JP2004196608A - ガラス成形治具およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金属基材の表面にサーメット層を有することを特徴とするガラス成形治具。原料粉末を溶射して、金属基材の表面にサーメット層を形成することを特徴とするガラス成形治具の製造方法。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス成形治具、特には自動車用窓ガラスの曲げ加工などに使用するガラス成形治具およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用窓ガラスのように3次元形状を有する板ガラスの製造法としては、平板ガラスを変形可能な温度に加熱し金型を用いて曲げ成形する方法(以下、単に金型曲げ法と略す)やガラス自身の自重変形による曲げ成形方法(以下、単に重力曲げ法と略す)などがあり、なかでも金型曲げ法(特許文献1参照。)は複雑な形状に対応できる利点がある。金型曲げ法は、通常、雄型(凸型)と雌型(凹型)とで構成される金型内に平板ガラスを載置し、500〜700℃程度に保たれた炉内でプレスすることにより3次元形状を付与する。なお、重力曲げ法は、前記の雄型、雌型のいずれか片方に相当する型で3次元形状付与する。
【0003】
金型曲げ法の概念図を図2に、重力曲げ法の概念図を図3にそれぞれ示す。図2中、11は雄型の、12は雌型の、13は板ガラスの断面をそれぞれ示す。(a)図は、平らな板ガラス13を雄型11と雌型12の間にセットした図であり、(b)図は、雄型11と雌型12で板ガラス13に3次元形状を付与した図である。また、図3中、22は上面が枠状の台座を、23は板ガラスをそれぞれ示し、(a)図は台座22に板ガラス23をセットした図であり、(b)図は所定温度で重力により板ガラス23が変形して台座22に接している図を示す。
【0004】
金型曲げ法の金型としては、雄型(凸型)も重要であるが、一般に雌型(凹型)の方が製品に与える影響が大きい。雌型としては、金属製の支持枠(以下、ガラス支持枠という)が提案されている(特許文献2参照。)が、近年、デザイン性重視から自動車用ガラスの形状は大きく湾曲した3次元形状を有するようになり、それにつれ支持枠も大きく湾曲した三次元形状となっている。このため、ガラス支持枠上に載置された平板ガラスは、必然的にその端部(以下、エッジという)がガラス支持枠の金属表面と点または線で接しており、該エッジは成形中には該ガラス支持枠の表面を滑りながら移動する。この移動を容易にするためガラス支持枠の金属表面は滑らかに仕上げられている。なお、この移動の様子を上述の図2(a)、(b)に示す。
【0005】
しかし、成形される平板ガラスの数量が増加すると、ガラス支持枠の表面は、それ自体の酸化、平板ガラスとの摺動による磨耗および欠け、ガラス粉の付着などによって変質する。この結果、平板ガラスのガラス支持枠表面での移動が滑らかでなくなり、微小な傷がガラスに生じ易くなる。この微小な傷が成長すると、欠けや割れなどの成形欠点がエッジ等に発生する。また、ガラス支持枠の磨耗は、製品に変形を生じる原因となるほか、形状精度不良の原因ともなる。このような対策としてガラス支持枠表面に摩擦係数が小さく、耐摩耗性に優れたステライト合金を肉盛りする方法や金属表面を窒化処理する方法等があるが、いずれも充分な効果が得られていない。なお、これは金型曲げ法だけでなく、重力曲げ法の台座においても同様である。
【0006】
また、自動車用窓ガラス以外のガラス成形金型として、金属とセラミックスからなる複合材、例えば、超硬合金やサーメットなどを母材とし、これに中間層を介して、貴金属層を形成した光学ガラス素子のプレス成形用型も提案されているが(特許文献3参照。)、上記の金属製ガラス支持枠や金属製台座の耐摩耗性や平滑性改善の解決法を提供するものではない。
【0007】
【特許文献1】
特開平6−8727号公報(第1頁〜第4頁)
【特許文献2】
特開2000−327355号公報(第1頁〜第5頁、図3)
【特許文献3】
特公昭62−28093号公報(第1〜第12頁、図1)
【特許文献4】
特許第2988281号公報(第1〜第7頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、平板ガラスに立体形状を付与する際に、ガラスのエッジ部等に発生する欠けやクラックを低減させ、形状精度に優れ、しかも長期の耐久性があるガラス成形治具、特に自動車用窓ガラスの曲げ成形に好適なガラス支持枠の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、金属基材の表面にサーメット層を有することを特徴とするガラス成形治具の提供を目的とする。別の本発明は、Niおよび/またはCoと、Moおよび/またはWと、の複合ホウ化物を主体とするセラミックス相と、Niおよび/またはCoを主体とする金属結合相と、からなるホウ化物サーメット層を金属基材の表面に有することを特徴とするガラス成形治具の提供を目的とする。また、別の本発明は、超硬合金層がWC60〜95質量%と、Co5〜30質量%とを含む超硬合金層を金属表面に有することを特徴とするガラス成形治具の提供を目的とする。
【0010】
さらに、別の本発明は、金属基材の表面に、原料粉末を溶射して超硬合金層および/またはサーメット層を形成することを特徴とするガラス成形治具の製造方法の提供を目的とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のガラス成形治具(以下、本治具という)は、金属基材の表面にサーメット層を有することを特徴とする。本明細書において、サーメットとはセラミックスと金属との複合体を総称する。サーメットはさらには、セラミックスの種類によって細分化され、セラミックスが炭化物であるサーメットを炭化物サーメット、セラミックスが窒化物であるサーメットを窒化物サーメット、セラミックスがホウ化物であるサーメットをホウ化物サーメット、とそれぞれいう。また、炭化物サーメットの中で、セラミックスとしてWCを含み、金属結合相としてCoを含むものを特に超硬合金(以下、単に超硬と略す)として区別する。本治具の一例を図1に示す。図1中、(a)図は金型曲げ法に使用するガラス支持枠10の平面図を、(b)図はガラス支持枠10のA−A断面図をそれぞれ示し、9が金属基材、10がサーメット層である。
【0012】
本治具において、金属基材表面に形成されるサーメット層としては特に制限されないが、Ti、Zr、Mo、Cr、NbおよびTaからなる群から選ばれる1種以上の元素の窒化物、炭化物を含む窒化物サーメット、炭化物サーメット、超硬、Moおよび/またはWとFe、Ni、Coの鉄族元素の組み合わせと、ホウ素とからなる複合ホウ化物を含むホウ化物サーメットが挙げられる。なかでもホウ化物サーメット層または超硬層であると、諸特性と製造原価の点で好ましい。
【0013】
また、サーメット層は単層に限定されず、複層としてもよい。複層としては、金属基材の上に超硬層を形成し、さらにその上にホウ化物サーメット層を形成するような異種材料の複層とするほか、組成が多少異なるホウ化物サーメット層を複層とするような同種材料の複層がある。
【0014】
本治具において、ホウ化物サーメット層としては、Niおよび/またはCo(以下、(Ni、Co)と略す)と、Moおよび/またはW(以下、(Mo、W)と略す)と、ホウ素との複合ホウ化物を主体とするセラミックス相と、(Ni、Co)を主体とする金属結合相とからなるホウ化物サーメット層であると800℃程度までの温度域での硬度低下が少ないことと、超硬層に比較して良好な耐酸化性があるため好ましい。
【0015】
前記ホウ化物サーメット層のホウ化物サーメットがセラミックス相を40〜70質量%(以下、単に%と略す)含むとガラスと本治具との凝着を防止する効果とガラスが表面上を移動する際の本治具の摩耗防止効果に優れているため好ましい。セラミックス相が70%を超えるとホウ化物サーメット層の靭性が低下し剥離しやすくなるおそれがある。一方、40%未満であると上記の効果が期待できないおそれがある。セラミックス相が45〜60%であるとさらに好ましい。
【0016】
前記ホウ化物サーメットのセラミックス相の70%以上がMxNiyBz(ただし、Mは(Mo、W)。x=1.8〜2.2、y=0.9〜1.1、z=1.8〜2.2)であると化合物としての高温安定性が優れているため好ましい。前記ホウ化物サーメットの別の態様として、セラミックス相の70%以上がMxCoyBz(ただし、MはMoおよび/またはW。x=0.9〜1.1、y=0.9〜1.1、z=0.9〜1.1)であると化合物としての高温安定性が優れているため好ましい。
【0017】
前記ホウ化物サーメットの金属結合相としては、30〜60%であると、ガラスと本治具との凝着を防止する効果とガラスが表面上を摺動する際の本治具の摩耗防止効果に優れているため好ましい。金属結合相が40〜55%であるとさらに好ましい。また、金属結合相がMoを5〜15%含むと、550〜700℃の酸化雰囲気中で本治具を使用した際に、昇華しにくいMoを含む酸化物粉(以下、単にMo酸化物粉と略す)がサーメット層の表面に生成する。
【0018】
生成した該酸化物粉は被膜を形成せず、またガラスと反応もしないことから、本治具と平板ガラスとの間に介在して乾式潤滑剤として働き、曲げ成形時のガラスの欠けやクラックの生成を低減できる。すなわち、本治具が、金属基材上のサーメット層の表面にMo酸化物粉が付着したものであるとガラスが滑りやすく、ガラスのエッジ部に傷がつきにくいため好ましい。Mo量が5%未満であると前記酸化粉の潤滑効果の持続性が相対的に短期間となり、15%を超えるとサーメット膜の酸化消耗が早くなり耐久性が相対的に低下するおそれがある。
【0019】
前記ホウ化物サーメットがCrを含むものであると、大気中での本治具の酸化増量が抑制されるためさらに好ましい。また、前記ホウ化物サーメットが酸化されることにより生成するMo酸化物粉は、潤滑剤として働く分には多い方がよいが、一方、重力曲げ法のように本治具とガラスとの接触時間が長い場合には、Mo酸化物粉が多すぎると、軟化したガラス表面にMo酸化物粉が凝着するおそれがある。
【0020】
前記Mo酸化物粉の生成量は、ホウ化物サーメットにCrを添加することにより制御できる。Crの添加量としてはガラスの軟化温度、作業温度、保持時間、成形法等により適宜選択されるが、ホウ化物サーメット中に1〜20%含まれることが好ましい。Cr添加量が、5〜18%であるとさらに好ましい。ホウ化物サーメットにCrを添加することにより酸化特性を制御できることを図4に示す。図4は、Mo2NiB2からなるセラミックス相58%と実質的にNi−12%Mo合金からなる金属結合相42%とからなるホウ化物サーメット膜の675℃の空気中における酸化増量特性がCr添加量でどのように変化するかを示したものである。横軸は酸化時間、縦軸は酸化増量を表す。図中、5Crとはサーメット全量に対して外掛で5%添加したことを示す。
【0021】
一方、サーメット層のサーメットが超硬である場合は、ホウ化物サーメットに比べて特性はやや劣るものの、原価面で有利であるため好ましい。超硬としては特に限定されないが、WCが60〜95%であると、充分な耐磨耗性と耐熱衝撃性が両立しているため好ましい。また、金属結合相であるCoとしては5〜30%であると、表面の平滑性と欠けにくさが両立しているため好ましい。超硬がWC以外にMo2C、TaC、NbCおよびCr2C3からなる群から選ばれる1種以上を含むと高温酸化特性が制御できるためさらに好ましい。
【0022】
本治具において、金属基材としては500℃から700℃程度の温度域で、耐酸化性を有すると同時に長時間の使用後にも一定の機械的性質が維持できるものであれば、特に制限されず、各種の鉄基合金やNi基合金などが好適に使用される。金属基材として、SUS304、SUS316LやSUS310Sなどのオーステナイト系ステンレス鋼を採用すると、三次元形状への加工が容易で、しかも入手しやすいことからさらに好ましい。
【0023】
本治具において、金属基材上のサーメット層の表面粗さRaが1.6μm以下であると、ガラスに傷がつきにくいため好ましい。表面粗さRaが1.0μm以下であるとさらに好ましく、表面粗さRaが0.3μm以下であると特に好ましい。本治具において、前記サーメット層の層厚さは0.05〜1.0mmであると好ましい。層厚さが0.05mm未満であるとMo酸化物粉による潤滑効果の持続時間が短く耐久性の点で不充分となるおそれがある。また、層厚さが1.0mmを超えると熱衝撃等によりサーメット層が剥離しやすくなるおそれがあるほか、サーメット層の形成に時間を要するため原価面でも不利となる。層厚さが0.2〜0.6mmであるとさらに好ましい。なお、層厚さは場所により一定でない場合は、平均値を採用するものとする。
【0024】
次に、本発明のガラス成形治具の製造法(以下、本製造法という)について説明する。本製造法においては、原料粉末を溶射してサーメット層を金属基材の表面に形成する。層を形成する方法は、溶射以外にも化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)等あるが、ガラス成形治具の大きさがガラス支持枠のようなものでは全長1.5mにもなり、しかも層の厚さも比較的厚いことから溶射法が本製造法では採用される。
【0025】
本製造法において、溶射としてはガス式溶射または電気式溶射のいずれでもよい。ガス式溶射としてはガスフレーム溶射が挙げられ、電気式溶射としては、アーク溶射、プラズマ溶射、水プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射などが挙げられる。溶射として、高速フレーム法を採用するとサーメット層の特性が優れているため好ましい。高速フレーム溶射は、原料の溶融温度がプラズマ溶射のように高くなく、また溶けた原料の飛行速度が最も大きい溶射法の一つである。したがって、該溶射法は溶けた金属成分の蒸発が少なく、密着力が大きいためサーメット溶射に最も適した溶射法である。
【0026】
本製造法において、原料粉末を金属基材表面に溶射できれば特に制限されないが、金属基材とサーメット層との密着力を上げるため、金属基材表面を事前にサンドブラスト法などによって粗面化することが好ましい。ただし、粗面化の手段は、サンドブラスト法などに限られるものではない。
【0027】
本製造法において、原料粉末としては溶射によってサーメット層が形成できるものであれば特に制限されないが、生成するサーメット層のサーメットがホウ化物サーメットおよび/または超硬であると諸特性と製造原価の点で好ましい。
【0028】
ホウ化物サーメット層のホウ化物サーメットとしては、セラミックス相と金属結合相とからなり、前記セラミックス相の70%以上がMxNiyBz(ただし、MはMoおよび/またはW。x=1.8〜2.2、y=0.9〜1.1、z=1.8〜2.2)であり、前記金属結合相の60%以上がNiであるホウ化物サーメットであると好ましい。また、前記ホウ化物サーメットが、セラミックス相と金属結合相とからなり、前記セラミックス相の70%以上がMxCoyBz(ただし、MはMoおよび/またはW。x=0.9〜1.1、y=0.9〜1.1、z=0.9〜1.1)であり、前記金属結合相の60%以上がCoであるホウ化物サーメットでも好ましい。これらのホウ化物サーメットがCrを含むものであるとさらに好ましい。
【0029】
このような、ホウ化物サーメット層を得るための原料粉末としては、MoB、WB等の各ホウ化物粉末とNi、Mo、Co、Cr等の金属粉末との混合粉末がある。原料粉末の調製法としては、前記ホウ化粉末と前記金属粉末とを所定組成になるように秤量し、回転ボールミルや振動ボールミルにエタノール、イソプロピルアルコール等の有機溶媒とともに入れて、混合粉砕後、得られたスラリに有機バインダを添加後、非酸化性雰囲気中でスプレードライヤ等の造粒装置により造粒する。得られた造粒粉を真空、Ar等の非酸化性雰囲気中において900〜1100℃でゆるく焼結後、解砕して概ね球形の粒子とする。該粒子の平均粒子直径(以下、単に平均粒径と略す)としては15〜75μmであると好ましい。
【0030】
なお、ホウ化物サーメットを得るための他の原料粉末としては、Ni−B合金とMo粉、W粉とNi粉との組み合わせ、または予めアトマイズ法やその他の方法で合成した複合ホウ化物粉末と金属粉末との組み合わせ、さらにはNi、Mo、W等の単体の金属粉末とB粉末との組み合わせでもよい。
【0031】
また、生成するサーメット層のサーメットが超硬の場合には、超硬が、WC60〜95%と、Co5〜30%とを含む超硬であると好ましい。超硬を得るための原料粉末としては、WCとCo、WとCおよびCoなどの各粉末の組み合わせが挙げられる。
【0032】
本製造法において、前述の原料粉末を用いて、前述の溶射を行う。溶射の条件としては、溶射法、溶射機、原料の製法、粒度分布に応じて適宜選択される。なお、本製造法において、溶射層は原料が溶融した飛沫の基材への衝突、凝着、積層によって形成されるためかなりの凹凸となる場合がある。その場合にはダイヤモンド工具などによる機械的な研磨等を実施してもよい。
【0033】
【実施例】
以下に本発明を実施例により説明する。
【0034】
[例1]
自動車用窓ガラスの金型曲げ法に使用する雌型であるガラス支持枠として図1(a)に示すような全長約1.5mのSUS310S製の金枠を3個準備した。ガラス支持枠の1個(以下、ガラス支持枠Aという)にはガス窒化法によりガラスと接触する表面を窒化処理した。また、別のガラス支持枠1個(以下、ガラス支持枠Bという)には、WCとCoとの焼結粉末をタファ社製JP5000を使用して溶射し、ガラスと接触する側の表面にWC88%−Co12%からなる、厚さ0.15mmの超硬層を形成した。
【0035】
さらに、別の金枠1個(以下、ガラス支持枠Cという)には、ガラスと接触する側の表面に実質的にMo2NiB2からなるセラミックス相55%と実質的にNi合金(Moを8%含む)からなる金属結合相45%とからなる、厚さ0.3mmのホウ化物サーメット層を溶射によって形成した。溶射用原料を以下のようにして調製した。MoB(純度約99.5%、平均粒径約6μm)49%、WB(純度約99.4%、平均粒径4μm)9%、Mo(純度約99.8%、平均粒径1.5μm)7%、Ni(純度約99.5%、平均粒径約3μm)35%の4種類の粉末を混合し、エチルアルコールを粉砕溶媒として回転ボールミルにて48時間粉砕した。
【0036】
得られたスラリにポリエチレングリコールを0.5%添加し粘度調整後、ディスクアトマイザ式スプレードライヤで平均粒径約46μmの造粒粉を作製した。この造粒粉をAr雰囲気中1100℃で1時間焼結後、解砕して、分級を行い粒径26〜50μmの溶射用粉末を得た。この溶射用粉末を事前にサンドブラスト処理で表面を粗面化した前記ガラス支持枠の上に、メテコ社製ダイヤモンドジェット式の溶射機を用いて溶射した。
【0037】
この3種類のガラス支持枠を比較するため、ガラスと接する面の表面粗さRa=1.0μm一定とした後、約650℃で各々2500枚のガラスを成形した。その結果、ガラスのエッジに生じた割れやクラックのために不良と判断されたガラスは、ガラス支持枠Aでは14枚(不良品率0.55%)、ガラス支持枠Bでは8枚(不良品率0.32%)、ガラス支持枠Cでは4枚(不良品率0.16%)でありガラス支持枠B、ガラス支持枠Cでは金属基材の表面にサーメット層を形成したことにより不良品率が改善した。また、ガラス支持枠Bに比べてガラス支持枠Cでは不良品率が半減した。また成形終了後のガラス支持枠を調査したところ付着粉が観察された。付着粉をEPMA(電子線マイクロアナライザ)で調査したところMoを含む酸化物であることが確認された。
【0038】
[例2]
自動車用窓ガラスの重力曲げ法に使用する台座として図2に示すようなSUS304製の金枠を3個準備した。金枠の1個(以下、台座Aという)は表面を処理しないでそのまま使用した。また、別の金枠1個(以下、台座Bという)には、WCとCoTの焼結粉末をメテコ社製ダイヤモンドジェットを使用して溶射し、ガラスと接触する側の表面にWC88%−12%Coからなる、厚さ0.15mmの超硬層を形成した。
【0039】
さらに、別の金枠1個(以下、台座Cという)には、ガラスと接触する側の表面に実質的にMo2NiB2からなるセラミックス相55%と実質的にNi合金(Moを8%含む)からなる金属結合相45%とからなり、さらにCrを15%含む、厚さ0.3mmのホウ化物サーメット層を溶射によって形成した。溶射用原料を以下のようにして調製した。MoB(純度約99.5%、平均粒径約6μm)38%、WB(純度約99.4%、平均粒径4μm)9%、CrB(純度99.3%、平均粒径約4.8μm)8%、Mo(純度約99.8%、平均粒径1.5μm)10%、Ni(純度約99.5%、平均粒径約3μm)35%、の5種類の粉末を混合し、エチルアルコールを粉砕溶媒として回転ボールミルにて48時間粉砕した。
【0040】
得られたスラリにポリエチレングリコールを3%添加し粘度調整後、ディスクアトマイザ式スプレードライヤで平均粒径約46μmの造粒粉を作製した。この造粒粉をAr雰囲気中1100℃で1時間焼結後、解砕して、分級を行い粒径26〜50μmの溶射用粉末を得た。この溶射用粉末を事前にサンドブラスト処理で表面を粗面化した前記ガラス支持枠の上に、メテコ社製ダイヤモンドジェット式の溶射機を用いて溶射した。
【0041】
この3種類の台座を比較するため、ガラスと接する面の表面粗さRa=1.0μm一定とした後、約675℃で各々10500枚のガラスを成形した。その結果、台座Aでは約3300枚のガラスを成形したところでガラスと台座Aとの固着が激しくなり使用不能となったため成形を中止した。この間のガラスのクラック、表面異物による不良品率は1.7%であった。一方、台座Bでは、10500枚まで成形できた。この間のガラスのクラック、表面異物による不良品率は1.1%であった。また、台座Cでも10500枚まで成形できた。この間のガラスのクラック、表面異物による不良品率は0.6%であった。
【0042】
【発明の効果】
本治具は、金属基材の表面にサーメット層を有するため本治具を使用して平板ガラスの曲げ成形をすると、サーメット層がない場合に比べて不良品率が低下し、しかも治具の耐久性にも優れる。しかも、これらのサーメット層がMoを含むホウ化物サーメット層であると、表面にMo酸化物粉が生成することにより、さらに不良品率が低下し、耐久性も改善される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本治具の一例であるガラス支持枠10の概略図。
(a)図は本治具であるガラス支持枠10の平面図。
(b)図はガラス支持枠10のA−A断面図。
【図2】金型曲げ法の概念図。
(a)図は、平らな板ガラス13を雄型11と雌型12の間にセットした図。
(b)図は、雄型11と雌型12で板ガラス13に3次元形状を付与した図。
【図3】重力曲げ法の概念図。
(a)図は、台座21に板ガラス23をセットした図。
(b)図は、所定温度で重力により板ガラス23が変形して台座22に接している図。
【図4】ホウ化物サーメット膜の酸化増量特性。
【符号の説明】
8:サーメット層。
9:金属基材。
10:本治具の一例であるガラス支持枠。
11:雄型。
12:雌型。
13:板ガラス。
22:台座。
23:板ガラス。
Claims (16)
- 金属基材の表面にサーメット層を有することを特徴とするガラス成形治具。
- 前記サーメット層のサーメットがホウ化物サーメットおよび/または超硬合金である請求項1記載のガラス成形治具。
- 前記サーメットがホウ化物サーメットであり、Niおよび/またはCoと、Moおよび/またはWと、ホウ素との複合ホウ化物を主体とするセラミックス相と、Niおよび/またはCoを主体とする金属結合相と、からなるホウ化物サーメット層である請求項2記載のガラス成形治具。
- 前記セラミックス相がサーメット層中40〜70質量%である請求項3記載のガラス成形治具。
- 前記金属結合相がMoを5〜15質量%含むものである請求項3または4記載のガラス成形治具。
- 前記サーメット層の表面にMoを主体とする酸化物生成粉が付着した請求項5記載のガラス成形治具。
- 前記セラミックス相の70質量%以上がMxNiyBz(ただし、MはMoおよび/またはW。x=1.8〜2.2、y=0.9〜1.1、z=1.8〜2.2)であり、前記金属結合相の60質量%以上がNiである請求項3、4、5または6記載のガラス成形治具。
- 前記セラミックス相の70質量%以上がMxCoyBz(ただし、MはMoおよび/またはW。x=0.9〜1.1、y=0.9〜1.1、z=0.9〜1.1)であり、前記金属結合相の60質量%以上がCoである請求項3、4、5または6記載のガラス成形治具。
- 前記ホウ化物サーメットがCrを含むものである請求項3〜8のいずれか記載のガラス成形治具。
- 前記サーメット層のサーメットが超硬合金であり、かつ該超硬合金がWC60〜95質量%と、Co5〜30質量%とを含むものである請求項2記載のガラス成形治具。
- 前記サーメット層の表面粗さRa(中心線平均粗さ)が1.6μm以下で、かつ該層の厚さが0.05〜1.0mmである請求項1〜10のいずれか記載のガラス成形治具。
- 金属基材の表面に、原料粉末を溶射してサーメット層を形成することを特徴とするガラス成形治具の製造方法。
- 前記サーメット層のサーメットが超硬合金および/またはホウ化物サーメットである請求項12記載のガラス成形治具の製造方法。
- 前記サーメットがホウ化物サーメットであり、セラミックス相と金属結合相とからなり、前記セラミックス相の70質量%以上がMxNiyBz(ただし、MはMoおよび/またはW。x=1.8〜2.2、y=0.9〜1.1、z=1.8〜2.2)であり、前記金属結合相の60質量%以上がNiである請求項13記載のガラス成形治具の製造方法。
- 前記サーメットがホウ化物サーメットであり、セラミックス相と金属結合相とからなり、前記セラミックス相の70質量%以上がMxCoyBz(ただし、MはMoおよび/またはW。x=0.9〜1.1、y=0.9〜1.1、z=0.9〜1.1)であり、前記金属結合相の60質量%以上がCoである請求項13記載のガラス成形治具の製造方法。
- 前記超硬合金が、WC60〜95質量%と、Co5〜30質量%とを含む超硬合金である請求項13記載のガラス成形治具の製造方法。
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