JP2004115910A - 溶銑の精錬方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 安定した高効率脱燐精錬による低燐鋼の製造を可能とする方法を提供する。
【解決手段】 フラックス添加と酸素上吹きを行って溶銑を精錬する方法において、スラグフォーミング検知手段を用いて脱燐フラックスの溶融スラグ化状況を経時的に把握し、該フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、上吹きランスのノズルスロート部直径、またはランスのノズル数の1つ以上を調整することを特徴とする溶銑の精錬方法。
【選択図】 図1
【解決手段】 フラックス添加と酸素上吹きを行って溶銑を精錬する方法において、スラグフォーミング検知手段を用いて脱燐フラックスの溶融スラグ化状況を経時的に把握し、該フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、上吹きランスのノズルスロート部直径、またはランスのノズル数の1つ以上を調整することを特徴とする溶銑の精錬方法。
【選択図】 図1
Description
本発明は、主に転炉型容器を用いて溶銑を精錬する方法に関する。
製鋼トータルコストのミニマム化や低燐鋼の安定溶製に関して、従来溶銑の脱燐法として、(1)トーピードカー内の溶銑に脱燐用フラックスをインジェクションして予備脱燐を行う方法、(2)取鍋内の溶銑に脱燐用フラックスをインジェクションするかもしくは吹付けて、予備脱燐を行う方法、あるいは(3)2基の転炉を用いて、一方で脱燐を行い、他方で脱炭を行う方法(例えば、特許文献1)が用いられている。
しかしながら、トーピードカーや溶銑鍋等の溶銑搬送容器を用いた場合、容器容量が小さく強攪拌精錬を行うことが困難で、特に脱燐反応は平衡から遠く、目標の脱燐量を達成するためには必要以上のフラックスを使用しなければならず、かつ精錬に長時間を要すという欠点がある。また、搬送容器を用いる脱燐処理プロセスでは、年々増加するスクラップを溶解消費することができないという問題もある。上記の観点から、近年は、容器容量が大きく、強攪拌下での脱燐精錬が可能な、上吹き酸素を用いた転炉型容器による脱燐処理方法へ移行しつつある。
これらの脱燐方法においては、脱燐反応は簡単に記述すると主として次式で示される。
2[P]+5[O]+3CaO→3CaO・P2O5
ここで、[P]、[O]はスラグ・メタル界面に存在するPとOを示しており、PがOにより酸化された後、スラグ中のCaOで固定化されると言われている。したがって、スラグ中のCaO濃度が高いほど、またスラグ・メタル界面の酸素活量が高いほど、脱燐反応は効率よく進行する。
2[P]+5[O]+3CaO→3CaO・P2O5
ここで、[P]、[O]はスラグ・メタル界面に存在するPとOを示しており、PがOにより酸化された後、スラグ中のCaOで固定化されると言われている。したがって、スラグ中のCaO濃度が高いほど、またスラグ・メタル界面の酸素活量が高いほど、脱燐反応は効率よく進行する。
しかしながら、スラグ中CaO濃度を増加するために、多量の生石灰を脱燐用フラックスとして添加すると生成スラグ量が増大する。CaO濃度が高いスラグは粉状化しやすいため、路盤材等への有効利用が困難であり、スラグの多くは埋め立て処分等となる一種の産業廃棄物になる。少量の生石灰添加で、CaO濃度を低くすると有効利用しやすくなるとともに生成スラグ量も低減できる。ただし、その場合は、脱燐反応を進行させるためにスラグ・メタル界面の酸素活量を高める必要がある。
しかしながら、溶銑脱燐精錬の場合、スラグ・メタル界面では脱炭反応が同時に進行するため、バルクスラグの酸化鉄濃度と平衡する酸素活量よりスラグ・メタル界面の酸素活量はかなり低くなっており、脱燐速度や脱燐効率が不十分となる。上吹き酸素や鉄鉱石等の酸化鉄源の添加によりスラグ中酸化鉄濃度を高めることでスラグ・メタル界面の酸素活量を高め、脱燐精錬効率を向上することは可能であるが、その場合、スラグ中の酸化鉄濃度を過剰に高めるため、スロッピングによる操業不安定や鉄歩留まりの低下、生成スラグ量増大等を招く。
上記問題点を解決するため、本発明者らは先に、上吹き酸素をスラグにより遮断し、溶銑表面に接触しないように吹き付けることにより、スラグ中酸化鉄濃度を過剰に高めることなくスラグ・メタル界面の酸素活量を高め、脱燐効率を大幅に向上する方法を提案した(特許文献2)。
上記(特許文献2)においては、溶融スラグで上吹き酸素と溶鉄を遮断することが重要となるが、スラグが溶融化する前に上吹き酸素流量を低下したりランス高さを増加したりしても、スラグが溶鉄表面の全面を覆っていないために、溶鉄表面の全面的な遮断は達成されにくい。また、スラグが溶融化する前の場合、スラグ内の物質移動が遅く、脱燐の進行も遅くなり易い。さらに、スラグが溶融化する時点は脱燐精錬中の温度やスラグの組成により異なり、必ずしも一定しない。そのため、スラグによる上吹き酸素の遮断状況やスラグ内の物質移動の状況が変化し、脱燐効率が低下する可能性が生じていた。
本発明は、安定した高効率脱燐精錬を可能とする方法を提供することを目的とする。
かかる課題を解決するため、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1) フラックス添加と酸素上吹きを行って溶銑を精錬する方法において、スラグフォーミング検知手段を用いて脱燐フラックスの溶融スラグ化状況を経時的に把握し、該フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、上吹きランスのノズルスロート部直径、またはランスのノズル数の1つ以上を調整することを特徴とする溶銑の精錬方法。
(2) 精錬開始時点以降はまず上吹き酸素を直接溶銑に接触させ、その後溶銑中Si濃度が0.1質量%未満でかつ前記フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように調整することを特徴とする(1)に記載の溶銑の精錬方法。
(3) フラックス添加と酸素上吹きを行って溶銑を精錬する方法において、スラグフォーミング検知手段を用いて脱燐フラックスの溶融スラグ化状況を経時的に把握し、該フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、下記(1)式で計算されるLSと下記(2)式で計算されるLSoがLS<LSoを満たすように、ノズル1本当たりの上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、または上吹きランスのノズルスロート部直径の1つ以上を調整することを特徴とする溶銑の精錬方法。
LS=Lhexp(−0.78h/Lh) ・・・ (1)
但し、Lh=63×(ρS/ρM)-1/3×(Fo2/d)2/3
LS :酸素ジェットによるスラグ凹み深さ(mm)
h :上吹きランス高さ(ランス先端から酸素ジェットが当たっていない部分の
スラグ上面までの距離(mm))
Lh :h=0のときのスラグ凹み深さ(mm)
ρS :スラグの嵩密度(=約1500kg/m3)
ρM :溶銑の密度(=6900kg/m3)
Fo2:ノズル1本当たりの上吹き酸素流量(Nm3/h)
d :上吹きランスのノズルスロート部直径(mm)
LSo=WS/ρS /(πD2/4)×1000 ・・・ (2)
但し、WS=WCaO/(%CaO)f×100
LSo :酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚み(mm)
WS :スラグ質量(kg)
D :スラグ表面における精錬容器の内直径(m)
WCaO :添加フラックス中の総CaO質量(kg)
(%CaO)f:精錬後のスラグ中CaO濃度(質量%)
(4) 精錬開始時点以降はまず上吹き酸素を直接溶銑に接触させ、その後溶銑中Si濃度が0.1質量%未満でかつ前記フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように調整することを特徴とする(3)に記載の溶銑の精錬方法。
(5) 上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにする際に、溶銑1t当りの上吹き酸素流量F(Nm3/min/t)と、ランスの先端から溶銑上面までの距離Hと上吹きランスのノズルの平均出口直径deとの比H/deが、下記(3)式を満たすように、溶銑1t当たりの上吹き酸素流量、ランス先端から溶銑上面までの距離、上吹きランスノズルの平均出口直径の1つ以上を調節することを特徴とする請求項(1)〜(4)のいずれかに記載の溶銑の精錬方法。
F×134.1×(H/de)-1.63>0.3 ・・・ (3)
F:溶銑1t当たりの上吹き酸素流量(Nm3/min/t)
H:ランス先端から溶銑上面までの距離(mm)
de:上吹きランスのノズルの平均出口直径(mm)
(1) フラックス添加と酸素上吹きを行って溶銑を精錬する方法において、スラグフォーミング検知手段を用いて脱燐フラックスの溶融スラグ化状況を経時的に把握し、該フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、上吹きランスのノズルスロート部直径、またはランスのノズル数の1つ以上を調整することを特徴とする溶銑の精錬方法。
(2) 精錬開始時点以降はまず上吹き酸素を直接溶銑に接触させ、その後溶銑中Si濃度が0.1質量%未満でかつ前記フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように調整することを特徴とする(1)に記載の溶銑の精錬方法。
(3) フラックス添加と酸素上吹きを行って溶銑を精錬する方法において、スラグフォーミング検知手段を用いて脱燐フラックスの溶融スラグ化状況を経時的に把握し、該フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、下記(1)式で計算されるLSと下記(2)式で計算されるLSoがLS<LSoを満たすように、ノズル1本当たりの上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、または上吹きランスのノズルスロート部直径の1つ以上を調整することを特徴とする溶銑の精錬方法。
LS=Lhexp(−0.78h/Lh) ・・・ (1)
但し、Lh=63×(ρS/ρM)-1/3×(Fo2/d)2/3
LS :酸素ジェットによるスラグ凹み深さ(mm)
h :上吹きランス高さ(ランス先端から酸素ジェットが当たっていない部分の
スラグ上面までの距離(mm))
Lh :h=0のときのスラグ凹み深さ(mm)
ρS :スラグの嵩密度(=約1500kg/m3)
ρM :溶銑の密度(=6900kg/m3)
Fo2:ノズル1本当たりの上吹き酸素流量(Nm3/h)
d :上吹きランスのノズルスロート部直径(mm)
LSo=WS/ρS /(πD2/4)×1000 ・・・ (2)
但し、WS=WCaO/(%CaO)f×100
LSo :酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚み(mm)
WS :スラグ質量(kg)
D :スラグ表面における精錬容器の内直径(m)
WCaO :添加フラックス中の総CaO質量(kg)
(%CaO)f:精錬後のスラグ中CaO濃度(質量%)
(4) 精錬開始時点以降はまず上吹き酸素を直接溶銑に接触させ、その後溶銑中Si濃度が0.1質量%未満でかつ前記フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように調整することを特徴とする(3)に記載の溶銑の精錬方法。
(5) 上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにする際に、溶銑1t当りの上吹き酸素流量F(Nm3/min/t)と、ランスの先端から溶銑上面までの距離Hと上吹きランスのノズルの平均出口直径deとの比H/deが、下記(3)式を満たすように、溶銑1t当たりの上吹き酸素流量、ランス先端から溶銑上面までの距離、上吹きランスノズルの平均出口直径の1つ以上を調節することを特徴とする請求項(1)〜(4)のいずれかに記載の溶銑の精錬方法。
F×134.1×(H/de)-1.63>0.3 ・・・ (3)
F:溶銑1t当たりの上吹き酸素流量(Nm3/min/t)
H:ランス先端から溶銑上面までの距離(mm)
de:上吹きランスのノズルの平均出口直径(mm)
本発明により、安定した高効率脱燐精錬による極低燐化処理が可能とすることができる。
溶銑脱燐精錬時のような約3質量%以上の酸化鉄を含む溶融スラグは、溶融スラグ中の鉄イオンの価数変化(Fe2+⇔Fe3+)すなわち正孔の移動により、極めて速く酸素を透過することが知られており、ランスから吹き込まれてスラグ上面に達した酸素は高速で溶融スラグ中を移行し、スラグ・メタル界面に達する。そのため、スラグ・メタル界面の酸素活量は高位に維持され、脱燐反応が速やかに進行する。
しかしながら、脱燐精錬初期(通常は精錬開始前もしくは開始直後)に添加した脱燐フラックスはまだ固体の状態で存在し、溶融スラグ化していない。溶銑温度の上昇や溶銑中鉄の酸化による酸化鉄の生成とともに、溶銑中のSiの酸化によるSiO2の生成により高融点のフラックスが低融点化して溶融スラグが形成される。なお、脱燐フラックスとしては、生石灰、石灰石、脱炭滓、ドロマイト等の脱燐を促進するためのCaOを含む添加剤や、蛍石、アルミナ、造塊滓等のスラグの溶融を促進するための添加剤が用いられる。
溶融スラグが形成される前の段階では、上吹き酸素の流量等にかかわらず、スラグが溶銑表面を全面に覆わないため、上吹き酸素と溶銑が接触しないようにすることは達成されにくい。
そこで、本願発明では添加した脱燐フラックスが溶融スラグ化した状態で、さらに上吹き酸素の流量等を適切に調整することで、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにすることができ、安定した高効率脱燐精錬を実施できることを見出した。
また本発明では、スラグの溶融化の把握にスラグフォーミング検知手段を用いることができることを見出した。
スラグフォーミングとは、脱珪や脱燐精錬中にも同時に進行する溶銑中のCとスラグ中の酸化鉄との反応により生じるCO気泡によりスラグが泡立つ現象であり、過度に泡立つとスロッピングと呼ばれるスラグや地金が炉外に溢出して操業を著しく阻害するとともに鉄歩留りを悪化させる現象を生じるため、それを予知するための検知計を装備している転炉も多い。フォーミング検知手段としては、マイクロフォンにより炉内の音響レベルの変化から検知するもの、ランスの振動レベルの変化から検知するもの、電気的な導通回路の抵抗値の変化から検知するもの等種々提案されているが、いずれの種類の検知手段を用いても良い。
本発明者らは、マイクロフォンにより炉内の音響レベルの変化からスラグのフォーミングレベルを検知する手段としてスラグフォーミング検知計を装備した転炉を用いた種々の溶銑脱燐処理実験を実施した。この検知計では、検知計の音響レベルが低下するとスラグがフォーミングしてきたことを示す。
実験は6t規模の試験転炉を用いて行った。約4.5質量%のC、約0.1質量%のP、約0.4質量%のSiを含む初期温度約1300℃の溶銑約6tを転炉に装入後、脱燐フラックスであるCaO濃度95質量%の生石灰105kgを投入し、上吹きランスからの酸素の吹き付けにより12分間の脱燐精錬を行った。上吹きランスとしては、ノズル数4、ノズルスロート部直径28mm、ノズル出口直径30mmのものを使用し、上吹き酸素流量は1000Nm3/h、ランス先端から溶銑上面までの距離は0.5m一定とした。
図2に精錬中音響レベルの経時変化の一例を示すが、同一条件で行った全ての実験において、精錬開始から数分は音響レベルが高いが、ある時点から急速に音響レベルが低下する現象が認められた。この時点で、スラグを採取して観察するとスラグが完全に溶融化しているのが確認された。また、音響レベルが低下する以前にスラグを採取すると、スラグ内に投入した生石灰等脱燐フラックスの固相があるのが認められた。以上のことから、初期に添加した脱燐フラックスの溶融スラグ化状況は、フォーミング検知計の音響レベルが低下することで溶融スラグ化が起こっていることを容易に把握できることが判明した。また、初期に添加した脱燐フラックスの溶融スラグ化が達成された時点の判定は、フォーミング検知計の音響レベルの低下が急激になった時点であり、特に規定するものではなく、適宜実験等により決定すれば良いが、例えば10秒毎の音響レベルの平均値の低下速度が1dB/秒以上が目安として挙げられる。
この様に、スラグフォーミング検知手段を用いて、脱燐フラックスが溶融スラグ化された時点を確認できるため、この時点以降に上吹き酸素の流量等を調整して、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにすることで、スラグ・メタル界面の酸素活量を高位に維持し、脱燐反応を速やかに進行させることができる。
上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにするには、上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、上吹きランスのノズルスロート部直径、またはランスのノズル数の1つ以上を適宜調整して、実施することができる。
また、特許文献2にも記載の通り、溶銑中のSi濃度がまだ0.1質量%以上と高い精錬初期段階ではPよりもSiの方が優先的に酸化される割合が大きいため、上述のような界面酸素活量増加による脱燐反応効率向上効果は小さく、むしろ酸素を直接溶銑に接触させた方が速く脱珪が進行し、溶融スラグ化を促進させ易い。
また、脱燐フラックスが溶融スラグ化される前は、どのように上吹き酸素の流量等を調節してもスラグが溶銑表面を覆わないため、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにすることができず、やはり上述のような界面酸素活量増加による脱燐反応効率向上効果は小さい。
従って、精錬開始時点以降は、まず上吹き酸素が直接溶銑に接触させ、次に溶融スラグ化され、かつ溶銑中のSi濃度が0.1質量%未満になった時点以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにすることで、脱燐反応を速やかに進行させることができるため、より好ましい。
ここで、精錬開始時点とは、上吹きランスからの酸素上吹きを開始した時点とする。
溶融スラグ化は上記の通り、スラグフォーミング検知手段を用いて確認することができる。
また溶銑中のSi濃度は、処理前溶銑中のSi濃度と積算送酸量、および従来の脱Si酸素効率等より計算される溶銑中Si濃度により推定することができる。例えば、積算送酸量の実績値に対してSiの酸化に使用される化学量論的な必要酸素量の比率を脱Si酸素効率と定義し、この効率の従来平均値が50%であれば、吹錬途中のSi濃度は、それまでに供給した酸素量の50%がSiの酸化に消費されたとして処理前Si濃度から推定できる。
また、上記処理前溶銑中のSi濃度を直接測定する方法としては、溶銑のサンプルを採取した後、凝固したサンプル表面にX線を照射して発光スペクトルを測定する発光分光分析法等が挙げられる。
溶融スラグ化状況や溶銑中のSi濃度に応じて、上吹き酸素が直接溶銑に接触するようにしたり、あるいは上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにするには、上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、上吹きランスのノズルスロート部直径、またはランスのノズル数の1つ以上を適宜調整して、実施することができる。
上記の様に、初期に添加した脱燐フラックスの溶融スラグ化を経時的に把握し、溶融スラグ化したと判定された時点以降に、あるいはさらに溶銑中のSi濃度が0.1質量%未満になった時点以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、実施する好ましい方法を以下に示す。
具体的には、上吹きランス2のノズルスロート部直径とノズル数の適正な設計と、スラグ量に応じた操業中の上吹き酸素流量と上吹きランス高さ(ランス先端から酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ上面までの距離)の調整により、図1で示すように、上吹き酸素がスラグ7で遮断され、直接溶銑表面に接触しないように制御する。
上吹き酸素と溶銑が接触しないようにする条件としては、下記(1)式で計算される酸素ジェットによるスラグ凹み深さLSが下記(2)式で計算される酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚みLSo未満となる条件(LS<LSo)とする。
LS=Lhexp(−0.78h/Lh) ・・・ (1)
但し、Lh=63×(ρS/ρM)-1/3×(Fo2/d)2/3
LS :酸素ジェットによるスラグ凹み深さ(mm)
h :上吹きランス高さ(ランス先端から酸素ジェットが当たっていない部分の
スラグ上面までの距離(mm))
Lh :h=0のときのスラグ凹み深さ(mm)
ρS :スラグの嵩密度(=約1500kg/m3)
ρM :溶銑の密度(=6900kg/m3)
Fo2:ノズル1本当たりの上吹き酸素流量(Nm3/h)
d :上吹きランスのノズルスロート部直径(mm)
LSo=WS/ρS /(πD2/4)×1000 ・・・ (2)
但し、WS=WCaO/(%CaO)f×100
LSo :酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚み(mm)
WS :スラグ質量(kg)
D :スラグ表面における精錬容器の内直径(m)
WCaO :添加フラックス中の総CaO質量(kg)
(%CaO)f:精錬後のスラグ中CaO濃度(質量%)
LS=Lhexp(−0.78h/Lh) ・・・ (1)
但し、Lh=63×(ρS/ρM)-1/3×(Fo2/d)2/3
LS :酸素ジェットによるスラグ凹み深さ(mm)
h :上吹きランス高さ(ランス先端から酸素ジェットが当たっていない部分の
スラグ上面までの距離(mm))
Lh :h=0のときのスラグ凹み深さ(mm)
ρS :スラグの嵩密度(=約1500kg/m3)
ρM :溶銑の密度(=6900kg/m3)
Fo2:ノズル1本当たりの上吹き酸素流量(Nm3/h)
d :上吹きランスのノズルスロート部直径(mm)
LSo=WS/ρS /(πD2/4)×1000 ・・・ (2)
但し、WS=WCaO/(%CaO)f×100
LSo :酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚み(mm)
WS :スラグ質量(kg)
D :スラグ表面における精錬容器の内直径(m)
WCaO :添加フラックス中の総CaO質量(kg)
(%CaO)f:精錬後のスラグ中CaO濃度(質量%)
ここで、複数のノズルを有するランスを使用する際、ノズルのスロート部直径が全て等しい場合には、(1)式におけるノズル1本当りの上吹き酸素流量Fo2は上吹き酸素の総流量をノズル数で除して求める。
一方、ノズルのスロート部直径が異なるランスを使用する場合には、スロート部直径が大きいノズルから噴出される酸素噴流の方がスラグ凹み深さが大きいため、dには最大のノズルスロート部直径を用い、ノズル1本当りの上吹き酸素流量Fo2には上吹き酸素の総流量をノズルスロート部の断面積比に応じて比例配分した酸素流量を用いる。
なお、上吹きランス高さhは、溶銑質量と転炉型容器の内部形状から計算した溶銑の深さから求められるランス先端から溶銑上面までの距離Hから(2)式で計算されるLSoを差し引いた値になるように設定すればよい。
また、精錬開始時点以降に、上吹き酸素を直接溶銑に接触させる方法としては、具体的には次のように行う。脱燐フラックスが溶融スラグ化する前であれば、前述のように必然的に上吹き酸素は直接溶銑に接触するため格段の操作を行う必要はない。溶融スラグ化した以降であれば、(1)式で計算される酸素ジェットによるスラグ凹み深さLSが下記(2)式で計算される酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚みLSo以上となる条件(LS≧LSo)とする。ここで、実際には酸素ジェットによるスラグ凹み深さが酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚みより大きくなることはないが、LSは計算上算出される仮想上のスラグ凹み深さを示している。なお、脱燐フラックスが溶融スラグ化する前後で上吹き酸素流量や上吹きランス高さを変更する必要は特段ないため、精錬開始時点以降に上吹き酸素を直接溶銑に接触させる方法として、(1)式で計算される酸素ジェットによるスラグ凹み深さLSが下記(2)式で計算される酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚みLSo以上となる条件(LS≧LSo)であれば、一定の上吹き酸素流量、上吹きランス高さとすることが好ましい。
また、特開2003−113410号公報に記載の通り、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しない条件下では、有効酸素流量と呼ぶスラグ表面に到達する酸素流量が高い方が脱りん効率が高く、特にその値が0.3Nm3/min/t超となると急速に脱りん効率が向上する。
有効酸素流量は、(溶銑1t当りの上吹き酸素流量)×(スラグ表面での噴流中の酸素の体積分率)で求められる。発明者らはスラグ表面での噴流中の酸素の体積分率が(134.1×(H/de)-1.63)で表されることを実験的に求めている。
したがって、溶銑1t当たりの上吹き酸素流量、ランス先端から溶銑上面までの距離、上吹きランスのノズルの平均出口直径を調節して下記(3)式を満たすことで、さらに効率良く脱燐を行うことができるため、より望ましい。
F×134.1×(H/de)-1.63>0.3 ・・・ (3)
F:溶銑1t当たりの上吹き酸素流量(Nm3/min/t)
H:ランス先端から溶銑上面までの距離(mm)
de:上吹きランスのノズルの平均出口直径(mm)
F×134.1×(H/de)-1.63>0.3 ・・・ (3)
F:溶銑1t当たりの上吹き酸素流量(Nm3/min/t)
H:ランス先端から溶銑上面までの距離(mm)
de:上吹きランスのノズルの平均出口直径(mm)
ここで、複数のノズルを有する上吹きランスを使用する際、ノズルの出口直径が異なる場合には、(3)式のdeとして平均の出口直径を用いればよい。
なお、ランス先端から溶銑上面までの距離Hは、前述のように、溶銑質量と転炉型容器の内部形状から計算した溶銑の深さから求められる。
以上述べてきた方法の好ましい実施の形態を以下に示す。
まず、精錬炉に溶銑を装入し、上吹き送酸を開始すると同時に脱燐フラックスを添加する。ここで、精錬開始時点以降は、上吹きランスのノズルスロート部直径とノズル数に応じて、スラグ量に応じた操業中の上吹き酸素流量とランス高さを調整することにより、まず上吹き酸素が直接溶銑に接触させる。
精錬開始時点以降、スラグフォーミング検知計の変化を監視し、スラグが溶融化したかどうかを判断する。
また、これと並行して吹錬途中のSi濃度は、上記の方法により推定する。または、発光分光分析法等により直接想定する。
これら2つの条件(スラグが溶融化したこと、および溶銑中Si濃度が0.1質量%未満)が満足された段階で、(1)、(2)式から計算される上吹き酸素と溶銑との非接触条件を基に、適正に設計された上吹きランスのノズルスロート部直径とノズル数に応じて、スラグ量に応じた操業中の上吹き酸素流量とランス高さを調整することにより、図1で示すように、上吹き酸素がスラグで遮断され、直接溶銑表面に接触しないように制御する。
実際の管理方法の例としては、スラグフォーミング検知計でスラグの溶融状態を、また積算送酸量で推定Si濃度を管理し、スラグが溶融化したと判定された時点で推定Si濃度が0.1質量%未満である場合は直ちに上吹き酸素が溶銑表面に接触しないように制御する。また、その時点で推定Si濃度が0.1質量%以上である場合は、推定Si濃度が0.1質量%未満となる送酸量になった時点で上吹き酸素が溶銑表面に接触しないように制御する。
試験転炉を用いて、溶銑の脱燐実験を実施した。
まず、約4.5質量%のC、約0.1質量%のP、約0.4質量%のSiを含む初期温度約1300℃の溶銑約6tを用いて脱燐精錬を行った。図3に示すように、試験転炉の炉肩にはマイクロフォン4を設置し、炉内の音響レベルを測定するスラグフォーミング検知計を設置した。スラグフォーミング検知計の指示値はコンピュータ5に取り込み、オンライン監視と任意の時間平均化処理が可能とした。なお、試験転炉の炉内直径はスラグ7が存在する部分で約1.1mである。
溶銑6を転炉に装入し、脱燐フラックスであるCaO濃度95質量%の生石灰105kgを投入した後、上吹きランス2からの酸素3の吹き付けにより12分間の脱燐精錬を行った。上吹きランスとしては、予め設計、製作したノズル数4、ノズルスロート部直径28mm、ノズル出口直径30mmのものを使用し、上吹き酸素が直接溶銑に接触する条件、すなわち精錬開始時点での上吹き酸素流量は1000Nm3/h、ランス先端から溶銑上面までの距離は0.5mとした。
吹錬開始からスラグフォーミング検知計の音響レベルを監視し、10秒毎の音響レベルの平均値の低下速度が1dB/秒を超えた時点で、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しない条件、すなわち上吹き酸素流量を800Nm3/h、ランス高さを0.7mに変更した。この条件での(1)、(2)式から計算されるLS、LSoはそれぞれ134〜139mmと171〜189mmでありLS<LSoを満たしており、(3)式の左辺は1.76Nm3/min/tであり0.3超の条件である。但し、上記の10秒毎の音響レベルの平均値の低下速度が1dB/秒を超えた時点で、処理前溶銑中のSi濃度と積算送酸量および従来の脱Si酸素効率等より計算される溶銑中Si濃度が0.1質量%以上である場合は、Si濃度が0.1質量%未満となってから上吹き酸素流量とランス高さを変更した。
同様の脱燐精錬実験を50チャージ実施した。精錬終了後のスラグ中CaO濃度は39〜43質量%の間であった。
次に比較例として、同一の試験炉および上吹きランスを用いて、実施例と同じ溶銑条件、生石灰投入量、精錬時間で50チャージの脱燐精錬実験を実施した。比較例においては、スラグフォーミング検知計を使用せず、精錬開始時点での上吹き送酸量とランス高さは実施例と同一とした。比較例ではスラグフォーミング検知計を使用することに代えて、精錬開始から経過した時点を指標にして、一定時間経過時点で条件を変更した。すなわち、精錬開始から2.4分経過した時点で、常に上吹き酸素流量を800Nm3/h、ランス高さを0.7mに変更し、精錬終了まで一定とした。比較例ではスラグの溶融状態と溶銑中のSi濃度を管理していないため、上吹き酸素流量とランス高さを変更した時点で、上吹き酸素が直接溶銑表面に接触しない場合もあれば接触する場合も生じる。
実施例50チャージと比較例50チャージの溶銑脱燐精錬実験における精錬後の溶銑中P濃度の最小値、最大値、平均値を表1に示す。P濃度の最小値に殆ど差は認められないが、実施例では比較例に比べてP濃度の最大値と平均値が大きく低下しており、上吹き酸素の溶銑表面への接触状況のバラツキに起因する精錬のバラツキが大幅に改善されるのが確認された。
1 転炉型容器
2 上吹きランス
3 酸素ジェット
4 マイクロフォン
5 コンピュータ
6 溶銑
7 スラグ
8 排ガスダクト
2 上吹きランス
3 酸素ジェット
4 マイクロフォン
5 コンピュータ
6 溶銑
7 スラグ
8 排ガスダクト
Claims (5)
- フラックス添加と酸素上吹きを行って溶銑を精錬する方法において、スラグフォーミング検知手段を用いて脱燐フラックスの溶融スラグ化状況を経時的に把握し、該フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、上吹きランスのノズルスロート部直径、またはランスのノズル数の1つ以上を調整することを特徴とする溶銑の精錬方法。
- 精錬開始時点以降はまず上吹き酸素を直接溶銑に接触させ、その後溶銑中Si濃度が0.1質量%未満でかつ前記フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように調整することを特徴とする請求項1に記載の溶銑の精錬方法。
- フラックス添加と酸素上吹きを行って溶銑を精錬する方法において、スラグフォーミング検知手段を用いて脱燐フラックスの溶融スラグ化状況を経時的に把握し、該フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように、下記(1)式で計算されるLSと下記(2)式で計算されるLSoがLS<LSoを満たすように、ノズル1本当たりの上吹き酸素流量、上吹きランス高さ、または上吹きランスのノズルスロート部直径の1つ以上を調整することを特徴とする溶銑の精錬方法。
LS=Lhexp(−0.78h/Lh) ・・・ (1)
但し、Lh=63×(ρS/ρM)-1/3×(Fo2/d)2/3
LS :酸素ジェットによるスラグ凹み深さ(mm)
h :上吹きランス高さ(ランス先端から酸素ジェットが当たっていない部分の
スラグ上面までの距離(mm))
Lh :h=0のときのスラグ凹み深さ(mm)
ρS :スラグの嵩密度(=約1500kg/m3)
ρM :溶銑の密度(=6900kg/m3)
Fo2:ノズル1本当たりの上吹き酸素流量(Nm3/h)
d :上吹きランスのノズルスロート部直径(mm)
LSo=WS/ρS /(πD2/4)×1000 ・・・ (2)
但し、WS=WCaO/(%CaO)f×100
LSo :酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚み(mm)
WS :スラグ質量(kg)
D :スラグ表面における精錬容器の内直径(m)
WCaO :添加フラックス中の総CaO質量(kg)
(%CaO)f:精錬後のスラグ中CaO濃度(質量%) - 精錬開始時点以降はまず上吹き酸素を直接溶銑に接触させ、その後溶銑中Si濃度が0.1質量%未満でかつ前記フラックスが溶融スラグ化した以降に、上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないように調整することを特徴とする請求項3に記載の溶銑の精錬方法。
- 上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しないようにする際に、溶銑1t当りの上吹き酸素流量F(Nm3/min/t)と、ランスの先端から溶銑上面までの距離Hと上吹きランスのノズルの平均出口直径deとの比H/deが、下記(3)式を満たすように、溶銑1t当たりの上吹き酸素流量、ランス先端から溶銑上面までの距離、上吹きランスノズルの平均出口直径の1つ以上を調節することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶銑の精錬方法。
F×134.1×(H/de)-1.63>0.3 ・・・ (3)
F:溶銑1t当たりの上吹き酸素流量(Nm3/min/t)
H:ランス先端から溶銑上面までの距離(mm)
de:上吹きランスのノズルの平均出口直径(mm)
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JP2010116584A (ja) * | 2008-11-11 | 2010-05-27 | Nisshin Steel Co Ltd | 攪拌式脱硫装置用攪拌機 |
WO2019172195A1 (ja) * | 2018-03-07 | 2019-09-12 | 日本製鉄株式会社 | 溶銑の脱りん方法 |
CN117724430A (zh) * | 2024-01-03 | 2024-03-19 | 山东诺德能源科技有限公司 | 一种生产自动调度方法及调度系统 |
-
2003
- 2003-09-02 JP JP2003310276A patent/JP2004115910A/ja not_active Withdrawn
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