JP2004156983A - ピロ燐酸定量用乾式分析素子 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ピロ燐酸を無機燐に変換する試薬、および無機燐の量に応じた発色反応を行う試薬群を含有する試薬層を備えるピロ燐酸定量用乾式分析素子。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は試料液中のピロ燐酸を定量するピロ燐酸定量用乾式分析素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
非常に多くの生合成反応には、ピロ燐酸の放出およびピロ燐酸の分解が含まれる。このため、生合成反応を熱力学的な観点から調べる場合には、ピロ燐酸の定量が有効である。例えば、核酸合成はDNAポリメラーゼによりデオキシヌクレオシド3リン酸を触媒しながら進行する。その際、核酸合成の副産物としてピロ燐酸が放出される。核酸合成において、このピロ燐酸の放出はエネルギー的に非常に重要である。また、このピロ燐酸を検出することで、核酸合成が行われたか否かを確認することも可能である。
【0003】
従来試料液中のピロ燐酸の定量は、式1に示すような方法(J.Immunological Method,156,55−60,1992)が主に用いられてきた。式1に示す方法は、ピロ燐酸(PPi)をスルフリラーゼによりアデノシン3燐酸(ATP)に変換し、アデノシン3燐酸がルシフェラーゼによりルシフェリンに作用して生じる発光を検出するものである。そのため、この方法でピロ燐酸(PPi)を検出するには発光を測定できる装置が必要である。またこの方法は、乾式分析素子への適応が困難であり、測定の簡便性および迅速生の向上を達し得ないという問題がある。
【0004】
【化1】
【0005】
これまでも、無機燐定量用試薬は開発、発明されてきた。例えば、「Japan J.Clin.Chem.,11,83,1982」に記載されているPNP−XOD−POD法は、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)により無機燐(Pi)をイノシンと反応させ、生じたヒポキサンチンをキサンチンオキシダーゼ(XOD)により酸化してキサンチン、さらに酸化して尿酸を生成させ、このXODによる酸化過程で生じる過酸化水素(H2O2)を用いてペルオキシダーゼ(POD)により発色剤(色素前駆体)を発色させ、これを比色するものである。
【0006】
また、特開平7−197号公報には、前記のPNP−XOD−POD法において、PNPの基質として、イノシンの代わりにキサントシンを使用した無機燐定量用試薬とこれを用いた乾式分析素子が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらは、無機燐定量用試薬及び無機燐定量用乾式分析素子であって、試料液中のピロ燐酸を定量することはできない。
【0008】
【非特許文献1】
J.Immunological Method,156,55−60,1992
【非特許文献2】
Japan J.Clin.Chem.,11,83,1982
【特許文献1】
特開平7−197号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、微量な試料液中のピロ燐酸を比色法で定量することが可能で、かつ簡便性及び迅速性に優れるピロ燐酸定量用乾式分析素子を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため各種試薬を研究した結果、乾式分析素子中においてピロ燐酸をピロホスファターゼで無機燐に変換し、この無機燐を検出することにより、ピロ燐酸を比色測定により簡便かつ迅速に定量することが可能な乾式分析素子を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、ピロ燐酸を無機燐に変換する試薬、および無機燐の量に応じた発色反応を行う試薬群を含有する試薬層を備えるピロ燐酸定量用乾式分析素子が提供される。
【0012】
好ましくは、キサントシンまたはイノシン、ピロホスファターゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、キサンチンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び発色剤を含有する試薬層を有する、ピロ燐酸定量用乾式分析素子が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のピロ燐酸定量用乾式分析素子による反応原理は、式2または式3に示したように、ピロ燐酸(PPi)をピロホスファターゼで無機燐(Pi)に変換し、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)により無機燐(Pi)をキサントシンまたはイノシンと反応させ、生じたキサンチンまたはヒポキサンチンをキサンチンオキシダーゼ(XOD)により酸化して尿酸を生成させ、この酸化過程で生じる過酸化水素(H2O2)を用いてペルオキシダーゼ(POD)により発色剤(色素前駆体)を発色させ、これを比色するものである。
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
ピロホスファターゼ(EC3,6,1,1)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP,EC2.4.2.1)、キサンチンオキシダーゼ(XOD,EC1.2.3.2)及びペルオキシダーゼ(POD,EC1.11.1.7)は市販のものを使用することができる。発色剤(すなわち色素前駆体)は、過酸化水素とペルオキシダーゼ(POD)により色素を生成させるものであればよく、例えば、ロイコ色素の酸化によって色素を生成する組成物(例、米国特許4,089,747等に記載のトリアリールイミダゾールロイコ色素、特開昭59−193352号公報(EP 0122641A)等に記載のジアリールイミダゾーロイコ色素);酸化されたときに他の化合物とカップリングにより色素を生成する化合物を含む組成物(例えば4−アミノアンチピリン類とフェノール類又はナフトール類)などを使用することができる。
【0017】
(A) 乾式分析素子:本発明において使用することのできる乾式分析素子とは、一層または複数層の機能層からなる分析素子であって、その少なくとも一層(または複数の層に渡って)に検出試薬を含有させ、層内での反応により生じた生成色素を、分析素子の外から反射光あるいは透過光により比色定量するものである。
【0018】
このような乾式分析素子を用いて定量分析するには、液体試料を展開層の表面に一定量点着する。展開層で展開された液体試料は試薬層に達し、ここで試薬と反応し、発色する。点着後、乾式分析素子を適当な時間、一定温度に保って(インクベーション)発色反応を充分に進行させた後、例えば透明支持体側から照明光を試薬層に照射し、特定波長域で反射光量を測定して反射光学濃度を求め、予め求めておいた検量線に基づいて定量分析を行う。
【0019】
乾式分析素子においては、検出を行うまでは乾燥状態で貯蔵・保管されるため、試薬を用時調製する必要がなく、また一般に乾燥状態の方が試薬の安定性が高いことから、試薬溶液を用時調製しなければならないいわゆる湿式法より簡便性、迅速性に優れている。また、微量の液体試料で、精度の高い検査を迅速に行うことができる検査方法としても優れている。
【0020】
(B) ピロ燐酸定量用乾式分析素子:本発明で使用することのできるピロ燐酸定量用乾式分析素子は、公知の多種の乾式分析素子と同様の層構成とすることができる。乾式分析素子は、前記(E)項(ピロ燐酸(PPi)の検出)における、式2または式3の反応を行うための試薬の他、支持体、展開層、検出層、光遮蔽層、接着層、吸水層、下塗り層その他の層を含む多重層としてもよい。このような乾式分析素子として、例えば特開昭49−53888号公報(対応米国特許3,992,158)、特開昭51−40191号公報(対応米国特許4,042,335)、及び特開昭55−164356号公報(対応米国特許4,292,272)、特開昭61−4959号公報(対応EPC公開特許0166365A)の各明細書に開示されたものがある。
【0021】
本発明で用いることができる乾式分析素子としては、ピロ燐酸を無機燐に変換する試薬、および無機燐の量に応じた発色反応を行う試薬群を含有する試薬層を備えるピロ燐酸定量用乾式分析素子が挙げられる。
このピロ燐酸定量用乾式分析素子においては、ピロホスファターゼを用いて酵素的にピロ燐酸(PPi)を無機燐(Pi)に変換するまでは本明細書中上記した通り行うことができ、それ以降は、生化学検査分野で既知の以下に述べる「無機燐の定量法」(及びそれらに用いられる各反応の組み合わせ)を用いることにより、無機燐(Pi)の量に応じた発色反応を行うことができる。
【0022】
なお、「無機燐」を表記する場合、燐酸(燐酸イオン)として、「Pi」と表記する場合と「HPO4 2−、H2PO4 1−」と表記する両方の場合がある。以下に示す反応の例では、「Pi」として表記するが、同じ反応式に対して「HPO4 2−」と表記する場合もある。
【0023】
無機燐の定量法としては酵素法と燐モリブテン酸塩法が知られている。以下、無機燐の定量法としての酵素法と燐モリブテン酸塩法について説明する。
【0024】
a.酵素法
Piを定量検出するための一連の反応における最後の「呈色反応」に用いる酵素に応じて、ペルオキシダーゼ(POD)を用いる方法とグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)を用いる方法がある。以下、これらの方法の具体例を説明する。
【0025】
(1)ペルオキシダーゼ(POD)を用いる方法の例
(1−1)
無機燐(Pi)を、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)により、イノシンと反応させ、生じたヒポキサンチンをキサンチンオキシダーゼ(XOD)により酸化して尿酸を生成する。この酸化過程で生じる過酸化水素(H2O2)を用いて、ペルオキシダーゼ(POD)により、4−アミノアンチピリン(4−AA)とフェノールとを酸化縮合させてキノンイミン色素を形成し、これを比色する。
【0026】
(1−2)
無機燐(Pi)、コカルボキシラーゼ(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、Mg2+の存在下で、ピルビン酸をピルビン酸オキシダーゼ(POP)により酸化してアセチル酢酸を生成する。この酸化過程で生じる過酸化水素(H2O2)を用いて、上記(1−1)の場合と同様に、ペルオキシダーゼ(POD)により、4−アミノアンチピリン(4−AA)とフェノールとを酸化縮合させてキノンイミン色素を形成し、これを比色する。
【0027】
なお、上記の(1−1)および(1−2)における最後の呈色反応は、過酸化水素の検出試薬として既知の「Trinder試薬」を使用して行うことができる。この反応で、フェノールは「水素供与体」として働く。「水素供与体」として用いるフェノールは古典的で、現在は改良された様々な「水素供与体」が使用されている。このような水素供与体の具体例としては、N−エチル−N−スルホプロピル−m−アニリジン、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン、N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメチルアニリン、N−エチル−N−スルホプロピル−m−トルイジン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−アニリジン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン、及びN−スルホプロピルアニリンなどが挙げられる。
【0028】
(2)グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)を用いる方法
(2−1)
無機燐(Pi)とグリコーゲンとをホスホリラーゼを用いて反応させ、グルコース−1−燐酸(G−1−P)を生成させる。生じたグルコース−1−燐酸をホスホグルコムターゼ(PGM)により、グルコース−6−燐酸(G−6−P)にする。グルコース−6−燐酸とニコチアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)との存在下、グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)により、NADを還元してNADHにし、これを比色する。
【0029】
(2−2)
無機燐(Pi)とマルトースとをマルトースホスホリラーゼ(MP)を用いて反応させ、グルコース−1−燐酸(G−1−P)を反応させる。以下、上記(2−1)と同様に、生じたグルコース−1−燐酸をホスホグルコムターゼ(PGM)により、グルコース−6−燐酸(G−6−P)にする。グルコース−6−燐酸とニコチアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)との存在下、グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)により、NADを還元してNADHにし、これを比色する。
【0030】
b.燐モリブテン酸塩法
酸性下で無機燐(燐酸塩)と水溶性モリブテン酸イオンとを錯化させた「燐モリブテン酸塩(H3[PO4Mo12O36])を直接定量する「直接法」と、上記直接法の反応に続いて、還元剤により、Mo(IV)からMo(III)として、モリブテン青(Mo(III))を定量する「還元法」とがある。水溶性モリブテン酸イオンの例としては、モリブテン酸アルミニウム、モリブテン酸カドミウム、モリブテン酸カルシウム、モリブテン酸バリウム、モリブテン酸リチウム、モリブテン酸カリウム、モリブテン酸ナトリウム、モリブテン酸アンモニウムなどが挙げられる。還元法で使用される代表的な還元剤の例としては、1,2,4アミノナフトールスルホン酸、硫酸第一鉄アンモニウム、塩化第一鉄、塩化第一スズ−ヒドラジン、硫酸−p−メチルアミノフェノール、N,N−ジメチル−フェニレンジアミン、アスコルビン酸、マラカイトグリーンなどが挙げられる。
【0031】
光透過性水不透過性支持体を用いる場合の乾式分析素子は、実用的に次のような構成を取り得る。ただし、本発明の内容はこれに限定されない。
(1) 支持体上に試薬層を有するもの。
(2) 支持体上に検出層、試薬層をこの順に有するもの。
(3) 支持体上に検出層、光反射層、試薬層をこの順に有するもの。
(4) 支持体上に第2試薬層、光反射層、第1試薬層をこの順に有するもの。
(5) 支持体上に検出層、第2試薬層、光反射層、第1試薬層、をこの順に有するもの。
【0032】
上記(1)ないし(3)において試薬層は異なる複数の層から成ってもよい。例えば第1試薬層には、式2または式3に示すピロホスファターゼ反応に必要な酵素ピロホスファターゼ、PNP反応に必要な基質キサントシンまたは基質イノシンと酵素PNPを、第2試薬層には、式2または式3に示すXOD反応に必要な酵素XODを、そして第3試薬層には、式2または式3に示すPOD反応に必要な酵素PODと発色色素(色素前駆体)を、それぞれ含有させてもよい。あるいは試薬層を2層として、第1試薬層ではピロホスファターゼ反応とPNP反応を、第2試薬層ではXOD反応とPOD反応を進行させてもよい。又は、第1試薬層ではピロホスファターゼ反応とPNP反応とXOD反応を、第2試薬層でPOD反応を進行させてもよい。
【0033】
支持体と試薬層又は検出層との間には吸水層を設けてもよい。また各層の間には濾過層を設けてもよい。また試薬層の上には展開層を設けてもよく、その間に接着層を設けてもよい。
【0034】
以下、各層や試薬等について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
支持体:支持体は光不透過性(不透明)、光半透過性(半透明)、光透過性(透明)のいずれのものも用いることができるが、一般的には光透過性で水不透過性の支持体が好ましい。光透過性水不透過性支持体の材料として好ましいものはポリエチレンテレフタレート、ポリスチレンである。親水性層を強固に接着させるため通常、これらの表面に下塗り層を設けるか、親水化処理を施す。
【0036】
試薬層:試薬層はピロ燐酸検出試薬を含有する。この試薬層の水浸透性を確保するためには、多孔性媒体からなる多孔性層とするか、親水性ポリマーバインダーからなる層とするのが好ましい。これら水浸透性層のうち、親水性ポリマーバインダーからなる連続層とするのが好ましい。用いる親水性ポリマーバインダーは試薬層で生成される生成物(色素)や、試薬層内に含有する試薬などを考慮して決められる。
【0037】
試薬層として多孔性層を用いる場合、その多孔性媒体は繊維質であってもよいし、非繊維質であってもよい。繊維質材料としては、例えば濾紙、不織布、織物布地(例えば平織り布地)、編物布地(例えばトリコット編物布地)、ガラス繊維濾紙等を用いることができる。非繊維質材料としては特開昭49−53888号公報等に記載の酢酸セルロースなどからなるメンブランフイルター、特開昭49−53888号公報、特開昭55−90859号公報(対応米国特許4,258,001)、特開昭58−70163号公報(対応米国特許4,486,537)等に記載の無機物又は有機物微粒子からなる連続空隙含有粒状構造物層等のいずれでもよい。特開昭61−4959号公報(対応欧州公開EP 0166365A)、特開昭62−116258号公報、特開昭62−138756号公報(対応欧州公開EP 0226465A)、特開昭62−138757号公報(対応欧州公開EP 0226465A)、特開昭62−138758号公報(対応欧州公開EP 0226465A)等に記載の部分接着された複数の多孔性層の積層物も好適である。
【0038】
多孔性層は供給される液体の量にほぼ比例した面積に液体を展開する、いわゆる計量作用を有する展開層であってもよい。展開層としては、これらのうち織物布地、編物布地などが好ましい。織物布地などは特開昭57−66359号公報に記載されたようなグロー放電処理をしてもよい。展開層には、展開面積、展開速度等を調節するため特開昭60−222770号公報(対応:EP 0162301A)、特開昭63−219397号公報(対応西独特許公開DE 3717913A)、特開昭63−112999号公報(対応:DE 3717913A)、特開昭62−182652号公報(対応:DE 3717913A)に記載したような親水性高分子あるいは界面活性剤を含有させてもよい。
【0039】
例えば紙、布、高分子からなる多孔質膜等に本発明の試薬を予め含浸又は塗布した後、支持体上に設けた他の水浸透性層、例えば検出層の上に、特開昭55−1645356号公報のような方法で接着させるのも有用な方法である。
【0040】
こうして作られる試薬層の厚さは特に制限されないが、塗布層として設ける場合には、1μm〜50μm程度、好ましくは2μm〜30μmの範囲が適当である。ラミネートによる積層など、塗布以外の方法による場合、厚さは数十μmから数百μmの範囲で大きく変化し得る。
【0041】
親水性ポリマーバインダーからなる水浸透性層で試薬層を構成する場合、使用できる親水性ポリマーとしては、例えば、以下のものがある。ゼラチン及びこれらの誘導体(例えばフタル化ゼラチン)、セルロース誘導体(例えばヒドロキシエチルセルロース)、アガロース、アルギン酸ナトリウム、アクリルアミド共重合体やメタアクリルアミド共重合体(例えば、アクリルアミド又はメタアクリルアミドと各種ビニル性モニマーとの共重合体)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸と各種ビニル性モノマーとの共重合体などである。
【0042】
親水性ポリマーバインダーで構成される試薬層は、特公昭53−21677号公報(対応米国特許3,992,158)、特開昭55−164356号公報(対応米国特許4,292,272)、特開昭54−101398号公報(対応米国特許4,132,528)等の明細書に記載の方法に従って本発明の試薬組成物と親水性ポリマーを含む水溶液又は水分散液を支持体又は検出層等の他の層の上に塗布し乾燥することにより設けることができる。親水性ポリマーをバインダーとする試薬層の乾燥時の厚さは約2μm〜約50μm、好ましくは約4μm〜約30μmの範囲、被覆量では約2g/m2〜約50g/m2、好ましくは約4g/m2〜約30g/m2の範囲である。
【0043】
試薬層には式2または式3の試薬組成物の他に、塗布特性、拡散性化合物の拡散性、反応性、保存性等の諸性能の向上を目的として、酵素の活性化剤、補酵素、界面活性剤、pH緩衝剤組成物、微粉末、酸化防止剤、その他、有機物あるいは無機物からなる各種添加剤を加える事ができる。試薬層に含有させることができる緩衝剤の例としては、日本化学会編「化学便覧 基礎」(丸善(株)、1966年発行)1312−1320頁、R.M.C.Dawson et al編「Data for Biochemical Research」第2版(Oxford at the Clarendon Presss,1969年発行)476−508頁、「Biochemistry」5,467−477頁(1966年)、「Analytical Biochemistry」104,300−310頁(1980年)に記載のpH緩衝剤系がある。pH緩衝剤系の具体例として硼酸塩を含む緩衝剤;クエン酸又はクエン酸塩を含む緩衝剤;グリシンを含む緩衝剤;ビシン(Bicine)を含む緩衝剤;HEPESを含む緩衝剤;MESを含む緩衝剤などのグッド緩衝剤等がある。なお燐酸塩を含む緩衝剤は、ピロ燐酸検出用乾式分析素子に使用することはできない。
【0044】
本発明のピロ燐酸定量用乾式分析素子は前述の諸特許明細書に記載の公知の方法により調製することができる。ピロ燐酸定量用乾式分析素子は一辺約5mmから約30mmの正方形またはほぼ同サイズの円形等の小片に裁断し、特公昭57−283331号公報(対応米国特許4,169,751)、実開昭56−142454号公報(対応米国特許4,387,990)、特開昭57−63452号公報、実開昭58−32350号公報、特表昭58−501144号公報(対応国際公:WO083/00391)等に記載のスライド枠に収めて化学分析スライドとして用いることが製造,包装,輸送,保存,測定操作等の観点で好ましい。使用目的によっては、長いテープ状でカセットまたはマガジンに収めて用いたり、又は小片を開口のある容器内に収めて用いたり、又は小片を開口カードに貼付または収めて用いたり、あるいは裁断した小片をそのまま用いることなどもできる。
【0045】
本発明のピロ燐酸定量用乾式分析素子は前述の諸特許明細書等に記載の操作と同様の操作により液体試料中の被検物であるピロ燐酸の定量検出ができる。例えば約2μL〜約30μL、好ましくは4〜15μLの範囲の水性液体試料液を試薬層に点着する。点着した分析素子を約20℃〜約45℃の範囲の一定温度で、好ましくは約30℃〜約40℃の範囲内の一定温度で1〜10分間インキュベーションする。分析素子内の発色又は変色を光透過性支持体側から反射測光し、予め作成した検量線を用いて比色測定法の原理により検体中のピロ燐酸の量を求めることができる。点着する液体試料の量、インキュベーション時間及び温度を一定にすることにより定量分析を高精度に実施できる。
【0046】
測定操作は特開昭60−125543号公報、特開昭60−220862号公報、特開昭61−294367号公報、特開昭58−161867号公報(対応米国特許4,424,191)などに記載の化学分析装置により極めて容易な操作で高精度の定量分析を実施できる。なお、目的や必要精度によっては目視により発色の度合いを判定して、半定量的な測定を行ってもよい。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0047】
【実施例】
実施例1
(1) ピロ燐酸定量用乾式分析素子の作製
ゼラチン下塗層が設けられている厚さ180μmの無色透明ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)平滑フイルムシ−ト(支持体)上に表1記載の組成(a)の水溶液を、以下の被覆率となるように塗布し、乾燥して試薬層を設けた。
【0048】
【表1】
【0049】
この試薬層の上に下記の表2記載の組成(b)の接着層水溶液を以下の被覆率となるように塗布し、乾燥して接着層を設けた。
【0050】
【表2】
【0051】
次いで接着層の上に30g/m2の割合で水を全面に供給してゼラチン層を膨潤させ、その上に純ポリエステル製のブロ−ド織物布地をほぼ一様に軽く圧力をかけてラミネートして多孔性展開層を設けた。
【0052】
次にこの展開層の上から下記の表3記載の組成(c)の水溶液を以下の被覆率となるようにほぼ均一塗布し、乾燥させ、13mm×14mmに裁断し、プラスチック製マウント材内に収めることで、ピロ燐酸定量用乾式分析素子を作成した。
【0053】
【表3】
【0054】
測定例1:試料溶液中のピロ燐酸濃度とピロ燐酸定量用乾式分析素子の発色の関係
純度を確認したピロ燐酸カリウム(和光純薬)を用いて、0;0.1;0.2;0.5;1.0(mM)の各濃度のピロ燐酸水溶液を調整し、実施例1で作製した乾式多層分析素子に20μLを点着した。乾式分析素子を37℃にて6分間インクベーション後、波長650nmにて指示体側から反射濃度(ODR)を測定した。結果を表4及び図1に示す。これから、本乾式分析素子を用いて試料液中のピロ燐酸を定量的に測定できることが判る。
【0055】
【表4】
【0056】
測定例2:ピロ燐酸定量用乾式分析素子を用いたヒト全血中の緑膿菌の検出
(1)緑膿菌を添加したヒト全血の調製
LB培地(Luria−Bertani medium)で一晩培養した緑膿菌(Pseudemonas Syringae)の培養液を元に、PBSによる希釈で濃度を変化させた溶液を、EDTA採血したヒト全血に添加することで、1mL当りそれぞれ、0、5×105、5×106、2.5×106、5×107、1×108 の菌体個数を含む6水準のヒト全血を調製した。ここで、菌体個数は分光光度計を用いて見積もった値である。
【0057】
(2) ヒト全血からの核酸の抽出、精製
上記(1)で調整した緑膿菌を添加し調整した6水準のヒト全血を試料とし、そのそれぞれから、市販の核酸抽出、精製キット(QIAGEN社製、QIAamp DNA Blood Mini Kit)を用いて抽出、精製したゲノミック核酸断片を1mLの精製蒸留水中に回収することで、タ−ゲット核酸断片を含む核酸試料液を調製した。
【0058】
(3) PCR増幅
上記(2)で、6水準のヒト全血試料から抽出・精製して得たタ−ゲット核酸断片を含む核酸試料液をそのまま用いて、以下の条件でPCR増幅を行った。
【0059】
<プライマ−>
緑膿菌のゲノム核酸に特異的(ice nucleation protein(Inak)N末)な配列を持つ以下のプライマ−セットを使用した。
プライマ−(upper):5’−GCGATGCTGTAATGACTCTCGACAAGC−3’(配列番号1)
プライマ−(lower):5’−GGTCTGCAAATTCTGCGGCGTCGTC−3’(配列番号2)
【0060】
以下に示す反応液の組成で、[デネイチャ−:94℃・1分、アニ−リング:55℃・1分、ポリメラ−ゼ伸長反応:72℃・1分]を30サイクル繰り返することでPCR増幅を実施した。
【0061】
<反応液の組成>
10×PCRバッファ− 5μL
2.5mM dNTP 4μL
20μM プライマ−(upper) 1μL
20μM プライマ−(lower) 1μL
Pyrobest 0.25μL
(2)で得た核酸試料液 5μL
精製水 33.75μL
【0062】
(4)ピロ燐酸定量用分析素子を用いた検出
前記(3)におけるPCR増幅反応後の溶液をそのまま、実施例1で製作した乾式分析素子上に各々20μL点着し、ピロ燐酸定量用乾式分析素子を37℃にて5分間インキュベ−ション後、波長650nmにて支持体側から測定して得られた反射光学濃度(ODR)の時間変化を図2に、5分後の反射光学濃度(ODR)を表5に、ヒト全血中の緑膿菌個数と5分後の反射光学濃度(ODR)の関係を図3に示した。
【0063】
【表5】
【0064】
測定例2の結果より、緑膿菌を含むヒト全血より定法に従って得たタ−ゲット核酸断片を含む核酸試料液を、緑膿菌のゲノム核酸に特異的な配列を持つプライマ−セットを使用しPCRを行い、そのPCR増幅反応後の溶液をそのままもちいて、生成したピロ燐酸を、本発明のピロ燐酸定量用乾式分析素子を用いて反射光学濃度(ODR)として測定することで、ヒト全血中に存在する緑膿菌の量に応じた反射光学濃度(ODR)が得られることがわかる。
【0065】
測定例3:ピロ燐酸定量用乾式分析素子を用いたアルデヒド脱水素酵素遺伝子(ALDH2遺伝子)関連部位の1塩基多型(SNPs)検出
(1)タ−ゲット核酸断片を含む核酸試料液の調製
予め塩基配列のシーケンシングにより、ALDH2遺伝子関連部位の特定の1塩基種が異なることにより、ALDH2活性型またはALDH2不活性型であることが既知である、各々1人から採取した血液試料のそれぞれから、市販の核酸抽出、精製キット(QIAGEN社製、QIAamp DNA Blood Mini Kit)を用いて抽出、精製したゲノミック核酸断片を1mLの精製蒸留水中に回収することで、タ−ゲット核酸断片を含む核酸試料液を調製した。
【0066】
(2) PCR増幅
上記(1)で、ALDH2活性型またはALDH2不活性型それぞれのヒト全血試料から抽出・精製して得たタ−ゲット核酸断片を含む核酸試料液をそのまま用いて、以下の条件でPCR増幅を行った。
【0067】
<プライマ−>
プライマ−は、12番染色体上のALDH2遺伝子関連部位のなかに、共通のプライマ−(upper)と、ALDH2の活性を決定する1塩基多型に対応する部分を3’末端付近に設定(プライマ−塩基配列の下線部分)した、ALDH2活性型および不活性型に対応する、2種のプライマ−(lower−1)および、プライマ−(lower−2)のセットを使用した。
【0068】
プライマ−(upper):
5’−AACGAAGCCCAGCAAATGA−3’(配列番号3)
プライマ−(lower−1):
5’−GGGCTGCAGGCATACACAGA3’(配列番号4)
または、
プライマ−(upper):
5’−AACGAAGCCCAGCAAATGA−3’(配列番号3)
プライマ−(lower−2):
5’−GGGCTGCAGGCATACACAAA−3’(配列番号5)
【0069】
以下に示す反応液の組成で、[デネイチャ−:94℃・20秒、アニ−リング:60℃・30秒、ポリメラ−ゼ伸長反応:72℃・1分30秒]を35サイクル繰り返することでPCR増幅を実施した。
【0070】
<反応液の組成>
10×PCRバッファ− 5μL
2.5mM dNTP 5μL
5μMプライマ−(upper) 2μL
5μMプライマ−(lower−1または−2) 2μL
Taq 0.5μL
(1)で得た核酸断片試料液 0.5μL
精製水 35μL
【0071】
(3)ピロ燐酸定量用分析素子を用いた検出
前記(2)におけるPCR増幅反応後の溶液をそのまま、実施例1で製作したピロ燐酸定量用乾式分析素子上に各々20μL点着し、ピロ燐酸定量用乾式分析素子を37℃にて5分間インキュベーション後、波長650nmにて支持体側から測定して得られた反射光学濃度(ODR)の時間変化を図4に、5分後の反射光学濃度(ODR)を表6に示した。
【0072】
【表6】
表6:試料のAHDH−2の型/プライマ−種と5分後の反射光学濃度(ODR)の大小関係
【0073】測定例3の結果より、共通プライマ−と、ALDH2の活性を決定する1塩基多型に対応する部分を3’末端付近に設定した、ALDH2活性型および不活性型に対応する2種のプライマ−それぞれとのプライマ−セットを使用しPCRを行い、そのPCR増幅反応後の溶液をそのまま用いて、生成したピロリン酸量を、本発明のピロ燐酸定量用乾式分析素子を用いて反射光学濃度(ODR)の大小として測定し、その反射光学濃度(ODR)の大小と使用したALDH2活性型および不活性型に対応する2種のプライマ−の関係により、試料のALDH2の活性型、すなわちアルデヒド脱水素酵素遺伝子(ALDH2遺伝子)関連部位の1塩基多型(SNPs)を検出することができることがわかる。
【0074】
【発明の効果】
本発明のピロ燐酸定量用試薬を適応したピロ燐酸定量用乾式分析素子を使用することで、簡便かつ迅速に、比色測定を行う簡単な装置で、ピロ燐酸を定量することが可能である。
【0075】
【配列表】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、試料溶液中のピロ燐酸濃度と5分後の反射光学濃度(ODR)の関係を示す。
【図2】図2は、ヒト全血中の緑膿菌個数と反射光学濃度(ODR)の時間変化の関係を示す。
【図3】図3は、ヒト全血中の緑膿菌個数と5分後の反射光学濃度(ODR)の関係を示す。
【図4】図4は、試料のALDH−2の活性型/不活性型と反射光学濃度(ODR)の時間変化の関係を示す。●:プライマ−(lower−1)使用、○:プライマ−(lower−2)使用
Claims (2)
- ピロ燐酸を無機燐に変換する試薬、および無機燐の量に応じた発色反応を行う試薬群を含有する試薬層を備えるピロ燐酸定量用乾式分析素子。
- キサントシンまたはイノシン、ピロホスファターゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、キサンチンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び発色剤を含有する試薬層を有する、請求項1に記載のピロ燐酸定量用乾式分析素子。
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