JP2004105143A - フジツボ第7接着蛋白質遺伝子 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アカフジツボのセメント中に含まれる19kDaの蛋白質、及びそれをコードする遺伝子。
【選択図】 なし。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は水中や湿潤な環境で使用できる接着剤の原料となる蛋白質を組み換えDNA技術を用いて製造するために用いるDNAに関する。接着蛋白質をコードするDNAを組み込んだ組み換え体DNAを含む微生物や培養細胞を培養液中で培養し、該培養物中に蓄積される該蛋白質を採取することにより、得られる該蛋白質は、接着剤の原料や細胞培養の基質として広い用途で利用されることが期待される。
【0002】
【従来の技術】
乾燥条件下で強い接着力を示す接着剤は様々な種類のものが開発されている。そのうちの多くのものは一旦乾燥条件下で接着してしまえば湿潤環境におかれてもその強度を維持できる。しかし、湿潤な条件下や水中で接着を開始した場合、有効な強度に達することができる接着剤は存在しなかった。
【0003】
フジツボは、セメントと呼ばれる蛋白質を主成分とする物質を基盤に分泌して、海水中で強く付着することができる。この蛋白質は難溶解性複合体であるが、その可溶化法が開発され(Kamino, K. et al. J.Biol.Chem. (2000) 275, 27360−27365)、6種類の蛋白質が構成蛋白質として認識されている。それら6種の蛋白質に関しては、アカフジツボ(Megabalanus rosa)及びタテジマフジツボ(Balanusamphitrite)から遺伝子が単離されている。これら6種の遺伝子は、それぞれフジツボ接着蛋白質遺伝子(特許文献1参照)、フジツボ第2接着蛋白質遺伝子(特許文献2参照)、フジツボ第3接着蛋白質遺伝子(特許文献3参照、非特許文献1参照)、フジツボ第4接着蛋白質遺伝子(特許文献4参照)、フジツボ第5接着蛋白質遺伝子(特許文献5参照)、フジツボ第6接着蛋白質遺伝子(特許文献6参照)と命名されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平7−265081号公報
【特許文献2】
特開平9−47288号公報
【特許文献3】
特開平9−299089号公報
【特許文献4】
特開平10−327867号公報
【特許文献5】
特開平11−332572号公報
【特許文献6】
特開平11−332573号公報
【非特許文献1】
Kamino K. Biochemical J.(2001) 356, 503−507
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上のようにフジツボ接着蛋白質遺伝子は既に幾つか報告されているが、未だ知られていない接着蛋白質遺伝子が存在する可能性もある。
【0006】
本発明は、以上のような技術的背景の下になされたものであり、新規なフジツボ接着蛋白質遺伝子を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、セメント蛋白質由来の19kDaの蛋白質を単離、その部分アミノ酸配列をまず決定し、それをもとに新たな接着蛋白質(以下、「フジツボ第7接着蛋白質」という)をコードするcDNAを単離することに成功し、さらにその塩基配列を決定して本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(a)〜(c)に示す蛋白質である。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表される蛋白質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、かつ接着性を有する蛋白質
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするアカフジツボ由来の蛋白質であって、接着性を有する蛋白質
また、本発明は、上記の蛋白質をコードする遺伝子である。
【0009】
更に、本発明は、上記の遺伝子を含む微生物又は培養細胞を培養し、培養物中に蓄積される蛋白質を採取することを特徴とする上記の蛋白質の生産方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の蛋白質には、以下の(a)〜(c)に示す蛋白質が含まれる。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表される蛋白質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、かつ接着性を有する蛋白質
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするアカフジツボ由来の蛋白質であって、接着性を有する蛋白質
【0012】
(a)の蛋白質は、アカフジツボ由来の第7接着蛋白質である。
【0013】
(b)の蛋白質は、(a)の蛋白質に、接着性を失わせない程度の変異が導入された蛋白質である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487−6500, 1982)などを挙げることができるが、これに限定されるわけではない。変異アミノ酸の数は、接着性を失わせない限り、その個数は制限されないが、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内であり、最も好ましくは5アミノ酸以内である。
【0014】
(c)の蛋白質は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られるアカフジツボ由来の第7接着蛋白質である。(c)の蛋白質における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度であり、好ましくは「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度であり、更に好ましくは「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、配列番号1記載の塩基配列で表されるDNAと通常高い相同性を有する。高い相同性とは、60%以上の相同性、好ましくは75%以上の相同性、更に好ましくは90%以上の相同性を指す。
【0015】
本発明の蛋白質は、例えば、以下のような方法により得られる。まず、フジツボ第7接着蛋白質を得るために、フジツボの底殻より分泌されるセメントを集め7Mグアニディン塩酸水溶液等により可溶化される画分を遠心により上清として回収する。この可溶化画分を二次元電気泳動によって分離し、PVDF膜に電気的に転写後、19kDaのスポットを切り出し、プロテインシークエンサーによりアミノ末端からのアミノ酸配列を決定する。フジツボ全組織をチオシアン酸グアニディン等により可溶化し、フェノール/クロロホルムによる抽出を行い、イソプロパノールにより沈殿させることにより全RNAを得ることができる。全RNAを得る方法はこの方法に限定されるものではなく、LiCl沈殿法や塩化セシウム溶液に重層して遠心することによっても得られる。全RNAから、オリゴdTセルロースカラムを用いてポリアデニル酸鎖を有するRNA(ポリA−RNA)を調製する。このポリA−RNAを鋳型として逆転写酵素を用いて2本鎖DNAを調製する。この2本鎖DNAの合成はS1ヌクレアーゼ法やオカヤマーバーグ法により行ないえるが、市販のcDNA合成キットを用いて合成することも可能である。次いで、得られたcDNAを適当なベクターに挿入し、このベクターを適当な宿主に導入して増幅させると共に目的のDNAを持つクローンを選択する。ベクターはλファージ由来の各種ベクターたとえばλgt10やλZapIIなど、あるいはpBR322等のプラスミドベクターを用いることができる。目的クローンの選択には、セメント蛋白質由来の断片ペプチド部分アミノ酸配列の一部に相当するオリゴヌクレオチドを合成してプローブとして用い、これに強く結合するクローンを選択すればよい。配列の決定はサンガー法やマキサム−ギルバート法等の一般的な方法によって決定できる。以上の手順により翻訳開始コドンから終始コドン、さらにポリアデニル酸鎖付加シグナルを含む第7接着蛋白質cDNAの全長を単離することができる。
【0016】
単離した配列は適当な発現ベクターに挿入し、微生物や培養細胞に導入して発現させることにより、当該蛋白質を大量調製することが可能である。この際、当該DNAはシグナル部分を含むため、当該蛋白質を宿主細胞外に分泌させることができる。また、シグナル部分を除去して適当なベクターに組み込んで用いることにより細胞内で生産させることも可能である。
【0017】
【実施例】
〔実施例1〕 アカフジツボ第7接着蛋白質の部分アミノ酸配列の決定
岩手県宮古市宮古湾で採取したアカフジツボの底殻より分泌されるセメントを集め、7Mグアニディン塩酸水溶液に懸濁した。200000Xgで1時間遠心し、得られた上清を0.1%酢酸水溶液に4度で透析し、ドライアップ後、それを2次元電気泳動で分離し、PVDF膜に電気的に転写後、分子量19kDaに相当するスポットのアミノ酸配列を決定した。
【0018】
〔実施例2〕 アカフジツボcDNAライブラリーの作製
岩手県宮古市宮古湾で採取した底殻直径4−5cmのアカフジツボ10個体をチオシアン酸グアニディン、クエン酸ナトリウム、N−ラウリルザルコシン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール等の溶液中で組織を機械的に破砕し、フェノール及びクロロホルムによる抽出を行なって、蛋白質などを除去した後、イソプロパノールを加えて沈殿させることにより全RNAを抽出し、オリゴdTセルロースカラムに導通してポリアデニル酸鎖を有するRNA(ポリA−RNA)を調製した。この操作により約2μgのポリA−RNAが得られた。次にこのポリA−RNAを鋳型として逆転写酵素を用いて2本鎖cDNAを調製した。この操作はアマシャム社のcDNA合成キットを用いて添付のプロトコールに従って行なった。次いで得られた2本鎖DNAにEcoRI−NotI−BamHIアダプターを付加し、ファージベクターλZapIIに挿入した。この操作は、アマシャム社のcDNA合成システムを用いて添付のプロトコールに従って行なった。挿入の完了したファージベクターは同キットに添付のインビトロパッケージング溶液を用いて組み換えDNAをファージ内に封入させた。封入の完了した組み換えファージは、大腸菌XL−I blueに感染させ、増幅した。
【0019】
〔実施例3〕 接着蛋白質cDNAを含む組み換えファージの選択
実施例2で得られた組み換えファージを増幅させ、得られた2万個のプラークをナイロンメンブレン ハイボンドN+(Amersham社)上に固定した。次いでアカフジツボのセメント蛋白質N末端配列の一部に相当するオリゴヌクレオチドプローブGT(A,G,T,C)CC(A,G,T,C)CC(A,G,T,C)CC(A,G,T,C)TG(T,C) GA(T,C)(T,C)TおよびAC(A,G,T,C)CC(T,C)TT(T,C)TG(T,C)TT(A,G,T,C)AC(T,C)TTを合成し、それをプライマーに、アカフジツボcDNAを鋳型にしたPCRで53bpのDNAを増幅した。これをランダムプライムキット(Takara社)とα32P−ATPにより標識し、プラークハイブリダイゼーションを行なった。その結果、2万クローンより、プローブと結合する5個のプラークが得られた。EXASSIST system (Stratagene社)を用いてプラスミドベクターを切り出し、これらに挿入されているcDNAの長さをアガロース電気泳動により調べ、最も長い挿入断片を持つものについて配列を決定した。
【0020】
〔実施例4〕 接着蛋白質遺伝子の配列決定
実施例3で得られた挿入断片の配列をアプライドバイオシステムズ社製3700−DNAシーケンサー及びシーケンシングキットを用いて配列を決定した。その結果、この挿入断片が第7接着蛋白質の成熟体の全長を含む配列であることが判明した。得られた接着蛋白質遺伝子は配列番号1に示した通り、成熟体のN末端アミノ酸から翻訳終了コドンまで173アミノ酸配列(配列番号2に示す)をコードする全長750 bpの配列である。
【0021】
なお、この第7接着蛋白質遺伝子を含む微生物は、平成14年9月17日付けで独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−19015として寄託されている。
【0022】
【発明の効果】
本発明はフジツボ由来の新たな接着蛋白質遺伝子を提供する。本発明の遺伝子から作られる蛋白質は、接着剤の原料として極めて有用である。
【0023】
【配列表】
Claims (3)
- 以下の(a)〜(c)に示す蛋白質。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表される蛋白質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、かつ接着性を有する蛋白質
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするアカフジツボ由来の蛋白質であって、接着性を有する蛋白質 - 請求項1記載の蛋白質をコードする遺伝子。
- 請求項2記載の遺伝子を含む微生物又は培養細胞を培養し、培養物中に蓄積される蛋白質を採取することを特徴とする請求項1記載の蛋白質の生産方法。
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