JP2004162319A - 地下階を有する制震構造物 - Google Patents

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Eiji Kuroda
英二 黒田
Kenji Saiki
健司 齊木
Kenzo Taga
謙蔵 多賀
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Nikken Sekkei Ltd
Sumitomo Mitsui Construction Co Ltd
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Nikken Sekkei Ltd
Sumitomo Mitsui Construction Co Ltd
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Abstract

【課題】実用的な外部減衰機構を有する制震構造物を提供する。
【解決手段】制震構造物100は、地下に位置する地下構造物20と、この地下構造物20上に支持される主構造物10とから成る。主構造物10は、更に地上部12と地下部14とを有する。主構造物10の水平方向剛性は地下構造物20より低く構成する。加えて、主構造物10と地下構造物20との間に空間部30を設けることで主構造物10と地下構造物20との水平方向の相対変位を可能に構成する。そして、この空間部30内であって、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を少なくとも一つ設けることで、地下構造物20が有する高い水平方向剛性を利用し、水平方向減衰装置40により主構造物10の効果的な減衰を実現する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、制震構造物に関し、特に地下階を有する制震構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
構造物の耐震性能を向上させる方法として、構造物を構成する部材の断面積を大きくすることによって耐力を上げる耐震構造、構造物の基礎に免震装置を設置することによって構造物への入力加速度を低減する免震構造、構造物の内部に設置した減衰装置によって地震エネルギーを吸収する制震構造が実用化されている。
【0003】
免震構造は、地盤と構造物あるいは中間階に水平方向剛性の低い免震装置を設置することにより、免震装置に水平方向変形を集中させ、構造物自体の応答を低減させる方法である。これに対し、制震構造は、構造物各階に分散配置した粘性ダンパーや鋼製ダンパー等の減衰装置により、構造物内で増幅した地震エネルギーを吸収する方法である。
【0004】
これまでに実用化されている制震構造は、従来の耐震構造に比べて優れた応答低減効果を発揮できるが、中低層建築物に適用した場合には免震構造ほどの応答低減効果を期待できないのが一般的である。一方、制震構造を高層乃至超高層建築物に適用する場合に大きな応答低減効果を実現するためには、多くの減衰装置を必要とし、コスト負担はかなりのものとなる。
【0005】
構造物内に減衰装置を分散配置する制震構造では、上下階の相対速度若しくは相対変位に対して抵抗力が発生し、エネルギー吸収を行うため、内部減衰機構と呼ばれる。この内部減衰機構は、減衰の発現効率が構造物の変形モードに影響されるため、せん断変形成分に対してのみ効果を発揮する一般の減衰装置では、建物が高層になるほど効果が低下することが問題とされている。
【0006】
このような制震構造の課題に対し、例えば特許第3248684号公報(特許文献1)に記載の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物と分離された副構造物という概念を導入している。具体的には、地盤面と同じ動きをする非常に剛性の高い副構造物を地上に設け、構造物各階床と同じ高さの地上に擬似地盤面を実現するものである。
【0007】
従って、本願に係る発明に関連する先行技術情報としては以下のもの存在が確認されている。
【0008】
【特許文献1】
特許第3248684号公報(第3−4頁、第1図、第4図及び第5図)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記特許第3248684号公報に記載の従来技術では、地上構造物に非常に高い剛性を付与するための副構造物なる構造物を地上に設けることは容易ではなく、また、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置した場合、建築計画の自由度が制約されることとなる。また、構造物が高層になると、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0010】
本発明は、当該特許が有する前記課題を解決することにより、さらに実用的な建物外部に減衰機構を有する制震構造を実現することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、本発明に係る制震構造物は、地下に位置する地下構造物と、この地下構造物上に支持され、少なくとも地上部を有する主構造物とから成る制震構造物において、前記主構造物の水平方向剛性は前記地下構造物より低く、さらに前記主構造物と前記地下構造物との間に空間部を設けることで前記主構造物と前記地下構造物との水平方向の相対変位を可能に構成し、前記主構造物と前記地下構造物との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置を少なくとも一つ設けることを特徴とする。
【0012】
前記水平方向減衰装置を、前記空間部内であって、かつ少なくとも第一の水平方向及びこの第一の水平方向に直交する第二の水平方向の双方向において減衰を行うよう少なくとも二つ設けるよう構成し得る。
【0013】
前記空間部は、前記主構造物の地下部の周囲に設けられ、この空間部を介し前記地下構造物と離間され、この空間部の下部には地下構造物の一部が延在し、この空間部より下のレベルで前記主構造物は前記地下構造物に支持されており、前記減衰装置はこの空間部内の上部領域に設けられるよう構成し得る。
【0014】
前記水平方向減衰装置は、前記地下構造物最上部と実質同一のレベルに配置されるよう構成し得る。
【0015】
前記主構造物の地下部の水平方向剛性は、前記主構造物の地上部の水平方向剛性より低くなるよう構成し得る。
【0016】
前記主構造物の地上部の柱の水平方向剛性より前記主構造物の地下部の柱の水平方向剛性を低くすることにより、構造物の水平方向変形を前記主構造物の前記地下部の柱に集中させるよう構成し得る。
【0017】
前記主構造物の地上部内に水平方向の減衰を行う二次的な水平方向減衰装置を設けるよう構成し得る。
【0018】
前記主構造物の地上部内に分散的に前記二次的な水平方向減衰装置を設けるよう構成し得る。
【0019】
前記主構造物の地上部は、前記空間部分よりさらに外側に延在する地上外周部を有し、この地上外周部は前記地下構造物の上位に位置し、前記地上外周部は前記地下構造物より低い水平方向剛性を有し、更に、前記地上外周部は少なくとも一つの免震装置を介して前記地下構造物に支持されるよう構成し得る。
【0020】
前記免震装置は、前記地上外周部の少なくとも一つの柱と前記地下構造物との間に配置されるよう構成し得る。
【0021】
前記免震装置は、前記地上外周部の全ての柱と前記地下構造物との間に配置されるよう構成し得る。
【0022】
前記主構造物の地下部と前記地下構造物との間に少なくとも一つの免震装置を設けることで、前記主構造物は、前記少なくとも一つの免震装置を介し、前記地下構造物上に支持されるよう構成し得る。
【0023】
杭と、この杭の径より大きな内径を有し且つこの杭の周囲に空隙を形成するよう配置した鋼管とから成る鋼管杭を、前記地下構造物より下の地中に少なくとも1つ埋設し、前記杭は前記制振構造物に固定されてこの制振構造物の変位を反映し、更に、前記鋼管は地面の変位を反映し、さらに、各前記鋼管杭は、少なくとも一つの水平方向減衰装置を前記杭と前記鋼管との間の空隙に設けるよう構成し得る。
【0024】
前記各鋼管杭の前記杭と前記鋼管との間の空隙において、前記水平方向減衰装置を、少なくとも第一の水平方向及びこの第一の水平方向に直交する第二の水平方向との双方向において減衰を行うよう少なくとも二つ配置するよう構成し得る。
【0025】
前記地下構造物を貫通し、前記主構造物の前記地上部の柱に固定するよう前記杭を延在させるよう構成し得る。
【0026】
前記杭を前記地下構造物の柱に固定するよう構成し得る。
【0027】
前記主構造物の地上部は、前記空間部分よりさらに外側に延在する地上外周部を有し、この地上外周部は前記地下構造物の上位に位置し、前記地上外周部は前記地下構造物より低い水平方向剛性を有し、前記主構造物の地下部は、前記主構造物の地上部よりさらに低い水平方向剛性を有し、前記地上外周部は、垂直方向の減衰を行う少なくとも一つの垂直方向減衰装置を介して地下構造物上に支持されるよう構成し得る。
【0028】
前記地上外周部は、前記少なくとも一つの垂直方向減衰装置に加え、少なくとも一つの免震装置を介して地下構造物上に支持されるよう構成し得る。
【0029】
前記少なくとも一つの垂直方向減衰装置は、前記地上外周部の少なくとも一つの柱と前記地下構造物との間に配置されるよう構成し得る。
【0030】
前記地上外周部の全ての柱と前記地下構造物との間に、前記垂直方向減衰装置あるいは前記免震装置のいずれかが配置されるよう構成し得る。
【0031】
前記地下構造物が、少なくとも一つの地下階を含む内部空間を有するよう構成してもよく、或いは擁壁で構成し得る。
【0032】
本発明の第二の側面によれば、地下に位置する地下構造物と、この地下構造物上に支持され、少なくとも地上部を有する主構造物とから成る制震構造物において、前記主構造物の水平方向剛性は前記地下構造物より低く、さらに前記主構造物と前記地下構造物との間に空間部を設けることで前記主構造物と前記地下構造物との水平方向の相対変位を可能に構成し、前記主構造物の地下部の水平方向剛性は、前記主構造物の地上部の水平方向剛性より低く構成し、前記主構造物の前記地上部は、前記空間部分よりさらに外側に延在する地上外周部を有し、この地上外周部は前記地下構造物の上位に位置し、更に、前記地上外周部の水平方向剛性は、前記主構造物の地下部の水平方向剛性より高く、且つ前記地下構造物の水平方向剛性より低く構成し、前記地上外周部は、前記主構造物と前記地下構造物との間の垂直方向の減衰を行う少なくとも一つの垂直方向減衰装置を介して地下構造物上に支持されることを特徴とする。
【0033】
複数の前記垂直方向減衰装置を前記地上外周部の柱と前記地下構造物との間に設けるよう構成し得る。
【0034】
前記複数の垂直方向減衰装置を前記地上外周部の最外柱と前記地下構造物との間に設けるよう構成し得る。
【0035】
前記主構造物の地上部の柱の水平方向剛性より前記主構造物の地下部の柱の水平方向剛性を低くすることにより、構造物の水平方向変形を前記主構造物の前記地下部の柱に集中させるよう構成し得る。
【0036】
前記少なくとも一つの垂直方向減衰装置に加え、水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置を、前記空間部内であって、かつ前記主構造物と前記地下構造物との間に少なくとも一つ設けるよう構成し得る。
【0037】
前記水平方向減衰装置を、少なくとも第一の水平方向及びこの第一の水平方向に直交する第二の水平方向との双方向において減衰を行うよう少なくとも二つ設けるよう構成し得る。
【0038】
前記地上外周部は少なくとも一つの免震装置を介して地下構造物に支持されるよう構成し得る。
【0039】
前記主構造物の前記地下部と前記地下構造物との間に少なくとも一つの免震装置を設けることで、前記主構造物は、前記少なくとも一つの免震装置を介し、前記地下構造物上に支持されるよう構成し得る。
【0040】
前記地下構造物は、少なくとも一つの地下階を有するよう構成してもよく、また、擁壁で構成してもよい。
【0041】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0042】
[実施の形態1]
図1は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の一例を示すものである。
【0043】
本発明の実施の形態1に係る制震構造物100は主構造物10及び地下構造物20とから構成される。地下構造物20は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう、主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。地下構造物20は、具体的には土圧や水圧に対する充分高い抵抗力すなわち充分高い水平方向剛性を有する地下壁22を有する。1つの典型例として、この地下構造物20は複数階を有する内部空間を形成し、地下階として利用可能に構成し得る。
【0044】
主構造物10は、この地下構造物20の上に位置し、この地下構造物20により支持される。前述の理由により地下構造物20は水平方向剛性が高く設計されているため、主構造物10の水平方向剛性は地下構造物20のそれと比較して低くなる。1典型例として、地下構造物20は、地上領域300からある一定の深さ“D”を有し、中心領域24と地下周囲領域26とからなる。地下周囲領域26は、前記深さ“D”から少なくとも地下領域400と地上領域300との境界レベル付近まで延在し、一方、中心領域24は深さ“D”からある一定の深さ“d”のレベルまで延在する。ここで“d”<“D”である。そして主構造物10はこの中心領域24上に支持される。
【0045】
この主構造物10は、地上部12と地下部14とから成る。そして地上部12は、地上領域300に高さ“h”で延在し、一方、地下部14は深さ“d”で地下領域400に延在する。すなわち、主構造物10の地上部12は、地下部14を介し地下構造物20の中心領域24上に支持される。地下構造物20の地下周囲領域26は、間隙“G”で画定される空間部30により主構造物10の地下部14から離間する。すなわち、主構造物10の地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、地下構造物20の地下周囲領域26から離間することで、主構造物10が地下構造物20と相対変位可能に構成される。一典型例として、主構造物10の地上部12と地下部14とは実質的に同一程度の層間変形角を生じさせる水平方向剛性を有するよう設計され得る。また、一典型例として、主構造物10は複数の階を有する高層構造或いは超高層構造を有してもよい。
【0046】
前述したように、主構造物10の水平方向剛性は地下構造物20の水平方向剛性より低いため、例えば地震等により水平方向の負荷が地下構造物20に外部から印加された場合でも、前記空間部30の存在が、主構造物10と地下構造物20との間の相対変位を可能にする。
【0047】
しかしながら、本発明によれば、前記空間部30内であって、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を、典型的には複数設けることで、前記主構造物の地下構造物に対する相対変位を伴う主構造物の水平方向振動を減衰する。好ましくは、水平方向減衰装置40を一水平方向のみだけでなく、複数の水平方向、具体的には、互いに直交する二つの水平方向における減衰を行うよう上記空間部30内に配置し得る。
【0048】
図14は、本発明に係る制震構造物において、主構造物と地下構造物との間の空間における水平方向減衰装置の配置の一典型例を示す平面図である。水平方向減衰装置40が主構造物10と地下構造物20との間の空間部30において、互いに直交する二つの方向にそれぞれ同数程度設けることで、これら複数の水平方向減衰装置40が互いに協働することで、二次元水平方向における振動の減衰を実現することが可能となる。図示する配置例は一つの典型的な例であって、その配置位置や数等は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0049】
この水平方向減衰装置40の具体的な取りつけ位置に関しては、典型的には図1に示すように、主構造物10の地下部14と地上部12との境界付近と地下構造物20の地下周囲領域26の内側最上部付近との間に結合してもよいが、必ずしもこれに限定されるわけではなく、例えば、主構造物10の地下部14の最下部からある程度上方向に離間した位置すなわち地下構造物20の中心領域24の上部からある程度上方向に離間した位置であれば、主構造物10と地下構造物20との相対変位を得ることが可能であるため、このような位置であれば、水平方向減衰装置40を取りつけることは可能である。
【0050】
また、水平方向減衰装置40は地下構造物20に対し直接的或いは間接的に固定されればよく、また必ずしも前記空間部30内に配置する必要はなく、例えば地下構造物20の地下周囲領域26から地上領域300に延在する固定部材を設け、これと主構造物10の地上部12とを結合してもよい。前述の水平方向減衰装置40は、既知の各種減衰装置を適宜選択して使用し得る。
【0051】
上記構成を採用することにより、例えば地震が発生した場合、主構造物10の振動を地下構造物20の振動と比較して大きく減衰することが可能となる。すなわち、水平方向減衰装置40が主構造物10の水平方向揺れを吸収することにより、主構造物が従来のような大きな水平方向揺れを起こすことを防ぐことが可能となる。
【0052】
また、主構造物10が高層あるいは超高層建物である場合でも、強風により主構造物10が大きく水平方向に揺れるのを水平方向減衰装置40が防止することが可能となる。
【0053】
前記空間部30の間隙“G”は水平方向減衰装置40を配置可能とし、且つ主構造物10と地下構造物20との相対変位より大きな寸法であればよく、一例としては50cm程度のオーダーであってもよいが、この寸法に特定するものではない。
【0054】
したがって、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物20に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性特性を上手く利用し、更に水平方向減衰装置40をこの地下構造物20と主構造物10との間に結合することで、地下構造物20の高い水平方向剛性と、水平方向減衰装置40の減衰力とを利用する。これにより、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物10の水平方向揺れを効果的に減衰することが可能となる。
【0055】
すなわち、本発明によれば主構造物10より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性を利用するとともに、従来から利用されている減衰装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0056】
前述の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物に加え、この主構造物と分離された非常に高い剛性を有する副構造物を敢えて地上に設け、この副構造物を地盤面に固定し地盤面と同じ動きをするよう構成することで、構造物各階床と同じ高さに擬似地盤面を実現するものである。
【0057】
しかしながら、本発明によれば、このような副構造物を敢えて設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみで大きな減衰効果すなわち大きな応答抑制効果が得られる。すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0058】
また、構造物が高層或いは超高層になると、前述の従来技術では、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0059】
しかしながら、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードの問題は発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能である。
【0060】
[実施の形態2]
図2は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0061】
本実施の形態は、前述の実施の形態1と同様に、制震構造物100は主構造物10及び地下構造物20とから構成される。地下構造物20は、実施の形態1と同様に設計される。すなわち、地下構造物20は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。地下構造物20は、具体的には土圧や水圧に対する充分高い抵抗力すなわち充分高い水平方向剛性を有する地下壁22を有する。
【0062】
また主構造物10も実施の形態1と同様にこの地下構造物20の上に位置し、具体的には地下構造物20の中心領域24上に支持される。この主構造物10は、実施の形態1と同様に地上部12と地下部14とから構成され、地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、地下構造物20の地下周囲領域26から離間することで、主構造物10が地下構造物と相対変位可能に構成される。
【0063】
しかしながら、本実施の形態においては、主構造物10の地下部14は地上部12より更に低い水平方向剛性を有するよう設計される点が前述の実施の形態1と異なる。
【0064】
主構造物10の地上部12並びに地下部14共、水平方向剛性は地下構造物20の水平方向剛性より低くなり、さらに地下部14の水平方向剛性を地上部12の水平方向剛性よりさらに低くすることで、地下部14を免震層化する。そして、前述の実施の形態同様、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を典型的には複数設けることで、前記主構造物10の地下構造物20に対する相対変位を伴う主構造物10の水平方向振動を減衰する。
【0065】
具体的に、主構造物10の地下部14の水平方向剛性を主構造物10の地上部12より低くするためには、例えば、地下部14の柱50を、地上部12の柱60と同一程度の断面積を有し、且つその断面2次モーメントを小さく設計することで実現可能である。垂直方向剛性は柱の断面積に依存するため、地下部14の垂直方向剛性を高く保つためには、地下部14の柱50の断面積を地上部12の柱60の断面積と少なくとも実質同一程度には保つ必要がある。しかしながら、柱の水平方向剛性は、柱の断面2次モーメントに依存するため、柱の水平方向剛性を減少させるには、柱の断面2次モーメントを減少させる必要がある。このため、主構造物10の地下部14の柱50は、地上部12の柱60と比較し、実質同一程度の断面積を有し、且つその断面2次モーメントを小さくすることが好ましい。
【0066】
このように構成することで、主構造物10の地下部14の水平方向剛性が最も低くなるため、この地下部14が構造物全体でみた場合、免震の役割を果たすことになる。すなわち、主構造物10の地上部12は、免震層として作用する地下部14を介し、地下構造物20の上に支持されているとみなすことができる。さらに水平方向減衰装置40を地上部12及び地下部14との境界付近と地下構造物20との間に結合する。このように構成することにより、本実施の形態では、水平方向減衰装置40の水平方向減衰効果をより大きくすることが可能となる。すなわち、本実施の形態の設計思想によれば、主構造物10の地上部12の水平方向揺れをより効率よく低減することが可能となる。
【0067】
上述した構成以外は、実施の形態1に記載した構成と同一であるのでその重複する説明は省略する。
【0068】
さらに、本実施の形態は、前述の実施の形態1に記載した効果と同様の効果を有する。すなわち、上記構成を採用することにより、例えば地震が発生した場合、主構造物10の地上部12の振動を地下構造物20の振動と比較して更に大きく減衰することが可能となる。すなわち、水平方向減衰装置40が主構造物10の地上部12の水平方向の揺れを吸収することにより、主構造物10の地上部12が従来のような大きな水平方向の揺れを起こすことを防ぐことが可能となる。
【0069】
したがって、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物20に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性を有するという構造上の特性をそのまま利用し、水平方向減衰装置40をこの地下構造物20と主構造物10との間に結合し、さらに主構造物10の地下部14を免震層化する。このことにより、地下構造物20の高い水平方向剛性と、水平方向減衰装置40の減衰力と、これに加え、主構造物10の地下部14の免震層化を利用し、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物10の水平方向の揺れ、とりわけ主構造物10の地上部12の水平方向の揺れをより効果的に減衰することが可能となる。すなわち、本発明によれば主構造物10より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性をそのまま利用するとともに、従来から利用されている減衰装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0070】
前述の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物に加え、この主構造物と分離された非常に高い剛性を有する副構造物を敢えて地上に設け、この副構造物を地盤面に固定し地盤面と同じ動きをするよう構成することで、構造物各階床と同じ高さに擬似地盤面を実現するものである。
【0071】
しかしながら、本発明によれば、この副構造物を敢えて設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみで大きな減衰効果すなわち大きな応答抑制効果が得られる。すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0072】
また、構造物が高層或いは超高層になると、前述の従来技術では、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0073】
しかしながら、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードは発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能となる。
【0074】
[実施の形態3]
図3は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0075】
本実施の形態は、前述の実施の形態1と同様に、制震構造物100は主構造物10及び地下構造物20とから構成される。地下構造物20は、実施の形態1と同様に設計される。すなわち、地下構造物20は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。地下構造物20は、具体的には土圧や水圧に対する充分高い抵抗力すなわち充分高い水平方向剛性を有する地下壁22を有する。
【0076】
また主構造物10も実施の形態1と同様にこの地下構造物20の上に位置し、具体的には地下構造物20の中心領域24上に支持される。この主構造物10は、実施の形態1と同様に地上部12と地下部14とから構成され、地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、地下構造物20の地下周囲領域26から離間することで、主構造物10が地下構造物と相対変位可能に構成される。
【0077】
更に、上述の実施の形態1と同様に、主構造物10の地下部14と地上部12とは実質同一程度の層間変形角を生じさせる水平方向剛性を有するよう設計される。しかしながら、本実施の形態においては、主構造物10を地下構造物20から免震化するために、主構造物10を複数の免震装置70を介し地下構造物20の中心領域24上に支持する。すなわち、前述の実施の形態2では、主構造物10の地上部12の水平方向剛性をさらに低くすることで、地下部14を免震層化したが、本実施の形態においては、地下部14を免震層化する代わりに、免震装置70を主構造物10最下部と地下構造物20の中心領域24上との間に配置することで、主構造物10の免震を実現する。そして、前述の実施の形態同様に、水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を典型的には複数設けることで、前記主構造物10の地下構造物20に対する相対変位を伴う主構造物10の水平方向振動を減衰する。
【0078】
このように構成することにより、本実施の形態では、水平方向減衰装置40の水平方向減衰効果をより大きくすることが可能となる。すなわち、本実施の形態の設計思想によれば、主構造物10の地上部12の揺れをさらに効率よく低減することが可能となる。
【0079】
上述した構成以外は、実施の形態1に記載した構成と同一であるのでその重複する説明は省略する。
【0080】
さらに、本実施の形態は、前述の実施の形態1に記載した効果と同様の効果を有する。すなわち、上記構成を採用することにより、例えば地震が発生した場合、主構造物10の振動を地下構造物20の振動と比較して更に大きく減衰することが可能となる。すなわち、水平方向減衰装置40が主構造物10の揺れを吸収することにより、主構造物10が従来のような大きな揺れを起こすことを防ぐことが可能となる。
【0081】
したがって、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物20に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性を有するという構造上の特性をそのまま利用し、水平方向減衰装置40をこの地下構造物20と主構造物10との間に結合し、さらに主構造物10と地下構造物20との間に免震装置70を配置する。このことにより、地下構造物20の高い水平方向剛性と、水平方向減衰装置40の減衰力と、これに加え、免震装置70を利用し、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物10の揺れをより効果的に減衰することが可能となる。すなわち、本発明によれば主構造物10より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性をそのまま利用するとともに、従来から利用されている減衰装置及び免震装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0082】
前述の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物に加え、この主構造物と分離された非常に高い剛性を有する副構造物を敢えて地上に設け、この副構造物を地盤面に固定し地盤面と同じ動きをするよう構成することで、構造物各階床と同じ高さに擬似地盤面を実現するものである。
【0083】
しかしながら、本発明によれば、この副構造物を敢えて設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみで大きな減衰効果すなわち大きな応答抑制効果が得られる。 すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0084】
また、構造物が高層或いは超高層になると、前述の従来技術では、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0085】
しかしながら、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードは発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能となる。
【0086】
[実施の形態4]
図4は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0087】
本実施の形態は、前述の実施の形態1と同様に、制震構造物100は主構造物10及び地下構造物20とから構成される。地下構造物20は、実施の形態1と同様に設計される。すなわち、地下構造物20は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。地下構造物20は、具体的には土圧や水圧に対する充分高い抵抗力すなわち充分高い水平方向剛性を有する地下壁22を有する。
【0088】
また主構造物10も実施の形態1と同様にこの地下構造物20の上に位置し、具体的には地下構造物20の中心領域24上に支持される。この主構造物10は、実施の形態1と同様に地上部12と地下部14とから構成され、地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、地下構造物20の地下周囲領域26から離間することで、主構造物10が地下構造物と相対変位可能に構成される。
【0089】
しかしながら、本実施の形態においては、主構造物10の地下部14は地上部12より更に低い水平方向剛性を有するよう設計される点が実施の形態1と異なる。
【0090】
主構造物10の地上部12ならびに地下部14ともに水平方向剛性は、地下構造物20の水平方向剛性より低くなり、さらに地下部14の水平方向剛性を地上部12の水平方向剛性よりさらに低くすることで、地下部14を免震層化する。
【0091】
具体的に、主構造物10の地下部14の水平方向剛性を主構造物10の地上部12より低くするためには、例えば、地下部14の柱50を、地上部12の柱60と同一程度の断面積を有し、且つその断面2次モーメントを小さく設計することで実現可能である。垂直方向剛性は柱の断面積に依存するため、地下部14の垂直方向剛性を保つためには、地下部14の柱50の断面積を地上部12の柱60の断面積と少なくとも実質同一程度には保つ必要がある。しかしながら、水平方向剛性は、柱の断面2次モーメントに依存するため、柱の水平方向剛性を減少させるには、柱の断面2次モーメントを減少させる必要がある。このため、主構造物10の地下部14の柱50は、地上部12の柱60と比較し、実質同一程度の断面積を有し、且つその断面2次モーメントを小さくすることが好ましい。
【0092】
加えて、主構造物10をより一層効果的に地下構造物20から免震化するために、主構造物10を複数の免震装置70を介し地下構造物20の中心領域24上に支持する。典型的には、免震装置70を主構造物10の地下部14の柱50の最下部あるいは基礎部と地下構造物20の中心領域24上との間に配置することで、主構造物10のより一層の免震を実現する。
【0093】
上記実施の形態と同様に本実施の形態においても、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を典型的には複数設けることで、前記主構造物10の地下構造物20に対する相対変位を伴う主構造物10の水平方向振動を減衰する。
【0094】
このように前述の実施の形態2及び3を組み合わせて構成することで、主構造物10の地下部14の水平方向剛性が最も低くなり、且つこの地下部14と地下構造物20との間に免震装置70を介在させることで、建物全体でみた場合、主構造物10の地下部14とりわけこの地下部14の最下部領域が免震の役割を果たすことになる。
【0095】
すなわち、主構造物10の地上部12は、免震層として作用する地下部14及びその下に介在された免震装置70を介し、地下構造物20の上に支持されているとみなすことができる。さらに、水平方向減衰装置40を地上部12及び地下部14との境界付近と地下構造物20との間に結合する。このように構成することにより、本実施の形態では、水平方向減衰装置40の水平方向減衰効果をより大きくすることが可能となる。すなわち、本実施の形態の設計思想によれば、主構造物10の揺れをより効率よく低減することが可能となる。
【0096】
上述した構成以外は、実施の形態1に記載した構成と同一であるのでその重複する説明は省略する。
【0097】
さらに、本実施の形態は、前述の実施の形態1に記載した効果と同様の効果を有する。すなわち、上記構成を採用することにより、例えば地震が発生した場合、主構造物10の振動を地下構造物20の振動と比較して更に大きく減衰することが可能となる。すなわち、水平方向減衰装置40が主構造物10の揺れを吸収することにより、主構造物10の地上部12が従来のような大きな揺れを起こすことを防ぐことが可能となる。
【0098】
したがって、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物20に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性を有するという構造上の特性をそのまま利用し、水平方向減衰装置40をこの地下構造物20と主構造物10との間に結合し、さらに主構造物10の地下部14を免震層化する共に免震装置70を配置する。このことにより、地下構造物20の高い水平方向剛性と、水平方向減衰装置40の減衰力と、これに加え、主構造物10の地下部14の免震層化、及び免震装置70を利用し、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物10の揺れをより効果的に減衰することが可能となる。すなわち、本発明によれば主構造物10より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性をそのまま利用するとともに、従来から利用されている減衰装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0099】
前述の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物に加え、この主構造物と分離された非常に高い剛性を有する副構造物を敢えて地上に設け、この副構造物を地盤面に固定し地盤面と同じ動きをするよう構成することで、構造物各階床と同じ高さに擬似地盤面を実現するものである。
【0100】
しかしながら、本発明によれば、この副構造物を敢えて設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみで大きな減衰効果すなわち大きな応答抑制効果が得られる。すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0101】
また、構造物が高層或いは超高層になると、前述の従来技術では、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0102】
しかしながら、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードは発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能となる。
【0103】
[実施の形態5]
図5は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0104】
本実施の形態は、前述の実施の形態1と同様に、制震構造物100は主構造物10及び地下構造物20とから構成される。地下構造物20は、実施の形態1と同様に設計される。すなわち、地下構造物20は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。地下構造物20は、具体的には土圧や水圧に対する充分高い抵抗力すなわち充分高い水平方向剛性を有する地下壁22を有する。
【0105】
また主構造物10も実施の形態1と同様にこの地下構造物20の上に位置し、具体的には地下構造物20の中心領域24上に支持される。この主構造物10は、実施の形態1と同様に地上部12と地下部14とから構成され、地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、地下構造物20の地下周囲領域26から離間することで、主構造物10が地下構造物と相対変位可能に構成される。更に、上述の実施の形態1と同様に、主構造物10の地下部14と地上部12とは実質同一程度の層間変形角を生じさせる水平方向剛性を有するよう設計される。
【0106】
本実施の形態においても前記実施の形態と同様に、前記空間部30内であって、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を、典型的には複数設けることで、前記主構造物10の地下構造物20に対する相対変位を伴う主構造物の水平方向振動を減衰する。好ましくは、水平方向減衰装置40を一水平方向のみだけでなく、複数の水平方向、具体的には、互いに直交する二つの水平方向における減衰を行うよう上記空間部30内に配置し得る。
【0107】
しかしながら、本実施の形態においては、主構造物10内に複数の水平方向減衰装置42を配置することで、更に大きな応答低減効果を図るものである。一つの好ましい典型例としては、複数の水平方向減衰装置42を主構造物10全体に分散配置することが可能である。この分散配置の一例を図5に示す。水平方向減衰装置42は、主構造物10の地上部12内に分散配置される。より好ましくは、主構造物10の地上部12の全ての階に分散配置することが可能である。主構造物10の地下部14には好適には水平方向減衰装置42を配置しないため、例えば主構造物10の地上部12と、地下部14との柱の水平方向剛性が実質同一程度に設計されていても、地上部12での水平方向の揺れを抑制し、一方地下部14に水平方向の揺れを集中させることが可能であり、この結果前述の実施の形態2と同様の効果を奏することが可能である。主構造物10の地上部12内に配置される減衰装置としては、変位依存型減衰装置または速度依存型減衰装置あるいはその双方を設計上の視点から適宜選択して必要箇所に設けることが可能である。すなわち、減衰装置の種類やその詳細な配置位置については特に限定するものではないが、前述の効果を得るためには、主構造物10の外部に配置される水平方向減衰装置40が取り付けられる位置より上の領域、典型的には、主構造物10の地上部12内に水平方向減衰装置42を配置する。
【0108】
このように構成することにより、本実施の形態では、水平方向減衰装置40の水平方向減衰効果をより大きくすることが可能となる。すなわち、本実施の形態の設計思想によれば、主構造物10の地上部12の揺れをさらに効率よく低減することが可能となる。
【0109】
上述した構成以外は、実施の形態1に記載した構成と同一であるのでその重複する説明は省略する。
【0110】
さらに、本実施の形態は、前述の実施の形態1に記載した効果と同様の効果を有する。すなわち、上記構成を採用することにより、例えば地震が発生した場合、主構造物10の振動を地下構造物20の振動と比較して更に大きく減衰することが可能となる。すなわち、水平方向減衰装置40及び二次的な水平方向減衰装置42とが協働して主構造物10の揺れ、とりわけ主構造物10の地上部12の揺れを大きく吸収することにより、主構造物10の地上部12が従来のような大きな揺れを起こすことを防ぐことが可能となる。
【0111】
したがって、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物20に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性を有するという構造上の特性をそのまま利用し、水平方向減衰装置40をこの地下構造物20と主構造物10との間に結合し、さらに主構造物10の地上部12内に二次的な水平方向減衰装置42を分散配置する。このことにより、地下構造物20の高い水平方向剛性と、水平方向減衰装置40及び二次的な水平方向減衰装置42の減衰力を利用し、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物10の揺れをより効果的に減衰することが可能となる。すなわち、本発明によれば主構造物10より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性をそのまま利用するとともに、従来から利用されている減衰装置及び免震装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0112】
前述の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物に加え、この主構造物と分離された非常に高い剛性を有する副構造物を敢えて地上に設け、この副構造物を地盤面に固定し地盤面と同じ動きをするよう構成することで、構造物各階床と同じ高さに擬似地盤面を実現するものである。
【0113】
しかしながら、本発明によれば、この副構造物を敢えて設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみで大きな減衰効果すなわち大きな応答抑制効果が得られる。すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0114】
また、構造物が高層或いは超高層になると、前述の従来技術では、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0115】
しかしながら、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードは発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能となる。
【0116】
[実施の形態6]
図6は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0117】
本実施の形態は、前述の実施の形態2と同様に、制震構造物100は主構造物10及び地下構造物20とから構成される。地下構造物20は、実施の形態2と同様に設計される。すなわち、地下構造物20は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。地下構造物20は、具体的には土圧や水圧に対する充分高い抵抗力すなわち充分高い水平方向剛性を有する地下壁22を有する。
【0118】
また主構造物10も実施の形態2と同様にこの地下構造物20の上に位置し、具体的には地下構造物20の中心領域24上に支持される。この主構造物10は、前述の実施の形態と異なり、地上部12と地下部14とから構成されるが、地上部12は、地上中心部16とこの地上中心部16の周囲に位置する地上外周部18とからなる。地上中心部16は地下部14の直上に位置し、地上外周部18は、前述の空間部30および地下構造物20の地下周囲領域26の直上に位置する。一方、地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、地下構造物20の地下周囲領域26から離間することで、主構造物10が地下構造物20と相対変位可能に構成される。
【0119】
ここで、一典型例としては、地上中心部16と地上外周部18とは実質同一程度の層間変形角を生じさせる水平方向剛性を有するよう設計し得るが、地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性は、地下構造物20の水平方向剛性よりは低くすることが必要条件である。
【0120】
さらに、前述の実施の形態2と同様に、主構造物10の地下部14は地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性より更に低い水平方向剛性を有するよう設計される。すなわち、主構造物10の地上部12並びに地下部14共、水平方向剛性は地下構造物20の水平方向剛性より低くなり、さらに地下部14の水平方向剛性を地上部12の水平方向剛性、すなわち、地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性よりさらに低くすることで、地下部14を免震層化する。
【0121】
そして、地上外周部18は免震装置70を介して地下構造物20の地下周囲領域26上に支持される。このように構成することで、主構造物10の地上部12は免震層化された地下部14と免震装置70とにより地下構造物20から免震化される。免震装置70は、地上外周部18の底部と地下構造物20の地下周囲領域26の上部との間に設け、主構造物10の地上部12を地下構造物20から免震化すればよく、免震装置70の配置場所は限定されるものではないが、一つの好適な典型例としては、図6に示すように、地上外周部18の最外柱の基礎部と地下構造物20の地下周囲領域26との間に配置することが可能である。
【0122】
加えて、前述の実施の形態同様、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を典型的には複数設けることで、前記主構造物10の地下構造物20に対する相対変位を伴う主構造物10の水平方向振動を減衰する。
【0123】
前述の実施の形態2でも説明したように、主構造物10の地下部14の水平方向剛性を主構造物10の地上部12より低くするためには、例えば、地下部14の柱50を、地上部12の柱60と同一程度の断面積を有し、且つその断面2次モーメントを小さく設計することで実現可能である。垂直方向剛性は柱の断面積に依存するため、地下部14の垂直方向剛性を高く保つためには、地下部14の柱50の断面積を地上部12の柱60の断面積と少なくとも実質同一程度には保つ必要がある。しかしながら、柱の水平方向剛性は、柱の断面2次モーメントに依存するため、柱の水平方向剛性を減少させるには、柱の断面2次モーメントを減少させる必要がある。このため、主構造物10の地下部14の柱50は、地上部12の柱60と比較し、実質同一程度の断面積を有し、且つその断面2次モーメントを小さくすることが好ましい。
【0124】
このように構成することで、主構造物10の地下部14の水平方向剛性が最も低くなるため、この地下部14が構造物全体でみた場合、免震の役割を果たすことになる。すなわち、主構造物10の地上部12は、免震層として作用する地下部14及び免震装置70を介し、地下構造物20の上に支持されているとみなすことができる。さらに水平方向減衰装置40を地上部12及び地下部14との境界付近と地下構造物20との間に結合する。このように構成することにより、本実施の形態では、水平方向減衰装置40の水平方向減衰効果をより大きくすることが可能となる。すなわち、本実施の形態の設計思想によれば、主構造物10の地上部12が地上外周部18を有している場合であっても、この地上外周部18を免震装置70を介し、地下構造物20の地下周囲領域26上に支持することで、主構造物10の地上部12の水平方向揺れをより効率よく低減することが可能となる。
【0125】
本実施の形態においては、主構造物10の地上部12が、さらに地上外周部18を有する構造となっているが、この地上外周部18を設けるか否かは建物に対する要求により決定される。すなわち、前述の実施の形態のような地上外周部18を有しないタイプの建物が要求される場合には前述の実施の形態が適用できるが、本実施の形態のように地上外周部18を必要とする場合には本実施の形態が適用できる。
【0126】
上述した構成以外は、実施の形態1に記載した構成と同一であるのでその重複する説明は省略する。
【0127】
さらに、本実施の形態は、前述の実施の形態1に記載した効果と同様の効果を有する。すなわち、上記構成を採用することにより、例えば地震が発生した場合、主構造物10の地上部12の振動を地下構造物20の振動と比較して更に大きく減衰することが可能となる。すなわち、水平方向減衰装置40が主構造物10の地上部12の水平方向の揺れを吸収することにより、主構造物10の地上部12が従来のような大きな水平方向の揺れを起こすことを防ぐことが可能となる。
【0128】
したがって、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物20に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性を有するという構造上の特性をそのまま利用し、水平方向減衰装置40をこの地下構造物20と主構造物10との間に結合し、さらに主構造物10の地下部14を免震層化すると共に主構造物10の地上部12の地上外周部18を免震装置70を介し、地下構造物20の地下外周部26上に支持する。このことにより、地下構造物20の高い水平方向剛性と、水平方向減衰装置40の減衰力と、これに加え、主構造物10の地下部14の免震層化および免震装置70を利用し、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物10の水平方向の揺れ、とりわけ主構造物10の地上部12の水平方向の揺れをより効果的に減衰することが可能となる。すなわち、本発明によれば主構造物10より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性をそのまま利用するとともに、従来から利用されている減衰装置および免震装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0129】
前述の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物に加え、この主構造物と分離された非常に高い剛性を有する副構造物を敢えて地上に設け、この副構造物を地盤面に固定し地盤面と同じ動きをするよう構成することで、構造物各階床と同じ高さに擬似地盤面を実現するものである。
【0130】
しかしながら、本発明によれば、この副構造物を敢えて設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、水平方向減衰装置及び免震装置とを利用するのみで大きな減衰効果すなわち大きな応答抑制効果が得られる。すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0131】
また、構造物が高層或いは超高層になると、前述の従来技術では、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0132】
しかしながら、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードは発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能となる。
【0133】
[実施の形態7]
図7は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0134】
本実施の形態は、直前の実施の形態6と実質同一の設計思想に基づくものであり、構成上の相違点は、免震装置70が、主構造物10の地上部12の地上外周部18が有する最外柱の基礎部に加え、地上外周部18のさらにその内側の柱の基礎部にも配置することである。したがって、その作用および効果については直前の実施の形態6と同一であり、免震装置70の他の好適な典型例を示したのが本実施の形態7である。したがって、上述の免震装置70の配置以外は、構成、作用及び効果の説明は実施の形態6のそれらと重複するため省略する。
【0135】
[実施の形態8]
図8は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0136】
本実施の形態は、前述の実施の形態6と同様に、制震構造物100は主構造物10及び地下構造物20とから構成される。地下構造物20は、実施の形態6と同様に設計される。すなわち、地下構造物20は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。地下構造物20は、具体的には土圧や水圧に対する充分高い抵抗力すなわち充分高い水平方向剛性を有する地下壁22を有する。
【0137】
また主構造物10は、この地下構造物20の上に位置し、具体的には地下構造物20の中心領域24上に支持される。この主構造物10は、地上部12と地下部14とから構成されるが、地上部12は、地上中心部16とこの地上中心部16の周囲に位置する地上外周部18とからなる。地上中心部16は地下部14の直上に位置し、地上外周部18は、前述の空間部30および地下構造物20の地下周囲領域26の直上に位置する。一方、地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、地下構造物20の地下周囲領域26から離間することで、主構造物10が地下構造物20と相対変位可能に構成される。
【0138】
ここで、一典型例としては、地上中心部16と地上外周部18とは実質同一程度の層間変形角を生じさせる水平方向剛性を有するよう設計し得るが、地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性は、地下構造物20の水平方向剛性よりは低くすることが必要条件である。
【0139】
さらに、前述の実施の形態6と同様に、主構造物10の地下部14は地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性より更に低い水平方向剛性を有するよう設計される。すなわち、主構造物10の地上部12並びに地下部14共、水平方向剛性は地下構造物20の水平方向剛性より低くなり、さらに地下部14の水平方向剛性を地上部12の水平方向剛性、すなわち、地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性よりさらに低くすることで、地下部14を免震層化する。
【0140】
そして、地上外周部18は免震装置70を介して地下構造物20の地下周囲領域26上に支持される。このように構成することで、主構造物10の地上部12は免震層化された地下部14と免震装置70とにより地下構造物20から免震化される。免震装置70は、地上外周部18の底部と地下構造物20の地下周囲領域26の上部との間に設け、主構造物10の地上部12を地下構造物20から免震化すればよく、免震装置70の配置場所は限定されるものではないが、一つの好適な典型例としては、図8に示すように、地上外周部18の最外柱の基礎部と地下構造物20の地下周囲領域26との間に配置することが可能である。
【0141】
加えて、前述の実施の形態同様、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を典型的には複数設けることで、前記主構造物10の地下構造物20に対する相対変位を伴う主構造物10の水平方向振動を減衰する。
【0142】
前述の実施の形態2でも説明したように、主構造物10の地下部14の水平方向剛性を主構造物10の地上部12より低くするためには、例えば、地下部14の柱50を、地上部12の柱60と同一程度の断面積を有し、且つその断面2次モーメントを小さく設計することで実現可能である。垂直方向剛性は柱の断面積に依存するため、地下部14の垂直方向剛性を高く保つためには、地下部14の柱50の断面積を地上部12の柱60の断面積と少なくとも実質同一程度には保つ必要がある。しかしながら、柱の水平方向剛性は、柱の断面2次モーメントに依存するため、柱の水平方向剛性を減少させるには、柱の断面2次モーメントを減少させる必要がある。このため、主構造物10の地下部14の柱50は、地上部12の柱60と比較し、実質同一程度の断面積を有し、且つその断面2次モーメントを小さくすることが好ましい。
【0143】
本実施の形態が、前述の実施の形態と異なる点は、地下構造物20より下の地中に、少なくとも一つ、典型的には複数の鋼管杭80を埋設する。この鋼管杭80は、杭82と鋼管84とからなる。鋼管84は、杭82の径より大きな内径を有し、且つこの杭82の周囲に間隙を形成するよう配置する。そして鋼管84は地中に埋設されるため、地中の変位すなわち揺れを反映し、一方、杭82は地下構造物20の更に上方まで延在し、主構造物10の地上部12の柱60に固定することで、杭82は主構造物10の地上部12の変位すなわち揺れを反映する。したがって、主構造物10の地上部12と地下構造物20との相対変位すなわち、水平方向の相対振動は、鋼管84と杭82との相対変位すなわち水平方向の相対振動に反映される。そしてこの杭82と鋼管84との間隙に二次的な水平方向減衰装置44を設けることで、鋼管84と杭82との相対変位を抑制、すなわち水平方向の相対振動を減衰することで、間接的にすなわち二次的に主構造物10の地上部12と地下構造物20との相対変位を抑制、すなわち水平方向の相対振動の減衰を実現する。この二次的な水平方向減衰装置44は、杭82と鋼管84との間隙に配置するのに好適な減衰装置であれば、特に限定されるものではないが、典型的には前述の水平方向減衰装置40と同様のタイプの減衰装置、具体的には、変位依存型減衰装置を利用することが可能である。さらに、鋼管84は、地中に埋設されるため、あえて地下構造物20の地下壁22の底部に固定する必要はない。
【0144】
鋼管杭80は、建物の基礎に対する設計上の要求により適宜設けられるものであり、従来は鋼管杭80は、減衰装置を有していなかったが、本実施の形態によれば、この鋼管杭80が必要となる場合に適用することが可能である。すなわち、杭82と鋼管84との間隙を利用し、そこに二次的に水平方向の減衰を行う二次的な水平方向減衰装置44を設けることで、減衰効果を前述の実施の形態6と比較してさらに向上させることが可能となる。
【0145】
図9は、本実施の形態8において設けられる鋼管杭80の模式的水平断面図である。すなわち、水平方向振動は二次元的であるため、好ましくは二次的な水平方向減衰装置44を第一の水平方向およびこの第一の水平方向に直交する第二の水平方向に設けることで、これら複数の二次的な水平方向減衰装置44が互いに協働することで、鋼管杭80の相対変位を利用して間接的に、前述の水平方向減衰装置40の減衰効果をさらに高めることが可能となる。
【0146】
このように構成することで、主構造物10の地下部14の水平方向剛性が最も低くなるため、この地下部14が構造物全体でみた場合、免震の役割を果たすことになる。すなわち、主構造物10の地上部12は、免震層として作用する地下部14及び免震装置70を介し、地下構造物20の上に支持されているとみなすことができる。さらに水平方向減衰装置40を地上部12及び地下部14との境界付近と地下構造物20との間に結合するとともに、各鋼管杭80の杭82と鋼管84との間隙に二次的に水平方向減衰をおこなう二次的な水平方向減衰装置44を設ける。このように構成することにより、本実施の形態では、水平方向減衰装置40及び二次的な水平方向減衰装置44により水平方向減衰効果をより大きくすることが可能となる。すなわち、本実施の形態の設計思想によれば、鋼管杭80を地下構造物20の下の地下領域に埋設することが必要となる建物、すなわち制震構造物100に対し有用である。すなわち、本実施の形態では、主構造物10の地上部12が、地上外周部18を有する場合を例にして説明したが、この地上外周部18が無い前述の実施の形態1乃至5にも適用可能である。
【0147】
上述した構成以外は、実施の形態1に記載した構成と同一であるのでその重複する説明は省略する。
【0148】
さらに、本実施の形態は、前述の実施の形態1に記載した効果と同様の効果を有する。すなわち、上記構成を採用することにより、例えば地震が発生した場合、主構造物10の地上部12の振動を地下構造物20の振動と比較して更に大きく減衰することが可能となる。すなわち、水平方向減衰装置40と二次的な水平方向減衰装置44とが主構造物10の地上部12の水平方向の揺れを吸収することにより、主構造物10の地上部12が従来のような大きな水平方向の揺れを起こすことを防ぐことが可能となる。
【0149】
したがって、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物20に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性を有するという構造上の特性をそのまま利用し、水平方向減衰装置40をこの地下構造物20と主構造物10との間に結合し、さらに、二次的な水平方向減衰装置44を鋼管杭80の杭82と鋼管84との間隙に設け、加えて、主構造物10の地下部14を免震層化すると共に主構造物10の地上部12の地上外周部18を免震装置70を介し、地下構造物20の地下外周部26上に支持する。このことにより、地下構造物20の高い水平方向剛性と、水平方向減衰装置40と二次的な水平方向減衰装置44との減衰力と、これに加え、主構造物10の地下部14の免震層化および免震装置70を利用し、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物10の水平方向の揺れ、とりわけ主構造物10の地上部12の水平方向の揺れをより効果的に減衰することが可能となる。すなわち、本発明によれば主構造物10より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性をそのまま利用するとともに、従来から利用されている減衰装置および免震装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0150】
前述の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物に加え、この主構造物と分離された非常に高い剛性を有する副構造物を敢えて地上に設け、この副構造物を地盤面に固定し地盤面と同じ動きをするよう構成することで、構造物各階床と同じ高さに擬似地盤面を実現するものである。
【0151】
しかしながら、本発明によれば、この副構造物を敢えて設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、水平方向減衰装置及び免震装置とを利用するのみで大きな減衰効果すなわち大きな応答抑制効果が得られる。すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0152】
また、構造物が高層或いは超高層になると、前述の従来技術では、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0153】
しかしながら、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードは発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能となる。
【0154】
[実施の形態9]
図10は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。前述の実施の形態1乃至8においては、水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を、地下構造物20と主構造物10の地下部14との間の空間部30に配置することで、主構造物10特にその地上部12の水平方向の振動を減衰した。
【0155】
しかしながら、主構造物10の地下部14の水平方向剛性を低く設計する場合、主構造物10の地上部12の曲げ変形モードの発生が問題となるが、本実施の形態によれば、この曲げ変形モードの発生を抑制するため、主構造物10の地上部12の最外柱に垂直方向の振動を減衰するための垂直方向減衰装置90を設けることが特徴となる。以下詳細に説明する。
【0156】
制震構造物100は主構造物10及び地下構造物20とから構成される。地下構造物20は、実施の形態1と同様に設計される。すなわち、地下構造物20は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。地下構造物20は、具体的には土圧や水圧に対する充分高い抵抗力すなわち充分高い水平方向剛性を有する地下壁22を有する。
【0157】
また主構造物10も実施の形態1と同様にこの地下構造物20の上に位置し、具体的には地下構造物20の中心領域24上に支持される。この主構造物10は、地上部12と地下部14とから構成されるが、この地上部12は、地上中心部16とこの地上中心部16の周囲に位置する地上外周部18とからなる。地上中心部16は地下部14の直上に位置し、地上外周部18は、前述の空間部30および地下構造物20の地下周囲領域26の直上に位置する。一方、地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、地下構造物20の地下周囲領域26から離間することで、主構造物10が地下構造物20と相対変位可能に構成される。
【0158】
ここで、一典型例としては、地上中心部16と地上外周部18とは実質同一程度の層間変形角を生じさせる水平方向剛性を有するよう設計し得るが、地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性は、地下構造物20の水平方向剛性よりは低くすることが必要条件である。
【0159】
さらに、前述の実施の形態6と同様に、主構造物10の地下部14は地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性より更に低い水平方向剛性を有するよう設計される。すなわち、主構造物10の地上部12並びに地下部14共、水平方向剛性は地下構造物20の水平方向剛性より低くなり、さらに地下部14の水平方向剛性を地上部12の水平方向剛性、すなわち、地上中心部16と地上外周部18との水平方向剛性よりさらに低くすることで、地下部14を免震層化する。
【0160】
ここで、仮に、地上外周部18が地下構造物20上で支持されておらず、主構造物10の地上部12が、免震層化された地下部14のみを介して地下構造物20上に支持される場合、地上中心部16と地上外周部18とからなる主構造物10の地上部12は、免震層化された地下部14を基点として、傾きを伴い水平方向に変位する曲げ変形モードが生じる。この曲げ変形モードを1つの典型的な比喩的に表現すると、主構造物10の地上部12は地下部14を基点として所謂「やじろべえ」のような動きをする。
【0161】
しかしながら、本実施の形態においては、前述の曲げ変形モードを抑制するため、地上外周部18は、垂直方向減衰装置90を介して地下構造物20の地下周囲領域26上に支持される。このように構成することで、主構造物10の地上部12は免震層化された地下部14により地下構造物20から免震化され、かつ垂直方向減衰装置90により前述の曲げ変形モードが抑制される。垂直方向減衰装置90は、地上外周部18の底部と地下構造物20の地下周囲領域26の上部との間に設け、主構造物10の地上部12の曲げ変形モードの発生を抑制すればよく、従って、垂直方向減衰装置90の配置場所は限定されるものではないが、一つの好適な典型例としては、図11に示すように、地上外周部18の最外柱の基礎部と地下構造物20の地下周囲領域26との間に配置することが可能である。
【0162】
前述の実施の形態と異なる更なる点は、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置を設けず、代わりに、主構造物10の地上外周部18と地下構造物20の地下周囲領域26との間に垂直方向減衰装置90を設けることである。すなわち、地震等の外部付加により地下構造物20の水平方向の揺れが生じた際に、主構造物10の地下部14が水平方向の剛性が低減され免震化されているため、主構造物10の地上部12をこの地下部14を介し地下構造物20から免震する。更に、主構造物10の地上外周部18と地下構造物20の地下周囲領域26との間に垂直方向減衰装置90を配置することで、地上部12の曲げ変形モードの発生を抑制する。
【0163】
本実施の形態においては、主構造物10の地上部12が、さらに地上外周部18を有する構造となっているが、この地上外周部18を設けるか否かは建物に対する要求により決定される。すなわち、前述の実施の形態のような地上外周部18を有しないタイプの建物が要求される場合には前述の実施の形態が適用できるが、本実施の形態のように地上外周部18を必要とする場合には本実施の形態が適用できる。
【0164】
したがって、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物20に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性を有するという構造上の特性をそのまま利用し、主構造物10の地下部14を免震層化すると共に、主構造物10の地上部12の地上外周部18を垂直方向減衰装置90を介し、地下構造物20の地下周囲領域26上に支持する。このことにより、地下構造物20の高い水平方向剛性と、垂直方向減衰装置90の減衰力と、これに加え、主構造物10の地下部14の免震層化を利用し、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物10の水平方向の揺れ、とりわけ主構造物10の地上部12の水平方向の揺れをより効果的に減衰すると共に、地上部12の曲げ変形モードの発生を効果的に抑制することが可能となる。すなわち、本発明によれば、主構造物10より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性をそのまま利用するとともに、従来から利用されている減衰装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0165】
前述の従来技術では、外部減衰機構を実現するために、主構造物に加え、この主構造物と分離された非常に高い剛性を有する副構造物を敢えて地上に設け、この副構造物を地盤面に固定し地盤面と同じ動きをするよう構成することで、構造物各階床と同じ高さに擬似地盤面を実現するものである。
【0166】
しかしながら、本発明によれば、この副構造物を敢えて設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、垂直方向減衰装置を利用するのみで大きな減衰効果と曲げ変形モードの発生を抑制する効果とが得られる。すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0167】
また、構造物が高層或いは超高層になると、前述の従来技術では、曲げ変形モードが卓越するため耐震壁の剛性が低下し、剛性の高い副構造物の実現が難しくなる。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題もある。
【0168】
しかしながら、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、垂直方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードは発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能となる。
【0169】
[実施の形態10]
図11は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0170】
本実施の形態は、直前の実施の形態10と実質同一の設計思想に基づくものであり、構成上の相違点は、垂直方向減衰装置90が、主構造物10の地上部12の地上外周部18が有する最外柱の基礎部に設けられること加え、地上外周部18のさらにその内側の柱の基礎部に、免震装置70を配置することで、主構造物10の地上部12の地上外周部18は、垂直方向減衰装置90に加え免震装置70を介して地下構造物20の地下周囲領域26上に支持される。
【0171】
すなわち、直前の実施の形態10では、免震装置70は設けられず、地上外周部18は、垂直方向減衰装置90のみを介して地下構造物20の地下周囲領域26上に支持され、地上外周部18が有する最外柱除く柱の基礎部は、垂直方向の支持がない状態で、地下構造物20の地下周囲領域26から分離されていたが、本実施の形態では、地上外周部18が有する最外柱除く柱の基礎部を免震装置70を介し地下構造物20の地下周囲領域26上で垂直方向に支持する構成とした。
【0172】
したがって、その作用および効果については直前の実施の形態9と同一であり、地上外周部18を、垂直方向減衰装置90に加え免震装置70を介して地下構造物20の地下周囲領域26上に支持する好適な典型例を示したのが本実施の形態11である。したがって、上述の免震装置70を新たに配置した以外は、構成、作用及び効果の説明は実施の形態9のそれらと重複するため省略する。
【0173】
[実施の形態11]
図12は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0174】
本実施の形態は、直前の実施の形態10の構成に、更に水平方向減衰装置40を、前述の実施の形態1乃至8と同様に、空間部30内に設ける。すなわち、主構造物10と地下構造物20との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を、典型的には複数設けることで、前記主構造物の地下構造物に対する相対変位を伴う主構造物の水平方向振動を減衰する。好ましくは、水平方向減衰装置40を一水平方向のみだけでなく、複数の水平方向、具体的には、互いに直交する二つの水平方向における減衰を行うよう上記空間部30内に配置する。
【0175】
水平方向減衰装置40が奏する効果については、例えば前述の実施の形態6に記載した通りであり、本実施の形態は、直前の実施の形態10の構成が奏する効果に加え、前述の実施の形態6に記載した水平方向減衰装置40が奏する効果を併せ持つ。これらの具体的且つ詳細な説明については、前述の実施の形態6及び直前の実施の形態10と重複するため省略する。
【0176】
[実施の形態12]
図13は、本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【0177】
本実施の形態は、前記実施の形態1の構成において、地下構造物が内部空間を有せず非常に剛性の高い擁壁28で構成する例を示す。前述の実施の形態1乃至12においては、地下構造物20が多層階からなる内部空間と柱を有する構成を例にするものであったが、地下構造物20は、主構造物10より剛性が高いことが必要条件であり、従って、地下に埋設され且つ主構造物10より剛性が高い擁壁28で地下構造物が構成される場合にも本発明を適用することが可能である。
【0178】
すなわち、制震構造物100は主構造物10及び地下構造物としての擁壁28とから構成される。擁壁28は、地下に位置し、地面から受ける水平方向の圧力に充分耐えるよう主構造物10の水平方向剛性より充分高い水平方向剛性を有するよう設計される。
【0179】
また主構造物10は実施の形態1と同様にこの擁壁28の低部上に支持される。この主構造物10は、実施の形態1と同様に地上部12と地下部14とから構成され、地下部14は、空間部30によりその周囲を囲まれて、擁壁28の垂直壁から離間することで、主構造物10が地下構造物と相対変位可能に構成される。
【0180】
更に水平方向減衰装置40を、前述の実施の形態1と同様に、空間部30内に設ける。すなわち、主構造物10と擁壁28との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置40を、典型的には複数設けることで、前記主構造物10の擁壁28に対する相対変位を伴う主構造物10の水平方向振動を減衰する。好ましくは、水平方向減衰装置40を一水平方向のみだけでなく、複数の水平方向、具体的には、互いに直交する二つの水平方向における減衰を行うよう上記空間部30内に配置する。水平方向減衰装置40が奏する効果については、例えば前述の実施の形態1に記載した通りである。
【0181】
また、前記説明に基づき当業者であれば推測可能であろうが、前述の実施の形態2乃至12においても、本実施の形態同様、地下構造物20は擁壁28のみで構成してもよく、前述の実施の形態2乃至11に記載したのと同様の効果を奏する。
【0182】
以上本発明を実現する際の幾つかの典型例として前述の実施の形態1乃至13を示したが、本発明は、必ずしもこれら実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0183】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、例えば水圧や土圧等の外部からの水平方向負荷に耐え得るよう地下構造物に与えられた条件である非常に高い水平方向剛性特性を上手く利用し、更に水平方向減衰装置をこの地下構造物と主構造物との間に結合することで、地下構造物の高い水平方向剛性と、水平方向減衰装置の減衰力とを利用する。これにより、地震等の外部から印加される水平方向振動による主構造物の水平方向揺れを効果的に減衰することが可能となる。
【0184】
すなわち、本発明によれば主構造物より水平方向剛性が高い新たな構造体を設ける必要がなく、地下部を有する建物が本来有する構造上の特性を利用するとともに、従来から利用されている減衰装置のみを新たに設けることで前述した多大なる効果を有する。
【0185】
さらに、本発明によれば、副構造物を敢えて地上に設けることなく、地下構造物に与えられた条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみで大きな減衰効果すなわち大きな応答抑制効果が得られる。すなわち、従来技術のような高い水平方向剛性を有する新たな構造体を主構造物の周囲に設ける必要がなく、且つ、剛性を高くするために構造体内にブレースや耐震壁を設置する必要がないため、非常に経済的でコストダウンにも大きく貢献すると共に、建築計画の自由度が制約されることなく、建物の外観を一切損なわず前述の効果を得ることが可能となる。
【0186】
また、本発明によれば、たとえ構造物が高層或いは超高層であっても、従来技術で必要とした剛性の高い副構造物を必要とせず、地下構造物に与えられた本質的な必要条件である高い剛性と、水平方向減衰装置とを利用するのみであるため、大きな曲げ変形モードの問題は発生せず、従って前述の問題は何ら発生しない。加えて、剛性の低い主構造物の柱と剛性の高い副構造物の柱が近接して空間利用を妨げるという問題も起こり得ない。すなわち、本発明に係る制震構造物は、高層或いは超高層の建物にも非常に低コストで非常に高い効果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の一例を示すものである。
【図2】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図3】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図4】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図5】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図6】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図7】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図8】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図9】実施の形態8において設けられる鋼管杭80の模式的水平断面図である。
【図10】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図11】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図12】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図13】本発明に係る制震構造物の典型的な実施の形態の他の例を示すものである。
【図14】本発明に係る制震構造物において、主構造物と地下構造物との間の空間における水平方向減衰装置の配置の一典型例を示す平面図である。
【符号の説明】
100 制震構造物
300 地上領域
400 地下領域
10 主構造物
12 地上部
14 地下部
16 地上中心部
20 地下構造物
22 地下壁
24 中心領域
26 地下周囲領域
28 擁壁
D 深さ“D”
d 深さ“d”
h 高さ“h”
G 間隙“G”
30 空間部
40 水平方向減衰装置
42 水平方向減衰装置
44 水平方向減衰装置
50 水平方向剛性の低い柱
60 主構造物の柱
70 免震装置
80 鋼管杭
82 杭
84 鋼管
90 垂直方向減衰装置

Claims (32)

  1. 地下に位置する地下構造物と、この地下構造物上に支持され、少なくとも地上部を有する主構造物とから成る制震構造物において、
    前記主構造物の水平方向剛性は前記地下構造物より低く、さらに前記主構造物と前記地下構造物との間に空間部を設けることで前記主構造物と前記地下構造物との水平方向の相対変位を可能に構成し、
    前記主構造物と前記地下構造物との間に水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置を少なくとも一つ設けることを特徴とする制震構造物。
  2. 前記水平方向減衰装置を、前記空間部内であって、かつ少なくとも第一の水平方向及びこの第一の水平方向に直交する第二の水平方向の双方向において減衰を行うよう少なくとも二つ設けることを特徴とする請求項1記載の制震構造物。
  3. 前記空間部は、前記主構造物の地下部の周囲に設けられ、この空間部を介し前記地下構造物と離間され、この空間部の下部には地下構造物の一部が延在し、この空間部より下のレベルで前記主構造物は前記地下構造物に支持されており、前記減衰装置はこの空間部内の上部領域に設けられることを特徴とする請求項2記載の制震構造物。
  4. 前記水平方向減衰装置は、前記地下構造物最上部と実質同一のレベルに配置されることを特徴とする請求項3記載の制震構造物。
  5. 前記主構造物の地下部の水平方向剛性は、前記主構造物の地上部の水平方向剛性より低いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の制震構造物。
  6. 前記主構造物の地上部の柱の水平方向剛性より前記主構造物の地下部の柱の水平方向剛性を低くすることにより、構造物の水平方向変形を前記主構造物の前記地下部の柱に集中させることを特徴とする請求項5記載の制震構造物。
  7. 前記主構造物の地上部内に水平方向の減衰を行う二次的な水平方向減衰装置を設けることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の制震構造物。
  8. 前記主構造物の地上部内に分散的に前記二次的な水平方向減衰装置を設けることを特徴とする請求項7に記載の制震構造物。
  9. 前記主構造物の地上部は、前記空間部分よりさらに外側に延在する地上外周部を有し、この地上外周部は前記地下構造物の上位に位置し、前記地上外周部は前記地下構造物より低い水平方向剛性を有し、更に、前記地上外周部は少なくとも一つの免震装置を介して前記地下構造物に支持されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の制震構造物。
  10. 前記免震装置は、前記地上外周部の少なくとも一つの柱と前記地下構造物との間に配置されることを特徴とする請求項9に記載の制震構造物。
  11. 前記免震装置は、前記地上外周部の全ての柱と前記地下構造物との間に配置されることを特徴とする請求項10に記載の制震構造物。
  12. 前記主構造物の地下部と前記地下構造物との間に少なくとも一つの免震装置を設けることで、前記主構造物は、前記少なくとも一つの免震装置を介し、前記地下構造物上に支持されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の制震構造物。
  13. 杭と、この杭の径より大きな内径を有し且つこの杭の周囲に空隙を形成するよう配置した鋼管とから成る鋼管杭を、前記地下構造物より下の地中に少なくとも1つ埋設し、前記杭は前記制振構造物に固定されてこの制振構造物の変位を反映し、更に、前記鋼管は地面の変位を反映し、さらに、各前記鋼管杭は、少なくとも一つの水平方向減衰装置を前記杭と前記鋼管との間の空隙に設けることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の制震構造物。
  14. 前記各鋼管杭の前記杭と前記鋼管との間の空隙において、前記水平方向減衰装置を、少なくとも第一の水平方向及びこの第一の水平方向に直交する第二の水平方向との双方向において減衰を行うよう少なくとも二つ配置することを特徴とする請求項13記載の制震構造物。
  15. 前記地下構造物を貫通し、前記主構造物の前記地上部の柱に固定するよう前記杭を延在させることを特徴とする請求項13または14記載の制震構造物。
  16. 前記杭を前記地下構造物の柱に固定することを特徴とする請求項13または14記載の制震構造物。
  17. 前記主構造物の地上部は、前記空間部分よりさらに外側に延在する地上外周部を有し、この地上外周部は前記地下構造物の上位に位置し、前記地上外周部は前記地下構造物より低い水平方向剛性を有し、前記主構造物の地下部は、前記主構造物の地上部よりさらに低い水平方向剛性を有し、前記地上外周部は、垂直方向の減衰を行う少なくとも一つの垂直方向減衰装置を介して地下構造物上に支持されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の制震構造物。
  18. 前記地上外周部は、前記少なくとも一つの垂直方向減衰装置に加え、少なくとも一つの免震装置を介して地下構造物上に支持されることを特徴とする請求項17に記載の制震構造物。
  19. 前記少なくとも一つの垂直方向減衰装置は、前記地上外周部の少なくとも一つの柱と前記地下構造物との間に配置されることを特徴とする請求項17に記載の制震構造物。
  20. 前記地上外周部の全ての柱と前記地下構造物との間に、前記垂直方向減衰装置あるいは前記免震装置のいずれかが配置されることを特徴とする請求項18に記載の制震構造物。
  21. 前記地下構造物は、少なくとも一つの地下階を含む内部空間を有することを特徴とする請求項1乃至20のいずれかに記載の制震構造物。
  22. 前記地下構造物は、擁壁から成ることを特徴とする請求項1乃至20のいずれかに記載の制震構造物。
  23. 地下に位置する地下構造物と、この地下構造物上に支持され、少なくとも地上部を有する主構造物とから成る制震構造物において、
    前記主構造物の水平方向剛性は前記地下構造物より低く、さらに前記主構造物と前記地下構造物との間に空間部を設けることで前記主構造物と前記地下構造物との水平方向の相対変位を可能に構成し、
    前記主構造物の地下部の水平方向剛性は、前記主構造物の地上部の水平方向剛性より低く構成し、
    前記主構造物の前記地上部は、前記空間部分よりさらに外側に延在する地上外周部を有し、この地上外周部は前記地下構造物の上位に位置し、更に、前記地上外周部の水平方向剛性は、前記主構造物の地下部の水平方向剛性より高く、且つ前記地下構造物の水平方向剛性より低く構成し、
    前記地上外周部は、前記主構造物と前記地下構造物との間の垂直方向の減衰を行う少なくとも一つの垂直方向減衰装置を介して地下構造物上に支持されることを特徴とする制震構造物。
  24. 複数の前記垂直方向減衰装置を前記地上外周部の柱と前記地下構造物との間に設けることを特徴とする請求項23記載の制震構造物。
  25. 前記複数の垂直方向減衰装置を前記地上外周部の最外柱と前記地下構造物との間に設けることを特徴とする請求項24記載の制震構造物。
  26. 前記主構造物の地上部の柱の水平方向剛性より前記主構造物の地下部の柱の水平方向剛性を低くすることにより、構造物の水平方向変形を前記主構造物の前記地下部の柱に集中させることを特徴とする請求項23乃至25のいずれかに記載の制震構造物。
  27. 前記少なくとも一つの垂直方向減衰装置に加え、水平方向の減衰を行う水平方向減衰装置を、前記空間部内であって、かつ前記主構造物と前記地下構造物との間に少なくとも一つ設けることを特徴とする請求項23乃至26のいずれかに記載の制震構造物。
  28. 前記水平方向減衰装置を、少なくとも第一の水平方向及びこの第一の水平方向に直交する第二の水平方向との双方向において減衰を行うよう少なくとも二つ設けることを特徴とする請求項27記載の制震構造物。
  29. 前記地上外周部は少なくとも一つの免震装置を介して地下構造物に支持されることを特徴とする請求項23乃至28のいずれかに記載の制震構造物。
  30. 前記主構造物の前記地下部と前記地下構造物との間に少なくとも一つの免震装置を設けることで、前記主構造物は、前記少なくとも一つの免震装置を介し、前記地下構造物上に支持されることを特徴とする請求項23乃至28のいずれかに記載の制震構造物。
  31. 前記地下構造物は、少なくとも一つの地下階を有することを特徴とする請求項23乃至30のいずれかに記載の制震構造物。
  32. 前記地下構造物は、擁壁から成ることを特徴とする請求項23乃至30のいずれかに記載の制震構造物。
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JP2010106653A (ja) * 2008-10-02 2010-05-13 Yotaro Kobayakawa 地下構造物及び複合構造物
WO2010103812A1 (ja) * 2009-03-12 2010-09-16 新日本製鐵株式会社 耐震鉄骨構造
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JP2019100143A (ja) * 2017-12-07 2019-06-24 中村物産有限会社 免震構造

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