JP2004137306A - 粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法及びその成形体 - Google Patents
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Abstract
【課題】常温で微粉末のパウダーが容易に製造でき、更には耐傷付性、耐熱性、成形外観等に優れた成形体を与え得る粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法、及び該パウダーを粉末成形して得られる成形体を提供すること。
【解決手段】下記(イ)100質量部及び(ロ)ポリオレフィン系樹脂10〜1000質量部を含有することを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物を用いる。
(イ)下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。
【選択図】 なし
【解決手段】下記(イ)100質量部及び(ロ)ポリオレフィン系樹脂10〜1000質量部を含有することを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物を用いる。
(イ)下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法及び該パウダーを粉末成形して得られる成形体に関するものである。更に詳しくは、本発明は、特定の構造の水添ジエン系共重合体及びポリオレフィン系樹脂を必須の成分として含有し、常温での粉砕が容易で、柔軟性に富み、機械的特性、成形外観、耐傷付性、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れた成形体を与え得る粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法該パウダーを粉末成形して得られる成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、軟質の粉末材料を用いた粉末成形法として、軟質塩化ビニル樹脂粉末を用いた粉末スラッシュ成形法(パウダースラシュ成形法)が、インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアートリム等の自動車内装材の表皮に広く採用されている。これは、ソフトな感触であり、皮シボやステッチを設けることができ、また設計自由度が大きいこと等の意匠性が良好なことによる。しかしながら、かかる軟質塩化ビニル樹脂は軽量性に劣るのみならず、使用済み後、焼却処分する際に塩化ビニルに起因する酸性物質が発生し、環境衛生上の問題がある。このような問題を解決するものとして、ポリプロピレン樹脂とエチレンープロピレンゴムをブレンドしたオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる熱可塑性エラストマーパウダー組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、かかる熱可塑性エラストマーパウダーを粉末成形して得られる成形体は、塩化ビニル系樹脂成形体と比較して、硬く、また折り曲げた際に白化しやすい性質を有するため、該成形体を製造したのち金型から脱型する際などに、折り曲げられた部分が白化して外観不良が生じる傾向があった。折り曲げ白化を改良するものとして、ポリプロピレン樹脂と低スチレン含量のスチレン系熱可塑性エラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマーパウダー組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。更には、ポリプロピレン樹脂と高ビニル含量の共役ジエン系共重合体を水添した水添ジエン系共重合体をブレンドした熱可塑性エラストマーパウダー組成物が提案されている(例えば、特許文献3、4及び5参照)。
しかしながら、これらの特許に記載された熱可塑性エラストマー組成物は、常温で細かく粉砕することが困難なため、冷凍粉砕が必要となり、工業的には製造設備が大掛りになるばかりか、かかるパウダーを粉末成形して得られる成形体は、耐傷付性、耐熱性、成形外観などにおいて、まだ不十分であるという問題点があった。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−1183号公報
【特許文献2】
特開平7−82433号公報
【特許文献3】
特開平11−60826号公報
【特許文献4】
特開2001−49051号公報
【特許文献5】
特開2001−49052号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来の技術的課題を背景になされたもので、特定構造の水添ジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂を必須の成分として含有し、常温で微粉末のパウダーが容易に製造でき、更には耐傷付性、耐熱性、成形外観等に優れた成形体を与え得る粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法、及び該パウダーを粉末成形して得られる成形体を提供することを目的とする。
【0005】
【発明を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、高流動性でラジアル型の水添ジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂を使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法、及び該パウダーを粉末成形して得られる成形体が提供される。
[1]下記(イ)100質量部及び(ロ)ポリオレフィン系樹脂10〜1000質量部を含有することを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
(イ)下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。
[2](イ)水添ジエン系共重合体が下記一般式(1)で示される上記[1]に記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
(A−B)nX (1)
(ただし、Aはビニル芳香族化合物重合体ブロック、Bは下記(B1)、(B2)および(B3)から選ばれる少なくとも一種類のブロック、nは3以上の数、Xはカップリング剤残基を示す)
(B1):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物のランダム共重合体ブロックが水添されてなるブロック。
(B2):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなり、ビニル芳香族化合物が漸増するテーパー状ブロックが水添されてなるブロック。
(B3):共役ジエン重合体ブロックが水添されてなるブロック。
[3](イ)において、ビニル芳香族化合物がスチレンであり、共役ジエン化合物が1,3−ブタジエン及び/又はイソプレンである上記[2]に記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
[4](イ)がさらに下記▲4▼〜▲6▼の条件を充足する水添ジエン系共重合体である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
▲4▼:水添ジエン系共重合体中に含まれるビニル芳香族化合物含有量が10〜50質量%である。
▲5▼:共役ジエン化合物由来のビニル結合含量が30%以上である。
▲6▼:質量平均分子量(Mw)が1万〜15万である。
[5]さらに、(イ)100質量部あたり、(ハ)エチレン−α−オレフィン系共重合体0〜250質量部を含有する上記[1]〜[4]のいずれかに記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物が機械粉砕、ダイフェースカットまたはストランドカットされてなる粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
[7]かさ比重が0.38以上かつ球換算平均粒径が1.2mm以下である上記[6]に記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
[8]上記[6]または[7]のいずれかに記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーを用いる粉末成形方法。
[9]上記[6]または[7]のいずれかに記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーを粉末成形して得られる成形体。
[10]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物を粉末成形して得られる自動車内装材。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物の実施の形態を具体的に説明する。
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、下記(イ)100質量部及び(ロ)ポリオレフィン系樹脂10〜1000質量部を含有することを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物である。
(イ)下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。
以下、各構成要素ごとにさらに具体的に説明する。
【0008】
(イ)水添ジエン系共重合体
本発明で用いられる(イ)水添ジエン系共重合体(以下「(イ)成分」ともいう)は、下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体である。
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。
【0009】
ここで、ラジアル型水添ジエン系共重合体とは、分岐又は星状の重合体で、具体的には下記一般式で示される重合体である。
(A−B)nX (1)
(ただし、Aはビニル芳香族化合物重合体ブロック、Bは下記(B1)、(B2)および(B3)から選ばれる少なくとも一種類のブロック、nは3以上の数、好ましくは3〜8の数、Xはカップリング剤残基を示す)
(B1):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物のランダム共重合体ブロックが水添されてなるブロック。
(B2):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなり、ビニル芳香族化合物が漸増するテーパー状ブロックが水添されてなるブロック。
(B3):共役ジエン重合体ブロックが水添されてなるブロック。
このような共重合体は、例えば、不活性有機溶媒中、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物を、有機リチウム化合物のような有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としてリビングアニオン重合し、直鎖状のブロック共重合体を得た後、カップリング剤を使用して共重合体分子鎖がカップリング残基を介して分岐された共重合体(以下「水添前重合体」ともいう)とし、その後、該共重合体を水素添加することにより容易に得ることができる。尚、上記一般式(1)のn(以下「分岐指数」という場合がある)は、3未満では常温で微粉末が容易に得られない。
【0010】
水添前重合体を構成する芳香族ビニル化合物としては、スチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。この中で、スチレンが好ましい。
また、共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、ミルセン、クロロプレン等が挙げられる。この中で、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0011】
カップリング剤としては、例えばジビニルベンゼン、1,2,4−トリビニルベンゼン、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ベンゼン−1,2,4−トリイソシアナート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、ピロメリット酸ジアンヒドリド、炭酸ジエチル、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,4−ビス(トリクロロメチル)ベンゼン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、(ジクロロメチル)トリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロスズ、1,3−ジクロロ−2−プロパノンなどが挙げられる。この中で、ジビニルベンゼン、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシランが好ましい。
【0012】
本発明の水添ジエン系共重合体における共役ジエン化合物由来の二重結合の80%以上が水添されていることが必要であり、90%以上、特には95%以上水添されていることが好ましい。水添率が80%未満の場合、得られた成形体の耐候性が低下するという問題がある。
【0013】
本発明の水添ジエン系共重合体の190℃、荷重2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)は、5〜50g/10分、好ましくは10〜30g/10分の範囲内である。メルトフローレート(MFR)が5g/10分未満の場合、常温で微粉末が容易に得られず、又得られた成形体の成形外観が劣るという問題がある。一方、メルトフローレート(MFR)が50g/10分を超えると、得られた成形体の耐熱性、耐候性、機械的強度が劣るという問題がある。
【0014】
本発明の水添ジエン系共重合体におけるビニル芳香族化合物含有量は、10〜50質量%であることが好ましく、特に20〜40質量%の範囲内にあることが好ましい。ビニル芳香族化合物含有量が50質量%を超えると、該熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体が硬くなる傾向にある。また、ビニル芳香族化合物含有量が10質量%未満であると、得られる成形体の耐熱性、機械的強度が低下する傾向にある。
【0015】
本発明の水添ジエン系共重合体における、水添前重合体の共役ジエン化合物中のビニル結合含量は30%以上であることが好ましく、特には40〜80%であることが好ましい。かかる割合が30%未満であると、得られる成形体が硬くなる傾向にある。一方、80%を超えると成形体の耐熱性、機械的強度が悪くなる傾向にある。
【0016】
本発明の水添ジエン系共重合体の質量平均分子量(Mw)は、外観、強度に優れる成形体を得るためには1万〜15万であることが好ましく、特に5万〜10万であることが好ましい。該質量平均分子量が5万未満であると、得られた成形体に粘着性が発生するほか、耐熱性及び耐候性が不十分となる。また、該質量平均分子量が15万を超える場合は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の流動性が劣るため、十分な外観及び機械的強度を有する成形体を得ることができない。
【0017】
本発明の水添ジエン系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性や耐寒性に影響を与えることがある。芳香族ビニル化合物重合体ブロック(A)のTgは80〜110℃、好ましくは90〜110℃であり、共役ジエン化合物を含む重合体ブロック(B)のTgは−30〜−60℃、好ましくは−35〜−55℃である。
【0018】
なお、本発明の水添ジエン系共重合体は、少なくとも1種の官能基を該水添ジエン系共重合体に導入して、変性水添ジエン系共重合体として用いることも可能である。また、上記の水添前重合体製造段階において、カップリング剤として、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ベンゼン−1,2,4−トリイソシアナート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、ピロメリット酸ジアンヒドリドなどを用いることにより、分子鎖の中央に−OH基、−NH−CO基、−NH基などの官能基を導入することもできる。
【0019】
(ロ)ポリオレフィン系樹脂
本発明で用いられる(ロ)ポリオレフィン系樹脂(以下「(ロ)成分」ともいう)は、炭素原子数2〜20のα−オレフィンの単独重合体または共重合体が挙げられる。
上記ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては、以下のような(共)重合体が挙げられる。(1)エチレン単独重合体(製法は、低圧法、高圧法のいずれでも良い)(2)エチレンと、10モル%以下の他のα−オレフィンまたは酢酸ビニル、エチルアクリレートなどのビニルモノマーとの共重合体(3)プロピレン単独重合体(4)プロピレンと20モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体(5)プロピレンと30モル%以下の他のα−オレフィンとのブロック共重合体(6)1−ブテン単独重合体(7)1−ブテンと10モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体(8)4−メチル−1−ペンテン単独重合体(9)4−メチル−1−ペンテンと20モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体上記のα−オレフィンとしては、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。上記のポリオレフィン系樹脂の中でも、プロピレン単独重合体、プロピレンと20モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体が好ましい。特に、結晶化度が50%以上、密度が0.89g/cm3以上であり、エチレン単位の含有量が20モル%以下であり、融点が100℃以上であるポリプロピレン及び/又はプロピレンと、エチレンとの共重合体を用いることが好ましい。上記のようなポリオレフィン系樹脂は、単独で、あるいは組合せて用いることができる。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂の分子量はデカリン溶媒中135℃で測定した場合の極限粘度[η]は、好ましくは0.3〜10dl/g、より好ましくは0.5〜6dl/gである。
また、230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートは、好ましくは0.1〜200g/10分、より好ましくは0.5〜100g/10分である。
【0021】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、前記(イ)、(ロ)を必須成分とする。(ロ)成分の含有量は、(イ)成分100質量部に対して、(ロ)成分が10〜1000質量部含有することが必要であり、40〜200質量部含有することが好ましい。(イ)成分100質量部に対する(ロ)成分の含有量が10質量部未満である場合は、粉末成形法により得られた成形体に粘着性が発生するほか、耐熱性及び耐候性が不十分となり、1000質量部を超える場合は、粉末成形法により得られた成形体の柔軟性が劣り、また折り曲げた時に折り曲げられた部分が白化しやすくなる。
【0022】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、必須の成分である(イ)及び(ロ)成分に加えて、(ハ)エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体を含有してもよい。(ハ)を含有する場合には、熱可塑性エラストマーパウダーの粉末成形性、及び該パウダーを粉末成形することにより得られる成形体を折り曲げた時に折り曲げられた部分の耐白化性を低下させることなしに、80℃程度からポリオレフィン系樹脂の融点未満の温度で加熱したときに光沢を発することがなく、更には耐寒衝撃性に優れる粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物を与える。
【0023】
(ハ)エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体
本発明に用いられる(ハ)エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体(以下「(ハ)成分」ともいう)は、例えば、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合ゴム、エチレン−1−ブテン共重合ゴム、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン三元共重合ゴムのような、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンを主成分とするランダム共重合体が挙げられる。
上記炭素数3〜10のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等を挙げることができ、特にプロピレン、1−ブテンが好ましい。
上記非共役ジエンとしては、例えば、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、3,6−ジメチル−1,7−オクタジエン、4,5−ジメチル−1,7−オクタジエン、5−メチル−1,8−ノナジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、2,5−ノルボルナジエンなどを挙げることができ、特に1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましい。
【0024】
これらのエチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体において、エチレンが35〜85質量%、特に40〜80質量%、α−オレフィンが15〜65質量%、特に20〜60質量%の割合で共重合されていることが好ましい。また、非共役ジエンとしては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンが好ましく、その含量は、0〜20質量%、特に1〜10質量%の割合で共重合されていることが好ましい。また、ヨウ素価表示で40以下、特に5〜30、更には7〜20であることが好ましい。エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体において、エチレン含有量が85質量%より多くなり、α−オレフィン含有量が15質量%未満では、該共重合ゴムの柔軟性が不足し好ましくない。また、エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体のデカリン溶媒中135℃で測定した場合の極限粘度[η]は、1.0dl/g以上であるが、好ましくは2.0〜6.8dl/g、より好ましくは3.5〜6.0dl/gである。更に、X線回折測定による結晶化度は20%以下、特に15%以下であることが好ましい。結晶化度が20%を超える場合は共重合ゴムの柔軟性が低下する傾向があり好ましくない。
本発明のエチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体は軟化剤が重合時に添加された油展ポリマーであってもよい。
【0025】
(ハ)成分を用いる場合の(ハ)成分の量は、(イ)成分100質量部に対して250質量部以下であり、好ましくは20〜100質量部である。(ハ)成分が過多であると得られた成形体の機械的強度、成形外観が低下する場合がある。
【0026】
また、本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、(イ)及び(ロ)成分、並びに必要に応じて配合される(ハ)成分に加えて、本発明の効果を損なわない程度に、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム等のゴム質重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びそのけん化物、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル−酢酸ビニル共重合体などの他の重合体成分を含有していてもよい。
【0027】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて各種添加剤、例えばフェノール系、サルファイト系、フェニルアルカン系、フォスファイト系、アミン系、アミド系等の耐熱安定剤、耐候安定剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、銅害防止剤などの安定剤、防菌・防かび剤、抗菌剤、分散剤、鉱物油系軟化剤、可塑剤、発泡剤、発泡助剤、酸化チタン、顔料、フェライトなどの金属粉末、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの有機繊維、複合繊維、チタン酸カリウムウィスカーなどの無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、ポリマービーズなどの充填剤またはこれらの混合物、ポリオレフィンワックス、セルロースパウダー、ゴム粉などの充填剤、低分子量ポリマーなどを配合して用いることができる。
【0028】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物が鉱物油系軟化剤を含有する場合、流動性に優れた熱可塑性エラストマーパウダー及び柔軟性に優れた粉末成形体を得ることができる。
【0029】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物が顔料を含有する場合、顔料としては、アゾ系、フタロシアン系、スレン系、染色レーキ等の有機顔料、酸化チタン等の酸化物系、クロモ酸モリブデン酸系、硫化セレン化合物、フェロシアン化合物、カーボンブラック等の無機顔料が用いられる。
【0030】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて従来公知の方法により、硫黄架橋、過酸化物架橋、金属イオン架橋、シラン架橋、樹脂架橋などの架橋を行うこともできる。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得る方法としては、例えば(イ)及び(ロ)成分並びに必要に応じて配合される(ハ)成分を溶融混練する方法が挙げられる。混練には、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、ロール等を用いることができる。なお、先述の各種添加剤及び各種重合体の配合は、たとえば、これらの添加剤が予め配合された(イ)、(ロ)、(ハ)成分を用いたり、上記成分の混練の際に配合することにより行うことができる。
【0032】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物パウダーは、粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物を機械的に粉砕する方法、又はストランドカット法、ダイフェースカット法によって製造することができる。
【0033】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物を機械的に粉砕する方法として、例えば、ターボミル、ローラミル、ボールミル、ピンミル、ハンマーミル、遠心力粉砕機等の粉砕機などを用いて、常温粉砕すること(常温粉砕法)ができる。
【0034】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物をストランドカットで粉砕する方法としては、溶融している熱可塑性エラストマー組成物をダイスから空気中又は水中に押し出してストランドとし、これを切断する。ダイスの吐出口径は、通常は0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mmの範囲にある。ダイスの吐出口1個あたりの熱可塑性エラストマー組成物の吐出速度は、通常は0.1〜5kg/時、好ましくは0.5〜3kg/時の範囲にある。ストランドの引取速度は、通常は1〜100m/分、好ましくは5〜50m/分の範囲にある。また、冷却されたストランドは、通常は1.2mm以下、好ましくは0.1〜1.0mmに切断される。
【0035】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物をダイフェースカットで粉砕する方法としては、溶融している熱可塑性エラストマー組成物をダイスから水中に押し出しながら切断する。ダイスの吐出口径は、通常は0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mmの範囲にある。ダイスの吐出口1個あたりの熱可塑性エラストマー組成物の吐出速度は、通常は0.1〜5kg/時、好ましくは0.5〜3kg/時の範囲にある。水の温度は、通常は30〜70℃、好ましくは40〜60℃の範囲にある。
【0036】
上記粉砕方法により、かさ比重が0.38以上、好ましくは0.40以上、0.70以下、かつ球換算平均粒径が1.2mm以下、好ましくは0.1〜0.7mmである粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物パウダーが容易に得ることができる。
【0037】
ここで、パウダーの球換算平均粒径は、該パウダーの平均体積と同じ体積を有する球の直径として定義される。尚、パウダーの平均体積(V)は、無作為に取り出された100粒の熱可塑性エラストマー組成物パウダーの合計質量(W)と熱可塑性エラストマー組成物の密度(D)と平均体積(V)に関する下記式:V=W/Dによって定義される。また、パウダーのかさ比重は、JIS K−6721に準拠して定義及び測定される。
【0038】
得られた粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーは、粉末スラッシュ成形法、流動浸漬法、静電塗装法、粉末溶射法、粉末回転成形法などの種々の粉末成形法に適用することができる。
【0039】
例えば、粉末スラッシュ成形法の場合、熱可塑性エラストマーパウダーを、一軸回転ハンドルの付いた一軸回転粉末スラッシュ成形装置に取り付けたステンレス製角形容器に投入し、次いで、この容器の上部に、予め180〜300℃、好ましくは、200〜280℃に加熱した、所定形状の電鋳金型を取り付け、一軸回転ハンドルを回転させて、上記容器と電鋳金型を同時に左右に数回、回転を繰り返し、その後、電鋳金型を木ハンマーなどで数回たたき、過剰のパウダーを払い落し、次いで、容器から電鋳金型を外し、250〜450℃、好ましくは、300〜430℃の加熱炉中で5〜60秒、好ましくは、10〜30秒、加熱溶融したのち、水冷し、金型より成形品を取り出す事により行われる。
【0040】
このような粉末スラッシュ成形法で得られる成形体は、欠肉・ピンホール等の不具合がなく、しかも機械特性、耐熱性、シボ転写性、耐傷付性に優れるため、自動車内装材であるインストルメントパネル、ハンドル、カーテンエアバッグ、天井、ドア、座席シート、ピラー、ステアリングホイール、取っ手などの表皮材はもとより、家具、雑貨、家屋の内張りなどの表皮材として有用である。中でも、特にインストルメントパネル、ハンドル、カーテンエアバックまたはドアなどの自動車内装材に好適に使用される。
【0041】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例、比較例中の部及び%は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例、比較例に用いられる各種成分及び各種測定は、下記の方法に拠った。
【0042】
(1)水添ジエン系共重合体の製造
以下に記載の方法により、水添ジエン系共重合体を製造した。尚、共重合体の特性は以下の方法で測定した。
[1]水添率
共役ジエンの水添率は、四塩化炭素溶液を用い、270MHz、1H−NMRスペクトルから算出した。
[2]メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に準拠して、190℃、2.16kg荷重で測定した。
[3]全スチレン単位含有量(「結合スチレン含量」ともいう)
699cm−1のフェニル基の吸収をもとに、赤外分析法により測定した。
[4]ビニル結合含量
1,2−結合等のビニル結合含量は、赤外分析法を用い、ハンプトン法により算出した。
[5]水添ジエン系共重合体の質量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(室温GPC、カラム;東ソー社製、GMH−XL)を用いて、カップリングした重合体成分のピーク面積とカップリングしていない重合体成分のピーク面積との平均値を、ポリスチレン換算で求めた。
[6]カップリング率
上記室温GPCで得られた、カップリングした重合体成分のピーク面積とカップリングしていない重合体成分のピーク面積とから算出した。
[7]分岐指数
下記の式より算出した。
分岐指数=(カップリング反応後の共重合体のMw)/(カップリング反応前の共重合体のMw)
[8]ガラス転移温度(Tg)
ASTM D3418に従って測定した。
【0043】
製造例1(水添ジエン系共重合体の製造)
内容積10リットルのオートクレーブに、脱気・脱水したシクロヘキサン5kg、スチレン300g、テトラヒドロフラン25gを仕込み、重合開始温度を30℃にし、n−ブチルリチウム4.3gにて昇温重合を行った。次いで温度を30℃に冷却した後、1,3−ブタジエン700gを添加し、断熱重合を行った。
重合が完結したのち、テトラクロロシラン2.18gを添加し、約20分間反応を行った。その後、水素ガスを0.4MPa Gの圧力で供給し、20分間撹拌し、リビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。
【0044】
反応溶液を90℃にし、テトラクロロシラン0.5gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒としてビス(η5−シクロペンタジエニル)チタニウム(テトラヒドロフルフリルオキシ)クロリド0.5gを加え、水素圧1.0MPaで2時間添加反応を行った。
得られた水添ジエン系共重合体(H−1)の水添率は99%、質量平均分子量は7.1万、カップリング率は80%、分岐指数は3.5、水添前共重合体の結合スチレン含量は30質量%、ブタジエンブロックのビニル結合含量は53%、MFRは15g/10分であった。
【0045】
製造例2〜5、比較製造例1〜5
製造例1と同様の方法により、表1の各水添ジエン系共重合体となるように、モノマー種、モノマー量、触媒量、カップリング剤量、重合温度、重合時間などを変量することにより作製した。これらの結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
ここで、H−1〜H−5は本発明の範囲内であるラジアル型水添ジエン系共重合体である。又、比較製造例1〜5で得られるR−1〜R−5は、本発明の範囲外の水添ジエン系共重合体である。
R−1は、カップリング剤として2官能性の1,2−ジブロモエタンを用いた例であり、(イ)成分のラジアル型水添ジエン系共重合体を含まない例である。
R−2は、カップリングしていない水添ジエン系共重合体である。
R−3、R−4は、MFRが本発明の範囲外となったものである。
R−5は、水添率が本発明の範囲外となったものである。
【0048】
(2)各種成分
(イ)成分:水添ジエン系共重合体;表1に示す構造を有する水添ジエン系共重合体
(ロ)成分:ポリオレフィン系樹脂;日本ポリオレフィン社製、プロピレン−エチレンランダム共重合体、MG970−3、MFR=80g/10分
(ハ)成分:エチレン−α−オレフイン系共重合体;ジェイエスアール社製、EP51、プロピレン含量26%、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)=38
【0049】
(3)パウダー形状評価
[9]パウダーのかさ比重
JIS K−6721に準拠して、熱可塑性エラストマー組成物パウダー100mlを採取・秤量し、かさ比重を算出した。
[10]パウダーの球換算平均粒径
熱可塑性エラストマー組成物パウダーの粒子20個を任意に採取し、その質量を求め、これと熱可塑性エラストマー組成物の比重とから粒子の平均体積を算出し、この平均体積と同体積の球の直径を算出して、球換算平均粒径とした。
【0050】
(4)物性評価
[11]引張特性(機械的強度)
後述の2mm厚のシートをJIS K6301に従って引張強さ、伸びを測定した。
[12]硬度(柔軟性)
後述の2mm厚シートをASTM D2240に従ってショアーD硬度を測定し、以下の基準で判定した。
○:柔軟性に優れる:硬度が55未満
△:柔軟性がある:硬度が55〜60
×:柔軟性に劣る:硬度が60を超える
[13]成形外観
下記の基準に従って、後述のシボ付き1mm厚シートの成形外観を目視評価した。
○:ピンホールがなく、シボ転写性が良好である。
×:ピンホールや欠肉がある、シボ転写性が悪い、艶むらがあるなど、外観不良現象が見られる。
[14]耐傷付性
東洋精機製作所社製のテーバースクラッチテスター試験機を用い、後述のシボ付き1mm厚シートを、荷重を変えながら引っ掻き試験を実施した。試料の表面が艶消し状態に傷付いたときの荷重を傷付き荷重とし、以下の基準で判定した。
○:耐傷付性に優れる:傷付き荷重が100gを超える
△:耐傷付性がある:傷付き荷重が30〜100g
×:耐傷付性に劣る:傷付き荷重が30g未満
[15]耐熱性
後述のシボ付き1mm厚シートを110℃、24時間放置し、加熱前後のグロス値(光沢)の変化を下記の基準で判定した。グロス値はデジタル光度計(村上色彩技術研究所製、GM−26D、反射角60度)により測定した。
○:耐熱性に優れる:グロス値の差が1.0未満
△:耐熱性がある:グロス値の差が1.0〜2.5
×:耐熱性に劣る:グロス値の差が2.5を超える
[16]耐寒性
JIS K7110に従って、−30℃の衝撃強度を測定し耐寒性の指標とした。
[17]耐候性
サンシャインウェザーメーター(スガ試験社製)を用い、後述の2mm厚シートをブラックパネル温度83℃(雨無し)で50時間放置し、その前後における引張強度の保持率を求め、下記の基準で判定した。
○:耐候性に優れる:保持率が90%を超える
△:耐候性がある:保持率が70〜90%
×:耐候性に劣る:保持率が70%未満
【0051】
実施例1(熱可塑性エラストマーパウダーの製造及び粉末成形)
上記製造例1で得た水添ジエン系共重合体(H−1)100質量部とポリオレフィン系樹脂(MG970−3)100質量部を30mmφ押出機(田辺プラスッチク社製)に入れて160℃に加熱・混練したのち、吐出口径1.0mmのダイス(温度160℃)から吐出速度1kg/時/穴で吐き出し、引取速度32m/分で引き取った後、室温に戻して、直径0.8mmのストランドを得た。次いでこれをペレタイザーで切断することにより、かさ比重0.42、球換算平均粒径0.65mmの熱可塑性エラストマーパウダーを得た。該熱可塑性エラストマーパウダーを、プレス成形機を用い170℃にて2mm厚のシートを作成し、物性評価に具した。
次に上記熱可塑性エラストマーパウダーを温度250℃のシボ付き電鋳型(長さ1200mm×幅500mm)にチャージし5秒間放置後、金型を反転させ余分の粉末を落とし、そのままの状態で60秒間放置した。その後、冷却し、脱型し、厚み1mmのシボ付き成形体を得た。得られた成形体の物性評価結果を表2に示す。
【0052】
実施例2〜8
表2に示す配合を用い実施例1と同様にしてパウダー及びそれを用いてシート及びシボ付き成形体を作成し、物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
比較例1〜2
表3に示す配合を用い実施例1と同様にして直径0.8mmのストランドを得たが、室温では切断してもペレット同士がブロッキングしてパウダーが得られなかった。
【0055】
比較例3〜6
表3に示す配合を用い実施例1と同様にしてパウダー及びそれを用いてシート及びシボ付き成形体を作成し、物性評価を行った。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表2及び表3より、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、常温で微細なパウダーが得られ、かつ、そのパウダーを粉末形成した成形体は、柔軟性に富み、機械的特性、成形外観、耐傷付性、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れることが分かる。これに対し、(イ)成分にかえて直鎖状水添ジエン系共重合体を用いた比較例1及び2では、常温での粉末化は不可であった。MFRが5g/10分以下の水添ジエン系共重合体を用いた比較例3では、常温で微細なパウダーを得ることは難しく、そのパウダーを粉末形成した成形体は成形外観に劣り、MFRが50g/10分を超える水添ジエン系共重合体を用いた比較例4では、機械的特性、耐傷付性、耐熱性に劣る。水添率が本発明の範囲外の水添ジエン系共重合体を用いた比較例5では、機械的特性、成形外観、耐傷付性、耐熱性に劣る。エチレン−α−オレフイン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とからなるオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いた比較例6では、常温で微細なパウダーを得ることは難しく、そのパウダーを粉末形成した成形体は、機械的特性、成形外観、耐傷付性に劣ることが分かる。
【0058】
【発明の効果】
特定の構造の水添ジエン系共重合体及びポリオレフィン系樹脂を必須の成分として含有する本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、常温で容易に粉砕し、そのパウダーを用いて成形した成形体は、柔軟性に富み、機械的特性、成形外観、耐傷付性、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れるため、自動車内装材であるインストルメントパネル、ハンドル、カーテンエアバッグ、天井、ドア、座席シート、ピラー、ステアリングホイール、取っ手などの表皮材はもとより、家具、雑貨、家屋の内張りなどの表皮材として有用である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法及び該パウダーを粉末成形して得られる成形体に関するものである。更に詳しくは、本発明は、特定の構造の水添ジエン系共重合体及びポリオレフィン系樹脂を必須の成分として含有し、常温での粉砕が容易で、柔軟性に富み、機械的特性、成形外観、耐傷付性、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れた成形体を与え得る粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法該パウダーを粉末成形して得られる成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、軟質の粉末材料を用いた粉末成形法として、軟質塩化ビニル樹脂粉末を用いた粉末スラッシュ成形法(パウダースラシュ成形法)が、インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアートリム等の自動車内装材の表皮に広く採用されている。これは、ソフトな感触であり、皮シボやステッチを設けることができ、また設計自由度が大きいこと等の意匠性が良好なことによる。しかしながら、かかる軟質塩化ビニル樹脂は軽量性に劣るのみならず、使用済み後、焼却処分する際に塩化ビニルに起因する酸性物質が発生し、環境衛生上の問題がある。このような問題を解決するものとして、ポリプロピレン樹脂とエチレンープロピレンゴムをブレンドしたオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる熱可塑性エラストマーパウダー組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、かかる熱可塑性エラストマーパウダーを粉末成形して得られる成形体は、塩化ビニル系樹脂成形体と比較して、硬く、また折り曲げた際に白化しやすい性質を有するため、該成形体を製造したのち金型から脱型する際などに、折り曲げられた部分が白化して外観不良が生じる傾向があった。折り曲げ白化を改良するものとして、ポリプロピレン樹脂と低スチレン含量のスチレン系熱可塑性エラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマーパウダー組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。更には、ポリプロピレン樹脂と高ビニル含量の共役ジエン系共重合体を水添した水添ジエン系共重合体をブレンドした熱可塑性エラストマーパウダー組成物が提案されている(例えば、特許文献3、4及び5参照)。
しかしながら、これらの特許に記載された熱可塑性エラストマー組成物は、常温で細かく粉砕することが困難なため、冷凍粉砕が必要となり、工業的には製造設備が大掛りになるばかりか、かかるパウダーを粉末成形して得られる成形体は、耐傷付性、耐熱性、成形外観などにおいて、まだ不十分であるという問題点があった。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−1183号公報
【特許文献2】
特開平7−82433号公報
【特許文献3】
特開平11−60826号公報
【特許文献4】
特開2001−49051号公報
【特許文献5】
特開2001−49052号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来の技術的課題を背景になされたもので、特定構造の水添ジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂を必須の成分として含有し、常温で微粉末のパウダーが容易に製造でき、更には耐傷付性、耐熱性、成形外観等に優れた成形体を与え得る粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法、及び該パウダーを粉末成形して得られる成形体を提供することを目的とする。
【0005】
【発明を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、高流動性でラジアル型の水添ジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂を使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物、該組成物のパウダー、該パウダーを用いる粉末成形方法、及び該パウダーを粉末成形して得られる成形体が提供される。
[1]下記(イ)100質量部及び(ロ)ポリオレフィン系樹脂10〜1000質量部を含有することを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
(イ)下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。
[2](イ)水添ジエン系共重合体が下記一般式(1)で示される上記[1]に記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
(A−B)nX (1)
(ただし、Aはビニル芳香族化合物重合体ブロック、Bは下記(B1)、(B2)および(B3)から選ばれる少なくとも一種類のブロック、nは3以上の数、Xはカップリング剤残基を示す)
(B1):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物のランダム共重合体ブロックが水添されてなるブロック。
(B2):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなり、ビニル芳香族化合物が漸増するテーパー状ブロックが水添されてなるブロック。
(B3):共役ジエン重合体ブロックが水添されてなるブロック。
[3](イ)において、ビニル芳香族化合物がスチレンであり、共役ジエン化合物が1,3−ブタジエン及び/又はイソプレンである上記[2]に記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
[4](イ)がさらに下記▲4▼〜▲6▼の条件を充足する水添ジエン系共重合体である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
▲4▼:水添ジエン系共重合体中に含まれるビニル芳香族化合物含有量が10〜50質量%である。
▲5▼:共役ジエン化合物由来のビニル結合含量が30%以上である。
▲6▼:質量平均分子量(Mw)が1万〜15万である。
[5]さらに、(イ)100質量部あたり、(ハ)エチレン−α−オレフィン系共重合体0〜250質量部を含有する上記[1]〜[4]のいずれかに記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物が機械粉砕、ダイフェースカットまたはストランドカットされてなる粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
[7]かさ比重が0.38以上かつ球換算平均粒径が1.2mm以下である上記[6]に記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
[8]上記[6]または[7]のいずれかに記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーを用いる粉末成形方法。
[9]上記[6]または[7]のいずれかに記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーを粉末成形して得られる成形体。
[10]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物を粉末成形して得られる自動車内装材。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物の実施の形態を具体的に説明する。
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、下記(イ)100質量部及び(ロ)ポリオレフィン系樹脂10〜1000質量部を含有することを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物である。
(イ)下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。
以下、各構成要素ごとにさらに具体的に説明する。
【0008】
(イ)水添ジエン系共重合体
本発明で用いられる(イ)水添ジエン系共重合体(以下「(イ)成分」ともいう)は、下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体である。
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。
【0009】
ここで、ラジアル型水添ジエン系共重合体とは、分岐又は星状の重合体で、具体的には下記一般式で示される重合体である。
(A−B)nX (1)
(ただし、Aはビニル芳香族化合物重合体ブロック、Bは下記(B1)、(B2)および(B3)から選ばれる少なくとも一種類のブロック、nは3以上の数、好ましくは3〜8の数、Xはカップリング剤残基を示す)
(B1):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物のランダム共重合体ブロックが水添されてなるブロック。
(B2):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなり、ビニル芳香族化合物が漸増するテーパー状ブロックが水添されてなるブロック。
(B3):共役ジエン重合体ブロックが水添されてなるブロック。
このような共重合体は、例えば、不活性有機溶媒中、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物を、有機リチウム化合物のような有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としてリビングアニオン重合し、直鎖状のブロック共重合体を得た後、カップリング剤を使用して共重合体分子鎖がカップリング残基を介して分岐された共重合体(以下「水添前重合体」ともいう)とし、その後、該共重合体を水素添加することにより容易に得ることができる。尚、上記一般式(1)のn(以下「分岐指数」という場合がある)は、3未満では常温で微粉末が容易に得られない。
【0010】
水添前重合体を構成する芳香族ビニル化合物としては、スチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。この中で、スチレンが好ましい。
また、共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、ミルセン、クロロプレン等が挙げられる。この中で、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0011】
カップリング剤としては、例えばジビニルベンゼン、1,2,4−トリビニルベンゼン、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ベンゼン−1,2,4−トリイソシアナート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、ピロメリット酸ジアンヒドリド、炭酸ジエチル、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,4−ビス(トリクロロメチル)ベンゼン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、(ジクロロメチル)トリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロスズ、1,3−ジクロロ−2−プロパノンなどが挙げられる。この中で、ジビニルベンゼン、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシランが好ましい。
【0012】
本発明の水添ジエン系共重合体における共役ジエン化合物由来の二重結合の80%以上が水添されていることが必要であり、90%以上、特には95%以上水添されていることが好ましい。水添率が80%未満の場合、得られた成形体の耐候性が低下するという問題がある。
【0013】
本発明の水添ジエン系共重合体の190℃、荷重2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)は、5〜50g/10分、好ましくは10〜30g/10分の範囲内である。メルトフローレート(MFR)が5g/10分未満の場合、常温で微粉末が容易に得られず、又得られた成形体の成形外観が劣るという問題がある。一方、メルトフローレート(MFR)が50g/10分を超えると、得られた成形体の耐熱性、耐候性、機械的強度が劣るという問題がある。
【0014】
本発明の水添ジエン系共重合体におけるビニル芳香族化合物含有量は、10〜50質量%であることが好ましく、特に20〜40質量%の範囲内にあることが好ましい。ビニル芳香族化合物含有量が50質量%を超えると、該熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体が硬くなる傾向にある。また、ビニル芳香族化合物含有量が10質量%未満であると、得られる成形体の耐熱性、機械的強度が低下する傾向にある。
【0015】
本発明の水添ジエン系共重合体における、水添前重合体の共役ジエン化合物中のビニル結合含量は30%以上であることが好ましく、特には40〜80%であることが好ましい。かかる割合が30%未満であると、得られる成形体が硬くなる傾向にある。一方、80%を超えると成形体の耐熱性、機械的強度が悪くなる傾向にある。
【0016】
本発明の水添ジエン系共重合体の質量平均分子量(Mw)は、外観、強度に優れる成形体を得るためには1万〜15万であることが好ましく、特に5万〜10万であることが好ましい。該質量平均分子量が5万未満であると、得られた成形体に粘着性が発生するほか、耐熱性及び耐候性が不十分となる。また、該質量平均分子量が15万を超える場合は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の流動性が劣るため、十分な外観及び機械的強度を有する成形体を得ることができない。
【0017】
本発明の水添ジエン系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性や耐寒性に影響を与えることがある。芳香族ビニル化合物重合体ブロック(A)のTgは80〜110℃、好ましくは90〜110℃であり、共役ジエン化合物を含む重合体ブロック(B)のTgは−30〜−60℃、好ましくは−35〜−55℃である。
【0018】
なお、本発明の水添ジエン系共重合体は、少なくとも1種の官能基を該水添ジエン系共重合体に導入して、変性水添ジエン系共重合体として用いることも可能である。また、上記の水添前重合体製造段階において、カップリング剤として、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ベンゼン−1,2,4−トリイソシアナート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、ピロメリット酸ジアンヒドリドなどを用いることにより、分子鎖の中央に−OH基、−NH−CO基、−NH基などの官能基を導入することもできる。
【0019】
(ロ)ポリオレフィン系樹脂
本発明で用いられる(ロ)ポリオレフィン系樹脂(以下「(ロ)成分」ともいう)は、炭素原子数2〜20のα−オレフィンの単独重合体または共重合体が挙げられる。
上記ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては、以下のような(共)重合体が挙げられる。(1)エチレン単独重合体(製法は、低圧法、高圧法のいずれでも良い)(2)エチレンと、10モル%以下の他のα−オレフィンまたは酢酸ビニル、エチルアクリレートなどのビニルモノマーとの共重合体(3)プロピレン単独重合体(4)プロピレンと20モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体(5)プロピレンと30モル%以下の他のα−オレフィンとのブロック共重合体(6)1−ブテン単独重合体(7)1−ブテンと10モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体(8)4−メチル−1−ペンテン単独重合体(9)4−メチル−1−ペンテンと20モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体上記のα−オレフィンとしては、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。上記のポリオレフィン系樹脂の中でも、プロピレン単独重合体、プロピレンと20モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体が好ましい。特に、結晶化度が50%以上、密度が0.89g/cm3以上であり、エチレン単位の含有量が20モル%以下であり、融点が100℃以上であるポリプロピレン及び/又はプロピレンと、エチレンとの共重合体を用いることが好ましい。上記のようなポリオレフィン系樹脂は、単独で、あるいは組合せて用いることができる。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂の分子量はデカリン溶媒中135℃で測定した場合の極限粘度[η]は、好ましくは0.3〜10dl/g、より好ましくは0.5〜6dl/gである。
また、230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートは、好ましくは0.1〜200g/10分、より好ましくは0.5〜100g/10分である。
【0021】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、前記(イ)、(ロ)を必須成分とする。(ロ)成分の含有量は、(イ)成分100質量部に対して、(ロ)成分が10〜1000質量部含有することが必要であり、40〜200質量部含有することが好ましい。(イ)成分100質量部に対する(ロ)成分の含有量が10質量部未満である場合は、粉末成形法により得られた成形体に粘着性が発生するほか、耐熱性及び耐候性が不十分となり、1000質量部を超える場合は、粉末成形法により得られた成形体の柔軟性が劣り、また折り曲げた時に折り曲げられた部分が白化しやすくなる。
【0022】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、必須の成分である(イ)及び(ロ)成分に加えて、(ハ)エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体を含有してもよい。(ハ)を含有する場合には、熱可塑性エラストマーパウダーの粉末成形性、及び該パウダーを粉末成形することにより得られる成形体を折り曲げた時に折り曲げられた部分の耐白化性を低下させることなしに、80℃程度からポリオレフィン系樹脂の融点未満の温度で加熱したときに光沢を発することがなく、更には耐寒衝撃性に優れる粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物を与える。
【0023】
(ハ)エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体
本発明に用いられる(ハ)エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体(以下「(ハ)成分」ともいう)は、例えば、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合ゴム、エチレン−1−ブテン共重合ゴム、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン三元共重合ゴムのような、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンを主成分とするランダム共重合体が挙げられる。
上記炭素数3〜10のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等を挙げることができ、特にプロピレン、1−ブテンが好ましい。
上記非共役ジエンとしては、例えば、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、3,6−ジメチル−1,7−オクタジエン、4,5−ジメチル−1,7−オクタジエン、5−メチル−1,8−ノナジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、2,5−ノルボルナジエンなどを挙げることができ、特に1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましい。
【0024】
これらのエチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体において、エチレンが35〜85質量%、特に40〜80質量%、α−オレフィンが15〜65質量%、特に20〜60質量%の割合で共重合されていることが好ましい。また、非共役ジエンとしては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンが好ましく、その含量は、0〜20質量%、特に1〜10質量%の割合で共重合されていることが好ましい。また、ヨウ素価表示で40以下、特に5〜30、更には7〜20であることが好ましい。エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体において、エチレン含有量が85質量%より多くなり、α−オレフィン含有量が15質量%未満では、該共重合ゴムの柔軟性が不足し好ましくない。また、エチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体のデカリン溶媒中135℃で測定した場合の極限粘度[η]は、1.0dl/g以上であるが、好ましくは2.0〜6.8dl/g、より好ましくは3.5〜6.0dl/gである。更に、X線回折測定による結晶化度は20%以下、特に15%以下であることが好ましい。結晶化度が20%を超える場合は共重合ゴムの柔軟性が低下する傾向があり好ましくない。
本発明のエチレン−α−オレフィン系ランダム共重合体は軟化剤が重合時に添加された油展ポリマーであってもよい。
【0025】
(ハ)成分を用いる場合の(ハ)成分の量は、(イ)成分100質量部に対して250質量部以下であり、好ましくは20〜100質量部である。(ハ)成分が過多であると得られた成形体の機械的強度、成形外観が低下する場合がある。
【0026】
また、本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、(イ)及び(ロ)成分、並びに必要に応じて配合される(ハ)成分に加えて、本発明の効果を損なわない程度に、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム等のゴム質重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びそのけん化物、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル−酢酸ビニル共重合体などの他の重合体成分を含有していてもよい。
【0027】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて各種添加剤、例えばフェノール系、サルファイト系、フェニルアルカン系、フォスファイト系、アミン系、アミド系等の耐熱安定剤、耐候安定剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、銅害防止剤などの安定剤、防菌・防かび剤、抗菌剤、分散剤、鉱物油系軟化剤、可塑剤、発泡剤、発泡助剤、酸化チタン、顔料、フェライトなどの金属粉末、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの有機繊維、複合繊維、チタン酸カリウムウィスカーなどの無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、ポリマービーズなどの充填剤またはこれらの混合物、ポリオレフィンワックス、セルロースパウダー、ゴム粉などの充填剤、低分子量ポリマーなどを配合して用いることができる。
【0028】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物が鉱物油系軟化剤を含有する場合、流動性に優れた熱可塑性エラストマーパウダー及び柔軟性に優れた粉末成形体を得ることができる。
【0029】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物が顔料を含有する場合、顔料としては、アゾ系、フタロシアン系、スレン系、染色レーキ等の有機顔料、酸化チタン等の酸化物系、クロモ酸モリブデン酸系、硫化セレン化合物、フェロシアン化合物、カーボンブラック等の無機顔料が用いられる。
【0030】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて従来公知の方法により、硫黄架橋、過酸化物架橋、金属イオン架橋、シラン架橋、樹脂架橋などの架橋を行うこともできる。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得る方法としては、例えば(イ)及び(ロ)成分並びに必要に応じて配合される(ハ)成分を溶融混練する方法が挙げられる。混練には、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、ロール等を用いることができる。なお、先述の各種添加剤及び各種重合体の配合は、たとえば、これらの添加剤が予め配合された(イ)、(ロ)、(ハ)成分を用いたり、上記成分の混練の際に配合することにより行うことができる。
【0032】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物パウダーは、粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物を機械的に粉砕する方法、又はストランドカット法、ダイフェースカット法によって製造することができる。
【0033】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物を機械的に粉砕する方法として、例えば、ターボミル、ローラミル、ボールミル、ピンミル、ハンマーミル、遠心力粉砕機等の粉砕機などを用いて、常温粉砕すること(常温粉砕法)ができる。
【0034】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物をストランドカットで粉砕する方法としては、溶融している熱可塑性エラストマー組成物をダイスから空気中又は水中に押し出してストランドとし、これを切断する。ダイスの吐出口径は、通常は0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mmの範囲にある。ダイスの吐出口1個あたりの熱可塑性エラストマー組成物の吐出速度は、通常は0.1〜5kg/時、好ましくは0.5〜3kg/時の範囲にある。ストランドの引取速度は、通常は1〜100m/分、好ましくは5〜50m/分の範囲にある。また、冷却されたストランドは、通常は1.2mm以下、好ましくは0.1〜1.0mmに切断される。
【0035】
本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物をダイフェースカットで粉砕する方法としては、溶融している熱可塑性エラストマー組成物をダイスから水中に押し出しながら切断する。ダイスの吐出口径は、通常は0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mmの範囲にある。ダイスの吐出口1個あたりの熱可塑性エラストマー組成物の吐出速度は、通常は0.1〜5kg/時、好ましくは0.5〜3kg/時の範囲にある。水の温度は、通常は30〜70℃、好ましくは40〜60℃の範囲にある。
【0036】
上記粉砕方法により、かさ比重が0.38以上、好ましくは0.40以上、0.70以下、かつ球換算平均粒径が1.2mm以下、好ましくは0.1〜0.7mmである粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物パウダーが容易に得ることができる。
【0037】
ここで、パウダーの球換算平均粒径は、該パウダーの平均体積と同じ体積を有する球の直径として定義される。尚、パウダーの平均体積(V)は、無作為に取り出された100粒の熱可塑性エラストマー組成物パウダーの合計質量(W)と熱可塑性エラストマー組成物の密度(D)と平均体積(V)に関する下記式:V=W/Dによって定義される。また、パウダーのかさ比重は、JIS K−6721に準拠して定義及び測定される。
【0038】
得られた粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーは、粉末スラッシュ成形法、流動浸漬法、静電塗装法、粉末溶射法、粉末回転成形法などの種々の粉末成形法に適用することができる。
【0039】
例えば、粉末スラッシュ成形法の場合、熱可塑性エラストマーパウダーを、一軸回転ハンドルの付いた一軸回転粉末スラッシュ成形装置に取り付けたステンレス製角形容器に投入し、次いで、この容器の上部に、予め180〜300℃、好ましくは、200〜280℃に加熱した、所定形状の電鋳金型を取り付け、一軸回転ハンドルを回転させて、上記容器と電鋳金型を同時に左右に数回、回転を繰り返し、その後、電鋳金型を木ハンマーなどで数回たたき、過剰のパウダーを払い落し、次いで、容器から電鋳金型を外し、250〜450℃、好ましくは、300〜430℃の加熱炉中で5〜60秒、好ましくは、10〜30秒、加熱溶融したのち、水冷し、金型より成形品を取り出す事により行われる。
【0040】
このような粉末スラッシュ成形法で得られる成形体は、欠肉・ピンホール等の不具合がなく、しかも機械特性、耐熱性、シボ転写性、耐傷付性に優れるため、自動車内装材であるインストルメントパネル、ハンドル、カーテンエアバッグ、天井、ドア、座席シート、ピラー、ステアリングホイール、取っ手などの表皮材はもとより、家具、雑貨、家屋の内張りなどの表皮材として有用である。中でも、特にインストルメントパネル、ハンドル、カーテンエアバックまたはドアなどの自動車内装材に好適に使用される。
【0041】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例、比較例中の部及び%は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例、比較例に用いられる各種成分及び各種測定は、下記の方法に拠った。
【0042】
(1)水添ジエン系共重合体の製造
以下に記載の方法により、水添ジエン系共重合体を製造した。尚、共重合体の特性は以下の方法で測定した。
[1]水添率
共役ジエンの水添率は、四塩化炭素溶液を用い、270MHz、1H−NMRスペクトルから算出した。
[2]メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に準拠して、190℃、2.16kg荷重で測定した。
[3]全スチレン単位含有量(「結合スチレン含量」ともいう)
699cm−1のフェニル基の吸収をもとに、赤外分析法により測定した。
[4]ビニル結合含量
1,2−結合等のビニル結合含量は、赤外分析法を用い、ハンプトン法により算出した。
[5]水添ジエン系共重合体の質量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(室温GPC、カラム;東ソー社製、GMH−XL)を用いて、カップリングした重合体成分のピーク面積とカップリングしていない重合体成分のピーク面積との平均値を、ポリスチレン換算で求めた。
[6]カップリング率
上記室温GPCで得られた、カップリングした重合体成分のピーク面積とカップリングしていない重合体成分のピーク面積とから算出した。
[7]分岐指数
下記の式より算出した。
分岐指数=(カップリング反応後の共重合体のMw)/(カップリング反応前の共重合体のMw)
[8]ガラス転移温度(Tg)
ASTM D3418に従って測定した。
【0043】
製造例1(水添ジエン系共重合体の製造)
内容積10リットルのオートクレーブに、脱気・脱水したシクロヘキサン5kg、スチレン300g、テトラヒドロフラン25gを仕込み、重合開始温度を30℃にし、n−ブチルリチウム4.3gにて昇温重合を行った。次いで温度を30℃に冷却した後、1,3−ブタジエン700gを添加し、断熱重合を行った。
重合が完結したのち、テトラクロロシラン2.18gを添加し、約20分間反応を行った。その後、水素ガスを0.4MPa Gの圧力で供給し、20分間撹拌し、リビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。
【0044】
反応溶液を90℃にし、テトラクロロシラン0.5gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒としてビス(η5−シクロペンタジエニル)チタニウム(テトラヒドロフルフリルオキシ)クロリド0.5gを加え、水素圧1.0MPaで2時間添加反応を行った。
得られた水添ジエン系共重合体(H−1)の水添率は99%、質量平均分子量は7.1万、カップリング率は80%、分岐指数は3.5、水添前共重合体の結合スチレン含量は30質量%、ブタジエンブロックのビニル結合含量は53%、MFRは15g/10分であった。
【0045】
製造例2〜5、比較製造例1〜5
製造例1と同様の方法により、表1の各水添ジエン系共重合体となるように、モノマー種、モノマー量、触媒量、カップリング剤量、重合温度、重合時間などを変量することにより作製した。これらの結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
ここで、H−1〜H−5は本発明の範囲内であるラジアル型水添ジエン系共重合体である。又、比較製造例1〜5で得られるR−1〜R−5は、本発明の範囲外の水添ジエン系共重合体である。
R−1は、カップリング剤として2官能性の1,2−ジブロモエタンを用いた例であり、(イ)成分のラジアル型水添ジエン系共重合体を含まない例である。
R−2は、カップリングしていない水添ジエン系共重合体である。
R−3、R−4は、MFRが本発明の範囲外となったものである。
R−5は、水添率が本発明の範囲外となったものである。
【0048】
(2)各種成分
(イ)成分:水添ジエン系共重合体;表1に示す構造を有する水添ジエン系共重合体
(ロ)成分:ポリオレフィン系樹脂;日本ポリオレフィン社製、プロピレン−エチレンランダム共重合体、MG970−3、MFR=80g/10分
(ハ)成分:エチレン−α−オレフイン系共重合体;ジェイエスアール社製、EP51、プロピレン含量26%、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)=38
【0049】
(3)パウダー形状評価
[9]パウダーのかさ比重
JIS K−6721に準拠して、熱可塑性エラストマー組成物パウダー100mlを採取・秤量し、かさ比重を算出した。
[10]パウダーの球換算平均粒径
熱可塑性エラストマー組成物パウダーの粒子20個を任意に採取し、その質量を求め、これと熱可塑性エラストマー組成物の比重とから粒子の平均体積を算出し、この平均体積と同体積の球の直径を算出して、球換算平均粒径とした。
【0050】
(4)物性評価
[11]引張特性(機械的強度)
後述の2mm厚のシートをJIS K6301に従って引張強さ、伸びを測定した。
[12]硬度(柔軟性)
後述の2mm厚シートをASTM D2240に従ってショアーD硬度を測定し、以下の基準で判定した。
○:柔軟性に優れる:硬度が55未満
△:柔軟性がある:硬度が55〜60
×:柔軟性に劣る:硬度が60を超える
[13]成形外観
下記の基準に従って、後述のシボ付き1mm厚シートの成形外観を目視評価した。
○:ピンホールがなく、シボ転写性が良好である。
×:ピンホールや欠肉がある、シボ転写性が悪い、艶むらがあるなど、外観不良現象が見られる。
[14]耐傷付性
東洋精機製作所社製のテーバースクラッチテスター試験機を用い、後述のシボ付き1mm厚シートを、荷重を変えながら引っ掻き試験を実施した。試料の表面が艶消し状態に傷付いたときの荷重を傷付き荷重とし、以下の基準で判定した。
○:耐傷付性に優れる:傷付き荷重が100gを超える
△:耐傷付性がある:傷付き荷重が30〜100g
×:耐傷付性に劣る:傷付き荷重が30g未満
[15]耐熱性
後述のシボ付き1mm厚シートを110℃、24時間放置し、加熱前後のグロス値(光沢)の変化を下記の基準で判定した。グロス値はデジタル光度計(村上色彩技術研究所製、GM−26D、反射角60度)により測定した。
○:耐熱性に優れる:グロス値の差が1.0未満
△:耐熱性がある:グロス値の差が1.0〜2.5
×:耐熱性に劣る:グロス値の差が2.5を超える
[16]耐寒性
JIS K7110に従って、−30℃の衝撃強度を測定し耐寒性の指標とした。
[17]耐候性
サンシャインウェザーメーター(スガ試験社製)を用い、後述の2mm厚シートをブラックパネル温度83℃(雨無し)で50時間放置し、その前後における引張強度の保持率を求め、下記の基準で判定した。
○:耐候性に優れる:保持率が90%を超える
△:耐候性がある:保持率が70〜90%
×:耐候性に劣る:保持率が70%未満
【0051】
実施例1(熱可塑性エラストマーパウダーの製造及び粉末成形)
上記製造例1で得た水添ジエン系共重合体(H−1)100質量部とポリオレフィン系樹脂(MG970−3)100質量部を30mmφ押出機(田辺プラスッチク社製)に入れて160℃に加熱・混練したのち、吐出口径1.0mmのダイス(温度160℃)から吐出速度1kg/時/穴で吐き出し、引取速度32m/分で引き取った後、室温に戻して、直径0.8mmのストランドを得た。次いでこれをペレタイザーで切断することにより、かさ比重0.42、球換算平均粒径0.65mmの熱可塑性エラストマーパウダーを得た。該熱可塑性エラストマーパウダーを、プレス成形機を用い170℃にて2mm厚のシートを作成し、物性評価に具した。
次に上記熱可塑性エラストマーパウダーを温度250℃のシボ付き電鋳型(長さ1200mm×幅500mm)にチャージし5秒間放置後、金型を反転させ余分の粉末を落とし、そのままの状態で60秒間放置した。その後、冷却し、脱型し、厚み1mmのシボ付き成形体を得た。得られた成形体の物性評価結果を表2に示す。
【0052】
実施例2〜8
表2に示す配合を用い実施例1と同様にしてパウダー及びそれを用いてシート及びシボ付き成形体を作成し、物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
比較例1〜2
表3に示す配合を用い実施例1と同様にして直径0.8mmのストランドを得たが、室温では切断してもペレット同士がブロッキングしてパウダーが得られなかった。
【0055】
比較例3〜6
表3に示す配合を用い実施例1と同様にしてパウダー及びそれを用いてシート及びシボ付き成形体を作成し、物性評価を行った。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表2及び表3より、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、常温で微細なパウダーが得られ、かつ、そのパウダーを粉末形成した成形体は、柔軟性に富み、機械的特性、成形外観、耐傷付性、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れることが分かる。これに対し、(イ)成分にかえて直鎖状水添ジエン系共重合体を用いた比較例1及び2では、常温での粉末化は不可であった。MFRが5g/10分以下の水添ジエン系共重合体を用いた比較例3では、常温で微細なパウダーを得ることは難しく、そのパウダーを粉末形成した成形体は成形外観に劣り、MFRが50g/10分を超える水添ジエン系共重合体を用いた比較例4では、機械的特性、耐傷付性、耐熱性に劣る。水添率が本発明の範囲外の水添ジエン系共重合体を用いた比較例5では、機械的特性、成形外観、耐傷付性、耐熱性に劣る。エチレン−α−オレフイン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とからなるオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いた比較例6では、常温で微細なパウダーを得ることは難しく、そのパウダーを粉末形成した成形体は、機械的特性、成形外観、耐傷付性に劣ることが分かる。
【0058】
【発明の効果】
特定の構造の水添ジエン系共重合体及びポリオレフィン系樹脂を必須の成分として含有する本発明の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物は、常温で容易に粉砕し、そのパウダーを用いて成形した成形体は、柔軟性に富み、機械的特性、成形外観、耐傷付性、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れるため、自動車内装材であるインストルメントパネル、ハンドル、カーテンエアバッグ、天井、ドア、座席シート、ピラー、ステアリングホイール、取っ手などの表皮材はもとより、家具、雑貨、家屋の内張りなどの表皮材として有用である。
Claims (10)
- 下記(イ)100質量部及び(ロ)ポリオレフィン系樹脂10〜1000質量部を含有することを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
(イ)下記▲1▼から▲3▼のすべての条件を充足する水添ジエン系共重合体
▲1▼:ラジアル型水添ジエン系共重合体である。
▲2▼:共役ジエン化合物由来の二重結合の水添率が80%以上である。
▲3▼:190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜50g/10分である。 - 上記(イ)水添ジエン系共重合体が下記一般式(1)で示されることを特徴とする請求項1記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
(A−B)nX (1)
(ただし、Aはビニル芳香族化合物重合体ブロック、Bは下記(B1)、(B2)および(B3)から選ばれる少なくとも一種類のブロック、nは3以上の数、Xはカップリング剤残基を示す)
(B1):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物のランダム共重合体ブロックが水添されてなるブロック。
(B2):ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなり、ビニル芳香族化合物が漸増するテーパー状ブロックが水添されてなるブロック。
(B3):共役ジエン重合体ブロックが水添されてなるブロック。 - 上記(イ)において、ビニル芳香族化合物がスチレンであり、共役ジエン化合物が1,3−ブタジエン及び/又はイソプレンである請求項2記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
- 上記(イ)がさらに下記▲4▼〜▲6▼の条件を充足する水添ジエン系共重合体である請求項1〜3記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
▲4▼:水添ジエン系共重合体中に含まれるビニル芳香族化合物含有量が10〜50質量%である。
▲5▼:共役ジエン化合物由来のビニル結合含量が30%以上である。
▲6▼:質量平均分子量(Mw)が1万〜15万である。 - さらに、上記(イ)100質量部あたり、(ハ)エチレン−α−オレフィン系共重合体0〜250質量部を含有する請求項1〜4記載の粉末成形用熱可塑性エラストマー組成物。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の組成物が機械粉砕、ダイフェースカットまたはストランドカットされてなる粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
- かさ比重が0.38以上かつ球換算平均粒径が1.2mm以下である請求項6記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
- 請求項6または7記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーを用いる粉末成形方法。
- 請求項6または7記載の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーを粉末成形して得られる成形体。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を粉末成形して得られる自動車内装材。
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JP2007154013A (ja) * | 2005-12-05 | 2007-06-21 | Jsr Corp | 不織布用共重合体、不織布用共重合体組成物、及び不織布 |
JP2009504928A (ja) * | 2005-09-02 | 2009-02-05 | クレイトン・ポリマーズ・リサーチ・ベー・ベー | 分布制御ブロックコポリマーを含む弾性繊維 |
-
2002
- 2002-10-15 JP JP2002300923A patent/JP2004137306A/ja active Pending
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