JP2004180597A - 光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび3−アシルオキシペンタンニトリルの製造方法 - Google Patents
光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび3−アシルオキシペンタンニトリルの製造方法 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの実用的な製造方法を提供する。
【解決手段】3−アシルオキシペンタンニトリル(但しアシルオキシ基は炭素数3以上)又は3−ヒドロキシペンタンニトリルに不斉加水分解能又は不斉アシル化能を有する酵素を作用させて、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル又は光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのエステルを製造する。また、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化物に酵素を作用させて高光学純度(通常95%e.e.以上)の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する。更に、(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに酵素を作用させて高光学純度(通常95%e.e.以上)の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する。
【選択図】 なし
【解決手段】3−アシルオキシペンタンニトリル(但しアシルオキシ基は炭素数3以上)又は3−ヒドロキシペンタンニトリルに不斉加水分解能又は不斉アシル化能を有する酵素を作用させて、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル又は光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのエステルを製造する。また、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化物に酵素を作用させて高光学純度(通常95%e.e.以上)の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する。更に、(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに酵素を作用させて高光学純度(通常95%e.e.以上)の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学活性を必要とする各種医薬品や農薬などの合成原料および中間体として有用な光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法およびその製造に用いる新規な合成中間体であるラセミ体または光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルに関する。より詳細には、本発明は、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル、特に(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを、工業的に実用可能な操作で、高い光学純度および高い収率で製造する方法およびそれに用いる新規な合成中間体であるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルおよび光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルに関する。
【0002】
【従来の技術】
光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル、特に(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルは、種々の医薬品や農薬などの製造原料や合成中間体として非常に有用である。そのため、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを工業的な生産に適用可能な実用的な方法で、高い光学純度および高い収率で円滑に製造することのできる方法の開発が強く求められてきた。
従来、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法としては、ラセミ体3−アセトキシペンタンニトリルを、シュードモナス・セパシア・リパーゼ(Pseudomonas cepacia lipase)を用いて不斉加水分解して(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アセトキシペンタンニトリルに光学分割する方法が知られている(非特許文献1を参照)。
この方法による場合は、光学純度90%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られるが、酵素の使用量が基質の2分の1と多いため経済的でなく、しかも収率が29%と低い。また、この方法では同時に生成する(S)−3−アセトキシペンタンニトリルを化学的に加水分解して光学活性な(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルにしているが、その収率も29%と低い。
【0003】
さらに、上記非特許文献1には、ラセミ体3−アセトキシペンタンニトリルのシュードモナス・セパシア・リパーゼによる前記不斉加水分解反応を、チオクラウンエーテル(1,4,8,11−テトラチアシクロテトラデカン)を添加して行うと、光学純度が99%e.e.以上の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと光学純度が94%e.e.の(S)−3−アセトキシペンタンニトリルがそれぞれ49%および35%の収率で得られることが記載されている。
しかしながら、そこでは反応に必要なチオクラウンエーテルの添加量が基質の10分の1質量と非常に多いため、コスト面および安全面からみると工業的に実施するには適していない。また、この非特許文献1の技術では、酵素による反応生成物である(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アセトキシペンタンニトリルの分離をシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて行っているが、この分離法も繁雑であって実用的ではなく、工業的に採用するには有利な方法ではない。
【0004】
上記のような状況下に、本発明者らは、3−ケトペンタンニトリルを酵素で不斉還元して光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する方法を発明して先に出願した(先願発明1を参照)。本発明者らのこの方法による場合は、94.8%e.e.という高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。
光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリを医薬品などの製造原料としてより有効に用いるには、その光学純度が高いほど望ましく、そのため光学純度のより高い光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリを製造し得る技術の開発が求められている。
【0005】
【非特許文献1】
“Journal of Organic Chemistry”,1997年,第62巻,p.9165−9172
【0006】
【非特許文献2】
“Tetrahedron Lett.”,1985年,第26巻、p.155−
【非特許文献3】
“Tetrahedron Lett.”,1992年,第33巻、p.1431−
【0007】
【先願発明1】
特願2001−309682
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、チオクラウンエーテルなどのような高価な添加剤を用いずに、更には従来よりも少ない不斉反応用酵素の使用量で、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを安全に、低コストで、しかも高い収率で得ることのできる、工業的に実用可能な光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法を提供することである。
さらに、本発明の目的は、従来よりも光学純度の高い光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを、簡単な操作で、高い収率で得ることのできる製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造に有用な新規な合成中間体を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは研究を重ねてきた。そしてそのような研究の一環として、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造に用いる原料化合物について種々検討を行った。その結果、前記非特許文献1の技術で出発化合物(原料化合物)として用いられている3−アセトキシペンタンニトリルとは異なる、新規な3−アシルオキシペンタンニトリル、すなわちペンタンニトリルの3−位置に結合したアシルオキシ基(R1COO−)におけるR1がメチル基ではなくて、炭素数が2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である3−アシルオキシペンタンニトリルを合成し、該新規な3−アシルオキシペンタンニトリル(ラセミ体)に不斉加水分解能を有する酵素を作用させたところ、非特許文献1の技術よりも少ない酵素の使用量で、しかもチオクラウンエーテルなどの特別の成分を添加しなくても、高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルが、それと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルと共に高い収率で得られることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記した新規な3−アシルオキシペンタンニトリル(ラセミ体)を出発化合物として用いる上記方法以外にも、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下に不斉アシル化能を有する酵素を作用させることにより、高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルが、その対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルと共に高い収率で得られることを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、光学活性な(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを不純物などとして含有する所定の光学純度の光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを、アシル化した後、それにより生成したアシル体に3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させると、不純物として含まれていた光学活性(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルは該酵素によってその一部しか加水分解されず、ほとんど大部分がアシル化物[すなわち(S)−3−アシルオキシペンタンニトリル]のままの形態で残留し、(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルのみが優先的に加水分解されることによって、光学純度の増した(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られること、特にこの方法による場合は、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが製造できることを見出した。
【0011】
さらに、本発明者らは、光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを不純物などとして含有する所定の光学純度を有する光学活性(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素を作用させると、不純物などとして含まれていた(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのみが優先的にアシル化されて除去でき、それによって光学純度の増した(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られること、特にこの方法による場合は、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが製造できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、
(I) 本発明における第1の発明は、下記の式(1);
【0013】
【化14】
(式中、R1は置換されていてもよい、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルに、該化合物の不斉加水分解能を有する酵素を作用させることを特徴とする、下記の式(2);
【0014】
【化15】
(式中、*は不斉炭素原子を示す。)
で表される光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびその対掌体をなす光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルのエステル化物である下記の式(3);
【0015】
【化16】
(式中、R1は前記と同じ基を示し、*は不斉炭素原子を示す。)
で表される光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの製造方法[以下この方法を「製造方法(i)」ということがある]である。
【0016】
(II) そして、本発明における第2の発明は、下記の式(4);
【0017】
【化17】
で表されるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で、該ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの不斉アシル化能を有する酵素を作用させることを特徴とする、下記の式(2);
【0018】
【化18】
(式中、*は不斉炭素原子を示す。)
で表される光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびその対掌体をなす光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルのエステル化物である光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの製造方法[以下この方法を「製造方法(ii)」ということがある]である。
【0019】
(III) さらに、本発明における第3の発明は、
・下記の式(1);
【0020】
【化19】
(式中、R1は置換されていてもよい、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリル[以下これを「ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリル(1)」ということがある];および、
・下記の式(3);
【0021】
【化20】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、R1は置換されていてもよい、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表される光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル[以下これを「光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(3)」ということがある];
である。
【0022】
(IV) そして、本発明における第4の発明は、所定の光学純度(A1)を有する下記の式(6);
【0023】
【化21】
で表される(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルをアシル化処理して(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換した後、3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させ、それにより得られる反応生成物から(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収することを特徴とする、前記光学純度(A1)よりも高い光学純度(A2)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法[以下この方法を「製造方法(iii)」ということがある]である。
【0024】
(V) さらに、本発明における第5の発明は、所定の光学純度(B1)を有する下記の式(9);
【0025】
【化22】
で表される(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素を作用させ、それにより得られる反応生成物から(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収することを特徴とする、前記光学純度(B1)よりも高い光学純度(B2)を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法[以下この方法を「製造方法(iv)」ということがある]である。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
《製造方法(i)の説明》
まず、本発明の製造方法(i)について説明する。
製造方法(i)は、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルに、該化合物の不斉加水分解能を有する酵素を作用させて、該ラセミ体を構成する(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルのうちの一方を選択的または優先的に加水分解して、上記の式(2)で表される光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(R体またはS体)およびその対掌体をなす光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルのエステル化物である上記の式(3)で表される光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(S体またはR体)を製造する方法である。
【0027】
この製造方法(i)では、不斉加水分解能を有する酵素がR体の3−アシルオキシペンタンニトリルを選択的または優先的に加水分解する酵素である場合は、光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルが製造され、また不斉加水分解能を有する酵素がS体の3−アシルオキシペンタンニトリルを選択的または優先的に加水分解する酵素である場合は、光学活性な(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルが製造される。
本発明における製造方法(i)では、不斉加水分解能を有する酵素としてR体の3−アシルオキシペンタンニトリルを選択的または優先的に加水分解する酵素を用いて、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを製造することが、得られる光学活性化合物の有用性、酵素の入手のし易さ、反応の立体選択性などの点から好ましい。
本発明の製造方法(i)で用いる不斉加水分解能を有する酵素の具体的な内容については、後で詳記する。
【0028】
本発明の製造方法(i)では、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルにおける基R1が、メチル基ではなくて、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であることが必要である。
基R1が炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であることによって、基R1がメチル基であるラセミ体3−アセトキシペンタンニトリルを使用する前記した従来技術(非特許文献1参照)に比べて、不斉加水分解能を有する酵素の使用量を低減することができ、しかもチオクラウンエーテルなどのような高価な添加剤を使用することなく、該従来技術よりも高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを高い収率で製造することができる。
【0029】
しかも、本発明の製造方法(i)で用いる基R1が炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である3−アシルオキシペンタンニトリルは、3−アセトキシペンタンニトリルに比べて脂肪族炭化水素系溶剤への溶解度が高いため、製造方法(i)で生成した反応生成物から光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを脂肪族炭化水素系溶剤を用いて抽出処理し、次いで抽出処理済みの反応生成物から光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する際に、脂肪族炭化水素系溶剤の使用量を大幅に低減することができ、更に脂肪族炭化水素系溶剤による抽出処理回数も低減することができ、工程の簡略化およびコストの削減を図ることができる。
かかる点から、基R1が置換されていてもよい炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを出発化合物として用いる本発明の製造方法(i)は、実用性に優れていて、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびその対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを工業的に生産性良く製造するのに適している。
【0030】
本発明の製造方法(i)で出発化合物として用いる上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルにおいて、基R1の具体例としては、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;エテニル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基などのアルキニル基を挙げることができる。これら基は、その炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が必要に応じて適当な置換基で置換されていてもよい。その際の置換基としては、例えばアルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルオキシ基、アリール基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等を挙げることができる。基R1は、ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの合成の容易性、取り扱い性、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルへの加水分解の容易性、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの収率、酵素の反応性などの点から、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数2〜7のアルキル基であることが好ましく、n−プロピル基であることがより好ましい。
【0031】
上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルに、該化合物の不斉加水分解能を有する酵素を作用させるに当たっては、ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルおよび不斉加水分解能を有する酵素を水性媒体中に溶解または分散して反応を行う方法が、円滑な反応、操作の容易性などの点から好ましく採用される。
不斉加水分解反応を行う水性媒体は、不斉加水分解能を有する酵素の種類に応じて酵素が働き易いpHに調整しておくことが必要であり、一般的には3〜12程度のpHにしておくことが好ましい。pHの調整は、水性媒体として所定のpHを有する緩衝水溶液を用いて行ってもよい。その際の緩衝水溶液としては、例えば、リン酸ナトリウム水溶液、リン酸カリウム水溶液などのようなリン酸アルカリ金属塩水溶液等の無機酸塩の緩衝水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液などの酢酸アルカリ金属塩等の有機酸塩の緩衝水溶液などを挙げることができる。また、反応系のpHを不斉加水分解反応に適したpHに保つために、不斉加水分解反応の初期および/または途中に水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などの塩基や酸などのpH調整剤を添加してもよい。
【0032】
不斉加水分解能を有する酵素の使用量は、使用する酵素の種類などに応じて、反応時間の遅延やラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを加水分解する際の選択性の低下が起こらないような量を適宜選択するとよい。例えば、従来から市販されている不斉加水分解能を有する酵素を用いる場合、一般に、ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの質量の0.0001〜3.0質量倍が好ましく、0.001〜1.0質量倍がより好ましく、0.001〜0.1質量倍が特に好ましい。
本発明の製造方法(i)では、出発化合物として基R1が炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを用いていることにより、ラセミ体3−アセトキシペンタンニトリルを用いる上記した従来技術(非特許文献1参照)に比べて不斉加水分解能を有する酵素の使用量を大幅に低減することができ、ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリル1質量部に対して不斉加水分解能を有する酵素の使用量が0.5質量部未満、特に0.1質量部以下であっても、目的とする光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌の配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを高収率で得ることができる。
【0033】
不斉加水分解反応の反応温度としては、温度が高すぎると酵素の安定性が低下したり酵素が失活する場合があり、一方温度が低すぎると反応速度が低下する場合があるので、通常5〜65℃の範囲であることが好ましく、20〜50℃の範囲であることがより好ましい。
不斉加水分解反応の反応時間は、使用する酵素の種類や量、反応温度などに応じて変わり得るが、通常0.1〜120時間程度、特に0.1〜48時間程度とするのが好ましい。
【0034】
上記の不斉加水分解反応によって、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(不斉加水分解能を有する酵素によって加水分解された一方の光学異性体)とそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(不斉加水分解能を有する酵素によって加水分解されずにそのまま残ったもう一方の光学異性体)を含有する反応生成物が得られる。
反応生成物からの光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの分離回収に当たっては、両者をそれぞれ円滑に分離回収できる方法であればいずれの方法を採用してもよく、例えば、下記(a1)または(b1)の方法を採用することができる。
【0035】
(a1)光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(反応液等)を、脂肪族炭化水素系溶剤により抽出処理して光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出して回収し、次いで光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル抽出した後の反応生成物から光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する方法。
(b1)光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(水性反応液等)に、非水溶性の有機溶剤を添加して十分に攪拌した後、水層と有機層に分液させ、生成した光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを有機層に移行させ、有機層を水層から分離した後に、有機層の溶剤を留去するか、または蒸留、カラムクロマトグラフィーなどにより処理して、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのそれぞれを分離回収(単離精製)する方法。
【0036】
前記(a1)の方法は、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのそれぞれを簡単な操作で別々に分離回収することができ、工業的に実施可能な簡便な方法であり、そのため(a1)の方法について具体的に説明する。
まず、不斉加水分解反応により得られた反応生成物(反応液)に適量の脂肪族炭化水素系溶剤を加えて十分に攪拌した後、静置して水層と有機層に分ける。有機層中には光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル多く含まれ、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルはあまり含まれていない。一方、水層には光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルが多く含まれる。
脂肪族炭化水素系溶剤による抽出操作は何回繰り返してもよい。そして、抽出処理に用いた有機層を集めて溶剤を留去することによって、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル含量の少ない光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのエステルを取得することができる。また、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを多く含む水層を適当な溶剤を用いて抽出処理して水層中の光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを溶剤中に移行させ、抽出処理に用いた溶剤を集めて溶剤を留去することによって、光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル含量の少ない、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを取得することができる。
【0037】
上記(a1)の方法において、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル反応生成物(反応液等)から光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出するための前記脂肪族炭化水素系溶剤としては、光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの抽出率、取り扱い性などの点から、炭素数5〜10の脂肪族炭化水素系溶剤が好ましく用いられる。好ましく用いられる炭素数5〜10の脂肪族炭化水素系溶剤の例としては、n−ペンタン、n−へキサン、n−ヘプタン、n−デカンなどの直鎖状脂肪族炭化水素系溶剤、メチルシクロヘキサンなどの側鎖がある脂肪族炭化水素等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、n−へキサンがより好ましく用いられる。
【0038】
光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの抽出効率にあわせて、脂肪族炭化水素系溶剤の使用量、抽出回数を適時設定すればよい。抽出1回当たりに使用する溶剤量はできるだけ少なく、かつ抽出回数はできるだけ少ないほうが、溶剤使用量が少なくすむため経済的である。好ましくは、反応生成物中に含まれる光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの全量を抽出できるように、抽出溶剤の使用量や抽出回数を設定するのが望ましい。それによって、光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを高収率で回収することができ、ひいては光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出分離した後の水層における光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの残存量が大幅に低減し、該水層から純度の高い光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを分離回収できるようになる。
脂肪族炭化水素系溶剤から分離回収した光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを既存の方法で加水分解することにより、水層から分離回収した光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルに対して対掌配置を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルにすることができる。
【0039】
光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを脂肪族炭化水素系溶剤によって抽出分離した後の水層中に残留する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルは、適当な有機溶剤を用いて抽出処理することによって水層から分離回収することができる。その際の有機溶剤としては、例えば、t−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;トルエンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そして、抽出処理に用いた有機溶剤を留去することによって、3−アシルオキシペンタンニトリル含有量の少ない、高純度の光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。必要に応じて蒸留することにより、更に高純度化することもできる。
【0040】
また、上記(b1)の方法では、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(水性反応液等)に添加する非水溶性の有機溶剤として、例えばt−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;トルエンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの1種または2種以上を用いることができる。
【0041】
本発明の製造方法(i)において出発化合物(原料化合物)として用いる上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリル[すなわち上記の式(1)において基R1がメチル基ではなく、置換されていてもよい炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で表される3−アシルオキシペンタンニトリル]は、従来知られていない新規な化合物である。
この新規な化合物は、公知のエステル化法に準じて、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルを式;R1COOH(式中、R1は置換されていてもよい炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す)で表されるカルボン酸、そのハロゲン化物、無水物、エステル等からなるエステル化剤(アシル化剤)を用いてエステル化することにより製造することができる。
上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの製造に用いるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルは既知の化合物であって、既知の方法(例えば非特許文献2および非特許文献3を参照)によって製造することができる。
何ら限定されるものではないが、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの製造法を以下に例示する。
【0042】
[式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの製造法]
例えば、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、塩基の存在下で、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、酪酸ブロマイドなどの炭素数3以上のカルボン酸ハロゲン化物、または無水プロピオン酸、無水酪酸などの炭素数3以上のカルボン酸無水物を作用させて、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルのヒドロキシル基をアシル化することによって、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを製造する。
この反応は、無溶剤下でも実施できるが、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;ヘキサン、ペンタンなどの炭化水素類;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトンなどの有機溶剤の1種または2種以上を用いて実施するのが好ましい。
【0043】
その際に、前記した酸ハロゲン化物または酸無水物の使用量は、基質であるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに対して1.0当量以上であることが好ましい。1.0当量未満であると未反応のラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルが生じ、効率が悪くなる。
【0044】
また、前記した塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類;ピリジン、イミダゾールなどの芳香族窒素化合物;ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシドなどの金属アルコキシド;炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸水素塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウムなどアルカリ金属水素化物などを挙げることができ、これらは単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
塩基の使用量は、酸ハロゲン化物もしくは酸無水物と等モル程度とすることが好ましい。
【0045】
アシル化反応の終了後に、反応系に水を添加し、次いで酢酸エチル、トルエンなどの有機溶剤を用いて生成したラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出し、脱溶剤することによって、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを得ることができる。それを更に必要に応じてシリカゲルカラムクロマトグラフィー、蒸留などで精製することによって、高純度化してもよい。
【0046】
また、本発明の製造方法(i)で得られる上記の式(3)で表される光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル[すなわちその基R1が炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル]も、従来知られていない新規な化合物である。
本発明の製造方法(i)で得られる上記の式(3)で表される新規な光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの立体構造に対応して、それを加水分解することによっても、光学活性なR体またはS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。
【0047】
《製造方法(ii)の説明》
次に、本発明の製造方法(ii)について説明する。
製造方法(ii)は、上記の式(4)で表されるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で、該ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの不斉アシル化能を有する酵素を作用させて、該ラセミ体を構成する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのうちの一方を選択的または優先的にアシル化して、上記の式(2)で表される光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(R体またはS体)と、該光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの対掌体をなす光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(S体またはR体)のエステル化物である光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(S体またはR体)を製造する方法である。
【0048】
この製造方法(ii)において、不斉アシル化能を有する酵素がR体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを選択的または優先的にアシル化する酵素である場合は、光学活性な(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルと(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが製造され、また不斉アシル化能を有する酵素がS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを選択的または優先的にアシル化する酵素である場合は、光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルが製造される。
本発明における製造方法(ii)では、不斉アシル化能を有する酵素としてR体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを選択的または優先的にアシル化する酵素を用いて、(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルと(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造することが、酵素の入手のし易さ、反応の立体選択性などの点から好ましい。
【0049】
製造方法(ii)で出発化合物として用いるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルは、前記したように公知の化合物であり(非特許文献2および3を参照)、該公知の方法により合成することができる。
製造方法(ii)で用いる、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの不斉アシル化能を有する酵素については後で詳細に説明する。
【0050】
本発明の製造方法(ii)において、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で不斉アシル化能を有する酵素を作用させるに当たっては、不斉アシル化が円滑に行われ得る態様であればいずれでもよく、一般的には、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル、アシル化剤および不斉アシル化能を有する酵素を混合する方法が用いられる。
その際の不斉アシル化反応は、溶剤を加えなくても実施可能であるが、溶剤中で行うのが反応の円滑な進行の点から好ましい。溶剤としては不斉アシル化反応を阻害するものでなければいずれも使用可能で、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテルなどのエーテル類;メチルエチルケトンなどのケトン類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエンなどの炭化水素類;酢酸エチルなどのエステル類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0051】
ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルをアシル化するためのアシル化剤としては、カルボン酸(例えば、プロピオン酸、酪酸など);酸ハロゲン化物(例えば、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、酪酸ブロマイドなど);酸無水物(例えば、無水プロピオン酸、無水酪酸など);カルボン酸エステルなどを挙げることができ、そのうちでもカルボン酸エステルが目的物の収率、 などの点から好ましく用いられる。
本発明の製造方法(ii)でアシル化剤として好ましく用いられるカルボン酸エステルとして、下記の式(5);
【0052】
【化23】
(式中、R2およびR3はそれぞれ独立して置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0053】
上記の式(5)で表されるカルボン酸エステルにおいて、基R2およびR3の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;エテニル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基;またはエチニル基、プロピニル基、ブチニル基などのアルキニル基などを挙げることができる。
基R2およびR3の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が適当な置換基で置換されていてもよく、置換基としては、例えば、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルオキシ基、アリール基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
【0054】
上記の式(5)で表されるカルボン酸エステルにおいて、基R2はエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数2〜7のアルキル基であることがアシル化の容易性、アシル化剤の入手容易性、酵素の反応性などの点から好ましく、n−プロピル基であることがより好ましい。また、基R3はビニル基であることが反応効率の点から好ましい。
【0055】
不斉アシル化能を有する酵素の使用量は、使用する酵素の種類などに応じて、反応時間の遅延やラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルをアシル化する際の選択性の低下が起こらないような量を適宜選択するとよい。例えば、従来から市販されている不斉アシル化能を有する酵素を用いる場合、一般に、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの質量の0.0001〜3.0質量倍が好ましく、0.001〜1.0質量倍がより好ましく、0.001〜0.1質量倍が特に好ましい。
【0056】
不斉アシル化反応の反応温度としては、温度が高すぎると酵素の安定性が低下したり酵素が失活する場合があり、一方温度が低すぎると反応速度が低下する場合があるので、通常5〜65℃の範囲であることが好ましく、20〜50℃の範囲であることがより好ましい。
不斉アシル化反応の反応時間は、使用する酵素の種類や量、反応温度などに応じて変わり得るが、通常0.1〜120時間程度、特に0.1〜48時間程度とすることが好ましい。
【0057】
上記の不斉アシル化反応によって、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(不斉アシル化能を有する酵素によってアシル化されずにそのまま残った一方の光学異性体)と、それと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(不斉アシル化能を有する酵素によってアシル化されたもう一方光学異性体)を含有する反応生成物が得られる。
反応生成物からの光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの分離回収に当たっては、両者をそれぞれ円滑に分離回収できる方法であればいずれの方法を採用してもよい。例えば、この製造方法(ii)で生成した光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(反応溶液)の溶剤を留去するか、または蒸留、カラムクロマトグラフィーなどにより処理して、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのそれぞれを分離回収(単離精製)する方法などを採用することができる。
【0058】
この製造方法(ii)で得られる光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルは、例えばメタノール中で水酸化ナトリウム水溶液を添加して加水分解する方法などのような公知のエステル加水分解法で加水分解することにより、対応する立体配置を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルにすることができる。
【0059】
《製造方法(iii)の説明》
次に、本発明の製造方法(iii)について説明する。
本発明の製造方法(iii)は、所定の光学純度(A1)を有する光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを出発化合物として用いて、それよりも高い光学純度(A2)を有する光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する方法であり、所定の光学純度(A1)を有する上記の式(6)で表される光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを、アシル化剤で処理して(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換した後、3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させ、それにより得られる反応生成物から(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収することにより、より高い光学純度(A2)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する方法である。
本発明の製造方法(iii)による場合は、一般に95%e.e.以上の高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを円滑に製造することができる。
【0060】
本発明の製造方法(iii)においては、出発物質として用いる光学純度(A1)を有する光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製法や入手法は特に制限されず、化学合成方法または酵素を用いた合成方法のいずれで製造されたものであってもよい。何ら限定されるものではないが、出発物質として用いる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルとしては、例えば、本発明の前記した製造方法(i)または製造方法(ii)で得られる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル、本出願人の先願発明である前記した先願発明1の方法で得られる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルなどを挙げることができる。
【0061】
出発物質として用いる光学純度(A1)の光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの光学純度は特に制限されないが、一般には、光学純度が20%e.e.以上で95%e.e.未満のものが好ましく用いられ、光学純度が50%e.e.以上で95%e.e.未満のものがより好ましく用いられ、光学純度が80%e.e.以上で95%e.e.未満のものが更に好ましく用いられる。
【0062】
製造方法(iii)における光学純度(A1)の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化処理は、化学的方法、酵素的方法のいずれで行ってもよい。例えば、アシル化剤として、下記の式(7);
【0063】
【化24】
R2COOH (7)
(式中、R2は置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表されるカルボン酸、そのハロゲン化物、無水物、エステル化物などのアシル化剤を用いて行うことができる。
【0064】
出発物質である光学純度(A1)の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを上記したアシル化剤を用いてアシル化すると、下記の式(8);
【0065】
【化25】
(式中、R2は前記と同じ基を示す。)
で表される(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換される。
【0066】
上記したアシル化剤およびそれを用いて得られる上記の式(8)で表される(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルにおいて、基R2の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;エテニル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基;またはエチニル基、プロピニル基、ブチニル基などのアルキニル基などを挙げることができる。基R2の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が適当な置換基で置換されていてもよく、置換基としては、例えば、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルオキシ基、アリール基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
上記の基のなかでも、酵素の反応性や加水分解反応後の目的物の分離回収の容易さなどの点からは、R2は炭素数2〜7のアルキル基であることが好ましく、n−プロピル基であることがより好ましい。
【0067】
この製造方法(iii)では、出発物質である光学純度(A1)の光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化と同時に、該出発物質に不純物などとして含まれている(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルもアシル化されて、(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換される。
【0068】
上記アシル化処理により生成する(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを、未精製のままで、または必要に応じてシリカゲルクロマトグラフィー、蒸留などによって精製した後に、3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させて、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに転換する。この加水分解処理では、前記アシル化処理によって(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルと同時に生成した(S)−3−アシルオキシペンタンニトリル[不純物などとして含まれていた(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化物]は、その一部しか加水分解されず、ほとんど大部分がアシル化物のままで反応系に残るので、この酵素処理により生成した反応生成物から、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを別々に回収することによって、不純物などとして含まれていた(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルがアシル化物として分離させて、より高い光学純度(A2)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られる。この製造方法(iii)で用いる3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素については後で詳細に説明する。
【0069】
(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに、R体を優先的に加水分解する酵素を作用させるに当たっては、アシル化処理により得られた、(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを不純物として含む(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルおよび前記酵素を水性媒体中に溶解または分散して反応を行う方法が好ましく採用される。
【0070】
加水分解反応を行う水性媒体は、加水分解能を有する酵素の種類に応じて酵素が働き易いpHに調整しておくことが必要であり、一般的には3〜12程度のpHにしておくことが好ましい。pHの調整は、水性媒体として所定のpHを有する緩衝水溶液を用いて行ってもよい。その際の緩衝水溶液としては、例えば、リン酸ナトリウム水溶液、リン酸カリウム水溶液などのようなリン酸アルカリ金属塩水溶液等の無機酸塩の緩衝水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液などの酢酸アルカリ金属塩等の有機酸塩の緩衝水溶液などを挙げることができる。また、反応系のpHを(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルの選択的または優先的な加水分解に適したpHに保つために、加水分解反応の初期および/または途中に水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などの塩基や酸などのpH調整剤を添加してもよい。
【0071】
酵素の使用量は、使用する酵素の種類などに応じて、反応時間の遅延や(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを加水分解する際の選択性の低下が起こらないような量を適宜選択するとよい。例えば、従来から市販されているR体を優先的に加水分解する酵素を用いる場合、一般に、アシル化処理により得られた粗(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルの質量の0.0001〜3.0質量倍が好ましく、0.001〜1.0質量倍がより好ましく、0.001〜0.1質量倍が特に好ましい。
【0072】
加水分解反応の温度としては、温度が高すぎると酵素の安定性が低下したり酵素が失活する場合があり、一方温度が低すぎると反応速度が低下する場合があるので、通常5〜65℃の範囲であることが好ましく、20〜50℃の範囲であることがより好ましい。
加水分解反応の時間は、使用する酵素の種類や量、反応温度などに応じて変わり得るが、通常0.1〜120時間程度、特に0.1〜48時間程度とするのが好ましい。
【0073】
上記の加水分解反応によって、光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと不純物として含まれていた(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化物である(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを含む反応生成物が得られる。
反応生成物からの(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルとの分離に当たっては、両者を円滑に分離できる方法であればいずれの方法を採用してもよく、例えば、下記の(a3)または(b3)の方法を採用することができる。
【0074】
(a3) (R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリル(不純物)を含有する反応生成物(反応液等)を、脂肪族炭化水素系溶剤により抽出処理して(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出して除いた後、(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出した後の反応生成物から(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する方法。(b3) (R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリル(不純物)を含有する反応生成物(水性反応液等)に、非水溶性の有機溶剤を添加して十分に攪拌した後、水層と有機層に分液させ、生成した(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを有機層に移行させ、有機層を水層から分離した後に、有機層の溶剤を留去するか、または蒸留、カラムクロマトグラフィーなどにより処理して、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルのそれぞれを分離回収(単離精製)する方法。
【0075】
上記(a3)の方法について具体的に説明する。
(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを酵素によって優先的に加水分解して得られた反応生成物(反応液)に適量の該脂肪族炭化水素系溶剤を加えて十分に攪拌した後、静置して水層と有機層に分けると、有機層中には(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルが含まれ(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルは殆ど含まれておらず、一方水層には(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれる。脂肪族炭化水素系溶剤による抽出操作は必要に応じて繰り返し行ってもよい。
(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを含む水層を適当な溶剤を用いて抽出処理して水層中の光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを溶剤中に移行させ、抽出処理に用いた溶剤を集めて溶剤を留去することによって、(R)−3−アシルオキシペンタンニトリル含量の極めて少ない、高い光学純度(通常95%e.e.以上の光学純度)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを取得することができる。
その際に、(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを含む有機層の溶剤を留去することによって、光学純度の高い(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを取得する同時に取得することもできる。
【0076】
上記(a3)の方法において、加水分解後の反応生成物から(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出分離するための前記脂肪族炭化水素系溶剤としては、炭素数5〜10の脂肪族炭化水素系溶剤(例えばn−ペンタン、n−へキサン、n−ヘプタン、n−デカンなどの直鎖状脂肪族炭化水素系溶剤やメチルシクロヘキサンなどの側鎖がある脂肪族炭化水素など)が(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルの抽出率などの点から好ましく用いられ、そのうちでもn−へキサンがより好ましく用いられる。
【0077】
(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを脂肪族炭化水素系溶剤によって抽出分離した後の水層中に残留する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルは、適当な有機溶剤を用いて抽出処理することによって水層から分離回収することができる。その際の有機溶剤としては、例えば、t−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;トルエンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そして、抽出処理に用いた有機溶剤を留去することによって、S体の含有量の極めて少ない、高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。必要に応じて蒸留することにより、更に高純度化することもできる。
【0078】
また、上記(b3)の方法では、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(水性反応液等)に添加する非水溶性の有機溶剤として、例えばt−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;トルエンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの1種または2種以上を用いることができる。
【0079】
《製造方法(iv)の説明》
次に、本発明の製造方法(iv)について説明する。
本発明の製造方法(iv)は、所定の光学純度(B1)を有する上記の式(9)で表される(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを出発物質として用いて、それよりも高い光学純度(B2)を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する方法であって、所定の光学純度(B1)を有する上記の式(9)で表される(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルからなる出発物質に、アシル化剤の存在下で、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素を作用させ、それにより得られる反応生成物から高い光学純度(B2)を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する方法である。
本発明のこの製造方法(iv)による場合は、通常95%e.e.以上の高い光学純度を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。
【0080】
本発明の製造方法(iv)においては、出発物質として用いる光学純度(B1)を有する光学活性な(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製法や入手法は特に制限されず、化学合成方法または酵素を用いた合成方法のいずれで製造されたものであってもよい。何ら限定されるものではないが、出発物質として用いる(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルとしては、例えば、本発明の前記した製造方法(i)または製造方法(ii)で得られる(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル、本出願人の先願発明である前記した先願発明1の方法で得られる(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルなどを挙げることができる。
【0081】
出発物質として用いる光学純度(B1)の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの光学純度は特に制限されないが、一般には、光学純度が20%e.e.以上で95%e.e.未満のものが好ましく用いられ、光学純度が50%e.e.以上で95%e.e.未満のものがより好ましく用いられ、光学純度が80%e.e.以上で95%e.e.未満のものが更に好ましく用いられる。
【0082】
製造方法(iv)において、光学純度(B1)の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル中に不純物などとして含まれる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化に用いるアシル化剤は特に限定されずいずれでもよく、例えば、カルボン酸(例えば、プロピオン酸、酪酸など);酸ハロゲン化物(例えば、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、酪酸ブロマイドなど);酸無水物(例えば、無水プロピオン酸、無水酪酸など);カルボン酸エステルなどのアシル化剤を用いて行うことができる。アシル化剤としてカルボン酸エステルを用いる場合は、本発明の前記した製造方法(ii)と同様に、上記の式(5)で表されるカルボン酸エステルが好ましく用いられる。式(5)で表されるカルボン酸エステルにおける基R2およびR3の種類やその好ましい基の種類は、製造方法(ii)の場合と同様である。
製造方法(iv)で用いる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する酵素については後で詳細に説明する。
【0083】
(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素を作用させるに当たっては、溶剤を用いずにそのまま直接アシル化を行ってもよいが、溶剤中で行うことが、アシル化が円滑に進行する点から好ましい。その際に用いる溶剤としてはアシル化反応を阻害しないものであればいずれでもよく、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;メチルエチルケトンなどのケトン類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエンなどの炭化水素類;酢酸エチルなどのエステル類を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
また、酵素の使用量は、使用する酵素の種類などに応じて、反応時間の遅延や(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル中に含まれる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルをアシル化する際の選択性の低下が起こらないような量を適宜選択するとよい。例えば、従来から市販されているR体を優先的にアシル化する酵素を用いる場合、一般に、出発物質である(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの質量の0.0001〜3.0質量倍が好ましく、0.001〜1.0質量倍がより好ましく、0.001〜0.1質量倍が特に好ましい。
【0084】
アシル化反応の温度としては、酵素の安定性の維持や失活防止の点から、通常5〜65℃の範囲であることが好ましく、20〜50℃の範囲であることがより好ましい。
アシル化反応の時間は、使用する酵素の種類や量、反応温度などに応じて変わり得るが、通常0.1〜120時間程度、特に0.1〜48時間程度とするのが好ましい。
上記のアシル化反応によって、(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと不純物などとして含まれていた(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化物である(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを含む反応生成物が得られる。
反応生成物からの(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルとの分離に当たっては、例えば、製造方法(ii)における分離方法と同様の方法を採用することができる。
【0085】
《酵素の説明》
本発明の製造方法(i)〜(iv)で用いる酵素について説明する。
本発明の製造方法(i)では、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの不斉加水分解能を有する酵素(R体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する酵素またはS体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する酵素)を使用する。製造方法(i)では、R体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する活性を有する酵素が好ましく用いられる。
また、本発明の製造方法(ii)では、上記の式(4)で表されるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの不斉アシル化能を有する酵素(R体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する酵素またはS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する酵素)を使用する。製造方法(ii)では、R体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する活性を有する酵素が好ましく用いられる。
また、本発明の製造方法(iii)では、R体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する活性を有する酵素を使用する。
そして、本発明の製造方法(iv)では、R体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する活性を有する酵素を使用する。
【0086】
本発明の製造方法(i)〜(iv)で使用する酵素は、微生物起源の酵素であってもよいし、動物起源の酵素であってもよいし、または植物起源の酵素であってもよい。使用する酵素の純度や形態は、目的とする反応の活性を有していれば特に制限されるものではない。精製酵素、粗酵素、酵素含有物、微生物培養液、培養物、菌体、培養液、酵素遺伝子が導入されることによって目的とする反応の活性を獲得した組み換え微生物およびそれらの処理物など、種々の形態で用いることができる。ここで処理物とは、例えば、凍結乾燥品、アセトン乾燥品、摩擦物、自己消化物、超音波破砕物またはアルカリ処理物などを言う。更に上記のような種々の純度あるいは形態の酵素を、例えばシリカゲルやセラミックスなどの無機担体、セルロース、イオン交換樹脂などへの吸着法、ポリアクリルアミド法、含硫多糖ゲル法(例えばカラギーナンゲル法)、アルギン酸ゲル法、寒天ゲル法などの公知の方法により固定化して用いてもよい。
【0087】
本発明において好ましく用いられる酵素は、微生物または動物起源のリパーゼ、エステラーゼもしくはプロテアーゼである。より好ましいものとしては、アクロモバクター(Achromobacter)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、キャンディダ(Candida)属、クロモバクテリウム(Chromobacterium)属、フミコーラ(Humicola)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチスル(Bacillus)属の微生物を起源とするリパーゼ、牛膵臓由来のセリンプロテアーゼであるキモトリプシン、豚膵臓由来のリパーゼなどを挙げることができる。そのうちでも、バークホルデリア(Burkholderia)属、ムコール(Mucor)属、及びシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物を起源とするリパーゼ、豚膵臓由来のリパーゼなどが更に好ましく用いられる。これらの酵素は市販品の中から選択して使用することもできる。
同じ酵素であっても、反応系の形態などに応じて、例えば、水系では不斉加水分解能を示し、一方非水系では不斉アシル化能を示す酵素があり、種々の製品が市販されている。
【0088】
本発明で使用し得る市販の酵素の具体例としては、リパーゼAL(Achromobacter sp.由来、名糖産業社製)、リパーゼPL(Alcaligenes sp.由来、名糖産業社製)、リパーゼL−080(Alcaligenes sp.由来、Biocatalysts社製)、リパーゼPS(Burkholderia cepacia由来、天野エンザイム社製)、リパーゼAH(Burkholderia cepacia由来、天野エンザイム社製)、ノボザイム435(Candida antarctica由来、NOVO社製)、リパーゼSP525(Candida antarctica由来、NOVO社製)、リパーゼSP398(Candida sp.由来、NOVO社製)、リパーゼL−050(Chromobacterium viscosum由来、Biocatalysts社製)、リパーゼL−053(Humicola lanuginosa由来、Biocatalysts社製)、リパーゼSP523(Humicola sp.由来、NOVO社製)、リパーゼL−166P(Mucor javanicus由来、Biocatalysts社製)、リパーゼM(Mucor javanicus由来、天野エンザイム社製)、リポザイム10000L(Mucor meihei由来、NOVO社製)、リパーゼSP524(Mucor miehei由来、NOVO社製)、リパーゼSP388(Mucor miehei由来、NOVO社製)、リパーゼL−055P(Penicillium cyclopium由来、Biocatalysts社製)、LipaseSL(Pseudomonas cepacia由来、名糖産業)、リパーゼAK(Pseudomonas fluorescens由来、天野エンザイム社製)、リパーゼL−056(Pseudomonas fluorescens由来、Biocatalysts社製)、トヨチームLIP(Pseudomonas sp.由来、東洋紡社製)、豚膵臓由来リパーゼ(東洋醸造社製)などを挙げることができる。
【0089】
上記で具体的に挙げた市販の酵素は、いずれも、水性溶剤中(水系)ではR体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解して(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに変換し、一方、有機溶剤中または水および有機溶剤のいずれもが存在しない系(非水系)ではR体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化して(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換する性質を有する。
上記した多数の市販の酵素のうち、リパーゼPS(天野エンザイム社製)は少ない使用量で、且つ短い反応時間で、水系では(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解して光学活性の極めて高い(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルにすることができ、また非水系では(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化して光学活性の極めて高い(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを生成させることができるので、特に好ましい。
【0090】
また、S体を優先的に加水分解またはアシル化する酵素の具体例としては、リパーゼSP539(Bacillus sp.由来、NOVO社製)、キモトリプシン(牛膵臓由来、和光純薬社製)などを挙げることができる。これらの酵素は、いずれも、水性溶剤中(水系)ではS体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解して(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに変換し、一方、有機溶剤中または水および有機溶剤のいずれもが存在しない系(非水系)ではS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化して(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換する性質を有する。
【0091】
本発明の製造方法(i)では、製造を目的とする光学的立体構造に応じて、上記で例示した水系でR体またはS体の3−アシルオキシペンタンニトリルのいずれかを優先的に加水分解する酵素の1種または2種以上を用いることができる。また、本発明の製造方法(ii)では、製造を目的とする光学的立体構造に応じて、上記で例示した非水系でR体またはS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルのいずれかを優先的にアシル化する酵素の1種または2種以上を用いることができる。
更に、本発明の製造方法(iii)では、上記で例示した水系でR体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する酵素の1種または2種以上を用いることができる。
また、本発明の製造方法(iv)では、上記で例示した非水系でR体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する酵素を用いることができる。
【0092】
【実施例】
以下、実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
【0093】
《製造例1》[ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 60%水素化ナトリウム40gをテトラヒドロフラン300mlに懸濁し、アセトニトリル49.3gおよびプロピオン酸エチル122.5gを加えて、70℃で一晩攪拌した。室温まで自然放冷後、更に氷水中で冷却しながらn−へキサン300mlを添加した。析出物をろ過により取得し、n−ヘキサン500mlで洗浄後、減圧下に乾燥した。これにより、3−ケトぺンタンニトリル・ナトリウム塩98.7gが白色粉末として得られた。
(2) 氷冷下に、上記(1)で得られた3−ケトぺンタンニトリル・ナトリウム塩31.6gを蒸留水150mlに溶解し、6N塩酸でpHを4に調整した後、塩化メチレン200mlで3回抽出した。塩化メチレン抽出液を一緒にし、減圧下で塩化メチレンを留去し、残渣にエタノール100mlおよび水素化ホウ素ナトリウム11.4gを加えて氷冷下で2時間攪拌した。1N塩酸240mlを添加した後、酢酸エチル200mlで3回抽出した。酢酸エチル抽出液を一緒にして、無水硫酸ナトリウムで脱水処理した後、減圧下で酢酸エチルを留去し、20.1gのラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル20.7gを取得した。
(3) 上記(2)で得られたラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの1H−NMRの測定結果は次のとおりであった。
・1H−NMR δ(CDCl3):1.00(3H,t)、1.64(2H,dq)、2.27(1H,s)、2.54(2H,dd)、3.86−3.92(1H,m)
【0094】
《製造例2》[ラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 製造例1で得られたラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル10.0gに、ピリジン50ml、ジメチルアミノピリジン10mgおよびn−酪酸無水物23.9gを加えて氷中で一晩攪拌した。反応終了後、ジエチルエーテル1000mlを加え、1N塩酸500mlで2回、次に飽和食塩水500mlで1回洗浄した。次いで洗浄した反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下でジエチルエーテルを留去してラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリル16.5gを取得した。
(2) 上記(1)で得られたラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリルの1H−NMRおよびIRの測定結果は次のとおりであった。
・1H−NMR(400MHz,CDCl3)δppm:0.96(6H,m),1.59〜1.88(4H,m),2.33(2H,t),2.61(1H,dd),2.72(1H,dd),4.87〜5.00(1H,m)
・IR νcm−1:2970,2253,1740,1464,1420,1383,1252,1177,1097,976
【0095】
《製造例3》[ラセミ体3−イソブチリロキシペンタンニトリルの製造]
(1) ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル10.0gに、ピリジン50ml、ジメチルアミノピリジン10mgおよびイソ酪酸無水物23.9gを加えて氷中で一晩攪拌反応させた。反応後、ジエチルエーテル1000mlを加え、1N塩酸500mlで2回、次に飽和食塩水500mlで1回洗浄した。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下でジエチルエーテルを留去して、ラセミ体3−イソブチリロキシペンタンニトリル16.5gを取得した。
(2) 上記(1)で得られたラセミ体3−イソブチリロキシペンタンニトリルの1H−NMRおよびIRの測定結果は次のとおりであった。
・1H−NMR(400MHz,CDCl3)δppm:0.96(3H,t),1.20(6H,d),1.65〜1.87(2H,m),2.51〜2.67(2H,m),2.72(1H,dd),4.85〜4.96(1H,m)
・IR νcm−1:2974,2253,1736,1470,1421,1389,1340,1254,1190、1157,1068,972
【0096】
《製造例4》[ラセミ体3−イソバレリロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 3−ヒドロキシペンタンニトリル10.0gに、ピリジン50ml、ジメチルアミノピリジン10mgおよびイソ吉草酸無水物28.9gを加えて氷中で一晩反応させた。反応後、ジエチルエーテル1000mlを加え、1N塩酸500mlで2回、次に飽和食塩水500mlで1回洗浄した。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下でジエチルエーテルを留去して、ラセミ体3−イソバレリロキシペンタンニトリル18.0gを取得した。
(2) 上記(1)で得られたラセミ体3−イソバレリロキシペンタンニトリルの1H−NMRおよびIRの測定結果は次のとおりであった。
・1H−NMR(400MHz,CDCl3)δppm:0.90〜1.07(9H,m),1.65〜1.89(2H,m),1.98〜2.18(1H,m),2.23(2H,d),2.60(1H,dd),2.71(1H,dd),4.86〜5.05(1H,m)
・IR νcm−1:2964,2359,2253,1738,1466,1420,1371,1294,1252,1186,1095,1011,986
【0097】
《実施例1》[製造方法(i)による光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 製造例2で得られたラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリル50mgに、下記の表1に記載したそれぞれの市販リパーゼ1mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlを加えて30℃で下記の表1に示す反応時間で反応させた。反応後、酢酸エチル5mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して以下に記載のキャピラリーガスクロマトグラフィー分析条件で分析した。
【0098】
【0099】
(2) 上記(1)で得られた光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの絶対立体配置、収率および光学純度は以下の表1に示すとおりであった。
【0100】
【表1】
【0101】
上記の表1の結果から、本発明の製造方法(i)による場合は、少ない酵素の使用量で、しかも高価なチオクラウンエーテルを添加しなくても、高い光学純度を有する光学活性(R体)3−ヒドロキシペンタンニトリルが、非特許文献1に記載されている従来技術に比べて、高い収率で得られることがわかる。
【0102】
《実施例2》[製造方法(i)による光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
製造例2で得られたラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリル10mgに、下記の表2に記載したそれぞれの市販リパーゼ3mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlを加えて、30℃で表2に示す時間で反応させた。反応後、酢酸エチル5mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
この実施例2で得られた光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの絶対立体配置、収率および光学純度は以下の表2に示すとおりであった。
【0103】
【表2】
【0104】
上記の表2の結果からも、本発明の製造方法(i)による場合は、高価なチオクラウンエーテルを添加しなくても、高い光学純度を有する光学活性(R体)3−ヒドロキシペンタンニトリルが、非特許文献1に記載されている従来技術に比べて、高い収率で得られることがわかる。
【0105】
《実施例3》[製造方法(i)による光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
製造例3で得られたラセミ体3−イソブチリロキシペンタンニトリル10mgに、下記の表3に記載したそれぞれの市販リパーゼ3mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlを加えて、30℃で表3に示す時間で攪拌して反応させた。次いで、酢酸エチル5mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
この実施例3で得られた光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの絶対立体配置、収率および光学純度は以下の表3に示すとおりであった。
【0106】
【表3】
【0107】
上記の表3の結果からも、本発明の製造方法(i)による場合は、高価なチオクラウンエーテルを添加しなくても、高い光学純度を有する光学活性(R体)3−ヒドロキシペンタンニトリルが、高い収率で得られることがわかる。
【0108】
《実施例4》[製造方法(i)による光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
製造例4で得られたラセミ体3−イソバレリロキシペンタンニトリル10mgに、下記の表4に示したそれぞれの市販リパーゼ3mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlを加えて、30℃で表4に示す時間で攪拌して反応させた。次いで、酢酸エチル5mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
この実施例4で得られた光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの絶対立体配置、収率および光学純度は以下の表4に示すとおりであった。
【0109】
【表4】
【0110】
上記の表4の結果から、本発明の製造方法(i)による場合は、高価なチオクラウンエーテルを添加しなくても、光学活性(R体)3−ヒドロキシペンタンニトリルが、高い収率で得られることがわかる。
【0111】
《実施例5》[製造方法(ii)による(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリルの製造]
製造例1で得られたラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル1.0gに、リパーゼPS100mg、n−酪酸ビニル633mgおよびtert−ブチルメチルエーテル10mlを加えて30℃で35時間反応させた。反応後、反応液0.5mlに酢酸エチル9.5mlを加えて、その一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
その結果、光学純度92.2%e.e.の(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリルが32.5%の収率で得られた。
なお、この実施例5において、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行ったときの、3−ブチリロキシペンタンニトリルの溶出時間は、R体が23.83分、S体が25.73分であった。
【0112】
《実施例6》[製造方法(ii)による(R)−3−プロピオニロキシペンタンニトリルの製造]
製造例1で得られたラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル1.0gに、リパーゼPS100mg、n−プロピオン酸ビニル555mgおよびtert−ブチルメチルエーテル10mlを加えて30℃で22.5時間反応させた。反応後、反応液0.5mlに酢酸エチル9.5mlを加えて、その一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
その結果、光学純度91.7%e.e.の(R)−3−プロピオニロキシペンタンニトリルが30.9%の収率で得られた。
なお、この実施例6において、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行ったときの、3−プロピオニロキシペンタンニトリルの溶出時間は、R体が16.35分、S体が19.78分であった。
【0113】
《製造例5》[3−ケトペンタンニトリル・ナトリウム塩からの(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム7水和物0.8g、硫酸亜鉛7水和物60mg、硫酸鉄7水和物90mg、硫酸銅5水和物5mg、硫酸マンガン4水和物10mgおよび塩化ナトリウム100mg(いずれも900ml当たり)の組成からなる液体培地45mlとアデカノール(旭電化社製)1滴を、500ml容の坂口フラスコに入れて殺菌し、これに殺菌済みの40%グルコース水溶液5mlとCandida gropengiesseri (キャンディダ・グロッペンギッセリ)IFO0659を一白金耳を無菌的に接種し、30℃で72時間振とう培養した。
(2) 上記(1)の培養で得られた培養液1リットルを遠心分離にかけて菌体を集めて、グルコース4%を含んだ100mMリン酸緩衝液200ml(pH6.5)に懸濁した。
(3) 上記(2)で得られた菌体の懸濁液に、6N塩酸を用いてpH6.5を保ちながら、3−ケトペンタンニトリル・ナトリウム塩1.19gを添加し、添加後30℃で24時間攪拌しながら反応を行った。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、水相を更に酢酸エチルで抽出した。酢酸エチルを一緒にして無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下に酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行い、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル842mgを取得した。上記した方法でその光学純度を測定したところ81.9%e.e.であった。
【0114】
《実施例7》[製造方法(iii)による高光学純度の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 製造例5と同じ製造方法を行って得られた光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル5.0gに、ピリジン25ml、ジメチルアミノピリジン3mgおよびn−酪酸無水物12.0gを加えて氷中で一晩反応させた。反応後、ジエチルエーテル400mlを加え、1N塩酸300mlで2回、次に飽和食塩水200mlで1回洗浄した。次いで、反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下でジエチルエーテルを留去して、光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリル8.2gを取得した
(2) 上記(1)で得られた光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリル100mgに、下記の表5に示したそれぞれの市販リパーゼ0.5mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)1.0mlを加えて、30℃で表5に示した時間で攪拌しながら反応させた。次いで、酢酸エチル10mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
この実施例7で得られた(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの収率および光学純度は以下の表5に示すとおりであった。
【0115】
【表5】
【0116】
上記の表5の結果から、本発明の製造方法(iii)による場合は、95%e.e.を超す極めて高い光学純度を有する光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが高収率で得られることがわかる。
【0117】
《実施例8》[製造方法(iii)による高光学純度の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
下記の表6に示す市販リパーゼを用いた以外は、実施例7と全く同条件で反応を行なった。その結果、下記の表6に示すように、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られた。
【0118】
【表6】
【0119】
《実施例9》[製造方法(iii)による高光学純度の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 製造例5と同じ製造方法を行って得られた光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル51.7gに、tert−ブチルメチルエーテル100ml、ピリジン43.3gおよびジメチルアミノピリジン56mgを加えて氷中で攪拌した。これに、氷冷下でn−酪酸クロライド63.3gを2時間かけて添加した。添加後、室温で一晩攪拌した。反応終了後、酢酸エチル1リットルを加え、1N塩酸130mlで5回、飽和重曹水100mlで3回、飽和食塩水100mlで1回洗浄した。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で溶剤を留去して、光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリル75.8gを取得した。
(2) 上記で得られた(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリル70gと、リパーゼPS350mgを0.5Mリン酸緩衝液(pH7.0)700mlに加え、30℃で23時間攪拌しながら反応させた。
【0120】
(3) 上記(2)で得られた反応液の一部を採取し、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、光学純度99.2%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが36.2g(収率88.2%)生成したことが確認された。
(4) また、上記(2)で得られたサンプリング後の反応液をn−へキサン700mlで3回洗浄することにより、未反応の3−ブチリロキシペンタンニトリルを除去した。洗浄後の反応液中には3−ブチリロキシペンタンニトリルが存在しないことを、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行って確認した。このへキサン洗浄後の反応液に、酢酸エチル1.5リットルを加えて3回抽出操作を行なった。酢酸エチル抽出液を一緒にして飽和重曹水100mlで3回、次いで飽和食塩水50mlで1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で酢酸エチルを留去した。蒸留による精製を行って、光学純度99.2%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル33.6gを無色の液体として取得した。
【0121】
《製造例6》[3−ケトペンタンニトリル・ナトリウム塩からの(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム7水和物0.8g、硫酸亜鉛7水和物60mg、硫酸鉄7水和物90mg、硫酸銅5水和物5mg、硫酸マンガン4水和物10mgおよび塩化ナトリウム100mg(いずれも900ml当たり)の組成からなる液体培地45mlとアデカノール1滴を、500ml容の坂口フラスコに入れて殺菌し、これに殺菌済みの40%グルコース水溶液5mlとDipodascus tetrasperma (ディポダスカス・テトラスパーマ)CBS765.70を一白金耳を無菌的に接種し、30℃で72時間振とう培養した。
(2) 上記(1)で得られた培養液1リットルを遠心分離にかけて菌体を集め、グルコース4%を含んだ100mMリン酸緩衝液200ml(pH6.5)に懸濁した。この菌体の懸濁液に、酢酸ブチル200mlを加えて、6N塩酸を用いてpH6.5を保ちながら、3−ケトペンタンニトリル・ナトリウム塩2.0gを添加し、添加後30℃で24時間攪拌しながら反応を行った。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、水層を更に酢酸エチルで抽出した。酢酸エチルを一緒にして無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下に酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行って、(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル1.12gを取得した。上記した方法でその光学純度を測定したところ81.0%e.e.であった。
【0122】
《実施例10》[製造方法(iv)による高光学純度の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
製造例6で得られた光学純度81.0%e.e.の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル200mgに、n−酪酸ビニル75mg、リパーゼPS10mgおよびtert−ブチルメチルエーテル2.0mlを加えて、30℃で3日間反応させた。反応後、反応液の一部を酢酸エチルで希釈し、その一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、光学純度98.5%e.e.の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが収率77.7%で生成していることが確認された。
【0123】
《参考例1》[3−アシルオキシペンタンニトリルと3−ヒドロキシペンタンニトリルの分離性試験]
(1)(a) ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル10.0gに、ピリジン50ml、ジメチルアミノピリジン10mgおよび酢酸無水物24gを加えて氷中で一晩反応させた。反応後、ジエチルエーテル1リットルを加え、1N塩酸500mlで2回、次に飽和食塩水500mlで1回洗浄した。次いで、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で溶剤を留去して、ラセミ体3−アセトキシペンタンニトリル14.0gを取得した。
(b) 上記(a)で得られたラセミ体3−アセトキシペンタンニトリル1.0gとラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル10gを、0.5Mリン酸緩衝液(pH7)100mlに懸濁し、n−へキサン30mlで3回抽出した。こうして得られたヘキサン層には、0.45gの3−アセトキシペンタンニトリルと0.03gの3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれていた。一方、水層中には、0.55gの3−アセトキシペンタンニトリル、9.97gの3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれていた。
【0124】
(2) 一方、ラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリルを用いて、上記(1)の(b)と同様に操作したところ、得られたヘキサン層には、0.997gの3−ブチリロキシペンタンニトリルと0.03gの3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれていた。一方、水層中には、0.003mgの3−ブチリロキシペンタンニトリルと9.97gの3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれていた。
【0125】
(3) 上記(1)と(2)の結果の対比から、3−アシルオキシペンタンニトリルにおけるアシルオキシ基がアセトキシ基ではなく、炭素数3以上のカルボキシル基である場合[上記の式(1)においてR1が炭素数2以上のアルキル基である場合]には、3−アシルオキシペンタンニトリルと3−ヒドロキシペンタンニトリルを含む水性液(反応生成物)を脂肪族炭化水素系溶剤(ヘキサンなど)で抽出処理したときに、3−アシルオキシペンタンニトリルと3−アシルオキシペンタンニトリルとが有機溶剤層(脂肪族炭化水素系溶剤層)と水性層のそれぞれに殆ど完全に分離されること、それに対して3−アセトキシペンタンニトリルと3−ヒドロキシペンタンニトリルの場合は両者が有機溶剤層(脂肪族炭化水素系溶剤層)と水性層とに完全に分離されないことが分かる。
このような分離性の違いは、光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルと光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを抽出分離する場合に、有機抽出溶剤の量や得られる光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルおよび光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの化学純度に大きく影響する。
【0126】
【発明の効果】
本発明の製造方法(i)および製造方法(ii)による場合は、少ない酵素の使用量で、しかもチオクラウンエーテルなどのような高価で特別の成分を反応系に添加せずに、高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(特にR体の3−ヒドロキシペンタンニトリル)およびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを、高い収率で且つ低コストで生産性よく製造することができ、そのため本発明の製造方法は工業的に実用性の高く、有用である。
そして、本発明の製造方法(iii)による場合は、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを高収率で製造することができる。
さらに、本発明の製造方法(iv)による場合は、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを高収率で製造することができる。
また、本発明により、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造原料などとして有用な、前記の式(1)で表される新規なラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルおよび前記の式(3)で表される新規な光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルが提供される。
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学活性を必要とする各種医薬品や農薬などの合成原料および中間体として有用な光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法およびその製造に用いる新規な合成中間体であるラセミ体または光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルに関する。より詳細には、本発明は、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル、特に(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを、工業的に実用可能な操作で、高い光学純度および高い収率で製造する方法およびそれに用いる新規な合成中間体であるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルおよび光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルに関する。
【0002】
【従来の技術】
光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル、特に(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルは、種々の医薬品や農薬などの製造原料や合成中間体として非常に有用である。そのため、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを工業的な生産に適用可能な実用的な方法で、高い光学純度および高い収率で円滑に製造することのできる方法の開発が強く求められてきた。
従来、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法としては、ラセミ体3−アセトキシペンタンニトリルを、シュードモナス・セパシア・リパーゼ(Pseudomonas cepacia lipase)を用いて不斉加水分解して(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アセトキシペンタンニトリルに光学分割する方法が知られている(非特許文献1を参照)。
この方法による場合は、光学純度90%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られるが、酵素の使用量が基質の2分の1と多いため経済的でなく、しかも収率が29%と低い。また、この方法では同時に生成する(S)−3−アセトキシペンタンニトリルを化学的に加水分解して光学活性な(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルにしているが、その収率も29%と低い。
【0003】
さらに、上記非特許文献1には、ラセミ体3−アセトキシペンタンニトリルのシュードモナス・セパシア・リパーゼによる前記不斉加水分解反応を、チオクラウンエーテル(1,4,8,11−テトラチアシクロテトラデカン)を添加して行うと、光学純度が99%e.e.以上の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと光学純度が94%e.e.の(S)−3−アセトキシペンタンニトリルがそれぞれ49%および35%の収率で得られることが記載されている。
しかしながら、そこでは反応に必要なチオクラウンエーテルの添加量が基質の10分の1質量と非常に多いため、コスト面および安全面からみると工業的に実施するには適していない。また、この非特許文献1の技術では、酵素による反応生成物である(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アセトキシペンタンニトリルの分離をシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて行っているが、この分離法も繁雑であって実用的ではなく、工業的に採用するには有利な方法ではない。
【0004】
上記のような状況下に、本発明者らは、3−ケトペンタンニトリルを酵素で不斉還元して光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する方法を発明して先に出願した(先願発明1を参照)。本発明者らのこの方法による場合は、94.8%e.e.という高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。
光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリを医薬品などの製造原料としてより有効に用いるには、その光学純度が高いほど望ましく、そのため光学純度のより高い光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリを製造し得る技術の開発が求められている。
【0005】
【非特許文献1】
“Journal of Organic Chemistry”,1997年,第62巻,p.9165−9172
【0006】
【非特許文献2】
“Tetrahedron Lett.”,1985年,第26巻、p.155−
【非特許文献3】
“Tetrahedron Lett.”,1992年,第33巻、p.1431−
【0007】
【先願発明1】
特願2001−309682
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、チオクラウンエーテルなどのような高価な添加剤を用いずに、更には従来よりも少ない不斉反応用酵素の使用量で、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを安全に、低コストで、しかも高い収率で得ることのできる、工業的に実用可能な光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法を提供することである。
さらに、本発明の目的は、従来よりも光学純度の高い光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを、簡単な操作で、高い収率で得ることのできる製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造に有用な新規な合成中間体を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは研究を重ねてきた。そしてそのような研究の一環として、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造に用いる原料化合物について種々検討を行った。その結果、前記非特許文献1の技術で出発化合物(原料化合物)として用いられている3−アセトキシペンタンニトリルとは異なる、新規な3−アシルオキシペンタンニトリル、すなわちペンタンニトリルの3−位置に結合したアシルオキシ基(R1COO−)におけるR1がメチル基ではなくて、炭素数が2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である3−アシルオキシペンタンニトリルを合成し、該新規な3−アシルオキシペンタンニトリル(ラセミ体)に不斉加水分解能を有する酵素を作用させたところ、非特許文献1の技術よりも少ない酵素の使用量で、しかもチオクラウンエーテルなどの特別の成分を添加しなくても、高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルが、それと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルと共に高い収率で得られることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記した新規な3−アシルオキシペンタンニトリル(ラセミ体)を出発化合物として用いる上記方法以外にも、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下に不斉アシル化能を有する酵素を作用させることにより、高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルが、その対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルと共に高い収率で得られることを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、光学活性な(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを不純物などとして含有する所定の光学純度の光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを、アシル化した後、それにより生成したアシル体に3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させると、不純物として含まれていた光学活性(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルは該酵素によってその一部しか加水分解されず、ほとんど大部分がアシル化物[すなわち(S)−3−アシルオキシペンタンニトリル]のままの形態で残留し、(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルのみが優先的に加水分解されることによって、光学純度の増した(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られること、特にこの方法による場合は、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが製造できることを見出した。
【0011】
さらに、本発明者らは、光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを不純物などとして含有する所定の光学純度を有する光学活性(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素を作用させると、不純物などとして含まれていた(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのみが優先的にアシル化されて除去でき、それによって光学純度の増した(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られること、特にこの方法による場合は、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが製造できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、
(I) 本発明における第1の発明は、下記の式(1);
【0013】
【化14】
(式中、R1は置換されていてもよい、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルに、該化合物の不斉加水分解能を有する酵素を作用させることを特徴とする、下記の式(2);
【0014】
【化15】
(式中、*は不斉炭素原子を示す。)
で表される光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびその対掌体をなす光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルのエステル化物である下記の式(3);
【0015】
【化16】
(式中、R1は前記と同じ基を示し、*は不斉炭素原子を示す。)
で表される光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの製造方法[以下この方法を「製造方法(i)」ということがある]である。
【0016】
(II) そして、本発明における第2の発明は、下記の式(4);
【0017】
【化17】
で表されるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で、該ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの不斉アシル化能を有する酵素を作用させることを特徴とする、下記の式(2);
【0018】
【化18】
(式中、*は不斉炭素原子を示す。)
で表される光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびその対掌体をなす光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルのエステル化物である光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの製造方法[以下この方法を「製造方法(ii)」ということがある]である。
【0019】
(III) さらに、本発明における第3の発明は、
・下記の式(1);
【0020】
【化19】
(式中、R1は置換されていてもよい、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリル[以下これを「ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリル(1)」ということがある];および、
・下記の式(3);
【0021】
【化20】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、R1は置換されていてもよい、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表される光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル[以下これを「光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(3)」ということがある];
である。
【0022】
(IV) そして、本発明における第4の発明は、所定の光学純度(A1)を有する下記の式(6);
【0023】
【化21】
で表される(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルをアシル化処理して(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換した後、3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させ、それにより得られる反応生成物から(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収することを特徴とする、前記光学純度(A1)よりも高い光学純度(A2)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法[以下この方法を「製造方法(iii)」ということがある]である。
【0024】
(V) さらに、本発明における第5の発明は、所定の光学純度(B1)を有する下記の式(9);
【0025】
【化22】
で表される(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素を作用させ、それにより得られる反応生成物から(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収することを特徴とする、前記光学純度(B1)よりも高い光学純度(B2)を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造方法[以下この方法を「製造方法(iv)」ということがある]である。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
《製造方法(i)の説明》
まず、本発明の製造方法(i)について説明する。
製造方法(i)は、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルに、該化合物の不斉加水分解能を有する酵素を作用させて、該ラセミ体を構成する(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルのうちの一方を選択的または優先的に加水分解して、上記の式(2)で表される光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(R体またはS体)およびその対掌体をなす光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルのエステル化物である上記の式(3)で表される光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(S体またはR体)を製造する方法である。
【0027】
この製造方法(i)では、不斉加水分解能を有する酵素がR体の3−アシルオキシペンタンニトリルを選択的または優先的に加水分解する酵素である場合は、光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルが製造され、また不斉加水分解能を有する酵素がS体の3−アシルオキシペンタンニトリルを選択的または優先的に加水分解する酵素である場合は、光学活性な(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルが製造される。
本発明における製造方法(i)では、不斉加水分解能を有する酵素としてR体の3−アシルオキシペンタンニトリルを選択的または優先的に加水分解する酵素を用いて、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを製造することが、得られる光学活性化合物の有用性、酵素の入手のし易さ、反応の立体選択性などの点から好ましい。
本発明の製造方法(i)で用いる不斉加水分解能を有する酵素の具体的な内容については、後で詳記する。
【0028】
本発明の製造方法(i)では、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルにおける基R1が、メチル基ではなくて、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であることが必要である。
基R1が炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であることによって、基R1がメチル基であるラセミ体3−アセトキシペンタンニトリルを使用する前記した従来技術(非特許文献1参照)に比べて、不斉加水分解能を有する酵素の使用量を低減することができ、しかもチオクラウンエーテルなどのような高価な添加剤を使用することなく、該従来技術よりも高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを高い収率で製造することができる。
【0029】
しかも、本発明の製造方法(i)で用いる基R1が炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である3−アシルオキシペンタンニトリルは、3−アセトキシペンタンニトリルに比べて脂肪族炭化水素系溶剤への溶解度が高いため、製造方法(i)で生成した反応生成物から光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを脂肪族炭化水素系溶剤を用いて抽出処理し、次いで抽出処理済みの反応生成物から光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する際に、脂肪族炭化水素系溶剤の使用量を大幅に低減することができ、更に脂肪族炭化水素系溶剤による抽出処理回数も低減することができ、工程の簡略化およびコストの削減を図ることができる。
かかる点から、基R1が置換されていてもよい炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを出発化合物として用いる本発明の製造方法(i)は、実用性に優れていて、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびその対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを工業的に生産性良く製造するのに適している。
【0030】
本発明の製造方法(i)で出発化合物として用いる上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルにおいて、基R1の具体例としては、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;エテニル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基などのアルキニル基を挙げることができる。これら基は、その炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が必要に応じて適当な置換基で置換されていてもよい。その際の置換基としては、例えばアルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルオキシ基、アリール基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等を挙げることができる。基R1は、ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの合成の容易性、取り扱い性、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルへの加水分解の容易性、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの収率、酵素の反応性などの点から、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数2〜7のアルキル基であることが好ましく、n−プロピル基であることがより好ましい。
【0031】
上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルに、該化合物の不斉加水分解能を有する酵素を作用させるに当たっては、ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルおよび不斉加水分解能を有する酵素を水性媒体中に溶解または分散して反応を行う方法が、円滑な反応、操作の容易性などの点から好ましく採用される。
不斉加水分解反応を行う水性媒体は、不斉加水分解能を有する酵素の種類に応じて酵素が働き易いpHに調整しておくことが必要であり、一般的には3〜12程度のpHにしておくことが好ましい。pHの調整は、水性媒体として所定のpHを有する緩衝水溶液を用いて行ってもよい。その際の緩衝水溶液としては、例えば、リン酸ナトリウム水溶液、リン酸カリウム水溶液などのようなリン酸アルカリ金属塩水溶液等の無機酸塩の緩衝水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液などの酢酸アルカリ金属塩等の有機酸塩の緩衝水溶液などを挙げることができる。また、反応系のpHを不斉加水分解反応に適したpHに保つために、不斉加水分解反応の初期および/または途中に水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などの塩基や酸などのpH調整剤を添加してもよい。
【0032】
不斉加水分解能を有する酵素の使用量は、使用する酵素の種類などに応じて、反応時間の遅延やラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを加水分解する際の選択性の低下が起こらないような量を適宜選択するとよい。例えば、従来から市販されている不斉加水分解能を有する酵素を用いる場合、一般に、ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの質量の0.0001〜3.0質量倍が好ましく、0.001〜1.0質量倍がより好ましく、0.001〜0.1質量倍が特に好ましい。
本発明の製造方法(i)では、出発化合物として基R1が炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを用いていることにより、ラセミ体3−アセトキシペンタンニトリルを用いる上記した従来技術(非特許文献1参照)に比べて不斉加水分解能を有する酵素の使用量を大幅に低減することができ、ラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリル1質量部に対して不斉加水分解能を有する酵素の使用量が0.5質量部未満、特に0.1質量部以下であっても、目的とする光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌の配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを高収率で得ることができる。
【0033】
不斉加水分解反応の反応温度としては、温度が高すぎると酵素の安定性が低下したり酵素が失活する場合があり、一方温度が低すぎると反応速度が低下する場合があるので、通常5〜65℃の範囲であることが好ましく、20〜50℃の範囲であることがより好ましい。
不斉加水分解反応の反応時間は、使用する酵素の種類や量、反応温度などに応じて変わり得るが、通常0.1〜120時間程度、特に0.1〜48時間程度とするのが好ましい。
【0034】
上記の不斉加水分解反応によって、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(不斉加水分解能を有する酵素によって加水分解された一方の光学異性体)とそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(不斉加水分解能を有する酵素によって加水分解されずにそのまま残ったもう一方の光学異性体)を含有する反応生成物が得られる。
反応生成物からの光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの分離回収に当たっては、両者をそれぞれ円滑に分離回収できる方法であればいずれの方法を採用してもよく、例えば、下記(a1)または(b1)の方法を採用することができる。
【0035】
(a1)光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(反応液等)を、脂肪族炭化水素系溶剤により抽出処理して光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出して回収し、次いで光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル抽出した後の反応生成物から光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する方法。
(b1)光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(水性反応液等)に、非水溶性の有機溶剤を添加して十分に攪拌した後、水層と有機層に分液させ、生成した光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを有機層に移行させ、有機層を水層から分離した後に、有機層の溶剤を留去するか、または蒸留、カラムクロマトグラフィーなどにより処理して、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのそれぞれを分離回収(単離精製)する方法。
【0036】
前記(a1)の方法は、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのそれぞれを簡単な操作で別々に分離回収することができ、工業的に実施可能な簡便な方法であり、そのため(a1)の方法について具体的に説明する。
まず、不斉加水分解反応により得られた反応生成物(反応液)に適量の脂肪族炭化水素系溶剤を加えて十分に攪拌した後、静置して水層と有機層に分ける。有機層中には光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル多く含まれ、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルはあまり含まれていない。一方、水層には光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルが多く含まれる。
脂肪族炭化水素系溶剤による抽出操作は何回繰り返してもよい。そして、抽出処理に用いた有機層を集めて溶剤を留去することによって、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル含量の少ない光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのエステルを取得することができる。また、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを多く含む水層を適当な溶剤を用いて抽出処理して水層中の光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを溶剤中に移行させ、抽出処理に用いた溶剤を集めて溶剤を留去することによって、光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル含量の少ない、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを取得することができる。
【0037】
上記(a1)の方法において、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル反応生成物(反応液等)から光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出するための前記脂肪族炭化水素系溶剤としては、光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの抽出率、取り扱い性などの点から、炭素数5〜10の脂肪族炭化水素系溶剤が好ましく用いられる。好ましく用いられる炭素数5〜10の脂肪族炭化水素系溶剤の例としては、n−ペンタン、n−へキサン、n−ヘプタン、n−デカンなどの直鎖状脂肪族炭化水素系溶剤、メチルシクロヘキサンなどの側鎖がある脂肪族炭化水素等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、n−へキサンがより好ましく用いられる。
【0038】
光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの抽出効率にあわせて、脂肪族炭化水素系溶剤の使用量、抽出回数を適時設定すればよい。抽出1回当たりに使用する溶剤量はできるだけ少なく、かつ抽出回数はできるだけ少ないほうが、溶剤使用量が少なくすむため経済的である。好ましくは、反応生成物中に含まれる光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの全量を抽出できるように、抽出溶剤の使用量や抽出回数を設定するのが望ましい。それによって、光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを高収率で回収することができ、ひいては光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出分離した後の水層における光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの残存量が大幅に低減し、該水層から純度の高い光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを分離回収できるようになる。
脂肪族炭化水素系溶剤から分離回収した光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを既存の方法で加水分解することにより、水層から分離回収した光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルに対して対掌配置を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルにすることができる。
【0039】
光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを脂肪族炭化水素系溶剤によって抽出分離した後の水層中に残留する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルは、適当な有機溶剤を用いて抽出処理することによって水層から分離回収することができる。その際の有機溶剤としては、例えば、t−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;トルエンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そして、抽出処理に用いた有機溶剤を留去することによって、3−アシルオキシペンタンニトリル含有量の少ない、高純度の光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。必要に応じて蒸留することにより、更に高純度化することもできる。
【0040】
また、上記(b1)の方法では、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(水性反応液等)に添加する非水溶性の有機溶剤として、例えばt−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;トルエンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの1種または2種以上を用いることができる。
【0041】
本発明の製造方法(i)において出発化合物(原料化合物)として用いる上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリル[すなわち上記の式(1)において基R1がメチル基ではなく、置換されていてもよい炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で表される3−アシルオキシペンタンニトリル]は、従来知られていない新規な化合物である。
この新規な化合物は、公知のエステル化法に準じて、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルを式;R1COOH(式中、R1は置換されていてもよい炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す)で表されるカルボン酸、そのハロゲン化物、無水物、エステル等からなるエステル化剤(アシル化剤)を用いてエステル化することにより製造することができる。
上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの製造に用いるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルは既知の化合物であって、既知の方法(例えば非特許文献2および非特許文献3を参照)によって製造することができる。
何ら限定されるものではないが、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの製造法を以下に例示する。
【0042】
[式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの製造法]
例えば、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、塩基の存在下で、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、酪酸ブロマイドなどの炭素数3以上のカルボン酸ハロゲン化物、または無水プロピオン酸、無水酪酸などの炭素数3以上のカルボン酸無水物を作用させて、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルのヒドロキシル基をアシル化することによって、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを製造する。
この反応は、無溶剤下でも実施できるが、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;ヘキサン、ペンタンなどの炭化水素類;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトンなどの有機溶剤の1種または2種以上を用いて実施するのが好ましい。
【0043】
その際に、前記した酸ハロゲン化物または酸無水物の使用量は、基質であるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに対して1.0当量以上であることが好ましい。1.0当量未満であると未反応のラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルが生じ、効率が悪くなる。
【0044】
また、前記した塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類;ピリジン、イミダゾールなどの芳香族窒素化合物;ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシドなどの金属アルコキシド;炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸水素塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウムなどアルカリ金属水素化物などを挙げることができ、これらは単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
塩基の使用量は、酸ハロゲン化物もしくは酸無水物と等モル程度とすることが好ましい。
【0045】
アシル化反応の終了後に、反応系に水を添加し、次いで酢酸エチル、トルエンなどの有機溶剤を用いて生成したラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出し、脱溶剤することによって、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルを得ることができる。それを更に必要に応じてシリカゲルカラムクロマトグラフィー、蒸留などで精製することによって、高純度化してもよい。
【0046】
また、本発明の製造方法(i)で得られる上記の式(3)で表される光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル[すなわちその基R1が炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル]も、従来知られていない新規な化合物である。
本発明の製造方法(i)で得られる上記の式(3)で表される新規な光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの立体構造に対応して、それを加水分解することによっても、光学活性なR体またはS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。
【0047】
《製造方法(ii)の説明》
次に、本発明の製造方法(ii)について説明する。
製造方法(ii)は、上記の式(4)で表されるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で、該ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの不斉アシル化能を有する酵素を作用させて、該ラセミ体を構成する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのうちの一方を選択的または優先的にアシル化して、上記の式(2)で表される光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(R体またはS体)と、該光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの対掌体をなす光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(S体またはR体)のエステル化物である光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(S体またはR体)を製造する方法である。
【0048】
この製造方法(ii)において、不斉アシル化能を有する酵素がR体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを選択的または優先的にアシル化する酵素である場合は、光学活性な(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルと(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが製造され、また不斉アシル化能を有する酵素がS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを選択的または優先的にアシル化する酵素である場合は、光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルが製造される。
本発明における製造方法(ii)では、不斉アシル化能を有する酵素としてR体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを選択的または優先的にアシル化する酵素を用いて、(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルと(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造することが、酵素の入手のし易さ、反応の立体選択性などの点から好ましい。
【0049】
製造方法(ii)で出発化合物として用いるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルは、前記したように公知の化合物であり(非特許文献2および3を参照)、該公知の方法により合成することができる。
製造方法(ii)で用いる、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの不斉アシル化能を有する酵素については後で詳細に説明する。
【0050】
本発明の製造方法(ii)において、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルに、アシル化剤の存在下で不斉アシル化能を有する酵素を作用させるに当たっては、不斉アシル化が円滑に行われ得る態様であればいずれでもよく、一般的には、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル、アシル化剤および不斉アシル化能を有する酵素を混合する方法が用いられる。
その際の不斉アシル化反応は、溶剤を加えなくても実施可能であるが、溶剤中で行うのが反応の円滑な進行の点から好ましい。溶剤としては不斉アシル化反応を阻害するものでなければいずれも使用可能で、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテルなどのエーテル類;メチルエチルケトンなどのケトン類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエンなどの炭化水素類;酢酸エチルなどのエステル類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0051】
ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルをアシル化するためのアシル化剤としては、カルボン酸(例えば、プロピオン酸、酪酸など);酸ハロゲン化物(例えば、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、酪酸ブロマイドなど);酸無水物(例えば、無水プロピオン酸、無水酪酸など);カルボン酸エステルなどを挙げることができ、そのうちでもカルボン酸エステルが目的物の収率、 などの点から好ましく用いられる。
本発明の製造方法(ii)でアシル化剤として好ましく用いられるカルボン酸エステルとして、下記の式(5);
【0052】
【化23】
(式中、R2およびR3はそれぞれ独立して置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0053】
上記の式(5)で表されるカルボン酸エステルにおいて、基R2およびR3の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;エテニル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基;またはエチニル基、プロピニル基、ブチニル基などのアルキニル基などを挙げることができる。
基R2およびR3の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が適当な置換基で置換されていてもよく、置換基としては、例えば、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルオキシ基、アリール基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
【0054】
上記の式(5)で表されるカルボン酸エステルにおいて、基R2はエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数2〜7のアルキル基であることがアシル化の容易性、アシル化剤の入手容易性、酵素の反応性などの点から好ましく、n−プロピル基であることがより好ましい。また、基R3はビニル基であることが反応効率の点から好ましい。
【0055】
不斉アシル化能を有する酵素の使用量は、使用する酵素の種類などに応じて、反応時間の遅延やラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルをアシル化する際の選択性の低下が起こらないような量を適宜選択するとよい。例えば、従来から市販されている不斉アシル化能を有する酵素を用いる場合、一般に、ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの質量の0.0001〜3.0質量倍が好ましく、0.001〜1.0質量倍がより好ましく、0.001〜0.1質量倍が特に好ましい。
【0056】
不斉アシル化反応の反応温度としては、温度が高すぎると酵素の安定性が低下したり酵素が失活する場合があり、一方温度が低すぎると反応速度が低下する場合があるので、通常5〜65℃の範囲であることが好ましく、20〜50℃の範囲であることがより好ましい。
不斉アシル化反応の反応時間は、使用する酵素の種類や量、反応温度などに応じて変わり得るが、通常0.1〜120時間程度、特に0.1〜48時間程度とすることが好ましい。
【0057】
上記の不斉アシル化反応によって、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(不斉アシル化能を有する酵素によってアシル化されずにそのまま残った一方の光学異性体)と、それと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル(不斉アシル化能を有する酵素によってアシル化されたもう一方光学異性体)を含有する反応生成物が得られる。
反応生成物からの光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの分離回収に当たっては、両者をそれぞれ円滑に分離回収できる方法であればいずれの方法を採用してもよい。例えば、この製造方法(ii)で生成した光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置を有する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(反応溶液)の溶剤を留去するか、または蒸留、カラムクロマトグラフィーなどにより処理して、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルおよびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルのそれぞれを分離回収(単離精製)する方法などを採用することができる。
【0058】
この製造方法(ii)で得られる光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルは、例えばメタノール中で水酸化ナトリウム水溶液を添加して加水分解する方法などのような公知のエステル加水分解法で加水分解することにより、対応する立体配置を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルにすることができる。
【0059】
《製造方法(iii)の説明》
次に、本発明の製造方法(iii)について説明する。
本発明の製造方法(iii)は、所定の光学純度(A1)を有する光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを出発化合物として用いて、それよりも高い光学純度(A2)を有する光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する方法であり、所定の光学純度(A1)を有する上記の式(6)で表される光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを、アシル化剤で処理して(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換した後、3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させ、それにより得られる反応生成物から(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収することにより、より高い光学純度(A2)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する方法である。
本発明の製造方法(iii)による場合は、一般に95%e.e.以上の高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを円滑に製造することができる。
【0060】
本発明の製造方法(iii)においては、出発物質として用いる光学純度(A1)を有する光学活性な(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製法や入手法は特に制限されず、化学合成方法または酵素を用いた合成方法のいずれで製造されたものであってもよい。何ら限定されるものではないが、出発物質として用いる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルとしては、例えば、本発明の前記した製造方法(i)または製造方法(ii)で得られる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル、本出願人の先願発明である前記した先願発明1の方法で得られる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルなどを挙げることができる。
【0061】
出発物質として用いる光学純度(A1)の光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの光学純度は特に制限されないが、一般には、光学純度が20%e.e.以上で95%e.e.未満のものが好ましく用いられ、光学純度が50%e.e.以上で95%e.e.未満のものがより好ましく用いられ、光学純度が80%e.e.以上で95%e.e.未満のものが更に好ましく用いられる。
【0062】
製造方法(iii)における光学純度(A1)の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化処理は、化学的方法、酵素的方法のいずれで行ってもよい。例えば、アシル化剤として、下記の式(7);
【0063】
【化24】
R2COOH (7)
(式中、R2は置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す。)
で表されるカルボン酸、そのハロゲン化物、無水物、エステル化物などのアシル化剤を用いて行うことができる。
【0064】
出発物質である光学純度(A1)の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを上記したアシル化剤を用いてアシル化すると、下記の式(8);
【0065】
【化25】
(式中、R2は前記と同じ基を示す。)
で表される(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換される。
【0066】
上記したアシル化剤およびそれを用いて得られる上記の式(8)で表される(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルにおいて、基R2の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;エテニル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基;またはエチニル基、プロピニル基、ブチニル基などのアルキニル基などを挙げることができる。基R2の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が適当な置換基で置換されていてもよく、置換基としては、例えば、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルオキシ基、アリール基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
上記の基のなかでも、酵素の反応性や加水分解反応後の目的物の分離回収の容易さなどの点からは、R2は炭素数2〜7のアルキル基であることが好ましく、n−プロピル基であることがより好ましい。
【0067】
この製造方法(iii)では、出発物質である光学純度(A1)の光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化と同時に、該出発物質に不純物などとして含まれている(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルもアシル化されて、(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換される。
【0068】
上記アシル化処理により生成する(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを、未精製のままで、または必要に応じてシリカゲルクロマトグラフィー、蒸留などによって精製した後に、3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させて、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに転換する。この加水分解処理では、前記アシル化処理によって(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルと同時に生成した(S)−3−アシルオキシペンタンニトリル[不純物などとして含まれていた(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化物]は、その一部しか加水分解されず、ほとんど大部分がアシル化物のままで反応系に残るので、この酵素処理により生成した反応生成物から、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを別々に回収することによって、不純物などとして含まれていた(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルがアシル化物として分離させて、より高い光学純度(A2)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られる。この製造方法(iii)で用いる3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素については後で詳細に説明する。
【0069】
(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに、R体を優先的に加水分解する酵素を作用させるに当たっては、アシル化処理により得られた、(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを不純物として含む(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルおよび前記酵素を水性媒体中に溶解または分散して反応を行う方法が好ましく採用される。
【0070】
加水分解反応を行う水性媒体は、加水分解能を有する酵素の種類に応じて酵素が働き易いpHに調整しておくことが必要であり、一般的には3〜12程度のpHにしておくことが好ましい。pHの調整は、水性媒体として所定のpHを有する緩衝水溶液を用いて行ってもよい。その際の緩衝水溶液としては、例えば、リン酸ナトリウム水溶液、リン酸カリウム水溶液などのようなリン酸アルカリ金属塩水溶液等の無機酸塩の緩衝水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液などの酢酸アルカリ金属塩等の有機酸塩の緩衝水溶液などを挙げることができる。また、反応系のpHを(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルの選択的または優先的な加水分解に適したpHに保つために、加水分解反応の初期および/または途中に水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などの塩基や酸などのpH調整剤を添加してもよい。
【0071】
酵素の使用量は、使用する酵素の種類などに応じて、反応時間の遅延や(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを加水分解する際の選択性の低下が起こらないような量を適宜選択するとよい。例えば、従来から市販されているR体を優先的に加水分解する酵素を用いる場合、一般に、アシル化処理により得られた粗(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルの質量の0.0001〜3.0質量倍が好ましく、0.001〜1.0質量倍がより好ましく、0.001〜0.1質量倍が特に好ましい。
【0072】
加水分解反応の温度としては、温度が高すぎると酵素の安定性が低下したり酵素が失活する場合があり、一方温度が低すぎると反応速度が低下する場合があるので、通常5〜65℃の範囲であることが好ましく、20〜50℃の範囲であることがより好ましい。
加水分解反応の時間は、使用する酵素の種類や量、反応温度などに応じて変わり得るが、通常0.1〜120時間程度、特に0.1〜48時間程度とするのが好ましい。
【0073】
上記の加水分解反応によって、光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと不純物として含まれていた(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化物である(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを含む反応生成物が得られる。
反応生成物からの(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルとの分離に当たっては、両者を円滑に分離できる方法であればいずれの方法を採用してもよく、例えば、下記の(a3)または(b3)の方法を採用することができる。
【0074】
(a3) (R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリル(不純物)を含有する反応生成物(反応液等)を、脂肪族炭化水素系溶剤により抽出処理して(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出して除いた後、(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出した後の反応生成物から(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する方法。(b3) (R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリル(不純物)を含有する反応生成物(水性反応液等)に、非水溶性の有機溶剤を添加して十分に攪拌した後、水層と有機層に分液させ、生成した(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを有機層に移行させ、有機層を水層から分離した後に、有機層の溶剤を留去するか、または蒸留、カラムクロマトグラフィーなどにより処理して、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルのそれぞれを分離回収(単離精製)する方法。
【0075】
上記(a3)の方法について具体的に説明する。
(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを酵素によって優先的に加水分解して得られた反応生成物(反応液)に適量の該脂肪族炭化水素系溶剤を加えて十分に攪拌した後、静置して水層と有機層に分けると、有機層中には(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルが含まれ(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルは殆ど含まれておらず、一方水層には(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれる。脂肪族炭化水素系溶剤による抽出操作は必要に応じて繰り返し行ってもよい。
(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを含む水層を適当な溶剤を用いて抽出処理して水層中の光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを溶剤中に移行させ、抽出処理に用いた溶剤を集めて溶剤を留去することによって、(R)−3−アシルオキシペンタンニトリル含量の極めて少ない、高い光学純度(通常95%e.e.以上の光学純度)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを取得することができる。
その際に、(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを含む有機層の溶剤を留去することによって、光学純度の高い(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを取得する同時に取得することもできる。
【0076】
上記(a3)の方法において、加水分解後の反応生成物から(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出分離するための前記脂肪族炭化水素系溶剤としては、炭素数5〜10の脂肪族炭化水素系溶剤(例えばn−ペンタン、n−へキサン、n−ヘプタン、n−デカンなどの直鎖状脂肪族炭化水素系溶剤やメチルシクロヘキサンなどの側鎖がある脂肪族炭化水素など)が(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルの抽出率などの点から好ましく用いられ、そのうちでもn−へキサンがより好ましく用いられる。
【0077】
(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを脂肪族炭化水素系溶剤によって抽出分離した後の水層中に残留する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルは、適当な有機溶剤を用いて抽出処理することによって水層から分離回収することができる。その際の有機溶剤としては、例えば、t−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;トルエンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そして、抽出処理に用いた有機溶剤を留去することによって、S体の含有量の極めて少ない、高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。必要に応じて蒸留することにより、更に高純度化することもできる。
【0078】
また、上記(b3)の方法では、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルおよび(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを含有する反応生成物(水性反応液等)に添加する非水溶性の有機溶剤として、例えばt−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;トルエンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの1種または2種以上を用いることができる。
【0079】
《製造方法(iv)の説明》
次に、本発明の製造方法(iv)について説明する。
本発明の製造方法(iv)は、所定の光学純度(B1)を有する上記の式(9)で表される(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを出発物質として用いて、それよりも高い光学純度(B2)を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する方法であって、所定の光学純度(B1)を有する上記の式(9)で表される(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルからなる出発物質に、アシル化剤の存在下で、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素を作用させ、それにより得られる反応生成物から高い光学純度(B2)を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する方法である。
本発明のこの製造方法(iv)による場合は、通常95%e.e.以上の高い光学純度を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを得ることができる。
【0080】
本発明の製造方法(iv)においては、出発物質として用いる光学純度(B1)を有する光学活性な(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製法や入手法は特に制限されず、化学合成方法または酵素を用いた合成方法のいずれで製造されたものであってもよい。何ら限定されるものではないが、出発物質として用いる(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルとしては、例えば、本発明の前記した製造方法(i)または製造方法(ii)で得られる(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル、本出願人の先願発明である前記した先願発明1の方法で得られる(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルなどを挙げることができる。
【0081】
出発物質として用いる光学純度(B1)の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの光学純度は特に制限されないが、一般には、光学純度が20%e.e.以上で95%e.e.未満のものが好ましく用いられ、光学純度が50%e.e.以上で95%e.e.未満のものがより好ましく用いられ、光学純度が80%e.e.以上で95%e.e.未満のものが更に好ましく用いられる。
【0082】
製造方法(iv)において、光学純度(B1)の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル中に不純物などとして含まれる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化に用いるアシル化剤は特に限定されずいずれでもよく、例えば、カルボン酸(例えば、プロピオン酸、酪酸など);酸ハロゲン化物(例えば、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、酪酸ブロマイドなど);酸無水物(例えば、無水プロピオン酸、無水酪酸など);カルボン酸エステルなどのアシル化剤を用いて行うことができる。アシル化剤としてカルボン酸エステルを用いる場合は、本発明の前記した製造方法(ii)と同様に、上記の式(5)で表されるカルボン酸エステルが好ましく用いられる。式(5)で表されるカルボン酸エステルにおける基R2およびR3の種類やその好ましい基の種類は、製造方法(ii)の場合と同様である。
製造方法(iv)で用いる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する酵素については後で詳細に説明する。
【0083】
(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素を作用させるに当たっては、溶剤を用いずにそのまま直接アシル化を行ってもよいが、溶剤中で行うことが、アシル化が円滑に進行する点から好ましい。その際に用いる溶剤としてはアシル化反応を阻害しないものであればいずれでもよく、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;メチルエチルケトンなどのケトン類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエンなどの炭化水素類;酢酸エチルなどのエステル類を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
また、酵素の使用量は、使用する酵素の種類などに応じて、反応時間の遅延や(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル中に含まれる(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルをアシル化する際の選択性の低下が起こらないような量を適宜選択するとよい。例えば、従来から市販されているR体を優先的にアシル化する酵素を用いる場合、一般に、出発物質である(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの質量の0.0001〜3.0質量倍が好ましく、0.001〜1.0質量倍がより好ましく、0.001〜0.1質量倍が特に好ましい。
【0084】
アシル化反応の温度としては、酵素の安定性の維持や失活防止の点から、通常5〜65℃の範囲であることが好ましく、20〜50℃の範囲であることがより好ましい。
アシル化反応の時間は、使用する酵素の種類や量、反応温度などに応じて変わり得るが、通常0.1〜120時間程度、特に0.1〜48時間程度とするのが好ましい。
上記のアシル化反応によって、(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと不純物などとして含まれていた(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルのアシル化物である(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを含む反応生成物が得られる。
反応生成物からの(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルと(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルとの分離に当たっては、例えば、製造方法(ii)における分離方法と同様の方法を採用することができる。
【0085】
《酵素の説明》
本発明の製造方法(i)〜(iv)で用いる酵素について説明する。
本発明の製造方法(i)では、上記の式(1)で表されるラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルの不斉加水分解能を有する酵素(R体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する酵素またはS体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する酵素)を使用する。製造方法(i)では、R体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する活性を有する酵素が好ましく用いられる。
また、本発明の製造方法(ii)では、上記の式(4)で表されるラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの不斉アシル化能を有する酵素(R体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する酵素またはS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する酵素)を使用する。製造方法(ii)では、R体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する活性を有する酵素が好ましく用いられる。
また、本発明の製造方法(iii)では、R体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する活性を有する酵素を使用する。
そして、本発明の製造方法(iv)では、R体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する活性を有する酵素を使用する。
【0086】
本発明の製造方法(i)〜(iv)で使用する酵素は、微生物起源の酵素であってもよいし、動物起源の酵素であってもよいし、または植物起源の酵素であってもよい。使用する酵素の純度や形態は、目的とする反応の活性を有していれば特に制限されるものではない。精製酵素、粗酵素、酵素含有物、微生物培養液、培養物、菌体、培養液、酵素遺伝子が導入されることによって目的とする反応の活性を獲得した組み換え微生物およびそれらの処理物など、種々の形態で用いることができる。ここで処理物とは、例えば、凍結乾燥品、アセトン乾燥品、摩擦物、自己消化物、超音波破砕物またはアルカリ処理物などを言う。更に上記のような種々の純度あるいは形態の酵素を、例えばシリカゲルやセラミックスなどの無機担体、セルロース、イオン交換樹脂などへの吸着法、ポリアクリルアミド法、含硫多糖ゲル法(例えばカラギーナンゲル法)、アルギン酸ゲル法、寒天ゲル法などの公知の方法により固定化して用いてもよい。
【0087】
本発明において好ましく用いられる酵素は、微生物または動物起源のリパーゼ、エステラーゼもしくはプロテアーゼである。より好ましいものとしては、アクロモバクター(Achromobacter)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、キャンディダ(Candida)属、クロモバクテリウム(Chromobacterium)属、フミコーラ(Humicola)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチスル(Bacillus)属の微生物を起源とするリパーゼ、牛膵臓由来のセリンプロテアーゼであるキモトリプシン、豚膵臓由来のリパーゼなどを挙げることができる。そのうちでも、バークホルデリア(Burkholderia)属、ムコール(Mucor)属、及びシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物を起源とするリパーゼ、豚膵臓由来のリパーゼなどが更に好ましく用いられる。これらの酵素は市販品の中から選択して使用することもできる。
同じ酵素であっても、反応系の形態などに応じて、例えば、水系では不斉加水分解能を示し、一方非水系では不斉アシル化能を示す酵素があり、種々の製品が市販されている。
【0088】
本発明で使用し得る市販の酵素の具体例としては、リパーゼAL(Achromobacter sp.由来、名糖産業社製)、リパーゼPL(Alcaligenes sp.由来、名糖産業社製)、リパーゼL−080(Alcaligenes sp.由来、Biocatalysts社製)、リパーゼPS(Burkholderia cepacia由来、天野エンザイム社製)、リパーゼAH(Burkholderia cepacia由来、天野エンザイム社製)、ノボザイム435(Candida antarctica由来、NOVO社製)、リパーゼSP525(Candida antarctica由来、NOVO社製)、リパーゼSP398(Candida sp.由来、NOVO社製)、リパーゼL−050(Chromobacterium viscosum由来、Biocatalysts社製)、リパーゼL−053(Humicola lanuginosa由来、Biocatalysts社製)、リパーゼSP523(Humicola sp.由来、NOVO社製)、リパーゼL−166P(Mucor javanicus由来、Biocatalysts社製)、リパーゼM(Mucor javanicus由来、天野エンザイム社製)、リポザイム10000L(Mucor meihei由来、NOVO社製)、リパーゼSP524(Mucor miehei由来、NOVO社製)、リパーゼSP388(Mucor miehei由来、NOVO社製)、リパーゼL−055P(Penicillium cyclopium由来、Biocatalysts社製)、LipaseSL(Pseudomonas cepacia由来、名糖産業)、リパーゼAK(Pseudomonas fluorescens由来、天野エンザイム社製)、リパーゼL−056(Pseudomonas fluorescens由来、Biocatalysts社製)、トヨチームLIP(Pseudomonas sp.由来、東洋紡社製)、豚膵臓由来リパーゼ(東洋醸造社製)などを挙げることができる。
【0089】
上記で具体的に挙げた市販の酵素は、いずれも、水性溶剤中(水系)ではR体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解して(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに変換し、一方、有機溶剤中または水および有機溶剤のいずれもが存在しない系(非水系)ではR体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化して(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換する性質を有する。
上記した多数の市販の酵素のうち、リパーゼPS(天野エンザイム社製)は少ない使用量で、且つ短い反応時間で、水系では(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解して光学活性の極めて高い(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルにすることができ、また非水系では(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化して光学活性の極めて高い(R)−3−アシルオキシペンタンニトリルを生成させることができるので、特に好ましい。
【0090】
また、S体を優先的に加水分解またはアシル化する酵素の具体例としては、リパーゼSP539(Bacillus sp.由来、NOVO社製)、キモトリプシン(牛膵臓由来、和光純薬社製)などを挙げることができる。これらの酵素は、いずれも、水性溶剤中(水系)ではS体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解して(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルに変換し、一方、有機溶剤中または水および有機溶剤のいずれもが存在しない系(非水系)ではS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化して(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルに変換する性質を有する。
【0091】
本発明の製造方法(i)では、製造を目的とする光学的立体構造に応じて、上記で例示した水系でR体またはS体の3−アシルオキシペンタンニトリルのいずれかを優先的に加水分解する酵素の1種または2種以上を用いることができる。また、本発明の製造方法(ii)では、製造を目的とする光学的立体構造に応じて、上記で例示した非水系でR体またはS体の3−ヒドロキシペンタンニトリルのいずれかを優先的にアシル化する酵素の1種または2種以上を用いることができる。
更に、本発明の製造方法(iii)では、上記で例示した水系でR体の3−アシルオキシペンタンニトリルを優先的に加水分解する酵素の1種または2種以上を用いることができる。
また、本発明の製造方法(iv)では、上記で例示した非水系でR体の3−ヒドロキシペンタンニトリルを優先的にアシル化する酵素を用いることができる。
【0092】
【実施例】
以下、実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
【0093】
《製造例1》[ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 60%水素化ナトリウム40gをテトラヒドロフラン300mlに懸濁し、アセトニトリル49.3gおよびプロピオン酸エチル122.5gを加えて、70℃で一晩攪拌した。室温まで自然放冷後、更に氷水中で冷却しながらn−へキサン300mlを添加した。析出物をろ過により取得し、n−ヘキサン500mlで洗浄後、減圧下に乾燥した。これにより、3−ケトぺンタンニトリル・ナトリウム塩98.7gが白色粉末として得られた。
(2) 氷冷下に、上記(1)で得られた3−ケトぺンタンニトリル・ナトリウム塩31.6gを蒸留水150mlに溶解し、6N塩酸でpHを4に調整した後、塩化メチレン200mlで3回抽出した。塩化メチレン抽出液を一緒にし、減圧下で塩化メチレンを留去し、残渣にエタノール100mlおよび水素化ホウ素ナトリウム11.4gを加えて氷冷下で2時間攪拌した。1N塩酸240mlを添加した後、酢酸エチル200mlで3回抽出した。酢酸エチル抽出液を一緒にして、無水硫酸ナトリウムで脱水処理した後、減圧下で酢酸エチルを留去し、20.1gのラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル20.7gを取得した。
(3) 上記(2)で得られたラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリルの1H−NMRの測定結果は次のとおりであった。
・1H−NMR δ(CDCl3):1.00(3H,t)、1.64(2H,dq)、2.27(1H,s)、2.54(2H,dd)、3.86−3.92(1H,m)
【0094】
《製造例2》[ラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 製造例1で得られたラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル10.0gに、ピリジン50ml、ジメチルアミノピリジン10mgおよびn−酪酸無水物23.9gを加えて氷中で一晩攪拌した。反応終了後、ジエチルエーテル1000mlを加え、1N塩酸500mlで2回、次に飽和食塩水500mlで1回洗浄した。次いで洗浄した反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下でジエチルエーテルを留去してラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリル16.5gを取得した。
(2) 上記(1)で得られたラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリルの1H−NMRおよびIRの測定結果は次のとおりであった。
・1H−NMR(400MHz,CDCl3)δppm:0.96(6H,m),1.59〜1.88(4H,m),2.33(2H,t),2.61(1H,dd),2.72(1H,dd),4.87〜5.00(1H,m)
・IR νcm−1:2970,2253,1740,1464,1420,1383,1252,1177,1097,976
【0095】
《製造例3》[ラセミ体3−イソブチリロキシペンタンニトリルの製造]
(1) ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル10.0gに、ピリジン50ml、ジメチルアミノピリジン10mgおよびイソ酪酸無水物23.9gを加えて氷中で一晩攪拌反応させた。反応後、ジエチルエーテル1000mlを加え、1N塩酸500mlで2回、次に飽和食塩水500mlで1回洗浄した。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下でジエチルエーテルを留去して、ラセミ体3−イソブチリロキシペンタンニトリル16.5gを取得した。
(2) 上記(1)で得られたラセミ体3−イソブチリロキシペンタンニトリルの1H−NMRおよびIRの測定結果は次のとおりであった。
・1H−NMR(400MHz,CDCl3)δppm:0.96(3H,t),1.20(6H,d),1.65〜1.87(2H,m),2.51〜2.67(2H,m),2.72(1H,dd),4.85〜4.96(1H,m)
・IR νcm−1:2974,2253,1736,1470,1421,1389,1340,1254,1190、1157,1068,972
【0096】
《製造例4》[ラセミ体3−イソバレリロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 3−ヒドロキシペンタンニトリル10.0gに、ピリジン50ml、ジメチルアミノピリジン10mgおよびイソ吉草酸無水物28.9gを加えて氷中で一晩反応させた。反応後、ジエチルエーテル1000mlを加え、1N塩酸500mlで2回、次に飽和食塩水500mlで1回洗浄した。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下でジエチルエーテルを留去して、ラセミ体3−イソバレリロキシペンタンニトリル18.0gを取得した。
(2) 上記(1)で得られたラセミ体3−イソバレリロキシペンタンニトリルの1H−NMRおよびIRの測定結果は次のとおりであった。
・1H−NMR(400MHz,CDCl3)δppm:0.90〜1.07(9H,m),1.65〜1.89(2H,m),1.98〜2.18(1H,m),2.23(2H,d),2.60(1H,dd),2.71(1H,dd),4.86〜5.05(1H,m)
・IR νcm−1:2964,2359,2253,1738,1466,1420,1371,1294,1252,1186,1095,1011,986
【0097】
《実施例1》[製造方法(i)による光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 製造例2で得られたラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリル50mgに、下記の表1に記載したそれぞれの市販リパーゼ1mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlを加えて30℃で下記の表1に示す反応時間で反応させた。反応後、酢酸エチル5mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して以下に記載のキャピラリーガスクロマトグラフィー分析条件で分析した。
【0098】
【0099】
(2) 上記(1)で得られた光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの絶対立体配置、収率および光学純度は以下の表1に示すとおりであった。
【0100】
【表1】
【0101】
上記の表1の結果から、本発明の製造方法(i)による場合は、少ない酵素の使用量で、しかも高価なチオクラウンエーテルを添加しなくても、高い光学純度を有する光学活性(R体)3−ヒドロキシペンタンニトリルが、非特許文献1に記載されている従来技術に比べて、高い収率で得られることがわかる。
【0102】
《実施例2》[製造方法(i)による光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
製造例2で得られたラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリル10mgに、下記の表2に記載したそれぞれの市販リパーゼ3mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlを加えて、30℃で表2に示す時間で反応させた。反応後、酢酸エチル5mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
この実施例2で得られた光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの絶対立体配置、収率および光学純度は以下の表2に示すとおりであった。
【0103】
【表2】
【0104】
上記の表2の結果からも、本発明の製造方法(i)による場合は、高価なチオクラウンエーテルを添加しなくても、高い光学純度を有する光学活性(R体)3−ヒドロキシペンタンニトリルが、非特許文献1に記載されている従来技術に比べて、高い収率で得られることがわかる。
【0105】
《実施例3》[製造方法(i)による光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
製造例3で得られたラセミ体3−イソブチリロキシペンタンニトリル10mgに、下記の表3に記載したそれぞれの市販リパーゼ3mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlを加えて、30℃で表3に示す時間で攪拌して反応させた。次いで、酢酸エチル5mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
この実施例3で得られた光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの絶対立体配置、収率および光学純度は以下の表3に示すとおりであった。
【0106】
【表3】
【0107】
上記の表3の結果からも、本発明の製造方法(i)による場合は、高価なチオクラウンエーテルを添加しなくても、高い光学純度を有する光学活性(R体)3−ヒドロキシペンタンニトリルが、高い収率で得られることがわかる。
【0108】
《実施例4》[製造方法(i)による光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
製造例4で得られたラセミ体3−イソバレリロキシペンタンニトリル10mgに、下記の表4に示したそれぞれの市販リパーゼ3mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlを加えて、30℃で表4に示す時間で攪拌して反応させた。次いで、酢酸エチル5mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
この実施例4で得られた光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの絶対立体配置、収率および光学純度は以下の表4に示すとおりであった。
【0109】
【表4】
【0110】
上記の表4の結果から、本発明の製造方法(i)による場合は、高価なチオクラウンエーテルを添加しなくても、光学活性(R体)3−ヒドロキシペンタンニトリルが、高い収率で得られることがわかる。
【0111】
《実施例5》[製造方法(ii)による(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリルの製造]
製造例1で得られたラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル1.0gに、リパーゼPS100mg、n−酪酸ビニル633mgおよびtert−ブチルメチルエーテル10mlを加えて30℃で35時間反応させた。反応後、反応液0.5mlに酢酸エチル9.5mlを加えて、その一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
その結果、光学純度92.2%e.e.の(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリルが32.5%の収率で得られた。
なお、この実施例5において、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行ったときの、3−ブチリロキシペンタンニトリルの溶出時間は、R体が23.83分、S体が25.73分であった。
【0112】
《実施例6》[製造方法(ii)による(R)−3−プロピオニロキシペンタンニトリルの製造]
製造例1で得られたラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル1.0gに、リパーゼPS100mg、n−プロピオン酸ビニル555mgおよびtert−ブチルメチルエーテル10mlを加えて30℃で22.5時間反応させた。反応後、反応液0.5mlに酢酸エチル9.5mlを加えて、その一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
その結果、光学純度91.7%e.e.の(R)−3−プロピオニロキシペンタンニトリルが30.9%の収率で得られた。
なお、この実施例6において、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行ったときの、3−プロピオニロキシペンタンニトリルの溶出時間は、R体が16.35分、S体が19.78分であった。
【0113】
《製造例5》[3−ケトペンタンニトリル・ナトリウム塩からの(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム7水和物0.8g、硫酸亜鉛7水和物60mg、硫酸鉄7水和物90mg、硫酸銅5水和物5mg、硫酸マンガン4水和物10mgおよび塩化ナトリウム100mg(いずれも900ml当たり)の組成からなる液体培地45mlとアデカノール(旭電化社製)1滴を、500ml容の坂口フラスコに入れて殺菌し、これに殺菌済みの40%グルコース水溶液5mlとCandida gropengiesseri (キャンディダ・グロッペンギッセリ)IFO0659を一白金耳を無菌的に接種し、30℃で72時間振とう培養した。
(2) 上記(1)の培養で得られた培養液1リットルを遠心分離にかけて菌体を集めて、グルコース4%を含んだ100mMリン酸緩衝液200ml(pH6.5)に懸濁した。
(3) 上記(2)で得られた菌体の懸濁液に、6N塩酸を用いてpH6.5を保ちながら、3−ケトペンタンニトリル・ナトリウム塩1.19gを添加し、添加後30℃で24時間攪拌しながら反応を行った。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、水相を更に酢酸エチルで抽出した。酢酸エチルを一緒にして無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下に酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行い、(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル842mgを取得した。上記した方法でその光学純度を測定したところ81.9%e.e.であった。
【0114】
《実施例7》[製造方法(iii)による高光学純度の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 製造例5と同じ製造方法を行って得られた光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル5.0gに、ピリジン25ml、ジメチルアミノピリジン3mgおよびn−酪酸無水物12.0gを加えて氷中で一晩反応させた。反応後、ジエチルエーテル400mlを加え、1N塩酸300mlで2回、次に飽和食塩水200mlで1回洗浄した。次いで、反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下でジエチルエーテルを留去して、光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリル8.2gを取得した
(2) 上記(1)で得られた光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリル100mgに、下記の表5に示したそれぞれの市販リパーゼ0.5mgおよび0.5Mリン酸緩衝液(pH7)1.0mlを加えて、30℃で表5に示した時間で攪拌しながら反応させた。次いで、酢酸エチル10mlを加えてよく混合し、有機層の一部を採取して、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行った。
この実施例7で得られた(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの収率および光学純度は以下の表5に示すとおりであった。
【0115】
【表5】
【0116】
上記の表5の結果から、本発明の製造方法(iii)による場合は、95%e.e.を超す極めて高い光学純度を有する光学活性(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが高収率で得られることがわかる。
【0117】
《実施例8》[製造方法(iii)による高光学純度の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
下記の表6に示す市販リパーゼを用いた以外は、実施例7と全く同条件で反応を行なった。その結果、下記の表6に示すように、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが得られた。
【0118】
【表6】
【0119】
《実施例9》[製造方法(iii)による高光学純度の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 製造例5と同じ製造方法を行って得られた光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル51.7gに、tert−ブチルメチルエーテル100ml、ピリジン43.3gおよびジメチルアミノピリジン56mgを加えて氷中で攪拌した。これに、氷冷下でn−酪酸クロライド63.3gを2時間かけて添加した。添加後、室温で一晩攪拌した。反応終了後、酢酸エチル1リットルを加え、1N塩酸130mlで5回、飽和重曹水100mlで3回、飽和食塩水100mlで1回洗浄した。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で溶剤を留去して、光学純度81.9%e.e.の(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリル75.8gを取得した。
(2) 上記で得られた(R)−3−ブチリロキシペンタンニトリル70gと、リパーゼPS350mgを0.5Mリン酸緩衝液(pH7.0)700mlに加え、30℃で23時間攪拌しながら反応させた。
【0120】
(3) 上記(2)で得られた反応液の一部を採取し、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、光学純度99.2%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが36.2g(収率88.2%)生成したことが確認された。
(4) また、上記(2)で得られたサンプリング後の反応液をn−へキサン700mlで3回洗浄することにより、未反応の3−ブチリロキシペンタンニトリルを除去した。洗浄後の反応液中には3−ブチリロキシペンタンニトリルが存在しないことを、実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行って確認した。このへキサン洗浄後の反応液に、酢酸エチル1.5リットルを加えて3回抽出操作を行なった。酢酸エチル抽出液を一緒にして飽和重曹水100mlで3回、次いで飽和食塩水50mlで1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で酢酸エチルを留去した。蒸留による精製を行って、光学純度99.2%e.e.の(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリル33.6gを無色の液体として取得した。
【0121】
《製造例6》[3−ケトペンタンニトリル・ナトリウム塩からの(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
(1) 酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム7水和物0.8g、硫酸亜鉛7水和物60mg、硫酸鉄7水和物90mg、硫酸銅5水和物5mg、硫酸マンガン4水和物10mgおよび塩化ナトリウム100mg(いずれも900ml当たり)の組成からなる液体培地45mlとアデカノール1滴を、500ml容の坂口フラスコに入れて殺菌し、これに殺菌済みの40%グルコース水溶液5mlとDipodascus tetrasperma (ディポダスカス・テトラスパーマ)CBS765.70を一白金耳を無菌的に接種し、30℃で72時間振とう培養した。
(2) 上記(1)で得られた培養液1リットルを遠心分離にかけて菌体を集め、グルコース4%を含んだ100mMリン酸緩衝液200ml(pH6.5)に懸濁した。この菌体の懸濁液に、酢酸ブチル200mlを加えて、6N塩酸を用いてpH6.5を保ちながら、3−ケトペンタンニトリル・ナトリウム塩2.0gを添加し、添加後30℃で24時間攪拌しながら反応を行った。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、水層を更に酢酸エチルで抽出した。酢酸エチルを一緒にして無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下に酢酸エチルを留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行って、(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル1.12gを取得した。上記した方法でその光学純度を測定したところ81.0%e.e.であった。
【0122】
《実施例10》[製造方法(iv)による高光学純度の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造]
製造例6で得られた光学純度81.0%e.e.の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリル200mgに、n−酪酸ビニル75mg、リパーゼPS10mgおよびtert−ブチルメチルエーテル2.0mlを加えて、30℃で3日間反応させた。反応後、反応液の一部を酢酸エチルで希釈し、その一部を採取して実施例1におけるのと同じ条件下でキャピラリーガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、光学純度98.5%e.e.の(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルが収率77.7%で生成していることが確認された。
【0123】
《参考例1》[3−アシルオキシペンタンニトリルと3−ヒドロキシペンタンニトリルの分離性試験]
(1)(a) ラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル10.0gに、ピリジン50ml、ジメチルアミノピリジン10mgおよび酢酸無水物24gを加えて氷中で一晩反応させた。反応後、ジエチルエーテル1リットルを加え、1N塩酸500mlで2回、次に飽和食塩水500mlで1回洗浄した。次いで、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で溶剤を留去して、ラセミ体3−アセトキシペンタンニトリル14.0gを取得した。
(b) 上記(a)で得られたラセミ体3−アセトキシペンタンニトリル1.0gとラセミ体3−ヒドロキシペンタンニトリル10gを、0.5Mリン酸緩衝液(pH7)100mlに懸濁し、n−へキサン30mlで3回抽出した。こうして得られたヘキサン層には、0.45gの3−アセトキシペンタンニトリルと0.03gの3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれていた。一方、水層中には、0.55gの3−アセトキシペンタンニトリル、9.97gの3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれていた。
【0124】
(2) 一方、ラセミ体3−ブチリロキシペンタンニトリルを用いて、上記(1)の(b)と同様に操作したところ、得られたヘキサン層には、0.997gの3−ブチリロキシペンタンニトリルと0.03gの3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれていた。一方、水層中には、0.003mgの3−ブチリロキシペンタンニトリルと9.97gの3−ヒドロキシペンタンニトリルが含まれていた。
【0125】
(3) 上記(1)と(2)の結果の対比から、3−アシルオキシペンタンニトリルにおけるアシルオキシ基がアセトキシ基ではなく、炭素数3以上のカルボキシル基である場合[上記の式(1)においてR1が炭素数2以上のアルキル基である場合]には、3−アシルオキシペンタンニトリルと3−ヒドロキシペンタンニトリルを含む水性液(反応生成物)を脂肪族炭化水素系溶剤(ヘキサンなど)で抽出処理したときに、3−アシルオキシペンタンニトリルと3−アシルオキシペンタンニトリルとが有機溶剤層(脂肪族炭化水素系溶剤層)と水性層のそれぞれに殆ど完全に分離されること、それに対して3−アセトキシペンタンニトリルと3−ヒドロキシペンタンニトリルの場合は両者が有機溶剤層(脂肪族炭化水素系溶剤層)と水性層とに完全に分離されないことが分かる。
このような分離性の違いは、光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルと光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを抽出分離する場合に、有機抽出溶剤の量や得られる光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルおよび光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの化学純度に大きく影響する。
【0126】
【発明の効果】
本発明の製造方法(i)および製造方法(ii)による場合は、少ない酵素の使用量で、しかもチオクラウンエーテルなどのような高価で特別の成分を反応系に添加せずに、高い光学純度を有する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリル(特にR体の3−ヒドロキシペンタンニトリル)およびそれと対掌配置をなす光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを、高い収率で且つ低コストで生産性よく製造することができ、そのため本発明の製造方法は工業的に実用性の高く、有用である。
そして、本発明の製造方法(iii)による場合は、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを高収率で製造することができる。
さらに、本発明の製造方法(iv)による場合は、95%e.e.以上の極めて高い光学純度を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを高収率で製造することができる。
また、本発明により、光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの製造原料などとして有用な、前記の式(1)で表される新規なラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルおよび前記の式(3)で表される新規な光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルが提供される。
Claims (24)
- 不斉加水分解能を有する酵素が、3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素であり、生成する光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルの立体配置がR体であり且つ光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの立体配置がS体である請求項1に記載の製造方法。
- R1が炭素数2〜7のアルキル基である請求項1または2に記載の製造方法。
- 不斉加水分解能を有する酵素酵素を作用させた後の反応生成物を、脂肪族炭化水素系溶剤により抽出処理して光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出して回収し、次いで光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル抽出した後の反応生成物から光学活性3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
- 不斉アシル化能を有する酵素が、3−ヒドロキシペンタンニトリルのR体を優先的にアシル化する酵素であり、生成する光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの立体配置がR体で且つ光学活性3−アシルオキシペンタンニトリルの立体配置がS体ある請求項5に記載の製造方法。
- 式(5)で表されるカルボン酸エステルにおけるR2が炭素数2〜7のアルキル基およびR3がビニル基である請求項7に記載の製造方法。
- R1が炭素数2〜7のアルキル基である請求項9に記載のラセミ体3−アシルオキシペンタンニトリルまたは請求項10に記載の光学活性3−アシルオキシペンタンニトリル。
- 95%e.e.以上の光学純度(A2)を有する(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する請求項12または13に記載の製造方法。
- R2が炭素数2〜7のアルキル基である請求項12〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
- 3−アシルオキシペンタンニトリルのR体を優先的に加水分解する酵素を作用させた後の反応生成物を、脂肪族炭化水素系溶剤により抽出処理して(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出し、次いで(S)−3−アシルオキシペンタンニトリルを抽出した後の反応生成物から(R)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを回収する請求項12〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
- 95%e.e.以上の光学純度(B2)を有する(S)−3−ヒドロキシペンタンニトリルを製造する請求項17に記載の製造方法。
- 式(5)で表されるカルボン酸エステルにおけるR2が炭素数2〜7のアルキル基およびR3がビニル基である請求項19に記載の製造方法。
- 酵素が、微生物または動物起源のリパーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼである請求項1〜8および12〜20のいずれか1項に記載の製造方法。
- 酵素が、アクロモバクター(Achromobacter)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、キャンディダ(Candida)属、クロモバクテリウム(Chromobacterium)属、フミコーラ(Humicola)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属及びシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物を起源とするリパーゼ、豚膵臓由来のリパーゼである請求項1〜8および12〜21のいずれか1項に記載の製造方法。
- 酵素が、バークホルデリア(Burkholderia)属、ムコール(Mucor)属、及びシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物を起源とするリパーゼ、豚膵臓由来のリパーゼである請求項1〜8および12〜22のいずれか1項に記載の製造方法。
- 酵素が、リパーゼPS(天野エンザイム社製)である請求項1〜8および12〜23のいずれか1項に記載の製造方法。
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