JP2004145967A - 磁気記録媒体 - Google Patents
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Abstract
【課題】オーデイオ、ビデオ機器、および各種情報機器等の磁気記録装置において使用できる、電磁変換特性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】光電子分光分析法(XPS)により測定される、磁性層形成面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーのピークがそれぞれ284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークb、aおよびcに分離したときに、各ピークの積分強度B、AおよびCが、(1)0.1≦A/(A+B+C)≦0.30、(2)0.20≦A/B≦0.60、および(3)0.70≦A/C≦1.90のいずれか1つの条件を満たすポリエチレンテレフタレートフィルムを、非磁性支持体として使用して、磁気記録媒体を構成する。
【選択図】 図1
【解決手段】光電子分光分析法(XPS)により測定される、磁性層形成面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーのピークがそれぞれ284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークb、aおよびcに分離したときに、各ピークの積分強度B、AおよびCが、(1)0.1≦A/(A+B+C)≦0.30、(2)0.20≦A/B≦0.60、および(3)0.70≦A/C≦1.90のいずれか1つの条件を満たすポリエチレンテレフタレートフィルムを、非磁性支持体として使用して、磁気記録媒体を構成する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は磁気記録媒体に関し、特に、高記録密度が要求される磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気記録分野の技術は目ざましい発展を遂げている。特に、最近では、記録密度を向上させた磁気記録媒体が提案されている。そのような磁気記録媒体は、具体的には、記録層を、高分子フィルムまたはガラス基板上に、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングまたはクラスターイオンビーム等の方法で、Fe,Co,NiまたはCr等の磁性金属を単独または合金の形態で形成したものであり、金属薄膜型磁気記録媒体と呼ばれる。金属薄膜型磁気記録媒体としては、斜方入射蒸着法により記録層を形成したビデオ用テープ、およびガラス基板にスパッタ法で記録層を形成したハードディスク媒体が既に実用化されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−157849号公報
【特許文献2】
特開平9−358798号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
磁気記録媒体の性能向上に関する要求は厳しく、より高い記録密度を実現し得る媒体は常に望まれている。そのため、磁気記録媒体のさらなる改善が求められている。具体的には、磁性層の結晶配向性を高めて、保磁力を向上させる必要がある。従来の磁気記録媒体は、磁性層の結晶配向性の点において改善の余地をなお有していた。また、市場ではより安価で且つ高性能の磁気記録媒体が常に求められている。かかる要求に応えるには、コスト的に有利なポリエチレンテレフタレートフィルムを非磁性支持体として使用することが好ましい。しかしポリエチレンテレフタレートフィルムを使用すると、ポリエチレンナフタレート(以下PENと略す場合がある)フィルムおよびポリアミド(以下PAと略す場合がある)フィルムを使用した場合と比較して、磁性層の結晶配向性が低下する傾向にある。そのため、記録密度の高い磁気記録媒体においては、コスト的には不利ではあるが、PENフィルムまたはPAフィルムが使用される場合が多い。これらに代えて、ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用できれば、高密度磁気記録媒体の汎用性をより高くし得るであろう。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、非磁性支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した場合でも、磁性層の結晶配向性が高い磁気記録媒体を得るべく検討した。
その結果、磁気記録媒体の磁性層の結晶配向性が、磁性層を形成する時にポリエチレンテレフタレートフィルムから発生するアウトガスによる影響を受け、このアウトガスの発生量が少ないほど、磁性層の結晶配向性が向上することを見出した。さらに、本発明者らは、非磁性支持体の磁性層を形成する面を光電子分光分析することにより求められるC(炭素)−1sスペクトルを、3つの特定の結合エネルギーのピークに分離した場合に、特定の1つのピークの積分強度が、他の2つのピークの積分強度との間で特定の関係を満たすときに、磁性層形成時のアウトガスの発生量が少ないことを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、上記課題を解決するため、本発明は、非磁性支持体および磁性層を含む磁気記録媒体であって、非磁性支持体がポリエチレンテレフタレートを主成分とするフィルムであり、且つ、磁性層を形成する前に非磁性支持体の磁性層を形成する面(この面を「磁性層形成面」と呼ぶ場合がある)を光電子分光分析法(本明細書において「XPS」と略す場合がある)により測定して得られるC(炭素)−1sスペクトルを、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である、3つのピークに分離したときに、下記の(1)〜(3)の条件のいずれか1つが満たされることを特徴とする、磁気記録媒体を提供する。
(1)結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aの3つのピークの積分強度全体に占める割合が、10%以上30%以下である;
(2)結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、結合エネルギーが284.6eV付近であるピークの積分強度Bの20%以上60%以下である;(3)結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、結合エネルギーが288.6eV付近であるピークの積分強度Cの70%以上190%以下である。
【0007】
上記(1)〜(3)のいずれか1つを満たす非磁性支持体を使用して作製した磁気記録媒体においては、その磁性層の結晶配向性が向上するため、保磁力が向上する。したがって、本発明の磁気記録媒体によれば、より優れた電磁変換特性が得られるとともに、狭ギャップ長の磁気ヘッドを用いて、短い記録波長でトラック幅を小さくして信号を記録すること、即ち、高密度記録が可能となる。
【0008】
ここで、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするフィルム(以下「PETフィルム」と呼ぶ場合がある)とは、ポリエチレンテレフタレート樹脂から実質的に成るフィルムである。ここで、「実質的に」という用語は、後述するように、ポリマーから成るフィルムは未反応物および触媒等を通常含み、したがって、ポリエチレンテレフタレート以外の成分を含まないフィルムが現時点では存在しないことを考慮して使用している。
【0009】
一般に、光電子分光分析法により測定される、PETフィルムの表面の炭素原子の1s電子のスペクトルは、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV、286.6eV、および288.6eVである、3つのピークが重畳した形態で得られる。しかし、3つのピークの結合エネルギーは、測定機器の種類および測定条件等によって、±0.5eV程度の測定誤差を有する。ピークの結合エネルギーがこの測定誤差内にある場合を想定して、上記においては「付近」という用語を使用してピークの結合エネルギーを特定している。
【0010】
本発明の磁気記録媒体は、好ましくは、磁性層を形成する前に、非磁性支持体の磁性層を形成する面とは反対側の面(この面を「バック面」と呼ぶ場合がある)の光電子分光分析法により測定して得られるC(炭素)−1sスペクトルを、同様に、結合エネルギーがそれぞれ284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である、3つのピークに分離したときにも、上記(1)〜(3)の条件のいずれか1つが満たされるものであることが好ましい。そのような非磁性支持体によれば、磁性層形成時のアウトガスの発生がより抑制されて、磁性層の結晶配向性がより向上する。
【0011】
ポリエチレンテレフタレートの表面を光電子分光分析することにより得られるC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーが284.6eV付近であるピークはC−C結合に対応し、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークはH−C−H結合に対応し、結合エネルギーが288.6eV付近であるピークはO−C=O結合に対応すると考えられる。このうち、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、磁気記録媒体の磁性層の結晶配向性に影響を及ぼす理由は、次の通りであると推察される。
【0012】
本発明者らは、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークが、PETフィルムの種類に応じて異なることを確認した。そのような差異は、PETフィルムに残存する未反応物および触媒の種類および量に起因して生じると予想される。また、当該ピークの積分強度Aが磁性層の結晶配向性に影響を及ぼすのは、当該ピークが、真空雰囲気中でアウトガスになりやすい成分に由来しているためであると考えられる。本発明者らは、そのような成分はエチレングリコールであると考える。即ち、PETフィルムのC(炭素)−1sスペクトルが上記(1)〜(3)の条件のいずれかを満たす場合には、PETフィルム中のエチレングリコールの残存量が少ないために、その表面に形成される磁性層の結晶配向性が向上すると推察される。但し、この推察によって本発明が限定されるものでないことに留意すべきである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1に本発明の磁気記録媒体を構成するのに適したPETフィルムの磁性層形成面のC(炭素)−1sスペクトルを示す。図示したスペクトルにおいて、線Sは、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である、3つのピークが重畳しているスペクトルである。これを、各ピークに分離して、積分強度を求める。図1において、284.6eV付近のピークは符号bで、286.6eV付近のピークは符号aで、288.6eV付近のピークは符号cで表す。以下の説明を含む本明細書において、結合エネルギーが284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近であるピークをそれぞれ、ピークb、ピークa、およびピークcと呼ぶ場合がある。
【0014】
各ピークの積分強度は、図1において、バックグラウンドレベルLの上方のピーク面積に相当する。本発明の磁気記録媒体を構成する非磁性支持体は、ピークaの積分強度A、ピークbの積分強度B、およびピークcの積分強度Cが、
(1)0.1≦A/(A+B+C)≦0.3、
(2)0.2≦A/B≦0.6、および
(3)0.7≦A/C≦1.9
のいずれか1つの条件を満たすものである。(1)〜(3)の条件は、2以上同時に満たされることが好ましく、3つの条件が同時に満たされることがより好ましい。
【0015】
(1)の条件に着目した場合、A/(A+B+C)の値が0.3を超えると、磁性層の形成時にPETフィルムから発生するアウトガスの量が多くなり、磁性層の結晶配向性が低下する。(2)の条件に着目した場合に、A/Bの値が0.6を超えるとき、および(3)の条件に着目した場合に、A/Cの値が1.9を超えるときも、同様の問題が生じ得る。また、現実に使用されるPETフィルムについては、A/(A+B+C)、A/B、A/Cの値がそれぞれ、0.1、0.2、0.7を下回ることはないと考えられる。
【0016】
図2に、従来使用されていたPETフィルムの磁性層形成面について測定したC−1sスペクトルを示す。図2に示すスペクトルのピークaの積分強度Aは、図1に示すスペクトルのそれよりも大きく、また、上記(1)〜(3)の条件のいずれも満たさない。
【0017】
前述のように、PETフィルムの磁性層形成面とは反対側の面、即ちバック面を、XPSによりC−1sスペクトルを測定し、ピークa、b,cに分離したときにも、(1)〜(3)の条件のいずれか1つが満たされることが好ましい。特に、バックコート層を金属の蒸着により形成する場合には、バックコート層の形成時にアウトガスの発生を抑制することにより、バックコート層を均一に形成でき、磁気記録媒体の剛性が大きくなる。その結果、磁気記録媒体と磁気ヘッドとの当たりがより良好となって、電磁変換特性が向上する。
【0018】
非磁性支持体は上記(1)〜(3)の条件の少なくとも1つを満たす限りにおいて、その他の構成は特に限定されず、常套のPETフィルムで採用されている構成を任意に採用し得る。例えば、PETフイルムの磁性層形成面には、磁気記録媒体の磁性層側表面の走行性を向上させるために、SiO2、TiO2、Al2O3もしくはZrO2等の無機物質、またはポリスルホン等の有機物質から成る微粒子が、1μm2につき1〜150個、分散し、固着していることが好ましい。微粒子は、非磁性支持体の表面に、例えば高さ5〜50nmの表面突起を形成するような形状および寸法を有することが好ましい。一般に、突起の高さが5nm未満では良好な走行性を確保することが難しくなり、50nmを超えると再生出力のスペーシング損失が大きくなり磁気記録媒体として使用することができない。突起は、粒子を混合した樹脂をフィルム化することにより形成される。あるいは、突起は、粒子をバインダーとなる高分子樹脂と混合して、非磁性支持体の磁性層形成面に塗布することによって形成される。
【0019】
PETフィルムの厚さは、2〜15μmであることが好ましい。より好ましい厚さは、3〜10μm未満である。
【0020】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体が特定のPETフィルムである限りにおいて、任意の構成とすることができる。したがって、上記において説明した非磁性支持体以外の要素、例えば、磁性層、保護層および潤滑剤層は常套の材料および方法で構成することができる。以下、それらの要素を図面を参照して説明する。
【0021】
図3に、本発明の磁気記録媒体が磁気テープである場合において、当該磁気テープを長手方向に沿って切断した断面を示す。図1に示す磁気記録媒体(100)は、非磁性支持体(1)の上に、磁性層(2)、保護層としての炭素膜(3)および潤滑剤層(4)がこの順に積層され、非磁性支持体(1)の磁性層(2)が形成されている面とは反対側の面にバックコート層(5)が形成されている。
【0022】
本発明の磁気記録媒体を構成する磁性層(2)は強磁性金属薄膜から成る。磁性層に適した強磁性金属としては、Fe系金属、Co系金属、およびNi系金属がある。本発明においてはCo系金属またはNi系金属で磁性層を形成することが好ましい。ここで、「Co系金属」とは、コバルト、およびコバルトを主成分として好ましくは50原子%以上含む合金をいう。「Fe系金属」および「Ni系金属」も同様である。
【0023】
磁性層は、具体的には、Fe、Co、NiおよびCr、ならびにFe−Co、Co−Ni、Fe−Co−Ni、Fe−Cu、Co−Cu、Co−Au、Co−Pt、Co−Pd、Co−Sn、Fe−Cr、Co−Cr、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−Cr、Co−Pt−Cr、Fe−Co−Ni−Cr、Mn−BiおよびMn−Al等の合金から選択される1つまたは複数の材料で形成される。磁性層は単層膜の形態であってもよく、あるいは二層または多層膜の形態であってもよい。磁性層は記録に関与しない下地層を有していてよい。金属薄膜型磁気記録媒体において、磁性層の厚さは一般には3〜220nmである。
なお、一般に、磁気記録媒体は、保磁力が高ければ、電磁変換特性および記録密度が向上する。
【0024】
磁性層の一般的な形成方法としては、強磁性金属に所定範囲の入射角で電子ビームを照射して金属を蒸発させ、これを、冷却回転支持体に沿って移動する非磁性支持体上に蒸着させる方法がある。それ以外の方法としては、例えば、抵抗加熱法もしくは外熱るつぼ法等により蒸着源を加熱して実施する蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリングがある。
【0025】
本発明では、磁性層の形成(または成膜)速度の観点から、非磁性支持体に、強磁性金属もしくは合金を斜方から蒸着させる斜方蒸着法によって磁性層を形成することが好ましい。斜方蒸着は真空蒸着槽内において適当な支持体上を移動する非磁性支持体上に、所定の高入射成分から低入射成分の磁性金属蒸気流を蒸着することによって実施する。この場合、非磁性支持体の冷却回転支持体は、キャン状回転体またはベルト状支持体であってよい。生産効率の点からは、蒸着領域の広いベルト状支持体を用いることが望ましい。磁性層に酸素を存在させる場合には、酸素雰囲気下で蒸着を実施する。
【0026】
保護層(3)は、例えば、スパッタリングもしくはプラズマCVD等の方法で得られる、アモルファス状、グラファイト状もしくはダイヤモンド状の炭素から成る炭素膜、あるいはそれらの炭素を混合および/または積層して形成した炭素膜である。
【0027】
本発明では特にダイヤモンド状の炭素、すなわちダイヤモンドライクカーボンで保護層を形成することが好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは適度な硬度を有するため、磁気ヘッドを損傷することなく、磁気記録媒体の損傷を抑制し得ることから、最も好ましい材料である。
【0028】
いずれの材料を用いて炭素膜を形成する場合も、炭素膜の厚さは1〜50nmであることが好ましい。
【0029】
潤滑剤層(4)を形成する潤滑剤は、磁気記録媒体用の潤滑剤として汎用されているものから任意に選択できる。潤滑剤は、例えば、パーフルオロポリエーテル等のフッ素系潤滑剤であることが好ましい。潤滑剤層は、潤滑剤以外の成分として、例えば極圧剤および/または防錆剤等を含んでよい。潤滑剤層は、例えば、潤滑剤を適当な溶媒に溶解または分散させた塗布液を炭素膜(炭素膜が形成されていない場合には磁性層)の上に塗布した後、溶媒を蒸発させることによって形成できる。潤滑剤層の厚さは通常1〜10nmである。
【0030】
バックコート層(5)は、記録再生装置における走行性を向上させるために、非磁性支持体を介して磁性層と対向するように設けられる。バックコート層は、ポリウレタン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えばバイロン)、カーボンブラックおよび炭酸カルシウム等から選択される1種または複数種の材料を、適当な溶媒(例えば、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒)に溶解および/または分散させた塗布液を、非磁性支持体の磁性層が形成される面とは反対の面に塗布した後、乾燥して溶媒を蒸発させる湿式塗布法により形成できる。このようにしてバックコート層を形成する場合、その厚さは100〜1000nmとすることが好ましい。
【0031】
あるいは、バックコート層(5)は、非磁性金属および/または金属酸化物を含む層(以下、この層を「非磁性金属層」と呼ぶ場合がある)を含むものとしてよい。非磁性金属層は、磁気記録媒体の剛性をより大きくする。したがって、非磁性金属層をバックコート層として設けることによって、磁気記録媒体(特に磁気テープ)と磁気ヘッドとの接触状態を良好にし得る。
【0032】
非磁性金属層は、具体的には、アルミニウム、銅、チタン、スズ、鉄、ニッケル、コバルトおよびクロムから選択される1または複数の金属および/またはこれらの金属の酸化物から選択される1または複数の金属酸化物を含むものであることが好ましい。非磁性金属層の厚さは、非磁性支持体の材料および厚さ、磁性層の厚さ、ならびに非磁性金属層の種類等に応じて、磁気記録媒体に所望の剛性が付与されるように選択される。非磁性金属層の厚さは、具体的には、50〜200nmとすることが好ましい。非磁性金属層は、例えば、金属を真空蒸着することにより形成される。
【0033】
バックコート層(5)が非磁性金属層である場合、走行性を向上させるために、非磁性金属層の表面に、上記において説明した、湿式塗布法により形成されるポリウレタン樹脂等を含む層、または潤滑剤層を形成してよい。ポリウレタン樹脂等を含む層、および潤滑剤層の好ましい厚さは、それぞれ先に説明したとおりである。
【0034】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0035】
(実施例1:試料1〜7)
図3に示すような構成の磁気テープを次の手順で作製した。まず、非磁性支持体として、材料比率および結晶化条件等を変えて、結合状態が異なるPETフィルムを7種類用意した。各PETフィルムの磁性層形成面には、SiO2からなる直径15nmの微粒子を1μm2当たり1〜50個、分散、固着させ、バック面にも、同様にSiO2から成る粒子を分散、固着させた。フィルムの厚さは、いずれも9.3μmであった。なお、フィルムの厚さは、市販の厚み計(マイクロメータ)を用い、フイルムを10枚重ねた状態で厚さを測定して求めた。
【0036】
これら7種類のPETフイルムの両方の表面について、光電子分光分析法により、C(炭素)−1sの軌道分析を実施して、C−1sスペクトルを測定し、得られたスペクトルから化学結合状態分析を行った。分析装置として、島津製作所製のAXIS−HSXを使用した。分析条件は次の通りである。
X線励起源:Mg−Kα線、
X線源:120W、
パスエネルギー:80eV、
分析室内の真空度:2.0×10− 5〜3.0×10− 5Pa。
【0037】
各PETフィルムについて測定したC−1sのスペクトルを、結合エネルギーが284.6eV付近であるピークbと、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークaと、結合エネルギーが288.6eV付近であるピークcの3つに分離し、それぞれのピークの積分強度B、A、およびCを求め、それらからA/(A+B+C)、A/B、およびA/Cを求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
次いで、各PETフィルムの磁性層形成面に磁性層を形成した。磁性層は、図4に示す装置を用いて真空蒸着により形成した。上部および下部冷却回転ドラム(7a、7b)を冷却する冷媒の設定温度は−20℃とした。非磁性支持体(1)は巻出軸(送り軸)(6)にセットし、蒸着時のライン速度を200m/分に設定して、上部冷却回転ドラム(7a)、板状のエンドレスベルト(8)、下部冷却回転ドラム(7b)上を走行させて巻取軸(9)で巻き取るようにした。エンドレスベルト(8)の傾斜角(θ)は水平面(本実施例においては磁性金属(10)の溶解面に相当)に対し55°とした。
【0039】
真空蒸着は、強磁性金属であるCo(10)に電子ビーム(11)を照射して、Coを溶解および蒸発させ、下方より斜方蒸着されるようにして実施した。金属蒸気流の広がりは2つの遮蔽板(12,13)により制限し、最大入射角(β)87°から最小入射角(α)38°までの成分が蒸着されるようにした。このとき、立体角(ω)は34°であった。ここで、立体角(ω)は、金属蒸気流の最小入射角(α)および最大入射角(β)を規定する2つの線分の間に形成される角度であり、金属蒸気流の広がりを示している。
【0040】
蒸着中、反応性ガスとして、酸素ガスを、遮蔽板(12,13)に近接して設けたノズル(14,15)から金属蒸気流に導入して、強磁性金属薄膜中に酸素が含まれるようにした。酸素のガス圧は156kPa(1.6Kgf/cm2)に設定した。ノズル(14)からは、酸素を0.1SLMの流量で、非磁性支持体(1)に向けて非磁性支持体と90°の角度をなすように導入した。ノズル(15)からは、酸素を1.0SLMの流量で、非磁性支持体(1)の進行方向とは反対の方向に向けて非磁性支持体と平行となるように導入した。蒸着は強磁性金属薄膜の厚さが180nmとなるように実施した。
【0041】
次に、磁性層の上に、メタンをイオン化するプラズマCVD法によって、ダイヤモンドライクカーボンから成る厚さ10nmの炭素膜を形成した。さらに、炭素膜上に、含フッ素カルボン酸系潤滑剤を有機溶媒に溶かした溶液を塗布し、乾燥させて、厚さ2nmの潤滑剤層を形成した。非磁性支持体の磁性層が形成された面とは反対の面には、厚さ500nmのバックコート層を形成した。バックコート層はカーボンブラックを主成分とする層であり、カーボンブラック等をメチルエチルケトン(MEK)等の有機溶媒に溶解して湿式塗布法により形成した。
それから、各試料を1/4インチ幅にスリットしてテープ状の磁気記録媒体を得た。
【0042】
得られた各磁気テープについて、磁気特性および電磁変換特性を評価した。それぞれの評価方法は次のとおりである。
【0043】
[磁気特性] DMS社製の振動型磁力計(MODEL 1660)を用いて、磁気記録媒体の保磁力を測定した。
【0044】
[電磁変換特性] DV用シリンダーにギャップ長0.2μmのMRヘッドおよびMIGヘッドを搭載して、相対速度10.2m/s、トラック幅6μm、最大記録周波数50MHz(最短記録波長0.2μm)で信号をMIGヘッドで記録し、記録した信号をMRヘッドで再生して、CN比を求めた。電磁変換特性は、キャリア20MHzおよび40MHzのCN比で評価した。
【0045】
各試料で使用したPETフィルムの磁性層形成面のC−1sスペクトルから求めた、A/(A+B+C)、A/B、およびA/C、ならびに保磁力Hcおよび電磁変換特性を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、XPSにより測定される、PETフィルムの磁性層形成面のC−1sスペクトルにおいて、3つのピークの積分強度A、BおよびCが、0.10≦A/(A+B+C)≦0.30、0.20≦A/B≦0.60、および0.70≦A/C≦1.90の条件を満たす試料1〜4は、これらの条件を満たさない試料5〜7と比較して、いずれも保持力が大きく、また、電磁変換特性において優れていた。
【0048】
(実施例2:試料8〜14)
非磁性支持体として、材料比率および結晶化条件を変えて、結合状態が異なるPETフィルムを7種類用意した。各PETフィルムの両面には、実施例1で使用したフィルムと同じように、SiO2から成る微粒子を、分散、固着させた。
フィルムの厚さはいずれも9.3μmであった。これら7種類のPETフィルムの両面について、実施例1と同じ装置および条件で、XPSによりC−1sスペクトルを測定し、A/(A+B+C)、A/B、およびA/Cを求めた。
【0049】
次いで、各PETフィルムの表面に、実施例1と同様にして、磁性層、炭素膜、潤滑剤層およびバックコート層を形成した。その後、幅1/4インチにスリットしてテープ状の磁気記録媒体を得た。得られた各磁気テープについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、PETフィルムのバック面が、XPSにより測定されるC−1sスペクトルにおいて、3つのピークの積分強度A、BおよびCが、0.10≦A/(A+B+C)≦0.30、0.20≦A/B≦0.60、および0.70≦A/C≦1.90の条件をすべて満たす試料8〜11は、3つの条件のうち1つの条件を満たす試料12、および3つの条件のいずれをも満たさない試料13および14と比較して、いずれも保持力が大きく、また、電磁変換特性において優れていた。試料12が試料13および14よりも性能が良いのは、A/Bが0.60以下であることによると考えられる。
【0052】
(実施例3:試料15〜22)
非磁性支持体として、材料比率および結晶化条件等を変えて、結合状態が異なるPETフィルムを8種類用意した。各PETフィルムの磁性層形成面には、SiO2から成る直径15nmの微粒子を1μm2当たり1〜50個、分散、固着させ、バック面にも、同様にSiO2から成る粒子を分散、固着させた。フィルムの厚さは、いずれも6.5μmであった。これら8種類のPETフィルムの両面について、実施例1と同じ装置および条件で、XPSによりC−1sスペクトルを測定し、A/(A+B+C)、A/B、およびA/Cを求めた。
【0053】
次いで、各PETフィルムの磁性層形成面に、実施例1と同様にして、磁性層および炭素膜をこの順に形成した。その後、各PETフィルムのバック面に、酸化アルミニウムから成るバックコート層を形成した。本実施例で使用したバックコート層の形成装置を図5に示す。図5に示す装置は真空室内に配置され、図中の矢印方向に回転する冷却回転支持体(107)、送り出しロール(106)および巻き取りロール(109)を有し、送り出しロール(106)から巻き取りロール(109)に向かって、バックコート層を形成すべき非磁性支持体(101)が走行するように構成されている。この装置を用いて、バックコート層を次の手順で形成した。まず、図示しない真空ポンプを用いて真空室内の圧力を7×10−3Paとした。また、防着板(112,113)で蒸着領域の面積を0.05m2に設定した。磁性層および炭素膜を形成したPETフィルム(101)を、走行速度を5m/分で走行させ、アルミニウム金属の入ったるつぼ(100)を加熱して、蒸発レートを0.13μm/秒として蒸着を開始した。蒸着中、蒸着領域の終端付近に非磁性支持体から約10mm離して設置した酸素導入ノズル(115)より、酸素をPETフィルム(101)に向けて供給した。酸素の流量は1.5SLMとした。バックコート層の厚さは、200nmとした。その後、炭素膜の表面に実施例1と同様にして潤滑剤層を形成し、幅1/4インチにスリットしてテープ状の磁気記録媒体を得た。得られた各磁気テープについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、試料20は、PETフィルムの磁性層形成面が、XPSにより測定されるC(炭素)−1sスペクトルにおいて、3つのピークの積分強度が、A、BおよびCが、0.10≦A/(A+B+C)≦0.30、0.20≦A/B≦0.60、および0.70≦A/C≦1.90を満たしているが、バック面がこれらの条件を満たしていないために、PETフィルムの両方の面がこれらの条件のいずれかを満たす試料15〜19と比較して、保磁力が低く、電磁変換特性においても劣っていた。試料19は、バックコート面のA/(A+B+C)が0.3を超え、かつA/Cが1.90を超えるために、両方の面が上記3つの条件をすべて満たす試料15〜18と比較して、保磁力が低く、電磁変換特性においても劣っていた。試料21および22は、磁性層形成面が上記3つの条件のいずれをも満たさないために、他の試料と比較して、保磁力が低く、電磁変換特性も劣っていた。このことから、磁性層形成面のC−1sスペクトルにおけるピークaの積分強度Aの割合が、磁気記録媒体の性能に対してより影響を及ぼすことが分かる。試料22は、両方の面がともに上記3つの条件のいずれをも満たさないために、最も性能が劣っていた。
【0056】
【発明の効果】
以上のように、本発明は、磁気記録媒体を構成する非磁性支持体として、XPSにより測定される、非磁性支持体の磁性層形成面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークに分離したときに、結合エネルギーのピークが286.6eV付近であるピークの積分強度Aの占める割合を規制したPETフィルムを使用することを特徴とする。この特徴によれば、コスト的に有利なPETフィルムを使用して、結晶配向性がより向上した磁性層を有する磁気記録媒体を得ることが可能である。かかる磁性層を有する本発明の磁気記録媒体は、保磁力が高く、優れた電磁変換特性を有するから、狭ギャップヘッドによる記録再生においても高いCN比を確保でき、高密度記録に適したものとなる。また、本発明の磁気記録媒体は、高性能であるとともに、コストパフォーマンスにおいても優れており、汎用性の高いものである。したがって、本発明の磁気記録媒体は、情報機器、オーディオ機器およびビデオ機器等、種々の磁気記録装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気記録媒体を構成するポリエチレンテレフタレートフィルムの磁性層形成面の、光電子分光分析法で測定したC−1sスペクトルである。
【図2】従来の磁気記録媒体を構成するポリエチレンテレフタレートフィルムの磁性層形成面の、光電子分光分析法で測定したC−1sスペクトルである。
【図3】本発明の磁気記録媒体を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体の磁性層を形成するための真空蒸着装置の一例の模式図である。
【図5】本発明の磁気記録媒体のバックコート層を形成するための蒸着装置の一例の模式図である。
【符号の説明】
1...非磁性支持体、2...磁性層(強磁性金属薄膜)、3...炭素膜(保護層)、4...潤滑剤層、5...バックコ−ト層、6...送り軸、7a,7b...冷却回転ドラム、8...板状ベルト、9...巻取軸、10...磁性金属、12,13...遮蔽板、14,15...酸素ノズル、100...るつぼ、101...非磁性支持体、106...送り出しロール、107...冷却回転支持体、109...巻き取りロール、112,113...防着板、115...酸素導入ノズル。
【発明の属する技術分野】
本発明は磁気記録媒体に関し、特に、高記録密度が要求される磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気記録分野の技術は目ざましい発展を遂げている。特に、最近では、記録密度を向上させた磁気記録媒体が提案されている。そのような磁気記録媒体は、具体的には、記録層を、高分子フィルムまたはガラス基板上に、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングまたはクラスターイオンビーム等の方法で、Fe,Co,NiまたはCr等の磁性金属を単独または合金の形態で形成したものであり、金属薄膜型磁気記録媒体と呼ばれる。金属薄膜型磁気記録媒体としては、斜方入射蒸着法により記録層を形成したビデオ用テープ、およびガラス基板にスパッタ法で記録層を形成したハードディスク媒体が既に実用化されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−157849号公報
【特許文献2】
特開平9−358798号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
磁気記録媒体の性能向上に関する要求は厳しく、より高い記録密度を実現し得る媒体は常に望まれている。そのため、磁気記録媒体のさらなる改善が求められている。具体的には、磁性層の結晶配向性を高めて、保磁力を向上させる必要がある。従来の磁気記録媒体は、磁性層の結晶配向性の点において改善の余地をなお有していた。また、市場ではより安価で且つ高性能の磁気記録媒体が常に求められている。かかる要求に応えるには、コスト的に有利なポリエチレンテレフタレートフィルムを非磁性支持体として使用することが好ましい。しかしポリエチレンテレフタレートフィルムを使用すると、ポリエチレンナフタレート(以下PENと略す場合がある)フィルムおよびポリアミド(以下PAと略す場合がある)フィルムを使用した場合と比較して、磁性層の結晶配向性が低下する傾向にある。そのため、記録密度の高い磁気記録媒体においては、コスト的には不利ではあるが、PENフィルムまたはPAフィルムが使用される場合が多い。これらに代えて、ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用できれば、高密度磁気記録媒体の汎用性をより高くし得るであろう。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、非磁性支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した場合でも、磁性層の結晶配向性が高い磁気記録媒体を得るべく検討した。
その結果、磁気記録媒体の磁性層の結晶配向性が、磁性層を形成する時にポリエチレンテレフタレートフィルムから発生するアウトガスによる影響を受け、このアウトガスの発生量が少ないほど、磁性層の結晶配向性が向上することを見出した。さらに、本発明者らは、非磁性支持体の磁性層を形成する面を光電子分光分析することにより求められるC(炭素)−1sスペクトルを、3つの特定の結合エネルギーのピークに分離した場合に、特定の1つのピークの積分強度が、他の2つのピークの積分強度との間で特定の関係を満たすときに、磁性層形成時のアウトガスの発生量が少ないことを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、上記課題を解決するため、本発明は、非磁性支持体および磁性層を含む磁気記録媒体であって、非磁性支持体がポリエチレンテレフタレートを主成分とするフィルムであり、且つ、磁性層を形成する前に非磁性支持体の磁性層を形成する面(この面を「磁性層形成面」と呼ぶ場合がある)を光電子分光分析法(本明細書において「XPS」と略す場合がある)により測定して得られるC(炭素)−1sスペクトルを、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である、3つのピークに分離したときに、下記の(1)〜(3)の条件のいずれか1つが満たされることを特徴とする、磁気記録媒体を提供する。
(1)結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aの3つのピークの積分強度全体に占める割合が、10%以上30%以下である;
(2)結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、結合エネルギーが284.6eV付近であるピークの積分強度Bの20%以上60%以下である;(3)結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、結合エネルギーが288.6eV付近であるピークの積分強度Cの70%以上190%以下である。
【0007】
上記(1)〜(3)のいずれか1つを満たす非磁性支持体を使用して作製した磁気記録媒体においては、その磁性層の結晶配向性が向上するため、保磁力が向上する。したがって、本発明の磁気記録媒体によれば、より優れた電磁変換特性が得られるとともに、狭ギャップ長の磁気ヘッドを用いて、短い記録波長でトラック幅を小さくして信号を記録すること、即ち、高密度記録が可能となる。
【0008】
ここで、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするフィルム(以下「PETフィルム」と呼ぶ場合がある)とは、ポリエチレンテレフタレート樹脂から実質的に成るフィルムである。ここで、「実質的に」という用語は、後述するように、ポリマーから成るフィルムは未反応物および触媒等を通常含み、したがって、ポリエチレンテレフタレート以外の成分を含まないフィルムが現時点では存在しないことを考慮して使用している。
【0009】
一般に、光電子分光分析法により測定される、PETフィルムの表面の炭素原子の1s電子のスペクトルは、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV、286.6eV、および288.6eVである、3つのピークが重畳した形態で得られる。しかし、3つのピークの結合エネルギーは、測定機器の種類および測定条件等によって、±0.5eV程度の測定誤差を有する。ピークの結合エネルギーがこの測定誤差内にある場合を想定して、上記においては「付近」という用語を使用してピークの結合エネルギーを特定している。
【0010】
本発明の磁気記録媒体は、好ましくは、磁性層を形成する前に、非磁性支持体の磁性層を形成する面とは反対側の面(この面を「バック面」と呼ぶ場合がある)の光電子分光分析法により測定して得られるC(炭素)−1sスペクトルを、同様に、結合エネルギーがそれぞれ284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である、3つのピークに分離したときにも、上記(1)〜(3)の条件のいずれか1つが満たされるものであることが好ましい。そのような非磁性支持体によれば、磁性層形成時のアウトガスの発生がより抑制されて、磁性層の結晶配向性がより向上する。
【0011】
ポリエチレンテレフタレートの表面を光電子分光分析することにより得られるC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーが284.6eV付近であるピークはC−C結合に対応し、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークはH−C−H結合に対応し、結合エネルギーが288.6eV付近であるピークはO−C=O結合に対応すると考えられる。このうち、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、磁気記録媒体の磁性層の結晶配向性に影響を及ぼす理由は、次の通りであると推察される。
【0012】
本発明者らは、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークが、PETフィルムの種類に応じて異なることを確認した。そのような差異は、PETフィルムに残存する未反応物および触媒の種類および量に起因して生じると予想される。また、当該ピークの積分強度Aが磁性層の結晶配向性に影響を及ぼすのは、当該ピークが、真空雰囲気中でアウトガスになりやすい成分に由来しているためであると考えられる。本発明者らは、そのような成分はエチレングリコールであると考える。即ち、PETフィルムのC(炭素)−1sスペクトルが上記(1)〜(3)の条件のいずれかを満たす場合には、PETフィルム中のエチレングリコールの残存量が少ないために、その表面に形成される磁性層の結晶配向性が向上すると推察される。但し、この推察によって本発明が限定されるものでないことに留意すべきである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1に本発明の磁気記録媒体を構成するのに適したPETフィルムの磁性層形成面のC(炭素)−1sスペクトルを示す。図示したスペクトルにおいて、線Sは、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である、3つのピークが重畳しているスペクトルである。これを、各ピークに分離して、積分強度を求める。図1において、284.6eV付近のピークは符号bで、286.6eV付近のピークは符号aで、288.6eV付近のピークは符号cで表す。以下の説明を含む本明細書において、結合エネルギーが284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近であるピークをそれぞれ、ピークb、ピークa、およびピークcと呼ぶ場合がある。
【0014】
各ピークの積分強度は、図1において、バックグラウンドレベルLの上方のピーク面積に相当する。本発明の磁気記録媒体を構成する非磁性支持体は、ピークaの積分強度A、ピークbの積分強度B、およびピークcの積分強度Cが、
(1)0.1≦A/(A+B+C)≦0.3、
(2)0.2≦A/B≦0.6、および
(3)0.7≦A/C≦1.9
のいずれか1つの条件を満たすものである。(1)〜(3)の条件は、2以上同時に満たされることが好ましく、3つの条件が同時に満たされることがより好ましい。
【0015】
(1)の条件に着目した場合、A/(A+B+C)の値が0.3を超えると、磁性層の形成時にPETフィルムから発生するアウトガスの量が多くなり、磁性層の結晶配向性が低下する。(2)の条件に着目した場合に、A/Bの値が0.6を超えるとき、および(3)の条件に着目した場合に、A/Cの値が1.9を超えるときも、同様の問題が生じ得る。また、現実に使用されるPETフィルムについては、A/(A+B+C)、A/B、A/Cの値がそれぞれ、0.1、0.2、0.7を下回ることはないと考えられる。
【0016】
図2に、従来使用されていたPETフィルムの磁性層形成面について測定したC−1sスペクトルを示す。図2に示すスペクトルのピークaの積分強度Aは、図1に示すスペクトルのそれよりも大きく、また、上記(1)〜(3)の条件のいずれも満たさない。
【0017】
前述のように、PETフィルムの磁性層形成面とは反対側の面、即ちバック面を、XPSによりC−1sスペクトルを測定し、ピークa、b,cに分離したときにも、(1)〜(3)の条件のいずれか1つが満たされることが好ましい。特に、バックコート層を金属の蒸着により形成する場合には、バックコート層の形成時にアウトガスの発生を抑制することにより、バックコート層を均一に形成でき、磁気記録媒体の剛性が大きくなる。その結果、磁気記録媒体と磁気ヘッドとの当たりがより良好となって、電磁変換特性が向上する。
【0018】
非磁性支持体は上記(1)〜(3)の条件の少なくとも1つを満たす限りにおいて、その他の構成は特に限定されず、常套のPETフィルムで採用されている構成を任意に採用し得る。例えば、PETフイルムの磁性層形成面には、磁気記録媒体の磁性層側表面の走行性を向上させるために、SiO2、TiO2、Al2O3もしくはZrO2等の無機物質、またはポリスルホン等の有機物質から成る微粒子が、1μm2につき1〜150個、分散し、固着していることが好ましい。微粒子は、非磁性支持体の表面に、例えば高さ5〜50nmの表面突起を形成するような形状および寸法を有することが好ましい。一般に、突起の高さが5nm未満では良好な走行性を確保することが難しくなり、50nmを超えると再生出力のスペーシング損失が大きくなり磁気記録媒体として使用することができない。突起は、粒子を混合した樹脂をフィルム化することにより形成される。あるいは、突起は、粒子をバインダーとなる高分子樹脂と混合して、非磁性支持体の磁性層形成面に塗布することによって形成される。
【0019】
PETフィルムの厚さは、2〜15μmであることが好ましい。より好ましい厚さは、3〜10μm未満である。
【0020】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体が特定のPETフィルムである限りにおいて、任意の構成とすることができる。したがって、上記において説明した非磁性支持体以外の要素、例えば、磁性層、保護層および潤滑剤層は常套の材料および方法で構成することができる。以下、それらの要素を図面を参照して説明する。
【0021】
図3に、本発明の磁気記録媒体が磁気テープである場合において、当該磁気テープを長手方向に沿って切断した断面を示す。図1に示す磁気記録媒体(100)は、非磁性支持体(1)の上に、磁性層(2)、保護層としての炭素膜(3)および潤滑剤層(4)がこの順に積層され、非磁性支持体(1)の磁性層(2)が形成されている面とは反対側の面にバックコート層(5)が形成されている。
【0022】
本発明の磁気記録媒体を構成する磁性層(2)は強磁性金属薄膜から成る。磁性層に適した強磁性金属としては、Fe系金属、Co系金属、およびNi系金属がある。本発明においてはCo系金属またはNi系金属で磁性層を形成することが好ましい。ここで、「Co系金属」とは、コバルト、およびコバルトを主成分として好ましくは50原子%以上含む合金をいう。「Fe系金属」および「Ni系金属」も同様である。
【0023】
磁性層は、具体的には、Fe、Co、NiおよびCr、ならびにFe−Co、Co−Ni、Fe−Co−Ni、Fe−Cu、Co−Cu、Co−Au、Co−Pt、Co−Pd、Co−Sn、Fe−Cr、Co−Cr、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−Cr、Co−Pt−Cr、Fe−Co−Ni−Cr、Mn−BiおよびMn−Al等の合金から選択される1つまたは複数の材料で形成される。磁性層は単層膜の形態であってもよく、あるいは二層または多層膜の形態であってもよい。磁性層は記録に関与しない下地層を有していてよい。金属薄膜型磁気記録媒体において、磁性層の厚さは一般には3〜220nmである。
なお、一般に、磁気記録媒体は、保磁力が高ければ、電磁変換特性および記録密度が向上する。
【0024】
磁性層の一般的な形成方法としては、強磁性金属に所定範囲の入射角で電子ビームを照射して金属を蒸発させ、これを、冷却回転支持体に沿って移動する非磁性支持体上に蒸着させる方法がある。それ以外の方法としては、例えば、抵抗加熱法もしくは外熱るつぼ法等により蒸着源を加熱して実施する蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリングがある。
【0025】
本発明では、磁性層の形成(または成膜)速度の観点から、非磁性支持体に、強磁性金属もしくは合金を斜方から蒸着させる斜方蒸着法によって磁性層を形成することが好ましい。斜方蒸着は真空蒸着槽内において適当な支持体上を移動する非磁性支持体上に、所定の高入射成分から低入射成分の磁性金属蒸気流を蒸着することによって実施する。この場合、非磁性支持体の冷却回転支持体は、キャン状回転体またはベルト状支持体であってよい。生産効率の点からは、蒸着領域の広いベルト状支持体を用いることが望ましい。磁性層に酸素を存在させる場合には、酸素雰囲気下で蒸着を実施する。
【0026】
保護層(3)は、例えば、スパッタリングもしくはプラズマCVD等の方法で得られる、アモルファス状、グラファイト状もしくはダイヤモンド状の炭素から成る炭素膜、あるいはそれらの炭素を混合および/または積層して形成した炭素膜である。
【0027】
本発明では特にダイヤモンド状の炭素、すなわちダイヤモンドライクカーボンで保護層を形成することが好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは適度な硬度を有するため、磁気ヘッドを損傷することなく、磁気記録媒体の損傷を抑制し得ることから、最も好ましい材料である。
【0028】
いずれの材料を用いて炭素膜を形成する場合も、炭素膜の厚さは1〜50nmであることが好ましい。
【0029】
潤滑剤層(4)を形成する潤滑剤は、磁気記録媒体用の潤滑剤として汎用されているものから任意に選択できる。潤滑剤は、例えば、パーフルオロポリエーテル等のフッ素系潤滑剤であることが好ましい。潤滑剤層は、潤滑剤以外の成分として、例えば極圧剤および/または防錆剤等を含んでよい。潤滑剤層は、例えば、潤滑剤を適当な溶媒に溶解または分散させた塗布液を炭素膜(炭素膜が形成されていない場合には磁性層)の上に塗布した後、溶媒を蒸発させることによって形成できる。潤滑剤層の厚さは通常1〜10nmである。
【0030】
バックコート層(5)は、記録再生装置における走行性を向上させるために、非磁性支持体を介して磁性層と対向するように設けられる。バックコート層は、ポリウレタン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えばバイロン)、カーボンブラックおよび炭酸カルシウム等から選択される1種または複数種の材料を、適当な溶媒(例えば、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒)に溶解および/または分散させた塗布液を、非磁性支持体の磁性層が形成される面とは反対の面に塗布した後、乾燥して溶媒を蒸発させる湿式塗布法により形成できる。このようにしてバックコート層を形成する場合、その厚さは100〜1000nmとすることが好ましい。
【0031】
あるいは、バックコート層(5)は、非磁性金属および/または金属酸化物を含む層(以下、この層を「非磁性金属層」と呼ぶ場合がある)を含むものとしてよい。非磁性金属層は、磁気記録媒体の剛性をより大きくする。したがって、非磁性金属層をバックコート層として設けることによって、磁気記録媒体(特に磁気テープ)と磁気ヘッドとの接触状態を良好にし得る。
【0032】
非磁性金属層は、具体的には、アルミニウム、銅、チタン、スズ、鉄、ニッケル、コバルトおよびクロムから選択される1または複数の金属および/またはこれらの金属の酸化物から選択される1または複数の金属酸化物を含むものであることが好ましい。非磁性金属層の厚さは、非磁性支持体の材料および厚さ、磁性層の厚さ、ならびに非磁性金属層の種類等に応じて、磁気記録媒体に所望の剛性が付与されるように選択される。非磁性金属層の厚さは、具体的には、50〜200nmとすることが好ましい。非磁性金属層は、例えば、金属を真空蒸着することにより形成される。
【0033】
バックコート層(5)が非磁性金属層である場合、走行性を向上させるために、非磁性金属層の表面に、上記において説明した、湿式塗布法により形成されるポリウレタン樹脂等を含む層、または潤滑剤層を形成してよい。ポリウレタン樹脂等を含む層、および潤滑剤層の好ましい厚さは、それぞれ先に説明したとおりである。
【0034】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0035】
(実施例1:試料1〜7)
図3に示すような構成の磁気テープを次の手順で作製した。まず、非磁性支持体として、材料比率および結晶化条件等を変えて、結合状態が異なるPETフィルムを7種類用意した。各PETフィルムの磁性層形成面には、SiO2からなる直径15nmの微粒子を1μm2当たり1〜50個、分散、固着させ、バック面にも、同様にSiO2から成る粒子を分散、固着させた。フィルムの厚さは、いずれも9.3μmであった。なお、フィルムの厚さは、市販の厚み計(マイクロメータ)を用い、フイルムを10枚重ねた状態で厚さを測定して求めた。
【0036】
これら7種類のPETフイルムの両方の表面について、光電子分光分析法により、C(炭素)−1sの軌道分析を実施して、C−1sスペクトルを測定し、得られたスペクトルから化学結合状態分析を行った。分析装置として、島津製作所製のAXIS−HSXを使用した。分析条件は次の通りである。
X線励起源:Mg−Kα線、
X線源:120W、
パスエネルギー:80eV、
分析室内の真空度:2.0×10− 5〜3.0×10− 5Pa。
【0037】
各PETフィルムについて測定したC−1sのスペクトルを、結合エネルギーが284.6eV付近であるピークbと、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークaと、結合エネルギーが288.6eV付近であるピークcの3つに分離し、それぞれのピークの積分強度B、A、およびCを求め、それらからA/(A+B+C)、A/B、およびA/Cを求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
次いで、各PETフィルムの磁性層形成面に磁性層を形成した。磁性層は、図4に示す装置を用いて真空蒸着により形成した。上部および下部冷却回転ドラム(7a、7b)を冷却する冷媒の設定温度は−20℃とした。非磁性支持体(1)は巻出軸(送り軸)(6)にセットし、蒸着時のライン速度を200m/分に設定して、上部冷却回転ドラム(7a)、板状のエンドレスベルト(8)、下部冷却回転ドラム(7b)上を走行させて巻取軸(9)で巻き取るようにした。エンドレスベルト(8)の傾斜角(θ)は水平面(本実施例においては磁性金属(10)の溶解面に相当)に対し55°とした。
【0039】
真空蒸着は、強磁性金属であるCo(10)に電子ビーム(11)を照射して、Coを溶解および蒸発させ、下方より斜方蒸着されるようにして実施した。金属蒸気流の広がりは2つの遮蔽板(12,13)により制限し、最大入射角(β)87°から最小入射角(α)38°までの成分が蒸着されるようにした。このとき、立体角(ω)は34°であった。ここで、立体角(ω)は、金属蒸気流の最小入射角(α)および最大入射角(β)を規定する2つの線分の間に形成される角度であり、金属蒸気流の広がりを示している。
【0040】
蒸着中、反応性ガスとして、酸素ガスを、遮蔽板(12,13)に近接して設けたノズル(14,15)から金属蒸気流に導入して、強磁性金属薄膜中に酸素が含まれるようにした。酸素のガス圧は156kPa(1.6Kgf/cm2)に設定した。ノズル(14)からは、酸素を0.1SLMの流量で、非磁性支持体(1)に向けて非磁性支持体と90°の角度をなすように導入した。ノズル(15)からは、酸素を1.0SLMの流量で、非磁性支持体(1)の進行方向とは反対の方向に向けて非磁性支持体と平行となるように導入した。蒸着は強磁性金属薄膜の厚さが180nmとなるように実施した。
【0041】
次に、磁性層の上に、メタンをイオン化するプラズマCVD法によって、ダイヤモンドライクカーボンから成る厚さ10nmの炭素膜を形成した。さらに、炭素膜上に、含フッ素カルボン酸系潤滑剤を有機溶媒に溶かした溶液を塗布し、乾燥させて、厚さ2nmの潤滑剤層を形成した。非磁性支持体の磁性層が形成された面とは反対の面には、厚さ500nmのバックコート層を形成した。バックコート層はカーボンブラックを主成分とする層であり、カーボンブラック等をメチルエチルケトン(MEK)等の有機溶媒に溶解して湿式塗布法により形成した。
それから、各試料を1/4インチ幅にスリットしてテープ状の磁気記録媒体を得た。
【0042】
得られた各磁気テープについて、磁気特性および電磁変換特性を評価した。それぞれの評価方法は次のとおりである。
【0043】
[磁気特性] DMS社製の振動型磁力計(MODEL 1660)を用いて、磁気記録媒体の保磁力を測定した。
【0044】
[電磁変換特性] DV用シリンダーにギャップ長0.2μmのMRヘッドおよびMIGヘッドを搭載して、相対速度10.2m/s、トラック幅6μm、最大記録周波数50MHz(最短記録波長0.2μm)で信号をMIGヘッドで記録し、記録した信号をMRヘッドで再生して、CN比を求めた。電磁変換特性は、キャリア20MHzおよび40MHzのCN比で評価した。
【0045】
各試料で使用したPETフィルムの磁性層形成面のC−1sスペクトルから求めた、A/(A+B+C)、A/B、およびA/C、ならびに保磁力Hcおよび電磁変換特性を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、XPSにより測定される、PETフィルムの磁性層形成面のC−1sスペクトルにおいて、3つのピークの積分強度A、BおよびCが、0.10≦A/(A+B+C)≦0.30、0.20≦A/B≦0.60、および0.70≦A/C≦1.90の条件を満たす試料1〜4は、これらの条件を満たさない試料5〜7と比較して、いずれも保持力が大きく、また、電磁変換特性において優れていた。
【0048】
(実施例2:試料8〜14)
非磁性支持体として、材料比率および結晶化条件を変えて、結合状態が異なるPETフィルムを7種類用意した。各PETフィルムの両面には、実施例1で使用したフィルムと同じように、SiO2から成る微粒子を、分散、固着させた。
フィルムの厚さはいずれも9.3μmであった。これら7種類のPETフィルムの両面について、実施例1と同じ装置および条件で、XPSによりC−1sスペクトルを測定し、A/(A+B+C)、A/B、およびA/Cを求めた。
【0049】
次いで、各PETフィルムの表面に、実施例1と同様にして、磁性層、炭素膜、潤滑剤層およびバックコート層を形成した。その後、幅1/4インチにスリットしてテープ状の磁気記録媒体を得た。得られた各磁気テープについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、PETフィルムのバック面が、XPSにより測定されるC−1sスペクトルにおいて、3つのピークの積分強度A、BおよびCが、0.10≦A/(A+B+C)≦0.30、0.20≦A/B≦0.60、および0.70≦A/C≦1.90の条件をすべて満たす試料8〜11は、3つの条件のうち1つの条件を満たす試料12、および3つの条件のいずれをも満たさない試料13および14と比較して、いずれも保持力が大きく、また、電磁変換特性において優れていた。試料12が試料13および14よりも性能が良いのは、A/Bが0.60以下であることによると考えられる。
【0052】
(実施例3:試料15〜22)
非磁性支持体として、材料比率および結晶化条件等を変えて、結合状態が異なるPETフィルムを8種類用意した。各PETフィルムの磁性層形成面には、SiO2から成る直径15nmの微粒子を1μm2当たり1〜50個、分散、固着させ、バック面にも、同様にSiO2から成る粒子を分散、固着させた。フィルムの厚さは、いずれも6.5μmであった。これら8種類のPETフィルムの両面について、実施例1と同じ装置および条件で、XPSによりC−1sスペクトルを測定し、A/(A+B+C)、A/B、およびA/Cを求めた。
【0053】
次いで、各PETフィルムの磁性層形成面に、実施例1と同様にして、磁性層および炭素膜をこの順に形成した。その後、各PETフィルムのバック面に、酸化アルミニウムから成るバックコート層を形成した。本実施例で使用したバックコート層の形成装置を図5に示す。図5に示す装置は真空室内に配置され、図中の矢印方向に回転する冷却回転支持体(107)、送り出しロール(106)および巻き取りロール(109)を有し、送り出しロール(106)から巻き取りロール(109)に向かって、バックコート層を形成すべき非磁性支持体(101)が走行するように構成されている。この装置を用いて、バックコート層を次の手順で形成した。まず、図示しない真空ポンプを用いて真空室内の圧力を7×10−3Paとした。また、防着板(112,113)で蒸着領域の面積を0.05m2に設定した。磁性層および炭素膜を形成したPETフィルム(101)を、走行速度を5m/分で走行させ、アルミニウム金属の入ったるつぼ(100)を加熱して、蒸発レートを0.13μm/秒として蒸着を開始した。蒸着中、蒸着領域の終端付近に非磁性支持体から約10mm離して設置した酸素導入ノズル(115)より、酸素をPETフィルム(101)に向けて供給した。酸素の流量は1.5SLMとした。バックコート層の厚さは、200nmとした。その後、炭素膜の表面に実施例1と同様にして潤滑剤層を形成し、幅1/4インチにスリットしてテープ状の磁気記録媒体を得た。得られた各磁気テープについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、試料20は、PETフィルムの磁性層形成面が、XPSにより測定されるC(炭素)−1sスペクトルにおいて、3つのピークの積分強度が、A、BおよびCが、0.10≦A/(A+B+C)≦0.30、0.20≦A/B≦0.60、および0.70≦A/C≦1.90を満たしているが、バック面がこれらの条件を満たしていないために、PETフィルムの両方の面がこれらの条件のいずれかを満たす試料15〜19と比較して、保磁力が低く、電磁変換特性においても劣っていた。試料19は、バックコート面のA/(A+B+C)が0.3を超え、かつA/Cが1.90を超えるために、両方の面が上記3つの条件をすべて満たす試料15〜18と比較して、保磁力が低く、電磁変換特性においても劣っていた。試料21および22は、磁性層形成面が上記3つの条件のいずれをも満たさないために、他の試料と比較して、保磁力が低く、電磁変換特性も劣っていた。このことから、磁性層形成面のC−1sスペクトルにおけるピークaの積分強度Aの割合が、磁気記録媒体の性能に対してより影響を及ぼすことが分かる。試料22は、両方の面がともに上記3つの条件のいずれをも満たさないために、最も性能が劣っていた。
【0056】
【発明の効果】
以上のように、本発明は、磁気記録媒体を構成する非磁性支持体として、XPSにより測定される、非磁性支持体の磁性層形成面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークに分離したときに、結合エネルギーのピークが286.6eV付近であるピークの積分強度Aの占める割合を規制したPETフィルムを使用することを特徴とする。この特徴によれば、コスト的に有利なPETフィルムを使用して、結晶配向性がより向上した磁性層を有する磁気記録媒体を得ることが可能である。かかる磁性層を有する本発明の磁気記録媒体は、保磁力が高く、優れた電磁変換特性を有するから、狭ギャップヘッドによる記録再生においても高いCN比を確保でき、高密度記録に適したものとなる。また、本発明の磁気記録媒体は、高性能であるとともに、コストパフォーマンスにおいても優れており、汎用性の高いものである。したがって、本発明の磁気記録媒体は、情報機器、オーディオ機器およびビデオ機器等、種々の磁気記録装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気記録媒体を構成するポリエチレンテレフタレートフィルムの磁性層形成面の、光電子分光分析法で測定したC−1sスペクトルである。
【図2】従来の磁気記録媒体を構成するポリエチレンテレフタレートフィルムの磁性層形成面の、光電子分光分析法で測定したC−1sスペクトルである。
【図3】本発明の磁気記録媒体を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体の磁性層を形成するための真空蒸着装置の一例の模式図である。
【図5】本発明の磁気記録媒体のバックコート層を形成するための蒸着装置の一例の模式図である。
【符号の説明】
1...非磁性支持体、2...磁性層(強磁性金属薄膜)、3...炭素膜(保護層)、4...潤滑剤層、5...バックコ−ト層、6...送り軸、7a,7b...冷却回転ドラム、8...板状ベルト、9...巻取軸、10...磁性金属、12,13...遮蔽板、14,15...酸素ノズル、100...るつぼ、101...非磁性支持体、106...送り出しロール、107...冷却回転支持体、109...巻き取りロール、112,113...防着板、115...酸素導入ノズル。
Claims (10)
- 非磁性支持体および磁性層を含む磁気記録媒体であって、非磁性支持体がポリエチレンテレフタレートを主成分とするフィルムであり、磁性層を形成する前に光電子分光分析法により測定される、非磁性支持体の磁性層を形成する面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークに分離したときに、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、3つのピークの積分強度の和の10%以上30%以下である磁気記録媒体。
- 非磁性支持体および磁性層を含む磁気記録媒体であって、非磁性支持体がポリエチレンテレフタレートを主成分とするフィルムであり、磁性層を形成する前に光電子分光分析法により測定される、非磁性支持体の磁性層を形成する面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークに分離したときに、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、結合エネルギーが284.6eV付近であるピークの積分強度Bの20%以上60%以下である磁気記録媒体。
- 非磁性支持体および磁性層を含む磁気記録媒体であって、非磁性支持体が、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするフィルムであり、磁性層を形成する前に光電子分光分析法により測定される、非磁性支持体の磁性層を形成する面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークに分離したときに、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、結合エネルギーが288.6eV付近であるピークの積分強度Cの70%以上190%以下である磁気記録媒体。
- 磁性層を形成する前に光電子分光分析法により測定される、前記非磁性支持体の磁性層を形成する面とは反対側の面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークに分離したときに、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、3つのピークの積分強度の和の10%以上30%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 磁性層を形成する前に光電子分光分析法により測定される、前記非磁性支持体の磁性層を形成する面とは反対側の面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークに分離したときに、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、結合エネルギーが284.6eV付近であるピークの積分強度Bの20%以上60%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 磁性層を形成する前に光電子分光分析法により測定される、前記非磁性支持体の磁性層を形成する面とは反対側の面のC(炭素)−1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ、284.6eV付近、286.6eV付近、および288.6eV付近である3つのピークに分離したときに、結合エネルギーが286.6eV付近であるピークの積分強度Aが、結合エネルギーが288.6eV付近であるピークの積分強度Cの70%以上190%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 磁性層が、強磁性金属の真空蒸着により形成されたものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 磁性層の上に炭素膜が形成され、炭素膜の上に潤滑剤層が形成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 非磁性支持体の磁性層が形成された面とは反対側の面に、バックコート層を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 前記バックコート層が非磁性金属および/または金属酸化物を有する、請求項9に記載の磁気記録媒体。
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