JP2004218160A - 易フィブリル性ポリエステル繊維 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アルキルチタネート等のチタン化合物と燐酸モノまたはジエステル等のリン化合物との反応生成物を重縮合触媒とするポリエステル中に、ポリオキシエチレン系ポリエーテルを0.5〜2.0重量%および有機スルホン酸金属塩を0.1〜1.0重量%配合する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、易フィブリル性ポリエステル繊維に関するものである。さらに詳しくは、色調に優れ、かつ、均一で高品質なものが長期間安定して提供することができる易フィブリル性ポリエステル繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、織編物表面に毛羽状外観を付与する方法として、有機スルホン酸金属塩などを添加配合したポリエステルからなる繊維を織編物となし、織編物表面にアルカリ処理を施してバッフィング処理を行うか、またはバッフィング処理を施した後アルカリ加水分解処理を行うことにより、ポリエステル繊維をミクロフィブリル化して織編物表面に毛羽を形成せしめる方法(例えば、特開昭58−298457号公報)、ポリエステルと非相溶の長鎖状有機化合物および/または有機スルホン酸金属塩を添加配合したポリエステルからなる繊維を織編物となし、織編物に凹凸加工またはエンボス加工などとアルカリ処理とを組み合わせて織物表面のポリエステル繊維を部分的にフィブリル化する方法(例えば、特開平7−197375号公報、特開平11−36181号公報)が提案されている。しかしながら、これら方法ではいずれも、通常のポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸する際、ポリエステル中に存在するアンチモン系触媒に起因して、紡糸時間の経過と共に紡糸口金吐出孔周辺に異物(口金異物と称することがある)が付着堆積し、安定に紡糸することができなくなるだけでなく、得られるポリエステル繊維も長期間防止するにしたがって品質が低下するという問題があった。
【0003】
かかるアンチモン化合物に起因する問題は、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いれば減少するものの、ポリエステル自身の黄色味が強くなるため、得られるポリエステル繊維の色調が低下して衣料用途には使用できなくなるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】
特開昭58−298457号公報
【特許文献2】
特開平7−197375号公報
【特許文献3】
特開平11−36181号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、色調に優れ、かつ、均一で高品質なものが長期間安定して提供することができる易フィブリル性ポリエステル繊維を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らの研究によれば、上記本発明の目的は、下記式(I)で表されるチタン化合物と下記式(II)で表されるリン化合物との反応生成物からなる触媒の存在下に重縮合して得られるポリエステルからなるポリエステル繊維であって、
【0007】
【化6】
【0008】
(R1、R2、R3、R4は、それぞれ同一もしくは異なって、アルキル基またはフェニル基であり、kは1〜4の整数である。なお、kが2〜4の場合には、複数のR2およびR3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0009】
【化7】
【0010】
(R5は、炭素原子数1〜20個のアルキル基または炭素原子数6〜20個のアリール基であり、nは1または2の整数である。)
該繊維中には、繊維重量を基準として、下記式(III)で表されるポリオキシエチレン系ポリエーテルを0.5〜2.0重量%および下記式(IV)で表される有機スルホン酸金属塩を0.1〜1.0重量%含有することを特徴とする易フィブリル性ポリエステル繊維が提供される。
【0011】
【化8】
【0012】
(j,j’は13〜38の整数であり、m,m’,pは、0.2≦{(44m+14j+17)+(44m’+14j’+1)}/(44p)≦1.2を満足する整数である。)
【0013】
【化9】
【0014】
(Rは、炭素原子数3〜30のアルキル基または炭素原子数7〜40のアリール基もしくはアルキルアリール基であり、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。)
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いられるポリエステルの重縮合用触媒としては、上記式(I)で表されるチタン化合物と上記式(II)で表されるリン化合物との反応生成物を用いる。
【0016】
該チタン化合物としては、具体的には、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラエトキシドに例示されるチタンテトラアルコキシド、オクタアルキルトリチタネート、ヘキサアルキルジチタネートなどのアルキルチタネートを挙げることができるが、なかでも本発明において使用されるリン化合物との反応性の良好なチタンテトラアルコキシドを用いることが好ましく、特にチタンテトラブトキシドを用いることが好ましい。
【0017】
一方、該リン化合物としては、具体的には、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノ−n−プロピルホスフェート、モノ−n−ブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノノニルホスフェート、モノデシルホスフェート、モノドデシルホスフェート、モノラウリルホスフェート、モノオレイルホスフェート、モノテトラコシルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(4−メチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−エチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−プロピルフェニル)ホスフェート、モノ(4−ドデシルフェニル)ホスフェート、モノトリルホスフェート、モノキシリルホスフェート、モノビフェニルホスフェート、モノナフチルホスフェートおよびモノアントリルホスフェートなどのモノアルキルホスフェートまたはモノアリールホスフェート、並びに、ジエチルホスフェート、ジプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジデシルホスフェート、ジラウリルホスフェート、ジオレイルホスフェート、ジテトラコシルホスフェート、ジフェニルホスフェートなどのジアルキルホスフェートまたはジアリールホスフェートを例示することができる。なかでも、上記式(II)においてnが1であるモノアルキルホスフェートまたはモノアリールホスフェートが好ましい。
【0018】
これらのリン化合物は、混合物として用いてもよく、例えばモノアルキルホスフェートとジアルキルホスフェートの混合物、モノフェニルホスフェートとジフェニルホスフェートの混合物を、好ましい組み合わせとして挙げることができる。特に混合物中、モノアルキルホスフェートが全混合物量を基準として50%以上、特に90%以上を占めるような組成とするのが好ましい。
【0019】
上記式(I)のチタン化合物と上記式(II)のリン化合物との反応生成物の調整方法は特に限定されず、例えば、グリコール中で加熱することにより製造することができる。すなわち、該チタン化合物と該リン化合物とを含有するグリコール溶液を加熱すると、グリコール溶液が白濁して析出物が発生する。この析出物をポリエステル製造用の触媒として用いればよい。
【0020】
ここで用いることのできるグリコールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等を例示することができるが、得られた触媒を用いて製造するポリエステルを構成するグリコール成分と同じものを使用することが好ましい。例えば、ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである場合にはエチレングリコール、ポリトリメチレンテレフタレートである場合には1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレンテレフタレートである場合にはテトラメチレングリコールをそれぞれ用いることが好ましい。
【0021】
なお、前記触媒は式(I)のチタン化合物、式(II)のリン化合物及びグリコールの3者を同時に混合し、加熱する方法によっても製造することができる。しかし、加熱により式(I)のチタン化合物と式(II)のリン化合物とが反応してグリコールに不溶の析出物が反応生成物として析出するので、この析出までの反応は均一な反応であることが好ましい。したがって、効率よく反応析出物を得るためには、式(I)のチタン化合物と式(II)のリン化合物とのそれぞれについて予めグリコール溶液を調整し、その後、これらの溶液を混合し加熱する方法により製造することが好ましい。
【0022】
また、加熱時の温度は、反応温度が余りに低すぎると、反応が不十分となったり反応に過大な時間を要したりするので、均一な反応により効率よく反応析出物を得るには、50℃〜200℃の温度で反応させることが好ましく、反応時間は1分間〜4時間が好ましい。なかでも、グリコールとしてエチレングリコールを用いる場合には50℃〜150℃、ヘキサメチレングリコールを用いる場合には100℃〜200℃の範囲がより好ましい温度であり、また、反応時間は30分間〜2時間がより好ましい範囲である。
【0023】
グリコール中で加熱する式(I)のチタン化合物と式(II)のリン化合物との配合割合は、チタン原子を基準として、リン原子のモル比率(P/Ti)として1.0〜3.0の範囲にあることが好ましく、さらに1.5〜2.5であることが好ましい。該範囲内にある場合には、リン化合物とチタン化合物とがほぼ完全に反応して未完全な反応物が存在しなくなるので、該反応生成物をそのまま使用しても得られるポリエステルの色相改善効果は良好であり、また、過剰な未反応のリン化合物もほとんど存在しないので、ポリエステル重合反応性を阻害することがなく生産性も高いものとなる。
【0024】
上記の触媒においては、前記式(I)(但し、k=1)のチタン化合物と、式(II)のリン化合物成分との反応生成物は、下記(VI)により表される化合物を含有するものが好ましい。
【0025】
【化10】
【0026】
(ただし、式(VI)中のR6およびR7基は、それぞれ独立に、前記チタン化合物のR1、R2、R3、R4および前記リン化合物のR5のいずれか1つ以上に由来する2〜10個の炭素原子を有するアルキル基、または、6〜12個の炭素原子を有するアリール基である。)
式(VI)で表されるチタン化合物とリン化合物との反応生成物は、高い触媒活性を有しているので、これを用いて得られるポリエステルは、良好な色調(低いb値)を有し、実用上十分に低いアセトアルデヒド、残留金属および環状三量体の含有量を有し、かつ実用上十分なポリマー性能を有する。なお、該式(IV)で表される反応生成物は50質量%以上含まれていることが好ましく、70質量%以上含まれることがより好ましい。
【0027】
本発明においては、チタン化合物を予め下記一般式(V)で表される多価カルボン酸および/またはその酸無水物と反応モル比(2:1)〜(2:5)の範囲で反応させた後、リン化合物と反応させた反応生成物を用いることがより好ましい。
【0028】
【化11】
【0029】
(ただし、mは2〜4の整数である。)
かかる多価カルボン酸およびその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物を好ましく、特にチタン化合物との反応性がよく、また得られる反応生成物とポリエステルとの親和性が高いことから、トリメリット酸無水物が好ましい。
【0030】
該チタン化合物と多価カルボン酸またはその無水物との反応は、前記多価カルボン酸またはその無水物を溶媒に混合してその一部または全部を溶媒中に溶解し、この混合液にチタン化合物を滴下し、0℃〜200℃の温度で少なくとも30分間、好ましくは30〜150℃の温度で40〜90分間行われる。この際の反応圧力には特に制限はなく、常圧で充分である。なお、このときの溶媒としては、多価カルボン酸またはその無水物の一部または全部を溶解し得るものから適宜選択すればよい。なかでも、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン、キシレンなどが好ましく使用される。
【0031】
この反応におけるチタン化合物と式(V)の化合物またはその無水物とのモル比は適宜に選択することができるが、チタン化合物の割合が多すぎると、得られるポリエステルの色調が悪化したり軟化点が低下したりする傾向があり、逆にチタン化合物の量が少なすぎると重縮合反応が進みにくくなる傾向があるため、チタン化合物と多価カルボン酸化合物またはその無水物との反応モル比は、(2:1)〜(2:5)とすることが好ましい。
【0032】
この反応によって得られる反応生成物は、そのまま前述のリン化合物との反応に供してもよく、あるいはこれをアセトン、メチルアルコールおよび/または酢酸エチルなどで再結晶して精製した後にリン化合物と反応させてもよい。
【0033】
本発明において、上記反応生成物の存在下にポリエステルを重縮合するにあたっては、上記のようにして得た析出物を含むグリコール液は、析出物とグリコールとを分離することなくそのままポリエステル製造用触媒として用いてもよく、遠心沈降処理または濾過などの手段により析出物を分離した後、該析出物を再結晶剤、例えばアセトン、メチルアルコールおよび/または水などにより再結晶して精製した後、この精製物を該触媒として用いてもよい。なお、該触媒は、固体NMRおよびXMAの金属定量分析で、その構造を確認することできる。
【0034】
本発明にかかるポリエステルを重縮合するに際しては、上記析出物等の反応生成物からなる触媒を重縮合反応時に反応系内に存在させればよい。このため該触媒の添加は、原料スラリー調製工程、エステル化工程、液相重縮合工程等のいずれの工程で行ってもよい。また、触媒全量を一括添加しても、複数回に分けて添加してもよい。
【0035】
また、重縮合反応では、必要に応じてトリメチルホスフェートなどのリン安定剤をポリエステル製造における任意の段階で加えてもよく、さらに酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、整色剤、消泡剤その他の添加剤などを配合してもよい。
【0036】
さらに、得られるポリエステルの色相の改善補助をするために、ポリエステルの製造段階において、アゾ系、トリフェニルメタン系、キノリン系、アントラキノン系、フタロシアニン系等の有機青色顔料等、無機系以外の整色剤を添加することもできる。
【0037】
次に、前記の触媒を用いて、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、脂肪族グリコールとを重縮合させてポリエステルを製造する方法について説明する。
【0038】
ポリエステルの出発原料となる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0039】
もう一方の出発原料となる脂肪族グリコール(アルキレングリコール)としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコールを用いることができる。
【0040】
また、ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸とともに、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸等またはそのエステル形成性誘導体を原料として使用することができ、ジオール成分としても脂肪族ジオールとともに、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。
【0041】
さらに、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を原料として使用することができる。
【0042】
上記の芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとを反応させて、先ず芳香族ジカルボン酸のアルキレングリコールエステルおよび/またはその低重合体となすが、その方法は特に限定されず、いかなる方法によってもよい。通常、該芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとを加熱反応させることによって製造される。
【0043】
例えば、ポリエチレンテレフタレートの原料であるテレフタル酸のエチレングリコールエステルおよび/またはその低重合体について説明すると、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、またはテレフタル酸にエチレンオキサイドを付加反応させる方法が一般に採用される。
【0044】
次に、本発明におけるチタン化合物とリン化合物との反応生成物からなる重縮合触媒の存在下に、上記で得られたアルキレングリコールエステルまたはその低重合体を、減圧下で、ポリエステルポリマーの融点以上分解点未満の温度(通常240℃〜280℃)に加熱することにより重縮合させる。この重縮合反応では、未反応のアルキレングリコールおよび重縮合で発生するアルキレングリコールを反応系外に留去させながら行うことが望ましい。
【0045】
重縮合反応は、1槽で行ってもよく、複数の槽に分けて行ってもよい。例えば、重縮合反応が2段階で行われる場合には、第1槽目の重縮合反応は、反応温度が245〜290℃、好ましくは260〜280℃、圧力が100〜1kPa、好ましくは50〜2kPaの条件下で行われ、最終第2槽での重縮合反応は、反応温度が265〜300℃、好ましくは270〜290℃、反応圧力は通常10〜1000Paで、好ましくは30〜500Paの条件下で行われる。
【0046】
本発明で用いられるポリエステルは、上記のようにして製造することができるが、得られたポリエステルは、通常、粒状(チップ状)にされる。なお、得られるポリエステルの固有粘度は0.40〜0.80、好ましくは0.50〜0.70であることが望ましい。所望により、固相重縮合によりさらに固有粘度をあげても構わない。
【0047】
該固相重縮合工程に供給される粒状ポリエステルは、予め、固相重縮合を行う場合の温度より低い温度に加熱して予備結晶化を行った後、固相重縮合工程に供給してもよい。
【0048】
なお、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体は、使用する芳香族ジカルボン酸成分を基準として80モル%以上、好ましくは90モル%以上を占めるような量で用いられ、エチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体は脂肪族グリコールを基準として80モル%以上、好ましくは90モル%以上を占める量で用いられることが好ましい。
【0049】
本発明のポリエステル繊維は、上記のポリエステルから構成されるが、該繊維中には、前記式(III)で表されるポリオキシエチレン系ポリエーテルおよび前記式(IV)で表される有機スルホン酸金属塩を含有している必要がある。
【0050】
ここで用いられるポリオキシエチレン系ポリエーテルは、式(III)から明らかなように、−CjH2j+1および−Cj’H2j’+1で表される枝わかれ部分を持つ鎖(以下おのおのA鎖ブロックおよびA’鎖ブロックと称する)と枝分かれの無い直鎖(以下B鎖ブロックと称する)からなる非ランダム共重合ポリオキシエチレン系ポリエーテルである。式中、J,J’は、それぞれ13〜28、好ましくは14〜20の範囲の整数である。J,J’のいずれかが13未満の場合には、得られる繊維をアルカリ処理等してフィブリルを発現させる際のフィブリル発現性が不均一となり、織編物表面に筋状の斑が発生しやすくなるので好ましくない。一方、J,J’のいずれかが28を超える場合には、アルカリ処理等してフィブリル発現処理しても充分なフィブリル化が起こらなくなるので好ましくない。
【0051】
さらに、B鎖ブロックの分子量(MwB:44p)と、A鎖ブロックおよびA’鎖ブロックの合計分子量(MwA:44m+14j+17+44m’+14j’+1)との比(MwA/MwB)は、0.2〜1.2、好ましくは0.25〜1.0の範囲である必要がある。MwA/MwBが0.2未満の場合には、B鎖ブロックが長くなりすぎ、または、AおよびA’鎖ブロックの枝の長さが短くなりすぎて、フィブリル化処理しても繊維のフィブリル化が発現し難くなるので好ましくない。一方、MwA/MwBが1.2を超える場合には、AおよびA’鎖ブロックが長くなりすぎ、または、B鎖ブロックの枝の長さが短くなりすぎて、フィブリル化処理した際の繊維のフィブリル化が不均一となりやすく、織編物表面に筋状の斑が発生するので好ましくない。
【0052】
このようなポリオキシエチレン系ポリエーテルの繊維フィブリル化効果は、次のようなメカニズムによって発現すると推定される。すなわち、ポリエステル中に微分散したポリオキシエチレン系ポリエーテルが、ポリエステルの繊維化過程で伸張を受けて引き伸ばされた状態に細化するものと推定される。そして、このような分散状態で細化されたポリエステル繊維は、アルカリ処理等のフィブリル化処理を受けた時、引き伸ばされたポリオキシエチレン系ポリエーテル分子に沿って繊維軸方向に、均一なフィブリルが生じるものと推定される。
【0053】
また、本発明で用いられる前記チタン化合物とリン化合物との反応生成物を触媒とするポリエステルを用いることにより、従来のアンチモン系触媒使用のポリエステルに比べて、より均一で繊細なフィブリル繊維を得ることができる。この詳細な理由は明確ではないが、同一紡糸速度での繊維内部の微細構造に違いがあること、すなわち、繊維の複屈折率(Δn)に関して、本発明にかかるポリエステルの方が従来のアンチモン系ポリエステルに比べて低い数値を示すことから、非晶部配向の乱れが大きくなっており、このためポリオキシエチレン系ポリエーテルがより均一に分散しやすい状態となっているものと推定される。
【0054】
このようなポリオキシエチレン系ポリエーテルの含有量は、繊維重量を基準として0.5〜2.0重量%、好ましくは1.0〜2.0重量%の範囲とする必要がある。この含有量が0.5%重量%未満の場合には、繊維のフィブリル化を充分に発現させることが困難になる。一方、2.0重量%を超える場合には、過度のフィブリル化が起こり、フィブリルの脱落や、繊維の強度低下が起こりやすくなるだけでなく、紡糸時の工程安定性も低下するので好ましくない。
【0055】
なお、該ポリオキシエチレン系ポリエーテルの重量平均分子量は、5000〜16000、より好ましくは5500〜14000の範囲が適切である。
【0056】
次に、上述のポリオキシエチレン系ポリエーテルとともに併用される、前記式(VI)で表される有機金属スルホン酸塩は、単一の化合物であっても、各種のアルキル基、アリール基またはアルキルアリール基を有する有機スルホン酸金属塩の混合物であってもよい。
【0057】
好ましく用いられる有機スルホン酸金属塩としては、ステアリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸カリウム、ステアリルスルホン酸マグネシウムおよびこれらの混合物などを例示することができる。このような有機スルホン酸金属塩は、アルカリ処理等によるフィブリル化処理工程で、繊維の分子構造中でフィブリル化の基点となり、繊維全体にわたり均一なフィブリル化を進行させる役割を果たしているものと推定される。
【0058】
かかる有機スルホン酸金属塩の含有量は、繊維重量を基準として0.1〜1.0重量%、好ましくは、0.2〜0.7重量%の範囲とする必要がある。該有機スルホン酸金属塩の含有量が0.1%未満の場合には、繊維のフィブリル化が充分に進行しなかったり、不均一なフィブリルが発生したりするので好ましくない。一方、含有量が1.0重量%を越える場合には、過度のフィブリル化が起こり、フィブリルの脱落や、繊維の強度低下が起こりやすくなるだけでなく、紡糸時の工程安定性も低下するので好ましくない。
【0059】
上述のポリオキシエチレン系ポリエーテルおよび有機スルホン酸金属塩をポリエステル繊維中に配合するには、ポリエステルが繊維化される前の任意の段階で、任意の方法が採用できる。例えば、ポリエステルの重縮合反応開始前、重縮合反応途中、あるいは重縮合反応終了時に、粉粒体またはグリコール等の溶媒に溶解または分散した状態で添加してもよい。また、ポリオキシエチレン系ポリエーテルおよび有機スルホン酸金属塩を規定量含有したマスターチップを予め作成し、乾燥工程あるいは溶融紡糸工程で、重縮合が終わったポリエステルと固体混合あるいは溶融混合してもよい。
【0060】
上記の任意の方法で、ポリオキシエチレン系ポリエーテルおよび有機金属スルホン酸塩が混合されたポリエステルは、常法の溶融紡糸法にしたがって易フィブリル性ポリエステル繊維とすることができる。例えば、270〜300℃の紡糸温度で紡糸口金より吐出し、冷却固化し、油剤を付与した後、800〜2500m/minの速度で紡糸引取りし、ポリエステル未延伸糸となす。該ポリエステル未延伸は、一端巻取った後に紡糸工程とは別途に延伸を行ってもよく、一端巻取ることなく紡糸引取りに連続して延伸を行ってもよい。
【0061】
本発明の易フィブリル性ポリエステル繊維の繊度は、通常の衣料用ポリエステル繊維の範囲であればよい。すなわち、総繊度は、30〜200dtex、好ましくは50〜150dtexの範囲が適当であり、単糸繊度は1〜4dtex、好ましくは2〜3dtexの範囲が適当である。繊維断面形状も特に規定する必要は無く、円形、多葉形または中空断面など、用途に応じて任意に設定すればよい。
【0062】
なお、上記易フィブリル性ポリエステル繊維は、該繊維よりも沸水収縮率が4〜40%高いポリエステル繊維と混繊することにより、より高度で均一な繊維のフィブリル化を発現させることができる。すなわち、易フィブリル性ポリエステル繊維より高い沸水収縮率を有するポリエステル繊維を高収縮糸として混繊することにより、易フィブリル性ポリエステル繊維を糸条表面に浮き出させることが可能となり、より高度で、均一なフィブリル化が達成できる。両ポリエステル繊維の沸水収縮率差が4%未満の場合には、易フィブリル性ポリエステル繊維単独からなる糸条とフィブリル化の程度は変わらない。一方、沸水収縮率差が40%を越える場合には、このような繊維を安定に生産することが難しくなり、しかも得られる織編物の熱収縮性も過大なものとなるので好ましくない。なお、易フィブリル性ポリエステル繊維と高収縮繊維との混繊比率は20/80〜80/20の範囲が適当である。
【0063】
以上に説明した本発明の易フィブリル性ポリエステル繊維またはポリエステル混繊糸を使用した織編物は、常法のカレンダー加工機を用いて140〜200℃に加熱されたローラーで押圧処理した後にアルカリ処理を施すことにより、押圧された表面が主体的にフィブリル化されたものとなる。
【0064】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例、比較例における各特性値の測定は下記方法により行った。
【0065】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒とし、常法にしたがい温度35℃で測定した。
【0066】
(2)重量平均分子量
ゲル透過クロマトグラフィーSHODEX GPC−101(昭和電工(株)製)を用いて測定した。
【0067】
(3)フィブリル品位
ポリエステル繊維またはポリエステル混繊糸(試料)に400回/mの撚りを掛け、経緯使いの平織り組織で製織し、80℃で精錬・リラックス処理、160℃・45秒でプレセット乾熱処理を行った。この織物を、常法のカレンダー加工機に通し、160℃に加熱されたローラーで押圧した後、10%のアルカリ減量処理を行い、押圧された織編物表面を主体的にフィブリル化した。ついで120℃・30分で染色を行い、自然乾燥した後、160℃・45秒でファイナルセットを行い、フィブリル品位評価用織物とした。3人の検査員により、フィブリル化した織物表面の目視検査を行い、以下の格付けを行った。
レベル1:織物表面が均一な細かい毛羽状態となっており、経筋は認められない状態。
レベル5:織物表面の毛羽状態が不均一で、長短の明瞭な経筋が一面に認められる状態。
レベル2〜4:織物表面の毛羽状態および経筋の発生状況が上記レベル1とレベル5の間に格付けされる。
【0068】
(4)沸水収縮率
JIS L1013 8.18.1 B法に従い測定した。
【0069】
(5)強度、伸度
JIS−L1013の方法に従い引張試験を行い、破断時の強度、伸度を測定した。
【0070】
[実施例1]
[実施例1〜5、比較例1〜2]
触媒の調整:
エチレングリコール919gと酢酸10gを混合撹拌した中に、チタンテトラブトキシド71gを添加し、チタン化合物のエチレングリコール溶液(透明)を得た。次にエチレングリコール656gを100℃に加熱攪拌中にモノラウリルホスフェート34.5gを添加し、加熱混合撹拌して溶解し、透明な溶液を得た。
【0071】
引き続き、両溶液を100℃に撹拌混合し全量を添加後から100℃の温度で1時間撹拌保持し、白濁状態溶液を得た。この時の両溶液の配合量比は、チタン原子を基準として、リン原子のモル比率が2.0に調整されたものとなっていた。得られた白色析出物を濾別し、水洗乾燥し重合触媒とした。
【0072】
ポリエステルの調整:
予め225部のオリゴマーが滞留する反応器内に、撹拌下、窒素雰囲気で255℃、常圧下に維持された条件下に、179部の高純度テレフタル酸と95部のエチレングリコールとを混合して調製されたスラリーを一定速度供給し、反応で発生する水とエチレングリコールを系外に留去ながら、エステル化反応を4時間し反応を完結させた。この時のエステル化率は、98%以上で、生成されたオリゴマーの重合度は、約5〜7であった。
【0073】
このエステル化反応で得られたオリゴマー225部を重縮合反応槽に移し、重縮合触媒として、上記で作成した触媒を3.34部投入した。次にこの反応混合物に、式(III)で表され、式中のj、j’、m、m’、p、MwA/MwBおよび重量平均分子量が各々表1に記載の値を有するポリオキシエチレン系ポリエーテルを、ポリマー重量基準で1.4重量%となる割合で添加し、反応缶内の圧力を1時間かけて大気圧から400Paまで減圧し、10分後にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムをポリマー重量基準で0.5重量%となるように添加した。次いで133Paまで減圧し、以下常法にしたがって重合を行い、ペレット状に裁断し、固有粘度0.63の色調に優れたポリエステルチップを得た。
【0074】
得られたポリエステルチップを各々常法にしたがって乾燥し、スクリュー押出機を装備した溶融紡糸装置に導入し、温度286℃で溶融し、20個の円形吐出孔を穿設した紡糸口金を通して吐出し、冷却固化し、油剤を付与した後、一対のゴデットローラーを介して1200m/minで紡糸引取りし、ワインダーで巻取りポリエステル未延伸糸を得た。該ポリエステル延伸糸を別途延伸装置に掛け、伸度が約30%となるように延伸倍率を設定し、90℃で延伸し、205℃で熱セットし、表1に示す繊維物性(強度、伸度、沸水収縮率)を有する50dtex/20フィラメントのポリエステル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1から明らかなように、本発明にかかるポリエステル繊維から得られる織物表面には極めて良好なフィブリル品位が発現しているのに対し(実施例1〜5)、本発明の範囲外であるポリエステル繊維(比較例1〜2)からの織物表面には経筋が多く、レベル4〜5の品位に劣るものであった。
【0077】
[比較例3]
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加しない以外は実施例1と同じ方法、条件でポリエステルチップを作成した後、溶融紡糸してポリエステル繊維となしてフィブリル品位を評価した。その結果、フィブリル品位はレベル5と品位に劣るものであった。
【0078】
[比較例4]
重合触媒として三酸化アンチモンをテレフタル酸成分に対して27ミリモル%使用する以外は実施例1と同じ方法、条件でポリエステルチップを作成した後、溶融紡糸してポリエステル繊維となしてフィブリル品位を評価した。その結果、溶融紡糸開始後期間を経過したポリエステル繊維はフィブリル品位が低下し、レベル5まで低下するものであった。また色調も実施例1のものと比較すると劣ったものであった。
【0079】
[実施例6]
実施例1で得られたポリエステル繊維(沸水収縮率8.5%)と、イソフタル酸が10モル%共重された固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレート系個ポリエステルからなる沸水収縮率が35.2%のポリエステル高収縮繊維糸(33dtex/12フィラメント)とを、エアーノズルを通して混繊交絡してポリエステル混繊糸を得た。得られた混繊糸を実施例1と同様にしてフィブリル品位を評価した。その結果、フィブリル品位はレベル1であり、極めて良好なフィブリル品位を有する織物が得られた。
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、色調に優れ、かつ、均一で高品質な易フィブリル性ポリエステル繊維を長期間安定して提供することができる。
Claims (4)
- 下記式(I)で表されるチタン化合物と下記式(II)で表されるリン化合物との反応生成物からなる触媒の存在下に重縮合して得られるポリエステルからなるポリエステル繊維であって、
該繊維中には、繊維重量を基準として、下記式(III)で表されるポリオキシエチレン系ポリエーテルを0.5〜2.0重量%および下記式(IV)で表される有機スルホン酸金属塩を0.1〜1.0重量%含有することを特徴とする易フィブリル性ポリエステル繊維。
- チタン化合物とリン化合物との反応割合が、チタン原子を基準としてリン原子のモル比率(P/Ti)で1.0〜3.0の範囲内である請求項1記載の易フィブリル性ポリエステル繊維。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の易フィブリル性ポリエステル繊維と、該易フィブリル性ポリエステル繊維より沸水収縮率が4〜40%高いポリエステル繊維とを混繊してなるポリエステル混繊糸。
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