JP2004218092A - 吸湿性ポリエステル繊維織編物及びその製造方法 - Google Patents

吸湿性ポリエステル繊維織編物及びその製造方法 Download PDF

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忠人 小野寺
Seiji Ishida
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Abstract

【課題】ポリエステル短繊維系でインナー及びアウター用織編物やタオル、芯地、マット、シーツ等のインテリア、副資材、寝装用等に好適な織編物を提供する。
【解決手段】親水性化合物グラフト重合加工ポリエステル短繊維を含むリング紡績糸からなり、公定水分率が1.5%以上で、かつJIS L 1018 F−1法による寸法変化率が編物で−8%〜0%、織物で±3%以内であることを特徴とする吸湿性ポリエステル繊維織編物であり、さらに、前記リング紡績糸が、長さ1mm以上3mm未満の毛羽が10m当り1200個未満、長さ3mm以上5mm未満の毛羽が10m当り100個未満、長さ5mm以上の毛羽が10m当り15個未満の紡績糸であることを特徴とする前記の吸湿性ポリエステル繊維織編物の製造方法である。
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸湿性と抗ピル性とを併せ持ち、かつウォッシュアンドウエア性、イージーケア性に優れたポリエステル系短繊維織編物に関し、更にはグラフト重合加工繊維の欠点である物性低下、湿潤時の寸法不安定性、しわや低乾燥性、ヌメリ風合等を改善する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維に吸湿性を付与する手段としてグラフト重合加工はよく知られている(例えば、参考文献1)が、実用化のためには解決すべき欠点が認められる。即ち、グラフト重合加工ポリエステル繊維は染色品の物性低下、特に湿潤時の強力低下やしわ、寸法変化率が大きい、風合がヌルヌルする等の欠点を有する。これらの欠点を克服するため吸湿性を有する成分を芯部に配した2成分紡糸の提案が多数検討されているが、これらも洗濯時や吸水時の膨潤による繊維形態の不安定性や染色品位の悪化、低吸湿性、紡糸コスト等に問題があり、衣料用として実用化に至っているものは殆どないのが実状である。
【0003】
一方、抗ピル性ポリエステル繊維として有機スルホン酸塩基含有化合物やリン含有化合物等を共重合した共重合ポリエステル繊維が知られている(例えば、参考文献2、3など)。これらは繊維強度をレジンや紡糸、延伸工程で低下させ、更に染色仕上げ工程条件で繊維強度(結節強度)の低下を促進させ、生地表面の毛羽を脱落しやすくしたもので、編物以外にもウールやレーヨン混紡糸織物等に多く使用されている。しかし、このような共重合変性ポリエステル繊維、特に有機スルホン酸基含有共重合ポリエステル繊維においては、一般的な丸断面形状の繊維形態でさえも紡糸中に金属塩が析出し易く、紡糸性能が不良である。異型断面繊維の紡出は尚更に困難さを増す。かつ繊維強度が弱いため紡績性が劣る欠点を有する。
【0004】
更に染色加工時に一定の品質を保つために加工管理が煩雑である等の困難さを有する。このような共重合ポリエステル繊維の染色加工において、処理液をpH3〜4等の強酸性サイドで行なう場合は、処理中の液pHの変化、バッチ間差を最小に制御することは困難であり、制御が不十分であれば生地の脆化や変色を容易に招き、実用生地強力低下や品位低下につながり、著しく製品価値を損ねてしまう。また、抗ピル性を得るために高温で長時間染色時間を必要とする繊維構造の生地においてはコスト的に不利となる。また、このような共重合ポリエステル繊維で構成された生地は、染色加工品揚がりで糸、または生地の強力低下のため、再染色加工が不可能で、極めて不経済である。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−45181号公報(段落0005など)
【特許文献2】
特開平7−173718号公報(請求項1など)
【特許文献3】
特開平8−13274号公報(請求項1など)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリエステル短繊維系でインナー及びアウター用織編物やタオル、芯地、マット、シーツ等のインテリア、副資材、寝装用等に好適な織編物を提供することを主目的とするものであり、吸湿性を有する2成分複合紡糸繊維を用いることなく、ポリエステル単成分紡糸繊維でグラフト重合加工された繊維を用い、かつエア交絡紡績技術を用いて吸湿性と抗ピル性の両特性を具備するソフトなポリエステル短繊維織編物を得ることを目的とする。更にはグラフト重合加工繊維の欠点である物性低下、湿潤時の寸法不安定性、低乾燥性、ヌメリ風合等が改善された吸湿性と抗ピル性を併せ持ち、かつかつウォッシュアンドウエア性、イージーケア性に優れたポリエステル短繊維織編物を提供しようとするものである。
【0007】
【発明が解決するための手段】
すなわち、本発明は、以下の手段を採用することにより、上記の課題を解決したものである。
(1)親水性化合物グラフト重合加工ポリエステル短繊維を含むリング紡績糸からなり、公定水分率が1.5%以上、JIS L 1018 F−1法による寸法変化率が編物で−8%〜0%、織物で±3%以内であることを特徴とするポリエステル繊維織編物。
(2)抗ピリング性が3級以上であることを特徴とする第1記載のポリエステル短繊維織編物。
(3)親水性化合物グラフト重合加工ポリエステル短繊維を含むリング紡績糸であり、かつ長さ1mm以上3mm未満の毛羽が10m当り1200個未満、長さ3mm以上5mm未満の毛羽が10m当り100個未満、長さ5mm以上の毛羽が10m当り15個未満である紡績糸を用いて織編物とすることを特徴とする第1または2記載の吸湿性ポリエステル繊維織編物の製造方法。
(4)前記のポリエステル短繊維が少なくも繊度が1.3dtex以上で繊維円周上に存在する3個以上の突起部が繊維長さ方向に連続して存在し、その異型度が2.0以上であることを特徴とする第1〜3のいずれかに記載の吸湿性ポリエステル繊維織編物の製造方法。
(5)前記のポリエステル短繊維が繊度2.2dtex以上、中空率15%以上の中空ポリエステル短繊維であることを特徴とする第1〜4のいずれかに記載の吸湿性ポリエステル繊維織編物の製造方法。
【0008】
本発明は、ポリエステル短繊維織編物の抗ピル性とグラフト重合加工(以下、単にグラフト重合と表記することがある。)ポリエステル繊維の吸湿性を生かし、グラフト重合繊維の欠点である強力低下、特に湿潤時の強力低下や寸法安定、しわ、ヌメリ風合等を改善する。また、本発明は吸湿性と同時に抗ピル性を得ることも可能とするもので、従来から抗ピル性繊維として一般的な共重合変性ポリエステル繊維を用いることなく、紡績糸を構成する原綿と紡績方法を特定することで得られた紡績糸の毛羽数を少なくし、かつ毛羽を絡みにくくしてピリングを抑制し、抗ピル性を図るものである。以下、詳細を説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明でグラフト重合加工に用いられるポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレートなどのホモポリマーポリエステルが主体的に用いられるが、異色性や低温染色性を得るために有機スルホン酸塩基含有成分を共重合した共重合ポリエステルや高収縮性を得るためにイソフタル酸、ネオペンチルグリコールなどの第3成分を共重合した共重合変性ポリエステルなども用いることができる。これらの繊維は酸化チタンを0.3質量%から5.0質量%程度含有していてもよく、更にはカオリナイト、炭化ジルコニウム、各種顔料、竹や備長炭等の炭微粉末、トルマリン、抗菌消臭剤、制菌剤、防黴剤等が練り込まれていてもよい。
【0010】
本発明においてグラフト重合加工される前のポリエステル繊維の繊度は、目的に応じて0.5dtex程度の細繊度から5.0dtexまでの太繊度繊維を選択することができる。グラフト重合加工後の繊度は、グラフト率に応じ繊維径の増す分を考慮すればよい。0.5dtex未満の細繊度ではグラフト重合時の液通りが悪く、均一なグラフト率が得られにくい傾向があり、またグラフト重合繊維を紡績する際には繊維強度低下による風綿が多くなりやすい。また、5.0dtexを超えると、太番手の紡績糸しか得られなく、かつ風合が硬化するため好ましくない。
【0011】
本発明におけるポリエステル繊維の断面形状は、以下のような中空または高異型度にすることが好ましい。グラフト重合後の中空繊維の中空率は、15%以上、45%未満であることが好ましく、より好ましくは20%以上35%以下である。15%未満では繊維の剛性が弱く、45%以上では中空形態を保持することが困難となり、結果的に繊維の剛性、反発性を弱めてしまうからである。中空繊維では見掛けの繊維径を太くでき、丸断面中実繊維に比較し、剛性、反発性を高めることが可能となる。中空繊維断面における中空形状は丸、三角、四角、楕円等特に限定はなく、また繊維内の中空形状の個数は1個、または複数個を有してもよい。中空形状は繊維長さ方向に連続、または不連続であってもよく、加えて繊維内部と外部に貫通する微細孔があってもよい。中空形態は紡糸時に有してもよく、綿、糸、または織編物とした後、易溶解成分を除去して得る2成分複合構造繊維でもよい。
【0012】
本発明におけるポリエステル繊維の断面形状が異形の場合は、異型度(短径に対する長径の比)が2.0以上、3.2未満であることが好ましく、2.0未満及び3.2以上では繊度が太くても剛性が弱くなる。繊維断面形状はシャープな三角型、Y型、十字型、星型等、また一部に3個以上の突起部を有する矩形型、偏平型等があり、これらが更に中空部を有してもよい。特に繊維断面円周上に存在する3個以上の突起部が繊維長さ方向に連続して存在するものが好ましい。
【0013】
本発明において、特に繊度2.2dtex以上で中空率15%以上の中空ポリエステル繊維、または繊度が1.3dtex以上で繊維断面円周上に存在する3個以上の突起部が繊維長さ方向に連続して存在し、その異型度が2.0以上のグラフト重合ポリエステル短繊維が好ましい。これらの繊維は、曲げに対する剛性が比較的強く、毛羽絡みが少ない繊維であり、更に紡績糸内短繊維本数を減少させるのに寄与することができる。
【0014】
グラフト重合後の繊度は、中空繊維では2.5dtex以上、4.4dtex以下が好ましく、高異型度繊維では1.4dtex以上、4.0dtex以下が好ましい。中空繊維の場合、2.2dtex未満、また高異型度繊維では1.4dtex未満では、繊維の剛直性が不足し、本発明の特徴である紡績糸の毛羽同士の絡みを抑制する効果が少ない。これらの繊度以上では細番手が得られにくくなり、風合も硬化するため好ましくない。また、風合や工程通過性の点からは、1.0〜3.0dtexの範囲が好ましい。
【0015】
上記の断面形状を有する繊維は丸断面繊維より表面積が大きく、吸水速乾性に優れる。また、それよりなる織編物は細繊度紡績糸によるものより構造的に保水性が少ないため乾燥性に優れる。編物の場合、細繊度紡績糸は風合がソフトで、製品が型崩れし易いが、本発明によれば張り腰があり、製品のシルエットがきれいに保持できる特徴がある。
【0016】
本発明におけるポリエステル短繊維においては、適性なクリンプ数は8〜17ヶ/25mmであり、繊維カット長は32mmからバリカットまで可能であり、目的によって適宜選定される。一般的には好ましい範囲は紡績糸の毛羽数や毛羽絡み度合、風合、糸質面から長くない方が好ましく、32mmから51mmである。
【0017】
本発明においては、従来の共重合変性ポリエステルレジンを用いずに前述の繊度と断面形状のホモポリマーポリエステル繊維を紡糸、延伸、カットして短繊維とし、グラフト重合加工した繊維を用いることによる抗ピル性の発現が本発明の特徴であるが、高温染色が不可能なシルク、ウール、アクリル、プロミックスナイロン等を混紡する企画やポリエステル繊維の異色染め企画には本発明の繊度、断面形状の構成要素を満たす範囲の常圧可染(カチオン染料、分散染料)型のポリエステル短繊維と併用してもよい。吸湿性素材との組合せにより、抗ピル性と吸湿性、寸法安定性等が得られやすくなる。
【0018】
本発明において、ポリエステル繊維にグラフト重合される親水性化合物とは、親水性基ビニル系モノマーや加水分解、中和処理などの簡単な処理で容易に親水性を発現できるビニル系モノマーなどであり、分子構造内に重合性のビニル基を有し、カルボン酸、スルホン酸などの酸性基および/またはその塩、水酸基、エステル基、アミド基などの親水性基を有するモノマーである。
【0019】
具体的には、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸アルミニウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウムなどのアクリル酸塩類モノマー、アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アリルアルコール、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシメチレンのメタクリル酸エステルなどを用いることができる。これらは、1種単独で用いてもよく、または2種以上併用してもよい。
【0020】
グラフト重合加工は、これらのモノマーを用いて、ポリエステル繊維のわた及び糸に対して公知の方法によって実施することができる。
すなわち、親水性モノマーとパーオキサイド等の触媒や膨潤剤を含有する水系加工液を付与するか水系加工液中に浸漬するなどして熱処理する方法が採用でき、酸性基は、中和洗浄後、ナトリウムに代表されるアルカリ金属塩化処理などを行ない、吸湿性、吸水性を高めるものである。
【0021】
本発明におけるグラフト重合加工において、加工液中のモノマー濃度は、10質量%から40質量%の範囲が好ましく、グラフト重合率を2質量%以上、30質量%前後までとするのが好ましい。2質量%未満では吸湿率が得られにくく、30質量%以上では高吸湿率が得られるが、繊維強度低下や保水率が高くなり、湿潤時のしわ、寸法変化が大となり、また乾燥時間が長くなり、ポリエステルが本来有するウォッシュアンドウエア(W&W)性を喪失してしまうため好ましくない。
本発明においてはアルカリ金属塩化後の水分率(20℃、65%RH)が1.5%から15%程度の範囲に収まるような処理条件とするのが好ましい。
【0022】
グラフト重合加工したポリエステル繊維は、グラフト重合加工しないポリエステル繊維と混紡、混繊することが可能で、紡績糸として必要とする公定水分率は1.5%以上あればよく、未処理綿の混率によってグラフト重合率とその混率は調整可能であり、目的に応じて適宜設定すればよい。例えばグラフト重合繊維のみを使用し、寸法変化率を本発明の範囲内にするためには5%以下の水分率に設定すればよい。また、寸法変化率と同時にヌメリ風合を改善したい場合は、水分率が7%以上である高グラフト重合繊維と特にY型等の高異型度繊維等のグラフト重合しないポリエステル短繊維やフィラメントを80質量%未満を含む混紡、混繊糸とすることで改善可能である。
【0023】
本発明における織編物の公定水分率の上限は7%が好ましく、より好ましくは6%である。公定水分率が7%を超えると洗濯時の生地、または製品収縮が大きく、寸法安定性を悪化させ、しわ外観を呈することがあり、また、保水量が増した分乾燥時間が長くなり、ポリエステル本来のウォッシュアンドウエア性を損ねてしまう傾向がある。グラフト重合は1.5%以上の公定水分率を得るためには十分なグラフト重合時間が必要であり、工程的にまたは設備的に生地で行なうのは不利であり、原綿、または紡績糸の状態で施すのが好ましい。
【0024】
グラフト重合された綿を使用する場合は、グラフト重合ポリエステル綿100%またはグラフト重合されない綿とで混紡するか、または、これらの紡績糸とグラフト重合されていない紡績糸などとの合撚糸とすることが可能である。混紡はカード混繊、スライバー混繊、練篠工程、精紡工程等で実施できる。
【0025】
混紡する繊維はポリエステル以外の他の短繊維でもよいが、本発明では物性、W&W性、染色性の面からポリエステルが主体的に用いられる。その形態は丸断面、中空や高異型度繊維、極細繊維、カチオン可染や常圧可染繊維(カチオン染料、分散染料)、先染繊維、原着繊維等であってもよく、目的によって組合せることが可能である。
【0026】
紡績糸にグラフト重合を施し、そのまま使用することも可能であるが、更にグラフト重合糸と丸断面、中空や高異型度繊維、極細繊維、仮撚り加工糸、カチオン可染や常圧可染繊維、先染め繊維、原着繊維等のマルチフィラメントをエア混繊させて紡績糸表面をマルチフィラメントで覆う構造体として使用することも可能である。その際のグラフト重合繊維の混率は10質量%以上、75質量%以下であることが紡績糸の吸湿率や強力、風合、寸法安定性の面から好ましい。グラフト重合率が10質量%未満では吸湿率を得るためには高グラフト重合を施すことが必要であり、そのため繊維強度が著しく低下し、繰返し洗濯で繊維の脱落等を招くため好ましくない。
【0027】
次に、本発明における紡績糸は、リング紡績法を利用して製造するが、本発明においては、特に、2本の粗糸をドラフト後に撚糸ゾーンで引き揃えながら撚糸するサイロスパン方式や、粗糸をドラフトしながらその繊維に他の繊維を捲きつけるラップスピニング(トライスピン)方式による均斉性のよい精紡交撚糸方式とすることが好ましい。また、コンパクトヤーン等に見られるように精紡工程において、ドラフトゾーンを出て、撚糸ゾーンに進んだ直後の糸の表面毛羽をエアで糸の進行方向に吸引しながら繊維毛羽を糸に撚り込み、収束させる方式とすることが好ましい。この場合、通常のリング紡績糸工程でエア吸引する方式より2本の粗糸を用いるサイロスパン方式でエア吸引させる方式の採用がより好ましい。
【0028】
精紡交撚糸は2本の粗糸をドラフトゾーンで別々にドラフトした後、フロントローラから送り出された2本の繊維束を合流させてリング糸と同様に加撚し、1本の紡績糸として紡出する方法であり、撚りの極めて少ない状態で配列度の高い2本の繊維束が相互に巻きついて糸が形成されるため、繊維のマイグレーションが少なく、毛羽の少ないきれいな糸が得られる。
さらに、本発明においては、上記紡績方法とポリエステル短繊維の繊度と繊維形状を特定することによる相乗効果によって、より毛羽の少ない紡績糸を得ることができる。
【0029】
本発明における紡績糸おいては、精紡交撚糸工程で、本発明の繊度、形状を有するポリエステル短繊維にポリエステルやその他のフィラメント繊維を混合し、巻き取る方式を採用することができる。その際は紡績糸外観を損わないように、フィラメントの混率は60質量%未満とすることが好ましい。より好ましくは50質量%以下である。混紡するフィラメントはモノフィラメント、またはマルチフィラメントでもよく、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、セルロース系等の合繊、半合成繊維、再生繊維等であってもよい。またそれら繊維の繊度、断面形状も何ら制約されるものではなく、仮撚加工糸形態であってもよい。フィラメントの混率が60質量%以上では紡績糸様のナチュラルな毛羽外観や嵩性が消え、フィラメント様の光沢になり、また素材によっては寸法変化率を悪化させ、好ましくないからである。
【0030】
本発明における紡績糸は、毛羽長さ1mm以上3mm未満の毛羽を10m当り1200個未満であり、好ましくは900個未満である。同時に3mm以上5mm未満の毛羽数は100個未満、5mm以上の毛羽数は15未満である。1mm以上3mm未満の毛羽数が1200個以上では繊度と編組織等との組合せによって、特にダブルニット等においてはピリング性能が不良になる。しかし、繊度、断面形状が本発明の構成範囲内であれば、精紡交撚糸によらない通常のリング紡績糸でも天竺等のシングルニットやフィラメントとの交編生地においては3級以上の抗ピリング性能が得られる。ダブルニット等において3級以上の抗ピリング性を発揮するのは1mm以上3mm未満の毛羽数が800個未満である。3mm以上5mm未満の毛羽数は100未満であり、好ましくは80個未満である。5mm以上の毛羽数は15個未満であり、好ましくは10個未満である。
【0031】
本発明における 紡績糸の撚り係数は特に制約はないが、通常の2.8から5.0程度であり、好ましくは、3.0から4.5の範囲である。2.8未満では短繊維の収束性が悪化し、紡績糸強力が得られず、5.0以上では収束性が増し、毛羽脱落性が若干向上するが、嵩性が減少し、風合も硬化する傾向がある。また、紡績糸はビリ止めセットが施されていてもよい。紡績糸を構成する短繊維のカット長は通常の32mmから76mmのものが適用されるが、毛羽長及び毛羽絡み度合の少なさから51mm以下が好ましい。
【0032】
本発明における紡績糸は、本発明の繊度、形状を満たす範囲でグラフト重合ポリエステル単独で構成されていてもよく、グラフト重合されていないポリエステルとの混紡糸、混繊糸としてもよく、紡績糸の公定水分率が1.5%以上で織編物のそれが7%以下を満たせば良い。また、本発明における紡績糸はポリエステル短繊維とモノフィラメント、またはマルチフィラメントと精紡工程で混紡混繊されてもよく、またグラフト重合繊維を含む紡績糸とグラフト重合されないマルチフィラメントとがエア混繊されていてもよい。
【0033】
混紡混繊する繊維はポリエステル以外の短繊維でもよいが、本発明では物性、ウォッシュアンドウェア性、染色性の面からポリエステル繊維が主体的に用いられる。その形態は丸断面、中空や高異型度繊維、極細繊維、2成分複合紡糸潜在捲縮繊維、カチオン可染や常圧可染繊維、先染め繊維、原着繊維等であってもよく、目的によって種々組合せることが可能である。
【0034】
紡績糸形態でグラフト重合処理を実施した場合は、そのまま単独で使用することも可能であるが、更に該糸と丸断面、中空や高異型度繊維、極細繊維、仮撚り加工糸、カチオン可染や常圧可染繊維、先染め繊維、原着繊維等のマルチフィラメントをエア混繊させて紡績糸表面をマルチフィラメントで覆う構造体として使用することも可能である。その際のグラフト重合繊維の混率は10質量%以上75質量%以下であることが好ましい。グラフト重合繊維の混率が10質量%未満では混紡混繊糸で高吸湿率を得るためには高グラフト重合をする必要があり、そのため繊維強度が著しく低下し、繰返し洗濯で繊維の脱落等を招くからである。
【0035】
次いで織編物にする際、これら紡績糸は単独で用いることができるが、本発明の範囲内で他の繊維と交編織してもよい。本発明はスムース、天竺や綾、サテン等の通常の織編組織の他、鹿の子、ジャカード、パイル等の浮き組織の多い織編組織において効果を発揮する。
【0036】
これらの本発明の生地は、抗ピル性を得るためには、共重合変性ポリエステル繊維を用いた際に必要な特別な染色加工工程、例えばpH3〜4等の高酸性浴中で高圧長時間の処理条件を採用する必要はなく、またアルカリ減量条件下で処理する必要もなく、従来通りの、または交編織された相手素材の特性に合わせた加工条件を設定すればよい。通常のポリエステル繊維では120〜130℃で20〜40分の高圧染色が、カチオン可染型や常圧分散可染型変性ポリエステルであれば98〜120℃の常圧、または高圧染色が採用される。本発明においては紫外線吸収剤、シルクプロテイン、アミノ酸、キト酸処理、吸水・防汚、撥水、抗菌防臭、制菌加工等の後加工処理を施してもよい。本発明は毛羽の少ない紡績糸であり、従来のリング紡績糸のように布帛での毛焼き工程が不要であるが、織物においては染色後毛焼き、シャリング処理してもよく、また、毛焼き後、軽アルカリ処理して溶融玉を除去し、染色することで生地品位、抗ピル性、風合を補足的に改善してもよい。
【0037】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を説明する。
実施例、比較例ともにホモポリマーポリエステルレジン(ポリエチレンテレフタレート)を用い、通常の溶融温度で紡糸した後、延伸温度190℃、捲縮温度110℃の延伸・捲縮工程条件で製造した原綿を用いた。
【0038】
ポリエステル原綿へのグラフト重合は、グラフト重合率20%、公定水分率9%前後を目標に下記条件で実施した。オーバーマイヤーにて、ノイゲンHC1g/lで精練後湯洗し、メタアクリル酸100%品を28%omf、分散剤1.0%omf、膨潤剤1.0%omf、ソーダ灰0.8%omf、浴比1:10、100℃40分でグラフト重合処理を行った。その後、湯水洗し、ソーダ灰4.0%omf、トリポリリン酸ナトリウム0.15%omf、70℃にて中和処理を行なった。(omfは、繊維質量に対する質量%を意味する。)
【0039】
得られた原綿及びグラフト重合加工綿を用いて、さらには、ポリエステルマルチフィラメント仮撚り加工糸を用いて、表1に示す構成の、紡績糸揚がりで英式綿番手30番手の糸を得た。
得られた糸を用いて、22ゲージ、ループ長325mm、100Wのスムース組織の編物を得た。次いで該編物を開反し、ウェット処理後、乾燥し、180℃で40秒間の中間セットを施した。次いで70℃でソーダ灰12%omfとトリポリリン酸ナトリウム0.15%omfを3回に分割投入しながらナトリウム塩化処理を行ない、湯洗した。その後、脱水乾燥し、160℃、60秒間の仕上げセットを行ない、生成りのスムース編地を得た。
【0040】
紡績糸、生地は以下の条件で測定、評価した。
(1) 糸毛羽数:10m当りの毛羽長さ1mm以上3mm未満、3mm以上5mm未満及び5mm以上の毛羽個数を示す。 測定器は敷島紡績社製F−1インデックステスターを使用した。
(2)公定水分率 : JIS L 1095に準拠した。
(3)耐光堅牢度 : JIS L 0842 紫外線カーボンアーク灯光試験(第3露光法)に準拠した。
(4)寸法変化率 : JIS L 1018 F−1法(スクリーン乾燥)に準拠した。
(5)抗ピリング性 : JIS L 1076 A法(ICI型 5時間)に準拠した。
(6) 風合 : 5人のパネラーによる触感判定に拠った。
○:ソフトでドライ感に優れる、 ○△ :若干ヌメリ感がある、
×:ヌメリ感が強い、又は粗硬感が強い。
(7) 総合評価欄の○は良、○△やや良、 ×は不良を意味する。
紡績糸及び生地の測定、評価結果は、表1に示した。 なお、表中でカード・精紡交撚の表示は、カードで混綿して粗糸を得て、精紡交撚(サイロスパン方式)したことを意味する。
【0041】
実施例1は、グラフト重合原綿と未処理原綿をカード混綿して粗糸を得て精紡交撚したものであり、実施例2は実施例1と同じ粗糸とポリエステルマルチフィラメント仮撚り加工糸とをドラフトゾーンで引き揃えて施撚して精紡交撚したものである。実施例4は、該紡績糸に更にポリエステルマルチフィラメント仮撚り加工糸をエア圧4.0kg/cm、ヘバーライン社製ノズル(P133型)を用い、300m/分でエア混繊し、糸表面をフィラメントで被覆したものである。比較例1は、実施例1と同様の工程で、比較例2は、グラフト重合綿とフィラメント仮撚り加工糸を精紡交撚したもので、比較例3は、グラフト重合原綿100%を精紡交撚したものである。
【0042】
【表1】
Figure 2004218092
【0043】
比較例1は、実施例1、3と同様に太繊度であるが中実形状であり、剛性が弱いためピリングが不良になっているものと推察される。比較例3は、細繊度のため紡績糸の毛羽数が多く、かつ繊維の剛性が弱いため毛羽が絡み易く、ピリングが不良になっているものと考えられる。耐光堅牢度は、グラフト重合繊維単独使用である比較例3が4級以下であるのに対し、他の混紡、混繊タイプはいずれも4級以上を示している。更にグラフト重合繊維と未処理繊維の混紡、混繊タイプは寸法安定もよい結果になっている。比較例2は、性能は優れているが、フィラメント混率が多く、ナチュラルな外観に欠けるものであった。実施例1〜4は、いずれも毛羽数が少なく、抗ピリング性が良い。また、寸法変化率、耐光堅牢度もよく、ソフト風合、特に吸湿時においてもヌメリ風合がなく、自然な紡績糸外観を有するものであった。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、吸湿性を有する2成分複合紡糸繊維を用いることなく、グラフト重合加工されたポリエステル繊維を用い、吸湿性が高く、かつ従来のグラフト重合繊維の欠点であった湿潤時の寸法不安定性やヌメリ風合及び耐光堅牢度が改善でき、同時に抗ピル性に優れたポリエステル系短繊維織編物を得ることが可能である。また、特定断面形状のポリエステル繊維を用いることで硬さを改善できる。その結果、ポリエステルの特性を損うことなく十分な吸湿性と抗ピル性と寸法安定性を有するポリエステル短繊維織編物を得ることが可能であり、本発明は、ポリエステル短繊維の用途展開を制約していたインナー及びアウター用織編物の他、タオル、芯地、マット、シーツ等のインテリア、副資材、寝装用等に広範に活用できる。

Claims (5)

  1. 親水性化合物グラフト重合加工ポリエステル短繊維を含むリング紡績糸からなり、公定水分率が1.5%以上で、かつJIS L 1018 F−1法による寸法変化率が編物で−8%〜0%、織物で±3%以内であることを特徴とする吸湿性ポリエステル繊維織編物。
  2. 抗ピリング性が3級以上であることを特徴とする請求項1記載の吸湿性ポリエステル繊維織編物。
  3. 親水性化合物グラフト重合加工ポリエステル短繊維を含むリング紡績糸であり、かつ長さ1mm以上3mm未満の毛羽が10m当り1200個未満、長さ3mm以上5mm未満の毛羽が10m当り100個未満、長さ5mm以上の毛羽が10m当り15個未満である紡績糸を用いて織編物とすることを特徴とする請求項1または2記載の吸湿性ポリエステル繊維織編物の製造方法。
  4. 前記のポリエステル短繊維が少なくも繊度が1.3dtex以上で繊維円周上に存在する3個以上の突起部が繊維長さ方向に連続して存在し、その異型度が2.0以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吸湿性ポリエステル繊維織編物の製造方法。
  5. 前記のポリエステル短繊維が繊度2.2dtex以上、中空率15%以上の中空ポリエステル短繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吸湿性ポリエステル繊維織編物の製造方法。
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