、バイオセンサを作製した。
【0032】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、血液10μlを血球フィルタ12の底辺部より供給し、3分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.5Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。血液添加後、1分以内に血球フィルタで濾過された液が試料液供給路内を満たし、酵素層13、フェリシアン化カリウム層15、およびCMC層14を完全に溶解することが確認された。測定された電流値は、総コレステロール濃度に依存した応答性を示した。実際、試料液の一部が試料液供給路内から基板とスペーサ7との接着部分に漏れだし、この部分のフェリシアン化カリウム層15、CMC層14が溶解していると推定される外観上の変化もみられた。
【0033】
《実施例1》
本実施例のバイオセンサは、図1に示す構造と図2に示すような縦断面の構造を有する。
寸法的に比較例1と同じ位置に同じ方法で作用極4、および対極5を設けた基板1上の電極系上に、CMC層14を形成するために、CMC溶液を滴下した。ただし、電極表面には、作用極4と対極5を分割する溝3以外に、試料液供給路の投影部分11’と、スペーサ7と電極表面の接着部分の境界に相当する部分に、レーザートリミングで小孔16を設けた。小孔16は、試料液が浸入する方向、すなわち試料液供給路の側壁に沿った部分に、左右それぞれ0.5mm間隔で設けた。更に試料液供給路の入り口と、最奥部、すなわち空気孔11の電極面への投影部分の、各々の、試料液供給路の中央部分にも設けた。これにより、試料液供給路部分を囲む形で小孔16が形成されている。従って、この小孔16で囲まれた領域の内側にCMC溶液を滴下した。滴下量は5μlとした。この値は次のように算出した。すなわち、比較例では、0.5%溶液を0.5μl滴下したところ、CMC層の面積が約9平方ミリメートルになったこと、および試料液供給路の底面の面積が、2.8平方ミリメートル(0.8×3.5)であることから、この比率に従って1.55μlとした。
【0034】
その結果、小孔16で囲まれた領域から外にCMC溶液が拡がることはなく、この範囲内にCMC層が形成された。次に、CMC層14を被覆するように、0.1%のCMC、20ミリモル/lのコハク酸、および70ミリモル/lのフェリシアン化カリウムを含む混合溶液を滴下し、50℃で10分間乾燥してフェリシアン化カリウム層15を形成した。これも、比較例の塗布面積と、試料液供給路底面の面積の比率から、滴下量1.25μlを算出した。その結果、CMC層14の領域内から溶液がはみ出ることはなく、そのままフェリシアン化カリウム層が形成された。その他の構成は比較例1と同様にしてバイオセンサを完成させた。
【0035】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、血液10μlを血球フィルタ12の底辺部より供給し、3分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.5Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。血液添加後、1分以内に血球フィルタで濾過された液が試料液供給路内を満たし、酵素層13、フェリシアン化カリウム層15、およびCMC層14を完全に溶解することが確認された。電流値を測定した結果、総コレステロール濃度に依存した応答性を示した。比較例1とは異なり、試料液供給路から基板1とスペーサ7の接着部分に試料液の漏れだしはみられなかった。
【0036】
《実施例2》
本実施例のバイオセンサは、実施例1、比較例1とほぼ同様の構造を有する。すなわち、本実施例のバイオセンサは、図3、4に示すような全体的な構造と図2に示すような縦断面の構造を有する。
寸法的に比較例1と同じ位置に同じ方法で作用極4、および対極5を設けた基板1上の電極系上に、CMC層14を形成するために、CMC溶液を滴下した。CMC溶液の滴下総量は実施例1と同様に1.55μlとした。まず、試料供給口8aから空気孔11に向けて、0.7mm間隔で5ヶ所に0.155μlずつハミルトンシリンジで滴下し、50℃で10分間乾燥した。その結果、5ヶ所に滴下されたCMC溶液は、それぞれの液滴の端部が接触し、乾燥後は1個の長円形のCMC層を形成していた。続いて、もう一度先ほどと同じ5ヶ所に0.155μlずつ滴下し、乾燥した。この様にしてCMC層14を形成した。CMC層14は、試料液供給路内に収まる長円形になっていた。
【0037】
次に、CMC層14を被覆するように、0.1wt%のCMC、20ミリモル/lのコハク酸、および70ミリモル/lのフェリシアン化カリウムを含む混合溶液を滴下し、乾燥してフェリシアン化カリウム層15を形成した。すなわち、CMC層形成時と同じ位置に、0.125μlずつ滴下し、50℃で10分間乾燥する工程を2回繰り返してフェリシアン化カリウム層15を形成した。層15を形成するための溶液の滴下量は、実施例1と同じく総量1.25μlとした。このようにして形成したフェリシアン化カリウム層15は、CMC層14の領域内からはみ出ることはなかった。その他の構成は比較例1と同様にしてバイオセンサを完成させた。
【0038】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、血液10μlを血球フィルタ6の底辺部より供給し、3分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.5Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。血液添加後、1分以内に血球フィルタで濾過された液が試料液供給路内を満たし、酵素層13、フェリシアン化カリウム層15、およびCMC層14を完全に溶解することが確認された。電流値を測定した結果、総コレステロール濃度に依存した応答性を示した。実施例1と同様に、試料液供給路からの試料液の漏れだしはみられなかった。
【0039】
《実施例3》
実施例1と実施例2を組み合わせた方法でバイオセンサを作製した。すなわち、実施例1と同じ電極に、実施例2のように、CMC水溶液を試料液供給路内の5箇所に滴下する方法でCMC層を形成し、その上に同様にしてフェリシアン化カリウム層を形成した。ただし、実施例1と同様に、電極表面には、試薬溶液の滴下時の拡散を制限する小孔16を設けているので、各層の形成に、溶液の滴下と乾燥の工程を2回繰り返す必要はなく、各々1回ずつ滴下とした。溶液の滴下量は各々0.31μlおよび0.25μlとしてそれぞれCMC層14およびフェリシアン化カリウム層15を形成した。
【0040】
《実施例4》
実施例1と同様の電極を形成した基板に、実施例1と同様にCMC層14を形成し、そのCMC層14を覆うように、250U/mlグルコースオキシダーゼと50ミリモル/lのフェリシアン化カリウムを含む混合溶液を1.25μl滴下し、50℃で10分間乾燥して酵素およびフェリシアン化カリウムを含む層を形成した。実施例1から3とは異なり、カバー部材の裏面への反応層の形成は必要ではないので、そのままカバー部材を張り合わせてバイオセンサを作製した。
【0041】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、生理食塩水にグルコースを溶解したグルコース標準液3μlを試料供給口8aより供給し、1分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.2Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。その結果、グルコース濃度に依存した電流値が観測された。また、実施例1と同様に、試料液供給路からの試料液の漏れだしはみられなかった。
【0042】
《実施例5》
実施例2と同様の電極を形成した基板に、実施例2と同様にしてCMC層14を形成し、そのCMC層14を覆うように、250U/mlグルコースオキシダーゼと50ミリモル/lのフェリシアン化カリウムを含む混合溶液を総計1.25μlになるように、実施例2と同様の方法で0.125μlずつ5ヶ所に滴下し、50℃で10分間乾燥する工程を2回繰り返し、酵素およびフェリシアン化カリウムを含む層を形成した。この基板に、実施例4と同様に、反応層を形成しないカバー部材を張り合わせてバイオセンサを作製した。
【0043】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、生理食塩水にグルコースを溶解したグルコース標準液3μlを試料供給孔8aより供給し、1分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.2Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。その結果、グルコース濃度に依存した電流値が観測された。また、試料液供給路からの試料液の漏れだしはみられなかった。
【0044】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、センサの有する反応層の酵素や電子メディエータ等測定に必要な試薬が、センサに供給される試料液に迅速に、かつ均一に溶解するとともに、試料液が試料液供給路以外の部分に漏れ出すことがない。したがって、迅速かつ正確な測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例におけるバイオセンサの反応層形成前の分解斜視図である。
【図2】同バイオセンサの反応層形成後の縦断面図である。
【図3】本発明の他の実施例におけるバイオセンサの反応層の形成法を示す分解斜視図である。
【図4】同バイオセンサの反応層形成後の分解斜視図である。
【図5】比較例のバイオセンサの分解斜視図である。
【符号の説明】
1 基板
2 パラジウム薄膜
3 トリミング痕
4 作用極
5 対極
6 孔
7 スペーサ
8 スリット
8a 試料供給口
9 試料液供給路
9a 試料液供給路を形成する凹部
9b スリット
10 カバー
11 空気孔
12 フィルタ
13 酵素層
14 CMC層
15 フェリシアン化カリウム層
16 小孔
17 試薬溶液の滴下位置
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中の測定対象物について、迅速かつ高精度な定量を簡便に実施することができるバイオセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、試料中の特定成分について、試料液の希釈や撹拌などを行うことなく簡易に定量する方式として、次のようなバイオセンサが提案されている(特許文献1参照)。
このバイオセンサは、絶縁性の基板上にスクリーン印刷等の方法で作用極、対極および参照極からなる電極系を形成し、この電極系上に、親水性高分子と酸化還元酵素および電子メディエータを含む反応層を形成したものである。この反応層には必要に応じて緩衝剤が加えられる。
試料液を電極系近傍に導き、反応層を溶解して酵素反応を行わせるために、前記基板に組み合わされて基板との間に電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成するカバー部材を備え、カバー部材には、試料液の導入を促進するために空気孔が設けられている。このような構成であるため、試料液は毛細管現象で試料液供給路内に滲入し、電極系近傍に到達する。
【0003】
このようにして作製されたバイオセンサの反応層上に、基質を含む試料液を供給すると、反応層が溶解して酵素と基質が反応し、さらに電子メディエータが還元される。酵素反応終了後、この還元された電子メディエータを電気化学的に酸化し、このとき得られる酸化電流値から試料液中の基質濃度を求めることができる。
このようなバイオセンサは、測定対象物質を基質とする酵素を用いることで、様々な物質に対する測定が原理的には可能である。
例えば、酸化還元酵素にグルコースオキシダーゼを用いれば、血液中のグルコース濃度を測定するバイオセンサを構成することができる。上記のような原理を用いたグルコースセンサは、現在までに広く実用に供されている。
また、コレステロールオキシダーゼを用いれば、血清中のコレステロールを測定するバイオセンサを構成することができる。診断指針として用いられる血清コレステロール値は、コレステロールと、コレステロールエステルの濃度を合計したものである。コレステロールエステルは、コレステロールオキシダーゼによる酸化反応の基質になることができないので、診断指針としての血清コレステロール値を測定するためには、コレステロールエステルをコレステロールに変化させる過程が必要である。この過程を触媒する酵素として、コレステロールエステラーゼが知られている。よって、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼを含む反応試薬系を有するバイオセンサによって、血清中の総コレステロール濃度を測定することが可能となる。
【0004】
反応層の一部または全部を、反応層を構成する試薬の水溶液を電極表面またはカバー部材のキャビティ部分に滴下し、凍結乾燥して担持することにより、反応層の溶解性を向上させることができ、測定時間の短縮が可能である(特許文献2など参照)。このようなバイオセンサに用いる電極は、電極材料の粉末を含むペースト状のインクを絶縁性基板にスクリーン印刷などで塗工して形成するか、スパッタや蒸着によって絶縁性の基板上に金属薄膜を被着し、これをレーザーでトリミングするなどの方法によって作製される。
【0005】
この種のバイオセンサでは、反応層は、親水性高分子、酸化還元酵素、および電子メディエータを含む混合水溶液を電極系上に滴下し、乾燥して形成するのが一般的である。このような反応層は、試薬の担持量が多量である場合、ここに試料液が接触しても迅速には溶解せず、そのために測定に長時間を要するという問題があった。
特に、コレステロールを定量するセンサの場合、コレステロールオキシダーゼとコレステロールエステラーゼの計2種類の酵素を用いなければならないことから、測定時の反応層の溶解に非常に長時間を要した。反応層の一部または全部を、試薬の水溶液をカバー部材のキャビティ部分に滴下し、凍結乾燥することで担持させれば、反応層の溶解性を向上させることができ、測定時間の短縮が可能である。
【0006】
しかし、現行の反応試薬の構成および測定方法では、測定試料が反応試薬を溶解し、反応が開始されてから、電流値の測定が可能な状態になるまで、少なくとも1〜3分程度の時間を要する。電極系を形成した基板にカバー部材を組み合わせて両者間に電極系に試料液を供給する試料液供給路を形成したセンサの場合、通常は電極系表面に反応層の一部または全部が形成される。そのようなセンサでは、基板上の円形の電極系表面に試薬溶液を滴下し、乾燥して反応層を形成する。したがって、反応層は、円形に形成される。しかし、試料液供給路の電極表面への投影図は、試料液の流入性向上のために、長方形である。従って、電極表面に形成された反応層の一部は、試料液供給路からはみ出して、カバー部材と基板の接着部分に挟み込まれる。両者の接着が完全であれば、試料液供給路内に浸入した試料液が、カバー部材と基板の接着部分に浸透することはない。しかし、電極表面に形成された反応層が厚いと、カバー部材と基板の接着部分に隙間が生じ、ここに試料液が漏れ出すことがある。
【0007】
この現象により、試料液供給路に空気が浸入したり、カバー部材と基板の接着部分に浸入した試料液が、電極反応に干渉したりすることがある。特に、金属薄膜をレーザによるトリミングなどにより作用極側と対極側に2分割して電極系を形成した場合、作用極側の一部のみが試料液供給路内に露出し、その露出部のみが作用極として働く。そのようなセンサでは、前記のような試料液の漏れだしによる電極反応への干渉の影響は無視できないものとなる。なお、反応層を基板とカバー部材で挟まない構造も知られている(特許文献3参照)。しかし、試料液供給路は、反応層部分を完全に包含するように、すなわち反応層部分では外側に膨らむように形成されるので、反応層の試薬量を多くしなければならない。また、測定に必要な試料量を多くせねばならないという問題がある。さらに、試料液供給路が直線状でなくなるので、試料液の流入が不均一になり、流路中での気泡の発生や反応層の溶解の不均一などにより、応答性が乱れる原因となることがある。
【0008】
【特許文献1】
特開平2−062952号公報
【特許文献2】
特開2001−18130号公報
【特許文献3】
特開平8−50113号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、そのような液の漏れだしによる電極反応への干渉の影響の軽減されたバイオセンサを提供することを目的とする。特に、本発明は、電極系が金属薄膜を分割して形成されたバイオセンサにおける前記の課題を解決するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のバイオセンサは、絶縁性の基板、前記基板上に設けられた金属薄膜を分割して形成された作用極と対極を含む電極系、前記基板に組み合わされて基板との間に前記電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成するカバー部材、少なくとも酸化還元酵素を含む反応層、および前記試料液供給路の終端部に対応して前記カバー部材に設けられた空気孔を備え、前記試料液供給路がほぼ直線状であって、前記反応層を構成する試薬のすべてが前記試料液供給路内に露出する前記基板またはカバー部材に担持されていることを特徴とする。
【0011】
前記試料液供給路内における電極系は、作用極およびこれを前後から挟む対極からなり、前記反応層が作用極およびその前後を挟む対極を被覆していることが好ましい。
前記電極系を構成する金属薄膜は、前記反応層を形成する位置を区画するように小孔の配列を有することが好ましい。
【0012】
前記反応層は、親水性高分子を含むことが好ましい。
前記反応層は、少なくともコレステロールオキシダーゼ、コレステロールエステル加水分解能を有する酵素、および電子メディエータとして機能するレドックス化合物を含むことが好ましい。
前記反応層は、界面活性剤を含むことが好ましい。
前記試料液供給路の入り口に、血球を濾過する機能を有するフィルタを備えることが好ましい。
【0013】
本発明は、絶縁性基板上に金属薄膜を形成する工程、前記金属薄膜をトリミングして作用極と対極に分割して電極系を形成する工程、前記電極系上に反応層を形成する工程、および前記基板にカバー部材を接合して前記基板とカバー部材との間に前記反応層で被覆された電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成する工程を有するバイオセンサの製造方法であって、前記反応層を形成する工程が、前記電極系の試料液供給路に露出する部分内に、反応層を形成する試薬の溶液を少量ずつ複数箇所に、1回ずつまたは複数回ずつ、各々の液滴が接触するように滴下し、乾燥することにより、前記電極系の試料液供給路に露出する部分内に収まるような略長円形の反応層とすることからなるバイオセンサの製造方法を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明によるバイオセンサは、絶縁性の基板、前記基板上に設けられた金属薄膜を分割して形成された作用極と対極からなる電極系、前記基板に組み合わされて基板との間に前記電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成するカバー部材、少なくとも酸化還元酵素を含む反応層、および前記試料液供給路の終端部に対応して前記カバー部材に設けられた空気孔を備えたバイオセンサにおいて、前記試料液供給路がほぼ直線状であって、前記反応層を構成する試薬のすべてが前記試料液供給路内に露出する前記基板またはカバー部材に担持されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態において、前記カバー部材は、前記基板上に設けられた電極系と向かい合う位置に配置されるカバーと、このカバーと前記基板との間に挿入され、前記基板とカバーとの間に前記試料液供給路を形成するスリットを有するスペーサからなる。そして、前記基板上に形成された反応層は、カバーおよびスペーサが基板に張り合わされた状態において、前記スペーサのスリットが位置する部分に、基板とスペーサの張り合わせ部分には及ばないように形成されている。
【0016】
このような構成を実現するために、2通りの形態がある。
第一の形態では、比較的疎水性の高い絶縁性の材質をもつ基板を、電極系を形成する基板として用いる。この基板表面には、スパッタリングや蒸着などの方法で、金属薄膜が形成される。金属薄膜は、作用極、および対極として機能することができるように、レーザーでトリミングするなどによりパターン形成される。この基板にカバー部材が組み合わされる。
このカバー部材の試料液供給路を形成する凹部、前記のカバーとスペーサを組み合わせたカバー部材ならスペーサのスリット部分と、基板に接着される部分との境界部分になる位置に、この境界部分を囲むように、金属薄膜に小孔の配列を設ける。このようにして金属薄膜が剥離された小孔部分を複数個設け、これらの小孔の配列の内側に反応層を構成する試薬の溶液を滴下する。前記小孔に露出する絶縁性基板部分の疎水性により、試薬の溶液は、前記小孔で囲まれた領域より外側、すなわちスペーサと基板の接着部分には及ばない位置で乾燥される。これにより最終的には、電極系上に形成される反応層が、試料液供給路内のみに位置する構成となる。
【0017】
第二の形態では、金属薄膜の剥離により、反応層の領域をきめる代わりに、試薬の溶液の滴下量と滴下位置の調節により、同様の目的を達成させる。
前記金属薄膜の試料液供給路内へ露出する部分、前記スペーサを有する場合はそのスリット部分と、基板に接着される部分との境界部分になる位置の内側に、試薬の溶液を少量ずつ複数箇所に、各々の液滴が接触するように滴下する。これを乾燥して形成される反応層は、前記スペーサのスリット部分と電極基板に接着される部分の境界部分になる位置の内側に収まるような長円形になる。
【0018】
以下、更に詳しく説明する。
第一の形態による好ましいバイオセンサでは、金属薄膜を有する基板の電極系に接して、反応層の一部として、親水性高分子層と、これを被覆する電子メディエータ層を有している。そして、前記基板に組み合わせるカバー部材の試料液供給路に露出する部分には、反応層を構成する試薬のうち、酵素類が担持された酵素層が形成される。試料液供給路は、試料供給口と空気孔を有するトンネル状になっている。血漿中の総コレステロール濃度測定のためのバイオセンサの場合には、酵素層にはコレステロールオキシダーゼ、コレステロールエステラーゼ、およびコレステロールエステラーゼの活性化のための界面活性剤が含まれる。更に、試料供給口に接する様に、血液測定時の血球を濾過するためのフィルタが設置される。試料液供給路を形成するカバー部材には、試料供給口と反対側の端部、すなわち試料液供給路の終端部に空気孔が形成される。
【0019】
基板の電極系に接して形成される親水性高分子層は、前記電極系に設けた小孔で囲まれた領域の内側に形成されている。この小孔は、直径が0.05mmから0.2mm程度のものが好ましい。あまりに直径が小さいと、試薬溶液の電極表面への拡がりを制御できず、また、大きすぎると、電極系の配置上好ましくない。各々の小孔の間隔は、0.1mmから1mm程度が好ましい。狭すぎると、電極、特に作用極の導電性が低下し、また広すぎると試薬溶液の電極表面への拡がりを制御できず、いずれも好ましくない。この小孔は、レーザートリミング装置などで形成することができるが、針などで擦過して形成しても良い。
試料供給口と空気孔を有するトンネル状になっている試料液供給路は、幅0.5〜2.0mm、長さ2〜5mmが好ましい。特に、幅0.8mm、長さ3.5mmのものが好ましい。
【0020】
第二の形態のバイオセンサでは、反応層の構成は第一の形態のバイオセンサと同様であるが、基板に前記の小孔は形成されていない。小孔で囲うことで電極側の反応層の領域を制限する代わりに、試薬溶液の滴下量、滴下位置の数、および滴下回数の制御で領域を制限して電極側の反応層を形成する。試料液供給路の好ましい寸法は、第一の形態のバイオセンサと同じである。試薬の溶液が電極表面に滴下され、乾燥した状態で形成された層の面積は、試薬溶液の組成と電極表面の濡れ性に依存するので、一般的に一意に定まるものではない。従って、どの程度の量の試薬溶液を何回、滴下乾燥するかについては、実際の検討で最適値を求める必要がある。この場合、必要な応答が得られるような試薬溶液の濃度と滴下量で、反応層を形成した場合の反応層面積と、試料液供給路の寸法の比率から、試料液供給路内のみに反応層を形成する場合に必要な試薬量を算出し、その量に見合うだけの試薬溶液の濃度と滴下総量を算出する。更に滴下総量を、滴下位置の数と、滴下回数で割って最終的な滴下量を決める。この方法は、第一の形態による方法と組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明の好ましい形態において、電極系を覆う位置に形成される反応層は、少なくとも電子メディエータとして機能するレドックス化合物を含んでいる。
本発明の他の好ましい形態において、電極系を覆う位置に形成される反応層は、少なくとも酸化還元酵素を含んでいる。
本発明のさらに他の好ましい形態において、電極系を覆う位置に形成される反応層は、少なくとも界面活性剤を含んでいる。
【0022】
電極系に接して設けられる親水性高分子層を形成する親水性高分子としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、ポリアクリル酸およびその塩、デンプンおよびその誘導体、無水マレイン酸またはその塩のポリマ、ポリアクリルアミド、メタクリレート樹脂、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどを用いることができる。
電子メディエータとしては、フェリシアン化イオン、p−ベンゾキノン、フェナジンメトサルフェート、フェロセンなどが使用できるが、ここに掲げた物質以外でも水溶性で、酵素−電極間の電子移動を媒介しうる化合物を任意に用いることができる。
【0023】
界面活性剤としては、n−オクチル−β−D−チオグルコシド、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル、コール酸ナトリウム、ドデシル−β−マルトシド、シュークロースモノラウレート、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)コールアミド、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)デオキシコールアミド、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテルなど、反応系に使用される酵素活性を向上させる効果を有するものを任意に用いることができる。
【0024】
さらに、担体と前記カバー部材との接着に用いる界面活性剤として、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル等、常温で高粘性の液体であり、かつ酵素反応を阻害しないもの、あるいは、反応系に使用される酵素の活性を向上させる効果を持つものを選択して用いることができる。
酸化電流の測定方式には、作用極と対極のみの二電極系と、参照極を加えた三電極方式があり、三電極方式の方がより正確な測定が可能である。
基板に形成する電極として、以下の実施例では、基板に蒸着したパラジウムを、レーザートリミング装置でパターン形成したものを使用しているが、基板に形成される金属薄膜は、パラジウム以外でも薄膜形成が可能で、電極として機能するものであれば、白金、金など、他の材料でもよい。
【0025】
【実施例】
以下に具体的な実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の第一の形態のバイオセンサの分解斜視図を示している。図1では反応層を省略している。1はポリエチレンテレフタレートからなる絶縁性の基板を表す。この基板に蒸着法によりパラジウム薄膜2を形成し、レーザートリミングによって2つに分割し、電極パターンを形成している。3は薄膜が除かれた部分を示す。分割された薄膜の領域の一方は作用極4およびそのリード部、他方は対極5およびそのリード部として働く。電極面積の規定は、このパターン形状と、後述する試料液供給路を形成するためのスリットを基板1に張り合わせることによって行い、作用極4と対極5を含む電極系を形成してある。基板1上には、試料液として血液を用いた場合のために、血球を濾過する血球フィルタ12を、図1に示した位置に設けている。フィルタの側面を血液が回り込むのを防ぐために、基板1には孔6を設けてある。
【0026】
このようにして電極系を形成した基板1と、空気孔11を備えたカバー10およびスぺーサ7を、図1中に一点鎖線で示すような位置関係をもって接着してバイオセンサが組み立てられる。
このようなバイオセンサでは、基板1とカバー10との間において、スぺーサ7のスリット8の部分に、試料液供給路を構成する空間部9が形成される。電極側に形成される反応層の形状を規定するために、この試料液供給路9の部分と、電極とカバーの接着部分の境界に、レーザートリミングによって、薄膜を除いて形成した複数の小孔16が設けられている。
試料液供給路9の開口部となる試料供給口8aに、血球フィルタ12が接触しており、血球フィルタ12に滴下された試料液がフィルタで濾過され、試料液供給路9を通じて反応層部分へ導入される。
【0027】
図2は、このバイオセンサの縦断面図である。カバー10とスリット8からなるカバー部材の裏面には、試料液供給路9を形成する凹部9bが形成され、この凹部に酵素層13が形成されている。一方、試料液供給路に露出する基板1の電極系(作用極4および対極5)を被覆する位置に、親水性高分子であるカルボキシメチルセルロース(以下CMCと略す)層14、および電子メディエータであるフェリシアン化カリウム層15が形成されている。
【0028】
図3および図4は、本発明の第二の形態のバイオセンサの分解斜視図を示している。図3では、電極表面に反応層を形成する際、CMC溶液およびフェリシアン化カリウム溶液を滴下する位置と、滴下された直後の状態を示しており、その位置を領域17で示している。領域17は、試料液供給路9の電極面への投影部分内に均一に配置される。そして、CMC溶液、フェリシアン化カリウム溶液を各々滴下し、乾燥する段階で、領域17に滴下された溶液同士が接触し、長円形の反応層が形成される。この反応層は、電極に接触するCMC層14と、その上に形成されたフェリシアン化カリウム層15からなる。図4では、乾燥によりこれらの層が形成された後の状態を示す。従って、構成はほぼ第一の形態のバイオセンサと同じであるが、第一の形態のバイオセンサで設けられていた、電極側に形成される反応層の形状を規定するための、小孔16は設けられていない。
【0029】
図5は、比較例のバイオセンサの分解斜視図を示している。CMC層14、およびフェリシアン化カリウム層15は、それらの層を形成するための試薬の溶液を1度ずつで必要量を1ヶ所に滴下しているため、円形に拡がり、一点鎖線で示した試料液供給路に露出する部分から大きくはみ出している。
【0030】
《比較例1》
このバイオセンサは、図4、および図2に示すような構造を有する。
まず、パラジウムを薄膜状に被覆した基板1にレーザートリミングで作用極4および対極5を形成した。作用極の面積規定はレーザートリミングにより、試料液が進行する方向に対する位置と長さを決め、試料液が進行する方向に対する幅を、試料液供給路の幅で規定する。下記で詳述するが、試料液供給路の幅は0.8mmであり、試料液が進行する方向の長さは3.5mm、試料供給口8aの入り口から作用極までの距離を1.4mmに設定した。
【0031】
次に、基板1上の電極系上に、CMCの0.5wt%水溶液を5μl滴下し、50℃の温風乾燥器中で20分間乾燥させ、CMC層14を形成した。CMC層14の面積は、約9平方ミリメートルであった。次いで、CMC層14を覆うように、70ミリモル/lのフェリシアン化カリウム、20ミリモル/lのコハク酸、および0.1wt%のCMCを含む混合水溶液を4μl滴下し、50℃の温風乾燥器中で10分間乾燥させ、フェリシアン化カリウム層15を形成した。更に、カバー部材の試料液供給路に露出する凹部9bに、コレステロールオキシダーゼ(以下ChODと略す)、コレステロールエステラーゼ(以下ChEと略す)、およびコレステロールエステラーゼの反応を活性化させる作用を有する界面活性剤であるポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル(TritonX−100)を水に溶解させた混合溶液を0.4μlを滴下し、凍結乾燥させることにより酵素層13を形成した。試料液供給路の試料供給口8aに接する位置に、血球フィルタ12を設けた。血球フィルタは、ワットマンF147−11(厚み370μm)で、底面3mm、高さ5mmの二等辺三角形に裁断し、頂点から1mm程度を試料供給口に挟み込んでいる。血液が血球フィルタの周囲を直接回り込んで試料供給口8aに達するのを防ぐために、基板1の血球フィルタ設置部分の一部に孔6を設けている。因みに試料液供給路は長さ3.5mm、幅0.8mm、高さ0.1mmのトンネル状の構造である。高さ0.1mmは、スペーサ7の厚みである。
そして、カバー10およびスペーサ7を図5中、一点鎖線で示すような位置関係をもって接着し、バイオセンサを作製した。
【0032】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、血液10μlを血球フィルタ12の底辺部より供給し、3分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.5Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。血液添加後、1分以内に血球フィルタで濾過された液が試料液供給路内を満たし、酵素層13、フェリシアン化カリウム層15、およびCMC層14を完全に溶解することが確認された。測定された電流値は、総コレステロール濃度に依存した応答性を示した。実際、試料液の一部が試料液供給路内から基板とスペーサ7との接着部分に漏れだし、この部分のフェリシアン化カリウム層15、CMC層14が溶解していると推定される外観上の変化もみられた。
【0033】
《実施例1》
本実施例のバイオセンサは、図1に示す構造と図2に示すような縦断面の構造を有する。
寸法的に比較例1と同じ位置に同じ方法で作用極4、および対極5を設けた基板1上の電極系上に、CMC層14を形成するために、CMC溶液を滴下した。ただし、電極表面には、作用極4と対極5を分割する溝3以外に、試料液供給路の投影部分11’と、スペーサ7と電極表面の接着部分の境界に相当する部分に、レーザートリミングで小孔16を設けた。小孔16は、試料液が浸入する方向、すなわち試料液供給路の側壁に沿った部分に、左右それぞれ0.5mm間隔で設けた。更に試料液供給路の入り口と、最奥部、すなわち空気孔11の電極面への投影部分の、各々の、試料液供給路の中央部分にも設けた。これにより、試料液供給路部分を囲む形で小孔16が形成されている。従って、この小孔16で囲まれた領域の内側にCMC溶液を滴下した。滴下量は5μlとした。この値は次のように算出した。すなわち、比較例では、0.5%溶液を0.5μl滴下したところ、CMC層の面積が約9平方ミリメートルになったこと、および試料液供給路の底面の面積が、2.8平方ミリメートル(0.8×3.5)であることから、この比率に従って1.55μlとした。
【0034】
その結果、小孔16で囲まれた領域から外にCMC溶液が拡がることはなく、この範囲内にCMC層が形成された。次に、CMC層14を被覆するように、0.1%のCMC、20ミリモル/lのコハク酸、および70ミリモル/lのフェリシアン化カリウムを含む混合溶液を滴下し、50℃で10分間乾燥してフェリシアン化カリウム層15を形成した。これも、比較例の塗布面積と、試料液供給路底面の面積の比率から、滴下量1.25μlを算出した。その結果、CMC層14の領域内から溶液がはみ出ることはなく、そのままフェリシアン化カリウム層が形成された。その他の構成は比較例1と同様にしてバイオセンサを完成させた。
【0035】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、血液10μlを血球フィルタ12の底辺部より供給し、3分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.5Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。血液添加後、1分以内に血球フィルタで濾過された液が試料液供給路内を満たし、酵素層13、フェリシアン化カリウム層15、およびCMC層14を完全に溶解することが確認された。電流値を測定した結果、総コレステロール濃度に依存した応答性を示した。比較例1とは異なり、試料液供給路から基板1とスペーサ7の接着部分に試料液の漏れだしはみられなかった。
【0036】
《実施例2》
本実施例のバイオセンサは、実施例1、比較例1とほぼ同様の構造を有する。すなわち、本実施例のバイオセンサは、図3、4に示すような全体的な構造と図2に示すような縦断面の構造を有する。
寸法的に比較例1と同じ位置に同じ方法で作用極4、および対極5を設けた基板1上の電極系上に、CMC層14を形成するために、CMC溶液を滴下した。CMC溶液の滴下総量は実施例1と同様に1.55μlとした。まず、試料供給口8aから空気孔11に向けて、0.7mm間隔で5ヶ所に0.155μlずつハミルトンシリンジで滴下し、50℃で10分間乾燥した。その結果、5ヶ所に滴下されたCMC溶液は、それぞれの液滴の端部が接触し、乾燥後は1個の長円形のCMC層を形成していた。続いて、もう一度先ほどと同じ5ヶ所に0.155μlずつ滴下し、乾燥した。この様にしてCMC層14を形成した。CMC層14は、試料液供給路内に収まる長円形になっていた。
【0037】
次に、CMC層14を被覆するように、0.1wt%のCMC、20ミリモル/lのコハク酸、および70ミリモル/lのフェリシアン化カリウムを含む混合溶液を滴下し、乾燥してフェリシアン化カリウム層15を形成した。すなわち、CMC層形成時と同じ位置に、0.125μlずつ滴下し、50℃で10分間乾燥する工程を2回繰り返してフェリシアン化カリウム層15を形成した。層15を形成するための溶液の滴下量は、実施例1と同じく総量1.25μlとした。このようにして形成したフェリシアン化カリウム層15は、CMC層14の領域内からはみ出ることはなかった。その他の構成は比較例1と同様にしてバイオセンサを完成させた。
【0038】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、血液10μlを血球フィルタ6の底辺部より供給し、3分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.5Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。血液添加後、1分以内に血球フィルタで濾過された液が試料液供給路内を満たし、酵素層13、フェリシアン化カリウム層15、およびCMC層14を完全に溶解することが確認された。電流値を測定した結果、総コレステロール濃度に依存した応答性を示した。実施例1と同様に、試料液供給路からの試料液の漏れだしはみられなかった。
【0039】
《実施例3》
実施例1と実施例2を組み合わせた方法でバイオセンサを作製した。すなわち、実施例1と同じ電極に、実施例2のように、CMC水溶液を試料液供給路内の5箇所に滴下する方法でCMC層を形成し、その上に同様にしてフェリシアン化カリウム層を形成した。ただし、実施例1と同様に、電極表面には、試薬溶液の滴下時の拡散を制限する小孔16を設けているので、各層の形成に、溶液の滴下と乾燥の工程を2回繰り返す必要はなく、各々1回ずつ滴下とした。溶液の滴下量は各々0.31μlおよび0.25μlとしてそれぞれCMC層14およびフェリシアン化カリウム層15を形成した。
【0040】
《実施例4》
実施例1と同様の電極を形成した基板に、実施例1と同様にCMC層14を形成し、そのCMC層14を覆うように、250U/mlグルコースオキシダーゼと50ミリモル/lのフェリシアン化カリウムを含む混合溶液を1.25μl滴下し、50℃で10分間乾燥して酵素およびフェリシアン化カリウムを含む層を形成した。実施例1から3とは異なり、カバー部材の裏面への反応層の形成は必要ではないので、そのままカバー部材を張り合わせてバイオセンサを作製した。
【0041】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、生理食塩水にグルコースを溶解したグルコース標準液3μlを試料供給口8aより供給し、1分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.2Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。その結果、グルコース濃度に依存した電流値が観測された。また、実施例1と同様に、試料液供給路からの試料液の漏れだしはみられなかった。
【0042】
《実施例5》
実施例2と同様の電極を形成した基板に、実施例2と同様にしてCMC層14を形成し、そのCMC層14を覆うように、250U/mlグルコースオキシダーゼと50ミリモル/lのフェリシアン化カリウムを含む混合溶液を総計1.25μlになるように、実施例2と同様の方法で0.125μlずつ5ヶ所に滴下し、50℃で10分間乾燥する工程を2回繰り返し、酵素およびフェリシアン化カリウムを含む層を形成した。この基板に、実施例4と同様に、反応層を形成しないカバー部材を張り合わせてバイオセンサを作製した。
【0043】
こうして作製したバイオセンサに、試料液として、生理食塩水にグルコースを溶解したグルコース標準液3μlを試料供給孔8aより供給し、1分後に対極を基準にして作用極にアノード方向へ+0.2Vのパルス電圧を印加し、5秒後の電流値を測定した。その結果、グルコース濃度に依存した電流値が観測された。また、試料液供給路からの試料液の漏れだしはみられなかった。
【0044】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、センサの有する反応層の酵素や電子メディエータ等測定に必要な試薬が、センサに供給される試料液に迅速に、かつ均一に溶解するとともに、試料液が試料液供給路以外の部分に漏れ出すことがない。したがって、迅速かつ正確な測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例におけるバイオセンサの反応層形成前の分解斜視図である。
【図2】同バイオセンサの反応層形成後の縦断面図である。
【図3】本発明の他の実施例におけるバイオセンサの反応層の形成法を示す分解斜視図である。
【図4】同バイオセンサの反応層形成後の分解斜視図である。
【図5】比較例のバイオセンサの分解斜視図である。
【符号の説明】
1 基板
2 パラジウム薄膜
3 トリミング痕
4 作用極
5 対極
6 孔
7 スペーサ
8 スリット
8a 試料供給口
9 試料液供給路
9a 試料液供給路を形成する凹部
9b スリット
10 カバー
11 空気孔
12 フィルタ
13 酵素層
14 CMC層
15 フェリシアン化カリウム層
16 小孔
17 試薬溶液の滴下位置
Claims (8)
- 絶縁性の基板、前記基板上に設けられた金属薄膜を分割して形成された少なくとも作用極と対極を含む電極系、前記基板に組み合わされて基板との間に前記電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成するカバー部材、少なくとも酸化還元酵素を含む反応層、および前記試料液供給路の終端部に対応して前記カバー部材に設けられた空気孔を備え、前記試料液供給路がほぼ直線状であって、前記反応層のすべてが前記試料液供給路内に露出する前記基板またはカバー部材に担持されていることを特徴とするバイオセンサ。
- 前記試料液供給路内における前記電極系が、作用極およびこれを前後から挟む対極からなり、前記反応層が作用極およびその前後を挟む対極を被覆している請求項1記載のバイオセンサ。
- 前記電極系を構成する金属薄膜が、前記反応層を形成する位置を区画するように小孔の配列を有する請求項2記載のバイオセンサ。
- 前記反応層が、親水性高分子を含む請求項3記載のバイオセンサ。
- 前記反応層が、少なくともコレステロールオキシダーゼ、コレステロールエステル加水分解能を有する酵素、および電子メディエータとして機能するレドックス化合物を含む請求項1記載のバイオセンサ。
- 前記反応層が、界面活性剤を含む請求項5記載のバイオセンサ。
- 前記試料液供給路の入り口に、血球を濾過する機能を有するフィルタを備えた請求項1記載のバイオセンサ。
- 絶縁性基板上に金属薄膜を形成する工程、前記金属薄膜をトリミングして作用極と対極に分割して電極系を形成する工程、前記電極系上に反応層を形成する工程、および前記基板にカバー部材を接合して前記基板とカバー部材との間に前記反応層で被覆された電極系に試料液を供給するための試料液供給路を形成する工程を有するバイオセンサの製造方法であって、前記反応層を形成する工程が、前記電極系の試料液供給路に露出する部分内に、反応層を形成する試薬の溶液を少量ずつ複数箇所に、1回ずつまたは複数回ずつ、各々の液滴が接触するように滴下し、乾燥することにより、前記電極系の試料液供給路に露出する部分内に収まるような略長円形の反応層とすることからなるバイオセンサの製造方法。
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JP2017037044A (ja) * | 2015-08-13 | 2017-02-16 | 大日本印刷株式会社 | 電極チップおよび電極チップの製造方法 |
WO2023222078A1 (zh) * | 2022-05-18 | 2023-11-23 | 利多(香港)有限公司 | 生物传感器及制备生物传感器的方法 |
-
2003
- 2003-01-24 JP JP2003015492A patent/JP2004226278A/ja active Pending
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