JP2004203599A - トランスファクレーン用の減速機及び駆動装置 - Google Patents

トランスファクレーン用の減速機及び駆動装置 Download PDF

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知樹 田中
Naoki Matsuo
直樹 松尾
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Abstract

【課題】より軽量化、小型化及び低コスト化が可能で、且つ特に低速走行時における運転操作性のよいトランスファクレーン用の減速機、或いは駆動装置を得る。
【解決手段】コンテナ等を荷役するトランスファクレーンを駆動するために用いられるトランスファクレーン用の減速機Gにおいて、モータM側から入力される回転動力によって回転するハイポイドピニオン108と、該ハイポイドピニオン108と噛合するハイポイドギヤ110とを備える。定格トルクは6kNmよりも大きく設定する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トランスファクレーン用の減速機に関する。
【0002】
【従来の技術】
トランスファクレーンは、一般に、港湾のコンテナヤード等においてコンテナなどの搬送・積み荷を行うために使用され、定格荷重は30tonから60ton程度である。トランスファクレーンには、レールマウント式とラバータイヤ式の2つのタイプが知られている。レールマウント式のトランスファクレーンは、鋼製車輪を備え、定められたレール上を走行する。ラバータイヤ式のトランスファクレーンは、ゴムタイヤを備え、無軌道路面を自由に走行する(例えば、技術文献1参照)。
【0003】
トランスファクレーンは、屋外で使用され、重量があり、且つ、クレーン全体(トランスファクレーン自体)が動く「自走式」であることから、一般にはディーゼルエンジンを搭載して発電機を回し、駆動源(モータ)の電力を得ている。
【0004】
図4はトランスファクレーンの走行駆動装置の一部を示す正面図であり、図の右側に位置する車輪10Aが駆動輪、左側に位置する車輪10Bが従動輪である。図5に、模式的に示すように、トランスファクレーンの底部においては、このような駆動及び従動の組合せに係る一対の車輪10A、10Bを備えた駆動系が矩形の対角の頂点相当位置にもう一系統備えられており、他の対角の頂点相当位置には、単に従動するのみの一対の従車輪10B、10Bがそれぞれ配備されている。
【0005】
図4に戻って、モータ12は、継手14を介して減速機16と連結されている。トランスファクレーン用の減速機16は、設置スペース上の問題から、一般には駆動輪10Aの斜め上部に取り付けられる。また、減速機16を取り付けたときのモータ軸(駆動軸)12Aの軸心の方向と車輪10Aの車軸10Cの軸心の方向との関係で、該減速機16には直交型が求められる。そのため、トランスファクレーン用の減速機16には、通常、図6に示されるように、初段にベベルピニオン30及びベベルギヤ32からなるベベルギヤセット34が搭載されている。直交を実現するために、ベベルギヤセット34が搭載されていたのは、主にコスト及び伝達効率上、ベベルギヤセット34が最も妥当であると考えられたためと推察される。
【0006】
ベベルギヤセット34による1段の減速だけではトランスファクレーンの駆動に必要な減速比を得ることができないため、該ベベルギヤセット34の後段に2段の平行軸ギヤセット36、38が連結され、ベベルギヤセット34を含めて計3段の減速機構を介して出力軸40が駆動される構成とされている。
【0007】
再び図4を参照して、この減速機16の出力軸40にはスプロケット42が組付けられている。また、車輪10Aの車軸10Cにもスプロケット44が組付けられており、両スプロケット42、44がチェーン46を介して互いに連結されている。
【0008】
モータ12の回転は、ベベルギヤセット34、2段の平行軸ギヤセット36、38及びチェーン46の各減速機構によって減速されて車軸10Cに伝達され、この車軸10Cの回転により車輪10Aが回転する。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−79409号公報(図10)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
直交を実現するための減速機構を「単体」で見た場合には、ベベルギヤセットは、確かに安価であり、また効率も高い。更に、ベベルギヤセットは、比較的運転騒音が大きいというデメリットがあるが、このデメリットはトランスファクレーンの使用環境においては、それほど大きなデメリットとはならない。
【0011】
そのため、従来、トランスファクレーン用の減速機において直交を実現するための減速機構としては、当然のようにベベルギヤセットが用いられ、それ以外の減速機構が採用されることはなかった。
【0012】
しかしながら、発明者らがトランスファクレーンに使用される減速機に対して、減速機を納入するメーカーの立場、及びユーザの立場から、技術的により深く検討した結果、従来当然のように用いられてきたベベルギヤセットは、必ずしも最良の結果をもたらすものではないことが判明した。
【0013】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであって、技術的により合理的な側面を有するトランスファクレーン用の減速機、あるいは駆動装置を提供することをその課題としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、コンテナ等を荷役するトランスファクレーンを駆動するために用いられるトランスファクレーン用の減速機において、駆動源側から入力される回転動力によって回転するハイポイドピニオンと該ハイポイドピニオンと噛合するハイポイドギヤとを少なくとも有し、且つ定格トルクを6kNmよりも大きく設定したことにより、上記課題を解決したものである。
【0015】
本発明では、減速機の直交を実現する減速機構として、敢えてハイポイドギヤセットを採用している。その結果、以下のような技術的利点を得ることができる。
【0016】
第1の利点としては、ハイポイドギヤセットは、減速比の調整幅が広く、1段で大きな減速比が得られ、且つ小型化できることが挙げられる。
【0017】
ベベルギヤセットの場合、選択できる減速比の絶対値が小さいため、トランスファクレーンの用途において必要とされる減速比を確保しようとすると、該ベベルギヤセットを含め、図6に示したように、ときに3段の減速機構が必要になってしまうことがある。言うまでもなく、3段の減速機構を有する減速機は、大きさ、重量の何れの面においてもかなり大きなものとなってしまい、また、減速機一台当たりのコストは必ずしも低減できない。
【0018】
これに対し、ハイポイドギヤセットは、減速比の調整幅が広く、1段で大きな減速比を得ることができる。そのため、トランスファクレーンの駆動用として要求される大半の減速比を得るのに、該減速機の減速段数を(ハイポイドギヤセットを含め)2段で済ませることができる。3段を2段で済ませることができることに起因して得られる減速機軽量化、小型化の効果は大きく、設置スペース上の制約の強いトランスファクレーン用途の減速機として大きなメリットとなる。
【0019】
また、同じ2段型同士の比較でも、ハイポイドギヤセットを用いた減速機は、ベベルギヤセットを用いた減速機に比べ、ハイポイドピニオンの軸心とハイポイドギヤの軸心とが交差しないため、やはりピニオン軸方向、ギヤ軸方向とも小型化できる。減速機を小型化できるということは、同一の外形の場合、より容量の大きな減速機を使用できることを意味し、該減速機の耐久性の向上に寄与させるような設計とすることもできる。
【0020】
更に、減速機のシリーズ全体を2段型の減速機のみで構築することも可能なため、該シリーズ全体の部品点数を減少させることができ、この点においても結果として減速機一台当たりのコストを低減できる。
【0021】
軽量、小型化、及び結果としての減速機一台当たりのコストの軽減、これが第1の利点である。
【0022】
第2の利点は、ハイポイドギヤセットの有する逆転防止機能がトランスファクレーンの用途において有効に機能するということである。
【0023】
ハイポイドギヤセットにおける「逆転防止機能」は、ベベルギヤセットにおけるそれよりも高い。ここで言う「逆転防止機能」とは、負荷側(車輪側)から減速機の出力軸を介して加えられた反力あるいは慣性力によって、減速機の入力軸側(モータ側)が回転させられるのを阻止する機能のことである。
【0024】
トランスファクレーンの駆動系は、極めて高い全高及び大きな重量を有するクレーン全体を自走させるという使用環境上、その駆動力、制動力ともに強大である必要がある。特に、巨大な慣性質量で走行しているクレーンを確実に制動・停止させるための制動機構は、安全な運転を行うために必須であり、その容量も大きなものとならざるを得ない。
【0025】
ここで、トランスファクレーンが走行或いは制動されるときの状況を考察すると、加速状態及び等速走行状態にあっては、モータが車輪を駆動しているが、制動状態においては、逆に車輪がモータを駆動するいわゆる逆駆動状態が形成される。
【0026】
モータに付設された制動機構は、この車輪側からモータ側に伝達される慣性力(逆駆動力)によって回転を続けようとするモータの回転速度を強制的により低減させるために摩擦力を付与するという仕事を行う。
【0027】
従来のベベルギヤセットには、逆転防止機能が殆どないため、この状況において、車輪側の慣性力によって減速機の出力軸が回転されると、その回転動力は該減速機の入力軸を介してモータ側にまでほぼそのまま伝達されていた。そのため、トランスファクレーンの制動負荷は、専らモータに付設された制動機構のみの負担となり、該制動機構には相応の強度対策および放熱対策が必要とされていた。
【0028】
これに対し、ハイポイドギヤセットの「逆転防止機能」は、たとえ車輪側の慣性力によって減速機の出力軸が回転されたとしても、その回転動力の一部をハイポイドギヤセットの部分で受け止め、これがモータ側にまで到達する割合を減少させるように機能することになる。即ち、トランスファクレーンの制動時の負荷の一部を、ハイポイドギヤセットにおいて負担させることが可能となり、その分モータ側に付設された制動機構の負担を軽減できる。
【0029】
この結果、モータ側に付設する制動機構の強度対策、あるいは放熱対策をより緩和することができ、また、従来と同程度の性能を有するの制動機構を付設した場合には、より確実且つ安定した制動効果を得ることができ、耐久性を向上させることができる。
【0030】
第3の利点は、この第2の利点に関係して、本発明に係る減速機が搭載されたトランスファクレーンでは、減速時に適度の(弱い)エンジンブレーキに類似する減速促進力が掛かるので、徐行時等においてアクセルワークのみによる加減速がし易くなるため、頻繁にアクセル操作とブレーキ操作を繰り返さなくても済むようになり、(特に徐行時における)運転操作性が向上するということである。トランスファクレーンは、重量が巨大である上に、オペレータが実際に当該クレーンに搭乗して走行操作するものであるため、運転操作性が向上するという大きなメリットがある。
【0031】
この他(第4の利点として)、ハイポイドギヤセットの特性上、使用環境においてベベルギヤセットを使用した場合に比べ、運転騒音の低減も期待できる。
【0032】
このように、本発明においては、トランスファクレーン用の減速機において、その直交を実現するための減速機構として、敢えてハイポイドギヤセットを採用するようにしたため、従来のベベルセットを採用した減速機では得られない多くの利点を得ることができる。
【0033】
なお、本発明を具体的に実施する場合、当該減速機の潤滑剤として、例えば極圧添加剤入りギヤオイルを使用するとよい。また、当該減速機の潤滑剤としては、油温40℃における粘度が、68cStよりも大きく、且つ320cStよりも小さな値を示すギヤオイルを使用するようにするとよい。更に、前記ハイポイドピニオン或いはハイポイドギヤの素材としては、クロムモリブデン鋼を使用するとよい。これらの構成の具体的な利点については後に詳述する。
【0034】
なお、本発明は、コンテナ等を荷役するトランスファクレーンを駆動するために用いられるトランスファクレーン用の駆動装置において、駆動源側から入力される回転動力によって回転するハイポイドピニオンと、該ハイポイドピニオンと噛合するハイポイドギヤとを少なくとも有する減速機を備え、且つ、該減速機の出力を、スプロケットを介して車輪に伝達する駆動系を備えたことを特徴とするトランスファクレーン用の駆動装置としても適用できる。
【0035】
この場合に、トランスファクレーンが、矩形の頂点相当位置に走行用車輪を備え、前記駆動系が、各位置の走行用車輪のうち、対角の頂点相当位置に位置する車輪に対して配備されるようにすると、上記逆転防止の相乗効果が期待できる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0037】
この実施形態における、モータ〜減速機〜チェーン〜車軸に至る基本的な動力伝達構成は、既に説明した従来の構成とほぼ同様であるため、重複説明は省略するものとし、ここでは、トランスファクレーン用の減速機周辺の構成を中心に詳細に説明する。
【0038】
図1及び図2は、モータ(駆動源)M及び減速機G付近の構成を示している。図3は図1の要部拡大図である。
【0039】
モータMは、そのモータ軸102の反負荷側にインバータ装置104、ブレーキ装置(制動機構)106を備え、オペレータの操作によって、いつでも走行中の最適な加速・制動制御が可能な構成とされている。
【0040】
ブレーキ装置106は、エンジン停止時を含む非運転時において制動力がフルに働いて停止時の機械的なロックが可能とされており、走行時にオペレータの加速・制動操作等に応じて該制動の程度が適宜に調整されるようになっている。
【0041】
このブレーキ装置106は、後述するように、減速機内のハイポイドギヤセットの逆転防止機能が、従来のベベルギヤセットのそれよりも高いことから、その容量が従来より低減されている。なお、容量を従来のままとした場合には、より確実な制動効果を得ることができる。
【0042】
モータMは、継軸機構Jを介して、減速機G側と連結されている。
【0043】
減速機Gは、その初段減速機構として、ハイポイドピニオン108及びハイポイドギヤ110を備えたハイポイドギヤセット112を備え、更に、その後段に、もう1段の平行軸ギヤセット113を備える。トランスファクレーン用途の減速機であるため、該減速機Gの定格トルクは6kNmよりも大きく(一般的には9kNmよりも大きく)、より具体的には10kNm付近に設定される。定格トルクが大きいというのが、トランスファクレーン用途の減速機Gの特徴である。なお、本発明においてはトランスファクレーン用の減速機の上限は特に限定されないが、一般には16kNm程度まで(多くは12kNm程度まで)の範囲のものが使用される。
【0044】
以下より具体的に説明する。
【0045】
継軸機構Jは、継軸114を備える。該継軸114には第1の凹部116と第2の凹部118がその軸方向両端面側から軸方向中央側に向けてそれぞれ同軸に形成されている。モータ軸102は第1の凹部116に挿入され、キー120を介して継軸114と回転方向に一体化されている。
【0046】
一方、ハイポイドギヤセット112のハイポイドピニオン108は、オフセット量Eを有してハイポイドギヤ110と噛合するヘッド部108Aと、該ヘッド部108Aと同軸に且つ段差を有して円筒状に形成された円筒部(筒部)108Bとを備える。この筒部108Bにはその外周にローレット加工が施されており、前記継軸114の第2の凹部118に挿入・圧着されることにより、該継軸114と回転方向に一体化されている。
【0047】
継軸114の第2の凹部118の底部118Aは、ハイポイドピニオン108の端部108Cが当接することにより該ハイポイドピニオン108の継軸114に対する軸方向位置が決定される基準壁部を構成している。
【0048】
なお、図示はされていないが、第1の凹部の側から継軸114のこの基準壁部(118A)を貫通してハイポイドピニオン108の軸心部にボルト等を螺合するようにすると、ハイポイドピニオン108と継軸114との結合をより強固に維持することができる。
【0049】
継軸114の外周にはリング状の凸部114Aが形成されており、継軸114を減速機Gのケーシング140に対して回転自在に支持するための一対の軸受150、152の間の距離を規定している。
【0050】
ケーシング140には、この一対の軸受150、152のうちのハイポイドピニオン108のヘッド部108Aが存在する側の軸受150を係止するための係止突起140Aがその内周側の端部に形成されている。軸受150は、この係止突起140Aと継軸114のリング状の凸部114Aとに挟まれて軸方向に位置決めされている。なお、符号156はシム、158はオイル溜まりとして機能するリング状の溝である。
【0051】
ハイポイドギヤ110は、中間軸160にキー162を介して組み込まれている。中間軸162は軸受164、166を介してケーシング140に回転自在に支持されている。ハイポイドギヤ110の中間軸160の軸方向の位置決めは、該中間軸160に形成した段差部160Aとケーシング140に組み込まれたスナップリング170、172、軸受164、166及びスペーサ176とにより行われる。中間軸160にはピニオン180が直切りされており、ギヤ182との噛合により(ハイポイドギヤセット112の後段に)もう1段の平行軸ギヤセット113を形成している。ギヤ182は出力軸184にキー186を介して連結されている。出力軸184は軸受188、190を介してケーシング140に回転自在に組み込まれている。
【0052】
図4を用いて既に説明してあるため、重複説明及び再度の図示は省略するが、出力軸184にはスプロケット(42)が装着され、チェーン(46)を介して車軸(10A)が回転する構成とされている。
【0053】
ところで、ハイポイドギヤセット112を用いた動力伝達は、その構造上、滑りを伴いながらの伝達となるため、これをトランスファクレーンのような高容量・高トルクの減速機に単純に適用した場合、荷重条件によっては耐久性低下の原因となる。そこでこの実施形態では、当該減速機Gの潤滑剤として、極圧添加剤入りのギヤオイルを使用するようにしている。極圧添加剤は、境界潤滑条件においての潤滑油の耐荷重能(極圧能)を向上させるために加えられる添加剤である。具体的には鉛石けん或いは硫黄−リン系の極圧添加剤が好適である。
【0054】
更に、この実施形態では、当該減速機の潤滑剤として、上記ギヤオイルの中で、特に油温40℃における粘度が、68cStよりも大きく、且つ320cStよりも小さな値を示すギヤオイルを使用するようにするようにしている。
【0055】
この理由は次の通りである。即ち、従来、一般にハイポイドギヤセット112の潤滑剤としては、耐久性を考慮してハイポイドギヤセット用の比較的粘度の高い潤滑剤が使用されていた。しかしながら、ハイポイドギヤセット112におけるハイポイドピニオン108とハイポイドギヤ110の噛合は、もともと図6で示したようなベベルギヤセット34におけるベベルピニオン30とベベルギヤ32の噛合に比べてより多くの滑りを伴う。従って、これをトランスファクレーンのような高容量・高トルクの伝達機構に採用した場合、温度上昇によってオイルの粘度が低下し、歯面での油膜切れを引き起こす原因となり、必ずしも好ましくない。一方、トランスファクレーンの減速機は、かなりの内容積を有するため、(粘度の低い)ギヤオイルを豊富に保有することができる。そのため該ギヤオイルを用いて跳ねかけによる冷却効果を得る方がむしろ信頼性が高く、この観点から粘度は320cSt未満に抑えた方が好ましい。
【0056】
但し、粘度があまり低くなりすぎると、(滑りを伴って噛合する)歯面間に油膜が十分に確保できなくなるため、やはり好ましくない。最適な粘度は、68cSt〜320cStの範囲、より好ましくは100cSt〜220cStの範囲である(何れも油温40℃における値)。
【0057】
更に、前記ハイポイドピニオン或いはハイポイドギヤの素材としては、クロムモリブデン鋼が好適である。クロムモリブデン鋼はハイポイドギヤセットの耐久性の一層の向上に寄与し得る特殊鋼である。
【0058】
なお、この実施形態では、継軸機構J部分のケーシングを減速機本体のケーシング140と一体化しているが、交換性、あるいは代替性を重視する場合には、これらを別体とするようにしてもよい。
【0059】
次にこの実施形態の作用を説明する。
【0060】
モータMのモータ軸102が回転すると、これと一体的に継軸114が回転し、ハイポイドピニオン108も一体的に回転する。ここで、ケーシング140の係止突起140A、軸受150、継軸114の凸部114Aを介して継軸114の凹部118の基準壁部118Aがケーシング114に対して軸方向に位置決めされており、ハイポイドピニオン108は自身の端部108Cと基準端部118Aとの当接により継軸114に対して軸方向に位置決めされているため、ハイポイドピニオン108はケーシング140に対して自身の軸方向の位置決めが極めて正確に行われる。また、ハイポイドピニオン108が継軸114の凹部118に嵌合される構成とされていることから、該凹部118の深さ(軸方向長さ)或いはハイポイドピニオン108の筒部108Bの長さの調整により、そのヘッド部108Aの軸方向位置を調整することができる。
【0061】
一方、前記シム156の存在により軸受150および軸受152の焼き付き防止のための軸受隙間を調整することができる。
【0062】
これにより様々な大きさ(歯数)の組み合わせのハイポイドギヤセットを装着できる。ハイポイドギヤセット112においては、もとよりこれだけで広範囲な減速比を得ることができるため、トランスファクレーン用の減速機として必要な減速比を2段の減速機構のみで実現することができ、しかも、これらのさまざまなハイポイドセット112を(同一の2段の)ケーシング140内に収容することが可能となり、広範囲な減速比に非常に柔軟に対応することができる。また、従来の同じ2段のベベルセットと比べてもより小型化できる。
【0063】
ここで、ハイポイドギヤセット112には、ピニオン側からギヤ側への動力伝達は円滑に行われるが、ギヤ側からピニオン側への動力伝達が、ベベルギヤセットに比べて行われにくいという特性がある。即ち、既に述べている「逆転防止機能」がハイポイドギヤセット112はベベルギヤセットよりも高い。そのため、トランスファクレーンが減速状態にあって、車輪10A側からモータM側へ動力が伝達されてくるいわゆる逆駆動状態が形成されているときに、その動力伝達の一部を阻止する機能をハイポイドギヤセット112が担うことができる。そのため、ブレーキ装置106の容量を若干低減しても、従来と同等の制動機能を得ることができ、ブレーキ装置106の強度対策及び放熱対策をその分軽減できると共に、そのコスト及び重量を低減できる。また、従来と同等のブレーキ装置を装着した場合には、より確実な制動機能を得ることができる。
【0064】
更に、減速時において一般車両におけるいわゆるエンジンブレーキと類似する若干の減速促進作用が得られるため、特に(トランスファクレーンにおいて頻繁に行われる)低速での走行において、アクセルワークのみでその加減速を容易に行うことができるようになり、オペレータの運転操作性を向上させることができる。
【0065】
また、この実施形態では、特に、減速機の潤滑剤として、極圧添加剤入りのギヤオイルを使用するようにしている。極圧添加剤入りのギヤオイルは、摩擦面(歯面)の油膜が熱的或いは機械的に破壊されて局部的な金属接触が生じたときに、それに伴う摩擦熱によって金属面と反応して金属塩皮膜(反応膜)を生じさせ、この金属塩皮膜が一種の固体潤滑剤として作用させる。その結果、歯面の摩擦・摩耗の減少や焼き付けをより確実に防止できる。
【0066】
また、潤滑剤の粘度がハイポイドギヤセット112を用いたトランスファクレーン用の減速機の潤滑剤として最適な範囲に設定されているため、撹拌ロスによる効率低下や温度上昇が生じにくく、且つ歯面間の油膜を十分に確保することができる。
【0067】
更に、ハイポイドギヤセット112の素材として、クロムモリブデン鋼を使用するようにしたため、ハイポイドギヤセット112の耐久性を一層向上させることができる。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、より軽量化、小型化及び低コスト化が可能で、且つ特に低速走行時における運転操作性のよいトランスファクレーン用の減速機、或いは駆動装置を得ることができるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るトランスファクレーン用の減速機がモータと連結されている構成を示す断面図
【図2】図1の矢視II方向視図
【図3】図1の継軸付近の要部拡大断面
【図4】従来のトランスファクレーン用の駆動装置の車輪付近の構成を示す要部正面図
【図5】トランスファクレーンの車輪の配置構成を模式的に示す平面図
【図6】従来のトランスファクレーン用の減速機が持ったと連結されている構成を示す図1相当の断面図
【符号の説明】
M…モータ
J…継軸機構
G…減速機
10A…車輪(駆動輪)
42、44…スプロケット
46…チェーン
102…モータ軸
106…ブレーキ装置
108…ハイポイドピニオン
108A…ヘッド部
108…筒部
110…ハイポイドギヤ
112…ハイポイドギヤセット
114…継軸
116…第1の凹部
118…第2の凹部
140…ケーシング
184…出力軸

Claims (6)

  1. コンテナ等を荷役するトランスファクレーンを駆動するために用いられるトランスファクレーン用の減速機において、
    駆動源側から入力される回転動力によって回転するハイポイドピニオンと、
    該ハイポイドピニオンと噛合するハイポイドギヤとを少なくとも有し、且つ
    定格トルクを6kNmよりも大きく設定した
    ことを特徴とするトランスファクレーン用の減速機。
  2. 請求項1において、
    当該減速機の潤滑剤として、極圧添加剤入りギヤオイルを使用した
    ことを特徴とするトランスファクレーン用の減速機。
  3. 請求項1又は2において、
    当該減速機の潤滑剤として、油温40°における粘度が、68cStよりも大きく、且つ320cStよりも小さなギヤオイルを使用したことを特徴とするトランスファクレーン用の減速機。
  4. 請求項1〜3のいずれかにおいて、
    前記ハイポイドピニオン及びハイポイドギヤの少なくとも一方の素材として、クロムモリブデン鋼を使用した
    ことを特徴とするトランスファクレーン用の減速機。
  5. コンテナ等を荷役するトランスファクレーンの車輪を駆動するために用いられるトランスファクレーン用の駆動装置において、
    駆動源側から入力される回転動力によって回転するハイポイドピニオンと、
    該ハイポイドピニオンと噛合するハイポイドギヤと、を少なくとも有する減速機を備え、且つ
    該減速機の出力が、スプロケット及びチェーンを介して前記車輪に伝達する駆動系を備えたことを特徴とするトランスファクレーン用の駆動装置。
  6. 請求項5において、
    前記トランスファクレーンは、平面視で矩形の頂点相当位置に走行用車輪を備え、
    前記駆動系が、各位置の走行用車輪のうち、対角の頂点相当位置に位置する車輪に対して配備されている
    ことを特徴とするトランスファクレーン用の駆動装置。
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