JP2004128867A - 電力増幅器用歪補償装置 - Google Patents

電力増幅器用歪補償装置 Download PDF

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Abstract

【課題】OFDM信号のような広帯域の信号を増幅する電力増幅器において広帯域化、低歪化、及び高能率化を可能とする歪補償装置を提供する。
【解決手段】基準信号となるMCPAの入力信号、及び比較信号となる増幅器40の出力信号をそれぞれ帯域制限する帯域制限フィルタ32、35を設ける。この帯域制限された所定周波数帯域の基準信号と比較信号とを比較部37で比較して差分を歪成分として出力し、推定部38で予め歪成分情報が記憶された補償データテーブル42を参照して歪成分から逆成分を生成し、加算部39に出力する。算出した逆歪成分を加算部39で入力信号に加えることにより、増幅器40における歪成分を打ち消す。フィルタ制御部41は、レベル検知部33、36での検知信号レベルが所定の管理値以下の場合は、帯域制限フィルタ32、35に制御信号を出力してフィルタの通過帯域を変更する。
【選択図】 図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電力増幅器の非直線性により発生する歪補償(リニア補償)を行う歪補償装置に関し、特に、OFDM( Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)信号などの広帯域の信号を増幅する電力増幅器に用いる電力増幅器用歪補償装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
OFDM信号は、地上波デジタルテレビジョン放送などで使用され、多数のキャリアから構成される広帯域のマルチキャリア信号である。このOFDM信号を用いることにより、キャリア1本あたりのデータ伝送量を低くすることができ、また、強力な誤り訂正を行うことでゴーストや移動受信時のマルチパスに対して強くすることができる。このようなOFDM信号は、各キャリアの電力の変化が合成されるため信号全体の電力変動が大きくなり、図6に示すように、平均電力に対してときどき10数dB高いピーク値が出現する。図6において、横軸が時間軸、縦軸が信号レベルであり、OFDM信号では時間経過により信号レベルが大きく変動することがわかる。
【0003】
このようなOFDM信号を用いたマルチキャリア送信を行う場合、電力増幅部において非線形特性があると、マルチキャリアによる相互変調歪がC/Nなどの特性の劣化として現れる。図7はOFDM信号の周波数スペクトルを模式的に示した説明図である。図7(A)に示すような多数のキャリア501を等周波数間隔で有するマルチキャリア信号を増幅する場合に、増幅器の非線形性による相互変調が発生すると、図7(B)に示すように、各キャリア501及びキャリア501が存在する周波数帯域の上下に相互変調歪成分502が生じる。この相互変調歪成分502によって送受信におけるC/Nなどの特性が劣化する。したがって、OFDM信号の増幅においては、非直線性によって生じる相互変調歪成分によるC/Nの劣化を防止するため、直線性に優れたパワーアンプが要求される。
【0004】
例えば、現在、送信機に使用されているパワーアンプはA級動作の電力増幅器が用いられ、しかもときどき現れるピーク成分に対応するため、平均電力に対して10dB以上の高い電力を出力可能なパワーアンプが使用されている。言い換えれば、OFDM信号増幅用のパワーアンプは、その飽和電力に対して取り扱う平均電力は10dB程度低域(これをバックオフ量という)させる必要がある。このため、空中線出力(平均電力)が1kWしか必要でない送信機でも10kW以上の出力を持つ送信機が使用されている。
【0005】
これに加えて、よく知られているようにA級動作のパワーアンプでは、増幅器内部のデバイスの電源電圧(ドレイン電圧)、バイアス電圧、出力アイドル電流などは入力信号の波形および入力レベルにかかわらず常に一定であり、たまに出現するピーク値に備えて大きなアイドル電流を流し続けている。このため、電力増幅器の能率が低いのが現状である。そこで電力経費の低減のためにも、パワーアンプの能率の向上が望まれている。
【0006】
電力増幅器の直線性を改善する第1の手段として、従来、図8に示すようなPD(プリデストーション)方式の歪補償装置が提案されている。このPD方式は、増幅器の非直線性をあらかじめ補正するもので、増幅器102で発生する歪成分の逆成分を増幅器102の前段に設けたプリディストータ(前置歪補償器)101で発生させ、出力における歪成分を打ち消すようになっている。
【0007】
このPD方式では、あらかじめ増幅器102で発生する歪発生量をプリディストータ101に記憶させておく必要がある。通常、増幅器は入力信号の周波数およびキャリア数によって歪の発生レベルが異なるので、OFDM信号を増幅するマルチキャリア電力増幅器(以下、MCPAという)のように複数のキャリアが入力され、かつキャリア数が変化するものの場合には、プリディストータに記憶させる歪発生情報のパターンが非常に多くなる。また、PD方式は歪の補償量が6〜8dB程度と小さく、平均電力に対して10dB以上の出力を持つ広いゲイン幅の増幅器には対応が困難である。したがって、広帯域のOFDM信号を扱うMCPAにPD方式を適用するのは現実的ではない。
【0008】
また、電力増幅器の直線性を改善する第2の手段として、図9に示すようなFF(フィードフォワード)方式の歪補償装置が提案されている。このFF方式は、増幅器の歪成分を後段に伝送(フィード)して補正するもので、主増幅器202で発生する歪成分を減算器205で抽出して後段の減算器208で増幅器出力から減算することで、出力における歪成分を取り除くようになっている。入力信号は分配器201で分配され、主増幅器202と第1遅延素子203に入力される。主増幅器202では入力信号が所定の信号レベルまで増幅され、主増幅器202の出力が分配器204で分配される。また、第1遅延素子203により主増幅器202で発生する遅延が補償され、減算器205(A点)において主増幅器202の出力から第1遅延素子203の出力が減算されて主増幅器202で発生する歪成分のみが摘出される。次いで、減算器205で摘出された歪成分は補助増幅器207で増幅され、第2遅延素子206により補助増幅器207で発生する遅延が補償されて、減算器208(B点)において第2遅延素子206の出力と補助増幅器207の出力とが減算されて主増幅器202で発生した歪成分が打ち消される(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
このFF方式の場合はPD方式と異なり、入力信号のキャリア数等が変化して主増幅器で発生する歪成分が変わっても、入力信号の変化に応じた歪成分が減算器205(A点)で抽出され、減算器208(B点)で歪成分を打ち消すことは可能であるので、MCPAには適している。しかし、FF方式は15dB以上の歪補償量が確保できるが、補助増幅器が必要であるなどの理由で消費電力が大きく低能率であるので、高出力の送信機には適しない(非特許文献1参照)。
【0010】
また、電力増幅器の直線性を改善する第3の手段として、図10に示すようなAPD(アダプティブプリデストーション)方式の歪補償装置が提案されている。このAPD方式は、基準信号である入力信号と比較信号である出力信号との比較に基づいて適応的な歪補償を行うものである。入力信号は分配器301で分配され、一部が基準信号として比較部302に入力されると共に、加算部303を介して増幅器304に入力される。増幅器304では入力信号が所定の信号レベルまで増幅され、増幅器304の出力が分配器305で分配されて一部が比較信号として比較部302に入力される。比較部302では、増幅器304で使用する全帯域の信号について基準信号と比較信号を比較して、この差分を歪成分と認識し、あらかじめ歪成分情報が記憶された補償データテーブルを用いて演算処理を行って歪成分の逆成分を生成する。そして、加算部303で前記生成した歪成分の逆成分を入力信号に加えることにより、増幅器304における歪成分を打ち消すことができる(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0011】
しかし、従来より用いられている一般的なAPD方式では、OFDM信号のような広帯域なマルチキャリア信号を増幅するMCPAに適用する場合、入出力信号帯域が広帯域となるため、比較部における信号比較と逆歪成分推定の処理量が膨大となってしまう。この場合、逆歪成分の比較推定処理を入力信号の全帯域で行う必要があるため、広い帯域で精度を保つためには補償データテーブルのデータ量が増大し、演算処理量が膨大になるが、現在存在するデバイスでは全信号帯域にわたる高速演算を行って歪成分を算出することは実現困難である。
【0012】
【特許文献1】
特開2001−53552号公報
【特許文献2】
特開2001−268149号公報
【特許文献3】
特開2001−268150号公報
【非特許文献1】
映像情報メディア学会誌研究速報,社団法人映像情報メディア学会,1999年,第53巻,第11号,p.1596−1599
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
前述したように、PD方式の歪補償装置では、歪補償量が6〜8dB程度と小さく、広帯域のOFDM信号を増幅するMCPAのように平均電力に対して10dB以上の出力を持つ広いゲイン幅の増幅器には対応が困難である。また、MCPAに適用するには、広帯域をカバーするためにプリディストータに記憶させる歪発生情報のパターンが非常に多くなり、現実的でない。
【0014】
一方、FF方式の歪補償装置は、MCPAなどの広帯域の増幅器に対応可能であり、歪補償量は十分得られる。しかしながら、FF方式では補助増幅器が必要であるため、消費電力が大きくなって能率が低いので、OFDM信号用の送信機に搭載するMCPAなどの直線性と共に高能率が要求される増幅器には対応が難しい。また、装置が大型化する問題点もある。
【0015】
また、従来のAPD方式の歪補償装置では、OFDM信号のような広帯域なマルチキャリア信号を増幅するMCPAに適用しようとすると、比較部において入出力信号帯域の全帯域にわたって歪成分を推定するための処理量が膨大となってしまい、高速な処理が必要となる。しかし、現状では広い信号帯域に対して十分な精度と処理速度を確保することは難しく、実現が困難である。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、OFDM信号のような広帯域の信号を増幅する電力増幅器において十分な歪補償が可能で直線性を確保できると共に、高能率な増幅器に対応でき、広帯域化、低歪化、及び高能率化が可能な電力増幅器を実現できる歪補償装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の電力増幅器用歪補償装置は、広帯域信号を増幅する電力増幅器の歪補償を行う電力増幅器用歪補償装置であって、前記電力増幅器に対する入力信号による基準信号と前記電力増幅器の出力信号による比較信号のそれぞれの信号について、一部の周波数帯域を通過させる信号帯域制限手段と、前記帯域制限された基準信号と比較信号とを比較して前記電力増幅器における歪成分の補償量を推定する比較手段と、前記比較手段により得られた歪成分の補償量を前記電力増幅器に対する入力信号に加算する加算手段とを備えたことを特徴とする。
【0018】
上記構成により、例えばOFDM信号などのマルチキャリア信号を一括増幅するMCPAなど、広帯域信号を増幅する電力増幅器において、入力信号による基準信号(歪成分算出において基準となる信号)の周波数帯域と出力信号による比較信号(基準信号と比較して歪成分の補償量を決定する信号)の周波数帯域とを信号増幅する全ての周波数帯域としないで、一部の周波数帯域によって歪成分の補償量の演算処理を行う。これによって、信号帯域を制限することで歪成分を演算する処理量を低減させることができ、かつ、広帯域の電力増幅器に対しても十分な歪補償が可能で直線性を確保可能となる。また、上記構成のようなアダプティブプリデストーション方式の歪補償では、補助増幅器等が必要なく、高能率な増幅器に対応可能である。したがって、広帯域化、低歪化、及び高能率化が可能な電力増幅器を実現可能である。
【0019】
また、本発明は、前記信号帯域制限手段は、前記電力増幅器において増幅する全信号帯域のうち、前記基準信号及び前記比較信号について所定の信号レベルが得られる周波数帯域を通過させることを特徴とする。
【0020】
上記構成により、歪成分の補償量を算出するための基準信号と比較信号のそれぞれの周波数帯域を、信号増幅する周波数帯域内の一部とし、帯域内の適切な部分の信号を用いて補償量の演算処理が可能である。これによって、演算処理量を少なくできるとともに、広帯域の電力増幅器に対しても十分な歪補償が可能となる。
【0021】
また、本発明は、前記帯域制限された基準信号及び比較信号の信号レベルを検知し、この信号レベルが所定値以下の場合に前記信号帯域制限手段の通過帯域を変更する制御手段を備えたことを特徴とする。
【0022】
上記構成により、入力信号の周波数帯域に応じて、基準信号及び比較信号の信号レベルが低い場合は信号帯域制限手段の通過帯域を変更することで、基準信号及び比較信号を正常な信号レベルを持つ周波数帯域に変更して歪成分の補償量を算出することが可能となる。これによって、基準信号及び比較信号の信号レベルが変動したときに、適切な歪成分の補償量の算出が可能であり、より確実に精度の良い歪補償が可能となる。
【0023】
また、本発明は、前記信号帯域制限手段は、前記電力増幅器で増幅する全信号帯域において前記入力信号に応じて選択的に設定可能な複数の通過帯域を有し、前記制御手段は、前記信号帯域制限手段で帯域制限された基準信号及び比較信号の信号レベルが所定値以下の場合に、前記信号帯域制限手段の通過帯域を他の通過帯域に切り替えることを特徴とする。
【0024】
上記構成により、例えば地上波デジタルテレビジョン放送の中継放送機などに用いられる電力増幅器において、信号帯域制限手段の通過帯域として選択された所定のチャンネルの放送が停止した場合など、一部の周波数帯域の信号が存在しなくなった場合に、通過帯域を他の通過帯域に切り替える。これによって、基準信号及び比較信号を正常な信号レベルを持つ周波数帯域に変更して適切な歪成分の補償量を算出することができるため、正しく精度の良い歪補償動作を継続することが可能となる。
【0025】
本発明の電力増幅器用歪補償装置は、広帯域信号を増幅する電力増幅器の歪補償を行う電力増幅器用歪補償装置であって、前記電力増幅器における入力信号と出力信号とを比較して歪成分の補償量を推定し、前記電力増幅器の歪補償を行うアダプティブプリデストーション方式の歪補償手段を備え、前記歪補償手段は、前記入力信号及び前記出力信号の信号帯域を、前記電力増幅器において増幅する信号帯域の一部として歪補償を行うことを特徴とする。
【0026】
上記構成により、例えばOFDM信号などのマルチキャリア信号を一括増幅するMCPAなど、広帯域信号を増幅する電力増幅器において、入力信号による基準信号の周波数帯域と出力信号による比較信号の周波数帯域とを信号増幅する全ての周波数帯域としないで、一部の周波数帯域によって歪成分の補償量の演算処理を行うアダプティブプリデストーション方式の歪補償手段を構成する。これによって、演算処理量を少なくでき、かつ、広帯域の電力増幅器に対しても十分な歪補償が可能で直線性を確保できるため、広帯域化、低歪化、及び高能率化が可能な電力増幅器を実現可能である。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本実施形態では、広帯域信号の電力増幅器として、地上波デジタルテレビジョン放送などを送信する中継放送機などに用いられる、OFDM信号によるマルチキャリア信号を一括増幅するMCPAにおいて、非直線性により発生する歪補償(リニア補償)を行う歪補償装置の構成例を説明する。
【0028】
まず、OFDM信号を取り扱う電力増幅器の概要を説明する。図1はMCPAを備えた送信機の主要部の概略構成を示すブロック図、図2はMCPAにおいて増幅するOFDM信号の周波数スペクトルの一例を示す説明図である。送信機には、複数の周波数帯(以下、チャンネルともいう)の信号を出力する送信部11、12、13、14、15と、複数の送信部11〜15の出力信号を合成する合成器20と、合成器20の出力信号を一括して増幅するMCPA21とを備えている。ここでは、図1のように送信部11〜15によってAチャンネル(Ach)、Bチャンネル(Bch)、Cチャンネル(Cch)、Dチャンネル(Dch)、Fチャンネル(Fch)の5つのチャンネルの送信信号を出力する構成例を示す。
【0029】
MCPA21に入力される送信信号は、図2に示すような広帯域のOFDM信号となっている。このOFDM信号は、広帯域にわたる多数のキャリア(デジタル波)からなるマルチキャリア信号であり、図の例ではAch〜Fchの複数のチャンネルを有する信号となっている。例えば地上波デジタルテレビジョン放送に用いるOFDM信号では、各チャンネルにおいて、約5.6MHzの広い周波数幅の中に約1kHzごとの等間隔で5616本もの多数のキャリアが存在している。図2のAchにおいてチャンネル内に多数のキャリアが立っているイメージを示している。なお、各送信部11〜15のチャンネルは、周波数上で連続している場合、不連続の場合、さらにそれらの組み合わせの場合もある。
【0030】
上記のようなOFDM信号は、例えば平均電力に対して約13dB程度大きなピーク電力を持つ場合もあり、このOFDM信号を一括増幅するMCPA21においては、非直線性により生じる歪に対する歪補償を行って高い直線性を維持する必要がある。本実施形態では、APD方式の歪補償手段を利用して、広帯域のOFDM信号に対応可能な電力増幅器の歪補償を行うようにする。
【0031】
以下に、本実施形態に係る歪補償装置の構成及び動作を説明する。図3は本発明の実施形態に係る歪補償装置の機能的な概略構成を示すブロック図である。ここでは、図1に示したMCPA21における歪補償装置の概念的な構成を示す。
【0032】
歪補償装置は、MCPAの入力信号(OFDM信号)を分配する分配器31、分配された入力信号について所定の周波数帯域のみを通過させる可変式の帯域制限フィルタ32、基準信号となる帯域制限フィルタ32の出力信号のレベルを検知するレベル検知部33を備えている。また、OFDM信号を一括して電力増幅する増幅器40、増幅器40の出力信号を分配する分配器34、分配された出力信号について所定の周波数帯域のみを通過させる可変式の帯域制限フィルタ35、比較信号となる帯域制限フィルタ35の出力信号のレベルを検知するレベル検知部36を備えている。さらに、基準信号と比較信号とを比較してこれらの差分による歪成分を算出する比較部37、比較部37で算出された歪成分を基に、あらかじめ歪成分情報が記憶された補償データテーブル42を用いて推定演算処理を行って歪成分の逆成分を生成する推定部38、MCPAの入力信号に推定部38の出力を加算して増幅器40に入力する加算部39、レベル検知部33、36の検知出力に基づいて帯域制限フィルタ32、35の通過帯域を制御するフィルタ制御部41を備えている。
【0033】
図1の構成において、入力信号は分配器31で分配され、一部が帯域制限フィルタ32に入力されて所定の周波数帯域、例えば任意のチャンネル1チャンネル分の周波数帯域の信号のみが通過してレベル検知部33に入力される。そして、レベル検知部33において帯域制限された所定周波数帯域のみの基準信号の信号レベルが検知され、この基準信号が比較部37に入力される。
【0034】
また、入力信号は分配器31を経て加算部39を介して増幅器40に入力され、増幅器40において所定の信号レベルまで増幅される。増幅器40の出力は分配器34で分配されて一部が帯域制限フィルタ35に入力され、帯域制限フィルタ32と同一の周波数帯域の信号のみが通過してレベル検知部36に入力される。そして、レベル検知部36において帯域制限された所定周波数帯域のみの比較信号の信号レベルが検知され、この比較信号が比較部37に入力される。
【0035】
比較部37では、帯域制限フィルタ32、35で帯域制限された所定周波数帯域の信号について基準信号と比較信号とを比較して、この差分を歪成分として出力する。そして、推定部38において、あらかじめ歪成分情報が記憶された補償データテーブル42を参照して歪成分から逆成分を生成し、加算部39に出力する。この逆歪成分を加算部39で入力信号に加えることにより、増幅器40における歪成分が打ち消される。
【0036】
このとき、比較部37及び推定部38では、帯域制限された所定周波数帯域の信号についてのみ歪成分の算出を行うが、増幅器40の周波数特性が増幅するOFDM信号の全周波数帯域において特性変化が比較的少ないものと考えられるため、逆歪成分の推定処理において、歪成分を算出した制限周波数帯域外の周波数帯域についても同様にして歪成分から逆歪成分を求め、全信号帯域にわたって逆歪成分を得るようにする。その際、帯域制限した信号の差分を算出して得られた歪成分を他の周波数帯域にもコピーして補償データテーブル42を参照したり、補償データテーブル42において帯域制限した周波数帯域の歪成分データに対応して他の周波数帯域の歪成分データを記憶するようにしてもよい。
【0037】
また、フィルタ制御部41は、レベル検知部33、36で検知した信号レベル(信号電圧)をあらかじめ設定した管理値(管理値電圧)と比較し、基準信号側と比較信号側のどちらか一方でも管理値を下回った場合は帯域制限フィルタ32、35に制御信号を出力してフィルタの通過帯域を変更する。これにより、帯域制限した信号レベルが所定値以下の場合は、歪成分を演算するための基準信号及び比較信号として不適切であると判断し、適切な信号が得られる周波数帯域を選択する。なお、レベル検知部33、36は、基準信号側と比較信号側の両方に設けずにいずれか一方のみ設けるようにしてもよい。この場合、基準信号側に設ける方が好ましい。
【0038】
次に、上述のように帯域制限する周波数帯域を可変とし、この制限周波数帯域の演算から全信号帯域の歪成分を求める処理手順を説明する。図4は本実施形態の歪補償装置における動作手順を示すフローチャートである。
【0039】
電源投入後、まずフィルタ制御部41によって帯域制限フィルタ32、35の通過帯域をCchに設定し、歪成分を演算するための帯域制限した入力信号の周波数帯域としてCchを選択する(ステップS11)。なお、選択する周波数帯域は、使用する入力信号のチャンネルなどの周波数帯域に応じて適宜設定すればよい。次いで、レベル検知部33、36の出力に基づき、帯域制限フィルタ32、35を通過したCchの信号レベルが所定の管理値以上かどうかを判断する(ステップS12)。
【0040】
ここで、信号レベルが管理値以上の場合は、比較部37においてCchの基準信号と比較信号によって比較処理を行い、歪成分を算出する(ステップS13)。歪成分は上述したように基準信号と比較信号の差分により求められる。次いで、推定部38において補償データテーブル42を用いて、算出した歪成分から全信号帯域の歪成分を推定し、逆歪成分を生成する(ステップS14)。そして、生成した逆歪成分を加算部39において入力信号に加算することにより、増幅器40における歪成分を補償して直線性を保持する。
【0041】
一方、ステップS12で信号レベルが管理値より小さい場合は、フィルタ制御部41より制御信号を出力して帯域制限フィルタ32、35の通過帯域を切り替えてDchに設定する(ステップS15)。
【0042】
そして、レベル検知部33、36の出力に基づき、帯域制限フィルタ32、35を通過したDchの信号レベルが所定の管理値以上かどうかを判断する(ステップS16)。ここで、信号レベルが管理値以上の場合は、ステップS17,S18でDchの基準信号と比較信号を用いて上記ステップS13,S14と同様の歪補償処理を行う。
【0043】
ステップS16で信号レベルが管理値より小さい場合は、フィルタ制御部41より制御信号を出力して帯域制限フィルタ32、35の通過帯域を切り替える。以降、ステップS19において上記と同様にしてBch,Ech,Achの順に各チャンネルの周波数帯域において同様の処理を繰り返す。なお、図1の構成ではEchは使用していないため、帯域制限フィルタ32、35の通過帯域が次のチャンネルに切り替わることになる。
【0044】
Achにおいて帯域制限フィルタ通過後の信号レベルが所定の管理値より小さい場合は、フィルタ制御部41より制御信号を出力して帯域制限フィルタ32、35の通過帯域を切り替えてFchに設定する(ステップS20)。そして、レベル検知部33、36の出力に基づき、帯域制限フィルタ32、35を通過したFchの信号レベルが所定の管理値以上かどうかを判断する(ステップS21)。ここで、信号レベルが管理値以上の場合は、ステップS22,S23でFchの基準信号と比較信号を用いて上記ステップS13,S14と同様の歪補償処理を行う。
【0045】
一方、ステップS21で信号レベルが管理値より小さい場合は、ステップS11に戻って再びDchの周波数帯域から同様の処理を繰り返す。このような処理によって、適切な基準信号及び比較信号が得られる周波数帯域を選択して、歪成分の算出、全信号帯域における歪成分の推定、逆歪成分の生成を行うことができる。例えば、地上波デジタルテレビジョン放送に用いるOFDM信号を増幅するMCPAにおいては、深夜時間帯の放送の停止などで現在使われていないチャンネルに帯域制限フィルタの通過帯域が設定されている場合は、他のチャンネルに切り替えて適切な歪補償処理を行うことが可能である。
【0046】
図5は本発明の実施形態に係る歪補償装置の構成例を示すブロック図である。この図5の例は図1に示した歪補償装置の機能的構成の具体例を示したものである。
【0047】
歪補償装置は、MCPAの入力信号(OFDM信号)を分配する分配器51、分配された入力信号について所定の周波数帯域のみを通過させる可変式の帯域制限フィルタ52、基準信号となる帯域制限フィルタ32の出力信号をRF帯(無線周波数帯)からIF帯(中間周波数帯)に変換する周波数変換部53を備えている。また、周波数変換部53の出力信号のレベルを検知するレベル検知部54、周波数変換部53の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換部55、A/D変換部55の出力についてFFT(高速フーリエ変換)を行って信号を時間領域から周波数領域に変換するFFT部56を備えている。
【0048】
また、OFDM信号を一括して電力増幅する増幅器70、増幅器70の出力信号を分配する分配器57、分配された出力信号について所定の周波数帯域のみを通過させる可変式の帯域制限フィルタ58、比較信号となる帯域制限フィルタ58の出力信号をRF帯からIF帯に変換する周波数変換部59を備えている。また、周波数変換部59の出力信号のレベルを検知するレベル検知部60、周波数変換部59の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換部61、A/D変換部61の出力についてFFTを行って信号を時間領域から周波数領域に変換するFFT部62を備えている。
【0049】
さらに、所定周波数帯域の基準信号と比較信号とを比較してこれらの差分による歪成分を算出し、この歪成分を基に補償データテーブルを用いて推定演算処理を行って歪成分の逆成分を生成する比較部63、比較部63の出力について逆FFTを行って逆歪成分を周波数領域から時間領域に変換するIFFT部64、MCPAの入力信号にIFFT部64の出力を加算して増幅器70に入力する加算部65、レベル検知部54、60の検知出力に基づいて帯域制限フィルタ52、58の通過帯域を制御するフィルタ制御部66を備えている。
【0050】
図5の構成において、入力信号は分配器51で分配されて一部が帯域制限フィルタ52に入力され、所定の周波数帯域、例えば任意のチャンネル1チャンネル分の周波数帯域の信号のみが通過して周波数変換部53に入力される。帯域制限フィルタ52によって帯域制限された入力信号(基準信号)は、RF帯(例えば500MHz程度)であり、このまま信号処理するのは現実的でないので、周波数変換部53によってIF帯に周波数変換を行う。そして、デジタル信号で基準信号と比較信号との比較を行うために、A/D変換部55でA/D変換を行う。さらに、A/D変換後のデジタル信号は時間領域の信号であるが、歪補償を行う場合は、どの周波数にどれだけの歪があるかを知る必要があるため、FFT部56によって周波数領域への変換を行う。
【0051】
増幅器70の出力信号は、分配器57で分配されて一部が帯域制限フィルタ58に入力され、所定の周波数帯域のみが通過される。この帯域制限された出力信号(比較信号)についても、上記と同様に周波数変換部59でIF帯に周波数変換し、A/D変換部61でデジタル信号に変換した後、FFT部62によって周波数領域への変換を行う。
【0052】
FFT部56、62の出力は比較部63に入力されて歪成分を求める演算処理が行われる。比較部63において両入力の差分をとることで、どの周波数にどの程度の歪が発生しているかが分かることになる。本実施形態の構成では、比較部63における基準信号と比較信号との差分信号は帯域制限されているので、他の周波数帯域については補償データテーブルを用いた推定処理において補完する形で逆歪成分を生成する。この際、増幅器70の周波数特性が増幅するOFDM信号の全周波数帯域において特性変化が比較的少ないものと考え、他の周波数帯域は帯域制限して得られた差分信号をコピーする。これにより、増幅器70で増幅する信号の全ての周波数帯域における歪成分が検出されることとなる。
【0053】
比較部63の出力はIFFT部64によって再度時間領域に変換され、加算部65に入力される。加算部65では、得られた逆歪成分を入力信号に加算することによって、増幅器70における歪成分がキャンセルされる。この加算部65における歪成分を打ち消す加算処理を行う手段としては、APD方式の歪補償装置における公知の構成を用いればよい。
【0054】
このとき、レベル検知部54、60で帯域制限された基準信号と比較信号の信号レベルを検知する。この検知信号は直流電圧信号(DC信号)に変換され、フィルタ制御部66に入力される。フィルタ制御部66では、レベル検知部54、60で検知された信号レベルを比較し、どちらか一方があらかじめ設定した管理値よりも低くなった場合は、帯域制限された信号が正常に入力されていないと判断し、帯域制限フィルタ52、58に制御信号を送ってフィルタを通過する信号の周波数範囲を電子的に変更する。この帯域制限フィルタ52、58における通過帯域を電子的に変更する手段としては、種々の公知の構成を用いればよい。
【0055】
上述したように、本実施形態では、MCPA等の広帯域の信号を増幅する増幅器において、増幅器の非直線性により発生する相互変調歪成分をアダプティブプリデストーション方式を利用して低減させることができる。このとき、歪補償の演算処理に必要な基準信号及び比較信号の周波数帯域を制限することで演算処理量を低減でき、処理の高速化を図れるので、広帯域の信号に対して十分な歪補償量と精度を得ることができる。これにより、広帯域化、低歪化、及び高能率化に対応可能な電力増幅器を実現できる。また、歪補償に関する演算処理量の低減、及び歪補償装置を含む増幅器の高能率化に伴い、装置の小型・軽量化、及び低コスト化を図ることができる。したがって、例えばOFDM信号の電波を使用する地上デジタルテレビジョン放送の中継ネットワークを実現するために必須となる、高性能のMCPAが容易に実現可能となる。
【0056】
なお、本発明は、OFDM信号を増幅するMCPAだけでなく、広帯域信号として、OFDM信号以外のマルチキャリア信号、W−CDMA方式の通信装置で用いられるCDMA信号などを増幅する増幅器にも適用可能である。特に、信号の周波数帯域がMHzのオーダーのもので、入力信号の変化量が大きいものにおいて本発明は有効である。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、OFDM信号のような広帯域の信号を増幅する電力増幅器において十分な歪補償が可能で直線性を確保できると共に、高能率な増幅器に対応でき、広帯域、低歪、及び高能率化が可能な電力増幅器を実現できる歪補償装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るMCPAを備えた送信機の主要部の概略構成を示すブロック図
【図2】本発明の実施形態に係るMCPAにおいて増幅するOFDM信号の周波数スペクトルの一例を示す説明図
【図3】本発明の実施形態に係る歪補償装置の機能的な概略構成を示すブロック図
【図4】本実施形態の歪補償装置における動作手順を示すフローチャート
【図5】本発明の実施形態に係る歪補償装置の構成例を示すブロック図
【図6】OFDM信号の信号レベル変動の一例を示す説明図
【図7】OFDM信号の周波数スペクトルを模式的に示した説明図であり、(A)はOFDM信号の周波数軸上でのスペクトル分布を示す図、(B)は相互変調歪が発生した場合の周波数スペクトルを示す図
【図8】従来例に係るPD(プリデストーション)方式の歪補償装置の構成を示すブロック図
【図9】従来例に係るFF(フィードフォワード)方式の歪補償装置の構成を示すブロック図
【図10】従来例に係るAPD(アダプティブプリデストーション)方式の歪補償装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
11、12、13、14、15 送信部
20 合成器
21 MCPA(マルチキャリア電力増幅器)
31、34 分配器
32、35 帯域制限フィルタ
33、36 レベル検知部
37 比較部
38 推定部
39 加算部
40 増幅器
41 フィルタ制御部
42 補償データテーブル

Claims (5)

  1. 広帯域信号を増幅する電力増幅器の歪補償を行う電力増幅器用歪補償装置であって、
    前記電力増幅器に対する入力信号による基準信号と前記電力増幅器の出力信号による比較信号のそれぞれの信号について、一部の周波数帯域を通過させる信号帯域制限手段と、
    前記帯域制限された基準信号と比較信号とを比較して前記電力増幅器における歪成分の補償量を推定する比較手段と、
    前記比較手段により得られた歪成分の補償量を前記電力増幅器に対する入力信号に加算する加算手段と、
    を備えたことを特徴とする電力増幅器用歪補償装置。
  2. 前記信号帯域制限手段は、前記電力増幅器において増幅する全信号帯域のうち、前記基準信号及び前記比較信号について所定の信号レベルが得られる周波数帯域を通過させることを特徴とする請求項1に記載の電力増幅器用歪補償装置。
  3. 前記帯域制限された基準信号及び比較信号の信号レベルを検知し、この信号レベルが所定値以下の場合に前記信号帯域制限手段の通過帯域を変更する制御手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の電力増幅器用歪補償装置。
  4. 前記信号帯域制限手段は、前記電力増幅器で増幅する全信号帯域において前記入力信号に応じて選択的に設定可能な複数の通過帯域を有し、
    前記制御手段は、前記信号帯域制限手段で帯域制限された基準信号及び比較信号の信号レベルが所定値以下の場合に、前記信号帯域制限手段の通過帯域を他の通過帯域に切り替えることを特徴とする請求項3に記載の電力増幅器用歪補償装置。
  5. 広帯域信号を増幅する電力増幅器の歪補償を行う電力増幅器用歪補償装置であって、
    前記電力増幅器における入力信号と出力信号とを比較して歪成分の補償量を推定し、前記電力増幅器の歪補償を行うアダプティブプリデストーション方式の歪補償手段を備え、
    前記歪補償手段は、前記入力信号及び前記出力信号の信号帯域を、前記電力増幅器において増幅する信号帯域の一部として歪補償を行うことを特徴とする電力増幅器用歪補償装置。
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