JP2007153656A - ガラス搬送用部材およびその製造方法 - Google Patents

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成明 富田
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Abstract

【課題】高温の雰囲気下で被覆が剥離し難くかつクラックの生じ難い、長期間使用可能なガラス搬送用部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一部がガラスと当接しながらガラスを搬送するガラス搬送用部材1であって、ガラス搬送用部材1は、母材2と、母材2の少なくとも搬送するガラスと対向する表面に形成されたイットリウム酸化物を主成分とする被覆層3とを備える。母材2は、シリカ製のロールであることが好ましく、被覆層3の厚さは、0.03mm以上かつ0.3mm以下であることが好ましい。
【選択図】図1

Description

本発明は、ガラス搬送用部材およびその製造方法に関し、特にガラス板を高温の雰囲気下で搬送するために用いられるロール等のガラス搬送用部材およびその製造方法に関するものである。
従来から、平板状のガラス板を、自動車の窓ガラスのような複雑な三次元形状に加工するには、高温下でガラス板が軟化する現象を利用した方法が用いられている。すなわち、所定の寸法、形状に裁断したガラス板を炉の中で充分な温度に加熱した後、成形型を用いるなどして重力および/または外力により、緩やかな変形速度でガラス板を所望の形状に変形させる成形方法である。
このような成形方法を実現するためには、ガラス板を緩やかな温度曲線で加熱・冷却することと、成形時の変位速度を小さくすることが必要である。これらの要求を満たしながら充分な作業効率を得るためには、いわゆるバッチ式の設備ではなく多数のガラス板を連続的に成形できるトンネル炉方式の設備が有効である。このため、自動車用窓ガラスの成形では、緩やかな温度傾斜を持ったトンネル炉の中にガラス板を搬入し、炉内に連続的に多数配したロールを回転させることによりガラス板を搬送することが必須となっている。このような搬送ロールとしては、鉄基合金を主体とするロールや、高温耐酸化性や炉内の温度分布の観点から、溶融シリカ粉末の結合体を主体にしたロールが使用されている。
鉄基合金を主体とするロールとしては、上記自動車用窓ガラスの成形よりも高温下でガラスを搬送する工程、すなわちフロート法等において成形されたガラスリボンを搬送する工程で使用されるロールと同様のものが挙げられる。例えば、鉄基合金の母材の表面に被覆層を形成したものも多く用いられており、母材にCo基の耐熱合金を被覆したロール(特開平4−260622号、特開平8−175828号)、または酸化物セラミックスやセラミックスと金属の混合物を被覆したロール(特開平4−260622号、特開平4−260623号)など、多様な被覆金属ロールが提案され、実用に供されている。さらには被覆材料の特性の維持や剥離を防止するために、被覆層を多層にする試みもなされており、特開2000−273614号公報には酸化ジルコニウム(ZrO)系セラミックスの表面層と炭化クロム系サーメット下地層の組み合わせ等からなるロールが提案されている。
特開平4−260622号公報 特開平8−175828号公報 特開平4−260623号公報 特開2000−273614号公報
近年の自動車用窓ガラスには、複雑な三次元形状であることと同時に、視野面には傷等の微細な欠点が生じていないことが強く求められるようになっている。このため、製造時に用いられる搬送ロールには、製品品質に悪い影響を与えず、かつ長期間使用できる素材が求められている。しかし、これら従来の搬送ロールはいずれも、上記要求を満たす自動車用窓ガラスを製造するための成形工程で使用する搬送ロールとしては、要求を充分に満足できるものではない。
搬送ロールに関連するガラス板の品質不良には、ガラス板自体のロール表面への固着に起因するものや、ロール表面への凝着物に起因するもの等があり、さらにはロール自体がガラスに対して及ぼす、物理的または化学的作用に起因するものがある。
鉄鋼材料をはじめとする金属系材料を素材とするロールを使用すると、使用温度域に長時間晒されることによるロール表面の変質に起因するガラス欠点が生じる。一般にロールの素材として利用できる金属材料は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、またはコバルト(Co)を主体とし、高温での耐酸化性を向上させるためにクロム(Cr)やアルミニウム(Al)を添加した合金である。しかし、当該ロールが使用される500〜700℃の温度域では、その表面に十分な緻密さと高い密着性を有するCrやAlの酸化被覆は形成されず、Fe、NiまたはCoの酸化物が混在した不連続な脱離しやすい酸化層が生成する。これらの酸化層は搬送されるガラス板が接触すると、容易に分離し多くの粉状や燐片状のダストとなり、ガラス板に傷を付与したり、埋め込まれた異物欠点となることが多い。
金属系素材のロールの表面に特定の中間層を形成するなどして、溶射法等によりZrOや酸化アルミニウム(Al)等の酸化物セラミックス質の被覆を付与すると、金属系素材の耐酸化性の不足を補うことが可能である。しかし、自動車用窓ガラスの成形ラインのように温度の昇降を比較的頻繁に繰り返す用途においては、金属母材と熱膨張係数が大きく異なるこれらの被覆の密着性を保つことは非常に難しい。さらにロールの両端に位置する駆動力伝達部は、高温に晒されることにより劣化することを避けるため炉外に出される場合が多い。この結果、金属は本質的に良好な熱伝導性を有するため、金属ロールを通じて多くの熱が炉外に逃げ、成形設備の熱効率は非常に低くなってしまう。
炉外に逃げる熱を抑えることを一つの狙いとして、自動車用窓ガラス成形ラインでは溶融シリカ粉末を結合させたロールが使用されている。当該ロールは、一般的に表面に気孔を有し、さらにその内部には強固に固着されていない微粉が存在する。この結果、当該ロールとガラスが強く接触すると、ロール自体から固着の弱い微細粒子が脱落する。このようにして生じた脱離シリカ粒子がガラス面に付着したまま成形設備中のより高温域に到達すると、粒子とガラスとの親和性が高いために両者が強固に固着してしまい新たな欠点を生じる結果となる。
これらの微粉の脱離を防止するためには、表面層を緻密化させることが有効であることは言うまでもない。このため、表面層の気孔にゾルゲル法によりSiO等の無機物を含浸させる方法や、溶射法等によって表面にZrOやAl等のセラミックス層を形成させる方法が提案されている。
しかし、前者では含浸に要する溶媒を抜く際に生じるクラックに起因して、含浸した無機物質が新たな脱離粒子となる現象を防ぐことが困難である。一方、後者においては、母材と被覆の熱膨張量が顕著に異なっており、さらには被覆の熱膨張の方が大きい組み合わせであるため、被覆を剥離させずにこのロールを高温下で実用に供することは極めて困難である。さらにシリカロールの外周にセラミックスのスリーブを嵌める提案(特開平7−109139号)もされているが、粒子が脱落せず熱膨張係数がシリカよりも小さいセラミックススリーブを工業的に作製することが困難であるため、この提案は実現することができない。
また、シリカロールの表面に酸化ジルコニウムや酸化アルミニウムを主体とした、耐摩耗性の高い被覆を溶射法等によって形成する試みが提案されている。しかし、シリカとセラミックスの熱膨張の差が極めて大きいため、被覆の剥離を防ぐことは極めて困難である。即ち、溶射被覆の形成時に、被覆となるセラミックスがロール表面で溶融温度から急激に冷やされ収縮しようとするのに対し、母材は余り温度が上昇しないため、被覆中には大きな内部応力が残留する。
母材がセラミックスより熱膨張の大きい金属製であれば、溶射時にこれを予熱する方法等によって、この残留応力を大幅に低減することが可能である。しかし、シリカの熱膨張はセラミックスより大幅に小さいため、予熱等の方法も有効ではなく、この大きな残留応力を低減することはできない。
このように大きな残留応力を有する被覆は、それ自身の不均一性や外部からの不均一な熱的、機械的応力の付加によって、容易に剥離することは言うまでもない。フロート法によるガラス製造ラインに比べ、熱分布や付加される熱変動が大きい自動車用窓ガラス成形ラインのロールに対して、ここで提案された技術を適用することは事実上不可能である。
前述したように自動車用窓ガラス成形ラインの搬送ロールとして、さまざまな素材のロールが実用に供されたり、提案されたりしているが、ロールを起因とするガラス欠点を大幅に減少させ、長期にわたり安定的に使用できるロールは見出されていないのが実情である。
本発明はこのような課題を解決するものであり、従来よりも被覆が剥離し難くまたクラックの生じ難いガラス搬送用部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
以上の目的を達成するために本発明は、少なくとも一部がガラスと当接しながらガラスを搬送するガラス搬送用部材であって、前記ガラス搬送用部材は、母材と、前記母材の少なくとも搬送するガラスと対向する表面に形成されたイットリウム酸化物を主成分とする被覆層とを備えることを特徴とするガラス搬送用部材を提供する。
また、本発明の一態様として、前記被覆層の厚さは、0.03mm以上かつ0.3mm以下であることが好ましい。また、前記被覆層は、イットリウム酸化物を体積分率で50体積%以上含むことが好ましい。さらに、前記被覆層は、イットリウム酸化物の粉末からなる原料を用いて前記母材の表面に溶射法により形成されていることが好ましい。
また、本発明は、母材と、該母材の少なくとも搬送するガラスと対向する表面に形成された被覆層とを備えるガラス搬送用部材の製造方法であって、イットリウム酸化物の粉末からなる原料を用いて、前記母材の表面に溶射法により前記被覆層を形成することを提供する。さらに、本発明の一態様として、焼結法により製造されたイットリウム酸化物の粉末を使用することが好ましい。
以上説明したように本発明によれば以下の効果を奏する。
母材と、母材の少なくとも搬送するガラスと対向する表面に形成されたイットリウム酸化物を主成分とする被覆層とからガラス搬送用部材を構成することにより、被覆層の機械的強度が向上するため、ガラスと強く接触しても被覆層から微粉が脱落することがなくなり、ガラス搬送用部材を起因とするガラス欠点を大幅に減少させることができる。また、高温ガラスとの反応性も従来材料と同等あるいはより良い特性を示すので、イットリウム酸化物を主成分とする被覆層を有する搬送部材はガラスの搬送に好適に用いることができる。
また、ロール搬送の場合、本発明のようにシリカ質のロールを母材とし、それにイットリウム酸化物を主成分とする被覆層を形成することにより、シリカロールの特性を活かしかつ母材と被覆層との密着強度が向上するため、母材へ強い衝撃が加えられたり、温度の昇降が頻繁に繰り返される状況で使用しても、被覆層の剥離が生じにくく、長期にわたって使用することができる。
さらに、被覆層の厚さが0.03mm以上であると、被膜層を溶射などの簡便な方法で形成しやすく、また被覆層が0.3mm以下であると外部から力が作用した際にも被覆層が剥がれにくい。
また、被覆層がイットリウム酸化物を体積分率で50体積%以上含むと、充分な機械的強度が得られ、長期間の実用に耐える耐摩耗性が得られる。
さらに、被覆層がイットリウム酸化物の粉末からなる原料を用いて溶射法により母材に形成されることにより、母材表面に飛来する原料粒子と母材表面のぬれ性等の相性が従来の材料に比べて良いと考えられ、被覆層の密着性が向上する。
また、イットリウム酸化物の粉末からなる原料を用いて母材の表面に被覆層を溶射法により形成するガラス搬送用部材の製造方法によれば、本発明のガラス搬送用部材が好適に得られる。
さらに、焼結法により製造されたイットリウム酸化物の粉末を使用することにより、被覆層を適当に緻密化させることができる。
このようなガラス搬送用部材の一つであるロールは、高温雰囲気下の自動車ガラスの成形ラインにおけるガラス搬送に適用された場合、最終のガラス製品の欠点発生を低く押さえることができ、ロール自体も被覆の剥離やクラックの発生がなく長期間にわたって安定して使用できる。
以下、本発明に係るガラス搬送用部材の好ましい実施形態について詳説する。
図1は本発明にかかるガラス搬送用部材のうち好適に用いられるガラス搬送用ロールの一実施形態を示す正面視した断面図である。図1に示すロール1は、母材2と、母材2の表面(少なくともガラス製品と対向する部位)を被覆するセラミックス製の被覆層3とを備えている。母材2の側面視の断面は円形をしており、ロール1の両端には金属製のエンドキャップ4が固定されている。
被覆層3は、イットリウム酸化物を主成分として形成されている。このイットリウム酸化物は比較的高い機械的強度と硬さを有しており、被覆としての耐磨耗性は必然的に高い。
母材2は、シリカ質からなる材料から構成されている。シリカは、金属等の他の素材を比べて、コスト面、熱的特性面、母材の高温耐久性等において優れている。さらに、母材としてシリカの代わりに、超硬合金等のサーメット、アルミナ、ジルコニア等の酸化物系セラミックス、窒化珪素、SiC等の非酸化物系セラミックス、またはカーボン等を用いてもよい。
また、イットリウム酸化物を主成分とする被覆層3は、母材2がシリカの場合、母材2との密着強度が向上する。母材2と被覆層3との密着強度が向上する要因としては必ずしも明らかではないが、従来用いられている被覆層の素材、例えば酸化ジルコニウムに比べると、イットリウム酸化物の熱膨張率は小さく、熱膨張率が非常に小さい母材であるシリカとの熱膨張差が小さくなっていることが一因として考えられる。さらに、被膜層の機械的強度や高温ガラスとの反応性も従来の知られている材料の組み合わせと同等あるいはそれ以上の良い特性を示す。
イットリウム酸化物を主成分とする被膜層3は母材2へ直接一層形成させるだけでも、高い密着強度を発現するが、より高い密着強度が必要な場合には母材2とイットリウム酸化物の被膜層3との間に中間層を設けてもよい。また中間層を母材と被覆層の熱膨張率の差を吸収する層として機能させることもできる。
よって、本発明が提供するガラス搬送用ロールを自動車ガラス等を成形する設備の搬送ロール等に適用すると、実用に際しても被覆層が剥離せず安定して長期間使用することができ、ロールからの発塵に起因するガラスの欠点も減じることが可能になる。
本発明によるイットリウム酸化物を主成分とする被覆層3は、イットリウム酸化物が体積分率で50%体積以上であることが好ましく、より好ましいのは75体積%以上である。さらに好ましくは、空隙と不可避な微量の不純物を除いてイットリウム酸化物のみの場合である。イットリウム酸化物が50%体積の量を下回ると、機械的強度が低下し長期間の実用に耐えうる耐磨耗性が得にくくなる。特に耐磨耗性と化学的安定性が必要と想定される場合は、被覆層3の成分をすべてイットリウム酸化物とするのが特によい。
被覆層3の成分の残部として、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウムおよび酸化カルシウム等を選ぶことができる。さらに被覆層を溶射等で形成させる際の作業性を向上させるためにシリカや酸化チタニウム等を添加することもできる。また、この残部には不可避不純物が含まれることは言うまでもない。
被覆層3の厚さは0.03mm以上かつ0.3mm以下であることが好ましく、より好ましいのは0.05mm以上かつ0.2mm以下である。被覆層3の厚さが0.01mm未満であると、溶射等の簡便な方法での均質な被覆層の形成が難しくなる。一方、被覆層3の厚さが0.3mmを超えると、外部からの力が作用した際に、被覆層に大規模なクラックが生じやすくなる。
本発明のガラス搬送用部品の被覆層3は、溶射法によって形成されるのが好ましい。被覆層3は、サンドブラスト等によって表面を粗化したシリカ質の母材2に、プラズマ溶射法または高速フレーム溶射法によって形成することができるが、これらの方法に限定されるものではない。例えば、母材2を粗化させる方法は、水ブラスト、機械的研磨等の任意の方法を用いることができる。
被覆層3との密着強度を高めるために粗化したシリカ質の母材2の表面の粗さはRa(中心線平均粗さ)を0.1μm以上とするのが好ましく、より好ましくはRaを4μm以上とし、さらに好ましくはRaを6μm以上とする。
シリカ質の母材にイットリウム酸化物の被覆層を溶射法により形成した場合、母材との密着性が向上する。この原因は必ずしも明らかではないが、溶射により母材2の表面に飛来する原料の粒子と母材2の表面のぬれ性等の相性が従来の知られている材料の組み合わせに比べて良いことが考えられる。
溶射作業は、ロールの両端を支持し、ロールを一定速度で回転させながら、溶射ガンをロールの軸方向にロールと一定距離を保ったまま往復走査しながら原料粒子を溶射させることで行われるが、この方法に限定されるものではない。
溶射原料は、焼結法により製造された原料を用いることが好ましい。溶融粉砕法により製造された原料を用いることは可能であるが、被覆層の緻密度等の制御が難しくなる傾向にある。被覆層が緻密になりすぎると熱衝撃等に弱くなり、粗くなりすぎると被覆層の充分な機械的強度が得られなくなる。
被覆層3は原料が溶融した飛沫の基板への衝突、凝着、積層によって形成されるため、被覆の表面はかなりの凹凸を有しており、この大きな凹凸を残したままでは、被覆とガラスが摺動した場合に被覆の一部が脱落する可能性が低くない。したがって、被覆層3の表面の粗さはRaを3.5μm以下とするのが好ましく、より好ましくは1.6μm以下であり、さらに好ましいのは0.5μm以下である。表面粗さを調整する方法は、溶射後の被覆層のダイヤモンド工具等による機械的な研磨や溶射原料の微粉末化を選択することができるが、これに限定されるものではない。
さらに被覆層を形成した後、溶射や仕上げ加工で被覆層内に蓄積された内部応力を開放するために、熱処理を行うことが有効である。熱処理は一般的には大気中で行うが、窒素中やアルゴン中等の非還元雰囲気でこれを実施することもできる。熱処理温度は400℃以上かつ1200℃以下であることが好ましく、より好ましいのは500℃以上かつ1000℃以下である。熱処理温度が400℃以上であると内部応力が好適に開放され、1200℃未満だと、被覆層が安定して密着する。
ロールのサイズは、設置する炉内によって変更可能であるが、一般的には径が45〜90mmであり、長さは1500〜3500mmである。図1に示しているように被覆層3は、母材2の表面すべてに設ける必要はなく、炉内へロールを設置した際に、ガラスがロール上の通過する可能性のある範囲に被覆されていればよい。被覆する範囲は、炉の種類、搬送するガラスのサイズによって適宜決定されるものである。広い範囲に被覆層4を設けておけば、搬送する様々なガラスのサイズに対応できる。例えば、ロール1のサイズが上記の範囲であれば、ロール1の搬送面の端部より10〜200mmを被覆層4を設けない領域とすれば、大体の自動車用窓ガラスのサイズをカバーできる。
また、炉内に設置されるロールの数は、炉のサイズや成形するガラスの型式等によって異なり、自動車用窓ガラスを製造する炉では、一般的に100〜500本程度であるが、必ずしも全てが本発明のイットリウム酸化物の被覆層4を有するロール1である必要はない。ガラス欠陥の抑制に効果的な炉内の領域に限定的に設置すればよい。典型的には炉内の全ロール数の5〜40%の本数に本発明のイットリウムの被覆層4を有するロール1が用いられていれば、ガラス欠点抑制に効果を発生する。
以下に本発明の実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例1は、本発明の提供するシリカ母材にイットリウム酸化物の被覆層を形成した場合である。比較例1、2は、シリカ母材に他の材料の被覆層を形成させた場合であり、比較例3、4は、ステンレス鋼の母材に他の材料の被覆層を形成させた場合であり、比較例5はシリカ母材に被覆層を形成させなかった場合である。これらの特性を比較した結果を以下に示す。
例1)
−密着強度と耐熱リサイクル試験−
直径55mm、厚さ10mmの円盤状の母材となる多孔質シリカ焼結体とステンレス鋼(SUS310S)を準備し、そのシリカ焼結体の表面またはステンレス鋼の表面に、プラズマ溶射法(比較例3および4の中間層のみ高速フレーム溶射法)を用いて、種々の一層または二層の被覆層を形成した。ここでは、被覆層が一層の場合はその層を被覆表面層と呼び、被覆層が二層の場合は、最上層の被覆を被覆表面層とし、被覆表面層と母材との間の層を中間層と呼ぶ。このとき実施例1の被覆表面層の形成には、焼結製法によるイットリウム酸化物の原料粉末を用い、比較例1の被覆表面層の形成には酸化アルミニウムを、比較例2の被覆表面層の形成には酸化ジルコニウムを原料とした溶融破砕製法による原料粉末を作成して溶射原料とした。溶射後の試料から、母材がシリカ焼結材の場合は10mm×10mmの矩形を、母材がステンレス鋼の場合は15mm×15mmの矩形を被覆層を含めて試験片として切り出した。
そして図2に示すように、切り出した試験片を用いて密着強度を測定した。切り出した試験片をアルミニウム合金製の2つの冶具13に二液性のエポキシ接着層12を介して接着した後、冶具13をそれぞれ引張方向14に引張ることで引張試験を行った。なお、引張試験は、測定温度が室温(約20℃)であり、引張速度を毎分0.1mmとして実施した。強度測定に用いた試料が有する被覆層の構成と測定結果は表1に示すとおりである。
次いで、直径55mm、長さ600mmのロール状多孔質シリカ焼結体と直径60mm、長さ600mmのステンレス鋼(SUS310S)を準備し、その外周面にプラズマ溶射法(比較例3および4の中間層のみ高速フレーム溶射法)を用いて、種々の一層または二層の被覆を形成し、これらの被覆されたロール材から厚さ15mmの円板状試験片(シリカ母材21、溶射被覆層20)を切出した。この試験片を700℃に加熱した電気炉に投入し30分保持した後、炉外に取り出し、水温を10℃に温度制御(冷却水導入口23から冷却水を導入し、冷却水導出口24から排出する)した図3に示す金属製水冷箱22の上面に置いて冷却する試験を繰り返した。熱サイクル試験に用いた試料が有する被覆層の構成と試験結果とは、上記表1に示すとおりである。
Figure 2007153656
前述の2種の評価試験によって、評価対象とした被覆層の中では、本発明が提供する被覆層(実施例1)のみが双方の試験で良好な結果を示すことを確認した。
例2)
−高温衝撃試験−
直径55mmで厚さ約10mmの円盤状の多孔質シリカ焼結体を準備し、その円盤状のシリカの表面に、酸化イットリウムを溶射して被覆層を形成させた試験片(実施例1)と被覆層を形成させない試験片(比較例5)とを得た。これら試験片をラッピングマシンで鏡面研磨し、洗浄した後、大気中700℃の温度で2時間の加熱を行った。この試験片で、図4に示すような試験装置を用いて高温衝撃試験を行った。
この試験装置は、軸31に振り子の様に可動するアーム32が固定され、アーム32の先端に重り33が固定されている。重り33の先端には、直径8.7mmのSUS440Cからなる半球形の打子34が備えられている。試験片35は、試験装置の天井より床に向かって延設されているフレーム36の下方に鉛直に立てて固定されている。重り33を21mmの高さから振り子落下させることにより、打子34が水平に試験片に衝撃を与えるようになっている。この試験装置はヒーター37を備え電気炉になっており、高温化での試験を実施できるようになっている。
試験片を固定した後、試験装置内を600℃に加熱し、500回の打撃を行う高温衝撃試験を各試験片について行った。打撃時に重りが試料で跳ね返りバウンドするが、バウンド分は打撃回数に含めない。打撃後、試験片を取り出し、室温下で打痕の深さをレーザー顕微鏡で測定した。測定値を表2に示す。
Figure 2007153656
高温下の衝撃試験においても、本発明が提供する被覆層(実施例1)は、被覆層なしに比べて良好な結果を示すことを確認した。
以上説明したとおり、本発明は、加熱炉内でガラス板を搬送するためのローラコンベアで使用されるロールに適用できる。また、ロール以外にも加熱雰囲気下で各種ガラス製品を取り扱うための装置または冶具(ガラス製部材を挟持、支持、保持または載置するための治具等)に適用できることは明らかである。また、ガラスの製造以外の用途にも適用でできる。
本発明に係るロールの一実施形態を示す正面視での断面図である。 被覆層の密着強度を測定するための試験方法の概略を示す側面図である。 試験片の耐熱サイクル性を測定するための試験方法の概略を示す断面図である。 高温衝撃試験装置の概略図である。
符号の説明
1:ロール
2:母材
3:被覆層
10: 溶射被覆
11: シリカ母材
12: エポキシ接着剤
13:アルミ製冶具
14:引張方向
20:溶射被覆(円周面のみ)
21:シリカ母材
22:水冷箱
23:冷却水導入口
24:冷却水導出口
31:軸
32:アーム
34:打子
35:試験片

Claims (7)

  1. 少なくとも一部がガラスと当接しながらガラスを搬送するガラス搬送用部材であって、前記ガラス搬送用部材は、母材と、前記母材の少なくとも搬送するガラスと対向する表面に形成されたイットリウム酸化物を主成分とする被覆層とを備えることを特徴とするガラス搬送用部材。
  2. 前記母材は、シリカ質のロールである請求項1に記載のガラス搬送用部材。
  3. 前記被覆層の厚さは、0.03mm以上かつ0.3mm以下である請求項1または2に記載のガラス搬送用部材。
  4. 前記被覆層は、イットリウム酸化物を体積分率で50体積%以上含む請求項1から3のいずれかに記載のガラス搬送用部材。
  5. 前記被覆層は、イットリウム酸化物の粉末からなる原料を用いて前記母材の表面に溶射法により形成されている請求項1から4のいずれかに記載のガラス搬送用部材。
  6. 母材と、該母材の少なくとも搬送するガラスと対向する表面に形成された被覆層とを備えるガラス搬送用部材の製造方法であって、イットリウム酸化物の粉末からなる原料を用いて、前記母材の表面に溶射法により前記被覆層を形成することを特徴とするガラス搬送用部材の製造方法。
  7. 焼結法により製造されたイットリウム酸化物の粉末を使用する請求項6に記載のガラス搬送用部材の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2014162934A (ja) * 2013-02-22 2014-09-08 Tocalo Co Ltd 皮膜密着性に優れたセラミックス溶射皮膜被覆部材
KR101729214B1 (ko) * 2015-01-13 2017-04-21 주식회사 엘지화학 유리 반송용 롤러
WO2018166957A1 (de) * 2017-03-17 2018-09-20 Saint-Gobain Industriekeramik Rödental GmbH Rolle für einen rollenofen

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