JP2004105580A - 医療用具およびその製造方法 - Google Patents

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天野 健一
Tomokazu Sano
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Abstract

【課題】湿潤時の表面潤滑性を有することはもちろんのこと、その耐久性を実現できる被膜を有し、かつその被膜に抗血栓性を付与して、各基材に対してその被膜を形成することのできる医療用具およびその製造方法を提供する。
【解決手段】合成樹脂からなる医療用具の基材表面に、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を基材を膨潤させうる有機溶媒に溶解した被覆用溶液を塗布し、さらに線維素溶解活性酵素を含ませて形成した湿潤潤滑性の耐久性に優れた被膜を有し、その後する電子線により滅菌処理を施した医療用具であり、その製造方法である。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば血管内留置用カテーテルなどの医療用具の表面において、湿潤時に潤滑性を有する被膜を備えた医療用具およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
医療用具技術の発展に伴って、その医療用具自体の用途は多様化しており、特に気道、血管、尿道その他体腔あるいは組織中に挿入するカテーテル、さらにはこれに挿入して使用するガイドワイヤー等の医療用具は、挿入時に粘膜を損傷したり炎症を引き起こしたりすることを避け、また治療を受ける患者の苦痛を軽減するために優れた潤滑性が要求されている。このため、摩擦抵抗を少なくする工夫として用具表面にシリコーンオイル、オリーブオイル、グリセリン等を塗布していたが、その持続性や保存性の点から十分ではなかった。
【0003】
そこで、このような欠点を解決する方法として、高分子材料からなるカテーテル、ガイドワイヤー等の医療用具の用具基材を、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体などの用具基材を膨潤させうる極性溶液に浸漬し、乾燥後、水処理することで、その表面に潤滑性被膜を形成し、湿潤時に表面が潤滑性を発現するようにした医療用具がある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特許第2804200号公報(第3〜5頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような特許公報1の医療用具は、例えば使用時において血管への挿抜操作を繰り返し行うと、その繰り返し応力によって表面潤滑性が低下する傾向があり、耐久性の面で問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、湿潤時の表面潤滑性を有することはもちろんのこと、その耐久性を実現できる被膜を有し、かつその被膜に抗血栓性を付与して、各基材に対してその被膜を形成することのできる医療用具およびその製造方法を提供することを目的としたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る医療用具は、合成樹脂からなる医療用具の基材表面に、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を基材を膨潤させうる有機溶媒に溶解した被覆用溶液を塗布し、さらに線維素溶解活性酵素を含ませて形成した湿潤潤滑性の耐久性に優れた被膜を有するものである。
【0008】
本発明に係る医療用具は、線維素溶解活性酵素をウロキナーゼとしたものである。
【0009】
本発明に係る医療用具は、基材を構成する合成樹脂を、ポリウレタンまたはポリ塩化ビニルとしたものである。
【0010】
本発明に係る医療用具の製造方法は、合成樹脂からなる医療用具の基材表面に、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を基材を膨潤させうる有機溶媒に溶解した被覆用溶液を塗布し、さらに線維素溶解活性酵素を含む溶液を含浸して線維素溶解活性酵素を含ませることにより湿潤潤滑性の耐久性に優れた被膜を形成する方法である。
【0011】
本発明に係る医療用具の製造方法は、基材表面に被覆用溶液を塗布した後に、室温から80℃の範囲内の乾燥温度で乾燥処理して被膜を形成し、アルカリ処理した後、線維素溶解活性酵素を含む溶液を含浸して乾燥する方法である。
【0012】
本発明に係る医療用具の製造方法は、被膜に線維素溶解活性酵素を含ませた後に、電子線滅菌する方法である。
【0013】
本発明に係る医療用具の製造方法は、線維素溶解活性酵素をウロキナーゼとする方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明による医療用具は、合成樹脂からなる基材を、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を基材を膨潤させうる有機溶媒に溶解した被覆用溶液に浸漬することにより、基材表面に被膜を形成し、その後、線維素溶解活性酵素を含む溶液に浸漬することにより、被膜中に線維素溶解活性酵素を取り込む。そして、この被膜は、湿潤時における表面潤滑性を有するとともに、その耐久性を発現し、かつ抗血栓性を発現する。
【0015】
このような被膜を形成するための被覆用溶液および被膜を有する医療用具の製造方法は、以下の通りである。
(1)メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を、基材を膨潤させうる有機溶媒であるアセトンに溶解し、被覆用溶液を作製する。
(2)ポリウレタンまたはポリ塩化ビニルの合成樹脂からなる基材の表面に、浸漬法により、被覆用溶液を塗布する。
(3)塗布した基材を室温から80℃の範囲内の乾燥温度で乾燥処理して溶媒を除去し、被膜を形成する。
(4)被膜が形成された基材を例えば水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して中和のためのアルカリ処理を行い、水洗いをし、乾燥する。
(5)その後、基材を線維素溶解活性酵素であるウロキナーゼを含む生理食塩水に浸漬し、引き上げ後水洗いをして室温により乾燥処理し、ウロキナーゼを含む被膜を形成する。そして、電子線を照射して基材を滅菌する。
【0016】
こうして得られた医療用具の被膜の表面潤滑性と、その耐久性とについて、以下に実施例を用いて説明する。
【0017】
【実施例】
[実施例1]
被覆用溶液であるメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(商品名:Gantrez AN−139、ISP(INTERNATIONAL SPECIALTY PRODUCTS)社製)2.0%アセトン溶液に、エタノール10%を含む水溶液に5時間浸漬して表面を洗浄し室温で一晩真空乾燥した基材を、室温で30分浸漬し、引き上げ後室温で一晩真空乾燥した。ついで、0.1NのNaOH水溶液に3分間浸漬し、引き上げ後水洗いをして乾燥し、ウロキナーゼを600単位/ml含む5℃の酸性生理食塩水(pH=4.6)に24時間浸漬し、引き上げ後蒸留水にて洗浄し、室温にて一晩真空乾燥して、基材表面に被膜を形成した。そして、被膜を含む基材表面に40kGyの電子線を照射して滅菌した。
【0018】
[実施例2]
実施例1と同様に基材表面にウロキナーゼを含む被膜を形成し、実施例1の電子線照射滅菌に代えて、エチレンオキサイドガスを加圧して基材に与え、滅菌した。
【0019】
なお、実施例1,2の基材は、いずれも直径が16Gで全長が30cmのポリウレタン(商品名:Tecoflex、Thermedics社製)からなるチューブとした。
そして、表面に被膜が形成されたチューブに対して、次のような表面潤滑性試験を行った。その結果を表1に表す。
【0020】
[表面潤滑性試験]
(a)チューブを1分間生理食塩水に浸漬した後、手感で被膜の初期潤滑性について評価した。評価結果は潤滑性が高い順から「◎」「○」「△」「×」とした。
(b)チューブを50℃の蒸留水に24時間浸漬した後、手感で被膜の温水浸漬に対する潤滑耐久性について評価した。評価結果は上記の(a)と同様である。
【0021】
【表1】
Figure 2004105580
【0022】
なお、比較例1乃至3は次の通りであり、比較例3は、基材の表面にいずれの被膜も形成されていないものとする。また、比較例1,2の基材も、実施例と同様にいずれも直径が16Gで全長が30cmのポリウレタンからなるチューブとし、上述の表面潤滑性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0023】
[比較例1]
被覆用溶液であるメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(商品名:Gantrez AN−139、ISP(INTERNATIONAL SPECIALTY PRODUCTS)社製)2.0%アセトン溶液に、エタノール10%を含む水溶液に5時間浸漬して表面を洗浄し室温で一晩真空乾燥した基材を、室温で30分浸漬し、引き上げ後室温で一晩真空乾燥した。ついで、0.1NのNaOH水溶液に3分間浸漬し、引き上げ後水洗いをして室温で一晩真空乾燥し、基材表面に被膜を形成した。そして、被膜を含む基材表面に40kGyの電子線を照射して滅菌した。
【0024】
[比較例2]
比較例1と同様に基材表面に被膜を形成し、比較例1の電子線照射滅菌に代えて、エチレンオキサイドガスを加圧して基材に与え、滅菌した。
【0025】
表1からわかるように、試験(a)の初期潤滑性については、実施例1および比較例1が高い潤滑性を示し、実施例2および比較例2はやや低下するものの、十分な潤滑性を示した。なお、この低下の原因は確認できていないが、エチレンオキサイド滅菌中に被膜とエチレンオキサイドガスの間に化学反応が生じている可能性があると考えられる。よって、実施例2および比較例2でも潤滑性は十分に発現できるが、実施例1および比較例1のように電子線滅菌を行うほうが潤滑性が低下せず好ましい。
したがって、実施例1および比較例1、ついで実施例2および比較例2は初期潤滑性に優れ、実用性の高いものであると言える。
【0026】
また、試験(b)の温水浸漬による被膜の潤滑耐久性については、実施例1および実施例2が初期同様の高い潤滑性を示し、被膜にウロキナーゼが取り込まれた場合、50℃の蒸留水に24時間浸漬後も初期の潤滑性を維持することがわかる。これは、確認はできていないが、ウロキナーゼによるメチルビニルエーテル無水マレイン酸の架橋あるいは分子間のしがらみの増加が生じている可能性があると考えられる。これに対して比較例1および比較例2は、部分的に全く潤滑性が感じられない部分があり、その他の部分でも初期の潤滑性に比べて大幅に潤滑性が低下しているのが見られた。
よって、実施例1および実施例2は潤滑耐久性に優れ実用性の高いものであると言える。
【0027】
さらに、実施例1および実施例2においては、被膜中にウロキナーゼを取り込んだため、抗血栓性も観察された。
【0028】
以上のことから、実施例1および実施例2は、湿潤潤滑性を有する被膜中にウロキナーゼを取り込むことによって潤滑耐久性の向上が図れ、実用的な潤滑耐久性を持つ被膜が得られ、併せて抗血栓性も付与されるとともに、ウロキナーゼの活性を維持しやすい電子線滅菌方法を用いることで、実用的な表面の潤滑性を発現する被膜が得られる。そして、この被膜は、上述のように低温加熱処理でかつ簡単な処理工程によって形成することができるとともに、カテーテル等を含む各種の基材に対しても形成可能な製造方法である。
【0029】
なお、上述の実施例では基材をポリウレタンで構成した場合を示したが、ポリ塩化ビニルで構成してもよい。この場合も同様の効果を奏する。
【0030】
【発明の効果】
以上のように本発明に係る医療用具は、合成樹脂からなる医療用具の基材表面に、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を基材を膨潤させうる有機溶媒に溶解した被覆用溶液を塗布し、さらに線維素溶解活性酵素を含ませて形成した湿潤潤滑性の耐久性に優れた被膜を有するので、湿潤時に耐久性の良い表面潤滑性を発現することができる。また、線維素溶解活性酵素を含むため抗血栓性も発現することができ、実用性の高い医療用具を得ることができる。
【0031】
本発明に係る医療用具は、線維素溶解活性酵素をウロキナーゼとしたので、抗血栓性だけでなく表面潤滑性の耐久性を向上させることができる。
【0032】
本発明に係る医療用具の製造方法は、合成樹脂からなる医療用具の基材表面に、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を基材を膨潤させうる有機溶媒に溶解した被覆用溶液を塗布し、さらに線維素溶解活性酵素を含む溶液を含浸して線維素溶解活性酵素を含ませることにより湿潤潤滑性の耐久性に優れた被膜を形成する方法であるので、湿潤時に耐久性の良い表面潤滑性および抗血栓性を有する被膜を簡単な処理工程で安定的に形成することができ、実際の大量生産製品への適用が可能である。
【0033】
本発明に係る医療用具の製造方法は、基材表面に被覆用溶液を塗布した後に、室温から80℃の範囲内の乾燥温度で乾燥処理して被膜を形成し、アルカリ処理した後、線維素溶解活性酵素を含む溶液を含浸して乾燥する方法であるので、上記と同様の効果を得ることができる。
【0034】
本発明に係る医療用具の製造方法は、被膜に線維素溶解活性酵素を含ませた後に、電子線滅菌する方法であるので、滅菌によって被膜の湿潤潤滑性およびその耐久性を低下させるおそれのない医療用具を製造することができる。
【0035】
本発明に係る医療用具の製造方法は、線維素溶解活性酵素をウロキナーゼとする方法であるので、医療用具の表面に湿潤潤滑性の耐久性に優れた被膜を簡単な処理工程で安定的に形成することができる。

Claims (7)

  1. 合成樹脂からなる医療用具の基材表面に、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を前記基材を膨潤させうる有機溶媒に溶解した被覆用溶液を塗布し、さらに線維素溶解活性酵素を含ませて形成した湿潤潤滑性の耐久性に優れた被膜を有することを特徴とする医療用具。
  2. 線維素溶解活性酵素をウロキナーゼとしたことを特徴とする請求項1記載の医療用具。
  3. 基材を構成する合成樹脂を、ポリウレタンまたはポリ塩化ビニルとしたことを特徴とする請求項1または2記載の医療用具。
  4. 合成樹脂からなる医療用具の基材表面に、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を前記基材を膨潤させうる有機溶媒に溶解した被覆用溶液を塗布し、さらに線維素溶解活性酵素を含む溶液を含浸して線維素溶解活性酵素を含ませることにより湿潤潤滑性の耐久性に優れた被膜を形成することを特徴とする医療用具の製造方法。
  5. 基材表面に被覆用溶液を塗布した後に、室温から80℃の範囲内の乾燥温度で乾燥処理して被膜を形成し、アルカリ処理した後、線維素溶解活性酵素を含む溶液を含浸して乾燥することを特徴とする請求項4記載の医療用具の製造方法。
  6. 被膜に線維素溶解活性酵素を含ませた後に、電子線滅菌することを特徴とする請求項4または5記載の医療用具の製造方法。
  7. 線維素溶解活性酵素をウロキナーゼとすることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の医療用具の製造方法。
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