JP2004136768A - シートベルト装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】シートベルトに対するタングとバックル等のベルト装着用係止部材の連結位置の規制の操作をより簡単にかつ乗員により的確に対応させて行う。
【解決手段】クランプ部材11aの被押圧部11a3を所定の押圧力Fでねじりばね13の付勢力に抗して押圧することで、クランプ部材11aが時計方向に回動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。また、被押圧部11a3の押圧を解除することで、ねじりばね13の付勢力でクランプ部材11aが反時計方向に回動して、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2とバックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1との協働によりシートベルト3をこれらの挟持面で挟持(クランプ)する。シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しなく、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。
【選択図】 図3
【解決手段】クランプ部材11aの被押圧部11a3を所定の押圧力Fでねじりばね13の付勢力に抗して押圧することで、クランプ部材11aが時計方向に回動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。また、被押圧部11a3の押圧を解除することで、ねじりばね13の付勢力でクランプ部材11aが反時計方向に回動して、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2とバックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1との協働によりシートベルト3をこれらの挟持面で挟持(クランプ)する。シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しなく、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等の車両のシートに付設されて、車両衝突時等の緊急時にシートベルトにより乗員を拘束保護するシートベルト装置の技術分野に属し、特に、シートベルトをショルダーベルトとラップベルトに分ける、シートベルトに対するタングやバックル等のベルト装着用係止部材の連結位置を規制するようになっているシートベルト装置の技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の4点式シートベルト装置においては、左右の2本のウェビングのうち、一方のウェビングにバックルを摺動可能に支持するとともに他方のウェビングにタングを摺動可能に支持し、乗員の前側センターにおいてバックルにタングを連結することで乗員を拘束する4点式シートベルト装置が提案されている。その場合、バックルおよびタングより乗員の肩側にあるウェビングは乗員の肩や胸を拘束するショルダーベルトを構成し、また、バックルおよびタングより乗員の腰側にあるウェビングは乗員の腰を拘束するラップベルトを構成している。
【0003】
この4点式シートベルト装置においては、2本のウェビングにおける、タングとバックルとの連結位置の近傍に、それぞれ、複数の突起物がウェビングの長手方向に沿って間隔を置いて固着されており、ウェビングに沿って摺動するバックルおよびタングがこれらの突起物に引っ掛かることで、装着後、タングとバックルとの連結位置がずれることがなく、確実に乗員の腹部下方に位置して、腰部の拘束性を高めている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、他の従来の4点式シートベルト装置においては、左右の2本のシートベルトにそれぞれバックルケースを摺動可能に支持するとともに、各バックルケースにはそれぞれ互いに相手のバックルケースに連結されるタングが固定され、着座者の前側センターにおいて各バックルケースに、対応するタングを連結することで着座者を拘束する4点式の車両用シートベルト装置が提案されている。その場合、各バックルケースより着座者の肩側にある各シートベルトは着座者の肩や胸を拘束するショルダーベルト部を構成し、また、各バックルケースより着座者の腰側にある各シートベルトは着座者の腰を拘束するラップベルト部を構成している。
【0005】
この4点式シートベルト装置においては、各バックルケースのシートベルト摺動部位にそれぞれベルトストッパが設けられており、バックルケースとタングとの連結時に各タングの先端が対応するベルトストッパを押動して、シートベルトにおけるバックル摺動部位をベルトストッパとバックルケースとの間に挟圧することで、バックルケースに対するシートベルトの移動を規制して、着座者の下半身を的確に拘束し、バックルケースとタングとの連結解除時にバネでベルトストッパを元の位置に復帰させることでバックルケースに対するシートベルトの移動の規制を解除している(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】
特開平6−255445号公報
【特許文献2】
特開2000−16234号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述の特許文献1に開示の4点式シートベルト装置では、単純に複数の突起物をウェビングにその長手方向に沿って間隔を置いて固着しているので構成が簡単であるものの、複数の突起物がウェビングにその長手方向に沿って間隔を置いて配置されていることから、タングとバックルとの連結位置がウェビングに対して断続的に規制されるようになる。このため、隣接する突起物の間ではタングとバックルとの連結位置がウェビングに対して規制することができず、ショルダーベルトおよびラップベルトの長さを適切に規制することが難しい。したがって、ウェビングに対するタングとバックルとの連結位置の規制を乗員に的確に対応させて行うことが難しく、ウェビングにより乗員を効果的に拘束することはできない。
【0007】
また、ウェビングにおけるタングとバックルとの連結位置の近傍に、複数の突起物が設けられることで、乗員がシートベルトを装着するためにバックルおよびタングを持ってウェビングを引き出して、バックルにタングを連結する際に、バックルおよびタングがこれらの突起物にその都度引っ掛かってしまい、タングとバックルとの連結操作が煩雑となり、シートベルトの装着を簡単に行うことができないという問題がある。しかも、ウェビングに複数の突起物が設けられることで、ウェビングに対する乗員の触感が良好でないという問題もある。
【0008】
一方、前述の特許文献2に開示の車両用シートベルト装置では、シートベルトにおけるバックル摺動部位をベルトストッパとバックルケースとの間に単純に挟圧しているので、シートベルトの装着を簡単に行うことができるようにしつつ、タングとバックルとの連結位置がウェビングに対して連続的に規制されてウェビングに対するタングとバックルとの連結位置の規制を乗員にある程度的確に対応させることができるものの、バックルケースに連結されたタングの先端でベルトストッパを押動することによりシートベルトにおけるバックル摺動部位をベルトストッパとバックルケースとの間に挟圧することから、乗員はタングとバックルとを連結した後、ウェビングに対するタングとバックルとの連結位置をより的確に設定するためには、タングとバックルとの連結を一々解除しなければならなく、タングとバックルとの連結位置の調整が煩雑となって、この調整を簡単に行うことができない。
【0009】
また、タングとバックルとの連結を一旦解除すると、ウェビングに対するタングとバックルとの連結位置が大きくずれてしまい、再び一からやり直さなければならず、タングとバックルとの連結位置の調整に手間取ってしまうという問題がある。特に、自動車においては、乗員が一旦タングとバックルとの連結を解除してシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座する場合が多々あるが、この場合には、タングとバックルとの連結解除でウェビングに対するタングとバックルとの連結位置が大きくずれると、その都度、再び一からやり直さなければならず、タングとバックルとの連結位置の調整にかかる手間および時間が無駄になるという問題もある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、シートベルトに対するタングとバックル等のベルト装着用係止部材の連結位置の規制の操作をより簡単にかつこの連結位置を乗員により的確に対応させて行うことができるシートベルト装置を提供することである。
本発明の他の目的は、タングとバックルとの連結時に調整したシートベルトに対するタングとバックル等のベルト装着用係止部材の連結位置を、タングとバックルとの連結解除後も保持することのできるシートベルト装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するために、請求項1の発明は、緊急時に緊張するシートベルトにより乗員を拘束するシートベルト装置において、前記シートベルトに摺動可能に支持されて、シートベルトの装着時に乗員の上胴部を拘束するショルダーベルトと乗員の腰部を拘束するラップベルトに分けるベルト装着用係止部材と、このベルト装着用係止部材のシートベルト摺動部近傍に、手動でクランプ動作が制御されて前記シートベルトを前記ベルト装着用係止部材の本体との間に挟持するクランプ手段とを備えていることを特徴としている。
また、請求項2の発明は、前記ベルト装着用係止部材が3点式のシートベルト装置のタングであり、このタングが車体に固定されたバックルと係合することで前記シートベルトが乗員を拘束することを特徴としている。
【0012】
更に、請求項3の発明は、前記ベルト装着用係止部材が1本のシートベルトに摺動可能に支持されるタングと他の1本のシートベルトに摺動可能に支持されるバックルであり、これらのタングとバックルとを係合して、緊急時に緊張するこれらのシートベルトにより乗員を拘束する4点式のシートベルト装置であって、前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方のシートベルト摺動部近傍に、手動でクランプ動作が制御されて前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方が支持されるシートベルトを前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方の本体との間に挟持するクランプ手段とを備えていることを特徴としている。
【0013】
【作用】
このように構成された請求項1ないし3の各発明の発明にかかるシートベルト装置においては、ベルト装着用係止部材の本体に設けられ、手動でクランプ動作を制御するクランプ手段により、シートベルトがベルト装着用係止部材の本体との間に、ベルト装着用係止部材の連結に関係なく、任意の位置にクランプされる。これにより、シートベルトの装着が簡単に行われつつ、ベルト装着用係止部材の連結位置がシートベルトに対して連続的にかつより安定して規制される。その場合、クランプ手段によるベルト装着用係止部材のシートベルトへのクランプがベルト装着用係止部材の連結動作に関係なく独立して手動で行われる。これにより、ベルト装着用係止部材の連結を一々解除させずに、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置の調整が手動で簡単に行われるようになる。
【0014】
こうして、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置が乗員の望む位置に安定して規制されるようになり、その結果、ベルト装着用係止部材によって分けられるショルダーベルトにより乗員の肩や胸の上胴部がより効果的に拘束保護され、また、同じくベルト装着用係止部材によって分けられるラップベルトにより乗員の腰部がより効果的に拘束保護されるようになる。
【0015】
また、クランプ手段によるベルト装着用係止部材のシートベルトへのクランプがベルト装着用係止部材の連結動作に関係なく独立して手動で行われることから、本発明のシートベルト装置は、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置を学習記憶する学習記憶機能を有するようになる。この学習記憶機能により、ベルト装着用係止部材の連結時に調整したシートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置が、ベルト装着用係止部材の連結解除後も保持される。これにより、乗員が一旦ベルト装着用係止部材の連結を解除してシートベルトを非装着にしてシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座してベルト装着用係止部材の連結を行ってシートベルトを装着した場合には、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置がその乗員の望む位置に自動的に安定して規制される。したがって、同じ乗員の場合には、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置の調整にかかる手間および時間が効果に省かれるようにになる。
【0016】
特に、請求項2の発明においては、従来公知の3式のシートベルト装置が使用可能となり、本発明のクランプ手段がこの3点式のシートベルト装置に有効に適用されるようになる。
【0017】
また、請求項3の発明においても、従来公知の4点式のシートベルト装置が使用可能となり、本発明のクランプ手段がこの4点式のシートベルト装置に有効に適用されるようになる。この4点式のシートベルト装置の場合は、タングおよびバックルがともにシートベルトに対して摺動するので、本発明のクランプ手段によるシートベルトに対するタングとバックルとの連結位置の規制では、この連結位置が乗員の望む位置に、より効果的に安定して設定可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第1例を乗員への装着状態(タングとバックルとの連結状態)で模式的に示す図、図2は図1に示す第1例に用いられているタングとバックルとを連結直前の互いに分離(連結解除)した状態で模式的に示す図である。
【0019】
図1に示すように、この第1例のシートベルト装置1は前述の各公開公報に開示されているシートベルト装置と同様の4点式シートベルト装置である。このシートベルト装置1は、装着時に乗員を拘束保護する左右の2本のシートベルト2,3と、乗員が着座する車両シート(不図示)の近傍の車体に固定され、通常時には、各シートベルト2,3をそれぞれ巻取引出可能に巻き取り、また車両衝突時等の緊急時にはそれぞれ各シートベルト2,3の引出を阻止する左右のシートベルトリトラクタ4,5と、これらのシートベルトリトラクタ4,5からそれぞれ延びている各シートベルト2,3の先端部がそれぞれ連結され、例えば車両シートの左右の車体部分にそれぞれ固定されている左右のラップアンカー6,7と、左右のシートベルト2,3のいずれか一方(図示例では、左のシートベルト2;以後、この図示例で説明する)に摺動可能に支持されているタング(本発明のベルト装着用係止部材に相当)8と、左右のシートベルト2,3のいずれか他方(図示例では、右のシートベルト3;以後、この図示例で説明する)に摺動可能に支持され、タング8が係脱可能に連結されるバックル(本発明のベルト装着用係止部材に相当)9とを備えている。
【0020】
その場合、シートベルトリトラクタ4,5は、ELRおよびALR等の従来公知のリトラクタを用いることができるとともに、プリテンショナーやエネルギ吸収機構を備えたリトラクタを用いることもできる。また、ラップアンカー6,7に代えて、前述のリトラクタを用いることもできる。更に、リトラクタはショルダーベルト2a,3aおよびラップベルト2b,3bのどちらか一方に設けることもできる。
【0021】
また、図2に示すようにタング8およびバックル9は、それぞれタング本体8aおよびバックル本体9aに穿設されたベルト挿通孔8b,9bを有しており、これらのベルト挿通孔8b,9bに、それぞれ左右のシートベルト2,3が摺動可能に挿通されている。
なお、符号8cは、バックル9に挿入されて係止されるタング8の係止部である。
【0022】
ところで、図2に拡大して示すようにこの第1例のシートベルト装置1は、タング8のタング本体8aおよびバックル9のバックル本体9aの各ベルト挿通孔(本発明のシートベルト摺動部に相当)8b,9bの近傍にそれぞれ設けられたタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11を備えている。これらのタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11はまったく同じ構成であるので、バックル側クランプ手段11について説明し、タング側クランプ手段10については説明を省略する。
【0023】
図3は図2におけるA−A線に沿う断面図であり、(a)は非クランプ状態を示す図、(b)はクランプ状態を示す図である。
図3(a)および(b)に示すように、バックル側クランプ手段11はクランプ部材11aを備えており、このクランプ部材11aはバックル本体9aのベルト挿通孔9bの近傍に回動軸12により回動可能に取り付けられている。クランプ部材11aの一方の端部はクランプ部11a1とされており、このクランプ部11a1のバックル本体9aと対向する表面は、例えばローレット加工等の表面加工により所定の表面粗さでギザギザに形成されてシートベルト3を挟持する表面粗さ挟持面11a2とされており、また、クランプ部材11aの他方の端部は、クランプ部材11aを回動するために押圧される被押圧部11a3とされている。
【0024】
また、バックル本体9aにも、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2に対向する位置(つまり、ショルダーベルト3aに対向する位置)に、この表面粗さ挟持面11a2と同じような表面粗さでシートベルト3を挟持する表面粗さ挟持面9a1が形成されている。
なお、両表面粗さ挟持面9a1,11a2の凹凸は、ローレット加工による点状の凹凸形状で形成することもできるし、また、凸条と凹溝とから線状に形成することもできる。凹凸を線状に形成する場合は、凸条および凹溝の延設する方向とシートベルト3の長さ方向とができるだけ直交するように設定することが望ましい。
【0025】
クランプ部材11aは、ねじりばね13により常時図3(a),(b)において反時計方向に付勢されている。つまり、ねじりばね13によりクランプ部材11aは、その表面粗さ挟持面11a2とバックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1とがシートベルト3を挟持する方向に常時付勢されている。
【0026】
そして、図3(a)に示すように、クランプ部材11aの被押圧部11a3を手動により所定の押圧力Fでねじりばね13の付勢力に抗して押圧することで、矢印で示すようにクランプ部材11aが時計方向に回動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置規制が解除される。
【0027】
また、図3(b)に示すように、被押圧部11a3の押圧を解除することで、ねじりばね13の付勢力でクランプ部材11aが反時計方向に回動して、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2とバックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1との協働によりシートベルト3をこれらの挟持面で挟持(クランプ)し、シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しないようになる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。
このようにして、バックル側クランプ手段11は、そのクランプ動作が手動で制御される。
【0028】
前述のようにタング側クランプ手段10もバックル側クランプ手段11と同じ構成を有しており、バックル側クランプ手段11のクランプ部材11a、クランプ部11a1、表面粗さ挟持面11a2、被押圧部11a3、回動軸12、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1、およびねじりばね13とそれぞれ同じクランプ部材、クランプ部、表面粗さ挟持面、被押圧部、回動軸、タング本体8aの表面粗さ挟持面、およびねじりばねを有している。
なお、この第1例のシートベルト装置1における、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の構成要素以外の他の構成要素は、従来公知の4点式シートベルト装置の構成要素と同じである。
【0029】
このように構成された第1例のシートベルト装置1においては、乗員が車両シートに着座した後、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の被押圧部(バックル側クランプ手段11の符号11a3のみで示す:他も同様である)を押圧して、図3(a)に示すようにタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11が左右のシートベルト2,3を解放した状態で左右のタング8およびバックル9を持って、それぞれ左右のシートベルト2,3を左右のシートベルトリトラクタ4,5から引き出す。このとき、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の各被押圧部(11a3)を押圧しているので、シートベルト2,3はともにクランプ手段10およびバックル側クランプ手段11から解放されており、タング8およびバックル9はともに左右のシートベルト2,3に対して規制されることなく自由に相対移動する。
【0030】
各シートベルトリトラクタ4,5から引き出された左右のシートベルト2,3がそれぞれ乗員の左右の肩、胸の左右および腰の左右に掛け渡されるようにしかつ乗員の前側センターでタング8をバックル9に挿入係合して連結することにより、各シートベルト2,3が乗員に装着される。同時に、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の被押圧部(11a3)の押圧を解除することで、タング8がシートベルト2の乗員の対応する位置にタング側クランプ手段10でクランプされ、またバックル9がシートベルト3の乗員の対応する位置にバックル側クランプ手段11でクランプされる。これにより、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置で規制される。
【0031】
このようにタング8とバックル9との連結によるシートベルト2,3の装着状態では、図1に示すように左右のシートベルト2,3は、それぞれタング8およびバックル9により、乗員の肩や胸等の上胴部を拘束する左右のショルダーベルト2a,3aと乗員の腰部の左右を拘束する左右のラップベルト2b,3bとに分けられる。
【0032】
そして、タング8とバックル9とが連結されて、乗員がタング8およびバックル9から手を離したとき、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置と異なるときは、タング8とバックル9との連結を解除することなく、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の被押圧部(11a3)の押圧することで、タング8とバックル9との連結状態で一旦タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11によるシートベルト2,3のクランプを解放し、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置を乗員の望む位置となるように調整して、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11により再びシートベルト2,3をクランプする。これにより、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置により簡単にかつより確実に設定される。
【0033】
このような各シートベルト2,3の装着状態では、左右のシートベルトリトラクタ4,5により、それぞれ、通常時には各シートベルト2,3が巻取引出可能にかつ圧迫感を抱かせない程度に比較的緩く巻き取られて乗員にフィットしている。このとき、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置に設定されかつ規制されているので、左右のショルダーベルト2a,3aが乗員の肩や胸の上胴部の左右に、より正確に安定して位置しているとともに、左右のラップベルト2b,3bが乗員の腰部の左右に(望ましくは、骨盤の左右に)、より正確に安定して位置している。
【0034】
各シートベルト2,3の装着状態で、車両衝突等の緊急時に大きな車両減速度が発生し、乗員がその慣性で前方へ移動しようとしても、各シートベルト2,3はそれぞれ各シートベルトリトラクタ4,5からの引出しが阻止されて、乗員を拘束保護するようになる。このとき、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置に安定して規制されているので、左右のショルダーベルト2a,3aが乗員の肩や胸の上胴部の左右をより効果的に拘束保護し、また、左右のラップベルト2b,3bが乗員の腰部の左右をより効果的に拘束保護するようになる。
【0035】
各シートベルト2,3の装着を解除するためには、従来の4点式シートベルト装置と同様にして、バックル9に設けられた解除ボタン等の解除操作部材を操作してタング8とバックル9との係合を解除することで、タング8がバックル9から分離される。その後、各シートベルトリトラクタ4,5により、それぞれ各シートベルト2,3が巻き取られて収納位置に保持される。その場合、タング8とバックル9との係合解除操作時および各シートベルトリトラクタ4,5による各シートベルト2,3の巻き取り時にも、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11により、タング8およびバックル9がそれぞれシートベルト2,3にクランプされているので、各シートベルト2,3に対するタング8およびバックル9の位置がずれることはない。つまり、各シートベルト2,3に対するタング8およびバックル9の位置が学習記憶されるようになる。
【0036】
したがって、乗員が一旦タング8とバックル9との連結を解除してシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座してタング8とバックル9とを連結して各シートベルト2,3を装着した場合には、各シートベルト2,3に対するタング8およびバックル9の位置が学習記憶されているので、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置に自動的に安定して規制される。
【0037】
そして、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の各被押圧部(11a3)を押圧して、クランプ部材(11a)を時計方向に回動することで、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11によるシートベルト2,3のクランプが解除される。
【0038】
この第1例のシートベルト装置1によれば、タング本体8aおよびバックル本体9aにそれぞれ設けた、手動でクランプ動作を制御するタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11により、各シートベルト2,3をそれぞれタング8およびバックル9に、これらのタング8とバックル9との連結に関係なくクランプしているので、シートベルト2,3の装着を簡単に行うことができるようにしつつ、タング8とバックル9との連結位置をシートベルト2,3に対して連続的にかつより安定して規制して、この連結位置の規制をより一層的確に行うことができる。
【0039】
その場合、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11による、タング8およびバックル9のシートベルト2,3へのクランプを、タング8とバックル9との連結動作に関係なく独立して行っているので、タング8とバックル9との連結を一々解除させずに、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置の調整を簡単に行うことができる。
【0040】
こうして、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置を乗員の望む位置に安定して規制することができるようになり、その結果、左右のショルダーベルト2a,3aにより乗員の肩や胸の上胴部の左右をより効果的に拘束保護することができるとともに、左右のラップベルト2b,3bにより乗員の腰部の左右をより効果的に拘束保護することができるようになる。
【0041】
また、この第1例のシートベルト装置1では、シートベルト2,3に対するタング8およびバックル9の位置を学習記憶する学習記憶機能を有しているので、タング8とバックル9との連結時に調整したシートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置を、タング8とバックル9との連結解除後も保持することができる。これにより、乗員が一旦タング8とバックル9との連結を解除してシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座してタング8とバックル9とを連結して各シートベルト2,3を装着した場合には、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置を乗員の望む位置に自動的に安定して規制することができる。したがって、同じ乗員の場合には、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置の調整にかかる手間および時間を効果に省くことができる。
【0042】
更に、シートベルト2,3に、特開平6−255445号公報に開示の複数の突起物等を設けていないので、シートベルト2,3に対する乗員の触感が良好でなくなることを防止できる。
なお図示しないが、図3(a)に示すようにシートベルト3を解放した状態にクランプ部材11aを保持するための保持具を、被押圧部11a3とバックル本体9aとの間に設けることもできる。タング側クランプ手段10のクランプ部材10aに対しても同様の保持具を設けることができる。
【0043】
また、シートベルト3を挟持する部分を表面粗さ挟持面9a1,11a2にすることに代えて、シートベルト3に対して摩擦効果を有する摩擦材で形成することもできる。更に、シートベルト3を挟持してシートベルト3の移動を規制できる所定の挟持力が得られれば、表面粗さ挟持面9a1,11a2を省略することができ、また、特別の摩擦材を用いることもない。
【0044】
図4は本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第2例を模式的に示し、(a)は非クランプ状態を示す、図3(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるIVB−IVB線に沿う断面図、(c)はクランプ状態を示す、図3(b)と同様の断面図である。なお、以下の各例の説明において、その例より前の例の構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付すことで、その詳細な説明は省略する。
【0045】
この第2例のシートベルト装置1におけるタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11も同じ構成を有しており、したがって、バックル側クランプ手段11について説明し、タング側クランプ手段10の詳細な説明は省略する。
【0046】
前述の第1例では、バックル側クランプ手段11がバックル本体9aに回動可能に設けられたバックル部材11aを備えているが、この第2例のシートベルト装置1では、バックル部材11aがバックル本体9aに直線移動可能に設けられている。すなわち、図4(a)および(b)に示すようにバックル本体9aのベルト挿通孔9bの近傍に左右一対のガイドレール9a2,9a3が設けられており、これらのガイドレール9a2,9a3には、クランプ部材11aの被ガイド部11a4,11a5がこれらのガイドレール9a2,9a3に沿って、ベルト挿通孔9bに挿通されているシートベルト3に接離する方向に移動可能に嵌合されている。その場合、これらの被ガイド部11a4,11a5はガイドレール9a2,9a3に若干のガタを有して嵌合されていて、クランプ部材11aはバックル本体9aに若干傾動可能となっている。
【0047】
一方、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分はガイドレール9a2,9a3に対して角度θだけ若干傾斜して形成されている。その場合、表面粗さ挟持面9a1の形成部分は、クランプ部材11aがシートベルト3に向かって移動する方向と同方向に進むにしたがって高くなるように傾斜している。
【0048】
また、前述の第1例では、ねじりばね13の付勢力でバックル部材11aが常時反時計方向に付勢されてシートベルト3をクランプしているが、図4(a)に示すようにこの第2例のシートベルト装置1では、バックル部材11aが圧縮ばね14のばね力で常時シートベルト3に向かう方向に付勢されて、シートベルト3をクランプするようにしている。
【0049】
そして、図4(a)に示すように、クランプ部材11aの被押圧部11a3を所定の押圧力Fで圧縮ばね14の付勢力に抗して押圧することで、矢印で示すようにクランプ部材11aが図4(a)において右方に移動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置規制が解除される。
【0050】
また、被押圧部11a3の押圧を解除することで、圧縮ばね14の付勢力でクランプ部材11aが図4(c)において左方に移動してバックル本体9aとの協働によりシートベルト3を挟持(クランプ)し、シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しないようになる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。このとき、クランプ部材11aがガイドレール9a2,9a3に若干傾動可能にガイドされるので、クランプ部材11aは、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜と同じ傾斜に傾動してシートベルト3をクランプするが、表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜とクランプ部材11aの傾動とによりシートベルト3のクランプ力がより強大になり、クランプが効果的に行われる。
【0051】
なお、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2が形成されている部分も、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜と同じように傾斜させることもできる。この場合には、クランプ部材11aはガイドレール9a2,9a3に対して若干のガタを持たせて傾動可能にする必要はない。
【0052】
前述のようにタング側クランプ手段10もバックル側クランプ手段11と同じ構成を有しており、バックル側クランプ手段11のクランプ部材11a、クランプ部11a1、表面粗さ挟持面11a2、被押圧部11a3、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1、および圧縮ばね14とそれぞれ同じクランプ部材、クランプ部、表面粗さ挟持面、被押圧部、タング本体8aの表面粗さ挟持面、および圧縮ばねを有している。
【0053】
この第2例のシートベルト装置1の他の構成は、前述の第1例と同じである。また、この第2例のシートベルト装置1の他の動作および他の作用効果も、前述の第1例と実質的に同じである。
なお、前述の第1例と同様に、図4(a)に示すようにシートベルト3を解放した状態にクランプ部材11aを保持するための保持具を、クランプ部材11aとバックル本体9aとの間に設けることもできる。タング側クランプ手段10のクランプ部材10aに対しても同様の保持具を設けることができる。
【0054】
また、シートベルト3を挟持する部分を表面粗さ挟持面9a1,11a2にすることに代えて、シートベルト3に対して摩擦効果を有する摩擦材で形成することもできる。更に、シートベルト3を挟持してシートベルト3の移動を規制できる所定の挟持力が得られれば、表面粗さ挟持面9a1,11a2を省略することができ、また、特別の摩擦材を用いることもない。
【0055】
図5は本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第3例を模式的に示し、(a)は非クランプ状態を示す、図4(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるVB−VB線に沿う断面図、(c)はクランプ状態を示す、図4(c)と同様の断面図である。
前述の第2例では、圧縮ばね14のばね力でクランプ部材11aがシートベルト3をクランプするようにしているが、図5(a)および(b)に示すようにこの第3例のシートベルト装置では、クランプ部材11aを付勢するばねは設けられておらず、代わりに、クランプ部材11aをシートベルト3をクランプした状態に保持する固定/解除部材15が設けられている。
【0056】
この固定/解除部材15は、クランプ部材11aのクランプ部11a1を跨るようにこのクランプ部11a1の上方に位置してクランプ部11a1をシートベルト3のクランプ方向に押圧可能な押圧部15aと、図4(b)においてこの押圧部15aの左右両縁から垂下された一対の脚部15b,15cと、これら一対の脚部15b,15cにそれぞれ設けられた被ガイド部15d,15eとから構成されている。
【0057】
また、バックル本体9aには、前述の第2例における一対のガイドレール9a2,9a3に隣接しかつのガイドレール9a2,9a3に平行に、更なる一対のガイドレール9a4,9a5が設けられている。そして、一対のガイドレール9a4,9a5に、それぞれ固定/解除部材15の被ガイド部15d,15eが相対移動可能に嵌合されている。これにより、固定/解除部材15は一対のガイドレール9a4,9a5にガイドされてバックル本体9aに対して相対移動可能となっている。
【0058】
図5(a)に示すように、クランプ部材11aがシートベルト3をクランプしない位置にあるときは、固定/解除部材15の下面とクランプ部11aの上面との間に所定の間隙αが形成されて固定/解除部材15がクランプ部11aを押圧しないようにされている。
【0059】
そして、固定/解除部材15を図5(a)において右方に押圧して移動することで、固定/解除部材15によるクランプ部材11aの押圧を解除し、その後、クランプ部材11aの被押圧部11a3を所定の押圧力Fで右方に押圧することで、クランプ部材11aおよび固定/解除部材15が右方に移動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置規制が解除される。
【0060】
また、図5(c)に示すように、クランプ部材11aの被押圧部11a3を所定の押圧力F′で左方に押圧することで、クランプ部材11aおよび固定/解除部材15が左方に移動して、バックル本体9aとの協働によりシートベルト3を挟持(クランプ)する。このとき、クランプ部材11aがガイドレール9a2,9a3に若干傾動可能にガイドされるので、クランプ部材11aは、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜と同じ傾斜に傾動してシートベルト3をクランプするが、表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜とクランプ部材11aの傾動とによりシートベルト3のクランプ力がより強大になり、クランプが効果的に行われる。その後、固定/解除部材15を図5(c)において左方に押圧して移動することで、前述の間隙αが消滅し、固定/解除部材15はクランプ部材11aをバックル本体9aの方へ押圧して、バックル本体9aがバックル本体9aとの協働によりシートベルト3を強固に挟持した状態に保持する。これにより、シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しないようになる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。
【0061】
なお、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2が形成されている部分も、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜と同じように傾斜させることもできる。この場合には、クランプ部材11aはガイドレール9a2,9a3に対して若干のガタを持たせて傾動可能にする必要はない。
【0062】
前述のようにタング側クランプ手段10もバックル側クランプ手段11と同じ構成を有しており、バックル側クランプ手段11のクランプ部材11a、クランプ部11a1、表面粗さ挟持面11a2、被押圧部11a3、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1、および固定/解除部材15とそれぞれ同じクランプ部材、クランプ部、表面粗さ挟持面、被押圧部、タング本体8aの表面粗さ挟持面、および固定/解除部材を有している。
【0063】
この第3例のシートベルト装置1の他の構成は、前述の第2例と同じである。
また、この第3例のシートベルト装置1の他の動作および他の作用効果も、前述の第2例と実質的に同じである。
なお、前述の第2例と同様に、図5(a)に示すようにシートベルト3を解放した状態にクランプ部材11aを保持するための保持具を、クランプ部材11aとバックル本体9aとの間に設けることもできる。タング側クランプ手段10のクランプ部材10aに対しても同様の保持具を設けることができる。
【0064】
また、シートベルト3を挟持する部分を表面粗さ挟持面9a1,11a2にすることに代えて、シートベルト3に対して摩擦効果を有する摩擦材で形成することもできる。更に、シートベルト3を挟持してシートベルト3の移動を規制できる所定の挟持力が得られれば、表面粗さ挟持面9a1,11a2を省略することができ、また、特別の摩擦材を用いることもない。
更に、固定/解除部材15は、後述する図7に示す第5例の係止部材17のように回動することでクランブ部材11の固定/解除を行うようにすることもできる。
【0065】
図6は本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第4例を模式的に示し、(a)は図2におけるB−B線に沿う断面図であり、(a)は非クランプ状態を示す図、(b)は(a)におけるVIB−VIB線に沿う断面図、(c)はクランプ状態を示す断面図である。
前述の第3例では、ガイドレール9a4,9a5がバックル本体9aに設けられ、これらのガイドレール9a4,9a5により、クランプ部材11aをガイドしているが、図6(a)および(b)に示すようにこの第4例のシートベルト装置1では、ガイドレール9a4,9a5は設けられておらず、また、ベルト挿通孔9bの幅が前述の各例よりはクランプ部材11aの移動方向に長く設定されている。この第4例のクランプ部材11aの移動方向はラップベルト3bの延びる方向と同方向にに設定されている。なお、クランプ部材11aの移動方向は、ベルト挿通孔9bと直交する方向など、ラップベルト3bをクランプできる方向であれば、任意の方向に設定することができる。
【0066】
そして、クランプ部材11aは、ベルト挿通孔9bの左右両端にあるバルブ本体9aの上面の沿って摺動する一対のフランジ状のガイド部11a6,11a7と、のガイド部11a6,11a7から垂下されてベルト挿通孔9bを貫通するように形成されたクランプ本体部11a8と、このクランプ本体部11a8と直交して設けられたクランプ部11a1とからなっている。
【0067】
クランプ部11a1の上面には、シートベルト3を挟持する傾斜挟持面11a9が形成されており、この傾斜挟持面11a9は、図6(a)において右方に行くにしたがって(つまり、クランプ部材11aのクランプ方向に行くにしたがって)下がるように傾斜している。
また、バックル本体9aの下面には、シートベルト3を挟持する傾斜挟持面9a6がベルト挿通孔9bに隣接し、クランプ部11a1の傾斜挟持面11a9と同じ傾斜でこの傾斜挟持面11a9と対向するように形成されている。
【0068】
そして、図7において、バックル本体9aの傾斜挟持面9a6の傾斜角βがクランプ部11a1の傾斜挟持面11a9の傾斜角γと同じ(β=γ)に設定されている。また、バックル本体9aの厚みa、一対のガイド部11a6,11a7の下面11a10から傾斜挟持面11a9の傾斜終了位置までの長さb、バックル本体9aの上面9a7から傾斜挟持面9a6の傾斜開始位置までの長さc、および一対のガイド部11a6,11a7の下面11a10から傾斜挟持面11a9の傾斜開始位置までの長さdは、a>b>c=dに設定されている。
【0069】
更に、クランプ部材11とバックル本体9aには固定/解除部材16が設けられており、この固定/解除部材16は、クランプ部材11を図6(c)に示すシートベルトクランプ位置および図6(a)に示すシートベルト解放位置でロックするものである。
【0070】
固定/解除部材16によるクランプ部材11のロックは公知のロック方法を用いることができる。例えば、バックル本体9aに固定/解除部材16が移動可能な溝を形成するとともに、この溝のクランプ部材11のシートベルトクランプ位置とシートベルト解放位置とにそれぞれ係合孔を設け、固定/解除部材16を回動することでそのロック片16aをそれぞれ係合孔に係合することで、固定/解除部材16をシートベルトクランプ位置とシートベルト解放位置にロックする方法を用いることができる。
【0071】
そして、固定/解除部材16を回動して固定/解除部材16のロックを解除し、その後、図6(a)に示すようにクランプ部材11aを所定の押圧力Fで左方に押圧することで、クランプ部材11aおよび固定/解除部材16が左方に移動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置規制が解除される。固定/解除部材16を回動して、クランプ部材11がシートベルト解放位置でロックされる。
【0072】
また、固定/解除部材16を回動して固定/解除部材16のロックを解除し、その後、図6(c)に示すようにクランプ部材11aを所定の押圧力F′で右方に押圧することで、クランプ部材11aおよび固定/解除部材16が右方に移動して、バックル本体9aとの協働によりシートベルト3を挟持(クランプ)する。このとき、シートベルト3が傾斜挟持面9a6の傾斜面と傾斜挟持面11a9の傾斜面とで挟持することにより、シートベルト3のクランプ力(ベルト挟持力)がより強大になり、クランプが効果的に行われる。その後、固定/解除部材16を回動して、クランプ部材11がシートベルトクランプ位置でロックされる。これにより、シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しないようになる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。
【0073】
なお、図6に示す第4例では、図7においてβ=γ、a>b>c=dに設定されているが、本発明はこれに限定されることなく、b>cでありさえすれば、傾斜角βおよびγの大きさはどちらかが大きくてもよいし、長さcおよびdの大きさもどちらかが大きくてもよい。しかし、好ましくは、c>dであるのがベルト挟持力を効果的に発生させるうえでよく、更に好ましくは、β>γであるのがベルト挟持力をより大きくするうえでよい。また、長さcおよびdの大きさがc<dである場合は、傾斜角βおよびγの大きさと長さbおよびcの大きさとを、ベルト挟持力がより確実に発生するように適宜設定する必要がある。
なお、クランプ部材11aの傾斜挟持面11a9およびバックル本体9aの傾斜挟持面9a6を前述の各例と同様に所定の表面粗さに形成することもできる。
【0074】
前述のようにタング側クランプ手段10もバックル側クランプ手段11と同じ構成を有しており、バックル側クランプ手段11のクランプ部材11a、クランプ部11a1、クランプ部11a1の傾斜挟持面11a9、バックル本体9aの傾斜挟持面9a6、および固定/解除部材16とそれぞれ同じクランプ部材、クランプ部、クランプ部の傾斜挟持面、タング本体8aの傾斜挟持面、および固定/解除部材を有している。
この第4例のシートベルト装置1の他の構成は、前述の第3例と同じである。
また、この第4例のシートベルト装置1の他の動作および他の作用効果も、前述の第3例と実質的に同じである。
【0075】
図8は、本発明の実施の形態の第5例を示し、(a)は非クランプ状態を示す、図3(a)と同様の断面図、(b)は係止部材の部分を示す平面図、(c)はクランプ状態を示す、図3(b)と同様の断面図である。なお、この第5例のシートベルト装置1でも、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11がともに同じ構成を有しているので、この第5例の説明においても、バックル側クランプ手段11のみを説明し、タング側クランプ手段10の詳細な説明は省略する。
【0076】
前述の図3に示す第1例のタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11では、いずれも、クランプ部材11aのクランプ部11a1のショルダーベルト3aの対向部位に表面粗さ挟持面11a2が形成され、また、バックル本体9aのショルダーベルト3aに対向する位置に、表面粗さ挟持面9a1が形成されているが、この第5例のシートベルト装置1では、図8(a)に示すように、まずバックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が設けられていない。
【0077】
また、第5例のシートベルト装置1では、ベルト挿通孔9bの幅が第1例のベルト挿通孔9bの幅よりかなり大きく設定されており、このベルト挿通孔9b内にクランプ部11a1が進入している。そして、クランプ部11a1の先端に表面粗さ挟持面11a2が形成されている。その場合、表面粗さ挟持面11a2の凹凸の山の頂点を含む面は円弧面とされており、この円弧面は回動軸12から偏心した円の円弧から形成されている。なお、この円弧面はこれに限定されることなく、楕円弧や長円弧で形成することもできるし、また、回動軸12と同心の円の円弧から形成することもできる。更に、表面粗さ挟持面9a1,11a2の凹凸の山の頂点を含む面は円弧面に限らず、平面でもよい。
【0078】
更に、図8(b)に示すように第5例のシートベルト装置1は、バックル本体9aに係止部材17が設けられている。この係止部材17はクランプ部材11aの被押圧部11a3に係止可能な係止爪17aを備えており、この係止爪17aは実線で示す係止位置と二点差線で示す非係止位置との間で回動可能になっている。
タング側クランプ手段10の構成も前述のようにバックル側クランプ手段11と同じであり、また、この第5例のシートベルト装置1の他の構成は、第1例と同じである。
【0079】
このように構成された第5例のシートベルト装置1においては、図8(a)に示すように非クランプ状態では、ねじりばね13の付勢力でシートベルト3から大きく離間しており、シートベルト3はベルト挿通孔9b内を自由に移動可能となっている。したがって、乗員はシートベルト3の装着を容易にかつスムーズに行うことができる。特に、この第5例では、第1例の場合のようにねじりばね13を押さえながらセンターバックル9を移動させる必要がないので、シートベルト3の装着をより一層容易となる。
【0080】
タング8をバックル9に係合してシートベルト3が装着された後、乗員がバックル側クランプ手段11の被押圧部11a3を押圧して、図8(a)において時計方向にねじりばね13の付勢力に抗して回動すると、シートベルト3が表面粗さ挟持面11a2とベルト挿通孔9bの側壁との間に挟持される。
【0081】
このとき、表面粗さ挟持面11a2が所定の表面粗さに設定されているので、シートベルト3は確実に挟持されるようになる。そのうえ、表面粗さ挟持面11a2の円弧面が回動軸12から偏心した円の円弧で形成されているので、クランプ部材11が回動軸12を中心に回動することで、表面粗さ挟持面11a2の円弧面がカム作用を行うので、シートベルト3はより一層堅固に挟持されるようになる。しかも、第1例の場合ではねじりばね13の付勢力のみでシートベルト3を押さえるようにしているが、この第5例では、クランプ部材11aがシートベルト3を押さえ付ける限界までこのクランプ部材11aを回転させて係止爪17aに係止させることで、シートベルト3をより大きな力で押さえるようにしているので、第1例の場合に比べてシートベルト3を十分な力でクランプしてシートベルト3がより確実に移動しないようにできる。
【0082】
更に、この第5例では、クランプ部材11aのシートベルト3をクランプした後にシートベルト3がショルダーベルト3a方向に移動しようとすると、クランプ部材11aがシートベルト3の移動力でシートベルト3により一層食い込む方向に作動するので、クランプ部材11aによるシートベルト3のクランプ力(ベルト挟持力)がより一層大きくなり、シートベルト3のショルダーベルト3a方向への移動がより一層確実にかつより強固に阻止される。
【0083】
タング側クランプ手段10の作用効果もこのバックル側クランプ手段11の作用効果と同じであり、また、この第5例のシートベルト装置1の他の作用効果は、第1例と同じである。
【0084】
なお、この第5例においては、ねじりばね13は必ずしも必要ではなく、省略することもできる。また、係止部材17は、前述の図5に示す第3例の固定/解除部材15のように直線移動することでクランブ部材11の係止/非係止を行うようにすることもできる。
【0085】
更に、前述の例では、本発明を4点式シートベルト装置のタング8およびバックル9の両方に適用するものとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、タング8およびバックル9のいずれか一方に適用することもできる。また、本発明は従来公知の3点式シートベルト装置のタングにも適用することができる。
要は、本発明は、シートベルトに摺動可能に支持されて、このシートベルトをショルダーベルトとラップベルトに分けるタングやバックル等のベルト装着用係止部材を備えるシートベルト装置であれば、どのようなシートベルト装置にも適用することができる。
【0086】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、請求項1ないし3の各発明のシートベルト装置によれば、クランプ手段により、手動でシートベルトをベルト装着用係止部材の連結動作に関係なく独立して任意の位置にクランプするようにしているので、シートベルトの装着を簡単に行いつつ、ベルト装着用係止部材の連結位置をシートベルトに対して連続的にかつより安定して規制できる。これにより、ベルト装着用係止部材の連結を一々解除させずに、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置の調整を手動で簡単に行うことができる。
【0087】
こうして、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置を乗員の望む位置に安定して規制できるようになり、その結果、ベルト装着用係止部材によって分けられるショルダーベルトにより乗員の肩や胸の上胴部をより効果的に拘束保護でき、また、同じくベルト装着用係止部材によって分けられるラップベルトにより乗員の腰部をより効果的に拘束保護できるようになる。
【0088】
また、本発明のシートベルト装置によれば、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置を学習記憶する学習記憶機能を有するようにしているので、ベルト装着用係止部材の連結時に調整したシートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置を、ベルト装着用係止部材の連結解除後も保持できる。これにより、乗員が一旦ベルト装着用係止部材の連結を解除してシートベルトを非装着にしてシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座してベルト装着用係止部材の連結を行ってシートベルトを装着した場合に、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置をその乗員の望む位置に自動的に安定して規制できる。したがって、同じ乗員の場合には、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置の調整にかかる手間および時間を効果に省くことができる。
【0089】
特に、請求項2の発明によれば、従来公知の3式のシートベルト装置を使用でき、本発明のクランプ手段をこの3点式のシートベルト装置に有効に適用できる。
【0090】
また、請求項3の発明によれば、従来公知の4点式のシートベルト装置を使用でき、本発明のクランプ手段をこの4点式のシートベルト装置に有効に適用できる。この4点式のシートベルト装置の場合は、タングおよびバックルがともにシートベルトに対して摺動するので、本発明のクランプ手段によるシートベルトに対するタングとバックルとの連結位置の規制によれば、この連結位置を乗員の望む位置に、より効果的に安定して設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第1例を乗員への装着状態(タングとバックルとの連結状態)で模式的に示す図である。
【図2】図1に示す第1例に用いられているタングとバックルとを連結直前の互いに分離(連結解除)した状態で模式的に示す図である。
【図3】図2におけるA−A線に沿う断面図であり、(a)は非クランプ状態を示す図、(b)はクランプ状態を示す図である。
【図4】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第2例を模式的に示し、(a)は図3(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるIVB−IVB線に沿う断面図、(c)は図3(b)と同様の断面図である。
【図5】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第3例を模式的に示し、(a)は図4(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるVB−VB線に沿う断面図、(c)は図4(c)と同様の断面図である。
【図6】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第4例を模式的に示し、(a)は図5(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるVIB−VIB線に沿う断面図、(c)は図5(c)と同様の断面図である。
【図7】図6に示す第4例に関して、傾斜角β,γおよび長さa,b,c,dの大きさについて説明する図である。
【図8】本発明の実施の形態の第5例を示し、(a)は非クランプ状態を示す、図3(a)と同様の断面図、(b)は係止部材の部分を示す平面図、(c)はクランプ状態を示す、図3(b)と同様の断面図である。
【符号の説明】
1…シートベルト装置、2,3…シートベルト、2a,3a…ショルダーベルト、2b,3b…ラップベルト、4,5…シートベルトリトラクタ、6,7…ラップアンカー、8…タング、8a…タング本体、9…バックル、9a…バックル本体、9a1…表面粗さ挟持面、9b…槽通孔、10…タング側クランプ手段、11…バックル側クランプ手段、11a…クランプ部材、11a1…クランプ部、11a2…表面粗さ挟持面、13…ねじりばね、14…圧縮ばね、15,16…固定/解除部材、17…係止部材
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等の車両のシートに付設されて、車両衝突時等の緊急時にシートベルトにより乗員を拘束保護するシートベルト装置の技術分野に属し、特に、シートベルトをショルダーベルトとラップベルトに分ける、シートベルトに対するタングやバックル等のベルト装着用係止部材の連結位置を規制するようになっているシートベルト装置の技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の4点式シートベルト装置においては、左右の2本のウェビングのうち、一方のウェビングにバックルを摺動可能に支持するとともに他方のウェビングにタングを摺動可能に支持し、乗員の前側センターにおいてバックルにタングを連結することで乗員を拘束する4点式シートベルト装置が提案されている。その場合、バックルおよびタングより乗員の肩側にあるウェビングは乗員の肩や胸を拘束するショルダーベルトを構成し、また、バックルおよびタングより乗員の腰側にあるウェビングは乗員の腰を拘束するラップベルトを構成している。
【0003】
この4点式シートベルト装置においては、2本のウェビングにおける、タングとバックルとの連結位置の近傍に、それぞれ、複数の突起物がウェビングの長手方向に沿って間隔を置いて固着されており、ウェビングに沿って摺動するバックルおよびタングがこれらの突起物に引っ掛かることで、装着後、タングとバックルとの連結位置がずれることがなく、確実に乗員の腹部下方に位置して、腰部の拘束性を高めている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、他の従来の4点式シートベルト装置においては、左右の2本のシートベルトにそれぞれバックルケースを摺動可能に支持するとともに、各バックルケースにはそれぞれ互いに相手のバックルケースに連結されるタングが固定され、着座者の前側センターにおいて各バックルケースに、対応するタングを連結することで着座者を拘束する4点式の車両用シートベルト装置が提案されている。その場合、各バックルケースより着座者の肩側にある各シートベルトは着座者の肩や胸を拘束するショルダーベルト部を構成し、また、各バックルケースより着座者の腰側にある各シートベルトは着座者の腰を拘束するラップベルト部を構成している。
【0005】
この4点式シートベルト装置においては、各バックルケースのシートベルト摺動部位にそれぞれベルトストッパが設けられており、バックルケースとタングとの連結時に各タングの先端が対応するベルトストッパを押動して、シートベルトにおけるバックル摺動部位をベルトストッパとバックルケースとの間に挟圧することで、バックルケースに対するシートベルトの移動を規制して、着座者の下半身を的確に拘束し、バックルケースとタングとの連結解除時にバネでベルトストッパを元の位置に復帰させることでバックルケースに対するシートベルトの移動の規制を解除している(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】
特開平6−255445号公報
【特許文献2】
特開2000−16234号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述の特許文献1に開示の4点式シートベルト装置では、単純に複数の突起物をウェビングにその長手方向に沿って間隔を置いて固着しているので構成が簡単であるものの、複数の突起物がウェビングにその長手方向に沿って間隔を置いて配置されていることから、タングとバックルとの連結位置がウェビングに対して断続的に規制されるようになる。このため、隣接する突起物の間ではタングとバックルとの連結位置がウェビングに対して規制することができず、ショルダーベルトおよびラップベルトの長さを適切に規制することが難しい。したがって、ウェビングに対するタングとバックルとの連結位置の規制を乗員に的確に対応させて行うことが難しく、ウェビングにより乗員を効果的に拘束することはできない。
【0007】
また、ウェビングにおけるタングとバックルとの連結位置の近傍に、複数の突起物が設けられることで、乗員がシートベルトを装着するためにバックルおよびタングを持ってウェビングを引き出して、バックルにタングを連結する際に、バックルおよびタングがこれらの突起物にその都度引っ掛かってしまい、タングとバックルとの連結操作が煩雑となり、シートベルトの装着を簡単に行うことができないという問題がある。しかも、ウェビングに複数の突起物が設けられることで、ウェビングに対する乗員の触感が良好でないという問題もある。
【0008】
一方、前述の特許文献2に開示の車両用シートベルト装置では、シートベルトにおけるバックル摺動部位をベルトストッパとバックルケースとの間に単純に挟圧しているので、シートベルトの装着を簡単に行うことができるようにしつつ、タングとバックルとの連結位置がウェビングに対して連続的に規制されてウェビングに対するタングとバックルとの連結位置の規制を乗員にある程度的確に対応させることができるものの、バックルケースに連結されたタングの先端でベルトストッパを押動することによりシートベルトにおけるバックル摺動部位をベルトストッパとバックルケースとの間に挟圧することから、乗員はタングとバックルとを連結した後、ウェビングに対するタングとバックルとの連結位置をより的確に設定するためには、タングとバックルとの連結を一々解除しなければならなく、タングとバックルとの連結位置の調整が煩雑となって、この調整を簡単に行うことができない。
【0009】
また、タングとバックルとの連結を一旦解除すると、ウェビングに対するタングとバックルとの連結位置が大きくずれてしまい、再び一からやり直さなければならず、タングとバックルとの連結位置の調整に手間取ってしまうという問題がある。特に、自動車においては、乗員が一旦タングとバックルとの連結を解除してシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座する場合が多々あるが、この場合には、タングとバックルとの連結解除でウェビングに対するタングとバックルとの連結位置が大きくずれると、その都度、再び一からやり直さなければならず、タングとバックルとの連結位置の調整にかかる手間および時間が無駄になるという問題もある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、シートベルトに対するタングとバックル等のベルト装着用係止部材の連結位置の規制の操作をより簡単にかつこの連結位置を乗員により的確に対応させて行うことができるシートベルト装置を提供することである。
本発明の他の目的は、タングとバックルとの連結時に調整したシートベルトに対するタングとバックル等のベルト装着用係止部材の連結位置を、タングとバックルとの連結解除後も保持することのできるシートベルト装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するために、請求項1の発明は、緊急時に緊張するシートベルトにより乗員を拘束するシートベルト装置において、前記シートベルトに摺動可能に支持されて、シートベルトの装着時に乗員の上胴部を拘束するショルダーベルトと乗員の腰部を拘束するラップベルトに分けるベルト装着用係止部材と、このベルト装着用係止部材のシートベルト摺動部近傍に、手動でクランプ動作が制御されて前記シートベルトを前記ベルト装着用係止部材の本体との間に挟持するクランプ手段とを備えていることを特徴としている。
また、請求項2の発明は、前記ベルト装着用係止部材が3点式のシートベルト装置のタングであり、このタングが車体に固定されたバックルと係合することで前記シートベルトが乗員を拘束することを特徴としている。
【0012】
更に、請求項3の発明は、前記ベルト装着用係止部材が1本のシートベルトに摺動可能に支持されるタングと他の1本のシートベルトに摺動可能に支持されるバックルであり、これらのタングとバックルとを係合して、緊急時に緊張するこれらのシートベルトにより乗員を拘束する4点式のシートベルト装置であって、前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方のシートベルト摺動部近傍に、手動でクランプ動作が制御されて前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方が支持されるシートベルトを前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方の本体との間に挟持するクランプ手段とを備えていることを特徴としている。
【0013】
【作用】
このように構成された請求項1ないし3の各発明の発明にかかるシートベルト装置においては、ベルト装着用係止部材の本体に設けられ、手動でクランプ動作を制御するクランプ手段により、シートベルトがベルト装着用係止部材の本体との間に、ベルト装着用係止部材の連結に関係なく、任意の位置にクランプされる。これにより、シートベルトの装着が簡単に行われつつ、ベルト装着用係止部材の連結位置がシートベルトに対して連続的にかつより安定して規制される。その場合、クランプ手段によるベルト装着用係止部材のシートベルトへのクランプがベルト装着用係止部材の連結動作に関係なく独立して手動で行われる。これにより、ベルト装着用係止部材の連結を一々解除させずに、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置の調整が手動で簡単に行われるようになる。
【0014】
こうして、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置が乗員の望む位置に安定して規制されるようになり、その結果、ベルト装着用係止部材によって分けられるショルダーベルトにより乗員の肩や胸の上胴部がより効果的に拘束保護され、また、同じくベルト装着用係止部材によって分けられるラップベルトにより乗員の腰部がより効果的に拘束保護されるようになる。
【0015】
また、クランプ手段によるベルト装着用係止部材のシートベルトへのクランプがベルト装着用係止部材の連結動作に関係なく独立して手動で行われることから、本発明のシートベルト装置は、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置を学習記憶する学習記憶機能を有するようになる。この学習記憶機能により、ベルト装着用係止部材の連結時に調整したシートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置が、ベルト装着用係止部材の連結解除後も保持される。これにより、乗員が一旦ベルト装着用係止部材の連結を解除してシートベルトを非装着にしてシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座してベルト装着用係止部材の連結を行ってシートベルトを装着した場合には、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置がその乗員の望む位置に自動的に安定して規制される。したがって、同じ乗員の場合には、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置の調整にかかる手間および時間が効果に省かれるようにになる。
【0016】
特に、請求項2の発明においては、従来公知の3式のシートベルト装置が使用可能となり、本発明のクランプ手段がこの3点式のシートベルト装置に有効に適用されるようになる。
【0017】
また、請求項3の発明においても、従来公知の4点式のシートベルト装置が使用可能となり、本発明のクランプ手段がこの4点式のシートベルト装置に有効に適用されるようになる。この4点式のシートベルト装置の場合は、タングおよびバックルがともにシートベルトに対して摺動するので、本発明のクランプ手段によるシートベルトに対するタングとバックルとの連結位置の規制では、この連結位置が乗員の望む位置に、より効果的に安定して設定可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第1例を乗員への装着状態(タングとバックルとの連結状態)で模式的に示す図、図2は図1に示す第1例に用いられているタングとバックルとを連結直前の互いに分離(連結解除)した状態で模式的に示す図である。
【0019】
図1に示すように、この第1例のシートベルト装置1は前述の各公開公報に開示されているシートベルト装置と同様の4点式シートベルト装置である。このシートベルト装置1は、装着時に乗員を拘束保護する左右の2本のシートベルト2,3と、乗員が着座する車両シート(不図示)の近傍の車体に固定され、通常時には、各シートベルト2,3をそれぞれ巻取引出可能に巻き取り、また車両衝突時等の緊急時にはそれぞれ各シートベルト2,3の引出を阻止する左右のシートベルトリトラクタ4,5と、これらのシートベルトリトラクタ4,5からそれぞれ延びている各シートベルト2,3の先端部がそれぞれ連結され、例えば車両シートの左右の車体部分にそれぞれ固定されている左右のラップアンカー6,7と、左右のシートベルト2,3のいずれか一方(図示例では、左のシートベルト2;以後、この図示例で説明する)に摺動可能に支持されているタング(本発明のベルト装着用係止部材に相当)8と、左右のシートベルト2,3のいずれか他方(図示例では、右のシートベルト3;以後、この図示例で説明する)に摺動可能に支持され、タング8が係脱可能に連結されるバックル(本発明のベルト装着用係止部材に相当)9とを備えている。
【0020】
その場合、シートベルトリトラクタ4,5は、ELRおよびALR等の従来公知のリトラクタを用いることができるとともに、プリテンショナーやエネルギ吸収機構を備えたリトラクタを用いることもできる。また、ラップアンカー6,7に代えて、前述のリトラクタを用いることもできる。更に、リトラクタはショルダーベルト2a,3aおよびラップベルト2b,3bのどちらか一方に設けることもできる。
【0021】
また、図2に示すようにタング8およびバックル9は、それぞれタング本体8aおよびバックル本体9aに穿設されたベルト挿通孔8b,9bを有しており、これらのベルト挿通孔8b,9bに、それぞれ左右のシートベルト2,3が摺動可能に挿通されている。
なお、符号8cは、バックル9に挿入されて係止されるタング8の係止部である。
【0022】
ところで、図2に拡大して示すようにこの第1例のシートベルト装置1は、タング8のタング本体8aおよびバックル9のバックル本体9aの各ベルト挿通孔(本発明のシートベルト摺動部に相当)8b,9bの近傍にそれぞれ設けられたタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11を備えている。これらのタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11はまったく同じ構成であるので、バックル側クランプ手段11について説明し、タング側クランプ手段10については説明を省略する。
【0023】
図3は図2におけるA−A線に沿う断面図であり、(a)は非クランプ状態を示す図、(b)はクランプ状態を示す図である。
図3(a)および(b)に示すように、バックル側クランプ手段11はクランプ部材11aを備えており、このクランプ部材11aはバックル本体9aのベルト挿通孔9bの近傍に回動軸12により回動可能に取り付けられている。クランプ部材11aの一方の端部はクランプ部11a1とされており、このクランプ部11a1のバックル本体9aと対向する表面は、例えばローレット加工等の表面加工により所定の表面粗さでギザギザに形成されてシートベルト3を挟持する表面粗さ挟持面11a2とされており、また、クランプ部材11aの他方の端部は、クランプ部材11aを回動するために押圧される被押圧部11a3とされている。
【0024】
また、バックル本体9aにも、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2に対向する位置(つまり、ショルダーベルト3aに対向する位置)に、この表面粗さ挟持面11a2と同じような表面粗さでシートベルト3を挟持する表面粗さ挟持面9a1が形成されている。
なお、両表面粗さ挟持面9a1,11a2の凹凸は、ローレット加工による点状の凹凸形状で形成することもできるし、また、凸条と凹溝とから線状に形成することもできる。凹凸を線状に形成する場合は、凸条および凹溝の延設する方向とシートベルト3の長さ方向とができるだけ直交するように設定することが望ましい。
【0025】
クランプ部材11aは、ねじりばね13により常時図3(a),(b)において反時計方向に付勢されている。つまり、ねじりばね13によりクランプ部材11aは、その表面粗さ挟持面11a2とバックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1とがシートベルト3を挟持する方向に常時付勢されている。
【0026】
そして、図3(a)に示すように、クランプ部材11aの被押圧部11a3を手動により所定の押圧力Fでねじりばね13の付勢力に抗して押圧することで、矢印で示すようにクランプ部材11aが時計方向に回動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置規制が解除される。
【0027】
また、図3(b)に示すように、被押圧部11a3の押圧を解除することで、ねじりばね13の付勢力でクランプ部材11aが反時計方向に回動して、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2とバックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1との協働によりシートベルト3をこれらの挟持面で挟持(クランプ)し、シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しないようになる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。
このようにして、バックル側クランプ手段11は、そのクランプ動作が手動で制御される。
【0028】
前述のようにタング側クランプ手段10もバックル側クランプ手段11と同じ構成を有しており、バックル側クランプ手段11のクランプ部材11a、クランプ部11a1、表面粗さ挟持面11a2、被押圧部11a3、回動軸12、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1、およびねじりばね13とそれぞれ同じクランプ部材、クランプ部、表面粗さ挟持面、被押圧部、回動軸、タング本体8aの表面粗さ挟持面、およびねじりばねを有している。
なお、この第1例のシートベルト装置1における、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の構成要素以外の他の構成要素は、従来公知の4点式シートベルト装置の構成要素と同じである。
【0029】
このように構成された第1例のシートベルト装置1においては、乗員が車両シートに着座した後、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の被押圧部(バックル側クランプ手段11の符号11a3のみで示す:他も同様である)を押圧して、図3(a)に示すようにタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11が左右のシートベルト2,3を解放した状態で左右のタング8およびバックル9を持って、それぞれ左右のシートベルト2,3を左右のシートベルトリトラクタ4,5から引き出す。このとき、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の各被押圧部(11a3)を押圧しているので、シートベルト2,3はともにクランプ手段10およびバックル側クランプ手段11から解放されており、タング8およびバックル9はともに左右のシートベルト2,3に対して規制されることなく自由に相対移動する。
【0030】
各シートベルトリトラクタ4,5から引き出された左右のシートベルト2,3がそれぞれ乗員の左右の肩、胸の左右および腰の左右に掛け渡されるようにしかつ乗員の前側センターでタング8をバックル9に挿入係合して連結することにより、各シートベルト2,3が乗員に装着される。同時に、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の被押圧部(11a3)の押圧を解除することで、タング8がシートベルト2の乗員の対応する位置にタング側クランプ手段10でクランプされ、またバックル9がシートベルト3の乗員の対応する位置にバックル側クランプ手段11でクランプされる。これにより、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置で規制される。
【0031】
このようにタング8とバックル9との連結によるシートベルト2,3の装着状態では、図1に示すように左右のシートベルト2,3は、それぞれタング8およびバックル9により、乗員の肩や胸等の上胴部を拘束する左右のショルダーベルト2a,3aと乗員の腰部の左右を拘束する左右のラップベルト2b,3bとに分けられる。
【0032】
そして、タング8とバックル9とが連結されて、乗員がタング8およびバックル9から手を離したとき、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置と異なるときは、タング8とバックル9との連結を解除することなく、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の被押圧部(11a3)の押圧することで、タング8とバックル9との連結状態で一旦タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11によるシートベルト2,3のクランプを解放し、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置を乗員の望む位置となるように調整して、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11により再びシートベルト2,3をクランプする。これにより、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置により簡単にかつより確実に設定される。
【0033】
このような各シートベルト2,3の装着状態では、左右のシートベルトリトラクタ4,5により、それぞれ、通常時には各シートベルト2,3が巻取引出可能にかつ圧迫感を抱かせない程度に比較的緩く巻き取られて乗員にフィットしている。このとき、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置に設定されかつ規制されているので、左右のショルダーベルト2a,3aが乗員の肩や胸の上胴部の左右に、より正確に安定して位置しているとともに、左右のラップベルト2b,3bが乗員の腰部の左右に(望ましくは、骨盤の左右に)、より正確に安定して位置している。
【0034】
各シートベルト2,3の装着状態で、車両衝突等の緊急時に大きな車両減速度が発生し、乗員がその慣性で前方へ移動しようとしても、各シートベルト2,3はそれぞれ各シートベルトリトラクタ4,5からの引出しが阻止されて、乗員を拘束保護するようになる。このとき、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置に安定して規制されているので、左右のショルダーベルト2a,3aが乗員の肩や胸の上胴部の左右をより効果的に拘束保護し、また、左右のラップベルト2b,3bが乗員の腰部の左右をより効果的に拘束保護するようになる。
【0035】
各シートベルト2,3の装着を解除するためには、従来の4点式シートベルト装置と同様にして、バックル9に設けられた解除ボタン等の解除操作部材を操作してタング8とバックル9との係合を解除することで、タング8がバックル9から分離される。その後、各シートベルトリトラクタ4,5により、それぞれ各シートベルト2,3が巻き取られて収納位置に保持される。その場合、タング8とバックル9との係合解除操作時および各シートベルトリトラクタ4,5による各シートベルト2,3の巻き取り時にも、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11により、タング8およびバックル9がそれぞれシートベルト2,3にクランプされているので、各シートベルト2,3に対するタング8およびバックル9の位置がずれることはない。つまり、各シートベルト2,3に対するタング8およびバックル9の位置が学習記憶されるようになる。
【0036】
したがって、乗員が一旦タング8とバックル9との連結を解除してシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座してタング8とバックル9とを連結して各シートベルト2,3を装着した場合には、各シートベルト2,3に対するタング8およびバックル9の位置が学習記憶されているので、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置が乗員の望む位置に自動的に安定して規制される。
【0037】
そして、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11の各被押圧部(11a3)を押圧して、クランプ部材(11a)を時計方向に回動することで、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11によるシートベルト2,3のクランプが解除される。
【0038】
この第1例のシートベルト装置1によれば、タング本体8aおよびバックル本体9aにそれぞれ設けた、手動でクランプ動作を制御するタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11により、各シートベルト2,3をそれぞれタング8およびバックル9に、これらのタング8とバックル9との連結に関係なくクランプしているので、シートベルト2,3の装着を簡単に行うことができるようにしつつ、タング8とバックル9との連結位置をシートベルト2,3に対して連続的にかつより安定して規制して、この連結位置の規制をより一層的確に行うことができる。
【0039】
その場合、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11による、タング8およびバックル9のシートベルト2,3へのクランプを、タング8とバックル9との連結動作に関係なく独立して行っているので、タング8とバックル9との連結を一々解除させずに、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置の調整を簡単に行うことができる。
【0040】
こうして、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置を乗員の望む位置に安定して規制することができるようになり、その結果、左右のショルダーベルト2a,3aにより乗員の肩や胸の上胴部の左右をより効果的に拘束保護することができるとともに、左右のラップベルト2b,3bにより乗員の腰部の左右をより効果的に拘束保護することができるようになる。
【0041】
また、この第1例のシートベルト装置1では、シートベルト2,3に対するタング8およびバックル9の位置を学習記憶する学習記憶機能を有しているので、タング8とバックル9との連結時に調整したシートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置を、タング8とバックル9との連結解除後も保持することができる。これにより、乗員が一旦タング8とバックル9との連結を解除してシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座してタング8とバックル9とを連結して各シートベルト2,3を装着した場合には、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置を乗員の望む位置に自動的に安定して規制することができる。したがって、同じ乗員の場合には、シートベルト2,3に対するタング8とバックル9との連結位置の調整にかかる手間および時間を効果に省くことができる。
【0042】
更に、シートベルト2,3に、特開平6−255445号公報に開示の複数の突起物等を設けていないので、シートベルト2,3に対する乗員の触感が良好でなくなることを防止できる。
なお図示しないが、図3(a)に示すようにシートベルト3を解放した状態にクランプ部材11aを保持するための保持具を、被押圧部11a3とバックル本体9aとの間に設けることもできる。タング側クランプ手段10のクランプ部材10aに対しても同様の保持具を設けることができる。
【0043】
また、シートベルト3を挟持する部分を表面粗さ挟持面9a1,11a2にすることに代えて、シートベルト3に対して摩擦効果を有する摩擦材で形成することもできる。更に、シートベルト3を挟持してシートベルト3の移動を規制できる所定の挟持力が得られれば、表面粗さ挟持面9a1,11a2を省略することができ、また、特別の摩擦材を用いることもない。
【0044】
図4は本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第2例を模式的に示し、(a)は非クランプ状態を示す、図3(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるIVB−IVB線に沿う断面図、(c)はクランプ状態を示す、図3(b)と同様の断面図である。なお、以下の各例の説明において、その例より前の例の構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付すことで、その詳細な説明は省略する。
【0045】
この第2例のシートベルト装置1におけるタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11も同じ構成を有しており、したがって、バックル側クランプ手段11について説明し、タング側クランプ手段10の詳細な説明は省略する。
【0046】
前述の第1例では、バックル側クランプ手段11がバックル本体9aに回動可能に設けられたバックル部材11aを備えているが、この第2例のシートベルト装置1では、バックル部材11aがバックル本体9aに直線移動可能に設けられている。すなわち、図4(a)および(b)に示すようにバックル本体9aのベルト挿通孔9bの近傍に左右一対のガイドレール9a2,9a3が設けられており、これらのガイドレール9a2,9a3には、クランプ部材11aの被ガイド部11a4,11a5がこれらのガイドレール9a2,9a3に沿って、ベルト挿通孔9bに挿通されているシートベルト3に接離する方向に移動可能に嵌合されている。その場合、これらの被ガイド部11a4,11a5はガイドレール9a2,9a3に若干のガタを有して嵌合されていて、クランプ部材11aはバックル本体9aに若干傾動可能となっている。
【0047】
一方、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分はガイドレール9a2,9a3に対して角度θだけ若干傾斜して形成されている。その場合、表面粗さ挟持面9a1の形成部分は、クランプ部材11aがシートベルト3に向かって移動する方向と同方向に進むにしたがって高くなるように傾斜している。
【0048】
また、前述の第1例では、ねじりばね13の付勢力でバックル部材11aが常時反時計方向に付勢されてシートベルト3をクランプしているが、図4(a)に示すようにこの第2例のシートベルト装置1では、バックル部材11aが圧縮ばね14のばね力で常時シートベルト3に向かう方向に付勢されて、シートベルト3をクランプするようにしている。
【0049】
そして、図4(a)に示すように、クランプ部材11aの被押圧部11a3を所定の押圧力Fで圧縮ばね14の付勢力に抗して押圧することで、矢印で示すようにクランプ部材11aが図4(a)において右方に移動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置規制が解除される。
【0050】
また、被押圧部11a3の押圧を解除することで、圧縮ばね14の付勢力でクランプ部材11aが図4(c)において左方に移動してバックル本体9aとの協働によりシートベルト3を挟持(クランプ)し、シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しないようになる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。このとき、クランプ部材11aがガイドレール9a2,9a3に若干傾動可能にガイドされるので、クランプ部材11aは、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜と同じ傾斜に傾動してシートベルト3をクランプするが、表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜とクランプ部材11aの傾動とによりシートベルト3のクランプ力がより強大になり、クランプが効果的に行われる。
【0051】
なお、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2が形成されている部分も、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜と同じように傾斜させることもできる。この場合には、クランプ部材11aはガイドレール9a2,9a3に対して若干のガタを持たせて傾動可能にする必要はない。
【0052】
前述のようにタング側クランプ手段10もバックル側クランプ手段11と同じ構成を有しており、バックル側クランプ手段11のクランプ部材11a、クランプ部11a1、表面粗さ挟持面11a2、被押圧部11a3、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1、および圧縮ばね14とそれぞれ同じクランプ部材、クランプ部、表面粗さ挟持面、被押圧部、タング本体8aの表面粗さ挟持面、および圧縮ばねを有している。
【0053】
この第2例のシートベルト装置1の他の構成は、前述の第1例と同じである。また、この第2例のシートベルト装置1の他の動作および他の作用効果も、前述の第1例と実質的に同じである。
なお、前述の第1例と同様に、図4(a)に示すようにシートベルト3を解放した状態にクランプ部材11aを保持するための保持具を、クランプ部材11aとバックル本体9aとの間に設けることもできる。タング側クランプ手段10のクランプ部材10aに対しても同様の保持具を設けることができる。
【0054】
また、シートベルト3を挟持する部分を表面粗さ挟持面9a1,11a2にすることに代えて、シートベルト3に対して摩擦効果を有する摩擦材で形成することもできる。更に、シートベルト3を挟持してシートベルト3の移動を規制できる所定の挟持力が得られれば、表面粗さ挟持面9a1,11a2を省略することができ、また、特別の摩擦材を用いることもない。
【0055】
図5は本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第3例を模式的に示し、(a)は非クランプ状態を示す、図4(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるVB−VB線に沿う断面図、(c)はクランプ状態を示す、図4(c)と同様の断面図である。
前述の第2例では、圧縮ばね14のばね力でクランプ部材11aがシートベルト3をクランプするようにしているが、図5(a)および(b)に示すようにこの第3例のシートベルト装置では、クランプ部材11aを付勢するばねは設けられておらず、代わりに、クランプ部材11aをシートベルト3をクランプした状態に保持する固定/解除部材15が設けられている。
【0056】
この固定/解除部材15は、クランプ部材11aのクランプ部11a1を跨るようにこのクランプ部11a1の上方に位置してクランプ部11a1をシートベルト3のクランプ方向に押圧可能な押圧部15aと、図4(b)においてこの押圧部15aの左右両縁から垂下された一対の脚部15b,15cと、これら一対の脚部15b,15cにそれぞれ設けられた被ガイド部15d,15eとから構成されている。
【0057】
また、バックル本体9aには、前述の第2例における一対のガイドレール9a2,9a3に隣接しかつのガイドレール9a2,9a3に平行に、更なる一対のガイドレール9a4,9a5が設けられている。そして、一対のガイドレール9a4,9a5に、それぞれ固定/解除部材15の被ガイド部15d,15eが相対移動可能に嵌合されている。これにより、固定/解除部材15は一対のガイドレール9a4,9a5にガイドされてバックル本体9aに対して相対移動可能となっている。
【0058】
図5(a)に示すように、クランプ部材11aがシートベルト3をクランプしない位置にあるときは、固定/解除部材15の下面とクランプ部11aの上面との間に所定の間隙αが形成されて固定/解除部材15がクランプ部11aを押圧しないようにされている。
【0059】
そして、固定/解除部材15を図5(a)において右方に押圧して移動することで、固定/解除部材15によるクランプ部材11aの押圧を解除し、その後、クランプ部材11aの被押圧部11a3を所定の押圧力Fで右方に押圧することで、クランプ部材11aおよび固定/解除部材15が右方に移動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置規制が解除される。
【0060】
また、図5(c)に示すように、クランプ部材11aの被押圧部11a3を所定の押圧力F′で左方に押圧することで、クランプ部材11aおよび固定/解除部材15が左方に移動して、バックル本体9aとの協働によりシートベルト3を挟持(クランプ)する。このとき、クランプ部材11aがガイドレール9a2,9a3に若干傾動可能にガイドされるので、クランプ部材11aは、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜と同じ傾斜に傾動してシートベルト3をクランプするが、表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜とクランプ部材11aの傾動とによりシートベルト3のクランプ力がより強大になり、クランプが効果的に行われる。その後、固定/解除部材15を図5(c)において左方に押圧して移動することで、前述の間隙αが消滅し、固定/解除部材15はクランプ部材11aをバックル本体9aの方へ押圧して、バックル本体9aがバックル本体9aとの協働によりシートベルト3を強固に挟持した状態に保持する。これにより、シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しないようになる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。
【0061】
なお、クランプ部材11aの表面粗さ挟持面11a2が形成されている部分も、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が形成されている部分の傾斜と同じように傾斜させることもできる。この場合には、クランプ部材11aはガイドレール9a2,9a3に対して若干のガタを持たせて傾動可能にする必要はない。
【0062】
前述のようにタング側クランプ手段10もバックル側クランプ手段11と同じ構成を有しており、バックル側クランプ手段11のクランプ部材11a、クランプ部11a1、表面粗さ挟持面11a2、被押圧部11a3、バックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1、および固定/解除部材15とそれぞれ同じクランプ部材、クランプ部、表面粗さ挟持面、被押圧部、タング本体8aの表面粗さ挟持面、および固定/解除部材を有している。
【0063】
この第3例のシートベルト装置1の他の構成は、前述の第2例と同じである。
また、この第3例のシートベルト装置1の他の動作および他の作用効果も、前述の第2例と実質的に同じである。
なお、前述の第2例と同様に、図5(a)に示すようにシートベルト3を解放した状態にクランプ部材11aを保持するための保持具を、クランプ部材11aとバックル本体9aとの間に設けることもできる。タング側クランプ手段10のクランプ部材10aに対しても同様の保持具を設けることができる。
【0064】
また、シートベルト3を挟持する部分を表面粗さ挟持面9a1,11a2にすることに代えて、シートベルト3に対して摩擦効果を有する摩擦材で形成することもできる。更に、シートベルト3を挟持してシートベルト3の移動を規制できる所定の挟持力が得られれば、表面粗さ挟持面9a1,11a2を省略することができ、また、特別の摩擦材を用いることもない。
更に、固定/解除部材15は、後述する図7に示す第5例の係止部材17のように回動することでクランブ部材11の固定/解除を行うようにすることもできる。
【0065】
図6は本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第4例を模式的に示し、(a)は図2におけるB−B線に沿う断面図であり、(a)は非クランプ状態を示す図、(b)は(a)におけるVIB−VIB線に沿う断面図、(c)はクランプ状態を示す断面図である。
前述の第3例では、ガイドレール9a4,9a5がバックル本体9aに設けられ、これらのガイドレール9a4,9a5により、クランプ部材11aをガイドしているが、図6(a)および(b)に示すようにこの第4例のシートベルト装置1では、ガイドレール9a4,9a5は設けられておらず、また、ベルト挿通孔9bの幅が前述の各例よりはクランプ部材11aの移動方向に長く設定されている。この第4例のクランプ部材11aの移動方向はラップベルト3bの延びる方向と同方向にに設定されている。なお、クランプ部材11aの移動方向は、ベルト挿通孔9bと直交する方向など、ラップベルト3bをクランプできる方向であれば、任意の方向に設定することができる。
【0066】
そして、クランプ部材11aは、ベルト挿通孔9bの左右両端にあるバルブ本体9aの上面の沿って摺動する一対のフランジ状のガイド部11a6,11a7と、のガイド部11a6,11a7から垂下されてベルト挿通孔9bを貫通するように形成されたクランプ本体部11a8と、このクランプ本体部11a8と直交して設けられたクランプ部11a1とからなっている。
【0067】
クランプ部11a1の上面には、シートベルト3を挟持する傾斜挟持面11a9が形成されており、この傾斜挟持面11a9は、図6(a)において右方に行くにしたがって(つまり、クランプ部材11aのクランプ方向に行くにしたがって)下がるように傾斜している。
また、バックル本体9aの下面には、シートベルト3を挟持する傾斜挟持面9a6がベルト挿通孔9bに隣接し、クランプ部11a1の傾斜挟持面11a9と同じ傾斜でこの傾斜挟持面11a9と対向するように形成されている。
【0068】
そして、図7において、バックル本体9aの傾斜挟持面9a6の傾斜角βがクランプ部11a1の傾斜挟持面11a9の傾斜角γと同じ(β=γ)に設定されている。また、バックル本体9aの厚みa、一対のガイド部11a6,11a7の下面11a10から傾斜挟持面11a9の傾斜終了位置までの長さb、バックル本体9aの上面9a7から傾斜挟持面9a6の傾斜開始位置までの長さc、および一対のガイド部11a6,11a7の下面11a10から傾斜挟持面11a9の傾斜開始位置までの長さdは、a>b>c=dに設定されている。
【0069】
更に、クランプ部材11とバックル本体9aには固定/解除部材16が設けられており、この固定/解除部材16は、クランプ部材11を図6(c)に示すシートベルトクランプ位置および図6(a)に示すシートベルト解放位置でロックするものである。
【0070】
固定/解除部材16によるクランプ部材11のロックは公知のロック方法を用いることができる。例えば、バックル本体9aに固定/解除部材16が移動可能な溝を形成するとともに、この溝のクランプ部材11のシートベルトクランプ位置とシートベルト解放位置とにそれぞれ係合孔を設け、固定/解除部材16を回動することでそのロック片16aをそれぞれ係合孔に係合することで、固定/解除部材16をシートベルトクランプ位置とシートベルト解放位置にロックする方法を用いることができる。
【0071】
そして、固定/解除部材16を回動して固定/解除部材16のロックを解除し、その後、図6(a)に示すようにクランプ部材11aを所定の押圧力Fで左方に押圧することで、クランプ部材11aおよび固定/解除部材16が左方に移動してバックル本体9aとの協働によるシートベルト3の挟持が解消され、シートベルト3は解放されてバックル9に対して相対的に移動可能となる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置規制が解除される。固定/解除部材16を回動して、クランプ部材11がシートベルト解放位置でロックされる。
【0072】
また、固定/解除部材16を回動して固定/解除部材16のロックを解除し、その後、図6(c)に示すようにクランプ部材11aを所定の押圧力F′で右方に押圧することで、クランプ部材11aおよび固定/解除部材16が右方に移動して、バックル本体9aとの協働によりシートベルト3を挟持(クランプ)する。このとき、シートベルト3が傾斜挟持面9a6の傾斜面と傾斜挟持面11a9の傾斜面とで挟持することにより、シートベルト3のクランプ力(ベルト挟持力)がより強大になり、クランプが効果的に行われる。その後、固定/解除部材16を回動して、クランプ部材11がシートベルトクランプ位置でロックされる。これにより、シートベルト3はバックル9に対して相対的に移動しないようになる。換言すれば、バックル9のシートベルト3に対する位置が規制される。
【0073】
なお、図6に示す第4例では、図7においてβ=γ、a>b>c=dに設定されているが、本発明はこれに限定されることなく、b>cでありさえすれば、傾斜角βおよびγの大きさはどちらかが大きくてもよいし、長さcおよびdの大きさもどちらかが大きくてもよい。しかし、好ましくは、c>dであるのがベルト挟持力を効果的に発生させるうえでよく、更に好ましくは、β>γであるのがベルト挟持力をより大きくするうえでよい。また、長さcおよびdの大きさがc<dである場合は、傾斜角βおよびγの大きさと長さbおよびcの大きさとを、ベルト挟持力がより確実に発生するように適宜設定する必要がある。
なお、クランプ部材11aの傾斜挟持面11a9およびバックル本体9aの傾斜挟持面9a6を前述の各例と同様に所定の表面粗さに形成することもできる。
【0074】
前述のようにタング側クランプ手段10もバックル側クランプ手段11と同じ構成を有しており、バックル側クランプ手段11のクランプ部材11a、クランプ部11a1、クランプ部11a1の傾斜挟持面11a9、バックル本体9aの傾斜挟持面9a6、および固定/解除部材16とそれぞれ同じクランプ部材、クランプ部、クランプ部の傾斜挟持面、タング本体8aの傾斜挟持面、および固定/解除部材を有している。
この第4例のシートベルト装置1の他の構成は、前述の第3例と同じである。
また、この第4例のシートベルト装置1の他の動作および他の作用効果も、前述の第3例と実質的に同じである。
【0075】
図8は、本発明の実施の形態の第5例を示し、(a)は非クランプ状態を示す、図3(a)と同様の断面図、(b)は係止部材の部分を示す平面図、(c)はクランプ状態を示す、図3(b)と同様の断面図である。なお、この第5例のシートベルト装置1でも、タング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11がともに同じ構成を有しているので、この第5例の説明においても、バックル側クランプ手段11のみを説明し、タング側クランプ手段10の詳細な説明は省略する。
【0076】
前述の図3に示す第1例のタング側クランプ手段10およびバックル側クランプ手段11では、いずれも、クランプ部材11aのクランプ部11a1のショルダーベルト3aの対向部位に表面粗さ挟持面11a2が形成され、また、バックル本体9aのショルダーベルト3aに対向する位置に、表面粗さ挟持面9a1が形成されているが、この第5例のシートベルト装置1では、図8(a)に示すように、まずバックル本体9aの表面粗さ挟持面9a1が設けられていない。
【0077】
また、第5例のシートベルト装置1では、ベルト挿通孔9bの幅が第1例のベルト挿通孔9bの幅よりかなり大きく設定されており、このベルト挿通孔9b内にクランプ部11a1が進入している。そして、クランプ部11a1の先端に表面粗さ挟持面11a2が形成されている。その場合、表面粗さ挟持面11a2の凹凸の山の頂点を含む面は円弧面とされており、この円弧面は回動軸12から偏心した円の円弧から形成されている。なお、この円弧面はこれに限定されることなく、楕円弧や長円弧で形成することもできるし、また、回動軸12と同心の円の円弧から形成することもできる。更に、表面粗さ挟持面9a1,11a2の凹凸の山の頂点を含む面は円弧面に限らず、平面でもよい。
【0078】
更に、図8(b)に示すように第5例のシートベルト装置1は、バックル本体9aに係止部材17が設けられている。この係止部材17はクランプ部材11aの被押圧部11a3に係止可能な係止爪17aを備えており、この係止爪17aは実線で示す係止位置と二点差線で示す非係止位置との間で回動可能になっている。
タング側クランプ手段10の構成も前述のようにバックル側クランプ手段11と同じであり、また、この第5例のシートベルト装置1の他の構成は、第1例と同じである。
【0079】
このように構成された第5例のシートベルト装置1においては、図8(a)に示すように非クランプ状態では、ねじりばね13の付勢力でシートベルト3から大きく離間しており、シートベルト3はベルト挿通孔9b内を自由に移動可能となっている。したがって、乗員はシートベルト3の装着を容易にかつスムーズに行うことができる。特に、この第5例では、第1例の場合のようにねじりばね13を押さえながらセンターバックル9を移動させる必要がないので、シートベルト3の装着をより一層容易となる。
【0080】
タング8をバックル9に係合してシートベルト3が装着された後、乗員がバックル側クランプ手段11の被押圧部11a3を押圧して、図8(a)において時計方向にねじりばね13の付勢力に抗して回動すると、シートベルト3が表面粗さ挟持面11a2とベルト挿通孔9bの側壁との間に挟持される。
【0081】
このとき、表面粗さ挟持面11a2が所定の表面粗さに設定されているので、シートベルト3は確実に挟持されるようになる。そのうえ、表面粗さ挟持面11a2の円弧面が回動軸12から偏心した円の円弧で形成されているので、クランプ部材11が回動軸12を中心に回動することで、表面粗さ挟持面11a2の円弧面がカム作用を行うので、シートベルト3はより一層堅固に挟持されるようになる。しかも、第1例の場合ではねじりばね13の付勢力のみでシートベルト3を押さえるようにしているが、この第5例では、クランプ部材11aがシートベルト3を押さえ付ける限界までこのクランプ部材11aを回転させて係止爪17aに係止させることで、シートベルト3をより大きな力で押さえるようにしているので、第1例の場合に比べてシートベルト3を十分な力でクランプしてシートベルト3がより確実に移動しないようにできる。
【0082】
更に、この第5例では、クランプ部材11aのシートベルト3をクランプした後にシートベルト3がショルダーベルト3a方向に移動しようとすると、クランプ部材11aがシートベルト3の移動力でシートベルト3により一層食い込む方向に作動するので、クランプ部材11aによるシートベルト3のクランプ力(ベルト挟持力)がより一層大きくなり、シートベルト3のショルダーベルト3a方向への移動がより一層確実にかつより強固に阻止される。
【0083】
タング側クランプ手段10の作用効果もこのバックル側クランプ手段11の作用効果と同じであり、また、この第5例のシートベルト装置1の他の作用効果は、第1例と同じである。
【0084】
なお、この第5例においては、ねじりばね13は必ずしも必要ではなく、省略することもできる。また、係止部材17は、前述の図5に示す第3例の固定/解除部材15のように直線移動することでクランブ部材11の係止/非係止を行うようにすることもできる。
【0085】
更に、前述の例では、本発明を4点式シートベルト装置のタング8およびバックル9の両方に適用するものとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、タング8およびバックル9のいずれか一方に適用することもできる。また、本発明は従来公知の3点式シートベルト装置のタングにも適用することができる。
要は、本発明は、シートベルトに摺動可能に支持されて、このシートベルトをショルダーベルトとラップベルトに分けるタングやバックル等のベルト装着用係止部材を備えるシートベルト装置であれば、どのようなシートベルト装置にも適用することができる。
【0086】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、請求項1ないし3の各発明のシートベルト装置によれば、クランプ手段により、手動でシートベルトをベルト装着用係止部材の連結動作に関係なく独立して任意の位置にクランプするようにしているので、シートベルトの装着を簡単に行いつつ、ベルト装着用係止部材の連結位置をシートベルトに対して連続的にかつより安定して規制できる。これにより、ベルト装着用係止部材の連結を一々解除させずに、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置の調整を手動で簡単に行うことができる。
【0087】
こうして、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置を乗員の望む位置に安定して規制できるようになり、その結果、ベルト装着用係止部材によって分けられるショルダーベルトにより乗員の肩や胸の上胴部をより効果的に拘束保護でき、また、同じくベルト装着用係止部材によって分けられるラップベルトにより乗員の腰部をより効果的に拘束保護できるようになる。
【0088】
また、本発明のシートベルト装置によれば、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置を学習記憶する学習記憶機能を有するようにしているので、ベルト装着用係止部材の連結時に調整したシートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置を、ベルト装着用係止部材の連結解除後も保持できる。これにより、乗員が一旦ベルト装着用係止部材の連結を解除してシートベルトを非装着にしてシートを離座し、その後、再び同じ乗員が同じシートに着座してベルト装着用係止部材の連結を行ってシートベルトを装着した場合に、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置をその乗員の望む位置に自動的に安定して規制できる。したがって、同じ乗員の場合には、シートベルトに対するベルト装着用係止部材の連結位置の調整にかかる手間および時間を効果に省くことができる。
【0089】
特に、請求項2の発明によれば、従来公知の3式のシートベルト装置を使用でき、本発明のクランプ手段をこの3点式のシートベルト装置に有効に適用できる。
【0090】
また、請求項3の発明によれば、従来公知の4点式のシートベルト装置を使用でき、本発明のクランプ手段をこの4点式のシートベルト装置に有効に適用できる。この4点式のシートベルト装置の場合は、タングおよびバックルがともにシートベルトに対して摺動するので、本発明のクランプ手段によるシートベルトに対するタングとバックルとの連結位置の規制によれば、この連結位置を乗員の望む位置に、より効果的に安定して設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第1例を乗員への装着状態(タングとバックルとの連結状態)で模式的に示す図である。
【図2】図1に示す第1例に用いられているタングとバックルとを連結直前の互いに分離(連結解除)した状態で模式的に示す図である。
【図3】図2におけるA−A線に沿う断面図であり、(a)は非クランプ状態を示す図、(b)はクランプ状態を示す図である。
【図4】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第2例を模式的に示し、(a)は図3(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるIVB−IVB線に沿う断面図、(c)は図3(b)と同様の断面図である。
【図5】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第3例を模式的に示し、(a)は図4(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるVB−VB線に沿う断面図、(c)は図4(c)と同様の断面図である。
【図6】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の第4例を模式的に示し、(a)は図5(a)と同様の断面図、(b)は(a)におけるVIB−VIB線に沿う断面図、(c)は図5(c)と同様の断面図である。
【図7】図6に示す第4例に関して、傾斜角β,γおよび長さa,b,c,dの大きさについて説明する図である。
【図8】本発明の実施の形態の第5例を示し、(a)は非クランプ状態を示す、図3(a)と同様の断面図、(b)は係止部材の部分を示す平面図、(c)はクランプ状態を示す、図3(b)と同様の断面図である。
【符号の説明】
1…シートベルト装置、2,3…シートベルト、2a,3a…ショルダーベルト、2b,3b…ラップベルト、4,5…シートベルトリトラクタ、6,7…ラップアンカー、8…タング、8a…タング本体、9…バックル、9a…バックル本体、9a1…表面粗さ挟持面、9b…槽通孔、10…タング側クランプ手段、11…バックル側クランプ手段、11a…クランプ部材、11a1…クランプ部、11a2…表面粗さ挟持面、13…ねじりばね、14…圧縮ばね、15,16…固定/解除部材、17…係止部材
Claims (3)
- 緊急時に緊張するシートベルトにより乗員を拘束するシートベルト装置において、
前記シートベルトに摺動可能に支持されて、シートベルトの装着時に乗員の上胴部を拘束するショルダーベルトと乗員の腰部を拘束するラップベルトに分けるベルト装着用係止部材と、このベルト装着用係止部材のシートベルト摺動部近傍に、手動でクランプ動作が制御されて前記シートベルトを前記ベルト装着用係止部材の本体との間に挟持するクランプ手段とを備えていることを特徴とするシートベルト装置。 - 前記ベルト装着用係止部材は、3点式のシートベルト装置のタングであり、このタングが車体に固定されたバックルと係合することで前記シートベルトが乗員を拘束することを特徴とする請求項1記載のシートベルト装置。
- 前記ベルト装着用係止部材は1本のシートベルトに摺動可能に支持されるタングと他の1本のシートベルトに摺動可能に支持されるバックルであり、これらのタングとバックルとを係合して、緊急時に緊張するこれらのシートベルトにより乗員を拘束する4点式のシートベルト装置であって、
前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方のシートベルト摺動部近傍に、手動でクランプ動作が制御されて前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方が支持されるシートベルトを前記タングおよび前記バックルの少なくとも一方の本体との間に挟持するクランプ手段とを備えていることを特徴とする請求項1記載のシートベルト装置。
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