JP2004123945A - エステル変性でんぷん系樹脂発泡シート - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のエステル変性でんぷん系樹脂発泡シートは、エステル変性でんぷん系樹脂を基材樹脂の主成分とし、見掛け密度が30〜600kg/m3、厚みが0.2〜10mm、連続気泡率が45%以下である。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生分解性を有するエステル変性でんぷん系樹脂成形用発泡シートに関し、より詳しくは、断熱性発泡シート、成形可能な農業資材用のシート等として使用されるエステル変性でんぷん系樹脂発泡シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から食品容器、緩衝材、包装材として発泡プラスチック製品、特に発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン等の汎用樹脂を用いた製品が好適な材料として利用されてきた。しかし、使用済みプラスチック製品の一部は廃棄焼却処分時に有毒ガスを排出することが知られている。又、発泡プラスチック製品は、発泡して体積が大きくなっているので巨大な埋立地を必要とし、更に生ゴミ等と異なり微生物により分解消滅することがないため埋立地不足が促進される等、近年大きな社会問題となっている。
【0003】
この問題の解決策として、使用後の廃棄処分時に環境を汚染することなく、しかも土壌中で生分解する素材への代替が進められている。中でも、澱粉は天然資源中で最も豊富に生産されていることから、最も有望な素材として期待されている。
【0004】
しかしながら、澱粉を主成分とした生分解性組成物は、従来技術により発泡シートに成形しても、連続気泡率の高いシートしか得られず、剛性が不十分なものであった。更には、熱成形時にドローダウン(シートが大きく垂れ下がる現象)が生じる等の成形加工性にも問題があった。尚、澱粉を主成分とした生分解性組成物から押出発泡体を製造する技術は、例えば、特許文献1に記載されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−316520号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来の問題に鑑みて、連続気泡率が低く、剛性に優れたエステル変性でんぷん系樹脂発泡シートを提供することを第一の目的とする。また、本発明は、連続気泡率が低く、剛性に優れ、更には熱成形性に優れたエステル変性でんぷん系樹脂発泡シートを提供することを第二の目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば、以下に示すエステル変性でんぷん系樹脂発泡シートが提供される。
[1]エステル変性でんぷん系樹脂を基材樹脂の主成分とし、見掛け密度が30〜600kg/m3、厚みが0.2〜10mm、連続気泡率が45%以下であることを特徴とするエステル変性でんぷん系樹脂発泡シート。
[2]23℃における引張弾性率が3MPa以上、厚みの25%圧縮時の圧縮応力が少なくとも0.8×105N/m2であり、気泡形状が下記(1)〜(3)式を満足することを特徴とする請求項1に記載のエステル変性でんぷん系樹脂成形用発泡シート。
【数4】
0.40<A/B<0.95 (1)
【数5】
0.40<A/C<0.95 (2)
【数6】
0.10≦A<0.50 (3)
(ただし、式中A、B、Cのそれぞれは、発泡シートの厚み方向、押出方向(MD方向)、幅方向(TD方向)における平均気泡径であり、その単位はmmである。)
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のエステル変性でんぷん系樹脂発泡シート(以下、単に発泡シートともいう。)の基材樹脂は、エステル変性でんぷん系樹脂を主成分とする。
尚、本明細書において、エステル変性でんぷん系樹脂を主成分とするとは、エステル変性でんぷん系樹脂が、発泡シートを構成する基材樹脂中に40重量%以上含有されていることをいうが、50重量%以上含有されていることが好ましく、55〜90重量%含有されていることがより好ましい。尚、基材樹脂がエステル変性でんぷん系樹脂と、エステル変性でんぷん系樹脂以外の他の合成樹脂からなる場合には、当該他の合成樹脂としては、後述するエステル変性でんぷん系樹脂以外の生分解性ポリマーが好ましく、特にその中でも生分解性の熱可塑性ポリエステルが好ましい。
【0009】
本発明の発泡シートの基材樹脂を構成するエステル変性でんぷん系樹脂とは、澱粉の反応性水酸基が、有機酸や無機酸やグラフト置換体によりエステル置換されている澱粉置換体であって、熱可塑性を有するものをいう。ここで、熱可塑性とは、加熱すると軟化して流動し、冷却すると再び硬くなる性質をいうが、後述する生分解性ポリマーを添加して加熱することにより、軟化して流動し、冷却すると再び硬くなる性質のものをも包含する。
【0010】
本発明においては、上記エステル変性でんぷん系樹脂の中でも、熱可塑性を有する生分解性ポリマーを製造しやすいことから、有機酸のエステル澱粉が好ましい。又、澱粉としては、エステル化可能な炭素数(アシル基の)範囲2〜22であれば、発泡シートの要求特性に応じて適宜選択できる。
なお、一般的に該炭素数が大きい程、融点が低下して、柔軟性、伸張性、耐水性が優れたものとなり、逆に、炭素数が小さい程、剛性、硬度が優れたものとなる傾向がある。炭素数が大きい程、澱粉の結晶性が阻害されるためと考えられる。
【0011】
本発明のエステル変性でんぷん系樹脂(以下、エステル澱粉ともいう。)においては、置換度:DSが、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.5〜2.95であり、さらに好ましくは1.8〜2.5である。該DSが小さすぎると、樹脂の熱可塑性が低下する虞がある。DSが高すぎると、樹脂の可塑化粘度が低下し、均一に発泡させることが困難になる虞がある。
【0012】
なお、該置換度:DS(Degree of Substiution)は、誘導体のエステル化度を表し、グルコース残基1個当たりの置換水酸基の平均値である。すべて置換されるとDS=3であり、グルコース100個に1個の置換であればDS0.01であり、DS2以上は便宜上、置換度が大きいことを意味する。(二國二郎監「澱粉科学ハンドブック」(1977)朝倉書店、p497〜498参照)
【0013】
本発明において好ましく用いられるエステル澱粉としては、特許第2939586号公報に記載されたものが挙げられる。即ち、同一澱粉分子の反応性水酸基の水素が、炭素数2〜4のアシル基(以下「短鎖アシル基」という。)及び炭素数6〜18のアシル基(以下「長鎖アシル基」という。)で置換されてなり、長鎖アシル基及び短鎖アシル基の各置換度が調製されて可塑剤が添加されていなくても熱可塑化して成形加工可能なエステル澱粉である。
【0014】
上記エステル澱粉の原料澱粉としては、▲1▼コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、コムギ澱粉、米澱粉、サゴ澱粉等の地上澱粉、▲2▼馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等の地下澱粉、及び▲3▼それらの澱粉の低度エステル化・エーテル化、架橋、酸化、酸処理、デキストリン化、α化(pregelatinization)された化工澱粉を使用できる。
【0015】
上記エステル澱粉の対応有機酸としては、下記のようなものを挙げることができる。なお、酸名の後の括弧内は炭素数である。
【0016】
▲1▼酢酸(C2)、プロピオン酸(C3)、酪酸(C4)、吉草酸(C5)、カプロン酸(C6)、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、アラキン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、さらには、一般式R1(R2)(R3)CCOOH(ただし、R1、R2、R3はすべてアルキル基でこれらの合計炭素数は4〜16である。)で示される分岐飽和脂肪族カルボン酸等の飽和カルボン酸
▲2▼アクリル酸(C3)、クロトン酸(C4)、イソクロトン酸(C4)、オレイン酸(C18)、等の不飽和カルボン酸
▲3▼安息香酸(C7)、フタル酸(C8)、テレフタル酸(C8)等の芳香族モノ・ジカルボン酸
▲4▼マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、マレイン酸(C4)、フマル酸(C4)等の飽和・不飽和ジカルボン酸
▲5▼乳酸(C3)、リンゴ酸(C4)、酒石酸(C4)等のヒドロキシカルボン酸、
▲6▼ε−カプロラクトン(C6)、γ−カプリロラクトン(C8)、γ−ラウロラクトン(C12)、γ−ステアロラクトン(C18)さらには、一般式(CH2)nCOO(ただしn=5〜17)で示される大環状ラクトン等の環状エステル(カプロラクトン類)
▲7▼下記化学式(I)で示されるアルキレンケテンダイマー(ただし、R:炭素数5〜17のアルキル基、アルキレン基、アリール基及びそれらの誘導体基)
【0017】
【化1】
【0018】
本発明で用いる発泡シートを構成する基材樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、0.05〜50g/10分であることが好ましく、0.1〜20g/10分であることがより好ましい。MFRが0.05g/10分未満の場合は、発泡シート製造時にダイ内で発熱しやすく、得られる発泡シートの連続気泡率が増加しやすい。MFRが50g/10分を超える場合は、発泡シート製造時に気泡が破泡しやすく、得られる発泡シートの連続気泡率が増加しやすい。
【0019】
本明細書における発泡シートを構成する基材樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、JIS K 7210:1999でいうメルトマスフローレートを意味する。尚、MFRの測定は、当該JISの附属書A表1の条件Dにより測定するものとする。
【0020】
本発明で用いる発泡シートを構成する基材樹脂のメルトテンション(MT)は、190℃の条件下において、10gf以上であることが好ましく、15gf以上であることがより好ましく、20gf以上であることが更に好ましい。該メルトテンションが小さすぎる場合は、独立気泡率の高い発泡シートが得られにくかったり、後述する気泡径状の比であるA/BとA/Cの値を後述の範囲にするために発泡途上のシートを押出方向及び幅方向に拡張しようとするとシートが裂けやすくなる。
尚、該メルトテンションの上限値は発泡シート製造時における押出し安定性の観点から、概ね80gfであるが、70gfが好ましい。
【0021】
本明細書におけるメルトテンションは、株式会社東洋精機製作所製のメルトテンションテスターII型を用い、次のように測定するものとする。
内径2.095mm、長さ8mmのオリフィスをメルトテンションテスターのシリンダー内に取り付け、該オリフィス及びシリンダーを予め190℃に保持しておき、その中に基材樹脂を4g入れ、5分間置いてから、ピストンの押出速度を10mm/分として190℃の溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛けた後、5rpm/秒(紐状物の捲取り加速度:1.3×10−2m秒2)の割合で捲取り速度を徐々に増加させていきながら直径50mmの捲取りローラーで捲取る。
【0022】
メルトテンションを求めるには、まず、張力検出用プーリーに掛けた紐状物が切れるまで捲取り速度を増加させ、紐状物が切れた時の捲取り速度:R(rpm)を求める。次いで、R×0.7(rpm)の一定の捲取り速度において紐状物の捲取りを行い、張力検出用プーリーと連結する検出器により検出される紐状物のメルトテンションを経時的に測定し、縦軸にメルトテンションを、横軸に時間をとったグラフに示すと、図4のような振幅をもったグラフが得られる。
【0023】
本発明におけるメルトテンションとしては、図4において振幅の安定した部分の振幅の中央値(X)を採用する。但し、捲取り速度が500rpmに達しても紐状物が切れない場合には、捲取り速度を500rpmとして紐状物を巻き取って求めたグラフより紐状物のメルトテンション(MT)を求める。尚、メルトテンションの経時的測定の際に、まれに特異な振幅値が検出されることがあるが、このような特異な振幅値は無視するものとする。
【0024】
本発明においては、基材樹脂の一部としてエステル澱粉置換体以外の生分解性ポリマーを混合することができる。該生分解性ポリマーは、澱粉置換体と混和可能で可塑化作用を有するものが好ましい。
【0025】
上記エステル澱粉置換体以外の生分解性ポリマーとしては、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール、エステル化又はエーテル化セルロース、ポリエステルアミド、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアミノ酸、蛋白(グルテン、ツェイン等)、キチン、キトサン類等の生分解性を有する樹脂の中から単独、又は複数選択して使用することができる。
【0026】
本発明においては、特に、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンカルボキシレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチルバリレートから一種、又は二種以上選択される熱可塑性ポリエステルを基材樹脂の一部として混合することが好ましい。これらのポリエステルはエステル澱粉との混和性に優れ、可塑化作用を発揮し易い上、耐熱性、柔軟性等、発泡体を形成する材料としての総合的物性において優れている。
【0027】
本発明においては、基材樹脂中における上記エステル澱粉置換体以外の生分解性ポリマーの含有率は、5〜50wt%であることが好ましく、10〜45wt%であることがより好ましい。
【0028】
本発明の発泡シートを構成する基材樹脂中には、着色料、無機充填剤、熱安定剤、消臭剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤等を、本発明の目的を阻害しない範囲内において、適宜添加することができる。
【0029】
本発明の発泡シートの製造に用いる発泡剤としては、基材樹脂を可塑化することが容易であるという点で、例えばプロパン、イソブタン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン等の有機系物理発泡剤が好ましく用いられる。但し、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等の有機発泡剤や、重炭酸ソーダ、重炭酸アンモニア等の無機発泡剤や、窒素、二酸化炭素等の無機系物理発泡剤も適宜用いることができる。又、気泡調節剤としてタルク、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等を添加することが好ましい。
【0030】
本発明の発泡シートの見掛け密度は30〜600kg/m3である。該見掛け密度が30kg/m3未満であると保形性に乏しく曲がり易いため十分な剛性が得られない。600kg/m3を超えると剛性が大きくなりすぎて緩衝性が損なわれると共に、断熱性に劣るものとなってしまう。かかる観点から、本発明の発泡シートの見掛け密度は、50〜550kg/m3であることが好ましく、67〜500kg/m3であることがより好ましい。
【0031】
本明細書においては、発泡シートの見掛け密度は発泡シートの単位面積あたりの重量を、発泡シートの厚みにより除した値を単位換算することにより求めるものとする。具体的には、発泡シートの幅方向の中央部から、厚み方向の表裏面のそれぞれが、縦30cm、横30cmサイズとなるようにカットサンプルを切り出し(厚みはそのままとする)、このカットサンプルの重量(0.001gまで測定される)と、平均厚み(無作為に測定した10点の厚みの相加平均値であり、各厚みは0.01cmまで測定される)を測定すると、900cm2あたりの重量となり、これを900で除すことにより1cm2あたりの重量(発泡シートの単位面積あたりの重量)が求まる。この発泡シートの単位面積あたりの重量を上記カットサンプルの平均厚みで除した後、単位換算すれば発泡シートの見掛け密度が求まる。
【0032】
本発明の発泡シートの厚みは0.2〜10mmである。該厚みが0.2mmに満たないと、断熱性および緩衝性が不十分となる。一方、10mmを超えると二次加工性に劣る。また、10mmを超えると熱成形に際して加熱ムラが発生し、金型に則した形状の成形品が得られ難くなる。かかる観点から、本発明の発泡シートの厚みは0.3〜7.0mmが好ましく、0.5〜5.0mmがより好ましい。
【0033】
本発明の発泡シートの連続気泡率は45%以下である。該連続気泡率が45%を超える場合、熱成形用の発泡シートとしては剛性に乏しく、成形品に求められる剛性、強度を有するものを得ることが困難である。また、断熱性、成形性が悪くなる虞がある。かかる観点から、本発明の発泡シートの連続気泡率は40%以下が好ましく、0〜35%がより好ましい。
【0034】
本明細書において、連続気泡率の測定は、ASTM D2856−70(手順C)に準拠し次の様に行うものとする。
エアピクノメーターを使用して測定試料の真の体積Vx(cm3)を求め、測定試料の外寸から見掛けの体積Va(cm3)を求め、下記(4)式より連続気泡率(%)を計算する。尚、真の体積Vxとは、測定試料中の樹脂の体積と独立気泡部分の体積との和である。
【0035】
【数7】
連続気泡率(%)={(Va−Vx)/(Va−W/ρ)}×100 (4)
但し、(1)式において、Wは測定試料の重量(g)、ρは発泡シートを構成する基材樹脂の密度(g/cm3)である。
【0036】
尚、測定試料の寸法は、縦25mm、横25mm、厚み約40mmである。本発明においては、一枚のサンプルでは上記測定試料の寸法に適合した厚み寸法のものが得られないので、複数枚のサンプルを重ね合せた際に最も40mmに近づく(ただし40mmは超えない)複数枚のサンプルを同時に重ねて使用する。
【0037】
本発明の発泡シートにおいては、23℃における引張弾性率が3MPa以上であることが好ましく、4MPa以上であることがより好ましく、5MPa以上であることが更に好ましい。該引張弾性率が3MPa未満の場合は、発泡シートの強度が不十分なものとなる虞がある。
尚、該引張弾性率の上限値は、本発明の発泡シートの密度と厚みを勘案すると、せいぜい50gfである。
【0038】
本明細書における引張弾性率は、次のように測定するものとする。
まず、JIS K 6767−1976の5.2.1項A法記載の試験片(全長120mm、平行部分の幅10mm、標線間距離40mm)を用い、つかみ具間距離80mm、引張速度500mm/minの条件で引張試験を行う。次に、得られた荷重−ひずみ曲線において、初めの直線部分を用いて下記(5)式より引張弾性率を算出する。
【0039】
【数8】
引張弾性率(MPa)=Δσ/Δε (5)
但し、(5)式において、Δσは、得られた荷重−ひずみ曲線の初めの直線部分の任意の点またはその延長線上の任意の点に対応する荷重:K(kgf)を、試験片の平行部分における断面積(試験片の平行部分の幅である1.0cmと試験片の平行部分の平均厚み(cm)との積)で除した値をMPa単位に換算したものである。ここで試験片の平行部分の平均厚みとは、無作為に選んだ5箇所の厚みの相加平均値をいう。
また、Δεは、試験速度である500mm/minを、荷重−ひずみ曲線を記録した際のチャートの移動速度(mm/min)で除した値と、チャートの長さ(cm)との積を、試験片の標線間距離である4.0cmで除した値である。尚、ここでいうチャートの長さ(cm)とは、上記チャートの横軸のベースライン(荷重0)上における上記荷重:Kに対応する点と、該横軸のベースラインと上記荷重−ひずみ曲線の初めの直線との交点とを結ぶ直線の長さ(cm)を意味する。
【0040】
本発明の発泡シートにおいては、厚みの25%圧縮時の圧縮応力が少なくとも0.8×105N/m2であることが好ましく、1.0×105N/m2以上であることがより好ましく、1.2×105N/m2以上であることが更に好ましい。該圧縮応力が0.8×105N/m2未満の場合は、加熱成形によって得られる成形品の剛性が不足し、容器として内容物を十分に保持することが困難となる虞がある。
尚、該圧縮応力の上限値は、本発明の発泡シートの密度と厚みを勘案すると、せいぜい3.8N/m2である。
【0041】
本明細書において、厚みの25%圧縮時の圧縮応力は、次のように求めるものとする。
JIS Z 0234−1976のA法に従って、縦50mm×横50mmの試験片を高さ約25mmに(最も25mmに近づく枚数に)重ね合わせた試料を用いて、圧縮速度10mm/minで発泡シートの元の厚さに対して50%まで圧縮試験を行う。こうして得られた測定結果のチャートより、25%圧縮時の応力を求める。
【0042】
本発明の発泡シートにおいては、気泡形状が下記(1)〜(3)式を満足することが好ましい。
【数9】
0.40<A/B<0.95 (1)
【数10】
0.40<A/C<0.95 (2)
【数11】
0.10≦A<0.50 (3)
【0043】
ただし、(1)乃至(3)式中、A、B、Cのそれぞれは、発泡シートの厚み方向、押出方向(MD方向)、幅方向(TD方向)における平均気泡径であり、その単位はmmである。
【0044】
上記A/B、A/Cの少なくとも一方が0.40以下であると、発泡シートの熱成形性、特に深絞り成形性が悪くなり、又シートの剛性が不十分となってしまう。一方、A/Bが0.95以上、及び/又はA/Cが0.95以上の場合は、気泡径を小さく調整することが難しく外観が不良となってしまう。また、Aが0.10未満となる場合は独立気泡率の維持が困難となり、加熱成形性、機械的物性が悪化する。また発泡シートの平滑性においても不十分となる。Aが0.50以上の場合は、外観が不良となる虞がある。
【0045】
本明細書において、発泡シートの厚み方向の平均気泡径(A:mm)、押出方向(MD方向)の平均気泡径(B:mm)、幅方向(TD方向)の平均気泡径(C:mm)は、発泡シートの押出方向の垂直断面及び、幅方向の垂直断面を顕微鏡で拡大撮影し、得られた顕微鏡撮影写真に基づいて測定するものとし、測定によって得られた平均気泡径(A)、平均気泡径(B)、平均気泡径(C)から比A/B、比A/Cを求めるものとする。
【0046】
具体的には、厚み方向及び押出方向の平均気泡径は、発泡シートの押出方向に沿った垂直断面を顕微鏡等で拡大撮影し、得られた顕微鏡撮影写真において厚み方向の平均気泡径A{(a1、a2、a3、・・・・an)/n}、押出方向の平均気泡径B{(b1、b2、b3、・・・・bn)/n}を求め、得られた平均気泡径Aと平均気泡径Bから、比A/Bを算出する。但し、平均気泡径A、Bは任意の50以上の気泡についての平均値(n≧50)である。又、各気泡のa1、a2、a3、・・・・an、b1、b2、b3、・・・・bnの値は、各気泡の接線の最大接線間隔を採用するものとする。
幅方向の平均気泡径については、発泡シートの幅方向に沿った垂直断面を顕微鏡等で拡大撮影し、得られた顕微鏡撮影写真において、A、Bを求める操作と同様の操作により、幅方向の平均気泡径C{(c1、c2、c3、・・・・cn)/n}を求め、得られた平均気泡径Cと、上記平均気泡径Aから、比A/Cを算出する。
【0047】
本発明の発泡シートは、前記基材樹脂と前記気泡調製剤と必要に応じて添加される各種の添加剤を押出機のホッパーより押出機内に供給し、押出機内において基材樹脂を加熱溶融混練してから、前記発泡剤を圧入して更に混練して発泡性溶融混合物とした後、この発泡性溶融混合物を押出機先端部に取り付けられた環状ダイを通して低圧域に押出発泡させて、筒状発泡体を形成し、該筒状発泡体の内側を円柱状の冷却装置の外周に沿わせて引取りながら、筒状発泡体を切り開いてシート状とすることにより得られる。
【0048】
本発明の発泡シートの製造においては、保圧特性に優れたリップ部構造を有する環状ダイを押出機先端に取り付けて、発泡性溶融混合物の圧力がダイ先端のリップ部で急激に低下しないように押出発泡させることが好ましい。
【0049】
上記保圧特性に優れたリップ部の構造について、その一例を図1〜3に基づいて説明する。
図1は、ダイを押出機先端に取り付けて発泡シートを押出発泡法により製造する際の、ダイを含む主要部概略を示す断面図である。図2は、本発明において好ましく用いられる環状ダイを用いた場合における、図1のA部の部分拡大断面図である。図3は、一般の環状ダイを用いた場合における、図1のA部の部分拡大断面図である。図1〜3において、1は外側リップ、2は内側リップ、3は発泡性溶融混合物の流路、4は発泡性溶融混合物の流路3の出口、5は円柱状の冷却装置、6は筒状発泡体をそれぞれ示す。又、図2において、7は環状ダイの流路3の先端に設けられた保圧部を、8は保圧部の入り口を、aは保圧部の長さそれぞれ示す。
【0050】
図3に示す一般の環状ダイのリップ部においては、流路3の先端が、出口4に向かって約33度の角度(θ′)でほぼ直線的に急激に狭まるように形成されている。
これに対し、図2に示す、保圧特性に優れた環状ダイにおいては、流路3の先端部に保圧部7が設けられ、保圧部の入り口8に向かう部分は上記33度に近い角度で急激に狭まるが、保圧部7においては、その長さ(a)にわたって、内側リップ2の内壁と外側リップ1の内壁とのなす角度(θ)が0〜15度となるように形成されている。ここにおいて上記長さ(a)は1〜5mmであることが好ましい。
【0051】
このように、上記保圧部7の長さ(a)を1〜5mmとし、上記角度(θ)を0〜15度にすることによって、出口4の直前における発泡性溶融混合物の発熱が抑えられると共に、出口4の間隙を多少広げてもダイ内の発泡性溶融混合物の圧力保持が容易となりダイ内部での発泡が起きないので、ダイ先端で急圧縮する場合に発生する気泡の微細化による連続気泡化が防止される。また、押出された発泡性溶融樹脂混合物のバラス効果が抑えられ、コルゲートの発生が抑制される。この結果、得られる発泡シートは、見掛け密度を30〜600kg/m3、厚みを0.2〜10mmとしても、連続気泡率を45%以下にすることができる。尚、気泡の大きさは気泡調節剤の添加量で調節され、上記気泡形状比A/Bと比A/Cは、ブローアップ比と引取速度により調節される。
【0052】
本発明の発泡シートの製造において、発泡剤の使用量は、発泡剤の種類、所望する発泡倍率等によっても異なるが、前記ノルマルブタン、イソブタン等の有機系物理発泡剤の場合で、樹脂100重量部当たり0.1〜15重量部である。
【0053】
本発明の発泡シートは、生分解性を有し、独立気泡率が高いので剛性に優れ、ドローダウンが小さい等の加熱成形性にも優れるので、コップの胴部として、紙コップの胴部に巻いて使用する断熱材として、ご飯や惣菜を収容する容器を熱成形するための素材として、又は桃、梨、りんご或いはトマトの如き果菜類を収容する容器を熱成形するための素材等として好適なものである。
【0054】
【実施例】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
実施例1〜4
内径65mmの第一押出機と内径90mmの第二押出機内が接続されたタンデム形式の押出機を用いて、次のように発泡シートを製造した。
後述するエステル変性でんぷん系樹脂(MFR:1.1g/10分、MT:33gf)100重量部と、表1に示す量の気泡調節剤(タルク)とを第一押出機に供給し、加熱溶融混練した後、発泡剤として表1に示す量の発泡剤(ブタン)を第一押出機内に圧入して混練した。次いで第一押出機と接続された第二押出機内で上記発泡性溶融混合物を冷却し、表1に示す樹脂温度に調整してから、図2に示す環状ダイ(内側リップの上記発泡性溶融混合物の出口における直径は60mm、外側リップと内側リップとの上記発泡性溶融混合物の出口における間隙は0.7mm)を用いて、表1に示すダイ圧に保持しながら、表1に示す吐出量で押出して筒状に発泡させた。次いでこの筒状の発泡体を円柱状の冷却装置(直径は200mm)の円周面に沿わせて引き取り、押出方向に切り開いて発泡シートを得た。
【0056】
尚、上記エステル変性でんぷん系樹脂は、下記エステル澱粉Aと、ポリブチレンサクシネートアジペート(融点(DSC融解ピーク温度):91℃、MFR:8g/10分)とを7対3の重量比で溶融混合したものである。
【0057】
上記エステル澱粉Aとは、上記DSが2.10のラウリン酸・酢酸澱粉であり、次のようにして製造されたものである。
ハイアミロースコーンスターチ50g(固形分)をジメチルスルホキシド(DMSO)200gに懸濁させ、攪拌しながら80℃まで昇温し、20分間保持して澱粉を糊化させた。この溶液に重炭酸ソーダ2.5gを添加し、80℃に維持しながらラウリン酸ビニル17.4gを加え90〜95℃で60分反応させた。途中、30分経過後から150mmHgに減圧した。60分後、重炭酸ソーダ1.5gを加え、酢酸ビニル74.3gを添加し、還流させながら90℃、120分反応させた。さらにその後200mmHgに減圧し、40分間反応を継続した。50%硫酸7.9gをDMSO30gに溶解させて上記反応液に加え、中和を行った。硫酸添加後200mmHgとして、20分間保持した。この反応液を水道水中に流し込み高速で攪拌しながら粉砕洗浄し、澱粉エステルの沈殿物を得た。これを濾過、乾燥して得たものがエステル澱粉Aである。
【0058】
比較例1〜2
図3に示す、保圧部が設けれらていないタイプの(内側リップの上記発泡性溶融混合物の出口における直径は60mm、外側リップと内側リップとの上記発泡性溶融混合物の出口における間隙は0.7mm)を使用した以外は、実施例1〜4と同条件にて発泡シートを製造した。尚、発泡剤(ブタン)の注入量、気泡調節剤(タルク)の添加量、押出発泡時のダイ圧、樹脂温度、吐出量を表1に示す。
【0059】
実施例1〜4、及び比較例1〜2において得られた発泡シートの見掛け密度(kg/m3)、厚み(mm)、引張弾性率(MPa)、連続気泡率(%)、25%圧縮応力(N/m2)、気泡径A、気泡形状A/B、A/C等を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1中の成形性は、各例で得られた発泡シートのそれぞれに対し、(株)浅野研究所製FKS型テスト用圧空真空成形機を使用して熱成形テストを行って評価した。具体的には、該成形機を使用し、発泡シートの両面をヒーターにより、シート表面温度が90℃になるように加熱した後、金型にて開口部直径134mm、底部直径106mm、深さ24mmの円形収納部を有するトレーを成形する際の加熱炉内での発泡シートの挙動及び得られた成形品について以下の評価を行った。
○:加熱炉内での発泡シートのドローダウン(垂れ下がり)がなく、成形品の厚みが均一である。
△:加熱炉内での発泡シートのドローダウンが多少見られるが、成形品の厚みが均一である。
×:加熱炉内でのドローダウンが大きく、成形品に厚みむらが発生する。
【0062】
表1中の成形品剛性はリップ強度により評価した。該リップ強度の測定は、成形性の試験で得られた各容器を使用し、容器口縁(リップ)部の外周部の任意の点と、この任意の点と正反対に位置する容器口縁(リップ)部の外周部の点とが後述する圧縮試験の押圧開始点となるようにし、圧縮試験機を使用して、押圧部が平で平行な部材間(ロードセルと支持台との間)で10mm/分の圧縮速度にて圧縮していき、10mm圧縮したときの荷重をリップ強度とし、リップ強度が40g以上を合格(評価○)、40g未満のものを不合格(評価×)とした。
【0063】
実施例1〜4においては、図2に示した、流路の先端に保圧部を有する環状ダイを使用した結果、気泡が小さくなりすぎず、連続気泡率が小さく、引張弾性率の高い発泡シートを製造することができた。そしてこれら発泡シートは成形性に優れ、得られた成形品は断熱性と剛性に優れたものとなった。
一方、比較例1で得られた発泡シートは、見かけ密度が650kg/m3と大きいため、断熱性が不充分である。また、保圧部が設けれらていないタイプの環状ダイ(図3に示したダイ)を使用した結果、低発泡でありながら、連続気泡率がやや大きめとなった。その結果、成形性と成形品剛性がやや低下したものとなった。
【0064】
また、比較例2は保圧部が設けれらていないタイプの環状ダイ(図3に示したダイ)を使用して実施例4と同じ条件で発泡シートを製造したものである。比較例2で得られた発泡シートは、保圧部が設けれらていないタイプの環状ダイが使用されたため、気泡径が小さくなりすぎ、連続気泡率が極端に大きくなってしまった。その結果、成形性が悪化すると共に成形品の剛性が悪化した。
【0065】
【発明の効果】
本発明のエステル変性でんぷん系樹脂発泡シートは、エステル変性でんぷん系樹脂を基材樹脂の主成分とし、見掛け密度が30〜600kg/m3、厚みが0.2〜10mm、連続気泡率が45%以下なので、生分解性を有し、連続気泡率が低く、剛性に優れ、熱成形性も良好である。
【0066】
本発明のエステル変性でんぷん系樹脂発泡シートは、引張弾性率、25%圧縮時の圧縮応力、気泡形状が特定範囲内の場合、強度に優れ、加熱成形によって得られる成形品の剛性が優れ、加熱成形性、機械的物性、発泡シートの平滑性が優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ダイを押出機先端に取り付けて発泡シートを押出発泡法により製造する際の、ダイを含む主要部概略を示す断面図である。
【図2】本発明において好ましく用いられる環状ダイを用いた場合における、図1のA部の部分拡大断面図である。
【図3】図3は、一般の環状ダイを用いた場合における、図1のA部の部分拡大断面図である。
【図4】メルトテンション(MT)の測定におけるメルトテンションと時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 外側リップ
2 内側リップ
3 発泡性溶融混合物の流路
4 発泡性溶融混合物の流路の出口
5 円柱状の冷却装置
6 筒状発泡体
7 保圧部
8 保圧部の入り口
a 保圧部の長さ
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