JP2004204914A - シールおよびこれを備えた転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】多量の水分や塵埃が存在する劣悪な環境下で使用されても、良好な密封性能が確保できるシールを提供する。
【解決手段】相対移動する二つの部材間を塞ぎ、一方の部材に接触させるリップ部を有し、他方の部材に固定して使用されるシールにおいて、リップ部13(ここでは弾性体3の全体)を、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体からなることを特徴とするシールを備えた転がり軸受を提供する。
【選択図】 図1
【解決手段】相対移動する二つの部材間を塞ぎ、一方の部材に接触させるリップ部を有し、他方の部材に固定して使用されるシールにおいて、リップ部13(ここでは弾性体3の全体)を、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体からなることを特徴とするシールを備えた転がり軸受を提供する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、転がり軸受等の密封装置として使用される接触型のシール(すなわち、相対移動する二つの部材間を塞ぎ、一方の部材に接触させるリップ部を有し、他方の部材に固定して使用されるシール)、およびこれを備えた転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、転がり軸受には、転動体の設置部分に存在するグリースや使用時に発生したダストが外部に漏洩したり、外部に浮遊する塵芥が転動体の設置部分に進入したりするのを防ぐために、外輪と内輪との間にシールが取り付けられることがある。このようなシールの付いた転がり軸受の一例を図1に示す。
【0003】
この図の転がり軸受は両側にシールの付いた両シール軸受であり、そのシール1は、外周に鉤部を有するリング状の芯金2と、その外側に合成ゴムを一体に加硫成形してなる弾性体3とで構成されている。このシールは、その機能上から、芯金の鉤部以外とその外側の弾性体とからなる円環状の主部11と、芯金の鉤部とその外側の弾性体とからなり外輪内面の止め溝41に係止される加締部12と、芯金の内周側の弾性体からなり内輪外周面の受け溝51に摺接(摺り接触)されるリップ部13とに分けられる。
【0004】
そして、このシール1は、リップ部13を内輪外周面の受け溝51に接触させた状態で、加締部12を弾性変形させながら外輪内周面の止め溝41に押し込むことによって、転がり軸受の外輪4と内輪5との間に配設される。
これらのシールの一般的な材料は、芯金としてはSPCCやSECCなどの鋼板が、リップ等を形成する弾性体としてはニトリルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムが使用されている。
【0005】
一般に、転がり軸受の耐久寿命は、潤滑剤中に水分が混入すると大きく低下する。例えば下記の非特許文献1には、潤滑油(#180 タービン油) に6%の水が混入すると、混入がない場合に比べて「数分の1」〜「20分の1」に転がり疲れ強さが低下することが報告されている。また、下記の非特許文献2には、潤滑油中にわずか100ppmの水分が混入するだけで、鋼の転がり強さが32〜48%も低下することが報告されている。
【0006】
したがって、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、水ポンプ、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ、コンプレッサ等の高温、高速、高荷重条件下で使用され、しかも水が混入しやすい部位で使用される転がり軸受では、前記シールによりリップ部とシール接触面との間を確実に塞ぐ必要がある。例えば、エンジン外部にあるベルト駆動の補助機械用軸受は、路面より跳ね上げられる泥水や雨水が浸入しやすく、水ポンプ用軸受では更にエンジン冷却用循環水の浸入も受けやすい。
【0007】
なお、下記の特許文献1には、高温、高速、高荷重条件で使用され、外部からの水の浸入を受ける転がり軸受について、水素による白色組織変化を伴う剥離を起こすことなく、寿命を長くするために、使用するグリースの組成を特定することが開示されている。
【0008】
【非特許文献1】
古村恭三郎,城田伸一,平川清,「表面起点および内部起点の転がり疲れについて」,NSK Bearing Journal, No.636, pp.1-10,1977
【非特許文献2】
P.Schatzberg,I.M.Felsen,「Effects of water and oxygen duringrolling contact Iubrication」,wear,12,pp.331-342, 1968
【特許文献1】
特開2002−195277号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、転がり軸受の使用環境が、多量の水分や塵埃が存在する劣悪な環境下である場合には、使用を続けているうちにシールのリップ部の弾力性が低下したり、リップ部が欠けたりすることにより、リップ部のシール接触面(シールのリップ部と接触する相手部材の面)に対する摺接力(摺り接触する力)が低下して、リップ部とシール接触面との間に微小な隙間ができると、この隙間から水分や塵埃が軸受内部に侵入することになる。その結果、グリースが劣化して軸受の寿命が低下する恐れがある。
【0010】
本発明は、このような従来技術に着目してなされたものであり、転がり軸受、自動車用ハブユニット、ハブユニット軸受、リニアガイド装置、ボールねじ等に使用されるシールにおいて、多量の水分や塵埃が存在する劣悪な環境下で使用されても、良好な密封性能が確保できるシールを提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を解決するために、本発明は、相対移動する二つの部材間を塞ぎ、一方の部材に接触させるリップ部を有し、他方の部材に固定して使用されるシールにおいて、前記リップ部は、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体からなることを特徴とするシールを提供する。
【0012】
粘弾性体に正弦波形の応力とひずみが作用する場合には、ひずみが応力よりも遅れて生じるが、この応力に対するひずみの位相の遅れ角度を損失角(δ)と言う。損失正接(tan δ)はこの損失角(δ)の正接であって、変形の間に熱として散逸されるエネルギー量の尺度となる。ゴム成形体の損失正接(tan δ)の値は、ゴム成形体に正弦振動の荷重を付与する動的粘弾性試験を行うことによって測定される。
【0013】
本発明における「温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値」とは、正弦振動の荷重を付与する動的粘弾性試験を行うことで測定される損失正接(tan δ)の、試験雰囲気温度20℃〜70℃での最大値を意味する。
本発明の転動装置用シールにおいて、リップ部の硬度は、「JIS K6301」に記載のスプリング硬さAスケールで、40〜90の範囲であることが好ましい。これにより、シールのリップ部による密封性が良好になる。
【0014】
リップ部の硬さが40未満であると、シールが回転する際にリップ部が必要以上に変形して、リップ部に発熱やトルク上昇が生じ易くなる。その結果、転動装置の運転時の摩擦抵抗が大きくなり、スムーズな回転運動が困難になる場合がある。また、90を超えると、ゴム弾性が低下してリップ部のシール接触面に対する摺接力が不十分となり、十分な密封性が得られなくなる。特に好ましいリップ部の硬度は、スプリング硬さAスケールで50〜80の範囲である。
【0015】
本発明のシールのリップ部をなすゴム成形体は、原料ゴムに、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、補強剤、可塑剤、カップリング剤等の配合剤を必要に応じて適宜配合したゴム組成物を、加硫成形することにより得られる。このゴム組成物には、また、必要に応じて補強性充填剤、加工助剤、摩耗改良剤、潤滑油等を添加することができる。なお、ゴム組成物に対する補強性充填剤、摩耗改良剤等の添加量を調整することによって、所定硬度のゴム成形体を得ることができる。
【0016】
このゴム組成物の各成分の具体例について、以下に説明する。
原料ゴムとしては、NR(天然ゴム)、IR(イソプレンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、IIR(ブチルゴム)、EDPM(エチレンプロピレンゴム)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等を使用することができる。
【0017】
アクリロニトリルブタジエンゴム(「ニトリルゴム」とも称される。)には、アクリロニトリル含有量により、低ニトリルNBR、中ニトリルNBR、中高ニトリルNBR、高ニトリルNBR、極高ニトリルNBR等がある。このうち、摺接性、耐摩耗性、耐熱性、および耐寒性の点で特に中高ニトリルNBRが好ましい。
【0018】
また、イソプレンを共重合させたアクリロニトリルブタジエンイソプレンゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴム、およびカルボキシ化水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム等の変性アクリロニトリルブタジエンゴムを、単独でまたは二種類以上を混合して用いてもよい。
【0019】
これらのうち、アクリルゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム等は、強度と延び、および高温特性に優れているため好ましい。
加硫剤(架橋剤)としては、▲1▼粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、高分散性硫黄などの各種硫黄、▲2▼モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、N,N−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2 H−アゼピノン−2 )−チウラムポリスルフィドなどの硫黄を排出可能な硫黄化合物、▲3▼ジクミルパーオキサイト・ジ(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチルヘキサン、ベンゾイルパーオキサイト等の過酸化物等が挙げられる。これらのうち、分散性、取扱いの容易さ、および耐熱性の点で、高分散性硫黄やモルホリンジスルフィド、あるいは過酸化物架橋剤を使用することが好ましい。
【0020】
加硫(架橋)促進剤としては、硫黄系の加硫剤を用いた場合には、グアニジン系,アルデビド−アンモニア系,チアゾール系,スルフェンアミド系,チオ尿素系,チウラム系,ジチオカルバメート系,ザンテート系等を用いる必要がある。このうち高分散性硫黄を少量配合した場合には、チウラム系のテトラメチルチウラムジスルフィド等やスルフェンアミド系のN−シクロベンジル−2−ベンゾチアジルまたはスルフェンアミドと、チアゾール系の2−メルカプトベンゾチアゾール等とを併用することが好ましい。
【0021】
加硫(架橋)促進助剤としては、酸化亜鉛等の金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物、ステアリン酸等の脂肪酸とその誘導体、及びアミン類などが挙げられる。原料ゴムとしてカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴムを用いた場合は、酸化亜鉛により早期加硫を生じやすいので、過酸化亜鉛とステアリン酸の組み合わせが好ましい。過酸化亜鉛は、アクリロニトリルブタジエンゴム組成物の混練加工時の温度ではそのままゴム組成物中に存在し、加硫成形時に酸化亜鉛を生じるため、混練加工時及び保管時に早期加硫を生じることがない。
【0022】
酸化劣化を防止する老化防止剤としては、アミン−ケトン縮合生成物、芳香族第二級アミン類、モノフェノール誘導体、ビス又はポリフェノール誘導体、ビドロキノン誘導体、硫黄系老化防止剤、リン系老化防止剤等があげられる。このうち、アミン−ケトン縮合生成物系の2,2,4−トリメチル−1,2−ジビドロキノリン重合体またはジフェニルアミンとアセトンとの縮合反応物、芳香族第二級アミン系であるN,N’−ジ−β- ナフチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−ビス−(α,α−ジメチルベンジル) ジフェニルアミン、またはN−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ビドロキシプロピル) −p−フェニレンジアミン等が好ましい。
【0023】
また、熱分解を防止して耐熱性を向上するため、上記の老化防止剤とともに2次老化防止剤を併用することがより好ましい。2次老化防止剤としては、硫黄系の2 −メルカプトベンズイミダゾール、2 −メルカプトメチルベンズイミダゾール及びこれらの亜鉛塩等があげられる。
更に、日光あるいはオゾンの作用による亀裂を抑制させる日光亀裂防止剤として、融点が55〜70℃程度のワックス類を、原料ゴム100重量部に対して0.5〜2.0重量部程度添加してもよい。0.5重量部未満であると、オゾンの作用による亀裂を防止する効果ほとんど得られず、2重量部を超えると、不必要なワックスがゴム表面に染み出してくるため加工性に問題を生じる。
【0024】
さらに成形性を向上させる必要がある場合には、加工助剤として可塑剤が適宜添加される。成形性に問題がない場合には加工助剤を添加する必要はない。添加する場合の添加量は、原料ゴム100重量部に対して3〜20重量部とする。必要以上に添加すると、ゴム組成物が軟化するとともに、完全に混合されずにブリードアウトが生じる恐れがある。
【0025】
可塑剤の具体例としては、ジオクチルフタレート等のフタル酸ジエステル、アジペート系可塑剤、セバケート系可塑剤、ホスフェート系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤、液状ゴム等が挙げられる。これらのうち、環境ホルモン問題を考慮すると、フタル酸ジエステル以外のものを使用することが好ましい。
【0026】
カップリング剤としては、シラン系、アルミニウム系、チタネート系のカップリング剤、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
補強性充填剤としては、カーボンブラックや白色系充填剤が挙げられる。具体的に、カーボンブラックとしては、SAF(Super Abrasion Furnace black)、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace black) 、MAF(Medium Abrasion Furnace black) 、SRF(Simi −Reinforcing Furnace black)、GPF(General Purpose Furnace black) 、FT(Fine Thermal Furnace black)、MT(Medium Thermal Furnace black)、HAF(High Abrasion Furnace black)、FEF(Fast Extruding Furnace black)等を例示することができる。これらのうち、補強性および追従性を考慮すると、HAF、FEF、およびSRFが好ましい。
【0027】
白色系充填剤としては、各種シリカ、塩基性炭酸マグネシウム、活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、超微分ケイ酸マグネシウム、クレー、タルク、珪藻土、ウォラストナイト等が挙げられる。カーボンブラックと白色系充填剤を混合した補強性充填剤を用いてもよい。
補強性充填剤が添加されたゴム組成物を用いると、リップ部の耐摩耗性が高くなる。その結果、シールのリップ部による密封性能が向上する。補強性充填剤の添加量は、カーボンブラックの場合、原料ゴム100重量部に対して20〜90重量部とする。20重量部未満であると十分な補強性が発現されず、また、90重量部を超えると、ゴム組成物の硬度が高くなるとともに伸び率が低くなり、本来有するゴム弾性が低下する。
【0028】
白色系補強剤の場合、補強性充填剤の添加量は、原料ゴム100重量部に対し20〜150重量部とする。補強性充填剤の添加量が20重量部未満であると十分な補強性が発現されず、150重量部を超えると、ゴム組成物の硬度が高くなるとともに伸び率が低くなり、本来有するゴム弾性が低下する。
補強性充填剤としてカーボンブラックと白色系補強剤との混合物を用いる場合は、原料ゴム100重量部に対して、カーボンブラック10〜90重量部、白色系補強剤10〜110重量部の範囲で、合計含有量が20〜200重量部となるようにする。補強性充填剤の合計含有量が20重量部未満であると十分な補強性が発現されず、200重量部を超えると、ゴム組成物の硬度が高くなるとともに伸び率が低くなり、本来有するゴム弾性が低下する。
【0029】
摩耗改良剤としては、ポリオレフィン粒子や球状炭素微粒子等が挙げられる。ポリオレフィン粒子としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン製の粒子、好ましくは、カルボキシル変性ポリエチレン(無水マレイン酸変性ポリエチレン) 、カルボキシル変性ポリプロピレン(無水マレイン酸変性ポリプロピレン) 製の粒子が挙げられる。
【0030】
ポリエチレン及びポリプロピレンは、カルボキシル変性されると、構造中のカルボキシル基によって各種ゴムや酸化物等に吸着しやすくなる。また、原料ゴムにカルボキシル変性ニトリルゴムを用いた場合は、ゴム中に存在するカルボキシル基も同様の効果を有するので、これらの相乗効果によって、引張強度、耐摩耗性、耐屈曲疲労性等の機械的強度がより向上すると考えられる。
【0031】
ポリオレフィン粒子の添加量は、ゴム組成物の耐摩耗性と他の物性とのバランスから、原料ゴム100重量部に対し10〜60重量部とすることが好ましい。10重量部未満であると、耐摩耗性を向上させる効果が低い。逆に60重量部を超えるとゴム組成物の硬度が上昇し且つ伸び率が低くなって、ゴム弾性が低下する。
【0032】
潤滑油(液状の潤滑剤)としては、鉱油、エーテル系オイル、シリコーン系オイル、ポリα−オレフィンオイル、フッ素オイル、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。この中でもシリコーン系オイルがより好ましく、さらに、官能基を有する変性シリコーンオイルが特に好ましい。変性シリコーンオイルの官能基としては、アミノ基、アルキル基、エポキシ基、ポリエーテル基、高級脂肪酸エステル等が挙げられる。この官能基がゴムの主鎖と反応するか、主鎖に吸着することにより、オイルがゴム組成物の表面に一度に染み出すことを防ぐと同時に、徐々に恒久的に染み出すようになると考えられる。潤滑油は液状であるのでゴム組成物の表面に染み出し易く、少量であっても効果がある。
【0033】
潤滑油の添加量は、原料ゴム100重量部に対して1〜30重量部とする。これにより、ゴム組成物の潤滑性が向上する。潤滑油の添加量が1重量部未満であると十分な潤滑性が発現されず、30重量部を超えるとゴムの加工時に添加物の分散不良が生じたり、シールを構成する芯金との接着性が極端に低下する恐れがあるため好ましくない。添加する潤滑油の粘度は、25℃における動粘度が2〜10000mm2 /sの範囲内であるものが、配合性の容易さの点から好ましい。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
ゴム組成物の材料として以下のものを用意した。
☆原料ゴムA:アクリルゴム(トウペ株式会社製「AR620」)
☆原料ゴムB:アクリルゴム(日本メクトロン株式会社製「NOXTITE602」)
☆カーボンブラック:HAF(東海カーボン株式会社製「シースト3」)
☆シリカ:含水シリカ(日本シリカ工業株式会社製「ニップシールAQ」)
☆加硫剤(架橋剤):有機過酸化物(日本油脂株式会社製「ペロキシモンF40」)
☆架橋促進助剤A:ステアリン酸(花王株式会社製「Lunac S −35」)
☆架橋促進助剤B:N,N’−m−フェニレンジマレイド(大内新興化学工業株式会社製「バルノックPM−P」)
☆老化防止剤A:2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(日本メクトロン株式会社製「ケミノックスCL−T−Y」)
☆老化防止剤B:4 ,4 −ビス−(α、α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラックCD」)
☆カップリング剤:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製「KBM803」)
下記の表1に示す組成のNo. 1〜4のゴム組成物を用意した。
【0035】
【表1】
【0036】
これらのゴム組成物を用いて以下の方法により、図2に示す構造のシール1を作製した。このシール1は、軸受幅方向中央から外側に向けて斜め下方に延びるリップ部13aと、軸受幅方向外側から中央に向けて斜め下方に延びるリップ部13bの両方を備えている。また、このシールの各寸法は、内径:17mm、外径:52mm、幅:16mmの単列深溝玉軸受用に合わせた寸法とした。
【0037】
先ず、加硫剤および加硫促進剤を除いた各材料をバンバリーミキサーに投入し、ミキサー温度80℃で混練を行った(第1混練工程)。次に、この混練された材料をバンバリーミキサーから取り出して、2本ロールのゴム用練りロール機に投入した。次に、ロール温度を50℃に制御しながら、このロール機内に加硫剤および加硫促進剤を投入して、均一になるまで切り返し操作を行った(第二混練工程)後、シート状に形成した。
【0038】
次に、このシート状物とSPCC製の芯金2をシール形成用の加硫金型内に入れ、加熱加圧成形することによって、No. 1〜4の各ゴム組成物からなる加硫成形体を、弾性体3として芯金2の外側に一体に成形した。これにより、弾性体3がNo. 1〜4の各ゴム組成物からなる4種類のシール1を得た。
この試験片を用い、「JIS K 7244−4」に基づいて、雰囲気温度20〜70℃で、正弦振動の荷重を付与する動的粘弾性試験を行って損失正接(tan δ)を求めた。試験機としては、レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製の粘弾性測定装置「RSA−III 」を用い、測定モード:円形プレートを用いた曲げモード、測定周波数:10Hz、初期歪み:0.3mm、動的歪み振幅:0.1mmの条件で試験を行った。
【0039】
すなわち、図3に示すように、外輪4にシール1を組み込んだ転がり軸受を、側面を上に向けて置き、先ず、リップ部13を上側から円形プレート7で押すことで初期歪み(L=0.3mm)を加えた。次に、この状態から、周波数10Hz、振幅0.1mmの条件で円形プレート7を上下させて、応力に対する歪みの位相の遅れ角度(損失角:δ)を測定した。この測定値から、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)を算出し、その最大値を調べた。
【0040】
その結果を、下記の表2に示す。
また、得られた各シール(弾性体3がNo. 1〜4の各成形体からなるシール)1を、前述の単列深溝玉軸受の内輪5と外輪4の間に組み込んだ。この軸受を水中に完全に浸漬した状態で回転することにより、軸受内部への浸水程度を調べた。試験条件は、サンプル数:各10個、封入グリース:エーテル系グリース、浸漬水の温度:25℃、プーリ荷重(ベルト回転で使用するプーリに対する荷重):200N、回転輪:外輪、回転速度:3000rpm、回転時間:10時間とした。試験終了後に軸受内部への浸水量を測定して、軸受内部への浸水量が0.3g以下の場合を「○」、0.3g以上1.0g以下を「△」、1.0gを超える場合を「×」とした。
これらの試験結果を、下記の表2に併せて示す。
【0041】
【表2】
【0042】
この表から分かるように、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体からなる弾性体3を有するシール1を組み込んだ転がり軸受は、軸受内部への浸水量が0.3g以下であったのに対して、前記損失正接(tan δ)の最大値が1.3を超えるゴム成形体からなる弾性体3を有するシール1を組み込んだ転がり軸受は、軸受内部への浸水量が1.0gを超えていた。
【0043】
ここで、損失正接(tan δ)が小さいゴム成形体は弾性成分比が大きく、損失正接(tan δ)が大きいゴム成形体は粘性成分比が大きい。そして、前記損失正接(tan δ)の最大値が1.3を超えると、粘性成分比が大きすぎることにより、ゴム成形体の遠心力による変形量が大きくなって、リップ部のシール接触面に対する摺接力が低下し、リップ部とシール接触面との間に微小な隙間が生じ易くなったと考えられる。
【0044】
なお、上記実施形態では、シール1の弾性体3の全体を、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体で形成しているが、本発明のシールは、少なくともリップ部13が、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体で形成されていればよい。
また、上記実施形態では、転がり軸受用のシールについて述べているが、本発明のシールは、これら以外にも、例えば、自動車用ハブユニット、ハブユニット軸受、リニアガイド装置、ボールねじ等用としても好適である。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シールのリップ部を構成するゴム成形体の温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値を特定することによって、多量の水分や塵埃が存在する劣悪な環境下で使用されても、良好な密封性能を確保することができる。
したがって、本発明のシールを、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、水ポンプ、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ、コンプレッサ等の高温、高速、高荷重条件下で使用され、しかも水が混入しやすい部位で使用される転がり軸受に組み込むことにより、寿命の長い転がり軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】シールの付いた転がり軸受の一例を示す断面図である。
【図2】実施形態において作製した転がり軸受用シールの形状を示す断面図である。
【図3】実施形態で行った動的粘弾性試験を説明するための図である。
【符号の説明】
1 シール
11 主部
12 加締部
13 リップ部
2 芯金
3 弾性体
4 外輪
41 止め溝
5 内輪
51 受け溝
7 円形プレート
【発明の属する技術分野】
本発明は、転がり軸受等の密封装置として使用される接触型のシール(すなわち、相対移動する二つの部材間を塞ぎ、一方の部材に接触させるリップ部を有し、他方の部材に固定して使用されるシール)、およびこれを備えた転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、転がり軸受には、転動体の設置部分に存在するグリースや使用時に発生したダストが外部に漏洩したり、外部に浮遊する塵芥が転動体の設置部分に進入したりするのを防ぐために、外輪と内輪との間にシールが取り付けられることがある。このようなシールの付いた転がり軸受の一例を図1に示す。
【0003】
この図の転がり軸受は両側にシールの付いた両シール軸受であり、そのシール1は、外周に鉤部を有するリング状の芯金2と、その外側に合成ゴムを一体に加硫成形してなる弾性体3とで構成されている。このシールは、その機能上から、芯金の鉤部以外とその外側の弾性体とからなる円環状の主部11と、芯金の鉤部とその外側の弾性体とからなり外輪内面の止め溝41に係止される加締部12と、芯金の内周側の弾性体からなり内輪外周面の受け溝51に摺接(摺り接触)されるリップ部13とに分けられる。
【0004】
そして、このシール1は、リップ部13を内輪外周面の受け溝51に接触させた状態で、加締部12を弾性変形させながら外輪内周面の止め溝41に押し込むことによって、転がり軸受の外輪4と内輪5との間に配設される。
これらのシールの一般的な材料は、芯金としてはSPCCやSECCなどの鋼板が、リップ等を形成する弾性体としてはニトリルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムが使用されている。
【0005】
一般に、転がり軸受の耐久寿命は、潤滑剤中に水分が混入すると大きく低下する。例えば下記の非特許文献1には、潤滑油(#180 タービン油) に6%の水が混入すると、混入がない場合に比べて「数分の1」〜「20分の1」に転がり疲れ強さが低下することが報告されている。また、下記の非特許文献2には、潤滑油中にわずか100ppmの水分が混入するだけで、鋼の転がり強さが32〜48%も低下することが報告されている。
【0006】
したがって、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、水ポンプ、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ、コンプレッサ等の高温、高速、高荷重条件下で使用され、しかも水が混入しやすい部位で使用される転がり軸受では、前記シールによりリップ部とシール接触面との間を確実に塞ぐ必要がある。例えば、エンジン外部にあるベルト駆動の補助機械用軸受は、路面より跳ね上げられる泥水や雨水が浸入しやすく、水ポンプ用軸受では更にエンジン冷却用循環水の浸入も受けやすい。
【0007】
なお、下記の特許文献1には、高温、高速、高荷重条件で使用され、外部からの水の浸入を受ける転がり軸受について、水素による白色組織変化を伴う剥離を起こすことなく、寿命を長くするために、使用するグリースの組成を特定することが開示されている。
【0008】
【非特許文献1】
古村恭三郎,城田伸一,平川清,「表面起点および内部起点の転がり疲れについて」,NSK Bearing Journal, No.636, pp.1-10,1977
【非特許文献2】
P.Schatzberg,I.M.Felsen,「Effects of water and oxygen duringrolling contact Iubrication」,wear,12,pp.331-342, 1968
【特許文献1】
特開2002−195277号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、転がり軸受の使用環境が、多量の水分や塵埃が存在する劣悪な環境下である場合には、使用を続けているうちにシールのリップ部の弾力性が低下したり、リップ部が欠けたりすることにより、リップ部のシール接触面(シールのリップ部と接触する相手部材の面)に対する摺接力(摺り接触する力)が低下して、リップ部とシール接触面との間に微小な隙間ができると、この隙間から水分や塵埃が軸受内部に侵入することになる。その結果、グリースが劣化して軸受の寿命が低下する恐れがある。
【0010】
本発明は、このような従来技術に着目してなされたものであり、転がり軸受、自動車用ハブユニット、ハブユニット軸受、リニアガイド装置、ボールねじ等に使用されるシールにおいて、多量の水分や塵埃が存在する劣悪な環境下で使用されても、良好な密封性能が確保できるシールを提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を解決するために、本発明は、相対移動する二つの部材間を塞ぎ、一方の部材に接触させるリップ部を有し、他方の部材に固定して使用されるシールにおいて、前記リップ部は、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体からなることを特徴とするシールを提供する。
【0012】
粘弾性体に正弦波形の応力とひずみが作用する場合には、ひずみが応力よりも遅れて生じるが、この応力に対するひずみの位相の遅れ角度を損失角(δ)と言う。損失正接(tan δ)はこの損失角(δ)の正接であって、変形の間に熱として散逸されるエネルギー量の尺度となる。ゴム成形体の損失正接(tan δ)の値は、ゴム成形体に正弦振動の荷重を付与する動的粘弾性試験を行うことによって測定される。
【0013】
本発明における「温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値」とは、正弦振動の荷重を付与する動的粘弾性試験を行うことで測定される損失正接(tan δ)の、試験雰囲気温度20℃〜70℃での最大値を意味する。
本発明の転動装置用シールにおいて、リップ部の硬度は、「JIS K6301」に記載のスプリング硬さAスケールで、40〜90の範囲であることが好ましい。これにより、シールのリップ部による密封性が良好になる。
【0014】
リップ部の硬さが40未満であると、シールが回転する際にリップ部が必要以上に変形して、リップ部に発熱やトルク上昇が生じ易くなる。その結果、転動装置の運転時の摩擦抵抗が大きくなり、スムーズな回転運動が困難になる場合がある。また、90を超えると、ゴム弾性が低下してリップ部のシール接触面に対する摺接力が不十分となり、十分な密封性が得られなくなる。特に好ましいリップ部の硬度は、スプリング硬さAスケールで50〜80の範囲である。
【0015】
本発明のシールのリップ部をなすゴム成形体は、原料ゴムに、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、補強剤、可塑剤、カップリング剤等の配合剤を必要に応じて適宜配合したゴム組成物を、加硫成形することにより得られる。このゴム組成物には、また、必要に応じて補強性充填剤、加工助剤、摩耗改良剤、潤滑油等を添加することができる。なお、ゴム組成物に対する補強性充填剤、摩耗改良剤等の添加量を調整することによって、所定硬度のゴム成形体を得ることができる。
【0016】
このゴム組成物の各成分の具体例について、以下に説明する。
原料ゴムとしては、NR(天然ゴム)、IR(イソプレンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、IIR(ブチルゴム)、EDPM(エチレンプロピレンゴム)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等を使用することができる。
【0017】
アクリロニトリルブタジエンゴム(「ニトリルゴム」とも称される。)には、アクリロニトリル含有量により、低ニトリルNBR、中ニトリルNBR、中高ニトリルNBR、高ニトリルNBR、極高ニトリルNBR等がある。このうち、摺接性、耐摩耗性、耐熱性、および耐寒性の点で特に中高ニトリルNBRが好ましい。
【0018】
また、イソプレンを共重合させたアクリロニトリルブタジエンイソプレンゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴム、およびカルボキシ化水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム等の変性アクリロニトリルブタジエンゴムを、単独でまたは二種類以上を混合して用いてもよい。
【0019】
これらのうち、アクリルゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム等は、強度と延び、および高温特性に優れているため好ましい。
加硫剤(架橋剤)としては、▲1▼粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、高分散性硫黄などの各種硫黄、▲2▼モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、N,N−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2 H−アゼピノン−2 )−チウラムポリスルフィドなどの硫黄を排出可能な硫黄化合物、▲3▼ジクミルパーオキサイト・ジ(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチルヘキサン、ベンゾイルパーオキサイト等の過酸化物等が挙げられる。これらのうち、分散性、取扱いの容易さ、および耐熱性の点で、高分散性硫黄やモルホリンジスルフィド、あるいは過酸化物架橋剤を使用することが好ましい。
【0020】
加硫(架橋)促進剤としては、硫黄系の加硫剤を用いた場合には、グアニジン系,アルデビド−アンモニア系,チアゾール系,スルフェンアミド系,チオ尿素系,チウラム系,ジチオカルバメート系,ザンテート系等を用いる必要がある。このうち高分散性硫黄を少量配合した場合には、チウラム系のテトラメチルチウラムジスルフィド等やスルフェンアミド系のN−シクロベンジル−2−ベンゾチアジルまたはスルフェンアミドと、チアゾール系の2−メルカプトベンゾチアゾール等とを併用することが好ましい。
【0021】
加硫(架橋)促進助剤としては、酸化亜鉛等の金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物、ステアリン酸等の脂肪酸とその誘導体、及びアミン類などが挙げられる。原料ゴムとしてカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴムを用いた場合は、酸化亜鉛により早期加硫を生じやすいので、過酸化亜鉛とステアリン酸の組み合わせが好ましい。過酸化亜鉛は、アクリロニトリルブタジエンゴム組成物の混練加工時の温度ではそのままゴム組成物中に存在し、加硫成形時に酸化亜鉛を生じるため、混練加工時及び保管時に早期加硫を生じることがない。
【0022】
酸化劣化を防止する老化防止剤としては、アミン−ケトン縮合生成物、芳香族第二級アミン類、モノフェノール誘導体、ビス又はポリフェノール誘導体、ビドロキノン誘導体、硫黄系老化防止剤、リン系老化防止剤等があげられる。このうち、アミン−ケトン縮合生成物系の2,2,4−トリメチル−1,2−ジビドロキノリン重合体またはジフェニルアミンとアセトンとの縮合反応物、芳香族第二級アミン系であるN,N’−ジ−β- ナフチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−ビス−(α,α−ジメチルベンジル) ジフェニルアミン、またはN−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ビドロキシプロピル) −p−フェニレンジアミン等が好ましい。
【0023】
また、熱分解を防止して耐熱性を向上するため、上記の老化防止剤とともに2次老化防止剤を併用することがより好ましい。2次老化防止剤としては、硫黄系の2 −メルカプトベンズイミダゾール、2 −メルカプトメチルベンズイミダゾール及びこれらの亜鉛塩等があげられる。
更に、日光あるいはオゾンの作用による亀裂を抑制させる日光亀裂防止剤として、融点が55〜70℃程度のワックス類を、原料ゴム100重量部に対して0.5〜2.0重量部程度添加してもよい。0.5重量部未満であると、オゾンの作用による亀裂を防止する効果ほとんど得られず、2重量部を超えると、不必要なワックスがゴム表面に染み出してくるため加工性に問題を生じる。
【0024】
さらに成形性を向上させる必要がある場合には、加工助剤として可塑剤が適宜添加される。成形性に問題がない場合には加工助剤を添加する必要はない。添加する場合の添加量は、原料ゴム100重量部に対して3〜20重量部とする。必要以上に添加すると、ゴム組成物が軟化するとともに、完全に混合されずにブリードアウトが生じる恐れがある。
【0025】
可塑剤の具体例としては、ジオクチルフタレート等のフタル酸ジエステル、アジペート系可塑剤、セバケート系可塑剤、ホスフェート系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤、液状ゴム等が挙げられる。これらのうち、環境ホルモン問題を考慮すると、フタル酸ジエステル以外のものを使用することが好ましい。
【0026】
カップリング剤としては、シラン系、アルミニウム系、チタネート系のカップリング剤、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
補強性充填剤としては、カーボンブラックや白色系充填剤が挙げられる。具体的に、カーボンブラックとしては、SAF(Super Abrasion Furnace black)、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace black) 、MAF(Medium Abrasion Furnace black) 、SRF(Simi −Reinforcing Furnace black)、GPF(General Purpose Furnace black) 、FT(Fine Thermal Furnace black)、MT(Medium Thermal Furnace black)、HAF(High Abrasion Furnace black)、FEF(Fast Extruding Furnace black)等を例示することができる。これらのうち、補強性および追従性を考慮すると、HAF、FEF、およびSRFが好ましい。
【0027】
白色系充填剤としては、各種シリカ、塩基性炭酸マグネシウム、活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、超微分ケイ酸マグネシウム、クレー、タルク、珪藻土、ウォラストナイト等が挙げられる。カーボンブラックと白色系充填剤を混合した補強性充填剤を用いてもよい。
補強性充填剤が添加されたゴム組成物を用いると、リップ部の耐摩耗性が高くなる。その結果、シールのリップ部による密封性能が向上する。補強性充填剤の添加量は、カーボンブラックの場合、原料ゴム100重量部に対して20〜90重量部とする。20重量部未満であると十分な補強性が発現されず、また、90重量部を超えると、ゴム組成物の硬度が高くなるとともに伸び率が低くなり、本来有するゴム弾性が低下する。
【0028】
白色系補強剤の場合、補強性充填剤の添加量は、原料ゴム100重量部に対し20〜150重量部とする。補強性充填剤の添加量が20重量部未満であると十分な補強性が発現されず、150重量部を超えると、ゴム組成物の硬度が高くなるとともに伸び率が低くなり、本来有するゴム弾性が低下する。
補強性充填剤としてカーボンブラックと白色系補強剤との混合物を用いる場合は、原料ゴム100重量部に対して、カーボンブラック10〜90重量部、白色系補強剤10〜110重量部の範囲で、合計含有量が20〜200重量部となるようにする。補強性充填剤の合計含有量が20重量部未満であると十分な補強性が発現されず、200重量部を超えると、ゴム組成物の硬度が高くなるとともに伸び率が低くなり、本来有するゴム弾性が低下する。
【0029】
摩耗改良剤としては、ポリオレフィン粒子や球状炭素微粒子等が挙げられる。ポリオレフィン粒子としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン製の粒子、好ましくは、カルボキシル変性ポリエチレン(無水マレイン酸変性ポリエチレン) 、カルボキシル変性ポリプロピレン(無水マレイン酸変性ポリプロピレン) 製の粒子が挙げられる。
【0030】
ポリエチレン及びポリプロピレンは、カルボキシル変性されると、構造中のカルボキシル基によって各種ゴムや酸化物等に吸着しやすくなる。また、原料ゴムにカルボキシル変性ニトリルゴムを用いた場合は、ゴム中に存在するカルボキシル基も同様の効果を有するので、これらの相乗効果によって、引張強度、耐摩耗性、耐屈曲疲労性等の機械的強度がより向上すると考えられる。
【0031】
ポリオレフィン粒子の添加量は、ゴム組成物の耐摩耗性と他の物性とのバランスから、原料ゴム100重量部に対し10〜60重量部とすることが好ましい。10重量部未満であると、耐摩耗性を向上させる効果が低い。逆に60重量部を超えるとゴム組成物の硬度が上昇し且つ伸び率が低くなって、ゴム弾性が低下する。
【0032】
潤滑油(液状の潤滑剤)としては、鉱油、エーテル系オイル、シリコーン系オイル、ポリα−オレフィンオイル、フッ素オイル、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。この中でもシリコーン系オイルがより好ましく、さらに、官能基を有する変性シリコーンオイルが特に好ましい。変性シリコーンオイルの官能基としては、アミノ基、アルキル基、エポキシ基、ポリエーテル基、高級脂肪酸エステル等が挙げられる。この官能基がゴムの主鎖と反応するか、主鎖に吸着することにより、オイルがゴム組成物の表面に一度に染み出すことを防ぐと同時に、徐々に恒久的に染み出すようになると考えられる。潤滑油は液状であるのでゴム組成物の表面に染み出し易く、少量であっても効果がある。
【0033】
潤滑油の添加量は、原料ゴム100重量部に対して1〜30重量部とする。これにより、ゴム組成物の潤滑性が向上する。潤滑油の添加量が1重量部未満であると十分な潤滑性が発現されず、30重量部を超えるとゴムの加工時に添加物の分散不良が生じたり、シールを構成する芯金との接着性が極端に低下する恐れがあるため好ましくない。添加する潤滑油の粘度は、25℃における動粘度が2〜10000mm2 /sの範囲内であるものが、配合性の容易さの点から好ましい。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
ゴム組成物の材料として以下のものを用意した。
☆原料ゴムA:アクリルゴム(トウペ株式会社製「AR620」)
☆原料ゴムB:アクリルゴム(日本メクトロン株式会社製「NOXTITE602」)
☆カーボンブラック:HAF(東海カーボン株式会社製「シースト3」)
☆シリカ:含水シリカ(日本シリカ工業株式会社製「ニップシールAQ」)
☆加硫剤(架橋剤):有機過酸化物(日本油脂株式会社製「ペロキシモンF40」)
☆架橋促進助剤A:ステアリン酸(花王株式会社製「Lunac S −35」)
☆架橋促進助剤B:N,N’−m−フェニレンジマレイド(大内新興化学工業株式会社製「バルノックPM−P」)
☆老化防止剤A:2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(日本メクトロン株式会社製「ケミノックスCL−T−Y」)
☆老化防止剤B:4 ,4 −ビス−(α、α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラックCD」)
☆カップリング剤:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製「KBM803」)
下記の表1に示す組成のNo. 1〜4のゴム組成物を用意した。
【0035】
【表1】
【0036】
これらのゴム組成物を用いて以下の方法により、図2に示す構造のシール1を作製した。このシール1は、軸受幅方向中央から外側に向けて斜め下方に延びるリップ部13aと、軸受幅方向外側から中央に向けて斜め下方に延びるリップ部13bの両方を備えている。また、このシールの各寸法は、内径:17mm、外径:52mm、幅:16mmの単列深溝玉軸受用に合わせた寸法とした。
【0037】
先ず、加硫剤および加硫促進剤を除いた各材料をバンバリーミキサーに投入し、ミキサー温度80℃で混練を行った(第1混練工程)。次に、この混練された材料をバンバリーミキサーから取り出して、2本ロールのゴム用練りロール機に投入した。次に、ロール温度を50℃に制御しながら、このロール機内に加硫剤および加硫促進剤を投入して、均一になるまで切り返し操作を行った(第二混練工程)後、シート状に形成した。
【0038】
次に、このシート状物とSPCC製の芯金2をシール形成用の加硫金型内に入れ、加熱加圧成形することによって、No. 1〜4の各ゴム組成物からなる加硫成形体を、弾性体3として芯金2の外側に一体に成形した。これにより、弾性体3がNo. 1〜4の各ゴム組成物からなる4種類のシール1を得た。
この試験片を用い、「JIS K 7244−4」に基づいて、雰囲気温度20〜70℃で、正弦振動の荷重を付与する動的粘弾性試験を行って損失正接(tan δ)を求めた。試験機としては、レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製の粘弾性測定装置「RSA−III 」を用い、測定モード:円形プレートを用いた曲げモード、測定周波数:10Hz、初期歪み:0.3mm、動的歪み振幅:0.1mmの条件で試験を行った。
【0039】
すなわち、図3に示すように、外輪4にシール1を組み込んだ転がり軸受を、側面を上に向けて置き、先ず、リップ部13を上側から円形プレート7で押すことで初期歪み(L=0.3mm)を加えた。次に、この状態から、周波数10Hz、振幅0.1mmの条件で円形プレート7を上下させて、応力に対する歪みの位相の遅れ角度(損失角:δ)を測定した。この測定値から、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)を算出し、その最大値を調べた。
【0040】
その結果を、下記の表2に示す。
また、得られた各シール(弾性体3がNo. 1〜4の各成形体からなるシール)1を、前述の単列深溝玉軸受の内輪5と外輪4の間に組み込んだ。この軸受を水中に完全に浸漬した状態で回転することにより、軸受内部への浸水程度を調べた。試験条件は、サンプル数:各10個、封入グリース:エーテル系グリース、浸漬水の温度:25℃、プーリ荷重(ベルト回転で使用するプーリに対する荷重):200N、回転輪:外輪、回転速度:3000rpm、回転時間:10時間とした。試験終了後に軸受内部への浸水量を測定して、軸受内部への浸水量が0.3g以下の場合を「○」、0.3g以上1.0g以下を「△」、1.0gを超える場合を「×」とした。
これらの試験結果を、下記の表2に併せて示す。
【0041】
【表2】
【0042】
この表から分かるように、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体からなる弾性体3を有するシール1を組み込んだ転がり軸受は、軸受内部への浸水量が0.3g以下であったのに対して、前記損失正接(tan δ)の最大値が1.3を超えるゴム成形体からなる弾性体3を有するシール1を組み込んだ転がり軸受は、軸受内部への浸水量が1.0gを超えていた。
【0043】
ここで、損失正接(tan δ)が小さいゴム成形体は弾性成分比が大きく、損失正接(tan δ)が大きいゴム成形体は粘性成分比が大きい。そして、前記損失正接(tan δ)の最大値が1.3を超えると、粘性成分比が大きすぎることにより、ゴム成形体の遠心力による変形量が大きくなって、リップ部のシール接触面に対する摺接力が低下し、リップ部とシール接触面との間に微小な隙間が生じ易くなったと考えられる。
【0044】
なお、上記実施形態では、シール1の弾性体3の全体を、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体で形成しているが、本発明のシールは、少なくともリップ部13が、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.3以下であるゴム成形体で形成されていればよい。
また、上記実施形態では、転がり軸受用のシールについて述べているが、本発明のシールは、これら以外にも、例えば、自動車用ハブユニット、ハブユニット軸受、リニアガイド装置、ボールねじ等用としても好適である。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シールのリップ部を構成するゴム成形体の温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値を特定することによって、多量の水分や塵埃が存在する劣悪な環境下で使用されても、良好な密封性能を確保することができる。
したがって、本発明のシールを、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、水ポンプ、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ、コンプレッサ等の高温、高速、高荷重条件下で使用され、しかも水が混入しやすい部位で使用される転がり軸受に組み込むことにより、寿命の長い転がり軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】シールの付いた転がり軸受の一例を示す断面図である。
【図2】実施形態において作製した転がり軸受用シールの形状を示す断面図である。
【図3】実施形態で行った動的粘弾性試験を説明するための図である。
【符号の説明】
1 シール
11 主部
12 加締部
13 リップ部
2 芯金
3 弾性体
4 外輪
41 止め溝
5 内輪
51 受け溝
7 円形プレート
Claims (2)
- 相対移動する二つの部材間を塞ぎ、一方の部材に接触させるリップ部を有し、他方の部材に固定して使用されるシールにおいて、
前記リップ部は、温度20℃〜70℃での損失正接(tan δ)の最大値が1.30以下であるゴム成形体からなることを特徴とするシール。 - 請求項1記載のシールを備えている転がり軸受。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002372965A JP2004204914A (ja) | 2002-12-24 | 2002-12-24 | シールおよびこれを備えた転がり軸受 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002372965A JP2004204914A (ja) | 2002-12-24 | 2002-12-24 | シールおよびこれを備えた転がり軸受 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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Family Applications (1)
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006275232A (ja) * | 2005-03-30 | 2006-10-12 | Ntn Corp | 密封型転がり軸受 |
JP2009127661A (ja) * | 2007-11-20 | 2009-06-11 | Jtekt Corp | 密封装置 |
-
2002
- 2002-12-24 JP JP2002372965A patent/JP2004204914A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2006275232A (ja) * | 2005-03-30 | 2006-10-12 | Ntn Corp | 密封型転がり軸受 |
JP2009127661A (ja) * | 2007-11-20 | 2009-06-11 | Jtekt Corp | 密封装置 |
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