JP2004204312A - 高靭性工具の製造方法、及び高靭性工具 - Google Patents

高靭性工具の製造方法、及び高靭性工具 Download PDF

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Abstract

【課題】結晶粒が微細化されており、使用中の破損等を防止し得る高靭性工具を効率よく製造することのできる新規な方法を提供する。
【解決手段】C :0.40〜0.85%(質量%、以下同じ),
Si:2.0%以下(0%を含まない),
Mn:2.0%以下(0%を含まない),
Cr:3.0%以下(0%を含まない),
Al:0.1%以下(0%を含まない),及び
N :0.007〜0.015%
を含有する鋼材を調質処理するに当たり、
オーステナイト域温度に加熱した後、Ar3変態点〜(Ar3変態点+50℃)まで冷却し、該温度域から焼入れする方法である。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、靭性に優れた高靭性工具を製造する方法に関するものである。本発明法は特に、焼入れ性が高い細径鋼材を調質処理するのに極めて有用であり、本発明法を採用すれば、結晶粒が微細化されて高靭性を確保できるのみならず;変態応力のバラツキが著しく低減され、焼割れも防止できるので焼入れ後の曲がりが非常に少なく、部品精度が向上する為、高靭性且つ高精度の工具を得ることができる。従って、本発明の方法は、特にエアードライバーや電動ドライバー等のビット、レンチ等の工具を製造するのに極めて有用である。
【0002】
【従来の技術】
ビットやレンチ等の工具は、使用中に折損すると破面で切傷したり、破片が飛散して撲傷する等し、多大な危険をもたらす為、工具の折損は致命的である。また、電動ドライバー用ビットの曲がりが大きいと、締結に支障をきたし、更には折損する恐れもある。
【0003】
そこで上記問題を防止すべく、例えば特許文献1には、マルテンサイト開始点(約180〜280℃)の温度よりも0〜50℃高い温度範囲内(約270〜280℃以下)でベイナイト焼入れを行い、ベイナイト焼入れを膨張計で測定した変態率が75〜85%になる点で中止する方法が開示されており、これにより、高靭性及び高強度という全く相反する特性を備えた合金鋼が製造できる旨記載されている。具体的には、試験片を860℃における熱処理後に、230〜270℃の温度でベイナイト焼入れした実施例が掲載されている。しかしながら、上記方法は、焼入れ開始温度が約270〜280℃以下と非常に低く、しかもベイナイト変態率を膨張計で測定する等、焼入れ時の制御が極めて困難であり、生産効率が著しく低下するという問題を抱えている。また、上記方法では、オーステナイト化処理自体を860℃で行なっている為、炭化物の溶け残りが懸念され、硬度の低下を招く恐れがある。
【0004】
また、特許文献2には、Ni,Mo,Nb等の成分を適切に制御して耐摩耐衝撃強靭工具鋼を得る方法が開示されており、第1図には、Ac1変態終了温度+100℃(860℃)、+140℃(900℃)、+180℃(940℃)で焼入れし、焼戻し温度を室温から700℃までとした例;第2図及び第3図には、焼入温度を820℃、870℃、920℃とし、油焼入れした例;第4図には、上記鋼材を870℃で油焼入れし、焼戻し(油冷)した例が示されている。しかしながら、上記特許文献2の如く高温域から直接焼入れすると、特に焼入れ性が高い成分系からなる細径工具を製造する場合、焼入れ後の直線精度に劣り、縦割れの恐れがあることが、本発明者らの検討結果により明らかになった。
【0005】
【特許文献1】
特公昭63−12934号公報(特許請求の範囲、第3欄、実施例)
【特許文献2】
特公昭59−25027号公報(特許請求の範囲、第1〜4図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、結晶粒が微細化されており、使用中の破損等を防止し得る高靭性工具を製造することのできる新規な方法;特に、ビットやレンチ等の細径工具を効率よく製造する方法であって、靭性に優れると共に、変態応力のバラツキが著しく低減され、焼割れも防止できる結果、焼入れ後の曲がりが少ない高精度の細径工具を製造するのに好適な方法を提供することにある。
【0007】
本発明において、好ましい対象である「細径」鋼材は、被締結部と接触する断面の等価直径をDeq(mm)、理想臨界直径をDI(mm)としたとき、DIとDeqの比(R=DI/Deq)が20以上を満足するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る高靭性工具の製造方法は、
C :0.40〜0.85%(質量%、以下同じ),
Si:2.0%以下(0%を含まない),
Mn:2.0%以下(0%を含まない),
Cr:3.0%以下(0%を含まない),
Al:0.1%以下(0%を含まない),及び
N :0.007〜0.015%
を含有する鋼材を調質処理するに当たり、
オーステナイト域温度に加熱した後、Ar3変態点〜(Ar3変態点+50℃)まで冷却し、該温度域から焼入れするところに要旨を有するものである。
【0009】
また、上記課題を解決することのできた本発明に係る高靭性高精度工具の製造方法は、上記の成分を含有し、被締結部と接触する断面の等価直径をDeq(mm)、理想臨界直径をDI(mm)としたとき、DIとDeqの比(DI/Deq)が20以上の鋼材を調質処理するに当たり、
オーステナイト域温度に加熱した後、Ar3変態点〜(Ar3変態点+50℃)まで冷却し、該温度域から焼入れするところに要旨を有するものである。
【0010】
上記鋼材が更に、▲1▼Cu:2.0%以下(0%を含まない),Ni:2.0%以下(0%を含まない),及びMo:2.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するもの;▲2▼Ti:0.1%以下(0%を含まない),Nb:0.3%以下(0%を含まない),V:2.0%以下(0%を含まない),及びB:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものは、いずれも本発明の好ましい態様である。
【0011】
更に本発明には、上記方法によって得られた高靭性工具または高靭性高精度工具も本発明の範囲に包含される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、高靭性工具、とりわけ高精度をも兼ね備えた高靭性高精度の細径工具を生産性良く製造する方法について鋭意検討してきた。一般に工具には、高い硬度が要求される(通常、HRC56以上)為、焼入れ性の高い鋼材を原料として使用しており、特にビットやレンチ等の細径工具は、この様な鋼材を球状化焼鈍した後、先端部を切削し、その後、焼入れして製造される。細径工具は、被締結部と接触する断面が細く、且つ、焼入れ性が高い為、特許文献2に代表される如く、オーステナイト域温度等の高温域から直接、焼入れすると縦割れが発生し、引抜き加工された軸部は、変態応力のバラツキにより湾曲してしまい、工具精度が著しく低下することが、本発明者らの検討結果により明らかになった。
この様な問題点に鑑み、本発明者らは更に検討を重ねた結果、従来法の如く、高温域から直接焼入れするのではなく、オーステナイト域温度に加熱した後、Ar3変態点直上[具体的にはAr3変態点〜(Ar3変態点+50℃)の温度範囲]まで冷却し、当該温度域から焼入れするという、独自の二段焼入れ法を採用すれば所期の目的が達成され得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
以下、本発明法を特徴付ける焼入れ方法について詳述する。
【0014】
上述した通り、本発明法は、オーステナイト域温度に加熱した後、Ar3変態点〜(Ar3変態点+50℃)(以下、この温度域をT0と略記する場合がある)まで冷却し、該温度域から焼入れすること;換言すれば、二段焼入れするに当たり、焼入れ開始温度を上記温度域T0に制御した点に特徴がある。この様な独自の二段焼入れ法を採用することにより、結晶粒が微細化されて靭性が向上すること;特に本発明法を細径工具の製造に適用すると、靭性向上効果に加えて、工具精度が著しく向上することが明らかになった。
【0015】
本発明では、まず、オーステナイト域温度に加熱し、当該温度で所定時間保持する。具体的な条件は、成分組成やDeq、処理量(1バッチ当たりに処理する合計重量)等によっても相違するが、概ね、860〜900℃の範囲で約5分間〜2時間保持することが推奨される。例えば900℃で処理する場合には、Deq≦1.0mmでは10分間、1.0<Deq≦8.0mmでは20〜30分間保持することが推奨される。
【0016】
次いでAr3変態点〜(Ar3変態点+50℃)まで冷却する。この温度域T0は、所望の特性(高靭性、更には高精度)を確保する為に極めて重要であり、Ar3変態点未満では、オーステナイトとフェライトの二相域となり、強度が低下してしまう。一方、(Ar3変態点+50℃)を超えると、結晶粒微細化効果及び精度向上効果が有効に発揮されず、所望の特性を得ることができない。上記温度はAr3変態点に近い程、曲がりの程度が小さく、且つ、結晶粒も微細化される(後記する図2を参照)ことから、最も好ましいのはAr3変態点である。
【0017】
具体的には、鋼材断面全域が一様に上記温域T0となる様、オーステナイト域温度からT0までを、▲1▼徐冷[概ね、1.0℃/分以下(より好ましくは0.5℃/分以下)の平均冷却速度で冷却する]するか、若しくは、▲2▼急冷した後、T0の温度域で所定時間保持すればよい。上記▲1▼または▲2▼の方法は、鋼材断面全域を一様に上記の焼入れ開始温度(T0)に制御する為の方法であり、特に生産性等を考慮した場合、▲1▼の如く徐冷したときには、冷却中に鋼材全面が一様に所定の焼入れ開始温度となる為、当該温度で更に保持する必要はない。勿論、生産性よりも、より優れた精度・靭性を確保したい場合には、当該温度で更に保持してもよく(保持時間は、後記する▲2▼の場合と同様である)、この様な態様も本発明の範囲内に包含されることはいうまでもない。一方、上記▲2▼の如く急冷した場合には、鋼材全面が上記温度域となる様、当該温度域T0で更に保持する必要がある。この保持時間は処理量等によっても相違するが、概ね、被締結部と接触する断面の等価直径Deq(mm)の2倍(分)以上、より好ましくはDeq(mm)の5倍(分)以上の時間保持することが推奨される。保持時間の上限は特に限定されないが、生産効率等を考慮すると、Deq(mm)の20倍(分)以下に制御することが推奨される。
【0018】
本発明において、上記▲1▼、▲2▼のいずれの方法を採用するかについては、生産性等の観点から、冷却時間と保持時間の合計がより少なくなる途を選択すれば良い。一般的には連続炉を用い、オーステナイト化処理後、次の炉にてT0まで炉冷し、2×Deq(分間)以上保持した後、焼入れすることが推奨される。
【0019】
上記の様にしてT0まで冷却した後、焼入れする。この工程は、本発明では特に限定されず、油焼入れ、塩浴焼入れ等、細径工具を調質処理するに当たって通常採用される方法を適宜選択することができる。
【0020】
次に、本発明で使用する鋼材の化学成分について説明する。
【0021】
C:0.40〜0.85%
Cは、工具として使用するのに必要な硬度(HRC56以上)を確保する為に0.40%以上添加することが必要である。好ましくは0.50%以上である。
但し、0.85%を超えて添加すると加工性が劣化するので、その上限を0.85%とした。好ましくは0.75%以下である。
【0022】
Si:2.0%以下(0%を含まない)
Siは、フェライトの固溶強化に寄与し、工具の強度を高めるのに有用な元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、1.0%以上添加することが推奨される。但し、2.0%を超えて添加すると靭性が劣化するので、その上限を2.0%とする。
【0023】
Mn:2.0%以下(0%を含まない)
Mnは、溶製時の脱酸及び工具の強度向上を目的として添加される元素であり、この様な作用を有効に発揮させる為には0.1%以上添加することが推奨される。但し、2.0%を超えると焼入れ性が高くなり過ぎて焼き割れが発生したり、加工性を著しく劣化させる為、その上限を2.0%とした。好ましくは1.5%以下である。
【0024】
Cr:3.0%以下(0%を含まない)
Crは工具の強度向上に寄与する元素であり、この様な作用を有効に発揮させる為には、0.2%以上添加することが推奨される。但し、3.0%を超えて添加すると、焼入れ性が高くなり過ぎるため、その上限を3.0%とした。好ましくは2.5%以下である。
【0025】
Al:0.1%以下(0%を含まない)
Alは、溶製時の脱酸と工具の結晶粒微細化に寄与する元素であり、この様な作用を有効に発揮させる為に、0.001%以上添加することが推奨される。但し、0.1%を超えて過剰に添加すると、結晶粒が凝集し、結晶粒の成長を招く恐れがあるので、その上限を0.1%とする。好ましくは0.07%以下である。
【0026】
N:0.007〜0.015%
NはAlと結合してAlNを生成し、調質時のオーステナイト結晶粒を微細化させる元素であるが、0.007%未満ではこの様な効果は得られない。好ましくは0.08%以上である。しかしながら0.015%を超えて添加しても上記効果は飽和してしまい、時効脆化を生じ易くなるので、その上限を0.015%以下とした。
【0027】
本発明法は、上記成分を含有し、残部:鉄および不純物からなるが、その他、一層優れた作用を具備させることを目的として、下記元素を積極的に添加することが推奨される。
【0028】
Cu:2.0%以下(0%を含まない),Ni:2.0%以下(0%を含まない),及びMo:2.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素
これらの元素はいずれも、工具の強度向上に寄与する元素である。このうちCuは、更に脱炭を抑制する元素であり、Ni及びMoは靭性向上作用も有する元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、Cuを0.05%以上、Niを0.1%以上、Moを0.05%以上添加することが推奨される。但し、いずれの元素も2.0%を超えて添加すると、焼入れ性が高くなり過ぎる為、その上限を夫々、2.0%とすることが好ましい。
【0029】
これらの元素は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
【0030】
Ti:0.1%以下(0%を含まない),Nb:0.3%以下(0%を含まない),V:2.0%以下(0%を含まない),及びB:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素
これらの元素はいずれも窒化物を形成して調質時のオーステナイト結晶粒を微細化する元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、Tiを0.003%以上、Nbを0.01%以上、Vを0.05%以上、Bを0.003%以上添加することが推奨される。但し、過剰に添加すると、結晶粒が細かくなり過ぎて焼入れ性が高くなる為、その上限を、Ti:0.1%、Nb:0.3%、V:2.0%、B:0.1%とすることが好ましい。
【0031】
これらの元素は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
【0032】
本発明によれば、上記組成からなる鋼材を用い、圧延・球状化焼鈍した後、伸線若しくは切削加工して所定形状に加工してから、前述した焼入れ法を施すによって所望の高靭性工具を製造することができる。尚、本発明では、焼入れ前の圧延条件、球状化焼鈍条件、加工条件等は特に限定されず、本発明の作用を損なわない範囲で、通常、採用される方法を適宜選択することができる。
【0033】
本発明法は特に、上記組成からなる鋼材であって、DI(mm)とDeq(mm)の比(DI/Deq:以下、Rで代表する場合がある)が20以上の細径鋼材に加工したものを調質処理するのに有用であり、これにより、高靭性且つ高精度の工具を製造することができる。
【0034】
以下、本発明法で対象とする細径鋼材について説明する。ここで、Deqは被締結部と接触する断面の等価直径を、DIは理想臨界直径を、夫々、意味する。
【0035】
このうちDIは、理想的な焼入れ、即ち、焼入れされる物体を焼入液に入れた瞬間に、その表面の温度が焼入液の温度まで冷却されるような冷却が行なわれた場合に、中心まで焼きが入る丸棒の最大直径を意味し、本発明では、上記DIを臨界直径(一般に、組織の50%がマルテンサイトになる直径)によって間接的に算出している。DIは、焼入液の冷却能の影響をうけない特性値であるので、通常、鋼の焼入性の評価値として用いられており、DIが大きい程、焼入れ性が高いことを意味している。
【0036】
一方、Deqが小さい程、細径であることを意味している。
【0037】
そしてDIが大きく(焼入れ性が高い)、Deqが小さい(細径である)程、焼入れ時の変態応力のバラツキによる曲がりが大きく、縦割れの発生率も高くなるが、本発明の方法は、特に「R(=DI/Deq)≧20」の細径工具を精度良く製造するのに極めて有用であることが、本発明者らの検討結果により明らかになった(後記する図1を参照)。特に本発明によれば、上記Rが概ね250程度の、非常に細径の工具であっても、非常に精度良く、且つ結晶粒が微細化された高靭性工具を製造できることも判明した。
【0038】
この様にして得られる細径工具は、長さ100mmの試験用サンプルに切断し、後記する実施例に記載の曲がり試験を実施したときの曲がりが、加工前に比べて0.5mm以下に抑制されており、焼割れも発生しない為に「高精度」を有しており、しかも結晶粒も微細化されている為「高靭性」をも具備するものであり、エアードライバーや電動ドライバー等のビット、レンチ等の細径工具を製造するのに極めて有用である。
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
【実施例】
表1に示すA〜Fの供試鋼(このうちA〜Dは、本発明の化学成分を満足する例であり、EはC量が少ない例、FはC量が多い例である)をφ9.5mmまで圧延した後、球状化焼鈍し、伸線処理若しくは切削加工処理することにより表2に示す断面形状の工具No.1〜23を得た。ここで、DI(組織の50%がマルテンサイトになる直径)は、具体的には下式に基づいて算出した。
【0041】
DI=15.07√[C]×(0.7[Si]+1)×(3.33[Mn]+1)×(0.27[Cu]+1)×(0.9[Ni]+1)×(2.19[Cr]+1)×(2.9[Mo]+1)×exp(-0.08×<結晶粒度No.>)
式中、[ ]は、各元素の含有量(質量%)である。
【0042】
更に上記工具を焼入れ処理したときにおける曲がりの程度及び結晶粒度を測定すべく、長さ100mmの試験用サンプルに切断した。具体的な焼入れ方法は以下の通りである。
【0043】
まず、No.12〜23について、900℃まで加熱し、当該温度で30分間保持した後、焼入れ開始温度(T0)が表2に示す各温度範囲となる様、炉冷(約80℃/分の平均冷却速度)し、当該温度で20分間保持した後、焼入れを行なった。この保持時間はいずれも、各サンプルのDeq(mm)の2倍以上を満足するものである。参考までに、各サンプルのAr3変態点を表2に併記する。
【0044】
一方、No.1〜11については、本発明法で採用する二段階焼入れは行なわず、900℃に加熱し、30分間保持した後、焼入れした。
【0045】
ちなみにNo.1〜9と、No.12〜20とは、焼入れ方法が異なること以外は同じ組成及び条件で製造した例である。
【0046】
この様な焼入れ処理した各試験サンプルについて、長手方向中心部の曲がり量をマイクロメーターで測定する(曲がり量が0.5mm以下のものを「高精度」と評価する)と共に、D/4部における結晶粒度を測定した。
【0047】
これらの結果を表2に併記する。
【0048】
【表1】
Figure 2004204312
【0049】
【表2】
Figure 2004204312
【0050】
表2の結果より、以下の様に考察することができる。
【0051】
まず、No.12〜22は、本発明の成分組成を満足する供試鋼A〜Dを用い、本発明で特定する二段焼入れを施して工具を製造した本発明例であり[焼入れ開始温度T0は、いずれも(Ar3変態点+46℃)以下の温度に制御されている]、二段階焼入れを施さずに工具を製造したNo.1〜9の従来例(比較例)に比べて、結晶粒度No.が大きくなっており、結晶粒微細化効果に優れている。特にRが20以上の細径鋼材であるNo.16〜20(本発明例)とNo.5〜9(従来例)を比較すると(これらは、焼入れ方法が異なること以外、同じ条件で製造したものであり、No.16とNo.5、No.17とNo.6、No.18とNo.7、No.19とNo.8が、夫々、対応している)、二段焼入れした本発明例はいずれも、対応する従来例に比べて結晶粒微細化効果に優れると共に、曲がりの程度も0.5mm以下に抑制されており、高靭性且つ高精度の工具を得ることができた。
【0052】
この様に本発明法は、特にR≧20の細径工具を精度良く製造するのに極めて有効であることを、より一層明らかにする目的で、図1に、Rと曲がり量の関係をグラフ化して示す。この図は、No.1〜9、12〜20の結果をプロットしたものである。図1より、本発明法による精度向上効果は、特にR≧20の細径工具に適用したときに、極めて顕著に見られることが明瞭に読取れる。
【0053】
また、図2に、第二次焼入れ開始温度(T0)と、曲がり量及び結晶粒度との関係をグラフ化して示す。この図は、No.7,18,21〜23の結果をプロットしたものである。図2より、T0がAr3変態点(794℃)に近い程、曲がりの程度も少なく、且つ結晶粒も微細化されており、所望の特性(高靭性及び高精度)を確保するのに極めて有効であることが分かる。
【0054】
一方、No.10は、C量が少ない供試鋼Eを用い、二段階焼入れを施さずに製造した比較例(R≧20)であり、曲がりの程度が1mmを超えている。
【0055】
No.11は、C量が多い供試鋼Fを用いた例であり、φ4.2mmまで伸線したときに断線した為、曲がりの程度及び結晶粒度を測定することはできなかった。
【0056】
No.23は、成分組成は本発明の範囲を満足する供試鋼Dを用いたが、二段焼入れ開始温度T0を高く設定して製造した例であり、曲がりの程度が1mmを超えている。
【0057】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されているので、結晶粒が微細化されており、使用中の破損等を防止し得る高靭性工具を効率よく製造することができた。本発明法は、特にビットやレンチ等の細径工具を製造するのに極めて有用であり、本発明を採用すれば、靭性に優れるのみならず、変態応力のバラツキが著しく低減され、焼割れも防止できる結果、焼入れ後の曲がりが少ない高精度の細径工具を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】R(=DI/Deq)と曲がり量の関係をグラフ化した図である。
【図2】焼入れ開始温度(T0)と、曲がり量及び結晶粒度との関係をグラフ化した図である。

Claims (5)

  1. C :0.40〜0.85%(質量%、以下同じ),
    Si:2.0%以下(0%を含まない),
    Mn:2.0%以下(0%を含まない),
    Cr:3.0%以下(0%を含まない),
    Al:0.1%以下(0%を含まない),及び
    N :0.007〜0.015%
    を含有する鋼材を調質処理するに当たり、
    オーステナイト域温度に加熱した後、Ar3変態点〜(Ar3変態点+50℃)まで冷却し、該温度域から焼入れすることを特徴とする高靭性工具の製造方法。
  2. C :0.40〜0.85%(質量%、以下同じ),
    Si:2.0%以下(0%を含まない),
    Mn:2.0%以下(0%を含まない),
    Cr:3.0%以下(0%を含まない),
    Al:0.1%以下(0%を含まない),及び
    N :0.007〜0.015%
    を含有し、
    被締結部と接触する断面の等価直径をDeq(mm)、理想臨界直径をDI(mm)としたとき、DIとDeqの比(R=DI/Deq)が20以上の鋼材を調質処理するに当たり、
    オーステナイト域温度に加熱した後、Ar3変態点〜(Ar3変態点+50℃)まで冷却し、該温度域から焼入れすることを特徴とする高靭性高精度工具の製造方法。
  3. 前記鋼材は、更にCu:2.0%以下(0%を含まない),
    Ni:2.0%以下(0%を含まない),及び
    Mo:2.0%以下(0%を含まない)
    よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記鋼材は、更にTi:0.1%以下(0%を含まない),
    Nb:0.3%以下(0%を含まない),
    V :2.0%以下(0%を含まない),及び
    B :0.1%以下(0%を含まない)
    よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって得られた高靭性工具または高靭性高精度工具。
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