JP2004139853A - 正極活物質及び非水電解質二次電池 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】層状構造を有し、Li及びNiを構成元素とするリチウム複合酸化物を含有し、全Li量の50%を引き抜いたときにXAFS法で測定しうるニッケル原子のK殻吸収端のジャンプ高さの50%の位置のシフト幅が1.0eV以上であるリチウムイオン非水電解質二次電池用の正極活物質である。
リチウムイオンをドープし且つ脱ドープできる材料を正極活物質又は負極活物質とする正極及び負極と非水媒体に電解質を分散して成る非水電解質を備え、上記正極活物質を用いたリチウムイオン非水電解質二次電池である。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解質二次電池用の正極活物質に関する。詳しくは、高温作動時の特性に優れるリチウムイオン非水電解質二次電池を実現し得る正極活物質、及びこれを用いたリチウムイオン非水電解質二次電池に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、カメラ一体型VTR、携帯電話及びラップトップコンピュータ等のポータブル電子機器が多く登場し、急速に需要を拡大している。これらの電子機器の小型軽量化の進行に伴い、ポータブル電源として、電池、特に二次電池について、エネルギー密度を向上させるための研究開発が活発に進められている。中でも、リチウムイオン二次電池は、従来の水系電解液二次電池である鉛電池、ニッケルカドミウム電池と比較して大きなエネルギー密度が得られるため、その需要は大きく、また、耐環境性を向上させることによる適用範囲の拡大も期待されている。
【0003】
リチウムイオン電池に使用される正極活物質としては、層状岩塩構造を有するリチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、及びスピネル構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物等が実用化されている。これらの正極活物質のそれぞれに長所短所があるが、現時点では特にリチウム・コバルト複合酸化物が容量、コスト及び熱的安定性等のバランスが最も良く、幅広く利用されている。一方、リチウム・マンガン複合酸化物は、容量が低く高温保存特性が若干劣る。また、リチウム・ニッケル複合酸化物は、結晶構造の安定性が若干低く、サイクル特性や耐環境性に劣るという欠点がある。
【0004】
一方、リチウム・ニッケル複合酸化物は、原料の価格及び供給安定性の面ではリチウム・コバルト複合酸化物より優れており、今後が大いに期待され研究が進められている。
例えば、特開平5−283706号公報や特開平8−37007号公報では、ニッケルの一部を他の元素で置換することによりサイクル特性を向上させる方法が提案されている。また、特開平7−192721号公報では、特定の金属塩等を添加する方法が提案されている。更に、特開平10−302768号公報では、正極合成中のバインダーを規定する方法等が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の正極活物質を用いても、得られるリチウムイオン二次電池の耐環境性、特に高温環境下での特性が必ずしも十分とは言えず、更なる改良の余地があった。
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高容量且つ高温時(常温〜100℃程度)の特性を大きく向上させたリチウムイオン非水電解質二次電池を実現できる正極活物質、及びこの正極活物質を用いたリチウムイオン非水電解質二次電池を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、X線吸収端微細構造解析(XAFS)法による充放電時のニッケルイオンの変化量が所定範囲内にあるリチウム複合酸化物を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウムイオン非電解質二次電池用の正極活物質は、層状構造を有し、XAFS法で測定したニッケル元素のK殻吸収端のジャンプ高さの50%(全リチウム量の半分)の位置のシフト幅が、1.0eV以上であるリチウム・ニッケル複合酸化物を含有するものである。
【0008】
また、本発明のリチウムイオン非水電解質二次電池は、リチウムイオンをドープし且つ脱ドープできる材料を正極活物質とする正極と、リチウムイオンをドープし且つ脱ドープできる材料を負極活物質とする負極と、非水媒体に電解質を分散して成る非水電解質とを備える二次電池であって、
上記正極活物質が、全リチウム量の50%を引き抜いたときに、XAFS法で測定しうるニッケル原子のK殻吸収端のジャンプ高さの50%の位置のシフト幅が1.0eV以上であるリチウム複合酸化物を含有するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の正極活物質について詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を示すものとする。
上述の如く、本発明の正極活物質は、リチウムイオン非水電解質二次電池に用いられるものであり、層状構造を有し、少なくともリチウム及びニッケルを構成元素とするリチウム複合酸化物を含有して成る。
【0010】
かかるリチウム複合酸化物は、全リチウム量の50%を引き抜いたときに、X線吸収端微細構造解析(XAFS)法で測定しうるニッケル原子のK殻吸収端のジャンプ高さの50%の位置のシフト幅が1.0eV以上である。これより、高容量で高温作動時の耐性に優れた正極活物質が得られる。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、LiNiO2等の、リチウム、ニッケルを主成分とし、リチウムを挿入離脱することが可能で層状構造を有する物質が好ましい。また、構成元素の一部を異種元素で置換した公知の材料も使用可能である。
このような構成により、リチウム・ニッケル複合酸化物におけるニッケルイオンの酸化状態の耐環境性が向上する。
【0011】
ここで、X線吸収微細構造解析(X−ray absorption fine structure;XAFS)について説明する。
一般に各元素には、内殻電子の電子遷移に起因して固有のエネルギーのX線を吸収する性質がある。即ち、ある元素についてX線吸収スペクトルを測定すると、あるエネルギー以上で急激に吸収が大きくなる。これは吸収端と呼ばれている。この吸収端の近傍の微細構造はその元素の存在形態や周囲の環境を反映するため、この構造を解析することにより、電子状態や局所構造の解析が行われている。
特に、吸収スペクトルからバックグラウンドを差し引き、吸収端のジャンプ付近のごく近傍の数10eV程度の範囲を拡大して得られる構造はX線近吸収端構造(X−ray absorption near edge structure;XANES)と呼ばれ、主に中心元素の電子状態が反映される。LiNiO2においても、充電に伴い、吸収端が高エネルギー側にシフトすることが指摘されている(例えばDENKI KAGAKU,66(1998)968.など)。
【0012】
本発明は、上述のリチウム遷移金属複合酸化物のNi−K殻吸収端のXANESスペクトルにおいて、吸収端のジャンプ高さの50%のエネルギー値に着目した場合、初期状態と、充電によりリチウムを50%引き抜いた状態(以下「50%充電状態」とする)との間で、エネルギー値のシフト幅が1.0eV以上であることを規定するものである。
一般にリチウムニッケル酸化物では酸素上の電子が充放電に大きく関与していることが知られており(Journal of Power Sources,97−98(2001)326.など)、充電時には酸素上の電子が失われる。これにより、充電時にリチウムニッケル酸化物が高温に曝された場合、酸素が離脱して活物質の分解、ひいては容量の劣化を引き起こす。即ち、容量劣化を抑制するためには、酸素ではなくニッケル上の電子が減少することが望ましい。
従って、本発明では、XANESスペクトルの変化を指標として、ニッケル上の電子状態の変化が大きいリチウム複合酸化物を正極活物質として使用する。
【0013】
また、本発明で用いるリチウム複合酸化物は、マンガン(Mn)、チタン(Ti)のいずれか一方又は双方を更に含有することが好ましい。これらを含有することにより、初期状態と50%充電状態との間でエネルギー値のシフト幅をより大きくすることができる。
【0014】
次に、上述したリチウム複合酸化物の製造方法について説明する。
かかるリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属源となるNi、Co、Mn及びTiなどの水酸化物を各組成に応じて調整、混合し、これにリチウム源となるLiOHを混合し、酸素雰囲気中600〜1100℃で焼成することにより得られる。
この場合、使用できる遷移金属源の出発原料は上記のものに限定されず、遷移金属の炭酸塩、硝酸塩及び硫酸塩なども使用できる。また、複数種の遷移金属を含む複合遷移金属の水酸化塩や炭酸塩なども使用できる。
一方、リチウム源の出発原料としては水酸化物以外にも、Li2O、Li2O3及びLiNiO3などが使用できる。
【0015】
次に、本発明のリチウムイオン非水電解質二次電池について説明する。
上述の如く、この非水電解質二次電池は、上記のリチウム複合酸化物を正極活物質とする正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な材料を負極活物質とする負極と、非水電解質とを備える。
【0016】
ここで、上記正極活物質に含まれるニッケルは、正極活物質の総量に対してモル比率で5〜40%であることが好適である。この場合は、リチウムイオンの吸蔵・放出に有利な結晶構造、電子状態となり易いので有効である。なお、この範囲から外れると充放電容量が大きく低下することがある。
また、負極活物質としては、対リチウム金属2.0V以下の電位で電気化学的にリチウムを吸蔵・放出(ドープ・脱ドープ)することができるものが望ましく、その形状や種類には依存しない。例えば、難黒鉛化性炭素、熱分解性炭素類、コークス類(ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス)、黒鉛類(天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト)、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体(フェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成したもの)、炭素繊維、活性炭及びカーボンブラック類などが使用可能である。
またこれ以外にも、リチウムとアルミニウム、鉛、銅及びインジウム等とのリチウム合金や酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズなどの比較的電位が卑な電位でリチウムを吸蔵・放出できる金属酸化物や金属間化合物を形成する材料、同様にリチウムを吸蔵・放出できる窒化物、更にリチウムを吸蔵・放出できるポリアセチレン、ポリピロール等のポリマーも使用可能である。
【0017】
なお、上述した炭素質材料や合金材料などへのリチウムのドープは、電池作製後に電池内で電気化学的に行ってもよいし、電池作製後又は電池作製前に、正極又は正極以外のリチウム源から供給して電気化学的にドープしてもよい。また、材料合成の際にリチウム含有材料として合成し、電池作製時には負極活物質に含有されている状態としてもよい。
【0018】
本発明のリチウムイオン非水電解質二次電池において、正極又は負極は、代表的には、帯状乃至は矩形をなす集電体の両面に、上記の各活物質と結着剤を含む正極合剤又は負極合剤を被覆した正極合剤層又は負極合剤層を形成することにより作製できる。
ここで、集電体としては、集電機能を有する限り特に限定されず、形状的には、上記以外にも箔状、メッシュ及びエキスパンドメタル等の網状のものも用いられる。また、材質としては、正極集電体にはアルミニウム、ステンレス及びニッケル等が用いられ、負極集電体にはリチウムと合金を形成しない銅箔、ステンレス及びニッケル箔が用いられる。
また、正極合剤又は負極合剤は、上記の活物質以外にポリビニルピロリドン等の公知の結着剤や、必要に応じてグラファイト等の導電剤など公知の添加剤を混合して得ることができる。
正極合剤層又は負極合剤層の形成は、代表的には、集電体の両面に正極合剤又は負極合剤を塗布し、乾燥させることによって行われる。具体的には、結着材及び有機溶剤等を混合してスラリー状とした後、集電体上に塗布、乾燥して作成することができる。また、結着材の有無にかかわらず、活物質に熱を加えたまま加圧成型することにより、強度を付与した電極を作成することも可能である。
【0019】
更に、本発明においては、高容量化などの要請から、代表的には、上述の如き正極及び負極、セパレータを代表的には帯状乃至は矩形状に形成し、かかる正極シートと負極シートとの間にセパレータを挿入した積層体シートを形成し、この積層体シートを巻回することによって作製した巻回電極を用いて電池を構成できる。
なお、巻回の態様は特に限定されるものではなく、渦巻き状でも螺旋状でもよく、通常は多数回巻回して巻回電極を作製する。
【0020】
上記セパレータとしては、正極と負極とを分離して両者の物理接触による短絡を防止し得る機能を有すれば十分であるが、織布、不織布及び合成樹脂微多孔膜等が挙げられる。具体的には、微多孔性のポリエチレンやポリプロピレン製フィルムを用いることが好ましく、かかる微多孔性フィルムは高温で軟化して微孔を閉塞し、リチウムイオンの流出を抑制するので、過電流対策としても好適に使用できる。
なお、リチウムイオン伝導度とエネルギー密度の関係から、セパレータの厚みはできる限り薄い方が好ましく、代表的には50μm以下とすることが望ましい。
【0021】
次に、「非水電解質」については、本明細書では、電解質を非水媒体に分散乃至溶解したもの、及び固体電解質をいい、電解質をプロピレンカーボネートなどの非水溶媒に溶解した非水電解液の外、電解質をゲル状をなす非水分散媒(ポリフッ化ビニリデンなどのポリマー)に溶解したもの、及びリチウムイオン伝導性を有する固体電解質をいうものとする。
なお、かかる非水電解質は、電解質を非水溶媒に溶解した非水電解液と、電解質をゲル状をなす非水分散媒に溶解したゲル状電解質と、固体電解質とに大別できる。
【0022】
ここで、非水溶媒に溶解させ又はゲル状非水分散媒に分散させる電解質としては、各種リチウム塩、例えば、LiCl、LiBr、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCH3SO3、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2又はLiB(C6H5)4及びこれらの混合物を使用することができ、このうちでも特にLiPF6やLiBF4を使用することが好ましい。
【0023】
また、非水溶媒としては、従来の非水系リチウム電池と同様に非プロトン性溶媒、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、プロピオニトリル、アセトニトリル、アニソール、ジエチルエーテル、酢酸エステル、酪酸エステル及びプロピオン酸エステル等を挙げることができる。
特に、電圧安定性の観点からは、プロピレンカーボネートやビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが望ましい。また、このような非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
一方、ゲル状をなす非水分散媒としては、上記非水電解液を吸収してゲル化するものであれば種々の高分子が利用できる。例えば、ポリビニリデンフルオロライドやポリビニリデンフルオロライド−CO−ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素系高分子、ポリエチレンオキサイドや同架橋体などのエーテル系高分子、またポリアクリロニトリルなどを使用できる。特に酸化還元安定性から、フッ素系高分子を用いることが望ましい。これらポリマーの分子量としては、30万〜80万程度が適当である。
なお、ポリマーへの電解質の分散は、代表的には、電解質を非水溶媒に溶解した非水電解液にポリフッ化ビニリデン等のポリマーを溶解させ、ゾル化させることにより行うことができる。
【0025】
更に、固体電解質としては、リチウムイオン導電性を有する材料であれば無機固体電解質、高分子固体電解質いずれも用いることができる。無機固体電解質としては、窒化リチウム(Li3N)、ヨウ化リチウム(LiI)などの結晶質固体電解質や、LiI・Li2S・P2S6系ガラス及びLiI・Li2S・B2S6系ガラスなどリチウムイオン伝導性ガラスなどに代表される非晶質固体電解質等が挙げられる。また、高分子固体電解質としては、電解質塩とそれを溶解する高分子化合物から成り、その高分子化合物はポリエチレンオキサイドや同架橋体などのエーテル系高分子、ポリメタクリレートエステル系、アクリレート系などを単独又は分子中に共重合、混合して用いることができる。
【0026】
本発明の非水電解質二次電池は、代表的には、上述の巻回電極を非水電解質とともに金属製やプラスチックス製のケース等に収容して成るが、軽量性や薄さの観点からはフィルム状外装ケースに収容するのが好適であり、かかるフィルム状外装ケースを形成するラミネートフィルムの材料には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、溶融ポロプロピレン(PP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、ポリエチレン(PE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)及びポリアミド系合成高分子材料(商品名:ナイロン:Ny)等のプラスチック材料が用いられ、耐透湿性のバリア膜としてアルミニウム(Al)が用いられる。
【0027】
上記ラミネートフィルムの最も一般的な構成としては、外装層/金属膜(バリア膜)/シーラント層がPET/Al/PEのものを例示できる。また、この組み合わせに限らず、外装層/金属膜/シーラント層の構成において、Ny/Al/CPP、PET/Al/CPP、PET/Al/PET/CPP、PET/Ny/Al/CPP、PET/Ny/Al/Ny/CPP、PET/Ny/Al/Ny/PE、Ny/PE/Al/LLDPE、PET/PE/Al/PET/LDPE及びPET/Ny/Al/LDPE/CPP等の組み合わせを採用することもできる。なお、金属膜にAl以外の金属を採用し得ることはもちろんである。
【0028】
本発明のリチウムイオン非水電解質二次電池は、上述のように、本発明の正極活物質を含有する正極、負極及び非水電解質を必須の構成要件とするが、その電池形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型、角型、コイン型及びボタン型等の種々の電池形状を採用することができる。
また、より安全性の高い密閉型非水電解液二次電池を得るべく、過充電等の異常時には電池内圧上昇により作動して電流を遮断させる安全弁等の手段を備えたものであることが望ましい。
本発明の非水電解質二次電池は、上述した各種材料、特に特定の正極活物質をを用いて構成されているので、高容量で充放電サイクルに伴う容量維持率が高いものとなっている。
【0029】
次に、上述のリチウムイオン非水電解質二次電池の若干の実施形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本発明のリチウムイオン非水電解質二次電池の一例を示す断面図である。同図に示すように、この非水電解質二次電池は、帯状をなす正極11と負極12とをセパレータ13を介して積層し、更に巻回して形成した巻回電極体10をその上下に絶縁板2を取り付けた状態で電池缶1に収容して成る。
また、電池缶1には、電池蓋4がガスケット7を介してかしめて取り付けられており、この電池蓋4は正極リード15を介して正極11と電気接続され、この電池の正極として機能する。一方、負極12は負極リード16を介して電池缶1の底部と電気接続されており、電池缶1がこの電池の負極として機能する構成となっている。
【0030】
なお、この電池においては、巻回電極体10の中央部にセンターピン14が設けられ、電流の遮断機能を果たし、ディスク板5aを有する安全弁5は、電池内部の圧力が上昇すると、正極リード15と電気的に接続されている部位が変形して、電気的接続を解除する安全装置である。
また、安全弁5と電池蓋4との間に配置された感熱抵抗素子6は、最大定格電流値を超えた充放電状態や電池が高温に曝された際に電流を遮断する電池内の素子として機能する。
【0031】
図2に上述した帯状正極11の構造を示す。同図に示すように、この帯状正極11は、帯状の正極集電体11aの両面(表面及び裏面)に、正極合剤層11b及び11cを被覆して成る。
本発明の非水電解質二次電池においては、図示したように、正極合剤層11b及び11cの端部同士を、この帯状正極11の両方又は一方の端部において長手方向に不揃いな配置とし、後述するように、電池反応に関与しない活物質量を低減して電池内部を有効に活用し、得られる非水電解質二次電池のエネルギー密度を向上させることが望ましい。
また、帯状負極12は帯状正極11と同様の構造を有し、正極の場合と同様に、集電体の表裏面に被覆された負極合剤層の端部同士を側面から見て面一とならないように配置することにより、上記同様の効果が得られるが、負極構造は図示しない。
なお、正極及び負極の少なくとも一方につき、上記の合剤層端部処理を行うことにより上記の効果が得られるが、正極と負極の双方に合剤層端部処理を行ってもよい。
【0032】
図3は、図1に示した非水電解質二次電池をA−A線で切断した断面図であり、巻回電極体10を示している。
同図において、巻回電極体10は、帯状負極12、セパレータ13(図示せず)、帯状正極11及びセパレータ13(図示せず)の順に4層積層した積層体を渦巻き状に巻回して構成されており、帯状負極12が電極体10の内側(中央部)になるように配設されている。そして、帯状正極11及び帯状負極12については、各合剤層11c及び12cが巻回電極体10の内側(中央側)に、合剤層11b及び12bが外側に存在するように配置されている(図2参照)。
また一般に、このような巻回電極体においては、充電時にリチウムが析出して内部短絡するのを防止すべく、セパレータ13(図示せず)を介して正極11と並列して存在する負極12の幅(図1で高さ)と長さ(巻回長)、即ち反応面積は、正極11の幅と長さ(反応面積)よりも大きくなるように形成される。
なお、この図に示す巻回電極体は、一般的な巻回形式によるものであり、帯状正極11及び帯状負極12の合剤層端部には処理が施されておらず、正極合剤層11bと11cの端部同士、負極合剤層12bと12cの端部同士は、側面から見て面一になっている。
【0033】
図4に、他の巻回形式によって形成された巻回電極体を示す。
同図に示す巻回電極体では、帯状負極12の一端、即ち巻回電極体の最外周を構成する端部において、負極合剤層が片面だけ形成されている。換言すれば、この巻回電極体の最外周では、負極の内側合剤層12cのみが形成されており、外側合剤層12bは形成されていない。なお、帯状正極11の両端には処理が施されておらず、両端において内側合剤層11cと外側合剤層11bとは面一である。
このような巻回形式を採用することにより、電池反応に実際に関与する正極合剤層部分と負極合剤層部分だけを電池内部に存在させることができるようになるので、電池内部の有効活用が可能となり、得られる非水電解質二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0034】
図5は、他の巻回形式を採用した巻回電極体を示すもので、帯状負極12の他端(最内周側端部)では外側合剤層12bのみが形成されており、且つ帯状正極11については、一端(最外周側端部)に内側合剤層11cのみが形成されている。なお、帯状負極12の一端(最外周側端部)、帯状正極の他端(最内周側端部)では、合剤層は面一に形成されている。
このような巻回形式の採用によっても、上記同様に電池内部が有効活用され、得られる電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0035】
図6は、更に他の巻回形式を採用したものであり、帯状正極11の一端(最外周側端部)では内側合剤層11cのみが形成されており、他端(最内周側端部)で正極合剤層が面一になっているものである。なお、帯状負極12については、両端で負極合剤層が面一である。
更に、図7は、他の巻回形式を採用したものであり、帯状正極11の他端(最内周端部)では外側合剤層11b、一端(最外周端部)では内側合剤層11cのみが形成されている。帯状負極12については、両端で負極合剤層が面一である。
図6及び図7に示す巻回形式によっても、上記同様に電池内部が有効活用され、得られる電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0036】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
まず、本実施例で用いた正極活物質の作成方法を以下に示す。
市販の硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マンガンを水溶液として、Ni、Co、Mnの比率がそれぞれ0.50、0.20、0.30となるように混合し、十分攪拌しながらアンモニア水を滴下して複合水酸化物を得た。これを水酸化リチウムと混合し、酸素気流中、850℃で10時間焼成した後に粉砕し、リチウム遷移金属複合酸化物を得た。得られた粉末を原子吸光分析により分析したところ、LiNi0.50Co0.20Mn0.30O2の組成が確認された。また、レーザー回折法により粒径を測定したところ、平均粒径は13μmであった。また、この粉末のX線回折測定を行ったところ、得られたパターンはICDDの09−0063にあるLiNiO2のパターンに類似しており、LiNiO2と同様の層状岩塩構造を形成していることが確認された。また、SEMにより粉末を観察したところ、0.1〜5μmの1次粒子が凝集した球状の粒子が観察された。
【0038】
以上のようにして作製したリチウム遷移金属複合酸化物を86%、導電剤としてグラファイトを10%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)4%を混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて合剤スラリーとした。このスラリーを厚さ20ミクロンの帯状のアルミニウム箔に均一に塗布・乾燥後、ローラープレス機で圧縮し、所定の寸法に打ち砕いてペレットを得た。
【0039】
以上のように作製されたペレットを正極、リチウム箔を負極とし、両者を公知の多孔性ポリオレフィンフィルムを介して積層して直径20mm、高さ1.6mmのコインセルを作製した。
ここで、電解液はエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの体積混合比が1:1である混合溶液に1mol/dm3の濃度になるようにLiPF6を溶解して調製した非水電解液を用いた。
以上のコインセルを、全リチウム量の50%が引き抜かれるまで充電し、解体してペレットを取り出し、未充電のペレットとともにXAFS測定に共した。XAFS測定は分光結晶としてSi(lll)を用い、X線エネルギーとして7960eV〜9100eVの間を走査し、透過法にてX線吸収スペクトルを測定した。図8には未充電、及び50%充電品の測定結果について、バックグラウンドを差し引き、吸収端のジャンプ高さを基準に規格化した吸収スペクトルの8190eV〜8220eVの間を拡大した図を示す。吸光度が0.5の位置に着目すると、未充電品と50%充電品の間で2.2eVのシフトが確認された。
以上のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用い、以下に記すように円筒型電池を作製し、高温時のサイクル特性を評価した。
正極活物質を86%、導電剤としてグラファイトを10%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)4%を混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて正極合剤スラリーとした。このスラリーを厚さ20ミクロンの帯状のアルミニウム箔の両面に均一に塗布・乾燥後、ローラープレス機で圧縮して帯状正極を得た。
【0040】
次に、負極として、粉末状の人造黒鉛90%にPVdFを10%混合し、NMPに分散させて負極合剤スラリーとした。この負極合剤スラリーを厚さ10ミクロンの銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥後にローラープレス機で圧縮することで帯状負極を得た。
以上のように作製された帯状正極、帯状負極を多孔性ポリオレフィンフィルムを介して多数回巻回し、渦巻き型の電極体を作製した。この電極体をニッケルめっきを施した鉄製電池缶に収納し、当該電極体の上下両面に絶縁板を配置した。次いで、アルミニウム製正極リードを正極集電体から導出して、電池蓋と電気的な導通が確保された安全弁の突起部に溶接し、ニッケル製負極リードを負極集電体から導出して電池缶の底部に溶接した。
一方、電解液はエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの体積混合比が1:1である混合溶液に1mol/dm3の濃度になるようにLiPF6を溶解して非水電解液を調製した。
最後に、上述の電極体が組み込まれた電池缶内に電解液を注入した後、絶縁封口ガスケットを介して電池缶をかしめることにより、安全弁、PTC素子及び電池蓋を固定し、外形が18mmで高さが65mmの円筒型電池を作製した。
以上のようにして作製した非水電解液2次電池について、環境温度45℃、充電電圧4.20V、充電電流1000mA、充電時間2.5時間の条件で充電を行った後、放電電流800mA、終止電圧2.75Vで放電を行い初期容量を測定した。更に初期容量を求めた場合と同様にして充放電を繰り返し、100サイクル目の放電容量を測定して、初期容量に対する維持率を求めた。
【0041】
(比較例1)
原料の混合比を変え、更に焼成温度を750℃としたこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、リチウム遷移金属複合酸化物LiNi0.80Co0.20O2を作製した。
同様にXAFS測定を行ったところ、図9に示すような結果が得られ、シフト幅は0.8eVであった。その他は実施例1と同様に非水電解液2次電池を作製し、実施例1と同様の45℃でのサイクル維持率を測定した。
【0042】
(実施例2)
原料の混合比率を変えたこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、リチウム遷移金属複合酸化物LiNi0.60Co0.20O2を作製した。
同様にXAFS測定を行ったところ、シフト幅は1.9eVであった。その他は実施例1と同様に非水電解液2次電池を作製し、実施例1と同様の45℃でのサイクル維持率を測定した。
【0043】
(実施例3)
原料の炭酸マンガンに代えて酸化チタンを用い、更に混合比率を変え、また、焼成温度を750℃としたこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、リチウム遷移金属複合酸化物LiNi0.70Co0.20Ti0.10O2を作製した。
同様にXAFS測定を行ったところ、シフト幅は1.5eVであった。その他は実施例1と同様に非水電解液2次電池を作製し、実施例1と同様の45℃でのサイクル維持率を測定した。
【0044】
(実施例4)
原料として酸化チタンを加え、更に混合比率を変えたこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、リチウム遷移金属複合酸化物LiNi0.60Co0.20Mn0.10Ti0.10O2を作製した。
同様にXAFS測定を行ったところ、シフト幅は1.8eVであった。その他は実施例1と同様に非水電解液2次電池を作製し、実施例1と同様の45℃でのサイクル維持率を測定した。
【0045】
(実施例5)
原料の混合比を変え、更に焼成温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、リチウム遷移金属複合酸化物LiNi0.80Co0.20O2を作製した。
同様にXAFS測定を行ったところ、シフト幅は1.2eVであった。その他は実施例1と同様に非水電解液を作製し、実施例1と同様の45℃でのサイクル維持率を測定した。
【0046】
(実施例6)
原料の混合比を変え、更に焼成温度を750℃としたこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、リチウム遷移金属複合酸化物LiNi0.60Co0.40O2を作製した。
同様にXAFS測定を行ったところ、シフト幅は1.3eVであった。その他は実施例1と同様に非水電解液2次電池を作製し、実施例1と同様の45℃でのサイクル維持率を測定した。
【0047】
(実施例7)
原料の混合比を変え、更に焼成温度を750℃とし、焼成時の雰囲気を酸素気流から空気気流に変えたこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、リチウム遷移金属複合酸化物LiNi0.80Co0.20O2を作製した。
同様にXAFS測定を行ったところ、シフト幅は1.4eVであった。その他は実施例1と同様に非水電解液2次電池を作製し、実施例1と同様の45℃でのサイクル維持率を測定した。
【0048】
(比較例2)
原料の混合比を変え、更に焼成温度を750℃としたこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、リチウム遷移金属複合酸化物LiNi0.85Co0.10Al0.05O2を作製した。
同様にXAFS測定を行ったところ、シフト幅は0.7eVであった。その他は実施例1と同様に非水電解液2次電池を作製し、実施例1と同様の45℃でのサイクル維持率を測定した。
【0049】
【表1】
【0050】
以上の結果より、シフト幅を1.0eV以上と規定することにより、高温時のサイクル特性が大きく向上することが確認された。また、特にMn、Tiから選ばれる少なくとも1種の元素を含有させることにより、特にシフト幅が大きくなり、高温時のサイクル特性が更に向上することが確認された。
【0051】
以上、本発明を若干の好適実施例により詳細に説明したが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形が可能である。即ち、本発明を実現する手段は特に制限されず、例えば、リチウム遷移金属酸化物を合成する際の合成条件や、異種元素の添加、構成元素の比率を検討することで実現できる。
【0052】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、X線吸収端微細構造解析(XAFS)法による充放電時のニッケルイオンの変化量が所定範囲内にあるリチウム複合酸化物を用いることとしたため、高容量且つ高温時(常温〜100℃程度)の特性を大きく向上させたリチウムイオン非水電解質二次電池を実現できる正極活物質、及びこの正極活物質を用いたリチウムイオン非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のリチウムイオン非水電解質二次電池の一例を示す断面図である。
【図2】帯状正極の構造を示す斜視図である。
【図3】図1のA−A線で切断した巻回電極体を示す断面図である。
【図4】巻回電極体の他の例を示す断面図である。
【図5】巻回電極体の他の例を示す断面図である。
【図6】巻回電極体の更に他の例を示す断面図である。
【図7】巻回電極体の他の例を示す断面図である。
【図8】未充電及び50%充電品のXAFS測定結果(実施例1)を示すグラフである。
【図9】未充電及び50%充電品のXAFS測定結果(比較例1)を示すグラフである。
【符号の説明】
1 電池缶
2 絶縁板
4 電池蓋
5 安全弁
5a ディスク板
6 感熱抵抗素子
7 ガスケット
10 巻回電極体
11 正極
11a 正極集電体
11b 正極合剤層(外側)
11c 正極合剤層(内側)
12 負極
12a 負極集電体
12b 負極合剤層(外側)
12c 負極合剤層(内側)
13 セパレータ
14 センターピン
15 正極リード
16 負極リード
Claims (5)
- 層状構造を有し、少なくともリチウム及びニッケルを構成元素とするリチウム複合酸化物を含有し、
全リチウム量の50%を引き抜いたときに、X線吸収端微細構造解析(XAFS)法で測定しうるニッケル原子のK殻吸収端のジャンプ高さの50%の位置のシフト幅が1.0eV以上であることを特徴とするリチウムイオン非水電解質二次電池用の正極活物質。 - 上記リチウム複合酸化物が更にマンガン及び/又はチタンを含有して成ることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
- リチウムイオンをドープし且つ脱ドープできる材料を正極活物質又は負極活物質とする正極及び負極と、
リチウムイオン伝導性を有する非水電解質
を備えるリチウムイオン非水電解質二次電池において、
上記正極活物質が、層状構造を有し、少なくともリチウム及びニッケルを構成元素とするリチウム複合酸化物を含有し、
全リチウム量の50%を引き抜いたときに、X線吸収端微細構造解析(XAFS)法で測定しうるニッケル原子のK殻吸収端のジャンプ高さの50%の位置のシフト幅が1.0eV以上であることを特徴とするリチウムイオン非水電解質二次電池。 - 上記リチウム複合酸化物にマンガン及び/又はチタンを含有して成ることを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン非水電解質二次電池。
- 上記正極活物質に含まれるニッケル量がモル比率で5〜40%であることを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン非水電解質二次電池。
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