JP2004134528A - 電波吸収体 - Google Patents
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Abstract
【課題】TE波とTM波との両方の偏波を吸収する電波吸収体を、容易に製造すること。
【解決手段】電波吸収体1は、電波吸収体層2上に異方性抵抗層3dが貼り合わせて構成される。異方性抵抗層3dは、低抵抗方向の表面抵抗率が1kΩ以下であり、高抵抗方向の表面抵抗率が10kΩ以上であり、高抵抗の方向が、TE波の電界と平行な方向である。
【選択図】 図1
【解決手段】電波吸収体1は、電波吸収体層2上に異方性抵抗層3dが貼り合わせて構成される。異方性抵抗層3dは、低抵抗方向の表面抵抗率が1kΩ以下であり、高抵抗方向の表面抵抗率が10kΩ以上であり、高抵抗の方向が、TE波の電界と平行な方向である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
電磁波の反射を抑制するために用いられる電波吸収体に関するものであり、さらに詳しくは、TE波およびTM波の両偏波の電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体であり、従来の両偏波対応電波吸収体に比べて製造が容易な電波吸収体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、無線ローカルエリアネットワーク(Local Area Network)、高度道路交通システム(Intelligent Transport System)における狭域通信(Dedicated
Short Range Communications)技術を用いた自動料金収受システム(ElectronicToll Collection System)等、高周波の電磁波を用いたシステムが実用化されている。これらの電磁波を用いた応用システムにおいては、その通信品質を確保するために壁等からの電磁波の反射を抑制する必要があり、そのために電波吸収体が必要となる。
【0003】
さらに、無線通信で用いられる電磁波は円偏波が用いられることが多く、そのため電波吸収体としては、TE波およびTM波の両偏波の電磁波を効率良く吸収できる特性のものが求められる。
【0004】
従来、両偏波対応の電波吸収体を得るには、電気定数(複素誘電率、複素透磁率)の異なる材料を2種以上準備し、それぞれを最適厚みに加工したものを積層する必要がある。しかしながら、材料で実現できる電気定数は限られており最適化が困難な場合もある。さらに、これら電気定数は一般に周波数分散特性を持つため、各周波数毎に材料を準備する必要がある。さらに、電気定数の異なる材料を積層する場合、それらの厚みも各周波数毎に最適化せねばならず、容易に製造できないという問題がある。
【0005】
たとえば、第1の従来技術(非特許文献1参照)には、5.8GHzの円偏波対応電波吸収体が開示されている。ここでは、円偏波対応の電波吸収体を、複素比誘電率がεr=1.86−j1.12、厚み27mmである材質Aと、複素比誘電率がεr=1.51−j0.36、厚み7mmである材質Bを積層することで実現している。このように、両偏波対応電波吸収体を実現するために複素比誘電率および厚みのコントロールされた材料を2種以上準備する必要がある。
【0006】
また、たとえば、第2の従来技術(非特許文献2参照)には、抵抗皮膜を用いた5.8GHz円偏波対応電波吸収体が開示されている。ここでは、表面抵抗率の異なる2つの抵抗皮膜を準備し、厚みの異なる2つの干渉層を設けることによって両偏波対応電波吸収体を実現している。
【0007】
このように従来技術では、両偏波対応電波吸収体を実現するために、複素比誘電率および厚みの異なる材料を2種以上準備して積層したり、または、表面抵抗率の異なる2つ以上の抵抗皮膜をそれぞれ異なる干渉層厚みで積層する必要があり、安定的に電波吸収体を得ることが困難であるという問題がある。
【0008】
【非特許文献1】
信学技報EMCJ200−117(2000年12月)97頁
【非特許文献2】
2001年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会講演番号B−4−16
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、製造が容易であり、かつ電波吸収特性に優れた両偏波対応電波吸収体およびそれに用いられる異方性抵抗層を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、入射面に対して電界が垂直な電磁波(TE波)および入射面に対して磁界が垂直な電磁波(TM波)の両方の偏波を吸収する電波吸収体であって、表面抵抗率に異方性があり、かつ、高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向である異方性抵抗層を有することを特徴とする電波吸収体である。
【0011】
本発明は、TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13に、表面抵抗率に異方性のある異方性抵抗層3d,8cを貼り合わせたことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明によれば、入射面に対して電界が垂直な電磁波(TE波)および入射面に対して磁界が垂直な電磁波(TM波)の両方の偏波を吸収する電波吸収体であって、表面抵抗に異方性があり、かつ、高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向である異方性抵抗層を有する電波吸収体が提供される。このように本発明は、TE波のみを効率良く吸収できる電波吸収体層2,13に、表面抵抗率に異方性がある異方性抵抗層3d,8cを、その高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向になるように積層することで、両偏波対応とすることができる、という発明者が新たに見出した原理に基づくものである。
【0013】
さらに、TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13上に、表面抵抗に異方性のあるシート状の異方性抵抗層3d,8cを貼り合わせた電波吸収体が提供される。
【0014】
平面波である電磁波に対する電波吸収体の吸収特性は、伝送線理論を応用することによって計算することができ、さらにその計算結果は実験と良く一致することが示されている(「電波吸収体入門」(森北出版))。伝送線理論では、単位長さあたりの抵抗がR[Ω/m]、単位長さあたりのインダクタンスがL[H/m]、単位長さあたりの容量がC[F/m]、単位長さあたりのコンダクタンスがG[S/m]の分布定数線路の微小区間dzにおける電流Iおよび電圧Vとして、電磁波の角周波数をωとするとき、以下の式が導かれる。
d2V/dz2=(R+jωL)(G+jωC)V …(1)
d2I/dz2=(R+jωL)(G+jωC)I …(2)
【0015】
この微分方程式を解くことにより、電流Iおよび電圧Vの基礎式として、以下の式が導出される。
V=V+exp(−γz)+V−exp(γz) …(3)
I=(V+/Zc)exp(−γz)−(V−/Zc)exp(γz) …(4)
【0016】
ここで、V+、V−、Zc、γは以下のとおりである。
V+ ;zの正方向へ伝送する信号の電圧の振幅係数
V− ;zの負方向へ伝送する信号の電圧の振幅係数
Zc ;線路の特性インピーダンス
Zc={(R+jωL)/(G+jωC)}1/2 …(5)
γ ;線路の伝搬定数
γ={(R+jωL)(G+jωC)}1/2 …(6)
【0017】
一方、複素誘電率ε、
ε≡ε’−jε” …(7)
複素透磁率μ、
μ≡μ’−μ” …(8)
【0018】
導電率σの媒質中をz方向へ伝搬する電磁波が平面波の場合、マクスウェル方程式は以下のスカラー式に分解できる。電界のx成分Exおよび磁界のy成分Hyに関して、
∂Ex/∂z=−μ(∂Hy/∂t) …(9)
−∂Hy/∂z=σEx+ε’(∂Ex/∂t) …(10)
【0019】
さらに、電界のy成分Eyおよび磁界のx成分Hxに関して、
∂Ey/∂z=−μ(∂Hx/∂t) …(11)
−∂Hx/∂z=σEy+ε’(∂Ey/∂t) …(12)
【0020】
ここで、複素誘電率の虚数成部ε”に関する損失は導電率σによる損失として考えている。
【0021】
式9および式10からHyを消去すると、Exに関する以下の方程式が得られる。
∂2Ex/∂z2=σμ(∂Ex/∂t)+ε’μ(∂2Ex/∂t2)
…(13)
【0022】
ここで、Exの特解として
Ex=E0exp(jωt) …(14)
を考えると、式13は以下のとおり書きかえることができる。
∂2Ex/∂z2=(jωσμ−ω2ε’μ)Ex …(15)
【0023】
ここで導電率σと、誘電率の虚数成分ε”とは、
ε”=σ/ω …(16)
の関係にあると考えることができ、式15は以下のように書きかえることができる。
∂2Ex/∂z2=−ω2εμEx …(17)
【0024】
電磁波のインピーダンスZは
Z=Ex/Hy=(μ/ε)1/2 …(18)
で定義されるから、Hyについても同様に以下の式が導かれる。
∂2Hy/∂z2=−ω2εμHy …(19)
【0025】
式17および式19は、式1は式2と同形であり、伝搬定数γおよび特性インピーダンスZが、
γ=jω(εμ)1/2 …(20)
Z=(μ/ε)1/2 …(21)
である分布定数線路と考えることができる。このように、平面波である電磁波の伝搬は、伝送線理論に基づいて計算することができる。
【0026】
前述した伝送線理論を用いることにより、複数の境界を持つ媒体での電磁波の反射係数と透過係数を計算できる。後述の図5に示されるような2つの境界がある伝送線モデルを考える。ここで、線路A、Cは無限長線路であり、特性インピーダンスがそれぞれ、ZA,ZCであるとする。線路Bは線路長d、特性インピーダンスZB、伝搬定数γBであるとする。このとき、伝送線理論を用いると、線路Aと線路Bの接続面0−0’から見て、接続面0−0’より右側のインピーダンスZ’は以下のように表すことができる。
Z’=ZB(ZC+ZB・tanhγBd)/(ZB+ZC・tanhγBd)
…(22)
【0027】
このインピーダンスZ’を用いることによって、接続面0−0’での反射係数Γは以下のように表される。
Γ=(Z’− ZA)/(Z’− ZA) …(23)
【0028】
さらにエネルギー反射率Rは、
R=|Γ|2 …(24)
であり、反射損失Rloss[dB]は以下のように計算される。
Rloss=−10 log10R …(25)
【0029】
また、線路Bでのエネルギー吸収量Aは、同様に伝送線理論から求められるエネルギー透過率Tを用いることによって、以下のように計算される。
A=1−R−T …(26)
【0030】
本件電波吸収体では終端を短絡することによってエネルギー透過率Tが0になるように設計する。この場合、
A=1−R …(27)
となるので、電波吸収体の電波吸収特性は、反射損失Rlossによって表される。
【0031】
また、電磁波がz軸に対して角度θで媒質へ入射する場合(TE波の電界方向をy軸とする)には、TE波およびTM波の反射・透過の問題は、z方向への伝搬のみを考えることで解析することができる。
【0032】
異方性抵抗層3d,8cは、種々の方法で実現することができる。たとえば、カーボン繊維や金属繊維等の抵抗性の繊維を樹脂フィルム中に一方向に揃えて分散させることにより得ることができる。すなわち、偏光フィルムを製造する場合(たとえば特開平05−011110)と同様に、フィラーを含有した樹脂を高度に延伸することで、樹脂中に分散された形状異方性のあるフィラーをその長手方向が延伸方向に沿うように配向させることができる。このように、形状異方性のある導電性フィラーを配向させてならべると、配向方向には低抵抗となり、それと垂直方向には高抵抗となる。延伸処理の方法としては、延伸フィルムの製造に用いられる方法を広く用いることができ、たとえば、Tダイフィルム成形法においてドラフト比(Tダイ出口での樹脂厚みと冷却ロール上の樹脂厚みの比)を高めにする成形方法(後述の図3参照)、複数のロールに樹脂を巻きつけて送る際に前後ロールの周速度差をつけることにより一方向に延伸するロール延伸法(後述の図4参照)等が挙げられる。
【0033】
また、カーボン繊維や金属繊維等の抵抗性の繊維が一方向に揃うように織ることによっても得ることができる。この場合、一般に用いられる織物製造方法により得ることができ、たとえば縦糸を抵抗性繊維とし横糸を高抵抗の電気絶縁性繊維(たとえばガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等)とすることで実現できる。
【0034】
また、樹脂フィルム上に抵抗性ペーストを一方向に印刷することによっても得ることができる。この場合、ペースト状材料の印刷で一般的に用いられる方法を用いることができ、たとえばポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルム上にスクリーン印刷を行う方法により実現できる。
【0035】
また、樹脂フィルム上に形成された抵抗膜を乾式または湿式のエッチングによって一方向に除去する方法を選ぶこともできる。たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルム上にスパッタ等の薄膜形成方法により抵抗皮膜を形成した後に抵抗皮膜上にレジスト等を塗布し、さらに、抵抗皮膜を除去したい箇所のレジストを剥離することにより、短冊状のパターンを形成する。さらに、抵抗皮膜上に短冊状にレジストが残った箇所は、エッチング処理により侵されず抵抗皮膜が樹脂フィルム上に残ったままとなる。一方、レジストが除去された部分はエッチング処理により抵抗皮膜がエッチングされる。これによって、樹脂フィルム上に抵抗皮膜が短冊状に残ったフィルムを得ることができる。
【0036】
また、レーザーアブレーション等の方法により一方向に除去する方法によっても得ることができる。たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルム上にITO(インジウム錫酸化物)薄膜を形成し、株式会社ユーアイテック製のITO膜レーザートリミング装置(株式会社ユーアイテック、” ITO膜レーザートリミング装置”、平成14年9月20日、インターネット<URL:http://www.uitech.co.jp/>)等に例示されるような装置を用いて一方向のみITO膜を除去することにより実現できる。以上、例示した方法により異方性抵抗層3d,8cを得ることができるが、異方性抵抗層3d,8cを得る手段はここで例示した方法に限られるものではない。
【0037】
この異方性抵抗層3d,8cを用いる構成は、周波数によらず適用することができる。さらに、両偏波対応電波吸収体を得るために必要な抵抗皮膜形電波吸収体1における干渉層3b(図1参照)および誘電損失形電波吸収体1aにおける誘電損失材料8b(図6参照)の数を減らすことができる。
【0038】
このとき、異方性抵抗層3d,8cにおける高抵抗の方向をTE波の電界方向とすることで、TE波に対しては影響を与えず、一方、TM波の電界に対しては低抵抗の方向の抵抗による電磁波吸収効果が加わることで電磁波の吸収効率を改善することができ、結果として、TE波およびTM波の両偏波の電磁波を効率吸収することのできる電波吸収体を得ることができる。
【0039】
本発明は、異方性抵抗層は、低抵抗方向の表面抵抗率が1kΩ以下であり、高抵抗方向の表面抵抗率が10kΩ以上であることを特徴とする。
【0040】
本発明は、低抵抗方向の表面抵抗率が500〜700Ωであり、
高抵抗方向の表面抵抗率が25k〜100kΩであることを特徴とする。
【0041】
さらに、低抵抗方向の表面抵抗率が1kΩ以下、たとえば500〜700Ωであり、高抵抗方向の表面抵抗率が10kΩ以上、たとえば25k〜100kΩである異方性抵抗層2,13を有する電波吸収体1,1aが提供される。このような範囲にあることで、低抵抗方向に電界成分を持つTM波の電磁波に対しては良好な電波吸収効果を与え、高抵抗方向に電界成分を持つTE波の電磁波に対しては抵抗層3d,8cがない場合と同じ良好な電波吸収効果となる。
【0042】
本発明は、電波吸収体層2は、
導電性の良好な反射層3aと、
反射層3a上に形成され、誘電損失材料から成る干渉層3bと、
干渉層3b上に形成され、表面抵抗率が方向性のない均一な分布を有する抵抗皮膜層3cとを有し、
抵抗皮膜層3c上に前記異方性抵抗層3dが形成されることを特徴とする。
【0043】
抵抗皮膜層を使ったTE波のみに対応する電波吸収体層2は、図1〜図5に関連して後述されるように、1つの抵抗皮膜層3cと、1つの干渉層3bとを含んで実現できる。この電波吸収体層2のTM波の電磁波の吸収効率は、悪い。本発明では、次に述べる誘電損失材料を用いる場合と同様に、異方性抵抗膜層3dを、このTE波用に設計された電波吸収体層2に貼り合わせることによって、両偏波対応電波吸収体を得ることができる。
【0044】
本発明は、電波吸収体層13は、
導電性の良好な反射層8aと、
反射層8a上に形成され、誘電損失材料から成る電波吸収層8bとを有し、
電波吸収層8b上に前記異方性抵抗層8cが形成されることを特徴とする。
【0045】
TE波のみに対応する電波吸収体層13は、図6および図7に関連して後述されるように、電波吸収層8bとして少なくとも1種の誘電損失材料を用いて実現することができる。この電波吸収体層13のTM波の電磁波の吸収効率は、悪い。本発明では、異方性抵抗層8cを、このTE波用に設計された電波吸収体層13に貼り合わせることによって、両偏波対応電波吸収体を得る。
【0046】
本発明は、TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層に貼り合わせられ、
表面抵抗率に異方性があり、かつ、高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向であることを特徴とする異方性抵抗層である。
【0047】
本発明に従えば、前述の異方性抵抗層3d,8cを、TE波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13上に貼り合わせることによって、TE波とTM波の両方の偏波を吸収する電波吸収体1,1aが実現される。こうして既存のTE波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13に、本発明に従う異方性抵抗層3d,8cを貼り合わせればよいので、本発明の実施が容易である。
【0048】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の一形態の電波吸収体1の断面図である。この電波吸収体1は、たとえば無線ローカルエリアネットワーク、高度道路交通システムにおける狭域通信技術を用いた自動領域収受システムなどの電波を吸収すべき空間を形成する壁4の内面などに取付けられ、図1の左方から入射するTE波およびTM波の両方の偏波を吸収することができる。TE波は、電波吸収体1の入射面5に対して電界が垂直な電磁波である。TM波は、入射面5に対して磁界が垂直な電磁波である。この電波吸収体1は基本的に、TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層2上に、異方性抵抗層3dが貼り合わせて構成される。
【0049】
図2は、図1に示される電波吸収体1を構成する電波吸収体層2を示す断面図である。電波吸収体層2は基本的に、導電性の良好な金属などから成る反射層3aと、この反射層3a上に形成される干渉層3bと、干渉層3b上に形成される抵抗皮膜層3cとを有する。反射層3aは、表面抵抗率がおおよそ0Ωである。反射層3aは、金属、たとえばアルミニウム、銅などの材料から成ってもよい。干渉層3bは、低誘電損失材料から成り、たとえば誘電正接が0.1以下の合成樹脂材料から成ってもよく、このような材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネイト、アクリル樹脂、四フッ化エチレン樹脂などが挙げられる。またこれら樹脂の発泡体、さらには空気層を選ぶこともできる。
【0050】
抵抗皮膜層3cは、表面抵抗率が方向性のない均一な分布を有する。このような抵抗皮膜層3cとしては、薄い導電性薄膜をスパッタ等の真空蒸着法にて作製したもの(たとえば、「電波吸収体入門」(森北出版)、P.58)、ポリアクリロニトリルのようなシアノ基を有する繊維を2価銅塩と含イオン還元剤の水溶液で処理し、繊維の表面に硫化第一銅とポリアクリロニトリルから成る複合導電層を形成した導電性繊維を用いた織物(たとえば、「電磁波の吸収と遮蔽」(日経技術図書株式会社)、P.102)が例示される。抵抗皮膜層3cに入射した電磁波は、抵抗皮膜層3cで減衰されて干渉層3bに入って伝搬し、反射層3aの表面で反射され、干渉層3bで、その干渉層3bで入射波と反射波との位相が180度ずれることによって打ち消し合って干渉し、こうしてTE波が効率良く吸収されることになる。
【0051】
図3は、異方性抵抗層3dを製造するための装置を簡略化して示す斜視図である。カーボン繊維や金属繊維等の抵抗性の繊維と合成樹脂との混合物は、T字状の押出し成形用金型であるTダイ11aの供給管11eから圧送され、水平に開口したTダイ出口11fから押出して排出し、冷却ロール11bを、フィルム11cの搬送方向11dと同一速度で回転駆動する。このときTダイ出口11fでの樹脂厚みd1と冷却ロール11b上の樹脂厚みd2の比(=d1/d2)であるドラフト比を高い値に設定する。これによってフィルム11cの搬送方向11dが低抵抗の方向であって、搬送方向11dに垂直な冷却ロール11bの軸線方向が高抵抗の方向となった特性を有するフィルム11cを製造することができる。このフィルム11cを分断して、異方性抵抗層3dとして用いる。
【0052】
図4は、異方性抵抗層3dを製造する他の装置を簡略化して示す断面図である。前述の抵抗性繊維を合成樹脂中に分散して混合した材料となるフィルム12eを、図4の上下に複数のロール12a〜12dに巻き付けて搬送する。これらの各ロール12a〜12dのフィルム12eと接触する面における回転方向は搬送方向12fと同一方向であり、しかも前後のロール12a〜12dの周速度の差が設定され、これによって搬送方向12fに延伸して、ロール延伸法が実施される。ロール12a〜12dの周速度を、V12a,V12b,V12c,V12dとするとき、
V12a<V12b<V12c<V12d …(28)
となるように選ばれる。こうして製造されるフィルム12gは、搬送方向12fと平行な方向が低抵抗方向であり、その搬送方向12fに垂直な図4の紙面に垂直方向が高抵抗の方向である。異方性抵抗層3dの異方性としては、低抵抗方向には表面抵抗率が1kΩ以下であり、たとえば500Ω〜1kΩであり、500〜700Ωであり、高抵抗方向には表面抵抗率が10kΩ以上であり、25k〜100kΩであることが望ましい。
【0053】
図5は、図1に示される電波吸収体1の電波吸収の原理を示す図である。前述の図2における電波吸収体層2の抵抗皮膜層3cよりも図2の左方の空間は、図5の線路Aで示され、干渉層3bと抵抗皮膜層3cとは、線路Bに対応し、反射層3aで反射された電磁波が再び伝搬する干渉層3bおよび抵抗皮膜層3cは、図5の線路Cに対応する。干渉層3bおよび抵抗皮膜層3cの材料および厚みを適切に選び、電波吸収体層2がTE波を充分吸収する特性となるように、構成される。
【0054】
図6は、本発明の実施の他の形態の電波吸収体1aの断面図である。この図6で示される実施の形態は、前述の図1〜図5に示される実施の形態に類似し、対応する部分には同一の参照符を付す。図6に示される電波吸収体1aは基本的に、TE波を吸収する電波吸収体層13上に、異方性抵抗層8cが貼り合わせて構成される。
【0055】
図7は、図6に示される実施の形態における電波吸収体層13の構成を示す断面図である。反射層8a上に、電波吸収層8bが形成されて構成される。反射層8aは、前述の実施の形態における反射層3aと同様に構成される。電波吸収層8bは、誘電損失材料から成り、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチロール、エポキシ樹脂、クロロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンターポリマー等に例示されるような合成樹脂材料またはゴムなどの材料に、カーボン、グラファイト、カーボンファイバー、金属繊維に例示されるような導電性フィラーを混合したものが例示される。そのほかの構成と作用は、前述の実施の形態と同様である。
【0056】
実施例1は、図1〜図5の実施の形態に示される構成を有する。
図8は、図2に示される電波吸収体層2の抵抗皮膜層3c側から入射角度45度で周波数60GHzの電磁波を入射させた場合における電波吸収特性について、前述の伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。ライン15は、入射される電磁波がTE波の特性であり、ライン16はTM波の特性である。この図8に示される実験結果によれば、TE波に対する最適な表面抵抗率は532Ωであり、TM波に対する最適な表面抵抗率は266Ωである。
【0057】
【表1】
【0058】
図9は、このような図2に示される構成を有し、かつ図8に示される特性を有する電波吸収体層2上に、図1に示されるように異方性抵抗層3dを重ねて貼り合わせた電波吸収体1のTE波に対する電波吸収特性について伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。また図10は、図1の構成を有し、かつ図9に示されるTE波の特性を有する電波吸収体1のTM波に対する電波吸収特性について伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。図9を参照して、TE波の電界方向に8kΩ以上の表面抵抗率があれば、そのTE波に対して30dB以上の電波吸収特性が得られることが確認された。さらに、TE波の電界方向に25kΩ以上の表面抵抗率があれば、TE波に対して40dB以上の電波吸収特性が得られることが確認された。図10を参照してTE波の電界と垂直方向の表面抵抗率が532Ωであれば、TM波に対しては表面抵抗率532Ωの抵抗層が並列接続されることによって実効的に、前述のようにTM波に最適な266ΩとなるためTM波の電磁波に対しては50dB以上の電波吸収特性が得られ、またそのTM波に対して30dB以上の電波吸収特性が得られる低抵抗方向の表面抵抗率は470〜604Ωであることが確認された。
【0059】
実施例2は図6および図7に関連して前述した電波吸収体1aを用いる。反射層8a上に、電波吸収層8bが積層される。電波吸収層8bは、誘電体損失材料から成り、その比誘電率εrは、
εr=5.64−j・2.00 …(29)
である。
【0060】
図11は、図7に示される電波吸収体層13において、入射角度45度で周波数60GHzの電磁波を入射させた場合における伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。ライン17は、TE波の特性であり、ライン18はTM波の特性である。この図11のグラフから、電波吸収層8bは、TE波に対する最適な厚みは、0.56mmであり、このとき50dBの電磁波吸収特性が得られることが判る。しかしながらTM波の電波吸収特性は、高々12dB程度であり、このような図7に示される電波吸収体層13の単層では、TE波とTM波との両偏波に対応することができる電波吸収体を得ることができないことが判る。
【0061】
そこで本発明では、TE波に対して最適な厚みを有する図7に示される誘電損失形電波吸収体層13の上に、本発明の異方性抵抗層8cが重ねて貼り合わされて、電波吸収体1aが実現される。
【0062】
【表2】
【0063】
図12は、図6に示される電波吸収体1aのTE波に対する前述の伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。TE波の電界方向に8kΩ以上の表面抵抗率があればTE波に対しては30dB以上の吸収特性が得られ、さらに、TE波の電界方向に25kΩ以上の表面抵抗率があればTE波に対しては40dB以上の吸収特性が得られることが判る。
【0064】
図13は、図6に示される電波吸収体1aにおける本件発明者によるTM波を入射させた場合における伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。異方性抵抗層8cの表面抵抗率に関して、TE波の電界と垂直方向の表面抵抗率が588Ωであれば、TM波の電磁波に対しては50dB以上の吸収特性が得られ、また、TM波に対して30dB以上の吸収特性が得られる低抵抗方向の表面抵抗率は512〜674Ωであった。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、TE波とTM波の両方の偏波を吸収する電波吸収体1,1aが、容易に製造することができるようになる。また本発明の異方性抵抗層3d,8cを、たとえば既存のTE波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13上に貼り合わせることによって、本発明の実施が容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態の電波吸収体1の断面図である。
【図2】図1に示される電波吸収体1を構成する電波吸収体層2を示す断面図である。
【図3】異方性抵抗層3dを製造するための装置を簡略化して示す斜視図である。
【図4】異方性抵抗層3dを製造する他の装置を簡略化して示す断面図である。
【図5】図1に示される電波吸収体1の電波吸収の原理を示す図である。
【図6】本発明の実施の他の形態の電波吸収体1aの断面図である。
【図7】図6に示される実施の形態における電波吸収体層13の構成を示す断面図である。
【図8】図2に示される電波吸収体層2の抵抗皮膜層3c側から入射角度45度で周波数60GHzの電磁波を入射させた場合における電波吸収特性について、前述の伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。
【図9】このような図2に示される構成を有し、図8に示される特性を有する電波吸収体層2上に、図1に示されるように異方性抵抗層3dを重ねて貼り合わせた電波吸収体1のTE波に対する電波吸収特性について伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。
【図10】図1の構成を有し、図9に示されるTE波の特性を有する電波吸収体1のTM波に対する電波吸収特性について伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。
【図11】図7に示される電波吸収体層13において、入射角度45度で周波数62GHzの電磁波を入射させた場合における伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。
【図12】図6に示される電波吸収体1aのTE波に対する前述の伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。
【図13】図6に示される電波吸収体1aにおけるTM波を入射させた場合における伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1,1a 電波吸収体
2,13 電波吸収体層
3a 反射層
3b 干渉層
3c 抵抗皮膜層
3d 異方性抵抗層
8a 反射層
8b 電波吸収層
8c 異方性抵抗層
【発明の属する技術分野】
電磁波の反射を抑制するために用いられる電波吸収体に関するものであり、さらに詳しくは、TE波およびTM波の両偏波の電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体であり、従来の両偏波対応電波吸収体に比べて製造が容易な電波吸収体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、無線ローカルエリアネットワーク(Local Area Network)、高度道路交通システム(Intelligent Transport System)における狭域通信(Dedicated
Short Range Communications)技術を用いた自動料金収受システム(ElectronicToll Collection System)等、高周波の電磁波を用いたシステムが実用化されている。これらの電磁波を用いた応用システムにおいては、その通信品質を確保するために壁等からの電磁波の反射を抑制する必要があり、そのために電波吸収体が必要となる。
【0003】
さらに、無線通信で用いられる電磁波は円偏波が用いられることが多く、そのため電波吸収体としては、TE波およびTM波の両偏波の電磁波を効率良く吸収できる特性のものが求められる。
【0004】
従来、両偏波対応の電波吸収体を得るには、電気定数(複素誘電率、複素透磁率)の異なる材料を2種以上準備し、それぞれを最適厚みに加工したものを積層する必要がある。しかしながら、材料で実現できる電気定数は限られており最適化が困難な場合もある。さらに、これら電気定数は一般に周波数分散特性を持つため、各周波数毎に材料を準備する必要がある。さらに、電気定数の異なる材料を積層する場合、それらの厚みも各周波数毎に最適化せねばならず、容易に製造できないという問題がある。
【0005】
たとえば、第1の従来技術(非特許文献1参照)には、5.8GHzの円偏波対応電波吸収体が開示されている。ここでは、円偏波対応の電波吸収体を、複素比誘電率がεr=1.86−j1.12、厚み27mmである材質Aと、複素比誘電率がεr=1.51−j0.36、厚み7mmである材質Bを積層することで実現している。このように、両偏波対応電波吸収体を実現するために複素比誘電率および厚みのコントロールされた材料を2種以上準備する必要がある。
【0006】
また、たとえば、第2の従来技術(非特許文献2参照)には、抵抗皮膜を用いた5.8GHz円偏波対応電波吸収体が開示されている。ここでは、表面抵抗率の異なる2つの抵抗皮膜を準備し、厚みの異なる2つの干渉層を設けることによって両偏波対応電波吸収体を実現している。
【0007】
このように従来技術では、両偏波対応電波吸収体を実現するために、複素比誘電率および厚みの異なる材料を2種以上準備して積層したり、または、表面抵抗率の異なる2つ以上の抵抗皮膜をそれぞれ異なる干渉層厚みで積層する必要があり、安定的に電波吸収体を得ることが困難であるという問題がある。
【0008】
【非特許文献1】
信学技報EMCJ200−117(2000年12月)97頁
【非特許文献2】
2001年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会講演番号B−4−16
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、製造が容易であり、かつ電波吸収特性に優れた両偏波対応電波吸収体およびそれに用いられる異方性抵抗層を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、入射面に対して電界が垂直な電磁波(TE波)および入射面に対して磁界が垂直な電磁波(TM波)の両方の偏波を吸収する電波吸収体であって、表面抵抗率に異方性があり、かつ、高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向である異方性抵抗層を有することを特徴とする電波吸収体である。
【0011】
本発明は、TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13に、表面抵抗率に異方性のある異方性抵抗層3d,8cを貼り合わせたことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明によれば、入射面に対して電界が垂直な電磁波(TE波)および入射面に対して磁界が垂直な電磁波(TM波)の両方の偏波を吸収する電波吸収体であって、表面抵抗に異方性があり、かつ、高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向である異方性抵抗層を有する電波吸収体が提供される。このように本発明は、TE波のみを効率良く吸収できる電波吸収体層2,13に、表面抵抗率に異方性がある異方性抵抗層3d,8cを、その高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向になるように積層することで、両偏波対応とすることができる、という発明者が新たに見出した原理に基づくものである。
【0013】
さらに、TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13上に、表面抵抗に異方性のあるシート状の異方性抵抗層3d,8cを貼り合わせた電波吸収体が提供される。
【0014】
平面波である電磁波に対する電波吸収体の吸収特性は、伝送線理論を応用することによって計算することができ、さらにその計算結果は実験と良く一致することが示されている(「電波吸収体入門」(森北出版))。伝送線理論では、単位長さあたりの抵抗がR[Ω/m]、単位長さあたりのインダクタンスがL[H/m]、単位長さあたりの容量がC[F/m]、単位長さあたりのコンダクタンスがG[S/m]の分布定数線路の微小区間dzにおける電流Iおよび電圧Vとして、電磁波の角周波数をωとするとき、以下の式が導かれる。
d2V/dz2=(R+jωL)(G+jωC)V …(1)
d2I/dz2=(R+jωL)(G+jωC)I …(2)
【0015】
この微分方程式を解くことにより、電流Iおよび電圧Vの基礎式として、以下の式が導出される。
V=V+exp(−γz)+V−exp(γz) …(3)
I=(V+/Zc)exp(−γz)−(V−/Zc)exp(γz) …(4)
【0016】
ここで、V+、V−、Zc、γは以下のとおりである。
V+ ;zの正方向へ伝送する信号の電圧の振幅係数
V− ;zの負方向へ伝送する信号の電圧の振幅係数
Zc ;線路の特性インピーダンス
Zc={(R+jωL)/(G+jωC)}1/2 …(5)
γ ;線路の伝搬定数
γ={(R+jωL)(G+jωC)}1/2 …(6)
【0017】
一方、複素誘電率ε、
ε≡ε’−jε” …(7)
複素透磁率μ、
μ≡μ’−μ” …(8)
【0018】
導電率σの媒質中をz方向へ伝搬する電磁波が平面波の場合、マクスウェル方程式は以下のスカラー式に分解できる。電界のx成分Exおよび磁界のy成分Hyに関して、
∂Ex/∂z=−μ(∂Hy/∂t) …(9)
−∂Hy/∂z=σEx+ε’(∂Ex/∂t) …(10)
【0019】
さらに、電界のy成分Eyおよび磁界のx成分Hxに関して、
∂Ey/∂z=−μ(∂Hx/∂t) …(11)
−∂Hx/∂z=σEy+ε’(∂Ey/∂t) …(12)
【0020】
ここで、複素誘電率の虚数成部ε”に関する損失は導電率σによる損失として考えている。
【0021】
式9および式10からHyを消去すると、Exに関する以下の方程式が得られる。
∂2Ex/∂z2=σμ(∂Ex/∂t)+ε’μ(∂2Ex/∂t2)
…(13)
【0022】
ここで、Exの特解として
Ex=E0exp(jωt) …(14)
を考えると、式13は以下のとおり書きかえることができる。
∂2Ex/∂z2=(jωσμ−ω2ε’μ)Ex …(15)
【0023】
ここで導電率σと、誘電率の虚数成分ε”とは、
ε”=σ/ω …(16)
の関係にあると考えることができ、式15は以下のように書きかえることができる。
∂2Ex/∂z2=−ω2εμEx …(17)
【0024】
電磁波のインピーダンスZは
Z=Ex/Hy=(μ/ε)1/2 …(18)
で定義されるから、Hyについても同様に以下の式が導かれる。
∂2Hy/∂z2=−ω2εμHy …(19)
【0025】
式17および式19は、式1は式2と同形であり、伝搬定数γおよび特性インピーダンスZが、
γ=jω(εμ)1/2 …(20)
Z=(μ/ε)1/2 …(21)
である分布定数線路と考えることができる。このように、平面波である電磁波の伝搬は、伝送線理論に基づいて計算することができる。
【0026】
前述した伝送線理論を用いることにより、複数の境界を持つ媒体での電磁波の反射係数と透過係数を計算できる。後述の図5に示されるような2つの境界がある伝送線モデルを考える。ここで、線路A、Cは無限長線路であり、特性インピーダンスがそれぞれ、ZA,ZCであるとする。線路Bは線路長d、特性インピーダンスZB、伝搬定数γBであるとする。このとき、伝送線理論を用いると、線路Aと線路Bの接続面0−0’から見て、接続面0−0’より右側のインピーダンスZ’は以下のように表すことができる。
Z’=ZB(ZC+ZB・tanhγBd)/(ZB+ZC・tanhγBd)
…(22)
【0027】
このインピーダンスZ’を用いることによって、接続面0−0’での反射係数Γは以下のように表される。
Γ=(Z’− ZA)/(Z’− ZA) …(23)
【0028】
さらにエネルギー反射率Rは、
R=|Γ|2 …(24)
であり、反射損失Rloss[dB]は以下のように計算される。
Rloss=−10 log10R …(25)
【0029】
また、線路Bでのエネルギー吸収量Aは、同様に伝送線理論から求められるエネルギー透過率Tを用いることによって、以下のように計算される。
A=1−R−T …(26)
【0030】
本件電波吸収体では終端を短絡することによってエネルギー透過率Tが0になるように設計する。この場合、
A=1−R …(27)
となるので、電波吸収体の電波吸収特性は、反射損失Rlossによって表される。
【0031】
また、電磁波がz軸に対して角度θで媒質へ入射する場合(TE波の電界方向をy軸とする)には、TE波およびTM波の反射・透過の問題は、z方向への伝搬のみを考えることで解析することができる。
【0032】
異方性抵抗層3d,8cは、種々の方法で実現することができる。たとえば、カーボン繊維や金属繊維等の抵抗性の繊維を樹脂フィルム中に一方向に揃えて分散させることにより得ることができる。すなわち、偏光フィルムを製造する場合(たとえば特開平05−011110)と同様に、フィラーを含有した樹脂を高度に延伸することで、樹脂中に分散された形状異方性のあるフィラーをその長手方向が延伸方向に沿うように配向させることができる。このように、形状異方性のある導電性フィラーを配向させてならべると、配向方向には低抵抗となり、それと垂直方向には高抵抗となる。延伸処理の方法としては、延伸フィルムの製造に用いられる方法を広く用いることができ、たとえば、Tダイフィルム成形法においてドラフト比(Tダイ出口での樹脂厚みと冷却ロール上の樹脂厚みの比)を高めにする成形方法(後述の図3参照)、複数のロールに樹脂を巻きつけて送る際に前後ロールの周速度差をつけることにより一方向に延伸するロール延伸法(後述の図4参照)等が挙げられる。
【0033】
また、カーボン繊維や金属繊維等の抵抗性の繊維が一方向に揃うように織ることによっても得ることができる。この場合、一般に用いられる織物製造方法により得ることができ、たとえば縦糸を抵抗性繊維とし横糸を高抵抗の電気絶縁性繊維(たとえばガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等)とすることで実現できる。
【0034】
また、樹脂フィルム上に抵抗性ペーストを一方向に印刷することによっても得ることができる。この場合、ペースト状材料の印刷で一般的に用いられる方法を用いることができ、たとえばポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルム上にスクリーン印刷を行う方法により実現できる。
【0035】
また、樹脂フィルム上に形成された抵抗膜を乾式または湿式のエッチングによって一方向に除去する方法を選ぶこともできる。たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルム上にスパッタ等の薄膜形成方法により抵抗皮膜を形成した後に抵抗皮膜上にレジスト等を塗布し、さらに、抵抗皮膜を除去したい箇所のレジストを剥離することにより、短冊状のパターンを形成する。さらに、抵抗皮膜上に短冊状にレジストが残った箇所は、エッチング処理により侵されず抵抗皮膜が樹脂フィルム上に残ったままとなる。一方、レジストが除去された部分はエッチング処理により抵抗皮膜がエッチングされる。これによって、樹脂フィルム上に抵抗皮膜が短冊状に残ったフィルムを得ることができる。
【0036】
また、レーザーアブレーション等の方法により一方向に除去する方法によっても得ることができる。たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルム上にITO(インジウム錫酸化物)薄膜を形成し、株式会社ユーアイテック製のITO膜レーザートリミング装置(株式会社ユーアイテック、” ITO膜レーザートリミング装置”、平成14年9月20日、インターネット<URL:http://www.uitech.co.jp/>)等に例示されるような装置を用いて一方向のみITO膜を除去することにより実現できる。以上、例示した方法により異方性抵抗層3d,8cを得ることができるが、異方性抵抗層3d,8cを得る手段はここで例示した方法に限られるものではない。
【0037】
この異方性抵抗層3d,8cを用いる構成は、周波数によらず適用することができる。さらに、両偏波対応電波吸収体を得るために必要な抵抗皮膜形電波吸収体1における干渉層3b(図1参照)および誘電損失形電波吸収体1aにおける誘電損失材料8b(図6参照)の数を減らすことができる。
【0038】
このとき、異方性抵抗層3d,8cにおける高抵抗の方向をTE波の電界方向とすることで、TE波に対しては影響を与えず、一方、TM波の電界に対しては低抵抗の方向の抵抗による電磁波吸収効果が加わることで電磁波の吸収効率を改善することができ、結果として、TE波およびTM波の両偏波の電磁波を効率吸収することのできる電波吸収体を得ることができる。
【0039】
本発明は、異方性抵抗層は、低抵抗方向の表面抵抗率が1kΩ以下であり、高抵抗方向の表面抵抗率が10kΩ以上であることを特徴とする。
【0040】
本発明は、低抵抗方向の表面抵抗率が500〜700Ωであり、
高抵抗方向の表面抵抗率が25k〜100kΩであることを特徴とする。
【0041】
さらに、低抵抗方向の表面抵抗率が1kΩ以下、たとえば500〜700Ωであり、高抵抗方向の表面抵抗率が10kΩ以上、たとえば25k〜100kΩである異方性抵抗層2,13を有する電波吸収体1,1aが提供される。このような範囲にあることで、低抵抗方向に電界成分を持つTM波の電磁波に対しては良好な電波吸収効果を与え、高抵抗方向に電界成分を持つTE波の電磁波に対しては抵抗層3d,8cがない場合と同じ良好な電波吸収効果となる。
【0042】
本発明は、電波吸収体層2は、
導電性の良好な反射層3aと、
反射層3a上に形成され、誘電損失材料から成る干渉層3bと、
干渉層3b上に形成され、表面抵抗率が方向性のない均一な分布を有する抵抗皮膜層3cとを有し、
抵抗皮膜層3c上に前記異方性抵抗層3dが形成されることを特徴とする。
【0043】
抵抗皮膜層を使ったTE波のみに対応する電波吸収体層2は、図1〜図5に関連して後述されるように、1つの抵抗皮膜層3cと、1つの干渉層3bとを含んで実現できる。この電波吸収体層2のTM波の電磁波の吸収効率は、悪い。本発明では、次に述べる誘電損失材料を用いる場合と同様に、異方性抵抗膜層3dを、このTE波用に設計された電波吸収体層2に貼り合わせることによって、両偏波対応電波吸収体を得ることができる。
【0044】
本発明は、電波吸収体層13は、
導電性の良好な反射層8aと、
反射層8a上に形成され、誘電損失材料から成る電波吸収層8bとを有し、
電波吸収層8b上に前記異方性抵抗層8cが形成されることを特徴とする。
【0045】
TE波のみに対応する電波吸収体層13は、図6および図7に関連して後述されるように、電波吸収層8bとして少なくとも1種の誘電損失材料を用いて実現することができる。この電波吸収体層13のTM波の電磁波の吸収効率は、悪い。本発明では、異方性抵抗層8cを、このTE波用に設計された電波吸収体層13に貼り合わせることによって、両偏波対応電波吸収体を得る。
【0046】
本発明は、TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層に貼り合わせられ、
表面抵抗率に異方性があり、かつ、高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向であることを特徴とする異方性抵抗層である。
【0047】
本発明に従えば、前述の異方性抵抗層3d,8cを、TE波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13上に貼り合わせることによって、TE波とTM波の両方の偏波を吸収する電波吸収体1,1aが実現される。こうして既存のTE波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13に、本発明に従う異方性抵抗層3d,8cを貼り合わせればよいので、本発明の実施が容易である。
【0048】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の一形態の電波吸収体1の断面図である。この電波吸収体1は、たとえば無線ローカルエリアネットワーク、高度道路交通システムにおける狭域通信技術を用いた自動領域収受システムなどの電波を吸収すべき空間を形成する壁4の内面などに取付けられ、図1の左方から入射するTE波およびTM波の両方の偏波を吸収することができる。TE波は、電波吸収体1の入射面5に対して電界が垂直な電磁波である。TM波は、入射面5に対して磁界が垂直な電磁波である。この電波吸収体1は基本的に、TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層2上に、異方性抵抗層3dが貼り合わせて構成される。
【0049】
図2は、図1に示される電波吸収体1を構成する電波吸収体層2を示す断面図である。電波吸収体層2は基本的に、導電性の良好な金属などから成る反射層3aと、この反射層3a上に形成される干渉層3bと、干渉層3b上に形成される抵抗皮膜層3cとを有する。反射層3aは、表面抵抗率がおおよそ0Ωである。反射層3aは、金属、たとえばアルミニウム、銅などの材料から成ってもよい。干渉層3bは、低誘電損失材料から成り、たとえば誘電正接が0.1以下の合成樹脂材料から成ってもよく、このような材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネイト、アクリル樹脂、四フッ化エチレン樹脂などが挙げられる。またこれら樹脂の発泡体、さらには空気層を選ぶこともできる。
【0050】
抵抗皮膜層3cは、表面抵抗率が方向性のない均一な分布を有する。このような抵抗皮膜層3cとしては、薄い導電性薄膜をスパッタ等の真空蒸着法にて作製したもの(たとえば、「電波吸収体入門」(森北出版)、P.58)、ポリアクリロニトリルのようなシアノ基を有する繊維を2価銅塩と含イオン還元剤の水溶液で処理し、繊維の表面に硫化第一銅とポリアクリロニトリルから成る複合導電層を形成した導電性繊維を用いた織物(たとえば、「電磁波の吸収と遮蔽」(日経技術図書株式会社)、P.102)が例示される。抵抗皮膜層3cに入射した電磁波は、抵抗皮膜層3cで減衰されて干渉層3bに入って伝搬し、反射層3aの表面で反射され、干渉層3bで、その干渉層3bで入射波と反射波との位相が180度ずれることによって打ち消し合って干渉し、こうしてTE波が効率良く吸収されることになる。
【0051】
図3は、異方性抵抗層3dを製造するための装置を簡略化して示す斜視図である。カーボン繊維や金属繊維等の抵抗性の繊維と合成樹脂との混合物は、T字状の押出し成形用金型であるTダイ11aの供給管11eから圧送され、水平に開口したTダイ出口11fから押出して排出し、冷却ロール11bを、フィルム11cの搬送方向11dと同一速度で回転駆動する。このときTダイ出口11fでの樹脂厚みd1と冷却ロール11b上の樹脂厚みd2の比(=d1/d2)であるドラフト比を高い値に設定する。これによってフィルム11cの搬送方向11dが低抵抗の方向であって、搬送方向11dに垂直な冷却ロール11bの軸線方向が高抵抗の方向となった特性を有するフィルム11cを製造することができる。このフィルム11cを分断して、異方性抵抗層3dとして用いる。
【0052】
図4は、異方性抵抗層3dを製造する他の装置を簡略化して示す断面図である。前述の抵抗性繊維を合成樹脂中に分散して混合した材料となるフィルム12eを、図4の上下に複数のロール12a〜12dに巻き付けて搬送する。これらの各ロール12a〜12dのフィルム12eと接触する面における回転方向は搬送方向12fと同一方向であり、しかも前後のロール12a〜12dの周速度の差が設定され、これによって搬送方向12fに延伸して、ロール延伸法が実施される。ロール12a〜12dの周速度を、V12a,V12b,V12c,V12dとするとき、
V12a<V12b<V12c<V12d …(28)
となるように選ばれる。こうして製造されるフィルム12gは、搬送方向12fと平行な方向が低抵抗方向であり、その搬送方向12fに垂直な図4の紙面に垂直方向が高抵抗の方向である。異方性抵抗層3dの異方性としては、低抵抗方向には表面抵抗率が1kΩ以下であり、たとえば500Ω〜1kΩであり、500〜700Ωであり、高抵抗方向には表面抵抗率が10kΩ以上であり、25k〜100kΩであることが望ましい。
【0053】
図5は、図1に示される電波吸収体1の電波吸収の原理を示す図である。前述の図2における電波吸収体層2の抵抗皮膜層3cよりも図2の左方の空間は、図5の線路Aで示され、干渉層3bと抵抗皮膜層3cとは、線路Bに対応し、反射層3aで反射された電磁波が再び伝搬する干渉層3bおよび抵抗皮膜層3cは、図5の線路Cに対応する。干渉層3bおよび抵抗皮膜層3cの材料および厚みを適切に選び、電波吸収体層2がTE波を充分吸収する特性となるように、構成される。
【0054】
図6は、本発明の実施の他の形態の電波吸収体1aの断面図である。この図6で示される実施の形態は、前述の図1〜図5に示される実施の形態に類似し、対応する部分には同一の参照符を付す。図6に示される電波吸収体1aは基本的に、TE波を吸収する電波吸収体層13上に、異方性抵抗層8cが貼り合わせて構成される。
【0055】
図7は、図6に示される実施の形態における電波吸収体層13の構成を示す断面図である。反射層8a上に、電波吸収層8bが形成されて構成される。反射層8aは、前述の実施の形態における反射層3aと同様に構成される。電波吸収層8bは、誘電損失材料から成り、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチロール、エポキシ樹脂、クロロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンターポリマー等に例示されるような合成樹脂材料またはゴムなどの材料に、カーボン、グラファイト、カーボンファイバー、金属繊維に例示されるような導電性フィラーを混合したものが例示される。そのほかの構成と作用は、前述の実施の形態と同様である。
【0056】
実施例1は、図1〜図5の実施の形態に示される構成を有する。
図8は、図2に示される電波吸収体層2の抵抗皮膜層3c側から入射角度45度で周波数60GHzの電磁波を入射させた場合における電波吸収特性について、前述の伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。ライン15は、入射される電磁波がTE波の特性であり、ライン16はTM波の特性である。この図8に示される実験結果によれば、TE波に対する最適な表面抵抗率は532Ωであり、TM波に対する最適な表面抵抗率は266Ωである。
【0057】
【表1】
【0058】
図9は、このような図2に示される構成を有し、かつ図8に示される特性を有する電波吸収体層2上に、図1に示されるように異方性抵抗層3dを重ねて貼り合わせた電波吸収体1のTE波に対する電波吸収特性について伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。また図10は、図1の構成を有し、かつ図9に示されるTE波の特性を有する電波吸収体1のTM波に対する電波吸収特性について伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。図9を参照して、TE波の電界方向に8kΩ以上の表面抵抗率があれば、そのTE波に対して30dB以上の電波吸収特性が得られることが確認された。さらに、TE波の電界方向に25kΩ以上の表面抵抗率があれば、TE波に対して40dB以上の電波吸収特性が得られることが確認された。図10を参照してTE波の電界と垂直方向の表面抵抗率が532Ωであれば、TM波に対しては表面抵抗率532Ωの抵抗層が並列接続されることによって実効的に、前述のようにTM波に最適な266ΩとなるためTM波の電磁波に対しては50dB以上の電波吸収特性が得られ、またそのTM波に対して30dB以上の電波吸収特性が得られる低抵抗方向の表面抵抗率は470〜604Ωであることが確認された。
【0059】
実施例2は図6および図7に関連して前述した電波吸収体1aを用いる。反射層8a上に、電波吸収層8bが積層される。電波吸収層8bは、誘電体損失材料から成り、その比誘電率εrは、
εr=5.64−j・2.00 …(29)
である。
【0060】
図11は、図7に示される電波吸収体層13において、入射角度45度で周波数60GHzの電磁波を入射させた場合における伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。ライン17は、TE波の特性であり、ライン18はTM波の特性である。この図11のグラフから、電波吸収層8bは、TE波に対する最適な厚みは、0.56mmであり、このとき50dBの電磁波吸収特性が得られることが判る。しかしながらTM波の電波吸収特性は、高々12dB程度であり、このような図7に示される電波吸収体層13の単層では、TE波とTM波との両偏波に対応することができる電波吸収体を得ることができないことが判る。
【0061】
そこで本発明では、TE波に対して最適な厚みを有する図7に示される誘電損失形電波吸収体層13の上に、本発明の異方性抵抗層8cが重ねて貼り合わされて、電波吸収体1aが実現される。
【0062】
【表2】
【0063】
図12は、図6に示される電波吸収体1aのTE波に対する前述の伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。TE波の電界方向に8kΩ以上の表面抵抗率があればTE波に対しては30dB以上の吸収特性が得られ、さらに、TE波の電界方向に25kΩ以上の表面抵抗率があればTE波に対しては40dB以上の吸収特性が得られることが判る。
【0064】
図13は、図6に示される電波吸収体1aにおける本件発明者によるTM波を入射させた場合における伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。異方性抵抗層8cの表面抵抗率に関して、TE波の電界と垂直方向の表面抵抗率が588Ωであれば、TM波の電磁波に対しては50dB以上の吸収特性が得られ、また、TM波に対して30dB以上の吸収特性が得られる低抵抗方向の表面抵抗率は512〜674Ωであった。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、TE波とTM波の両方の偏波を吸収する電波吸収体1,1aが、容易に製造することができるようになる。また本発明の異方性抵抗層3d,8cを、たとえば既存のTE波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13上に貼り合わせることによって、本発明の実施が容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態の電波吸収体1の断面図である。
【図2】図1に示される電波吸収体1を構成する電波吸収体層2を示す断面図である。
【図3】異方性抵抗層3dを製造するための装置を簡略化して示す斜視図である。
【図4】異方性抵抗層3dを製造する他の装置を簡略化して示す断面図である。
【図5】図1に示される電波吸収体1の電波吸収の原理を示す図である。
【図6】本発明の実施の他の形態の電波吸収体1aの断面図である。
【図7】図6に示される実施の形態における電波吸収体層13の構成を示す断面図である。
【図8】図2に示される電波吸収体層2の抵抗皮膜層3c側から入射角度45度で周波数60GHzの電磁波を入射させた場合における電波吸収特性について、前述の伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。
【図9】このような図2に示される構成を有し、図8に示される特性を有する電波吸収体層2上に、図1に示されるように異方性抵抗層3dを重ねて貼り合わせた電波吸収体1のTE波に対する電波吸収特性について伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。
【図10】図1の構成を有し、図9に示されるTE波の特性を有する電波吸収体1のTM波に対する電波吸収特性について伝送線理論を用いて計算した結果を示すグラフである。
【図11】図7に示される電波吸収体層13において、入射角度45度で周波数62GHzの電磁波を入射させた場合における伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。
【図12】図6に示される電波吸収体1aのTE波に対する前述の伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。
【図13】図6に示される電波吸収体1aにおけるTM波を入射させた場合における伝送理論を用いて計算した電波吸収特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1,1a 電波吸収体
2,13 電波吸収体層
3a 反射層
3b 干渉層
3c 抵抗皮膜層
3d 異方性抵抗層
8a 反射層
8b 電波吸収層
8c 異方性抵抗層
Claims (7)
- 入射面に対して電界が垂直な電磁波(TE波)および入射面に対して磁界が垂直な電磁波(TM波)の両方の偏波を吸収する電波吸収体であって、表面抵抗率に異方性があり、かつ、高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向である異方性抵抗層を有することを特徴とする電波吸収体。
- TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層2,13に、表面抵抗率に異方性のある異方性抵抗層3d,8cを貼り合わせたことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
- 異方性抵抗層は、低抵抗方向の表面抵抗率が1kΩ以下であり、高抵抗方向の表面抵抗率が10kΩ以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電波吸収体。
- 低抵抗方向の表面抵抗率が500〜700Ωであり、
高抵抗方向の表面抵抗率が25k〜100kΩであることを特徴とする請求項3記載の電波吸収体。 - 電波吸収体層2は、
導電性の良好な反射層3aと、
反射層3a上に形成され、誘電損失材料から成る干渉層3bと、
干渉層3b上に形成され、表面抵抗率が方向性のない均一な分布を有する抵抗皮膜層3cとを有し、
抵抗皮膜層3c上に前記異方性抵抗層3dが形成されることを特徴とする請求項1〜4のうちの1つに記載の電波吸収体。 - 電波吸収体層13は、
導電性の良好な反射層8aと、
反射層8a上に形成され、誘電損失材料から成る電波吸収層8bとを有し、
電波吸収層8b上に前記異方性抵抗層8cが形成されることを特徴とする請求項1〜4のうちの1つに記載の電波吸収体。 - TE波である電磁波を効率良く吸収できる電波吸収体層に貼り合わせられ、
表面抵抗率に異方性があり、かつ、高抵抗の方向がTE波の電界と平行な方向であることを特徴とする異方性抵抗層。
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