JP2004176077A - Fe−Ni系合金の製法 - Google Patents
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Abstract
【課題】脱酸精錬後の再溶解法を実施せずとも有害介在物の生成を可及的に低減し、耐表面疵性と微細エッチング性に優れたFe−Ni系合金を安価に製造することのできる方法を確立すること。
【解決手段】Ni:28〜50質量%を含むFe−Ni系合金を溶製するに当たり、該合金溶湯を酸素吹錬した後、Si系脱酸剤を用いて真空下に脱酸処理し、フリー酸素濃度([O]f)を25〜40ppmに制御する。
【選択図】 なし
【解決手段】Ni:28〜50質量%を含むFe−Ni系合金を溶製するに当たり、該合金溶湯を酸素吹錬した後、Si系脱酸剤を用いて真空下に脱酸処理し、フリー酸素濃度([O]f)を25〜40ppmに制御する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はFe−Ni系(Fe−Ni−Co系を含む、以下同じ)合金の溶製法に関し、特に、エッチング加工性に優れたFe−Ni系合金を溶製する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Fe−Ni系の低熱膨張合金(インバー合金)は、その優れた低熱膨張特性や磁気特性を活かして、シャドーマスク用材料、リードフレーム用材料、磁気材料等として広く活用されている。その中でもFe−Ni−Co合金は特に優れた低熱膨張性を有していることから、超低熱膨張合金(スーパーインバー)として知られ、様々の用途に利用されている(特許文献1など)。
【0003】
これらの合金を例えばシャドーマスク用として使用する際には、酸を用いた微細エッチング加工が行われるが、該合金中にAl2O3やAl2O3−MgO等の介在物が存在するとエッチング性が著しく低下し、製品品質に重大な悪影響を及ぼすことが知られている。そこで、それら有害介在物を除去するための手段として例えば特許文献2には、VOD法(真空酸素吹精脱炭法:Vacuum Oxygen Decarburization)等を利用した2次精錬後にAlによる強脱酸を行い、溶鋼中のフリー酸素を25ppm程度以下に低減することで介在物組成をAl2O3やAl2O3−MgO系とし、その後エレクトロスラグ再溶解法などで再溶解処理を行うことにより、上記有害介在物を除去して清浄化する方法が開示されている。
【0004】
一方、溶製後の再溶解を行うことなく比較的安価に清浄化する方法として特許文献3には、EF−VOD法(電気炉−真空酸素吹精脱炭法)を採用し、金属Alを用いて脱酸する方法も知られている。
【0005】
しかしそれらの方法で製造したインバー合金製品には、前述した如く介在物の組成やサイズ、個数などに問題があることから、特にシャドーマスク用として利用する場合、例えば特許文献4にも記載されている如く、介在物組成を硬質で且つ酸溶解性に欠けるスピネル(Al2O3−MgO)以外の組成にすることが望ましいとされている。しかし、具体的にどの様な手段でどの様な介在物組成に制御するかということについては、必ずしも十分な検討はなされていない。
【0006】
【特許文献1】
特開平3−276723号公報
【特許文献2】
特開2001−98345号公報
【特許文献3】
特開平5−279733号公報
【特許文献4】
特開平10−298717号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、比較的安価なEF−VOD法を採用することにより、精錬後の再溶解法を実施せずとも有害介在物の生成を可及的に低減し、微細エッチング性に優れたFe−Ni系合金を得ることのできる方法を提供することにある。
【0008】
【課題を達成するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係るFe−Ni系合金の製法とは、Ni:28〜50%を含むFe−Ni系合金を溶製するに当たり、該合金溶湯を真空下で酸素吹精(脱炭)した後、Si系脱酸剤を用いて真空下に脱酸処理し、フリー酸素濃度([O]f)を25〜40ppmの範囲に制御するところに要旨を有している。
【0009】
本発明に適用される上記Fe−Ni系合金としては、FeとNiを主成分として含む低熱膨張合金(インバー合金)の他、更なる元素としてCo:2〜7%を含む超低熱膨張合金(スーパーインバー)は、シャドーマスク用として特に好ましく使用される。これらFe−Ni系合金の主成分は上記2種もしくは3種の元素であるが、これらの合金には更に他の元素としてMn:0.1〜1%が含まれていてもよく、また本発明が適用される代表的な合金は、C:0.1質量%以下、Si:0.5%以下、Cr:3%以下で、残部が実質的にFeであるFe−Ni系合金である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前述した如く真空中で酸素吹精を行うVOD法を採用してFe−Ni系合金を溶製する際に、エッチング性に格別顕著な悪影響を及ぼすスピネル系介在物(Al2O3やAl2O3−MgO)の生成を可及的に抑制すべく様々の角度から研究を進めてきた。
【0011】
その結果、Fe−Ni系合金を溶製する際に、VOD法を採用して該合金溶湯を真空酸素脱炭した後、引き続いてSi系脱酸剤を用いて脱酸する方法を採用し、この時のSi系脱酸剤の添加量を適正に制御することで該合金中のフリー酸素濃度([O]f)を25〜40ppmの範囲に制御すると、合金内の酸化物系介在物はMnO−SiO2主体のものとなり、エッチング性に顕著な悪影響を及ぼすスピネル系(Al2O3−MgO)介在物の生成量が著しく低減することを突き止めた。
【0012】
ちなみに図1は、本発明者らが行った多くの実験データから、VOD処理後にSi系脱酸剤の添加量を種々変えて合金中のフリー酸素濃度を変化させた時の、該フリー酸素濃度([O]f)と、該合金を用いた鍛造品中の介在物組成との関係を整理して示したグラフである。
【0013】
この図からも明らかな様に、Si脱酸後のフリー酸素濃度([O]f)が低くなるにつれて、鍛造品中の全酸素量([O]T)は明らかに減少してくる。そのため従来技術では、酸化物系介在物の生成量を可及的に低減するため、全酸素量([O]T)で60ppm程度以下を目標値とし、全酸素量を可能な限り低減する方向で脱酸処理が行われている。
【0014】
ところが図1からも明らかな如く介在物組成については、全酸素量([O]T)が減少するにつれて、介在物中の(SiO2+MnO)系介在物の比率は明らかに減少傾向を示しているのに対し、スピネル系(Al2O3−MgO)介在物の比率は明らかに増大傾向を示している。そして、脱酸処理合金中のフリー酸素濃度([O]f)が25ppm超、特に30ppm以上では、介在物中のスピネル系介在物の量は極めて少ないのに対し、該フリー酸素濃度([O]f)が25ppm以下になると、介在物中のスピネル系介在物の比率が急激に増大してくる。
【0015】
即ち、清浄度の向上という観点からは、被処理合金中の全酸素量([O]T)、延いてはフリー酸素濃度([O]f)をできるだけ少なくすることが望ましく、そのため従来の清浄化技術では、専ら合金中の全酸素量を極力低減する方向で脱酸処理が行われている。ところが、図示する如くフリー酸素濃度([O]f)が過度に低くなると、介在物の中でも特に硬質でエッチング性や表面疵などを含めた加工性に顕著な悪影響を及ぼすスピネル系介在物の比率が急増してくるのである。よって、脱酸工程で合金中の酸素濃度を過度に低減することは、有害なスピネル系介在物の比率を増大することになり、耐表面疵性や酸エッチング性にとっては却ってマイナス効果をもたらす。
【0016】
一方、Si脱酸を行った時に低酸素域で増大してくる(SiO2+MnO)系介在物は、前記スピネル系介在物に比べると軟質で且つ酸に対する溶解性も高く、エッチング性に与える悪影響の度合いは格段に小さい。
【0017】
本発明者らはこうした知見を基になされたもので、Si系脱酸剤を用いた脱酸時におけるFe−Ni系合金中のフリー酸素濃度の下限を特定し、それにより該合金内に存在する介在物中に占めるスピネル系介在物の比率を極力低く抑えることによって、介在物の前記有害作用を軽減するところに特徴を有している。
【0018】
そして本発明では、図1からも明らかな如く、フリー酸素濃度が25ppm未満になるとスピネル系介在物の比率が大幅に増大するという実験結果を基に、フリー酸素濃度の具体的な基準を25ppm以上と定めている。より好ましいフリー酸素濃度の下限は30ppm以上であり、この濃度域では、介在物中のスピネル系介在物の比率は殆どゼロ(0)となる。
【0019】
但し、フリー酸素濃度が過度に高くなると、酸化物系介在物全体の含有率が多くなり過ぎて、加工性や板材の物性を劣化させる原因になるので、多くとも40ppm以下、より好ましくは35ppm程度以下に抑えることが望ましい。
【0020】
尚、上記フリー酸素濃度[O]fとは、合金中に酸化物系介在物として混入してくる酸素と遊離状態で存在する酸素の総和、即ち全酸素量[O]Tから、酸化物系介在物として含まれる酸素を差引いた値であり、全酸素量[O]Tから、酸化物系介在物としての酸素含量を差引くことによって算出すればよい。
【0021】
図2は、本発明を実施する際の概略工程説明図であり、電気炉による原料の溶解から酸素吹精、VOD処理および造塊を行う一連の工程を模式的に示している。即ち、電気炉1に原料Aを装入し、電極2を挿入して該原料Aを加熱溶解した後、酸素吹込みランス3から酸素ガスを吹き込んで脱炭を行う。
【0022】
脱炭を終えた溶鋼は、脱炭のための酸素吹込みによって酸素量が増大しているので、酸素脱炭を終えた合金溶湯は取鍋4へ移し、脱酸剤としてSi系脱酸剤(SiまたはFe−Siなど)を加えて予備脱酸処理し、湯面上のスラグSをスラグドラッガー5等によって除去する。
【0023】
その後、成分粗調整を行ってから該取鍋4をVOD炉6内に装入し、VOD炉6を密封して真空引きしながら酸素上吹きを行い、更なる脱炭を進めた後、酸素吹きを止めてからSi系脱酸剤を添加し脱酸を行う。この際、合金中のフリー酸素濃度を測定しながらSi添加量を微調整することにより、フリー酸素濃度を25〜40ppmの範囲に制御する。
【0024】
そして通常は、該Si添加によるフリー酸素量の調整と同時若しくはその前後任意の時期に脱硫処理のための脱硫剤、例えば塩基度(CaO/SiO2比)が2〜2.5程度となる様にCaO,SiO2,CaF2等を添加することによって脱硫を行う。上記Si脱酸および脱硫処理に当たっては、脱酸および脱硫をより効率よく進めるため、アルゴンガスなどの不活性ガスを吹き込んで溶湯を攪拌することが望ましい。
【0025】
かくしてフリー酸素量を適正範囲に制御した溶湯は、常法に従って下注ぎ造塊法等によって鋳造すればよい。
【0026】
かくして得られる鋳造品は、Si脱酸工程でフリー酸素濃度が25〜40ppmの範囲に制御されているので、前述した如く該鋳塊中に含まれる酸化物系介在物は(MnO−SiO2)主体の組成を有しており、硬質で酸溶解性の劣悪なスピネル系介在物は実質的にゼロもしくは非常に少ないので、これを常法に従って鍛造、熱延、更には冷延すると、鏡面研磨等の研磨加工による表面疵が起り難く、且つ優れた酸エッチング性を有する合金板を得ることができる。
【0027】
なお、上記図2に示した製法は、本発明を実施する際の代表的な工程を例示しただけのものであって、図2に示した方法に制限されるわけではなく、要はSi系脱酸剤を用いて真空下に脱酸処理を行う際に、被処理溶湯のフリー酸素濃度を25〜40ppmという特定濃度範囲に制御する工程を実施する限り、様々の変更実施が可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0028】
次に、本発明が適用されるFe−Ni系合金の化学成分について説明する。
【0029】
Ni:28〜50%
まずNiは、Fe−Ni系合金の低熱膨張特性に大きな影響を及ぼす元素であり、例えばシャドーマスク用やICリードフレーム等の電子部品材料として適用するには、Siチップやパッケージ、或いはブラウン管に用いるガラス素材等に近似した熱膨張係数を有することが不可欠であり、特にシャドーマスクに適用する場合は、その低熱膨張特性により色ずれを防止する上で極めて重要な元素である。そのため本発明では、該低熱膨張特性を確保することの必要上Ni含量を28〜50%と定めている。より好ましいNi含量は30%以上、35%以下である。
【0030】
Co:2〜7%
Coは、スーパーインバー合金の必須元素であり、熱膨張率を更に低減し性能向上に寄与するばかりでなく、酸エッチング性を高める作用も有しており、特にシャドーマスク用として適用する場合は2%以上、より好ましくは4%以上含有させることが望ましい。しかし、Co含量が多くなり過ぎると合金の熱膨張率が高くなり、シャドーマスク用としての適性が損なわれるので、7%程度以下、より好ましくは5%以下に抑えるべきである。
【0031】
Mn:0.1〜1%
Mnは、Fe−Ni系合金の鍛造性向上に寄与する他、脱酸剤としても有効に作用する元素であり、これらの作用は0.1%以上、より好ましくは0.2%以上の添加で有効に発揮される。しかしMn含量が多過ぎると、熱膨張率が高くなってインバー合金としての特殊性を著しく害するばかりでなく、不可避的に混入してくるSと結合してMnSを生成し製品特性に悪影響を及ぼすので、1%以下、より好ましくは0.5%以下に抑えねばならない。
【0032】
C:0.1%以下
Cは、Fe成分に由来して不可避的に混入してくる元素であり、炭化物を生成してエッチング性を阻害するほか、耐力を高めてプレス成形性等の加工性を劣化させ、更には保磁力を高めて磁気的特性にも悪影響を及ぼす。従ってその含有量は少ないほど好ましく、多くとも0.1%以下に抑えるべきである。
【0033】
Si:0.5%以下
SiはSi系脱酸剤の使用に由来して混入してくる元素であるが、多過ぎると耐力が高くなって成形性を阻害するばかりでなく、酸エッチング性にも悪影響を及ぼすので、多くとも0.5%以下、好ましくは0.1%以下に抑えることが望ましい。
【0034】
Cr:3%以下
Crは、磁気的特性を高める作用を有しているので、用途によっては積極的に含有させることもある。しかし、Crは熱膨張率を高めるばかりでなく酸エッチング性にも悪影響を及ぼすので、多くとも3%以下、好ましくは1%以下に抑えるのがよい。尚インバー合金には、バインダーとして0.5%程度のCrが含まれていることもあり、ここでいうCr量とは、該バインダーとして含まれるCr量も含めた含有量を意味する。
【0035】
本発明で用いる合金の残部成分は実質的にFeであり、不可避的に混入してくるAl,N,S等については、本発明の作用を阻害しない範囲で微量の混入は許容されるが、Alは極力少なく抑えることが望ましい。
【0036】
本発明によって得られるFe−Ni系合金は、フリー酸素量を25〜40ppmの範囲に調整することで、前述の如く介在物組成が軟質で酸溶解性の高い(MnO−SiO2)系主体の組成に制御されており、硬質で酸エッチング性に欠けるスピネル系(Al2O3−MgO)介在物の量が可及的に低減されているので、鏡面加工などを含めた研磨処理などで生じる表面疵が最小限に抑えられるばかりでなく、シャドーマスクなどを製造する際の微細エッチング性にも優れたものであり、Fe−Ni系合金の優れた低熱膨張特性や磁気特性等を活かし、シャドーマスク用素材やリードフレーム用材料、磁気材料などとして幅広く有効に活用できる。中でもFe,Niと共に適量のCoを含むスーパーインバー合金は、Co添加によって付与される更なる低熱膨張特性や優れた酸エッチング性により、シャドーマスク用素材として卓越した性能を発揮する。
【0037】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0038】
実施例
電気炉で溶製したFe−Ni系合金を取鍋に移し、VOD法により脱炭した後、真空(10Torr以下)下でスラグ(CaO−SiO2−CaF2)と脱酸剤(Fe−75%Si−1%以下Al)を添加し、種々のフリー酸素濃度まで脱酸した。
【0039】
尚、Si脱酸処理後のフリー酸素濃度は、溶鋼中に熱電対を浸漬させたときに発生する起電力から換算して求め、またSi脱酸後の全酸素濃度は、燃焼赤外線吸収法によって求めた。
【0040】
その後、取鍋を大気開放してから溶湯成分の最終調整を行い、下注ぎ鋳造法によって鋳造する。得られた各鋳塊に約1300℃で数時間の熱処理を施し、鋳塊内部のミクロ偏析を均質化した後、熱間鍛造および熱間圧延を行って厚さ約0.2mm以下の板状に加工した。
【0041】
得られた熱延板から分析用のサンプルを切出し、板表面と平行に板厚中央部まで研磨し、EPMAによる介在物分析を行った。EPMA分析では、100〜300mm2の視野内に存在する5μm以上の全ての介在物について組成分析を行った。尚、組成分析対象の酸化物は、MgO,Al2O3,SiO2,CaO,MnO,TiO2,ZrO2,K2O,Na2O,Cr2O3,MoO3,CuOであり、各サンプルにおける介在物組成の平均値を算出し、溶製条件との相関性を調べた。
【0042】
表1に、鋳造直前の溶鋼成分組成と、該溶鋼から得た熱延板中の介在物の平均組成を示す。なお介在物組成については、代表的なMgO,Al2O3,SiO2,MnOのみを示した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1からも明らかな様に、溶鋼のフリー素濃度が25ppmを境にして、介在物中のスピネル系(Al2O3およびAl2O3+MgO系)介在物の濃度は著しく変わり、溶鋼中のフリー酸素濃度が25ppm以上(No.1〜7)では、介在物中のスピネル系介在物の含有比率は極端に少なく、介在物組成はMnO−SiO2系主体となる。
【0045】
これに対しフリー酸素濃度が25ppm未満のもの(No.8〜15)では、介在物中に占めるスピネル系介在物の比率が大幅に増大し、表面疵や酸エッチング不良の問題を生じ易くなる。
【0046】
但し、前述した如くフリー酸素濃度が40ppmを超えると、全酸素濃度は70ppm程度以上となってトータルの介在物量が過度に増大し、清浄度の低下により他の障害が現れてくるので、全酸素濃度は60ppm以下に抑えるべきである。
【0047】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、Fe−Ni系合金を製造する際に、酸素吹精後の脱酸にSi系脱酸剤を使用し、該合金中のフリー酸素濃度を25〜40ppmの範囲に制御することにより、介在物を(MnO+SiO2)主体の組成とし、表面疵や酸エッチング不良の原因となるスピネル系介在物の量を可及的に低減することにより、耐表面疵性と酸エッチング性の卓越したFe−Ni系合金を確実に製造し得ることになった。
【0048】
しかも本発明の製法は、前述の如く酸素吹精後のSi脱酸でフリー酸素量を制御するだけであり、Al脱酸後さらにエレクトロスラグ再溶解を行って有害なスピネル系介在物を除去する公知の清浄化法に比べて処理も簡便であり、脱酸処理コストの低減にも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Si系脱酸剤を用いてFe−Ni系合金溶湯を真空脱酸処理後のフリー酸素濃度と全酸素濃度が、該合金中の介在物組成に与える影響を整理して示したグラフである。
【図2】本発明を実施する際の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
1 電気炉
2 電極
3 酸素吹込みランス
4 取鍋
5 スラグドラッガー
6 VOD炉
A 溶製原料
S スラグ
【発明の属する技術分野】
本発明はFe−Ni系(Fe−Ni−Co系を含む、以下同じ)合金の溶製法に関し、特に、エッチング加工性に優れたFe−Ni系合金を溶製する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Fe−Ni系の低熱膨張合金(インバー合金)は、その優れた低熱膨張特性や磁気特性を活かして、シャドーマスク用材料、リードフレーム用材料、磁気材料等として広く活用されている。その中でもFe−Ni−Co合金は特に優れた低熱膨張性を有していることから、超低熱膨張合金(スーパーインバー)として知られ、様々の用途に利用されている(特許文献1など)。
【0003】
これらの合金を例えばシャドーマスク用として使用する際には、酸を用いた微細エッチング加工が行われるが、該合金中にAl2O3やAl2O3−MgO等の介在物が存在するとエッチング性が著しく低下し、製品品質に重大な悪影響を及ぼすことが知られている。そこで、それら有害介在物を除去するための手段として例えば特許文献2には、VOD法(真空酸素吹精脱炭法:Vacuum Oxygen Decarburization)等を利用した2次精錬後にAlによる強脱酸を行い、溶鋼中のフリー酸素を25ppm程度以下に低減することで介在物組成をAl2O3やAl2O3−MgO系とし、その後エレクトロスラグ再溶解法などで再溶解処理を行うことにより、上記有害介在物を除去して清浄化する方法が開示されている。
【0004】
一方、溶製後の再溶解を行うことなく比較的安価に清浄化する方法として特許文献3には、EF−VOD法(電気炉−真空酸素吹精脱炭法)を採用し、金属Alを用いて脱酸する方法も知られている。
【0005】
しかしそれらの方法で製造したインバー合金製品には、前述した如く介在物の組成やサイズ、個数などに問題があることから、特にシャドーマスク用として利用する場合、例えば特許文献4にも記載されている如く、介在物組成を硬質で且つ酸溶解性に欠けるスピネル(Al2O3−MgO)以外の組成にすることが望ましいとされている。しかし、具体的にどの様な手段でどの様な介在物組成に制御するかということについては、必ずしも十分な検討はなされていない。
【0006】
【特許文献1】
特開平3−276723号公報
【特許文献2】
特開2001−98345号公報
【特許文献3】
特開平5−279733号公報
【特許文献4】
特開平10−298717号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、比較的安価なEF−VOD法を採用することにより、精錬後の再溶解法を実施せずとも有害介在物の生成を可及的に低減し、微細エッチング性に優れたFe−Ni系合金を得ることのできる方法を提供することにある。
【0008】
【課題を達成するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係るFe−Ni系合金の製法とは、Ni:28〜50%を含むFe−Ni系合金を溶製するに当たり、該合金溶湯を真空下で酸素吹精(脱炭)した後、Si系脱酸剤を用いて真空下に脱酸処理し、フリー酸素濃度([O]f)を25〜40ppmの範囲に制御するところに要旨を有している。
【0009】
本発明に適用される上記Fe−Ni系合金としては、FeとNiを主成分として含む低熱膨張合金(インバー合金)の他、更なる元素としてCo:2〜7%を含む超低熱膨張合金(スーパーインバー)は、シャドーマスク用として特に好ましく使用される。これらFe−Ni系合金の主成分は上記2種もしくは3種の元素であるが、これらの合金には更に他の元素としてMn:0.1〜1%が含まれていてもよく、また本発明が適用される代表的な合金は、C:0.1質量%以下、Si:0.5%以下、Cr:3%以下で、残部が実質的にFeであるFe−Ni系合金である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前述した如く真空中で酸素吹精を行うVOD法を採用してFe−Ni系合金を溶製する際に、エッチング性に格別顕著な悪影響を及ぼすスピネル系介在物(Al2O3やAl2O3−MgO)の生成を可及的に抑制すべく様々の角度から研究を進めてきた。
【0011】
その結果、Fe−Ni系合金を溶製する際に、VOD法を採用して該合金溶湯を真空酸素脱炭した後、引き続いてSi系脱酸剤を用いて脱酸する方法を採用し、この時のSi系脱酸剤の添加量を適正に制御することで該合金中のフリー酸素濃度([O]f)を25〜40ppmの範囲に制御すると、合金内の酸化物系介在物はMnO−SiO2主体のものとなり、エッチング性に顕著な悪影響を及ぼすスピネル系(Al2O3−MgO)介在物の生成量が著しく低減することを突き止めた。
【0012】
ちなみに図1は、本発明者らが行った多くの実験データから、VOD処理後にSi系脱酸剤の添加量を種々変えて合金中のフリー酸素濃度を変化させた時の、該フリー酸素濃度([O]f)と、該合金を用いた鍛造品中の介在物組成との関係を整理して示したグラフである。
【0013】
この図からも明らかな様に、Si脱酸後のフリー酸素濃度([O]f)が低くなるにつれて、鍛造品中の全酸素量([O]T)は明らかに減少してくる。そのため従来技術では、酸化物系介在物の生成量を可及的に低減するため、全酸素量([O]T)で60ppm程度以下を目標値とし、全酸素量を可能な限り低減する方向で脱酸処理が行われている。
【0014】
ところが図1からも明らかな如く介在物組成については、全酸素量([O]T)が減少するにつれて、介在物中の(SiO2+MnO)系介在物の比率は明らかに減少傾向を示しているのに対し、スピネル系(Al2O3−MgO)介在物の比率は明らかに増大傾向を示している。そして、脱酸処理合金中のフリー酸素濃度([O]f)が25ppm超、特に30ppm以上では、介在物中のスピネル系介在物の量は極めて少ないのに対し、該フリー酸素濃度([O]f)が25ppm以下になると、介在物中のスピネル系介在物の比率が急激に増大してくる。
【0015】
即ち、清浄度の向上という観点からは、被処理合金中の全酸素量([O]T)、延いてはフリー酸素濃度([O]f)をできるだけ少なくすることが望ましく、そのため従来の清浄化技術では、専ら合金中の全酸素量を極力低減する方向で脱酸処理が行われている。ところが、図示する如くフリー酸素濃度([O]f)が過度に低くなると、介在物の中でも特に硬質でエッチング性や表面疵などを含めた加工性に顕著な悪影響を及ぼすスピネル系介在物の比率が急増してくるのである。よって、脱酸工程で合金中の酸素濃度を過度に低減することは、有害なスピネル系介在物の比率を増大することになり、耐表面疵性や酸エッチング性にとっては却ってマイナス効果をもたらす。
【0016】
一方、Si脱酸を行った時に低酸素域で増大してくる(SiO2+MnO)系介在物は、前記スピネル系介在物に比べると軟質で且つ酸に対する溶解性も高く、エッチング性に与える悪影響の度合いは格段に小さい。
【0017】
本発明者らはこうした知見を基になされたもので、Si系脱酸剤を用いた脱酸時におけるFe−Ni系合金中のフリー酸素濃度の下限を特定し、それにより該合金内に存在する介在物中に占めるスピネル系介在物の比率を極力低く抑えることによって、介在物の前記有害作用を軽減するところに特徴を有している。
【0018】
そして本発明では、図1からも明らかな如く、フリー酸素濃度が25ppm未満になるとスピネル系介在物の比率が大幅に増大するという実験結果を基に、フリー酸素濃度の具体的な基準を25ppm以上と定めている。より好ましいフリー酸素濃度の下限は30ppm以上であり、この濃度域では、介在物中のスピネル系介在物の比率は殆どゼロ(0)となる。
【0019】
但し、フリー酸素濃度が過度に高くなると、酸化物系介在物全体の含有率が多くなり過ぎて、加工性や板材の物性を劣化させる原因になるので、多くとも40ppm以下、より好ましくは35ppm程度以下に抑えることが望ましい。
【0020】
尚、上記フリー酸素濃度[O]fとは、合金中に酸化物系介在物として混入してくる酸素と遊離状態で存在する酸素の総和、即ち全酸素量[O]Tから、酸化物系介在物として含まれる酸素を差引いた値であり、全酸素量[O]Tから、酸化物系介在物としての酸素含量を差引くことによって算出すればよい。
【0021】
図2は、本発明を実施する際の概略工程説明図であり、電気炉による原料の溶解から酸素吹精、VOD処理および造塊を行う一連の工程を模式的に示している。即ち、電気炉1に原料Aを装入し、電極2を挿入して該原料Aを加熱溶解した後、酸素吹込みランス3から酸素ガスを吹き込んで脱炭を行う。
【0022】
脱炭を終えた溶鋼は、脱炭のための酸素吹込みによって酸素量が増大しているので、酸素脱炭を終えた合金溶湯は取鍋4へ移し、脱酸剤としてSi系脱酸剤(SiまたはFe−Siなど)を加えて予備脱酸処理し、湯面上のスラグSをスラグドラッガー5等によって除去する。
【0023】
その後、成分粗調整を行ってから該取鍋4をVOD炉6内に装入し、VOD炉6を密封して真空引きしながら酸素上吹きを行い、更なる脱炭を進めた後、酸素吹きを止めてからSi系脱酸剤を添加し脱酸を行う。この際、合金中のフリー酸素濃度を測定しながらSi添加量を微調整することにより、フリー酸素濃度を25〜40ppmの範囲に制御する。
【0024】
そして通常は、該Si添加によるフリー酸素量の調整と同時若しくはその前後任意の時期に脱硫処理のための脱硫剤、例えば塩基度(CaO/SiO2比)が2〜2.5程度となる様にCaO,SiO2,CaF2等を添加することによって脱硫を行う。上記Si脱酸および脱硫処理に当たっては、脱酸および脱硫をより効率よく進めるため、アルゴンガスなどの不活性ガスを吹き込んで溶湯を攪拌することが望ましい。
【0025】
かくしてフリー酸素量を適正範囲に制御した溶湯は、常法に従って下注ぎ造塊法等によって鋳造すればよい。
【0026】
かくして得られる鋳造品は、Si脱酸工程でフリー酸素濃度が25〜40ppmの範囲に制御されているので、前述した如く該鋳塊中に含まれる酸化物系介在物は(MnO−SiO2)主体の組成を有しており、硬質で酸溶解性の劣悪なスピネル系介在物は実質的にゼロもしくは非常に少ないので、これを常法に従って鍛造、熱延、更には冷延すると、鏡面研磨等の研磨加工による表面疵が起り難く、且つ優れた酸エッチング性を有する合金板を得ることができる。
【0027】
なお、上記図2に示した製法は、本発明を実施する際の代表的な工程を例示しただけのものであって、図2に示した方法に制限されるわけではなく、要はSi系脱酸剤を用いて真空下に脱酸処理を行う際に、被処理溶湯のフリー酸素濃度を25〜40ppmという特定濃度範囲に制御する工程を実施する限り、様々の変更実施が可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0028】
次に、本発明が適用されるFe−Ni系合金の化学成分について説明する。
【0029】
Ni:28〜50%
まずNiは、Fe−Ni系合金の低熱膨張特性に大きな影響を及ぼす元素であり、例えばシャドーマスク用やICリードフレーム等の電子部品材料として適用するには、Siチップやパッケージ、或いはブラウン管に用いるガラス素材等に近似した熱膨張係数を有することが不可欠であり、特にシャドーマスクに適用する場合は、その低熱膨張特性により色ずれを防止する上で極めて重要な元素である。そのため本発明では、該低熱膨張特性を確保することの必要上Ni含量を28〜50%と定めている。より好ましいNi含量は30%以上、35%以下である。
【0030】
Co:2〜7%
Coは、スーパーインバー合金の必須元素であり、熱膨張率を更に低減し性能向上に寄与するばかりでなく、酸エッチング性を高める作用も有しており、特にシャドーマスク用として適用する場合は2%以上、より好ましくは4%以上含有させることが望ましい。しかし、Co含量が多くなり過ぎると合金の熱膨張率が高くなり、シャドーマスク用としての適性が損なわれるので、7%程度以下、より好ましくは5%以下に抑えるべきである。
【0031】
Mn:0.1〜1%
Mnは、Fe−Ni系合金の鍛造性向上に寄与する他、脱酸剤としても有効に作用する元素であり、これらの作用は0.1%以上、より好ましくは0.2%以上の添加で有効に発揮される。しかしMn含量が多過ぎると、熱膨張率が高くなってインバー合金としての特殊性を著しく害するばかりでなく、不可避的に混入してくるSと結合してMnSを生成し製品特性に悪影響を及ぼすので、1%以下、より好ましくは0.5%以下に抑えねばならない。
【0032】
C:0.1%以下
Cは、Fe成分に由来して不可避的に混入してくる元素であり、炭化物を生成してエッチング性を阻害するほか、耐力を高めてプレス成形性等の加工性を劣化させ、更には保磁力を高めて磁気的特性にも悪影響を及ぼす。従ってその含有量は少ないほど好ましく、多くとも0.1%以下に抑えるべきである。
【0033】
Si:0.5%以下
SiはSi系脱酸剤の使用に由来して混入してくる元素であるが、多過ぎると耐力が高くなって成形性を阻害するばかりでなく、酸エッチング性にも悪影響を及ぼすので、多くとも0.5%以下、好ましくは0.1%以下に抑えることが望ましい。
【0034】
Cr:3%以下
Crは、磁気的特性を高める作用を有しているので、用途によっては積極的に含有させることもある。しかし、Crは熱膨張率を高めるばかりでなく酸エッチング性にも悪影響を及ぼすので、多くとも3%以下、好ましくは1%以下に抑えるのがよい。尚インバー合金には、バインダーとして0.5%程度のCrが含まれていることもあり、ここでいうCr量とは、該バインダーとして含まれるCr量も含めた含有量を意味する。
【0035】
本発明で用いる合金の残部成分は実質的にFeであり、不可避的に混入してくるAl,N,S等については、本発明の作用を阻害しない範囲で微量の混入は許容されるが、Alは極力少なく抑えることが望ましい。
【0036】
本発明によって得られるFe−Ni系合金は、フリー酸素量を25〜40ppmの範囲に調整することで、前述の如く介在物組成が軟質で酸溶解性の高い(MnO−SiO2)系主体の組成に制御されており、硬質で酸エッチング性に欠けるスピネル系(Al2O3−MgO)介在物の量が可及的に低減されているので、鏡面加工などを含めた研磨処理などで生じる表面疵が最小限に抑えられるばかりでなく、シャドーマスクなどを製造する際の微細エッチング性にも優れたものであり、Fe−Ni系合金の優れた低熱膨張特性や磁気特性等を活かし、シャドーマスク用素材やリードフレーム用材料、磁気材料などとして幅広く有効に活用できる。中でもFe,Niと共に適量のCoを含むスーパーインバー合金は、Co添加によって付与される更なる低熱膨張特性や優れた酸エッチング性により、シャドーマスク用素材として卓越した性能を発揮する。
【0037】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0038】
実施例
電気炉で溶製したFe−Ni系合金を取鍋に移し、VOD法により脱炭した後、真空(10Torr以下)下でスラグ(CaO−SiO2−CaF2)と脱酸剤(Fe−75%Si−1%以下Al)を添加し、種々のフリー酸素濃度まで脱酸した。
【0039】
尚、Si脱酸処理後のフリー酸素濃度は、溶鋼中に熱電対を浸漬させたときに発生する起電力から換算して求め、またSi脱酸後の全酸素濃度は、燃焼赤外線吸収法によって求めた。
【0040】
その後、取鍋を大気開放してから溶湯成分の最終調整を行い、下注ぎ鋳造法によって鋳造する。得られた各鋳塊に約1300℃で数時間の熱処理を施し、鋳塊内部のミクロ偏析を均質化した後、熱間鍛造および熱間圧延を行って厚さ約0.2mm以下の板状に加工した。
【0041】
得られた熱延板から分析用のサンプルを切出し、板表面と平行に板厚中央部まで研磨し、EPMAによる介在物分析を行った。EPMA分析では、100〜300mm2の視野内に存在する5μm以上の全ての介在物について組成分析を行った。尚、組成分析対象の酸化物は、MgO,Al2O3,SiO2,CaO,MnO,TiO2,ZrO2,K2O,Na2O,Cr2O3,MoO3,CuOであり、各サンプルにおける介在物組成の平均値を算出し、溶製条件との相関性を調べた。
【0042】
表1に、鋳造直前の溶鋼成分組成と、該溶鋼から得た熱延板中の介在物の平均組成を示す。なお介在物組成については、代表的なMgO,Al2O3,SiO2,MnOのみを示した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1からも明らかな様に、溶鋼のフリー素濃度が25ppmを境にして、介在物中のスピネル系(Al2O3およびAl2O3+MgO系)介在物の濃度は著しく変わり、溶鋼中のフリー酸素濃度が25ppm以上(No.1〜7)では、介在物中のスピネル系介在物の含有比率は極端に少なく、介在物組成はMnO−SiO2系主体となる。
【0045】
これに対しフリー酸素濃度が25ppm未満のもの(No.8〜15)では、介在物中に占めるスピネル系介在物の比率が大幅に増大し、表面疵や酸エッチング不良の問題を生じ易くなる。
【0046】
但し、前述した如くフリー酸素濃度が40ppmを超えると、全酸素濃度は70ppm程度以上となってトータルの介在物量が過度に増大し、清浄度の低下により他の障害が現れてくるので、全酸素濃度は60ppm以下に抑えるべきである。
【0047】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、Fe−Ni系合金を製造する際に、酸素吹精後の脱酸にSi系脱酸剤を使用し、該合金中のフリー酸素濃度を25〜40ppmの範囲に制御することにより、介在物を(MnO+SiO2)主体の組成とし、表面疵や酸エッチング不良の原因となるスピネル系介在物の量を可及的に低減することにより、耐表面疵性と酸エッチング性の卓越したFe−Ni系合金を確実に製造し得ることになった。
【0048】
しかも本発明の製法は、前述の如く酸素吹精後のSi脱酸でフリー酸素量を制御するだけであり、Al脱酸後さらにエレクトロスラグ再溶解を行って有害なスピネル系介在物を除去する公知の清浄化法に比べて処理も簡便であり、脱酸処理コストの低減にも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Si系脱酸剤を用いてFe−Ni系合金溶湯を真空脱酸処理後のフリー酸素濃度と全酸素濃度が、該合金中の介在物組成に与える影響を整理して示したグラフである。
【図2】本発明を実施する際の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
1 電気炉
2 電極
3 酸素吹込みランス
4 取鍋
5 スラグドラッガー
6 VOD炉
A 溶製原料
S スラグ
Claims (5)
- Ni:28〜50%(質量%を意味する、以下同じ)を含むFe−Ni系合金を溶製するに当たり、該合金溶湯を酸素吹精した後、Si系脱酸剤を用いて真空下に脱酸処理し、フリー酸素濃度([O]f)を25〜40ppmに制御することを特徴とするエッチング性に優れたFe−Ni系合金の製法。
- 前記Fe−Ni系合金が、他の元素としてCo:2〜7%を含むものである請求項1に記載の製法。
- 前記Fe−Ni系合金が、更に他の元素としてMn:0.1〜1%を含有すると共に、C:0.1%以下、Si:0.5%以下、Cr:3%以下を満たし、残部が実質的にFeである請求項1または2に記載の製法。
- 前記酸素吹精を真空酸素吹精脱炭法によって行う請求項1〜3のいずれかに記載の製法。
- Fe−Ni系合金が、シャドーマスク用として用いられるものである請求項1〜4のいずれかに記載の製法。
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