JP2004018899A - 蒸着源及び成膜装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】成膜速度を落とさずに膜質の良い薄膜を成膜する。
【解決手段】本発明の蒸着源3は磁力線形成手段7を有しており、アーク電流によって発生する磁界が弱まり、その磁界により正の微小下線粒子に及ぼす力が弱くなったとしても、磁力線形成手段7の磁力線によって正の微小荷電粒子の飛行方向が修正され、基板52に到達するように構成されている。従って、本発明の蒸着源3を用いれば、アーク電流を小さくしても、微小荷電粒子の成膜対象物52到達率が低くならず、従来技術の成膜装置のように成膜速度が低下することがない。
【選択図】図1
【解決手段】本発明の蒸着源3は磁力線形成手段7を有しており、アーク電流によって発生する磁界が弱まり、その磁界により正の微小下線粒子に及ぼす力が弱くなったとしても、磁力線形成手段7の磁力線によって正の微小荷電粒子の飛行方向が修正され、基板52に到達するように構成されている。従って、本発明の蒸着源3を用いれば、アーク電流を小さくしても、微小荷電粒子の成膜対象物52到達率が低くならず、従来技術の成膜装置のように成膜速度が低下することがない。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成膜装置に関し、特に、同軸型真空アーク蒸着源を備えた成膜装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の同軸型真空アーク蒸着源の実施例を図6に基づいて説明する。図6において、符号103は同軸型真空アーク蒸着源であり、符号136はカソード取付台であり、カソード電極131は取り付けフランジ137上に絶縁物135を介して電気的に絶縁を保って取り付けられている。
【0003】
符号131は蒸着材料からなるカソード電極であり、大きさは直径10mm、長さ10mm〜20mmの円柱状である。符号134はトリガー電極であり、カソード電極131に密接された絶縁物133を介して、カソード電極131に隣接して取り付けられている。
【0004】
符号132は円筒状のアノード電極であり、前記カソード電極131はアノード電極132の中心に設置されている。このカソード電極131はアノード電極132との間に約10mmの間隙を隔てて取り付けられている。
アノード電極132はステンレス製であり、その内径は約30mmである。符号102は真空チャンバ隔壁であり詳細には記載しないが、各電極(カソード電極131、トリガー電極134)に電圧を導入するための配線は、取付フランジ137の電流導入端子を介して各電極131、134に接続されている。
【0005】
アノード電極132を接続している配線と、カソード電極131を接続している配線との間にアーク電源139が接続されている。またカソード電極131を接続している配線と、トリガー電極134を接続している配線との間にトリガー電源138が接続されている。
【0006】
符号151は基板ステージであり、該基板ステージ151はアノード電極132開口先端部から10cm〜20cm離して設置され、基板ステージ151の蒸着源103側の面に試料基板150が取付けられている。符号4は、本装置の真空排気システムであり、符号141は主バルブ、符号142は高真空排気ポンプであり、この場合高真空排気ポンプとしてターボ分子ポンプが用いられる。
【0007】
符号143はフォアバルブであり、高真空排気ポンプ142の下流側に取り付けられる。低真空用排気ポンプ144であり、この場合、低真空用排気ポンプ144として油回転ポンプを用いている。
この成膜装置101は、主バルブ141から低真空用排気ポンプ144までの真空排気システムとは別の系統の排気システムを有しており、超高真空に排気するためのポンプ145が搭載され、この場合イオンポンプが搭載されている。
【0008】
符号105はガス導入系であり、符号151、153は仕切バルブ、符号152はガス流量調整器(以下、マスフローコントローラと呼称)、符号154は圧力調整器、符号155はガスボンベであり、この場合ガスボンベ155には窒素が充填されている。またガス系統5は一連の機器が金属の配管で直列に接続されている。
【0009】
次に、上述した同軸型真空アーク蒸着源を用いた鉄膜の成膜方法の工程について説明する。トリガー電源138より3.4kVの正の電圧をトリガー電極134に印加することによってトリガー電極134とカソード電極131との間に電位差が生じ、絶縁物133の断面を介して沿面放電が発生し、電子とイオンが発生する。
【0010】
次にアーク電源139から負の電圧を100V程度カソード電極131に印加することによって、前記のトリガー電極134とカソード電極131間でトリガー放電が発生し、そのトリガー放電による、イオン、電子等が火花(トリガー)となってアノード電極132とカソード電極131との間の大きなアーク放電を誘起する。
【0011】
アーク電源139内には8800μFのコンデンサが装備され、コンデンサには予め電荷が蓄積されており、この電荷が約1msの間に放電され、尖塔電流値が約1200〜1400A程度の電流(アーク電流)がパルス状にアノード電極132からカソード電極131間で流れる。このことによりカソード電極131の周りに磁場が発生し、電子は前記磁場と電子による電流で発生するローレンツ力で偏向され、試料基板150側に飛行する。
【0012】
カソード(蒸着材料)131が溶融し、放射されたプラズマ化したイオンや、クラスターのような荷電粒子は、前記電子に吸い寄せられて電子同様に試料基板150方向に偏向される。この時、中性粒子(電荷を持たない粒子や塊)はローレンツ力の作用を受けないために、アノード電極132内壁に付着する。
【0013】
また荷電粒子でもクラスターのような非常に重い粒子(巨大荷電粒子)はあまり偏向されないために試料基板150には到達できない。その結果、試料基板150にはイオン化した非常に質量の小さい、いわば微小荷電粒子のみが到達するので、試料基板150上に膜質の良い薄膜が形成される。
【0014】
しかし、上述した同軸型真空アーク蒸着源では、トリガー電極とカソード電極との間で発生する放電によって蒸着材料131が突沸し、蒸着材料の液滴が飛散することがあり、この液滴が試料基板150に付着すると形成される薄膜の膜質が悪化する。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、液滴が少なく、膜質の良い薄膜を成膜できる蒸着源を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は薄膜に液滴が付着する原因を調べるために、コンデンサの容量を変えることで、アーク電流の最大電流値、即ち、アーク電流の尖頭電流値を変化させて、毎秒1回の放電パルスを複数回与えて、ガラス基板からなる成膜対象物表面に鉄からなる薄膜を成膜した。
【0017】
図3〜図5はそれらの電子顕微鏡写真を示しており、図3はコンデンサ容量が2200μF、アーク電流の尖頭電流値が300A、放電パルスが1800回の場合であり、図4はコンデンサ容量が4400μF、アーク電流の尖頭電流値が600A以上700A以下の範囲、放電パルスが1800回の場合であり、図5はコンデンサ容量が8800μF、アーク電流の尖頭電流値が1200A以上1400A以下の範囲、放電パルスが3600回の場合である。
【0018】
図3〜図5から明かなように、アーク電流の尖頭電流値が低い程、液滴が少なくなることがわかる。
しかしながら、各薄膜の膜厚を測定したところ、図3では成膜対象物表面に薄膜が殆ど成長しておらず(膜厚約0nm)、図4では薄膜の膜厚が27nm、図5では薄膜の膜厚が144nmであり、アーク電流の尖頭電流値が小さくなると、成膜速度も低下することが分かる。
【0019】
その原因は、尖頭電流値が低くなることでアーク電流で形成される磁場が弱くなり、結果として、荷電粒子にかかるローレンツ力も小さくなり、荷電粒子が充分に偏向されず、荷電粒子の成膜対象物に到達する割合が少なくなるためと推測される。
従って、そのローレンツ力を補助するような磁力線形成手段を設ければ、アーク電流の尖頭電流値が小さくても成膜速度が遅くならないと考えられる。
【0020】
かかる知見に基いてなされた請求項1記載の発明は、アノード電極と、トリガー電極と、蒸着材料とを有し、前記アノード電極と前記トリガー電極はそれぞれ前記蒸着材料の近傍に配置され、前記アノード電極と前記蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記蒸着材料と前記トリガー電極との間に電圧を印加すると、前記トリガー電極と前記蒸着材料との間に生じたトリガー放電により、前記蒸着材料と前記アノード電極との間にアーク放電が誘起され、前記アーク放電を維持するアーク電流は、前記蒸着材料を通って、前記蒸着材料から遠ざかる方向に流れ、前記蒸着材料から放出された正の微小荷電粒子は、前記アーク電流が形成する磁界によって、前記アーク電流が流れる方向とは逆方向に飛行するように構成された蒸着源であって、磁力線形成手段を有し、前記磁力線形成手段の一方の磁極は前記アーク電流の流れる方向に向けられ、他方の磁極は前記アーク電流の流れる方向とは逆方向に向けられた蒸着源である。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の蒸着源であって、前記アノード電極は筒状にされた蒸着源である。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源であって、前記磁力線形成手段は磁石で構成された蒸着源である。
請求項4記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源であって、前記磁力線形成手段はコイルで構成された蒸着源である。
請求項5記載の発明は、真空槽と、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の蒸着源とを有し、前記蒸着源から前記正の微小荷電粒子を前記真空槽内に放出させたときに、前記正の微小荷電粒子が到達可能な位置に成膜対象物を保持する保持装置が配置された成膜装置である。
【0021】
本発明は上記のように構成されており、磁力線形成手段の一方の磁極がアーク電流の流れる方向に向けられ、他方の磁極がアーク電流の流れる方向に向けられることで、アーク電流が流れる方向と平行な磁力線が形成され、荷電粒子はその磁力線に巻き付いて移動し、成膜対象物に到達する。
従って、微小荷電粒子の飛行方向が曲げられるときに、アーク電流の流れる方向から逸れたとしても、微小荷電粒子はアーク電流と平行な磁力線に巻き付いて移動することで、その飛行方向が修正される。
【0022】
アノード電極を円筒や角筒等の筒状にし、蒸着材料をその内部であって、筒の開口よりも内側に配置すれば、中性粒子や、電荷に対して質量の大きい荷電粒子はアノード電極の内周面に付着し、開口からは放出されない。従って、成膜対象物表面には電荷に対して質量の小さい微小荷電粒子のみが到達することになり、膜質の良い薄膜が得られる。
【0023】
本発明の磁力線形成手段は、永久磁石であってもコイルであってもよく、永久磁石の場合はS極とN極を有し、コイルの場合は通電されるとS極とN極が生じるようになっており、いずれの場合もS極とN極はアノード電極の中心軸線に沿って配置されている。
【0024】
従って、S極をアノード電極の一端に向けN極を他端に向けた場合と、N極をアノード電極の一端に向けS極を他端に向けた場合の、いずれの場合もアノード電極の中心軸線と平行な磁力線が形成され、その磁力線によって微小荷電粒子の飛行方向が修正される。
【0025】
アノード電極の中心軸線上、又は、中心軸線近傍にアーク電流が流れる電極を配置し、かつ、蒸着材料をその中心軸線上に配置すれば、蒸着材料を中心とする磁界が形成され、それによって微小荷電粒子の飛行方向がアーク電流が流れる方向とは逆向きに曲げられる。
また、コンデンサ容量を小さくすることで、微小荷電粒子の飛行方向を曲げる磁界が弱くなったとしても、上述したように、磁力線形成手段により発生する磁力線で飛行方向が修正されるので、成膜速度が遅くならない。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の蒸着源を用いた成膜装置について詳細に説明する。
【0027】
図1の符号1は本発明の蒸着源を用いた成膜装置を示している。この成膜装置1は、真空槽2と、蒸着源3と、保持装置50とを有している。
蒸着源3は真空槽2の底壁側に配置され、保持装置50は天井側に配置されている。
蒸着源3は、アノード電極32と、蒸着材料31と、トリガー電極34と、アーク電極39と、磁力線形成手段7とを有している。
【0028】
磁力線形成手段7はフェライト等の磁性材料がリング状に成形された永久磁石で構成されている。ここでは、その磁力線形成部材7の大きさは、内径33mm、外径53mm、厚み約5mmであり、その中心の磁場を測定したところ、約450ガウス(450×10−4Wb)であった。
【0029】
アノード電極32は円筒形状に成形された導電性材料(ここではステンレス)で構成されている。磁力形成手段7のリング形状は平板状であり、アノード電極32はその平板の位置する平面に対して、中心軸線8を垂直に向けた状態で、磁力線形成手段7に挿通されている。
【0030】
真空槽2の底壁には孔が形成され、その孔は水平に設置された取り付け板37で塞がれており、アノード電極32は磁力形成手段7に挿通された状態で取り付け板37の真空槽2の内部側に立設されている。
図1の符号38はアノード電極32の両端部のうち、取り付け板37とは反対側の端部である開口を示している。
【0031】
磁力線形成手段7のリング形状は、平板状であり、その平板の一方の面がN極に着磁され、他方の面がS極に着磁されている。ここでは、S極がアノード電極32の開口38側へ向けられ、N極が真空槽2の底壁側へ向けられることで、アノード電極32内に後述する磁力線を形成するようになっている。
【0032】
アノード電極32内部には棒状の取り付け部材36が挿通されており、その下端部は取り付け板37上に固定されている。トリガー電極34は取り付け部材36の上部に第一の絶縁部材35を介して取り付けられている。
蒸着材料31はトリガー電極34の上部に配置された第二の絶縁部材33を介して、取り付け部材36の先端位置に取り付けられている。この蒸着材料31は、アノード電極32の上端部分の開口38よりも下側の位置、即ち、アノード電極32内部に位置している。
【0033】
蒸着材料31はアノード電極32の内径よりも小径に形成され、かつ、アノード電極32の中心軸線8上に置かれている。従って、アノード電極32の内周面と、蒸着材料31の側面との間には隙間51がある。
アーク電極39は棒状であり、隙間51に挿通されている。アーク電極39の上端は蒸着材料31に接続され、また、下端は取り付け板37の絶縁材料41を介して真空槽2の外部に気密に導出され、真空槽2外に配置された電源装置40に電気的に接続されている。
【0034】
トリガー電極34も、真空槽2の外部に電気的に導出されており、同じ電源装置40に接続されている。他方、アノード電極32と真空槽2はそれぞれ接地電位に接続されている。
真空槽2と、トリガー電極34と、蒸着材料31と、アノード電極32は、第一、第二の絶縁部材33、35によって互いに絶縁されており、真空排気系62によって真空槽2内に所定圧力の真空雰囲気を形成した状態で、電源装置40を起動し、蒸着材料31に所定の大きさの負電圧を印加し、トリガー電極34に蒸着材料31よりも大きい負電圧をパルス状に印加すると、トリガー放電が生じ、蒸着材料31の側面から、蒸着材料31の粒子が放出されるようになっている。
【0035】
上述したように、アノード電極32は接地電位に接続されており、蒸着材料31に電圧を印加すると、アノード電極32と蒸着材料31との間に電位差が生じるから、蒸着材料31の粒子が放出されアノード電極32内の絶縁耐性が低下すると、蒸着材料31とアノード電極32との間にアーク放電が誘起される。
電源装置40にはコンデンサが装備されており、コンデンサは予め充電され、アーク放電が誘起されるとコンデンサが放電し、蒸着材料31にアーク電流が供給される。アーク電流はアーク放電直後に最大値となり、その最大値を尖頭電流値とすると、ここでは、コンデンサの容量は4400μFであり、尖頭電流値は600A以上700A以下であり、この尖頭電流値では蒸着材料31の突沸は起こらず、液滴が真空槽2内に飛散することがなかった。
【0036】
アーク電極39はアノード電極32の中心軸線8に平行に、且つ中心軸線8の近傍に配置されており、アーク電流はアーク電極39を蒸着材料31から真空槽2の底面方向に向けて流れ、中心軸線8を中心とした磁界を形成する。
ここでは蒸着材料31は鉄で構成されており、アーク放電が発生すると蒸着材料31の側面が溶融し、その部分から蒸着材料を構成する粒子が放出され、放出された粒子はアノード電極32の内周面に向かう方向、即ち、蒸着材料31から見て放射方向に飛び出す。
【0037】
放出された粒子には、正又は負の荷電粒子と中性粒子がある。図2の符号81は中性粒子を示し、符号84は荷電粒子のうち、質量に比べ電荷の小さい巨大荷電粒子を示している。
中性粒子81と巨大荷電粒子84は、アノード電極32と蒸着材料31との間の電界の影響を受けず、蒸着材料31から放出されると、放射方向に飛行し、アノード電極32の内周面に衝突するとそこに付着する。
【0038】
電子や、負電荷を有する微小荷電粒子82は、蒸着材料31と反発し、且つ、正電圧のアノード電極32に引きつけられ、蒸着材料31からアノード電極32に向かって飛行する。このとき、アーク電流が形成する磁界によって開口38方向に向う力を受け、その飛行方向が開口38方向に曲げられる。
他方、質量が小さく(電荷質量比が大きい粒子)、正電荷を有する微小荷電粒子83は、蒸着材料31から放出され、アノード電極32に向う途中で正電圧のアノード電極32によって押し戻され、負電圧の蒸着材料31に引き寄せられて、蒸着材料31の方向に向って逆向きに飛行する。
【0039】
この逆向きの飛行のとき、正の微小荷電粒子83は、アーク電流が形成する磁界から開口38方向に向う力を受けるとともに前記開口38の方向にベクトルを持った電子流に吸引され、飛行方向が開口38方向に曲げられる。
上述したように磁力線形成手段7は、一方の磁極をアノード電極32の開口38側に向け、他方の磁極を真空槽2の底壁に向けており、アノード電極32の内部にアーク電流の流れる方向に対して平行な磁力線、即ち、アノード電極32の中心軸線8に対して平行な磁力線を形成するようになっている。
【0040】
開口38方向に曲げられた微小荷電粒子83は、その磁力線に巻き付いて移動し、アノード電極32の中心軸線8に沿って開口38から真空槽2内に放出される。
保持装置50は、アノード電極32の開口38と対向するように位置し、保持装置50の開口38と対向する面には成膜対象物52が保持されており、開口38から放出された微小荷電粒子83は成膜対象物52に到達するとそこに付着し、その表面に薄膜が成長する。ここでは成膜対象物52としてガラス基板を用いた。
【0041】
薄膜成長中は、不図示の移動手段により保持装置50がアノード電極32の開口38に対して相対的に回転しており、保持装置50と共に成膜対象物52も回転し、成膜対象物52の表面に均一に薄膜が成長するようになっている。
アーク電流を流し続けると、コンデンサの放電が進み、アーク電流が小さくなり、アーク電流によって発生する磁界が弱くなるので、微小荷電粒子に及ぼす力も弱くなる。その結果、従来の蒸着源では、開口から放出される正の微小荷電粒子の飛行方向はアノード電極の中心軸線からずれる。
【0042】
それに対し、本発明の蒸着源3では、磁力線形成手段7が中心軸線8と平行な磁力線をアノード電極32内に形成しており、微小荷電粒子83はその磁力線に巻き付きながら、アノード電極32内を飛行するため、開口38から放出されるときの飛行方向は、アノード電極32の中心軸線8と平行な方向に修正されている。
【0043】
尚、上述した成膜装置1では、保持装置50とアノード電極32の開口38との間であって、保持装置50の近傍位置にはノズル63が配置され、該ノズル63は真空槽2外に配置された反応ガス供給系61と気密に接続されており、反応ガス系61のボンベに反応ガスを充填し、その反応ガスをノズル63の噴出口から成膜対象物52に向けて噴出するようにすれば、成膜対象物52表面に、蒸着材料31の粒子と反応ガスとの反応物からなる薄膜を形成することができる。
【0044】
また、この成膜装置1では、真空槽2の外壁にヒータ68と、冷水管69が巻き回されており、このヒータ68と冷水管69によって、成膜中の真空槽2内の温度が所定温度に維持されるようになっている。
蒸着材料31の構成材料は特に限定されるものではなく、ハフニウム、タングステン、タンタル、アルミニウム等種々の材料で蒸着材料を構成することができる。
【0045】
蒸着材料31の突沸を生じさせないためには、金属の種類によってアーク電流の尖頭電流値を変化させる必要がある。従来の蒸着源では、アーク電流が小さくなり、発生する磁界が弱くなると、成膜速度が落ちたが、本発明の蒸着源3では磁力線形成手段7によって荷電粒子の飛行方向が修正されるので、成膜速度が低下しない。
【0046】
例えば、蒸着材料31を鉄で構成した場合はコンデンサ容量を4400μF、アーク電流の尖頭電流値を600A以上700A以下の条件では突沸が生じなかったが、鉄よりも融点が低いアルミニウムで構成した場合、アーク電流の尖頭電流値が600Aの場合であっても突沸が生じるが、コンデンサの容量を更に2200μFに下げ、アーク電流の尖頭電流値を更に小さくした場合は突沸が生じなかった。
【0047】
上述した例では、保持装置50を回転させたが、例えば、往復運動と回転運動とを組み合わせたり、回転と首振り運動とを組み合わせる等、結果として成膜対象物52に蒸着材料31の粒子が均等に付着するのであれば、保持装置50をどのように移動させてもよい。
また、成膜対象物52はガラス基板に限定されるものではなく、ガラス基板やウェハー等の基板のほか、針状の電子放出体等など種々の形状のものを成膜対象物として用いることができる。
【0048】
以上は、磁力線形成手段7の形状がリング状の場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。微小荷電粒子83の飛行方向を修正可能な磁力線を形成するものであれば、円筒形状など種々の形状の磁力線形成手段7を用いることが可能であり、また、複数の磁力線形成手段7をアノード電極32の周囲に配置してもよい。
磁力形成手段7に用いる磁石は、フェライトからなるものに限定されず、種々の磁性材料からなる磁石を用いることができる。
【0049】
【発明の効果】
本発明の蒸着源では、微小荷電粒子はその飛行方向は磁力線形成手段によって修正され、成膜対象物表面に到達するように構成されている。従って、本発明の蒸着源を用いれば、蒸着材料の突沸が起こらない程度にアーク電流を小さくしても、微小荷電粒子は成膜対象物に到達するので、従来に比べて成膜速度が落ちることがなく膜質の良い薄膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の成膜装置の一例を説明する断面図
【図2】本発明の蒸着源の原理を説明する図
【図3】コンデンサ容量が2200μFの条件で成膜された鉄膜の電子顕微鏡写真
【図4】コンデンサ容量が4400μFの条件で成膜された鉄膜の電子顕微鏡写真
【図5】コンデンサ容量が8800μFの条件で成膜された鉄膜の電子顕微鏡写真
【図6】従来技術の成膜装置の一例を説明する断面図
【符号の説明】
1……成膜装置 2……真空槽 3……蒸着源 7……磁力線形成手段
32……アノード電極 38……開口 31……蒸着材料 34……トリガー電極 83……正の微小荷電粒子
【発明の属する技術分野】
本発明は、成膜装置に関し、特に、同軸型真空アーク蒸着源を備えた成膜装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の同軸型真空アーク蒸着源の実施例を図6に基づいて説明する。図6において、符号103は同軸型真空アーク蒸着源であり、符号136はカソード取付台であり、カソード電極131は取り付けフランジ137上に絶縁物135を介して電気的に絶縁を保って取り付けられている。
【0003】
符号131は蒸着材料からなるカソード電極であり、大きさは直径10mm、長さ10mm〜20mmの円柱状である。符号134はトリガー電極であり、カソード電極131に密接された絶縁物133を介して、カソード電極131に隣接して取り付けられている。
【0004】
符号132は円筒状のアノード電極であり、前記カソード電極131はアノード電極132の中心に設置されている。このカソード電極131はアノード電極132との間に約10mmの間隙を隔てて取り付けられている。
アノード電極132はステンレス製であり、その内径は約30mmである。符号102は真空チャンバ隔壁であり詳細には記載しないが、各電極(カソード電極131、トリガー電極134)に電圧を導入するための配線は、取付フランジ137の電流導入端子を介して各電極131、134に接続されている。
【0005】
アノード電極132を接続している配線と、カソード電極131を接続している配線との間にアーク電源139が接続されている。またカソード電極131を接続している配線と、トリガー電極134を接続している配線との間にトリガー電源138が接続されている。
【0006】
符号151は基板ステージであり、該基板ステージ151はアノード電極132開口先端部から10cm〜20cm離して設置され、基板ステージ151の蒸着源103側の面に試料基板150が取付けられている。符号4は、本装置の真空排気システムであり、符号141は主バルブ、符号142は高真空排気ポンプであり、この場合高真空排気ポンプとしてターボ分子ポンプが用いられる。
【0007】
符号143はフォアバルブであり、高真空排気ポンプ142の下流側に取り付けられる。低真空用排気ポンプ144であり、この場合、低真空用排気ポンプ144として油回転ポンプを用いている。
この成膜装置101は、主バルブ141から低真空用排気ポンプ144までの真空排気システムとは別の系統の排気システムを有しており、超高真空に排気するためのポンプ145が搭載され、この場合イオンポンプが搭載されている。
【0008】
符号105はガス導入系であり、符号151、153は仕切バルブ、符号152はガス流量調整器(以下、マスフローコントローラと呼称)、符号154は圧力調整器、符号155はガスボンベであり、この場合ガスボンベ155には窒素が充填されている。またガス系統5は一連の機器が金属の配管で直列に接続されている。
【0009】
次に、上述した同軸型真空アーク蒸着源を用いた鉄膜の成膜方法の工程について説明する。トリガー電源138より3.4kVの正の電圧をトリガー電極134に印加することによってトリガー電極134とカソード電極131との間に電位差が生じ、絶縁物133の断面を介して沿面放電が発生し、電子とイオンが発生する。
【0010】
次にアーク電源139から負の電圧を100V程度カソード電極131に印加することによって、前記のトリガー電極134とカソード電極131間でトリガー放電が発生し、そのトリガー放電による、イオン、電子等が火花(トリガー)となってアノード電極132とカソード電極131との間の大きなアーク放電を誘起する。
【0011】
アーク電源139内には8800μFのコンデンサが装備され、コンデンサには予め電荷が蓄積されており、この電荷が約1msの間に放電され、尖塔電流値が約1200〜1400A程度の電流(アーク電流)がパルス状にアノード電極132からカソード電極131間で流れる。このことによりカソード電極131の周りに磁場が発生し、電子は前記磁場と電子による電流で発生するローレンツ力で偏向され、試料基板150側に飛行する。
【0012】
カソード(蒸着材料)131が溶融し、放射されたプラズマ化したイオンや、クラスターのような荷電粒子は、前記電子に吸い寄せられて電子同様に試料基板150方向に偏向される。この時、中性粒子(電荷を持たない粒子や塊)はローレンツ力の作用を受けないために、アノード電極132内壁に付着する。
【0013】
また荷電粒子でもクラスターのような非常に重い粒子(巨大荷電粒子)はあまり偏向されないために試料基板150には到達できない。その結果、試料基板150にはイオン化した非常に質量の小さい、いわば微小荷電粒子のみが到達するので、試料基板150上に膜質の良い薄膜が形成される。
【0014】
しかし、上述した同軸型真空アーク蒸着源では、トリガー電極とカソード電極との間で発生する放電によって蒸着材料131が突沸し、蒸着材料の液滴が飛散することがあり、この液滴が試料基板150に付着すると形成される薄膜の膜質が悪化する。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、液滴が少なく、膜質の良い薄膜を成膜できる蒸着源を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は薄膜に液滴が付着する原因を調べるために、コンデンサの容量を変えることで、アーク電流の最大電流値、即ち、アーク電流の尖頭電流値を変化させて、毎秒1回の放電パルスを複数回与えて、ガラス基板からなる成膜対象物表面に鉄からなる薄膜を成膜した。
【0017】
図3〜図5はそれらの電子顕微鏡写真を示しており、図3はコンデンサ容量が2200μF、アーク電流の尖頭電流値が300A、放電パルスが1800回の場合であり、図4はコンデンサ容量が4400μF、アーク電流の尖頭電流値が600A以上700A以下の範囲、放電パルスが1800回の場合であり、図5はコンデンサ容量が8800μF、アーク電流の尖頭電流値が1200A以上1400A以下の範囲、放電パルスが3600回の場合である。
【0018】
図3〜図5から明かなように、アーク電流の尖頭電流値が低い程、液滴が少なくなることがわかる。
しかしながら、各薄膜の膜厚を測定したところ、図3では成膜対象物表面に薄膜が殆ど成長しておらず(膜厚約0nm)、図4では薄膜の膜厚が27nm、図5では薄膜の膜厚が144nmであり、アーク電流の尖頭電流値が小さくなると、成膜速度も低下することが分かる。
【0019】
その原因は、尖頭電流値が低くなることでアーク電流で形成される磁場が弱くなり、結果として、荷電粒子にかかるローレンツ力も小さくなり、荷電粒子が充分に偏向されず、荷電粒子の成膜対象物に到達する割合が少なくなるためと推測される。
従って、そのローレンツ力を補助するような磁力線形成手段を設ければ、アーク電流の尖頭電流値が小さくても成膜速度が遅くならないと考えられる。
【0020】
かかる知見に基いてなされた請求項1記載の発明は、アノード電極と、トリガー電極と、蒸着材料とを有し、前記アノード電極と前記トリガー電極はそれぞれ前記蒸着材料の近傍に配置され、前記アノード電極と前記蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記蒸着材料と前記トリガー電極との間に電圧を印加すると、前記トリガー電極と前記蒸着材料との間に生じたトリガー放電により、前記蒸着材料と前記アノード電極との間にアーク放電が誘起され、前記アーク放電を維持するアーク電流は、前記蒸着材料を通って、前記蒸着材料から遠ざかる方向に流れ、前記蒸着材料から放出された正の微小荷電粒子は、前記アーク電流が形成する磁界によって、前記アーク電流が流れる方向とは逆方向に飛行するように構成された蒸着源であって、磁力線形成手段を有し、前記磁力線形成手段の一方の磁極は前記アーク電流の流れる方向に向けられ、他方の磁極は前記アーク電流の流れる方向とは逆方向に向けられた蒸着源である。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の蒸着源であって、前記アノード電極は筒状にされた蒸着源である。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源であって、前記磁力線形成手段は磁石で構成された蒸着源である。
請求項4記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源であって、前記磁力線形成手段はコイルで構成された蒸着源である。
請求項5記載の発明は、真空槽と、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の蒸着源とを有し、前記蒸着源から前記正の微小荷電粒子を前記真空槽内に放出させたときに、前記正の微小荷電粒子が到達可能な位置に成膜対象物を保持する保持装置が配置された成膜装置である。
【0021】
本発明は上記のように構成されており、磁力線形成手段の一方の磁極がアーク電流の流れる方向に向けられ、他方の磁極がアーク電流の流れる方向に向けられることで、アーク電流が流れる方向と平行な磁力線が形成され、荷電粒子はその磁力線に巻き付いて移動し、成膜対象物に到達する。
従って、微小荷電粒子の飛行方向が曲げられるときに、アーク電流の流れる方向から逸れたとしても、微小荷電粒子はアーク電流と平行な磁力線に巻き付いて移動することで、その飛行方向が修正される。
【0022】
アノード電極を円筒や角筒等の筒状にし、蒸着材料をその内部であって、筒の開口よりも内側に配置すれば、中性粒子や、電荷に対して質量の大きい荷電粒子はアノード電極の内周面に付着し、開口からは放出されない。従って、成膜対象物表面には電荷に対して質量の小さい微小荷電粒子のみが到達することになり、膜質の良い薄膜が得られる。
【0023】
本発明の磁力線形成手段は、永久磁石であってもコイルであってもよく、永久磁石の場合はS極とN極を有し、コイルの場合は通電されるとS極とN極が生じるようになっており、いずれの場合もS極とN極はアノード電極の中心軸線に沿って配置されている。
【0024】
従って、S極をアノード電極の一端に向けN極を他端に向けた場合と、N極をアノード電極の一端に向けS極を他端に向けた場合の、いずれの場合もアノード電極の中心軸線と平行な磁力線が形成され、その磁力線によって微小荷電粒子の飛行方向が修正される。
【0025】
アノード電極の中心軸線上、又は、中心軸線近傍にアーク電流が流れる電極を配置し、かつ、蒸着材料をその中心軸線上に配置すれば、蒸着材料を中心とする磁界が形成され、それによって微小荷電粒子の飛行方向がアーク電流が流れる方向とは逆向きに曲げられる。
また、コンデンサ容量を小さくすることで、微小荷電粒子の飛行方向を曲げる磁界が弱くなったとしても、上述したように、磁力線形成手段により発生する磁力線で飛行方向が修正されるので、成膜速度が遅くならない。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の蒸着源を用いた成膜装置について詳細に説明する。
【0027】
図1の符号1は本発明の蒸着源を用いた成膜装置を示している。この成膜装置1は、真空槽2と、蒸着源3と、保持装置50とを有している。
蒸着源3は真空槽2の底壁側に配置され、保持装置50は天井側に配置されている。
蒸着源3は、アノード電極32と、蒸着材料31と、トリガー電極34と、アーク電極39と、磁力線形成手段7とを有している。
【0028】
磁力線形成手段7はフェライト等の磁性材料がリング状に成形された永久磁石で構成されている。ここでは、その磁力線形成部材7の大きさは、内径33mm、外径53mm、厚み約5mmであり、その中心の磁場を測定したところ、約450ガウス(450×10−4Wb)であった。
【0029】
アノード電極32は円筒形状に成形された導電性材料(ここではステンレス)で構成されている。磁力形成手段7のリング形状は平板状であり、アノード電極32はその平板の位置する平面に対して、中心軸線8を垂直に向けた状態で、磁力線形成手段7に挿通されている。
【0030】
真空槽2の底壁には孔が形成され、その孔は水平に設置された取り付け板37で塞がれており、アノード電極32は磁力形成手段7に挿通された状態で取り付け板37の真空槽2の内部側に立設されている。
図1の符号38はアノード電極32の両端部のうち、取り付け板37とは反対側の端部である開口を示している。
【0031】
磁力線形成手段7のリング形状は、平板状であり、その平板の一方の面がN極に着磁され、他方の面がS極に着磁されている。ここでは、S極がアノード電極32の開口38側へ向けられ、N極が真空槽2の底壁側へ向けられることで、アノード電極32内に後述する磁力線を形成するようになっている。
【0032】
アノード電極32内部には棒状の取り付け部材36が挿通されており、その下端部は取り付け板37上に固定されている。トリガー電極34は取り付け部材36の上部に第一の絶縁部材35を介して取り付けられている。
蒸着材料31はトリガー電極34の上部に配置された第二の絶縁部材33を介して、取り付け部材36の先端位置に取り付けられている。この蒸着材料31は、アノード電極32の上端部分の開口38よりも下側の位置、即ち、アノード電極32内部に位置している。
【0033】
蒸着材料31はアノード電極32の内径よりも小径に形成され、かつ、アノード電極32の中心軸線8上に置かれている。従って、アノード電極32の内周面と、蒸着材料31の側面との間には隙間51がある。
アーク電極39は棒状であり、隙間51に挿通されている。アーク電極39の上端は蒸着材料31に接続され、また、下端は取り付け板37の絶縁材料41を介して真空槽2の外部に気密に導出され、真空槽2外に配置された電源装置40に電気的に接続されている。
【0034】
トリガー電極34も、真空槽2の外部に電気的に導出されており、同じ電源装置40に接続されている。他方、アノード電極32と真空槽2はそれぞれ接地電位に接続されている。
真空槽2と、トリガー電極34と、蒸着材料31と、アノード電極32は、第一、第二の絶縁部材33、35によって互いに絶縁されており、真空排気系62によって真空槽2内に所定圧力の真空雰囲気を形成した状態で、電源装置40を起動し、蒸着材料31に所定の大きさの負電圧を印加し、トリガー電極34に蒸着材料31よりも大きい負電圧をパルス状に印加すると、トリガー放電が生じ、蒸着材料31の側面から、蒸着材料31の粒子が放出されるようになっている。
【0035】
上述したように、アノード電極32は接地電位に接続されており、蒸着材料31に電圧を印加すると、アノード電極32と蒸着材料31との間に電位差が生じるから、蒸着材料31の粒子が放出されアノード電極32内の絶縁耐性が低下すると、蒸着材料31とアノード電極32との間にアーク放電が誘起される。
電源装置40にはコンデンサが装備されており、コンデンサは予め充電され、アーク放電が誘起されるとコンデンサが放電し、蒸着材料31にアーク電流が供給される。アーク電流はアーク放電直後に最大値となり、その最大値を尖頭電流値とすると、ここでは、コンデンサの容量は4400μFであり、尖頭電流値は600A以上700A以下であり、この尖頭電流値では蒸着材料31の突沸は起こらず、液滴が真空槽2内に飛散することがなかった。
【0036】
アーク電極39はアノード電極32の中心軸線8に平行に、且つ中心軸線8の近傍に配置されており、アーク電流はアーク電極39を蒸着材料31から真空槽2の底面方向に向けて流れ、中心軸線8を中心とした磁界を形成する。
ここでは蒸着材料31は鉄で構成されており、アーク放電が発生すると蒸着材料31の側面が溶融し、その部分から蒸着材料を構成する粒子が放出され、放出された粒子はアノード電極32の内周面に向かう方向、即ち、蒸着材料31から見て放射方向に飛び出す。
【0037】
放出された粒子には、正又は負の荷電粒子と中性粒子がある。図2の符号81は中性粒子を示し、符号84は荷電粒子のうち、質量に比べ電荷の小さい巨大荷電粒子を示している。
中性粒子81と巨大荷電粒子84は、アノード電極32と蒸着材料31との間の電界の影響を受けず、蒸着材料31から放出されると、放射方向に飛行し、アノード電極32の内周面に衝突するとそこに付着する。
【0038】
電子や、負電荷を有する微小荷電粒子82は、蒸着材料31と反発し、且つ、正電圧のアノード電極32に引きつけられ、蒸着材料31からアノード電極32に向かって飛行する。このとき、アーク電流が形成する磁界によって開口38方向に向う力を受け、その飛行方向が開口38方向に曲げられる。
他方、質量が小さく(電荷質量比が大きい粒子)、正電荷を有する微小荷電粒子83は、蒸着材料31から放出され、アノード電極32に向う途中で正電圧のアノード電極32によって押し戻され、負電圧の蒸着材料31に引き寄せられて、蒸着材料31の方向に向って逆向きに飛行する。
【0039】
この逆向きの飛行のとき、正の微小荷電粒子83は、アーク電流が形成する磁界から開口38方向に向う力を受けるとともに前記開口38の方向にベクトルを持った電子流に吸引され、飛行方向が開口38方向に曲げられる。
上述したように磁力線形成手段7は、一方の磁極をアノード電極32の開口38側に向け、他方の磁極を真空槽2の底壁に向けており、アノード電極32の内部にアーク電流の流れる方向に対して平行な磁力線、即ち、アノード電極32の中心軸線8に対して平行な磁力線を形成するようになっている。
【0040】
開口38方向に曲げられた微小荷電粒子83は、その磁力線に巻き付いて移動し、アノード電極32の中心軸線8に沿って開口38から真空槽2内に放出される。
保持装置50は、アノード電極32の開口38と対向するように位置し、保持装置50の開口38と対向する面には成膜対象物52が保持されており、開口38から放出された微小荷電粒子83は成膜対象物52に到達するとそこに付着し、その表面に薄膜が成長する。ここでは成膜対象物52としてガラス基板を用いた。
【0041】
薄膜成長中は、不図示の移動手段により保持装置50がアノード電極32の開口38に対して相対的に回転しており、保持装置50と共に成膜対象物52も回転し、成膜対象物52の表面に均一に薄膜が成長するようになっている。
アーク電流を流し続けると、コンデンサの放電が進み、アーク電流が小さくなり、アーク電流によって発生する磁界が弱くなるので、微小荷電粒子に及ぼす力も弱くなる。その結果、従来の蒸着源では、開口から放出される正の微小荷電粒子の飛行方向はアノード電極の中心軸線からずれる。
【0042】
それに対し、本発明の蒸着源3では、磁力線形成手段7が中心軸線8と平行な磁力線をアノード電極32内に形成しており、微小荷電粒子83はその磁力線に巻き付きながら、アノード電極32内を飛行するため、開口38から放出されるときの飛行方向は、アノード電極32の中心軸線8と平行な方向に修正されている。
【0043】
尚、上述した成膜装置1では、保持装置50とアノード電極32の開口38との間であって、保持装置50の近傍位置にはノズル63が配置され、該ノズル63は真空槽2外に配置された反応ガス供給系61と気密に接続されており、反応ガス系61のボンベに反応ガスを充填し、その反応ガスをノズル63の噴出口から成膜対象物52に向けて噴出するようにすれば、成膜対象物52表面に、蒸着材料31の粒子と反応ガスとの反応物からなる薄膜を形成することができる。
【0044】
また、この成膜装置1では、真空槽2の外壁にヒータ68と、冷水管69が巻き回されており、このヒータ68と冷水管69によって、成膜中の真空槽2内の温度が所定温度に維持されるようになっている。
蒸着材料31の構成材料は特に限定されるものではなく、ハフニウム、タングステン、タンタル、アルミニウム等種々の材料で蒸着材料を構成することができる。
【0045】
蒸着材料31の突沸を生じさせないためには、金属の種類によってアーク電流の尖頭電流値を変化させる必要がある。従来の蒸着源では、アーク電流が小さくなり、発生する磁界が弱くなると、成膜速度が落ちたが、本発明の蒸着源3では磁力線形成手段7によって荷電粒子の飛行方向が修正されるので、成膜速度が低下しない。
【0046】
例えば、蒸着材料31を鉄で構成した場合はコンデンサ容量を4400μF、アーク電流の尖頭電流値を600A以上700A以下の条件では突沸が生じなかったが、鉄よりも融点が低いアルミニウムで構成した場合、アーク電流の尖頭電流値が600Aの場合であっても突沸が生じるが、コンデンサの容量を更に2200μFに下げ、アーク電流の尖頭電流値を更に小さくした場合は突沸が生じなかった。
【0047】
上述した例では、保持装置50を回転させたが、例えば、往復運動と回転運動とを組み合わせたり、回転と首振り運動とを組み合わせる等、結果として成膜対象物52に蒸着材料31の粒子が均等に付着するのであれば、保持装置50をどのように移動させてもよい。
また、成膜対象物52はガラス基板に限定されるものではなく、ガラス基板やウェハー等の基板のほか、針状の電子放出体等など種々の形状のものを成膜対象物として用いることができる。
【0048】
以上は、磁力線形成手段7の形状がリング状の場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。微小荷電粒子83の飛行方向を修正可能な磁力線を形成するものであれば、円筒形状など種々の形状の磁力線形成手段7を用いることが可能であり、また、複数の磁力線形成手段7をアノード電極32の周囲に配置してもよい。
磁力形成手段7に用いる磁石は、フェライトからなるものに限定されず、種々の磁性材料からなる磁石を用いることができる。
【0049】
【発明の効果】
本発明の蒸着源では、微小荷電粒子はその飛行方向は磁力線形成手段によって修正され、成膜対象物表面に到達するように構成されている。従って、本発明の蒸着源を用いれば、蒸着材料の突沸が起こらない程度にアーク電流を小さくしても、微小荷電粒子は成膜対象物に到達するので、従来に比べて成膜速度が落ちることがなく膜質の良い薄膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の成膜装置の一例を説明する断面図
【図2】本発明の蒸着源の原理を説明する図
【図3】コンデンサ容量が2200μFの条件で成膜された鉄膜の電子顕微鏡写真
【図4】コンデンサ容量が4400μFの条件で成膜された鉄膜の電子顕微鏡写真
【図5】コンデンサ容量が8800μFの条件で成膜された鉄膜の電子顕微鏡写真
【図6】従来技術の成膜装置の一例を説明する断面図
【符号の説明】
1……成膜装置 2……真空槽 3……蒸着源 7……磁力線形成手段
32……アノード電極 38……開口 31……蒸着材料 34……トリガー電極 83……正の微小荷電粒子
Claims (5)
- アノード電極と、トリガー電極と、蒸着材料とを有し、
前記アノード電極と前記トリガー電極はそれぞれ前記蒸着材料の近傍に配置され、
前記アノード電極と前記蒸着材料との間に電圧を印加した状態で、前記蒸着材料と前記トリガー電極との間に電圧を印加すると、
前記トリガー電極と前記蒸着材料との間に生じたトリガー放電により、前記蒸着材料と前記アノード電極との間にアーク放電が誘起され、
前記アーク放電を維持するアーク電流は、前記蒸着材料を通って、前記蒸着材料から遠ざかる方向に流れ、
前記蒸着材料から放出された正の微小荷電粒子は、前記アーク電流が形成する磁界によって、前記アーク電流が流れる方向とは逆方向に飛行するように構成された蒸着源であって、
磁力線形成手段を有し、前記磁力線形成手段の一方の磁極は前記アーク電流の流れる方向に向けられ、他方の磁極は前記アーク電流の流れる方向とは逆方向に向けられた蒸着源。 - 前記アノード電極は筒状にされた請求項1記載の蒸着源。
- 前記磁力線形成手段は磁石で構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源。
- 前記磁力線形成手段はコイルで構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源。
- 真空槽と、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の蒸着源とを有し、
前記蒸着源から前記正の微小荷電粒子を前記真空槽内に放出させたときに、前記正の微小荷電粒子が到達可能な位置に成膜対象物を保持する保持装置が配置された成膜装置。
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