JP2004210695A - 癌予防剤および食品 - Google Patents

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Abstract

【課題】マツタケ(Tricholoma matsutake)を利用して、癌、特にはアゾキシ化合物(例えばアゾキシメタンなど)に誘発される癌(大腸癌など)の発生を未然に防止する、癌予防剤および食品を提供する。
【解決手段】マツタケ(Tricholoma matsutake)、特にはマツタケFERM BP−7304株、の菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)のいずれかをそのまま、あるいはその乾燥物、あるいはそれらの抽出物(例えば熱水抽出液、アルカリ溶液抽出液)を含有する、癌予防剤および食品。
【選択図】 図4

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、動物やヒトにおける癌の発生を未然に防止するための癌予防剤および食品に関する。本発明の癌予防剤および食品は、医薬品として投与することができるだけでなく、種々の形態、例えば、保険機能食品(特定保険用食品、栄養機能食品)やいわゆる健康食品(いずれも飲料を含む)、または飼料として飲食物の形で与えることも可能である。さらには、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨き剤、洗口剤、チューインガム、うがい剤などの形で与えることも、あるいは鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。
【0002】
【従来の技術】
きのこ類は多用な生物活性を有することから、古くから日本人の健康に寄与してきた。現在では、きのこ由来の多糖類製剤が抗腫瘍性医薬品として用いられ、科学的エビデンスに基づいた臨床効果が明らかにされている。
【0003】
例えばマツタケ〔Tricholoma matsutake(S. Ito & Imai)Sing.〕については、特公昭57−1230号公報(特許文献1)に、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水または希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、およびエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示され、特許第2767521号明細書(特許文献2)には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。このようにマツタケについては、その抽出物に癌の治療効果(癌細胞増殖阻止、抗腫瘍活性)が認められることが報告されている。
【0004】
ところで癌の治療と予防とは全く異なる。きのこ類の発癌予防活性は、クレスチンやマイタケの抽出物等について報告されており、その効果発現には免疫調節や抗酸化作用などが複雑に関与していると考えられる。癌発生のメカニズムは未だ解明されていない部分が多く、そのため、発生した癌の治療手段についてのみならず、癌の発生を未然に防止する方策についても、各種研究・開発が盛んに行われている現状である。
【0005】
【特許文献1】
特公昭57−1230号公報
【特許文献2】
特許第2767521号明細書
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、癌発生のメカニズムを解明し、これに基づき、きのこ類を利用した癌予防剤および食品を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、癌予防剤および食品に関する。
【0008】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、上記癌予防剤および食品に関する。
【0009】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、上記癌予防剤および食品に関する。
【0010】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、上記癌予防剤および食品に関する。
【0011】
また本発明は、マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液またはアルカリ溶液抽出液である、上記癌予防剤および食品に関する。
【0012】
また本発明は、大腸癌予防のための、上記癌予防剤および食品に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の癌予防剤および食品に用いられるマツタケ〔Tricholoma matsutake(S. Ito & Imai)Sing.〕は、菌糸体、培養物(Broth)、子実体のいずれの形態のものも用いることができ、生でも乾燥したものでもよい。本発明では子実体は胞子も含むものとする。これら菌糸体、培養物(Broth)、子実体の各抽出物も用いることができる。
【0015】
本発明では特にマツタケFERM BP−7304株が好ましく用いられる。
【0016】
マツタケFERM BP−7304株は、本出願人によって新規菌株として従前に出願され(国際出願PCT/JP01/08876号明細書)、独立行政法人産業技術総合研究所((旧)工業技術院生命工学研究所)に平成12年9月14日に寄託されている。このマツタケFERM BP−7304株は、京都府亀岡市で採取したマツタケCM6271株から子実体組織を切り出し、試験管内で培養することにより菌糸体継代株を得たものであり、呉羽化学工業(株)生物医学研究所で維持している。
【0017】
マツタケFERM BP−7304株の子実体の形態は、「原色日本新菌類図鑑(1)」(今関六也・本郷次雄編、保育社、昭和32年発行)プレート(plate)9頁および26頁に記載のマツタケ子実体に合致するものであった。
【0018】
マツタケFERM BP−7304株の継代は、エビオス寒天斜面培地で実施することができる。マツタケFERM BP−7304株の菌糸体をエビオス寒天平板培地に接種すると、白色の菌糸が放射状に密に生育し、大きなコロニーを形成する。走査型電子顕微鏡で観察すると、太さ1〜2μmの枝状の菌糸体が無数に存在し、菌糸体側部に数μm程度の突起物が時々みられる。該菌株の菌糸体を大量培養する場合は、液体培地に接種し、静置培養、振盪培養、タンク培養等により行うことができる。
【0019】
なお、マツタケFERM BP−7304株は、もっぱら菌糸体の形状で継代維持または培養することが可能であるが、子実体の形状となることもある。
【0020】
マツタケFERM BP−7304株の菌学的性質は以下のとおりである。
【0021】
(1)麦芽エキス寒天培地における培養的・形態的性質
白色の菌糸が放射状に密に生育してコロニーを形成する。接種30日目のコロニー径は約4cmである。
【0022】
(2)ツアペック寒天培地、オートミール寒天培地、合成ムコール寒天培地、およびフェノールオキシダーゼ反応検定用培地における培養的・形態的性質
上記いずれの培地においても、接種後1ヶ月経過しても菌糸の発育はほとんどみられない。
【0023】
(3)YpSs寒天培地における培養的・形態的性質
白色の光沢を有し、マット状に生育する。接種30日目の生育距離は約5mmである。
【0024】
(4)グルコース・ドライイースト寒天培地における培養的・形態的性質
白色の光沢を有し、マット状に生育する。接種30日目の生育距離は約2mmである。
【0025】
(5)最適生育温度および生育範囲
滅菌処理した液体培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス、pH7.0)10mLの入った100mL容三角フラスコに、マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種し、5〜35℃の種々の温度でそれぞれ培養し、28日目にフラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定した。その結果、菌体質量は5〜15℃の範囲で直線的に増加し、15〜25℃の範囲で緩やかに増加した。27.5℃以上ではほとんど増殖しなかった。最適生育温度は15〜25℃である。
【0026】
(6)最適生育pHおよび生育範囲
液体培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス)のpHを1モル/L塩酸または1モル/L水酸化カリウムで調整し、pH3.0〜8.0の種々の培地を調製して菌体の生育pHを調べた。すなわち各培地をフィルター滅菌し、培地10mLを滅菌済100mL容三角フラスコに分注した。マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種後、22℃で培養し、フラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定した。その結果、菌体の生育限界はpH3.0〜7.0、最適生育pHは4.0〜6.0であった。
【0027】
(7)対峙培養による帯線形成の有無
エビオス寒天平板培地に、マツタケFERM BP−7304株のブロック(約3mm×3mm×3mm)と、公知の13種類のマツタケ株(例えば、IFO6915株;(財)発酵研究所)の各ブロック(約3mm×3mm×3mm)とを、約2cm間隔に対峙して植菌し、22℃で3週間培養した後、両コロニー境界部に帯線が生じるか否かを判定した。
【0028】
その結果、マツタケFERM BP−7304株は、公知のマツタケ株(13種類)のいずれの株に対しても明確な帯線を形成しなかった。なお、マツタケでは異株間対峙培養で帯線は生じないとされており、公知のマツタケ株(13種類)間についても、明確な帯線を形成した組み合わせはなかった。
【0029】
(8)栄養要求性
滅菌処理した菌根菌用合成培地(「太田培地」。Ohtaら、”Trans. Mycol. Soc. Jpn.”, 31, 323−334, 1990)10mLの入った100mL容三角フラスコに、マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種し、22℃で培養し、42日目にフラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定したところ、菌体441mgが得られた。
【0030】
上記菌根菌用合成培地中の炭素(C)源であるグルコースの代わりに、28種類の糖質関連物質のいずれか1つを加えた各培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。その結果、菌体質量が多かった糖質関連物質から菌体質量が少なかった糖質関連物質を順に示せば、以下のとおりである。
【0031】
小麦デンプン>トウモロコシデンプン>デキストリン>メチルβグルコシド>セロビオース>マンノース>フラクトース>アラビノース>ソルビトール>グルコース>ラクトース>グリコーゲン>マンニトール>リボース>マルトース>トレハロース>ガラクトース>ラフィノース>メリビオース>N−アセチルグルコサミン。
【0032】
なお、セルロース、ダルチトール、シュークロース、キシロース、メチルαグルコシド、イヌリン、イノシトール、およびソルボースでは、菌の発育はほとんどみられなかった。
【0033】
次に、上記菌根菌用合成培地中の窒素(N)源である酒石酸アンモニウムの代わりに、15種類の窒素関連物質のいずれか1つを加えた各培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。
【0034】
その結果、菌体質量が多かった窒素関連物質から菌体質量が少なかった窒素関連物質を順に示せば、以下のとおりである。
【0035】
コーンスティープリカー>大豆ペプトン>ミルクペプトン>硝酸アンモニウム>硫酸アンモニウム>酒石酸アンモニウム>炭酸アンモニウム>アスパラギン>リン酸アンモニウム>塩化アンモニウム>硝酸ナトリウム>肉エキス>酵母エキス>カザミノ酸>クロレラ>トリプトーン>硝酸カリウム。
【0036】
さらに、上記合成培地中のミネラルおよびビタミン類のうち、特定の1成分を除去した培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。
【0037】
その結果、塩化カルシウム・二水和物、硫酸マンガン(II)・五水和物、硫酸亜鉛・七水和物、硫酸コバルト・七水和物、硫酸銅・五水和物、硫酸ニッケル・六水和物、塩酸アミン、ニコチン酸、葉酸、ビオチン、塩酸ピリドキシン、塩化カーチニン、アデニン硫酸・二水和物、または塩酸コリンのいずれか1つを培地から除いても、菌体質量にほとんど影響がなかった。
【0038】
一方、硫酸マグネシウム・七水和物、塩化鉄(II)、またはリン酸二水素カリウムのいずれか1つを培地から除くと、菌体質量は顕著に減少した。すなわち、マグネシウム、鉄、リン、およびカリウムは、マツタケFERM BP−7304株の増殖に必須と考えられる。
【0039】
(9)DNA塩基組成(GC含量)
GC含量は49.9%である。
【0040】
(10)RAPD法により生成するDNAパターン
6種類の異なるPCR(Polymerase Chain Reaction)用プライマー(10mer)をそれぞれ単独で用いるRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法により生成するDNAパターンについて、マツタケFERM BP−7304株と、公知の44種類のマツタケ株(例えば、IFO 6915株;(財)発酵研究所)とを比較したところ、マツタケFERM BP−7304株は、公知のマツタケ株(44種類)のいずれとも異なるDNAパターンを示した。
【0041】
本発明の発癌予防剤および食品は、有効成分として、(i)マツタケFERM BP−7304株(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体)の生のものをそのまま、あるいはこれを乾燥粉末としたもの、(ii)マツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体の、熱水抽出液)、(iii)マツタケFERM BP−7304株のアルカリ溶液抽出液(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体の、アルカリ溶液抽出液)などを含む態様が好ましく例示されるが、これら例示に限定されるものではない。
【0042】
本発明では上記(i)の態様が好ましい。
【0043】
本発明の癌予防剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の菌糸体としては、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち培養菌糸体)と培地との混合物から適当な除去手段(例えば、濾過)により培地を除去しただけの状態で使用することもできるし、あるいは、培地を除去した後の菌糸体から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもでき、さらには前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0044】
本発明の癌予防剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の培養物(Broth)としては、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち培養菌糸体)と培地との混合物の状態で使用することもできるし、あるいは、前記混合物から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した培養物(Broth)乾燥物の状態で使用することもでき、さらには前記培養物(Broth)乾燥物を粉砕した培養物(Broth)乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0045】
上記培養工程は、特に限定されるものでなく、一般にマツタケ菌を培養する方法を任意に用いることができるが、例えば、マツタケFERM BP−7304株(「マツタケ菌I」)を固形培地または液体培地で培養または保存してマツタケ菌IIを得る工程、前記マツタケ菌IIを静置液体培養してマツタケ菌IIIを得る工程、前記マツタケ菌IIIを振盪培養してマツタケ菌IVを得る工程、前記マツタケ菌IVを100L未満の小型培養装置を用いて、培養液中に通気を行わない攪拌培養してマツタケ菌Vを得る工程、前記マツタケ菌Vを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部攪拌培養してマツタケ菌VIを得る工程、前記マツタケ菌VIIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部攪拌培養してマツタケ菌VIIを得る工程、および前記マツタケ菌VIIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養してマツタケ菌VIIIを得る工程、からなる培養方法(特願2002−311840号明細書)が、マツタケ菌の生理活性を損うことなく大量生産できるという点から好適に用いられる。
【0046】
〈マツタケ菌Iを培養または保存してマツタケ菌IIを得る工程〉
用いる培地としては、一般にマツタケ菌を培養する栄養源基質を有する培地であれば特に制限なく使用することができる。例えば、太田培地(Ohtaら、”Trans. Mycol. Soc. Jpn.”, 31, 323−334, 1990)、MMN培地(Marx, D. H., ”Phytopathology”, 59:153−163, 1969)、浜田培地(浜田、”マツタケ”, 97−100, 1964)等が挙げられるが、これら例示に限定されるものでない。
【0047】
固形培地用の固形化剤としては、カラギーナン、マンナン、ペクチン、寒天、カードラン、デンプン、アルギン酸等が好適例として挙げられる。これらのうち寒天が好ましい。
【0048】
使用可能な培地の栄養源基質には、炭素源、窒素源、無機元素源などが挙げられる。
【0049】
上記炭素源としては、米デンプン、小麦粉デンプン、バレイショデンプン、サツマイモデンプン等のデンプン類;デキストリン、アミロペクシン等の多糖類;マルトース、シュクロース等の少糖類;フラクトース、グルコース等の単糖類などが挙げられる。さらに麦芽エキスを挙げることができる。マツタケ菌の生長速度から、グルコースなどの単糖類が好ましい時期と、デンプン類が好ましい時期とがあるので、時期に応じた炭素源を選択し、必要に応じて組合せて使用する。
【0050】
上記窒素源としては、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティーブリカー、大豆粉、大豆ペプトンなどの天然由来物質や、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素などが挙げられる。これらは単独で、あるいは組合せて用いることができる。一般に生長速度を考慮すると、天然由来物質、特に酵母エキスが好ましい。
【0051】
上記無機元素源は、リン酸および微量元素を供給するために使用される。例を挙げると、リン酸塩のほか、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、銅、鉄などの金属イオンの無機塩(例えば、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、等)があり、必要量を培地中に溶解する。
【0052】
また、培地にビタミンBなどのビタミン類、アミノ酸類を添加することもできる。
【0053】
さらに、使用するマツタケ菌の性質に応じて、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質などを添加することができる。植物抽出物としては、果菜類、根菜類、葉菜類などの抽出物が例示される。有機酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸などが例示される。核酸関連物質としては、市販の核酸、核酸抽出物、酵母、酵母エキスなどが例示される。
【0054】
固形培地を調製する場合、炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは10〜50g/L、特に好ましくは20〜30g/Lである。
【0055】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0056】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lである。さらに他の無機塩、ビタミン類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。また、調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.0、特に好ましくは5.0〜5.5とする。
【0057】
〈静置液体培養〉
次に、マツタケ菌II(固形培地または液体培地で培養または保存したマツタケ菌)を静置液体培養してマツタケ菌IIIを製造する方法について記載する。
通常、100mL〜2L容の三角フラスコを用いて行う。
【0058】
この静置液体培養は、液体培地にマツタケ菌IIを接種することにより開始する。
【0059】
接種したマツタケ菌IIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌IIを含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍となる量の液体培地を使用する。
【0060】
接種したマツタケ菌IIを含有する培養液中のマツタケ菌IIの乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌IIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.05〜3g/L、より好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌IIを含有する培養液を接種する。
【0061】
該静置液体培養での培養温度は15〜30℃が好ましく、より好ましくは20〜25℃であり、培養期間は30〜400日間が好ましく、より好ましくは120〜240日間である。培養期間が30日未満、あるいは400日超では、大量培養に適した生育能を有するマツタケ菌IIIを得ることが困難となる。
【0062】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)を初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加率」)が、2〜25倍となるように培養することが、生育能の点から好ましい。
【0063】
静置液体培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
【0064】
静置液体培養に用いる栄養源基質として、マツタケ菌Iを培養する固形培地と同じ炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンBなどのビタミン類、アミノ酸類等を使用することができる。
【0065】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。通常、グルコース等の単糖類を使用する。
【0066】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0067】
リン酸塩を使用する場合は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lになるようにする。
【0068】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。
【0069】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0070】
マツタケ菌IIIを含有する静置液体培養による培養液の一部若しくは全部を、マツタケ菌IIを含有する培養液(若しくは培養物)と同様に静置液体培養の接種源として、再度、静置液体培養工程で使用することもできる。
【0071】
〈振盪培養〉
次いで、マツタケ菌IIIを振盪培養して、マツタケ菌IVを製造する方法について記載する。
【0072】
通常、300mL〜5L容の三角フラスコを用いて行う。
【0073】
この振盪培養は、液体培地にマツタケ菌IIIを接種することにより開始する。
【0074】
接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が、好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、特に好ましくは5〜10倍となる量の液体培地を使用する。
【0075】
なお、接種時拡大倍率に見合う培養液の量を確保するために、静置液体培養を複数の培養装置を用いて製造することもできる。
【0076】
接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液中のマツタケ菌IIIの乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.05〜3g/L、より好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌IIIを含有する培養液を接種する。
【0077】
振盪培養では、培養温度は15〜30℃が好ましく、より好ましくは20〜25℃であり、培養期間は7〜50日間が好ましく、より好ましくは14〜28日間である。
【0078】
振盪培養に要する動力として、通常、三角フラスコ内の培養液単位体積あたりの攪拌所要動力0.05〜0.4kW/mを用いる。
【0079】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加倍率」)が2〜25倍となるように培養することが、生育能の点で好ましい。
【0080】
振盪培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
【0081】
振盪培養に用いられる栄養源基質として、マツタケ菌IIを培養する液体培地と同じ炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンBなどのビタミン類、アミノ酸類を使用することができる。
【0082】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。通常、グルコース等の単糖類を使用する。
【0083】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0084】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lになるようにする。
【0085】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。
【0086】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0087】
〈攪拌培養〉
次に、攪拌培養により、マツタケ菌V、マツタケ菌VI、マツタケ菌VII、マツタケ菌VIIIを製造する方法について記載する。
【0088】
この攪拌培養は、液体培地にマツタケ菌(IV〜VII)を接種することにより開始する。
【0089】
攪拌培養で用いる液体培地は、次のようにして調製することができる。
【0090】
栄養源基質は、振盪培養で使用する、炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンBなどのビタミン類、アミノ酸類と同じものを使用することができる。
【0091】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。デンプン類を好ましく使用できる。
【0092】
攪拌を行う培養液中の浸透圧に影響するグルコースなどの単糖類を併用する場合、その使用量は、好ましくは0.1〜60g/L、より好ましくは0.5〜40g/L、特に好ましくは0.7〜20g/Lである。
【0093】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが唖好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0094】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0095】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜、添加することができる。
【0096】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0097】
攪拌培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
【0098】
攪拌培養の培養温度は、15〜30℃、好ましくは20〜25℃とする。
【0099】
接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が、好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、特に好ましくは5〜10倍となる量の液体培地を使用する。
【0100】
接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液中のマツタケ菌(IV〜VII)の乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.01〜5g/L、より好ましくは0.05〜3g/L、特に好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液を接種する。
【0101】
攪拌培養で得られるマツタケ菌(V〜VII)を、さらに攪拌培養の母菌として用いる場合の培養日数は、3〜20日間が好ましく、特には5〜14日間である。
【0102】
これらの培養日数後に、マツタケ菌(V〜VII)の乾燥菌糸体含有量が、好ましくは0.5〜10g/L、より好ましくは1〜8g/L、特に好ましくは1〜6g/Lになっている培養液は、攪拌培養に適した生育能を有するマツタケ菌(V〜VII)を含有している。
【0103】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加率」)が2〜25倍となるように培養することが、生育能の点で好ましい。
【0104】
他方、攪拌培養で得られるマツタケ菌(V〜VIII)を、マツタケ菌糸体として分離する場合の培養日数は5〜30日間であり、好ましくは7〜20日間、特に好ましくは10〜15日間である。
【0105】
これらの培養日数から、炭素源の資化速度が著しく低下した時を培養終了とするのが好ましいが、適宜、製造サイクル、製造コスト等の製造形態に合せて決定することができる。
【0106】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加倍率」)が35〜100倍となるように培養することが、工業的な生産の点で好ましい。
【0107】
マツタケ菌IVを含有する振盪培養で製造した培養液を、100L以上の中型、および大型培養槽などの培養装置による攪拌培養工程で使用することもできる。
【0108】
攪拌培養に使用する培養装置は、通気攪拌ができ、無菌性が確保できれば特に制限なく使用することが可能で、必要に応じて通気することができ、または通気装置を装着できるものを使用する。したがって、通常の、小型、中型および大型の培養槽、またはジャーファーメンターを使用することができる。
【0109】
100L未満のジャーファーメンターまたは小型培養槽を用いて、マツタケ菌IVの培養を行いマツタケ菌Vを製造する場合、液体培地中に通気せずに、攪拌培養を行うのが好ましい。100L未満のジャーファーメンターまたは小型培養槽で通気を行って培養すると、菌糸が凝集し、成長点が欠失して母菌としての生育能が損われる場合があるからである。
【0110】
また、100L以上の中型、および大型培養槽などの培養装置により工業スケールで深部攪拌培養を行う場合、必要に応じて通気を行う。この場合の通気量は0.05〜1.0vvm、特には0.2〜0.5vvmとするのが好ましい。
【0111】
攪拌培養における攪拌は、培養初期では培養液単位体積あたりの所要攪拌動力で制御する。通常、0.01〜2kW/m、好ましくは0.05〜1kW/mの範囲で攪拌を行うことにより、マツタケ菌糸体が良好に生育する。培養初期を過ぎれば菌が生育を始め、酸素供給量が不足し、さらに、生育した菌糸体の分散が不十分になるので、適宜、攪拌の強度を大きくすることが必要になる。当該深部攪拌では、培養初期には低通気、低撹拌速度で培養し、培養後期には高通気、高攪拌速度で培養するのが好ましい。
【0112】
深部攪拌培養から得られたマツタケ菌糸体の分離・回収は、常法によって行うことができる。例えば、フィルタープレスなどによる濾過、遠心分離などである。
【0113】
得られた菌糸体は、例えば蒸留水により充分に洗浄してから、次の熱水抽出工程を実施するのが好ましい。また抽出効率が向上するように、破砕物または粉体の状態に加工するのが好ましい。
【0114】
本発明の癌予防剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の子実体としては、例えば、子実体をそのままで、または子実体を破砕した状態で使用することもできるし、あるいは、子実体から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した子実体乾燥物の状態で使用することもでき、さらには、前記子実体乾燥物を粉砕した子実体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0115】
本発明の癌予防剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液は、例えば培養により得られるマツタケFERM BP−7304株の菌糸体(すなわち培養菌糸体)、培養物(Broth)、または子実体を熱水で抽出することにより得ることができる。
【0116】
熱水抽出に用いる熱水の温度は、マツタケFERM BP−7304株に含有される癌予防作用を示す成分が、熱水抽出液中に充分に抽出される温度である限り特に限定されるものではないが、60〜100℃程度が好ましく、80〜98℃程度がより好ましい。
【0117】
菌糸体または子実体を熱水抽出に用いる場合には、抽出効率が向上するように、破砕物または粉体の状態に加工することが好ましい。
【0118】
また抽出の際には、抽出効率が向上するように、攪拌または振盪しながら実施するのが好ましい。抽出時間は、例えば、菌糸体の状態(例えば、破砕物または粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、熱水の温度、または攪拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常1〜6時間程度であり、2〜3時間程度が好ましい。
【0119】
得られた熱水抽出液は、不要物が混在する状態で、そのまま、本発明の癌予防剤の有効成分として用いることもできるし、あるいは不溶物を除去してから、さらにはそこから抽出液中の低分子画分(好ましくは分子量3500以下の画分)を除去してから、本発明の癌予防剤の有効成分として用いることもできる。
【0120】
本発明の癌予防剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株のアルカリ抽出液は、例えば、上述したマツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液の製造方法において、熱水の代わりにアルカリ溶液を用いること以外は、上記熱水抽出液の製造方法に準じた方法により得ることができる。
【0121】
アルカリ溶液抽出に用いるアルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。アルカリ溶液のpHは8〜13が好ましく、9〜12がより好ましい。アルカリ溶液抽出は0〜30℃程度で実施するのが好ましく、0〜25℃程度がより好ましい。抽出時間は、例えば、菌糸体残渣の状態(例えば、破砕物または粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、アルカリ溶液のpH若しくは温度、または攪拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常30分間〜5時間程度であり、1〜3時間程度が好ましい。得られたアルカリ溶液抽出液は、そのまま、あるいは所望により中和処理を実施してから、本発明の癌予防剤および食品に用いる。
【0122】
本発明の癌予防剤および食品は、有効成分であるマツタケ、特にはマツタケFERM BP−7304株、あるいはその抽出物を、単独で、あるいは所望により薬剤学的に許容し得る担体とともに、ヒトや動物に投与することができる。
【0123】
本発明において癌予防とは、動物やヒトなどにおいて、癌の発生を未然に防止することを意味するが、いわゆる前癌症状といわれるような症状において、前癌状態が癌化することを遅延・抑制する効果も含む。したがって、本発明の癌予防剤および食品の投与・摂取時期は、特に限定されるものではないが、日常的に継続投与・摂取するのが好ましい。
【0124】
本発明における癌予防効果は、癌の種類を問うものではなく、大腸癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、食道・胃癌、肝癌など、種々の癌に対して奏効し得るが、特には大腸癌の発生を未然に防止する効果に優れる。
【0125】
本発明の癌予防剤および食品の投与・摂取剤型としては特に限定されるものでなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、または注射剤、外用液剤、軟膏剤、座剤、局所投与のクリーム、点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0126】
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、または合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、または酸化防止剤等を用いて、常法により製造することができる。
【0127】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内など)または直腸投与等が例示される。なかでも注射剤が最も好適に用いられる。
【0128】
例えば、注射剤の調製においては、有効成分の他に生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、または乳化剤などを任意に用いることができる。
【0129】
また、本発明の癌予防剤および食品は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の癌予防剤および食品をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療または予防すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0130】
本発明の癌予防剤および食品は、これに限定されるものではないが、マツタケFERM BP−7304株あるいはその抽出物等の有効成分を0.01〜99質量%、好ましくは0.1〜80質量%の量で含有することができる。
【0131】
本発明の癌予防剤および食品を用いる場合の投与・摂取量は、被投与者の年齢、性別、体重、または投与・摂取方法などに応じて適宜決定することができ、経口的にまた非経口的に投与・摂取することが可能である。
【0132】
また、投与・摂取形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、保険機能食品(特定保険用食品、栄養機能食品)やいわゆる健康食品(いずれも飲料を含む)、または飼料として飲食物の形で与えることも可能である。さらには、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨き剤、洗口剤、チューインガム、うがい剤などの形で与えることも、あるいは鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。例えば、マツタケFERM BP−7304株あるいはその抽出物等の有効成分を、添加剤(食品添加剤など)として、所望の食品(飲料を含む)、飼料、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、またはうがい剤等に添加することができる。
【0133】
なお、上記において、特定保険用食品は、その食品が持つ健康機能の表示が認められる食品(食品ごとに厚生労働省の許可を必要とする)をいい、栄養機能食品は栄養成分の機能を明記できる食品(厚生労働省が作成した規格基準を満たす必要あり)をいい、いわゆる健康食品とは上記保険機能食品以外の食品一般を広く意味するもので、健康補助食品等を含むものである。
【0134】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲をこれらの実施例によってなんら限定されるものでない。
【0135】
(実施例1)
[マツタケFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥物粉末(以下「CM6271」とも記す)の調製]
マツタケFERM BP−7304株菌糸体を、滅菌処理した培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス、pH6.0)3.5tの入った7t容培養タンクに接種し、25℃で攪拌しながら4週間培養を行った。得られた培養物を濾布濾過し、菌糸体を分離した後、蒸留水で充分に洗浄した。
【0136】
得られた菌糸体の一部(約1kg)を−60℃に凍結した後、凍結乾燥機(MINIFAST MOD. DO. 5;Edwards社)を用いて凍結乾燥することにより、乾燥菌糸体110gを得た。
【0137】
得られた菌糸体を、ホモブレンダー(Wonder Blender社)を用いて粉砕することにより、乾燥物粉末(CM6271)100gを得た。
【0138】
(実施例2)
[アゾキシメタン(AOM)誘発ラット大腸前癌病変の抑制]
【0139】
(i)対象動物
6週齢の雄性F344ラットを日本SLC社から入手した。マウスは感染実験動物室のセーフティクリーンラック内、ポリカーボネート製ケージ内に収容し、飼料CE−2(オリエンタル酵母社)と滅菌水道水を自由に与え、温度23±2℃と湿度55±10%、ルミナリ気流(luminary air flow)環境下、午前8時〜午後8時までの光サイクルで飼育した。このマウスを検疫、検収の終了後、1週間の予備飼育を行った(7週齢)。飼育環境を一定に保つため、飼育担当者と実験者のみが飼育室に入室した。
【0140】
(ii)試薬
発癌性物質として知られているアゾキシメタン(AOM)を用いた。呈色試薬としてメチレンブルーを用いた。ともにSigma Chem. Co.(米国)から入手した。
【0141】
(iii)CM6271添加飼料の調製
飼料CE−2粉末に、実施例1で得たCM6271(マツタケFERM BP−7304株菌糸体の乾燥粉末)を、0.125%、0.5%、または2.0%の割合で添加した、添加飼料を用時調製した。
【0142】
(iv)実験群構成と処置
7週齢F344雄性ラットを無作為に下記4群(n=10)に分けた。
▲1▼通常の飼料(CE−2粉末のみ)を摂取するコントロール群
▲2▼0.125%CM6271添加飼料摂取群
▲3▼0.5%CM6271添加飼料摂取群
▲4▼2.0%CM6271添加飼料摂取群
【0143】
実験開始1週後から、AOM15mg/kgを毎週1回、計3回皮下注射した。実験期間中、体重と摂取量を毎週測定した。
【0144】
(v)前癌病変の測定
AOM処理開始7週後にラットをと殺し、大腸を取出した。これを生理食塩水にてよく洗浄した後、解剖はさみを用いて肛門から盲腸までを縦に切り開き、粘膜部が上になるようゴム製板に固定して、10%ホルマリン−PBS溶液中に24時間浸漬した。次いで、これを流水中に30分間以上おいてホルマリンを除いた後、0.2%メチレンブルー溶液に10分間浸漬し染色した。染色後、流水中にて付着色素を除いた後、実体顕微鏡を用いてaberrant crypt foci(ACF)およびaberrant crypt(AC)数を測定した。ACFの同定および計数はバード(Bird)の方法(Bird RP: Observation and quantification of aberrant crypt foci in the murine colon treated with a colon carcinogen: preliminary findings, ”Cancer Letters”, 37: 147−151, 1987)に準じた。
【0145】
(vi)血清学検査および臓器重量測定
実験終了後、採血して血液検査を行うとともに、肝重量を測定した。
【0146】
(vii)統計処理
スチューデント・ティー・テスト(Student t−test)により有意差検定を行い、p<0.05以下を有意と判定した。
【0147】
(viii)結果と考察
【0148】
(a)体重および摂餌量の変動結果
体重および摂餌量の経時的変化を、それぞれ図1および図2に示す。図1、2中、○印はコントロール群を、●印は0.125%CM6271添加飼料群を、△印は0.5%CM6271添加飼料群を、▲印は2.05%CM6271添加飼料群を、それぞれ示す。また図1、2中、上向き白抜矢印(実験開始1週目、2週目、3週目)はAOMを注射した時期を示す。
【0149】
図1から明らかなように、8週間の実験期間中、体重は4群とも順調に増加し、CM6271による影響はほとんどなかった。また図2から明らかなように、摂餌量もCM6271添加による影響はほとんど認められなかった。
【0150】
(b)CM6271添加飼料摂取による前癌病変の抑制
CM6271添加飼料摂取による前癌病変度を示すグラフを図3に示す。
【0151】
〈ACF数〉
図3に示すように、コントロール群のACF数が115±28であるのに対し、CM6271の0.125%添加飼料群、0.5%添加飼料群、2.0%添加飼料群のそれは、それぞれ99±17、89±18、58±11であり、CM6271は用量依存的にACF数を抑制した。さらに、コントロール群と2.0%添加飼料群との間に有意差を認めた。
【0152】
〈AC数〉
また、コントロール群のAC数が219±32であるの対し、CM6271の0.125%添加飼料群、0.5%添加飼料群、2.0%添加飼料群のそれは、それぞれ196±23、178±38、128±29であり、CM6271は用量依存的にAC数を抑制した。さらに、コントロール群と2.0%添加飼料群との間に有意差を認めた。
【0153】
(c)CM6271添加飼料摂取によるフォーカス(focus)あたりのAC数に及ぼす影響
次に、フォーカス(focus)あたりのAC数に及ぼすCM6271投与の影響を検討した。結果を図4に示す。同図に示すように、2.0%CM6271添加飼料群では、コントロール群に比し、AC数が1〜2の病変において、抑制効果が顕著であったことから、CM6271は発癌の比較的早期に作用すると考えられる。
【0154】
(d)剖検時の臓器重量および血液学的所見
剖検時の肝重量および肝重量/体重を表1に示す。いずれの群においても、肝重量および肝重量/体重は4群ともほとんど同じレベルにあり、CM6271の影響はほとんどなかった。
【0155】
また表2に示すように、血液学的所見もCM6271による影響はほとんど認められなかった。
【0156】
【表1】
Figure 2004210695
【0157】
【表2】
Figure 2004210695
【0158】
表2中、各欄の単位は、白血球:×10/mm、赤血球:×10/mm、HHCB:g/dl、HCT:%、MCV:μ、MCH:pg、MCHC:%、PLT:×10/mmである。
【0159】
以上の結果から、マツタケFERM BP−7304株によるAOM誘発大腸前癌病変の抑制効果が示唆された。
【0160】
キノコ類の発癌予防活性は、クレスチンやマイタケ等について報告されているが、その効果発現には免疫調節や抗酸化作用などが複雑に関与していると考えられる。本研究におけるAOM誘発大腸前癌病変の抑制メカニズムとして、マツタケFERM BP−7304株が大腸におけるAOM代謝に影響を及ぼし、発癌性代謝物質の生成を抑制している可能性が考えられる。
【0161】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の癌予防剤および食品は、癌の発生、なかでもアゾキシメタンにより誘発されると考えられている癌の発生、特には大腸癌の発生、を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例でのアゾキシメタン処置による体重の経時変化を示すグラフである。
【図2】実施例でのアゾキシメタン処置による摂餌量の経時変化を示すグラフである。
【図3】実施例でのマツタケFERM BP−7304株菌糸体乾燥物粉末(CM6271)添加飼料摂取による前癌病変度を示すグラフである。
【図4】実施例でのマツタケFERM BP−7304株菌糸体乾燥物粉末(CM6271)添加飼料摂取による前癌病変度を示すグラフである。

Claims (12)

  1. マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、癌予防剤。
  2. マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、請求項1記載の癌予防剤。
  3. マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、請求項1または2記載の癌予防剤。
  4. マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の癌予防剤。
  5. マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液またはアルカリ溶液抽出液、である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の癌予防剤。
  6. 大腸癌予防剤である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の癌予防剤。
  7. マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、癌予防のための食品。
  8. マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、請求項7記載の食品。
  9. マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、請求項7または8記載の食品。
  10. マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、請求項7〜0のいずれか1項に記載の食品。
  11. マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液またはアルカリ溶液抽出液、である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の食品。
  12. 大腸癌予防のための食品である、請求項7〜11のいずれか1項に記載の食品。
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