JP2004107944A - 鋼製構造物の補強方法 - Google Patents

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堀井 久一
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小牧 秀之
Hidetoshi Takagi
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Abstract

【課題】表面に強化繊維材料を接着する鋼製構造物の補強方法において、強化繊維材料の剥離を抑制すると共に、強化繊維材料による応力の鋼製構造物への伝達を損なわないようにすること。
【解決手段】架橋ゴム微粒子を分散させたエポキシ樹脂接着剤を介して強化繊維材料を接着し、鋼製構造物を補強する。
【選択図】図2

Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、表面に強化繊維材料を接着する構造物の補強方法に関するもので、梁、柱、煙突、管等の鋼製構造物を補強する場合に使用される。
【0002】
【従来技術とその問題点】
強化繊維材料を接着する補強方法は、コンクリート構造物に対して盛用されており、例えば特開平9−144338号公報において開示されている。
既設の鋼製建築物等においても、構造部材の経年変化による劣化のために、設計時の性能を保持できなくなったり、より優れた性能が求められる場合があるため、これらの構造物を補強、補修することが行われている。
【0003】
しかしながら、上記のコンクリート構造物に対する補強方法をそのまま鋼製構造物に採用しようとすると、コンクリート構造物と鋼製構造物とでは、負荷が掛かった場合の変形量が相違するため、強化繊維材料と鋼製構造物とを一体化させている接着剤層がその変形に追従することができず、剥離して両者の一体性が失われる可能性がある。
【0004】
鋼製構造物を補強するに際しては、破断し難く高い引張強度を有する強化繊維材料を鋼製構造物と一体化させ、鋼製構造物自身への負担を軽減させられるようにしておく必要がある。
エポキシ樹脂接着剤に液状ゴムや粉体ゴムなどのエラストマー成分を配合して弾性を付与すると、大きな変形に対して追従性を高めることができるものの、この場合には接着剤全体が柔らかくなるだけで、強化繊維材料による応力が接着剤層を介して鋼製構造物に伝達されないことになるので、補強効果を得ることはできない。
【0005】
【技術的課題】
本発明は、表面に強化繊維材料を接着する鋼製構造物の補強方法において、強化繊維材料の剥離を抑制すると共に、強化繊維材料による応力の鋼製構造物への伝達を損なわないようにすることを課題としたものである。
【0006】
【技術的手段】
この技術的課題を解決するための技術的手段は、(イ)架橋ゴム微粒子を分散させたエポキシ樹脂接着剤を介して強化繊維材料を接着し、(ロ)鋼製構造物を補強すること、である。
【0007】
硬化したエポキシ樹脂層には架橋ゴム微粒子が分散した海島構造となっているため、この樹脂層にかかる応力に対する緩衝がなく、応力の伝達と分散とが同時に発生してエポキシ樹脂層に対する応力集中が回避され、強化繊維材料が鋼製構造物から剥離するのを防止することができる。
したがって、このエポキシ樹脂接着剤が強化繊維材料と鋼製構造物との一体性を確保し、鋼製構造物に作用した負荷の強化繊維材料への伝達と、その負荷に対する強化繊維材料による応力の鋼製構造物への伝達とがバランスよく行われることになる。
【0008】
【本発明の効果】
強化繊維材料による応力の鋼製構造物への伝達を損なわずに強化繊維材料の剥離を抑制できる結果、高い強度を有する強化繊維材料が有効に働いて高い補強効果が得られる利点があり、柱、梁、煙突、管等の既存の鋼製構造物の強度やエネルギー吸収性能を向上させることができる。
【0009】
【実施の形態】
エポキシ樹脂接着剤は、鋼製構造物と強化繊維材料とを直接固着させる接着剤として使用する他、プライマーとしても使用することができる。
後者の場合、プライマー塗布後未硬化のまま、又は一旦硬化させた後に、同一又は異なる接着剤を用いて強化繊維材料を貼り合わせることができる。この場合、エポキシ樹脂系接着剤を使用して強化繊維材料を貼り合わせると、作業性も良く、強化繊維材料の有する強度を最大限に利用した補強を行うことができる。
【0010】
このエポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂等市販のものを使用することができる。
この樹脂は、二液、一液の双方のタイプを使用することができる。二液タイプの場合には、エチレンジアミン、ヘキサメチレントリアミンを代表とするポリアミン類や変性ポリアミン類さらにはポリアミドアミン類などが硬化剤として使用され、一液タイプの場合には、ケチミン化合物やオキサゾリジン化合物などの加水分解により活性水素を与えるエポキシ樹脂潜在性硬化剤が使用される。
【0011】
エポキシ樹脂接着剤中に分散させる架橋ゴム微粒子は、平均粒子径が100 μ以下の微粉末である。
この架橋ゴム微粒子としては、内殻がエラストマーであって、外殻が熱可塑性樹脂であるコアシェル構造のものを好適に使用することができる。熱可塑性樹脂およびエラストマーが一体化したコアシェル構造であれば、エポキシ樹脂内での良好な分散状態が得られるから、応力の伝達もより好ましいものとなる。
これらの架橋ゴム微粒子はすでに市販されており、スタフィロイドAC−3355,AC−3816,AC−3832,AC−4030,AC3364(武田薬品工業社製)、エポセットBPA328,BPF307 (日本触媒社製)、F−300 シリーズ(日本ゼオン社製)、アデカEPR−21(旭電化社製)、FX101P(JSR社製)、カネエースBシリーズ及びMシリーズ(鐘淵化学工業社製)などを使用することができる。
二液タイプのエポキシ樹脂接着剤の場合には、エポキシ樹脂及び/又はエポキシ樹脂硬化剤にあらかじめ混合して分散させておくと良い。
なお、架橋ゴム微粒子の配合量は特に限定されないが、エポキシ樹脂100質量部に対し15〜50質量部であることが好ましい。架橋ゴム微粒子が15質量部未満の場合には強化繊維材料の剥離を抑制する効果が不十分となり、50質量部を超える場合には塗布作業性が困難になる。補強効果と作業性をの双方を最適の状態におくためには、架橋ゴム微粒子の配合量を20〜30質量部としておくと良い。
【0012】
強化繊維材料を構成する繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維、又はこれらの組み合わせ等を挙げることができる。特に、軽量で且つ耐食性があることから、炭素繊維が好ましい。
強化繊維材料としては、a)強化繊維からなる二次元織物、b)経糸又は緯糸が強化繊維で他方が熱可塑性樹脂含有繊維からなる補助糸としたクロス状のシート、c)強化繊維を一方向に並べた上に熱可塑性樹脂からなるネットを重合させて熱融着させたシート等の形態のものを好適に使用できる。
【0013】
強化繊維を用いる場合のマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、又はこれらの組み合わせ等を使用することができる。
熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、メチルメタクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、又はこれらの組み合わせ等が使用でき、熱可塑性樹脂としてはナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はこれらの組み合わせ等が使用できるが、密着性の良好なものが望ましい。
なお、このマトリックス樹脂と接着剤とは、同じであっても良いし異なっていても良い。また、マトリックス樹脂と前記プライマーとが同一のものとなっても良い。
【0014】
強化繊維シートを貼り付ける作業においては、シートの表面を強化繊維方向に、さらに好ましくはシートの中心部から端部に強化繊維方向に沿ってゴムベラ、熱ロール、脱泡ロール等でしごき、マトリックス樹脂材料を強化繊維の中に含浸させ、且つ強化繊維中の空気を追い出し平滑に仕上げることが望ましい。
なお、これらの強化繊維材料に樹脂を含む材料を含浸して加熱硬化させ、板状に成形した繊維強化プラスチック板を使用することができる。この場合には現場での作業性を高められる利点がある。
【0015】
本発明の補強方法においては、マトリックス樹脂で固められた強化繊維材料の層上に、必要に応じてさらに上塗り層、仕上げ層等の他の層を設けることができる。例えば、強化繊維含有材料として強化繊維シートを用いた場合、強化繊維シートの貼付に先立ち下塗り層としてマトリックス樹脂材料を塗布し、強化繊維シートの貼付後に上塗り層としてマトリックス樹脂材料を塗布することにより、強化繊維シートとマトリックス樹脂とが複合した層を形成し、高い強度を得ることができる。
【0016】
【試 験 例】
200mm ×100mm ×2000mmの寸法であって、載荷点2及び支点部分3、3の側壁を5.5 mm厚の鋼板5、5で補強すると共に支点部分3、3の底面を同じく5.5 mm厚の鋼板6、6で補強した梁用のI鋼を試験体1として、本発明の補強方法を適用し試験した(図1参照)。
この試験においては、JSR社製コアシェル型架橋ゴム微粉末(FX101P)を使用した。市販のエポキシ樹脂100 質量部にこのゴム微粉末20質量部を加え、90℃3時間の条件下でホモジナイザーを用いて均一分散させた。冷却後にエポキシシランカップリング剤0.5 質量部を混合して主剤を得た。
他方、前記主剤120.5 質量部に対して、硬化剤として市販のポリアミン60質量部を使用時に混合してプライマーとして使用した。
【0017】
試験体1の底面の長さ1600mm(中央部)、幅全面にわたって、上記エポキシ系プライマーを塗布量が0.2kg /m となるように塗布してプライマー層を形成し、その上に強化繊維シート4(商品名HT300 、新日本石油社製)を、繊維方向が長手方向となるようにして、エポキシ系の常温硬化樹脂(ボンドE2500、コニシ社製)をゴムベラによってしごきながら、5層重ねて接着させた(実施例a)。
強化繊維シート4を貼り付けて1週間養生させた後、図1に示したように試験体1に支点3、3を当て、支点間距離1800mmの単調載荷を負荷して静的載荷試験を実施した。
実施例aで用いたものと同一の試験体であって、何ら補強を施さなかったものを比較例bとし、プライマー層を形成しなかった以外は実施例aと同様にしたものを比較例cとして、それぞれ同じ静的載荷試験を行った。
【0018】
表1はその結果を示したものである。
(表1)
Figure 2004107944
なお、図2は、実施例aおよび比較例b、cの試験結果について、試験体中央部の変位と加重の関係(荷重−変位曲線)を示したものである。
【0019】
実施例aは、比較例bに比べて最大荷重が約1.2倍になっており、その破壊状態も曲げ破壊(I鋼引張側すなわち強化繊維含浸材料を設けた側での破壊)からI鋼圧縮側の座屈破壊(強化繊維含浸材料を設けた側は破壊しなかったこと)に改善されている。
図2からも、実施例aの荷重−変位曲線の立ち上がりの傾きは、比較例bに対して大きくなっており、このことからも強化繊維含浸材料と鋼製構造物が一体化しているが確認でき、高い補強効果があることがわかる。
また、図2における各々の変曲点は、鋼製構造物が降伏したことを示しているが、実施例aに係る補強方法では、変曲点後も順調に推移し、最大荷重を迎えた後も強化繊維含浸材料が剥離することなく、圧縮側の座屈破壊となっている。
【0020】
実施例aは、比較例cに比べて、最大荷重が高くなっており、その破壊状態も強化含浸材料の剥離破壊(プライマー層が作用した負荷に対する鋼製構造物の変形に追従できなかったこと)からI鋼圧縮側の座屈破壊に改善されている。
このことは図2からも示され、実施例aの荷重−変位曲線の立ち上がりの傾きは、比較例cに対して大きくなっており、鋼製構造物と強化繊維材料とはプライマーを介して一体化し、変曲点前の変形が小さい範囲では、補強されていることが解る。しかし、比較例cは変曲点を過ぎて鋼製構造物に大きな変形が生じ始めると、少しして最大荷重を迎え、その後すぐに強化繊維材料が剥離している。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験方法を示すための説明図
【図2】荷重−変位曲線図
【符号の説明】
1試験体、 2載荷点、 3支点、 4強化繊維材料、 5、6 補強鋼板

Claims (4)

  1. 表面に強化繊維材料を接着する構造物の補強方法において、架橋ゴム微粒子を分散させたエポキシ樹脂接着剤を介して強化繊維材料を接着する鋼製構造物の補強方法。
  2. 請求項1に記載のエポキシ樹脂接着剤ををプライマーとして使用する鋼製構造物の補強方法。
  3. 架橋ゴム微粒子として内殻がエラストマーであって、外殻が熱可塑性樹脂であるコアシェル構造のものを使用する請求項1又は2に記載の鋼製構造物の補強方法。
  4. 強化繊維材料が、強化繊維シートと繊維強化プラスチック板から選択される請求項1、2又は3に記載の鋼製構造物の補強方法。
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