JP2004187620A - 腎疾患の疾患マーカーおよびその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】腎疾患を反映する疾患マーカー、該疾患マーカーを利用した腎疾患を検出する方法(診断方法)、腎疾患の予防、改善または治療薬として有効な物質をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】Chondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを、腎疾患の疾患マーカーとして利用する。
【選択図】 なし。
【解決手段】Chondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを、腎疾患の疾患マーカーとして利用する。
【選択図】 なし。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、腎疾患の診断に有用な疾患マーカーに関する。より詳細には、本発明は腎疾患、例えば糸球体腎炎、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎疾患等の慢性腎炎などの疾患の遺伝子診断において、プライマー又は検出プローブとして有効な疾患マーカーに関する。
【0002】
本発明は、上記疾患マーカーを利用して、腎疾患を検出する方法(診断方法)、腎疾患の予防、改善または治療薬として有効な物質をスクリーニングする方法および該方法によって得られる物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善または治療薬に関する。
【0003】
【従来の技術】
近年、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎疾患等の慢性腎炎から人工透析導入(末期腎疾患)へ至る患者は年々増加しており透析治療に費やす医療費は極めて高額になっている。
【0004】
慢性腎炎の治療には、血圧降下剤、ステロイド、免疫抑制剤を用いた薬物療法が行われるが、根本的な病態の改善は現状では不可能であり、人工透析への導入時期を遅延させる効果しか得られていない。
【0005】
病理学的には糸球体腎炎や糖尿病性腎症などの慢性腎炎患者の腎組織には、糸球体および間質にマクロファージなどの白血球の浸潤が認められる(非特許文献1)。白血球はサイトカインやNO、活性酸素、プロテアーゼを産生することにより、糸球体や間質の細胞の傷害、形質転換、細胞増殖、細胞外基質の産生増加を引き起こし、炎症、糸球体硬化による慢性腎炎の進展に深く関与している。
【0006】
白血球の局所への浸潤には接着分子が重要な役割を担っているため、細胞接着分子の発現、機能を制御することにより、白血球の浸潤を伴う慢性腎炎をはじめとする免疫疾患の発症、進展を制御できると考えられている(非特許文献2)。
【0007】
このような観点から、細胞接着分子の発現を低下もしくは機能を阻害させることは、慢性腎炎をはじめとする腎疾患の治療に有効な手段である。
【0008】
しかしながら、これまで上市されている慢性腎炎をはじめとする腎疾患の治療剤は、このような作用機序を持っておらず、そのような作用機序を持つ薬剤の研究・開発が当業界で切望されている。
【0009】
尚、chondrolectinは、分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインをもっているが(非特許文献3)、生体内での役割は不明であり、どのような疾患と関連しているのかについては、今まで何ら判っておらず、かかる関連を示唆する報文も皆無である。
【0010】
【非特許文献1】
Kidney International, vol.49, p127-134, 1996
【非特許文献2】
Kidney International, vol.60, p2205-2214, 2001
【非特許文献3】
Genomics, vol.80(1), p62-70, 2002
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、慢性腎炎などの腎疾患を反映し、それ故、この疾患の診断および治療に有用な疾患マーカーを提供することを目的とする。また、本発明は該疾患マーカーを利用した腎疾患の検出方法(遺伝子診断方法)、該疾患の予防、改善または治療に有効な薬物をスクリーニングする方法、並びに該疾患の予防、改善または治療に有効な薬物を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述したように腎臓などの臓器と慢性腎炎などの腎疾患との関連に着目し、この関連性について鋭意研究を行う過程において、正常状態の腎臓に比して、糸球体硬化症の腎臓において、その発現が有意に上昇する遺伝子を同定した。本発明者は、本遺伝子がコードするタンパク質を調べ、分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインをもつchondrolectin(CHODL)であることを見出した。更に、高血中クレアチニン値の患者の腎臓組織においても、血中クレアチニン値の正常なヒト腎臓組織に比べてchondrolectin遺伝子の発現が上昇することを見出した。
【0013】
更に、本発明者は、正常状態の腎臓と比較して、慢性腎炎モデル(5/6腎臓摘出ラットモデル)において、上記chondrolectin遺伝子の発現が有意に上昇することを認めた。
【0014】
これらのことから、本発明者は、上記chondrolectin遺伝子が慢性腎炎をはじめとする腎疾患の疾患マーカーとなり得ることを確認し、この知見を基礎として本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の要旨は、下記(1)−(17)の点にある。
【0016】
項1. 配列番号1または2に示されるchondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドである腎疾患の疾患マーカー。
【0017】
項2. 腎疾患の検出においてプローブまたはプライマーとして使用される項1に記載の疾患マーカー。
【0018】
項3. 配列番号3または4に示されるアミノ酸配列よりなるchondrolectin蛋白質を認識する抗体である腎疾患の疾患マーカー。
【0019】
項4. 腎疾患の検出においてプローブとして使用される項3に記載の疾患マーカー。
【0020】
項5. 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む腎疾患の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと項1または2に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、腎疾患の罹患を判断する工程。
【0021】
項6. 工程(c)における腎疾患の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる項5に記載の腎疾患の検出方法。
【0022】
項7. 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む腎疾患の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製された蛋白質と項3または4に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来の蛋白質またはその部分ペプチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、腎疾患の罹患を判断する工程。
【0023】
項8. 工程(c)における腎疾患の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる項7に記載の腎疾患の検出方法。
【0024】
項9. 下記の工程(a) 、(b)および(c)を含むchondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
被験物質とchondrolectin遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞のchondrolectin遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞の上記遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectin遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0025】
項10. 下記の工程(a) 、(b)および(c)を含むchondrolectin蛋白質の発現量を低下させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とchondrolectin蛋白質を発現可能な細胞または該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞または細胞画分におけるchondrolectin蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞もしくは細胞画分における上記chondrolectin蛋白質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectin蛋白量の発現量を低下させる被験物質を選択する工程。
【0026】
項11.下記の工程(a) 、(b) および(c)を含むchondrolectinリガンドのスクリーニング方法:
(a) chondrolectin蛋白質とchondrolectinリガンド候補物質を接触させる工程、
(b) chondrolectin蛋白質と接触させたchondrolectinリガンド候補物質との相互作用を測定し、chondrolectinリガンド候補物質を接触させない上記chondrolectin蛋白質と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectinリガンドを選択する工程。
【0027】
項12.下記の工程(a) 、(b) 、および(c)を含むchondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下で、chondrolectinリガンドとchondrolectin蛋白質とを接触させる工程、
(b)被験物質存在下におけるchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量を測定し、該結合量を被験物質非存在下でのchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量(対照結合量)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、対照結合量に比して結合量を低下させる被験物質を選択する工程。
【0028】
項13.腎疾患の予防、改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、項9乃至12のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0029】
項14.chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善または治療剤。
【0030】
項15.chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質が項9に記載のスクリーニング法により得られるものである項14に記載の腎疾患の予防、改善または治療剤。
【0031】
項16.chondrolectin蛋白質の発現量を抑制する物質、またはchondrolectinの活性を阻害する物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善または治療剤。
【0032】
項17.chondrolectin蛋白質の発現量を抑制する物質、またはchondrolectinの活性を阻害する物質が、項10乃至12に記載のスクリーニング方法により得られるものである、項16に記載の腎疾患の予防、改善または治療剤。
【0033】
上記のように、本発明によれば、腎疾患の疾患マーカー、該疾患の検出系、chondrolectin遺伝子の発現およびchondrolectin蛋白質の発現を抑制する物質、chondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニング系、およびこれらの物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善および治療剤が提供される。
【0034】
前述したように、chondrolectin遺伝子は、正常状態の腎臓に比して、腎疾患の腎臓において特異的にその発現が上昇することから、これらの遺伝子およびその発現産物〔蛋白質、(ポリ)(オリゴ)ペプチド〕は、腎疾患の解明、診断などに有効に利用することができ、この利用によって医学並びに臨床学上、有用な情報、手段などを得ることができる。即ち、個体または組織における、上記遺伝子の発現またはその発現産物の検出、または該遺伝子の変異またはその発現不全の検出は、腎疾患の解明、診断などに有用に利用することができる。
【0035】
また、これらの遺伝子およびその発現産物並びにそれらからの派生物(例えば遺伝子断片、抗体など)は、chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質、chondrolectin 蛋白質の発現を抑制する物質、およびchondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニングに有用であり、該スクリーニングによって得られる物質は、腎疾患の予防、改善および治療薬として有効である。更に、chondrolectin遺伝子のアンチセンス核酸(アンチセンスヌクレオチド)は、腎疾患の予防、改善および治療薬として有用である。
【0036】
尚、chondrolectinは、分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインをもっているが、生体内でどのような役割を担っているのか知られていない(Genomics, vol.80(1), p62-70, 2002)。また、該chondrolectinが腎疾患と関連することについては、今まで何ら判っておらず、かかる関連を示唆する報文も皆無である。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)および当該分野における慣用記号に従う。
【0038】
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖という各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。
【0039】
また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号1および2)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(1-1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号1または2で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
【0040】
例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。
【0041】
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
【0042】
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNAおよび合成のRNAのいずれもが含まれる。
【0043】
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号3または4)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0044】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびFabフラグメント、Fab発現ライブラリーなどによって生成されるフラグメントのような抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
【0045】
さらに本明細書において「疾患マーカー」とは、腎疾患の罹患の有無もしくは罹患の程度を診断するために、また腎疾患の予防、改善または治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、腎疾患の罹患に関連して生体内での発現が変動する遺伝子または蛋白質を特異的に認識するか、またはこれらと結合することのできる、(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子および蛋白質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
【0046】
以下、chondrolectin遺伝子(ポリヌクレオチド)並びにこれらの発現産物およびそれらの派生物について、具体的な用途を説明する。
【0047】
(1)腎疾患の疾患マーカーおよびその応用
(1-1) ポリヌクレオチド
配列番号1または2に示されるポリヌクレオチドは、それぞれヒト由来chondrolectin遺伝子およびマウス由来chondrolectin遺伝子としていずれも公知の遺伝子であり、それら取得方法も、文献に記載されている(例えば、Genomics, Vol.80,
No.1, p.62 -70 (July 2002)など参照)。
【0048】
本発明は、前述するように、腎疾患に罹患した患者の組織においては、正常な組織に比して、chondrolectin遺伝子の発現量が特異的に増大するという知見を発端に、chondrolectin遺伝子の発現の有無や発現の程度を検出することによって、上記腎疾患の罹患の有無、罹患の程度、回復の程度などが特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという発想に基づくものである。
【0049】
上記ポリヌクレオチドは、従って、被験者における上記遺伝子の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者が腎疾患に罹患しているか否か、またはその疾患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
【0050】
また、上記ポリヌクレオチドは、後述の(3-1)項に記載するような腎疾患の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、chondrolectin遺伝子の発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。
【0051】
本発明疾患マーカーは、配列番号1または2に記載のchondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドであることを特徴とする。
【0052】
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、配列番号1または2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A : TおよびG : Cといった塩基対関係に基づき、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味する。かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイスすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に示されるように、複合体或いはプローブと結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えば、ハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件としては「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0053】
また、正鎖側のポリヌクレオチドには、配列番号1または2のいずれかに示されるchondrolectin遺伝子の塩基配列またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
【0054】
上記正鎖のポリヌクレオチドおよび相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されてもよい。
【0055】
本発明の腎疾患の疾患マーカーは、具体的にはchondrolectin遺伝子の配列番号に関する配列番号1または2に記載される各塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。また、配列番号1または2に示されるchondrolectin遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列もしくはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列もしくはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも15個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0056】
ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、chondrolectin遺伝子またはこれに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT-PCR法においては、chondrolectin遺伝子またはこれに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それらに限定されず、当業者が上記検出物または生成物がこれらの遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
【0057】
本発明疾患マーカーは、配列番号1または2に示されるchondrolectin遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3 (http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には配列番号1または2のいずれかに示される塩基配列をprimer3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列もしくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0058】
本発明疾患マーカーは、上述するように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであればよく、具体的には該疾患マーカーの用途に応じて、その長さを適宜選択し設定することができる。
【0059】
(1-2)プローブまたはプライマーとしてのポリヌクレオチド
本発明において腎疾患の検出(診断)は、被験者の生体組織、特に腎臓組織などにおけるchondrolectin遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することによって行われる。
【0060】
この検出において、本発明疾患マーカーは、上記遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し増幅するためのプライマーとして、または該RNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するためのプローブとして利用することができる。
【0061】
腎疾患の検出(遺伝子診断)においてプライマーとして用いられる本発明疾患マーカーは、通常15bp-100bp、好ましくは15bp-50bp、より好ましくは15bp-35bpの塩基長を有する。また検出プローブとして用いられる本発明疾患マーカーは、通常15bp-全配列の塩基数、好ましくは15bp-1kb、より好ましくは100bp-1kbの塩基長を有する。
【0062】
本発明疾患マーカーは、ノーザンブロット法、RT-PCR法、in situハイブリダーゼーション法などの、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によって腎疾患におけるchondrolectin遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。
【0063】
測定対象とする試料は、使用する検出法の種類に応じて適宜選択することができる。該試料は、例えば、被験者の腎臓組織の一部をバイオプシなどで採取し、そこから常法に従って調製したtotal RNAであってもよいし、該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドであってもよい。
【0064】
また、生体組織におけるchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルは、DNAチップを利用して検出あるいは定量することができる。この場合、本発明疾患マーカーは当該DNAチップのプローブとして使用することができる(例えば、Affymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A,B,C,D,Eの場合、25bpの長さのポリヌクレオチドプローブとして用いられる)。かかるDNAチップを、生体組織から採取したRNAをもとに調製される標識DNAまたはRNAとハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブ(本発明疾患マーカー)と標識DNAまたはRNAとの複合体を、該標識DNAまたはRNAの標識を指標として検出することにより、生体組織中でのchondrolectin遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)が評価できる。
【0065】
上記DNAチップは、配列番号1または2で示される塩基配列を有する遺伝子と結合し得る1種または2種以上の本発明疾患マーカーを含んでいればよい。複数の疾患マーカーを含むDNAチップの利用によれば、ひとつの生体試料について、同時に複数の遺伝子の発現の有無または発現レベルの評価が可能である。
【0066】
本発明疾患マーカーは、腎疾患の診断、検出(罹患の有無、罹患の程度の診断)に有用である。具体的には、該疾患マーカーを利用した腎疾患の診断は、被験者の腎臓組織と正常者の腎臓組織におけるchondrolectin遺伝子の発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。
【0067】
この場合、遺伝子発現レベルの違いには、発現のある/なしの違いだけでなく、被験者の腎臓組織と正常者の腎臓組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量の格差が2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。より具体的には、chondrolectin遺伝子は、腎疾患患者において特異的な発現上昇を示すので、被験者の腎臓組織において発現されており、該発現量が正常な腎臓組織における発現量と比べて好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上多ければ、該被験者について腎疾患の罹患が疑われる。
【0068】
(1-3) 抗体
本発明は、腎疾患の疾患マーカーとしてのchondrolectin遺伝子の発現産物(蛋白質)(本明細書においては「chondrolectin」または「chondrolectin蛋白質」ともいう)を特異的に認識することができる抗体を提供する。
【0069】
chondrolectinとしては、配列番号1または2に示されるポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質を挙げることができる。配列番号1または2に示される各ポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質の具体的態様としては、それぞれ配列番号3または4で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質を挙げることができる。
【0070】
ここで配列番号3に示す蛋白質は、ヒト由来のchondrolectinによってコードされる蛋白質である。また配列番号4に示す蛋白質は、マウス由来のchondrolectin遺伝子によってコードされる蛋白質である。
【0071】
本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、chondrolectinを免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。さらに当該chondrolectinのアミノ酸配列中の少なくとも連続する8アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明抗体に含まれる。
【0072】
これらの抗体の製造方法は、すでに周知である。本発明抗体はこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.1または2-11.13)。具体的には、ポリクローナル抗体は、常法に従って大腸菌などで発現し精製したchondrolectinを用いて、あるいは常法に従って当該chondrolectinの部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎などの非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体は、常法に従って大腸菌などで発現し精製したchondrolectinまたは該蛋白質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウスなどの非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4-11.11)。
【0073】
抗体の作製に免疫抗原として使用されるchondrolectin蛋白質は、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1または2)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からの蛋白質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0074】
具体的には、chondrolectinをコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的蛋白質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としての蛋白質を得ることができる。また、chondrolectin蛋白質は、本発明により提供されるアミノ酸配列情報(配列番号3または4)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0075】
本発明chondrolectin蛋白質には、配列番号3または4に示す各アミノ酸配列を有する蛋白質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、上記各アミノ酸配列において、1もしくは複数(通常数個)のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つもとの各アミノ酸配列の蛋白質と同等の生物学的機能を有する蛋白質および/または同等の免疫学的活性を有する蛋白質を挙げることができる。
【0076】
ここで、同等の生物学的機能を有する蛋白質としては、chondrolectinと生化学的または薬理学的機能において同等の蛋白質を挙げることができる。また、同等の免疫学的活性を有する蛋白質としては、適当な動物あるいはその細胞において特定の免疫反応を誘発し、かつchondrolectinに対する抗体と特異的に結合する能力を有する蛋白質を挙げることができる。
【0077】
なお、蛋白質におけるアミノ酸の変異数および変異部位は、その生物学的機能および/または免疫学的活性が保持される限り制限はない。生物学的機能または免疫学的活性を消失することなくアミノ酸残基が、どのように、何個置換、挿入あるいは欠失されればよいかを決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、置換後に得られる蛋白質がMLTKの生物学的機能および/または免疫学的活性を保持している限り、特に制限されない。この置換されるアミノ酸は、蛋白質の構造保持の観点から、アミノ酸の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性、両親媒性などにおいて置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、PheおよびTrpは互いに非極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、AsnおよびGlnは互いに非荷電性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、AspおよびGluは互いに酸性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、またLys、ArgおよびHisは互いに塩基性アミノ酸に分類されるアミノ酸である。ゆえに、これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択することができる。
【0078】
上記chondrolectin蛋白質は、後述の(3-3)項に記載するような腎疾患の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、chondrolectinの活性を阻害する物質を検出するためのスクリーニングツールとしても有用である。
【0079】
本発明抗体は、また、chondrolectinの部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってもよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、chondrolectinと同様の免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し且つchondrolectinのアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴペプチドを例示することができる。
【0080】
かかるオリゴペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニンおよびジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
【0081】
本発明抗体は、chondrolectinに特異的に結合する性質を有することから、該抗体を利用することによって、被験者の組織内に発現した上記蛋白質(chondrolectin)を特異的に検出することができる。すなわち、当該抗体は被験者の組織内におけるchondrolectinの発現の有無およびその発現の程度を検出するためのプローブとして有用である。
【0082】
具体的には、患者の腎臓組織などの一部をバイオプシなどで採取し、そこから常法に従って蛋白質を調製して、例えばウェスタンブロット法、ELISA法など公知の検出方法において、本発明抗体を常法に従ってプローブとして使用することによって、上記腎臓組織などに存在するchondrolectinを検出することができる。
【0083】
腎疾患の診断に際しては、被験者の腎臓組織などに存在するchondrolectin量を、正常者の腎臓組織などに存在するchondrolectin量と対比して、その違いを判定すればよい。この場合、蛋白質の量の違いには、蛋白質のある/なしと共に、蛋白質の量の違いが2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的には、chondrolectin遺伝子は、腎疾患において有意な発現誘導を示すので、被験者の腎臓組織に該遺伝子の発現産物(chondrolectin)が存在しており、該存在量が正常な腎臓組織における同発現産物量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多いことが判定されれば、腎疾患の罹患が疑われる。
【0084】
(2)腎疾患の検出方法(診断方法)
本発明は、前述した本発明疾患マーカーを利用した腎疾患の検出方法(診断方法)を提供する。
【0085】
具体的には、本発明の検出方法は、被験者の腎臓組織などの一部をバイオプシなどで採取し、そこに含まれる腎疾患に関連するchondrolectin遺伝子の発現レベル(発現量)、または該遺伝子に由来するchondrolectin蛋白質を検出、測定することにより、腎疾患の罹患の有無またはその程度を検出(診断)するものである。また、本発明の検出(診断)方法は、例えば腎疾患患者において、該疾患の改善のために治療薬などを投与した場合における、該疾患の改善の有無またはその程度を診断することもできる。
【0086】
本発明の検出方法は、次の(a)、(b)および(c)の工程を含む:
(a) 被験者の生体試料と本発明疾患マーカーを接触させる工程、
(b) 生体試料中のchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルまたはchondrolectin蛋白質の量を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c) 上記(b)の結果をもとに、腎疾患の罹患を判断する工程。
【0087】
ここで用いられる生体試料は、被験者の腎臓組織などのchondrolectin遺伝子を発現可能な細胞を含む組織、これの組織から調製されるRNAもしくはそれらから更に調製されるポリヌクレオチドまたは上記組織から調製される蛋白質である。これらのRNA、ポリヌクレオチドおよび蛋白質は、例えば被験者の腎臓組織の一部をバイオプシなどで採取後、常法に従って調製することができる。
【0088】
本発明の診断方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。
【0089】
(2-1) 測定対象の生体試料としてRNAを利用する場合
生体試料としてRNAを利用する場合、本発明検出方法(診断方法)は、該RNA中のchondrolectin遺伝子の発現レベルを検出し、測定することによって実施される。具体的には、前述のポリヌクレオチドからなる本発明疾患マーカー(chondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド)をプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などの公知の方法を行うことにより実施できる。
【0090】
ノーザンブロット法を利用する場合、本発明疾患マーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のchondrolectin遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、まず本発明疾患マーカー(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)、蛍光物質などで標識する。次いで、得られる標識疾患マーカーを常法に従ってナイロンメンブレンなどにトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせる。その後、形成された標識疾患マーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、該標識疾患マーカーの標識物(RI、蛍光物質など)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)、蛍光検出器などで検出、測定する方法を例示することができる。
【0091】
また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharamcia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って疾患マーカー(プローブDNA)を標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、疾患マーカーの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860 (AmershamPharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を採用することもできる。
【0092】
RT-PCR法を利用する場合、本発明疾患マーカーをプライマーとして用いて、RNA中のchondrolectin遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、まず被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型として標的のchondrolectin遺伝子の領域が増幅できるように、本発明疾患マーカーから調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせる。その後、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する。
【0093】
増幅された二本鎖DNAの検出には、予めRI、蛍光物質などで標識しておいたプライマーを用いて上記PCRを行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレンなどにトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0094】
DNAチップ解析を利用する場合、本発明疾患マーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAをハイブリダイズさせ、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明疾患マーカーから調製される標識プローブと結合させてchondrolectin遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。また、上記DNAチップとして、chondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルを検出、測定可能なDNAチップを用いることもできる。該DNAチップとしては、例えばAffymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A, B, C, D, Eを挙げることができる。かかるDNAチップを用いた、被験者RNA中のchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルの検出、測定については、実施例に詳述する。
【0095】
(2-2) 測定対象の生体試料として蛋白質を用いる場合
測定対象として蛋白質を用いる場合、本発明検出(診断)方法は、生体試料中のchondrolectinを検出し、その量(レベル)を測定することによって実施される。具体的には、本発明疾患マーカーとして抗体(配列番号3または4で示される各アミノ酸配列からなる蛋白質を認識する抗体)を用いて、ウエスタンブロット法などの公知方法で、chondrolectinを検出、定量する。
【0096】
ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質などで標識した標識抗体(一次抗体に結合する標識抗体)を用い、得られる標識結合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (Amersham Pharmacia Biotech 社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860 (Amersham Pharmacia Biotech 社製)で測定することもできる。
【0097】
(2-3)腎疾患の診断
腎疾患の診断は、被験者の腎臓組織などにおけるchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルまたはchondrolectin遺伝子の発現産物である蛋白質(chondrolectin)の量を、正常な腎臓組織などにおける当該遺伝子発現レベルまたは当該蛋白質レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
【0098】
この場合、正常な腎臓組織などから採取、調製した生体試料(RNAまたは蛋白質)が必要であるが、これは腎疾患に罹患していない人の腎臓組織などをバイオプシなどで採取することによって取得することができる。なお、ここで「腎疾患に罹患していない人」とは、少なくとも腎疾患の自覚症状がなく、好ましくは他の検査方法、例えば血清クレアチニンや尿パラメータ(尿タンパク、尿中アルブミン)またはクリアランス試験(クレアチニン、イヌリン)などによる検査の結果、腎疾患でないと診断された人をいう。当該「腎疾患に罹患していない人」を、本明細書では単に正常者という場合もある。
【0099】
被験者の組織と正常組織(腎疾患に罹患していない人の組織)との遺伝子発現レベルまたは蛋白質レベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。また、並行して行わなくても、複数(少なくとも2、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルもしくは該遺伝子の発現産物であるchondrolectin蛋白質レベルの平均値または統計的中間値を予め求めておき、これを正常者の遺伝子発現レベルもしくは蛋白質レベル(正常値)として、被験者における測定値の比較に用いることができる。
【0100】
被験者が、腎疾患であるかどうかの判断は、該被験者の組織におけるchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルまたはその発現産物であるchondrolectin蛋白質レベルが、正常者のそれらと比較して2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うことができる。被験者の遺伝子発現レベルまたは蛋白質レベルが正常者のそれらのレベルに比べて多ければ、該被験者は腎疾患であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。
【0101】
(3)候補薬のスクリーニング方法
(3-1)遺伝子発現レベルを指標とするスクリーニング方法
本発明は、配列番号1または2に記載の塩基配列で代表されるchondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0102】
本発明のスクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a) 被験物質とchondrolectin遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のchondrolectin遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞の上記遺伝子の発現量と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectin遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0103】
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、chondrolectin遺伝子を発現可能な細胞を挙げることができる。具体的にはchondrolectin遺伝子は正常組織では精巣、前立腺および腎臓で特異的に発現しているので、これらの組織に由来する細胞が挙げられ、特に前立腺由来の細胞が挙げられる。その例としては、ヒト前立腺癌由来細胞株であるLNCaP.FGC細胞(ATCC No.CRL-1740)などを挙げることができる。また、ヒト腎臓由来細胞株である293細胞(ATCC No.1573)も挙げることができる。さらに、慢性腎炎モデルである5/6腎臓摘出ラットから単離・調製した初代腎臓培養細胞なども挙げることができる。なお、本発明スクリーニング法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織、例えば精巣組織、前立腺組織、腎臓組織なども含まれる。
【0104】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(chondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、蛋白質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0105】
本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死滅せず且つchondrolectin遺伝子を発現できる培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択するのが好ましい。
【0106】
実施例に示すように、腎疾患に罹患した患者の腎臓組織では、正常な腎臓組織に比して、chondrolectin遺伝子の発現レベルの有意な上昇が認められる。また、慢性腎炎モデル動物の腎臓組織においても、同様のchondrolectin遺伝子の発現上昇が認められる。本発明スクリーニング方法には、このchondrolectin遺伝子の発現レベルを指標として、その発現を抑制する物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、腎疾患の予防、改善乃至治療薬の有効成分となる候補物質を提供することができる。
【0107】
候補物質は、具体的には、被験物質(候補物質)の存在下で培養した細胞におけるchondrolectin遺伝子の発現レベルが、被験物質(候補物質)の非存在下で培養した対照細胞におけるchondrolectin遺伝子の発現レベルに比して低くなる場合に、選択することができる。
【0108】
なお、本発明スクリーニング法に従うchondrolectin遺伝子の発現レベルの検出および定量は、前記細胞から調製したRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと、本発明疾患マーカーとを用いて、前記(2-1)項に記述したように、ノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法、DNAチップなどを利用する方法などに従って実施できる。指標とする遺伝子発現レベルの低下(抑制、減少)の程度は、被験物質(候補物質)を存在させた細胞におけるchondrolectin遺伝子の発現が、被験物質(候補物質)を存在させない対照細胞におけるchondrolectin遺伝子発現量と比較して、10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上の低下(抑制、減少)を例示することができる。
【0109】
chondrolectin遺伝子の発現レベルの検出および定量は、chondrolectin遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来の蛋白質の活性を測定することによっても実施できる。本発明のchondrolectin遺伝子の発現抑制物質のスクリーニング方法には、かかるマーカー遺伝子の発現量を指標として標的物質を探索する方法も包含される。この意味において、請求項9に記載する「chondrolectin遺伝子」の概念には、chondrolectin遺伝子の発現制御領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子が含まれる。
【0110】
上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、上記ルシフェラーゼ遺伝子、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、エクオリン遺伝子などのレポーター遺伝子を例示できる。ここでchondrolectin遺伝子の発現制御領域としては、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbを用いることができる。融合遺伝子の作成およびマーカー遺伝子由来の活性測定は、公知の方法で行うことができる。
【0111】
本発明スクリーニング方法により選択される物質は、chondrolectin遺伝子の遺伝子発現抑制剤として位置づけることができる。これらの物質は、chondrolectin遺伝子の発現を抑制することによって、腎疾患を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補物質となる。
【0112】
(3-2) 蛋白質の発現量を指標とするスクリーニング方法
本発明は、配列番号3または4に記載のアミノ酸配列で代表されるchondrolectin(chondrolectin蛋白質)の発現量を低下させる物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0113】
本発明スクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a) 被験物質とchondrolectinを発現可能な細胞または該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞または細胞画分におけるchondrolectinの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞もしくは細胞画分におけるchondrolectinの発現量と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectinの発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
【0114】
本発明スクリーニングに用いられる細胞は、内在性および外来性を問わず、chondrolectin遺伝子を発現し、発現産物としてのchondrolectinを有する細胞を挙げることができる。該細胞としては、具体的には、分化させた前立腺細胞、精巣細胞、腎臓細胞などを用いることができる。細胞画分とは、上記細胞に由来する各種の画分を意味し、これには、例えば、細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分などが含まれる。
【0115】
実施例に示すように、腎疾患の一種である糸球体硬化症に罹患した患者の腎臓組織では、正常な腎臓組織に比して、chondrolectin遺伝子の発現上昇が観察される。同様のことは、慢性腎炎モデル動物(5/6腎臓摘出ラットモデル)の腎臓組織においても観察される。この知見から、chondrolectin遺伝子がコードする蛋白質の発現量は、腎疾患に関連すると考えられる。本発明スクリーニング方法は、chondrolectin遺伝子の発現産物である蛋白質の発現量が、腎疾患と関連することを利用して、該蛋白質の量を指標として、該蛋白質の量を低下させる物質(正常レベルに戻す物質)を探索する方法を包含する。
【0116】
本発明スクリーニング方法によれば、chondrolectinの発現量を低下させる物質を探索することによって、腎疾患の予防薬、改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質、即ち、該疾患の緩和/抑制作用を有する(腎疾患に対して改善/治療効果を発揮する)物質が提供される。
【0117】
上記chondrolectinの量は、前述したように、例えば、本発明疾患マーカーとして抗体(配列番号3または4で示される各アミノ酸配列からなる蛋白質を認識する抗体)を用いたウエスタンブロット法などの公知方法に従って定量できる。ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質などで標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (Amersham Pharmacia Biotech 社製)を利用して、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech 社製)で測定することもできる。
【0118】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、蛋白質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞または細胞画分と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0119】
(3-3)蛋白質のリガンドのスクリーニング方法、および蛋白質の活性を阻害する物質のスクリーニング方法
本発明は、chondrolectin蛋白質のリガンドをスクリーニングする方法、およびchondrolectinの活性を阻害する物質をスクリーニングする方法を提供する。chondrolectinの活性を阻害する物質をスクリーニングする方法としては、例えば、chondrolectin蛋白質とchondrolectinリガンドの結合阻害を評価する方法が挙げられる。
【0120】
下記の工程(a) 、(b) および(c)を含むchondrolectinリガンドのスクリーニング方法:
(a) chondrolectin蛋白質とchondrolectinリガンド候補物質を接触させる工程、
(b) chondrolectin蛋白質と接触させたchondrolectinリガンド候補物質との相互作用を測定し、chondrolectinリガンド候補物質を接触させない上記chondrolectin蛋白質と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectinリガンドを選択する工程。
【0121】
下記の工程(a) 、(b) 、および(c)を含むchondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下で、chondrolectinリガンドとchondrolectin蛋白質とを接触させる工程、
(b)被験物質存在下におけるchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量を測定し、該結合量を被験物質非存在下でのchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量(対照結合量)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、対照結合量に比して結合量を低下させる被験物質を選択する工程。
【0122】
本発明スクリーニングに用いられるchondrolectin蛋白質は、上記(1-3)項に記載している抗体作製時に免疫抗原として使用するchondrolectin蛋白質に含まれるものであればよく、特に制限されない。
【0123】
上記(3-2)項に記載したように、腎疾患の一種である糸球体腎炎に罹患した患者の腎臓組織では、正常な腎臓組織に比して、chondrolectin遺伝子の発現上昇が観察され、同様のことは、慢性腎炎モデルである5/6腎臓摘出ラットの腎臓組織においても観察される。chondrolectinは分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインをもつため、chondrolectinはchondrolectinリガンド結合することによって生体内で作用し、腎疾患に関連していると考えられる。本発明のスクリーニング方法は、chondrolectinリガンドの探索方法、およびchondrolectinとchondrolectinリガンドの結合を抑制する物質を探索する方法を包含する。本発明スクリーニング方法によれば、chondrolectinの活性を阻害する物質を探索でき、かくして、腎疾患の予防薬、改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質が提供される。
【0124】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされるchondrolectinリガンド候補物質は、制限されないが、核酸、ペプチド、多糖類、糖タンパク、蛋白質(chondrolectinに対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、これらのchondrolectinリガンド候補物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記chondrolectin蛋白質と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む白血球細胞などの細胞抽出液や細胞膜画分、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0125】
また、chondrolectin阻害物質を探索するために、本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、蛋白質(chondrolectinに対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などである。本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)をchondrolectin蛋白質と上記chondrolectinリガンドに接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0126】
chondrolectinリガンドの候補物質のスクリーニング方法、およびchondrolectinとchondrolectinリガンドの結合を阻害する物質をスクリーニングする方法は、測定器AFFINIX Q(インシアム社)やBiacore(Biacore社)を用いた公知の方法に従い実施することができる。
【0127】
測定器AFFINIX Q(インシアム社)を用いる場合、公知の方法に準じて行うことができる。chondrolectinリガンド候補物質のスクリーニングは、chondrolectinを金電極部分にのせておき、chondrolectinリガンド候補物質の添加時に発生する振動数の変化を測定する。振動数の変化から質量変化を算出し、質量変化が認められた物質をchondrolectinリガンドとして選択することができる。
【0128】
上記と同様に、金電極部分にのせたchondrolectinに、前記で得られたchondrolectinリガンドを添加し、更に被験物質(候補物質)の添加したときに発生する振動数の変化を測定して、chondrolectinの活性を阻害する物質をスクリーニングできる。被験物質(候補物質)存在下でのchondrolectinとchondrolectinリガンドの結合レベルが、被験物質(候補物質)非存在下でのchondrolectinとchondrolectinリガンドの結合レベルに比して低くなる場合に、当該被検物質を候補物質として選択することができる。
【0129】
測定器Biacore(Biacore社)を用いる場合も、アッセイ方法は公知の方法に準じて実施できる(例えば、Anal Biochem. Vol.,265,No.2, pp340-50. (Dec.15, 1998)など参照)。chondrolectinリガンド候補物質のスクリーニングは、10mMの酢酸バッファー(pH4)に溶解したchondrolectin(例えば1〜10μg)を、BiacoreのセンサーチップCM5表面のマトリックスにカルボキシル基を介して固定化する。HBSバッファー(アマシャム ファルマシア バオテク株式会社製)をセンサーチップに20μl/分の流速で流した後、HBSバッファーで調製したchondrolectinリガンド候補物質を流し、リガンドの結合に伴うレスポンスの変化を測定し、レスポンスの変化が認められた物質を、chondrolectinリガンドとして選択することができる。
【0130】
上記と同様に、chondrolectinをBiacoreのセンサーチップに固定化後、HBSバッファーで調製したchondrolectinリガンドを流し、更に被験物質(候補物質)もしくはDMSOなどの溶媒を含むHBSバッファーに切り替えて流し、被験化合物の添加によるレスポンスの変化を測定する。再び、被検物質(候補物質)を含まないHBSバッファーを流し、結合したリガンドの解離に伴う値の変化と、この値に対する被検物質(候補物質)の作用を測定する。結合と解離の速度、あるいは最大結合量からchondrolectinリガンドとchondrolectinとの親和性と、この値に対する被検化合物の作用を計算することにより、chondrolectinを阻害する物質を選択することができる。
【0131】
上記(3-1)乃至(3-3)に記載する本発明スクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらに腎疾患モデル動物を用いた薬効試験、安全性試験、腎疾患患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な腎疾患改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
【0132】
(4)腎疾患の改善・治療剤
本発明は、腎疾患の予防、改善および治療剤を提供する。本発明により提供される腎疾患には、具体的には、糸球体硬化症、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎疾患等の慢性腎炎などが包含される。
【0133】
本発明はchondrolectin遺伝子および該遺伝子によりコードされる蛋白質が、腎疾患と関連しているという新たな知見から、chondrolectin遺伝子(配列番号1または2)の発現を抑制する物質、chondrolectin蛋白質(配列番号3または4)の発現量を抑制する物質、またはchondrolectinの活性を阻害する物質が、上記疾患の予防、改善または治療に有効であるという考えに基づくものである。すなわち、本発明の腎疾患の予防、改善および治療剤は、chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質、chondrolectinの発現量を抑制する物質あるいはchondrolectinを阻害する物質を有効成分とする。
【0134】
当該有効成分とするchondrolectin遺伝子の発現抑制物質、chondrolectinの発現量抑制物質あるいはchondrolectin阻害物質は、本発明スクリーニング方法を利用して選別されたもののみならず、この選別された物質に関する情報に基づいて常法に従って化学・生化学的手法により、もしくは工業的に製造されたものであってもよい。
【0135】
当該有効成分は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)、慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)などに応じて経口投与または非経口投与することができる。また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できない。通常、1日投与用量として、数mg-2g程度、好ましくは数十mg程度を、1日1回投与することもでき、また数回に分けて投与することができる。
【0136】
上記有効成分物質がDNAによりコードされるものである場合は、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。更に、上記有効成分物質がchondrolectin遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、そのままもしくは遺伝子治療用ベクターにこれを組込むことにより、遺伝子治療を行うこともできる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0137】
上記アンチセンスヌクレオチドを利用する遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接患者の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはアンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
【0138】
ここで「アンチセンスヌクレオチド」には、chondrolectin遺伝子の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。その化学修飾体には、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体("Antisense RNA and DNA" WILEY-LISS刊、1992年、pp.1-50、J. Med. Chem. 36, 1923-1937(1993))が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。
【0139】
アンチセンスヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、目的遺伝子の発現、即ちchondrolectinの発現を制御することができ、かくしてchondrolectinの機能(活性)を制御することができる。
【0140】
アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接生体内に投与する方法において、用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学修飾体は、好ましくは5-200塩基、さらに好ましくは8-25塩基、最も好ましくは12-25塩基の長さを有するものとすればよい。その投与にあたり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
【0141】
アンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるアンチセンスRNAは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞にアンチセンス遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞にアンチセンス遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20-45頁、月刊薬事, 36 (1), 23-48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
【0142】
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムにchondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
【0143】
遺伝子治療用製剤組成物は、上述したアンチセンスヌクレオチドまたはその化学修飾体、これらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、腎臓内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、chondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む注射剤などの投与形態の他に、例えばchondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)-リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、上記chondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、chondrolectin遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、患者成人1人当たり約0.0001-100mg、好ましくは約0.001-10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。アンチセンスヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1×103pfu-1×1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。アンチセンスヌクレオチドを導入した細胞の場合は、1×104細胞/body-1×1015細胞/body程度を投与すればよい。
【0144】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0145】
実施例 1 正常および糸球体硬化状態の腎臓での遺伝子発現の変動解析
ヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織6サンプルとヒトの正常な腎臓組織52サンプルからそれぞれ調製したtotal RNAを用いて、DNAチップ解析を行った。DNAチップ解析は、Affymetrix社Gene Chip Human Genome U95A,B,C,D,Eを用いて行った。具体的には、解析は、(1) total RNAからのcDNAの調製、(2) 該cDNAからラベル化cRNAの調製、(3) ラベル化cRNAのフラグメント化、(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ、(5) プローブアレイの染色、(6) プローブアレイのスキャンおよび(7) 遺伝子発現解析の手順で行った。
【0146】
(1) total RNAからのcDNAの調製
ヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織6サンプルおよびヒトの正常な腎臓組織52サンプルから調製した各total RNA 10μgおよびT7-(dT)24プライマー(Amersham社製) 100pmolを含む11μLの混合液を、70℃で10分間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、SuperScript Choice System for cDNA Synthesis(Gibco-BRL社製)に含まれる5×First Strand cDNA Buffer 4μL、該キットに含まれる0.1M DTT (dithiothreitol)2μLおよび該キットに含まれる10mM dNTP Mix 1μLを添加し、42℃で2分間加熱した。更に、該キットに含まれるSuper ScriptII RT 2μL(400U)を添加し、42℃で1時間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、DEPC処理水(ナカライテスク社製)91μL、該キットに含まれる5×Second Strand Reaction Buffer30μL、10mM dNTP Mix 3μL、該キットに含まれるE. coli DNA Ligase 1μL(10U)、該キットに含まれるE. coli DNA Polymerase I 4μL(40U)および該キットに含まれるE. coli RNaseH 1μL(2U)を添加し、16℃で2時間反応させた。次いで、該キットに含まれるT4 DNA Polymerase 2μL(10U)を加え、16℃で5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μLを添加した。次いで、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(ニッポンジーン社製)162μLを添加して混合した。該混合液を、予め室温、14,000rpm、30秒間遠心分離しておいたPhase Lock Gel Light(エッペンドルフ社製)に移し、室温で14,000rpm、2分間遠心分離した後、145μLの水層をエッペンドルフチューブに移した。得られた溶液に、7.5M酢酸アンモニウム溶液72.5μLおよびエタノール362.5μLを加えて混合した後、4℃、14,000rpm、20分間遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、作製したcDNAを含むDNAペレットを得た。その後、該ペレットに80%エタノール0.5mLを添加し、4℃、14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨てた。再度同様の操作を行った後、該ペレットを乾燥させ、DEPC処理水1または2μLに溶解した。
【0147】
以上の操作によって、ヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織6サンプルおよびヒトの正常な腎臓組織52サンプル由来のtotalRNAからcDNAを取得した。
【0148】
(2) cDNAからラベル化cRNAの調製
上記(1)で調製した各cDNA溶液5μLに、DEPC処理水17μL、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(ENZO社製)に含まれる10×HY Reaction Buffer 4μL、該キットに含まれる10×Biotin Labeled Ribonucleotides 4μL、該キットに含まれる10×DTT 4μL、該キットに含まれる10×RNase Inhibitor Mix 4μLおよび該キットに含まれる20×T7 RNA Polymerase 2μLを混合し、37℃で5時間反応させた。反応後、該反応液にDEPC処理水60μLを加えた後、RNeasy Mini Kitを用いて添付プロトコールに従って、調製したラベル化cRNAを精製した。
【0149】
(3) ラベル化cRNAのフラグメント化
上記(3)で精製した各ラベル化cRNA 20μgを含む溶液に、5×Fragmentation Buffer(200mMトリス-酢酸, pH8.1(Sigma社製)、500mM酢酸カリウム(Sigma社製)および150mM酢酸マグネシウム(Sigma社製))8μLを加え、得られる反応液40μLを、94℃で35分間加熱した後、氷中に置いた。これによってラベル化cRNAをフラグメント化した。
【0150】
(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ
上記(3)で得た各フラグメント化cRNA 40μLに、5nM Contol Oligo B2(Amersham社製) 4μL、100×Control cRNA Cocktail 4μL、Herring sperm DNA(Promega社製) 40μg、Acetylated BSA(Gibco-BRL社製) 200μg、2×MES Hybridization Buffer (200mM MES、2M [Na+]、40mM EDTA、0.02% Tween20 (Pierce社製)、pH6.5-6.7) 200μLおよびDEPC処理水144μLを混合し、400μLのハイブリカクテルを得た。得られた各ハイブリカクテルを99℃で5分間加熱し、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温で14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。
【0151】
一方、1×MESハイブリダイゼーションバッファーで満たしたHuman genome U95プローブアレイ(Affymetrix社製)を、ハイブリオーブン内で、45℃、60rpmで10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼーションバッファーを除去してプローブアレイを調製した。上記で得られたハイブリカクテル上清200μLを該プローブアレイにそれぞれ添加し、ハイブリオーブン内で45℃、60rpmで16時間回転させ、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを得た。
【0152】
(5) プローブアレイの染色
上記(4)で得たハイブリダイズ済みプローブアレイのそれぞれから、ハイブリカクテルを回収除去した後、Non-Stringent Wash Buffer(6×SSPE(20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈)、0.01%Tween20および0.005%Antifoam0-30(Sigma社製))で満たした。次に、Non-Stringent Wash BufferおよびStringent Wash Buffer(100mM MES、0.1M NaClおよび0.01%Tween20)をセットしたGeneChip Fluidics Station 400 (Affymetrix社製)の所定の位置に、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを装着した。その後、染色プロトコールEuKGE-WS2に従って、一次染色液 (10μg/mL Streptavidin Phycoerythrin (SAPE)(MolecμLar Probe社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl(Ambion社製)、0.05%Tween20および0.005%Antifoam0-30)、および二次染色液(100μg/mL Goat IgG (Sigma社製)、3μg/mL Biotinylated Anti-Streptavidin antibody (Vector Laboratories社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl、0.05%Tween20および0.005%Antifoam0-30)でそれぞれ染色した。
【0153】
(6) プローブアレイのスキャンおよび(7) 遺伝子発現解析
上記(5)で染色した各プローブアレイをHP GeneArray Scanner (Affymetrix社製)に供し、染色パターンを読み取った。
【0154】
染色パターンをもとにGeneChip Workstation System(Affymetrix社製)によってプローブアレイ上の遺伝子の発現を解析した。次に、解析プロトコールに従ってNormalizationおよび遺伝子発現の比較解析を行った。
【0155】
以上のDNAチップ解析による遺伝子発現の比較解析結果から、正常腎臓組織に比べて糸球体硬化症患者の腎臓組織で3倍以上の発現増を示したプローブを選抜した。
【0156】
選抜したプローブの中から、さらにヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織で高頻度発現上昇しているプローブを選抜した。具体的には、DNAチップ解析結果から得られるAbs Callを指標にして、ヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織でのAbs Callが"Present"である例数が2例以上であるプローブを選抜した。
【0157】
その結果、chromosome open reading frame 68(プローブ名:47130_at)を選抜した。chromosome open reading frame 68(プローブ名:47130_at)は、正常状態の腎臓と比較して糸球体硬化患者の腎臓では3.3倍の発現上昇が観察された。
【0158】
さらに、chromosome open reading frame 68(プローブ名47130_at)のtiled region sequnce(配列番号5)をもとにBLAST検索を行ったところ、ヒトCHODL遺伝子(NM_024944)の一部分であることが判明した。本遺伝子がコードする蛋白質を調べたところ、分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインを持つchondrolectinであることが判明した。
【0159】
次に、正常血中クレアチニン値(血清クレアチニン値が2mg/dl以下)のヒト腎臓組織131サンプルと高血中クレアチニン値(血清クレアチニン値が2mg/dl以上)患者のヒト腎臓組織13サンプルからそれぞれ調製したtotal RNAを用いて、上記と同じ操作にて、chondrolectin遺伝子の発現をDNAチップにて解析した。
【0160】
その結果、高血清クレアチニン値患者のヒト腎臓組織は、正常血清クレアチニン値のヒト腎臓組織の腎臓と比較して、2.9倍のchondrolectinの発現上昇が観察された。
【0161】
実施例 2 5/6 腎臓摘出ラットの作製
9週齢の5/6腎臓摘出処置済み雄性SDラット(SPF規格)を日本エスエルシーから購入した。5/6腎臓摘出ラットとは、7週齢時点で左腎の2/3を摘出し、8週齢時に右腎の全摘出を行ったラットであり、術後、症状などの経過観察で良好な個体である。7日間飼育後、腎臓機能検査で病態発症を確認してから、腎臓を採取した(慢性腎炎群、n=10)。
【0162】
また、正常対照群として疑似処置雄性SDラット(SPF規格)を日本エスエルシーから購入した。疑似処置雄性ラットとは、7週齢、8週齢時に偽手術を行ったラットであり、術後、症状などの経過観察で良好な個体である。7日間飼育後、腎臓を採取した(偽手術群、n=5)。
【0163】
実施例 3 ノーザンブロット法による chondrolectin の発現変化の評価
実施例2で作製した各群マウスの腎臓から、Trizol (GibcoBRL)を用いてtotal RNAを単離した。得られた各RNA 20μgを1%ホルマリンゲルで電気泳導後、Hybond N+(アマシャム社)に転写し、chondrolectinに特異的なcDNAをプローブとして用いてノーザンブロット解析を行った。転写レベルはBAS2000(フジフィルム)を用いて定量的に解析した。
【0164】
得られた結果(chondrolectin発現量、比放射活性の相対量)を図1に示す。図1に示す結果より、慢性腎炎モデルである5/6腎臓摘出ラットにおいては、正常対照群である偽手術群と比較して、chondrolectinの発現が増加していることが確認された。
【0165】
実施例 4 chondrolectin 遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング
ヒト前立腺癌由来細胞株LNCaP.FGCを96穴プレートに播種し、10%FBSを含むα-MEM培地で培養する。十分コンフルエントになった時点(Day0)で、培地を2%FBS含有α-MEM培地に交換し、Day2およびDay3の細胞を前立腺細胞として使用する。
【0166】
上記で調整した前立腺細胞の本培養液(2% FBS含有α-MEM)に、それぞれ100μM、10μMおよび1μMの濃度になるように被験物質を添加して、37℃、CO2濃度5%で細胞を2日間培養する。対照として、被検物質無添加の本培養液でも同様に細胞を培養する(コントロール)。
【0167】
得られる各培養細胞からRNAを抽出し、この抽出されたRNAについて実施例1に記載の方法で、chondrolectin遺伝子の発現量を調べる。
【0168】
コントロールと比べて、chondrolectin遺伝子の発現量が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上減少している系について、被検物質を腎疾患の緩和、抑制(改善、治療)のための候補物質として選択する。
【0169】
実施例 5 chondrolectin を阻害する物質のスクリーニング
(1) chondrolectin蛋白の生産、精製
配列番号1または2に示される全長ヒトないしマウスchondrolectinをコードする遺伝子をpIVEX2.4a(Roche社)にサブクローニングし、調整した発現ベクターを鋳型に、Rapid Translation System(Roche社)にて当該タンパク質を合成する。得られた産物はベクターに付加されたヒスチジンタグを用いて、ニッケルカラム(アマシャムファルマシア)で精製する。
【0170】
(2)AFFINIX Qを用いたchondrolectinのリガンド探索
ピランハ溶液で洗浄した発振子に100μlのグリシン溶液(0.1M Glycin-HCl(pH 2.4))をのせ、10秒室温で放置したのち、金電極面を綿棒で十分にこする。蒸留水で発振子を洗浄した後、精製chondrolectin (10−100μg/ml)を中央の金電極部分に5μlのせ、1時間放置する。
【0171】
白血球細胞膜分画や天然物などのchondrolectinリガンド候補物質を含む試料(被験試料)を、反応セルに添加し、AFFINIX Q(インシアム社)を用いて測定する。発生する振動数の変化から質量変化を算出し、chondrolectinリガンドを検出する。
【0172】
(3)AFFINIX Qを用いたchondrolectinを阻害する物質のスクリーニング
ピランハ溶液で洗浄した発振子に100μlのグリシン溶液(0.1M Glycin-HCl(pH 2.4))をのせ、10秒室温で放置したのち、金電極面を綿棒で十分にこする。蒸留水で発振子を洗浄した後、精製ヒトchondrolectin (10−100μg/ml)を中央の金電極部分に5μlのせ、1時間放置する。
【0173】
上記実施例6で見いだしたchondrolectinリガンド、もしくはchondrolectinリガンドを含む試料を反応セルに添加し、さらに10nM〜10μMの濃度で溶解した被検化合物(DMSO溶液)を共存させ、AFFINIX Q(インシアム社)を用いて測定する。発生する振動数の変化から、chondrolectinリガンドとchondrolectinの結合を阻害する候補化合物を選択する。
【0174】
【発明の効果】
本発明によって、腎疾患、例えば糸球体腎炎、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎疾患等の慢性腎炎などの疾患で発現が有意に上昇している遺伝子(chondrolectin遺伝子)が明らかになった。この遺伝子は腎疾患の疾患マーカー遺伝子(プローブおよびプライマー)として有用である。該マーカー遺伝子の利用によれば、腎疾患が検出でき、またその病因の究明および高精度の診断が可能であり、これらによりより適切な治療を施すことも可能となる。
【0175】
また、上記遺伝子の発現上昇と腎疾患との関連から、該遺伝子の発現を抑制する化合物は、腎疾患の治療薬として有用と考えられる。従って、この遺伝子の発現の抑制もしくは減少を指標とすることによって、腎疾患の治療薬となり得る候補薬をスクリーニング選別することが可能である。本発明は、このような腎疾患治療薬の開発技術をも提供する。
【0176】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、慢性腎炎モデルである5/6腎摘出ラットと正常対照群である偽手術ラットの、腎臓組織におけるchondrolectinの発現量を示すグラフである。図中、縦軸は、偽手術ラットのchondrolectin遺伝子の発現量を1として、5/6腎摘出ラットにおけるchondrolectin遺伝子の発現量の倍率を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、腎疾患の診断に有用な疾患マーカーに関する。より詳細には、本発明は腎疾患、例えば糸球体腎炎、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎疾患等の慢性腎炎などの疾患の遺伝子診断において、プライマー又は検出プローブとして有効な疾患マーカーに関する。
【0002】
本発明は、上記疾患マーカーを利用して、腎疾患を検出する方法(診断方法)、腎疾患の予防、改善または治療薬として有効な物質をスクリーニングする方法および該方法によって得られる物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善または治療薬に関する。
【0003】
【従来の技術】
近年、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎疾患等の慢性腎炎から人工透析導入(末期腎疾患)へ至る患者は年々増加しており透析治療に費やす医療費は極めて高額になっている。
【0004】
慢性腎炎の治療には、血圧降下剤、ステロイド、免疫抑制剤を用いた薬物療法が行われるが、根本的な病態の改善は現状では不可能であり、人工透析への導入時期を遅延させる効果しか得られていない。
【0005】
病理学的には糸球体腎炎や糖尿病性腎症などの慢性腎炎患者の腎組織には、糸球体および間質にマクロファージなどの白血球の浸潤が認められる(非特許文献1)。白血球はサイトカインやNO、活性酸素、プロテアーゼを産生することにより、糸球体や間質の細胞の傷害、形質転換、細胞増殖、細胞外基質の産生増加を引き起こし、炎症、糸球体硬化による慢性腎炎の進展に深く関与している。
【0006】
白血球の局所への浸潤には接着分子が重要な役割を担っているため、細胞接着分子の発現、機能を制御することにより、白血球の浸潤を伴う慢性腎炎をはじめとする免疫疾患の発症、進展を制御できると考えられている(非特許文献2)。
【0007】
このような観点から、細胞接着分子の発現を低下もしくは機能を阻害させることは、慢性腎炎をはじめとする腎疾患の治療に有効な手段である。
【0008】
しかしながら、これまで上市されている慢性腎炎をはじめとする腎疾患の治療剤は、このような作用機序を持っておらず、そのような作用機序を持つ薬剤の研究・開発が当業界で切望されている。
【0009】
尚、chondrolectinは、分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインをもっているが(非特許文献3)、生体内での役割は不明であり、どのような疾患と関連しているのかについては、今まで何ら判っておらず、かかる関連を示唆する報文も皆無である。
【0010】
【非特許文献1】
Kidney International, vol.49, p127-134, 1996
【非特許文献2】
Kidney International, vol.60, p2205-2214, 2001
【非特許文献3】
Genomics, vol.80(1), p62-70, 2002
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、慢性腎炎などの腎疾患を反映し、それ故、この疾患の診断および治療に有用な疾患マーカーを提供することを目的とする。また、本発明は該疾患マーカーを利用した腎疾患の検出方法(遺伝子診断方法)、該疾患の予防、改善または治療に有効な薬物をスクリーニングする方法、並びに該疾患の予防、改善または治療に有効な薬物を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述したように腎臓などの臓器と慢性腎炎などの腎疾患との関連に着目し、この関連性について鋭意研究を行う過程において、正常状態の腎臓に比して、糸球体硬化症の腎臓において、その発現が有意に上昇する遺伝子を同定した。本発明者は、本遺伝子がコードするタンパク質を調べ、分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインをもつchondrolectin(CHODL)であることを見出した。更に、高血中クレアチニン値の患者の腎臓組織においても、血中クレアチニン値の正常なヒト腎臓組織に比べてchondrolectin遺伝子の発現が上昇することを見出した。
【0013】
更に、本発明者は、正常状態の腎臓と比較して、慢性腎炎モデル(5/6腎臓摘出ラットモデル)において、上記chondrolectin遺伝子の発現が有意に上昇することを認めた。
【0014】
これらのことから、本発明者は、上記chondrolectin遺伝子が慢性腎炎をはじめとする腎疾患の疾患マーカーとなり得ることを確認し、この知見を基礎として本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の要旨は、下記(1)−(17)の点にある。
【0016】
項1. 配列番号1または2に示されるchondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドである腎疾患の疾患マーカー。
【0017】
項2. 腎疾患の検出においてプローブまたはプライマーとして使用される項1に記載の疾患マーカー。
【0018】
項3. 配列番号3または4に示されるアミノ酸配列よりなるchondrolectin蛋白質を認識する抗体である腎疾患の疾患マーカー。
【0019】
項4. 腎疾患の検出においてプローブとして使用される項3に記載の疾患マーカー。
【0020】
項5. 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む腎疾患の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと項1または2に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、腎疾患の罹患を判断する工程。
【0021】
項6. 工程(c)における腎疾患の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる項5に記載の腎疾患の検出方法。
【0022】
項7. 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む腎疾患の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製された蛋白質と項3または4に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来の蛋白質またはその部分ペプチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、腎疾患の罹患を判断する工程。
【0023】
項8. 工程(c)における腎疾患の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる項7に記載の腎疾患の検出方法。
【0024】
項9. 下記の工程(a) 、(b)および(c)を含むchondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
被験物質とchondrolectin遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞のchondrolectin遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞の上記遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectin遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0025】
項10. 下記の工程(a) 、(b)および(c)を含むchondrolectin蛋白質の発現量を低下させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とchondrolectin蛋白質を発現可能な細胞または該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞または細胞画分におけるchondrolectin蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞もしくは細胞画分における上記chondrolectin蛋白質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectin蛋白量の発現量を低下させる被験物質を選択する工程。
【0026】
項11.下記の工程(a) 、(b) および(c)を含むchondrolectinリガンドのスクリーニング方法:
(a) chondrolectin蛋白質とchondrolectinリガンド候補物質を接触させる工程、
(b) chondrolectin蛋白質と接触させたchondrolectinリガンド候補物質との相互作用を測定し、chondrolectinリガンド候補物質を接触させない上記chondrolectin蛋白質と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectinリガンドを選択する工程。
【0027】
項12.下記の工程(a) 、(b) 、および(c)を含むchondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下で、chondrolectinリガンドとchondrolectin蛋白質とを接触させる工程、
(b)被験物質存在下におけるchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量を測定し、該結合量を被験物質非存在下でのchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量(対照結合量)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、対照結合量に比して結合量を低下させる被験物質を選択する工程。
【0028】
項13.腎疾患の予防、改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、項9乃至12のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0029】
項14.chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善または治療剤。
【0030】
項15.chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質が項9に記載のスクリーニング法により得られるものである項14に記載の腎疾患の予防、改善または治療剤。
【0031】
項16.chondrolectin蛋白質の発現量を抑制する物質、またはchondrolectinの活性を阻害する物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善または治療剤。
【0032】
項17.chondrolectin蛋白質の発現量を抑制する物質、またはchondrolectinの活性を阻害する物質が、項10乃至12に記載のスクリーニング方法により得られるものである、項16に記載の腎疾患の予防、改善または治療剤。
【0033】
上記のように、本発明によれば、腎疾患の疾患マーカー、該疾患の検出系、chondrolectin遺伝子の発現およびchondrolectin蛋白質の発現を抑制する物質、chondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニング系、およびこれらの物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善および治療剤が提供される。
【0034】
前述したように、chondrolectin遺伝子は、正常状態の腎臓に比して、腎疾患の腎臓において特異的にその発現が上昇することから、これらの遺伝子およびその発現産物〔蛋白質、(ポリ)(オリゴ)ペプチド〕は、腎疾患の解明、診断などに有効に利用することができ、この利用によって医学並びに臨床学上、有用な情報、手段などを得ることができる。即ち、個体または組織における、上記遺伝子の発現またはその発現産物の検出、または該遺伝子の変異またはその発現不全の検出は、腎疾患の解明、診断などに有用に利用することができる。
【0035】
また、これらの遺伝子およびその発現産物並びにそれらからの派生物(例えば遺伝子断片、抗体など)は、chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質、chondrolectin 蛋白質の発現を抑制する物質、およびchondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニングに有用であり、該スクリーニングによって得られる物質は、腎疾患の予防、改善および治療薬として有効である。更に、chondrolectin遺伝子のアンチセンス核酸(アンチセンスヌクレオチド)は、腎疾患の予防、改善および治療薬として有用である。
【0036】
尚、chondrolectinは、分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインをもっているが、生体内でどのような役割を担っているのか知られていない(Genomics, vol.80(1), p62-70, 2002)。また、該chondrolectinが腎疾患と関連することについては、今まで何ら判っておらず、かかる関連を示唆する報文も皆無である。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)および当該分野における慣用記号に従う。
【0038】
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖という各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。
【0039】
また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号1および2)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(1-1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号1または2で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
【0040】
例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。
【0041】
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
【0042】
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNAおよび合成のRNAのいずれもが含まれる。
【0043】
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号3または4)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0044】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびFabフラグメント、Fab発現ライブラリーなどによって生成されるフラグメントのような抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
【0045】
さらに本明細書において「疾患マーカー」とは、腎疾患の罹患の有無もしくは罹患の程度を診断するために、また腎疾患の予防、改善または治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、腎疾患の罹患に関連して生体内での発現が変動する遺伝子または蛋白質を特異的に認識するか、またはこれらと結合することのできる、(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子および蛋白質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
【0046】
以下、chondrolectin遺伝子(ポリヌクレオチド)並びにこれらの発現産物およびそれらの派生物について、具体的な用途を説明する。
【0047】
(1)腎疾患の疾患マーカーおよびその応用
(1-1) ポリヌクレオチド
配列番号1または2に示されるポリヌクレオチドは、それぞれヒト由来chondrolectin遺伝子およびマウス由来chondrolectin遺伝子としていずれも公知の遺伝子であり、それら取得方法も、文献に記載されている(例えば、Genomics, Vol.80,
No.1, p.62 -70 (July 2002)など参照)。
【0048】
本発明は、前述するように、腎疾患に罹患した患者の組織においては、正常な組織に比して、chondrolectin遺伝子の発現量が特異的に増大するという知見を発端に、chondrolectin遺伝子の発現の有無や発現の程度を検出することによって、上記腎疾患の罹患の有無、罹患の程度、回復の程度などが特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという発想に基づくものである。
【0049】
上記ポリヌクレオチドは、従って、被験者における上記遺伝子の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者が腎疾患に罹患しているか否か、またはその疾患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
【0050】
また、上記ポリヌクレオチドは、後述の(3-1)項に記載するような腎疾患の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、chondrolectin遺伝子の発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。
【0051】
本発明疾患マーカーは、配列番号1または2に記載のchondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドであることを特徴とする。
【0052】
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、配列番号1または2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A : TおよびG : Cといった塩基対関係に基づき、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味する。かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイスすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に示されるように、複合体或いはプローブと結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えば、ハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件としては「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0053】
また、正鎖側のポリヌクレオチドには、配列番号1または2のいずれかに示されるchondrolectin遺伝子の塩基配列またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
【0054】
上記正鎖のポリヌクレオチドおよび相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されてもよい。
【0055】
本発明の腎疾患の疾患マーカーは、具体的にはchondrolectin遺伝子の配列番号に関する配列番号1または2に記載される各塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。また、配列番号1または2に示されるchondrolectin遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列もしくはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列もしくはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも15個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0056】
ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、chondrolectin遺伝子またはこれに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT-PCR法においては、chondrolectin遺伝子またはこれに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それらに限定されず、当業者が上記検出物または生成物がこれらの遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
【0057】
本発明疾患マーカーは、配列番号1または2に示されるchondrolectin遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3 (http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には配列番号1または2のいずれかに示される塩基配列をprimer3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列もしくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0058】
本発明疾患マーカーは、上述するように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであればよく、具体的には該疾患マーカーの用途に応じて、その長さを適宜選択し設定することができる。
【0059】
(1-2)プローブまたはプライマーとしてのポリヌクレオチド
本発明において腎疾患の検出(診断)は、被験者の生体組織、特に腎臓組織などにおけるchondrolectin遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することによって行われる。
【0060】
この検出において、本発明疾患マーカーは、上記遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し増幅するためのプライマーとして、または該RNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するためのプローブとして利用することができる。
【0061】
腎疾患の検出(遺伝子診断)においてプライマーとして用いられる本発明疾患マーカーは、通常15bp-100bp、好ましくは15bp-50bp、より好ましくは15bp-35bpの塩基長を有する。また検出プローブとして用いられる本発明疾患マーカーは、通常15bp-全配列の塩基数、好ましくは15bp-1kb、より好ましくは100bp-1kbの塩基長を有する。
【0062】
本発明疾患マーカーは、ノーザンブロット法、RT-PCR法、in situハイブリダーゼーション法などの、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によって腎疾患におけるchondrolectin遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。
【0063】
測定対象とする試料は、使用する検出法の種類に応じて適宜選択することができる。該試料は、例えば、被験者の腎臓組織の一部をバイオプシなどで採取し、そこから常法に従って調製したtotal RNAであってもよいし、該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドであってもよい。
【0064】
また、生体組織におけるchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルは、DNAチップを利用して検出あるいは定量することができる。この場合、本発明疾患マーカーは当該DNAチップのプローブとして使用することができる(例えば、Affymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A,B,C,D,Eの場合、25bpの長さのポリヌクレオチドプローブとして用いられる)。かかるDNAチップを、生体組織から採取したRNAをもとに調製される標識DNAまたはRNAとハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブ(本発明疾患マーカー)と標識DNAまたはRNAとの複合体を、該標識DNAまたはRNAの標識を指標として検出することにより、生体組織中でのchondrolectin遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)が評価できる。
【0065】
上記DNAチップは、配列番号1または2で示される塩基配列を有する遺伝子と結合し得る1種または2種以上の本発明疾患マーカーを含んでいればよい。複数の疾患マーカーを含むDNAチップの利用によれば、ひとつの生体試料について、同時に複数の遺伝子の発現の有無または発現レベルの評価が可能である。
【0066】
本発明疾患マーカーは、腎疾患の診断、検出(罹患の有無、罹患の程度の診断)に有用である。具体的には、該疾患マーカーを利用した腎疾患の診断は、被験者の腎臓組織と正常者の腎臓組織におけるchondrolectin遺伝子の発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。
【0067】
この場合、遺伝子発現レベルの違いには、発現のある/なしの違いだけでなく、被験者の腎臓組織と正常者の腎臓組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量の格差が2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。より具体的には、chondrolectin遺伝子は、腎疾患患者において特異的な発現上昇を示すので、被験者の腎臓組織において発現されており、該発現量が正常な腎臓組織における発現量と比べて好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上多ければ、該被験者について腎疾患の罹患が疑われる。
【0068】
(1-3) 抗体
本発明は、腎疾患の疾患マーカーとしてのchondrolectin遺伝子の発現産物(蛋白質)(本明細書においては「chondrolectin」または「chondrolectin蛋白質」ともいう)を特異的に認識することができる抗体を提供する。
【0069】
chondrolectinとしては、配列番号1または2に示されるポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質を挙げることができる。配列番号1または2に示される各ポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質の具体的態様としては、それぞれ配列番号3または4で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質を挙げることができる。
【0070】
ここで配列番号3に示す蛋白質は、ヒト由来のchondrolectinによってコードされる蛋白質である。また配列番号4に示す蛋白質は、マウス由来のchondrolectin遺伝子によってコードされる蛋白質である。
【0071】
本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、chondrolectinを免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。さらに当該chondrolectinのアミノ酸配列中の少なくとも連続する8アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明抗体に含まれる。
【0072】
これらの抗体の製造方法は、すでに周知である。本発明抗体はこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.1または2-11.13)。具体的には、ポリクローナル抗体は、常法に従って大腸菌などで発現し精製したchondrolectinを用いて、あるいは常法に従って当該chondrolectinの部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎などの非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体は、常法に従って大腸菌などで発現し精製したchondrolectinまたは該蛋白質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウスなどの非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4-11.11)。
【0073】
抗体の作製に免疫抗原として使用されるchondrolectin蛋白質は、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1または2)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からの蛋白質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0074】
具体的には、chondrolectinをコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的蛋白質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としての蛋白質を得ることができる。また、chondrolectin蛋白質は、本発明により提供されるアミノ酸配列情報(配列番号3または4)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0075】
本発明chondrolectin蛋白質には、配列番号3または4に示す各アミノ酸配列を有する蛋白質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、上記各アミノ酸配列において、1もしくは複数(通常数個)のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つもとの各アミノ酸配列の蛋白質と同等の生物学的機能を有する蛋白質および/または同等の免疫学的活性を有する蛋白質を挙げることができる。
【0076】
ここで、同等の生物学的機能を有する蛋白質としては、chondrolectinと生化学的または薬理学的機能において同等の蛋白質を挙げることができる。また、同等の免疫学的活性を有する蛋白質としては、適当な動物あるいはその細胞において特定の免疫反応を誘発し、かつchondrolectinに対する抗体と特異的に結合する能力を有する蛋白質を挙げることができる。
【0077】
なお、蛋白質におけるアミノ酸の変異数および変異部位は、その生物学的機能および/または免疫学的活性が保持される限り制限はない。生物学的機能または免疫学的活性を消失することなくアミノ酸残基が、どのように、何個置換、挿入あるいは欠失されればよいかを決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、置換後に得られる蛋白質がMLTKの生物学的機能および/または免疫学的活性を保持している限り、特に制限されない。この置換されるアミノ酸は、蛋白質の構造保持の観点から、アミノ酸の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性、両親媒性などにおいて置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、PheおよびTrpは互いに非極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、AsnおよびGlnは互いに非荷電性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、AspおよびGluは互いに酸性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、またLys、ArgおよびHisは互いに塩基性アミノ酸に分類されるアミノ酸である。ゆえに、これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択することができる。
【0078】
上記chondrolectin蛋白質は、後述の(3-3)項に記載するような腎疾患の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、chondrolectinの活性を阻害する物質を検出するためのスクリーニングツールとしても有用である。
【0079】
本発明抗体は、また、chondrolectinの部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってもよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、chondrolectinと同様の免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し且つchondrolectinのアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴペプチドを例示することができる。
【0080】
かかるオリゴペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニンおよびジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
【0081】
本発明抗体は、chondrolectinに特異的に結合する性質を有することから、該抗体を利用することによって、被験者の組織内に発現した上記蛋白質(chondrolectin)を特異的に検出することができる。すなわち、当該抗体は被験者の組織内におけるchondrolectinの発現の有無およびその発現の程度を検出するためのプローブとして有用である。
【0082】
具体的には、患者の腎臓組織などの一部をバイオプシなどで採取し、そこから常法に従って蛋白質を調製して、例えばウェスタンブロット法、ELISA法など公知の検出方法において、本発明抗体を常法に従ってプローブとして使用することによって、上記腎臓組織などに存在するchondrolectinを検出することができる。
【0083】
腎疾患の診断に際しては、被験者の腎臓組織などに存在するchondrolectin量を、正常者の腎臓組織などに存在するchondrolectin量と対比して、その違いを判定すればよい。この場合、蛋白質の量の違いには、蛋白質のある/なしと共に、蛋白質の量の違いが2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的には、chondrolectin遺伝子は、腎疾患において有意な発現誘導を示すので、被験者の腎臓組織に該遺伝子の発現産物(chondrolectin)が存在しており、該存在量が正常な腎臓組織における同発現産物量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多いことが判定されれば、腎疾患の罹患が疑われる。
【0084】
(2)腎疾患の検出方法(診断方法)
本発明は、前述した本発明疾患マーカーを利用した腎疾患の検出方法(診断方法)を提供する。
【0085】
具体的には、本発明の検出方法は、被験者の腎臓組織などの一部をバイオプシなどで採取し、そこに含まれる腎疾患に関連するchondrolectin遺伝子の発現レベル(発現量)、または該遺伝子に由来するchondrolectin蛋白質を検出、測定することにより、腎疾患の罹患の有無またはその程度を検出(診断)するものである。また、本発明の検出(診断)方法は、例えば腎疾患患者において、該疾患の改善のために治療薬などを投与した場合における、該疾患の改善の有無またはその程度を診断することもできる。
【0086】
本発明の検出方法は、次の(a)、(b)および(c)の工程を含む:
(a) 被験者の生体試料と本発明疾患マーカーを接触させる工程、
(b) 生体試料中のchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルまたはchondrolectin蛋白質の量を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c) 上記(b)の結果をもとに、腎疾患の罹患を判断する工程。
【0087】
ここで用いられる生体試料は、被験者の腎臓組織などのchondrolectin遺伝子を発現可能な細胞を含む組織、これの組織から調製されるRNAもしくはそれらから更に調製されるポリヌクレオチドまたは上記組織から調製される蛋白質である。これらのRNA、ポリヌクレオチドおよび蛋白質は、例えば被験者の腎臓組織の一部をバイオプシなどで採取後、常法に従って調製することができる。
【0088】
本発明の診断方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。
【0089】
(2-1) 測定対象の生体試料としてRNAを利用する場合
生体試料としてRNAを利用する場合、本発明検出方法(診断方法)は、該RNA中のchondrolectin遺伝子の発現レベルを検出し、測定することによって実施される。具体的には、前述のポリヌクレオチドからなる本発明疾患マーカー(chondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド)をプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などの公知の方法を行うことにより実施できる。
【0090】
ノーザンブロット法を利用する場合、本発明疾患マーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のchondrolectin遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、まず本発明疾患マーカー(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)、蛍光物質などで標識する。次いで、得られる標識疾患マーカーを常法に従ってナイロンメンブレンなどにトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせる。その後、形成された標識疾患マーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、該標識疾患マーカーの標識物(RI、蛍光物質など)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)、蛍光検出器などで検出、測定する方法を例示することができる。
【0091】
また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharamcia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って疾患マーカー(プローブDNA)を標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、疾患マーカーの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860 (AmershamPharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を採用することもできる。
【0092】
RT-PCR法を利用する場合、本発明疾患マーカーをプライマーとして用いて、RNA中のchondrolectin遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、まず被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型として標的のchondrolectin遺伝子の領域が増幅できるように、本発明疾患マーカーから調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせる。その後、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する。
【0093】
増幅された二本鎖DNAの検出には、予めRI、蛍光物質などで標識しておいたプライマーを用いて上記PCRを行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレンなどにトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0094】
DNAチップ解析を利用する場合、本発明疾患マーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAをハイブリダイズさせ、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明疾患マーカーから調製される標識プローブと結合させてchondrolectin遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。また、上記DNAチップとして、chondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルを検出、測定可能なDNAチップを用いることもできる。該DNAチップとしては、例えばAffymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A, B, C, D, Eを挙げることができる。かかるDNAチップを用いた、被験者RNA中のchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルの検出、測定については、実施例に詳述する。
【0095】
(2-2) 測定対象の生体試料として蛋白質を用いる場合
測定対象として蛋白質を用いる場合、本発明検出(診断)方法は、生体試料中のchondrolectinを検出し、その量(レベル)を測定することによって実施される。具体的には、本発明疾患マーカーとして抗体(配列番号3または4で示される各アミノ酸配列からなる蛋白質を認識する抗体)を用いて、ウエスタンブロット法などの公知方法で、chondrolectinを検出、定量する。
【0096】
ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質などで標識した標識抗体(一次抗体に結合する標識抗体)を用い、得られる標識結合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (Amersham Pharmacia Biotech 社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860 (Amersham Pharmacia Biotech 社製)で測定することもできる。
【0097】
(2-3)腎疾患の診断
腎疾患の診断は、被験者の腎臓組織などにおけるchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルまたはchondrolectin遺伝子の発現産物である蛋白質(chondrolectin)の量を、正常な腎臓組織などにおける当該遺伝子発現レベルまたは当該蛋白質レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
【0098】
この場合、正常な腎臓組織などから採取、調製した生体試料(RNAまたは蛋白質)が必要であるが、これは腎疾患に罹患していない人の腎臓組織などをバイオプシなどで採取することによって取得することができる。なお、ここで「腎疾患に罹患していない人」とは、少なくとも腎疾患の自覚症状がなく、好ましくは他の検査方法、例えば血清クレアチニンや尿パラメータ(尿タンパク、尿中アルブミン)またはクリアランス試験(クレアチニン、イヌリン)などによる検査の結果、腎疾患でないと診断された人をいう。当該「腎疾患に罹患していない人」を、本明細書では単に正常者という場合もある。
【0099】
被験者の組織と正常組織(腎疾患に罹患していない人の組織)との遺伝子発現レベルまたは蛋白質レベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。また、並行して行わなくても、複数(少なくとも2、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルもしくは該遺伝子の発現産物であるchondrolectin蛋白質レベルの平均値または統計的中間値を予め求めておき、これを正常者の遺伝子発現レベルもしくは蛋白質レベル(正常値)として、被験者における測定値の比較に用いることができる。
【0100】
被験者が、腎疾患であるかどうかの判断は、該被験者の組織におけるchondrolectin遺伝子の遺伝子発現レベルまたはその発現産物であるchondrolectin蛋白質レベルが、正常者のそれらと比較して2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うことができる。被験者の遺伝子発現レベルまたは蛋白質レベルが正常者のそれらのレベルに比べて多ければ、該被験者は腎疾患であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。
【0101】
(3)候補薬のスクリーニング方法
(3-1)遺伝子発現レベルを指標とするスクリーニング方法
本発明は、配列番号1または2に記載の塩基配列で代表されるchondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0102】
本発明のスクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a) 被験物質とchondrolectin遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のchondrolectin遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞の上記遺伝子の発現量と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectin遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0103】
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、chondrolectin遺伝子を発現可能な細胞を挙げることができる。具体的にはchondrolectin遺伝子は正常組織では精巣、前立腺および腎臓で特異的に発現しているので、これらの組織に由来する細胞が挙げられ、特に前立腺由来の細胞が挙げられる。その例としては、ヒト前立腺癌由来細胞株であるLNCaP.FGC細胞(ATCC No.CRL-1740)などを挙げることができる。また、ヒト腎臓由来細胞株である293細胞(ATCC No.1573)も挙げることができる。さらに、慢性腎炎モデルである5/6腎臓摘出ラットから単離・調製した初代腎臓培養細胞なども挙げることができる。なお、本発明スクリーニング法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織、例えば精巣組織、前立腺組織、腎臓組織なども含まれる。
【0104】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(chondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、蛋白質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0105】
本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死滅せず且つchondrolectin遺伝子を発現できる培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択するのが好ましい。
【0106】
実施例に示すように、腎疾患に罹患した患者の腎臓組織では、正常な腎臓組織に比して、chondrolectin遺伝子の発現レベルの有意な上昇が認められる。また、慢性腎炎モデル動物の腎臓組織においても、同様のchondrolectin遺伝子の発現上昇が認められる。本発明スクリーニング方法には、このchondrolectin遺伝子の発現レベルを指標として、その発現を抑制する物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、腎疾患の予防、改善乃至治療薬の有効成分となる候補物質を提供することができる。
【0107】
候補物質は、具体的には、被験物質(候補物質)の存在下で培養した細胞におけるchondrolectin遺伝子の発現レベルが、被験物質(候補物質)の非存在下で培養した対照細胞におけるchondrolectin遺伝子の発現レベルに比して低くなる場合に、選択することができる。
【0108】
なお、本発明スクリーニング法に従うchondrolectin遺伝子の発現レベルの検出および定量は、前記細胞から調製したRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと、本発明疾患マーカーとを用いて、前記(2-1)項に記述したように、ノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法、DNAチップなどを利用する方法などに従って実施できる。指標とする遺伝子発現レベルの低下(抑制、減少)の程度は、被験物質(候補物質)を存在させた細胞におけるchondrolectin遺伝子の発現が、被験物質(候補物質)を存在させない対照細胞におけるchondrolectin遺伝子発現量と比較して、10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上の低下(抑制、減少)を例示することができる。
【0109】
chondrolectin遺伝子の発現レベルの検出および定量は、chondrolectin遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来の蛋白質の活性を測定することによっても実施できる。本発明のchondrolectin遺伝子の発現抑制物質のスクリーニング方法には、かかるマーカー遺伝子の発現量を指標として標的物質を探索する方法も包含される。この意味において、請求項9に記載する「chondrolectin遺伝子」の概念には、chondrolectin遺伝子の発現制御領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子が含まれる。
【0110】
上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、上記ルシフェラーゼ遺伝子、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、エクオリン遺伝子などのレポーター遺伝子を例示できる。ここでchondrolectin遺伝子の発現制御領域としては、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbを用いることができる。融合遺伝子の作成およびマーカー遺伝子由来の活性測定は、公知の方法で行うことができる。
【0111】
本発明スクリーニング方法により選択される物質は、chondrolectin遺伝子の遺伝子発現抑制剤として位置づけることができる。これらの物質は、chondrolectin遺伝子の発現を抑制することによって、腎疾患を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補物質となる。
【0112】
(3-2) 蛋白質の発現量を指標とするスクリーニング方法
本発明は、配列番号3または4に記載のアミノ酸配列で代表されるchondrolectin(chondrolectin蛋白質)の発現量を低下させる物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0113】
本発明スクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a) 被験物質とchondrolectinを発現可能な細胞または該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞または細胞画分におけるchondrolectinの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞もしくは細胞画分におけるchondrolectinの発現量と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectinの発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
【0114】
本発明スクリーニングに用いられる細胞は、内在性および外来性を問わず、chondrolectin遺伝子を発現し、発現産物としてのchondrolectinを有する細胞を挙げることができる。該細胞としては、具体的には、分化させた前立腺細胞、精巣細胞、腎臓細胞などを用いることができる。細胞画分とは、上記細胞に由来する各種の画分を意味し、これには、例えば、細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分などが含まれる。
【0115】
実施例に示すように、腎疾患の一種である糸球体硬化症に罹患した患者の腎臓組織では、正常な腎臓組織に比して、chondrolectin遺伝子の発現上昇が観察される。同様のことは、慢性腎炎モデル動物(5/6腎臓摘出ラットモデル)の腎臓組織においても観察される。この知見から、chondrolectin遺伝子がコードする蛋白質の発現量は、腎疾患に関連すると考えられる。本発明スクリーニング方法は、chondrolectin遺伝子の発現産物である蛋白質の発現量が、腎疾患と関連することを利用して、該蛋白質の量を指標として、該蛋白質の量を低下させる物質(正常レベルに戻す物質)を探索する方法を包含する。
【0116】
本発明スクリーニング方法によれば、chondrolectinの発現量を低下させる物質を探索することによって、腎疾患の予防薬、改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質、即ち、該疾患の緩和/抑制作用を有する(腎疾患に対して改善/治療効果を発揮する)物質が提供される。
【0117】
上記chondrolectinの量は、前述したように、例えば、本発明疾患マーカーとして抗体(配列番号3または4で示される各アミノ酸配列からなる蛋白質を認識する抗体)を用いたウエスタンブロット法などの公知方法に従って定量できる。ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質などで標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (Amersham Pharmacia Biotech 社製)を利用して、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech 社製)で測定することもできる。
【0118】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、蛋白質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞または細胞画分と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0119】
(3-3)蛋白質のリガンドのスクリーニング方法、および蛋白質の活性を阻害する物質のスクリーニング方法
本発明は、chondrolectin蛋白質のリガンドをスクリーニングする方法、およびchondrolectinの活性を阻害する物質をスクリーニングする方法を提供する。chondrolectinの活性を阻害する物質をスクリーニングする方法としては、例えば、chondrolectin蛋白質とchondrolectinリガンドの結合阻害を評価する方法が挙げられる。
【0120】
下記の工程(a) 、(b) および(c)を含むchondrolectinリガンドのスクリーニング方法:
(a) chondrolectin蛋白質とchondrolectinリガンド候補物質を接触させる工程、
(b) chondrolectin蛋白質と接触させたchondrolectinリガンド候補物質との相互作用を測定し、chondrolectinリガンド候補物質を接触させない上記chondrolectin蛋白質と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectinリガンドを選択する工程。
【0121】
下記の工程(a) 、(b) 、および(c)を含むchondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下で、chondrolectinリガンドとchondrolectin蛋白質とを接触させる工程、
(b)被験物質存在下におけるchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量を測定し、該結合量を被験物質非存在下でのchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量(対照結合量)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、対照結合量に比して結合量を低下させる被験物質を選択する工程。
【0122】
本発明スクリーニングに用いられるchondrolectin蛋白質は、上記(1-3)項に記載している抗体作製時に免疫抗原として使用するchondrolectin蛋白質に含まれるものであればよく、特に制限されない。
【0123】
上記(3-2)項に記載したように、腎疾患の一種である糸球体腎炎に罹患した患者の腎臓組織では、正常な腎臓組織に比して、chondrolectin遺伝子の発現上昇が観察され、同様のことは、慢性腎炎モデルである5/6腎臓摘出ラットの腎臓組織においても観察される。chondrolectinは分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインをもつため、chondrolectinはchondrolectinリガンド結合することによって生体内で作用し、腎疾患に関連していると考えられる。本発明のスクリーニング方法は、chondrolectinリガンドの探索方法、およびchondrolectinとchondrolectinリガンドの結合を抑制する物質を探索する方法を包含する。本発明スクリーニング方法によれば、chondrolectinの活性を阻害する物質を探索でき、かくして、腎疾患の予防薬、改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質が提供される。
【0124】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされるchondrolectinリガンド候補物質は、制限されないが、核酸、ペプチド、多糖類、糖タンパク、蛋白質(chondrolectinに対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、これらのchondrolectinリガンド候補物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記chondrolectin蛋白質と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む白血球細胞などの細胞抽出液や細胞膜画分、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0125】
また、chondrolectin阻害物質を探索するために、本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、蛋白質(chondrolectinに対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などである。本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)をchondrolectin蛋白質と上記chondrolectinリガンドに接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0126】
chondrolectinリガンドの候補物質のスクリーニング方法、およびchondrolectinとchondrolectinリガンドの結合を阻害する物質をスクリーニングする方法は、測定器AFFINIX Q(インシアム社)やBiacore(Biacore社)を用いた公知の方法に従い実施することができる。
【0127】
測定器AFFINIX Q(インシアム社)を用いる場合、公知の方法に準じて行うことができる。chondrolectinリガンド候補物質のスクリーニングは、chondrolectinを金電極部分にのせておき、chondrolectinリガンド候補物質の添加時に発生する振動数の変化を測定する。振動数の変化から質量変化を算出し、質量変化が認められた物質をchondrolectinリガンドとして選択することができる。
【0128】
上記と同様に、金電極部分にのせたchondrolectinに、前記で得られたchondrolectinリガンドを添加し、更に被験物質(候補物質)の添加したときに発生する振動数の変化を測定して、chondrolectinの活性を阻害する物質をスクリーニングできる。被験物質(候補物質)存在下でのchondrolectinとchondrolectinリガンドの結合レベルが、被験物質(候補物質)非存在下でのchondrolectinとchondrolectinリガンドの結合レベルに比して低くなる場合に、当該被検物質を候補物質として選択することができる。
【0129】
測定器Biacore(Biacore社)を用いる場合も、アッセイ方法は公知の方法に準じて実施できる(例えば、Anal Biochem. Vol.,265,No.2, pp340-50. (Dec.15, 1998)など参照)。chondrolectinリガンド候補物質のスクリーニングは、10mMの酢酸バッファー(pH4)に溶解したchondrolectin(例えば1〜10μg)を、BiacoreのセンサーチップCM5表面のマトリックスにカルボキシル基を介して固定化する。HBSバッファー(アマシャム ファルマシア バオテク株式会社製)をセンサーチップに20μl/分の流速で流した後、HBSバッファーで調製したchondrolectinリガンド候補物質を流し、リガンドの結合に伴うレスポンスの変化を測定し、レスポンスの変化が認められた物質を、chondrolectinリガンドとして選択することができる。
【0130】
上記と同様に、chondrolectinをBiacoreのセンサーチップに固定化後、HBSバッファーで調製したchondrolectinリガンドを流し、更に被験物質(候補物質)もしくはDMSOなどの溶媒を含むHBSバッファーに切り替えて流し、被験化合物の添加によるレスポンスの変化を測定する。再び、被検物質(候補物質)を含まないHBSバッファーを流し、結合したリガンドの解離に伴う値の変化と、この値に対する被検物質(候補物質)の作用を測定する。結合と解離の速度、あるいは最大結合量からchondrolectinリガンドとchondrolectinとの親和性と、この値に対する被検化合物の作用を計算することにより、chondrolectinを阻害する物質を選択することができる。
【0131】
上記(3-1)乃至(3-3)に記載する本発明スクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらに腎疾患モデル動物を用いた薬効試験、安全性試験、腎疾患患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な腎疾患改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
【0132】
(4)腎疾患の改善・治療剤
本発明は、腎疾患の予防、改善および治療剤を提供する。本発明により提供される腎疾患には、具体的には、糸球体硬化症、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎疾患等の慢性腎炎などが包含される。
【0133】
本発明はchondrolectin遺伝子および該遺伝子によりコードされる蛋白質が、腎疾患と関連しているという新たな知見から、chondrolectin遺伝子(配列番号1または2)の発現を抑制する物質、chondrolectin蛋白質(配列番号3または4)の発現量を抑制する物質、またはchondrolectinの活性を阻害する物質が、上記疾患の予防、改善または治療に有効であるという考えに基づくものである。すなわち、本発明の腎疾患の予防、改善および治療剤は、chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質、chondrolectinの発現量を抑制する物質あるいはchondrolectinを阻害する物質を有効成分とする。
【0134】
当該有効成分とするchondrolectin遺伝子の発現抑制物質、chondrolectinの発現量抑制物質あるいはchondrolectin阻害物質は、本発明スクリーニング方法を利用して選別されたもののみならず、この選別された物質に関する情報に基づいて常法に従って化学・生化学的手法により、もしくは工業的に製造されたものであってもよい。
【0135】
当該有効成分は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)、慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)などに応じて経口投与または非経口投与することができる。また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できない。通常、1日投与用量として、数mg-2g程度、好ましくは数十mg程度を、1日1回投与することもでき、また数回に分けて投与することができる。
【0136】
上記有効成分物質がDNAによりコードされるものである場合は、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。更に、上記有効成分物質がchondrolectin遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、そのままもしくは遺伝子治療用ベクターにこれを組込むことにより、遺伝子治療を行うこともできる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0137】
上記アンチセンスヌクレオチドを利用する遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接患者の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはアンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
【0138】
ここで「アンチセンスヌクレオチド」には、chondrolectin遺伝子の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。その化学修飾体には、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体("Antisense RNA and DNA" WILEY-LISS刊、1992年、pp.1-50、J. Med. Chem. 36, 1923-1937(1993))が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。
【0139】
アンチセンスヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、目的遺伝子の発現、即ちchondrolectinの発現を制御することができ、かくしてchondrolectinの機能(活性)を制御することができる。
【0140】
アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接生体内に投与する方法において、用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学修飾体は、好ましくは5-200塩基、さらに好ましくは8-25塩基、最も好ましくは12-25塩基の長さを有するものとすればよい。その投与にあたり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
【0141】
アンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるアンチセンスRNAは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞にアンチセンス遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞にアンチセンス遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20-45頁、月刊薬事, 36 (1), 23-48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
【0142】
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムにchondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
【0143】
遺伝子治療用製剤組成物は、上述したアンチセンスヌクレオチドまたはその化学修飾体、これらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、腎臓内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、chondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む注射剤などの投与形態の他に、例えばchondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)-リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、上記chondrolectin遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、chondrolectin遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、患者成人1人当たり約0.0001-100mg、好ましくは約0.001-10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。アンチセンスヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1×103pfu-1×1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。アンチセンスヌクレオチドを導入した細胞の場合は、1×104細胞/body-1×1015細胞/body程度を投与すればよい。
【0144】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0145】
実施例 1 正常および糸球体硬化状態の腎臓での遺伝子発現の変動解析
ヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織6サンプルとヒトの正常な腎臓組織52サンプルからそれぞれ調製したtotal RNAを用いて、DNAチップ解析を行った。DNAチップ解析は、Affymetrix社Gene Chip Human Genome U95A,B,C,D,Eを用いて行った。具体的には、解析は、(1) total RNAからのcDNAの調製、(2) 該cDNAからラベル化cRNAの調製、(3) ラベル化cRNAのフラグメント化、(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ、(5) プローブアレイの染色、(6) プローブアレイのスキャンおよび(7) 遺伝子発現解析の手順で行った。
【0146】
(1) total RNAからのcDNAの調製
ヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織6サンプルおよびヒトの正常な腎臓組織52サンプルから調製した各total RNA 10μgおよびT7-(dT)24プライマー(Amersham社製) 100pmolを含む11μLの混合液を、70℃で10分間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、SuperScript Choice System for cDNA Synthesis(Gibco-BRL社製)に含まれる5×First Strand cDNA Buffer 4μL、該キットに含まれる0.1M DTT (dithiothreitol)2μLおよび該キットに含まれる10mM dNTP Mix 1μLを添加し、42℃で2分間加熱した。更に、該キットに含まれるSuper ScriptII RT 2μL(400U)を添加し、42℃で1時間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、DEPC処理水(ナカライテスク社製)91μL、該キットに含まれる5×Second Strand Reaction Buffer30μL、10mM dNTP Mix 3μL、該キットに含まれるE. coli DNA Ligase 1μL(10U)、該キットに含まれるE. coli DNA Polymerase I 4μL(40U)および該キットに含まれるE. coli RNaseH 1μL(2U)を添加し、16℃で2時間反応させた。次いで、該キットに含まれるT4 DNA Polymerase 2μL(10U)を加え、16℃で5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μLを添加した。次いで、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(ニッポンジーン社製)162μLを添加して混合した。該混合液を、予め室温、14,000rpm、30秒間遠心分離しておいたPhase Lock Gel Light(エッペンドルフ社製)に移し、室温で14,000rpm、2分間遠心分離した後、145μLの水層をエッペンドルフチューブに移した。得られた溶液に、7.5M酢酸アンモニウム溶液72.5μLおよびエタノール362.5μLを加えて混合した後、4℃、14,000rpm、20分間遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、作製したcDNAを含むDNAペレットを得た。その後、該ペレットに80%エタノール0.5mLを添加し、4℃、14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨てた。再度同様の操作を行った後、該ペレットを乾燥させ、DEPC処理水1または2μLに溶解した。
【0147】
以上の操作によって、ヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織6サンプルおよびヒトの正常な腎臓組織52サンプル由来のtotalRNAからcDNAを取得した。
【0148】
(2) cDNAからラベル化cRNAの調製
上記(1)で調製した各cDNA溶液5μLに、DEPC処理水17μL、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(ENZO社製)に含まれる10×HY Reaction Buffer 4μL、該キットに含まれる10×Biotin Labeled Ribonucleotides 4μL、該キットに含まれる10×DTT 4μL、該キットに含まれる10×RNase Inhibitor Mix 4μLおよび該キットに含まれる20×T7 RNA Polymerase 2μLを混合し、37℃で5時間反応させた。反応後、該反応液にDEPC処理水60μLを加えた後、RNeasy Mini Kitを用いて添付プロトコールに従って、調製したラベル化cRNAを精製した。
【0149】
(3) ラベル化cRNAのフラグメント化
上記(3)で精製した各ラベル化cRNA 20μgを含む溶液に、5×Fragmentation Buffer(200mMトリス-酢酸, pH8.1(Sigma社製)、500mM酢酸カリウム(Sigma社製)および150mM酢酸マグネシウム(Sigma社製))8μLを加え、得られる反応液40μLを、94℃で35分間加熱した後、氷中に置いた。これによってラベル化cRNAをフラグメント化した。
【0150】
(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ
上記(3)で得た各フラグメント化cRNA 40μLに、5nM Contol Oligo B2(Amersham社製) 4μL、100×Control cRNA Cocktail 4μL、Herring sperm DNA(Promega社製) 40μg、Acetylated BSA(Gibco-BRL社製) 200μg、2×MES Hybridization Buffer (200mM MES、2M [Na+]、40mM EDTA、0.02% Tween20 (Pierce社製)、pH6.5-6.7) 200μLおよびDEPC処理水144μLを混合し、400μLのハイブリカクテルを得た。得られた各ハイブリカクテルを99℃で5分間加熱し、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温で14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。
【0151】
一方、1×MESハイブリダイゼーションバッファーで満たしたHuman genome U95プローブアレイ(Affymetrix社製)を、ハイブリオーブン内で、45℃、60rpmで10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼーションバッファーを除去してプローブアレイを調製した。上記で得られたハイブリカクテル上清200μLを該プローブアレイにそれぞれ添加し、ハイブリオーブン内で45℃、60rpmで16時間回転させ、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを得た。
【0152】
(5) プローブアレイの染色
上記(4)で得たハイブリダイズ済みプローブアレイのそれぞれから、ハイブリカクテルを回収除去した後、Non-Stringent Wash Buffer(6×SSPE(20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈)、0.01%Tween20および0.005%Antifoam0-30(Sigma社製))で満たした。次に、Non-Stringent Wash BufferおよびStringent Wash Buffer(100mM MES、0.1M NaClおよび0.01%Tween20)をセットしたGeneChip Fluidics Station 400 (Affymetrix社製)の所定の位置に、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを装着した。その後、染色プロトコールEuKGE-WS2に従って、一次染色液 (10μg/mL Streptavidin Phycoerythrin (SAPE)(MolecμLar Probe社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl(Ambion社製)、0.05%Tween20および0.005%Antifoam0-30)、および二次染色液(100μg/mL Goat IgG (Sigma社製)、3μg/mL Biotinylated Anti-Streptavidin antibody (Vector Laboratories社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl、0.05%Tween20および0.005%Antifoam0-30)でそれぞれ染色した。
【0153】
(6) プローブアレイのスキャンおよび(7) 遺伝子発現解析
上記(5)で染色した各プローブアレイをHP GeneArray Scanner (Affymetrix社製)に供し、染色パターンを読み取った。
【0154】
染色パターンをもとにGeneChip Workstation System(Affymetrix社製)によってプローブアレイ上の遺伝子の発現を解析した。次に、解析プロトコールに従ってNormalizationおよび遺伝子発現の比較解析を行った。
【0155】
以上のDNAチップ解析による遺伝子発現の比較解析結果から、正常腎臓組織に比べて糸球体硬化症患者の腎臓組織で3倍以上の発現増を示したプローブを選抜した。
【0156】
選抜したプローブの中から、さらにヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織で高頻度発現上昇しているプローブを選抜した。具体的には、DNAチップ解析結果から得られるAbs Callを指標にして、ヒト糸球体硬化症患者の腎臓組織でのAbs Callが"Present"である例数が2例以上であるプローブを選抜した。
【0157】
その結果、chromosome open reading frame 68(プローブ名:47130_at)を選抜した。chromosome open reading frame 68(プローブ名:47130_at)は、正常状態の腎臓と比較して糸球体硬化患者の腎臓では3.3倍の発現上昇が観察された。
【0158】
さらに、chromosome open reading frame 68(プローブ名47130_at)のtiled region sequnce(配列番号5)をもとにBLAST検索を行ったところ、ヒトCHODL遺伝子(NM_024944)の一部分であることが判明した。本遺伝子がコードする蛋白質を調べたところ、分子内に細胞接着分子に特徴的なCタイプレクチンドメインを持つchondrolectinであることが判明した。
【0159】
次に、正常血中クレアチニン値(血清クレアチニン値が2mg/dl以下)のヒト腎臓組織131サンプルと高血中クレアチニン値(血清クレアチニン値が2mg/dl以上)患者のヒト腎臓組織13サンプルからそれぞれ調製したtotal RNAを用いて、上記と同じ操作にて、chondrolectin遺伝子の発現をDNAチップにて解析した。
【0160】
その結果、高血清クレアチニン値患者のヒト腎臓組織は、正常血清クレアチニン値のヒト腎臓組織の腎臓と比較して、2.9倍のchondrolectinの発現上昇が観察された。
【0161】
実施例 2 5/6 腎臓摘出ラットの作製
9週齢の5/6腎臓摘出処置済み雄性SDラット(SPF規格)を日本エスエルシーから購入した。5/6腎臓摘出ラットとは、7週齢時点で左腎の2/3を摘出し、8週齢時に右腎の全摘出を行ったラットであり、術後、症状などの経過観察で良好な個体である。7日間飼育後、腎臓機能検査で病態発症を確認してから、腎臓を採取した(慢性腎炎群、n=10)。
【0162】
また、正常対照群として疑似処置雄性SDラット(SPF規格)を日本エスエルシーから購入した。疑似処置雄性ラットとは、7週齢、8週齢時に偽手術を行ったラットであり、術後、症状などの経過観察で良好な個体である。7日間飼育後、腎臓を採取した(偽手術群、n=5)。
【0163】
実施例 3 ノーザンブロット法による chondrolectin の発現変化の評価
実施例2で作製した各群マウスの腎臓から、Trizol (GibcoBRL)を用いてtotal RNAを単離した。得られた各RNA 20μgを1%ホルマリンゲルで電気泳導後、Hybond N+(アマシャム社)に転写し、chondrolectinに特異的なcDNAをプローブとして用いてノーザンブロット解析を行った。転写レベルはBAS2000(フジフィルム)を用いて定量的に解析した。
【0164】
得られた結果(chondrolectin発現量、比放射活性の相対量)を図1に示す。図1に示す結果より、慢性腎炎モデルである5/6腎臓摘出ラットにおいては、正常対照群である偽手術群と比較して、chondrolectinの発現が増加していることが確認された。
【0165】
実施例 4 chondrolectin 遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング
ヒト前立腺癌由来細胞株LNCaP.FGCを96穴プレートに播種し、10%FBSを含むα-MEM培地で培養する。十分コンフルエントになった時点(Day0)で、培地を2%FBS含有α-MEM培地に交換し、Day2およびDay3の細胞を前立腺細胞として使用する。
【0166】
上記で調整した前立腺細胞の本培養液(2% FBS含有α-MEM)に、それぞれ100μM、10μMおよび1μMの濃度になるように被験物質を添加して、37℃、CO2濃度5%で細胞を2日間培養する。対照として、被検物質無添加の本培養液でも同様に細胞を培養する(コントロール)。
【0167】
得られる各培養細胞からRNAを抽出し、この抽出されたRNAについて実施例1に記載の方法で、chondrolectin遺伝子の発現量を調べる。
【0168】
コントロールと比べて、chondrolectin遺伝子の発現量が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上減少している系について、被検物質を腎疾患の緩和、抑制(改善、治療)のための候補物質として選択する。
【0169】
実施例 5 chondrolectin を阻害する物質のスクリーニング
(1) chondrolectin蛋白の生産、精製
配列番号1または2に示される全長ヒトないしマウスchondrolectinをコードする遺伝子をpIVEX2.4a(Roche社)にサブクローニングし、調整した発現ベクターを鋳型に、Rapid Translation System(Roche社)にて当該タンパク質を合成する。得られた産物はベクターに付加されたヒスチジンタグを用いて、ニッケルカラム(アマシャムファルマシア)で精製する。
【0170】
(2)AFFINIX Qを用いたchondrolectinのリガンド探索
ピランハ溶液で洗浄した発振子に100μlのグリシン溶液(0.1M Glycin-HCl(pH 2.4))をのせ、10秒室温で放置したのち、金電極面を綿棒で十分にこする。蒸留水で発振子を洗浄した後、精製chondrolectin (10−100μg/ml)を中央の金電極部分に5μlのせ、1時間放置する。
【0171】
白血球細胞膜分画や天然物などのchondrolectinリガンド候補物質を含む試料(被験試料)を、反応セルに添加し、AFFINIX Q(インシアム社)を用いて測定する。発生する振動数の変化から質量変化を算出し、chondrolectinリガンドを検出する。
【0172】
(3)AFFINIX Qを用いたchondrolectinを阻害する物質のスクリーニング
ピランハ溶液で洗浄した発振子に100μlのグリシン溶液(0.1M Glycin-HCl(pH 2.4))をのせ、10秒室温で放置したのち、金電極面を綿棒で十分にこする。蒸留水で発振子を洗浄した後、精製ヒトchondrolectin (10−100μg/ml)を中央の金電極部分に5μlのせ、1時間放置する。
【0173】
上記実施例6で見いだしたchondrolectinリガンド、もしくはchondrolectinリガンドを含む試料を反応セルに添加し、さらに10nM〜10μMの濃度で溶解した被検化合物(DMSO溶液)を共存させ、AFFINIX Q(インシアム社)を用いて測定する。発生する振動数の変化から、chondrolectinリガンドとchondrolectinの結合を阻害する候補化合物を選択する。
【0174】
【発明の効果】
本発明によって、腎疾患、例えば糸球体腎炎、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎疾患等の慢性腎炎などの疾患で発現が有意に上昇している遺伝子(chondrolectin遺伝子)が明らかになった。この遺伝子は腎疾患の疾患マーカー遺伝子(プローブおよびプライマー)として有用である。該マーカー遺伝子の利用によれば、腎疾患が検出でき、またその病因の究明および高精度の診断が可能であり、これらによりより適切な治療を施すことも可能となる。
【0175】
また、上記遺伝子の発現上昇と腎疾患との関連から、該遺伝子の発現を抑制する化合物は、腎疾患の治療薬として有用と考えられる。従って、この遺伝子の発現の抑制もしくは減少を指標とすることによって、腎疾患の治療薬となり得る候補薬をスクリーニング選別することが可能である。本発明は、このような腎疾患治療薬の開発技術をも提供する。
【0176】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、慢性腎炎モデルである5/6腎摘出ラットと正常対照群である偽手術ラットの、腎臓組織におけるchondrolectinの発現量を示すグラフである。図中、縦軸は、偽手術ラットのchondrolectin遺伝子の発現量を1として、5/6腎摘出ラットにおけるchondrolectin遺伝子の発現量の倍率を示す。
Claims (17)
- 配列番号1または2に示されるchondrolectin遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドである腎疾患の疾患マーカー。
- 腎疾患の検出においてプローブまたはプライマーとして使用される請求項1に記載の疾患マーカー。
- 配列番号3または4に示されるアミノ酸配列よりなるchondrolectin蛋白質を認識する抗体である腎疾患の疾患マーカー。
- 腎疾患の検出においてプローブとして使用される請求項3に記載の疾患マーカー。
- 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む腎疾患の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと請求項1または2に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、腎疾患の罹患を判断する工程。 - 工程(c)における腎疾患の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる請求項5に記載の腎疾患の検出方法。
- 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む腎疾患の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製された蛋白質と請求項3または4に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来の蛋白質またはその部分ペプチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、腎疾患の罹患を判断する工程。 - 工程(c)における腎疾患の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる請求項7に記載の腎疾患の検出方法。
- 下記の工程(a) 、(b)および(c)を含むchondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
被験物質とchondrolectin遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞のchondrolectin遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞の上記遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectin遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。 - 下記の工程(a) 、(b)および(c)を含むchondrolectin蛋白質の発現量を低下させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とchondrolectin蛋白質を発現可能な細胞または該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞または細胞画分におけるchondrolectin蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞もしくは細胞画分における上記chondrolectin蛋白質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectin蛋白量の発現量を低下させる被験物質を選択する工程。 - 下記の工程(a) 、(b) および(c)を含むchondrolectinリガンドのスクリーニング方法:
(a) chondrolectin蛋白質とchondrolectinリガンド候補物質を接触させる工程、(b) chondrolectin蛋白質と接触させたchondrolectinリガンド候補物質との相互作用を測定し、chondrolectinリガンド候補物質を接触させないchondrolectin蛋白質と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、chondrolectinリガンドを選択する工程。 - 下記の工程(a) 、(b) 、および(c)を含むchondrolectinの活性を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下で、chondrolectinリガンドとchondrolectin蛋白質とを接触させる工程、
(b)被験物質存在下におけるchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量を測定し、該結合量を被験物質非存在下でのchondrolectin蛋白質に対するchondrolectinリガンドの結合量(対照結合量)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、対照結合量に比して結合量を低下させる被験物質を選択する工程。 - 腎疾患の予防、改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、請求項9乃至12のいずれかに記載のスクリーニング方法。
- chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善または治療剤。
- chondrolectin遺伝子の発現を抑制する物質が請求項9に記載のスクリーニング法により得られるものである請求項14に記載の腎疾患の予防、改善または治療剤。
- chondrolectin蛋白質の発現量を抑制する物質、またはchondrolectinの活性を阻害する物質を有効成分とする腎疾患の予防、改善または治療剤。
- chondrolectin蛋白質の発現量を抑制する物質、またはchondrolectinの活性を阻害する物質が、請求項10乃至12に記載のスクリーニング方法により得られるものである、請求項16に記載の腎疾患の予防、改善または治療剤。
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