JP2004141196A - グリップ用被覆体 - Google Patents
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Abstract
【課題】単一素材で吸水性や通気性とクッション性とを併せ持つグリップ用被覆体を提供する。
【解決手段】テニスラケット10等のグリップ12を被覆するグリップ用被覆体20であって、抽出法で製造された3次元連通気泡構造を持つポリエステル系熱可塑性多孔体からなることを特徴とする。グリップ用被覆体20は、筒状物に成形され、ラケット10のグリップ12に外挿される。使用者はこのグリップ用被覆体20を介してラケット10を握ることで、グリップ12の滑りが抑制され、好適なクッション性および汗の吸収性を得ることができる。
【選択図】 図1
【解決手段】テニスラケット10等のグリップ12を被覆するグリップ用被覆体20であって、抽出法で製造された3次元連通気泡構造を持つポリエステル系熱可塑性多孔体からなることを特徴とする。グリップ用被覆体20は、筒状物に成形され、ラケット10のグリップ12に外挿される。使用者はこのグリップ用被覆体20を介してラケット10を握ることで、グリップ12の滑りが抑制され、好適なクッション性および汗の吸収性を得ることができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、テニス等のラケットにおいてグリップを被覆するグリップ用被覆体に関し、更に詳細には、グリップを被覆した該グリップ用被覆体を介して、ラケットを握ることによりグリップの滑りを抑制し、クッション性および汗の吸収性、すなわち吸汗性等を改善するグリップ用被覆体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に使用されているテニス等に用いられるラケットの握り部分であるグリップは、滑り止めおよび触感等の向上を目的として、別途グリップ用被覆体により被覆されている。従来のグリップ用被覆体は、所定の引張強度および伸び率を示す不織布等の繊維素材、合成皮、天然皮、その他合成樹脂等のシート状物を基材として、ここに吸水性およびクッション性を有する発泡弾性体層を被覆等することで製造されている。
【0003】
そして前記グリップ用被覆体は、例えば該グリップ用被覆体同士の一部が重なるように斜めにグリップに巻き付けることで使用に供される。前記グリップ用被覆体は、引き延ばして張力をかけつつグリップに巻き付けられたり、接着剤や両面テープの接着力等により該グリップに貼着されることで、該ラケットの使用時におけるズレ等を抑制するようになっている。また前記発泡弾性体層による汗の吸収性、すなわち吸汗性および使用時の衝撃を吸収する適度なクッション性も備えられており、使用時の快適性および手の滑りを防止する、所謂グリップ力も備えられている。この他、前記発泡弾性体層は、前記基材を過剰な水分等から保護して、その剥離を防止する作用も有している。
【0004】
しかし前記グリップ用被覆体は、前記基材および発泡弾性体層が、夫々引張強度および吸汗性・クッション性を個別に発現し、互いに補完し合う構造となっているため、該基材については吸汗性・クッション性に劣り、該発泡弾性体層については引張強度等が期待できないものであった。このため、例えば以下に示す[特許文献1]に示す如く、前記基材に吸汗性を付与したグリップ用被覆体も存在する
【0005】
【特許文献1】
特開平7−8578号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、違う性質・物性を有する異なった2つの素材を使用しなければならない点については改善がなされないため、良好な吸汗性を判断する指標の1つである吸汗量については問題がない一方で、吸汗速度については前記基材および発泡弾性体層間で差違が生じてしまい、その結果、良好な吸汗性の発現は困難であった。また、基本的に2つの素材を積層する構造であり、かつその使用時においては瞬間的に過大な力がかかるために、経時的な使用において2つの素材が剥離してしまう畏れが指摘される。
【0007】
【発明の目的】
この発明は、従来の技術に係るグリップ用被覆体に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、抽出法を用いて得られるポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体を材質とすることで、単一素材で吸汗性や通気性とクッション性とを併せ持つグリップ用被覆体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を克服し、所定の目的を達成するため、本発明に係るグリップ用被覆体は、テニスラケット等のグリップを被覆するグリップ用被覆体であって、
ポリエステル系熱可塑性樹脂と、水溶性気泡形成材と、滑材として作用する水溶性高分子化合物とを加熱状態下で混合して得られる混合物から、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を水で抽出除去して3次元連通気泡構造としたポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体からなることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係るグリップ用被覆体につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。前記グリップ用被覆体20は、図1に示す如く、ポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体を材質として、ラケット10の握り部分であるグリップ12を被覆し得る、例えばその両端または一端が開放された筒状物として成形されたものである。前記グリップ用被覆体20の内部寸法は、前記グリップ12の外形寸法と略同一または若干小さく設定されている。そして前記グリップ用被覆体20は、ラケット10のグリップエンド12a側よりグリップ12に外挿され、着脱自在にグリップ12に被着されている。また、より強固に前記グリップ用被覆体20をグリップ12へ被着が必要な場合には、接着剤や両面テープ等をグリップ12とグリップ用被覆体20との間に介在させ、その接着力により貼着すればよい。
【0010】
以下に本発明に係るグリップ用被覆体20の理解に資するため、該グリップ用被覆体20の素材となるポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体につき説明する。従来、合成樹脂材料からグリップ用被覆体20を製造した場合、連通した多孔体とすることで、吸汗性や通気性に優れたグリップ用被覆体20が得られると考えられる。しかし、熱可塑性樹脂から多孔体を製造する一般的な方法である、主材料、すなわち骨格を形成する熱可塑性樹脂中に発泡剤を混入し、該発泡剤から発生した窒素等のガスにより気泡を形成させる、所謂化学的発泡法の場合、以下の問題が指摘される。すなわち、
▲1▼多数形成された前記気泡が、所謂独立気泡状態となってしまい、気泡相互間に吸汗性や通気性が得られない。
▲2▼また発生した気泡径を均一にする制御が難しく、数十μmといった微小径の気泡形成が困難であるため、該気泡径によって大きく変動する表面状態、すなわち表面摩擦係数や機械的強度等の得られる多孔体の各物性値を制御し得ず、結果として良好なグリップ性や触感等を併有できない。
▲3▼更に気泡率の制御も困難であるため、気泡率と密接に関係して変化する硬度、吸水性や通気性、弾性限界に至るまでの伸び率といったゴム特有の物性を好適に制御し得ない。
【0011】
本発明においては、その素材となるポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体を、所謂抽出法によって製造することで前述([0010])した問題を解消している。本発明における抽出法は、具体的には主材料である前記ポリエステル系熱可塑性樹脂に対して、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を加熱状態下で混練し、所要形状に成形した後、水に浸漬して該水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を抽出・除去することで、該ポリエステル系熱可塑性樹脂からなる骨格内に、微細な気泡を3次元的に連通させたポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体(以下、単に多孔体と云う。)を得るものである。なお前記ポリエステル系熱可塑性樹脂は、加熱成形性が高い樹脂の特徴と、ゴム部材の如き弾力性等(以下、ゴム物性と云う)を発現する特徴とを併有する物質である。
【0012】
なお前記ポリエステル系熱可塑性樹脂、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物が混合・混練された混合物においては、該ポリエステル系熱可塑性樹脂をマトリクスとし、その中に該水溶性気泡形成材が分散して浮島構造で存在し、かつ該水溶性高分子化合物が該水溶性気泡形成材の周囲を取り巻くように存在した構造となっていると考えられる。従って、前記水溶性気泡形成材同士は、前記水溶性高分子化合物により連続的に接続された形で、マトリクスであるポリエステル系熱可塑性樹脂中に存在し、これにより、該水溶性気泡形成材が互いに隣接・接触的に存在していない場合であっても、該水溶性高分子化合物の抽出を介してその殆ど全量が抽出され、抽出率は少なくとも95%以上となっている。すなわち、本発明に係るグリップ用被覆体20をなすポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体は、混練される前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の混合量により気泡率を決定することが可能であり、かつ該水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を除去することで形成される気泡は殆ど繋がった、すなわち連通度の高い3次元連通気泡を有する構造となる。
【0013】
前記多孔体は抽出法で製造されるため、抽出されて気泡を形成する前記水溶性気泡形成材の粒径および/または混合量を調整することが可能である。すなわち得られる多孔体の気泡径および/または気泡率を制御し得る特徴を有する。このため、得られる多孔体における硬度、吸水性およびゴム物性といった各物性値を任意に制御し得るものである。
【0014】
前記水溶性気泡形成材としては、水に可溶性であって、かつ前記ポリエステル系熱可塑性樹脂が熱溶融する際に熱的に安定な物質であれば各種のものが使える。例えば無機物としては、NaCl、KCl、CaCl2、NH4Cl、NaNO3、NaNO2等が挙げられる。有機物としては、TME(トリメチロールエタン)、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、しょ糖、可溶性でんぷん、ソルビトール、グリシンまたは各有機酸(リンゴ酸、クエン酸、グルタミン酸またはコハク酸)のナトリウム塩等が挙げられる。
【0015】
前記水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールジアセテート等のポリエチレングリコール誘導体、その他水に溶解し、樹脂に対して粘度を低下させる働きをする化合物であれば如何なるものであっても使用可能である。殊にポリエチレングリコールは、メルトフローが高く、かつ水溶性が高いので好適に使用し得る。また水溶性気泡形成材として有機系物質を選択した場合は、該水溶性気泡形成材の抽出・除去を促進する作用も確認されている。更に押出成形方法で成形を行なう場合、前記ポリエチレングリコールの分子量は2,000〜30,000、好ましくは5,000〜25,000、更に好ましくは15,000〜25,000の範囲が好適であるとの知見が得られている。
【0016】
前記ポリエステル系熱可塑性樹脂と、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物(水溶性物質)との混合割合は、体積百分率で10:90〜40:60の範囲内が好ましく、殊に12:88〜35:65の範囲内が好適である。前記ポリエステル系熱可塑性樹脂が体積百分率で10%未満の場合には、水溶性物質の抽出・除去時に成形体自体が分離してしまう。一方、前記ポリエステル系熱可塑性樹脂が体積百分率で40%以上の場合、すなわち該ポリエステル系熱可塑性樹脂以外の前記水溶性物質が体積百分率で60%未満の場合には、成形体内に充分な数の気泡が形成されなくなってしまう。なお本実施例において成形体とは、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を抽出除去していない状態の得るべき筒状物等に成形された混合物を指す。
【0017】
前記水溶性気泡形成材と水溶性高分子化合物との混合割合は、体積百分率で45:55〜95:5の範囲内に設定される。前記水溶性気泡形成材が体積百分率で45%未満の場合には、3次元的に連通した発泡構造が得られなくなり、95%を越える場合には、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の抽出割合が低下して充分な気泡率、すなわち連通度が得られなくなる。殊に前記気泡形成材と高分子化合物との混合割合は、体積百分率で65:35〜88:12の範囲内が好適である。
【0018】
前述した如く、骨格を形成するポリエステル系熱可塑性樹脂の割合は、体積百分率で10〜40%、すなわち気泡率は60〜90%とされる。この気泡率は、得られる多孔体の密度、伸び率および硬度等の各物性値に大きな影響を与える。基本的には、100−気泡率(%)=骨格(%)の存在割合として捉えられるため、気泡率が体積百分率で80%であれば骨格の存在割合は20%、従って前述の各物性値は、基本的にポリエステル系熱可塑性樹脂の20%程度の値を示すことになる。そして前記各物性値は、前述した骨格の存在割合の他、前記気泡の大きさ、すなわち気泡径によって大きな影響を受ける。具体的には、前記骨格の存在が同一である場合、前記多孔体の気泡径が20〜200μmの間に設定される際に、本発明に係るグリップ用被覆体20として好適な各物性値を示す。
【0019】
本発明に係るグリップ用被覆体20において、前記硬度はクッション性を示す指標の1つであり、また前記通気性は、運動等により使用者がかいた汗を吸収する吸汗性における判断指標の1つである吸汗量と密接に関連している。すなわち、良好な通気性を示すことで、グリップ用被覆体20に吸収された汗は外方に排出され、これにより多孔体の示すみかけの吸汗量は増大する。そしてゴム物性については、得られる多孔体の伸び率が一定以内であればその形状が復元する、といった所謂弾性変形が可能な伸び率により評価され、前記グリップ用被覆体20の形状がグリップ12に対して、該グリップ用被覆体20を引き延ばすことで被着する筒状物に形成される場合には、取り扱い性の点から重要な指標となる。すなわち前記抽出法により製造される多孔体からなるグリップ用被覆体20は、その気泡径等を制御することで、クッション性、吸汗性および取り扱い性を良好とすることが可能である。
【0020】
この他、前記気泡径および/または気泡率を任意に制御することで、その密度、すなわち軽量なグリップ用被覆体20とし得る。また、前記グリップ用被覆体20は、該グリップ用被覆体20を介してラケット10を握った際に、使用者の手と該グリップ用被覆体20が滑らない、所謂グリップ力が必要である。このグリップ力は前記グリップ用被覆体20の素材が持つ摩擦係数に起因して、この摩擦係数が高い程、手とグリップ用被覆体20との間に高いグリップ力を与える。そして、本発明に係るグリップ用被覆体20は、この摩擦係数を多孔体の主材料であるポリエステル系熱可塑樹脂の種類を選択する、例えば商品名ペルプレン(東洋紡製)等を用いることで最適化し得る。またグリップ12を握った際に、手のひらに接触する多孔体の表面における接触面積によって大きく影響を受ける肌触り等の触感についても、該接触面積を前記気泡径および/または気泡率を制御させることで最適化することができる。この接触面積の減少は、同時にグリップ用被覆体20の摩擦性を低下させる効果があるので、前述したグリップ用被覆体20の素材に起因する摩擦係数と勘案して調整する。
【0021】
前記グリップ用被覆体20に必要とされる硬度は、ラケット10のグリップ12の材質である木や樹脂自体の硬さを緩和すると共に、ラケット10でボールを打った時等の衝撃を緩和するための高いクッション性を発現するべく、少なくともアスカーC硬度が90以下に設定されている。そして前記多孔体は、前述の気泡率の範囲内であれば、その気泡径が20μm以上でアスカーC硬度90以下を達成し得る。前記気泡径が20μm未満であると、得られる多孔体がほぼソリッド体と同様の物性を示してしまい、前記アスカーC硬度が90を越えてしまう。
【0022】
また前記通気性については、基本的に前記グリップ用被覆体20の材質である抽出法により製造されるポリエステル系熱可塑性樹脂は、前述([0012])の如く、3次元連通気泡構造を有しているため良好な物性を有しているといえる。殊に前記水溶性気泡形成材の粒径が小さい程、所謂毛細管現象による吸汗効果も期待できる。なお前記吸汗性としては、人体に接触的に使用する状態を想定した場合、局所的な発汗量は運動時においても1g/cm2/min以下程度であるので、前記多孔体であれば充分な吸汗・発散効果が期待できる。そして本発明に係るグリップ用被覆体は、このように好適な吸汗性を示すので、汗によるグリップ用被覆体20の摩擦係数が低下することに起因するグリップ力の低下を防止できる。
【0023】
なお、前記グリップ用被覆体20をなすポリエステル系熱可塑性樹脂内に、各種の機能性を発現させる、所謂第3成分として、触感等を向上させる、シルク、コットン、シノン、ウールまたは麻等の各種天然繊維或いはナイロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエステル等の化学合成繊維を混合するようにしてもよい。この他、前記第3成分としては、親水性を発現させて吸水性を向上させる、例えばエチレンオキサイド等の分子構造内に水酸基を有する物質の混合も可能である。
【0024】
そして、ゴム物性を有するポリエステル系熱可塑性樹脂の多孔体からなる前記グリップ用被覆体20は、グリップ12に被着する際、その開口部20aを該グリップ12の大きさおよび形状にあわせて適宜に延ばすことが可能である。このようなゴム物性を備えることで、グリップ12への高い密着性に伴うズレの防止と、容易な装着性と汎用性とが両立可能となっている。殊に汎用性に関しては、グリップ12の大きさおよび形状といった製品の種類による違いに対して広く対応するものである。
【0025】
前記ゴム物性については、前記気泡径を200μm以下の範囲に設定することで達成される。前記気泡径がこの数値の範囲であれば、大きな力をかけることなく引き延ばせるといった良好な取り扱い性を示す。ここで良好な取り扱い性を表す物性指標は、0.8MPa以下の引張応力により少なくとも100%以上の伸び率を示すことと規定される。その理由は、使用者の力でも1MPa程度の引張応力をかけることは容易であり、しかも100%程度の伸び率を示す多孔体からなる筒状体のグリップ用被覆体20であれば、実際の使用に際してもほぼゴム部材と同様の取り扱いが可能で、該グリップ用被覆体20を引き延ばしてグリップ12を被着させ得るためである。
【0026】
これらのことから、前述の硬度に係る条件([0021])と、ゴム物性発現のための条件とから、本発明に係るグリップ用被覆体20をなす多孔体の気泡径は、20〜200μmの範囲に設定される。
【0027】
また前述したグリップ用被覆体20はグリップ12への被着を容易にするため、該グリップ用被覆体20の厚さは2mm以下が好適である。このような厚さは、本発明に係るグリップ用被覆体20をなす多孔体の抽出法による製造においては、容易に設定可能である。更に後述([0033])するが、前記グリップ用被覆体20の厚さは薄い方が、その製造時間等は短縮、すなわち製造コストを低減し得る。後述([0040])するシート状物に成形したグリップ用被覆体30の場合、この厚さが2mmを越えると、グリップ用被覆体30,30同士の一部を重ね合わせて巻き付けるため、グリップ12を握った際に重ね合わせ部分の厚みが使用者に違和感を与えてしまう。
【0028】
【製造方法の一例】
本発明に係るグリップ用被覆体20を製造するには、図2に示す如く、先ず気泡を形成する水溶性気泡形成材或いは該気泡形成材および水溶性高分子化合物に分級を実施して所要範囲の粒子寸法とし、分級された該気泡形成材或いは気泡形成材および高分子化合物と、骨格を形成する熱可塑性樹脂とを所定の機器を使用して、混合・混練して加熱混合物とし、これに押出成形や射出成形等を施して所定形状とされた成形体を水または所定温度の温水に浸漬することで、前記水溶性気泡形成材および高分子化合物を抽出・除去して、微細な気泡が3次元連通気泡構造を構成するグリップ用被覆体20を得るものである。なお混合時の粘性が高く混合が困難な場合には、前述した混合に先立ち予混合を施すようにしてもよい。殊に所要の機能を発現させる第3成分([0023]参照)を使用した際には、予混合の併用が望ましく、主材料となるポリエステル系熱可塑性樹脂と該第3成分との予混合、および/または全物質の予混合が考えられる。
【0029】
また前記水溶性高分子化合物についてその粒径を制御しない場合、必要とされる分級が不要となり製造コストを低減し得る。また前記水溶性高分子化合物は、マトリクスとなるポリエステル系熱可塑性樹脂内で加熱により溶解し、前記水溶性気泡形成材を均質に分散させる、所謂滑材として作用するため、粒径制御をなさないことによる悪影響は小さい。
【0030】
前記水溶性気泡形成材或いは該気泡形成材および水溶性高分子化合物の分級については、その分級すべき粒子寸法にもよるが、一般的に必要とされる粒子寸法の上限を設定した篩いにより篩い分級を実施し、次いで必要とされる粒子寸法の下限を設定したエアー分級を実施して、設定された範囲の粒子寸法物を得るものである。基本的に篩い分級はエアー分級より時間当たりの分級効率が高く、かつ細かい粒子寸法では目詰まりが心配されるので、粒子寸法の上限を篩いで分級することで短時間にかつ目詰まりのない効率的な分級を実施し得るので、下限の前記エアー分級に先立って行なった方が効率がよい。
【0031】
前述のポリエステル系熱可塑性樹脂、気泡形成材および高分子化合物の混合・混練には、1軸式または2軸式押出機、ニーダ、コニーダ、バンバリーミキサ、ヘンシェル型ミキサ或いはロータ型ミキサその他の混練機等の混練すべき各物質を充分に混合させ得るものが好適に使用される。この混練について、特殊な装置は必要なく、また混練速度等も限定されない。混練時の温度は使用する前記ポリエステル系熱可塑性樹脂等の溶融点によって適宜設定されるが、本発明においては、このポリエステル系熱可塑性樹脂の溶融点で前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物が溶融または昇華することがないので、如何なる温度であっても設定可能となっている。
【0032】
また前記ポリエステル系熱可塑性樹脂、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の混合・混練の混練時間は、該各物質の物性により左右されるが、結果として充分に混合・混練されればよく、通常では30〜40分程度で充分である。この際に長時間の混練は、グリップ用被覆体20をなす多孔体の骨格を形成する前記ポリエステル系熱可塑性樹脂の物性的な劣化を引き起こす原因となるので注意が必要である。混練された原料は、物性的に押出、射出、プレスまたはローラー等により所要形状に成形が可能であるが、前記筒状体のグリップ用被覆体20の場合、量産性が高い押出成形による成形が好適である。
【0033】
なお、前記ポリエステル系熱可塑性樹脂、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物から得られる混合物は、好適には2mm以下の厚さに成形されるが、本発明に係る抽出法、具体的には乾式抽出法の採用下においては何等問題は生じない。これは前記乾式抽出法の一般的な特徴、すなわち▲1▼成形時には気泡となるべき前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物が、骨格となるポリエステル系熱可塑性樹脂内に混合された、所謂ソリッドな状態である点、▲2▼混合物の成形の際に施す加熱の度合いによって、骨格をなすポリエステル系熱可塑性樹脂の粘度を任意とし得るため、成形時に重要とされる該混合物の流動性を制御し得る点、による。この▲1▼および▲2▼の特徴により、2mm以下と薄く成形する際にも形状的な欠陥の発生を抑制し、好適な製造が可能となっている。
【0034】
なお、前述の高い成形容易性を利用することで、所定形状への成形の際に、前記グリップ用被覆体20の表面にエンボス加工等の装飾などを施すことも可能である。このエンボス加工を施すことで、▲1▼前記グリップ用被覆体20のデザイン性を高め、また▲2▼該グリップ用被覆体20を指等が引っ掛かる形状とすることでグリップ力を高めると共に、▲3▼形状的に該グリップ用被覆体20の接触面積を制御し、該接触面積によって大きく影響を受ける肌触り等の触感についても最適化し得る、等が可能となる。
【0035】
各成分を混合して所要形状に成形されたグリップ用被覆体20は、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を、溶媒である水に所定時間(例えば12〜24時間、グリップ用被覆体20の形状・厚さ等にもよる)浸漬させることで抽出・除去される。この浸漬時間については、抽出すべき前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の粒子寸法が制御されていることにより、制御されていない場合に較べて短縮がなされている(理由は[0037]に記載)。
【0036】
この際の浸漬は、どのような方法であってもよいが、抽出前の前記グリップ用被覆体20全体を水に接触させる水中浸漬による抽出・除去が好適である。このとき使用される水の温度についても、殊に限定がなく室温程度のものであってもよいが、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の効率的な除去のために、15〜60℃の温水を利用してもよい。
【0037】
また前記抽出による水溶性気泡形成材等の抽出除去については、前記ポリエステル系熱可塑性樹脂および該気泡形成材等を混合した際に、抽出法の特性上、その構造が六方最密充填となることから、該気泡形成材等の粒子寸法の数値範囲が、0.16×n〜6.45×n(ここでnは自然数)に収まるようにすることで、図3に示す如く、結晶構造的(図3(a)参照)に抽出不可能な、すなわち浮島構造的な該気泡形成材等がポリエステル系熱可塑性樹脂中に存在する(図3(b)参照)ことがなくなると考えられる。従って、前記グリップ用被覆体20をなす多孔体の気泡径を設定する場合には、該気泡径の範囲が前述の数値の範囲内に収まるようにすることが望ましく、このような範囲内とすることで前記水溶性気泡形成材等の量的および時間的に効率のよい抽出が可能となる。
【0038】
本発明に係るグリップ用被覆体20を使用した場合、使用者がかいた汗等は、前記グリップ用被覆体20に形成されている微細な気泡の作用により該グリップ用被覆体20に吸収され、該気泡が構成する3次元的連通気泡構造により外方に効率的に発散されるため、該グリップ用被覆体20の手との当接面は常に好適な肌触りを維持することができると共に、該グリップ用被覆体20の当接面において摩擦係数の低下に起因するグリップ力の低下を防ぐことができる。また本発明に係るグリップ用被覆体20を介してラケット10を握ることで、前述した多孔体の好適な肌触り等の触感を使用者に与え得ると共に、ポリエステル系熱可塑性樹脂が持つグリップ力を併せ持つことが可能である。更に前記グリップ用被覆体20は、軽量かつ適度なクッション性を有しているので、ボールを打つ際の衝撃を緩和し、長時間の使用に際しても使用者の手に負担を与えない。
【0039】
この他、主材料である前記ポリエステル系熱可塑性樹脂には、所要の機能性を発現する前記第3成分の添加も容易であるため、例えば帯電防止材の添加による静電気の除去、色材の添加による着色等も可能であり、ラケットのデザインに応じてカラーバリエーションを増やすことも可能である。なお、前記摩擦係数については、本発明のグリップ用被覆体20のようなグリップ力が要求される物品は、その摩擦係数が0.8〜0.9に設定されており、所謂「つっぱり感」や「ネバつき感」が高く、該触感が良好とはいえない。しかし、本発明に係るグリップ用被覆体20の場合、前記気泡径および/または気泡率を制御し、手との当接面の接触面積を調整することで、良好な触感と適度な摩擦係数に起因するグリップ力との両立が期待できる。
【0040】
【変更例】
これまでに、筒状物に成形されたグリップ用被覆体20について説明したが、本発明に係るグリップ用被覆体20はこのような形状に限定されるものではなく、例えば図4に示すグリップ用被覆体30の如く、グリップ12に任意に巻き付け可能なシート状物として成形されたもの、所謂グリップテープであってもよい。このグリップ用被覆体30は、グリップ12にグリップエンド12a側よりグリップ用被覆体30,30同士の一部が重なるように巻き付けられている。この際、グリップ用被覆体30は、引き延ばして張力をかけつつグリップ12に巻き付けられ、必要に応じて接着剤や両面テープの接着力により該グリップ12に貼着されることで、該ラケット10の使用時におけるズレ等を抑制するようになっている。このようなシート状のグリップ用被覆体30を使用した場合、巻き付けるグリップ用被覆体の重ね合わせ幅の調整が可能であり、使用者の好みにあわせてグリップの太さ等を調整し得る。
【0041】
【実験例】
以下に、本発明に係るグリップ用被覆体の各物性値を示す実験例を示す。このグリップ用被覆体は、ポリエステル系熱可塑性樹脂、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を、下記の表1に示す内容(気泡形成材径および混合割合)で混合し、得られた混合物を汎用の押出機または射出成形機を使用して所要形状に成形し、この成形体に加工を施すことで所要の試験片(幅100mm、長さ100mm、厚さ1.7mm)とした後、水による48時間の抽出処理および熱風乾燥機による乾燥処理を施して得られるものである。得られた実施例1〜4および比較例1〜3の各試験片について、目視または各種測定機器を使用して成形性(成形可能:○、不可能:×)、引張強度(MPa)、伸び率(%)および硬度(アスカーC)を夫々観察・測定した。そして更に得られた試験体をカット等により加工し、加工試験体を接着剤等によりテニスラケットのグリップに接着することでグリップ用被覆体を形成し、試験者がこのラケットでボールを実際に打つことで、その触感等を官能(良好:○、不良:×)により評価した。使用した機器および原料については下に記す。なお比較例として、ポリエステル系熱可塑性樹脂だけからなるソリッド体(比較例1)、多孔体の骨格を形成するポリエステル系熱可塑性樹脂の混合割合を前述[0018]の範囲外としたもの(比較例2および3)を用いた。また参考的に引張応力0.8MPa時の伸び率(%)と、伸び率(%)が100%時の引張応力(MPa)とを併せて示した。
【0042】
(使用機器および使用原料)
・使用機器:押出機ラボプラストミル(東洋精機製)
・使用原料:
ポリエステル系熱可塑性樹脂:商品名 ペルプレン;東洋紡製
水溶性気泡形成材:商品名 うず塩(NaCl);鳴門塩業製
水溶性高分子化合物:商品名 PEG20000(PEG);三洋化成製
【0043】
【表1】
【0044】
(結果)
結果を上記の表1に併せて示す。この表1から、基本的に骨格を構成する物質としてポリエステル系熱可塑性樹脂を使用すると共に、多孔体として成形等して得ることが可能な混合割合、すなわち該ポリエステル系熱可塑性樹脂と、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物(水溶性物質)との混合割合が体積百分率で10:90〜40:60の範囲内であれば本発明に係る内容、すなわち3次元連通気泡構造を有し、グリップ用被覆体として好適に利用し得る多孔体が得られた。
【0045】
また前記水溶性気泡形成材の大きさ、すなわち粒径を20〜200μmの範囲とすることで、20μm未満または200μmを越える場合に較べて、容易に100%程度の伸びを発現する伸び率と、クッション性(アスカーC硬度)とを併有することが確認された。なお実施例3および4については、引張強度が0.8MPaに至らなかったため、参考として記載した「引張応力0.8MPa時の伸び率(%)」は測定不能であった。
【0046】
【発明の効果】
以上に説明した如く、本発明に係るグリップ用被覆体によれば、その骨格となる素材として加熱成形性が高い樹脂性と、ゴム物性を発現するゴム性とを併有するポリエステル系熱可塑性樹脂を用い、気泡率および気孔径の制御が容易である抽出法で製造された3次元連通気泡構造を有するように製造したので、成形性、摩擦係数および吸水性といった各物性を好適に設定できる。従って、本発明に係るグリップ用被覆体は、使用者の汗等を吸い取る吸汗性が良好であり、該汗等による手との当接部における摩擦係数の低下に起因する滑りを防止し得る。そして前記グリップ用被覆体は、素材の摩擦係数に起因する良好なグリップ力と気泡率および気泡径の制御による優れた肌触り等の触感とを併有することができる。更に、軽量かつ良好なクッション性を示すので、長時間の使用に際して、使用者の手首等に掛かる負担を低減し得る。
【0047】
また前記グリップ用被覆体をグリップに被着する筒状物として構成した場合、多孔体をなすポリエステル系熱可塑性樹脂のゴム物性により、例えば該グリップ用被覆体の内部寸法がグリップの外形寸法より小さい、またはグリップの外形と異なっていても装着でき、異なる種類のグリップに対応することが可能である、といった長所を有する。また前記グリップ用被覆体をシート状物とした場合、巻き付けるグリップ用被覆体の重ね合わせ幅を使用者が調整することで、使用者の好みにあわせてグリップの太さを調整し得る。
【0048】
更に抽出法を用いた際のポリエステル系熱可塑性樹脂には、色材等の、所謂第3成分を均質に分散させつつ容易に混合可能であるので、シルク等を混合させて触感を向上させる、使用者の嗜好にあった色彩とする、といったことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適な実施例に係るグリップ用被覆体を示す概略斜視図である。
【図2】実施例に係るグリップ用被覆体を製造する製造工程の一例を概略的に示す工程図である。
【図3】グリップ用被覆体をなすポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体の結晶構造的な内部構造(図3(a))および実際の内部構造(図3(b))を示す概略図である。
【図4】変更例に係るグリップ用被覆体の巻き付け状況を示す正面図である。
【符号の説明】
10 ラケット
12 グリップ
20 グリップ用被覆体
【発明の属する技術分野】
この発明は、テニス等のラケットにおいてグリップを被覆するグリップ用被覆体に関し、更に詳細には、グリップを被覆した該グリップ用被覆体を介して、ラケットを握ることによりグリップの滑りを抑制し、クッション性および汗の吸収性、すなわち吸汗性等を改善するグリップ用被覆体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に使用されているテニス等に用いられるラケットの握り部分であるグリップは、滑り止めおよび触感等の向上を目的として、別途グリップ用被覆体により被覆されている。従来のグリップ用被覆体は、所定の引張強度および伸び率を示す不織布等の繊維素材、合成皮、天然皮、その他合成樹脂等のシート状物を基材として、ここに吸水性およびクッション性を有する発泡弾性体層を被覆等することで製造されている。
【0003】
そして前記グリップ用被覆体は、例えば該グリップ用被覆体同士の一部が重なるように斜めにグリップに巻き付けることで使用に供される。前記グリップ用被覆体は、引き延ばして張力をかけつつグリップに巻き付けられたり、接着剤や両面テープの接着力等により該グリップに貼着されることで、該ラケットの使用時におけるズレ等を抑制するようになっている。また前記発泡弾性体層による汗の吸収性、すなわち吸汗性および使用時の衝撃を吸収する適度なクッション性も備えられており、使用時の快適性および手の滑りを防止する、所謂グリップ力も備えられている。この他、前記発泡弾性体層は、前記基材を過剰な水分等から保護して、その剥離を防止する作用も有している。
【0004】
しかし前記グリップ用被覆体は、前記基材および発泡弾性体層が、夫々引張強度および吸汗性・クッション性を個別に発現し、互いに補完し合う構造となっているため、該基材については吸汗性・クッション性に劣り、該発泡弾性体層については引張強度等が期待できないものであった。このため、例えば以下に示す[特許文献1]に示す如く、前記基材に吸汗性を付与したグリップ用被覆体も存在する
【0005】
【特許文献1】
特開平7−8578号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、違う性質・物性を有する異なった2つの素材を使用しなければならない点については改善がなされないため、良好な吸汗性を判断する指標の1つである吸汗量については問題がない一方で、吸汗速度については前記基材および発泡弾性体層間で差違が生じてしまい、その結果、良好な吸汗性の発現は困難であった。また、基本的に2つの素材を積層する構造であり、かつその使用時においては瞬間的に過大な力がかかるために、経時的な使用において2つの素材が剥離してしまう畏れが指摘される。
【0007】
【発明の目的】
この発明は、従来の技術に係るグリップ用被覆体に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、抽出法を用いて得られるポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体を材質とすることで、単一素材で吸汗性や通気性とクッション性とを併せ持つグリップ用被覆体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を克服し、所定の目的を達成するため、本発明に係るグリップ用被覆体は、テニスラケット等のグリップを被覆するグリップ用被覆体であって、
ポリエステル系熱可塑性樹脂と、水溶性気泡形成材と、滑材として作用する水溶性高分子化合物とを加熱状態下で混合して得られる混合物から、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を水で抽出除去して3次元連通気泡構造としたポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体からなることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係るグリップ用被覆体につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。前記グリップ用被覆体20は、図1に示す如く、ポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体を材質として、ラケット10の握り部分であるグリップ12を被覆し得る、例えばその両端または一端が開放された筒状物として成形されたものである。前記グリップ用被覆体20の内部寸法は、前記グリップ12の外形寸法と略同一または若干小さく設定されている。そして前記グリップ用被覆体20は、ラケット10のグリップエンド12a側よりグリップ12に外挿され、着脱自在にグリップ12に被着されている。また、より強固に前記グリップ用被覆体20をグリップ12へ被着が必要な場合には、接着剤や両面テープ等をグリップ12とグリップ用被覆体20との間に介在させ、その接着力により貼着すればよい。
【0010】
以下に本発明に係るグリップ用被覆体20の理解に資するため、該グリップ用被覆体20の素材となるポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体につき説明する。従来、合成樹脂材料からグリップ用被覆体20を製造した場合、連通した多孔体とすることで、吸汗性や通気性に優れたグリップ用被覆体20が得られると考えられる。しかし、熱可塑性樹脂から多孔体を製造する一般的な方法である、主材料、すなわち骨格を形成する熱可塑性樹脂中に発泡剤を混入し、該発泡剤から発生した窒素等のガスにより気泡を形成させる、所謂化学的発泡法の場合、以下の問題が指摘される。すなわち、
▲1▼多数形成された前記気泡が、所謂独立気泡状態となってしまい、気泡相互間に吸汗性や通気性が得られない。
▲2▼また発生した気泡径を均一にする制御が難しく、数十μmといった微小径の気泡形成が困難であるため、該気泡径によって大きく変動する表面状態、すなわち表面摩擦係数や機械的強度等の得られる多孔体の各物性値を制御し得ず、結果として良好なグリップ性や触感等を併有できない。
▲3▼更に気泡率の制御も困難であるため、気泡率と密接に関係して変化する硬度、吸水性や通気性、弾性限界に至るまでの伸び率といったゴム特有の物性を好適に制御し得ない。
【0011】
本発明においては、その素材となるポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体を、所謂抽出法によって製造することで前述([0010])した問題を解消している。本発明における抽出法は、具体的には主材料である前記ポリエステル系熱可塑性樹脂に対して、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を加熱状態下で混練し、所要形状に成形した後、水に浸漬して該水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を抽出・除去することで、該ポリエステル系熱可塑性樹脂からなる骨格内に、微細な気泡を3次元的に連通させたポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体(以下、単に多孔体と云う。)を得るものである。なお前記ポリエステル系熱可塑性樹脂は、加熱成形性が高い樹脂の特徴と、ゴム部材の如き弾力性等(以下、ゴム物性と云う)を発現する特徴とを併有する物質である。
【0012】
なお前記ポリエステル系熱可塑性樹脂、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物が混合・混練された混合物においては、該ポリエステル系熱可塑性樹脂をマトリクスとし、その中に該水溶性気泡形成材が分散して浮島構造で存在し、かつ該水溶性高分子化合物が該水溶性気泡形成材の周囲を取り巻くように存在した構造となっていると考えられる。従って、前記水溶性気泡形成材同士は、前記水溶性高分子化合物により連続的に接続された形で、マトリクスであるポリエステル系熱可塑性樹脂中に存在し、これにより、該水溶性気泡形成材が互いに隣接・接触的に存在していない場合であっても、該水溶性高分子化合物の抽出を介してその殆ど全量が抽出され、抽出率は少なくとも95%以上となっている。すなわち、本発明に係るグリップ用被覆体20をなすポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体は、混練される前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の混合量により気泡率を決定することが可能であり、かつ該水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を除去することで形成される気泡は殆ど繋がった、すなわち連通度の高い3次元連通気泡を有する構造となる。
【0013】
前記多孔体は抽出法で製造されるため、抽出されて気泡を形成する前記水溶性気泡形成材の粒径および/または混合量を調整することが可能である。すなわち得られる多孔体の気泡径および/または気泡率を制御し得る特徴を有する。このため、得られる多孔体における硬度、吸水性およびゴム物性といった各物性値を任意に制御し得るものである。
【0014】
前記水溶性気泡形成材としては、水に可溶性であって、かつ前記ポリエステル系熱可塑性樹脂が熱溶融する際に熱的に安定な物質であれば各種のものが使える。例えば無機物としては、NaCl、KCl、CaCl2、NH4Cl、NaNO3、NaNO2等が挙げられる。有機物としては、TME(トリメチロールエタン)、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、しょ糖、可溶性でんぷん、ソルビトール、グリシンまたは各有機酸(リンゴ酸、クエン酸、グルタミン酸またはコハク酸)のナトリウム塩等が挙げられる。
【0015】
前記水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールジアセテート等のポリエチレングリコール誘導体、その他水に溶解し、樹脂に対して粘度を低下させる働きをする化合物であれば如何なるものであっても使用可能である。殊にポリエチレングリコールは、メルトフローが高く、かつ水溶性が高いので好適に使用し得る。また水溶性気泡形成材として有機系物質を選択した場合は、該水溶性気泡形成材の抽出・除去を促進する作用も確認されている。更に押出成形方法で成形を行なう場合、前記ポリエチレングリコールの分子量は2,000〜30,000、好ましくは5,000〜25,000、更に好ましくは15,000〜25,000の範囲が好適であるとの知見が得られている。
【0016】
前記ポリエステル系熱可塑性樹脂と、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物(水溶性物質)との混合割合は、体積百分率で10:90〜40:60の範囲内が好ましく、殊に12:88〜35:65の範囲内が好適である。前記ポリエステル系熱可塑性樹脂が体積百分率で10%未満の場合には、水溶性物質の抽出・除去時に成形体自体が分離してしまう。一方、前記ポリエステル系熱可塑性樹脂が体積百分率で40%以上の場合、すなわち該ポリエステル系熱可塑性樹脂以外の前記水溶性物質が体積百分率で60%未満の場合には、成形体内に充分な数の気泡が形成されなくなってしまう。なお本実施例において成形体とは、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を抽出除去していない状態の得るべき筒状物等に成形された混合物を指す。
【0017】
前記水溶性気泡形成材と水溶性高分子化合物との混合割合は、体積百分率で45:55〜95:5の範囲内に設定される。前記水溶性気泡形成材が体積百分率で45%未満の場合には、3次元的に連通した発泡構造が得られなくなり、95%を越える場合には、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の抽出割合が低下して充分な気泡率、すなわち連通度が得られなくなる。殊に前記気泡形成材と高分子化合物との混合割合は、体積百分率で65:35〜88:12の範囲内が好適である。
【0018】
前述した如く、骨格を形成するポリエステル系熱可塑性樹脂の割合は、体積百分率で10〜40%、すなわち気泡率は60〜90%とされる。この気泡率は、得られる多孔体の密度、伸び率および硬度等の各物性値に大きな影響を与える。基本的には、100−気泡率(%)=骨格(%)の存在割合として捉えられるため、気泡率が体積百分率で80%であれば骨格の存在割合は20%、従って前述の各物性値は、基本的にポリエステル系熱可塑性樹脂の20%程度の値を示すことになる。そして前記各物性値は、前述した骨格の存在割合の他、前記気泡の大きさ、すなわち気泡径によって大きな影響を受ける。具体的には、前記骨格の存在が同一である場合、前記多孔体の気泡径が20〜200μmの間に設定される際に、本発明に係るグリップ用被覆体20として好適な各物性値を示す。
【0019】
本発明に係るグリップ用被覆体20において、前記硬度はクッション性を示す指標の1つであり、また前記通気性は、運動等により使用者がかいた汗を吸収する吸汗性における判断指標の1つである吸汗量と密接に関連している。すなわち、良好な通気性を示すことで、グリップ用被覆体20に吸収された汗は外方に排出され、これにより多孔体の示すみかけの吸汗量は増大する。そしてゴム物性については、得られる多孔体の伸び率が一定以内であればその形状が復元する、といった所謂弾性変形が可能な伸び率により評価され、前記グリップ用被覆体20の形状がグリップ12に対して、該グリップ用被覆体20を引き延ばすことで被着する筒状物に形成される場合には、取り扱い性の点から重要な指標となる。すなわち前記抽出法により製造される多孔体からなるグリップ用被覆体20は、その気泡径等を制御することで、クッション性、吸汗性および取り扱い性を良好とすることが可能である。
【0020】
この他、前記気泡径および/または気泡率を任意に制御することで、その密度、すなわち軽量なグリップ用被覆体20とし得る。また、前記グリップ用被覆体20は、該グリップ用被覆体20を介してラケット10を握った際に、使用者の手と該グリップ用被覆体20が滑らない、所謂グリップ力が必要である。このグリップ力は前記グリップ用被覆体20の素材が持つ摩擦係数に起因して、この摩擦係数が高い程、手とグリップ用被覆体20との間に高いグリップ力を与える。そして、本発明に係るグリップ用被覆体20は、この摩擦係数を多孔体の主材料であるポリエステル系熱可塑樹脂の種類を選択する、例えば商品名ペルプレン(東洋紡製)等を用いることで最適化し得る。またグリップ12を握った際に、手のひらに接触する多孔体の表面における接触面積によって大きく影響を受ける肌触り等の触感についても、該接触面積を前記気泡径および/または気泡率を制御させることで最適化することができる。この接触面積の減少は、同時にグリップ用被覆体20の摩擦性を低下させる効果があるので、前述したグリップ用被覆体20の素材に起因する摩擦係数と勘案して調整する。
【0021】
前記グリップ用被覆体20に必要とされる硬度は、ラケット10のグリップ12の材質である木や樹脂自体の硬さを緩和すると共に、ラケット10でボールを打った時等の衝撃を緩和するための高いクッション性を発現するべく、少なくともアスカーC硬度が90以下に設定されている。そして前記多孔体は、前述の気泡率の範囲内であれば、その気泡径が20μm以上でアスカーC硬度90以下を達成し得る。前記気泡径が20μm未満であると、得られる多孔体がほぼソリッド体と同様の物性を示してしまい、前記アスカーC硬度が90を越えてしまう。
【0022】
また前記通気性については、基本的に前記グリップ用被覆体20の材質である抽出法により製造されるポリエステル系熱可塑性樹脂は、前述([0012])の如く、3次元連通気泡構造を有しているため良好な物性を有しているといえる。殊に前記水溶性気泡形成材の粒径が小さい程、所謂毛細管現象による吸汗効果も期待できる。なお前記吸汗性としては、人体に接触的に使用する状態を想定した場合、局所的な発汗量は運動時においても1g/cm2/min以下程度であるので、前記多孔体であれば充分な吸汗・発散効果が期待できる。そして本発明に係るグリップ用被覆体は、このように好適な吸汗性を示すので、汗によるグリップ用被覆体20の摩擦係数が低下することに起因するグリップ力の低下を防止できる。
【0023】
なお、前記グリップ用被覆体20をなすポリエステル系熱可塑性樹脂内に、各種の機能性を発現させる、所謂第3成分として、触感等を向上させる、シルク、コットン、シノン、ウールまたは麻等の各種天然繊維或いはナイロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエステル等の化学合成繊維を混合するようにしてもよい。この他、前記第3成分としては、親水性を発現させて吸水性を向上させる、例えばエチレンオキサイド等の分子構造内に水酸基を有する物質の混合も可能である。
【0024】
そして、ゴム物性を有するポリエステル系熱可塑性樹脂の多孔体からなる前記グリップ用被覆体20は、グリップ12に被着する際、その開口部20aを該グリップ12の大きさおよび形状にあわせて適宜に延ばすことが可能である。このようなゴム物性を備えることで、グリップ12への高い密着性に伴うズレの防止と、容易な装着性と汎用性とが両立可能となっている。殊に汎用性に関しては、グリップ12の大きさおよび形状といった製品の種類による違いに対して広く対応するものである。
【0025】
前記ゴム物性については、前記気泡径を200μm以下の範囲に設定することで達成される。前記気泡径がこの数値の範囲であれば、大きな力をかけることなく引き延ばせるといった良好な取り扱い性を示す。ここで良好な取り扱い性を表す物性指標は、0.8MPa以下の引張応力により少なくとも100%以上の伸び率を示すことと規定される。その理由は、使用者の力でも1MPa程度の引張応力をかけることは容易であり、しかも100%程度の伸び率を示す多孔体からなる筒状体のグリップ用被覆体20であれば、実際の使用に際してもほぼゴム部材と同様の取り扱いが可能で、該グリップ用被覆体20を引き延ばしてグリップ12を被着させ得るためである。
【0026】
これらのことから、前述の硬度に係る条件([0021])と、ゴム物性発現のための条件とから、本発明に係るグリップ用被覆体20をなす多孔体の気泡径は、20〜200μmの範囲に設定される。
【0027】
また前述したグリップ用被覆体20はグリップ12への被着を容易にするため、該グリップ用被覆体20の厚さは2mm以下が好適である。このような厚さは、本発明に係るグリップ用被覆体20をなす多孔体の抽出法による製造においては、容易に設定可能である。更に後述([0033])するが、前記グリップ用被覆体20の厚さは薄い方が、その製造時間等は短縮、すなわち製造コストを低減し得る。後述([0040])するシート状物に成形したグリップ用被覆体30の場合、この厚さが2mmを越えると、グリップ用被覆体30,30同士の一部を重ね合わせて巻き付けるため、グリップ12を握った際に重ね合わせ部分の厚みが使用者に違和感を与えてしまう。
【0028】
【製造方法の一例】
本発明に係るグリップ用被覆体20を製造するには、図2に示す如く、先ず気泡を形成する水溶性気泡形成材或いは該気泡形成材および水溶性高分子化合物に分級を実施して所要範囲の粒子寸法とし、分級された該気泡形成材或いは気泡形成材および高分子化合物と、骨格を形成する熱可塑性樹脂とを所定の機器を使用して、混合・混練して加熱混合物とし、これに押出成形や射出成形等を施して所定形状とされた成形体を水または所定温度の温水に浸漬することで、前記水溶性気泡形成材および高分子化合物を抽出・除去して、微細な気泡が3次元連通気泡構造を構成するグリップ用被覆体20を得るものである。なお混合時の粘性が高く混合が困難な場合には、前述した混合に先立ち予混合を施すようにしてもよい。殊に所要の機能を発現させる第3成分([0023]参照)を使用した際には、予混合の併用が望ましく、主材料となるポリエステル系熱可塑性樹脂と該第3成分との予混合、および/または全物質の予混合が考えられる。
【0029】
また前記水溶性高分子化合物についてその粒径を制御しない場合、必要とされる分級が不要となり製造コストを低減し得る。また前記水溶性高分子化合物は、マトリクスとなるポリエステル系熱可塑性樹脂内で加熱により溶解し、前記水溶性気泡形成材を均質に分散させる、所謂滑材として作用するため、粒径制御をなさないことによる悪影響は小さい。
【0030】
前記水溶性気泡形成材或いは該気泡形成材および水溶性高分子化合物の分級については、その分級すべき粒子寸法にもよるが、一般的に必要とされる粒子寸法の上限を設定した篩いにより篩い分級を実施し、次いで必要とされる粒子寸法の下限を設定したエアー分級を実施して、設定された範囲の粒子寸法物を得るものである。基本的に篩い分級はエアー分級より時間当たりの分級効率が高く、かつ細かい粒子寸法では目詰まりが心配されるので、粒子寸法の上限を篩いで分級することで短時間にかつ目詰まりのない効率的な分級を実施し得るので、下限の前記エアー分級に先立って行なった方が効率がよい。
【0031】
前述のポリエステル系熱可塑性樹脂、気泡形成材および高分子化合物の混合・混練には、1軸式または2軸式押出機、ニーダ、コニーダ、バンバリーミキサ、ヘンシェル型ミキサ或いはロータ型ミキサその他の混練機等の混練すべき各物質を充分に混合させ得るものが好適に使用される。この混練について、特殊な装置は必要なく、また混練速度等も限定されない。混練時の温度は使用する前記ポリエステル系熱可塑性樹脂等の溶融点によって適宜設定されるが、本発明においては、このポリエステル系熱可塑性樹脂の溶融点で前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物が溶融または昇華することがないので、如何なる温度であっても設定可能となっている。
【0032】
また前記ポリエステル系熱可塑性樹脂、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の混合・混練の混練時間は、該各物質の物性により左右されるが、結果として充分に混合・混練されればよく、通常では30〜40分程度で充分である。この際に長時間の混練は、グリップ用被覆体20をなす多孔体の骨格を形成する前記ポリエステル系熱可塑性樹脂の物性的な劣化を引き起こす原因となるので注意が必要である。混練された原料は、物性的に押出、射出、プレスまたはローラー等により所要形状に成形が可能であるが、前記筒状体のグリップ用被覆体20の場合、量産性が高い押出成形による成形が好適である。
【0033】
なお、前記ポリエステル系熱可塑性樹脂、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物から得られる混合物は、好適には2mm以下の厚さに成形されるが、本発明に係る抽出法、具体的には乾式抽出法の採用下においては何等問題は生じない。これは前記乾式抽出法の一般的な特徴、すなわち▲1▼成形時には気泡となるべき前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物が、骨格となるポリエステル系熱可塑性樹脂内に混合された、所謂ソリッドな状態である点、▲2▼混合物の成形の際に施す加熱の度合いによって、骨格をなすポリエステル系熱可塑性樹脂の粘度を任意とし得るため、成形時に重要とされる該混合物の流動性を制御し得る点、による。この▲1▼および▲2▼の特徴により、2mm以下と薄く成形する際にも形状的な欠陥の発生を抑制し、好適な製造が可能となっている。
【0034】
なお、前述の高い成形容易性を利用することで、所定形状への成形の際に、前記グリップ用被覆体20の表面にエンボス加工等の装飾などを施すことも可能である。このエンボス加工を施すことで、▲1▼前記グリップ用被覆体20のデザイン性を高め、また▲2▼該グリップ用被覆体20を指等が引っ掛かる形状とすることでグリップ力を高めると共に、▲3▼形状的に該グリップ用被覆体20の接触面積を制御し、該接触面積によって大きく影響を受ける肌触り等の触感についても最適化し得る、等が可能となる。
【0035】
各成分を混合して所要形状に成形されたグリップ用被覆体20は、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を、溶媒である水に所定時間(例えば12〜24時間、グリップ用被覆体20の形状・厚さ等にもよる)浸漬させることで抽出・除去される。この浸漬時間については、抽出すべき前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の粒子寸法が制御されていることにより、制御されていない場合に較べて短縮がなされている(理由は[0037]に記載)。
【0036】
この際の浸漬は、どのような方法であってもよいが、抽出前の前記グリップ用被覆体20全体を水に接触させる水中浸漬による抽出・除去が好適である。このとき使用される水の温度についても、殊に限定がなく室温程度のものであってもよいが、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物の効率的な除去のために、15〜60℃の温水を利用してもよい。
【0037】
また前記抽出による水溶性気泡形成材等の抽出除去については、前記ポリエステル系熱可塑性樹脂および該気泡形成材等を混合した際に、抽出法の特性上、その構造が六方最密充填となることから、該気泡形成材等の粒子寸法の数値範囲が、0.16×n〜6.45×n(ここでnは自然数)に収まるようにすることで、図3に示す如く、結晶構造的(図3(a)参照)に抽出不可能な、すなわち浮島構造的な該気泡形成材等がポリエステル系熱可塑性樹脂中に存在する(図3(b)参照)ことがなくなると考えられる。従って、前記グリップ用被覆体20をなす多孔体の気泡径を設定する場合には、該気泡径の範囲が前述の数値の範囲内に収まるようにすることが望ましく、このような範囲内とすることで前記水溶性気泡形成材等の量的および時間的に効率のよい抽出が可能となる。
【0038】
本発明に係るグリップ用被覆体20を使用した場合、使用者がかいた汗等は、前記グリップ用被覆体20に形成されている微細な気泡の作用により該グリップ用被覆体20に吸収され、該気泡が構成する3次元的連通気泡構造により外方に効率的に発散されるため、該グリップ用被覆体20の手との当接面は常に好適な肌触りを維持することができると共に、該グリップ用被覆体20の当接面において摩擦係数の低下に起因するグリップ力の低下を防ぐことができる。また本発明に係るグリップ用被覆体20を介してラケット10を握ることで、前述した多孔体の好適な肌触り等の触感を使用者に与え得ると共に、ポリエステル系熱可塑性樹脂が持つグリップ力を併せ持つことが可能である。更に前記グリップ用被覆体20は、軽量かつ適度なクッション性を有しているので、ボールを打つ際の衝撃を緩和し、長時間の使用に際しても使用者の手に負担を与えない。
【0039】
この他、主材料である前記ポリエステル系熱可塑性樹脂には、所要の機能性を発現する前記第3成分の添加も容易であるため、例えば帯電防止材の添加による静電気の除去、色材の添加による着色等も可能であり、ラケットのデザインに応じてカラーバリエーションを増やすことも可能である。なお、前記摩擦係数については、本発明のグリップ用被覆体20のようなグリップ力が要求される物品は、その摩擦係数が0.8〜0.9に設定されており、所謂「つっぱり感」や「ネバつき感」が高く、該触感が良好とはいえない。しかし、本発明に係るグリップ用被覆体20の場合、前記気泡径および/または気泡率を制御し、手との当接面の接触面積を調整することで、良好な触感と適度な摩擦係数に起因するグリップ力との両立が期待できる。
【0040】
【変更例】
これまでに、筒状物に成形されたグリップ用被覆体20について説明したが、本発明に係るグリップ用被覆体20はこのような形状に限定されるものではなく、例えば図4に示すグリップ用被覆体30の如く、グリップ12に任意に巻き付け可能なシート状物として成形されたもの、所謂グリップテープであってもよい。このグリップ用被覆体30は、グリップ12にグリップエンド12a側よりグリップ用被覆体30,30同士の一部が重なるように巻き付けられている。この際、グリップ用被覆体30は、引き延ばして張力をかけつつグリップ12に巻き付けられ、必要に応じて接着剤や両面テープの接着力により該グリップ12に貼着されることで、該ラケット10の使用時におけるズレ等を抑制するようになっている。このようなシート状のグリップ用被覆体30を使用した場合、巻き付けるグリップ用被覆体の重ね合わせ幅の調整が可能であり、使用者の好みにあわせてグリップの太さ等を調整し得る。
【0041】
【実験例】
以下に、本発明に係るグリップ用被覆体の各物性値を示す実験例を示す。このグリップ用被覆体は、ポリエステル系熱可塑性樹脂、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を、下記の表1に示す内容(気泡形成材径および混合割合)で混合し、得られた混合物を汎用の押出機または射出成形機を使用して所要形状に成形し、この成形体に加工を施すことで所要の試験片(幅100mm、長さ100mm、厚さ1.7mm)とした後、水による48時間の抽出処理および熱風乾燥機による乾燥処理を施して得られるものである。得られた実施例1〜4および比較例1〜3の各試験片について、目視または各種測定機器を使用して成形性(成形可能:○、不可能:×)、引張強度(MPa)、伸び率(%)および硬度(アスカーC)を夫々観察・測定した。そして更に得られた試験体をカット等により加工し、加工試験体を接着剤等によりテニスラケットのグリップに接着することでグリップ用被覆体を形成し、試験者がこのラケットでボールを実際に打つことで、その触感等を官能(良好:○、不良:×)により評価した。使用した機器および原料については下に記す。なお比較例として、ポリエステル系熱可塑性樹脂だけからなるソリッド体(比較例1)、多孔体の骨格を形成するポリエステル系熱可塑性樹脂の混合割合を前述[0018]の範囲外としたもの(比較例2および3)を用いた。また参考的に引張応力0.8MPa時の伸び率(%)と、伸び率(%)が100%時の引張応力(MPa)とを併せて示した。
【0042】
(使用機器および使用原料)
・使用機器:押出機ラボプラストミル(東洋精機製)
・使用原料:
ポリエステル系熱可塑性樹脂:商品名 ペルプレン;東洋紡製
水溶性気泡形成材:商品名 うず塩(NaCl);鳴門塩業製
水溶性高分子化合物:商品名 PEG20000(PEG);三洋化成製
【0043】
【表1】
【0044】
(結果)
結果を上記の表1に併せて示す。この表1から、基本的に骨格を構成する物質としてポリエステル系熱可塑性樹脂を使用すると共に、多孔体として成形等して得ることが可能な混合割合、すなわち該ポリエステル系熱可塑性樹脂と、水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物(水溶性物質)との混合割合が体積百分率で10:90〜40:60の範囲内であれば本発明に係る内容、すなわち3次元連通気泡構造を有し、グリップ用被覆体として好適に利用し得る多孔体が得られた。
【0045】
また前記水溶性気泡形成材の大きさ、すなわち粒径を20〜200μmの範囲とすることで、20μm未満または200μmを越える場合に較べて、容易に100%程度の伸びを発現する伸び率と、クッション性(アスカーC硬度)とを併有することが確認された。なお実施例3および4については、引張強度が0.8MPaに至らなかったため、参考として記載した「引張応力0.8MPa時の伸び率(%)」は測定不能であった。
【0046】
【発明の効果】
以上に説明した如く、本発明に係るグリップ用被覆体によれば、その骨格となる素材として加熱成形性が高い樹脂性と、ゴム物性を発現するゴム性とを併有するポリエステル系熱可塑性樹脂を用い、気泡率および気孔径の制御が容易である抽出法で製造された3次元連通気泡構造を有するように製造したので、成形性、摩擦係数および吸水性といった各物性を好適に設定できる。従って、本発明に係るグリップ用被覆体は、使用者の汗等を吸い取る吸汗性が良好であり、該汗等による手との当接部における摩擦係数の低下に起因する滑りを防止し得る。そして前記グリップ用被覆体は、素材の摩擦係数に起因する良好なグリップ力と気泡率および気泡径の制御による優れた肌触り等の触感とを併有することができる。更に、軽量かつ良好なクッション性を示すので、長時間の使用に際して、使用者の手首等に掛かる負担を低減し得る。
【0047】
また前記グリップ用被覆体をグリップに被着する筒状物として構成した場合、多孔体をなすポリエステル系熱可塑性樹脂のゴム物性により、例えば該グリップ用被覆体の内部寸法がグリップの外形寸法より小さい、またはグリップの外形と異なっていても装着でき、異なる種類のグリップに対応することが可能である、といった長所を有する。また前記グリップ用被覆体をシート状物とした場合、巻き付けるグリップ用被覆体の重ね合わせ幅を使用者が調整することで、使用者の好みにあわせてグリップの太さを調整し得る。
【0048】
更に抽出法を用いた際のポリエステル系熱可塑性樹脂には、色材等の、所謂第3成分を均質に分散させつつ容易に混合可能であるので、シルク等を混合させて触感を向上させる、使用者の嗜好にあった色彩とする、といったことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適な実施例に係るグリップ用被覆体を示す概略斜視図である。
【図2】実施例に係るグリップ用被覆体を製造する製造工程の一例を概略的に示す工程図である。
【図3】グリップ用被覆体をなすポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体の結晶構造的な内部構造(図3(a))および実際の内部構造(図3(b))を示す概略図である。
【図4】変更例に係るグリップ用被覆体の巻き付け状況を示す正面図である。
【符号の説明】
10 ラケット
12 グリップ
20 グリップ用被覆体
Claims (9)
- テニスラケット(10)等のグリップ(12)を被覆するグリップ用被覆体(20)であって、
ポリエステル系熱可塑性樹脂と、水溶性気泡形成材と、滑材として作用する水溶性高分子化合物とを加熱状態下で混合して得られる混合物から、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を水で抽出除去して3次元連通気泡構造としたポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体からなる
ことを特徴とするグリップ用被覆体。 - 前記ポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体は、前記混合物の時点で所要形状に成形される請求項1記載のグリップ用被覆体。
- 前記ポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体は、前記グリップ(12)に着脱自在に被着する筒状物として成形される請求項2記載のグリップ用被覆体。
- 前記ポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体は、前記グリップ(12)に任意に巻き付け可能なシート状物として成形される請求項2記載のグリップ用被覆体。
- 前記3次元連通気泡構造における気泡率は、体積百分率で60〜90%の範囲に設定される請求項1〜4の何れかに記載のグリップ用被覆体。
- 前記3次元連通気泡構造における気泡径は、20〜200μmに設定される請求項1〜5の何れかに記載のグリップ用被覆体。
- 前記ポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体の硬度は、アスカーC硬度で90以下に設定される請求項1〜6の何れかに記載のグリップ用被覆体。
- 前記ポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体は、0.8MPa以下の引張応力により少なくとも100%以上の伸び率を発現し得るようにした請求項1〜7の何れかに記載のグリップ用被覆体。
- 前記ポリエステル系熱可塑性樹脂多孔体は、厚さが2mm以下に設定される請求項1〜8の何れかに記載のグリップ用被覆体。
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