JP4738028B2 - 被削性に優れた中・高炭素鋼板の製造方法 - Google Patents

被削性に優れた中・高炭素鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、機械部品,自動車部品等の素材として使用される被削性に優れた中・高炭素鋼板を製造する方法に関する。
機械部品,自動車部品等の素材として使用される中・高炭素鋼板は、製品形状に加工する際に切削加工を施す場合が多い。切削加工を容易にするため従来から種々の改良が提案されており、代表的なものに快削元素の添加やMnS,Ti系硫炭化物,酸化物の利用等があり、黒鉛の析出で被削性を改善することも知られている。
たとえば、C:0.05〜0.3質量%の鋼材に最大直径:10μm以下のTi系硫炭化物を分散させることにより被削性を改善した高強度高靭性快削鋼(特許文献1),MnSを含む硫化物やAl,Si,Ti,Ca等の微細酸化物を分散させることにより被削性を改善した機械構造用鋼(特許文献2)等がある。
特許第3489655号公報 特開2003-213368号公報
快削元素の添加やMnS,Ti系硫炭化物,酸化物,黒鉛の析出分散等による場合、特殊元素の添加や特殊な熱処理が必要になる。これに対し、鋼材製造段階の熱処理で組織制御することにより被削性を改善する方法は、製造面から有利な方法である。たとえば、特許文献3は、棒鋼であるもののAc1〜Ac3の温度域での加熱後に冷却速度:3℃/秒で空冷することにより被削性を付与した機械構造用炭素鋼又は低合金鋼を紹介している。
特開2003-306719号公報
冷却速度の管理によって被削性を向上する方法を中・高炭素鋼板に適用した場合、コイル状に巻かれた中・高炭素鋼板をバッチ炉に装入し、焼鈍等の熱処理を施すことになる。そのため、均熱後の空冷過程でコイル内の部位に応じて冷却速度が大きく変動し、最終的に得られる金属組織もコイル内部位に応じて異なってくる。すなわち、コイル状での熱処理を前提にすると、各部が一様な熱履歴を受ける棒鋼のように良好な被削性を安定的に得ることが困難である。
本発明者等は、加熱保持後の冷却過程が熱処理材の被削性に及ぼす影響を種々調査・検討した。その結果、650℃までの冷却速度を適正管理するとき、その後に室温まで降温する段階の冷却条件如何に拘わらず、被削性が安定的に向上することを解明した。
本発明は、かかる知見をベースとし鋼材の成分と熱処理条件との組合せを特定することにより、コイル内部位に応じた性質変動を抑制して被削性を安定的に向上させ、機械部品,自動車部品等として好適な中・高炭素鋼板を提供することを目的とする。
本発明では、C:0.45〜1.5質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:0.1〜2.0質量%,S:0.02質量%以下,P:0.03質量%以下,Al:0.005〜0.20質量%を含み、更に必要に応じてNb:0.07質量%以下を含む鋼材を使用する。
該鋼材を熱間圧延し、酸洗又は酸洗・冷延後に最終焼鈍することにより製品鋼板とするが、酸洗工程と冷延工程との間で軟化焼鈍しても良い。最終焼鈍では、均熱温度Ta(℃)を(A1点+20℃)〜(A1点+80℃)の温度域に、均熱時間t(時)を5〜40時間に、650℃までの冷却速度R(℃/時)を5〜60℃/時に設定し、式(A)で定義されるX値がX≧0を満足する焼鈍条件を採用する。
X=R−(4.81×105)/{(t2/3+20)×(Ta−A1)}3/2 ・・・・(A)
発明の効果及び実施の形態
本発明者等は、快削元素の添加やMnS,Ti系硫炭化物,酸化物,黒鉛の析出分散等に拠らずに中・高炭素鋼板の被削性を改善する上で、パーライトが分散析出した球状セメンタイトとの混合組織が有効であることをすでに解明している。該混合組織をもつ鋼材は、軟質でねばい球状セメンタイトに切削工具が食い込みやすく、切削の進行に伴い硬質で脆いパーライトに亀裂が伝播する。このような球状セメンタイトとパーライトが分散しているため、被削性が改善される。
球状セメンタイト+パーライトの混合組織は、特定組成の酸洗材又は冷延材に特定条件下の最終焼鈍を施すことにより出現する。
先ず、本発明が対象とする中・高炭素鋼板の成分・組成を説明する。
・C:0.45〜1.5質量%
中・高炭素鋼板を各種部品形状に切削加工した後で熱処理して使用される機械部品,自動車部品等の用途では、良好な被削性及び必要強度を得る上で必須の成分である。0.45質量%未満のC含有量では、球状セメンタイトの面積率が増大し、良好な被削性が得られない。しかし、1.5質量%を超える過剰量のCが含まれると、パーライトの面積率の増大により被削性が低下する。好ましくは、0.60〜1.20質量%の範囲でC含有量を選定する。
・Si:1.0質量%以下
製鋼段階で脱酸剤として添加される成分であるが、セメンタイトを不安定化して黒鉛化を促進させる。Siの増量に伴い黒鉛が析出しやすくなり、熱処理性も阻害される。そのため、Si含有量の上限を1.0質量%(好ましくは、0.4質量%)とした。
・Mn:0.1〜2.0質量%
良好な焼入れ性を得るために必要な成分であり、鋼中Sとの反応で生成したMnSは被削性の向上に寄与する。焼入れ性は0.1質量%以上のMn添加で向上するが、2.0質量%を超える過剰添加は熱処理後の靭性を劣化させやすい。好ましくは、0.3〜1.0質量%の範囲でMn含有量を選定する。
・S:0.02質量%以下
MnS系介在物となって被削性を向上させる成分であるが、過剰量のSが含まれると熱処理後の強度,靭性が劣化するので極力低減することが好ましい。本成分系では、S含有量の上限を0.02質量%(好ましくは、0.010質量%)とすることにより、強度,靭性に及ぼす悪影響を抑えている。
・P:0.03質量%以下
被削性を多少改善する作用を呈するものの、熱処理後の靭性を劣化させる成分であることから極力低減することが好ましく、本成分系ではP含有量の上限を0.03質量%(好ましくは、0.015質量%)とした。
・Al:0.005〜0.20質量%
製鋼段階で脱酸剤として添加される成分である。脱酸効果は、Al:0.005質量%以上でみられ、増量に応じて良好な脱酸効果が得られるが、0.20質量%で飽和する。好ましくは、0.010〜0.100質量%の範囲でAl含有量を選定する。
・Ni:2.5質量%以下
パーライト変態を遅延させる任意成分であり、パーライトの成長速度を遅くすることによりパーライトラメラ間隔を大きくする作用を呈する。Niの添加効果は1.0質量%以上でみられるが、過剰添加は被削性に悪影響を及ぼす。また、Siと同様に黒鉛化促進元素であり、黒鉛の析出に起因して焼入れ性を劣化する。そのため、Niを添加する場合、上限を2.5質量%(好ましくは、1.80質量%)とする。
・Cr:2.0質量%以下
焼入れ性を向上させる任意成分であり、0.1質量%以上でCr添加の効果がみられる。また、セメンタイトを安定化させ、セメンタイトに固溶してセメンタイトの強度を向上させる作用もある。しかし、過剰添加は、鋼材コストの上昇を招くばかりでなく、セメンタイトの強化作用によって工具摩耗を促進させ被削性を劣化させる。そのため、Crを添加する場合、上限を2.0質量%(好ましくは、1.5質量%)とする。
・Mo:1.0質量%以下
焼入れ性向上に有効な任意成分であり、0.1質量%以上でMo添加の効果がみられる。しかし、過剰添加は、鋼材コストの上昇だけでなく、硬質化により鋼材の加工性を劣化させる。そのため、Moを添加する場合、上限を1.0質量%(好ましくは、0.4質量%)とする。
・Nb:0.07質量%以下
必要に応じて添加される成分であり、鋼中Cとの反応生成物であるNbCのピンニング作用によってオーステナイト粒を微細化し、熱処理後の靭性を向上させ、鋼材を高強度化する析出硬化元素である。Nbの添加効果は0.01質量%以上で顕著になるが、過剰添加は焼入れ性の劣化,鋼材コストの上昇を招くので、上限を0.07質量%(好ましくは、0.05質量%)とする。
所定組成に調整された鋼材は、熱延後に酸洗され、更には冷延を経て最終焼鈍される。場合によっては、酸洗後の鋼帯を冷延可能な程度に軟質化するため、冷延に先立って軟化焼鈍することもある。過度に高い冷延率では冷延工程の負荷が増大し製造性が悪化するので、冷延率:70%以下で冷延することが好ましい。しかし、中・高炭素鋼板の被削性は、軟化焼鈍や冷延率による影響をほとんど受けない。
酸洗又は冷延後の中・高炭素鋼板は、最終焼鈍によって球状セメンタイト+パーライトの混合組織に改質される。最終焼鈍では、均熱温度Ta(℃),均熱時間t(時),冷却速度R(℃/時)が次のように制御される。
・均熱温度Ta:(A1点+20℃)〜(A1点+80℃)
被削性に有効な球状セメンタイト+パーライトの混合組織の混合組織とする上で、(A1点+20℃)以上に均熱温度Taを設定する。均熱温度Taが低すぎると、セメンタイトの球状化に伴い軟質でねばい球状セメンタイトの面積率が過度に大きくなり、切削抵抗,切削熱が増加して被削性が劣化する。しかし、過度に高い均熱温度Taではパーライトの面積率が増大し被削性に有効な球状セメンタイト+パーライトの混合組織が得られ難くなり、却って被削性が劣化するので、均熱温度Taの上限を(A1点+80℃)とした。
・均熱時間t:5〜40時間
セメンタイトを十分に溶解させるため、均熱時間tを5時間以上とする。短すぎる均熱時間tではセメンタイトの溶解が不十分となり、未溶解セメンタイトの増大によってパーライト組織の形成が阻害される結果、球状セメンタイト主体の組織となって良好な被削性が得られない。逆に50時間を超える均熱時間tでは、長時間焼鈍に起因するコスト上昇は勿論、セメンタイトの溶解が過度に進行し球状セメンタイトが得られ難くなる。好ましくは、10〜30時間の範囲で均熱時間tを定める。
・冷却速度R(℃/時):5〜60℃/時
均熱温度Taに所定時間均熱された中・高炭素鋼板は、650℃までの冷却速度R:5〜60℃/時で冷却される。冷却速度Rを5〜60℃/時の範囲に制御することにより、被削性の改善に有効な球状セメンタイト+パーライトの混合組織が維持される。遅すぎる冷却速度Rではセメンタイトが球状化されやすく、パーライトの面積率が減少して被削性が劣化する。逆に早すぎる冷却速度Rではパーライト面積率が増大し、却って被削性が劣化する。冷却速度R:5〜60℃/時は650℃までの冷却過程で維持されておれば十分であり、650℃〜常温までの温度域では冷却速度Rによる影響をほとんど受けない。
・均熱温度Ta,均熱時間t,冷却速度Rの相関関係
均熱温度Ta,均熱時間t,冷却速度Rそれぞれを所定範囲に個別制御した焼鈍条件下では、低い均熱温度Ta,長い均熱時間tほど未溶解セメンタイトが増量する傾向を示す。この場合、冷却速度Rを速くすることにより未溶解セメンタイトを適正に量的制御する。このように、適正量の未溶解セメンタイトを確保する上で、均熱温度Ta,均熱時間t,冷却速度Rの間に相関性をもたせる必要がある。本発明者等は、均熱温度Ta,均熱時間t,冷却速度Rが未溶解セメンタイトに及ぼす影響を調査した多数の実験結果から、式(A)で定義されるX値がX≧0を満足するとき、未溶解セメンタイトの適正量が確保され、被削性に有効な球状セメンタイト+パーライトの混合組織が得られることを突き止めた。
X=R−(4.81×105)/{(t2/3+20)×(Ta−A1)}3/2 ・・・・(A)
表1の成分・組成をもつ鋼材を溶製し、熱延後に酸洗した。
Figure 0004738028
酸洗後の熱延鋼板から、研削仕上げした鋼板,冷延仕上げした鋼板及び20時間の軟化焼鈍後に冷延仕上げした鋼板を製造した。何れの鋼板も仕上げ板厚を2.0mmとした。次いで、均熱温度Ta:700〜810℃,均熱時間t:2〜40時間,650℃までの冷却速度:3〜75℃/時,650℃〜室温までを炉冷の条件下で最終焼鈍した。
最終焼鈍された鋼板から試験片(板厚:2.0mm)を切り出し、切削試験に供した。
切削試験では、先端角:118度,刃先径:10mm,溝長さ:95mmのJIS B4301汎用ストレートドリルを装着した直立ボール盤を用い、回転数:600rpm,押込み荷重:20N,無潤滑の条件下でドリル穴あけ加工した。新品のドリルを用いて試験片の表面から板厚方向に穴あけ加工を繰り返し、切削不能になった時点を工具寿命と判定し、そのときの切削孔の貫通個数によって被削性を評価した。
被削性の評価結果を製造条件と共に表2,3に示す。
Figure 0004738028
Figure 0004738028
表2,3から明らかなように均熱温度Ta,均熱時間t,冷却速度R,X値共に本発明で規定した条件を満足する最終焼鈍を施した本発明例では、何れも切削試験での貫通個数が200個を超える値を示し、被削性に優れていた。
これに対し、試験No.2,23は、最終焼鈍時の均熱温度Taが(A1+20℃)より低いためセメンタイトが球状化され、軟質でねばい球状セメンタイトが主体金属組織となり、被削性に劣っていた。(A1+80℃)を超える均熱温度Taで最終焼鈍した場合でも、未溶解セメンタイトの減少により球状セメンタイト+パーライトの混合組織が得られず、硬質なパーライト主体の金属組織となったため被削性に劣っていた(試験No.18)。
均熱時間tが2時間と短い試験No.11では、球状セメンタイトが主体の金属組織となり、被削性に劣っていた。
最終焼鈍時の冷却速度Rが70℃/時と速すぎる試験No.10では、硬質なパーライトが主体の金属組織となり、切削工具の摩耗が促進されるため被削性に劣っていた。逆に冷却速度Rが3℃/時と遅すぎると、セメンタイトが球状化したため被削性に劣っていた(試験No.17)。
均熱温度Ta:(A1点+20℃)〜(A1点+80℃),均熱時間t:5〜40時間,冷却速度R:5〜60℃/時が個別に満足されていても、X<0の試験No.4,7,13,16,19は、ねばい球状セメンタイトが主体の金属組織となり、被削性に劣っていた。
また、Cが不足する鋼種Kを用いた試験No.26ではねばい球状セメンタイトが主体の金属組織、過剰量のCを含む鋼種Lを用いた試験No.27では硬質なパーライトが主体の金属組織となり、適正な焼鈍条件であるにも拘わらず被削性に劣っていた。なお、軟化焼鈍,冷延率が被削性に及ぼす影響はみられなかった。
以上の対比から、鋼材の成分・組成を適正化し、均熱温度Ta,均熱時間t,冷却速度R,X値等が規定された最終焼鈍を施すことにより、優れた被削性を中・高炭素鋼板に付与できることが判った。
以上に説明したように、適正な成分・組成をもつ鋼材を用い、均熱温度Ta:(A1点+20℃)〜(A1点+80℃),均熱時間t:5〜40時間,650℃までの冷却速度:5〜60℃/時,X≧0の条件下で最終焼鈍することにより、被削性に優れた中・高炭素鋼板を安価に且つ安定的に製造できる。この中・高炭素鋼板は、優れた被削性を活用し切削加工で製品形状に仕上げられる機械部品,自動車部品等の素材として使用される。

Claims (3)

  1. C:0.45〜1.5質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:0.1〜2.0質量%,S:0.02質量%以下,P:0.03質量%以下,Al:0.005〜0.20質量%,残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼材を熱間圧延し、酸洗又は酸洗・冷延後に最終焼鈍する際、
    均熱温度Ta(℃)を(A1点+20℃)〜(A1点+80℃)の温度域に、均熱時間t(時)を5〜40時間に、650℃までの冷却速度R(℃/時)を5〜60℃/時に設定し、式(A)で定義されるX値がX≧0を満足する条件下で焼鈍することを特徴とする被削性に優れた中・高炭素鋼板の製造方法。
    X=R−(4.81×105)/{(t2/3+20)×(Ta−A1)}3/2 ・・・・(A)
  2. 酸洗工程と冷延工程との間で軟化焼鈍する請求項1記載の製造方法。
  3. 更にNb:0.07質量%以下を含む鋼材を使用する請求項1又は2記載の製造方法。
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