JP2004111241A - El素子、el素子を用いた発光パネル及びel素子の製造方法 - Google Patents

El素子、el素子を用いた発光パネル及びel素子の製造方法 Download PDF

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田中 幸一
Takeshi Ozaki
尾崎 剛
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Abstract

【課題】発光効率及び寿命が向上したEL素子を提供すること。
【解決手段】EL素子1は、透明基板2から順にアノード3、無機正孔注入層4、発光層5、カソード6の順に積層した積層構造となっている。アノード3はITOで形成されており、無機正孔注入層4はTaSiO系材料、TaSiON系材料、TaSiONH系材料で形成されている。発光層5は有機化合物で形成されている。カソード6は低仕事関数の材料で形成されている。EL素子1の製造方法としては、アノード3を成膜し、アノード3に酸素プラズマを照射し、アノード3上に無機正孔注入層4を成膜し、無機正孔注入層4を酸素プラズマ照射し、無機正孔注入層4上に順に発光層5、カソード6を成膜する。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自発光するEL(Electro Luminescence)素子と、このEL素子を用いた発光パネルと、EL素子の製造方法とに関する。
【0002】
【従来の技術】
有機EL素子はアノード、有機化合物層、カソードの順に積層された積層構造を為しており、アノードとカソードの間に順バイアス電圧が印加されると有機化合物層において発光する。有機化合物層は、アノードから順に正孔輸送層、狭義の発光層、電子輸送層となる三層構造であったり、アノードから順に正孔輸送層、狭義の発光層となる二層構造であったり、狭義の発光層からなる一層構造であったり、これらの層構造において適切な層間に電子或いは正孔の注入層が介在した積層構造であったりする。正孔注入層、正孔輸送層、狭義の発光層、電子輸送層、電子注入層は何れも有機化合物で形成されている。また、このような有機EL素子を画素として基板上にマトリクス状に配列して、各有機EL素子を所定の階調輝度で発光させることによって画像表示を行う有機EL表示パネルが実現化されている。
また正孔注入層として、金属を含むポルフィリン系有機化合物を備える有機EL素子も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−234681号公報(第5−6頁、第1図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の有機EL素子では、アノードがITOといった無機化合物で形成されているから、アノードと有機化合物層の密着性が悪く、さらに製造過程での熱等によりダメージを受けやすいので、アノードから有機化合物層へ効率よく正孔が注入されない。そのため、有機EL素子の発光効率が悪かったり、有機EL素子の寿命が短かったりする。また、アノードと有機化合物層との間の界面で剥離された部分が存在する恐れがある。剥離された部分においては有機化合物層が発光せず、所謂ダークスポットと呼ばれる黒点が、発光した有機化合物層に生成されてしまう。
上記ポルフィリン系有機化合物も金属を含んでいるが、実質的に有機材料なために、金属・合金等からなるアノード電極との密着性が十分でなく、ダークスポットは避けられなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、発光効率及び寿命が向上したEL素子と、そのようなEL素子を用いた発光パネルと、そのようなEL素子を製造するための製造方法とを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、例えば図1に示すように、
互いに対向した一対の電極(例えば、アノード3、カソード6)と、前記一対の電極間に介在した有機化合物層(例えば、発光層5)と、を備えるEL素子(例えば、EL素子1)において、
前記一対の電極のうちの一方の電極(例えば、アノード3)と前記有機化合物層との間に、構成元素としてTaとSiとOとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとHとを含む無機化合物の何れかからなる無機化合物層(例えば、無機正孔注入層4)を形成したことを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明では、無機化合物層が構成元素としてTaとSiとOとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとHとを含む無機化合物の何れかからなるため、無機化合物層は一対の電極のうちの一方に対して親和性が高く、有機化合物層に対しても親和性が高い。つまり、一方の電極と有機化合物層との間に無機化合物層が挟まれることで、一方の電極と有機化合物層との間で密着性が高くなる。そのため、本発明に係るEL素子は、従来の有機EL素子と比較しても、発光効率が高いととともに寿命が長い。更に、発光した有機化合物層にはダークスポットが殆ど存在しない。
【0008】
請求項2に記載の発明は、例えば図12〜図16に示すように、請求項1に記載のEL素子が基板(例えば、透明基板12、112又は212)上に複数配列されてなる発光パネル(例えば、EL表示パネル10、110又は210)であって、
前記無機化合物層が前記複数のEL素子について連続して共通した層であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発光パネルにおいて、
前記有機化合物層が前記複数のEL素子について連続して共通した層であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発光パネルにおいて、
前記一対の電極のうちの他方の電極が前記複数のEL素子について連続して共通した層であることを特徴とする。
【0011】
請求項2から4の何れか一項に記載の発明では、無機化合物層が、構成元素としてTaとSiとOとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとHとを含む無機化合物の何れかからなるため、無機化合物層は高抵抗率であるとともに高密度である。そのため、無機化合物層、有機化合物層又は他方の電極が複数のEL素子について共通した層となっていても、一対の電極の間の部分においてのみ有機化合物層が発光する。つまり、無機化合物層、有機化合物層又は他方の電極をEL素子(発光パネルが表示パネルの場合には画素ごと)ごとにパターニングせずとも、有機化合物層がEL素子ごとに発光するようになる。無機化合物層、有機化合物層又は他方の電極をEL素子ごとにパターニングしなくても済むため、発光パネルの製造工程が簡略化される。
【0012】
請求項5に記載の発明は、例えば図1に示すように、互いに対向した一対の電極(例えば、アノード3、カソード6)と、前記一対の電極間に介在した有機化合物層(例えば、発光層5)と、前記一対の電極のうちの一方と前記有機化合物層との間に介在した無機化合物層(例えば、無機正孔注入層4)と、を備えるEL素子(例えば、EL素子1)を製造するEL素子の製造方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極を形成する工程と、
次いで前記一方の電極上に無機化合物層を形成する工程と、
次いで前記無機化合物層に向けて酸素プラズマを照射する工程と、
次いで酸素プラズマを照射した前記無機化合物層上に前記有機化合物層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明では、形成された無機化合物層に対して酸素プラズマを照射することによって、無機化合物層の表層に付着された不純物等が除去される。そのため、無機化合物層に対する有機化合物層の密着性が向上する。従って、製造されたEL素子は、従来の有機EL素子と比較しても、発光効率が高いととともに寿命が長い。更に、発光した有機化合物層にはダークスポットが殆ど存在しない。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のEL素子の製造方法において、
前記一方の電極を形成した後に前記一方の電極に向けて酸素プラズマを照射してから、前記一方の電極上に前記無機化合物層を形成することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明では、形成された一方の電極に対して酸素プラズマを照射することによって、一方の電極の表層に付着された不純物等が除去される。そのため、一方の電極に対する無機化合物層の密着性が向上する。従って、製造されたEL素子は、従来の有機EL素子と比較しても、発光効率が高いととともに寿命が長い。更に、発光した有機化合物層にはダークスポットが殆ど存在しない。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載のEL素子の製造方法において、
前記無機化合物層は、構成元素としてTaとSiとOとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとHとを含む無機化合物の何れかから形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の発明では、製造されたEL素子の無機化合物層が構成元素としてTaとSiとOとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとHとを含む無機化合物の何れかからなるため、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を奏する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を用いて本発明の具体的な態様について説明する。ただし、発明の範囲を図示例に限定するものではない。
【0019】
〔第一の実施の形態〕
図1は、EL素子1を示した断面図である。
図1に示されるように、EL素子1は、平板状の透明基板2上に成膜されたアノード3と、アノード3上に成膜された無機正孔注入層4と、無機正孔注入層4上に成膜された発光層5と、発光層5上に成膜されたカソード6と、を備える。そして、アノード3とカソード6は互いに対向しており、無機正孔注入層4はアノード3と発光層5に挟まれている。
【0020】
透明基板2は、可視光に対して透過性を有するとともに絶縁性を有し、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、その他のガラスといった材料で形成されている。なお、透明基板2は、ポリカーボネイト、アクリル、その他の樹脂といった透明な樹脂基板であっても良いし、サファイヤ基板であっても良い。
【0021】
アノード3は、可視光に対して透過性を有するとともに導電性を有する。また、アノード3は、比較的仕事関数の高いものである。アノード3は、例えば、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)若しくは酸化亜鉛(ZnO)又はこれらのうちの少なくとも何れかを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO))で形成されている。
【0022】
無機正孔注入層4は無機化合物からなる層であり、その厚さは特に限定されないが5nm以下であるのが望ましい。無機正孔注入層4に含まれる無機化合物としては、TaとSiとOとを成分元素とするもの(以下、TaSiO系材料という。)、TaとSiとOとNとを成分元素とするもの(以下、TaSiON系材料という。)並びにTaとSiとOとNとHとを成分元素とするもの(以下、TaSiONH系材料という。)がある。
【0023】
図2は、TaSiO系材料の膜を成膜する際の反応炉の雰囲気中の酸素の体積濃度と、成膜されたTaSiO系材料の単位体積当たりの原子数との関係を表したグラフである。図2のグラフにおいて、黒く塗りつぶした四角は、測定結果についてプロットしたものであり、曲線αは、それら測定結果に基づいて求めた近似曲線である。図2のグラフより、成膜雰囲気中の酸素濃度が増加するにつれて単位体積当たりの原子数が増加することがわかる。また、酸素濃度が0%の場合には、Ta単体における単位体積当たりの原子数(5.0×1022〔atom/cm〕)と、Si単体における単位体積当たりの原子数(5.9×1022〔atom/cm〕との間の値をとり、TaとSiからなる膜が成膜されたことがわかる。
【0024】
また、図2のグラフより、TaSiO系材料の単位体積当たりの原子数が5.3×1022〔atom/cm〕以上であるから、TaSiO系材料は酸素濃度に関わらず全体的に高密度であることがわかる。なお、酸素濃度が0%の場合には、成膜された膜の抵抗率はおおよそ0.2〔mΩ・cm〕であり、図2のβで示された閉曲線で囲まれた酸素濃度(30%〜50%)の場合には、成膜された膜の抵抗率はおおよそ0.5〜4〔mΩ・cm〕であり、70%を越えると実質的に絶縁体となる。
【0025】
図3(a),(b)はともに、TaSiON系材料の膜を成膜する際の反応炉の雰囲気中に含まれるNの割合(Nガスの体積濃度)と、成膜されたTaSiON系材料の単位体積当たりの原子数との関係を表したグラフであり、(b)のグラフは、(a)のグラフにおいてNの割合が6.5%〜23%である範囲を拡大して示している。図3は、測定結果についてプロットしたものであり、基準線γは、それら測定結果に基づいて求められた近似線であり、黒く塗りつぶした丸印は、TaSiON系中の酸素の組成比が窒素の組成比より高く基準線γよりも上に位置し、三角印は、基準線γよりも下に位置している。図3のグラフより、TaSiON系材料では、成膜雰囲気中のNの割合が増加するにつれて単位体積当たりの原子数が増加することがわかる。
【0026】
また、図3のグラフの範囲では、TaSiON系材料の単位体積当たりの原子数が6.6×1022〔atom/cm〕より大きく、TaSiON系材料の単位体積当たりの原子数は全体としてTaSiO系材料の同単位体積当たりの原子数より大きい。従って、図3のグラフより、TaSiON系材料はNの割合に関わらず全体的に高密度であることがわかる。
【0027】
TaSiONH系材料は、TaSiON系材料に水素原子を導入したものである。TaSiON系材料の結晶構造中にはダングリングボンドがあり、このダングリングボンドには電子や不純物原子が捕獲されやすい。従って、TaSiON系材料に水素原子を導入すると水素原子はダングリングボンドで捕獲されるから、TaSiONH系材料はTaSiON系材料と比較しても単位体積当たりの原子数が多い。そのため、TaSiONH系材料は高密度である。
【0028】
一酸化ゲルマニウムの密度は4.40g/cmであり(化学大辞典:(株)東京化学同人発行)、単位体積当たりのゲルマニウム又は酸素の原子数はN×4.40/(72.61+16.0)≒3.0×1022〔atom/cm〕となり、一酸化ゲルマニウムの単位体積当たりの総原子数は6.0×1022〔atom/cm〕となるから、高密度であることがわかる。ここで、Nはアボガドロ定数である。
【0029】
以上のように、無機正孔注入層4は、一酸化ゲルマニウム、TaSiO系材料、TaSiON系材料若しくはTaSiONH系材料又はこれらの混合物で形成されているから、高密度である。無機正孔注入層4の密度は、単位体積当たりの原子数で表すとしたら、5.0×1022〔atom/cm〕以上であり、5.3×1022〔atom/cm〕以上であるのが更に望ましい。
【0030】
次に、無機正孔注入層4の抵抗率について説明する。
図4は、TaSiO系材料及びTaSiON系材料からなる幾つかの試料についてX線回折分析を行った場合にX線のピークが発生するときの回折角(以下、ピーク角θと記す。)と、その試料の抵抗率との関係を示したグラフである。図4のグラフにおいて、横軸はピーク角θについて4πsinθ/λで換算した値を示し(λはX線の波長である。)、縦軸は抵抗率を対数尺で示している。また、図4のグラフにおいて、曲線δは、TaSiO系材料についての結果から求めた近似曲線であり、黒く塗りつぶした丸及び三角印は、TaSiON系材料についての結果をプロットしたものであり、各丸印は、等しい4πsinθ/λでのTaSiO系材料よりも単位体積当たりの原子数が多く、且つ図3の丸印群のいずれかと同一の材料であり、各三角印は、等しい4πsinθ/λでのTaSiO系材料よりも単位体積当たりの原子数が少なく且つ図3の三角印群のいずれかと同一の材料である。
【0031】
図4のグラフより、TaSiO系材料であってもTaSiON系材料であっても、抵抗率はピーク角θに依存することがわかり、4πsinθ/λが大きくなるにつれて抵抗率が小さくなることがわかる。更に、TaSiO系材料であってもTaSiON系材料であっても、酸素量が増加するにつれて4πsinθ/λも大きくなる。従って、酸素量が増加するにつれて抵抗率も大きくなる。
【0032】
また、図4のグラフにおいて、黒く塗りつぶした三角印は、回折角θが同じである場合に曲線δの値より抵抗率が小さいときの測定結果であり、黒く塗りつぶした丸印は、回折角θが同じである場合に曲線δの値より抵抗率が大きいときの測定結果である。黒く塗りつぶした丸印の試料について元素分析を行って、試料の各成分の含有率をモル%で表したら、Oの含有率はNの含有率より大きいことがわかった。そして、TaSiON系材料では、抵抗率が1mΩ・cm以上で正孔輸送性を示すことが確認された。
【0033】
図5は、TaSiON系材料からなる三つの試料について、成分元素の組成比を表した図表である。分析には、RBS(ラザフォード後方散乱分光計)を使用した。但し、RBSは、比較的軽い元素である窒素の検出が比較的困難であるので、結果としての検出値が低くなる試料番号(ア)、(イ)及び(ウ)の試料の窒素の定量は、ESCA(X線光電子分光計の一種)によって得たものである。図5の図表において、Taの含有率、Siの含有率、Oの含有率及びNの含有率は、モル%で表し、Si/TaはTaに対するSiのモル比率であり、O+NはOの含有率とNの含有率を加えたものである。これらの成分元素Ta、Si、O及びNの測定量には多少の誤差を伴っており、従って、これから算出されたTaのモル%、Siのモル%、Oのモル%及びNのモル%を積算しても、正確に100%とはなっていない。
【0034】
以上のように、図4及び図5から、TaSiO系材料及びTaSiON系材料は適当に高抵抗率であることがわかる。そして、正孔注入性、電気抵抗性が考慮された無機正孔注入層4として機能するためには、TaSiON系材料は、SiとTaのモル比Si/Taが「0.35<Si/Ta<0.80」でより好ましくは「0.35<Si/Ta<0.45」であり、更に、Oの含有率M1が「25モル%≦M1≦45モル%」であり且つNの含有率M2が「5モル%≦M2≦25モル%」である。
【0035】
図6(a)は、TaSiONH系材料において略『Ta:Si:O:N=30:20:36:14』のモル組成比であってHの含有量がそれぞれ異なる四つの試料の抵抗率及び成分元素の含有率(モル%)を表した図表であり、図6(b)は、TaSiONH系材料において略『Ta:Si:O:N=28:20:35:17』のモル組成比であってHの含有量がそれぞれ異なる四つの試料の抵抗率及び成分元素の含有率(モル%)を表した図表であり、図6(c)は、TaSiONH系材料において略『Ta:Si:O:N=25:15:40:20』のモル組成比であってHの含有量がそれぞれ異なる四つの試料の抵抗率及び成分元素の含有率(モル%)を表した図表である。図6(a)〜(c)において四つの試料は共にTa:Si:O:Nの組成比は同一であっても、水素の割合が異なるので、全体の組成比を見た場合は、Ta、Si、O及びNの割合が変化している。
【0036】
これら試料の5元素の組成比は、まず、RBS分析でTa:Si:O:Nの割合がほぼ一定であることを確認した後に、更にHFS(Hydrogen Forward Scattering analysis)分析を行うことにより得られた。RBS分析及びHFS分析には、Si基板に成膜した試料を用い、且つ抵抗率の測定には、Si上に1μmの厚さの熱酸化膜が形成されている基板上に成膜した試料を用いた。分析条件としては、He++イオンビームエネルギーは2.275〔MeV〕であり、HFSの場合の検出角度は30°でありRBSの場合の検出角度は160°であり、HBSのイオンビーム照射角度は試料法線から75°である。
【0037】
図6(a),(b),(c)に示されたように、水素の割合が増加するにつれて抵抗率が増加する傾向を示した。図7は、図6(a),(b),(c)のそれぞれの試料について抵抗率と水素の含有率との関係を示す特性図である。図7において、縦軸は抵抗率を示し、横軸は水素のモル%を示す。図7において、黒く塗りつぶした丸印は、図6(a)の試料についてプロットしたものであり、白抜きした三角印は、図6(b)の試料についてプロットしたものであり、バツ印は、図6(c)の試料についてプロットしたものである。
【0038】
図7に示すように、水素含有率が3モル%近傍では抵抗率が小さく、水素含有率が4モル%以上になると抵抗率は急激に上昇することがわかる。そして、水素が4モル%以上になるようにしてTaSiONH系材料を成膜すると、抵抗率が4mΩcm以上となることがわかる。
【0039】
以上のように、図6及び図7から、TaSiONH系材料は高抵抗率であることがわかる。そして、無機正孔注入層4がTaSiONH系材料で形成されている場合には、組成比は特に限定されないが、Oの含有率M1は「25モル%≦M1≦45モル%」であり、Nの含有率M2が「5モル%≦M2≦27モル%」であり、SiとTaのモル比Si/Taが「0.35<Si/Ta<0.80」であり且つHの含有率が4モル%以上であり、このうちNの含有率についてより好ましくは「5モル%≦M2≦26モル%」であり、更に好ましくはNの含有率M2が「5モル%≦M2≦25モル%」である。
【0040】
発光層5は、有機化合物である発光材料で形成された層であって、無機正孔注入層4から注入された正孔とカソード6から注入された電子を再結合させることで励起子を生成して発光する層である。また、発光層5には、電子輸送性の物質が適宜混合されていても良いし、正孔輸送性の物質が適宜混合されても良いし、電子輸送性の物質及び正孔輸送性の物質が適宜混合されていても良い。
【0041】
また、発光層5に含まれる有機化合物としては、高分子系材料と低分子系材料に分類される。
【0042】
高分子系材料としては、ポリカルバゾール、ポリパラフェニレン、ポリアリーレンビニレン、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリシラン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピリジン、ポリピリジンビニレン及びポリピロール系材料等が挙げることができ、更に、これらポリマーを形成しているモノマー又はオリゴマーの重合体及び共重合体も挙げることができる。更には、これらポリマーを形成しているモノマー又はオリゴマーの誘導体の重合体及び共重合体も挙げることができ、オキサゾール(オキサンジアゾール、トリアゾール、ジアゾール)又はトリフェニルアミン骨格を有するモノマーを重合した重合体及び共重合体を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーとしては、熱、圧、UV、電子線などを与える事で上述の化合物を形成するモノマー及びプレカーサポリマーを含むものである。また、これらモノマー間を結合する非共役系ユニットを導入しても構わない。
【0043】
このような高分子材料の具体的なものとしては、ポリビニルカルバゾール、ポリトデシルチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリスチレンスルフォン酸分散体変性物、ポリ9,9−ジアルキルフルオレン、ポリ(チエニレン−9,9−ジアルキルフルオレン)、ポリ(2,5−ジアルキルパラフェニレン−チエニレン)、(ジアルキル:R=C1〜C20)、ポリパラフェニレンビニレン、ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)−パラフェニレンビニレン)、ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチル−ペンチロキシ)−パラフェニレンビニレン)、ポリ(2,5−ジメチル−パラフェニレンビニレン)、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)、ポリ(2,5−ジメトキシパラフェニレンビニレン)、ポリ(1,4−パラフェニレンシアノビニレン)などが挙げられる。
【0044】
低分子材料(発光物質またはドーパント)としては、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、テトラセン、コロネン、クリセン、フルオレセイン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ペリノン、フタロペリノン、ナフタロペリノン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、アルダジン、ビスベンゾキゾリン、ビススチリル、ピラジン、オキシン、アミノキノリン、イミン、ジフェニルエチレン、ビニルアントラセン、ジアミノカルバゾール、ピラン、チオピラン、ポリメチン、メロシアニン、イミダゾールキレート化オキシノイド化合物等、4−ジシアノメチレン−4H−ピラン及び4−ジシアノメチレン−4H−チオピラン、ジケトン、クロリン系化合物及びこれらの誘導体が挙げられる。低分子発光材料の具体的なものとしては、Alq3、キナクリドン等が挙げられる。
【0045】
発光層5に含有する電子輸送性物質としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等の8−キノリノール又はその誘導体を配位子とする有機金属錯体等のキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられる。
【0046】
発光層5に含有する正孔輸送性物質としては、テトラアリールベンジシン化合物(トリアリールジアミンないしトリフェニルジアミン:TPD)、芳香族三級アミン、ヒドラゾン誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ポリチオフェン等が挙げられる。
【0047】
発光層5に含まれる有機化合物が高分子系材料の場合には、主に湿式塗布法によって発光層5が成膜され、発光層5に含まれる有機化合物が低分子材料の場合には、主に蒸着法によって発光層5が成膜される。また、低分子材料の性質によっては、低分子材料を溶媒に溶かした状態で塗布して使用するものとしても良い。さらに低分子材料をドーパントとして高分子ポリマー中に分散させてもよく、低分子材料をポリマー分散する際のポリマーとしては、周知の汎用ポリマーを含む各種ポリマーを状況に応じて使用することができる。
【0048】
カソード6は、仕事関数の低い材料で形成されており、具体的にはマグネシウム、カルシウム、リチウム若しくはバリウム又はこれらの少なくとも一種を含む単体又は合金で形成されている。更に、カソード6が積層構造となっていても良く、例えば、マグネシウム、カルシウム、リチウム若しくはバリウム又はこれらの少なくとも一種を含む単体又は合金で形成された膜上にアルミニウム、クロム等高仕事関数で且つ低抵抗の材料で被膜した積層構造でも良い。また、カソード6は可視光に対して遮光性を有するのが望ましく、且つ、発光層5から発する可視光に対して高い反射性を有するのが望ましい。つまり、カソード6は可視光を反射する鏡面として作用する。
【0049】
次に、EL素子1の製造方法について説明する。
まず、PVD法及びCVD法といった成膜方法によって透明基板2上にアノード3を成膜する。次に、成膜されたアノード3に向けて酸素プラズマを照射してアノード3の表層をアッシングすることによって、アノード3の表層に付着した不純物等が除去される。この場合、アノード3自体はITOといった無機化合物で形成されているため、アノード3自体はアッシングされない。酸素プラズマアッシングの条件としては、酸素雰囲気の圧力を0.2〜0.4torrとし、プラズマを導入する際の電力を250Wとし、アッシング時間を10分とする。
【0050】
次に、アノード3上に無機正孔注入層4を成膜する。無機正孔注入層4がTaSiO系材料の場合には、Taで形成された板に所定の量のSi(例えばTa:Si=3:1)を埋め込んだターゲットを使用する。アノード3の形成された透明基板2とターゲットをスパッタ装置にセッティングし、スパッタ装置内の雰囲気をアルゴンガスと酸素ガスの混合雰囲気とし、スパッタ装置でスパッタリングを行う。これにより、アノード3上にTaSiO系材料からなる無機正孔注入層4が成膜される。
【0051】
無機正孔注入層4がTaSiON系材料の場合にも、Taで形成された板に所定の量のSiを埋め込んだターゲットを使用して、スパッタリング法で無機正孔注入層4を成膜する。スパッタ装置内の雰囲気は、アルゴンガスと酸素ガスと窒素ガスの混合雰囲気とする。
【0052】
無機正孔注入層4がTaSiONH系材料の場合にも、Taで形成された板に所定の量のSiを埋め込んだターゲットを使用して、スパッタリング法で無機正孔注入層4を成膜する。スパッタ装置内の雰囲気は、アルゴンガスと酸素ガスと窒素ガスと水蒸気の混合雰囲気とする。
無機正孔注入層4を成膜する前にアノード3の表層をアッシングしたため、アノード3に対して無機正孔注入層4が密着するように成膜され、アノード3と無機正孔注入層4との密着性が高い。
【0053】
無機正孔注入層4の成膜後、無機正孔注入層4に向けて酸素プラズマをアッシング装置で照射して無機正孔注入層4の表層をアッシングすることによって、無機正孔注入層4の表層に付着した不純物等が除去されるが、無機正孔注入層4自体は無機物で形成されているため、無機正孔注入層4自体はアッシングされない。酸素プラズマアッシングの条件としては、酸素雰囲気の圧力を0.2〜0.4torrとし、プラズマを導入する際の電力を250Wとし、アッシング時間を10分とする。なお、アッシング後は、アッシング装置内に窒素ガスを吸気し、アッシング装置から透明基板2を取り出す。
【0054】
次いで、無機正孔注入層4上に発光層5を成膜する。発光層5に含まれる有機化合物が高分子系材料の場合には、その高分子系材料を溶媒で溶解してなる溶液を無機正孔注入層4に塗布し、溶媒が蒸発することで発光層5が成膜される。一方、発光層5に含まれる有機化合物が低分子系材料の場合には、PVD法及びCVD法といった成膜方法によって発光層5を成膜する。
発光層5を成膜する前に無機正孔注入層4の表層をアッシングしたため、無機正孔注入層4に対して発光層5が密着するように成膜され、発光層5と無機正孔注入層4との密着性が高い。
【0055】
次いで、PVD法及びCVD法といった成膜方法によってカソード6を成膜する。カソード6の成膜後、封止樹脂、封止ガラスといった封止材でEL素子1全体を封止する。
【0056】
以上のように製造されたEL素子1においては、アノード3がカソード6より高電位となるようにアノード3とカソード6との間に正バイアス電圧が印加されると、正孔はアノード3から無機正孔注入層4に注入されて無機正孔注入層4中を輸送され、無機正孔注入層4から発光層5へ注入され、一方、電子はカソード6から発光層5へ注入される。そして、発光層5において正孔及び電子が輸送されて、発光層5にて正孔及び電子が再結合することによって励起子が生成され、励起子が発光層5内の蛍光体(発光材料)を励起することによって発光層5で発光する。
【0057】
そして以上のEL素子1においては、発光層5とアノード3との間に無機正孔注入層4が介在するため、発光層5とアノード3との間で物性が安定する。つまり、有機化合物を含まない無機正孔注入層4は無機物であるアノード3に対しても親和性が高く、薄く成膜しても高密度であるのでピンホールがないので、アノード3と発光層5との間でショートすることなく且つ接触面積が高いので、正孔がアノード3から無機正孔注入層4を介して発光層へ効率よく注入される。そのため、従来の有機EL素子に比較しても寿命を長くすることができ、リーク電流及びダークスポットの発生を抑えることができる。特に、TaSiONH系材料においては、Hの導入によりダングリングボンドが結晶構造中において非常に少なくなるため、バンドギャップが形成される。そのためTaSiONH系材料が正孔注入効率の良い材料であり、TaSiONH系材料を無機正孔注入層4に用いたEL素子1は比較的低い電力でも明るく発光するとともに寿命も長い。
【0058】
無機正孔注入層4の成膜前にアノード3の表層に付着した不純物等を酸素プラズマによってアッシングしているため、無機正孔注入層4がアノード3に対してより良く密着するようになる。更に、発光層5の成膜前に無機正孔注入層4の表層に付着した不純物等を酸素プラズマアッシングによってアッシングしているため、発光層5が無機正孔注入層4に対してより良く密着するようになる。従って、正孔がアノード3から無機正孔注入層4を介して発光層5へ効率よく注入され、リーク電流及びダークスポットの発生を抑えることができるとともに、EL素子1の寿命を長くすることができる。
【0059】
また、無機正孔注入層4が高密度で高抵抗率であるから、EL素子1を積層方向に見てアノード3、無機正孔注入層4及びカソード6が重なった領域内のみで発光層5が発光する。つまり、図1の例では、矢印zで示された領域内のみで発光層5が発光する。そして、アノード3、正孔注入層4及び発光層5を透明基板2上の一面に形成し、一面に形成された発光層5上にカソード6をパターニングすれば、パターニングされた領域のみで発光層5が発光するようになる。従って、アノード3と発光層5をパターニングせずともカソード6のみのパターニングで、発光領域を形成することができる。
【0060】
また、無機正孔注入層4に利用される無機化合物は、一般的に有機EL素子の正孔注入層に利用される有機化合物に比較しても、安価で入手しやすい。更に、無機化合物の薄膜は、PVD法及びCVD法といった簡単な成膜方法で成膜することができ、それに対して有機化合物の薄膜を成膜するには溶媒を利用するから、無機正孔注入層4を容易に成膜することができる。従って、EL素子1の製造が容易になり、製造コストを低減することができる。
【0061】
ここで、以上のように製造されたEL素子1を従来の有機EL素子と比較した結果を図8に示す。
図8は、無機正孔注入層4が一酸化ゲルマニウムで形成された場合のEL素子1と従来の有機EL素子との比較した場合の棒グラフである。図8のグラフにおいて、縦軸は、量子効率を示す。測定結果A〜Eは、無機正孔注入層4に代えて従来の有機正孔注入層(PEDOT(ポリエチレンジオキシオフェン)とPSS(ポリスチレンスルホン酸)の混合物で形成された層)を用いた有機EL素子について量子効率の測定結果を表すものであり、測定結果A〜Eの順が測定順である。測定結果F〜Jは、上記EL素子1について量子効率の測定結果を表すものであり、測定結果F〜Jの順が測定順である。測定結果K〜Mは、無機正孔注入層4が無くアノード、発光層、カソードの順に積層してなる有機EL素子について量子効率の測定結果を表すものであり、測定結果K〜Mの順が測定順である。図8の量子効率を測定するにあたって、正孔注入層を除く条件は全て同じである。
【0062】
図8のグラフより、EL素子1は、時間が経過するに連れて量子効率が増加する傾向にあり、正孔注入層の無い有機EL素子は時間が経過するにつれて量子効率が低下する傾向にあることがわかる。そして、EL素子1は、有機正孔注入層を有する有機EL素子とほぼ同等の特性を持つとともに、正孔注入層の無い有機EL素子よりも優れた特性を持つことがわかる。
【0063】
図9は、無機正孔注入層4が一酸化ゲルマニウムで形成された場合のEL素子1について経過時間と輝度との関係を示したグラフである。図9のグラフにおいて、縦軸は輝度を示し、横軸は発光開始時刻から経過時間を対数尺で表している。また、図9のグラフにおいて、無機正孔注入層4に代えて従来の有機正孔注入層(PEDOTとPSSの混合物で形成された層)を用いた有機EL素子について経過時間と輝度との関係を比較として示す。図9からわかるように、発光を開始してから1時間を経過すると、有機正孔注入層を用いた有機EL素子でもEL素子1でも輝度が低下する傾向にあるが、EL素子1は輝度の低下が従来の有機EL素子より著しくない。つまり、図9のグラフから、EL素子1は、有機正孔注入層を用いた有機EL素子よりも寿命が長いことがわかる。
【0064】
図10は、無機正孔注入層4が一酸化ゲルマニウムで形成された場合のEL素子1について経過時間と量子効率との関係を示したグラフである。図10のグラフにおいて、縦軸は量子効率を示し、横軸は発光開始時刻から経過時間を対数尺で表している。また、図10のグラフにおいて、無機正孔注入層4に代えて従来の有機正孔注入層(PEDOTとPSSの混合物で形成された層)を用いた有機EL素子について経過時間と量子効率との関係を比較として示す。図10からわかるように、発光を開始してから1時間を経過すると、有機正孔注入層を用いた有機EL素子でもEL素子1でも量子効率が低下する傾向にあるが、EL素子1は輝度の低下が著しくない。更に、EL素子1は、有機正孔注入層を用いた有機EL素子よりも量子効率が高い。EL素子1の量子効率が従来の有機EL素子よりも高いのは、アノード3から発光層5へ注入される正孔に対してのエネルギー障壁が無機正孔注入層4によって緩和してリーク電流が抑えられたためである。
【0065】
図11は、酸素プラズマ照射を行って製造されたEL素子1と、酸素プラズマ照射を行っていないEL素子とを比較したグラフである。比較したEL素子は、アノードの表層及び無機正孔注入層の両方に酸素プラズマを照射してないことを除いては、EL素子1と同様である。図11(a)は発光効率を縦軸として示した棒グラフであるが、酸素プラズマを照射したEL素子1の発光効率は酸素プラズマを照射していないEL素子の発光効率よりも高いことがわかる。酸素プラズマを照射することで、無機正孔注入層4がアノード3に対してより良く密着するとともに、発光層5が無機正孔注入層4に対してより良く密着するようになる。そのため、EL素子1の発光効率が向上している。
【0066】
図11(b)は単位面積あたりの発光輝度が100〔cd/m〕となっている場合のアノード−カソード間の電圧を縦軸として示した棒グラフであるが、酸素プラズマを照射したEL素子1の電圧は酸素プラズマを照射していないEL素子の電圧よりも僅かながら低いことがわかる。図11(c)は単位面積あたりの発光輝度が100〔cd/m〕となっている場合のアノード−カソード間の電流密度を縦軸として示した棒グラフであるが、酸素プラズマを照射したEL素子1の電流密度は酸素プラズマを照射していないEL素子の電流密度よりも明らかに低いことがわかる。つまり、図11(b),(c)からわかることは、同じ輝度で発光させるにしても酸素プラズマを照射したEL素子1の使用電力が酸素プラズマを照射していないEL素子の使用電力より低いことである。したがって、TaSiONH系材料、TaSiON系材料、TaSiON系材料の何れかに一酸化ゲルマニウムを加えることにより緻密で正孔注入性に優れた高抵抗な無機正孔注入層4を構成することができる。このような二層構造の場合、発光層5に接触する面側に一酸化ゲルマニウム層でもよく、TaSiONH系材料、TaSiON系材料、TaSiON系材料の何れかの層でもよい。
【0067】
〔第二の実施の形態〕
次に、本発明に係るEL素子を用いた発光パネルについて説明する。なお、以下の説明において、『平面視して』とは、『表示面に向かって見て』という意味であり、つまり、『透明基板12、透明基板112又は透明基板212(後述)に対して垂直な方向に見て』という意味である。
【0068】
図12は、発光パネルであるEL表示パネル10の平面図であり、図13は、図12に示された切断線S1−S2で破断して示した断面図である。
【0069】
EL表示パネル10は、画素が平面視してマトリクス状に配列されており、アクティブマトリクス駆動方式によりマトリクス表示を行うものである。即ち、EL表示パネル10では、一つの画素につき、一つのEL素子11と、EL素子11を駆動するための一つの画素回路(薄膜トランジスタ21,21を含む)と、から構成されており、画素回路は周辺ドライバ(図示略)から信号線51及び走査線52を介して信号を入力し、その信号に従ってEL素子11に流れる電流をオン・オフしたり、EL素子11の発光期間中に電流値を保持することでEL素子11の発光輝度を一定に保ったりする。なお、画素回路は、一つにつき、少なくとも一つ以上の薄膜トランジスタ(以下、トランジスタと述べる。)から構成され、適宜コンデンサ等も付加されることもあるが、図12においては画素回路に含まれるトランジスタのうち二つのトランジスタ21,21を示す。
【0070】
EL表示パネル10は平板状の透明基板12を有しており、透明基板12の一方の面12a上には、縦方向に延在した複数の信号線51,51,…が形成されている。透明基板12は、上記第一実施形態における透明基板2と同様の材料で形成されている。信号線51,51,…は、平面視して、ほぼ等間隔となって互いに平行に配列されている。信号線51,51,…は、導電性を有しており、透明基板12一面に成膜されたゲート絶縁膜23に被膜されている。このゲート絶縁膜23上には、横方向に延在した複数の走査線52,52,…が形成されており、平面視して走査線52,52,…は走査線51,51,…に対して直交している。走査線52,52,…も、平面視して、ほぼ等間隔となって互いに平行に配列されている。
【0071】
透明基板12の一方の面12aには、複数のトランジスタ21,21,…が形成されている。各トランジスタ21は、ゲート電極22、ゲート絶縁膜23、半導体膜24、不純物半導体膜25,26、ドレイン電極27、ソース電極28等から構成されており、これらが積層されてなるMOS型電界効果トランジスタである。ゲート絶縁膜23は、透明基板12一面に成膜されており、全てのトランジスタ21,21,…について共通の層となっている。
【0072】
トランジスタ21,21、…は仕切り壁18によって被覆されている。この仕切り壁18は、画素回路の他のトランジスタやコンデンサ等も被覆している。仕切り壁18は、平面視して、網目状に形成されている。平面視して、仕切り壁18が網目状に形成されることで、仕切り壁18によって囲繞された複数の囲繞領域19が透明基板12上にマトリクス状に配列されたように形成される。また、仕切り壁18の幅は、透明基板12に近づくにつれて大きくなっている。仕切り壁18は、絶縁性を有しており、例えば酸化シリコン又は窒化シリコンで形成されている。
【0073】
次に、EL素子11について説明する。EL素子11は、透明基板12側から順にアノード13、無機正孔注入層14、発光層15、カソード16に積層した積層構造となっている。アノード13、無機正孔注入層14、発光層15及びカソード16の成分は、それぞれ、上記第一実施形態のアノード3、無機正孔注入層4、発光層5及びカソード6の成分と同じである。
【0074】
平面視して、アノード13は信号線51,51,…と走査線52,52,…に囲まれた各領域に配設されており、複数のアノード13、13,…がマトリクス状になってゲート絶縁膜23上に配列されている。
【0075】
また、平面視して、アノード13はそれぞれ囲繞領域19に対応して臨んでおり、囲繞領域19の面積はアノード13の面積より小さく、囲繞領域19はアノード13内に配されており、アノード13の外周部は仕切り壁18の一部に重なって被覆されている。この例では、アノード13がトランジスタ21のソース電極28に接続されているが、画素回路の回路構成によっては他のトランジスタやコンデンサにアノード13が接続されていても良い。
【0076】
これらアノード13,13,…上にはアノード13の形状に合わせてフォトリソグラフィにより各無機正孔注入層14が成膜されているが、無機正孔注入層14は、透明基板12一面に形成されており、アノード13,13,…とともに仕切り壁18も被膜してもよい。このとき、各無機正孔注入層14は、仕切り壁18の段差により仕切り壁18の側壁で切断されるので、個々の画素毎に無機正孔注入層14が電気的に分離されている。いずれにしても隣り合った画素に正孔を注入してしまう誤作動が起こらない。
【0077】
無機正孔注入層14上には発光層15が成膜されており、発光層15も透明基板12一面に形成されている。発光層15上にはカソード16が成膜されており、カソード16も透明基板12一面に成膜されている。つまり、無機正孔注入層14、発光層15及びカソード16は、全てのEL素子11,11,…について連続して共通した層となっており、アノード13のみがEL素子11ごと(つまり、画素ごと)に独立して形成されている。なお、無機正孔注入層14、発光層15及びカソード16がアノード13と同様にEL素子11ごとにパターニングされていても良い。このときはカソード16がトランジスタ21に接続され、アノード13が全EL素子11に共通の層構造となる。
【0078】
EL表示パネル10の製造方法について説明する。
まず、PVD法及びCVD法等といった成膜工程、フォトリソグラフィー法等といったマスク工程、エッチング法等といった薄膜の形状加工工程を適宜行うことによって、信号線51,51,…及び走査線52,52,…をパターニング形成するとともに、画素ごとにアノード13及び画素回路(トランジスタ21,21を含む)を透明基板12の上にパターンニング形成する。ここで、アノード13及びトランジスタ21をパターニング形成する際には、トランジスタ21のソース電極28とアノード13が接続されるように、レジストをマスクする。
【0079】
アノード13,13,…及びトランジスタ21,21,…の形成後、PVD法及びCVD法等といった成膜工程、フォトリソグラフィー法等といったマスク工程、エッチング法といった薄膜の形状加工工程を行うことによって、網目状に仕切り壁18をパターニング形成する。網目状の仕切り壁18を形成することで複数の囲繞領域19,19,…が形成されるが、各囲繞領域19においてアノード13が露出している。
【0080】
次いで、アノード13,13,…及び仕切り壁18に向けて酸素プラズマを照射してアノード13の表層をアッシングすることによって、アノード13,13,…の表層及び仕切り壁18の表層に付着した不純物等を除去する。
【0081】
次いで、アノード13,13,…及び仕切り壁18上に無機正孔注入層14を一面に成膜する。無機正孔注入層14の成膜方法は、第一実施形態における無機正孔注入層4の成膜方法と同様である。つまり、無機正孔注入層14がTaSiO系材料、TaSiON系材料又はTaSiONH系材料の場合にはスパッタリング法によって成膜し、無機正孔注入層14としてTaSiO系材料、TaSiON系材料又はTaSiONH系材料に一酸化ゲルマニウムを含ませる場合にはさらにPVD法又はCVD法によって一酸化ゲルマニウムを成膜する。
【0082】
無機正孔注入層14の成膜後、無機正孔注入層14に向けて酸素プラズマをアッシング装置で照射して無機正孔注入層14の表層をアッシングすることによって、無機正孔注入層14の表層に付着した不純物等を除去する。
【0083】
次いで、無機正孔注入層14上に発光層15を成膜するが、発光層15が高分子系材料の場合には、高分子系材料を溶融した溶液を無機正孔注入層14上に塗布することで発光層15を成膜し(湿式塗布法)、発光層15が低分子系材料の場合には、PVD法又はCVD法によって発光層15を成膜する。
【0084】
次いで、PVD法及びCVD法といった成膜方法によってカソード16を成膜する。カソード16の成膜後、封止樹脂、封止ガラスといった封止材でこれらEL素子11,11,…を封止する。
【0085】
以上のように製造されたEL表示パネル10では、画素回路が信号線51及び走査線52を介して入力した信号に従ってEL素子11に電流を流す。EL素子11においては、正孔はアノード13から無機正孔注入層14を介して発光層15へ正孔が注入され、電子はカソード16から発光層15へ注入される。そして、発光層15において正孔及び電子が輸送されて、発光層15にて正孔及び電子が再結合することによって発光層15で発光する。アノード13,13,…及び透明基板12が透明であるため、発光層15で発した光は透明基板12の裏面12bから出射し、裏面12bが表示面となる。
【0086】
以上のEL表示パネル10においては、無機正孔注入層14の成膜前にアノード13に対して酸素プラズマを照射しているため、無機正孔注入層14とアノード13の密着性が高くなり、更に、発光層15の成膜前に無機正孔注入層14に対して酸素プラズマを照射しているため、無機正孔注入層14と発光層15の密着性が高くなる。その上、発光層15とアノード13との間に無機正孔注入層が介在しているため、発光層15とアノード13との間で物性が安定している。従って、リーク電流及びダークスポットの発生を抑えることができる。
【0087】
また、無機正孔注入層14が高密度で高抵抗率であるから、アノード13、無機正孔注入層14及びカソード16が重なった領域のみで発光層15が発光する。つまり、発光層15は囲繞領域19内のみで発光する。従って、発光層15を画素ごとにパターニングしたり、カソード16を画素ごとにパターニングしたりしなくても済む。そのため、EL表示パネル10の製造方法が従来に比較しても簡略化される。
【0088】
特に、カソード16は、低仕事関数の材料で形成されているから、化学的に不安定であり、化学反応を起こしやすい。仮にカソード16をパターニングするためにレジストを塗布したり、レジストを除去するのに除去液を塗布したりすると、カソード16の物性が変化し、EL素子11の寿命が短かったり、EL素子11が発光素子として機能しなかったりする恐れもある。しかしながら、本実施形態では、無機正孔注入層14が設けられることで発光層15が各囲繞領域19で独立して発光するから、カソード16をパターニングせずとも済み、カソード16の物性変化を抑えられ、EL素子11の寿命劣化も抑えられる。つまり、EL素子11が不良で製造されず、EL表示パネル10の製造歩留まりを向上することができる。
【0089】
〔第三の実施の形態〕
次に、本発明に係るEL素子を単純マトリクス駆動方式のEL表示パネルに適用した場合について説明する。
【0090】
図14は、EL表示パネル110の平面図であり、図15は、図14の切断線S3−S4で破断して示した断面図である。
【0091】
EL表示パネル110は平板状の透明基板112を有しており、透明基板112の一方の面112a上には、縦方向に延在した複数のアノード113,113,…が帯状に形成されている。アノード113,113,…は、平面視して、ほぼ等間隔となって互いに平行に配列されている。
【0092】
また、透明基板112上には仕切り壁118が形成されており、仕切り壁118は平面視して網目状に形成されている。仕切り壁118の幅は、透明基板112に近づくにつれて大きくなっている。仕切り壁118は、絶縁性を有しており、例えば酸化シリコン又は窒化シリコンで形成されている。
【0093】
また、平面視して、仕切り壁118が網目状に形成されることで、仕切り壁118によって囲繞された複数の囲繞領域119が透明基板112上にマトリクス状に配列されたように形成される。平面視して、囲繞領域119は横方向に長尺な矩形状を呈しており、囲繞領域119の短辺はアノード113に対してほぼ平行になっている。そして、一つの囲繞領域119に対して三本のアノード113,113,113が交差するように、囲繞領域119,119,…及びアノード113,113,…が配列されている。平面視して仕切り壁118とアノード113が交差した部分では、アノード113が仕切り壁118と透明基板112との間に挟まれている。
【0094】
アノード113,113,…上にはそれぞれ無機正孔注入層114が成膜されている。無機正孔注入層114は仕切り壁118を境界として分離しているが透明基板112一面に形成されてもよい。このとき、無機正孔注入層114は仕切り壁118の段差により仕切り壁118の側壁で切断されるので、個々の画素毎に無機正孔注入層114が電気的に分離されている。いずれにしても隣り合った画素に正孔を注入してしまう誤作動が起こらない。
【0095】
各囲繞領域119内において無機正孔注入層114上には発光層115が形成されている。従って、平面視して、複数の発光層115,115,…がマトリクス状に配列されている。
【0096】
発光層115,115,…及び無機正孔注入層114上には、横方向に延在した複数のカソード116,116,…が帯状に形成されている。カソード116,116,…は、平面視して、ほぼ等間隔となって互いに平行に配列されている。平面視して、カソード116,116,…は、囲繞領域119の長辺に対してほぼ平行になっているとともに、アノード113,113,…に対して直交している。平面視して、横方向に一列に配列された複数の囲繞領域119,119,…の列に一つのカソード116が重なるように、囲繞領域119,119,…及びカソード116,116,…が配列されている。
【0097】
平面視して、各囲繞領域119内において一つのカソード116が三つのアノード113,113,113と交差しており、カソード116とアノード113の交差部111がEL素子となっている。カソード116とアノード113の交差部111において、透明基板112から順にアノード113、無機正孔注入層114、発光層115、アノード116が積層した積層構造となっているとともに、アノード113とカソード116が対向している。そして、これら交差部111,111,…が平面視してマトリクス状に配列されており、無機正孔注入層114が交差部111,111,…について連続して共通した層となっている。また、発光層115及びカソード116は、一つの囲繞領域119に含まれる三つの交差部111,111,111について連続して共通した層となっている。なお、アノード113、無機正孔注入層114、発光層115及びカソード116の成分は、それぞれ、上記第一実施形態のアノード3、無機正孔注入層4、発光層5及びカソード6の成分と同じである。
【0098】
EL表示パネル110の製造方法について説明する。
まず、PVD法及びCVD法といった成膜工程、フォトリソグラフィー法等といったマスク工程、エッチング法等といった薄膜の形状加工工程を適宜行うことによって、透明基板112の一方の面12a上に帯状のアノード113,113,…をパターニング形成する。
【0099】
次いで、PVD法及びCVD法等といった成膜工程、フォトリソグラフィー法等といったマスク工程、エッチング法といった薄膜の形状加工工程を行うことによって、網目状に仕切り壁118をパターニング形成する。ここで、アノード113,113,…に対して囲繞領域119の短辺が平行になるように且つ各囲繞領域119において三つのアノード113が露出するように、仕切り壁118を形成する。
【0100】
次いで、アノード113,113,…及び仕切り壁118に向けて酸素プラズマを照射してアノード113,113,…の表層をアッシングすることによって、アノード1113,113,…の表層及び仕切り壁118の表層に付着した不純物等を除去する。
【0101】
次いで、透明基板112の一方の面112a一面に無機正孔注入層114を成膜し、無機正孔注入層114でアノード113,113,…及び仕切り壁118を被覆する。無機正孔注入層114の成膜方法は、第一実施形態における無機正孔注入層4の成膜方法と同様である。つまり、無機正孔注入層114がTaSiO系材料、TaSiON系材料又はTaSiONH系材料の場合にはスパッタリング法によって成膜し、無機正孔注入層114としてTaSiO系材料、TaSiON系材料又はTaSiONH系材料に一酸化ゲルマニウムを含ませる場合にはさらにPVD法又はCVD法によって一酸化ゲルマニウムを成膜する。
【0102】
無機正孔注入層114の成膜後、無機正孔注入層114に向けて酸素プラズマを照射して無機正孔注入層114の表層をアッシングすることによって、無機正孔注入層114の表層に付着した不純物等を除去する。
【0103】
次いで、各囲繞領域119内に発光層115を成膜する。ここで、発光層115を囲繞領域119ごとにパターニングするには、インクジェットプリンティング技術を応用する。つまり、発光層115に含まれる有機化合物を溶媒で溶解してなる溶液をノズルヘッドに供給し、ノズルヘッドを透明基板112の上方で透明基板112に対して平行に移動させつつ、ノズルヘッドが囲繞領域119の直上に位置した場合にノズルヘッドから溶液を液滴として囲繞領域119内に一回又は複数回噴出する。液滴の噴出回数及び液滴の量は、囲繞領域119から溶液が溢れ出ない程度に考慮する。そして、囲繞領域119内に着弾した溶液の溶媒が蒸発することで、囲繞領域119に発光層115が形成される。このようにノズルヘッドを用いることで、各囲繞領域119内において発光層115を堆積し、発光層115で三つのアノード113,113,113を被覆する。
【0104】
次いで、PVD法及びCVD法等といった成膜工程、フォトリソグラフィー法等といったマスク工程、エッチング法といった薄膜の形状加工工程を行うことによって、平面視してアノード113に対して直交するような帯状のカソード116,116,…を発光層115,115,…上に成膜する。
カソード116,116,…の成膜後、封止樹脂、封止ガラスといった封止材でこれら透明基板112の一方の面212a側全体を封止する。
【0105】
以上のように製造されたEL表示パネル110は、アノード113、カソード116のそれぞれにタイミングを合わせて電圧を印加すると、アノード113とカソード116の交差部111において、正孔はアノード113から無機正孔注入層114を介して発光層115へ正孔が注入され、電子はカソード116から発光層115へ注入される。そして、発光層115において正孔及び電子が輸送されて、発光層115にて正孔及び電子が再結合することによって、交差部111において発光層115が発光する。
【0106】
以上のEL表示パネル110の製造中において、アノード113及び無機正孔注入層114に酸素プラズマを照射しているため、無機正孔注入層114とアノード113の密着性が高くなるとともに、無機正孔注入層114と発光層115の密着性が高くなる。その上、発光層115とアノード113との間に無機正孔注入層が介在しているため、発光層115とアノード113との間で物性が安定している。従って、リーク電流及びダークスポットの発生を抑えることができる。
【0107】
また、無機正孔注入層114が高密度で高抵抗率であるから、交差部111のみで発光層115が発光する。従って、交差部111ごとに発光層115をパターニングしなくても済む。そのため、EL表示パネル110の製造方法が従来に比較しても簡略化される。
【0108】
〔第四の実施の形態〕
次に、第三実施形態のEL表示パネル110とは別の単純マトリクス駆動方式のEL表示パネルについて説明する。
【0109】
図16は、EL表示パネル210の斜視図である。図16において、EL表示パネル210を部分的に破断して示している。
【0110】
EL表示パネル210は平板状の透明基板212を有しており、透明基板212の一方の面212a上には、横方向に延在した複数のアノード213,213,…が帯状に形成されている。アノード213,213,…は、平面視して、ほぼ等間隔となって互いに平行に配列されている。
【0111】
アノード213,213,…上には無機正孔注入層214が成膜されている。無機正孔注入層214は透明基板212一面に形成されており、アノード213,213間において透明基板212にも積み重なっている。
【0112】
無機正孔注入層214上には発光層215が積層されており、発光層215は透明基板212一面にわたって無機正孔注入層214を被覆している。発光層215上には、縦方向に延在した複数のカソード216,216,…が帯状に形成されている。カソード216,216,…は、平面視して、ほぼ等間隔となって互いに平行に配列されている。カソード216,216,…は平面視してアノード213,213,…に対して直交するように配列されており、カソード216とアノード213の交差部が平面視してマトリクス状に配列されている。カソード216とアノード213との交差部において、透明基板212から順にアノード213、無機正孔注入層214、発光層215、カソード216が積層した積層構造となっているとともに、アノード213とカソード216が対向している。つまり、アノード213とカソード216の交差部における積層構造がEL素子である。
【0113】
EL表示パネル210の製造方法について説明する。
まず、PVD法及びCVD法といった成膜工程、フォトリソグラフィー法等といったマスク工程、エッチング法等といった薄膜の形状加工工程を適宜行うことによって、透明基板212の一方の面212a上に帯状のアノード213,213,…をパターニング形成する。
【0114】
次いで、アノード213,213,…に向けて酸素プラズマを照射してアノード213,213,…の表層をアッシングすることによって、アノード213,213,…の表層に付着した不純物を除去する。
【0115】
次いで、透明基板212の一方の面212a一面に無機正孔注入層214を成膜し、無機正孔注入層214でアノード213,213,…を被覆する。無機正孔注入層214の成膜方法は、第一実施形態における無機正孔注入層4の成膜方法と同様である。
【0116】
次いで、無機正孔注入層214に向けて酸素プラズマを照射して無機正孔注入層214の表層をアッシングすることによって、無機正孔注入層214の表層に付着した不純物等を除去する。次いで、無機正孔注入層214上に発光層215を成膜するが、発光層215が高分子系材料の場合には、湿式塗布法によって発光層215を成膜し、発光層215が低分子材料の場合には、PVD法又はCVD法によって発光層215を成膜する。
【0117】
次いで、PVD法及びCVD法等といった成膜工程、フォトリソグラフィー法等といったマスク工程、エッチング法といった薄膜の形状加工工程を行うことによって、平面視してアノード213に対して直交するような帯状のカソード216,216,…を発光層215,215,…上に成膜する。
カソード216,216,…の成膜後、封止樹脂、封止ガラスといった封止材でこれら透明基板212の一方の面212a側全体を封止する。
【0118】
以上のように製造されたEL表示パネル210は、アノード213、カソード216のそれぞれにタイミングを合わせて電圧を印加すると、アノード213とカソード216の交差部において、正孔はアノード213から無機正孔注入層214を介して発光層215へ正孔が注入され、電子はカソード216から発光層215へ注入される。そして、発光層215において正孔及び電子が輸送されて、発光層215にて正孔及び電子が再結合することによって、アノード213とカソード216の交差部において発光層215が発光する。
【0119】
以上のEL表示パネル210では、第三実施形態と同様に、無機正孔注入層214とアノード213の密着性が高くなるとともに、無機正孔注入層214と発光層215の密着性が高くなるとともに、発光層215とアノード213との間で物性が安定している。従って、リーク電流及びダークスポットの発生を抑えることができる。更に、無機正孔注入層214が高密度で高抵抗率であるから、アノード213とカソード216の交差部のみで発光層215が発光する。アノード213,213,…とカソード216,216,…との各交差部で発光層215をパターニングせずとも、画素ごとの発光が可能になり、そのため、EL表示パネル210の製造方法が従来に比較しても簡略化される。
【0120】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
例えば、第二〜第四の実施の形態では、本発明の発光パネルをディスプレイ表示パネルに適用したものとして説明してきたが、線走査型のページプリンタの光源として用いることもできる。
【0121】
【発明の効果】
本発明によれば、一方の電極と有機化合物層との間に無機化合物層が挟まれることで、一方の電極と有機化合物層との間で密着性が高くなる。そのため、本発明に係るEL素子は、従来の有機EL素子と比較しても、発光効率が高いととともに寿命が長い。更に、発光した有機化合物層にはダークスポットが殆ど存在しない。
【0122】
また、酸素プラズマ照射によって無機化合物層の表層に付着された不純物等が除去されるとともに、酸素プラズマ照射によって一方の電極の表層に付着された不純物等が除去される。そのため、無機化合物層に対する有機化合物層の密着性が向上する。従って、製造されたEL素子は、従来の有機EL素子と比較しても、発光効率が高いととともに寿命が長い。更に、発光した有機化合物層にはダークスポットが殆ど存在しない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るEL素子を示した断面図。
【図2】TaSiO系材料の膜を成膜するときの雰囲気中の酸素濃度と、その膜の単位面積当たりの原子数との関係を示したグラフ。
【図3】TaSiON系材料の膜を成膜するときの雰囲気中のNの割合と、その膜の単位面積当たりの原子数との関係を示したグラフ。
【図4】TaSiO系材料及びTaSiON系材料についてX線回折分析を行った場合にX線のピークが発生するときの回折角と、TaSiO系材料及びTaSiON系材料の抵抗率との関係を示したグラフ。
【図5】TaSiON系材料からなる三つの試料について、成分元素の組成比と抵抗率を示したテーブル。
【図6】TaSiONH系材料について、成分元素の組成比と抵抗率を示したテーブル。
【図7】TaSiONH系材料について、水素の含有量と抵抗率との関係を示したグラフ。
【図8】本発明に係るEL素子の量子効率を従来の有機EL素子の量子効率と比較したグラフ。
【図9】本発明に係るEL素子及び従来の有機EL素子について、発光時間と輝度との関係を示したグラフ。
【図10】本発明に係るEL素子及び従来の有機EL素子について、発光時間と量子効率との関係を示したグラフ。
【図11】本発明に係るEL素子の発光効率・電圧・電流密度を従来の有機EL素子の発光効率・電圧・電流密度と比較したグラフ。
【図12】EL表示パネルを示した平面図。
【図13】図12に示された切断線S1−S2で破断して示した断面図。
【図14】図12に示されたEL表示パネルとは別のEL表示パネルを示した平面図。
【図15】図14に示された切断線S3−S4で破断して示した断面図。
【図16】図12又は図14に示されたEL表示パネルとは別のEL表示パネルを示した斜視図。
【符号の説明】
1、11  EL素子
2、12、112、212  透明基板(基板)
3、13、113、213  アノード(一対の電極のうちの一方)
4、14、114、214  無機正孔注入層(無機化合物層)
5、15、115、215  発光層(有機化合物層)
6、16、116、216  カソード(一対の電極のうちの他方)
10、110、210  EL表示パネル(発光パネル)
111  交差部

Claims (7)

  1. 互いに対向した一対の電極と、前記一対の電極間に介在した有機化合物層と、を備えるEL素子において、
    前記一対の電極のうちの一方の電極と前記有機化合物層との間に、構成元素としてTaとSiとOとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとHとを含む無機化合物の何れかからなる無機化合物層を形成したことを特徴とするEL素子。
  2. 請求項1に記載のEL素子が基板上に複数配列されてなる発光パネルであって、
    前記無機化合物層が前記複数のEL素子について連続して共通した層であることを特徴とする発光パネル。
  3. 前記有機化合物層が前記複数のEL素子について連続して共通した層であることを特徴とする請求項2に記載の発光パネル。
  4. 前記一対の電極のうちの他方の電極が前記複数のEL素子について連続して共通した層であることを特徴とする請求項2又は3に記載の発光パネル。
  5. 互いに対向した一対の電極と、前記一対の電極間に介在した有機化合物層と、前記一対の電極のうちの一方の電極と前記有機化合物層との間に介在した無機化合物層と、を備えるEL素子を製造するEL素子の製造方法であって、
    前記一対の電極のうちの一方の電極を形成する工程と、
    次いで前記一方の電極上に無機化合物層を形成する工程と、
    次いで前記無機化合物層に向けて酸素プラズマを照射する工程と、
    次いで酸素プラズマを照射した前記無機化合物層上に前記有機化合物層を形成する工程と、を含むことを特徴とするEL素子の製造方法。
  6. 前記一方の電極を形成した後に前記一方の電極に向けて酸素プラズマを照射してから、前記一方の電極上に前記無機化合物層を形成することを特徴とする請求項5に記載のEL素子の製造方法。
  7. 前記無機化合物層は、構成元素としてTaとSiとOとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとを含む無機化合物、構成元素としてTaとSiとOとNとHとを含む無機化合物の何れかから形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のEL素子の製造方法。
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