JP2004197177A - 蒸着装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】膜質の良い薄膜を広い領域に形成する。
【解決手段】本発明の蒸着装置1は、蒸着源3と磁界形成手段7とを有しており、蒸着源3から放出された微小荷電粒子は、磁界形成手段7によってその飛行方向を曲げられ、基板11に到達する。他方、蒸着源3から飛散する小滴は磁界形成手段7によって曲げられず直進し、また基板11は蒸着源3から直進して飛行する粒子が到達しない位置に配置されるので、基板11には微小荷電粒子のみが到達することになり、膜質の良い薄膜が形成される。磁界形成手段7の出口は入り口よりも広く、微小荷電粒子を運ぶ内部磁力線75は出口側で広がるので、微小荷電粒子は拡散しながら飛行し、広い領域に到達する。従って、基板11表面の広い領域に薄膜が形成される。
【選択図】図1
【解決手段】本発明の蒸着装置1は、蒸着源3と磁界形成手段7とを有しており、蒸着源3から放出された微小荷電粒子は、磁界形成手段7によってその飛行方向を曲げられ、基板11に到達する。他方、蒸着源3から飛散する小滴は磁界形成手段7によって曲げられず直進し、また基板11は蒸着源3から直進して飛行する粒子が到達しない位置に配置されるので、基板11には微小荷電粒子のみが到達することになり、膜質の良い薄膜が形成される。磁界形成手段7の出口は入り口よりも広く、微小荷電粒子を運ぶ内部磁力線75は出口側で広がるので、微小荷電粒子は拡散しながら飛行し、広い領域に到達する。従って、基板11表面の広い領域に薄膜が形成される。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蒸着装置に関し、特に、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)や半導体の高誘電体薄膜、絶縁膜、銅薄膜、磁性薄膜、高融点金属薄膜に適した成膜装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図3の符号101は従来技術の蒸着装置を示している。この蒸着装置101は真空槽102を有しており、真空槽102内には複数の蒸着源103が配置されている。各蒸着源103は円筒状のアノード電極132と、棒状の電極部材136とを有しており、電極部材136はアノード電極132内にそれぞれ配置されている。
【0003】
電極部材136は棒状のカソード電極135と、該カソード電極135の先端に接続された蒸着材料131と、絶縁物133を介してカソード電極135に取り付けられたトリガ電極134とを有しており、各アノード電極132を接地電位に置いた状態で、カソード電極135に負電圧を、トリガ電極134にカソード電極135より大きい負電圧を印加すると、トリガ放電が誘起され、該トリガ放電によりアノード電極132と蒸着材料131との間にアーク放電がそれぞれ誘起される。
【0004】
アーク放電が誘起されると、蒸着材料131の側面から蒸着材料131の粒子が放出されると共に、カソード電極135に蒸着材料131から離れる方向にアーク電流が流れる。
【0005】
蒸着材料の粒子のうち、電荷質量比が大きい微小荷電粒子はアーク電流により形成される磁界によってアノード電極132の開口から放出されるが、中性粒子や電荷質量比が小さい巨大荷電粒子は磁界の影響を受けず、アノード電極132の内周面に付着する。従って、各アノード電極132の開口からは微小荷電粒子のみが放出される。
【0006】
蒸着源3は蜂の巣状に束ねられており、各アノード電極132の開口はそれぞれ同じ方向に向けられているので、開口の上方に大面積の基板を配置しておけば、蒸着源3が束ねられた分、基板111表面の広い領域に微小荷電粒子が到達する。微小荷電粒子の反応性は高いので、微小荷電粒子のみが到達することによって、基板111表面の広い領域に膜質の良好な薄膜が形成される。
【0007】
しかしながら、中性粒子や巨大荷電粒子がアノード電極132の内周面に付着する際に、一部は衝突の際砕け散り、微小荷電粒子よりも大きな小滴(直径20μm程度)を形成する。
【0008】
この小滴の飛散方向は特定の方向性が見られず、カソード電極135を中心としてほぼ半球面内に飛散するので、一部はアノード電極132の開口から放出されてしまう。開口から放出された小滴が、成膜中の膜に取り込まれると、薄膜の膜質が劣化するという問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−256314号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、同軸型真空アーク蒸着源により、小滴が成膜中の薄膜に混入することなく、大面積の成膜を行える技術を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置された蒸着源とを有し、前記蒸着源は棒状のカソード電極と、前記カソード電極の先端に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の側方に配置されたアノード電極と、前記蒸着材料近傍に配置されたトリガ電極を備え、前記アノード電極と蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電を発生させると、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記アーク放電により蒸着材料の構成物質からなる微小荷電粒子に放出され、前記カソード電極内部に直線的に流れたアーク電流が形成する磁界により、前記微小荷電粒子の飛行方向が前記アーク電流と平行な方向に曲げられ、前記蒸着材料と前記アノード電極との間の空間を放出口としたときに、前記微小荷電粒子が前記放出口から放出されるように構成された蒸着装置であって、前記放出口よりも大面積の大型基板を保持する基板ホルダと、前記基板ホルダに保持された状態の前記大型基板の表面近傍と、前記放出口の近傍とを通る磁力線を形成する磁界形成手段とを有し、前記基板ホルダは、前記放出口から放出された粒子が直進した場合に、前記粒子が到達する位置以外の位置に配置され、前記磁力線は、前記放出口から放出された前記微小荷電粒子の飛行方向を曲げ、前記大型基板に到達させるように形成され、前記磁界形成手段は、前記磁力線の密度を、前記放出口の近傍位置よりも、前記基板表面の近傍位置の方を小さくするように構成された蒸着装置である。
請求項2記載の発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置された蒸着源とを有し、前記蒸着源は筒状のアノード電極と、前記アノード電極の内部であって、前記アノード電極の中心軸線上に配置された棒状のカソード電極と、前記カソード電極の先端に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に位置し、前記蒸着材料と前記カソード電極と前記アノード電極から絶縁されたトリガ電極とを有し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電を発生させると、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質からなる微小荷電粒子が放出され、前記カソード電極に流れたアーク電流が形成する磁界により、前記微小荷電粒子の飛行方向が前記アノード電極の中心軸線と平行な方向に曲げられ、前記アノード電極と前記蒸着材料との間の空間を放出口とすると、前記微小荷電粒子が前記放出口から放出され、前記放出口から放出された前記微小荷電粒子を、前記真空槽内に配置された基板に到達させ、薄膜を形成する蒸着装置であって、前記アノード電極の中心軸線から所定角度傾いた位置に配置され、大面積の大型基板を保持可能な基板ホルダと、前記微小荷電粒子の通路となる湾曲した空間の周囲に位置する磁界形成手段とを有し、前記磁界形成手段は、前記磁力線の密度を、前記放出口の近傍位置よりも、前記基板表面の近傍位置の方を小さくするように構成された蒸着装置である。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着装置であって、前記磁界形成手段は複数の磁石を有し、前記磁石は少なくとも前記基板の近傍位置と、前記放出口の近傍位置に配置された蒸着装置である。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の蒸着装置であって、前記磁石は筒状に形成され、前記基板の近傍位置に配置された前記磁石は、前記放出口の近傍位置に配置された前記磁石よりも大径にされた蒸着装置である。
請求項5記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着装置であって、前記磁界形成手段は螺旋状のコイルを有し、前記コイルの端部のうち、一方の端部は前記基板の近傍に位置し、他方の端部は前記放出口の近傍に位置する蒸着装置である。
請求項6記載の発明は、請求項5記載の蒸着装置であって、前記コイルの端部のうち、前記基板の近傍に位置する前記端部は、前記放出口の近傍に位置する端部よりも大径にされた蒸着装置である。
【0012】
本発明は上記のように構成されており、蒸着材料は金属などの導電性材料で構成され、カソード電極に電気的に接続されているので、真空槽内に真空雰囲気を形成した状態で、トリガ電極にカソード電極よりも大きい負電圧を印加すると、蒸着材料とトリガ電極との間でトリガ放電が発生する。
【0013】
トリガ放電によって蒸着材料から蒸着材料の粒子が放出されると、アノード電極と蒸着材料との間の圧力が高くなし、絶縁耐性が低下してアノード電極と蒸着材料との間にアーク放電が発生する。
【0014】
アーク放電により蒸着材料から放出される粒子には中性粒子と荷電粒子がある。アーク放電を維持するアーク電流を放出口から遠ざかる方向に流すと、荷電粒子のうち、電荷質量比(電荷/質量)の大きい微小荷電粒子は、アーク電流によって誘起される磁界によって放出口側に曲げられる。
【0015】
電荷質量比の小さい巨大荷電粒子と、中性粒子は磁界で曲げられる率が少ないので、アノード電極を筒状にし、蒸着材料の側方をアノード電極で覆えば、中性粒子と巨大荷電粒子はアノード電極の内周面に付着し、放出口から放出されない。
【0016】
中性粒子と巨大荷電粒子がアノード電極の内周面に衝突すると、小滴が発生し、該小滴が放出口から放出されることがあるが、該小滴は磁界形成手段の磁界で曲げられる率が少なく、直進し、また基板は放出口から直進する粒子が到達しない位置に配置されるので、小滴が基板に到達することはない。
【0017】
他方、微小荷電粒子は、基板と放出口を通る磁力線に巻き付いて移動する。基板の磁力線密度は、放出口の磁力線密度よりも少なく、微小荷電粒子は磁力線に巻き付いて基板側へ移動するときに拡散されるので、基板表面の放出口よりも広い領域に微小荷電粒子が到達し、薄膜が形成される。
従って、本願発明によれば微小荷電粒子で形成される膜質が良好な薄膜を、広い領域に形成することができる。
【0018】
また、本発明において、磁界形成手段を複数個の筒状の磁石で構成し、各磁石の磁極を同じ向きに向けておくと、各磁石で形成される大きな筒内部に、滑らかな内部磁力線が形成される。また、このように構成した場合、互いに隣接する各磁石の間に間隙を設けておくと、直進した小滴がその間隙から漏れ出し、試料基板には達しないようにすることができる。
【0019】
また、本発明において、アノード電極は筒状に形成され、蒸着材料とトリガ電極とカソード電極はアノード電極内部に配置され、アノード電極の中心軸線15は、カソード電極の中心軸線と平行にされるように構成してもよい。
このように構成すると、アノード電極の開口が放出口となり、微小荷電粒子はアノード電極の開口から放出される。
【0020】
また、磁界形成手段が螺旋状のコイルを有する場合、そのコイルの巻き方向を同じ方向にした状態でそのコイルに電流を流すと、コイルの内部には、滑らかな内部磁力線が形成される。また、磁界形成手段として、螺旋状コイルと、筒状の磁石を組み合わせたものを用いてもよい。
なお、本発明において、基板ホルダ上に基板を載置したときに、基板表面の法線は、カソード電極内部を流れるアーク電流の向きに対して傾くように構成されている。
【0021】
アーク電流の向きと基板表面の法線の向きが一致しているときに、アーク電流の向きと基板表面の法線のなす角度を0°とし、この角度が0°以上のときに、基板表面の法線が、カソード電極内部を流れるアーク電流の向きに対して傾いた状態であるとすると、60°以上傾いた状態では、小液がアノード電極の開口から飛散した場合でも、その小滴は基板ホルダには入射しにくくなっている。特に、基板ホルダに保持された基板の法線が、アーク電流の流れる向きに対して垂直になるようにしておけば、磁界に巻つかない中性粒子は基板表面には到達しえない。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下で図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。図1の符号1は、本発明の一実施形態の蒸着装置を示している。
この蒸着装置1は真空槽2を有しており、真空槽2内の底壁側には蒸着源3が配置されている。
【0023】
蒸着源3はアノード電極32と、棒状の電極部材36とを有している。アノード電極32は金属材料であるステンレスの筒(内径約30mm)で構成され、その一方の開口が絶縁板41を介して真空槽2の底壁に取り付けられており、他方の開口は真空槽2の内部に向けられている。
【0024】
電極部材36はアノード電極32の内部に配置されている。電極部材36は、蒸着材料31と、トリガ電極34と、カソード電極35とを有している。カソード電極35はアノード電極32よりも小径の棒状であって、アノード電極32の中心軸線15上に配置されている。
【0025】
蒸着材料31は導電性物質で構成され、アノード電極32の内部で、カソード電極35の真空槽2の内部に向けられた側の先端に取り付けられている。例えば、蒸着材料31は直径10mm、高さ10〜20mmの円柱状であり、その直径はアノード電極32の内径よりも小さく、蒸着材料31の中心軸線はアノード電極32の中心軸線15と一致するので、蒸着材料31の側面とアノード電極32の内周面との間には隙間がある。
【0026】
カソード電極35の周囲には絶縁部材33が取り付けられており、トリガ電極34はその絶縁部材33に取り付けられている。トリガ電極34とカソード電極35は、電源4に接続され、アノード電極32は真空槽2に接続されている。アノード電極32を真空槽2と同じ接地電位に置いた状態で、電源4を起動すると、カソード電極35に負電圧、トリガ電極34にカソード電極35よりも大きな負電圧が印加されるようになっている。
【0027】
真空槽2には真空排気系8が接続されており、真空槽2内を真空排気し、1.3×10-5Pa以下の真空雰囲気を維持した状態で、電源4を起動すると、トリガ放電が起こり、次いでアーク放電が起こって蒸着材料31から蒸着材料を構成する物質の粒子が放出される。
【0028】
蒸着材料31とアノード電極32との間の空間のうち、蒸着材料31の先端部分を放出口38とすると、蒸着材料31から放出された粒子のうち、電荷質量比(電荷/質量)の大きい微小荷電粒子は、アーク電流によってその飛行方向が曲げられ、放出口38からアーク電流がカソード電極35内を流れる方向と平行な方向に放出される。
【0029】
上述したように、カソード電極35はアノード電極32の中心軸線15上に配置されているので、微小荷電粒子はアノード電極32の中心軸線15と平行な方向に放出されることになる。
このとき、中性粒子や電荷質量比の小さい巨大荷電粒子は、アーク電流により進行方向を曲げられず、アノード電極32の内周面に衝突するが、その衝突の際に小滴が発生し、その小滴が放出口38から真空槽2の内部に向かって飛散する。
【0030】
真空槽2内には磁界形成手段7が配置されており、該磁界形成手段70はリング状の磁石を複数個有している。ここでは、6個のフェライト製の磁石711〜716(リング中心の磁場強度が450Gauss程度)を有しており、各磁石711〜716はステンレス製のスペーサ75によって互いに間隔を空けて固定されている。
【0031】
各磁石711〜716の中心は、アノード電極32の開口を起点として、真空槽2の側面方向に向けて滑らかに湾曲した曲線状に配置されている。図1の符号25はその曲線を示している。従って、各磁石711〜716はアノード電極32の開口から真空槽2の側面に向けて湾曲する筒状の空間70を取り囲んでいる。
【0032】
各磁石711〜716のN極はアノード電極32の開口側に向けられ、S極は真空槽2の側面側に向けられている。従って、各磁石711〜716の磁極はそれぞれ同じ方向を向いており、各磁石711〜716によって発生する磁力線は、磁石711〜716囲まれた空間の中で、その空間の両端の間を結ぶ内部磁力線75を形成する。
【0033】
微小荷電粒子は、筒状の空間70の両端のうち、アノード電極32側の端部を入り口とし、該空間70内部に入射されると内部磁力線75に巻き付いて移動し、真空槽2の側面側の端部を出口として放出される。
出口の近傍位置には基板ホルダ5が配置され、基板ホルダ5には大型基板11(例えば、直径約75mmの円形基板)がその出口と対向する位置で保持されており、内部磁力線75は基板11の表面近傍まで伸びているので、出口から放出された微小荷電粒子は基板11に到達する。他方、小滴は入り口に入射しても、内部磁力線75の影響を受けずに直進する。
【0034】
アノード電極32の中心軸線15と飛行方向との成す角度を飛行角度とすると、実験によれば小滴はアノード電極32の開口から60°未満のある飛行角度を持って飛散する。
基板11はそのような飛行角度を持ってアノード電極32から飛行する粒子が到達しない位置で保持されるようになっているので、基板11に小滴が到達することがない。
【0035】
各磁石711〜716の径は、微小荷電粒子の入り口側から出口側に向かって徐々に大きくされている。ここでは、入り口側の磁石を最初の磁石711とすると、最初の磁石711は内径33mm、外径約53mmであり、2番目の磁石712は内径42mmm、外径約62mmであり、3番目の磁石は内径51mm、外径約73mmであり、4番目の磁石は内径60mm、外径約105mmであり、5番目の磁石715は内径69mm、外径約94mmであり、最後の磁石716は内径78mm、外径約105mmであり、各磁石711〜716の厚みは約5mmであった。
【0036】
このような磁力形成手段7では、内部磁力線75は入り口側から出口側に向かって徐々に広がるので、内部磁力線75の密度は放出口38よりも基板11側で小さくなる。上述したように、微小荷電粒子は内部磁力線75に巻き付いて移動するので、微小荷電粒子は入り口側に比べ出口側で徐々に拡散され、基板11表面の広い領域に到達し薄膜が成長し、その領域に薄膜が成長する。上述したように、基板11には小滴が到達せず、微小荷電粒子のみが到達するので、膜質の良い薄膜が広い領域に形成されることになる。
【0037】
ここでは、基板11の中心は最後の磁石716の中心軸線上からずれており、基板ホルダ5は回転軸52によって基板11を保持した状態で水平面内で4〜10rpm程度の回転数で回転するようになっているので、微小荷電粒子が十分に拡散されずに出口から放出され、最後の磁石716の中心軸線近傍で微小荷電粒子の密度が高くなったとしても、基板11が回転することで、基板11に到達する粒子の面内分布が均一になる。従って、基板11表面に膜厚分布が均一な薄膜が形成することができる。
【0038】
以上は、各磁石711〜716がそれぞれリング状にされた場合について説明したが、例えば複数個の磁石を磁極の向きを揃えた状態で、リング状に配置し、複数個の磁石で一つのリングを形成してもよい。
またスペーサ73の材質もステンレスに限られず、真空中で使用できること、磁石同士の吸引力に対して強度を保持できる材質かつ磁性材料(Fe,Ni,Co)以外のもの以外であればよい。
【0039】
また、磁界形成手段7は磁石711〜716を有するものに限定されるものではない。図3の符号9は本発明に用いる磁界形成手段の他の例を示している。
【0040】
この磁界形成手段9は螺旋状のコイルで構成されており、その一端がアノード電極32の開口近傍に位置し、他端が基板11の表面近傍に位置するように配置されている。従って、磁界形成手段9に接続された電源94を起動し、磁界形成手段8に通電すると、磁界形成手段9で囲まれた内部空間に基板11の表面近傍と、アノード電極32の放出口38近傍の両方を通る内部磁力線が形成される。
【0041】
この磁界形成手段9の基板11側の螺旋半径は、アノード電極32側の螺旋半径よりも徐々に大きくなっている。従って、磁界形成手段9に囲まれた内部空間は、微小荷電粒子の入り口側よりも出口側が広くなっており、内部磁力線の密度は、放出口38側よりも基板11側で小さくなっている。
【0042】
即ち、基板11近傍と放出口38近傍の両方を通る内部磁力線は、基板11側で広がるので、小面積の入り口に入射した微小荷電粒子は、大面積の出口から放出され、基板11表面の広い領域に微小荷電粒子が到達し、薄膜が成長する。
【0043】
また、基板11を、その中心がコイルの出口側の螺旋の中心軸線からずれるように配置し、基板ホルダ5と共に基板11を水平面内で回転させながら成膜を行えば、微小荷電粒子の拡散が不均一であっても、基板11表面に膜厚分布の一定な薄膜を形成することができる。
【0044】
以上は、1つの磁界形成手段7に対し、蒸着源3が1つ配置された場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、各アノード電極32の開口を同じ向きに向けた状態で2個以上の蒸着源3を束ねて配置してもよく、この場合、磁界形成手段で囲まれた空間の入り口を、アノード電極32の束ねた開口の径よりも大きくすれば、各蒸着源から放出される微小荷電粒子を1つの磁界形成手段で曲げ、同じ出口から放出させて成膜を行うことができる。
【0045】
蒸着材料31を構成する物質は特に限定されず、Fe、Ta、NiFe、Cu、Co、FeMn等を蒸着材料として用いて、これらの高性能磁気薄膜を製造する場合にも適用可能である。
また、アノード電極32の形状も円筒状に限定されず、例えば角筒状でもよいし、あるいは板状に形成されていてもよい。
【0046】
また、図1に示すように、真空槽2にガス供給系9を接続しておき、有機ガスであるメタンガスのような反応ガスを供給しながら成膜を行えば、反応ガスと微小荷電粒子が基板11表面で反応し、反応ガスと蒸着材料との反応物の薄膜を形成することができる。
【0047】
【発明の効果】
成膜中の薄膜に小滴が混入することがなく、膜質の良好な薄膜を広い領域に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の蒸着装置の一例の断面図
【図2】本発明に用いる磁界形成手段の一例の斜視図
【図3】本発明に用いる磁界形成手段の他の例の斜視図
【図4】従来の蒸着装置を説明する図
【符号の説明】
1……蒸着装置 2……真空槽 3……蒸着源 5……基板ホルダ
32……アノード電極 34……トリガ電極 31……蒸着材料
【発明の属する技術分野】
本発明は蒸着装置に関し、特に、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)や半導体の高誘電体薄膜、絶縁膜、銅薄膜、磁性薄膜、高融点金属薄膜に適した成膜装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図3の符号101は従来技術の蒸着装置を示している。この蒸着装置101は真空槽102を有しており、真空槽102内には複数の蒸着源103が配置されている。各蒸着源103は円筒状のアノード電極132と、棒状の電極部材136とを有しており、電極部材136はアノード電極132内にそれぞれ配置されている。
【0003】
電極部材136は棒状のカソード電極135と、該カソード電極135の先端に接続された蒸着材料131と、絶縁物133を介してカソード電極135に取り付けられたトリガ電極134とを有しており、各アノード電極132を接地電位に置いた状態で、カソード電極135に負電圧を、トリガ電極134にカソード電極135より大きい負電圧を印加すると、トリガ放電が誘起され、該トリガ放電によりアノード電極132と蒸着材料131との間にアーク放電がそれぞれ誘起される。
【0004】
アーク放電が誘起されると、蒸着材料131の側面から蒸着材料131の粒子が放出されると共に、カソード電極135に蒸着材料131から離れる方向にアーク電流が流れる。
【0005】
蒸着材料の粒子のうち、電荷質量比が大きい微小荷電粒子はアーク電流により形成される磁界によってアノード電極132の開口から放出されるが、中性粒子や電荷質量比が小さい巨大荷電粒子は磁界の影響を受けず、アノード電極132の内周面に付着する。従って、各アノード電極132の開口からは微小荷電粒子のみが放出される。
【0006】
蒸着源3は蜂の巣状に束ねられており、各アノード電極132の開口はそれぞれ同じ方向に向けられているので、開口の上方に大面積の基板を配置しておけば、蒸着源3が束ねられた分、基板111表面の広い領域に微小荷電粒子が到達する。微小荷電粒子の反応性は高いので、微小荷電粒子のみが到達することによって、基板111表面の広い領域に膜質の良好な薄膜が形成される。
【0007】
しかしながら、中性粒子や巨大荷電粒子がアノード電極132の内周面に付着する際に、一部は衝突の際砕け散り、微小荷電粒子よりも大きな小滴(直径20μm程度)を形成する。
【0008】
この小滴の飛散方向は特定の方向性が見られず、カソード電極135を中心としてほぼ半球面内に飛散するので、一部はアノード電極132の開口から放出されてしまう。開口から放出された小滴が、成膜中の膜に取り込まれると、薄膜の膜質が劣化するという問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−256314号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、同軸型真空アーク蒸着源により、小滴が成膜中の薄膜に混入することなく、大面積の成膜を行える技術を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置された蒸着源とを有し、前記蒸着源は棒状のカソード電極と、前記カソード電極の先端に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の側方に配置されたアノード電極と、前記蒸着材料近傍に配置されたトリガ電極を備え、前記アノード電極と蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電を発生させると、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記アーク放電により蒸着材料の構成物質からなる微小荷電粒子に放出され、前記カソード電極内部に直線的に流れたアーク電流が形成する磁界により、前記微小荷電粒子の飛行方向が前記アーク電流と平行な方向に曲げられ、前記蒸着材料と前記アノード電極との間の空間を放出口としたときに、前記微小荷電粒子が前記放出口から放出されるように構成された蒸着装置であって、前記放出口よりも大面積の大型基板を保持する基板ホルダと、前記基板ホルダに保持された状態の前記大型基板の表面近傍と、前記放出口の近傍とを通る磁力線を形成する磁界形成手段とを有し、前記基板ホルダは、前記放出口から放出された粒子が直進した場合に、前記粒子が到達する位置以外の位置に配置され、前記磁力線は、前記放出口から放出された前記微小荷電粒子の飛行方向を曲げ、前記大型基板に到達させるように形成され、前記磁界形成手段は、前記磁力線の密度を、前記放出口の近傍位置よりも、前記基板表面の近傍位置の方を小さくするように構成された蒸着装置である。
請求項2記載の発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置された蒸着源とを有し、前記蒸着源は筒状のアノード電極と、前記アノード電極の内部であって、前記アノード電極の中心軸線上に配置された棒状のカソード電極と、前記カソード電極の先端に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に位置し、前記蒸着材料と前記カソード電極と前記アノード電極から絶縁されたトリガ電極とを有し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電を発生させると、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質からなる微小荷電粒子が放出され、前記カソード電極に流れたアーク電流が形成する磁界により、前記微小荷電粒子の飛行方向が前記アノード電極の中心軸線と平行な方向に曲げられ、前記アノード電極と前記蒸着材料との間の空間を放出口とすると、前記微小荷電粒子が前記放出口から放出され、前記放出口から放出された前記微小荷電粒子を、前記真空槽内に配置された基板に到達させ、薄膜を形成する蒸着装置であって、前記アノード電極の中心軸線から所定角度傾いた位置に配置され、大面積の大型基板を保持可能な基板ホルダと、前記微小荷電粒子の通路となる湾曲した空間の周囲に位置する磁界形成手段とを有し、前記磁界形成手段は、前記磁力線の密度を、前記放出口の近傍位置よりも、前記基板表面の近傍位置の方を小さくするように構成された蒸着装置である。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着装置であって、前記磁界形成手段は複数の磁石を有し、前記磁石は少なくとも前記基板の近傍位置と、前記放出口の近傍位置に配置された蒸着装置である。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の蒸着装置であって、前記磁石は筒状に形成され、前記基板の近傍位置に配置された前記磁石は、前記放出口の近傍位置に配置された前記磁石よりも大径にされた蒸着装置である。
請求項5記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着装置であって、前記磁界形成手段は螺旋状のコイルを有し、前記コイルの端部のうち、一方の端部は前記基板の近傍に位置し、他方の端部は前記放出口の近傍に位置する蒸着装置である。
請求項6記載の発明は、請求項5記載の蒸着装置であって、前記コイルの端部のうち、前記基板の近傍に位置する前記端部は、前記放出口の近傍に位置する端部よりも大径にされた蒸着装置である。
【0012】
本発明は上記のように構成されており、蒸着材料は金属などの導電性材料で構成され、カソード電極に電気的に接続されているので、真空槽内に真空雰囲気を形成した状態で、トリガ電極にカソード電極よりも大きい負電圧を印加すると、蒸着材料とトリガ電極との間でトリガ放電が発生する。
【0013】
トリガ放電によって蒸着材料から蒸着材料の粒子が放出されると、アノード電極と蒸着材料との間の圧力が高くなし、絶縁耐性が低下してアノード電極と蒸着材料との間にアーク放電が発生する。
【0014】
アーク放電により蒸着材料から放出される粒子には中性粒子と荷電粒子がある。アーク放電を維持するアーク電流を放出口から遠ざかる方向に流すと、荷電粒子のうち、電荷質量比(電荷/質量)の大きい微小荷電粒子は、アーク電流によって誘起される磁界によって放出口側に曲げられる。
【0015】
電荷質量比の小さい巨大荷電粒子と、中性粒子は磁界で曲げられる率が少ないので、アノード電極を筒状にし、蒸着材料の側方をアノード電極で覆えば、中性粒子と巨大荷電粒子はアノード電極の内周面に付着し、放出口から放出されない。
【0016】
中性粒子と巨大荷電粒子がアノード電極の内周面に衝突すると、小滴が発生し、該小滴が放出口から放出されることがあるが、該小滴は磁界形成手段の磁界で曲げられる率が少なく、直進し、また基板は放出口から直進する粒子が到達しない位置に配置されるので、小滴が基板に到達することはない。
【0017】
他方、微小荷電粒子は、基板と放出口を通る磁力線に巻き付いて移動する。基板の磁力線密度は、放出口の磁力線密度よりも少なく、微小荷電粒子は磁力線に巻き付いて基板側へ移動するときに拡散されるので、基板表面の放出口よりも広い領域に微小荷電粒子が到達し、薄膜が形成される。
従って、本願発明によれば微小荷電粒子で形成される膜質が良好な薄膜を、広い領域に形成することができる。
【0018】
また、本発明において、磁界形成手段を複数個の筒状の磁石で構成し、各磁石の磁極を同じ向きに向けておくと、各磁石で形成される大きな筒内部に、滑らかな内部磁力線が形成される。また、このように構成した場合、互いに隣接する各磁石の間に間隙を設けておくと、直進した小滴がその間隙から漏れ出し、試料基板には達しないようにすることができる。
【0019】
また、本発明において、アノード電極は筒状に形成され、蒸着材料とトリガ電極とカソード電極はアノード電極内部に配置され、アノード電極の中心軸線15は、カソード電極の中心軸線と平行にされるように構成してもよい。
このように構成すると、アノード電極の開口が放出口となり、微小荷電粒子はアノード電極の開口から放出される。
【0020】
また、磁界形成手段が螺旋状のコイルを有する場合、そのコイルの巻き方向を同じ方向にした状態でそのコイルに電流を流すと、コイルの内部には、滑らかな内部磁力線が形成される。また、磁界形成手段として、螺旋状コイルと、筒状の磁石を組み合わせたものを用いてもよい。
なお、本発明において、基板ホルダ上に基板を載置したときに、基板表面の法線は、カソード電極内部を流れるアーク電流の向きに対して傾くように構成されている。
【0021】
アーク電流の向きと基板表面の法線の向きが一致しているときに、アーク電流の向きと基板表面の法線のなす角度を0°とし、この角度が0°以上のときに、基板表面の法線が、カソード電極内部を流れるアーク電流の向きに対して傾いた状態であるとすると、60°以上傾いた状態では、小液がアノード電極の開口から飛散した場合でも、その小滴は基板ホルダには入射しにくくなっている。特に、基板ホルダに保持された基板の法線が、アーク電流の流れる向きに対して垂直になるようにしておけば、磁界に巻つかない中性粒子は基板表面には到達しえない。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下で図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。図1の符号1は、本発明の一実施形態の蒸着装置を示している。
この蒸着装置1は真空槽2を有しており、真空槽2内の底壁側には蒸着源3が配置されている。
【0023】
蒸着源3はアノード電極32と、棒状の電極部材36とを有している。アノード電極32は金属材料であるステンレスの筒(内径約30mm)で構成され、その一方の開口が絶縁板41を介して真空槽2の底壁に取り付けられており、他方の開口は真空槽2の内部に向けられている。
【0024】
電極部材36はアノード電極32の内部に配置されている。電極部材36は、蒸着材料31と、トリガ電極34と、カソード電極35とを有している。カソード電極35はアノード電極32よりも小径の棒状であって、アノード電極32の中心軸線15上に配置されている。
【0025】
蒸着材料31は導電性物質で構成され、アノード電極32の内部で、カソード電極35の真空槽2の内部に向けられた側の先端に取り付けられている。例えば、蒸着材料31は直径10mm、高さ10〜20mmの円柱状であり、その直径はアノード電極32の内径よりも小さく、蒸着材料31の中心軸線はアノード電極32の中心軸線15と一致するので、蒸着材料31の側面とアノード電極32の内周面との間には隙間がある。
【0026】
カソード電極35の周囲には絶縁部材33が取り付けられており、トリガ電極34はその絶縁部材33に取り付けられている。トリガ電極34とカソード電極35は、電源4に接続され、アノード電極32は真空槽2に接続されている。アノード電極32を真空槽2と同じ接地電位に置いた状態で、電源4を起動すると、カソード電極35に負電圧、トリガ電極34にカソード電極35よりも大きな負電圧が印加されるようになっている。
【0027】
真空槽2には真空排気系8が接続されており、真空槽2内を真空排気し、1.3×10-5Pa以下の真空雰囲気を維持した状態で、電源4を起動すると、トリガ放電が起こり、次いでアーク放電が起こって蒸着材料31から蒸着材料を構成する物質の粒子が放出される。
【0028】
蒸着材料31とアノード電極32との間の空間のうち、蒸着材料31の先端部分を放出口38とすると、蒸着材料31から放出された粒子のうち、電荷質量比(電荷/質量)の大きい微小荷電粒子は、アーク電流によってその飛行方向が曲げられ、放出口38からアーク電流がカソード電極35内を流れる方向と平行な方向に放出される。
【0029】
上述したように、カソード電極35はアノード電極32の中心軸線15上に配置されているので、微小荷電粒子はアノード電極32の中心軸線15と平行な方向に放出されることになる。
このとき、中性粒子や電荷質量比の小さい巨大荷電粒子は、アーク電流により進行方向を曲げられず、アノード電極32の内周面に衝突するが、その衝突の際に小滴が発生し、その小滴が放出口38から真空槽2の内部に向かって飛散する。
【0030】
真空槽2内には磁界形成手段7が配置されており、該磁界形成手段70はリング状の磁石を複数個有している。ここでは、6個のフェライト製の磁石711〜716(リング中心の磁場強度が450Gauss程度)を有しており、各磁石711〜716はステンレス製のスペーサ75によって互いに間隔を空けて固定されている。
【0031】
各磁石711〜716の中心は、アノード電極32の開口を起点として、真空槽2の側面方向に向けて滑らかに湾曲した曲線状に配置されている。図1の符号25はその曲線を示している。従って、各磁石711〜716はアノード電極32の開口から真空槽2の側面に向けて湾曲する筒状の空間70を取り囲んでいる。
【0032】
各磁石711〜716のN極はアノード電極32の開口側に向けられ、S極は真空槽2の側面側に向けられている。従って、各磁石711〜716の磁極はそれぞれ同じ方向を向いており、各磁石711〜716によって発生する磁力線は、磁石711〜716囲まれた空間の中で、その空間の両端の間を結ぶ内部磁力線75を形成する。
【0033】
微小荷電粒子は、筒状の空間70の両端のうち、アノード電極32側の端部を入り口とし、該空間70内部に入射されると内部磁力線75に巻き付いて移動し、真空槽2の側面側の端部を出口として放出される。
出口の近傍位置には基板ホルダ5が配置され、基板ホルダ5には大型基板11(例えば、直径約75mmの円形基板)がその出口と対向する位置で保持されており、内部磁力線75は基板11の表面近傍まで伸びているので、出口から放出された微小荷電粒子は基板11に到達する。他方、小滴は入り口に入射しても、内部磁力線75の影響を受けずに直進する。
【0034】
アノード電極32の中心軸線15と飛行方向との成す角度を飛行角度とすると、実験によれば小滴はアノード電極32の開口から60°未満のある飛行角度を持って飛散する。
基板11はそのような飛行角度を持ってアノード電極32から飛行する粒子が到達しない位置で保持されるようになっているので、基板11に小滴が到達することがない。
【0035】
各磁石711〜716の径は、微小荷電粒子の入り口側から出口側に向かって徐々に大きくされている。ここでは、入り口側の磁石を最初の磁石711とすると、最初の磁石711は内径33mm、外径約53mmであり、2番目の磁石712は内径42mmm、外径約62mmであり、3番目の磁石は内径51mm、外径約73mmであり、4番目の磁石は内径60mm、外径約105mmであり、5番目の磁石715は内径69mm、外径約94mmであり、最後の磁石716は内径78mm、外径約105mmであり、各磁石711〜716の厚みは約5mmであった。
【0036】
このような磁力形成手段7では、内部磁力線75は入り口側から出口側に向かって徐々に広がるので、内部磁力線75の密度は放出口38よりも基板11側で小さくなる。上述したように、微小荷電粒子は内部磁力線75に巻き付いて移動するので、微小荷電粒子は入り口側に比べ出口側で徐々に拡散され、基板11表面の広い領域に到達し薄膜が成長し、その領域に薄膜が成長する。上述したように、基板11には小滴が到達せず、微小荷電粒子のみが到達するので、膜質の良い薄膜が広い領域に形成されることになる。
【0037】
ここでは、基板11の中心は最後の磁石716の中心軸線上からずれており、基板ホルダ5は回転軸52によって基板11を保持した状態で水平面内で4〜10rpm程度の回転数で回転するようになっているので、微小荷電粒子が十分に拡散されずに出口から放出され、最後の磁石716の中心軸線近傍で微小荷電粒子の密度が高くなったとしても、基板11が回転することで、基板11に到達する粒子の面内分布が均一になる。従って、基板11表面に膜厚分布が均一な薄膜が形成することができる。
【0038】
以上は、各磁石711〜716がそれぞれリング状にされた場合について説明したが、例えば複数個の磁石を磁極の向きを揃えた状態で、リング状に配置し、複数個の磁石で一つのリングを形成してもよい。
またスペーサ73の材質もステンレスに限られず、真空中で使用できること、磁石同士の吸引力に対して強度を保持できる材質かつ磁性材料(Fe,Ni,Co)以外のもの以外であればよい。
【0039】
また、磁界形成手段7は磁石711〜716を有するものに限定されるものではない。図3の符号9は本発明に用いる磁界形成手段の他の例を示している。
【0040】
この磁界形成手段9は螺旋状のコイルで構成されており、その一端がアノード電極32の開口近傍に位置し、他端が基板11の表面近傍に位置するように配置されている。従って、磁界形成手段9に接続された電源94を起動し、磁界形成手段8に通電すると、磁界形成手段9で囲まれた内部空間に基板11の表面近傍と、アノード電極32の放出口38近傍の両方を通る内部磁力線が形成される。
【0041】
この磁界形成手段9の基板11側の螺旋半径は、アノード電極32側の螺旋半径よりも徐々に大きくなっている。従って、磁界形成手段9に囲まれた内部空間は、微小荷電粒子の入り口側よりも出口側が広くなっており、内部磁力線の密度は、放出口38側よりも基板11側で小さくなっている。
【0042】
即ち、基板11近傍と放出口38近傍の両方を通る内部磁力線は、基板11側で広がるので、小面積の入り口に入射した微小荷電粒子は、大面積の出口から放出され、基板11表面の広い領域に微小荷電粒子が到達し、薄膜が成長する。
【0043】
また、基板11を、その中心がコイルの出口側の螺旋の中心軸線からずれるように配置し、基板ホルダ5と共に基板11を水平面内で回転させながら成膜を行えば、微小荷電粒子の拡散が不均一であっても、基板11表面に膜厚分布の一定な薄膜を形成することができる。
【0044】
以上は、1つの磁界形成手段7に対し、蒸着源3が1つ配置された場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、各アノード電極32の開口を同じ向きに向けた状態で2個以上の蒸着源3を束ねて配置してもよく、この場合、磁界形成手段で囲まれた空間の入り口を、アノード電極32の束ねた開口の径よりも大きくすれば、各蒸着源から放出される微小荷電粒子を1つの磁界形成手段で曲げ、同じ出口から放出させて成膜を行うことができる。
【0045】
蒸着材料31を構成する物質は特に限定されず、Fe、Ta、NiFe、Cu、Co、FeMn等を蒸着材料として用いて、これらの高性能磁気薄膜を製造する場合にも適用可能である。
また、アノード電極32の形状も円筒状に限定されず、例えば角筒状でもよいし、あるいは板状に形成されていてもよい。
【0046】
また、図1に示すように、真空槽2にガス供給系9を接続しておき、有機ガスであるメタンガスのような反応ガスを供給しながら成膜を行えば、反応ガスと微小荷電粒子が基板11表面で反応し、反応ガスと蒸着材料との反応物の薄膜を形成することができる。
【0047】
【発明の効果】
成膜中の薄膜に小滴が混入することがなく、膜質の良好な薄膜を広い領域に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の蒸着装置の一例の断面図
【図2】本発明に用いる磁界形成手段の一例の斜視図
【図3】本発明に用いる磁界形成手段の他の例の斜視図
【図4】従来の蒸着装置を説明する図
【符号の説明】
1……蒸着装置 2……真空槽 3……蒸着源 5……基板ホルダ
32……アノード電極 34……トリガ電極 31……蒸着材料
Claims (6)
- 真空槽と、前記真空槽内に配置された蒸着源とを有し、
前記蒸着源は棒状のカソード電極と、前記カソード電極の先端に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の側方に配置されたアノード電極と、前記蒸着材料近傍に配置されたトリガ電極を備え、
前記アノード電極と蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電を発生させると、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記アーク放電により蒸着材料の構成物質からなる微小荷電粒子に放出され、
前記カソード電極内部に直線的に流れたアーク電流が形成する磁界により、前記微小荷電粒子の飛行方向が前記アーク電流と平行な方向に曲げられ、
前記蒸着材料と前記アノード電極との間の空間を放出口としたときに、前記微小荷電粒子が前記放出口から放出されるように構成された蒸着装置であって、
前記放出口よりも大面積の大型基板を保持する基板ホルダと、
前記基板ホルダに保持された状態の前記大型基板の表面近傍と、前記放出口の近傍とを通る磁力線を形成する磁界形成手段とを有し、
前記基板ホルダは、前記放出口から放出された粒子が直進した場合に、前記粒子が到達する位置以外の位置に配置され、
前記磁力線は、前記放出口から放出された前記微小荷電粒子の飛行方向を曲げ、前記大型基板に到達させるように形成され、
前記磁界形成手段は、前記磁力線の密度を、前記放出口の近傍位置よりも、前記基板表面の近傍位置の方を小さくするように構成された蒸着装置。 - 真空槽と、前記真空槽内に配置された蒸着源とを有し、
前記蒸着源は筒状のアノード電極と、前記アノード電極の内部であって、前記アノード電極の中心軸線上に配置された棒状のカソード電極と、前記カソード電極の先端に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に位置し、前記蒸着材料と前記カソード電極と前記アノード電極から絶縁されたトリガ電極とを有し、
前記アノード電極と前記蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電を発生させると、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質からなる微小荷電粒子が放出され、
前記カソード電極に流れたアーク電流が形成する磁界により、前記微小荷電粒子の飛行方向が前記アノード電極の中心軸線と平行な方向に曲げられ、
前記アノード電極と前記蒸着材料との間の空間を放出口とすると、前記微小荷電粒子が前記放出口から放出され、前記放出口から放出された前記微小荷電粒子を、前記真空槽内に配置された基板に到達させ、薄膜を形成する蒸着装置であって、
前記アノード電極の中心軸線から所定角度傾いた位置に配置され、大面積の大型基板を保持可能な基板ホルダと、
前記微小荷電粒子の通路となる湾曲した空間の周囲に位置する磁界形成手段とを有し、
前記磁界形成手段は、前記磁力線の密度を、前記放出口の近傍位置よりも、前記基板表面の近傍位置の方を小さくするように構成された蒸着装置。 - 前記磁界形成手段は複数の磁石を有し、前記磁石は少なくとも前記基板の近傍位置と、前記放出口の近傍位置に配置された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着装置。
- 前記磁石は筒状に形成され、前記基板の近傍位置に配置された前記磁石は、前記放出口の近傍位置に配置された前記磁石よりも大径にされた請求項3記載の蒸着装置。
- 前記磁界形成手段は螺旋状のコイルを有し、
前記コイルの端部のうち、一方の端部は前記基板の近傍に位置し、他方の端部は前記放出口の近傍に位置する請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着装置。 - 前記コイルの端部のうち、前記基板の近傍に位置する前記端部は、前記放出口の近傍に位置する端部よりも大径にされた請求項5記載の蒸着装置。
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Cited By (2)
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JP2007179963A (ja) * | 2005-12-28 | 2007-07-12 | Kasatani:Kk | 燃料電池用触媒の製造方法及び触媒の担持方法 |
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-
2002
- 2002-12-19 JP JP2002367957A patent/JP2004197177A/ja active Pending
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