JP2004218138A - エアバッグ用基布、エアバッグおよびエアバッグ装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】合成繊維糸を構成要素とするエアバッグ用基布であって、水溶性または水分散性の合成樹脂で含浸処理されてなり、該合成樹脂は、厚み:0.3mmのフィルム形状とし、引張試験機により、チャック間距離:35mm、引張速度:300mm/分の条件で引張試験を行った際に、引張伸びが200%以上であり、且つ200%伸張時の強度が5MPa以下であることを特徴とするエアバッグ用基布である。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車安全装置の一つであるエアバッグ装置に適用され、必要な機械的特性を保持しつつ、低コストで低通気度であるエアバッグ用基布および該エアバッグ用基布を用いてなるエアバッグに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車安全部品の一つであるエアバッグ装置は、乗員の安全意識の向上に伴い、急速に装着率が増大している。このエアバッグ装置とは、自動車の衝突事故の際に、衝撃をセンサーが感知し、インフレーターから高温、高圧のガスを発生させ、このガスによってエアバッグを急激に展開させ、乗員の身体が衝突した方向に飛び出した際に、特に頭部がハンドルやフロントガラス、ドアガラスなどに衝突することを防止し、乗員を保護するものである。
【0003】
従来から、エアバッグには、クロロプレン、クロロスルフォン化オレフィン、シリコーンなどの合成ゴムを被覆したコーティング基布が、耐熱性や空気遮断性(低通気度)、難燃性といった特性に優れることから使用されてきた。しかし、これらの合成ゴムをコーティングした基布は、基布質量が増大し、また柔軟性が満足できるものでなく、製造コストも高いため、エアバッグ用基布として使用するには不十分な点が多かった。
【0004】
こうした表面コーティングを施した従来のエアバッグ用基布が抱えていた問題点を解決する技術が、多数提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、コーティング樹脂としてシリコーン樹脂液を用い、その塗布量を制御して、軽量で、柔軟性・収納性に優れ、さらにエアバッグの瞬間的な膨張に際し、特に顔面に対する衝撃の低減を達成したエアバッグが提案されている。しかし、特許文献1の技術でも、例えば、エアバッグ展開時の初期圧での低通気度確保が必ずしも十分とはいえない場合があった。
【0006】
他方、軽量で収納性にも優れるエアバッグ用基布として、基布表面にコーティングを施さないノンコートエアバッグ用基布を用いたエアバッグが提案されており(特許文献2など)、現在の主流を占めている。しかし、現在では、女性や高齢者などドライバーの多様化に対応して衝突時安全性をさらに向上させる目的で、エアバッグ作動時における乗員の初期拘束性を高めるべく、より優れた低通気性能を有すると共に、自動車の車内空間確保のための収納性も維持できるエアバッグ用基布が求められている。
【0007】
上記の如きノンコートエアバッグ用基布の有する軽量・良好な収納性を維持しつつ、低通気性能を有し、難燃性にも優れるエアバッグ用基布として、合成樹脂希釈液で含浸処理を施したエアバッグ用基布が提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、特許文献3に開示の技術によっても、高度な低通気性能を確保するためには、コーティングに用いる樹脂量をある程度多くせざるを得ず、基布質量の増大や柔軟性の低下の問題を回避することは困難である。
【0008】
基布の柔軟性低下を回避するために、コーティング前の布帛の通気度を、織組織の調整などにより低減させ、且つ熱可塑性樹脂をコーティングに用いて、使用樹脂量を低減する方法も考えられる。しかし、現実には、上記熱可塑性樹脂を布帛に含浸させた場合、布帛内部まで樹脂が浸透してしまい、結果として柔軟性が損なわれてしまう他、このような基布を用いたエアバッグでは、作動時の初期圧で通気度が上昇し、エアバッグ内圧が急激に低下してしまう。
【0009】
【特許文献1】
特開平5−16753号公報
【特許文献2】
特開平4−281062号公報
【特許文献3】
特開平11−222776号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軽量且つ柔軟性に優れ、さらにエアバッグ作動直後に生じる通気度の上昇を抑制したエアバッグ用基布、および該基布を用いたエアバッグ、並びに該エアバッグを用いたエアバッグ装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明のエアバッグ用基布は、合成繊維糸を構成要素とするエアバッグ用基布であって、水溶性または水分散性の合成樹脂で含浸処理されてなり、該合成樹脂は、厚み:0.3mmのフィルム形状とし、引張試験機により、チャック間距離:35mm、引張速度:300mm/分の条件で引張試験を行った際に、引張伸びが200%以上であり、且つ200%伸張時の強度が5MPa以下であるところに要旨を有するものである。
【0012】
上記合成樹脂は、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。また、上記合成樹脂の付着量が、乾燥後の質量で0.1〜10g/m2であることが推奨される。
【0013】
上記エアバッグ用基布においては、下式(1)により算出されるカバーファクター(K)が、2000以上であることが望ましい。
K = NW × DW 0.5 + NF × DF 0.5 (1)
ここで、NW:経糸密度(本/2.54cm)、DW:経糸繊度(dtex)、NF:緯糸密度(本/2.54cm)、DF:緯糸繊度(dtex)、である。
【0014】
上記エアバッグ用基布を構成する上記合成繊維糸は、総繊度:100〜500dtex、単糸繊度:6dtex以下であることが好ましく、さらに、製織前において、JIS L 1013 8.18.1(B法)の規定に準じて測定される沸水収縮率が、5〜15%であることが推奨される。
【0015】
このような上記エアバッグ用基布の特性としては、上記合成樹脂で含浸処理を施す前の通気度が、20kPaの圧力下で1.0L(リットル)/cm2/分以下であり、上記合成樹脂で含浸処理を施した後の通気度が、50kPaの圧力下で0.5L/cm2/分以下であることが望ましい。
【0016】
また、本発明には、上記のエアバッグ用基布を用いたエアバッグ、および該エアバッグを用いたエアバッグ装置も包含される。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、例えば特許文献1に開示のエアバッグや、上述の熱可塑性樹脂をコーティングに用いたエアバッグ用基布から構成されるエアバッグについて、エアバッグ展開時の通気度上昇の原因が、基布を構成する布帛とコート用樹脂との剥離にあることを突き止めた。そして、こうした剥離を防止して、エアバッグ展開時における通気度上昇を抑制すべく鋭意検討を重ね、本発明の完成に至ったのである。
【0018】
すなわち、本発明のエアバッグ用基布は、水溶性または水分散性合成樹脂(以下、まとめて「水系合成樹脂」という)で含浸処理されてなるものであるが、該合成樹脂には、厚み:0.3mmで、一様な厚みのフィルム形状とし、引張試験機により、チャック間距離:35mm、引張速度:300mm/分の条件で引張試験を行った際に、引張伸びが200%以上であり、且つ200%伸張時の強度が5MPa以下の特性を有するものを使用するところに最大の特徴を有している。この構成の採用により、エアバッグ展開時における通気度上昇を抑制できると共に、こうした特性を非常に少ない樹脂コーティング量で確保できるため、基布を軽量且つ柔軟性に優れたものとし得る。
【0019】
エアバッグ展開時には、エアバッグを構成する各糸の動き量が大きくなるが、上記水系合成樹脂の引張伸びが200%を下回る場合には、こうした糸の動きに、コーティングされた水系合成樹脂が追随できず、該樹脂部分に破壊が生じてエアバッグの通気性が上昇してしまうため、例えば人体の初期拘束性能が低下してしまう。より好ましい引張伸びは400%以上、さらに好ましくは800%以上である。
【0020】
また、上記水系合成樹脂の200%伸張時の強度(引張応力)が5MPaを超えると、エアバッグ展開時に、エアバッグを構成する布帛と該布帛にコーティングされた水系合成樹脂との間に剥離が生じて、エアバッグの通気度が上昇してしまう。その理由は定かではないが、水系合成樹脂の200%伸張時の強度が上記下限値よりも大きい場合には、エアバッグ展開時の上記糸の動きに該樹脂が追随するためには、非常に大きな力が必要になり、この力よりも布帛−水系合成樹脂間の剥離強度の方が小さい場合には、布帛と水系合成樹脂との剥離が優先的に生じるからではないかと考えている。合成樹脂の200%伸張時のより好ましい強度は3MPa以下であり、さらに好ましくは2MPa以下である。他方、エアバッグ展開時の圧力による水系合成樹脂の凝集破壊を抑制するために、水系合成樹脂の200%伸張時の強度は1MPa以上であることが好ましい。
【0021】
なお、水系合成樹脂の200%伸張時の強度を測定するための引張試験用試料は、実際にエアバッグ用布帛に該水系合成樹脂を含浸後、コート被膜を形成する条件(温度、時間、圧力)に合わせて作製する。
【0022】
以下、本発明のエアバッグ用基布の具体的な構成について詳述する。本発明のエアバッグ基布に用いられる合成繊維糸は、特に素材を限定するものではない。例えば、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド;アラミドなどの芳香族ポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;などから得られる合成繊維から構成されるものが一般的である。また、全芳香族ポリエステル繊維、所謂超高分子量ポリエチレン繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルケトン繊維(好ましくは、生分解性ポリエーテルケトン繊維)などから構成される糸も使用可能である。また、本発明でいう「合成繊維糸」には、上述の如き合成繊維から構成される糸の他、ビスコースレーヨンなどの再生繊維や、アセテートなどの半合成繊維から構成される糸も含まれる。経済的な観点からは、上記例示の各ポリアミド繊維(特に好ましくは、ナイロン66繊維、ナイロン6繊維、ナイロン46繊維)や、上記例示の各ポリエステル繊維の糸が推奨される。
【0023】
上記の合成繊維には、原糸製造工程や後加工工程での工程通過性の向上、および特性改善を目的として、公知の各種添加剤を含有させてもよい。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、平滑剤、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤などが挙げられる。また、上記の合成繊維は、原着糸や、製糸後染色したものであっても構わない。さらに、単糸(上記合成繊維)の断面は、通常の丸断面の他、異形断面であっても差し支えない。
【0024】
なお、上記合成繊維から構成される糸(合成繊維糸)は、製織前における沸水収縮率が5%以上15%以下であることが好ましい。より好ましくは7%以上13%以下である。この沸水収縮率は、JIS L 1013 8.18.1(熱水収縮率)のB法の規定に準じ、熱水として沸水(沸騰水)を用いて測定される値である。本発明の基布を得るに当たっては、上記合成繊維糸により構成される布帛に加熱処理を施して収縮させることが好ましいが(後述する)、沸水収縮率が上記範囲を下回ると、この加熱処理を施しても十分に収縮できないため、高密度、すなわち低通気度の基布が得られない場合があり、他方、上記範囲を超えると、加熱処理による収縮後の布帛の厚みが大きくなってコンパクト性が損なわれる場合があるため、好ましくない。
【0025】
エアバッグ用基布を構成する布帛の織組織は特に限定されないが、基布物性の均一性を勘案すると平織組織を採用することが望ましい。使用する糸としては、例えば、上記例示の合成繊維からなる糸が好ましいが、布帛を構成する経糸と緯糸は同一のものでなくてもよく、例えば、太さや糸本数、繊維の種類が異なっていても構わない。上記布帛の製織に用いる織機も特に限定されるものではなく、公知の織機を使用し得るが、例えば、エアジェットルーム、ウォータージェットルーム、レピアルームなどが好適である。
【0026】
上記布帛の製織に用いる合成繊維糸(原糸)の繊度は、総繊度(糸の繊度)で、例えば100〜500dtexであることが好ましく、120〜480dtexであることがさらに好ましい。また、単糸繊度(合成繊維単身の繊度)としては、例えば、6dtex以下であることが好ましく、4dtex以下であることがさらに好ましい。総繊度が100dtexを下回ると、基布の引張強力や引裂強力が不足する場合があり、他方500dtexを超えると、強度に関しては問題はないが、基布の柔軟性が損なわれ、収納性が低下したり、布帛表面が硬くなってエアバッグ作動時に人体の皮膚を傷つける虞が生じる場合があるため、好ましくない。また、単糸繊度が6dtexを超える場合には、基布の柔軟性が損なわれ、総繊度が500dtexを超える場合と同様の問題が生じる虞があるため、好ましくない。他方、単糸繊度が小さいと、単糸が強力不足となり、製織に際して特に経糸が単糸切れを起こし易くなり、織機の停台回数が増大して生産性を悪化させたり、織物としての品質が劣化する場合があるため、1dtex以上であることが望ましい。
【0027】
上記の如き構成を有する布帛に水系合成樹脂を用いて含浸処理を施し、本発明のエアバッグ用基布とする。本発明では、溶剤除去に必要な熱量を低減できることから、低コストでのエアバッグ用基布製造を可能とする点、および除去された溶剤による環境への負荷が小さい点から、溶剤として水を使用可能な水系合成樹脂を用いることとしている。
【0028】
上記含浸処理に用いられる水系合成樹脂としては、有機合成樹脂、より具体的には、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂が挙げられる。上記各樹脂の具体例としては、例えば、ポリウレタン樹脂としては、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス、大日本インキ化学工業株式会社製「HYDRAN」が、アクリル樹脂としては、ガンツ化成株式会社製「ウルトラゾール」、大日本インキ化学工業株式会社製「ボンコート」が、ポリエステル樹脂としては、東洋紡績株式会社製「バイロナール」が、ポリアミド樹脂としては、帝国化学産業社製「トレジン」が例示できる。なお、これらは本発明で用い得る水系合成樹脂の一例を示したものに過ぎず、本発明に係る水系合成樹脂がこれらに限定される訳ではない。
【0029】
上記含浸処理を実施するに当たり、上記水系合成樹脂は、水溶液または水分散液(水系エマルジョン)として用いられるが(後述する)、これらの水溶液または水分散液には、水系合成樹脂の溶解性や分散性を向上させる目的として添加される場合の多い有機溶剤が、含有されていないことが好ましい。有機溶剤を用いた場合には、使用した水系合成樹脂量が少量の際に、この有機溶剤除去に必要な温度において、布帛を構成する繊維の収縮応力が大きくなるため、繊維−繊維間の孔が大きくなる傾向にあり、基布の通気度が増大することがある。
【0030】
また、これらの水系合成樹脂は、本発明で目的とする性能に影響を及ぼさない範囲で、劣化防止剤、架橋材、無機フィラー、着色剤などの添加剤を混合して用いてもよい。伸度や布帛との接着性を勘案すると、上記合成樹脂の中でも、ポリウレタン樹脂やアクリル樹脂がより好ましい。
【0031】
上記布帛に含浸処理を施すに当たっては、例えば、上記合成樹脂の水溶液または水分散液からなる含浸処理液を上記布帛に塗布したり、該含浸処理液に上記布帛を浸漬するなどし、その後含浸処理液中の水を乾燥させる方法が採用される。本発明では、他のコーティング方法に比べて、設備面や作業性の面で低コストでの実施が可能な含浸処理を採用する。上記含浸処理液の濃度は特に限定されないが、上記合成樹脂を含む固形分が、0.05〜30質量%となる濃度が一般的である。また、含浸後に実施する乾燥の際の温度は、基布の特性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば50〜200℃とすることが好ましく、100〜150℃とすることがより好ましい。なお、上記含浸処理液を布帛に塗布する場合の塗布方法については特に限定されず、従来公知の各種方法が採用可能である。
【0032】
上記含浸処理・乾燥後の基布においては、水系合成樹脂の付着量が、乾燥後の質量で0.1g/m2以上10g/m2以下であることが好ましく、1g/m2以上8g/m2以下であることがより好ましい。水系合成樹脂の付着量が上記範囲を下回ると、十分な低通気性能を確保できない場合があり、他方、上記範囲を超えると、基布の柔軟性が損なわれ、合成繊維糸の総繊度が500dtexを超える場合と同様の問題が生じる虞がある他、基布質量が増大する傾向にあるため、好ましくない。
【0033】
なお、本発明の基布の柔軟性の具体的な値としては、JIS L 1096 8.19.1のA法(45°カンチレバー法)の規定に準じて測定される剛軟度で100mm以下であることが好ましく、95mm以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明の基布を製造するに当たっては、上記の製織後、水系合成樹脂の含浸処理までの間に、上述の加熱処理を施すことが好ましい。この加熱処理によって、合成繊維糸から構成される布帛を収縮させて、高密度の布帛とし、本発明のエアバッグ用基布の低通気性能をより高めることが可能となる。加熱処理温度は特に限定されないが、基布の低通気性能確保を考慮すると、100℃以上であって、200℃以下、より好ましくは160℃以下とすることが望ましい。加熱処理方法としては特に限定されず、ヒートセッター、沸水バスなど公知の加熱手段で実施することができる。また、縦方向に2〜15%程度のオーバーフィードが可能な加工機(非張力型の収縮加工機など)を用いることも可能である。
【0035】
上記のようにして得られる本発明のエアバッグ用基布では、上記(1)式で求められるカバーファクター(K)が2000以上であることが好ましい。より好ましくは2100以上である。基布のカバーファクターが上記範囲を下回ると、低通気度を達成するために水系合成樹脂の付着量を多くする必要が生じ、結果として基布の柔軟性が低下したり、基布質量が増大する傾向にあるため、好ましくない。
【0036】
なお、本発明のエアバッグ基布では低通気度であることが要求されるが、具体的には、水系合成樹脂で含浸処理を施す前の布帛の通気度が、20kPaの圧力下で1.0L/cm2/分以下、より好ましくは0.8L/cm2/分以下であり、水系合成樹脂で含浸処理を施した後の通気度が、50kPaの圧力下で0.5L/cm2/分以下、より好ましくは0.4L/cm2/分以下であることが推奨される。これらの通気度は、例えばOEMシステム株式会社製の高圧通気度測定機などを用いて測定することができる。本発明のエアバッグ用基布において、上記の通気度は、上述の各構成を採用することで達成できる。
【0037】
本発明のエアバッグは、上記本発明のエアバッグ基布を用い、要求される形状に合わせて構成パーツを裁断し、これらの構成パーツを縫製して製造できる。縫製方法や縫製糸は特に限定されず、従来公知の方法や糸を採用すればよい。また、縫製部分には、公知の目止め手段(目止めテープなど)を用いて目止めをすることも好ましい。
【0038】
また、本発明のエアバッグ装置は、本発明のエアバッグを使用する以外は特に限定されず、従来公知の各構成部材(衝撃センサー、インフレーター、インフレーターガス導入用ホースなど)を用いることができる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる、ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例における各種評価は、以下の方法に従って行うものとする。
【0040】
[水系合成樹脂の200%伸張時の強度]
10cm×10cmの枠体に、最終的なフィルム厚みが0.3mmとなる量の水系合成樹脂を流し込み、20℃、相対湿度65%の条件で水分を蒸発させるべく2日置いた後、140℃、5分の条件でキュアして、厚み:0.3mmのフィルムとする。このフィルムを4号ダンベルで裁断して、引張部の幅が0.5cmとなる試験片を得る。引張試験機に東洋精機製作所株式会社製「ストログラフ」を用い、上記試験片をチャック間距離:35mmでセットし、引張速度を300mm/分として引張試験を行い、200%伸張時の強度(引張応力)を測定する。なお、試験片数5の平均値を、水系合成樹脂の200%伸張時の強度とする。
【0041】
[通気度]
OEMシステム株式会社製「高圧通気度測定機」を用い、圧力を20kPa(含浸処理前)、および50kPa(含浸処理後)として測定する。
【0042】
[フラジール通気度]
JIS L 1096 8.27.1のA法(フラジール形法)の規定に準じて測定する。
【0043】
[厚み]
JIS L 1096 8.5の規定に準じて測定する。
【0044】
[剛軟度]
JIS L 1096 8.19.1のA法(45°カンチレバー法)の規定に準じて測定する。
【0045】
[カバーファクター]
上記式(1)を用いて算出する。
【0046】
実施例1
総繊度が350dtex、108フィラメントのナイロン66繊維糸を用いて、ウォータージェットルームによって平織に製織し、沸水によって加熱処理(収縮処理)を施し、110℃で乾燥仕上げを行って、経糸密度:59本/2.54cm、緯糸密度:59本/2.54cmの布帛を得た。この布帛を、水系アクリル樹脂(ガンツ化成株式会社製「ウルトラゾールB760」)を固形分濃度6質量%に調整した含浸処理液で、乾燥後の樹脂付着量が3g/m2となるように含浸処理し、その後乾燥してエアバッグ用基布を得た。このエアバッグ用基布の評価結果を表1に示す。
【0047】
実施例2
総繊度が350dtex、144フィラメントのナイロン66繊維糸を用いて、経糸密度:58本/2.54cm、緯糸密度:55本/2.54cmとした他は、実施例1と同様にして平織の布帛を製織した。この布帛を、水系ポリウレタン樹脂(大日本インキ株式会社製「HYDRAN−HW920」)を固形分濃度8質量%に調整した含浸処理液で、乾燥後の樹脂付着量が5g/m2となるように含浸処理し、その後乾燥してエアバッグ用基布を得た。このエアバッグ用基布の評価結果を表1に示す。
【0048】
実施例3
経糸密度:59本/2.54cm、緯糸密度:59本/2.54cmとした他は、実施例2と同様にして平織の布帛を製織した。この布帛を、水系ポリウレタン樹脂(大日本インキ株式会社製「HYDRAN−HW930」)を固形分濃度14質量%に調整した含浸処理液で、乾燥後の樹脂付着量が6g/m2となるように含浸処理し、その後乾燥してエアバッグ用基布を得た。このエアバッグ用基布の評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例4
経糸密度:53本/2.54cm、緯糸密度:53本/2.54cmとした他は、実施例1と同様にして平織の布帛を製織した。この布帛について、実施例1と同様に含浸処理および乾燥を施してエアバッグ用基布を得た。このエアバッグ用基布の評価結果を表1に示す。
【0050】
比較例1
実施例3と同様にして、経糸密度:59本/2.54cm、緯糸密度:59本/2.54cmの布帛を製織した。この布帛を、水系ポリウレタン樹脂(大日本インキ株式会社製「HYDRAN−HW980」)を固形分濃度5質量%に調整した含浸処理液で、乾燥後の樹脂付着量が3g/m2となるように含浸処理し、その後乾燥してエアバッグ用基布を得た。このエアバッグ用基布の評価結果を表1に示す。
【0051】
比較例2
実施例1と同様にして、経糸密度:59本/2.54cm、緯糸密度:59本/2.54cmの布帛を製織した。この布帛を、水系ポリウレタン樹脂(大日本インキ株式会社製「HYDRAN−HW950」)を固形分濃度7質量%に調整した含浸処理液で、乾燥後の樹脂付着量が3g/m2となるように含浸処理し、その後乾燥してエアバッグ用基布を得た。このエアバッグ用基布の評価結果を表1に示す。
【0052】
比較例3
実施例1と同様にして、経糸密度:59本/2.54cm、緯糸密度:59本/2.54cmの布帛を製織した。この布帛を、水系ポリウレタン樹脂(大日本インキ株式会社製「HYDRAN−HW970」)を固形分濃度6質量%に調整した含浸処理液で、乾燥後の樹脂付着量が3g/m2となるように含浸処理し、その後乾燥してエアバッグ用基布を得た。このエアバッグ用基布の評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から分かるように、実施例1〜4の各エアバッグ用基布では、引張伸びが200%以上で、且つ200%伸張時の強度が5MPa以下の水系合成樹脂を用いており、含浸処理前の通気度に比べて、測定圧力を高めているにも関わらず含浸処理後の通気度が低減しており、非常に少ない水系合成樹脂付着量でコーティングによる良好な低通気性能向上効果が得られている。また、実施例1〜3は、さらにカバーファクターが本発明の好ましい範囲を満たしており、極めて良好な低通気性能を有している。
【0055】
これに対し、比較例1,3のエアバッグ用基布は、200%伸張時の強度が5MPaを超える水系合成樹脂を用いた例であり、比較例2のエアバッグ用基布は、引張伸びが200%を下回る水系合成樹脂(引張伸び:110%)を用いた例である。これらのエアバッグ用基布では、含浸処理後の通気度が大きく、コーティングによる低通気性能向上効果が得られていない。また、これらのエアバッグ用基布では、剛軟度が大きく、基布の柔軟性が損なわれている。
【0056】
なお、上記実施例および比較例では、エアバッグの通気度評価に通常用いられるフラジール通気度、すなわち比較的低内圧条件(125Pa)での評価も行っている。例えば実施例4のエアバッグ用基布では、カバーファクターが他の実施例・比較例よりも小さいことに起因して、このフラジール通気度が小さくなっているが、エアバッグ(特に側面保護用エアバッグ)が実際の展開時に受けるような高内圧条件下での通気度(上記含浸処理後の通気度)については、この実施例4のエアバッグ用基布は、各比較例のエアバッグ基布よりも小さく、側面保護用エアバッグに対応し得るものとなっている。
【0057】
上記実施例1〜3のエアバッグ用基布を用いてエアバッグを作製し、エアバッグ装置に組み込んだところ、良好な内圧保持性能および人体保護性能を有していた。
【0058】
【発明の効果】
本発明は以上の通り構成されており、従来の方法では達成できていなかった軽量且つ柔軟性に優れ、低通気性能を有すると共にエアバッグ展開時の通気度の上昇を抑制したエアバッグ用基布を提供することができた。
【0059】
本発明のエアバッグは、上記本発明のエアバッグ用基布を用いており、収納性や人体保護性能に優れるものである。また、本発明のエアバッグ装置は、上記本発明のエアバッグを用いており、高度な人体保護性能を有している。
Claims (9)
- 合成繊維糸を構成要素とするエアバッグ用基布であって、
水溶性または水分散性の合成樹脂で含浸処理されてなり、
該合成樹脂は、厚み:0.3mmのフィルム形状とし、引張試験機により、チャック間距離:35mm、引張速度:300mm/分の条件で引張試験を行った際に、引張伸びが200%以上であり、且つ200%伸張時の強度が5MPa以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。 - 上記合成樹脂は、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である請求項1に記載のエアバッグ用基布。
- 上記合成樹脂の付着量が、乾燥後の質量で0.1〜10g/m2である請求項1または2に記載のエアバッグ用基布。
- 下式により算出されるカバーファクター(K)が、2000以上である請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
K = NW × DW 0.5 + NF × DF 0.5
ここで、NW:経糸密度(本/2.54cm)、DW:経糸繊度(dtex)、NF:緯糸密度(本/2.54cm)、DF:緯糸繊度(dtex)、である。 - 上記合成繊維糸は、総繊度:100〜500dtex、単糸繊度:6dtex以下である請求項1〜4のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
- 上記合成繊維糸は、製織前において、JIS L 10138.18.1(B法)の規定に準じて測定される沸水収縮率が、5〜15%である請求項1〜5のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
- 上記合成樹脂で含浸処理を施す前の通気度が、20kPaの圧力下で1.0L/cm2/分以下であり、
上記合成樹脂で含浸処理を施した後の通気度が、50kPaの圧力下で0.5L/cm2/分以下である請求項1〜6のいずれかに記載のエアバッグ用基布。 - 請求項1〜7のいずれかに記載のエアバッグ用基布を用いたものであることを特徴とするエアバッグ。
- 請求項8に記載のエアバッグを用いたものであることを特徴とするエアバッグ装置。
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