JP2004135546A - クローン病の疾患マーカー及びその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】クローン病を反映する疾患マーカー、該疾患マーカーを利用したクローン病の検出方法、該疾患の改善に有用な薬物のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】BAFF 遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを、クローン病の疾患マーカーとして利用する。
【選択図】 なし
【解決手段】BAFF 遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを、クローン病の疾患マーカーとして利用する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はクローン病の診断に有用な疾患マーカーに関する。より詳細には、本発明は、腸炎症状の進展に関連して生じるクローン病の遺伝子診断においてプライマーまたは検出プローブとして有効に利用できる疾患マーカーに関する。また本発明は、かかる疾患マーカーを利用した腸炎症状の進展に関連するクローン病の検出方法(診断方法)に関する。
【0002】
さらに本発明は、上記疾患マーカーを利用して、腸炎症状の進展に関連して生じるクローン病の改善薬または治療薬として有効な物質をスクリーニングする方法、並びに該方法によって得られる上記物質を有効成分とするクローン病の改善薬または治療薬に関する。
【0003】
【従来の技術】
腸は、生体の生命活動に必須である栄養分・水分を消化吸収する器官である。一方で病原体などの異物を排除するための免疫防御機能も備えており相反する性質をバランスよく制御することで生命の維持を担っている器官でもある。しかしこれら機能バランスに異常が生じると、この動的平衡状態が破綻し様々な腸疾患が引き起こされることが知られている。特に近年患者数が増加してきているクローン病などの炎症性腸疾患は、スルファサラジン等の5−アミノサリチル酸製剤やステロイド等の薬物療法では満足できる治療効果が得られておらず、そのため腸切除手術、白血球除去等で治療している状態であり、よりよい薬物が必要とされている疾患である。
【0004】
近年、抗TNF抗体などのタンパク製剤がクローン病の治療剤として有効であることが知られている。しかしながら高価な薬剤でありステロイド耐性の患者のみの適応であり、また効果も充分とは言えず、未だ満足できる医療状況に無いのが現状である。
さらに、個々の患者によって薬物療法への反応が異なっており、現在用いられている治療薬すべてにおいて薬物療法に反応しないクローン病患者が存在している。また、遺伝子多型と疾患感受性の解析からインターロイキン−1の多型やNOD2遺伝子の多型が疾患原因遺伝子と考えられるケースがあり、基礎医学的な研究においても個々の患者による病態発症の遺伝的背景に差異のあることが明らかになりつつある。
【0005】
最近の医療現場では、クローン病に限らず、個々の患者の症状に合わせて治療法を的確に選択することが望まれるようになってきている。高齢化社会でのQOL(Quality of life)向上の必要性が認識されてきた近年では、特に、万人に共通した治療ではなく、個々の患者の症状に合わせて適切な治療が施されることが強く求められている。このような所謂テイラーメイド治療を行うためには、個々の疾患について患者の症状やその原因(遺伝的背景)を的確に反映する疾患マーカーが有用であり、その探索並びに開発を目指した研究が精力的に行われているのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、クローン病の診断及び治療に有用な疾患マーカーを提供することを目的とする。より詳細には、本発明は腸炎症状の進展に関連して生じるクローン病を特異的に反映した疾患マーカーを提供することを目的とする。さらに本発明は該疾患マーカーを利用したクローン病の検出方法(遺伝子診断方法)、該疾患の改善または治療に有用な薬物をスクリーニングする方法、並びに該疾患の改善または治療に有用な薬物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行っていたところ、従来はクローン病との関連が明らかではなかったBAFF遺伝子が、クローン病患者の病変部位において、正常大腸組織やクローン病患者大腸組織に比べ発現が大きく促進されていることを見出した。さらにこの遺伝子は、消化管系および免疫系組織以外の臓器では、ほとんど発現していないことを見出した。
【0008】
以上のように本発明者らは、消化管が傷害する自己免疫疾患と考えられているクローン病において、前記遺伝子、若しくはその発現産物(タンパク質)が、優れた疾患マーカーであるとの知見を得た。さらに、前記遺伝子の発現抑制や、当該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現抑制や機能(活性)抑制を指標としたスクリーニング系は、新たなメカニズムに基づくクローン病の予防、改善または治療薬の探索に有効であるとの知見を得た。
本発明はかかる知見を基礎にして完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に掲げるものである:
(1)BAFF 遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、クローン病の疾患マーカー。
(2)クローン病の検出においてプローブまたはプライマーとして使用される請求項1記載の疾患マーカー。
(3)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、クローン病の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと請求項1または2に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。
(4)工程(c)におけるクローン病の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる、請求項3に記載のクローン病の検出方法。
(5)BAFFを認識する抗体を含有する、クローン病の疾患マーカー。
(6)クローン病の検出においてプローブとして使用される請求項5記載の疾患マーカー。
(7)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むクローン病の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と請求項5または6に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。
(8)工程(c)におけるクローン病の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる請求項7記載のクローン病の検出方法。
(9)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とBAFF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるBAFF遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFF遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
(10)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とBAFFのいずれかを発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるBAFFの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
(11)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの機能または活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質をBAFFに接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるBAFFの機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のBAFFの機能または活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの機能または活性の低下をもたらす被験物質を選択する工程。
(12)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの細胞増殖活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによる増殖活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによる増殖活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによる増殖活性を抑制する被験物質を選択する工程。
(13)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFのアポトーシス促進活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を抑制する被験物質を選択する工程。
(14)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、受容体とBAFFの結合を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下でBAFFと受容体とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた受容体におけるBAFFの結合量を測定し、該結合量を被験物質を接触させない受容体における上記に対応するBAFFの結合量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの結合量を減少させる被験物質を選択する工程。
(15)クローン病の改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、前記(9)乃至(14)のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(16)BAFF遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする、クローン病の改善または治療剤。
(17)BAFF遺伝子の発現を抑制する物質が前記(9)記載のスクリーニング法により得られるものである、前記(16)記載のクローン病の改善または治療剤。
(18)BAFFの発現量、機能または活性を抑制する物質を有効成分とする、クローン病の改善または治療剤。
(19)BAFFの発現量、機能または活性を抑制する物質が、前記(10)乃至(14)に記載のスクリーニング法により得られるものである、前記(18)記載のクローン病の改善または治療剤。
【0010】
上記のように、本発明によれば、クローン病の疾患マーカー、該疾患の検出系、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング系、BAFFの発現、機能もしくは活性を抑制する物質のスクリーニング系、およびこれらの物質を有効成分とするクローン病の改善および治療剤が提供される。
【0011】
本発明は、前述するように、BAFF遺伝子が、クローン病患者の大腸病変組織において、大腸正常組織と比較して有意に発現上昇しており、またこの遺伝子は、正常組織においては、クローン病病態関連組織である消化管系組織、およびクローン病の発症機構に関与する免疫系組織以外の臓器では、ほとんど発現していないことを見出したことに基づくものである。従って、上記遺伝子及びその発現産物〔タンパク質、(ポリ)(オリゴ)ペプチド〕は、クローン病の解明、診断、予防及び治療に有効に利用することができ、かかる利用によって医学並びに臨床学上、有用な情報や手段を得ることができる。さらに、個体(生体組織)における、上記遺伝子の発現またはその発現産物の検出、または該遺伝子の変異またはその発現不全の検出は、クローン病の解明や診断に有効に利用することができる。
【0012】
また、上記遺伝子およびその発現産物並びにそれらからの派生物(例えば、遺伝子断片、抗体など)は、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質、およびBAFFの発現量、機能もしくは活性を抑制する物質のスクリーニングに有用であり、該スクリーニングによって得られる物質は、クローン病の予防、改善および治療薬として有効である。更に、これらの遺伝子のアンチセンス核酸(アンチセンスヌクレオチド)は、クローン病の予防、改善及び治療薬として有用である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC−IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
【0014】
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(1−1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1で示される特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
【0015】
例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873−5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E−valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
【0016】
従って本明細書において「BAFF 遺伝子」または「BAFF のDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトBAFF 遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトBAFF 遺伝子(GenBank Accession No. NM_006573)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
【0017】
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
【0018】
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:2)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0019】
従って本明細書において「BAFF タンパク質」または単に「BAFF」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトBAFFやその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2(GenBank Accession No. NM_006573)に記載のアミノ酸配列を有するヒトBAFF や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
【0020】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
【0021】
さらに本明細書において「疾患マーカー」とは、クローン病の罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を診断するために、またクローン病の予防、改善または治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、クローン病の罹患に関連して生体内、特に大腸組織において、発現が変動する遺伝子またはタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子及びタンパク質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
【0022】
さらに本明細書において診断対象となる「生体組織」とは、クローン病に伴い本発明のBAFF遺伝子が発現上昇する組織を指す。具体的には大腸組織及びその周辺組織などを指す。
【0023】
以下、BAFF遺伝子並びにその発現産物(BAFF)、およびそれらの派生物について、具体的な用途を説明する。
【0024】
(1)クローン病の疾患マーカーおよびその応用
(1−1) ポリヌクレオチド
本発明におけるBAFF遺伝子は、B CELL−ACTIVATING FACTOR(B細胞活性化因子)、もしくはTUMOR NECROSIS FACTOR LIGAND SUPERFAMILY, MEMBER 13B (TNFSF13B)、もしくはB−LYMPHOCYTE STIMULATOR (BLYS)、もしくはNF− AND APOL−RELATED LEUKOCYTE EXPRESSED LIGAND 1 (TALL1)、もしくはTNF HOMOLOG THAT ACTIVATES APOPTOSIS, NKFB, AND JNK (THANK)、もしくはzTNF4とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えば、ヒト由来のBAFF遺伝子としては、配列番号:1に示すポリヌクレオチドが知られており(RefSeq (http://www.ncbi.nlm.nih.gov:80/locuslink/refseq.html) Accession No. NM_006573)、この収得方法についてもMoore, P.A.ら、Science, 285, 260−263, 1999に記載されるように公知である。
【0025】
本発明は、前述するように、クローン病に罹患した患者の大腸組織において、正常大腸組織に比して、BAFF遺伝子が特異的に発現上昇しているという知見を発端に、これらの遺伝子発現の有無や発現の程度を検出することによって上記クローン病の罹患の有無や罹患の程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという知見に基づくものである。
【0026】
上記ポリヌクレオチドは、従って、被験者における上記遺伝子の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者がクローン病に罹患しているか否かまたはその罹患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
また上記ポリヌクレオチドは、後述の(3−1)項に記載するようなクローン病の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、BAFF遺伝子の発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。
【0027】
本発明の疾患マーカーは、前記BAFF遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなることを特徴とするものである。
【0028】
具体的には、本発明の疾患マーカーは、配列番号1に記載のBAFF遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなるものを挙げることができる。
【0029】
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、前記BAFF遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0030】
ここで、正鎖側のポリヌクレオチドには、前記BAFF遺伝子の塩基配列、またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
【0031】
さらに上記正鎖のポリヌクレオチド及び相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されてもよい。
【0032】
本発明のクローン病の疾患マーカーは、具体的には、前記BAFF遺伝子の塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。またこれら本発明遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列またはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列またはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも15個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0033】
なお、ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、BAFF遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT−PCR法においては、BAFF遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または生成物がこれらの遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
【0034】
本発明の疾患マーカーは、例えば配列番号1に記載のBAFF遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi−bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記本発明遺伝子の塩基配列を primer 3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0035】
本発明の疾患マーカーは、上述するように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであればよいが、具体的にはマーカーの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。
【0036】
(1−2)プローブまたはプライマーとしてのポリヌクレオチド
本発明においてクローン病の検出(診断)は、被験者の生体組織、特に大腸組織におけるBAFF遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することによって行われる。この場合、上記本発明の疾患マーカーは、上記遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し増幅するためのプライマーとして、または該RNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するためのプローブとして利用することができる。
【0037】
本発明疾患マーカーをクローン病の検出(遺伝子診断)においてプライマーとして用いる場合には、通常15bp〜100bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、通常15bp〜全配列の塩基数、好ましくは15bp〜1kb、より好ましくは100bp〜1kbの塩基長を有するものが例示できる。
【0038】
本発明の疾患マーカーは、ノーザンブロット法、RT−PCR法、in situハイブリダーゼーション法などといった、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によってクローン病におけるBAFF遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。
測定対象試料としては、使用する検出方法の種類に応じて、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、若しくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
【0039】
また、生体組織における本発明遺伝子の遺伝子発現レベルは、DNAチップを利用して検出あるいは定量することができる。この場合、本発明の疾患マーカーは当該DNAチップのプローブとして使用することができる(例えば、アフィメトリックス社の Gene Chip Human Genome U95 A,B,C,D,Eの場合、25bpの長さのポリヌクレオチドプローブとして用いられる)。かかるDNAチップを、生体組織から採取したRNAをもとに調製される標識DNAまたはRNAとハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブ(本発明疾患マーカー)と標識DNAまたはRNAとの複合体を、該標識DNAまたはRNAの標識を指標として検出することにより、生体組織中での本発明遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)が評価できる。
【0040】
上記DNAチップは、本発明遺伝子のいずれかと結合し得る1種または2種以上の本発明疾患マーカーを含んでいれば良い。複数の疾患マーカーを含むDNAチップの利用によれば、ひとつの生体試料について、同時に複数の遺伝子の発現の有無または発現レベルの評価が可能である。
【0041】
本発明の疾患マーカーは、クローン病の診断、検出(罹患の有無や罹患の程度の診断)に有用である。具体的には、該疾患マーカーを利用したクローン病の診断は、被験者の大腸組織と正常者の大腸組織におけるBAFF遺伝子の遺伝子発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。この場合、遺伝子発現レベルの違いには、発現のある/なしの違いだけでなく、被験者の大腸組織と正常者の大腸組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量の格差が2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的にはBAFF遺伝子はクローン病で発現誘導を示すので、被験者の大腸組織で発現しており、該発現量が正常者の大腸組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多ければ、被験者についてクローン病の罹患が疑われる。
【0042】
(1−3)抗体
本発明は、クローン病の疾患マーカーとして、BAFF遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「BAFF」ともいう)を特異的に認識することのできる抗体を提供する。
【0043】
ここで、BAFFとしては配列番号1に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を挙げることができる。
【0044】
なお、配列番号1に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を例示することができる。
【0045】
なお、配列番号2に示すタンパク質はヒト由来のBAFF遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その収得方法についてもMoore, P.A.ら、Science, 285, 260−263, 1999に記載されるように公知である。
【0046】
本発明は、前述するように、クローン病に罹患した患者の大腸組織において、正常な大腸組織に比して、BAFF遺伝子が特異的に発現上昇しているという知見を発端に、これらの遺伝子の発現産物(タンパク質)の有無やその発現の程度を検出することによって上記クローン病の罹患の有無や罹患の程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという発想に基づくものである。
上記抗体は、従って、被験者における上記タンパク質の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者がクローン病に罹患しているか否かまたはその疾患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
また上記抗体は、後述の(3−2)項に記載するようなクローン病の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、BAFFの発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。
【0047】
本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、BAFFを免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。さらにこれら本発明タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
【0048】
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したBAFFを用いて、あるいは常法に従ってこれら本発明タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したBAFFあるいはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
【0049】
抗体の作製に免疫抗原として使用されるBAFFは、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0050】
具体的には、BAFFをコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としてのタンパク質を得ることができる。また、BAFFの部分ペプチドは、本発明により提供されるアミノ酸配列の情報(配列番号2)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0051】
なお、本発明のBAFFには、配列番号2に示す各アミノ酸配列に関わるタンパク質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、上記配列番号2のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ改変前の元のタンパク質と免疫学的に同等の活性を有するタンパク質を挙げることができる。
【0052】
ここで同等の免疫学的活性を有するタンパク質としては、適当な動物あるいはその細胞において特定の免疫反応を誘発し、かつBAFFに対する抗体と特異的に結合する能力を有するタンパク質を挙げることができる。
【0053】
なお、タンパク質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その免疫学的活性が保持される限り制限はない。免疫学的活性を喪失することなくアミノ酸残基が、どのように、何個置換、挿入あるいは欠失されればよいかを決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、置換後に得られるタンパク質がBAFFと同等の免疫学的活性を保持している限り、特に制限されないが、タンパク質の構造保持の観点から、残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性並びに両親媒性など、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe及びTrpは互いに非極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn及びGlnは互いに非荷電性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Asp及びGluは互いに酸性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、またLys、Arg及びHisは互いに塩基性アミノ酸に分類されるアミノ酸である。ゆえに、これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択することができる。
【0054】
本発明の抗体は、また、BAFFの部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴ(ポリ)ペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、BAFFと同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つBAFFのアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴ(ポリ)ペプチドを例示することができる。
【0055】
かかるオリゴ(ポリ)ペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム−パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
【0056】
本発明の抗体は、BAFFに特異的に結合する性質を有することから、該抗体を利用することによって、被験者の組織内に発現した上記タンパク質を特異的に検出することができる。すなわち、当該抗体は被験者の組織内におけるBAFFのタンパク発現の有無を検出するためのプローブとして有用である。
【0057】
具体的には、患者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従ってタンパク質を調製して、例えばウェスタンブロット法、ELISA法など公知の検出方法において、上記抗体を常法に従ってプローブとして使用することによって、BAFFを検出することができる。
【0058】
クローン病の診断に際しては、被験者の大腸組織におけるBAFFのいずれか少なくとも一つと正常な大腸組織におけるこれらのタンパク質との量の違いを判定すればよい。この場合、タンパク量の違いには、タンパクのある/なし、あるいはタンパク量の違いが2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的には、BAFFはクローン病で発現誘導を示すので、被験者の大腸組織で該遺伝子の発現産物(BAFF)が存在しており、該量が正常な大腸組織の発現産物量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多いことが判定されれば、クローン病の罹患が疑われる。
【0059】
(2)クローン病の検出方法(診断方法)
本発明は、前述した本発明疾患マーカーを利用したクローン病の検出方法(診断方法)を提供するものである。
【0060】
具体的には、本発明の検出方法(診断方法)は、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこに含まれるクローン病に関連するBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、およびこれらの遺伝子に由来するタンパク質(BAFF)を検出し、その発現量またはそのタンパク質量を測定することにより、クローン病の罹患の有無またはその程度を診断するものである。また本発明の検出(診断)方法は、例えばクローン病患者において、該疾患の改善のために治療薬を投与した場合における、該疾患の改善の有無またはその程度を検出(診断)することもできる。
【0061】
本発明の検出方法は次の(a)、(b)及び(c)の工程を含むものである:
(a) 被験者の生体試料と本発明の疾患マーカーを接触させる工程、
(b) 生体試料中のBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、またはBAFFのタンパク質量を、上記疾患マーカーと指標として測定する工程、
(c) (b)の結果をもとに、クローン病の罹患を判断する工程。
【0062】
ここで用いられる生体試料としては、被験者の生体組織(大腸組織及びその周辺組織など)から調製される試料を挙げることができる。具体的には、該組織から調製されるRNA含有試料、若しくはそれからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む試料、または上記組織から調製されるタンパク質を含む試料を挙げることができる。かかるRNA、ポリヌクレオチドまたはタンパク質を含む試料は、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従って調製することができる。
本発明の診断方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。
【0063】
(2−1) 測定対象の生体試料としてRNAを利用する場合
測定対象物としてRNAを利用する場合、クローン病の検出は、具体的に下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと、前記本発明の疾患マーカー(BAFF遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又は該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド)とを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。
【0064】
測定対象物としてRNAを利用する場合は、本発明の検出方法(診断方法)は、該RNA中のBAFF遺伝子の発現レベルを検出し、測定することによって実施される。具体的には、本発明の検出方法(診断方法)は、本発明の疾患マーカー(BAFF遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチド)をプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などにより前記疾患マーカーへのRNAまたはその転写物の結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0065】
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のBAFF遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明の疾患マーカー(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された疾患マーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、疾患マーカーの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS−1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコールに従って疾患マーカー(プローブDNA)を標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、疾患マーカーの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
【0066】
RT−PCR法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプライマーとして用いることによって、RNA中のBAFF遺伝子の発現の有無や発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のBAFF遺伝子の領域が増幅できるように、本発明の疾患マーカーから調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT−PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT−PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0067】
DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明の疾患マーカーから調製される標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。また、上記DNAチップとして、BAFF遺伝子の遺伝子発現レベルの検出、測定が可能なDNAチップを用いることもできる。かかる遺伝子の発現レベルを検出、測定することができるDNAチップとしては、Affymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A, B,C, D, Eを挙げることができる。かかるDNAチップを用いた、被験者RNA中のBAFF遺伝子のいずれかの遺伝子発現レベルの検出、測定については、実施例において詳細に説明する。
【0068】
(2−2) 測定対象の生体試料としてタンパク質を用いる場合
測定対象物としてタンパク質を用いる場合は、本発明のクローン病の検出方法(診断方法)は、生体試料中のBAFFのいずれかを検出し、その量を測定することによって実施される。具体的には下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と本発明の疾患マーカー(BAFFを認識する抗体)とを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。
【0069】
より具体的には、本発明のクローン病の検出方法(診断方法)は、本発明の疾患マーカー(BAFFを認識する抗体)を用いて、ウエスタンブロット法などにより当該マーカーへのBAFFの結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0070】
ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS−1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
【0071】
なお、上記において測定対象とするBAFFの機能または活性は、既に知られており、該タンパク質の量と機能乃至活性とは一定の相関関係を有している。従って、上記タンパク質の結合量の測定に代えて、該タンパク質の機能または活性の測定を行うことによっても、本発明のクローン病の検出(診断)を実施することができる。すなわち本発明は、BAFFの機能または活性を指標として、これを公知の方法(具体的には後述の(3−3)項を参照)に従って測定、評価することからなる、クローン病の検出(診断)方法をも包含する。
【0072】
(2−3)クローン病の診断
クローン病の診断は、例えば、被験者の大腸組織におけるBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、あるいはこれらの遺伝子の発現産物であるタンパク質(BAFF)の量、機能若しくは活性(以下これらを合わせて「タンパク質レベル」ということがある)を、正常な大腸組織における当該遺伝子発現レベルまたは当該タンパク質レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
【0073】
この場合、正常な大腸組織から採取調製した生体試料(RNAまたはタンパク質を含む試料)が必要であるが、これらはクローン病に罹患していない人の大腸組織をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収することによって取得することができる。なお、ここでいう「クローン病に罹患していない人」とは、少なくともクローン病の自覚症状がなく、好ましくは他の検査方法、例えば内視鏡検査や、注腸X腺検査、消化管の生検などの結果、クローン病でないと診断された人をいう。なお、当該「クローン病に罹患していない人」を以下、本明細書では単に正常者という場合もある。
【0074】
被験者の大腸組織と正常な大腸組織(クローン病に罹患していない人の大腸組織)との遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。並行して行わない場合は、複数(少なくとも2つ、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常な大腸組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、若しくはこれらの遺伝子の発現産物であるタンパク質(BAFF)レベルの平均値または統計的中間値を、正常者の遺伝子発現レベル若しくはタンパク質の量として、比較に用いることができる。
【0075】
被験者が、クローン病であるかどうかの判断は、該被験者の大腸組織におけるBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、またはその発現産物であるタンパク質(BAFF)レベルが、正常者のそれらのレベルと比較して2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うことができる。また、被験者の上記遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルが、いかなる正常者のそれらのレベルに比べて多ければ、該被験者はクローン病であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。
【0076】
(3)候補薬のスクリーニング方法
(3−1) 遺伝子発現レベルを指標とするスクリーニング方法
本発明は、BAFF遺伝子のいずれかの発現を抑制する物質のスクリーニング方法を提供する。
【0077】
本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質とBAFF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるBAFF遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFF遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0078】
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、BAFF遺伝子を発現する培養細胞全般を挙げることができる。培養細胞においてこれら本発明遺伝子が発現しているか否かは、公知のノーザンブロット法やRT−PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。
【0079】
具体的には、例えば以下の(1)〜(3):
(1) クローン病の動物モデルより単離、調製した腸管組織やリンパ系組織由来の細胞、
(2) 種々の刺激剤で処理又は未処理の腸管組織やリンパ系組織由来の細胞、
(3) 本発明遺伝子のいずれかを導入した細胞、
等を挙げることができる。
【0080】
ここで前記(1)の動物モデルとしては、クローン病の動物モデルとして周知である如何なる動物モデルをも用いることができ、具体的には、(1)自然発症炎症性腸疾患(IBD)モデル(C3H/HeJBirマウス、Cotton top tamarins等)、(2)化学物質誘発モデル(ジニトロクロロベンゼン誘発モデル(ラット)、酢酸モデル(ラット)、トリニトロスルホン酸誘発モデル(マウス、ラット、ウサギ)、デキストラン硫酸誘発モデル(マウス、ラット、ハムスター)、カラゲナン誘発モデル(ラット、モルモット)、インドメタシン誘発モデル(ラット)等)、(3)トランスジェニック、ミュータント(IL−2ノックアウトマウス、IL−10ノックアウトマウス、TCRノックアウトマウス等)、または(4)移入モデル(CD45RBhi移入SCIDマウス等)を挙げることができる。
また前記(1)の腸管組織由来の細胞としては、好ましくは大腸(結腸)由来の初代培養細胞が挙げられる。
【0081】
前記(2)の腸管組織やリンパ系組織由来の細胞としては、好ましくは大腸(結腸)由来の株化細胞が挙げられ、具体的には Caco−2細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号HTB−37)、HT−29細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号HTB−38)またはCOLO 205 細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号CCL−222)等を挙げることができる。また前記(2)のリンパ系組織由来の細胞としては、好ましくはリンパ球、単球、マクロファージ、好中球または好酸球が挙げられる。また株化細胞としてRAW 264.7細胞(マウス単球由来、ATTC株番号TIB−71)、U−937細胞(ヒト組織球性リンパ腫由来、ATTC株番号CRL−1593.2)、THP−1細胞(ヒト単球由来、ATTC株番号TIB−202)またはJurkat細胞(ヒトT細胞リンパ腫由来、ATTC株番号TIB−152)等を挙げることができる。
前記(2)において刺激剤とは、リポポリサッカライド(Lipopolysaccharide :LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等を挙げることができる。これら刺激剤で刺激することにより細胞は炎症部位の環境により近い活性化状態になることが知られている。
【0082】
前記(3)の遺伝子導入細胞としては、前記(1)及び(2)に挙げた細胞の他、通常遺伝子導入に用いられる宿主細胞、すなわちCOP、L、C127、Sp2/0、NS−1、NIH3T3、ST2等のマウス由来細胞、ラット由来細胞、BHK、CHO等のハムスター由来細胞、COS1、COS3、COS7、CV1、Vero等のサル由来細胞、HeLa、293等のヒト由来細胞、およびSf9、Sf21、High Five等の昆虫由来細胞などが例示される。
さらに、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織なども含まれる。
【0083】
本発明のスクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(本発明遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0084】
また本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死滅せず且つ本発明遺伝子を発現できる培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択するのが好ましい。
【0085】
実施例に示すように、クローン病に罹患した患者の大腸(結腸)組織では、正常な大腸(結腸)組織に比して、特異的にBAFF遺伝子が発現上昇している。この知見から、これら本発明遺伝子の発現亢進はクローン病と関連していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、BAFF遺伝子の発現レベルを指標として、その発現を抑制する物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、クローン病の緩和/抑制作用を有する(クローン病に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質を探索することによって、クローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
【0086】
候補物質の選別は、具体的にはBAFF遺伝子が発現している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞における前記本発明遺伝子の発現レベルが、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のそのレベルに比して低くなることをもって、行うことができる。また、BAFF遺伝子の発現に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合は、発現誘導物質(例えばリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等)によって誘導される発現が被験物質の存在によって抑制されること、すなわち発現誘導物質の存在下で被験物質を接触させた細胞の遺伝子発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させなかった対照細胞(正のコントロール)に比して低くなることを指標として、当該被験物質を候補物質として選別することができる。
【0087】
より具体的には、例えば結腸由来細胞であるCaco−2細胞、HT−29細胞またはCOLO 205 細胞等の細胞を用いてクローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質をスクリーニングするには、被験物質を加えない細胞(対照細胞)と、被験物質を加えた細胞とで、BAFF遺伝子の発現レベルを比較し、その発現レベルの減少を指標として候補物質を選別することができる。また、リポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)などの刺激剤を添加した細胞(対照細胞)と、刺激剤と被験物質とを同時に加えた細胞とで、BAFF遺伝子の発現レベルを比較し、その発現レベルの減少を指標として候補物質を選別することができる。また、前記刺激剤を添加して、既にBAFF遺伝子が発現誘導された状態の細胞に被験物質を添加し、被験物質を添加しない対照細胞とで、前記本発明遺伝子の発現レベルを比較して、その発現レベルの低下を指標として候補物質を選別することもできる。
【0088】
このような本発明のスクリーニング方法における遺伝子発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと本発明の疾患マーカーとを用いて、前記(2−1)項に記述したように、ノーザンブロット法、RT−PCR法など公知の方法、あるいはDNAチップを利用する方法に従って実施できる。指標とする遺伝子発現レベルの低下(抑制、減少)の程度は、被験物質(候補物質)を接触させた細胞におけるBAFF遺伝子の発現が、被験物質(候補物質)を接触させない対照細胞における発現量と比較して10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上の低下(抑制、減少)を例示することができる。
【0089】
またBAFF遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、これら本発明遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来のタンパク質の活性を測定することによっても実施できる。本発明のBAFF遺伝子の発現抑制物質のスクリーニング方法には、かかるマーカー遺伝子の発現量を指標として標的物質を探索する方法も包含されるものであり、この意味において、請求項9に記載する「BAFF遺伝子」の概念には、これら本発明遺伝子の発現制御領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子が含まれる。
【0090】
なお、上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、上記のルシフェラーゼ遺伝子のほか、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、及びエクオリン遺伝子などのレポーター遺伝子が例示できる。
また、ここで前記本発明遺伝子の発現制御領域は、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbを用いることができる。
【0091】
本発明遺伝子の発現制御領域は、例えば(i)5’−RACE法(例えば、5’full Race Core Kit(宝酒造社製)等を用いて実施される)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5’末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’−上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することができる。また融合遺伝子の作成、およびマーカー遺伝子由来の活性測定は公知の方法で行うことができる。
【0092】
本発明のスクリーニング方法により選別される物質は、BAFF遺伝子の少なくとも一種の遺伝子発現抑制剤として位置づけることができる。これらの物質が有する本発明遺伝子に対する発現抑制作用は、大腸組織障害の抑制に深く関わっているものと考えられる。よってこれらの物質は、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補物質となる。
【0093】
(3−2)タンパク質の発現量を指標とするスクリーニング方法
本発明は、BAFF(BAFFタンパク質)の発現を抑制する(減少させる)物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0094】
本発明スクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験物質とBAFFを発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞における BAFFの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0095】
本発明スクリーニングに用いられる細胞は、内在性および外来性を問わず、BAFF遺伝子を発現し、発現産物としてのBAFFを有する培養細胞全般を挙げることができる。ここでBAFFの発現は、遺伝子産物であるタンパク質を公知のウエスタンブロット法にて検出することにより、容易に確認することができる。該細胞としては、具体的には、前記(3−1)項の(1)〜(3)に記載したような、クローン病の疾患モデルとして用いられうる動物モデルより単離、調製した腸管組織やリンパ系組織由来の初代培養細胞、種々の刺激剤で処理した腸管組織やリンパ系組織由来の株化細胞、または本発明遺伝子のいずれかを導入した株化細胞などが挙げられる。また当該細胞の範疇には、その細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分なども含まれる。
【0096】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(本発明遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞や細胞膜画分と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0097】
実施例に示すように、クローン病に罹患した患者の大腸(結腸)組織では、正常な大腸(結腸)組織に比して、特異的にBAFF遺伝子が発現上昇している。この知見から、これら本発明遺伝子の発現産物(タンパク質)の発現亢進はクローン病と関連していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、これらBAFFのタンパク発現レベルを指標として、その発現量を低下させる物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、クローン病の緩和/抑制作用を有する(クローン病に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、BAFFの発現量を低下させる物質を探索することによって、クローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
【0098】
候補物質の選別は、具体的にはBAFFを発現産生している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞における前記本発明タンパク質のタンパク量(レベル)が、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のその量(レベル)に比して低くなることを指標として、行うことができる。また、BAFFの発現産生に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合は、発現誘導物質(例えばリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等)によって誘導される当該タンパクの産生が被験物質の存在によって抑制されること、すなわち発現誘導物質の存在下で被験物質を接触させた細胞の遺伝子発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させなかった対照細胞(正のコントロール)に比して低くなることを指標として、当該被験物質を候補物質として選別することができる。
【0099】
より具体的には、例えば結腸由来細胞であるCaco−2細胞、HT−29細胞またはCOLO 205 細胞等の細胞を用いてクローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質をスクリーニングするには、被験物質を加えない細胞(対照細胞)と、被験物質を加えた細胞とで、BAFFのタンパク質の量(レベル)を比較し、その量(レベル)の減少を指標として候補物質を選別することができる。また、リポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNF等)などの刺激剤を添加した細胞(対照細胞)と、刺激剤と被験物質とを同時に加えた細胞とで、BAFFのいずれかのタンパク質の量(レベル)を比較し、その量(レベル)の低下を指標として候補物質を選別することができる。また、前記刺激剤を添加して、既にBAFFが産生された状態の細胞に被験物質を添加し、被験物質を添加しない対照細胞とで、前記本発明タンパク質の量(レベル)を比較して、その量(レベル)の低下を指標として候補物質を選別することもできる。
【0100】
本発明のスクリーニング方法にかかるBAFFの産生量は、前述したように、例えば本発明疾患マーカーなどの抗体(例えばヒトBAFFタンパク質またはそのホモログを認識する抗体)を用いたウエスタンブロット法などの公知方法に従って定量できる。ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAS−1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム
ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
【0101】
(3−3) タンパク質の機能(活性)を指標とするスクリーニング方法
本発明は、BAFFの機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
【0102】
(a)被験物質を BAFFに接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるBAFFの機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のBAFFの機能または活性と比較する工程、(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの機能または活性の低下をもたらす被験物質を選択する工程。
【0103】
本発明のスクリーニング方法においては、BAFFの公知の機能・活性に基づく如何なる機能・活性測定方法をも利用することができる。すなわち、BAFFの公知の機能・活性測定系に被験物質を添加し、当該BAFFの公知の機能・活性を抑制・阻害する被験物質を、クローン病に対して改善/治療効果を有する候補物質として選択するスクリーニング方法であれば、本発明のスクリーニング方法の範疇に含まれる。
【0104】
前記本発明のスクリーニングは、BAFFを含む水溶液、細胞または該細胞から調製した細胞画分と、被験物質とを接触させることにより行うことができる。
【0105】
ここでBAFFを含む水溶液としては、例えばBAFFを含む通常の水溶液の他、このタンパク質を含む細胞溶解液、細胞破砕液、核抽出液あるいは細胞の培養上清などを例示することができる。
【0106】
また、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞としては、内在性及び外来性を問わず、BAFFを発現し得る細胞を挙げることができる。該細胞としては、具体的には、前記(3−1)項の(1)〜(3)に記載したような、クローン病の疾患モデルとして用いられうる動物モデルより単離、調製したリンパ系組織や腸管組織由来の初代培養細胞、種々の刺激剤で処理したリンパ系組織や腸管組織由来の株化細胞、または本発明遺伝子のいずれかを導入した株化細胞などを用いることができる。
また本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞画分とは、上記細胞に由来する各種の画分を意味し、これには、例えば細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分などが含まれる。
【0107】
前記スクリーニングにおいて用いられるBAFFは、公知のタンパク質であり、前記(1−3)に記述したように、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換細胞の培養、および必要に応じて培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSHLaboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0108】
実施例に示すように、クローン病に罹患した患者の大腸(結腸)組織では、正常な大腸(結腸)組織に比して、特異的にBAFF遺伝子が発現上昇している。この知見から、これらの遺伝子の発現産物(タンパク質)の機能(活性)亢進は、クローン病と関連していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、BAFFの機能(活性)を指標として、該タンパク質の機能(活性)を抑制する物質を探索する方法が包含される。本発明スクリーニング方法によれば、BAFFの機能または活性を抑制する物質を探索でき、かくしてクローン病の緩和/抑制作用を有する(クローン病に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質が提供される。
【0109】
すなわち本発明のスクリーニング方法は、BAFFの機能または活性を抑制する物質を探索することによって、クローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
【0110】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、蛋白質(BAFFに対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記水溶液、細胞または細胞画分と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0111】
以下、本発明タンパク質の各々の機能(活性)に基づくスクリーニング方法につき例示する。
【0112】
BAFFは、TNFファミリーに属し、TNFリガンドスーパーファミリーメンバー13B、B細胞活性化因子、TALL、もしくはTHANKとも呼ばれる。活性の測定方法としてTNFの活性測定系やB細胞活性化の測定系を用いることができる。実際にBAFFを用いて活性を測定している論文として、Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263, 1999(B細胞の増殖活性化)や、Mukhopadhyay, Aら、J. Biol. Chem., 274, 15978−15981, 1999(NF−kB, JNK 活性化、がん細胞に対する細胞毒性とCaspase−3 活性化)などが挙げられる。
【0113】
BAFFの細胞増殖活性を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによる増殖活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによる増殖活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによる増殖活性を抑制する被験物質を選択する工程。
BAFFの増殖活性の測定は、例えばBAFF反応性細胞としてB細胞の増殖活性を測定することにより行うことができる(Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263,1999)。
【0114】
BAFFのアポトーシス促進活性を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を抑制する被験物質を選択する工程。
BAFFのアポトーシス促進活性の測定は、例えばBAFF反応性細胞として腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導(Mukhopadhyay, Aら、J. Biol. Chem., 274, 15978−15981, 1999)を測定することにより行うことができる。
【0115】
BAFFの受容体結合活性を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a) 被験物質の存在下でBAFFと受容体とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた受容体におけるBAFFの結合量を測定し、該結合量を被験物質を接触させない受容体における上記に対応するBAFFの結合量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの結合量を減少させる被験物質を選択する工程。
この場合の受容体とは受容体分子以外に、BAFF結合能を有する細胞、もしくはBAFF結合能を有する細胞膜画分も含む。BAFF受容体分子としてはBAFF−R (ヒト;AF373846、マウス;AF373847) 、BCMA (ヒト;Z29575、マウス;NM_011608、ラット;BF559673)、 TACI (ヒト;AF023614、マウス;AK004668)などを挙げることができる。また、BAFF結合能を有する細胞としては、株化細胞を含むB細胞(Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263, 1999)を挙げることができる。
【0116】
この場合、前記受容体とリガンド(BAFF)との結合阻害は、▲1▼受容体に結合することによって、リガンドの受容体への結合を阻害する態様のものであってもよいし、▲2▼リガンドに結合することによって、リガンドの受容体への結合を阻害する態様のものであってもよい。但し、とりわけ▲1▼の態様の場合は、受容体に結合してもリガンドと同じ作用を発揮しない被験物質を選択することが必要である。このため、上記のスクリーニング方法で選別された被験物質は更に、下記:
(d)上記(c)で選択された被験物質の中から、更にリガンドと同じ作用を発揮しない被験物質を選択する工程、
に供することが好ましい。
【0117】
本発明スクリーニングで用いる受容体は、精製物(単離物)であっても良いし、当該受容体を含有する細胞またはその細胞画分の形態であっても良い。
本発明スクリーニングで用いる受容体を含有する細胞は、当該受容体を天然に発現している細胞を用いても良いし、また当該受容体をコードする遺伝子を細胞に導入して作製した形質転換細胞を用いても良い。
【0118】
前記形質転換細胞は、Molecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の基本書に従い、当業者にとって公知の方法で調製することができる。例えば、前記受容体のcDNAをpCAGGS(Gene 108,193−199(1991))、pcDNA1.1、pcDNA3.1誘導体(インビトロジェン社)などの公知の発現ベクターに挿入する。その後、適当な宿主に導入し、培養することにより、導入した受容体のDNAに対応するタンパク質を発現させた形質転換細胞を作製することができる。宿主としては、一般的に広く普及している、CHO細胞、C127細胞、BHK21細胞、COS細胞などを用いることができるが、これに限定されることなく、酵母、細菌、昆虫細胞などを用いることもできる。
【0119】
受容体タンパク質のcDNAを有する発現ベクターの宿主細胞への導入方法としては、公知の発現ベクターの宿主細胞への導入方法であれば、どのような方法でもよく、例えばリン酸カルシウム法(J. Virol., 52, 456−467(1973))、LT−1(Panvera社製)を用いる方法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin;Gibco−BRL社製)を用いる方法などが挙げられる。
前記受容体を天然に発現する細胞、および前記受容体を発現する形質転換細胞は、そのままスクリーニングに用いることができるが、細胞膜をスクリーニングに用いる場合は、例えば以下のようにして細胞膜画分を得ることができる。すなわちまず細胞に低張バッファーを添加し、細胞を低張破壊した後、ホモジナイズし、遠心分離することにより細胞膜画分の沈殿物を得る。そしてこの沈殿物をバッファーに懸濁することにより、受容体を含有する細胞膜画分を得ることができる。得られた細胞膜画分は、抗体を結合させたカラム等により常法で精製することもできる。
【0120】
本発明スクリーニングで用いられる前記リガンド(BAFF)も、前記受容体と同様の手法で調製された形質転換細胞から、常法により組換えタンパクを回収することにより得ることができる。さらに、前記天然リガンドの他、アゴニストリガンドとして公知のものも用いることができる。
これらリガンドは、そのままで用いても良いし、任意の標識物質で標識されたものを用いることもできる。ここで標識物質としては、放射性同位体(3H、14C、35S、125I等)、蛍光物質(Molecular Probes社Alexa Protein Labeling Kits等)、化学発光物質(Assay Designs社Chemiluminescence Labeling Kit等)、ビオチン(Pierce社EZ−Link Biotinylation Kits等)、マーカータンパク質、またはペプチドタグなどを例示することができる。マーカータンパク質としては、例えばアルカリフォスファターゼ(Cell, 63,185−194,1990)、抗体のFc領域(Genbank accession number M87789)、またはHRP(Horse radish peroxidase)などの従来公知のマーカータンパク質を挙げることができる。またペプチドタグとしては、例えばMycタグ、Hisタグ、FLAGタグなどの従来公知のペプチドタグを挙げることができる。
【0121】
受容体結合阻害活性の測定は、具体的には、以下の方法が例示される。すなわち、前記受容体を含有する水溶液(通常緩衝液が用いられる)、前記細胞若しくは細胞膜画分に、10−3〜10−10Mの適当な濃度に調製した被験化合物溶液(通常溶媒には水もしくは緩衝液が用いられるが、溶解度に応じてエタノールやDMSOを添加することもできる)を加えた後、放射性同位体で標識した前記リガンドを加え、一定時間(通常、10分〜2時間)反応させる。その後遠心分離等により上清を単離して放射活性を測定し、上清中に含まれる標識したリガンド量を計測することができる。あるいは、形質転換細胞もしくは細胞膜画分を含む沈殿物を界面活性剤、塩基を含む溶液に溶解し、その放射活性を測定し、沈殿物に含まれる標識リガンド量を計測することもできる。
【0122】
上記の数値を、被験化合物の代わりに溶媒をブランクとして用いて実施した場合の値(対照結合量)と比較することにより、被験化合物が、受容体と標識リガンドの結合を阻害するか否かを評価することができる。すなわち候補物質のスクリーニングは、被験物質存在下での結合量が、被験物質非存在下での結合量に比して、減少するか否かを指標にして行うことができる。
具体的な阻害率(%)については、以下の式:
{1−(被験物質を添加した場合に本発明タンパク質と結合した標識アゴニストリガンド量)/(被験物質非添加時における本発明タンパク質と結合した標識アゴニストリガンド量)}X100
で算出することによって求めることができる。
【0123】
かくして選抜取得される被験物質は、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補となる。
【0124】
上記(3−1)〜(3−3)に記載する本発明のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらにクローン病のモデル動物である以下の(1)〜(3)の動物:(1)自然発症炎症性腸疾患(IBD)モデル(C3H/HeJBirマウス、Cotton top tamarins等)、(2)化学物質誘発モデル(ジニトロクロロベンゼン誘発モデル(ラット)、酢酸モデル(ラット)、トリニトロスルホン酸誘発モデル(マウス、ラット、ウサギ)、デキストラン硫酸誘発モデル(マウス、ラット、ハムスター)、カラゲナン誘発モデル(ラット、モルモット)、インドメタシン誘発モデル(ラット)等)、(3)トランスジェニック、ミュータント(IL−2ノックアウトマウス、IL−10ノックアウトマウス、TCRノックアウトマウス等)、または(4)移入モデル(CD45RBhi移入SCIDマウス等)、を用いた薬効試験、安全性試験、さらにクローン病患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的なクローン病の改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
【0125】
なお、上記(3−1)〜(3−3)に記載するスクリーニング方法は、クローン病の改善または治療薬の候補物質を選別するのみならず、クローン病の既存の若しくは新規な改善または治療薬(候補薬)が、BAFF遺伝子の発現を抑制するか否か、あるいはBAFFの発現若しくは機能・活性を抑制するか否かを評価、確認するためにも用いることができる。すなわち本発明のスクリーニング方法の範疇には、候補物質の探索のみならず、このような評価あるいは確認を目的とするものも含まれる。
【0126】
(4)クローン病の改善・治療剤
本発明は、クローン病の改善・治療剤を提供するものである。
本発明はBAFF遺伝子及びこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質が、クローン病と関連しているという新たな知見から、これら遺伝子の発現を抑制する物質、あるいは、これら遺伝子によりコードされるタンパク質の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質が、上記疾患の改善または治療に有効であるという考えに基づくものである。すなわち、本発明のクローン病の改善・治療剤は、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質、あるいはBAFFの発現若しくは機能(活性)を抑制する物質を有効成分とするものである。
【0127】
当該有効成分となるBAFF遺伝子のいずれかの発現抑制物質、あるいはBAFFの発現若しくは機能(活性)抑制物質は、上記のスクリーニング方法を利用して選別されたもののみならず、選別された物質に関する情報に基づいて常法に従って工業的に製造されたものであってもよい。
【0128】
BAFF遺伝子の発現抑制物質、あるいはBAFFの発現若しくは機能(活性)抑制物質は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて経口投与または非経口投与することができる。また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、1日投与用量として、数mg〜2g程度、好ましくは数十mg程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。
【0129】
また、上記の物質がDNAによりコードされるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。更に、上記有効成分物質がBAFF遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、そのままもしくは遺伝子治療用ベクターにこれを組込むことにより、遺伝子治療を行うこともできる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0130】
上記アンチセンスヌクレオチドを利用する遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接患者の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはアンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
【0131】
ここで「アンチセンスヌクレオチド」には、BAFF遺伝子の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。具体的には、配列番号:1に記載の塩基配列の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。
【0132】
また、その化学修飾体には、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体(”Antisense RNA and DNA” WILEY−LISS刊、1992年、pp.1−50、J. Med. Chem. 36, 1923−1937(1993))が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。
【0133】
アンチセンスヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、目的遺伝子の発現、即ちBAFF遺伝子の発現を抑制することができ、かくしてBAFFの機能(活性)を抑制することができる。
【0134】
アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接生体内に投与する方法において、用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学修飾体は、好ましくは5−200塩基、さらに好ましくは8−25塩基、最も好ましくは12−25塩基の長さを有するものとすればよい。その投与に当たり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
アンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるアンチセンスRNAは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞にアンチセンス遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞にアンチセンス遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20−45頁、月刊薬事, 36 (1), 23−48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
【0135】
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムに本発明遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
【0136】
遺伝子治療用製剤組成物は、上述したアンチセンスヌクレオチドまたはその化学修飾体、これらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、BAFF遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む注射剤などの投与形態の他に、例えばBAFF遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)−リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、上記BAFF遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、BAFF遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、患者成人1人当たり約0.0001−100mg、好ましくは約0.001−10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。アンチセンスヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1×103pfu−1×1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。アンチセンスヌクレオチドを導入した細胞の場合は、1×104細胞/body−1×1015細胞/body程度を投与すればよい。
【0137】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0138】
実施例1 ヒト組織サンプルからトータルRNAの調製
ヒトの正常な大腸組織117サンプル、潰瘍性大腸炎患者の大腸病変組織3サンプル、およびクローン病患者の大腸病変組織2サンプルから、それぞれ常法に従いトータル RNA を調製した。
【0139】
さらにヒトの右心房正常組織151サンプル、右心室正常組織140サンプル、左心房正常組織132サンプル、子宮筋層正常組織90サンプル、子宮頚部正常組織90サンプル、胸正常組織84サンプル、肺正常組織77サンプル、胸腺正常組織67サンプル、卵巣正常組織62サンプル、腎臓正常組織61サンプル、皮膚正常組織56サンプル、小腸正常組織48サンプル、直腸正常組織46サンプル、肝臓正常組織42サンプル、白血球正常組織37サンプル、胃正常組織37サンプル、子宮正常組織32サンプル、子宮内膜正常組織31サンプル、筋肉正常組織30サンプル、前立腺正常組織28サンプル、脾臓正常組織26サンプル、脂肪組織正常組織25サンプル、膵臓正常組織20サンプル、食道正常組織20サンプル、十二指腸正常組織17サンプル、甲状腺正常組織13サンプル、卵管正常組織13サンプル、リンパ節正常組織11サンプル、静脈正常組織8サンプル、軟組織正常組織7サンプル、前頭葉皮質正常組織7サンプル、海馬正常組織6サンプル、網正常組織5サンプル、左心室正常組織5サンプル、喉頭正常組織5サンプル、心臓正常組織5サンプル、側頭葉皮質正常組織5サンプル、骨正常組織5サンプル、副腎正常組織5サンプル、精嚢正常組織4サンプル、小脳正常組織4サンプルおよび膀胱正常組織4サンプルより、それぞれ常法に従いトータル RNA を調製した。
【0140】
実施例2 DNAチップ解析
実施例1に示したサンプルより調製したtotal RNAを用いて、DNAチップ解析を行った。なお、DNAチップ解析はAffymetrix社Gene Chip Human Genome U95セットを用いて行った。具体的には、解析は、(1) total RNAからcDNAの調製、(2) 該cDNAからラベル化cRNAの調製、(3) ラベル化cRNAのフラグメント化、(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ、(5) プローブアレイの染色、(6) プローブアレイのスキャン、及び(7) 遺伝子発現解析、の手順で行った。
【0141】
(1) total RNAからcDNAの調製
実施例1で得られた各total RNA 10μgとT7−(dT)24プライマー(Amersham社製)100pmolを含む11μLの混合液を、70℃、10分間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、SuperScript Choice System for cDNA Synthesis(Gibco−BRL社製)に含まれる5×First Strand cDNA Buffer 4μL、該キットに含まれる0.1M DTT (dithiothreitol)2μL、該キットに含まれる10mM dNTP Mix 1μLを添加し、42℃で2分間加熱した。更に、該キットに含まれるSuper ScriptII RT 2μL(400U)を添加し、42℃で1時間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、DEPC処理水(ナカライテスク社製)滅菌蒸留水91μL、該キットに含まれる5×Second Strand Reaction Buffer 30μL、10mM dNTP Mix 3μL、該キットに含まれるE. coli DNA Ligase 1μL(10U)、該キットに含まれるE. coli DNA Polymerase I 4μL(40U)、該キットに含まれるE. coli RNaseH 1μL(2U)を添加し、16℃で2時間反応させた。次いで、該キットに含まれるT4 DNA Polymerase 2μL(10U)を加え、16℃で5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μLを添加した。次いで、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(ニッポンジーン社製)162μLを添加し、混合した。該混合液を、予め室温、14,000rpm、30秒間遠心分離しておいたPhase Lock Gel Light(エッペンドルフ社製)に移し、室温で14,000rpm、2分間遠心分離した後、145μLの水層をエッペンドルフチューブに移した。得られた溶液に、7.5M酢酸アンモニウム溶液72.5μL、エタノール362.5μLを加えて混合した後、4℃で14,000rpm、20分間遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、作製したcDNAを含むペレットを得た。その後、該ペレットに80%エタノール0.5mLを添加し、4℃で14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨てた。再度同様の操作を行った後、該ペレットを乾燥させ、DEPC処理水12μLに溶解した。以上の操作により実施例1で調製した各トータル RNAから、各cDNAを取得した。
【0142】
(2) cDNAからラベル化cRNAの調製
各cDNA溶液5μLに、DEPC処理水17μL、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(ENZO社製)に含まれる10×HY Reaction Buffer 4μL、該キットに含まれる10×Biotin Labeled Ribonucleotides 4μL、該キットに含まれる10×DTT 4μL、該キットに含まれる10×RNase Inhibitor Mix 4μL、該キットに含まれる20×T7 RNA Polymerase 2μLを混合し、37℃で5時間反応させて、ラベル化cRNAを調製した。反応後、該反応液にDEPC処理水60μLを加えたのち、RNeasy Mini Kit(GIAGEN社製)を用いて添付プロトコールに従い、調製したラベル化cRNAを精製した。
【0143】
(3) ラベル化cRNAのフラグメント化
各ラベル化cRNA 20μgを含む溶液に、5×Fragmentation Buffer(200mMトリス−酢酸 pH8.1(Sigma社製)、 500mM酢酸カリウム(Sigma社製)、150mM酢酸マグネシウム(Sigma社製))8μLを加えた反応液40μLを、94℃で35分間加熱した後、氷中に置いた。これによって、ラベル化cRNAをフラグメント化した。
【0144】
(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ
各フラグメント化cRNA 40μLに、5nM Control Oligo B2(Amersham社製)4μL、100×Control cRNA Cocktail 4μL、Herring sperm DNA(Promega社製)40μg、Acetylated BSA(Gibco−BRL社製)200μg、2×MES Hybridization Buffer(200mM MES、2M [Na+], 40mM EDTA、0.02% Tween20 (Pierce社製)、pH6.5〜6.7) 200μL、及びDEPC処理水144μLを混合し、400μLのハイブリカクテルを得た。得られた各ハイブリカクテルを99℃で5分間加熱し、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温で14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。
【0145】
一方、1×MESハイブリダイゼーションバッファーで満たしたHuman genome U95プローブアレイ(Affymetrix社製)を、ハイブリオーブン内で、45℃、60rpmで10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼーションバッファーを除去してプローブアレイを調製した。上記で得られたハイブリカクテル上清200μLを該プローブアレイにそれぞれ添加し、ハイブリオーブン内で45℃、60rpmで16時間回転させ、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを得た。
【0146】
(5) プローブアレイの染色
上記で得られたハイブリダイズ済みプローブアレイそれぞれからハイブリカクテルを回収除去した後、Non−Stringent Wash Buffer(6×SSPE(20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈)、0.01%Tween20、0.005%Antifoam0−30(Sigma社製))で満たした。次にNon−Stringent Wash BufferおよびStringent Wash Buffer(100mM MES、0.1M NaCl、0.01%Tween20)をセットしたGeneChip Fluidics Station 400(Affymetrix社製)の所定の位置にフラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを装着した。その後染色プロトコールEuKGE−WS2に従って、1次染色液(10μg/mL Streptavidin Phycoerythrin (SAPE)(MolecμLar Probe社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl(Ambion社製)、0.05%Tween20、0.005%Antifoam0−30)、 2次染色液(100μg/mL Goat IgG (Sigma社製)、3μg/mL Biotinylated Anti−Streptavidin antibody (Vector Laboratories社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl、0.05%Tween20、0.005%Antifoam0−30)により染色した。
【0147】
(6) プローブアレイのスキャン、及び (7) 遺伝子発現量解析
染色した各プローブアレイをHP GeneArray Scanner(Affymetrix社製)に供し、染色パターンを読み取った。染色パターンをもとにGeneChip Workstation System(Affymetrix社製)によってプローブアレイ上の遺伝子の発現を解析した。次に、解析プロトコールに従ってNormalizationを行ったのち、各サンプルにおける各プローブ(各遺伝子)の発現量(average difference)を算出した。同一のプローブにつき、サンプルの種類ごとに遺伝子発現量の平均値を求め、さらに各サンプル種類間における発現量の変化率を求めた。
【0148】
実施例3 クローン病患者大腸病変組織にて、発現が増加している遺伝子の選抜
実施例2で行ったDNAチップ解析による遺伝子発現の解析結果から、結腸正常組織に比べてクローン病患者の結腸病変組織で発現が増加しているプローブセットのうち、最も変化率の大きいプローブから400番目までを選択した。また、潰瘍性大腸炎患者の大腸病変組織に比べてクローン病患者の大腸病変組織で発現が増加しているプローブセットについても変化率の大きいものから400番目までを選択した。両グループで共通に選抜されたプローブにつき解析した結果、共通に発現増加するプローブとして67プローブが選択された。
【0149】
次にこれら67プローブの中から、より病態との関連性の高いプローブを選択する目的で、病変関連組織(大腸を含む消化管)およびクローン病の発症機構に関与する免疫系組織以外の組織において発現量の低いプローブを選択した。すなわち、これら67プローブについて、結腸正常組織を含む43種類の正常組織における発現量をDNAチップの結果より解析し、消化管もしくは免疫系組織以外の組織において発現量の低いプローブを選択した。次に、これら選択されたプローブの対応遺伝子を調べ、これらの遺伝子の中から、さらに薬剤ターゲットとなる機能を有する遺伝子を選別した。
その結果、BAFF遺伝子が選択された。
【0150】
【表1】
【0151】
表中、Human U95プローブ名は Human Genome U95 Chip におけるプローブ名を示す。また表中 Acc Noは、Genbankデータベースにおけるアクセッション番号を示す。また表中、変動倍率は、Human Genome U95 Chipで解析した結腸正常組織の遺伝子発現量を1とした場合におけるクローン病患者の結腸病変組織での遺伝子発現量、および潰瘍性大腸炎患者の遺伝子発現量を1とした場合におけるクローン病患者の結腸病変組織での遺伝子発現量を示す。また各遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列を示す後記配列表の配列番号も合わせて示す。
【0152】
以上のように、選別された遺伝子は、正常な結腸組織と比較して クローン病患者の結腸組織で特異的に発現上昇しており、また病態との関連性の高い遺伝子であった。従ってこの遺伝子およびその発現産物(タンパク質)は、クローン病に関するマーカーとして応用可能であると考えられた。また、この遺伝子またはその発現産物(タンパク質)を用いることによって、クローン病を緩和、抑制する治療薬の候補薬をスクリーニングすることが可能であると考えられた。
【0153】
実施例4 BAFF遺伝子発現抑制剤のスクリーニング
Caco−2細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号HTB−37、大日本製薬株式会社)、HT−29細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号HTB−38、大日本製薬株式会社)、またはCOLO 205 細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号CCL−222、大日本製薬株式会社)を、10% 不活性化牛胎児血清、2mMグルタミン、50IU/mlペニシリン、50mg/mlストレプトマイシン含有Dulbecco’s Modified Eagle培地を用い、37℃、CO2濃度5%の条件下で培養する。計数したCaco−2細胞、HT−29細胞またはCOLO 205 細胞を24穴組織培養プレートに0.6−1.2x105 cells/cm2で播種し、37℃、CO2濃度5%で培養する。これらの細胞に対して刺激剤(ホルボール12−ミリステート13アセテート、サイトカイン(Interferonγ、Tumor necrosis factor−α、Interleukin−1、Interleukin−6等)あるいはButyrate)の存在下で被験物質含有溶液(100 μM、10 μM、および 1 μMの各濃度の被験物質を含む溶液)を添加する。ここで対照実験として、被験物質無添加の細胞についても同様の培養を行う(コントロール)。これらの各培養細胞より抽出したRNAを用いて実施例2に記載された方法で、BAFF遺伝子の発現量を調べる。その発現量からコントロールと比べて、BAFF遺伝子の発現量が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50% 以上低下している培養系に添加した被験物質を、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【0154】
実施例5 BAFFの機能(活性)抑制剤のスクリーニング
BAFFは、TNFファミリーに属し、TNFリガンドスーパーファミリーメンバー13B、B細胞活性化因子、TALL1、もしくはTHANKとも呼ばれる。活性の測定方法としてTNFの活性測定系やB細胞活性化の測定系を用いることができる。実際にBAFFを用いて活性を測定している論文として、Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263, 1999(B細胞の増殖活性化)や、Mukhopadhyay, Aら、J. Biol. Chem., 274, 15978−15981, 1999(NF−kB, JNK 活性化、がん細胞に対する細胞毒性とCaspase−3 活性化)などが挙げられる。
ヒト扁桃腺B細胞は、マグネティックビーズ(MACS)などを用いてCD3+を除いておく。96穴プレートに105 cells 懸濁液を添加する(RPMI−1640, 10% FBS, 5x10−5 M 2ME, 100 u/ml ペニシリン, 100 ug/ml ストレプトマイシンにて懸濁)。被験物質を添加した後、BAFF(もしくはコントロールとしてIL−2)を、100 ng/ml になるよう添加し、72 時間培養後、0.5 uCi/well の[3H]thymidine(6.7 Ci/mM)を添加し、さらに20 時間培養し、取り込み率を測定する。ウェルはあらかじめ 50 ul の 10 ug/ml anti−human IgM mAb、12 時間 4℃にて、コートしておく(Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263, 1999)。
B細胞の[3H]thymidineの取り込み率が被験物質無添加群に比して10%、好ましくは30%、特に好ましくは50% 以上減少した系に添加していた被験物質を、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【0155】
実施例6 BAFFの機能(活性)抑制剤のスクリーニング
Mukhopadhyay, Aら、J. Biol. Chem., 274, 15978−15981, 1999の方法を参考に、BAFFのアポトーシス促進活性を測定することができ、この測定系を用いてBAFFの機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングすることができる。
U937等の腫瘍細胞を 96穴プレートに1 ウェルあたり5x103 cells/0.1 mlにて播種し、被験物質を添加した後、BAFF(0.1 nM)を添加する。72 時間37℃で培養した後、生存細胞もしくはアポトーシスを測定する。Caspase−3活性の場合、被験物質と10 nM のBAFF、 10 ug/ml のcycloheximideを添加し、2 時間の処理の後、市販のCaspase−3 アッセイキット(Caspase−3 Assay Kit, Cell&Molecular Technologies Inc. 社)にて測定する。
候補物質のスクリーニングは、被験物質を添加しない細胞に比して被験物質を添加した細胞のCaspase−3活性が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50% 以上減少した系に添加していた被験物質を、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【0156】
実施例7 BAFFの機能(活性)抑制剤のスクリーニング
Gross J.A.ら、Nature, 404, 995−999, 2000の方法を参考に、BAFFのレセプター結合アッセイを行うことができ、この測定系を用いてBAFFの機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングすることができる。
ヒトBAFFタンパク質を125I−Na(Amersham)およびIodo−beads(Pierce)を用いて標識し、Sephadex G25 PD−10カラムにて精製しておく。BHK細胞(baby hamster kidney cell、大日本製薬株式会社)にTACIもしくはBCMAをトランスフェクトし発現させた細胞、2x105 cells を被験化合物および1.0 nMの標識BAFFとともに4℃にてインキュベートする。2時間後に洗浄し、放射活性をガンマカウンターにて測定する。
候補物質のスクリーニングは、被験物質を添加しない細胞に比して被験物質を添加した細胞の放射活性が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50% 以上減少した系に添加していた被験物質を、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【0157】
【発明の効果】
本発明によって、クローン病患者の結腸病変組織において、結腸正常組織と比較して特異的に発現増大している遺伝子(BAFF遺伝子)が明らかになった。かかる遺伝子はクローン病の遺伝子診断に用いられるマーカー遺伝子(プローブ、プライマー)として有用である。かかるマーカー遺伝子によればクローン病であるかどうか、その原因を明らかにすることができ(診断精度が向上)、これによりより適切な治療を施すことが可能となる。すなわち、クローン病の適切な治療のためのツールとして利用することができる。
【0158】
また、上記遺伝子の発現増加とクローン病との関連性から、該遺伝子の発現を抑制する化合物は、クローン病の治療薬として有用と考えられる。従って、これら遺伝子の発現の抑制または減少、または当該遺伝子がコードするタンパク質の発現や機能(活性)の抑制または減少を指標とすることによって、クローン病の治療薬となり得る候補薬をスクリーニングし選別することが可能である。本発明は、このようなクローン病治療薬の開発技術をも提供する。
【0159】
【配列表】
【発明の属する技術分野】
本発明はクローン病の診断に有用な疾患マーカーに関する。より詳細には、本発明は、腸炎症状の進展に関連して生じるクローン病の遺伝子診断においてプライマーまたは検出プローブとして有効に利用できる疾患マーカーに関する。また本発明は、かかる疾患マーカーを利用した腸炎症状の進展に関連するクローン病の検出方法(診断方法)に関する。
【0002】
さらに本発明は、上記疾患マーカーを利用して、腸炎症状の進展に関連して生じるクローン病の改善薬または治療薬として有効な物質をスクリーニングする方法、並びに該方法によって得られる上記物質を有効成分とするクローン病の改善薬または治療薬に関する。
【0003】
【従来の技術】
腸は、生体の生命活動に必須である栄養分・水分を消化吸収する器官である。一方で病原体などの異物を排除するための免疫防御機能も備えており相反する性質をバランスよく制御することで生命の維持を担っている器官でもある。しかしこれら機能バランスに異常が生じると、この動的平衡状態が破綻し様々な腸疾患が引き起こされることが知られている。特に近年患者数が増加してきているクローン病などの炎症性腸疾患は、スルファサラジン等の5−アミノサリチル酸製剤やステロイド等の薬物療法では満足できる治療効果が得られておらず、そのため腸切除手術、白血球除去等で治療している状態であり、よりよい薬物が必要とされている疾患である。
【0004】
近年、抗TNF抗体などのタンパク製剤がクローン病の治療剤として有効であることが知られている。しかしながら高価な薬剤でありステロイド耐性の患者のみの適応であり、また効果も充分とは言えず、未だ満足できる医療状況に無いのが現状である。
さらに、個々の患者によって薬物療法への反応が異なっており、現在用いられている治療薬すべてにおいて薬物療法に反応しないクローン病患者が存在している。また、遺伝子多型と疾患感受性の解析からインターロイキン−1の多型やNOD2遺伝子の多型が疾患原因遺伝子と考えられるケースがあり、基礎医学的な研究においても個々の患者による病態発症の遺伝的背景に差異のあることが明らかになりつつある。
【0005】
最近の医療現場では、クローン病に限らず、個々の患者の症状に合わせて治療法を的確に選択することが望まれるようになってきている。高齢化社会でのQOL(Quality of life)向上の必要性が認識されてきた近年では、特に、万人に共通した治療ではなく、個々の患者の症状に合わせて適切な治療が施されることが強く求められている。このような所謂テイラーメイド治療を行うためには、個々の疾患について患者の症状やその原因(遺伝的背景)を的確に反映する疾患マーカーが有用であり、その探索並びに開発を目指した研究が精力的に行われているのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、クローン病の診断及び治療に有用な疾患マーカーを提供することを目的とする。より詳細には、本発明は腸炎症状の進展に関連して生じるクローン病を特異的に反映した疾患マーカーを提供することを目的とする。さらに本発明は該疾患マーカーを利用したクローン病の検出方法(遺伝子診断方法)、該疾患の改善または治療に有用な薬物をスクリーニングする方法、並びに該疾患の改善または治療に有用な薬物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行っていたところ、従来はクローン病との関連が明らかではなかったBAFF遺伝子が、クローン病患者の病変部位において、正常大腸組織やクローン病患者大腸組織に比べ発現が大きく促進されていることを見出した。さらにこの遺伝子は、消化管系および免疫系組織以外の臓器では、ほとんど発現していないことを見出した。
【0008】
以上のように本発明者らは、消化管が傷害する自己免疫疾患と考えられているクローン病において、前記遺伝子、若しくはその発現産物(タンパク質)が、優れた疾患マーカーであるとの知見を得た。さらに、前記遺伝子の発現抑制や、当該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現抑制や機能(活性)抑制を指標としたスクリーニング系は、新たなメカニズムに基づくクローン病の予防、改善または治療薬の探索に有効であるとの知見を得た。
本発明はかかる知見を基礎にして完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に掲げるものである:
(1)BAFF 遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、クローン病の疾患マーカー。
(2)クローン病の検出においてプローブまたはプライマーとして使用される請求項1記載の疾患マーカー。
(3)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、クローン病の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと請求項1または2に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。
(4)工程(c)におけるクローン病の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる、請求項3に記載のクローン病の検出方法。
(5)BAFFを認識する抗体を含有する、クローン病の疾患マーカー。
(6)クローン病の検出においてプローブとして使用される請求項5記載の疾患マーカー。
(7)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むクローン病の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と請求項5または6に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。
(8)工程(c)におけるクローン病の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる請求項7記載のクローン病の検出方法。
(9)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とBAFF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるBAFF遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFF遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
(10)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とBAFFのいずれかを発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるBAFFの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
(11)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの機能または活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質をBAFFに接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるBAFFの機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のBAFFの機能または活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの機能または活性の低下をもたらす被験物質を選択する工程。
(12)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの細胞増殖活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによる増殖活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによる増殖活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによる増殖活性を抑制する被験物質を選択する工程。
(13)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFのアポトーシス促進活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を抑制する被験物質を選択する工程。
(14)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、受容体とBAFFの結合を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下でBAFFと受容体とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた受容体におけるBAFFの結合量を測定し、該結合量を被験物質を接触させない受容体における上記に対応するBAFFの結合量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの結合量を減少させる被験物質を選択する工程。
(15)クローン病の改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、前記(9)乃至(14)のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(16)BAFF遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする、クローン病の改善または治療剤。
(17)BAFF遺伝子の発現を抑制する物質が前記(9)記載のスクリーニング法により得られるものである、前記(16)記載のクローン病の改善または治療剤。
(18)BAFFの発現量、機能または活性を抑制する物質を有効成分とする、クローン病の改善または治療剤。
(19)BAFFの発現量、機能または活性を抑制する物質が、前記(10)乃至(14)に記載のスクリーニング法により得られるものである、前記(18)記載のクローン病の改善または治療剤。
【0010】
上記のように、本発明によれば、クローン病の疾患マーカー、該疾患の検出系、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング系、BAFFの発現、機能もしくは活性を抑制する物質のスクリーニング系、およびこれらの物質を有効成分とするクローン病の改善および治療剤が提供される。
【0011】
本発明は、前述するように、BAFF遺伝子が、クローン病患者の大腸病変組織において、大腸正常組織と比較して有意に発現上昇しており、またこの遺伝子は、正常組織においては、クローン病病態関連組織である消化管系組織、およびクローン病の発症機構に関与する免疫系組織以外の臓器では、ほとんど発現していないことを見出したことに基づくものである。従って、上記遺伝子及びその発現産物〔タンパク質、(ポリ)(オリゴ)ペプチド〕は、クローン病の解明、診断、予防及び治療に有効に利用することができ、かかる利用によって医学並びに臨床学上、有用な情報や手段を得ることができる。さらに、個体(生体組織)における、上記遺伝子の発現またはその発現産物の検出、または該遺伝子の変異またはその発現不全の検出は、クローン病の解明や診断に有効に利用することができる。
【0012】
また、上記遺伝子およびその発現産物並びにそれらからの派生物(例えば、遺伝子断片、抗体など)は、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質、およびBAFFの発現量、機能もしくは活性を抑制する物質のスクリーニングに有用であり、該スクリーニングによって得られる物質は、クローン病の予防、改善および治療薬として有効である。更に、これらの遺伝子のアンチセンス核酸(アンチセンスヌクレオチド)は、クローン病の予防、改善及び治療薬として有用である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC−IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
【0014】
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(1−1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1で示される特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
【0015】
例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873−5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E−valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
【0016】
従って本明細書において「BAFF 遺伝子」または「BAFF のDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトBAFF 遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトBAFF 遺伝子(GenBank Accession No. NM_006573)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
【0017】
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
【0018】
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:2)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0019】
従って本明細書において「BAFF タンパク質」または単に「BAFF」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトBAFFやその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2(GenBank Accession No. NM_006573)に記載のアミノ酸配列を有するヒトBAFF や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
【0020】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
【0021】
さらに本明細書において「疾患マーカー」とは、クローン病の罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を診断するために、またクローン病の予防、改善または治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、クローン病の罹患に関連して生体内、特に大腸組織において、発現が変動する遺伝子またはタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子及びタンパク質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
【0022】
さらに本明細書において診断対象となる「生体組織」とは、クローン病に伴い本発明のBAFF遺伝子が発現上昇する組織を指す。具体的には大腸組織及びその周辺組織などを指す。
【0023】
以下、BAFF遺伝子並びにその発現産物(BAFF)、およびそれらの派生物について、具体的な用途を説明する。
【0024】
(1)クローン病の疾患マーカーおよびその応用
(1−1) ポリヌクレオチド
本発明におけるBAFF遺伝子は、B CELL−ACTIVATING FACTOR(B細胞活性化因子)、もしくはTUMOR NECROSIS FACTOR LIGAND SUPERFAMILY, MEMBER 13B (TNFSF13B)、もしくはB−LYMPHOCYTE STIMULATOR (BLYS)、もしくはNF− AND APOL−RELATED LEUKOCYTE EXPRESSED LIGAND 1 (TALL1)、もしくはTNF HOMOLOG THAT ACTIVATES APOPTOSIS, NKFB, AND JNK (THANK)、もしくはzTNF4とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えば、ヒト由来のBAFF遺伝子としては、配列番号:1に示すポリヌクレオチドが知られており(RefSeq (http://www.ncbi.nlm.nih.gov:80/locuslink/refseq.html) Accession No. NM_006573)、この収得方法についてもMoore, P.A.ら、Science, 285, 260−263, 1999に記載されるように公知である。
【0025】
本発明は、前述するように、クローン病に罹患した患者の大腸組織において、正常大腸組織に比して、BAFF遺伝子が特異的に発現上昇しているという知見を発端に、これらの遺伝子発現の有無や発現の程度を検出することによって上記クローン病の罹患の有無や罹患の程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという知見に基づくものである。
【0026】
上記ポリヌクレオチドは、従って、被験者における上記遺伝子の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者がクローン病に罹患しているか否かまたはその罹患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
また上記ポリヌクレオチドは、後述の(3−1)項に記載するようなクローン病の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、BAFF遺伝子の発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。
【0027】
本発明の疾患マーカーは、前記BAFF遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなることを特徴とするものである。
【0028】
具体的には、本発明の疾患マーカーは、配列番号1に記載のBAFF遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなるものを挙げることができる。
【0029】
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、前記BAFF遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0030】
ここで、正鎖側のポリヌクレオチドには、前記BAFF遺伝子の塩基配列、またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
【0031】
さらに上記正鎖のポリヌクレオチド及び相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されてもよい。
【0032】
本発明のクローン病の疾患マーカーは、具体的には、前記BAFF遺伝子の塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。またこれら本発明遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列またはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列またはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも15個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0033】
なお、ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、BAFF遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT−PCR法においては、BAFF遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または生成物がこれらの遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
【0034】
本発明の疾患マーカーは、例えば配列番号1に記載のBAFF遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi−bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記本発明遺伝子の塩基配列を primer 3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0035】
本発明の疾患マーカーは、上述するように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであればよいが、具体的にはマーカーの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。
【0036】
(1−2)プローブまたはプライマーとしてのポリヌクレオチド
本発明においてクローン病の検出(診断)は、被験者の生体組織、特に大腸組織におけるBAFF遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することによって行われる。この場合、上記本発明の疾患マーカーは、上記遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し増幅するためのプライマーとして、または該RNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するためのプローブとして利用することができる。
【0037】
本発明疾患マーカーをクローン病の検出(遺伝子診断)においてプライマーとして用いる場合には、通常15bp〜100bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、通常15bp〜全配列の塩基数、好ましくは15bp〜1kb、より好ましくは100bp〜1kbの塩基長を有するものが例示できる。
【0038】
本発明の疾患マーカーは、ノーザンブロット法、RT−PCR法、in situハイブリダーゼーション法などといった、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によってクローン病におけるBAFF遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。
測定対象試料としては、使用する検出方法の種類に応じて、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、若しくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
【0039】
また、生体組織における本発明遺伝子の遺伝子発現レベルは、DNAチップを利用して検出あるいは定量することができる。この場合、本発明の疾患マーカーは当該DNAチップのプローブとして使用することができる(例えば、アフィメトリックス社の Gene Chip Human Genome U95 A,B,C,D,Eの場合、25bpの長さのポリヌクレオチドプローブとして用いられる)。かかるDNAチップを、生体組織から採取したRNAをもとに調製される標識DNAまたはRNAとハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブ(本発明疾患マーカー)と標識DNAまたはRNAとの複合体を、該標識DNAまたはRNAの標識を指標として検出することにより、生体組織中での本発明遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)が評価できる。
【0040】
上記DNAチップは、本発明遺伝子のいずれかと結合し得る1種または2種以上の本発明疾患マーカーを含んでいれば良い。複数の疾患マーカーを含むDNAチップの利用によれば、ひとつの生体試料について、同時に複数の遺伝子の発現の有無または発現レベルの評価が可能である。
【0041】
本発明の疾患マーカーは、クローン病の診断、検出(罹患の有無や罹患の程度の診断)に有用である。具体的には、該疾患マーカーを利用したクローン病の診断は、被験者の大腸組織と正常者の大腸組織におけるBAFF遺伝子の遺伝子発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。この場合、遺伝子発現レベルの違いには、発現のある/なしの違いだけでなく、被験者の大腸組織と正常者の大腸組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量の格差が2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的にはBAFF遺伝子はクローン病で発現誘導を示すので、被験者の大腸組織で発現しており、該発現量が正常者の大腸組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多ければ、被験者についてクローン病の罹患が疑われる。
【0042】
(1−3)抗体
本発明は、クローン病の疾患マーカーとして、BAFF遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「BAFF」ともいう)を特異的に認識することのできる抗体を提供する。
【0043】
ここで、BAFFとしては配列番号1に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を挙げることができる。
【0044】
なお、配列番号1に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を例示することができる。
【0045】
なお、配列番号2に示すタンパク質はヒト由来のBAFF遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その収得方法についてもMoore, P.A.ら、Science, 285, 260−263, 1999に記載されるように公知である。
【0046】
本発明は、前述するように、クローン病に罹患した患者の大腸組織において、正常な大腸組織に比して、BAFF遺伝子が特異的に発現上昇しているという知見を発端に、これらの遺伝子の発現産物(タンパク質)の有無やその発現の程度を検出することによって上記クローン病の罹患の有無や罹患の程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという発想に基づくものである。
上記抗体は、従って、被験者における上記タンパク質の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者がクローン病に罹患しているか否かまたはその疾患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
また上記抗体は、後述の(3−2)項に記載するようなクローン病の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、BAFFの発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。
【0047】
本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、BAFFを免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。さらにこれら本発明タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
【0048】
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したBAFFを用いて、あるいは常法に従ってこれら本発明タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したBAFFあるいはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
【0049】
抗体の作製に免疫抗原として使用されるBAFFは、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0050】
具体的には、BAFFをコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としてのタンパク質を得ることができる。また、BAFFの部分ペプチドは、本発明により提供されるアミノ酸配列の情報(配列番号2)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0051】
なお、本発明のBAFFには、配列番号2に示す各アミノ酸配列に関わるタンパク質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、上記配列番号2のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ改変前の元のタンパク質と免疫学的に同等の活性を有するタンパク質を挙げることができる。
【0052】
ここで同等の免疫学的活性を有するタンパク質としては、適当な動物あるいはその細胞において特定の免疫反応を誘発し、かつBAFFに対する抗体と特異的に結合する能力を有するタンパク質を挙げることができる。
【0053】
なお、タンパク質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その免疫学的活性が保持される限り制限はない。免疫学的活性を喪失することなくアミノ酸残基が、どのように、何個置換、挿入あるいは欠失されればよいかを決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、置換後に得られるタンパク質がBAFFと同等の免疫学的活性を保持している限り、特に制限されないが、タンパク質の構造保持の観点から、残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性並びに両親媒性など、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe及びTrpは互いに非極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn及びGlnは互いに非荷電性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Asp及びGluは互いに酸性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、またLys、Arg及びHisは互いに塩基性アミノ酸に分類されるアミノ酸である。ゆえに、これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択することができる。
【0054】
本発明の抗体は、また、BAFFの部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴ(ポリ)ペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、BAFFと同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つBAFFのアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴ(ポリ)ペプチドを例示することができる。
【0055】
かかるオリゴ(ポリ)ペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム−パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
【0056】
本発明の抗体は、BAFFに特異的に結合する性質を有することから、該抗体を利用することによって、被験者の組織内に発現した上記タンパク質を特異的に検出することができる。すなわち、当該抗体は被験者の組織内におけるBAFFのタンパク発現の有無を検出するためのプローブとして有用である。
【0057】
具体的には、患者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従ってタンパク質を調製して、例えばウェスタンブロット法、ELISA法など公知の検出方法において、上記抗体を常法に従ってプローブとして使用することによって、BAFFを検出することができる。
【0058】
クローン病の診断に際しては、被験者の大腸組織におけるBAFFのいずれか少なくとも一つと正常な大腸組織におけるこれらのタンパク質との量の違いを判定すればよい。この場合、タンパク量の違いには、タンパクのある/なし、あるいはタンパク量の違いが2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的には、BAFFはクローン病で発現誘導を示すので、被験者の大腸組織で該遺伝子の発現産物(BAFF)が存在しており、該量が正常な大腸組織の発現産物量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多いことが判定されれば、クローン病の罹患が疑われる。
【0059】
(2)クローン病の検出方法(診断方法)
本発明は、前述した本発明疾患マーカーを利用したクローン病の検出方法(診断方法)を提供するものである。
【0060】
具体的には、本発明の検出方法(診断方法)は、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこに含まれるクローン病に関連するBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、およびこれらの遺伝子に由来するタンパク質(BAFF)を検出し、その発現量またはそのタンパク質量を測定することにより、クローン病の罹患の有無またはその程度を診断するものである。また本発明の検出(診断)方法は、例えばクローン病患者において、該疾患の改善のために治療薬を投与した場合における、該疾患の改善の有無またはその程度を検出(診断)することもできる。
【0061】
本発明の検出方法は次の(a)、(b)及び(c)の工程を含むものである:
(a) 被験者の生体試料と本発明の疾患マーカーを接触させる工程、
(b) 生体試料中のBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、またはBAFFのタンパク質量を、上記疾患マーカーと指標として測定する工程、
(c) (b)の結果をもとに、クローン病の罹患を判断する工程。
【0062】
ここで用いられる生体試料としては、被験者の生体組織(大腸組織及びその周辺組織など)から調製される試料を挙げることができる。具体的には、該組織から調製されるRNA含有試料、若しくはそれからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む試料、または上記組織から調製されるタンパク質を含む試料を挙げることができる。かかるRNA、ポリヌクレオチドまたはタンパク質を含む試料は、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従って調製することができる。
本発明の診断方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。
【0063】
(2−1) 測定対象の生体試料としてRNAを利用する場合
測定対象物としてRNAを利用する場合、クローン病の検出は、具体的に下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと、前記本発明の疾患マーカー(BAFF遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又は該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド)とを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。
【0064】
測定対象物としてRNAを利用する場合は、本発明の検出方法(診断方法)は、該RNA中のBAFF遺伝子の発現レベルを検出し、測定することによって実施される。具体的には、本発明の検出方法(診断方法)は、本発明の疾患マーカー(BAFF遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチド)をプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などにより前記疾患マーカーへのRNAまたはその転写物の結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0065】
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のBAFF遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明の疾患マーカー(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された疾患マーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、疾患マーカーの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS−1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコールに従って疾患マーカー(プローブDNA)を標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、疾患マーカーの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
【0066】
RT−PCR法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプライマーとして用いることによって、RNA中のBAFF遺伝子の発現の有無や発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のBAFF遺伝子の領域が増幅できるように、本発明の疾患マーカーから調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT−PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT−PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0067】
DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明の疾患マーカーから調製される標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。また、上記DNAチップとして、BAFF遺伝子の遺伝子発現レベルの検出、測定が可能なDNAチップを用いることもできる。かかる遺伝子の発現レベルを検出、測定することができるDNAチップとしては、Affymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A, B,C, D, Eを挙げることができる。かかるDNAチップを用いた、被験者RNA中のBAFF遺伝子のいずれかの遺伝子発現レベルの検出、測定については、実施例において詳細に説明する。
【0068】
(2−2) 測定対象の生体試料としてタンパク質を用いる場合
測定対象物としてタンパク質を用いる場合は、本発明のクローン病の検出方法(診断方法)は、生体試料中のBAFFのいずれかを検出し、その量を測定することによって実施される。具体的には下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と本発明の疾患マーカー(BAFFを認識する抗体)とを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。
【0069】
より具体的には、本発明のクローン病の検出方法(診断方法)は、本発明の疾患マーカー(BAFFを認識する抗体)を用いて、ウエスタンブロット法などにより当該マーカーへのBAFFの結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0070】
ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS−1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
【0071】
なお、上記において測定対象とするBAFFの機能または活性は、既に知られており、該タンパク質の量と機能乃至活性とは一定の相関関係を有している。従って、上記タンパク質の結合量の測定に代えて、該タンパク質の機能または活性の測定を行うことによっても、本発明のクローン病の検出(診断)を実施することができる。すなわち本発明は、BAFFの機能または活性を指標として、これを公知の方法(具体的には後述の(3−3)項を参照)に従って測定、評価することからなる、クローン病の検出(診断)方法をも包含する。
【0072】
(2−3)クローン病の診断
クローン病の診断は、例えば、被験者の大腸組織におけるBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、あるいはこれらの遺伝子の発現産物であるタンパク質(BAFF)の量、機能若しくは活性(以下これらを合わせて「タンパク質レベル」ということがある)を、正常な大腸組織における当該遺伝子発現レベルまたは当該タンパク質レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
【0073】
この場合、正常な大腸組織から採取調製した生体試料(RNAまたはタンパク質を含む試料)が必要であるが、これらはクローン病に罹患していない人の大腸組織をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収することによって取得することができる。なお、ここでいう「クローン病に罹患していない人」とは、少なくともクローン病の自覚症状がなく、好ましくは他の検査方法、例えば内視鏡検査や、注腸X腺検査、消化管の生検などの結果、クローン病でないと診断された人をいう。なお、当該「クローン病に罹患していない人」を以下、本明細書では単に正常者という場合もある。
【0074】
被験者の大腸組織と正常な大腸組織(クローン病に罹患していない人の大腸組織)との遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。並行して行わない場合は、複数(少なくとも2つ、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常な大腸組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、若しくはこれらの遺伝子の発現産物であるタンパク質(BAFF)レベルの平均値または統計的中間値を、正常者の遺伝子発現レベル若しくはタンパク質の量として、比較に用いることができる。
【0075】
被験者が、クローン病であるかどうかの判断は、該被験者の大腸組織におけるBAFF遺伝子の遺伝子発現レベル、またはその発現産物であるタンパク質(BAFF)レベルが、正常者のそれらのレベルと比較して2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うことができる。また、被験者の上記遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルが、いかなる正常者のそれらのレベルに比べて多ければ、該被験者はクローン病であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。
【0076】
(3)候補薬のスクリーニング方法
(3−1) 遺伝子発現レベルを指標とするスクリーニング方法
本発明は、BAFF遺伝子のいずれかの発現を抑制する物質のスクリーニング方法を提供する。
【0077】
本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質とBAFF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるBAFF遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFF遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0078】
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、BAFF遺伝子を発現する培養細胞全般を挙げることができる。培養細胞においてこれら本発明遺伝子が発現しているか否かは、公知のノーザンブロット法やRT−PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。
【0079】
具体的には、例えば以下の(1)〜(3):
(1) クローン病の動物モデルより単離、調製した腸管組織やリンパ系組織由来の細胞、
(2) 種々の刺激剤で処理又は未処理の腸管組織やリンパ系組織由来の細胞、
(3) 本発明遺伝子のいずれかを導入した細胞、
等を挙げることができる。
【0080】
ここで前記(1)の動物モデルとしては、クローン病の動物モデルとして周知である如何なる動物モデルをも用いることができ、具体的には、(1)自然発症炎症性腸疾患(IBD)モデル(C3H/HeJBirマウス、Cotton top tamarins等)、(2)化学物質誘発モデル(ジニトロクロロベンゼン誘発モデル(ラット)、酢酸モデル(ラット)、トリニトロスルホン酸誘発モデル(マウス、ラット、ウサギ)、デキストラン硫酸誘発モデル(マウス、ラット、ハムスター)、カラゲナン誘発モデル(ラット、モルモット)、インドメタシン誘発モデル(ラット)等)、(3)トランスジェニック、ミュータント(IL−2ノックアウトマウス、IL−10ノックアウトマウス、TCRノックアウトマウス等)、または(4)移入モデル(CD45RBhi移入SCIDマウス等)を挙げることができる。
また前記(1)の腸管組織由来の細胞としては、好ましくは大腸(結腸)由来の初代培養細胞が挙げられる。
【0081】
前記(2)の腸管組織やリンパ系組織由来の細胞としては、好ましくは大腸(結腸)由来の株化細胞が挙げられ、具体的には Caco−2細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号HTB−37)、HT−29細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号HTB−38)またはCOLO 205 細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号CCL−222)等を挙げることができる。また前記(2)のリンパ系組織由来の細胞としては、好ましくはリンパ球、単球、マクロファージ、好中球または好酸球が挙げられる。また株化細胞としてRAW 264.7細胞(マウス単球由来、ATTC株番号TIB−71)、U−937細胞(ヒト組織球性リンパ腫由来、ATTC株番号CRL−1593.2)、THP−1細胞(ヒト単球由来、ATTC株番号TIB−202)またはJurkat細胞(ヒトT細胞リンパ腫由来、ATTC株番号TIB−152)等を挙げることができる。
前記(2)において刺激剤とは、リポポリサッカライド(Lipopolysaccharide :LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等を挙げることができる。これら刺激剤で刺激することにより細胞は炎症部位の環境により近い活性化状態になることが知られている。
【0082】
前記(3)の遺伝子導入細胞としては、前記(1)及び(2)に挙げた細胞の他、通常遺伝子導入に用いられる宿主細胞、すなわちCOP、L、C127、Sp2/0、NS−1、NIH3T3、ST2等のマウス由来細胞、ラット由来細胞、BHK、CHO等のハムスター由来細胞、COS1、COS3、COS7、CV1、Vero等のサル由来細胞、HeLa、293等のヒト由来細胞、およびSf9、Sf21、High Five等の昆虫由来細胞などが例示される。
さらに、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織なども含まれる。
【0083】
本発明のスクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(本発明遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0084】
また本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死滅せず且つ本発明遺伝子を発現できる培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択するのが好ましい。
【0085】
実施例に示すように、クローン病に罹患した患者の大腸(結腸)組織では、正常な大腸(結腸)組織に比して、特異的にBAFF遺伝子が発現上昇している。この知見から、これら本発明遺伝子の発現亢進はクローン病と関連していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、BAFF遺伝子の発現レベルを指標として、その発現を抑制する物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、クローン病の緩和/抑制作用を有する(クローン病に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質を探索することによって、クローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
【0086】
候補物質の選別は、具体的にはBAFF遺伝子が発現している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞における前記本発明遺伝子の発現レベルが、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のそのレベルに比して低くなることをもって、行うことができる。また、BAFF遺伝子の発現に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合は、発現誘導物質(例えばリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等)によって誘導される発現が被験物質の存在によって抑制されること、すなわち発現誘導物質の存在下で被験物質を接触させた細胞の遺伝子発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させなかった対照細胞(正のコントロール)に比して低くなることを指標として、当該被験物質を候補物質として選別することができる。
【0087】
より具体的には、例えば結腸由来細胞であるCaco−2細胞、HT−29細胞またはCOLO 205 細胞等の細胞を用いてクローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質をスクリーニングするには、被験物質を加えない細胞(対照細胞)と、被験物質を加えた細胞とで、BAFF遺伝子の発現レベルを比較し、その発現レベルの減少を指標として候補物質を選別することができる。また、リポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)などの刺激剤を添加した細胞(対照細胞)と、刺激剤と被験物質とを同時に加えた細胞とで、BAFF遺伝子の発現レベルを比較し、その発現レベルの減少を指標として候補物質を選別することができる。また、前記刺激剤を添加して、既にBAFF遺伝子が発現誘導された状態の細胞に被験物質を添加し、被験物質を添加しない対照細胞とで、前記本発明遺伝子の発現レベルを比較して、その発現レベルの低下を指標として候補物質を選別することもできる。
【0088】
このような本発明のスクリーニング方法における遺伝子発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと本発明の疾患マーカーとを用いて、前記(2−1)項に記述したように、ノーザンブロット法、RT−PCR法など公知の方法、あるいはDNAチップを利用する方法に従って実施できる。指標とする遺伝子発現レベルの低下(抑制、減少)の程度は、被験物質(候補物質)を接触させた細胞におけるBAFF遺伝子の発現が、被験物質(候補物質)を接触させない対照細胞における発現量と比較して10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上の低下(抑制、減少)を例示することができる。
【0089】
またBAFF遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、これら本発明遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来のタンパク質の活性を測定することによっても実施できる。本発明のBAFF遺伝子の発現抑制物質のスクリーニング方法には、かかるマーカー遺伝子の発現量を指標として標的物質を探索する方法も包含されるものであり、この意味において、請求項9に記載する「BAFF遺伝子」の概念には、これら本発明遺伝子の発現制御領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子が含まれる。
【0090】
なお、上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、上記のルシフェラーゼ遺伝子のほか、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、及びエクオリン遺伝子などのレポーター遺伝子が例示できる。
また、ここで前記本発明遺伝子の発現制御領域は、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbを用いることができる。
【0091】
本発明遺伝子の発現制御領域は、例えば(i)5’−RACE法(例えば、5’full Race Core Kit(宝酒造社製)等を用いて実施される)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5’末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’−上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することができる。また融合遺伝子の作成、およびマーカー遺伝子由来の活性測定は公知の方法で行うことができる。
【0092】
本発明のスクリーニング方法により選別される物質は、BAFF遺伝子の少なくとも一種の遺伝子発現抑制剤として位置づけることができる。これらの物質が有する本発明遺伝子に対する発現抑制作用は、大腸組織障害の抑制に深く関わっているものと考えられる。よってこれらの物質は、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補物質となる。
【0093】
(3−2)タンパク質の発現量を指標とするスクリーニング方法
本発明は、BAFF(BAFFタンパク質)の発現を抑制する(減少させる)物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0094】
本発明スクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験物質とBAFFを発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞における BAFFの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0095】
本発明スクリーニングに用いられる細胞は、内在性および外来性を問わず、BAFF遺伝子を発現し、発現産物としてのBAFFを有する培養細胞全般を挙げることができる。ここでBAFFの発現は、遺伝子産物であるタンパク質を公知のウエスタンブロット法にて検出することにより、容易に確認することができる。該細胞としては、具体的には、前記(3−1)項の(1)〜(3)に記載したような、クローン病の疾患モデルとして用いられうる動物モデルより単離、調製した腸管組織やリンパ系組織由来の初代培養細胞、種々の刺激剤で処理した腸管組織やリンパ系組織由来の株化細胞、または本発明遺伝子のいずれかを導入した株化細胞などが挙げられる。また当該細胞の範疇には、その細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分なども含まれる。
【0096】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(本発明遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞や細胞膜画分と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0097】
実施例に示すように、クローン病に罹患した患者の大腸(結腸)組織では、正常な大腸(結腸)組織に比して、特異的にBAFF遺伝子が発現上昇している。この知見から、これら本発明遺伝子の発現産物(タンパク質)の発現亢進はクローン病と関連していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、これらBAFFのタンパク発現レベルを指標として、その発現量を低下させる物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、クローン病の緩和/抑制作用を有する(クローン病に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、BAFFの発現量を低下させる物質を探索することによって、クローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
【0098】
候補物質の選別は、具体的にはBAFFを発現産生している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞における前記本発明タンパク質のタンパク量(レベル)が、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のその量(レベル)に比して低くなることを指標として、行うことができる。また、BAFFの発現産生に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合は、発現誘導物質(例えばリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等)によって誘導される当該タンパクの産生が被験物質の存在によって抑制されること、すなわち発現誘導物質の存在下で被験物質を接触させた細胞の遺伝子発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させなかった対照細胞(正のコントロール)に比して低くなることを指標として、当該被験物質を候補物質として選別することができる。
【0099】
より具体的には、例えば結腸由来細胞であるCaco−2細胞、HT−29細胞またはCOLO 205 細胞等の細胞を用いてクローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質をスクリーニングするには、被験物質を加えない細胞(対照細胞)と、被験物質を加えた細胞とで、BAFFのタンパク質の量(レベル)を比較し、その量(レベル)の減少を指標として候補物質を選別することができる。また、リポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNF等)などの刺激剤を添加した細胞(対照細胞)と、刺激剤と被験物質とを同時に加えた細胞とで、BAFFのいずれかのタンパク質の量(レベル)を比較し、その量(レベル)の低下を指標として候補物質を選別することができる。また、前記刺激剤を添加して、既にBAFFが産生された状態の細胞に被験物質を添加し、被験物質を添加しない対照細胞とで、前記本発明タンパク質の量(レベル)を比較して、その量(レベル)の低下を指標として候補物質を選別することもできる。
【0100】
本発明のスクリーニング方法にかかるBAFFの産生量は、前述したように、例えば本発明疾患マーカーなどの抗体(例えばヒトBAFFタンパク質またはそのホモログを認識する抗体)を用いたウエスタンブロット法などの公知方法に従って定量できる。ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAS−1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム
ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
【0101】
(3−3) タンパク質の機能(活性)を指標とするスクリーニング方法
本発明は、BAFFの機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
【0102】
(a)被験物質を BAFFに接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるBAFFの機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のBAFFの機能または活性と比較する工程、(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの機能または活性の低下をもたらす被験物質を選択する工程。
【0103】
本発明のスクリーニング方法においては、BAFFの公知の機能・活性に基づく如何なる機能・活性測定方法をも利用することができる。すなわち、BAFFの公知の機能・活性測定系に被験物質を添加し、当該BAFFの公知の機能・活性を抑制・阻害する被験物質を、クローン病に対して改善/治療効果を有する候補物質として選択するスクリーニング方法であれば、本発明のスクリーニング方法の範疇に含まれる。
【0104】
前記本発明のスクリーニングは、BAFFを含む水溶液、細胞または該細胞から調製した細胞画分と、被験物質とを接触させることにより行うことができる。
【0105】
ここでBAFFを含む水溶液としては、例えばBAFFを含む通常の水溶液の他、このタンパク質を含む細胞溶解液、細胞破砕液、核抽出液あるいは細胞の培養上清などを例示することができる。
【0106】
また、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞としては、内在性及び外来性を問わず、BAFFを発現し得る細胞を挙げることができる。該細胞としては、具体的には、前記(3−1)項の(1)〜(3)に記載したような、クローン病の疾患モデルとして用いられうる動物モデルより単離、調製したリンパ系組織や腸管組織由来の初代培養細胞、種々の刺激剤で処理したリンパ系組織や腸管組織由来の株化細胞、または本発明遺伝子のいずれかを導入した株化細胞などを用いることができる。
また本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞画分とは、上記細胞に由来する各種の画分を意味し、これには、例えば細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分などが含まれる。
【0107】
前記スクリーニングにおいて用いられるBAFFは、公知のタンパク質であり、前記(1−3)に記述したように、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換細胞の培養、および必要に応じて培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSHLaboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0108】
実施例に示すように、クローン病に罹患した患者の大腸(結腸)組織では、正常な大腸(結腸)組織に比して、特異的にBAFF遺伝子が発現上昇している。この知見から、これらの遺伝子の発現産物(タンパク質)の機能(活性)亢進は、クローン病と関連していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、BAFFの機能(活性)を指標として、該タンパク質の機能(活性)を抑制する物質を探索する方法が包含される。本発明スクリーニング方法によれば、BAFFの機能または活性を抑制する物質を探索でき、かくしてクローン病の緩和/抑制作用を有する(クローン病に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質が提供される。
【0109】
すなわち本発明のスクリーニング方法は、BAFFの機能または活性を抑制する物質を探索することによって、クローン病の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
【0110】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、蛋白質(BAFFに対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記水溶液、細胞または細胞画分と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0111】
以下、本発明タンパク質の各々の機能(活性)に基づくスクリーニング方法につき例示する。
【0112】
BAFFは、TNFファミリーに属し、TNFリガンドスーパーファミリーメンバー13B、B細胞活性化因子、TALL、もしくはTHANKとも呼ばれる。活性の測定方法としてTNFの活性測定系やB細胞活性化の測定系を用いることができる。実際にBAFFを用いて活性を測定している論文として、Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263, 1999(B細胞の増殖活性化)や、Mukhopadhyay, Aら、J. Biol. Chem., 274, 15978−15981, 1999(NF−kB, JNK 活性化、がん細胞に対する細胞毒性とCaspase−3 活性化)などが挙げられる。
【0113】
BAFFの細胞増殖活性を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによる増殖活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによる増殖活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによる増殖活性を抑制する被験物質を選択する工程。
BAFFの増殖活性の測定は、例えばBAFF反応性細胞としてB細胞の増殖活性を測定することにより行うことができる(Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263,1999)。
【0114】
BAFFのアポトーシス促進活性を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を抑制する被験物質を選択する工程。
BAFFのアポトーシス促進活性の測定は、例えばBAFF反応性細胞として腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導(Mukhopadhyay, Aら、J. Biol. Chem., 274, 15978−15981, 1999)を測定することにより行うことができる。
【0115】
BAFFの受容体結合活性を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a) 被験物質の存在下でBAFFと受容体とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた受容体におけるBAFFの結合量を測定し、該結合量を被験物質を接触させない受容体における上記に対応するBAFFの結合量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの結合量を減少させる被験物質を選択する工程。
この場合の受容体とは受容体分子以外に、BAFF結合能を有する細胞、もしくはBAFF結合能を有する細胞膜画分も含む。BAFF受容体分子としてはBAFF−R (ヒト;AF373846、マウス;AF373847) 、BCMA (ヒト;Z29575、マウス;NM_011608、ラット;BF559673)、 TACI (ヒト;AF023614、マウス;AK004668)などを挙げることができる。また、BAFF結合能を有する細胞としては、株化細胞を含むB細胞(Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263, 1999)を挙げることができる。
【0116】
この場合、前記受容体とリガンド(BAFF)との結合阻害は、▲1▼受容体に結合することによって、リガンドの受容体への結合を阻害する態様のものであってもよいし、▲2▼リガンドに結合することによって、リガンドの受容体への結合を阻害する態様のものであってもよい。但し、とりわけ▲1▼の態様の場合は、受容体に結合してもリガンドと同じ作用を発揮しない被験物質を選択することが必要である。このため、上記のスクリーニング方法で選別された被験物質は更に、下記:
(d)上記(c)で選択された被験物質の中から、更にリガンドと同じ作用を発揮しない被験物質を選択する工程、
に供することが好ましい。
【0117】
本発明スクリーニングで用いる受容体は、精製物(単離物)であっても良いし、当該受容体を含有する細胞またはその細胞画分の形態であっても良い。
本発明スクリーニングで用いる受容体を含有する細胞は、当該受容体を天然に発現している細胞を用いても良いし、また当該受容体をコードする遺伝子を細胞に導入して作製した形質転換細胞を用いても良い。
【0118】
前記形質転換細胞は、Molecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の基本書に従い、当業者にとって公知の方法で調製することができる。例えば、前記受容体のcDNAをpCAGGS(Gene 108,193−199(1991))、pcDNA1.1、pcDNA3.1誘導体(インビトロジェン社)などの公知の発現ベクターに挿入する。その後、適当な宿主に導入し、培養することにより、導入した受容体のDNAに対応するタンパク質を発現させた形質転換細胞を作製することができる。宿主としては、一般的に広く普及している、CHO細胞、C127細胞、BHK21細胞、COS細胞などを用いることができるが、これに限定されることなく、酵母、細菌、昆虫細胞などを用いることもできる。
【0119】
受容体タンパク質のcDNAを有する発現ベクターの宿主細胞への導入方法としては、公知の発現ベクターの宿主細胞への導入方法であれば、どのような方法でもよく、例えばリン酸カルシウム法(J. Virol., 52, 456−467(1973))、LT−1(Panvera社製)を用いる方法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin;Gibco−BRL社製)を用いる方法などが挙げられる。
前記受容体を天然に発現する細胞、および前記受容体を発現する形質転換細胞は、そのままスクリーニングに用いることができるが、細胞膜をスクリーニングに用いる場合は、例えば以下のようにして細胞膜画分を得ることができる。すなわちまず細胞に低張バッファーを添加し、細胞を低張破壊した後、ホモジナイズし、遠心分離することにより細胞膜画分の沈殿物を得る。そしてこの沈殿物をバッファーに懸濁することにより、受容体を含有する細胞膜画分を得ることができる。得られた細胞膜画分は、抗体を結合させたカラム等により常法で精製することもできる。
【0120】
本発明スクリーニングで用いられる前記リガンド(BAFF)も、前記受容体と同様の手法で調製された形質転換細胞から、常法により組換えタンパクを回収することにより得ることができる。さらに、前記天然リガンドの他、アゴニストリガンドとして公知のものも用いることができる。
これらリガンドは、そのままで用いても良いし、任意の標識物質で標識されたものを用いることもできる。ここで標識物質としては、放射性同位体(3H、14C、35S、125I等)、蛍光物質(Molecular Probes社Alexa Protein Labeling Kits等)、化学発光物質(Assay Designs社Chemiluminescence Labeling Kit等)、ビオチン(Pierce社EZ−Link Biotinylation Kits等)、マーカータンパク質、またはペプチドタグなどを例示することができる。マーカータンパク質としては、例えばアルカリフォスファターゼ(Cell, 63,185−194,1990)、抗体のFc領域(Genbank accession number M87789)、またはHRP(Horse radish peroxidase)などの従来公知のマーカータンパク質を挙げることができる。またペプチドタグとしては、例えばMycタグ、Hisタグ、FLAGタグなどの従来公知のペプチドタグを挙げることができる。
【0121】
受容体結合阻害活性の測定は、具体的には、以下の方法が例示される。すなわち、前記受容体を含有する水溶液(通常緩衝液が用いられる)、前記細胞若しくは細胞膜画分に、10−3〜10−10Mの適当な濃度に調製した被験化合物溶液(通常溶媒には水もしくは緩衝液が用いられるが、溶解度に応じてエタノールやDMSOを添加することもできる)を加えた後、放射性同位体で標識した前記リガンドを加え、一定時間(通常、10分〜2時間)反応させる。その後遠心分離等により上清を単離して放射活性を測定し、上清中に含まれる標識したリガンド量を計測することができる。あるいは、形質転換細胞もしくは細胞膜画分を含む沈殿物を界面活性剤、塩基を含む溶液に溶解し、その放射活性を測定し、沈殿物に含まれる標識リガンド量を計測することもできる。
【0122】
上記の数値を、被験化合物の代わりに溶媒をブランクとして用いて実施した場合の値(対照結合量)と比較することにより、被験化合物が、受容体と標識リガンドの結合を阻害するか否かを評価することができる。すなわち候補物質のスクリーニングは、被験物質存在下での結合量が、被験物質非存在下での結合量に比して、減少するか否かを指標にして行うことができる。
具体的な阻害率(%)については、以下の式:
{1−(被験物質を添加した場合に本発明タンパク質と結合した標識アゴニストリガンド量)/(被験物質非添加時における本発明タンパク質と結合した標識アゴニストリガンド量)}X100
で算出することによって求めることができる。
【0123】
かくして選抜取得される被験物質は、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補となる。
【0124】
上記(3−1)〜(3−3)に記載する本発明のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらにクローン病のモデル動物である以下の(1)〜(3)の動物:(1)自然発症炎症性腸疾患(IBD)モデル(C3H/HeJBirマウス、Cotton top tamarins等)、(2)化学物質誘発モデル(ジニトロクロロベンゼン誘発モデル(ラット)、酢酸モデル(ラット)、トリニトロスルホン酸誘発モデル(マウス、ラット、ウサギ)、デキストラン硫酸誘発モデル(マウス、ラット、ハムスター)、カラゲナン誘発モデル(ラット、モルモット)、インドメタシン誘発モデル(ラット)等)、(3)トランスジェニック、ミュータント(IL−2ノックアウトマウス、IL−10ノックアウトマウス、TCRノックアウトマウス等)、または(4)移入モデル(CD45RBhi移入SCIDマウス等)、を用いた薬効試験、安全性試験、さらにクローン病患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的なクローン病の改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
【0125】
なお、上記(3−1)〜(3−3)に記載するスクリーニング方法は、クローン病の改善または治療薬の候補物質を選別するのみならず、クローン病の既存の若しくは新規な改善または治療薬(候補薬)が、BAFF遺伝子の発現を抑制するか否か、あるいはBAFFの発現若しくは機能・活性を抑制するか否かを評価、確認するためにも用いることができる。すなわち本発明のスクリーニング方法の範疇には、候補物質の探索のみならず、このような評価あるいは確認を目的とするものも含まれる。
【0126】
(4)クローン病の改善・治療剤
本発明は、クローン病の改善・治療剤を提供するものである。
本発明はBAFF遺伝子及びこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質が、クローン病と関連しているという新たな知見から、これら遺伝子の発現を抑制する物質、あるいは、これら遺伝子によりコードされるタンパク質の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質が、上記疾患の改善または治療に有効であるという考えに基づくものである。すなわち、本発明のクローン病の改善・治療剤は、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質、あるいはBAFFの発現若しくは機能(活性)を抑制する物質を有効成分とするものである。
【0127】
当該有効成分となるBAFF遺伝子のいずれかの発現抑制物質、あるいはBAFFの発現若しくは機能(活性)抑制物質は、上記のスクリーニング方法を利用して選別されたもののみならず、選別された物質に関する情報に基づいて常法に従って工業的に製造されたものであってもよい。
【0128】
BAFF遺伝子の発現抑制物質、あるいはBAFFの発現若しくは機能(活性)抑制物質は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて経口投与または非経口投与することができる。また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、1日投与用量として、数mg〜2g程度、好ましくは数十mg程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。
【0129】
また、上記の物質がDNAによりコードされるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。更に、上記有効成分物質がBAFF遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、そのままもしくは遺伝子治療用ベクターにこれを組込むことにより、遺伝子治療を行うこともできる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0130】
上記アンチセンスヌクレオチドを利用する遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接患者の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはアンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
【0131】
ここで「アンチセンスヌクレオチド」には、BAFF遺伝子の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。具体的には、配列番号:1に記載の塩基配列の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。
【0132】
また、その化学修飾体には、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体(”Antisense RNA and DNA” WILEY−LISS刊、1992年、pp.1−50、J. Med. Chem. 36, 1923−1937(1993))が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。
【0133】
アンチセンスヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、目的遺伝子の発現、即ちBAFF遺伝子の発現を抑制することができ、かくしてBAFFの機能(活性)を抑制することができる。
【0134】
アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接生体内に投与する方法において、用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学修飾体は、好ましくは5−200塩基、さらに好ましくは8−25塩基、最も好ましくは12−25塩基の長さを有するものとすればよい。その投与に当たり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
アンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるアンチセンスRNAは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞にアンチセンス遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞にアンチセンス遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20−45頁、月刊薬事, 36 (1), 23−48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
【0135】
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムに本発明遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
【0136】
遺伝子治療用製剤組成物は、上述したアンチセンスヌクレオチドまたはその化学修飾体、これらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、BAFF遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む注射剤などの投与形態の他に、例えばBAFF遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)−リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、上記BAFF遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、BAFF遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、患者成人1人当たり約0.0001−100mg、好ましくは約0.001−10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。アンチセンスヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1×103pfu−1×1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。アンチセンスヌクレオチドを導入した細胞の場合は、1×104細胞/body−1×1015細胞/body程度を投与すればよい。
【0137】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0138】
実施例1 ヒト組織サンプルからトータルRNAの調製
ヒトの正常な大腸組織117サンプル、潰瘍性大腸炎患者の大腸病変組織3サンプル、およびクローン病患者の大腸病変組織2サンプルから、それぞれ常法に従いトータル RNA を調製した。
【0139】
さらにヒトの右心房正常組織151サンプル、右心室正常組織140サンプル、左心房正常組織132サンプル、子宮筋層正常組織90サンプル、子宮頚部正常組織90サンプル、胸正常組織84サンプル、肺正常組織77サンプル、胸腺正常組織67サンプル、卵巣正常組織62サンプル、腎臓正常組織61サンプル、皮膚正常組織56サンプル、小腸正常組織48サンプル、直腸正常組織46サンプル、肝臓正常組織42サンプル、白血球正常組織37サンプル、胃正常組織37サンプル、子宮正常組織32サンプル、子宮内膜正常組織31サンプル、筋肉正常組織30サンプル、前立腺正常組織28サンプル、脾臓正常組織26サンプル、脂肪組織正常組織25サンプル、膵臓正常組織20サンプル、食道正常組織20サンプル、十二指腸正常組織17サンプル、甲状腺正常組織13サンプル、卵管正常組織13サンプル、リンパ節正常組織11サンプル、静脈正常組織8サンプル、軟組織正常組織7サンプル、前頭葉皮質正常組織7サンプル、海馬正常組織6サンプル、網正常組織5サンプル、左心室正常組織5サンプル、喉頭正常組織5サンプル、心臓正常組織5サンプル、側頭葉皮質正常組織5サンプル、骨正常組織5サンプル、副腎正常組織5サンプル、精嚢正常組織4サンプル、小脳正常組織4サンプルおよび膀胱正常組織4サンプルより、それぞれ常法に従いトータル RNA を調製した。
【0140】
実施例2 DNAチップ解析
実施例1に示したサンプルより調製したtotal RNAを用いて、DNAチップ解析を行った。なお、DNAチップ解析はAffymetrix社Gene Chip Human Genome U95セットを用いて行った。具体的には、解析は、(1) total RNAからcDNAの調製、(2) 該cDNAからラベル化cRNAの調製、(3) ラベル化cRNAのフラグメント化、(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ、(5) プローブアレイの染色、(6) プローブアレイのスキャン、及び(7) 遺伝子発現解析、の手順で行った。
【0141】
(1) total RNAからcDNAの調製
実施例1で得られた各total RNA 10μgとT7−(dT)24プライマー(Amersham社製)100pmolを含む11μLの混合液を、70℃、10分間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、SuperScript Choice System for cDNA Synthesis(Gibco−BRL社製)に含まれる5×First Strand cDNA Buffer 4μL、該キットに含まれる0.1M DTT (dithiothreitol)2μL、該キットに含まれる10mM dNTP Mix 1μLを添加し、42℃で2分間加熱した。更に、該キットに含まれるSuper ScriptII RT 2μL(400U)を添加し、42℃で1時間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、DEPC処理水(ナカライテスク社製)滅菌蒸留水91μL、該キットに含まれる5×Second Strand Reaction Buffer 30μL、10mM dNTP Mix 3μL、該キットに含まれるE. coli DNA Ligase 1μL(10U)、該キットに含まれるE. coli DNA Polymerase I 4μL(40U)、該キットに含まれるE. coli RNaseH 1μL(2U)を添加し、16℃で2時間反応させた。次いで、該キットに含まれるT4 DNA Polymerase 2μL(10U)を加え、16℃で5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μLを添加した。次いで、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(ニッポンジーン社製)162μLを添加し、混合した。該混合液を、予め室温、14,000rpm、30秒間遠心分離しておいたPhase Lock Gel Light(エッペンドルフ社製)に移し、室温で14,000rpm、2分間遠心分離した後、145μLの水層をエッペンドルフチューブに移した。得られた溶液に、7.5M酢酸アンモニウム溶液72.5μL、エタノール362.5μLを加えて混合した後、4℃で14,000rpm、20分間遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、作製したcDNAを含むペレットを得た。その後、該ペレットに80%エタノール0.5mLを添加し、4℃で14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨てた。再度同様の操作を行った後、該ペレットを乾燥させ、DEPC処理水12μLに溶解した。以上の操作により実施例1で調製した各トータル RNAから、各cDNAを取得した。
【0142】
(2) cDNAからラベル化cRNAの調製
各cDNA溶液5μLに、DEPC処理水17μL、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(ENZO社製)に含まれる10×HY Reaction Buffer 4μL、該キットに含まれる10×Biotin Labeled Ribonucleotides 4μL、該キットに含まれる10×DTT 4μL、該キットに含まれる10×RNase Inhibitor Mix 4μL、該キットに含まれる20×T7 RNA Polymerase 2μLを混合し、37℃で5時間反応させて、ラベル化cRNAを調製した。反応後、該反応液にDEPC処理水60μLを加えたのち、RNeasy Mini Kit(GIAGEN社製)を用いて添付プロトコールに従い、調製したラベル化cRNAを精製した。
【0143】
(3) ラベル化cRNAのフラグメント化
各ラベル化cRNA 20μgを含む溶液に、5×Fragmentation Buffer(200mMトリス−酢酸 pH8.1(Sigma社製)、 500mM酢酸カリウム(Sigma社製)、150mM酢酸マグネシウム(Sigma社製))8μLを加えた反応液40μLを、94℃で35分間加熱した後、氷中に置いた。これによって、ラベル化cRNAをフラグメント化した。
【0144】
(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ
各フラグメント化cRNA 40μLに、5nM Control Oligo B2(Amersham社製)4μL、100×Control cRNA Cocktail 4μL、Herring sperm DNA(Promega社製)40μg、Acetylated BSA(Gibco−BRL社製)200μg、2×MES Hybridization Buffer(200mM MES、2M [Na+], 40mM EDTA、0.02% Tween20 (Pierce社製)、pH6.5〜6.7) 200μL、及びDEPC処理水144μLを混合し、400μLのハイブリカクテルを得た。得られた各ハイブリカクテルを99℃で5分間加熱し、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温で14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。
【0145】
一方、1×MESハイブリダイゼーションバッファーで満たしたHuman genome U95プローブアレイ(Affymetrix社製)を、ハイブリオーブン内で、45℃、60rpmで10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼーションバッファーを除去してプローブアレイを調製した。上記で得られたハイブリカクテル上清200μLを該プローブアレイにそれぞれ添加し、ハイブリオーブン内で45℃、60rpmで16時間回転させ、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを得た。
【0146】
(5) プローブアレイの染色
上記で得られたハイブリダイズ済みプローブアレイそれぞれからハイブリカクテルを回収除去した後、Non−Stringent Wash Buffer(6×SSPE(20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈)、0.01%Tween20、0.005%Antifoam0−30(Sigma社製))で満たした。次にNon−Stringent Wash BufferおよびStringent Wash Buffer(100mM MES、0.1M NaCl、0.01%Tween20)をセットしたGeneChip Fluidics Station 400(Affymetrix社製)の所定の位置にフラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを装着した。その後染色プロトコールEuKGE−WS2に従って、1次染色液(10μg/mL Streptavidin Phycoerythrin (SAPE)(MolecμLar Probe社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl(Ambion社製)、0.05%Tween20、0.005%Antifoam0−30)、 2次染色液(100μg/mL Goat IgG (Sigma社製)、3μg/mL Biotinylated Anti−Streptavidin antibody (Vector Laboratories社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl、0.05%Tween20、0.005%Antifoam0−30)により染色した。
【0147】
(6) プローブアレイのスキャン、及び (7) 遺伝子発現量解析
染色した各プローブアレイをHP GeneArray Scanner(Affymetrix社製)に供し、染色パターンを読み取った。染色パターンをもとにGeneChip Workstation System(Affymetrix社製)によってプローブアレイ上の遺伝子の発現を解析した。次に、解析プロトコールに従ってNormalizationを行ったのち、各サンプルにおける各プローブ(各遺伝子)の発現量(average difference)を算出した。同一のプローブにつき、サンプルの種類ごとに遺伝子発現量の平均値を求め、さらに各サンプル種類間における発現量の変化率を求めた。
【0148】
実施例3 クローン病患者大腸病変組織にて、発現が増加している遺伝子の選抜
実施例2で行ったDNAチップ解析による遺伝子発現の解析結果から、結腸正常組織に比べてクローン病患者の結腸病変組織で発現が増加しているプローブセットのうち、最も変化率の大きいプローブから400番目までを選択した。また、潰瘍性大腸炎患者の大腸病変組織に比べてクローン病患者の大腸病変組織で発現が増加しているプローブセットについても変化率の大きいものから400番目までを選択した。両グループで共通に選抜されたプローブにつき解析した結果、共通に発現増加するプローブとして67プローブが選択された。
【0149】
次にこれら67プローブの中から、より病態との関連性の高いプローブを選択する目的で、病変関連組織(大腸を含む消化管)およびクローン病の発症機構に関与する免疫系組織以外の組織において発現量の低いプローブを選択した。すなわち、これら67プローブについて、結腸正常組織を含む43種類の正常組織における発現量をDNAチップの結果より解析し、消化管もしくは免疫系組織以外の組織において発現量の低いプローブを選択した。次に、これら選択されたプローブの対応遺伝子を調べ、これらの遺伝子の中から、さらに薬剤ターゲットとなる機能を有する遺伝子を選別した。
その結果、BAFF遺伝子が選択された。
【0150】
【表1】
【0151】
表中、Human U95プローブ名は Human Genome U95 Chip におけるプローブ名を示す。また表中 Acc Noは、Genbankデータベースにおけるアクセッション番号を示す。また表中、変動倍率は、Human Genome U95 Chipで解析した結腸正常組織の遺伝子発現量を1とした場合におけるクローン病患者の結腸病変組織での遺伝子発現量、および潰瘍性大腸炎患者の遺伝子発現量を1とした場合におけるクローン病患者の結腸病変組織での遺伝子発現量を示す。また各遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列を示す後記配列表の配列番号も合わせて示す。
【0152】
以上のように、選別された遺伝子は、正常な結腸組織と比較して クローン病患者の結腸組織で特異的に発現上昇しており、また病態との関連性の高い遺伝子であった。従ってこの遺伝子およびその発現産物(タンパク質)は、クローン病に関するマーカーとして応用可能であると考えられた。また、この遺伝子またはその発現産物(タンパク質)を用いることによって、クローン病を緩和、抑制する治療薬の候補薬をスクリーニングすることが可能であると考えられた。
【0153】
実施例4 BAFF遺伝子発現抑制剤のスクリーニング
Caco−2細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号HTB−37、大日本製薬株式会社)、HT−29細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号HTB−38、大日本製薬株式会社)、またはCOLO 205 細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATTC株番号CCL−222、大日本製薬株式会社)を、10% 不活性化牛胎児血清、2mMグルタミン、50IU/mlペニシリン、50mg/mlストレプトマイシン含有Dulbecco’s Modified Eagle培地を用い、37℃、CO2濃度5%の条件下で培養する。計数したCaco−2細胞、HT−29細胞またはCOLO 205 細胞を24穴組織培養プレートに0.6−1.2x105 cells/cm2で播種し、37℃、CO2濃度5%で培養する。これらの細胞に対して刺激剤(ホルボール12−ミリステート13アセテート、サイトカイン(Interferonγ、Tumor necrosis factor−α、Interleukin−1、Interleukin−6等)あるいはButyrate)の存在下で被験物質含有溶液(100 μM、10 μM、および 1 μMの各濃度の被験物質を含む溶液)を添加する。ここで対照実験として、被験物質無添加の細胞についても同様の培養を行う(コントロール)。これらの各培養細胞より抽出したRNAを用いて実施例2に記載された方法で、BAFF遺伝子の発現量を調べる。その発現量からコントロールと比べて、BAFF遺伝子の発現量が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50% 以上低下している培養系に添加した被験物質を、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【0154】
実施例5 BAFFの機能(活性)抑制剤のスクリーニング
BAFFは、TNFファミリーに属し、TNFリガンドスーパーファミリーメンバー13B、B細胞活性化因子、TALL1、もしくはTHANKとも呼ばれる。活性の測定方法としてTNFの活性測定系やB細胞活性化の測定系を用いることができる。実際にBAFFを用いて活性を測定している論文として、Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263, 1999(B細胞の増殖活性化)や、Mukhopadhyay, Aら、J. Biol. Chem., 274, 15978−15981, 1999(NF−kB, JNK 活性化、がん細胞に対する細胞毒性とCaspase−3 活性化)などが挙げられる。
ヒト扁桃腺B細胞は、マグネティックビーズ(MACS)などを用いてCD3+を除いておく。96穴プレートに105 cells 懸濁液を添加する(RPMI−1640, 10% FBS, 5x10−5 M 2ME, 100 u/ml ペニシリン, 100 ug/ml ストレプトマイシンにて懸濁)。被験物質を添加した後、BAFF(もしくはコントロールとしてIL−2)を、100 ng/ml になるよう添加し、72 時間培養後、0.5 uCi/well の[3H]thymidine(6.7 Ci/mM)を添加し、さらに20 時間培養し、取り込み率を測定する。ウェルはあらかじめ 50 ul の 10 ug/ml anti−human IgM mAb、12 時間 4℃にて、コートしておく(Moore, P. A.ら、Science, 285, 260−263, 1999)。
B細胞の[3H]thymidineの取り込み率が被験物質無添加群に比して10%、好ましくは30%、特に好ましくは50% 以上減少した系に添加していた被験物質を、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【0155】
実施例6 BAFFの機能(活性)抑制剤のスクリーニング
Mukhopadhyay, Aら、J. Biol. Chem., 274, 15978−15981, 1999の方法を参考に、BAFFのアポトーシス促進活性を測定することができ、この測定系を用いてBAFFの機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングすることができる。
U937等の腫瘍細胞を 96穴プレートに1 ウェルあたり5x103 cells/0.1 mlにて播種し、被験物質を添加した後、BAFF(0.1 nM)を添加する。72 時間37℃で培養した後、生存細胞もしくはアポトーシスを測定する。Caspase−3活性の場合、被験物質と10 nM のBAFF、 10 ug/ml のcycloheximideを添加し、2 時間の処理の後、市販のCaspase−3 アッセイキット(Caspase−3 Assay Kit, Cell&Molecular Technologies Inc. 社)にて測定する。
候補物質のスクリーニングは、被験物質を添加しない細胞に比して被験物質を添加した細胞のCaspase−3活性が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50% 以上減少した系に添加していた被験物質を、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【0156】
実施例7 BAFFの機能(活性)抑制剤のスクリーニング
Gross J.A.ら、Nature, 404, 995−999, 2000の方法を参考に、BAFFのレセプター結合アッセイを行うことができ、この測定系を用いてBAFFの機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングすることができる。
ヒトBAFFタンパク質を125I−Na(Amersham)およびIodo−beads(Pierce)を用いて標識し、Sephadex G25 PD−10カラムにて精製しておく。BHK細胞(baby hamster kidney cell、大日本製薬株式会社)にTACIもしくはBCMAをトランスフェクトし発現させた細胞、2x105 cells を被験化合物および1.0 nMの標識BAFFとともに4℃にてインキュベートする。2時間後に洗浄し、放射活性をガンマカウンターにて測定する。
候補物質のスクリーニングは、被験物質を添加しない細胞に比して被験物質を添加した細胞の放射活性が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50% 以上減少した系に添加していた被験物質を、クローン病を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【0157】
【発明の効果】
本発明によって、クローン病患者の結腸病変組織において、結腸正常組織と比較して特異的に発現増大している遺伝子(BAFF遺伝子)が明らかになった。かかる遺伝子はクローン病の遺伝子診断に用いられるマーカー遺伝子(プローブ、プライマー)として有用である。かかるマーカー遺伝子によればクローン病であるかどうか、その原因を明らかにすることができ(診断精度が向上)、これによりより適切な治療を施すことが可能となる。すなわち、クローン病の適切な治療のためのツールとして利用することができる。
【0158】
また、上記遺伝子の発現増加とクローン病との関連性から、該遺伝子の発現を抑制する化合物は、クローン病の治療薬として有用と考えられる。従って、これら遺伝子の発現の抑制または減少、または当該遺伝子がコードするタンパク質の発現や機能(活性)の抑制または減少を指標とすることによって、クローン病の治療薬となり得る候補薬をスクリーニングし選別することが可能である。本発明は、このようなクローン病治療薬の開発技術をも提供する。
【0159】
【配列表】
Claims (19)
- BAFF 遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、クローン病の疾患マーカー。
- クローン病の検出においてプローブまたはプライマーとして使用される請求項1記載の疾患マーカー。
- 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、クローン病の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと請求項1または2に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。 - 工程(c)におけるクローン病の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる、請求項3に記載のクローン病の検出方法。
- BAFFを認識する抗体を含有する、クローン病の疾患マーカー。
- クローン病の検出においてプローブとして使用される請求項5記載の疾患マーカー。
- 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むクローン病の検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と請求項5または6に記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、クローン病の罹患を判断する工程。 - 工程(c)におけるクローン病の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる請求項7記載のクローン病の検出方法。
- 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFF遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とBAFF遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるBAFF遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFF遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。 - 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とBAFFのいずれかを発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるBAFFの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。 - 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの機能または活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質をBAFFに接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるBAFFの機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のBAFFの機能または活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの機能または活性の低下をもたらす被験物質を選択する工程。 - 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFの細胞増殖活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによる増殖活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによる増殖活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによる増殖活性を抑制する被験物質を選択する工程。 - 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、BAFFのアポトーシス促進活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質と、BAFF反応性細胞およびBAFFを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性と比較する工程、
(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、上記細胞のBAFFによるアポトーシス促進活性を抑制する被験物質を選択する工程。 - 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、受容体とBAFFの結合を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下でBAFFと受容体とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた受容体におけるBAFFの結合量を測定し、該結合量を被験物質を接触させない受容体における上記に対応するBAFFの結合量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、BAFFの結合量を減少させる被験物質を選択する工程。 - クローン病の改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、請求項9乃至14のいずれかに記載のスクリーニング方法。
- BAFF遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする、クローン病の改善または治療剤。
- BAFF遺伝子の発現を抑制する物質が請求項9記載のスクリーニング法により得られるものである、請求項16記載のクローン病の改善または治療剤。
- BAFFの発現量、機能または活性を抑制する物質を有効成分とする、クローン病の改善または治療剤。
- BAFFの発現量、機能または活性を抑制する物質が、請求項10乃至14に記載のスクリーニング法により得られるものである、請求項18記載のクローン病の改善または治療剤。
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