JP2973053B2 - 魚類用餌料性疾患治療・予防剤 - Google Patents

魚類用餌料性疾患治療・予防剤

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JP2973053B2
JP2973053B2 JP4075538A JP7553892A JP2973053B2 JP 2973053 B2 JP2973053 B2 JP 2973053B2 JP 4075538 A JP4075538 A JP 4075538A JP 7553892 A JP7553892 A JP 7553892A JP 2973053 B2 JP2973053 B2 JP 2973053B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、有機化セレンを有効成
分とする魚類用餌料性疾患治療・予防剤に関する。
【0002】
【従来の技術】魚類は一般に肉食性の傾向が強く、高蛋
白飼料を要求する。また、魚類は一般的に多不飽和脂肪
酸を必須脂肪酸としている(魚類の栄養と飼料:恒星社
厚生閣1980年 181項)。従来、蛋白質や多不飽
和脂肪酸等の必須成分、およびエネルギ−を補うため
に、魚類用餌料として生餌、魚粉や、多不飽和脂肪酸を
主成分とする魚油等の添加が一般的に行われてきた。一
般に生餌としては、現在イワシ等を主に利用している
が、それらの魚類は大量に捕獲できる時期に捕獲し、使
用までの長い期間冷凍保存されており、保存期間が長期
に及ぶことと、冷凍費とのかね合から冷蔵温度も比較的
高い状態にあり、多くの場合生餌は変敗度合いが高くな
っている現状にある。また、魚粉の場合も同様であり、
生鮮魚に比べ蛋白質を変性させた魚粉は変敗が進行し易
い。特に、酸化促進作用を有する鉄分を含むヘム色素が
多く含まれている血合肉は、普通肉より変敗し易く、し
たがって、赤身の魚を原料とする沿岸ミ−ルは安価では
あるが、変敗度合いが高くなっている。また、多不飽和
脂肪酸が変敗し易いのは極めてよく知られた事実であ
る。また、コイの飼料であるサナギも変敗し易いと言わ
れている。
【0003】これらの餌料を給与される魚類において
は、陸上動物には通常認められない種々の餌料性疾病、
即ち、成長停止、斃死率の増加、肝臓の脂肪変性、背こ
け病などを引き起こすことが報告されている(油脂研究
会抄録Bシリ−ズ No141981年)。魚類のこれ
ら餌料性疾病に関し、従来あまり検討されていないが、
わずかにブリの餌料性肝臓障害の改善薬としてグルタチ
オンが承認許可されている。しかしながらグルタチオン
は、その作用機序も良くわかっていないとともに、高価
なものであって利用し難いものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記魚類用餌料性疾患
に治療・予防効果のある、安価な治療・予防剤および魚
類用餌料の開発が求められていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】セレンは、原子番号3
4、原子量79の元素であり、その無機化合物は毒性が
強く、以前は単に生体に有害なものであるとみられてい
たが、哺乳動物においては生理的な役割があることが知
られている。一方、セレンの魚類に対する生理的役割の
研究は全くされておらず、その必要性に関しても殆ど報
告はないが、コイにおいて亜セレン酸ナトリウム、セレ
ン酸ナトリウムや二酸化セレン等の無機のセレンを飼料
に添加すると飼料効率がわずかに改善されたという報告
があるにすぎない(特公昭61−146155号)。無
機セレンは日本国内では安全性の面から無機セレンを飼
料、食品等へ添加することは許可されいない状況下にあ
って、この報告は鑑賞用のコイ以外に適用が困難であ
り、特に食肉用の養魚においては無意味である。そもそ
も、魚類は陸上の哺乳動物とは異なり、餌料中の無機質
の外に環境水中に溶存する無機塩類を鰓、皮膚、腸管を
通して直接体内に吸収している。事実、清浄海水中には
亜セレン酸イオンの形態でセレンとして0.2ppb含
まれており、また清浄環境で生育した魚類52種の筋肉
中のセレン含量は湿重量で平均1ppm弱であるという
報告(水産学シリ−ズ(47) 魚類の物質代謝 11
8〜119項 昭和58年10月15日発行 恒星社厚
生閣)もある。このようなことから魚類においてセレン
が仮に必要であるとしても、その摂取不足はあり得ない
ものと考えられており、敢えてセレンの検討をする必要
性もない状況であった。
【0006】このような状況のもと、本発明者らは、前
述の魚類の餌料性疾患の治療や予防に効果のある、安価
な魚類用餌料の開発を目指し、鋭意研究した結果、有機
化セレン含有菌体をそれら魚類に給与することにより、
餌料性疾患の治療・予防が可能であるという新規な事実
を確認して、本発明を完成するに至った。即ち、本発明
は、有機化セレンを有効成分とする魚類用餌料性疾患治
療・予防剤である。
【0007】本発明で有機化セレンとは、セレノメチオ
ニン等の有機化セレンが例示されるが、特に好ましくは
後記の高分子化セレンが挙げられる。また水中で魚類に
与える場合に、無機セレンに比べて逸散し難いことか
ら、有機化セレン含有菌体であることが好ましい。有機
化セレン含有菌体含有菌体としては、種々の公知の有機
化セレン含有菌体が使用できる。例えば特公昭55−3
6314号、特開昭57−174098号、特開昭60
−180582号等が例示されるが、特に好ましくは、
特開平4−40888号に開示された方法、即ち酵母、
細菌、カビ、単細胞緑藻等を用いて菌体をバイオロジカ
ルスペ−ス以上の菌体濃度となるように分散せしめ、高
分子化セレンを蓄積せしめた菌体を得る製造方法により
得られる菌体が例示される。
【0008】さらに本発明の方法を、特開平4−408
88号の方法を中心として説明すると以下の通りであ
る。高分子化セレン含有菌体となす微生物菌体として
は、菌体内にセレンを透過・吸収して高分子化セレンを
蓄積し、高分子化セレン含有菌体となりうることが可能
な微生物菌体であれば広く対象とすることができるが、
飼料や餌料に添加して魚類に給与することから可食性で
あることが好ましい。
【0009】上記の微生物に該当するものとしては、酵
母、細菌、カビ、単細胞緑藻等が挙げられる。酵母では
各種の食品製造に用いられ安全性が認められているもの
としてパン酵母、ビ−ル酵母、日本酒用酵母、アルコ−
ル酵母、ワイン酵母等で知られているサッカロマイセス
属に属する酵母が挙げられ、特に好ましくはサッカロマ
イセス・セレビシェ(Saccharomyces c
erevisiae)に属する酵母であり、また、みそ
・醤油等に用いられているものとして例えばサッカロマ
イセス・ロキシ(Saccharomyces rou
xii)やチゴサッカロマイセス・エスピ−(Zygo
saccharomyces sp.)に属する酵母
等、その他にもハンセヌラ(Hansenula)属、
キャンディダ(Candida)属、トルラスポラ(T
orulasupora)属、トルロプシス(Toru
lopsis)属、ミコトルラ(Mycotorul
a)属に属する幅広い範囲の可食性酵母が本発明に使用
できる。細菌としては、乳酸菌として知られるラクトバ
チルス・カゼイ(Lactobacillus cas
ei)ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactob
acillus acidphilus)等、また納豆
菌として知られるバチルス・ナット(Bacillus
natto)等広範囲の可食性の細菌、カビとしては
アスペルギルス・ニガ−(Asperugillose
nigar)やアスペルギルス・アワモリ(Aspe
rugillose awamori)に属するものが
ごく一部として例示され、他にも広範囲の可食性のカビ
が使用できる。また、可食性の単細胞緑藻であるクロレ
ラとしてクロレラ・ブルガリスやスピルリナも本発明に
有効に使用できる。
【0010】高分子化セレン含有菌体として、サッカロ
マイセス属に属する微生物は本発明の各用途において特
に優れた効果が認められること、その安全性が充分に確
認されていること、その製造方法が簡単であること、製
造費用が安価であること、セレン濃度がより高濃度の乾
燥菌体が簡単に調整できること等において特に好まし
い。
【0011】また、高分子化セレン含有菌体を調整する
に当たっては、特開昭60−224451号に開示され
た方法、即ち、予め無機セレンを添加した培地でバチル
ス・サブチルス等の微生物を培養・増殖させることによ
り得た有機化セレン含有微生物菌体を用いてもよいが、
本発明者らの発明による特開平4−40888号明細書
の方法に従って調整された高分子化セレン含有菌体を用
いると、以下に説明する通りに高濃度の高分子化セレン
を含有する菌体が効率的に得られるメリットおよび効果
も高いことから特に好ましい。本製造法によれば、無機
セレンを添加した培地での菌体増殖の必要はないことか
ら、セレン濃度を菌体増殖阻害を生ずる濃度以上にする
ことが可能であり高濃度の高分子化セレンを含有した菌
体を製造することができる。また実質的にセレンを含有
しない培地で菌体を予め培養・増殖させるため、培養時
のセレンによる生育阻害が無く、セレンを添加した培地
で培養・増殖させる場合に比較し、短時間に大量の高分
子化セレン含有菌体を調整できる。さらに、菌体をバイ
オロジカルスペ−ス濃度以上に濃縮化することから反応
系を小さくでき、したがって反応後の廃液を少量化する
ことができ、また、反応液中にセレン以外の金属を含ま
ないため廃液処理が簡便である。
【0012】本製造法についてさらに説明すると、上述
の高分子化セレンを蓄積することのできる微生物菌体
は、予め適当な方法に従って調整された培地または媒体
で適宜培養・増殖したものを用いれば良い。培養に当た
っては、上記に例示した対象とする微生物菌体のそれぞ
れを、通常培養する場合に使用されている培養培地組成
例えば炭素源、窒素源、無機塩等または培養媒体組成を
用い、適宜の培養温度にて培養すればよく、必要に応じ
予備培地または媒体で種菌培養した後各培養培地または
媒体で適宜培養・増殖せしめてもよい。菌体増殖曲線に
おける対数増殖期後期から定常期後期までの適宜な時期
に、通常の遠心分離やろ過等の手段により集菌すればよ
い。例えば水溶性無機セレン化合物として亜セレン酸を
用いる場合、好ましくは一般に菌体増殖曲線における亜
セレン酸還元酵素が生成される前段階である対数増殖期
後期から定常期初期の段階まで適宜培養して集菌すれ
ば、増殖菌体数が多く好適であるとともに、該菌体を用
いて実質的に菌体増殖を必要としない条件、好ましくは
バイオロジカルスペ−ス以上の菌体濃度に調整して亜セ
レン酸を含有する反応液と反応せしめた場合、セレンが
菌体に取り込まれても亜セレン酸還元酵素の作用を受け
ないことから実質的に無機セレンの生成を防止でき、良
好な高分子セレン含有菌体を得ることができる。
【0013】菌体として酵母を用いた場合は、例えばY
PG培地等で種菌培養した後糖密培地で通常25℃〜3
5℃で12時間〜24時間特に好ましくは18時間〜2
0時間培養・増殖させた後培養菌体を集菌するのが好ま
しい。細菌として乳酸菌を用いた場合、例えばロイコノ
ストック培地等で通常25℃〜35℃で15時間〜30
時間特に好ましくは20時間〜24時間培養・増殖させ
て集菌すればよく、カビを用いた場合には、例えばYM
培地で通常20℃〜30℃で30時間〜50時間特に好
ましくは35時間〜40時間培養・増殖させて集菌すれ
ばよく、単細胞緑藻を用いた場合には、例えば水を媒体
とするかもしくは参考例3に示した培地で通常25℃〜
33℃で24時間〜48時間特に好ましくは30時間〜
40時間培養・増殖させて集菌すればよい。
【0014】次いで、該集菌した菌体から培養・増殖に
用いた培養培地または媒体を水等で数回洗浄して洗い流
して除去し、さらに、該菌体をセレンの高分子化基質お
よび水溶性セレン化合物を含有する水溶性(以下、反応
液ということがある)に分散せしめてセレンを高分子化
セレンとして菌体内に蓄積せしめるが、この反応をせし
める際、該菌体をバイオロジカルスペ−ス以上の菌体濃
度に調製して菌体増殖によるセレンの高分子化基質の消
費を完全に停止させ、セレンの高分子基質の消費を専ら
高分子化の反応用に向けさせることが必要である。この
バイオロジカルスペ−ス以上の菌体濃度に調整すると
は、菌体懸濁液(反応液)が本質的には該菌体の増殖を
許す成分を含んでいても、懸濁液の一定容積中に菌体が
実質的にそれ以上増殖することのできない状態、即ち菌
体増殖曲線における定常状態の菌体濃度以上の濃度の条
件下に調整することを意味する。例えば、酵母では10
9 個/ml以上、乳酸菌では108 個/ml、クロレラ
では109 個/ml以上であるので、反応に際しては酵
母では1〜5×109 個/ml、乳酸菌では1〜5×1
8 個/ml、クロレラでは1〜5×109 個/mlの
菌体濃度で行えばよく、実用上はこれら微生物の懸濁液
における菌体濃度の測定は分光光度計によるO.D.値
で行うことから、対象菌体の増殖曲線の定常期状態にお
ける菌体濃度時点とする場合のO.D.値の測定誤差を
±10%とすればよい。また、カビの場合はO.D.値
の測定が不可能であるので培養液量より少ない反応液に
菌体を懸濁して使用すればよい。
【0015】次いで、該菌体をセレンの高分子化基質と
なり得る有機化合物および水溶性無機セレン化合物を含
有する水溶液に分散せしめて、菌体内に高分子化セレン
を蓄積せしめる。反応液中でのセレンの高分子化基質と
なり得る有機化合物および水溶性無機セレン化合物を含
有する水溶液は、両方を混合した水溶液にて上述のバイ
オロジカルスペ−ス以上の菌体濃度に分散させても、ま
たは逐次にまず該菌体を有機化合物水溶液に分散させて
から水溶性セレン化合物水溶液に分散させても、または
分散する順序を逆としてもいずれの過程を経ていてもか
まわず、上記の反応液に菌体をバイオロジカルスペ−ス
以上の菌体濃度に分散・接触せしめる過程であればいず
れでもかまわない。
【0016】セレンの高分子化基質となり得る有機化合
物とは、菌体内反応機構である高エネルギ−リン酸化合
物合成機構、例えば解糖系反応機構やTCA回路反応機
構を作動させるに不可欠な成分であり、即ち菌体にとっ
てエネルギ−基質となり得る有機化合物であればよく、
具体的には糖および/またはアミノ酸が挙げられる。糖
としては、例えば、グルコ−ス、フルクト−ス、ガラク
ト−ス、シュ−クロ−ス、マルト−ス、トレハロ−スが
挙げられ、特に好ましくはグルコ−スである。アミノ酸
としては、例えばロイシン、イソロイシン、セリン等の
グルコゲニックアミノ酸系であればよく、特に好ましく
はロイシンまたはイソロイシンである。反応液である該
有機化合物水溶液には少なくとも上記糖および/または
アミノ酸と、必要に応じ緩衝液としてリン酸塩等を含有
する水溶液であるのが好ましい。さらに、必要に応じ高
ネルギ−リン酸化合物の補給源となりうるものとして、
アデニン、アデノシンを上記系に添加すると、より有効
に高分子化セレンが菌体内に蓄積される。反応に用いる
際の上記有機化合物水溶液のpHは、通常pH4〜7、
特に好ましくはpH5〜6が例示される。リン酸塩等緩
衝液を用いた場合には該緩衝液を好ましいpHに調整す
ればよい。有機化合物水溶液の各々の成分の量的関係に
ついては、有機化合物水溶液全量に対し、糖とアミノ酸
は単独かまたは併用してもよく、糖は0.3%〜2%を
含有させるのが好ましく、アミノ酸は0.3%〜2%、
また必要に応じ緩衝液であるリン酸塩は0.01M〜
0.3M用いればよく、また、アデニン、アデノシンを
加える場合には、0.001%〜0.02%を用いれば
よい。
【0017】次いで、本発明に使用できるセレンの供給
源である水溶性無機セレン化合物は、対象菌体の細胞膜
を透過し、菌体内で蛋白質と結合して高分子化セレンと
変換せれうる適当な水溶性のセレン化合物であればよ
く、例えば亜セレン酸(H2 SeO3 )、二酸化セレン
(SeO2 )、セレン酸(H2 SeO4 )等の無機セレ
ンが挙げられるが、特に亜セレン酸を用いるのが好まし
い。反応に用いる量としては反応液中のセレン濃度が2
ppm以上、好ましくは10〜100ppmとなるよう
に水溶性セレン化合物の添加量を調整すればよい。上述
のとおり、反応液へ菌体を同時または逐次に分散し、振
盪させて反応せしめるが、反応における反応温度は20
℃〜40℃特に好ましくは25℃〜35℃で、反応時間
は4時間以上特に8〜20時間反応せしめるのが好まし
い。反応後、遠心分離等の手段で集菌し、好ましくはさ
らに回収菌体を水で数回洗浄することにより高分子化さ
れたセレンを含有する微生物菌体が得られる。この菌体
の毒性は無機セレンに比べて極めて低い。得られた高分
子化セレン含有菌体は必要に応じ凍結乾燥、加熱乾燥や
スプレ−ドライ等をして保存すればよく、好ましくは9
0℃以上にて加熱乾燥して用いればよい。
【0018】このようにして得られた高分子化セレン含
有菌体中の高分子化セレンは、セファデックスG50カ
ラムによる溶出パタ−ンとセレンの分布から、85%以
上のセレンが蛋白質である高分子分画に存在するもので
あった。また、高分子化セレン含有菌体の菌体内セレン
濃度は500〜3000ppm/乾燥菌体程度であっ
た。
【0019】本発明の餌料性疾患とは、例えばマスで
は、成長停止、斃死率増加、高度の貧血、肝臓の脂肪変
性、腎臓の異常組織構造とコレステロ−ルの沈着、コイ
では、背こけ病(筋ジストロフィ)の発生、糖尿病的症
状(例えば血糖量の増加等)、腎糸球体、網膜における
毛細血管の変性、ランゲルハンス氏島のB細胞の顆粒消
失、空胞変性、線維組織の増殖、ウナギでは、飼料効率
の低下と血液中の総コレステロ−ル量の増加、ハマチ
(ブリ)では、胆汁うっ血、血球破壊、肝実質細胞の萎
縮と部分壊死、肝臓の貧血と灰白色化、眼球突出、背こ
け病状、マダイでは、成長および肥満度の低下、筋肉中
の脂肪減少、水分増加、血漿中のトリグリセライドおよ
び総コレステロ−ルの減少、チャネルキャットフイッシ
ュでは、成長、飼料効率、生残率の低下、高度の貧血、
眼球突出、腹水、肛門の腫脹、筋肉線維、腎臓および膵
臓組織の変化等が例示され、特にこれらの症状の前後に
生ずるGOT(グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスア
ミナーゼ)、GPT(グルタミン酸−ピルビン酸トラン
スアミナーゼ)、TBA(2−チオバルビツール酸)値
等の検査値異常や、肝臓の脂肪変性、肝実質細胞の萎縮
と部分壊死、肝臓の貧血と灰白色化、黄疸症等の餌料性
肝臓機能障害も重要な病変である。
【0020】有機化セレン含有菌体である上記高分子化
セレン含有菌体を魚類に投与したところ、前述の餌料性
疾患、特に餌料性肝臓障害の治療・予防効果が認めら
れ、この効果は従来知られていない全く新規な効果であ
った。この効果は、公知の方法により有機化セレン含有
菌体から抽出した有機化セレンにも認められた。有機化
セレンとしては、セレノメチオニン等の化合物であって
もよいが、特に効果において好ましい高分子化セレンが
例示され、この高分子化セレンとしては、上記の特開平
4−40888号に記載の高分子化セレン含有菌体由来
の高分子化セレンが特に好ましい。また、水中への逸散
がなく、安価であることから、有機化セレンが菌体に含
有された有機化セレン含有菌体が特に効率的であり好ま
しい。本発明の魚類用餌料性疾患治療・予防剤の製造に
当たっては、前記により得られた有機化セレンまたは有
機化セレン含有菌体を、そのまま、あるいは公知の賦形
剤、安定剤等を加えて、さらに必要に応じてビタミン等
の各種養分およびその他の添着剤等を含む魚類用配合剤
となしてもよく、その形状としては、粉体、顆粒、ペレ
ット、懸濁液等の適宜の状態に調整すればよい。この魚
類用餌料性疾患治療・予防剤を投与する場合には、魚類
に対し、単独で投与してもよいが、魚類用餌料に混合し
て給与することが簡便であり好ましい。投与時期は、疾
患の予防剤として常時投与しても、また最も必要とされ
る飼養後半に添加してもよく、治療を目的として疾患時
に投与してもよい。投与量は、魚の種類、大きさ、症
状、使用目的等により異なるが、例えばハマチにおいて
は通常、有機化セレンとして0.001〜10mg/k
g・日、好ましくは0.002〜2mg/kg・日が例
示され、コイでは通常、0.001〜1mg/kg・
日、好ましくは0.002〜0.5mg/kg・日が例
示される。
【0021】本発明の魚類用餌料性疾患治療・予防剤を
添加して魚類用餌料を調整するに際しては、魚類用餌料
性疾患治療・予防剤である有機化セレン、有機化セレン
含有菌体またはそれらの処理物と、公知の他の魚類用飼
料原料とを添加または混合して魚類用餌料とすればよ
く、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸
カルシウム、小麦粉、デンプン、デキストリン、飼料用
酵母等や飼料用原料の穀類、そうこう類、粕類と混合し
て希釈したり、あるいはビタミン、ミネラル等のプレミ
ックスに添加して使用してもよい。通常、生餌あるいは
配合飼料に添加して本発明が対象とする魚類、例えばブ
リ、ハマチ、マダイ、ヒラメ等の海水魚やエビ等の甲殻
類あるいはウナギ、アユ、マス、コイ、ナマズ等の淡水
魚に給与する方法が好ましい。また生餌の場合、アルギ
ン酸ナトリウム、グァ−ガム等の添着剤を同時に使用し
てもよい。通常、魚類用餌料中のセレンの濃度は、有機
化セレンに由来するセレンの濃度として、0.1〜10
ppm程度であることが好ましい。
【0022】
【実施例】以下に本発明に関し、実施例および参考例を
挙げて具体的に説明するが、本発明はこれによって何等
限定されるものではない。 参考例1 高分子化セレン含有菌体(サッカロマイセス
・セレビシェ)の調製 pH5に調製したYPG培地(グルコ−ス4%、ペプト
ン1%、イ−ストエキス0.5%、リン酸カリウム0.
5%、硫酸マグネシウム0.2%)100mlを500
ml容三角フラスコに分注し121℃で15分殺菌した
後、サッカロマイセス・セレビシェFTY−3(FER
M BP−2326)を1白金耳植付け、30℃で24
時間振盪培養し、種菌とした。4基の30l容ジャ−フ
ァ−メンタ−を用い、それぞれpH5に調製し120℃
で30分加熱滅菌した糖蜜培地(糖蜜10%(蔗糖とし
て4%含有)、尿素0.5%、75%リン酸0.1%、
硫酸亜鉛0.0003%)20lに対し、前記の種菌各
々500mlを植え付け、32℃、通気量30l/分、
攪拌速度300rpmで16時間培養した。連続遠心機
を使用して集菌し(120l/時間)、約20lの水を
加えて菌体を懸濁し、遠心分離して菌体を洗浄した。こ
の操作を3回繰り返した後、菌体濃度を2.5×109
個/mlに調製してバイオロジカルスペ−ス以上の菌体
濃度の状態とし、0.5%グルコ−スを含む0.03M
リン酸緩衝液(pH5)5lに懸濁し、亜セレン酸0.
4g(セレン濃度として48ppm)を加えて通気量1
0l/分、攪拌速度200rpm、振盪(反応)温度3
0℃で反応せしめた。18時間後、遠心分離して集菌
し、さらに20lの水で3回洗浄し、湿菌体3.5Kg
を得た。その後、7lの水を加えて攪拌、分散した後、
90℃で15分間加熱し、コチワ式スプレ−ドライヤ−
を用い、送風140℃、排風60℃、送液4l/時間の
条件でスプレ−ドライし、乾燥粉末1.1Kgを得た
(水分4.1%、菌体内セレン濃度1910ppm)。
セレンの測定は、乾燥菌体を硝酸と過塩素酸で酸化分解
し、この分解液を2,3−ジアミノナフタレンによる蛍
光光度法により測定した。
【0023】参考例2 高分子化セレン含有菌体中の高
分子化セレン 参考例1で得られた菌体5gを50mlの水に懸濁し、
1N苛性ソ−ダでpH7に調製した後、ポジトロン破砕
機で菌体を破砕し、さらに95℃で10分加熱した後、
10000rpmで15分間遠心分離し、上清38ml
を得た(セレン濃度174ppm)。上清10mlを凍
結乾燥した後、2mlの水に溶解し、その内1mlを用
いてセファデックスG50の100mlカラム(2×3
2cm)による溶出パタ−ンとセレンの分布を調べた。
その結果、85%以上のセレンが高分子分画に存在し
た。
【0024】参考例3 高分子化セレン含有菌体(クロ
レラ・ブルガリス)の調製 クロレラ・ブルガリス(Chrorella buru
gallis)を2%グルコ−ス、0.4%尿素、0.
1%リン酸塩、0.1%硫酸マグネシウム、0.03%
硫酸第一鉄、0.1%塩化カルシウムを含む培地で30
℃で30時間程度通常の条件で培養し、培養液80lか
ら得られた菌体を80lの水で3回洗浄した後、該菌体
を0.5%グルコ−スを含む0.1Mリン酸緩衝液(p
H6)20lに懸濁して菌体濃度をバイオロジカルスペ
−ス以上の菌体濃度である2×10 9個/mlに調製
し、亜セレン酸4g(セレン濃度として120ppm)
を加えて、30℃で18時間振盪して反応せしめ、菌体
濃度を測定して遠心分離にて集菌し、さらに菌体を80
lの水で2回洗浄した後凍結乾燥した。該菌体のセレン
濃度は2060ppmであった。
【0025】実施例1 マゴイに対する酸化脂質給与に
よるセレン含有物質の効果 体重約50gのマゴイ10尾を1群として合計6区を用
意した。表1に示す給与飼料に、陰性対照区には新鮮な
油脂(POV10)を、陽性対照区と残りの4つの区に
は変敗させた油脂(POV120)をそれぞれ使用し
た。
【0026】
【表1】
【0027】残りの4つの区に各々、亜セレン酸ナトリ
ウム、特開昭60−224451号公報の製造例にした
がって調製したセレン含有バチルス・サブチルス(セレ
ン濃度;2100ppm/乾燥菌体)、参考例1のセレ
ン含有サッカロマイセス・セレビシェ(セレン濃度;1
910ppm/乾燥菌体)および参考例3のセレン含有
クロレラ・ブルガリス(セレン濃度;2060ppm/
乾燥菌体)をセレン濃度として1ppmとなるように給
与飼料に添加混合し調製した。調製した各飼料をマゴイ
に対し32日間給与し、給与終了後に各区の成長率、飼
料効率並びに血漿のTBA値(nmolMA/ml)、
GOT(KU)、GPT(KU)を測定した。前述の陰
性および陽性対照区の飼料中セレン含有量は共に0.0
5ppmであった。なお飼育条件は保温、流水飼育(水
温26℃〜27℃)で実施した。その結果、表2に示さ
れる通り陽性対照区に比べ参考例1の投与区および参考
例3の投与区ならびに特開昭60−224451の投与
区は、TBA値やGOT、GPTの有意な低下が認めら
れた。特に参考例1の投与区は陰性対照区の値に最も近
く、顕著な効果が認められた。
【0028】
【表2】
【0029】実施例2 マゴイに対するセレン含有酵母
の投与量 体重約50gのマゴイ10尾を1群として合計5区を用
意した。前記の表1に示す給与飼料に、陰性対照区には
POV10の油脂を、陽性対照区と残りの3つの区には
POV120の油脂を使用した。残りの3つの区に参考
例1のセレン含有サッカロマイセス・セレビシェ(セレ
ン濃度;1910ppm/乾燥菌体)をセレン濃度とし
て0.1ppm、1ppm、10ppmとなるように給
与飼料に添加混合し調製した。調製した各飼料をマゴイ
に対し32日間給与し、給与終了後に各区の成長率、飼
料効率ならびに血漿のTBA値、GOT、GPTを測定
した。なお陰性、陽性対照区の飼料中セレン含有量は共
に0.05ppmであった。また飼育条件は実施例1と
同様である。その結果は表3に示される通り、陽性対照
区に比べセレン含有酵母投与区はTBA値やGOT、G
PTの有意な低下が認められ、特にセレン濃度の1pp
mと10ppm区は陰性対照区と同様な値を示した。
【0030】
【表3】
【0031】実施例3 経口投与による急性毒性試験 ウイスタ−系ラット5匹を1群とし、亜セレン酸ナトリ
ウム、特開昭60−224451号製造例にしたがって
調製したセレン含有バチルス・サブチルス菌体(セレン
濃度;2100ppm/乾燥菌体)、および参考例1の
セレン含有サッカロマイセス・セレビシェ(セレン濃
度;1910ppm/乾燥菌体)を経口投与し、その生
存率を調べた。その結果は表4に示される通り、特開昭
60−224451の投与群および参考例1の投与群に
おいては、極めて毒性が低いものであった。
【0032】
【表4】
【0033】実施例4 マゴイにおける背こけ病ならび
に斃死率の改善 体重約5gのマゴイ200尾を1群として合計3区を用
意した。表5に示す給与飼料に、陰性対照区にはPOV
7の油脂を、陽性対照区と参考例1のセレン含有サッカ
ロマイセス・セレビシェ(セレン濃度;1910ppm
/乾燥菌体)をセレン濃度として1ppm添加調製した
区には、POV250〜280の油脂を使用して7月上
旬から10月上旬までの約90日間流水(水温20℃〜
25℃)で飼育し、成長率、背こけ病発生率ならびに斃
死率に及ぼす効果を調べた。投餌量は1日当り乾物とし
て約4.5%を目安とし、摂餌状態により調節した。な
お陰性、陽性対照区の飼料中セレン含有量はともに0.
46ppmであった。
【0034】
【表5】
【0035】その結果、表6に示される通り参考例1の
投与区は背こけ病の発生は認められず、陰性対照区に比
べ成長率に優れ、幣死率も少なかった。
【0036】
【表6】
【0037】実施例5 ハマチ当才魚に対するセレン含
有酵母ならびにグルタチオンの効果 体重約100gのハマチ12尾を1群とし合計3区を用
意し、表7に示す給与飼料で飼育した。この飼料に使用
したブラウンフィッシュミ−ルのTBA値は5.1mg
MA/Kgであった。
【0038】
【表7】
【0039】セレン含有酵母区は参考例1のセレン含有
サッカロマイセス・セレビシェ(セレン濃度;1910
ppm/乾燥菌体)をセレン濃度として1ppm添加混
合して、グルタチオン区はグルタチオンを500ppm
添加混合して調製し、対照区とともにハマチに対し30
日間給与し、給与終了後に成長率、飼料効率ならびに血
漿のTBA値、GOT、GPTを測定した。なお対照区
ならびにグルタチオン区の飼料中セレン含有量はそれぞ
れ0.54ppm、0.56ppmであった。また飼育
条件は流水飼育(水温24℃〜28℃)で実施した。そ
の結果表8に示される通りセレン含有区は、グルタチオ
ン区に比べTBA値やGOT、GPTを有意に低下せし
め、好ましい効果が認められた。
【0040】
【表8】
【0041】実施例6 ハマチ2才魚に対する生餌給与
によるセレン含有酵母の効果 ハマチ2才魚が5000尾放養されている生簀を2生簀
用意した。試験区には参考例1のセレン含有サッカロマ
イセス・セレビシェ(セレン濃度;1910ppm/乾
燥菌体)をイワシ生餌に対しセレン濃度として0.2p
pmになるように添着剤あるいはビタミンプレミックス
(三鷹製薬株式会社)とともに混じて給与し、対照区も
同様の条件で参考例1のセレン含有酵母を除いて給与し
た。給与期間は9月上旬から12月上旬までの約3カ月
間で延べ73回給餌を行い、血液性状(各区10尾ずつ
サンプリング)、幣死率ならびに黄疸発生率を調査し
た。その結果、表9に示される通り、試験区は対照区に
比べ血漿中のTBA値、GOT、GPTが有意に低下
し、コレステロ−ル含量(mg/dl)は上昇してお
り、黄疸症の発生もごくわずかで、幣死率も減少した。
【0042】
【表9】
【0043】
【発明の効果】本発明によれば、魚類用餌料性疾患の治
療・予防に効果のある、安価な治療・予防剤を提供する
ことができる。

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 有機化セレンを有効成分とする魚類用餌
    料性疾患治療・予防剤。
  2. 【請求項2】 有機化セレンが、有機化セレン含有菌体
    である請求項1記載の魚類用餌料性疾患治療・予防剤。
  3. 【請求項3】 有機化セレンが、高分子化セレンである
    請求項1記載の魚類用餌料性疾患治療・予防剤。
  4. 【請求項4】 有機化セレン含有菌体が、高分子化セレ
    ンを菌体内に蓄積することのできる微生物菌体をセレン
    の高分子化基質である有機化合物および水溶性無機セレ
    ン化合物を含有する水溶液に、該菌体がバイオロジカル
    スペース以上の菌体濃度となるように分散せしめ、該菌
    体に高分子セレンを蓄積せしめた高分子化セレン含有菌
    体である請求項2記載の魚類用餌料性疾患治療・予防
    剤。
  5. 【請求項5】 有機化セレン含有菌体が可食性酵母であ
    る請求項記載の魚類用餌料性疾患治療・予防剤。
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