JP2004100079A - 特殊複合紡績糸及び織編物 - Google Patents

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Abstract

【課題】低コスト,高汎用性及び環境問題に対応可能であり、さらにセルロース系繊維の吸湿性,耐久性,快適着衣性などの機能面、獣毛繊維の高級感,嵩高感,仕立て映えなどの感性面を同時に表現できる高付加価値素材の提供、並びに従来から、獣毛繊維単独あるいは他糸との混紡糸は、獣毛繊維のチクチクした感触が原因でインナー用途への展開が困難であったので、本発明は、獣毛繊維の特徴を活かしつつ、かかるインナー用途への展開を図れる高付加価値素材の提供を技術的課題とする。
【解決手段】芯鞘構造を有する紡績糸において、芯部へ獣毛繊維を配し、鞘部へ少なくともセルロース系繊維を含む短繊維糸条を配したことを特徴とする特殊複合紡績糸。並びに該特殊複合紡績糸を少なくとも構成糸の一部とする織編物。
【選択図】   なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、芯部へ獣毛繊維を配し、鞘部へ少なくともセルロース系繊維を含む短繊維糸条を配した特殊複合紡績糸、及び該特殊複合紡績糸を少なくとも構成糸の一部とする織編物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
衣料用素材は、トレンド(流行)に見合ったコンセプトで商品開発を行うことは周知であるが、トレンドには大きく二つの流れがあり、一つは感覚,質感といった素材本来に由来する感性に関するもの、もう一つは物性,性能などの機能に関するものがある。このトレンドは、当該時期の社会背景,商況に応じ、かかるいずれかの要素が強く反映され形成されるため、従来から相反するいずれのトレンドにも対応できる素材が望まれている。
【0003】
この要望に対し、もっとも対応できた素材はポリエステル繊維である。それは近年「新合繊」なる名称で普及している。確かにこの「新合繊」は、感性,機能の両面で充実しているが、合成繊維を天然繊維へ近づける技術思想が元来の原理であり、高い質感を追求すればそれだけ高次加工が必要となる。したがって天然繊維のそれと同格以上に仕上げれば、かえってコスト高になる問題が生じ、用途が高級ゾーンに限定されるなど汎用性にやや課題があった。また近年、志向の多様化が進み、従来の如く、トレンドを予測しそれに基づいた方針で開発を推進するといった手法が採用しづらくなる中、汎用性の高い素材、とりわけ本来の素材(天然繊維・再生繊維)を活かし、ここ数年来特に関心の高まる環境問題にも対応可能な高付加価値商品の出現が切望されている。
【0004】
そこで天然及び再生繊維に目を向けると、セルロース系繊維は、吸湿性,耐久性,快適着衣性といった機能面、獣毛繊維は高級感,嵩高感,仕立て映えといった感性面に優れ、両者の特徴を表現できる素材の開発が進められている。獣毛繊維は、洗濯時、その繊維表面の燐片状構造(スケール)により、繊維間の絡み合いが生じ、著しい収縮やピリング発生などの問題に加え繊維自身の耐久性低下など機能面において短所があり、これを解決するため、獣毛繊維に類似する風合い,感触をもつアクリル繊維のポリマーを改質して抗ピル性を向上させ、柔軟性と耐久性を向上させたアクリル系紡績糸が提案されている。(特許文献1参照)
この紡績糸はセルロース系繊維を混紡することで、機能・感性の両面で優れた特性を発揮できるが、前記環境問題には対応できない課題を残した。
【0005】
また、かかる環境問題にも対応できる手段として、特定の繊維長及び所定の重量割合で混紡された綿/羊毛混紡糸を、空気仮撚装置に供給してなる結束紡績糸が提案されている。(特許文献2参照)この紡績糸は、綿と羊毛の特性に加え、空気仮撚によるシャリ感も併せ持ち、夏服としては好適であるが、インナー,ファンデーション分野への展開が困難であり、また繊維長の短い紡毛紡績用繊維は強度,品質面から該結束紡績糸の製造に供することができないなど、汎用性に欠ける課題を残している。
【0006】
一方、獣毛繊維とセルロース系繊維からなる織編物において、セルロース系繊維をフィブリル化させることで、より高い表面感を得る方法が提案されている。(特許文献3参照)この方法は、該織編物へ低温プラズマ処理を施した後、物理的又は化学的な衝撃を与えることでセルロース系繊維をフィブリル化させ、高品位な起毛調の表面感を得ようというもので、セルロース系繊維に付加価値を付与し、感性・機能において優れた発明であるが、工程が複雑な上、ガスや電力の費用が高くなる傾向にあり、コスト削減が課題として残された。
【0007】
【特許文献1】
特開昭54−125742号公報(請求項1及び2,第4頁左上第4〜8行目)
【特許文献2】
特開平3−152227号公報(請求項1,第2頁右下第1〜9行目,第3頁右上第5〜12行目)
【特許文献3】
特開平9−170169号公報(請求項1,(0007),(0034))
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な現状に鑑みて行われたものであり、低コスト,高汎用性及び環境問題に対応可能であり、さらにセルロース系繊維の吸湿性,耐久性,快適着衣性などの機能面、獣毛繊維の高級感,嵩高感,仕立て映えなどの感性面を同時に表現できる高付加価値素材の提供を技術的課題とする。
【0009】
また従来から、獣毛繊維単独あるいは他糸との混紡糸は、獣毛繊維のチクチクした感触が原因でインナー用途への展開が困難であったので、本発明は、獣毛繊維の特徴を活かしつつ、かかるインナー用途への展開を図れる高付加価値素材の提供を技術的課題とする。
【0010】
【発明が解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決するため、鋭意研究の結果、獣毛繊維とセルロース系繊維の芯鞘構造を採用すれば、両繊維の特性を如何なく発現できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は次の(1)(2)を要旨とするものである。
(1)芯鞘構造を有する紡績糸において、芯部へ獣毛繊維を配し、鞘部へ少なくともセルロース系繊維を含む短繊維糸条を配したことを特徴とする特殊複合紡績糸。
(2)(1)記載の特殊複合紡績糸を少なくとも構成糸の一部とする織編物。
【0012】
このように、セルロース系繊維を鞘部へ配することで、肌に触れる部分に該セルロース系繊維の機能性を活かすことができ、また獣毛繊維が芯部へ配されることで、嵩高性,仕立て映えなどの感性を表現できる。さらに芯鞘構造であるがゆえに獣毛繊維が代表的な機能であるウォーム感を発揮する、すなわち暖かい空気をかかる特殊複合紡績糸内部に閉じ込めることで、保温性の効果を奏し、さらに芯部の獣毛繊維が有する嵩高性が、鞘部に位置するセルロース系繊維のソフト感,ナチュラル感といった感性を増幅させる効果を奏するのである。
【0013】
そしてさらに、前記特殊複合紡績糸は他糸との複合化でさらに高付加価値の商品を提供できるのである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いるセルロース系繊維とは、再生繊維又は天然繊維の中のセルロースを主成分にする短繊維を指す。例えば再生繊維の場合は、ビスコースレーヨン,キュプラ,溶剤紡糸セルロース繊維などが挙げられ、天然繊維の場合は、綿,麻などが挙げられる。繊維形態は短繊維であり、ステープルの繊度・繊維長は特に限定されない。また目的に応じこれらの繊維を複数混合、あるいは前記セルロース系繊維の内選択された一種以上の繊維と他糸を混合して使用することもできる。混合する他糸は、目的・用途に応じ通常使用される短繊維であれば特に限定されない。例えばポリエステル,ポリアミド,アクリル,ポリウレタン,ポリオレフィンなどの合成繊維、トリアセテートなどの半合成繊維、羊毛,絹などの天然繊維が挙げられるが、環境面を考慮し、脂肪族ポリエステル繊維など生分解性を有する繊維が好ましい。混合する他糸が長繊維糸条ならば、単糸繊度1〜3dTexのフィラメントを繊維長30〜60mmに切断して使用する。また混合方法及び混合比率は特に限定されず、例えば混打綿工程でそれぞれの繊維を混ぜ合わせ、梳綿,練条,粗紡を経る方法、もしくはそれぞれの繊維を単独でカード工程まで紡績したのち、練条工程にてスライバーで合せる方法、又はそれぞれの繊維を単独に練条した複数のスライバーを引き揃えて粗紡する方法などがある。さらに、意匠性を向上したい場合は、光沢を有する繊維や既に染着された繊維などを使用する。例えば繊維製造時に着色剤を混用して製造した原着糸又は先染糸、あるいは光沢の異なる異型断面糸又は艶消剤の含有量が異なる繊維などを適当量混ぜることで、染色後に光沢や色相の異なる杢感を表現できる。
以上、本発明に使用されるセルロース系繊維は目的に応じ選択は任意であるが、採算性,操業性などの生産面並びに実用性,用途汎用性から総合的に判断すると、溶剤紡糸セルロース繊維「リヨセル」(レンチング社製)、「テンセル」(コートルズ社製)もしくは「マイクロモダール」(レンチング社製)又は綿のいずれか単独が望ましい。
一方、本発明で用いる獣毛繊維は、蛋白質を構成成分とする短繊維であり、羊,カシミヤ,ラクダ,アンゴラ,モヘヤ,アルパカ,ミンク,アザラシなどから得られる動物繊維を指す。該動物繊維は単独,混合のいずれの使用でもよく、その混合割合も何ら制限されない。また紡績方法も原料に応じ、公知の紡毛紡績,梳毛紡績のいずれかを適宜選択することができる。しかし本発明の特殊複合紡績糸はセルロース系繊維と獣毛繊維を原料としているので、操業性やコストを考えれば、同一の設備でそれぞれを紡績するのが好ましく、獣毛繊維の紡績に際しては、該獣毛繊維の繊維長を適当な長さに整えた上で綿紡績の設備で行うのが、効率,採算,品質の面で有利である。
【0016】
さらに意匠効果を発現する目的で先染糸や光沢の異なる異型断面糸を、単独あるいは混合して使用することもでき、混合割合は適宜決定すればよい。
本発明では、このようにセルロース系繊維を含む短繊維糸条と獣毛繊維を原料としているが、それぞれの繊維特有の欠点を付帯加工により低減させるのが望ましい。
【0017】
セルロース系繊維は吸湿性や強度に優れ、ソフトでふくらみ感を備えているが、家庭洗濯時の湿潤状態で摩擦を受けるとステープルが繊維軸方向に割繊し、フィブリル化するという欠点を有している。逆にこのフィブリル化を利用して起毛調の商品を展開する動きも見られるが、繰り返し洗濯によるフィブリルの生成が進行すれば、ピリングが発生し、商品価値は低下するに至る。さらにセルロース系繊維はシワになりやすく、縫製商品においては、織編物の伸縮率変動により縫い糸との間に物理的糸長差が生じ、パッカリングを誘発するなど仕立て映えに劣る側面がある。
したがって、セルロース系繊維には白化防止加工や形態安定加工を施すのが望ましい。加工方法は公知法に準じて行えばよく、設備,効率などを考慮して、糸の段階、すなわち紡績時もしくは後述する特殊複合紡績糸とする時、あるいは製織編後の仕上工程時のいずれかで行うことができる。一例を示すと、白化防止加工は、織編物に対し、エキソグルカナーゼ,エンドグルカナーゼ,セルビアーゼなどのセルロース分解酵素で処理した後、ポリウレタン樹脂含有水溶液に浸漬する。また形態安定加工は、織編物にN−メチロール化合物,N−アルコキシメチル化合物などの処理剤を含浸し、セルロース分子と処理剤とを架橋させることで、形態安定性を得る。また縫製商品にした後、ホルマリンを主成分とするガス雰囲気中に晒すことでも形態安定性を得ることができる。
このように、セルロース繊維は用途によって、付帯加工で機能性を向上させなければならない場合がある。しかし設備,採算面で実施が難しい場合は、既述したように、目的とする機能をあらかじめ備えた他糸の混合比率を大きくすることで、本発明の目的を達成することができる。
一方、獣毛繊維は、高級感があり仕立て映えに優れるなど感性面で秀でているが、家庭洗濯の際、大きく収縮しフェルト化する欠点があり、これを改善するため防縮加工を施すのが望ましい。該防縮加工は上述のセルロース系繊維と同様、糸あるいは織編物の段階で行われる。この防縮加工は公知法に準じて実施され、例えば、(1)獣毛繊維のスケールを次亜塩素酸ナトリウム,ジクロロイソシアヌール酸ナトリウムなどの塩素化剤あるいはモノ過硫酸、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤で脱離させる方法、(2)獣毛繊維のスケールを(1)の塩素化剤処理後、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂で被覆する方法、(3)獣毛繊維のスケールを合成高分子で被覆する方法、(4)低温プラズマ処理,コロナ放電処理などで繊維表面を改質することにより、獣毛繊維の摩擦係数の異方性を少なくする方法、が挙げられるが、操業性,コスト,防縮効果のバランスを勘案して、紡績時の獣毛繊維スライバーへ(1)の方法を適用するのが望ましい。
本発明に用いるセルロース系繊維を含む短繊維糸条及び獣毛繊維は、この他にも、抗菌,防臭,濃染など、獣毛繊維には撥水,伸縮,吸湿発熱など、目的に応じ任意の付帯加工を施すことに制限を受けない。例えば、セルロース系繊維を含む短繊維糸条に濃染化加工を、獣毛繊維に吸湿発熱加工をそれぞれ施せば、ウォーム感あるアウター素材が提供でき、またセルロース系繊維を含む短繊維糸条に抗菌・防臭加工を、獣毛繊維に撥水加工をそれぞれ施せば、特殊複合紡績糸内部に水分を溜め込むことがなく、速乾性ある清潔なインナー素材が提供できる。
以上述べたセルロース系繊維を含む短繊維糸条及び獣毛繊維は、芯部へ該獣毛繊維を配し、鞘部へ少なくとも該セルロース系繊維を含む短繊維糸条を配することで、本発明の特殊複合紡績糸となる。
【0018】
本発明の特殊複合紡績糸は、前記二糸条を粗紡あるいは精紡工程で芯鞘構造とすることで作製される。
粗紡工程で芯鞘構造とする場合は、前記二糸条それぞれのスライバーを既述の方法で用意し、粗紡機により芯鞘構造の粗糸を作製した後、精紡する。すなわち、二糸条のスライバーを並列して粗紡機へ給糸する際、芯部をなす獣毛繊維スライバー(以下R1)にセルロース系繊維を含む短繊維糸条のスライバー(以下R2)巻きつけるべく、R1をフライヤーヘッドより見てドラフト域の外側へ給糸し、R2を内側に給糸する。ドラフト域で所定の太さにドラフトされ、フロントローラーから紡出される時、R1はドラフト軸(R1の糸道)方向の延長線と、フロントローラーのニップ点及びフライヤーヘッドとを結ぶ線とのなす角を水平面に投影した角度25〜60°で紡出される。R2はそのまま直進し、R1及びR2は合糸されるが、ここでフライヤーの回転により生ずる撚りを、R1に集中伝播させると共に、R2への撚りの伝播を皆無とさせることで、R1にR2をカバリング(芯鞘構造)することができる。簡単にいえば撚戻りを利用して芯鞘構造の粗糸とする。ここで前記角度が25°未満であると被覆糸のコイルピッチが長すぎて芯部(R1)が外部へ露出しやすくなる。また60°を超えると、被覆糸(R2)のコイルピッチが短すぎて、被覆糸に重なりが生じ、粗糸に太さ斑が発生やすくなる。さらに、R1にR2が完全に捲き付くためには、R1はR2より紡出張力が高いことが肝要である。これはフライヤーヘッドから生じる撚戻りでR1にR2が捲き付くが、R1とR2の紡出張力が同じなら合撚(交撚)糸状に、またR1の紡出張力がR2より小さければ芯と鞘が逆転することになる。紡出張力に差を付けるには紡出時、R1をR2より低フィードとすればよい。それにはフロントボトムローラーの径に差を付ければよく、径の小さい側へR1を、大きい側へR2を給糸する。
【0019】
かくして、できあがった芯鞘構造の粗糸は公知の方法で精紡され、本発明の特殊複合紡績糸となる。
一方、精紡工程で芯鞘構造とする場合もその原理は粗紡の場合と同じである。二糸条それぞれの粗糸を既述の方法で用意し、リング精紡機で精紡し本発明の特殊複合紡績糸とする。精紡機へ二粗糸を給糸する際、トランペットを介して並列に給糸された該二粗糸は、エプロンでドラフトされ、ついで径の異なるフロントローラーへ並列に送られる。この時、径の小さなローラーへは獣毛繊維(以下S1)を、大きなローラーへはセルロース系繊維を含む短繊維糸条(以下S2)を給糸することで、二粗糸間に物理的な糸長差(S1:短糸長,S2:長糸長)が生じる。フロントローラーを出た二糸条は撚戻りにより必然的に芯にはS1、鞘にはS2が配され、リング,トラベラーによる施撚並びにバルーン張力により緩み,斑が均斉化し、本発明の特殊複合紡績糸となる。
本発明の特殊複合紡績糸は、芯部と鞘部の質量比(芯/鞘)が0.1以上1.0以下であることが望ましい。芯/鞘の質量比が0.1未満の場合は、鞘部の比率が高くなるので、耐久性及び吸湿性は良好であるが、寸法安定性や嵩高性が低下するだけでなく、特殊複合紡績糸内部に暖かい空気を閉じ込める保温機能が発揮できないので好ましくない。また、芯/鞘の質量比が1.0を超えると、寸法安定性やふくらみ感などは向上するものの、芯部の比率が高すぎて芯部が紡績糸表面に露出してしまい、獣毛繊維特有のチクチクした感触が肌に触れるため、インナー用途には対応できず、さらに吸湿性,快適着衣性などの機能も低下し、ピリングが発生しやすく特殊複合紡績糸としての特徴を失うので好ましくない。
さらに、本発明においては、上記粗紡又は精紡の内、粗紡による方法を採用するのが望ましい。これは精紡による方法は、ドラフト工程で芯部及び鞘部の繊維束は、それぞれの表面付近において繊維が互いにマイグレーションなどにより絡み合い、結果、芯・鞘の臨界面ですべりを起こしやすく、擦れなどの外力で分離する場合がある。また精紡による方法は合糸(カバリング)の際の緩み,斑を解消するため、比較的強い撚りを施さなければならず、ソフト感に欠けることがある。
【0020】
対して、粗紡による方法は多少カバリングで緩み,斑が存在しても、通常の精紡糸と同程度の撚りで十分にそれらを吸収・均斉化することができ、ソフト感を保持することができる。
次に本発明の特殊複合紡績糸を使用した織編物について言及する。
【0021】
本発明の特殊複合紡績糸は、織編物における構成糸の全部もしくは一部に使用されていればよい。したがって、目的に応じ他糸と合撚(交撚),混繊,交織,配列,交編など任意の形態で組み合わせることで、織編物を構成すればよい。他糸とは、ポリエステル,ポリアミド,アクリル,ポリウレタン,ポリオレフィンなどの合成繊維、トリアセテートなどの半合成繊維、ビスコースレーヨン,キュプラ,溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、綿,羊毛,絹,麻などの天然繊維を指し、長・短繊維いずれの形態でもよく、生糸,加工糸の区別は問わない。ただし、環境面を考慮すれば、脂肪族ポリエステル繊維など生分解性を有する繊維が好ましい。
【0022】
一方、本発明の特殊複合紡績糸単独での撚糸や空気混繊、あるいは二本双糸,三本合燃糸などにした上で、織編物の製造に供しても何ら差し支えない。また組織・密度に関わる設計、並びに織編物となす際の準備及び製織編に関わる工程条件・機種は適宜選択することができる。具体的には織物の経糸準備は、ワーパー,サイジング,ビーミングを経る通常の工程が望ましく、本発明の特殊複合紡績糸を使用した撚糸または混繊による糸条の場合は部分整経でもよい。織機は風綿発生を考慮しレピア織機もしくはエアージェットルームが望ましい。編物の場合は、通常の短繊維編物に使用される機種で適宜条件設定すれば対応可能である。
以上の如く製織編された生機は、仕上加工されて本発明の織編物となる。
【0023】
仕上加工の内、染色加工は公知の設備を用いればよく、例えば液流染色機,気流染色機,ウインス,パドル染色機などが挙げられる。また織編物の構成繊維に応じて染料を選択すればよい。通常、セルロース系繊維は反応染料,獣毛繊維は酸性染料であるが、二度染色を行うことは、コスト,効率を考え避けるのが望ましい。実際には反応染料で獣毛繊維を染めることができることと、獣毛繊維は特殊複合紡績糸の芯部に配されて織編物表面に現れない。したがって染色加工を含む仕上加工は通常のセルロース系織編物の手法に準じて行なっても、本発明の効果を奏することができ、従来のセルロース系繊維/獣毛繊維混紡糸織編物のように色割れなどが発生せず、かつ色合わせも容易に行うことができる。
【0024】
また、仕上加工中において、目的に応じ各種付帯加工も実施できる。
【0025】
【作用】
本発明の特殊複合紡績糸は、セルロース系繊維を含む短繊維糸条を鞘部へ配することで、肌に触れる部分にこの糸条の機能性を活かすことができ、また獣毛繊維が芯部へ配されることで、嵩高性,仕立て映えなどの感性が表現できる。さらに芯鞘構造であるがゆえに獣毛繊維の代表的な機能であるウォーム感、すなわち暖かい空気を特殊複合紡績糸内部に閉じ込めることで、保温性の作用を奏し、さらに芯部の獣毛繊維が有する嵩高性が、鞘部に位置するセルロース系繊維のソフト感,ナチュラル感といった感性を増幅させる作用を奏するのである。
【0026】
さらに、本発明の特殊複合紡績糸は他糸との複合化で、さらに高付加価値の商品を提供できる作用を奏する。
【0027】
【実施例】
次に実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
芯部をなすスライバーに羊毛の平均繊維長51mmで構成されたスライバーを、鞘部をなすスライバーに綿コーマスライバーを重量比3:7で用意した。この二スライバーを並列して粗紡機へ供給し、紡出幅の比を1:3に調整し紡出し、粗糸重量205ゲレン/30ヤード,粗糸撚数0.93T/吋の粗糸を得た。次いでこの粗糸を精紡し、36番手(英式番手)の精紡糸とし、本発明の特殊複合紡績糸を得た。
【0028】
得られた特殊複合紡績糸は綿で羊毛が均一に被覆されており、緩み,斑がなく、外観は良好であった。
実施例2
芯部をなすスライバーに防縮加工が施された羊毛の平均繊維長50mmで構成されたスライバーを、鞘部をなすスライバーに溶剤紡糸セルロース繊維「リヨセル」(レンチング社製)で構成されたスライバーを重量比3:7で用意し、粗紡,精紡を経て、30番手の精紡糸とし、本発明の特殊複合紡績糸を得た。
【0029】
得られた特殊複合紡績糸は「リヨセル」で羊毛が均一に被覆されており、強度も良好であった。
実施例3
脂肪族ポリエステル短繊維1.4dTex×45mmと原綿を重量比1:1で混打綿工程にて混ぜ合わせ、梳綿,練条を経て、混紡スライバーを得た。次いで芯部をなすスライバーに撥水加工を施した羊毛の平均繊維長50mmで構成されたスライバーを、鞘部には前記混紡スライバーを重量比3:7で粗紡機へ供給し、精紡後、40番手の精紡糸とし、本発明の特殊複合紡績糸を得た。
【0030】
得られた特殊複合紡績糸は混紡糸で羊毛が均一に被覆されており、緩み,斑がなく、外観は良好であった。
実施例4
実施例1で得た特殊複合紡績糸をワーパー,サイジング,ビーミングを経て経糸ビームを準備し、緯糸にも該特殊複合紡績糸を用い、レピア織機にて経密度151本/吋、緯密度77本/吋のフランス綾織物を製織した。次にこの綾織物に白化防止加工を行った後、反応染料でブラウン色に染色して、本発明の織編物を得た。
【0031】
得られた織編物はソフト感,ナチュラル感に優れ、嵩高性,張り腰良好で、ジャケット,スカートなど中肉厚地分野で好適に使用できる高付加価値素材であった。
実施例5
実施例2で得た特殊複合紡績糸を、口数102口,28Gの丸編機で天竺組織の編地を製編した後、羊毛を酸性染料、「リヨセル」を反応染料で染色し、本発明の織編物を得た。
【0032】
得られた織編物は高級感,仕立て映え,嵩高性など質感に優れ、羊毛の保温性が内在する素材として、アウター分野へ好適に使用できる高付加価値素材であった。
実施例6
脂肪族ポリエステルマルチフィラメント(ユニチカ(株)製「テラマック」)84dTex48fをダブルツイスターにて、S及びZ2000T/Mの撚りを掛け、スチームセット後、部分整経機にて経配列S:Z=2:2で経糸ビームを準備した。次にこの経糸ビームをエアージェットルームに仕掛け、緯糸に実施例3で得た特殊複合紡績糸を用い、経密度216本/吋、緯密度90本/吋の5枚サテン織物を製織した。
【0033】
次いで、この生機にアルカリ減量を施した後、分散染料で染色し、本発明の織編物を得た。
【0034】
得られた織編物は、生分解性を有し、マルチフィラメントの光沢感,シャリ感、綿のソフト感としっとりした肌触り、羊毛の嵩高性及び撥水加工よる特殊複合紡績糸表面への水分拡散に伴う速乾性を兼ね備えた高付加価値素材であった。この素材はシャツ,ブラウスなど薄地分野に好適に使用できる。
【0035】
【発明の効果】
本発明の特殊複合紡績糸は、芯鞘構造を有する紡績糸において、芯部へ獣毛繊維を配し、鞘部へ少なくともセルロース系繊維を含む短繊維糸条を配したことを特徴とする。セルロース系繊維を含む短繊維糸条を鞘部へ配したことで、肌に触れる部分にセルロース系繊維を含む短繊維糸条が配される。これにより、吸湿性,耐久性,快適着衣性,ソフト感といったセルロース系繊維の特徴だけでなく、他の短繊維糸条の機能・感性も加わり優れた相乗効果を奏すことができる。また獣毛繊維が芯部へ配されることで、高級感,嵩高性,仕立て映えなどの感性は勿論、獣毛繊維の代表的な機能であるウォーム感、すなわち暖かい空気をその内部に閉じ込めることで、保温性の効果も奏すのである。これは従来、獣毛繊維素材は優れたウォーム性がありながら、そのチクチクする感触からインナー用途への展開があまり進まなかった問題点を見事に解決するもので、芯鞘構造であるがゆえに、獣毛繊維の長所を引き出すことができたのである。
【0036】
さらに、本発明に用いる獣毛繊維やセルロース系繊維は別途付帯加工を施すことで、様々なニーズに対応できる機能を兼ね備えることができる。
【0037】
一方、本発明の特殊複合紡績糸は、単独あるいは他糸との複合で、織編物となる。複合相手との相乗効果で汎用性が向上し、中肉厚地,薄地を問わずあらゆる分野に対応可能な高付加価値素材を提供できる。また複合相手に生分解性能があれば、最近の環境問題にも対応できる効果を奏す。
今後、志向の多様化はさらに進むと予想され、従来の如くトレンド予測に基づいた開発がますます推進しづらくなる中、各方面からナチュラルテイストで低コスト,高汎用性の素材がとりわけ求められている。本発明の特殊複合紡績糸はそうした要望に見事に答えることができる素材である。すなわち本発明の特殊複合紡績糸は、天然繊維・再生繊維を主成分とすることから、ナチュラルテイストで、既存の設備を利用して低コストで製造でき、上記の如く汎用性に優れている。

Claims (2)

  1. 芯鞘構造を有する紡績糸において、芯部へ獣毛繊維を配し、鞘部へ少なくともセルロース系繊維を含む短繊維糸条を配したことを特徴とする特殊複合紡績糸。
  2. 請求項1記載の特殊複合紡績糸を少なくとも構成糸の一部とする織編物。
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