JP2004141991A - タップ穴あけ加工における回転制御方法 - Google Patents

タップ穴あけ加工における回転制御方法 Download PDF

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Abstract

【課題】タップ穴形成加工において、主軸モータの発生するトルクを有効に活用し、かつ切削工具の作業効率を向上できるような回転加速度制御方法の構成を提供すること。
【解決手段】タップ穴形成加工において、主軸の回転角速度が主軸モータの基底回転角速度に至る以前の段階に、主軸の回転開始角加速度として、主軸モータが発生する一定トルクから、切削に必要なトルクを差し引くことによって、加減速トルクを求め、主軸の慣性モーメントで除して得られた主軸の回転角加速度を選択するか、又は、タップ工具の先端が対象物に到達するまでは、主軸モータが発生する一定トルクを主軸の慣性モーメントで除して得られ主軸の回転角加速度を選択し、タップ工具の先端が対象物に当接した後には、前記のように、加減速トルクを主軸の慣性モーメントによって除することによって得られた主軸の回転角加速度を選択し得ることに基づく回転制御方法。
【選択図】     図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、工作機械などの分野において採用されているタップによる穴あけ加工におけるタップの回転速度の制御に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
タップ工具は、主軸の先端に固着され、主軸と共に回転しながら、所定の前方位置に設置されている工作の対象物に向かって前進し、かつタップ工具の先端が当該対象物に当接した後には、当該対象物において予め形成されている下穴に沿って回転しながらタップ工具を前進しかつ挿入することによって、目標とする穴を形成し、その後形成した穴に沿ってタップ工具を後退しかつ脱退させ、元の位置に戻るという工程を経ている。
【0003】
タップ工具は、所定のピッチにしたがって、回転の数及び回転方向にしたがって、前記のように前進及び後退を行っているが、タップ工具の全移動距離の内、所定の距離(通常全移動距離の1/2の距離)に至る以前の段階では加速が行われ、当該所定の移動距離だけ移動した以後の段階では減速が行われ、タップ工具の先端が目標とする穴の深さにまで到達した段階では、回転速度を零とするように予め設定されている。
【0004】
従来主軸が切削に至る回転加速度は、1段階又は精々2段階による所定の回転角加速度によって加速されており、対象物の素材、穴の径、設定される最大速度などによって規定される切削の条件において適宜変更している訳ではない。
【0005】
しかも、切削段階において主軸の回転に必要なトルク(T)は特定されているが、当該主軸トルク(T)とは無関係に、主軸の回転開始段階における回転角加速度を設定しており、しかも大抵の場合、必要以上に低い値に設定している。
【0006】
そして、前記回転角速度を低い値に設定していることは、タップ工具が所定の移動距離だけ移動した以後の段階において同一の割合を以って減速される場合にも、減速の程度が必要以上に小さい値に設定されていることを意味している。
【0007】
このように、加速の程度及び減速の程度が小さいことは、切削作業に要する時間を必要以上に長く設定していることを意味しており、作業効率上改善を必要としていた。
【0008】
主軸モータは、通常トルク(T)が、基底回転速度に至るまで一定のトルク(T)であり、当該基底回転速度を超えた段階にて、回転速度の増大に伴って順次減少するような設計が行われている。
【0009】
そして、従来技術において、前記のように主軸の回転開始段階における回転角加速度及び回転角減速度の程度を必要以上に小さく設定していることは、主軸モータが本来発揮し得るトルクを十分活用していないことを意味している。
【0010】
【関連特許1】
特開2001−287118
【関連特許2】
特開平10−078810
【関連特許3】
特開平10−076444
【関連特許4】
特開平10−039915
【関連特許5】
特開平05−265522
【関連特許6】
特開平05−173617
【関連特許7】
特開平05−146948
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の前記のような問題点をクリアし、タップ工具に基づく穴形成過程において、主軸の回転を適切に制御することによって、穴あけにおける作業効率を向上させ、かつ主軸モータのトルクを十分活用することを課題とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の構成は、
▲1▼予め下穴を形成している工作対象物に対し、主軸によって回転しているタップ工具を挿脱しながら、対象物に所定の深さ及び径による穴を形成するタップ穴形成加工において、主軸の回転開始時から主軸の回転角速度(ω)が回転主軸モータの基底回転角速度(ω)に至る以前の段階に、主軸の回転開始角加速度として、主軸モータが発生する一定トルク(T)から対象物の切削に必要なトルク(T)を差し引くこと(T−T)によって、加減速トルク(T)を求め、主軸の慣性モーメント(I)によって除すること(T/I)によって得られた主軸の回転角加速度(dω/dt)を選択し得ることに基づくタップ穴あけ加工における回転制御方法、
▲2▼予め下穴を形成している工作対象物に対し、主軸によって回転しているタップ工具を挿脱しながら、対象物に所定の深さ及び径による穴を形成するタップ穴形成加工において、主軸の回転開始時から主軸の回転角速度(ω)が回転主軸モータの基底回転角速度(ω)に至る以前の段階に、主軸の回転開始角加速度として、タップ工具の先端が対象物に到達するまでは、主軸モータが発生する一定トルク(T)を主軸の慣性モーメント(I)によって除すること(T/I)によって得られた主軸の回転角加速度(dω/dt)を選択し、タップ工具の先端が対象物に当接した以後は、主軸モータが発生する一定トルク(T)から、対象物の切削に必要なトルク(T)を差し引くこと(T−T)によって、加減速トルク(T)を求め、主軸の慣性モーメント(I)によって除すること(T/I)によって得られた主軸の回転角加速度(dω/dt)を選択し得ることに基づくタップ穴あけ加工における回転制御方法、
からなる。
【0013】
【発明の実施の形態】
主軸モータにおいて発生しているトルク(T)は、主軸の回転に要するトルク(正確には主軸及びタップ工具の回転に要するトルク)T及び切削に要するトルク、即ち切削トルクTに費されることから、
+T=T
が成立する。
【0014】
通常、穴を形成する場合の切削に要するトルク(T)は、タップ外形(D)、下穴径(d)、切削抵抗などによって左右されるが、タップの回転速度によって変化する訳ではない。
【0015】
因みに、切削トルクについて以下のような理論式が提唱され、かつ基本的に確立されている。
【0016】
Figure 2004141991
(但し、D:タップ外形(m)、d:下穴径(m)、θ:ねじ山の半角度、K:被切削抵抗(kgf/m)、K:タップ形状及び切り屑による補正係数(単位なし))
図2に示すように、本願発明に係る主軸モータにおいて発生しているトルクは、従来技術の場合と同様に、基底回転角速度(ω)に至るまでは一定トルク(T)を呈し、基底回転角速度(ω)を超えた場合には、回転角速度の増大に伴って減少している。
【0017】
この結果、主軸モータが発揮しているトルク(T)、前記一定トルク(T)、出力(P)と角速度(ω)との間には、図1に示すように、以下の如き近似式が成立している(尚、後記の(1)の2式は、理論上の数式であるが、このような理論上の数式と雖も、実際の現場においては、その通り成立する訳ではなく、近似式として機能していることを考慮し、以下の説明において、等号(=)は、近似式をも包摂する趣旨にて使用することにする。)。
【0018】
+T=T(0≦ω≦ω)  ……(1)の1
+T=P/ω(ω≧ω)   ……(1)の2
他方、主軸の慣性モーメントをIとした場合、主軸トルク(T)と、回転角加速度(dω/dt)との間には、
=(dω/dt)・Iが成立する。
【0019】
前記▲1▼の構成においては、予め切削トルク(T)を測定したうえで、主軸の回転開始後の回転角加速度dω/dtにつき、
dω/dt=(T−T)/I  ……(2)の1
による大きさを選択し得ることを基本的特徴としている。
【0020】
このような回転開始後の回転角加速度がdω/dtを採用することによって、回転開始後の主軸のトルクは、
=I・(dω/dt)=T−T
が成立する。
【0021】
即ち、このような主軸の回転開始後の回転角加速度(dω/dt)として前記(2)の1式と同一の大きさを採用している場合には、自ずと
+T=T
が成立し、しかも上記(2)式は、タップ工具が対象物の下穴に挿入され、スムースに切削トルクTによる切削に移行することになる。
【0022】
前記▲2▼の構成においては、主軸の回転開始後の回転角加速度(dω/dt)につき、タップ工具の先端が対象物に当接する前の段階では、
dω/dt=T/I ……(2)の2
による大きさを選択し、当接した以後の段階では、(2)の1式の大きさを選択し得ることを特徴としている。
【0023】
このような回転開始後の回転角加速度(dω/dt)を採用した場合には、前記▲1▼の構成よりも速やかに対象物に当接し、しかも当接した以後においては、前記▲1▼の構成と同じように、切削トルクTによる切削に移行することになる。
尚、(2)の2式による回転角加速度(dω/dt)によって得られる慣性モーメント(I・(dω/dt))は、切削トルク(T)に吸収されることになる。
【0024】
実際の作業現場において、前記▲1▼、▲2▼の構成に基づき、上記(2)の1式、及び2式によるdω/dtを算出するには、コンピューターのプログラムを使用する場合が多い。
【0025】
前記▲1▼、▲2▼の何れの構成においても、切削段階においては、前記(2)の1式による回転角加速度(dω/dt)を採用しているので、主軸モータが基底回転角速度(ω)に至るまで、主軸モータが発揮し得るトルク(T)の一定トルク(T)を活用している。
【0026】
切削トルク(T)は、切削の対象物、切削する穴の径、設定される最大速度などに基づいて変化するが、このような切削トルク(T)の変化に対応して、前記(2)による回転角加速度(dω/dt)を変化させた場合には、異なる切削トルク(T)に対応して、図2に示すように、主軸の回転角速度(ω)の上昇の程度(時間《t》の変化に伴う増大の程度)を適宜調節することができる。
【0027】
上記(1)の1式は、主軸モータの回転角速度が基底速度以内である場合に成立する一般式である。
【0028】
したがって、予め設定されている(通常主軸の制御に関与しているコンピュータープログラムが設定している場合が多い。)の主軸モータの最大回転角速度(ω)が、主軸モータの基底回転角速度(ω)以内である場合(ω≦ω)には、最大回転角速度(ω)に至るまで、前記▲1▼、▲2▼の構成による回転角加速度(dω/dt)を選択した場合には、他の回転角加速度を選択する必要はない。
【0029】
前記最大回転角速度(ω)が、主軸モータの基底回転角速度(ω)以内である場合(ω≦ω)においても、タップ工具が全体の移動距離(L)の内の1/2の距離(L/2)だけ移動した後においては、順次回転角速度を減速させ、全移動距離(L)だけ移動した段階では、主軸の回転角速度(ω)が零となるように制御する必要がある。
【0030】
このような回転角速度の減速による制御方法は千差万別であって、特に限定される訳ではない。
【0031】
但し、以下に述べるように、全移動距離(L)の内の1/2の距離(L/2)だけタップ工具が移動した場所を境として、回転角加速度(dω/dt)と同一の大きさによる回転角減速度−(dω/dt)によって減速することによって、タップ工具が全移動距離(L)だけ移動した段階にて回転角速度(ω)を零とするような制御方法は、比較的簡単な制御であって、極めて便利である。
【0032】
前記▲1▼、▲2▼の構成の何れにおいても、タップ工具が全移動距離(L)の内の1/2の距離(L/2)だけ移動する前に、主軸の回転角速度が最大値(ω)に達した場合には、例えば、図3(a)(前記▲1▼の構成の場合)、(b)(前記▲2▼の構成の場合)に示すように、最大回転角速度に至った後、当該最大回転角速度を継続し、その後全移動距離(L)から、最大回転角速度(dω/dt)に至るまでに移動した距離(L)を差し引いた距離(L−L)だけ移動した後、加速の段階と同一の速さによる減速(前記▲1▼の構成の場合には、前記(2)の1式のdω/dtと同一の大きさによる−(dω/dt)による減速、前記▲2▼の構成の場合には、前記(2)の2式及び前記(2)の1式によるdω/dtとそれぞれ同一の大きさによる−(dω/dt)による減速)を行うことによって、タップ工具の先端が穴の先端部に至った段階において回転を停止させる減速の制御方法は、時間及び距離に対応して、反対形相の制御が簡単であって、極めて便利である。
【0033】
尚、前記▲2▼の構成において、タップ工具の先端が対象物に当接するまでの回転角加速度(dω/dt)をT/Iと設定しており、当該回転角加速度は切削工程中に実現することは不可能である。
但し、当該回転角加速度と同一の大きさによる回転減速度(−T/I)は、主軸の回転に必要なトルク(T)を減少させた分だけ切削トルク(T)に転用することによって実現することができる。
【0034】
前記▲1▼、▲2▼の構成の何れにおいても、タップ工具が全移動距離(L)の1/2の距離(L/2)の距離を移動するも、主軸の回転速度が前記最大回転角速度(ω)に至っていない場合には、引き続き、主軸の回転角速度を前記(2)の回転角加速度(dω/dt)によって前記最大回転角速度(ω)に至るまで上昇させたうえで、その後主軸の回転速度を急激に減速させたうえで、タップ工具の先端が穴の先端に一致した段階において、回転を停止させるような制御は無論可能である。
【0035】
しかし、タップ工具が全移動距離(L)の1/2の距離(L/2)だけ移動した段階において、前記最大回転角速度(ω)に至っていないとしても、図3(c)(前記▲1▼の構成の場合)、(d)(前記▲2▼の構成の場合)に示すように、当該1/2の距離(L/2)の距離だけ移動した以後、加速の段階と同一の速さによる減速(前記▲1▼の構成の場合には、前記(2)の1式のdω/dtと同一の大きさによる−(dω/dt)による減速、前記▲2▼の構成の場合には、前記(2)の2式及び前記(2)の1式によるdω/dtとそれぞれ同一の大きさによる−(dω/dt)による減速)を行うことによって、タップ工具の先端が穴の先端に至った段階において、回転角速度を零の状態とする制御は、制御方法として簡単であって、極めて便利である。
【0036】
前記▲1▼、▲2▼の構成の何れにおいても、予め設定した最大回転角速度(ω)が主軸モータの基底回転角速度(ω)よりも大きい場合には、タップ工具が全移動距離(L)の1/2の距離(L/2)だけ移動する前に、既に主軸の回転角速度(ω)が当該基底回転角速度(ω)を超える場合が生じ得る。
【0037】
この場合には、主軸の回転角速度(ω)は、前記(1)の2式から、以下のような微分方程式にしたがって回転することになる。
【0038】
Figure 2004141991
……(1)の2
上記微分方程式の一般解は、
Figure 2004141991
である(但し、時間tは、主軸の回転角速度がωの場合、即ちω=ωの場合を零と設定している。)。
【0039】
一般に、P/T≫ωであることを考慮するならば、上記微分方程式の近似解として、
Figure 2004141991
……(3)’
による関係式を得ることができる。
【0040】
即ち、前記▲1▼、▲2▼の構成の何れにおいても、主軸の回転角速度が、基底回転角速度ωに至った後には、前記(1)の2式の微分方程式に基づいて、前記(3)の解又は前記(3)’の近似解によるωとtの関係に基づき、タップ工具は、回転しながら穴の先端側に移動する。
【0041】
前記(1)の2式を充足する回転角加速度は、dω/dt=(P−Tω)/Iωであって、前記(3)’式より
Figure 2004141991
(但し、tは、ω=ωに至った場合を零としている。)
を得ることができ、主軸の回転角加速度は、上記のように時間tを経るにしたがって順次減少していく。
【0042】
前記▲1▼の構成において、前記(2)の1式及び前記(4)式にしたがって加速を行う場合、及び前記▲2▼の構成において、前記(2)の2式、(2)の1式、及び前記(4)式にしたがって加速を行う場合の何れの場合にも、タップ工具が全体の移動距離の1/2の距離(L/2)だけ移動する前に、最大回転角速度(ω)に至った場合には、前記図4(a)(前記▲1▼の構成の場合)、(b)(前記▲2▼の構成の場合)に示すように、当該最大回転角速度を維持した状態にて、主軸及びタップ工具は、回転及び前進を行い、上記1/2の距離(L/2)だけ移動し、その後、全移動距離(L)から、最大回転角速度(dω/dt)に至るまでに移動した距離(L)を差し引いた距離(L−L)だけ移動した後、加速の段階と同一の速さによる減速(前記▲1▼の構成の場合には、前記(2)の1式のdω/dtと同一の大きさによる−(dω/dt)による減速、前記▲2▼の構成の場合には、前記(2)の2式及び前記(2)の1式によるdω/dtとそれぞれ同一の大きさによる−(dω/dt)による減速)を行うことによって、タップ工具の先端が穴の先端部に至った段階において、回転を停止させるような制御は無論可能である。
【0043】
前記▲1▼の構成において、前記(2)の1式及び前記(4)式にしたがって加速を行う場合、及び前記▲2▼の構成において、前記(2)の2式、(2)の1式、及び前記(4)式にしたがって加速を行う場合の何れの場合にも、タップ工具の移動距離が全体の移動距離の1/2に達するも、主軸の回転角速度(ω)が前記最大回転角速度(ω)に至らない場合には、前記図4(c)(前記▲1▼の構成の場合)、(d)(前記▲2▼の構成の場合)に示すように、当該1/2の距離(L/2)だけ移動した以後、加速の段階と同一の速さによる減速(前記▲1▼の構成の場合には、前記(2)の1式のdω/dtと同一の大きさによる−(dω/dt)による減速、前記▲2▼の構成の場合には、前記(2)の2式及び前記(2)の1式によるdω/dtとそれぞれ同一の大きさによる−(dω/dt)による減速)を行うことによって、タップ工具の先端が開口する穴の先端に至った段階において、回転を停止させるような制御は無論可能である。
【0044】
このように、予め設定している最大回転角速度(ω)が、基底回転角速度(ω)以下の場合、又は最大回転角速度(ω)が、基底回転角速度(ω)よりも大きい場合の何れにおいても、タップ工具の全移動距離の1/2だけ移動した場合において、主軸の回転角速度が前記最大回転角速度(ω)に至らない場合が生ずるが、このような場合であっても、従来技術の場合に比し、主軸の回転開始段階における回転角加速度(dω/dt)を前記(2)の1式(前記▲1▼の構成の場合)、又は前記(2)の2式、及び(2)の1式(前記▲2▼の構成の場合)となるように選択することによって、切削トルク(T)の大きさに応じて順次変化させ、主軸モータが発生し得るトルクを有効に利用し、かつ穴の切削工程における作業効率を向上させることができる。
【0045】
以下実施例にしたがって説明する。
【0046】
【実施例1】
実施態様の項において説明したように、前記▲1▼の構成及び▲2▼の構成の何れにおいても、プログラムが設定している最大回転角加速度(ω)と、主軸モータの基底回転角速度(ω)の大小関係如何に拘らず、タップ工具が全体の移動距離の1/2の距離(L/2)だけ移動した段階にて、前記最大回転角速度(ω)に至らない場合が生じ得る。
【0047】
実施例1においては、前記のように1/2の距離だけ移動した段階における回転角速度が、前記最大回転角速度(ω)に至らないことが判明しており、しかも前記最大回転角速度(ω)が前記基底回転角速度(ω)以下(ω≦ω)の場合において、主軸の回転開始における回転角加速度を前記(2)の1式(前記▲1▼の構成の場合)、又は前記(2)の2式、及び(2)の1式(前記▲2▼の構成の場合)ではなく、タップ工具が全体の移動距離の1/2の距離(L/2)だけ移動した段階において、回転角速度が前記最大回転角速度(ω)となるような回転角加速度を加えることを特徴としている。
【0048】
タップ工具による全体の移動距離をLとし、タップ工具が1回転する場合、前進するピッチの幅をbとし、タップ工具がL/2の距離だけ移動する時間をtとした場合には、L/2=2πb・(dω/dt)・t /2が成立し、他方、ω=(dω/dt)・tであることから、
dω/dt=2πbω /L  ……(5)
を得る。
【0049】
このように、実施例1においては、図5(a)に示すように、前記最大回転角速度(ω)が主軸モータの基底回転角速度(ω)以下(ω≦ω)である場合において、主軸に対し当初から前記(5)式を充足するような回転角速度を加え、タップ工具が回転移動距離の1/2の距離(L/2)に至った段階において、最大回転角速度(ω)に達し、その後の減速方法は、要するに、タップ工具が全移動距離(L)だけ移動した段階において、主軸の回転角速度(ω)が零となるような回転角速度(ω)の減速制御を行えば良い。
【0050】
但し、上記(5)式と同一の回転角速度を以って減速し、タップ工具の先端位置が開口する穴の先端に達した段階において、回転角速度は零となり、かつタップ工具の前進も停止する減速の制御方法は、時間及び距離に対応して、反対形相の制御が可能であって、極めて便利である。
【0051】
【実施例2】
実施例1は、前記最大回転角速度(ω)が、基底回転角速度(ω)以下(ω≦ω)であることを前提としているが、このような保証は全くなく、寧ろその逆(ω>ω)の場合は決して少なくない。
【0052】
しかも前記最大回転角速度(ω)が、主軸モータの基底回転角速度(ω)よりも大きい場合に、そのような状態に陥る場合が多い。
【0053】
実施例2においても、、前記(2)式にしたがって、主軸の回転開始後の回転角加速度を選択した場合には、タップ工具が全体の移動距離の1/2の距離(L/2)だけ移動するも、回転角速度が前記最大回転角速度(ω)に達しないことが予め判明している場合を前提としている。
【0054】
但し、実施例2においては、前記最大回転角速度(ω)と基底回転角速度(ω)の大小関係如何を問わず、タップ工具の先端が、工作の対象物に当接した段階において、主軸の回転角速度が前記最高回転角速度となるような加速を行っている。
【0055】
タップ工具が対象物に当接するまでに移動する距離をL’とし、タップ工具が1回転する場合、前進するピッチの幅をbとし、タップ工具がL’の距離だけ移動する時間をt’とした場合には、
L’=2πb・(dω/dt)・t’/2
が成立し、他方、ω=(dω/dt)・t’であることから、
dω/dt=πbω /L’  ……(6)
を得る。
【0056】
このように、前記(2)の1式(前記▲1▼の構成の場合)、又は前記(2)の2式、及び(2)の1式(前記▲2▼の構成の場合)に代えて前記(5)式を選択することによって、タップ工具が対象物に当接された段階において前記最大回転角速度に達しており、その後は、前記図5(b)に示すように、最大回転角速度(ω)の回転速度にしたがって、回転及び前進を行い、その後の減速は、要するに、タップ工具が全移動距離(L)だけ移動した段階で、回転角速度(ω)が零となるような減速制御を行えば良い。
【0057】
但し、タップ工具が全移動距離(L)から前記当接するに至る距離(L’)を差し引いた距離(L−L’)だけ移動した後において、前記(6)式と同一の大きさによる回転角減速度−(dω/dt)によって減速を行い、タップ工具の先端位置が開口する穴の先端に達した段階において、回転速度は零となり、タップ工具の前進も停止する減速の制御方法は、時間及び距離に対応して、反対形相の制御が可能であって、極めて便利である。
【0058】
実施例2の場合には、タップ工具の先端が、対象物に当接した段階にて既に前記最大回転角速度(ω)に至っているため、主軸が速やかに最高回転角速度に達しており、極めて効率的な回転制御を実現することができる。
【0059】
但し、実施例2の場合には、タップ工具の全移動距離(L)の1/2の距離(L/2)が、前記当接に至るまでにタップ工具が移動する距離(L’)より大きいこと(L>2L’)であることを当然の前提としている。
【0060】
【実施例3】
実施例1及び同2は、何れもタップ工具が、回転によって前進し、かつ対象物において穴を形成する場合を示しているが、実施例3は、該前進及び形成が終了した後の具体例を示す。
【0061】
即ち、実施例3は、タップ工具がタップ穴の先端位置に至った後、タップ工具を元の位置に戻す工程において、主軸の回転開始時から主軸の回転角速度(ω)が回転主軸モータの基底回転角速度(ω)に至る以前の段階に、主軸モータが発生する一定トルク(T)から対象物との摩擦に必要なトルク(T’)を差し引くこと(T−T’)によって、加減速トルク(T’)を求め、主軸の慣性モーメント(I)によって除すること(T’/I)によって得られた主軸の回転角加速度(dω/dt)を戻る際の主軸の回転開始角加速度として選択し得ることを特徴としている。
【0062】
タップ工具が前記回転角加速度(dω/dt)にしたがって回転し、回転角速度(ω)が、主軸モータの基底回転角速度(ω)に至った場合には、前記(4)式(但し、(4)式のTに代えて前記T’が挿入されることになる。)の回転角加速度にしたがって回転することにならざるを得ない。
【0063】
タップ工具が全体の移動距離(L)の1/2の距離(L/2)だけ後退した後において、元の位置に戻った段階において、主軸の回転角速度(ω)が零となるような制御の仕方は、随時選択することができる。
但し、前記▲1▼、▲2▼の何れの構成においても、図3、図4に示す場合と同様に、全体の移動距離(L)の1/2の距離(L/2)だけ移動した場所を境として、当該場所に移動するまでの回転角加速度(dω/dt)と同一の大きさによる回転角減速度−(dω/dt)を以って主軸の回転角速度を減少させる制御方法が簡単であり、かつ便利である。
【発明の効果】
このように、本発明は、主軸モータが発生させたトルクを有効に活用することによって、切削速度を向上させ、ひいては穴の形成に関する切削作用効率を向上することができ、タップ工具を使用した穴の形成において、画期的な意義を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】主軸モータの回転角速度(ω)と、発生するトルク(T)との関係を示すグラフ。
【図2】本発明の基本原理を示す時間(t)と主軸の回転角速度(ω)との関係を表すグラフ(尚、TL1、TL2、TL3は、切削トルクTがそれぞれ異なる値であることを示している。)。
【図3】最大回転角速度(ω)が、基底回転角速度(ω)より小さい場合において、実施態様の基本的作用を表すための移動距離(x)と主軸の回転角速度(ω)を示しているグラフであって、(a)、(b)は、タップ工具が全移動距離の1/2の距離だけ移動する以前に最大回転角速度(ω)に至っている場合の前記▲1▼の構成の場合、及び▲2▼の構成の場合をそれぞれ示しており、(c)、(d)は、タップ工具が全移動距離の1/2の距離だけ移動するも、最大回転角速度(ω)に至っていない場合の前記▲1▼の構成及び▲2▼の構成の場合をそれぞれ示す。
【図4】最大回転角速度(ω)が基底回転角速度(ω)以上であり、かつ主軸の回転角速度が基底回転角速度を超える場合において、実施態様の基本的作用を表すための移動距離(x)と主軸の回転角速度(ω)を示しているグラフであって、(a)、(b)は、タップ工具が全移動距離の1/2の距離だけ移動する以前に最大回転角速度(ω)に至っている場合の前記▲1▼の構成の場合、及び▲2▼の構成の場合をそれぞれ示しており、(c)、(d)は、タップ工具が全移動距離の1/2の距離だけ移動するも、最大回転角速度(ω)に至っていない場合の前記▲1▼の構成及び▲2▼の構成の場合をそれぞれ示す。
【図5】実施例1、2の基本的作用を表すための移動距離(x)と主軸の回転角速度(ω)を示しているグラフであって、(a)は、実施例1の場合を示しており、(b)は、実施例2の場合を示している。

Claims (7)

  1. 予め下穴を形成している工作対象物に対し、主軸によって回転しているタップ工具を挿脱しながら、対象物に所定の深さ及び径による穴を形成するタップ穴形成加工において、主軸の回転開始時から主軸の回転角速度(ω)が回転主軸モータの基底回転角速度(ω)に至る以前の段階に、主軸の回転開始角加速度として、主軸モータが発生する一定トルク(T)から対象物の切削に必要なトルク(T)を差し引くこと(T−T)によって、加減速トルク(T)を求め、主軸の慣性モーメント(I)によって除すること(T/I)によって得られた主軸の回転角加速度(dω/dt)を選択し得ることに基づくタップ穴あけ加工における回転制御方法。
  2. 予め下穴を形成している工作対象物に対し、主軸によって回転しているタップ工具を挿脱しながら、対象物に所定の深さ及び径による穴を形成するタップ穴形成加工において、主軸の回転開始時から主軸の回転角速度(ω)が回転主軸モータの基底回転角速度(ω)に至る以前の段階に、主軸の回転開始角加速度として、タップ工具の先端が対象物に到達するまでは、主軸モータが発生する一定トルク(T)を主軸の慣性モーメント(I)によって除すること(T/I)によって得られた主軸の回転角加速度(dω/dt)を選択し、タップ工具の先端が対象物に当接した以後は、主軸モータが発生する一定トルク(T)から、対象物の切削に必要なトルク(T)を差し引くこと(T−T)によって、加減速トルク(T)を求め、主軸の慣性モーメント(I)によって除すること(T/I)によって得られた主軸の回転角加速度(dω/dt)を選択し得ることに基づくタップ穴あけ加工における回転制御方法。
  3. 主軸の制御を行っているコンピューターのプログラムによって、回転加速度(dω/dt)を得ることを特徴とする請求項1、2記載のタップ穴あけ加工における回転制御方法。
  4. タップ工具が、全移動距離の1/2の移動距離だけ移動する前に、主軸の回転速度(ω)が予め設定された最大回転角速度(ω)に達した場合には、当該最大回転角速度を維持した状態にて移動を継続し、前記1/2の移動距離を超えた距離だけ移動した後、当初の回転角加速度(dω/dt)と同一の大きさによる回転角減速度−(dω/dt)を以って主軸の回転の減速を行い、タップ工具が最先端に至る位置において、回転角速度を零とし、
    タップ工具が全移動距離の1/2の距離だけ移動するも、主軸の回転角速度(ω)が、前記最大回転角速度(ω)に到達しない場合には、当該1/2の距離だけ移動した後に、前記回転角速度(dω/dt)と同一の大きさによる回転角減速度−(dω/dt)を以って減速回転を行い、タップ工具がタップ穴の先端位置に至る位置において、回転角速度を零とすることを特徴とする請求項3記載のタップ穴あけ加工における回転制御方法。
  5. 回転開始以後の回転角加速度(dω/dt)を(T−T)/Iを選択した場合、又はタップ工具の先端が対象物に当接するまでの段階についてT/Iを選択し、当接した以後の段階について(T−T)/Iを選択した場合において、タップ工具が全移動距離の1/2の距離だけ移動するも、予め設定した最大回転角速度(ω)に至っていないことが予め判明しており、しかも当該最大回転角速度(ω)が、主軸モータの基底回転角速度(ω)以下である場合には、特に2πbω /L(但し、bは、タップ工具の1回転当りの移動するピッチのピッチ幅を示し、Lは、タップ工具の全移動距離を示す。)を主軸の回転開始角速度として選択し得ることを特徴とする請求項3記載のタップ穴あけ加工における回転制御方法。
  6. 回転開始以後の回転角加速度(dω/dt)を(T−T)/Iを選択した場合、又はタップ工具の先端が対象物に当接するまでの段階についてT/Iを選択し、当接した以後の段階について(T−T)/Iを選択した場合において、タップ工具が全移動距離の1/2の距離だけ移動するも、予め設定した最大回転角速度(ω)に至らないことが予め判明している場合に、タップ工具の先端が対象物に当接するまでに、タップ工具に対し、bπω /L’(但し、bは、タップ工具の1回転当りの移動するピッチのピッチ幅を示し、L’は、タップ工具の先端が対象物に当接するに至るまでに、タップ工具が移動する距離を示す。)を特に主軸の回転開始角速度として選択し得ることを特徴とする請求項3記載のタップ穴あけ加工における回転制御方法。
  7. タップ工具がタップ穴の先端位置に至った後、タップ工具を元の位置に戻す工程において、主軸の回転開始時から主軸の回転角速度(ω)が回転主軸モータの基底回転角速度(ω)に至る以前の段階に、主軸モータが発生する一定トルク(T)から対象物との摩擦に必要なトルク(T’)を差し引くこと(T−T’)によって、加減速トルク(T’)を求め、主軸の慣性モーメント(I)によって除すること(T’/I)によって得られた主軸の回転角加速度(dω/dt)を戻る際の主軸の回転開始角加速度として選択し得ることを特徴とする請求項3記載のタップ穴あけ加工における回転制御方法。
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